説明

硫化物固体電解質粒子

【課題】本発明は、酸化物活物質および硫化物固体電解質材料の反応によって生じる高抵抗層の生成を抑制でき、界面抵抗の低い硫化物固体電解質粒子を提供することを主目的とする。
【解決手段】本発明においては、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなることを特徴とする硫化物固体電解質粒子を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、全固体電池に用いられ、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなる硫化物固体電解質粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として優れた二次電池、例えば、リチウム二次電池の開発が重要視されている。また、上記情報関連機器や通信関連機器以外の分野としては、例えば自動車産業界においても、電気自動車やハイブリッド自動車といった低公害車用の高出力かつ高容量のリチウム二次電池の開発が進められている。
【0003】
現在、市販されているリチウム二次電池は、可燃性の有機溶剤を溶媒とする有機電解液が使用されているため、短絡時の温度上昇を抑える安全装置の取り付けや短絡防止のための構造・材料面での改善が必要となる。これに対し、液体電解質を固体電解質に変更した全固体リチウム二次電池は、電池内に可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化が図れ、製造コストや生産性に優れると考えられている。
【0004】
このような全固体リチウム二次電池の電池構成群は、正極、負極、および電解質が全て固体であるため、有機電解液を用いたリチウム二次電池と比較して、電気化学抵抗が大きくなり、出力電流が小さなものとなる傾向にある。
【0005】
そこで、全固体リチウム二次電池の出力電流を大きなものとするために、電解質としてはイオン伝導性の高いものが望ましい。硫化物固体電解質においては、硫化物イオンが酸化物イオンに比べて分極率の大きなイオンであり、リチウムイオンとの静電的な引力が小さなものであることから、酸化物固体電解質に比べて高いイオン伝導性を示すと考えられている。
【0006】
しかしながら、上記の硫化物固体電解質材料を用いた電池では、酸化物活物質と接触した際に硫化物固体電解質材料と酸化物活物質との界面に高抵抗部位が生じてしまい、硫化物固体電解質材料が劣化しやすいという問題があった。
このような硫化物固体電解質材料の劣化を抑制する方法を備えた全固体電池として、例えば、硫化物を主体とするリチウムイオン伝導性固体電解質材料を用いており、正極活物質表面にリチウムイオン伝導性酸化物を被覆した全固体電池が開示されている(特許文献1)。この技術は、硫化物固体電解質材料と酸化物活物質との接触界面で生じる高抵抗層の形成を抑制するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2007−004590
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、酸化物活物質及び硫化物固体電解質材料の界面に着目する試みはなされているものの、高抵抗部位の生成による界面抵抗の増加を抑制し、また優れた製造コストを実現することは困難であった。本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、酸化物活物質および硫化物固体電解質材料の反応によって生じる高抵抗部位の生成を抑制でき、界面抵抗の低い硫化物固体電解質粒子を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明においては、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなることを特徴とする硫化物固体電解質粒子を提供する。
【0010】
本発明によれば、酸化物層を有することによって、硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面に高抵抗部位が生成されることを抑制し、上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができる。また、全固体電池とした際に上記全固体電池の耐久性を向上させることができる。
【0011】
上記発明においては、上記硫化物固体電解質粒子表面の酸素/硫黄元素比率が、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率に対して2倍以上であることが好ましい。硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面での高抵抗部位の生成を抑制し、上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができるため、全固体電池の耐久性を向上させることができるからである。
【0012】
また本発明においては、酸化物活物質と、上記硫化物固体電解質粒子とを含有することを特徴とする電極層を提供する。
【0013】
本発明の電極層は、上記硫化物固体電解質粒子を含有するので、上記硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面に高抵抗部位が生成されることを抑制し、上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができる。よって、本発明の電極層を全固体電池に用いた際には、界面抵抗を低減し、出力の低下を抑制することができる。
【0014】
さらに本発明は、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電極質層とを有する全固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、上記硫化物固体電解質粒子を含有することを特徴とする全固体電池を提供する。
【0015】
本発明によれば、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、上記硫化物固体電解質粒子を含有するので、酸化物活物質と上記硫化物固体電解質粒子との界面に高抵抗部位が生成されることを抑制することができ、使用耐久性に優れた全固体電池とすることができる。
【0016】
また本発明は、硫化物固体電解質材料の表面を酸化させる工程を有する硫化物固体電解質粒子の製造方法を提供する。
【0017】
本発明によれば、硫化物固体電解質材料表面に、効率良く、簡易的に酸化物層を形成させた硫化物固体電解質粒子を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、酸化物活物質および硫化物固体電解質粒子の反応に起因する高抵抗部位の生成を抑制し、界面抵抗の増加を抑制するとともに、全固体電池とした際に上記全固体電池の耐久性を向上させるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の硫化物固体電解質粒子の構成の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の全固体電池の構成の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の全固体電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の全固体電池の構成の他の例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の硫化物固体電解質粒子の深度変化に対する酸素/硫黄元素比率を示すグラフである。
【図6】実施例1および2、比較例で得られた全固体電池の界面抵抗増加率測定の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の硫化物固体電解質粒子、電極層、全固体電池および硫化物固体電解質粒子の製造方法について、以下詳細に説明する。
【0021】
A.硫化物固体電解質粒子
まず、本発明の硫化物固体電解質粒子について説明する。本発明の硫化物固体電解質粒子は、表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなることを特徴とするものである。
【0022】
本発明の硫化物固体電解質粒子について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の硫化物固体電解質粒子の一例を示す概略断面図である。図1に示すように、本発明の硫化物固体電解質粒子1は、硫化物固体電解質材料3の表面が酸化された酸化物層2によって覆われているものである。
【0023】
本発明によれば、酸化物層を有することによって、硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面に高抵抗部位が生成されることを抑制し、上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができる。また、全固体電池とした際に上記全固体電池の耐久性を向上させることができる。
【0024】
上記硫化物固体電解質粒子は、例えば、全固体電池の正極層、負極層または固体電解質層に含有される。
【0025】
1.酸化物層
まず、本発明における硫化物固体電解質材料が酸化されてなる酸化物層について説明する。本発明における上記酸化物層は、上記硫化物固体電解質粒子の表面に形成されることを特徴とするものである。
【0026】
本発明における上記酸化物層は、硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との接触を妨げることで、上記硫化物固体電解質粒子表面に高抵抗部位が形成されることを抑制できる。したがって、高抵抗部位が形成されることによる硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制することができる。
本発明の硫化物固体電解質粒子を用いた全固体電池は、上記酸化物層を有することにより、硫化物固体電解質粒子の劣化が抑制されるため、耐久性の向上した高出力かつ安定性の高い全固体電池となることができる。
【0027】
本発明において上記酸化物層が形成される部位としては、通常、図1に示したように硫化物固体電解質粒子1の表面に酸化物層2が形成されることが挙げられる。
上記酸化物層が形成された硫化物固体電解質粒子の酸素/硫黄元素比率は、表面からの深度が進むにつれて連続して減少し、硫化物固体電解質材料本来の酸素/硫黄元素比率に収束していくことが好ましい。
自らが酸化されてなる酸化物層は通常上述したような連続した酸素/硫黄濃度変化を有するものであり、これにより上記硫化物固体電解質粒子が、硫化物固体電解質材料表面が酸化されたことで生じる酸化物層を有していることが示される。また、このような酸化物層を有するものであるので、酸化物層の剥離等の不具合を防止することができる。
【0028】
また、上記硫化物固体電解質粒子の酸素/硫黄元素比率としては、高抵抗部位の発生に伴う上記硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制して、上記硫化物固体電解質粒子の耐久性を向上させることができる比率であれば特に限定されるものではない。
本発明においては、表面の酸素/硫黄元素比率(A)が、1.2以上であることが好ましい。
【0029】
また上記表面の酸素/硫黄元素比率(A)の、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)位置での酸素/硫黄元素比率(B)に対する濃度比率(A/B)は、例えば、2.0以上であることが好ましい。
硫化物固体電解質粒子と、酸化物活物質との反応による高抵抗部位の発生に伴う硫化物固体電解質粒子の劣化をより確実に抑制することができ、より耐久性を向上させることができるからである。上記A/Bの値が小さすぎると、高抵抗部位が形成されることにより、界面抵抗増加率が高くなり、硫化物固体電解質粒子が劣化し、全固体電池とした際の耐久性も低下する。
【0030】
上記酸化物層の酸素/硫黄元素比率は、後述するように、例えば、上記硫化物固体電解質材料を酸化させる工程の時間、回数等を制御する等して制御することができる。
【0031】
本発明において、上記酸化物層の酸素/硫黄元素比率はXPS装置に基づいて測定された値を用いることができる。
また、上記の測定装置では、XPSとスパッタとの組み合わせによる深さ方向の分析も可能である。具体的には、一定のスパッタレートでスパッタしながら、XPS測定を行い、スパッタ時間とXPS強度の関係をグラフ化したデプスプロファイルを予め作成し、測定により得られたスパッタレートの値から、表面からの厚さを換算し、その位置での酸素/硫黄元素比率を測定することができる。
【0032】
本発明における上記酸化物層の被覆率としては、上記硫化物固体電解質粒子の耐久性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではないが、上記酸化物層の被覆率((酸素元素濃度/(酸素元素濃度+硫黄元素濃度))×100)(%)が、例えば、60%以上であることが好ましい。
また、酸化物層の膜厚としては、上記硫化物固体電解質粒子の耐久性を向上させることができるものであれば特に限定されるものではないが、表面からの深度変化に伴う酸素/硫黄元素比率の変化を測定し、その変曲点を膜厚と定義した場合、例えば、2nm〜30nmの範囲内であることが好ましい。中でも、3nm〜10nmの範囲内であることがより好ましい。本発明においては、例えば図5に示すように、硫化物固体電解質粒子の深度に対する酸素/硫黄元素比率の変化のグラフから変曲点を求め、膜厚と定義している。
上記酸化物層の膜厚が厚すぎる場合は、リチウムイオン伝導度が低下する可能性があるため、薄い方が好ましいが、薄すぎた場合は、高抵抗部位形成の抑制が不十分となる可能性がある。
【0033】
上記酸化物層の膜厚測定は、上述したXPSとスパッタとの組み合わせによる深さ方向の分析方法により測定することができる。
【0034】
2.硫化物固体電解質材料
次に、本発明における硫化物固体電解質材料について説明する。本発明に用いられる上記硫化物固体電解質材料としては、酸化物活物質と反応し高抵抗部位を形成し得るものであれば特に限定されるものではないが、Li、第13族〜第15族の元素およびSを含有することが好ましい。
【0035】
さらに上記第13族〜第15族の元素の中でも、第14族または第15族の元素が好ましい。上記第13族〜第15族の元素としては、特に限定されるものではないが、例えば、P、Si、Ge、As、Sb、Al等を挙げることができ、中でもP、Si、B、Ge、Alが好ましく、特にPが好ましい。
【0036】
また、上記硫化物固体電解質材料は、LiSおよび第13族〜第15族の元素の硫化物を含有する原料組成物を非晶質化してなるものが好ましい。リチウムイオン伝導性に優れた硫化物固体電解質材料とすることができるからである。
上記原料組成物に含まれる第13族〜第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al、SiS、GeS、P、P、As、Sb等を挙げることができる。中でも、本発明においては、第14族または第15族の硫化物を用いることが好ましく、特にPが好ましい。
【0037】
また、上記硫化物固体電解質材料は、オルト組成またはその近傍の組成を有していることが好ましい。オルト組成とは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本発明においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。
【0038】
上記原料組成物中のLiSおよびPの割合としては、モル換算で、LiS:P=65〜85:15〜35の範囲内であることが好ましく、LiS:P=70〜80:20〜30の範囲内であることがより好ましく、LiS:P=74〜76:24〜26の範囲内であることがさらに好ましい。LiSおよびPの組成を、オルト組成を得る割合(LiS:P=75:25)およびその近傍を含む範囲とすることで、高抵抗部位の生成をさらに抑制できるからである。
【0039】
また、本発明に用いられる硫化物固体電解質材料は、リチウムと、リチウム以外の2種類以上のカチオンとを含有していることが好ましい。混合アニオン効果により、リチウムイオン伝導性のより高い硫化物固体電解質材料とすることができるからである。したがって、高抵抗部位が形成されることによる硫化物固体電解質粒子の劣化を抑制する効果が期待されるからである。
ここで、混合アニオン効果とは、あるカチオン(例えばP)およびSから構成されるアニオン構造(例えばPS3−)と別のカチオン(例えばSi)およびSから構成されるアニオン構造(例えばSiS4−)とが共存することにより、リチウムイオン伝導度が向上する効果をいう。
【0040】
上記カチオンとしては、第13族〜第15族の元素であることが好ましく、中でも第14族または第15族の元素がより好ましい。上記第13族〜第15族の元素としては、特に限定されるものではないが、中でも、P、Si、B、GeおよびAl等が好ましく、さらに、リチウムイオン伝導性に優れていることから、PおよびSiであることが好ましい。
【0041】
また上記硫化物固体電解質材料の原料組成物としては、LiSおよび少なくとも2種類以上の第13族〜第15族の元素の硫化物を含有していることが好ましい。イオン伝導性に優れているからである。第13族〜第15族の元素の硫化物の中でも、第14族〜第15族の元素の硫化物が好ましく、特にPおよびSiSが好ましい。
【0042】
上記原料組成物中のLiS、PおよびSiSの割合は、モル換算で、LiS:P:SiS=65〜75:5〜20:5〜30の範囲内であることが好ましく、中でも、LiS:P:SiS=65〜75:7.5〜17.5:10〜25の範囲内であることがより好ましく、さらにLiS:P:SiS=65〜75:10〜15:15〜20の範囲内であることが好ましい。混合アニオン効果をより発揮しやすいからである。
【0043】
上記硫化物固体電解質材料の合成方法としては、所望の硫化物固体電解質粒子を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、メカニカルミリング法や溶融急冷法等が挙げられるが、中でもメカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能となり、製造工程の簡略化を図ることができるためである。
【0044】
3.硫化物固体電解質粒子
次に、本発明の硫化物固体電解質粒子について説明する。本発明の硫化物固体電解質粒子は、上記硫化物固体電解質材料の表面が酸化されてなる、上記酸化物層を有するものである。
【0045】
本発明における硫化物固体電解質粒子の形状としては、例えば真球状または楕円球状を挙げることができる。また上記硫化物固体電解質粒子が粒子形状である場合、その平均粒径は例えば0.1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。中でも、0.5μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、特に0.5μm〜10μmの範囲内がより好ましい。
【0046】
また本発明において、上記硫化物固体電解質粒子の平均粒径は、SEM等の電子顕微鏡を用いた画像解析に基づいて測定された値を用いることができる。
【0047】
本発明の硫化物固体電解質粒子の用途としては、例えば、全固体電池に用いることが挙げられる。全固体電池の種類としては、全固体リチウム電池、全固体マグネシウム電池、全固体ナトリウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも全固体リチウム電池および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に全固体リチウム電池が好ましい。全固体電池においては、正極層、負極層および固体電解質層の少なくともいずれか一つが硫化物固体電解質粒子を含有することが好ましく、特に正極層が硫化物固体電解質粒子を含有することが好ましい。
【0048】
なお、本発明の硫化物固体電解質粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、後述する「D.硫化物固体電解質粒子の製造方法」で説明する方法を用いることができる。
【0049】
B.電極層
次に、本発明の電極層について説明する。本発明の電極層は、酸化物活物質と、上述した硫化物固体電解質粒子とを含有することを特徴とするものである。
【0050】
本発明によれば、電極層が上述した硫化物固体電解質粒子を含有することにより、上記硫化物固体電解質粒子表面の酸化物層が、酸化物活物質と上記硫化物固体電解質粒子との界面での高抵抗部位の生成を抑制し、界面抵抗の増加を抑制することが可能な電極層とすることができる。
以下、本発明の電極層の各構成について説明する。
【0051】
1.硫化物固体電解質粒子
本発明の電極層における上記硫化物固体電解質粒子の含有量は、電極層の用途に応じて適宜選択される。例えば1重量%〜80重量%の範囲内、中でも10重量%〜70重量%の範囲内、特に15重量%〜50重量%の範囲内であることが好ましい。上記硫化物固体電解質粒子の含有量が少なすぎると、充分なイオン伝導パスを形成できない可能性があり、一方上記硫化物固体電解質粒子の含有量が多すぎると、相対的に酸化物活物質の含有量が少なくなり、容量の低下が生じる可能性があるからである。
なお、硫化物固体電解質粒子については、上記「A.硫化物固体電解質粒子」で詳しく記載したので、ここでの説明は省略する。
【0052】
2.酸化物活物質
本発明に用いられる酸化物活物質は、正極活物質および負極活物質のいずれでも良いが、中でも正極活物質であることが好ましい。正極層ではより高抵抗部位が生成しやすく、効果的に界面抵抗の増加を抑制することができるため、本発明の電極層を正極層に用いることが好ましい。
【0053】
(1)正極活物質
本発明に用いられる正極活物質は、目的とする全固体電池の伝導イオンの種類により異なるものである。例えば、目的とする全固体電池が全固体リチウム二次電池である場合、正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出する。また、本発明における正極活物質は、通常、上述の硫化物固体電解質粒子と反応し高抵抗部位を形成し得るものである。
【0054】
本発明においては、酸化物正極活物質を用いることにより、エネルギー密度の高い全固体電池とすることができる。一般的に、硫化物固体電解質材料を用いる場合、酸化物正極活物質中の金属元素は、酸素よりも硫黄と反応しやすいため、硫化物固体電解質材料中の硫黄と反応し硫黄金属を形成する。この硫黄金属自体が抵抗部位になるとともに、酸化物正極活物質と硫化物固体電解質材料との界面付近では、金属イオンおよび硫黄イオンの欠損(分解)が起こる。
本発明の硫化物固体電解質粒子は、硫化物固体電解質材料の表面に酸化物層が形成されていることにより、酸化物正極活物質と硫化物固体電解質粒子との界面での高抵抗部位の形成を抑制することができるため、酸化物正極活物質を用いた場合には、その効果を特に発揮することができる。
【0055】
全固体リチウム二次電池に用いられる酸化物正極活物質としては、例えば一般式Li(Mは遷移金属元素であり、x=0.02〜2.2、y=1〜2、z=1.4〜4)で表される正極活物質を挙げることができる。上記一般式において、Mは、Co、Mn、Ni、V、FeおよびSiからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、Co、NiおよびMnからなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。このような酸化物正極活物質としては、具体的には、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O、LiFeSiO、LiMnSiO等を挙げることができる。また、上記一般式Li以外の正極活物質としては、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型正極活物質を挙げることができる。
【0056】
正極活物質の形状としては、例えば粒子形状を挙げることができ、中でも真球状または楕円球状であることが好ましい。また、正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば0.1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。中でも、0.5μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、特に0.5μm〜10μmの範囲内がより好ましい。
なお、本発明において、上記正極活物質の平均粒径はSEM等の電子顕微鏡を用いた画像解析に基づいて測定された値を用いることができる。
【0057】
正極活物質の含有量は、特に限定するものではないが、例えば10重量%〜99重量%の範囲内であることが好ましく、20重量%〜90重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
(2)負極活物質
本発明に用いられる負極活物質は、目的とする全固体電池の伝導イオンの種類により異なるものである。例えば、目的とする全固体電池が全固体リチウム二次電池である場合、負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出する。また、本発明における負極活物質は、通常、上述の硫化物固体電解質粒子と反応し高抵抗部位を形成し得るものである。
【0059】
全固体リチウム二次電池に用いられる酸化物負極活物質としては、例えば、スピネル構造を有する活物質が挙げられる。具体的には、LiTi12、LiMn、LiMn12等を挙げることができ、中でもLiTi12が好ましい。リチウムイオンの挿入による体積変化が少なく、耐久性により優れた負極層とすることができるからである。
【0060】
負極活物質の形状としては、例えば粒子形状を挙げることができ、中でも真球状または楕円球状であることが好ましい。また、負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径は、例えば0.1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。中でも、0.5μm〜20μmの範囲内であることが好ましく、特に0.5μm〜10μmの範囲内がより好ましい。
なお、本発明において、上記負極活物質の平均粒径はSEM等の電子顕微鏡を用いた画像解析に基づいて測定された値を用いることができる。
【0061】
負極活物質の含有量は、特に限定するものではないが、例えば10重量%〜99重量%の範囲内であることが好ましく、20重量%〜90重量%の範囲内であることがより好ましい。
【0062】
3.添加物
本発明の電極層は、さらに導電助剤を含有していても良い。導電助剤の添加により、導電性を向上させることができる。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチンブラック、カーボンファイバー等を挙げることができる。
【0063】
また、本発明の電極層が結着剤を含有していても良い。結着剤の添加により、電極層に可撓性を付与することができる。結着剤の種類としては、例えば、フッ素含有樹脂等を挙げることができる。
【0064】
4.電極層
本発明の電極層の厚さは、目的とする全固体電池の種類および電極層の用途によって異なるものである。例えば、本発明の電極層を正極層として用いる場合、正極層の厚さは1μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。一方、本発明の電極層を負極層として用いる場合、例えば、負極層の厚さは1μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。
【0065】
電極層の形成方法は、特に限定するものではないが、例えば酸化物活物質と硫化物固体電解質粒子とを混合し、圧縮成形する方法等を挙げることができる。
本発明の電極層の用途としては、例えば全固体電池に用いることが挙げられる。なお、全固体電池の種類については、上記「A.硫化物固体電解質粒子」に記載したので、ここでの説明は省略する。全固体電池においては、本発明の電極層が正極層および負極層の少なくとも一つとして用いられる。中でも、上記電極層が正極層であることが好ましい。
【0066】
C.全固体電池
次に本発明の全固体電池について説明する。本発明の全固体電池は、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、上記正極層、上記負極層および上記固体電解質層の少なくとも一つが、上述の硫化物固体電解質粒子を含有することを特徴とするものである。
【0067】
図2は、本発明の硫化物固体電解質材料を用いた全固体電池の発電要素の一例を示す模式図である。図2に示される発電要素10は、正極層4と、負極層5と、正極層4および負極層5の間に形成された固体電解質層6とを有する。正極層4には、正極活物質7および硫化物固体電解質粒子1が含有され、これらが均一に混合されている。
【0068】
図2において、全固体電池の充電時には、正極層4の正極活物質7からリチウムイオンが引き抜かれ、このリチウムイオンが硫化物固体電解質粒子1および固体電解質層6を伝って負極層5へと到達する。これに対し、全固体電池の放電時には、負極層5から放出されたリチウムイオンが、固体電解質層6を伝って、正極活物質7へと達する。通常、全固体電池の充放電時には、正極活物質と硫化物固体電解質材料との界面をリチウムイオンが移動するため、全固体電池の高容量化・高出力化を図るには界面抵抗の増加を抑制することが重要である。
【0069】
図2においては、硫化物固体電解質粒子表面に酸化物層が形成されていることにより、酸化物正極活物質と上記硫化物固体電解質粒子とが反応して高抵抗部位が形成されることを抑制することができる。
【0070】
なお、上記説明では、正極層が上記硫化物固体電解質粒子を含有する場合を例示したが、本発明は上記形態に限定されるものではない。
例えば図3に示されるように、負極層5が負極活物質8と硫化物固体電解質粒子1とを含有する場合には、硫化物固体電解質粒子が酸化物層を有することにより、酸化物負極活物質および上記硫化物固体電解質粒子の界面に高抵抗部位が形成されることを抑制することができる。
また、図4に示されるように、固体電解質層6が硫化物固体電解質粒子1を含有する場合には、硫化物固体電解質粒子が酸化物層を有することにより、正極層4または負極層5内に含有される酸化物活物質および上記硫化物固体電解質粒子の界面に高抵抗部位が形成されることを抑制することができる。
【0071】
したがって本発明によれば、正極層、負極層および固体電解質層の少なくとも一つが、上述の硫化物固体電解質粒子を含有することにより、正極層や負極層に含まれる酸化物活物質と硫化物固体電解質粒子との反応による高抵抗部位の形成を抑制することができる。これにより、酸化物活物質と硫化物固体電解質粒子との界面抵抗の増加を抑制でき、その結果耐久性に優れた全固体電池とすることができる。
【0072】
本発明においては、中でも正極層が上述した硫化物固体電解質粒子を含有することが好ましい。すなわち、正極層が上述の電極層であることが好ましい。上述したように、一般に正極層は負極層よりも抵抗が高いため、正極層として上述した電極層を用いることが好ましいのである。
以下、本発明の全固体電池について各構成に分けて説明する。
【0073】
1.正極層および負極層
本発明においては、正極層および負極層の少なくとも一方が上述した電極層になる。電極層については、上記「B.電極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。また、上述した電極層以外の正極層および負極層については、一般的な正極層および負極層と同様のものを用いることができる。
【0074】
2.固体電解質層
本発明においては、固体電解質層は正極層および負極層の間に形成される層であり、少なくとも固体電解質材料を含有するものである。また上記固体電解質層としては、固体電解質層としての機能を有するものであれば特に限定されるものではないが、中でも硫化物固体電解質材料を用いた固体電解質層が好ましい。リチウムイオン伝導度が高いためである。
【0075】
また、上記硫化物固体電解質材料としては、酸化物層を有しているものであってもよく、酸化物層を有していないものであっても良い。
酸化物層を有するものである場合、例えば、上述した硫化物固体電解質粒子を用いることが好ましい。正極層または負極層と固体電解質層との界面にて、上記硫化物固体電解質粒子と、正極層または負極層に含有される酸化物活物質とが反応して生じる高抵抗部位の形成を抑制することができるからである。この場合、通常は、正極層および負極層の少なくとも一方が、酸化物活物質を含有する。
【0076】
また、酸化物層を有していないものである場合、具体的にはLi、A、Sからなる硫化物固体電解質材料(Li−A−S)を挙げることができる。上記硫化物固体電解質材料Li−A−S中のAは第13族〜第15族の元素から選ばれる少なくとも一つであり、上記第13族〜第15族の元素については上述した内容と同様である。
具体的には70LiS−30P、LiGe0.250.75、75LiS−25P、80LiS−20P、LiS−SiS等を挙げることができ、イオン伝導度が高いことから、70LiS−30Pが好ましく、また安定性に優れることから、75LiS−25Pが好ましい。
【0077】
上記固体電解質層の膜厚としては、特に限定されるものではなく、通常の全固体リチウム二次電池に用いられる固体電解質膜の厚さと同様の厚さのものを用いることができる。
【0078】
3.正極集電体および負極集電体
本発明に用いられる正極集電体について説明する。上記正極集電体とは、上記正極層の集電を行うものである。上記正極集電体としては、正極集電体としての機能を有するものであれば特に限定されるものではない。上記正極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばSUS(ステンレス鋼)、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、およびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。さらに、上記正極集電体は、緻密金属集電体であっても良く、多孔質金属集電体であっても良い。
【0079】
次に本発明に用いられる負極集電体について説明する。上記負極集電体とは、上記負極層の集電を行うものである。上記負極集電体としては、負極集電体としての機能を有するものであれば特に限定されるものではない。上記負極集電体の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えばSUS、銅、ニッケル、およびカーボン等を挙げることができ、中でもSUSが好ましい。
上記負極集電体おける、緻密金属集電体、および多孔質金属集電体については、上記正極集電体の記載と同様のものであるので、ここでの記載は省略する。
【0080】
また、本発明に用いられる上記正極集電体および上記負極集電体は、電池ケースの機能を兼ね備えたものであっても良い。具体的には、SUS製の電池ケースを用意し、その一部を集電部として用いる場合等を挙げることができる。
【0081】
4.その他
上記全固体リチウム二次電池において、上述した正極層、負極層、固体電解質層、正極および負極集電体以外の構成、例えば、絶縁リング、電池ケース、また、コイン型電池の封止に用いられる樹脂パッキン等に関しては、特に限定されるものではなく、一般的な全固体リチウム二次電池と同様のものを用いることができる。具体的には、電池ケースとしては、一般的には、金属製のものが用いられ、例えばステンレス製のもの等が挙げられる。また、樹脂パッキンとしては、吸水率の低い樹脂が好ましく、例えばエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0082】
5.全固体電池
本発明の全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。本発明の全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができ、中でも角型およびラミネート型が好ましく、特にラミネート型が好ましい。
【0083】
また、本発明の全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。全固体電池の製造方法の一例としては、正極層を構成する材料、固体電解質層を構成する材料、および負極層を構成する材料を順次プレスすることにより、発電要素を作製し、この発電要素を電池ケースの内部に収納し、電池ケースをかしめる方法等を挙げることができる。
【0084】
D.硫化物固体電解質粒子の製造方法
次に本発明の硫化物固体電解質粒子の製造方法について説明する。本発明の硫化物固体電解質粒子の製造方法は、硫化物固体電解質材料の表面を酸化させる工程(以下、表面酸化工程とする)を有することを特徴とするものである。
【0085】
本発明によれば、硫化物固体電解質材料の表面を酸化させることにより、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を形成させることができる。本発明においては、簡便かつ低コストの工程で表面に酸化物層を形成することにより、硫化物固体電解質粒子と酸化物活物質との界面における高抵抗部位の生成を抑制することが可能な硫化物固体電解質粒子を合成することができる。
【0086】
本発明においては、上記表面酸化工程を有するものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、以下の二つの態様を挙げることができる。
【0087】
1.第一態様
本発明の硫化物固体電解質粒子の製造方法の第一態様は、硫化物固体電解質材料が酸化剤と接触し、上記硫化物固体電解質材料表面が酸化され、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を形成する表面酸化工程を有する製造方法である。また本態様では、非晶質化処理工程または乾燥工程を有しても良い。
【0088】
(1)表面酸化工程
本態様における表面酸化工程は、硫化物固体電解質材料が酸化剤と接触し、上記硫化物固体電解質材料表面が酸化され、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子となる工程である。
【0089】
本工程で用いられる酸化剤は、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、表面に酸化物層を形成できるものであれば特に限定するものではないが、例えば、気体を用いることができる。上記気体としては、酸素含有気体が挙げられる。具体的には、大気や純酸素等が挙げられる。
【0090】
また、上記の気体は水分量が少ないことが好ましい。水分を含有している場合、後述する乾燥工程が必要となるからである。
【0091】
本工程に用いられる表面酸化方法は、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、酸化物層を形成できるものであれば特に限定するものではなく、通常用いられる方法を用いることができる。具体的には、硫化物固体電解質材料を所定の温度、湿度を持つ気体中に、所定の時間保持する方法等が挙げられる。
【0092】
上記温度、上記湿度、および上記時間等の表面酸化条件としては、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、酸化物層を形成することができる条件であれば特に限定されるものではない。例えば、酸化剤として大気を用いた場合、大気中で予備的な実験として、表面酸化工程、および後述する乾燥工程を行い、所望の量の上記酸化物層が形成されるような、温度、湿度、および時間等の表面酸化条件を決定することができる。
【0093】
(2)その他の工程
本態様では、非晶質化処理工程または乾燥工程を有していても良い。以下各工程について説明する。
【0094】
(i)非晶質化処理工程
本態様における非晶質化処理工程は、上記表面酸化処理工程の前に行われるもので、原料組成物を非晶質化処理によって非晶質化し、硫化物固体電解質材料を得る工程である。例えばメカニカルミリング法および溶融急冷法を挙げることができ、中でもメカニカルミリング法が好ましい。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0095】
メカニカルミリング法は、原料組成物に機械的エネルギーを付与しながら混合する方法であれば特に限定されるものではないが、例えばボールミル、ターボミル、メカノフュージョン、ディスクミル等を挙げることができ、中でもボールミルが好ましく、特に遊星型ボールミルが好ましい。所望の硫化物固体電解質材料を効率良く得ることができるからである。
【0096】
また、メカニカルミリング法の各種条件は、充分に非晶質化した硫化物固体電解質材料を得ることができる程度に設定することが好ましい。例えば、遊星型ボールミルにより硫化物固体電解質材料を合成する場合、ポット内に、原料組成物および粉砕用ボールを加え、所定の回転数および時間で処理を行う。一般的に、回転数が大きいほど、硫化物固体電解質材料の生成速度は速くなり、処理時間が長いほど、原料組成物から硫化物固体電解質材料への転化率は高くなる。遊星型ボールミルを行う際の回転数としては、例えば200rpm〜500rpmの範囲内、中でも250rpm〜400rpmの範囲内であることが好ましい。また、遊星型ボールミルを行う際の処理時間は、例えば1時間〜100時間の範囲内、中でも1時間〜50時間の範囲内であることが好ましい。
また、本工程は不活性ガス雰囲気下(例えばアルゴンガス雰囲気下)で行うことが好ましい。
【0097】
(ii)乾燥工程
本態様における乾燥工程は、上記表面酸化工程の後に行われるもので、上記表面酸化工程により酸化され、硫化物固体電解質材料表面に形成した酸化物層から水分を除去し、水分を含有しない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子とする工程である。
【0098】
本工程は、上記表面酸化工程において、酸化剤として水分を含む気体を用いた場合に行われる。水分を含む気体状酸化剤としては、具体的には、大気等が挙げられる。
また、本工程は、酸化剤が水分を含有していない場合でも行うことが好ましい。例えば、硫化物固体電解質材料が潮解性を有する場合等に、本工程を行うことで、より水分含有量の少ない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子が得られるからである。
【0099】
本工程に用いられる乾燥方法は、上記水分を含有しない酸化物層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、通常用いられる方法を用いることができる。具体的には、上記硫化物固体電解質材料表面を、所定の雰囲気、温度、時間にて乾燥させる方法等が挙げられる。
【0100】
上記乾燥条件としては、上記硫化物固体電解質材料表面における上記水分含有酸化物層を乾燥して水分を除去することができ、水分を含有しない上記硫化物固体電解質材料が酸化されてなる酸化物層を表面に有する硫化物固体電解質材料を得ることができる条件であれば良く、特に限定されるものではない。例えば、予備的な実験として、上述した表面酸化工程、および本工程を行い、所望の量の上記酸化物層が形成される、雰囲気、温度および時間等の乾燥条件を決定することができる。
【0101】
上記乾燥させる際の雰囲気としては、上記水分含有酸化物層を乾燥して水分を除去することができ、水分を含有しない上記酸化物層を形成することができるものであれば良く、特に限定されるものではない。例えば、真空雰囲気等を挙げることができる。
【0102】
本態様に用いられる上記硫化物固体電解質粒子および電極層は、「A.硫化物固体電解質粒子」および「B.電極層」にて詳細に記載してあるため、ここでの説明は省略する。
【0103】
2.第二態様
本発明の硫化物固体電解質粒子の製造方法の第二態様は、硫化物固体電解質材料と電極活物質等の他の材料との混合中に、酸化剤を接触させ、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を形成すると同時に、上記硫化物固体電解質粒子を含有する電極層も形成することができる表面酸化工程を有する製造方法である。なお、上記硫化物固体電解質粒子と同時に形成されるものは、電極層だけに限定されるものではなく、上記表面酸化工程を有するものであれば、全固体電池の製造段階で生じる生成物も含む。
また本態様では、非晶質化処理工程または乾燥工程を有していても良い。
【0104】
(1)表面酸化工程
本態様による表面酸化工程は、硫化物固体電解質材料と電極活物質等の他の材料との混合中に、酸化剤を接触させ、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を形成すると同時に、上記硫化物固体電解質粒子を含有する電極層および全固体電池製造段階で生じる生成物を形成する工程である。
【0105】
本工程で用いられる酸化剤は、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、表面に酸化物層を形成できるものであれば特に限定するものではないが、例えば水等が挙げられる。
【0106】
本工程に用いられる表面酸化方法は、硫化物固体電解質材料表面を酸化し、酸化物層を形成できるものであれば特に限定するものではなく、通常用いられる方法を用いることができる。具体的には、硫化物固体電解質材料と酸化物活物質とを混合する際に、溶媒中に酸化剤を添加することで、表面に酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を得ることができると同時に、上記硫化物固体電解質粒子を含有する電極層および全固体電池製造過程で生じる生成物を作製すること等が挙げられる。
【0107】
また温度、湿度および上記時間等の表面酸化条件としては、上記第一態様と同様に、予備的な実験を行い決定することができるので、ここでの説明は省略する。
【0108】
(2)その他の工程
本態様では、非晶質化処理工程または乾燥工程を有していても良い。以下各工程について説明する。
【0109】
(i)非晶質化処理工程
本態様における非晶質化処理工程は、第一態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0110】
(ii)乾燥工程
本態様における乾燥工程は、上記表面酸化工程の後に行われるもので、上記表面酸化工程により酸化され、硫化物固体電解質材料表面に形成した酸化物層から水分を除去し、水分を含有しない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を得ると同時に、上記水分を含有しない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子を含有する電極層および全固体電池製造過程における生成物を形成する工程である。
【0111】
本工程は、上記表面酸化工程において、酸化剤として水または水分を含む酸化剤を用いた場合に行われる。具体的には、硫化物固体電解質材料とその他の材料との混合中に水を添加するといった、水を酸化剤として使用する場合等が挙げられる。
また、本工程は、酸化剤が水分を含有していない場合でも行うことが好ましい。例えば、硫化物固体電解質材料が潮解性を有する場合等に、本工程を行うことで、より水分含有量の少ない酸化物層を有する硫化物固体電解質粒子が得られるからである。
【0112】
本実施態様に用いられる乾燥方法は、上記第一態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0113】
本工程の乾燥条件としては、上記第一態様と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0114】
本工程の乾燥させる際の雰囲気としては、上記第一態様と同様であるので、ここでの説目は省略する。
【0115】
本態様に用いられる上記硫化物固体電解質粒子および電極層は、「A.硫化物固体電解質粒子」および「B.電極層」にて詳細に記載してあるため、ここでの説明は省略する。
【0116】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
(硫化物固体電解質材料の合成)
原料組成物として硫化リチウム(LiS)および硫化リン(P)を用い、これらの粉末をアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、LiS 0.442g、P 0.305gおよびSiS 0.253gを秤量し、これらをメノウ乳鉢で混合した。この際、LiS、PおよびSiSの割合は、モル比率71:12.5:16.5であった。次に、原料組成物1gをジルコニア(ZrO)製のボールとともにジルコニアポットに投入し、ポットを完全に密閉した。このポットを遊星ボールミル処理機に取り付け、回転数370rpmで40時間メカニカルミリングを行い、硫化物固体電解質材料(71LiS−12.5P−16.5SiS)を得た。
【0118】
(酸化物層形成)
得られた硫化物固体電解質材料を大気中に1分間曝露した後、5分間真空乾燥を行った。同様の1分間の大気曝露と5分間の真空乾燥からなる表面酸化工程と乾燥工程とを3回繰り返して、上記硫化物固体電解質材料表面に自らが酸化されてなる酸化物層を形成した硫化物固体電解質粒子を得た。
【0119】
(全固体電池の作製)
まず正極活物質LiCoOと上述の硫化物固体電解質粒子とを各々11.3mg、4.9mg(重量比7:3)となるように秤量、混合し、正極合剤とした。
正極層4には上述の正極合剤を用い、固体電解質層6には固体電解質材料70LiS−30Pを用い、負極層5には黒鉛と固体電解質材料70LiS−30Pとを各々6mg、6mg(重量比5:5)とした負極合剤を用いて図2のような全固体電池を作製した。
【0120】
[実施例2]
実施例1の表面酸化工程および乾燥工程を5回繰り返した以外はすべて同様にして硫化物固体電解質粒子を合成し、全固体電池を作製した。
【0121】
[比較例]
実施例1の表面酸化工程および乾燥工程を行わなかった以外はすべて同様にして硫化物固体電解質粒子を合成し、全固体電池を作製した。
【0122】
[評価]
(酸素/硫黄元素比率測定)
実施例1および比較例で得られた硫化物固体電解質粒子の表面の酸素/硫黄元素比率(A)と、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率(B)をそれぞれXPSにより測定した。また、表面により30nmにおける酸素/硫黄元素比率に対する表面の酸素/硫黄元素比率(A/B)を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0123】
【表1】

【0124】
表1より、表面酸化工程および乾燥工程を行っていない比較例、表面酸化工程および乾燥工程の回数が各々3回繰り返している実施例1では、表面より30nm付近の酸素/硫黄元素比率に対する表面の酸素/硫黄元素比率(A/B)が、比較例では2.0未満、実施例1では2.0以上となることが示された。なお、A/Bの値は、表面酸化工程および乾燥工程を繰り返す回数によって、酸化物層の形成が促進し、増加する傾向にあった。
【0125】
(膜厚測定)
実施例1および比較例で得られた硫化物固体電解質粒子の、表面からの深度変化に伴う酸素/硫黄元素比率の変化を上述したXPSとスパッタとを組み合わせることにより測定した。得られた結果を図5に示す。図5で得られたグラフの変曲点から、酸化物層の膜厚は3nmであった。
【0126】
(界面抵抗増加率測定)
実施例1、2および比較例で得られた全固体電池を用いて、電池抵抗を測定した。電池抵抗は、3.0V〜4.1Vでコンディショニング後、SOC(state of charge)60%に調整し、25℃で周波数10mHz〜100kHzにて交流インピーダンス法により界面抵抗値(初期)を測定した。
次に上記インピーダンス測定後の全固体電池を60℃の環境下で30日保存した。その後、25℃の環境下に2時間置き、続いて上記と同様の条件で再度インピーダンス測定法により界面抵抗値(高温放置後)を測定し、界面抵抗増加率を得た。
結果を図6に示す。図6は酸化処理回数と界面抵抗増加率(界面抵抗値(初期)に対する界面抵抗値(高温放置後)の増加率)との関係を示すグラフである。
【0127】
また、図6の結果から表面酸化工程と乾燥工程の回数を各々5回に増加した実施例2と、実施例1および比較例の界面抵抗増加率を比べると、実施例2の方が実施例1および比較例よりも界面抵抗増加率が低いことがわかった。
以上の結果から、酸化処理回数の増加に伴い、A/Bは増加し、界面抵抗増加率は低下していく傾向にあることがわかった。すなわち、酸素/硫黄元素比率を2.0以上とする、つまり、硫化物固体電解質粒子表面の酸素/硫黄元素比率が、表面より30nmの位置の酸素/硫黄元素比率に対して2倍以上とすることで、界面抵抗増加率の増加を抑制することができることが示された。
【符号の説明】
【0128】
1 硫化物固体電解質粒子
2 酸化物層
3 硫化物固体電解質材料
4 正極層
5 負極層
6 固体電解質層
7 正極活物質
8 負極活物質
10 発電要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に自らが酸化されてなる酸化物層を有し、硫化物固体電解質材料からなることを特徴とする硫化物固体電解質粒子。
【請求項2】
前記硫化物固体電解質粒子表面の酸素/硫黄元素比率が、表面より30nm(SiOスパッタレート換算)の位置の酸素/硫黄元素比率に対して2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載の硫化物固体電解質粒子。
【請求項3】
酸化物活物質と、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質粒子とを含有することを特徴とする電極層。
【請求項4】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された固体電解質層とを有する全固体電池であって、
前記正極層、前記負極層および前記固体電解質層の少なくともいずれか一つが、請求項1または請求項2に記載の硫化物固体電解質粒子を含有することを特徴とする全固体電池。
【請求項5】
硫化物固体電解質材料の表面を酸化させる工程を有することを特徴とする硫化物固体電解質粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−94445(P2012−94445A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242502(P2010−242502)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】