説明

硫酸ピッチの処理方法及び処理装置

【課題】 亜硫酸ガスの発生量が少なく、硫酸ピッチを安全に、また簡易且つ簡便に無害化することができる硫酸ピッチの処理方法を提供すること。
【解決手段】 硫酸ピッチを、水を添加することなく攪拌混合してスラリー状にする攪拌工程、得られたスラリー状の硫酸ピッチに水を添加することなく中和剤を添加して中和を行う中和工程、及び中和工程により得られる中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥工程を具備することを特徴とする硫酸ピッチの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜硫酸ガスの発生量が少なく、硫酸ピッチを簡易且つ簡便に無害化することができる硫酸ピッチの処理方法及び処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硫酸ピッチは、石油精製で生じた硫酸処理、硫酸洗浄から排出される廃油と廃酸の混合物である廃酸スラッジであり、硫黄分、油分、アスファルト質、未反応の硫酸、芳香族炭化水素類や重金属等の有害な化学物質を含むタール状物である。また、二酸化硫黄等の酸性ガスを発生する高粘性の物質であり、放置しておくと油分等の揮発によって粘性が増し硬化する物質である。
【0003】
硫酸ピッチは、放置すると酸性ガスを発するためそのまま長期間放置することができず、また単に廃棄処理を行うと多量の酸性ガスを発生して周辺環境に悪影響を与えるため、無害化処理することが求められている。
このため硫酸ピッチを処理する方法は、種々提案されている。
たとえば、特許文献1には、硫酸ピッチに無機セメント系固化処理材と水を加えて混合し、無機セメント系固化処理材に含まれる界面活性剤で硫酸ピッチに含まれる油を分散,乳化させ、その後、この混合体に石灰系の中和剤を加え混合して中和してから加熱,脱水して団粒化する処理方法が提案されている。
特許文献2には、石油精製で生じた硫酸ピッチに、セメント系廃材またはALC廃材または石膏ボ−ド廃材および循環させた粉粒体の少なくとも一部と水を加え混合して形成した均一な混合体に、適宜中和剤と表面活性剤を加えて混合した後に、加熱、脱水して粉粒体を得、その得られた粉粒体の少なくとも一部を、最初の工程に循環させる処理方法が提案されている。
特許文献3には、粉体状の塩基性廃棄物と、液体状の酸性廃棄物をそれぞれ適宜適量ずつ取り出して中和造粒槽内に投入し、それらの投入物を混練・攪拌して中和しつつ造粒し、さらにこの際の化学反応に伴って発生したガスを処理して無害化し、造粒された造粒物を加熱して、不要成分を気化させて分離する処理方法が提案されている。
【0004】
特許文献4には、塊状またはタール状の硫酸ピッチにアルカリ性中和剤として水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの水溶液を添加し、混合攪拌して発生する熱を利用して溶解し中和処理すると共に、中和処理後に発生する汚泥は、人工ゼオライトと、都市ゴミ焼却灰R、赤土、石灰(生石灰、消石灰)、粗成セメントの少なくとも一つを加えて攪拌処理することによって無害化処理する処理方法が提案されている。また、硫酸ピッチPを1〜2重量に対し、人工ゼオライトが1〜4重量、都市ゴミ焼却灰R、赤土、石灰(生石灰、消石灰)、粗成セメントの少なくとも一つを0.5〜4重量加えることも開示されている。
特許文献5には、硫酸ピッチを破砕して細粒化した後、中和処理し、処理時に発生する二酸化硫黄を含むガスは、吸収処理され、ついで、プラズマ分解処理される処理方法が提案されている。また、二酸化硫黄を含む有害ガスの発生を抑制するためには水を添加しないほうが好ましいことも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−165999号公報
【特許文献2】特許第3973664号公報
【特許文献3】特開2005−161261号公報
【特許文献4】特開2007−136270号公報
【特許文献5】特開2007−190544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献1〜4に記載の処理方法では、亜硫酸ガス等の酸性ガスの発生量が多く、硫酸ピッチを安全に、簡易且つ簡便に処理することはできなかった。特許文献5に記載の処理方法は、粒径20mm以上の大きさを有する固体粒状の硫酸ピッチをナトリウム塩やカルシウム塩などの固体状の中和剤と接触させて反応させるものであるが、十分に硫酸ピッチを無害化することができないという問題がある。また、そもそも完全に固化した硫酸ピッチは、長期間開封した状態で放置されたものであり、硫酸がほぼ揮発してしまっており、中和処理を行う必要もない場合がある。
要するに、従来提案されている処理方法では、亜硫酸ガス等の酸性ガスの発生量が多くて処理を安全に行うことができないか、処理を安全に行うことができても無害化が不十分となり、安全、簡易且つ簡便な処理と十分な無害化との両立ができていないのが現状である。
【0007】
従って、本発明の目的は、亜硫酸ガスの発生量が少なく、硫酸ピッチを安全に、また簡易且つ簡便に無害化することができる硫酸ピッチの処理方法、及び該処理方法を簡易且つ簡便に行うことができる処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解消すべく鋭意検討した結果、硫酸ピッチを中和剤と混合しやすくするため且つ中和剤として用いられるセメントと反応させるために添加されていた水が、亜硫酸ガスの発生を助長・促進することを知見した。更に検討した結果、硫酸ピッチをスラリー状になるまで十分に攪拌すれば水を加えなくてもセメントと反応して固化することを知見し、本発明を完成するに至った。なお、本発明においてスラリー状とは細かい固形物が液体中に懸濁された懸濁液を意味する。
すなわち、本発明は、硫酸ピッチを、水を添加することなく攪拌混合してスラリー状にする攪拌工程、得られたスラリー状の硫酸ピッチに水を添加することなく中和剤を添加して中和を行う中和工程、及び中和工程により得られる中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥工程を具備することを特徴とする硫酸ピッチの処理方法を提供することにより上記目的を達成したものである。
【0009】
硫酸ピッチは、石油精製において発生した直後は液体状であるが、通常は生成後直ちに処理することはできず、ドラム缶などの容器で数日以上の期間保存した後処理される。このように保存された硫酸ピッチは、通常少なくとも一部は固化している。
本発明において被処理物として用いられる上記硫酸ピッチは、硫黄分、油分、アスファルト質、未反応の硫酸、芳香族炭化水素類や重金属等の有害な化学物質を有するものであり、油分が全体の5〜10重量%、アスファルト質が全体の25〜45重量%、未反応の硫酸を含む硫酸イオンが全体の25〜45重量%であり、これらの他に芳香族炭化水素類や重金属等の有害な化学物質等種々の物質を含み得るものである。またその固形分は、好ましくは10〜50重量%である。この範囲内とすることにより十分なスラリー化が可能となり、酸性ガスの発生を抑制しつつ中和反応を十分に行うことができる。ここで固形分とは、全体のうち濾別した際に固体として回収される分の割合である。
【0010】
上記攪拌工程は、上記攪拌工程は、硫酸ピッチの収容容器の直径の1/5〜1/2の長さを有する攪拌羽根を用い、攪拌速度を5〜40rpmとして行うのが好ましく、5〜30rpmとして行うのが更に好ましい。これにより、固化した硫酸ピッチも効率よく、中和処理に適したスラリー状にすることができる。
上記中和剤としては、石灰とセメント材料とを石灰100重量部に対してセメント材料50〜80重量部の配合割合で含んでなるものを好ましく用いることができる。上記範囲外である場合には、中和処理が十分でなくなり、十分な無害化ができなくなる場合がある。
上記石灰としては、消石灰、生石灰等を挙げることができるが、特に生石灰が好ましく用いられる。
またセメント材料としては、ポルトランドセメント等を用いることができる。
また、上記中和剤には、上述の石灰及びセメント材料以外にも必要に応じて適当な成分を適宜配合することができる。
中和剤の使用量は特に制限されるものではないが、硫酸ピッチ100重量部に対して60〜300重量部とするのが好ましく、80〜180重量部とするのが更に好ましい。
上記中和工程は、上記分散物を攪拌・混合しつつ、徐々に上記中和剤を混入することによって行うのが好ましい。これにより、酸性ガスの発生を最低限度に抑制して中和処理を行うことができる。
また、本発明の処理方法は、上記中和工程で中和反応に伴い発生する酸性ガスを中和処理するガス処理工程を具備するのが酸性ガスの排出をなくすことができるので好ましく、上記乾燥工程で加熱に伴い発生する酸性ガスを中和処理するガス処理工程を具備するのが酸性ガスの排出をなくすことができるので好ましい。
また、本発明は、上記の硫酸ピッチの処理方法を実施するための硫酸ピッチの処理装置であって、硫酸ピッチを攪拌する攪拌装置と、攪拌装置で攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを中和処理する中和処理槽と、該中和処理槽で中和処理された中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥槽と、を具備し、
上記攪拌装置は、上記攪拌装置は、硫酸ピッチの収容容器の直径の1/5〜1/2の長さを有する攪拌羽根を攪拌手段として備え、
上記中和処理槽は、攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを投入する投入口と、中和処理された中和処理物を排出する排出口と、上面の中央部分に設けられた、中和反応により生じる酸性ガスを吸引して槽内から除去するための中和処理槽ガス吸引口とを有し、
上記乾燥槽は、中和処理物を投入する投入口と、乾燥された乾燥処理物を排出する排出口と、上面の中央部分に設けられた、乾燥処理により発生する酸性ガスを吸引して槽内から除去するための乾燥槽ガス吸引口を有することを特徴とする硫酸ピッチの処理装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の硫酸ピッチの処理方法によれば、亜硫酸ガスの発生量が少なく、硫酸ピッチを安全に、また簡易且つ簡便に無害化することができる。
また、本発明の処理装置は、本発明の硫酸ピッチの処理方法を簡易且つ簡便に行うことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の処理方法を実施するための処理装置の全体を模式的に示す概要図である。
【図2】図2は、図1に示す実施形態の攪拌装置を示す側面図である。
【図3】図3は、図1に示す実施形態の中和処理槽を示す側面図である。
【図4】図4は、図1に示す実施形態の中和処理物貯蔵槽を示す側面図である。
【図5】図5は、図1に示す実施形態の乾燥槽を示す側面図である。
【図6】図6は、図1に示す実施形態の第1及び第2のガス処理槽を示す透視側面図であり、(a)は第1のガス処理槽を、(b)は第2のガス処理槽を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の硫酸ピッチの処理方法及び処理装置について更に詳細に説明する。
まず、図面を参照して、本発明の処理方法を実施するための本発明の処理装置について説明する。
図1に示すように、本発明の処理装置1は、硫酸ピッチを攪拌する攪拌装置10と、攪拌装置10で攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを中和処理する中和処理槽20と、中和処理槽20で中和処理された中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥槽40と、を具備する。
【0014】
攪拌装置10は、攪拌・分散処理中に発生する酸性ガスを処理するために、硫酸ピッチの収容容器やその周囲の空気を吸引するための排気ファン(図示せず)を有する配管2を介して第1のガス処理槽50に連結されている。また、中和処理槽20も槽内のガスを吸引する吸引装置(図3参照)が設けられた配管3を介して第1のガス処理槽50に連結されている。中和処理槽20と乾燥槽40との間には中和処理物貯蔵槽30が設けられており、中和処理槽20で処理された中和処理物を乾燥槽40が処理できる状態になるまで貯蔵できるように構成されている。中和処理物貯蔵槽30は、槽内の空気を吸引するための排気ファン(図示せず)を有する配管4を介して第2のガス処理槽60に連結されている。また、乾燥槽40も槽内のガスを吸引する吸引手段(図3参照)が設けられた配管5を介して第2のガス処理槽60に連結されている。また、本実施形態においては、中和処理槽20から中和処理物貯蔵槽30への中和処理物の移送手段として、ベルトコンベア6が設けられており、また、中和処理物貯蔵槽30から乾燥槽40への中和処理物の移送手段としても、ベルトコンベア7が設けられている。
第1のガス処理槽50及び第2のガス処理槽60で処理されたガスはセンサー(図示せず)によりpHを測定されて環境基準を満たすことを確認した後大気中に放出される。また、乾燥槽により乾燥処理された処理済の粒状物は、無害で且つ多孔性の粒子であり、適宜保存容器(図示せず)などに保存され、各種形成材の材料として用いられる。
【0015】
更に、図2〜6を参照して詳細に説明する。
攪拌装置10は、図2に示すように、床面aに接触する基部11、床面aと垂直方向に設置された架台部分12、架台部分12の内部に設けられた上下動手段13に連結された攪拌機保持部14及び補強部材15を具備する攪拌機支持架台10aと、先端部分に所定間隔を開けて設けられた2枚の攪拌羽根16を有するシャフト17が備えられた攪拌機10bとからなる。上下動手段としては、レール、チェーン、油圧シャフトなどが用いられ、本実施形態においては油圧シャフトを用いている。そして、攪拌装置10の使用時には、攪拌機10bを上下動させて硫酸ピッチの収容容器であるドラム缶Aの硫酸ピッチにおける所望の深さまで攪拌羽根16を到達させて、攪拌羽根16を回転させることにより、攪拌を行う。攪拌羽根16の直径は、用いられるドラム缶Aの直径に応じて任意であるが、ドラム缶Aの直径(上面開口部の直径)の1/5〜1/2とするのが好ましい。
【0016】
本発明の処理装置においては、図3に示すように、攪拌された硫酸ピッチを中和処理槽20に投入する投入装置70が設けられている。投入装置70は硫酸ピッチの入ったドラム缶を載置する載置台71と、載置台71を上下動可能に支持する支持柱72と、所定高さまでドラム缶が上昇した場合にドラム缶を傾けて硫酸ピッチを所定位置に投入するドラム缶傾斜部73とからなる。ドラム缶傾斜部73は、特に図示しないが、載置台に載せたドラム缶を油圧により上昇させて順次中和処理槽側に傾けることが出来るように構成されている。
【0017】
中和処理槽20は、図3に示すように、軸方向が長手方向となるように形成された筒状の反応容器21からなり、攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを投入する投入口22と、中和処理された中和処理物を排出する排出口23と、上面の中央部分に設けられた、中和反応により生じる酸性ガスを吸引して槽内から除去するための中和処理槽ガス吸引口24とを有する。
投入口22は反応容器21の一端側上面に設けられており、ロート状の投入補助具22aが取り付けられている。投入補助具22aの上面開口には蓋体22bが設けられて開閉自在になされている。
排出口23は、反応容器21の他端側の下面に設けられており、バルブ(図示せず)が設けられて通常は内容物が排出されないように閉じられているが、中和処理終了後には開放して中和処理物を取り出せるようになされている。排出口23に対向する反応容器21の上面位置には予備のガス放出口25が設けられており、中和処理槽ガス吸引口24のみで吸引しきれない場合にガスを第1のガス処理槽に放出できるように構成されている。
中和処理槽ガス吸引口24は、反応容器の上面の中央部分に設けられている。ここで、「上面」とは、反応容器を設置した場合に、床面に対向する方向に位置する部分の面を意味し、本実施形態のように円筒状の反応容器の場合には、真上から反応容器を見た際に確認できる面を意味する。また、「中央部分」とは、反応容器の両端縁から反応容器の長さtの1/4の長さの部分20a,20bの間に位置する反応容器の長さtの半分の長さに相当する部分20cを意味する。このような位置に中和処理槽ガス吸入口24を設けることにより、処理槽内部のガスを効率よく吸引することができ、投入口22などからのガスの漏れを防止することが可能となる。
中和処理槽ガス吸引口24には、固形物をふるい落とすためのロータリーバルブ26を介してサイクロン方式の吸引装置27が連結されている。また吸引装置27には配管(図示せず)が設けられており、第1のガス処理装置50にガス誘引ブロワー(図示せず)を介して連結されている。
また、特に図示しないが、反応容器21の内部には通常の押出成型機と同様のスクリュー型の攪拌羽根が設けられており、バルブを回付して中和処理物を取り出す際には、攪拌羽根を回転させることで自動的に中和処理物が排出されるようになされている。また、これにより、投入された硫酸ピッチを中和処理しつつ移送し、所定の中和処理が終了したものは順次排出口から排出できるようになされている。
【0018】
中和処理物貯蔵槽30は、図4に示すように、中空で円錐状の頂部31と中空で円柱状の基部32とからなり、頂部31にベルトコンベアにより移送されてくる中和処理物を投入する投入口33が設けられており、頂部31の頂点部分には内部のガスを排出するガス排出口34が設けられ、排気ファン(図示せず)が設けられた配管(図1参照)を介して第2のガス処理装置60に連結されている。また、基部32の底板部分には中和処理物排出用の排出口(図示せず)が設けられており、コンベア35,7により乾燥層40に移送されるようになっている。
本実施形態の処理装置においては、図5に示すように、投入口に定量的に中和処理物を供給するために定量供給フィーダー80が設けられている。
【0019】
乾燥槽40は、図5に示すように、軸方向が長手方向となるように形成された筒状の乾燥容器41と乾燥容器41の外周面を覆って設けられた円筒状の加熱装置42とからなり、乾燥容器41は、中和処理物を投入する投入口43と、乾燥された乾燥処理物を排出する排出口44と、上面の中央部分に設けられた、乾燥処理により発生する酸性ガスを吸引して槽内から除去するための乾燥槽ガス吸引口45を有する。ここで「上面」「中央部分」の意味は上記の中和処理槽の説明において説明したとおりである。投入口43は乾燥容器の一端側上面に、排出口44は他端側下面に設けられている。焼成処理が終了して得られる粒状物はベルトコンベア46を介して保存容器47に投入されるようになされている。乾燥槽ガス吸引口45は、配管(図1参照)を介してサイクロン方式の吸引装置48に直結されており、ガス冷却用のコンデンサー49を介して第2のガス処理槽に連結されている。
特に図示しないが、乾燥容器41内部には内容物を押出可能な回転羽根が設けられており、投入された中和処理物を加熱処理しつつ移送し、所定時間の乾燥処理が終了したものは順次排出口から排出できるようになされている。
加熱装置42の加熱方法は、電気式、燃焼式など公知の種々方式を特に制限なく採用することができる。
【0020】
第1のガス処理槽50と第2のガス処理槽60とは、同様に構成されているので、図6(a)を参照して第1のガス処理槽について説明する。第2のガス処理槽の構成部材については、第1のガス処理槽と同じ番号を示し、同じ部分については説明を割愛する。
第1のガス処理槽50は、長方体形状の中空の箱型である本体51と、その1端面に設けられた下面がスロープになっている固形分排出部52と、本体51の他端側上面に設けられた排気用ノズル53とからなる。本体51の一端側上面には攪拌装置からの配管が連結された第1吸入口54と中和処理槽からの配管が連結された第2吸入口55とが設けられている。
また、本体51の内部上方には、アルカリ溶液を本体51内部全域にわたって散布するアルカリ溶液シャワー部56が設けられており、本体の下半分はアルカリ溶液Sが存在するようになされている。本体51内部には、仕切り板57が上下互い違いに複数配置されている。これにより酸性ガスを十分に中和処理できるようになされている。また、本体51の下面側には、非処理ガスと共に吸入された粉体や中和反応により生成した固体分を回収するためのコンベア58が設けられている。コンベア58は固形分排出部52まで配置されており、スロープの端部に位置するコンベア端部58aにおいて固形分排出部の下面に設けられた排出口52aから固形分を排出できるようになされている。
また、排気ノズル53の先端部分にはガスのpHを測定する測定部53aが設けられており、排気ガスが環境基準を満足しない場合にはガスの吸入を停止するなどして排気を停止したり、アルカリ溶液の供給量を調節したりできるようになっている。
本体51下部のアルカリ溶液Sは本体の外部に設けられたポンプ59を介して上部のアルカリ溶液シャワー部56に供給されるようになされており、また、適宜pHを測定してpH11に満たない場合には即座にアルカリ材の供給がなされるように構成されている。ここでアルカリ材としては、水酸化ナトリウムなど公知のアルカリ材を特に制限なく、用いることができる。
第2のガス処理槽60は、第1吸入口54が中和処理物貯蔵槽に連結されており、第2吸入口55が乾燥槽に連結されている点、また乾燥槽からのガスを冷却できるように冷却器(図示せず)が設けられている点を除いて、第1のガス処理槽と同じである。
【0021】
ついで、本実施形態の処理方法について、図面を参照して説明する。
本発明の処理方法においては、まず、図2に示す攪拌装置を用いて、硫酸ピッチを、水を添加することなく攪拌混合してスラリー状にする。
この際、攪拌速度は、5〜40rpm、更には5〜30rpmとするのが、酸性ガスの発生を抑制しつつ十分にスラリー状にする観点から好ましい。
その後、スラリー状の硫酸ピッチをそのまま、水を添加することなく中和処理槽に投入する。投入終了後、中和剤を添加して中和を行う。中和工程は、硫酸ピッチを攪拌・混合しつつ、徐々に上記中和剤を混入することによって行う。ここで「徐々に」とは、処理槽内の温度があまり上昇しないようにという意味であり、具体的には槽内の温度が好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下、最も好ましくは70℃以下となるように槽内の温度を確認しつつ所定量の中和剤を分割して投入する。
中和工程で中和反応に伴い発生する酸性ガスを第1のガス処理槽で中和処理する際には、測定部で測定される排気ガスのpHが一定の範囲内となるようにアルカリ溶液シャワーの量やpH(通常は11であるが、場合によっては11を超えるpHに)を適宜調節することができる。第2のガス処理槽でも同様である。
乾燥工程における加熱温度や時間は含有される油分の量によって任意であるが、加熱温度は400〜500℃、時間は5〜20分間とするのが好ましい。
中和工程及び乾燥工程は、それぞれ連続的に行うことが好ましい。
これらの工程を経ることで硫酸ピッチを無害化して、多孔性の粒状物を得ることができる。
本発明は、上述の実施形態になんら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0022】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
〔実施例1〜7〕
図1〜6に示す処理装置を用いて、固形分40重量%の硫酸ピッチ(保存用のドラム缶の上部部分が固化したもの)を表1に示す条件で処理した。また、乾燥は450℃で約10分間行った。
用いたセメント材料は、ポルトランドセメント(日本セメント社製)であり、硫酸ピッチ100重量部に対する中和剤の添加量は120重量部である。
【0023】
【表1】

※ 加え方a:中和処理槽の温度が80℃を超えないように徐々に中和剤を加えた。
加え方b:最初に中和剤の全量を添加した。
【0024】
〔実施例7〕
固形分5重量%の硫酸ピッチを用いた以外は実施例1と同様にして処理を行った。
〔実施例8〕
固形分60重量%の硫酸ピッチを用いた以外は実施例1と同様にして処理を行った。
〔評価〕
実施例1の処理方法では、酸性ガスの発生量があまり多くなくpH11のアルカリシャワー(10リットル)で十分に中和処理槽から発生する酸性ガスの処理を行いつつ、中和処理を行うことができ、中性で黒色の無害な粒状物を得ることができた。
実施例2及び4の処理方法では、従来の方法に比べれば少ない酸性ガスの発生量で中和処理はできたが、実施例1に比べると酸性ガスの発生量が多く、pH11のアルカリシャワー(10リットル)で十分でなく、20リットルのアルカリシャワーを用いる必要があった。
実施例3の処理方法では、従来の方法に比べれば少ない酸性ガスの発生量で中和処理はできたが、実施例1に比べると中和処理に時間がかかった。
実施例5及び8の処理方法では、従来の方法に比べれば少ない酸性ガスの発生量で中和処理はできたが、実施例1に比べるとスラリー化が不十分で、中和処理に時間がかかった。
実施例6の処理方法では、従来の方法に比べれば少ない酸性ガスの発生量で中和処理はできたが、実施例1に比べると攪拌工程で酸性ガスが多量に発生し、pH11のアルカリシャワー(10リットル)で十分でなく、20リットルのアルカリシャワーを用いる必要があった。
実施例7の処理方法では、従来の方法に比べれば少ない酸性ガスの発生量で中和処理はできたが、実施例1に比べると酸性ガスの発生量が多く、pH11のアルカリシャワー(10リットル)で十分でなく、20リットルのアルカリシャワーを用いる必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の処理方法は、有害な廃棄物を効率よく無害化できる他、処理により得られる粒状物は無害で且つ多孔性の粒子であり、舗装材や建築材、セメント材料など各種成型材の原材料として用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
1処理装置;2、3、4、5配管;10攪拌装置;11基部;12架台部分;13上下動手段;14攪拌機保持部;15補強部材;10a攪拌機支持架台;16攪拌羽根;17シャフト;10b攪拌機;20中和処理槽;21反応容器;22投入口;23排出口;24中和処理槽ガス吸引口;26ロータリーバルブ;27吸引装置;30中和処理物貯蔵槽;31頂部;32基部;33投入口;34ガス排出口;40乾燥槽;41乾燥容器;42加熱装置;43投入口;44排出口;45乾燥槽ガス吸引口;48吸引装置;49コンデンサー;50第1のガス処理槽;60第2のガス処理槽;51本体;52固形分排出部;53排気用ノズル;54第1吸入口;55第2吸入口;56アルカリ溶液シャワー部;57仕切り板;58コンベア;59ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸ピッチを、水を添加することなく攪拌混合してスラリー状にする攪拌工程、
得られたスラリー状の硫酸ピッチに水を添加することなく中和剤を添加して中和を行う中和工程、及び
中和工程により得られる中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥工程
を具備することを特徴とする硫酸ピッチの処理方法。
【請求項2】
上記攪拌工程において用いられる硫酸ピッチは固形分が10〜50重量%であり、該攪拌工程は、硫酸ピッチの収容容器の直径の1/5〜1/2の長さを有する攪拌羽根を用い、攪拌速度を5〜40rpmとして行うことを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項3】
上記中和剤が、石灰とセメント材料とを、石灰100重量部に対してセメント材料50〜80重量部の配合割合で含んでなることを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項4】
上記石灰が生石灰であることを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項5】
上記中和工程は、スラリー状の硫酸ピッチを攪拌・混合しつつ、徐々に上記中和剤を混入することによって行うことを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項6】
上記中和工程で中和反応に伴い発生する酸性ガスを中和処理するガス処理工程を具備することを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項7】
上記乾燥工程で加熱に伴い発生する酸性ガスを中和処理するガス処理工程を具備することを特徴とする請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法。
【請求項8】
請求項1記載の硫酸ピッチの処理方法を実施するための硫酸ピッチの処理装置であって、
硫酸ピッチを攪拌する攪拌装置と、
攪拌装置で攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを中和処理する中和処理槽と、
該中和処理槽で中和処理された中和処理物を加熱して乾燥させる乾燥槽と、を具備し、
上記攪拌装置は、硫酸ピッチの収容容器の直径の1/5〜1/2の長さを有する攪拌羽根を攪拌手段として備え、
上記中和処理槽は、攪拌・分散されたスラリー状の硫酸ピッチを投入する投入口と、中和処理された中和処理物を排出する排出口と、上面の中央部分に設けられた、中和反応により生じる酸性ガスを吸引して槽内から除去するための中和処理槽ガス吸引口とを有し、
上記乾燥槽は、中和処理物を投入する投入口と、乾燥された乾燥処理物を排出する排出口と、上面の中央部分に設けられた、乾燥処理により発生する酸性ガスを吸引して槽内から除去するための乾燥槽ガス吸引口を有することを特徴とする硫酸ピッチの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−259965(P2010−259965A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110496(P2009−110496)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【特許番号】特許第4494508号(P4494508)
【特許公報発行日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(509125121)
【Fターム(参考)】