説明

硫酸ラジカルを用いた水処理方法及び装置

【課題】
硫酸ラジカルの発生及び酸化能力を利用して、水媒体、特に難生分解性の水媒体を効率よく処理することができる方法及び装置を提供する。
【解決手段】
反応槽30内で水媒体31の温度を60℃以上374℃未満に調整し、水媒体31が液相を維持できる圧力下において、水媒体31に硫酸ラジカル源39を迅速に添加して水媒体31中で硫酸ラジカルを効率よく発生させ、硫酸ラジカルと水媒体31とを急速に撹拌混合させ、硫酸ラジカルと水媒体中のCOD成分とを反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ラジカルを用いた水媒体の処理に関し、特に芳香族有機化合物等の不飽和結合を有する難生分解性有機物質が含まれている水媒体の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水又は廃液は、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚液、汚泥混合液等の各種形態で(本明細書においてはこれらを総称して「水媒体」という)で、民間工業施設、公共施設、第三セクター施設等各種設備から排出されている。これらの排水又は廃液は、公共水域に放流する前に水処理を行って無害化する必要がある。排水又は廃液に対して最も一般的に行われている水処理方法は、生物処理であり、処理コストが比較的低いため、広く且つ昔から普及している。生物処理には大きく分けて好気性処理と嫌気性処理がある。前者は、主に水媒体の化学的酸素要求量(COD)が数十〜数千mg/L以下の場合に用いられ、後者は主に水媒体のCODが1000mg/L以上の場合に用いられている。また、し尿処理や下水処理などでは、脱窒素処理が好気性処理又は嫌気性処理単独では完結できないため、両者の特徴を生かして、好気性生物処理と嫌気性生物処理とを組み合わせて用いる場合もある。いずれにしても、生物処理は、処理対象とする水媒体が主に生分解性物質で構成されている場合に多く使われている。食品工場、飲料工場、ビール工場の各種排水又は廃液、焼酎粕、残飯、家畜糞尿、下水、し尿、バイオマス廃棄物のように自然起源の物質が多い場合には、生物処理の適用が可能な場合がある。
【0003】
しかしながら、化学物質またはペトロケミカル由来の化学的に合成された物質が水媒体中に含まれる場合や、下水処理場の有機性汚泥又はメタン発酵汚泥のように硬い細胞壁を持つ菌体が含まれている場合などのように、生分解性が低い物質を多く含む水媒体に対しては、生物処理を適用することが困難なことがある。また、リグニン、フミンなどのように、自然起源の物質であっても、分子内にベンゼン環を有する高分子などの不飽和結合を有する有機物質など、生物処理において用いられる微生物が消化できない物質を多く含む水媒体については、基本的に生物処理が困難である。また、生分解性物質が含まれる水媒体であっても、処理プロセスとして実用的な時間内では完結できない場合がある。更に、生分解性物質が多く含まれていても、水媒体中に微生物に対して毒性を示す物質又は生物阻害を起こす物質、例えば、アンモニア、ベンゼン、フェノール類などが少量でも含まれていると、生物処理がうまく働かないことがある。
【0004】
生物分解性が低く、且つ環境への汚染負荷が高い物質として、PCB類,ダイオキシン類、農薬であるDDT類などが良く知られている。これらは、生体内に蓄積し、特に食物連鎖によって濃縮されるため、頂点にいる人間への影響が大きく懸念されている。ベトナム戦争で使用された枯葉剤に含まれていたダイオキシン類は、胎児に対する催奇形性を有することが知見され、大きな社会問題にまで発展し、その製造が世界的に禁止となっている。これらの化学物質は環境ホルモン(内分泌撹乱物質、Endocrine Disruptor)としても作用し、微量でも人体に影響することが知られている。環境ホルモンは生体の恒常性、生殖、発生あるいは行動に関与する種々の生体内ホルモンの合成、貯蔵、分泌、体内輸送、結合、そしてそのホルモン作用そのもの、あるいはクリアランスなどの諸過程を阻害する性質を持つ外来性の物質である。特に問題になっている新たな脅威は、生物の存続を危うくする生殖や発育への深刻な影響である。生物の種類によって発現する障害は異なるが、雌では性成熟の遅れ、生殖可能齢の短縮、妊娠維持困難・流産などが見られ、雄では精巣萎縮、精子減少、性行動の異常等との関連が報告されている。具体例を列挙すれば、アメリカのアポプカ湖ではワニの雄の生殖器が小さくなり子ワニの数が減少(農薬DDTとその誘導体が原因)、イギリスのある川では魚に雌雄同体が多数発生(洗剤に関連するノニルフェノールが原因)、世界各地のイルカやアザラシの大量死(PCBが原因の一部と考えられる例がある)、日本でのイボニシなどの貝の雌の雄化による繁殖低減(防汚剤として船底用塗料に含まれるトリブチルスズなどが原因)、等々で各地域独特の弊害があぶり出されている。人間についても例えば精子数の減少が指摘され、デンマークでは1938年から1990年の間にほぼ半減というデータが示されている。
【0005】
環境ホルモンの作用について現在得られている知見は、以下のようなものである。生物のからだの中で正常なホルモンは、発生や発育などの諸段階において適宜特異的な生理活性を示し、ホルモンレセプターを刺激して遺伝子を活性化して必要な生体反応を起こす、いわば細胞という工場のラインを動かすスイッチの役目を果たしている。ところが、環境ホルモンは、レセプターに対してホルモン類似の働きをして、不必要なときに工場を稼働させたり、正常ホルモンの働きを阻害して必要なときに工場が稼働しないようにしてしまう。この結果、不要なものが過剰に生成されたり、必要なものが不足して、生体の正常な機能が果たせなくなる。中でも問題なのが、エストロゲン(女性ホルモンの一種)と類似した作用を示す化学物質が、エストロゲンレセプターと結合してタンパク質合成を引き起こしたり、他のホルモンバランスを乱したりすることである(ホルモン類似物質)。男性ホルモンのレセプターに結合して、男性ホルモンの働きを阻害するものもある(ホルモン遮断物質)。環境ホルモンはこのように「スイッチ」のようなものであるから、他の毒性に比べて極めて低い濃度でその影響が表れる。また、生物濃縮が大きく、食物連鎖の上位のものほどその影響が顕著になると考えられている。環境ホルモンの問題は、生物の生命システムを根幹から揺さぶる重大なものである。現在、環境ホルモンとして作用すると疑われている物質は60〜100種類あり、女性ホルモンとして作用するものだけでもジエチルスチルブストロール、エストラジオール、ゲニステイン、ノニルフェノール、オクチルフェノール、ビスフェノールA等がある。環境ホルモンとして作用する化学物質は、殺生物剤、殺虫剤、除草剤、殺菌剤、防カビ剤、プラスチック製造等の工業薬品として広範囲且つ多量に使用されている。これら環境ホルモン物質は生物処理では基本的に分解しにくい。
【0006】
なお、最近では、これらの化学物質に留まらず、難分解性の環境汚染の原因物質として考えられる化学物質は、日常生活により身近な医薬及び個人ケア商品(Pharmaceutical and Personal Care Product, PPCP)にまで及んでいる。鎮痛剤、抗生物質、避妊剤、ベータブロッカー、精神安定剤等として使用され、工業的に製造されている医薬品は、現在、3,000種類以上にも及んでいる。化粧品、デオドラント、石鹸、香水、等の個人ケア商品は欧州1国のみで55万トン以上製造されている。これらのPPCPに含まれる化学物質が環境に入るルートは、主に下水処理場であるとされている。PPCP類の化学薬品及び環境ホルモン物質の多くは、好気性処理の汚泥で分解されにくい。たとえば、アスピリン(バイエル社登録商標、アセチルサリチル酸)またはイブプロフェン(解熱鎮痛消炎剤)は、生物的好気性処理では分解に2〜5日の滞留時間を要する。抗生物質であるロキシスロマイシン、解熱鎮痛剤であるジクロフェナックは、5〜15日間の以上の滞留時間が必要である。また、てんかん治療薬として用いるカルバマゼピンは20日間の好気性生物処理でも分解されない。医薬品として用いられる多くの化学物質は、このように生物処理では分解されにくく、難生分解性物質である。
【0007】
さらに、難生分解性物質、易生分解性物質の含有割合のみを基準とした生物処理の可否に対する判断だけでなく、生物処理を行うこと自体が根本的に危険な水媒体もある。特に、医薬品製造工場や病院などで排出される抗生物質を含む排水・廃液などがその典型例である。一般に、生物処理では好気性菌又は嫌気性菌を培養して水媒体を浄化させる。これらの好気性菌・嫌気性菌の世代交代は数時間〜数日と非常に短いため、抗生物質が水媒体の処理場に流入し続けると、抗生物質に対する抗体を持った菌(耐性菌)が容易に発生し、増殖する可能性が大きい。耐性菌の例としては、人間に害を及ぼし、抗生物質が効かないMRSA(メチシリン・レジスタント・スタヒロコッカス・アウレウス;院内感染ブドウ球菌)が有名であり、病院内で抗生物質が乱用された結果、病院内で発生したと考えられている。したがって、上記のような排水を生物処理によって処理すると、水媒体の処理場が抗体を持った菌(耐性菌)の培養地になり、周辺環境にこれらの菌を放出する危険性がある。
【0008】
さらに、染色排水のように水媒体中に色素成分が含まれている場合にも、生物処理が極めて困難になることがある。色素成分は全般的に微生物に対して難生分解性であるため、色素成分を含む水媒体を生物処理にかけた場合、COD、BODが十分に除去できても、色度がほとんど取れないことがある。
【0009】
このような難生分解性の水媒体は、その処理を物理化学的方法などの他の手段にゆだねる必要がある。水媒体のCODが数百mg/L以下の場合には、オゾン、紫外線、過酸化水素、次亜塩素酸等を用いて処理できる場合がある。また、オゾン、過酸化水素と紫外線とを組み合わせ、OHラジカルを発生させてCOD成分を酸化分解する促進酸化法(AOP)が用いられる場合もある。AOPや紫外線を利用する方法は、特にダイオキシン等の微量の有機塩素化合物が含まれている水媒体の処理に対して、その効果を発揮することが知られている。また、過酸化水素と鉄イオン触媒を用いるフェントン反応によってCOD成分を分解する方法もあるが、フェントン反応の触媒として用いた鉄イオンは基本的にはスラッジとして排出されるため、CODが高い水媒体には不向きである。オゾン単独処理も、低濃度の色素成分、染料等が含まれている場合に効果的である場合がある。次亜塩素酸処理は、水媒体を周囲環境に排出する前に殺菌、消毒処理が必要な場合に適している。
【0010】
CODが低く、色度が高い水媒体では、粒状活性炭による吸着処理で色度成分がうまく除去できる場合がある。しかしながら、比較的高濃度のCOD成分が含まれていると活性炭の吸着性能が短時間で低下してしまう。活性炭のコストは、必ずしも安価ではなく、さらに使用済み活性炭自体の処分の必要があるため、色度成分の除去のために活性炭を使用できる難生分解性の水媒体は限定されてしまう。
【0011】
懸濁物質が多く含まれる水媒体では、凝集処理を行うと効果的に水処理ができる場合がある。ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸バンド等、Al系又はFe系の凝集剤を水媒体に添加すると、マイナスに荷電している懸濁物質が中和され、ファンデールワールス力によって懸濁物質同士が凝集する。凝集によりフロックが形成され、このフロックを沈殿法または濾過法で除去することによって水媒体を処理することができる。しかしながら、水媒体に完全に溶解している物質が多く含まれている場合などには、凝集沈殿又は凝集濾過などの処理法はほとんど効果を発揮しない。また、下水汚泥、メタン発酵汚泥等を脱水する前に凝集剤を添加して、汚泥から濾液を絞り出しやすくするような凝集剤の使い方もある。しかしながら、有機性汚泥の場合は菌体の細胞壁内に多量の水分が閉じ込められているため、凝集剤を用いて脱水汚泥を含水率80%以下に脱水するのは非常に困難である。したがって、凝集処理は水媒体の懸濁物質のみに効果があり、ほとんどの場合は最終処理ではなく前処理として利用されている。
【0012】
また、難生分解性水媒体の効果的な物理化学的処理方法として燃焼法がある。燃焼法では、水媒体を温度800〜900℃で加熱燃焼処理することによって、水は水蒸気に、有機物は炭酸ガスと水に、無機物は灰になるため、廃棄物を著しく減量化できる利点がある。燃焼法は、汚泥、濃厚廃液、その他各種の生物処理が適用できない水媒体の処理に用いられている。水媒体を燃焼法で処理する場合は、灯油、都市ガス等を燃料とするバーナーが設けられた焼却炉で行うか、或いは固形ゴミを燃やす焼却炉で発熱量の高いゴミと一緒に燃焼処理するのが一般的である。写真現像廃液、農薬工場廃液などの水媒体は、灯油バーナーが設けられた焼却炉で処理されている。
【0013】
しかしながら、燃焼法で水媒体を処理する場合には、水媒体中に可燃性物質が少なくとも約40%以上含まれていないと自燃は不可能であるという制約がある。この熱量不足分は、前記したように灯油などで補う必要があり、水媒体中に可燃性物質が少ないと補填燃料のコストが高くなる。また、廃プラスチック等の発熱量が高い廃棄物を焼却する炉で水媒体を噴霧燃焼させる場合には、炉温が下がるなどの原因によって不完全燃焼が起りやすくなるという問題がある。さらに、近年、廃棄物を燃やすこと自体に対して、焼却炉が存在する地域住民の了解が得られず、風当たりが大変強い。ダイオキシン類対策特別措置法などの法規制により小規模焼却炉の運転が中止されるようになってきており、新規焼却設備の設置は法的に規制されており、地域住民の了解も得にくい。焼却炉を維持、運転するためには、排ガス中のダイオキシン濃度等の法定検査を行い、排出基準以下であることを所轄監督所に届け出る必要がある。この結果、不完全燃焼、高温燃焼などの焼却運転管理を徹底することが厳しく求められ、中小規模の焼却炉の維持管理は大変困難となってきている。したがって、小規模焼却炉を廃止して、廃棄物を遠隔輸送し、集中して大規模装置で焼却を行う傾向にある。大規模焼却炉では、運転制御管理、排ガス制御管理が比較的徹底しやすいが、大掛かりな排ガス処理設備の設置、焼却灰や飛灰の処理コスト、運搬費などが原因で、必ずしも処理コストは安くならない。
【0014】
焼却法のように気相中でCOD成分を無機化するのではなく、水中で難分解性の水媒体を無機化する方法として、湿式酸化(ジンマーマンプロセス)または超臨界水酸化がある。前者は200℃〜300℃、後者は400℃〜800℃の温度且つ高圧で酸化分解してCOD成分を酸化分解させる方法である。湿式酸化では水媒体中のCOD成分濃度が1%(10,000mg/L)以上、超臨界水酸化では約5%以上であると、反応に必要な熱が自然に供給されるため、水媒体中の可燃性物質の含有量は焼却法より少なくて済むとされているが、CODが数百〜数千mg/L以下の水媒体を処理するには、いずれの方法も不向きである。
【0015】
近年、水媒体の新たな物理化学的処理法として、電極反応による電気化学的水処理法が注目を集めている。電気化学的水処理法には、通電すると処理を開始し、通電を止めると処理が停止するという運転のし易さ、薬品が必要ではないこと、小型装置で処理できること、電子のみが試薬の代わりを務めること、常温常圧で処理ができること、などのいわゆるグリーンケミカル的なイメージが定着しつつある。
【0016】
水媒体に塩素イオンが含まれていると、DSA(Dimensionally Stable Electrode)などの貴金属電極で次亜塩素酸を発生させることが可能であり、この次亜塩素酸によって水媒体に含まれているアンモニア、色素成分を分解できる場合がある。水媒体中のアンモニアは、次亜塩素酸とのブレークポイント反応により窒素ガスにまで無機化することができる。しかしながら、これらの貴金属のDSA電極では、アンモニア、色素成分以外のCOD成分を分解する効果はほとんどない。そこで、酸素発生過電圧が高い二酸化鉛などの電極を用いる電気化学的水処理も提案されている。これらの電極では、直接電極表面でCOD成分の分解が起り、無機化させる効果があるようである。しかしながら、これらの電極を用いる電気化学的処理によるCOD成分の分解の効率は必ずしも高くなく、また電極が重金属で構成されているため、電極構成重金属が処理水へ溶出することが懸念される。
【0017】
近年、導電性ダイヤモンドを用いた電気化学的水処理法が注目されている。ダイヤモンドに導電性を持たせ、電極として用いて電気化学的反応を起こさせた場合にCOD成分を除去する効果があることは、約10年前に報告されている(特許文献1)。導電性ダイヤモンド電極は、二酸化鉛などの電極とは異なり、成分が炭素であるため、水媒体中に溶出しても重金属の溶出の問題がなく、また電極表面で発生するOHラジカルによってCOD成分の分解効率は非常に高い。これらの利点にもかかわらず、従来の導電性ダイヤモンド電極を用いた水媒体の電気化学的処理を難生分解性水媒体の処理プロセスとして実用化するためには多くの課題がある。
【0018】
導電性ダイヤモンド電極を用いた電気分解による難生分解性水媒体の処理においては、水媒体中に完全に溶解しているCOD成分の濃度が高い間、特に溶解性CODが数千mg/L以上の場合には、ほぼ100%の電流効率でCOD成分が炭酸ガス、水、窒素等へ無機化される。しかし、水媒体中のCODが低下すると、この電流効率は著しく低下する。COD成分が無機化されるためには、水媒体中のCOD成分が導電性ダイヤモンド電極の表面で発生しているOHラジカルまで到達する必要がある。OHラジカルは導電性ダイヤモンド電極の表面で連続的に発生しているが、寿命が短いため、瞬時に電極表面から溶液中に放出されて、いわゆる溶液反応的な酸化分解反応を起こすには至らない。すなわち、電極表面でしかCOD成分の無機化反応は進行しない。したがって、水媒体中のCODが低くなると、電極表面への物質移動が律速となり、COD成分分解の電流効率が大きく低下する。この場合、機械的に水媒体を撹拌するなどしてレイノルズ数(流れが層流であるか乱流であるかを示す無次元数)を高くしても、この物質移動律速を解消するには限界があり、COD成分分解の電流効率を維持することは極めて困難である。COD成分分解の電流効率が下がると、処理に必要な電力は大幅に増大するため、処理コストが高くなるという問題が発生する。
【0019】
さらに、物質移動律速になると、導電性ダイヤモンド電極の表面で発生するOHラジカルが無駄に消費されることになる。つまり、導電性ダイヤモンド電極の表面において、COD成分の分解ではなく、OHラジカルが自己分解などを起こして酸素ガスが発生し始める。ここで発生する酸素ガスはCOD成分とはほとんど反応せず、少なくとも一般的な電極の使用条件下である150℃以下ではほとんど反応性がない。この場合、陽極反応の生成物は炭酸ガスではなく酸素ガスとなる。
【0020】
上記で説明した物質移動律速が起こる状態で導電性ダイヤモンド電極を用いた電解槽の運転を継続すると、導電性ダイヤモンド電極自体の耐久性に関わる更に深刻な問題も発生し得る。水媒体中のCODが高く、COD成分の電極表面への物質移動律速が起っていない間は、電極表面で発生したOHラジカルはCOD成分の分解によって消費されるが、COD成分の電極表面への物質移動律速が起こってCOD成分が導電性ダイヤモンド電極に届かなくなると、電極表面で発生したOHラジカルは最終的に酸素ガスになる。しかし、OHラジカルが酸素ガスに変換される前に、まだ活性があるOHラジカルは導電性ダイヤモンド電極自体と反応する可能性がある。導電性ダイヤモンド電極で発生するOHラジカルは、ほとんどの有機物を酸化分解できるので、安定性が高いダイヤモンドの炭素(sp)とまったく反応しないとは断言できない。すなわち、CODが低い水媒体を導電性ダイヤモンド電極処理すると、導電性ダイヤモンド電極が著しく劣化する可能性がある。
【0021】
特許文献2には、このようなダイヤモンド電極と過硫酸を組み合わせて水媒体を処理する方法が提案されている。水媒体にオキソ酸を添加して、これをダイヤモンド電極等が設置されている電解槽で処理すると、電解反応でオキソ酸はペルオキソ酸(過硫酸はペルオキソ酸の1種類)に変換され、このペルオキソ酸がCOD成分を分解する。しかしながら、電解槽内での過硫酸によるCOD成分の酸化分解条件は必ずしも効率がよいものではなく、前記した電極表面への物質移動律速の問題は解消されない。この場合、オキソ酸の電極表面への物質移動律速があり、この物質移動律速を解消して効率的なCOD成分の除去を行うにはオキソ酸を多量に添加する必要がある。また、無隔膜電解槽であると、せっかく陽極で酸化剤として生成したペルオキソ酸が陰極で還元消費されてしまい、COD成分の酸化に作用しない可能性がある。隔膜電解槽であると、この陰極でのペルオキソ酸の還元は回避できるが、隔膜材料が過硫酸に直接暴露されるため隔膜の劣化が著しくなる。たとえ、耐久性があるとされているフッ素系の隔膜(たとえばNafion(デュポン社、登録商標))でも、過硫酸の酸化能力が大きいので、短時間で劣化する可能性が高い。また、過硫酸による劣化のみではなく、前記したように廃水処理に隔膜を用いる場合には隔膜劣化の因子が数多く存在する。さらに、ペルオキソ酸生成とCOD成分の分解とを同時に行うには温度的な矛盾がある。オキソ酸から過硫酸を電解で生成させる場合、特許文献2の記載のように適用温度範囲は5〜50℃であり、比較的低温である。しかし、後述するように、過硫酸がCOD成分を分解するために有効な温度は60℃以上である。電解槽の温度を高くすると、生成した過硫酸が自己分解するため、過硫酸の生成効率が著しく低下する。5〜50℃の温度では、過硫酸はCOD成分とあまり反応しないかあるいは非常に遅い反応をするだけである。
【0022】
特許文献3には、超臨界温度(374℃以上)、好ましくは500〜800℃において、酸化剤として酸素ガスを用い、酸化反応開始促進剤として過硫酸を添加して、水媒体を超臨界水により酸化する方法が提案されている。反応圧力は、臨界点圧力(22MPa)以下又は以上でもよい。水媒体が酸化分解しやすい物質を含む場合には25bar(約2.5MPa)でも処理が可能であるとされている。超臨界水による酸化は、極めて酸化分解能力が高いプロセスであり、水媒体の汚濁物質を完全分解するのに有効である。なお、反応温度は極めて高温(374℃以上、好ましくは500〜800℃)であり、実用的なプロセスは必ずしも単純ではない。超臨界水による酸化で起る装置腐食の問題や、過硫酸の分解物である硫酸塩又は水媒体にもともと溶解している塩類等が不溶性になり析出する問題等を回避するために、装置設計上の工夫及びエンジニアリング的工夫が必要である。処理装置の初期コスト及びランニングコストも必ずしも安価ではない。たとえば、水媒体を熱交換器で超臨界温度まで直接加熱すると塩類が析出するため、配管閉塞の問題を起こす。通常は、水媒体とは別途に純水などを加熱して超臨界水を製造し、これを反応槽の中で水媒体と混合させることが必要となる。また、反応槽からの排水は亜臨界領域(300〜374℃)にあり、装置腐食が激しくなるため、排水をクエンチング(急激冷却)することが必要である。このため、反応槽からの排水を熱交換器などに再循環させて熱回収を行うことが困難であり、水媒体を反応温度まで加熱するために必要なエネルギーの大半は外部から供給することが必要である。
【0023】
特許文献4には、過硫酸を用いたCOD成分の酸化のより好ましい条件が開示されている。また、特許文献4には、過硫酸または過硫酸塩を添加して、60℃〜90℃で水媒体を処理する方法が提案されている。過硫酸塩、たとえば過硫酸カリウム又は過硫酸ナトリウムは、常温では安定であり、長期保存が可能である。さらに市販されているものでも安価である。また塩素系酸化剤、たとえば次亜塩素酸のように有機塩素化合物の発生の問題が生じない。反応後の過硫酸は硫酸イオンとなるため、特に有害ではない。なお、特許文献4に記載の方法においては、あくまでも過硫酸の酸化作用を用いた処理であり、処理が効率化されていないため、反応時間が1、2時間必要である。したがって、水媒体の大量処理を行うためには大きな反応槽が必要となる。また、過硫酸を硫酸ラジカルに変換させて、硫酸ラジカルで水媒体を処理できる条件ではない。また、実際に水媒体の処理として使用するための具体的な装置が提案されていない。
【0024】
特許文献5には、水媒体に含まれている約1ppmの微量TOCを低下させるために過硫酸塩を添加して、90℃〜170℃の加熱分解処理により有機物を除去する、超純水の製造方法が提案されている。しかし、水媒体に含まれている有機物濃度がこのように微量であると、硫酸ラジカルの寿命が短いため、有機物との接触確率が低く、水媒体を効率よく処理することが困難である。ここでは過硫酸のみの酸化力でTOCが除去されおり、硫酸ラジカルによるTOC除去は一切開示されていない。
【0025】
特許文献6には、硫酸ラジカル源を添加して、紫外線照射により硫酸ラジカルを発生させて水媒体を処理する方法が開示されている。水媒体が用水、純水、水道水のように不純物が比較的少ない場合は、紫外線透過率も高く、効率的な水媒体の処理である。しかし、排水の場合には紫外線の一般的な透過率は1cm以下と非常に少なく、必ずしも効率的な硫酸ラジカルの発生及び硫酸ラジカルと有機物との反応が進行しないという問題がある。
【特許文献1】USP5,399,247号明細書
【特許文献2】特開2004−8954号公報
【特許文献3】USP5,232,604号明細書
【特許文献4】特開平6−99181号公報
【特許文献5】WO94/18127号国際公開パンフレット
【特許文献6】特開平3−188987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上述のように、COD成分又は難生物分解性物質を含有する水媒体を処理するために数々の方法が提案されているが課題も多い。
電極反応を用いた水媒体の処理方法は、水媒体のCODが低いと電極表面への物質移動律速が起こり、COD成分分解の電流効率が著しく低下するため、有効なCOD除去率を得るには多量の電気エネルギーを必要とし結果的に電気代が高くなる、という問題がある。
【0027】
電極反応により過硫酸を生成させ、電解槽に水媒体を通過させて処理する方法は、過硫酸の生成反応条件と過硫酸がCOD成分と反応する条件とが一致せず、必ずしも効率的な方法ではない。
【0028】
過硫酸を反応開始剤として用いる超臨界水による酸化方法は、超臨界水による酸化プロセスを改良するものであるが、もともと超臨界水による酸化プロセスが持っている特徴を一変させるほどのものではない。超臨界水による酸化プロセスは少なくとも374℃以上の高温反応(好ましくは500℃〜800℃)であるため、水媒体に可燃性物質としてCOD成分が5%(50,000mg/L)以上含まれていないと自燃できない。CODが低い(たとえば数千mg/L以下)の水媒体において超臨界水による酸化プロセスを進行させるためには、水媒体を反応温度(374℃以上、好ましくは500℃〜800℃)まで加熱するために要するエネルギーを外部エネルギーとして供給する必要がある。
【0029】
また、従来の過硫酸を添加して溶液反応にて水媒体を処理する方法では、あくまでも過硫酸の酸化能力を利用して水媒体を処理しており、効率が悪い。そのため、処理に比較的長い時間が必要である。過硫酸は、硫酸ラジカルとは異なり、オゾンの酸化能力程度の中位の酸化能力を有するにすぎない。すなわち、過硫酸の酸化能力に頼っている水媒体の処理方法では、オゾンを用いた場合とあまり変わらない。硫酸ラジカルを効率よく発生させて、水媒体を処理するものではない。
【0030】
紫外線を用いて硫酸ラジカルを発生させて水媒体を処理する方法は、排水や廃液に対する紫外線の透過率が低いことから、硫酸ラジカルの発生効率に問題がある。
また、硫酸ラジカルを発生させて水処理を行う実用的な装置は開発されていない。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、各種反応操作条件を調べ、鋭意研究を行った結果、水溶液、スラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁液、濃厚液、汚泥混合液等の各種形態を採る排水や廃液などの水媒体中で硫酸ラジカルを効率的に発生させ、該硫酸ラジカルを効率よく用いる水媒体の処理方法及び装置の発明に至った。
【0032】
本発明は、水媒体中に硫酸ラジカルを効率的に発生させて、水媒体中の難生分解性物質などのCOD成分を硫酸ラジカルと効率的に反応させることにより、COD成分を完全酸化分解して水媒体を処理するか、もしくは硫酸ラジカルを重合開始剤として作用させて難生分解性物質を重合させた上で生成する固体を除去することにより、水媒体を処理する方法及び装置を提供する。
【0033】
本明細書で用いる「水媒体」とは、水が主成分(好ましくは80wt%以上)である媒体を意味し、スラリー、エマルジョン、水溶液等の形態は限定しない。また水媒体に含まれる水以外の成分は、有機物、無機物、塩類等のいずれであってもよい。
【0034】
本明細書において「COD成分」とは、化学的酸素要求量(COD)に寄与する被酸化性物質を意味し、通常一般的な理解による有機物のみならず、難生分解性物質をも含む。
一般的に且つ本明細書において、「難生分解性物質」とは生物的に分解困難な物質を指す。生分解性物質または自然起源の物質が含まれていても、必ずしも生物処理単独では水媒体の実用的な処理ができない場合がある。
【0035】
本明細書において「難生分解性の水媒体」とは、難生分解性物質、毒性物質、生物処理に対して阻害性の物質が含まれている水媒体に限らず、水処理プロセスとして前記したような生物処理が適用困難な水媒体一般を指す。また、難生分解性の水媒体の形態としては、水溶液、固形物が含まれるスラリー、エマルジョン、ミセル、懸濁質、濃厚液、汚泥でもよい。具体的には、ペトロケミカルを原料とする化学的に合成された物質が含まれる場合や、有機性汚泥、メタン発酵汚泥のように硬い細胞壁を持つ菌体が含まれている場合などのように、生分解性が低い物質を多く含む場合には、難生分解性の水媒体となる。更に、水媒体中に、微生物に対して毒性を示す物質や生物阻害を起こす物質、例えばアンモニア、ベンゼン、フェノール類が含まれている水媒体も難生分解性の水媒体である。また、酢酸や糖分が高濃度で含まれている水媒体も、微生物が繁殖できないため、難生分解性の水媒体と言うことができる。更に、色素成分が含まれている水媒体なども難生分解性の水媒体であり、更には、抗生物質等が含まれているPPCP工場排水も生物処理が困難であり、本発明で言う「難生分解性の水媒体」に含まれる。
【0036】
このような定義下の「難生分解性の水媒体」もしくは「COD成分含有水媒体」としては、下水処理場や水処理場の汚泥混合液;メタン発酵プロセス等の各種汚泥類;石油精製工場や石油製品工場の排水・廃液;化学薬品工場の排水・廃液;医薬品製造工場や病院の排水・廃液;半導体プロセス(フォトレジスト工程、洗浄工程、鍍金工程)の各種工程排水・廃液;写真現像廃液;機械加工工場の各種使用済み切削油(油性、水溶性)廃液;塗料製造工程の洗浄水・排水;製缶工場、車体工場、板金工場の塗装工程洗浄水・排水;農薬製造工程の排水・廃液;染色排水;染料工場排水;発電所のイオン交換再生排水(コンデミ排水);有機物やアンモニアが含まれる鍍金工場の鍍金廃液や鍍金洗浄水;などが例として挙げられるが、これらに限定されず、これら以外にも生物処理が困難な水媒体やCOD成分を含有する水媒体は数多くある。
【0037】
なお、水媒体の初期CODが1mg/L以下であると、硫酸ラジカルとCOD成分との接触効率が低い。したがって、本発明により有効に処理できる水媒体は、初期CODが10mg/L以上であることが好ましく、より好ましくは初期CODが20mg/L以上のCOD成分含有水媒体である。
【0038】
本発明は、水媒体中のCOD成分を硫酸ラジカルとの反応によって処理するために、水媒体に添加された硫酸ラジカル源が自己分解せず、硫酸ラジカルを効率的に発生させることが必要である。また、硫酸ラジカルは非常に活性に富む物質であり、直ちに反応して消滅してしまうので、水媒体への添加後、速やかに水媒体中のCOD成分と反応させることが必要である。
【0039】
硫酸ラジカル発生機構及び硫酸ラジカル源自己分解機構との対比を硫酸ラジカル源として過硫酸イオンを用いた場合を例にして説明する。
過硫酸イオンからの硫酸ラジカルの発生は、熱や紫外線などの刺激によって進行し、下記式(1)で表すことができる。
【0040】
【化1】

このときの硫酸ラジカルの酸化還元電位は、以下のようになる。
【0041】
【化2】

一方、過硫酸イオンの自己分解及びそのときの酸化還元電位は、下記式(3)及び(4)で表すことができる。式(3)は水媒体が酸性の場合であり、式(4)は水媒体が中性又はアルカリ性の場合である。
【0042】
【化3】

比較のために一般的な酸化剤の酸化還元電位を示すと、以下のようになる。
【0043】
【化4】

これらの式より、硫酸ラジカルは、オゾン(2.07V)より遥かに酸化力が高く、最も強力な酸化剤と考えられているOHラジカル(2.8V)の酸化能力にほぼ等しいことが明らかである。硫酸ラジカルは、水媒体に含まれているCOD成分を炭酸ガス、窒素及び水の無機成分にまで分解することができる。COD成分を有機物(R)として表すと、硫酸ラジカルとの反応は、以下のように表すことができる。
【0044】
【化5】

COD成分が有機塩素化合物、または他の有機ハロゲン化合物、有機硫黄化合物或いはアミンなどの有機窒素化合物である場合は、これらの有機ハロゲン、有機硫黄及び有機窒素は、それぞれ、ハロゲンイオン、硫酸イオン及び窒素ガスに変換され、無機化することができる。
【0045】
一方、上記酸化還元電位の値から、過硫酸イオン(S2−)自体は中位の酸化能力を有し、オゾンの酸化能力に近いことが明らかである。水媒体が酸性の場合にはオゾンより酸化能力が若干高く、水媒体が中性またはアルカリ性ではオゾンより低くなる。しかしながら、過硫酸の自己分解により生成する硫酸水素イオン(HSO)及び硫酸イオン(SO2−)は、ほとんど酸化能力がない。
【0046】
このような硫酸水素イオンまたは硫酸イオンは、水媒体へ添加する際に過硫酸イオンに熱エネルギーが与えられることにより式(2)及び(3)に示すように発生する。すなわち、水媒体への過硫酸イオンの添加速度を緩やかにして時間をかけて添加すると、水媒体と完全に混合する前に熱が伝わり過硫酸イオンが硫酸水素イオン又は硫酸イオンに分解してしまうので、自己分解が優先され硫酸ラジカルの発生が抑制されるだけでなく、酸化能力をも失う。同様に、過硫酸イオンを水媒体に添加した後、水媒体の加熱時間が長いと、過硫酸イオンが硫酸水素イオン又は硫酸イオンに変換してしまい、この場合も硫酸ラジカルの発生が抑制される。さらに、過硫酸イオンとCOD成分との反応は比較的遅い反応であるため、たとえ過硫酸イオンが自己分解せず過硫酸イオンのまま残存しても、この過硫酸イオンはCOD成分の酸化反応に有効に作用しない。
【0047】
一方、式(9)で示される硫酸ラジカルとCOD成分(有機物)との反応は非常に早い反応である(温度条件が100℃では反応時間は10分程度であるが、150℃では1分程度となり、温度を180℃までに上昇させると数秒オーダーとなる)。硫酸ラジカルと有機物との反応速度には選択性があり、硫酸ラジカルと水との反応速度と比較して約一桁高い。しかし、水媒体中に存在する水分子は、有機物の分子よりも遥かに多いため、硫酸ラジカルと水分子の接触頻度は無視できないほどに高く、式(10)で示す水との反応が進行する。
【0048】
【化6】

そこで、水媒体と硫酸ラジカル源とを急速撹拌混合することにより、寿命が非常に短い(1ミリ秒以下)硫酸ラジカルを効率よく短時間内に有機物と接触させることができ、式(9)に示す反応を選択的に進行させることができる。
【0049】
以上のように、水媒体中で硫酸ラジカルを効率的に発生させるためには、水媒体への添加前の硫酸ラジカル源に熱エネルギーを加えず、水媒体への添加後には直ちにCOD成分(有機物)と接触させる必要がある。本発明では、水媒体への硫酸ラジカル源の添加を迅速又は瞬時に行うことにより硫酸ラジカル源に熱エネルギーが与えられることを回避し、硫酸ラジカル源が自己分解しない温度条件に水媒体の温度を維持しながら硫酸ラジカル源と水媒体とを急速撹拌混合することにより、硫酸ラジカルを効率的に発生させ、硫酸ラジカルと水媒体中の有機物との反応を進行させる。
【0050】
具体的には、本発明によれば、COD成分含有水媒体の温度を60℃以上374℃未満に調整し、調整された温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持し、該水媒体に硫酸ラジカル源を添加して急速撹拌混合することにより硫酸ラジカルを発生させ、該硫酸ラジカルとCOD成分とを反応させることを特徴とする水媒体の処理方法が提供される。
【0051】
本発明において、温度調整されたCOD成分含有水媒体への硫酸ラジカル源の添加は、迅速に(短時間に)又は瞬時に理想的にはパルスショットで行うことが好ましく、例えばバッチ処理の場合には1m/s以上の流速で行うことが好ましい。なお、添加する硫酸ラジカル源を一度に全量添加することはとくに意図していない。たとえば、過硫酸ナトリウムの飽和水溶液(549g/L)1LをpH調整及び温度調整された1mの水媒体に添加する場合、0.5Lの過硫酸水溶液を最初に添加して、撹拌混合し、その後残り0.5Lの過硫酸水溶液を添加してもよい。特に、水媒体が粘性を有する場合には、硫酸ラジカルの酸化反応によって炭酸ガスが発生すると発泡することがあるので、硫酸ラジカル源の添加量を小分けにして、発泡を抑えながら添加することが好ましい。
【0052】
さらに、硫酸ラジカル源を水媒体に添加する直前に硫酸ラジカル源を冷却することが好ましい。硫酸ラジカル源の冷却は、二重管式冷却器など公知の水冷装置などを用いて行うことができる。
【0053】
本発明において、硫酸ラジカル源は、COD成分含有水媒体に添加されるや否や直ちに、COD成分含有水媒体と急速撹拌混合されることが好ましい。より好ましくは、硫酸ラジカル源とCOD成分含有水媒体との急速撹拌混合は、COD成分含有水媒体の流動状態を乱流にし、2,000以上のレイノルズ数が達成される状態で行われる。さらに、バッチ処理の場合には、COD成分含有水媒体を2,000以上のレイノルズ数となる乱流状態にまで予め撹拌しながら、硫酸ラジカル源を添加することが好ましい。
【0054】
本発明において用いることができる硫酸ラジカルは、各種硫酸ラジカル源から発生する硫酸ラジカルでよい。現在のところ、硫酸ラジカル源としては、過硫酸イオンが一般的に用いられているが、将来的に他の硫酸ラジカル源が発見されれば、それらの硫酸ラジカル源も利用できることは言うまでもない。過硫酸イオンとしては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸リチウムまたは他の過硫酸塩の形態のものを制限なく用いることができる。また、ペルオキソ二硫酸イオン又はその塩だけでなく、ペルオキソ一硫酸イオン又はその塩を含んでもよい。
【0055】
本発明において、硫酸ラジカル源は、飽和水溶液の形態で添加されることが好ましく、飽和水溶液の形態で添加されることがより好ましい。硫酸ラジカル源を例えば過硫酸塩粉末の状態で直接水媒体に添加すると、水媒体に溶解するまでに時間がかかり、水媒体と完全に撹拌混合される前に過硫酸イオン(硫酸ラジカル源)が加熱されてしまう。すると、過硫酸イオン(硫酸ラジカル源)の自己分解が選択的に起こり、硫酸ラジカルを効率よく発生できない。したがって、硫酸ラジカル源は水溶液にしておくことが好ましい。特に、過硫酸又は過硫酸塩の飽和水溶液の形態、例えば過硫酸ナトリウム飽和水溶液などの形態で添加されることが好ましい。一方、硫酸ラジカル源の水溶液濃度が飽和濃度以下で低濃度であると、硫酸ラジカル源水溶液の所要量が多くなる。そのため所定温度に加熱されている水媒体に低温の硫酸ラジカル源水溶液を大量に添加すると、水媒体の温度が著しく低下し、硫酸ラジカルの効率的な発生が阻害される。また、添加する硫酸ラジカル源水溶液の量が多くなると、硫酸ラジカル源の添加に時間がかかり、硫酸ラジカル源の自己分解が起きやすくなる。硫酸ラジカル源を飽和水溶液の形態とすることにより、COD成分含有水媒体への添加及び水媒体との急速撹拌混合を容易に行うことができ、また所定温度に調整されている水媒体に添加した際の水媒体の温度低下を最小限に抑制することができる。
【0056】
本発明において、硫酸ラジカル源は、例えば濃硫酸などの濃厚な過硫酸原料液から電気化学的方法(電解法)によって調製したものを用いることができる。電解法は、公知の方法を用いることができ、例えば特開2001−192874号公報などに記載の電解法を用いてもよい。硫酸ラジカル源の電解法による調製は、現場で行うことが好ましい。ただし、電解法による硫酸ラジカル源の調製条件と、硫酸ラジカルと水媒体との反応条件は異なるので、同一の反応場で行うものではない。
【0057】
本発明では、COD成分含有水媒体の温度を60℃〜374℃(水媒体の臨界点温度以下)に調整し、調整された温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持する。超臨界状態では水は液体ではなく、高密度なガス状態(超臨界流体)になり、過硫酸イオン、硫酸水素イオンなどのイオン性物質は塩として析出し、いわゆる水溶液反応が進行しない。なお、厳密には、水媒体の臨界点は水媒体に含まれている物質によって変動するが、本発明が意図する目的の範囲内では、水媒体の少なくとも80wt%が水で構成されているので、水媒体の臨界点は水の臨界点(すなわち、温度374℃、圧力22MPa)としても支障はない。
【0058】
水媒体の温度を60℃未満とすると、硫酸ラジカルの発生効率及びCOD成分の分解率が低くなり、好ましくない。温度が高いほど硫酸ラジカルの発生効率及びCOD成分の分解率が高くなる。しかし、水媒体の温度を高温にすると、飽和蒸気圧が高くなるので、液相を維持するために大きな加圧を要する(例えば、180℃以下では1MPa以下、250℃では約4MPa、374℃では22MPaの加圧が必要)。また、150℃以上とすると、硫酸ラジカルとCOD成分の分解は秒オーダーで完結できる。さらに、1MPa以下の圧力であれば、炭酸ガスなどのガス成分が発生しても、日本における高圧ガス保安法の適用範囲外となり、装置製作費用をより削減できる。したがって、水媒体の温度調整は、好ましくは90℃〜374℃の範囲、より好ましくは100℃〜250℃の範囲、さらに好ましくは150℃〜180℃の範囲とする。日本での実施を考慮すれば、実用的には水媒体の温度を170℃〜180℃の範囲に調整することが最適である。
【0059】
また、水媒体の温度を90℃以上374℃未満に調整すると、硫酸ラジカルは下記の連鎖反応群により有機物ラジカル、すなわち活性化された有機物を生成することができる。
【0060】
【化7】

は不安定であり、活性が低い酸化剤、たとえば酸素とも容易に反応する。
【0061】
【化8】

これらの式から明らかなように、硫酸ラジカルは連鎖反応のトリガーとなり、酸化されるべき有機物(COD成分)を活性化する。活性化された有機物は、酸化反応を受けやすくなるので、処理すべき水媒体中の酸化分解に要する硫酸ラジカルの量は、完全酸化するのに必要な化学量論量未満とすることができる。なお、硫酸ラジカル関与の連鎖反応を開始させるための硫酸ラジカル源の所要量は1%以上、より好ましくは5%以上であるが、少量で足りる。
【0062】
一方、水媒体の温度を60℃以上90℃未満に調整すると、硫酸ラジカルの発生効率は低下する。特に、水媒体のpHが中性又はアルカリ性に調整されている場合には、硫酸ラジカルの発生または硫酸ラジカルとCOD成分の反応が効率的に進行しない。しかし、水媒体のpHを酸性に調整することにより、下記式(15)〜(16)で示す反応が進行し、有機物を分解することができる。
【0063】
【化9】

ここではプロトン(H)は触媒の働きをしていると考えられる。90℃未満の低い温度で水媒体を処理する場合には、このプロトンの触媒の助けが必要である。反応効率の面から考察すれば水媒体のpHは1以下が好ましいが、公共水域に放流するためには反応後に処理水を中和することが必要となり、アルカリ性物質の所要量が多くなるため、得策ではない。式(16)に示すように、硫酸ラジカルは有機物との反応で最終的に硫酸になるので、処理後の水媒体のpHはさらに低下する。よって、処理前の水媒体のpHは弱酸性域に調整すればよく、pH3程度に調整することが好ましい。なお、60℃〜90℃での反応であると、特に圧力を維持する必要性がないため、ガラス、石英、あるいはテフロン(デュポン社、登録商標)などのプラスチックが反応槽材料として使えるため、pHが酸性であってもとくに腐食の問題を心配する必要性がなくなるという利点がある。
【0064】
したがって、硫酸ラジカルを効率的に発生させるには、水媒体のpHが中性からアルカリ性域にある場合には水媒体の温度を90℃以上374℃未満の温度に調整し、pHが酸性域にある場合には水媒体の温度を60℃以上90℃未満に調整することがより好ましい。
【0065】
また、本発明においては、酸素、空気、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸及びこれらの組み合わせからなる群より選択される一種類以上の酸化剤をさらに添加することが好ましい。上述の式(11)〜(14)に示すように、硫酸ラジカルは、水媒体中の有機物を活性化して酸化能力の弱い酸化剤との反応を容易にする。酸素、空気、オゾン、過酸化水素及び次亜塩素酸は、硫酸ラジカル、OHラジカルのような寿命が短い(1秒以下)ラジカルではなく、長い半減期を有する(たとえば、比較的短いオゾンの半減期でも常温で約30分である)。酸素、空気は温度的にも安定しているため、水媒体の温度を調整する前に、水媒体に溶存或いは圧入しておくことができる。ただし、オゾン、過酸化水素及び次亜塩素酸は熱によって自己分解するので、温度調整後の水媒体に添加することが好ましく、硫酸ラジカル源と混合して添加してもよいし、別途に供給してもよい。酸素、空気、オゾン等の酸化剤は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。たとえば、PSA(圧力スィング吸着)酸素から気相放電によりオゾンを発生させると、オゾン製造装置の出口でオゾンはすでに酸素中に含まれているので、この混合気体を酸化剤として用いることができる。また、過酸化水素と次亜塩素酸の混合溶液を調製して用いることもできる。
【0066】
特に、CODが500〜1,000mg/L以上である水媒体の場合には、上述の酸化剤を添加することが経済的に有利である。酸素、空気、オゾン等の安価な酸化剤を併用する場合、これらの酸化剤の添加量を水媒体に含まれているCOD成分に対して化学量論量以上とし、硫酸ラジカル源の添加量を化学量論量未満とすることが好ましい。酸化剤と併用する場合には、好ましい硫酸ラジカル源の添加量は化学量論量の60%以下であり、より好ましい添加量は化学量論量の50%以下である。
【0067】
例えば、硫酸ラジカルのみでCOD成分をすべて酸化分解する場合の反応は、COD成分としてフェノール、硫酸ラジカル源として過硫酸ナトリウムを例とすると、式(17)で表すことができる。
【0068】
【化10】

実際には前記式(1)で示した過硫酸イオンが硫酸ラジカルを生成し、この硫酸ラジカルがフェノールと反応する中間反応が存在するが、全体反応のマスバランスを示すのが目的なのでここでは省く。1モルのフェノールを完全に酸化分解させるのには硫酸ラジカル源である過硫酸ナトリウムが14モル必要である。フェノールの分子量が94、過硫酸ナトリウムの分子量が238であることから、フェノール1gに対して35.4gの過硫酸ナトリウムが必要である。言うまでもなく、これらの量は式(17)にフェノールと過硫酸ナトリウム(硫酸ラジカル源)から算出したものであり、COD成分及び硫酸ラジカル源を他の物質に変更すれば、これらの量論計算の数値も変わる。CODで考えると、CODを1g完全分解するのに約15gの過硫酸ナトリウムが必要である。水媒体のCODが高くなると、特に硫酸ラジカル源が多量に必要であり、薬剤のコストが高くなることは明らかである。たとえば、水媒体のCODが10,000mg/Lであると、この水媒体を1m処理するのに約150kgの過硫酸ナトリウムが硫酸ラジカル源として必要になる。しかし、酸化剤を併用することにより、過硫酸ナトリウムの所要量を90kg(60%)〜75kg(50%)に削減することができる。
【0069】
一方、CODが500〜1,000mg/Lよりも低い水媒体の場合には、硫酸ラジカルのみで完全分解を行っても硫酸ラジカル源はさほど大量に必要ではないから、酸化剤を添加しなくてもよい。
【0070】
本発明の別の態様では、COD成分含有水媒体の温度を60℃以上374℃未満とし、該温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持し、該水媒体に硫酸ラジカル源を添加して急速撹拌混合することにより硫酸ラジカルを発生させ、硫酸ラジカルとCOD成分との反応によってポリマー粒子を形成させ、その後に固液分離を行うことにより形成されたポリマー粒子を除去することを特徴とする水媒体の処理方法が提供される。本態様は、ベンゼン環を有するフェノールなどの芳香族化合物が多く含まれる医薬品関係の化学物質などを含む製薬工場廃水、あるいは病院廃水などの難生分解性水媒体の処理に最適である。
【0071】
本発明者らは、水媒体に含まれているCOD成分が芳香族化合物、たとえばフェノールを含む場合には、COD成分含有水媒体中で発生した硫酸ラジカルは、芳香族化合物の重合開始剤として作用して重合反応を引き起こすことを見出した。硫酸ラジカルは強力なラジカルであるため、通常は重合しないような共鳴安定化しているベンゼン環の二重結合でも解裂させて重合反応を起こさせる能力がある。芳香族化合物が一旦重合すると、この重合した物質は固形物となり、強力な酸化剤である硫酸ラジカルでも酸化分解が困難になり、実質的な無機化反応ができなくなる。また、この重合物質である固形物が水媒体中に形成されることにより、水媒体中での硫酸ラジカルと残存溶解COD成分との接触が阻害され、水媒体全体の処理反応が著しく低下する。
【0072】
このような芳香族化合物を含む水媒体を処理する場合には、水媒体に硫酸ラジカル源を添加し急速撹拌混合して、ポリマー粒子を形成させ、次いで水媒体の固液分離を行うことにより形成したポリマー粒子を除去することが好ましい。水媒体に不飽和結合を有する有機物が含まれている場合、水媒体中で発生した硫酸ラジカルがラジカル重合開始剤として作用して重合反応が進行し、水媒体中に粒子として浮遊した状態のポリマーが形成される。このような硫酸ラジカルによる水媒体中の芳香族化合物の重合反応の進行は、本発明者らが見出したものであるとともに、水媒体中での硫酸ラジカルの発生を根拠付けるものでもある。
【0073】
水媒体中のCOD成分の大半がこのような芳香族化合物である場合、または大量に不飽和結合を有する有機物が水媒体に含まれている場合は、化学量論量の硫酸ラジカルを酸化剤として作用させて完全酸化させる態様よりもむしろ、少量の硫酸ラジカルをラジカル重合開始剤として作用させてポリマー粒子を積極的に形成させた上でポリマー粒子を固液分離で水媒体から除去する態様が経済的に有利である。ラジカル重合開始剤として硫酸ラジカル源を利用する場合には、硫酸ラジカル源の所要量はCOD成分を完全酸化するために必要な化学量論量未満であり、化学量論量の30〜0.01%の範囲で足りる。なお、芳香族化合物と非芳香族化合物とが水媒体中に混在している場合には、最初に、水媒体に少量の硫酸ラジカル源を添加してラジカル重合開始剤として作用させてポリマー粒子を形成させ、形成されたポリマー粒子を固液分離により除去し、次いで、この水媒体に残存COD成分に対する化学量論量以上の硫酸ラジカル源を添加して完全酸化分解することができる。よって、硫酸ラジカル源の総所要量は、完全酸化分解法単独の場合の化学量論量未満で足りる。
【0074】
固液分離の手段としては特に限定するものではなく、既存の固液分離手段でポリマー粒子を除去することができる。ポリマー粒子のサイズ分布や性質によって、精密濾過(Micro Filtration、MF)、限外濾過(Ultra Filtration、UF)、逆浸透(Reverse Osmosis、RO)、砂濾過、フィルタープレス濾過、ベルトプレス濾過等の各種濾過操作を適宜用いることでき、また、アルミ犠牲電極、PAC薬品、鉄系凝集剤を用いての凝集沈殿操作で分離してもよい。また、凝集沈殿と前記した濾過を組み合わせることもできる。さらに遠心分離、液体サイクロン分離などを用いてもよい。
【0075】
また、本発明の別の態様において、COD成分含有水媒体のpHを10.5以上に調整し、COD成分含有水媒体の温度を60℃以上374℃未満とし、該温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持し、該水媒体に硫酸ラジカル源を添加して急速撹拌混合することにより硫酸ラジカルを発生させ、該硫酸ラジカルとCOD成分とを反応させ、ポリマー粒子の形成を阻害するかもしくは可溶性ポリマーを形成させることを特徴とする水媒体の処理方法が提供される。
【0076】
以下、COD成分としてフェノールを例にして、可溶性ポリマーの形成及び溶解を説明する。
フェノール(C−OH)は硫酸ラジカルによって、ポリマー(Polymer−OH)となる。フェノールから形成されるポリマーが溶解する最小pHは10.5であり、これはフェノールのpK(pKとは水溶液中での有機物の酸解離定数の逆数の対数値であり、滴定によって測定することができる)に近い値である。このポリマーは疎水基(Polymer)と弱親水性基(−OH)を有する。たとえばNaOHを用いて、水媒体のpHをこのpK(10.5)以上にすると下記式(18)により示される反応が起る。
【0077】
【化11】

式(18)より、ポリマーの弱親水性基である−OH基が、強親水性基である−ONa基で置換されるので、ラジカル重合反応で形成されるポリマー粒子は水媒体に可溶性となる。ポリマー粒子が可溶性に変換されると、硫酸ラジカルによる溶液酸化反応が容易になり、水媒体に含まれているCOD成分を炭酸ガス等にまで完全無機化することが可能になる。
【0078】
この態様では、水媒体の良好な処理ばかりでなく、装置腐食の問題も軽減できる。式(9)で示したように、硫酸ラジカルは有機物と反応した後に硫酸水素イオンになる。通常、この反応は硫酸水素イオンで留まらず、さらに硫酸イオンになるので、最終的なpHは非常に低下することになる。pHが低く且つ反応温度が高いと、耐圧反応槽(PYREX(コーニング社登録商標)ガラスなどの耐食性材料で製作することが困難であり、通常は金属製である)などの金属部分の腐食が起る可能性がある。ところが、本態様では、式(18)に示すように、最終的なpHは中性〜アルカリ性域に落ち着くので、このような反応槽の腐食問題を解決することができる。
【0079】
本発明の別の態様では、COD成分含有水媒体を固液分離及び/又は油水分離し、次いで、分離された液体又は水層である水媒体の温度を60℃以上374℃未満とし、該温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持し、該水媒体に硫酸ラジカル源を添加して急速撹拌混合することにより硫酸ラジカルを発生させ、該硫酸ラジカルとCOD成分とを反応させることを特徴とする水媒体の処理方法を行うことを特徴とする硫酸ラジカルを用いた水媒体の処理方法が提供される。
【0080】
硫酸ラジカルは、酸化能力が非常に高いが、固形物、又は相分離している油相などを酸化分解するのは困難である。逆にこのような固形物、油層が水媒体に含まれていると処理を阻害することがある。したがって、水媒体からは予め、固形物、油相は分離することが望ましい。固液分離、油水分離の方法としては特に限定せず公知のものを使用することができる。なお、油を含む水媒体であっても、油が乳化状態、ミセル状になっている場合は、油水分離を省略することができる。
【0081】
また、本発明によれば、撹拌装置、温度調節機構及び圧力調節機構を具備する反応槽と、該反応槽に硫酸ラジカル源を供給するための硫酸ラジカル源供給機構と、を具備する、上述のCOD成分含有水媒体の処理方法を行うための装置が提供される。
【0082】
本発明の装置は、COD成分含有水媒体のpHを調整する水媒体pH調整機構を具備する水媒体貯留槽と、水媒体貯留槽から反応槽にCOD成分含有水媒体を供給する水媒体供給ラインと、をさらに具備することが好ましい。
【0083】
本発明の装置において、硫酸ラジカル源供給機構は、硫酸ラジカル源貯蔵槽と、硫酸ラジカル源貯蔵槽からの硫酸ラジカル源を溶解させて硫酸ラジカル源水溶液を調製する硫酸ラジカル源水溶液調製槽と、硫酸ラジカル源水溶液調製槽からの硫酸ラジカル源水溶液を反応槽に供給する硫酸ラジカル源水溶液供給機構と、を具備することが好ましい。
【0084】
本発明の装置において、硫酸ラジカル源水溶液供給機構は、1個以上のピストン押出式シリンジ、加圧気体押出式シリンジ又はノズルを具備することが好ましい。加圧気体としては、空気、窒素または他の不活性ガスを好ましく用いることができる。また、シリンジ又はノズルの口径を小さく設計することによって、硫酸ラジカル源水溶液の反応槽への供給速度をさらに早めることができる。本態様では、硫酸ラジカル源水溶液を反応槽に迅速に、好ましくは1m/s以上の流速で供給することができ、硫酸ラジカル源の水媒体中への分散を早めることができる。また、硫酸ラジカル源水溶液を反応槽に供給するまでの滞留時間を短くして、硫酸ラジカル源供給機構配管からの硫酸ラジカル源への熱エネルギーの伝搬を最低限に抑制し、供給経路中での硫酸ラジカル源の自己分解又は硫酸ラジカルの発生を防止することができる。
【0085】
さらに、硫酸ラジカル源供給機構は、反応槽に硫酸ラジカル源水溶液を供給する直前に硫酸ラジカル源水溶液を冷却する冷却器を具備することが好ましい。本態様では、供給経路中で硫酸ラジカル源を強制的に冷却することによって、硫酸ラジカル源への熱エネルギーの伝搬を最低限に抑制し、供給経路中での硫酸ラジカル源の自己分解又は硫酸ラジカルの発生を防止することができる。また、硫酸ラジカル源水溶液を反応槽に供給する直前に冷却することにより、温度が上昇している反応槽からの伝熱を最小にすることができる。
【0086】
また、硫酸ラジカル源供給機構は、硫酸ラジカル源を電気化学的方法(電解法)によって調製する電解部をさらに具備することが好ましい。本態様では、本装置の運転現場まで濃硫酸などの安定な硫酸ラジカル源材料の形態で原材料を運搬し、その場で硫酸ラジカル源を調製することができる。
【0087】
本発明の装置は、さらに、酸素、空気、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸及びこれらの組み合わせからなる群より選択される一種以上の酸化剤を反応槽に供給する酸化剤供給機構を具備することが好ましい。本態様では、硫酸ラジカルと酸化剤との併用処理が可能となり、硫酸ラジカル源の所要量を削減することができる。
【0088】
また、本発明の装置は、さらに、反応槽から処理済みの水媒体を循環させてCOD成分含有水媒体の温度調整に利用する熱交換機構を具備することが好ましい。本態様では、処理すべき水媒体の温度調整に要する熱エネルギーを処理済みの水媒体の再利用により供給でき、外部からのエネルギー供給を排除もしくは削減できるので、経済的に有利である。
【0089】
本発明の装置は、さらに、固液分離機構及び/又は油水分離装置を具備することが好ましい。固液分離装置は、反応槽の下流に設けることができ、反応槽内で形成されたポリマー粒子を固液分離するために使用することができる。また、固液分離装置及び/又は油水分離装置は、反応槽の上流に設けることができ、処理すべき水媒体中に含まれているかもしれない固体及び/又は油相を予め分離除去するために使用することができる。
【発明の実施の形態】
【0090】
以下、本発明の方法及び装置について添付図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、被処理水媒体の温度を60℃以上100℃以下に調整した場合に、本発明の水処理方法を実施できる一形態を示す。図1の装置は、本発明の装置の最もシンプルな実施態様であり、少量水媒体のバッチ処理に適している。
【0091】
バッチ処理態様の水処理装置は、水媒体1を硫酸ラジカルと反応させるための容器(反応槽)2と、容器2に硫酸ラジカル源飽和水溶液(硫酸ラジカル源)17を供給するための投入器(硫酸ラジカル源水溶液供給機構)16と、を具備する。容器2は、蓋5により密閉できる構造であり、容器2の外周にはヒーター(温度調節機構)4が設けられている。蓋5には、接続ポートが設けられており、接続ポート6を介して投入器16、接続ポート7を介して撹拌装置3、接続ポート8を介して冷却器(圧力調整機構)9が、それぞれ取り付けられている。撹拌装置3は、シャフト14がモーター15で駆動されるタイプの撹拌羽である。投入器16は、ピストンで迅速に硫酸ラジカル源飽和水溶液(硫酸ラジカル源)17を押し出せる構造となっている。冷却器9は、冷媒供給ライン10、冷媒出口ライン11、熱交換部12及び大気開放ライン13を具備する。
【0092】
なお、容器2は、ガラス製容器でも金属製容器でもよく、反応温度及びpH条件において耐食性が認められるものであれば、特に限定されない。撹拌装置3は、少量の水媒体を処理する場合において、マグネットスターラー等で代用することができる。投入器16は、投入する硫酸ラジカル源が少ない場合は注射器等で代用することができる。
【0093】
次に、図1に示す装置を用いて、COD成分含有水媒体を処理する方法を説明する。
まず、COD成分含有水媒体1のpH調整を行う。pH調整は、水媒体が芳香族化合物を含む場合、硫酸ラジカルのみでCOD成分の完全酸化分解を行う場合にはpH10.5以上に調整し、硫酸ラジカル添加でポリマー粒子を形成させ固形物を固液分離する場合にはpH10.5よりも小さくして、あくまでも硫酸ラジカルの生成物である硫酸を中和するようにアルカリでpHを調整しておいてもよい。
【0094】
水媒体1を容器2の中に送入し、蓋5を閉め、ヒーター4で水媒体1を60〜100℃まで加熱する。加熱開始と同時に又は加熱開始以前から、撹拌装置3を作動させて、水媒体1を乱流状態にしておくことが好ましい。水媒体1の加熱により60〜100℃で発生する蒸気は、冷却器9内の熱交換部12で冷媒供給ライン10からの冷媒(水道水などでよい)と熱交換することにより凝集されて、容器2に戻る。容器2内部の圧力は、冷却器9の大気開放ライン13により、常圧に維持される。
【0095】
硫酸ラジカル源17として、予め調製した過硫酸塩飽和水溶液を投入器16内に所定量採取しておく。投入器16を接続ポート6に接続させて、接続ポート6の栓を抜いて、投入器16のピストンを一気に押して、硫酸ラジカル源飽和水溶液17を勢いよく投入する。投入する際及び投入後は、容器2内の水媒体1をできるだけ激しく撹拌させ、投入した硫酸ラジカル源飽和水溶液17と水媒体1との急速撹拌混合を行う。こうして、水媒体中で硫酸ラジカルが発生し、発生した硫酸ラジカルとCOD成分との接触及び反応が促進される。これらの操作により、効率的な硫酸ラジカルの発生と、水媒体の処理が可能となる。
【0096】
水媒体が芳香族化合物を含む場合には、水媒体1に硫酸ラジカル源飽和水溶液17を投入すると、硫酸ラジカルと芳香族化合物とのラジカル重合反応が生じ、ポリマー粒子が形成され、浮遊してくる。ポリマー粒子の形成が沈静化した後に、容器2から処理済みの水媒体を取り出し、固液分離して、固形物を処理済み水媒体から分離除去する。
【0097】
図2には本発明の他の実施の形態を示す。図2の装置はオートクレーブを改良したものであり、少量の水媒体を100℃以上374℃未満でバッチ処理できる装置である。
図2に示すバッチ処理用の水処理装置は、水媒体31を高圧下に保持可能な耐圧容器(反応槽)30と、硫酸ラジカル源供給機構と、酸化剤供給機構と、を具備する。
【0098】
反応槽としての耐圧容器30は、耐圧容器30外周を取り巻くヒーター33を具備し、上部がフランジ式になっていて蓋35で密閉することができる加圧型構造になっている。耐圧容器30には、蓋35に設けられている気密型接続ポートを介して、マグネットドライブなどの回転機ドライブ37により駆動される撹拌装置32と、温度指示計34と、ボルドン式圧力計などの圧力指示計36と、がそれぞれ備え付けられている。さらに、硫酸ラジカル源水溶液調製容器38から耐圧容器30に硫酸ラジカル源水溶液を供給するための硫酸ラジカル源水溶液供給ライン43と、耐圧容器30に酸化剤を供給する酸化剤供給ライン46が、それぞれ蓋35の気密型接続ポートを介して耐圧容器30に接続されている。また、耐圧容器30底部には、遮断弁49を具備する処理済み水媒体排出ライン48が接続されている。遮断弁49は、耐圧容器30内部の圧力を調整する作用もする。
【0099】
硫酸ラジカル源供給機構は、蓋40を有する硫酸ラジカル源水溶液調製容器38と、硫酸ラジカル源水溶液調製容器38と耐圧容器30とを流体連通させて硫酸ラジカル源水溶液39を耐圧容器30に供給するための硫酸ラジカル源水溶液供給ライン43と、硫酸ラジカル源水溶液供給ライン43に設けられたボールバルブ44と、冷却器45と、硫酸ラジカル源水溶液調製容器38に接続されていて所定量の硫酸ラジカル源水溶液39を硫酸ラジカル源水溶液調製容器38から硫酸ラジカル源水溶液供給ライン43に一気に押し出すための圧力を付与する加圧気体の圧入ライン41と、加圧気体圧入ライン41に設けられた遮断弁42と、硫酸ラジカル源水溶液調製容器38に付与された圧力を測定する圧力指示計50と、を備える。冷却器45は、硫酸ラジカル源水溶液39を流通させる内管と、冷媒を流通させる外管(ジャケット部)と、を具備する二重管構造の冷却器である。
【0100】
次に、図2に示す水処理容器を用いてCOD成分含有水媒体を処理する方法を説明する。
まず、所定量の水媒体31を耐圧容器30内に送入して、蓋35を密閉する。次いで、撹拌装置32を回転させ、ヒーター33で耐圧容器30の加熱を開始する。ヒーター33による加熱開始と同時に、冷却器45に冷媒を流し、硫酸ラジカル源水溶液供給ライン43の温度上昇を防止する。温度指示計34で水媒体31の温度を読み取り、圧力指示計36で耐圧容器30内部の圧力を読み取り、ヒーター33及び遮断弁49を操作して水媒体31の温度及び圧力を所定範囲内に調整する。
【0101】
硫酸ラジカル源水溶液調製容器38の蓋40を開けて、所定量の硫酸ラジカル源を注入した後、蓋40を閉じて硫酸ラジカル源水溶液調製容器38を密閉する。次いで、遮断弁42を開けて、加圧気体圧入ライン41から硫酸ラジカル源水溶液調製容器38に加圧気体を供給する。供給する加圧気体の圧力は圧力指示計50で読み取り、所定圧力に達した時点で遮断弁42を閉じる。加圧気体の所定圧力は、硫酸ラジカル源水溶液調製容器38と注入した硫酸ラジカル源水溶液39との容積比にもよるが、好ましくは、所定温度にて圧力指示計36が示す耐圧容器30内の圧力の倍以上である。
【0102】
耐圧容器30内の水媒体31の温度が所定温度に到達した後、ボールバルブ44を開いて、硫酸ラジカル源調製容器38から硫酸ラジカル源供給ライン43を介して、硫酸ラジカル源水溶液39を加圧気体の圧力を利用して瞬時に耐圧容器30内に供給する。このとき、撹拌装置32を激しく回転させておく。耐圧容器30内では、水媒体31と硫酸ラジカル源水溶液39との急速撹拌混合により、硫酸ラジカルが発生し、水媒体31中のCOD成分と硫酸ラジカルとの反応が進行する。
【0103】
なお、気体酸化剤を併用する場合には、ヒーター33による耐圧容器30の加熱開始の前に、遮断弁47を開いて酸化剤供給ライン46から所定量の気体酸化剤を耐圧容器30に供給する。
【0104】
図3には本発明の他の実施の形態を示す。図3に示す装置は、水媒体1中の有機物(特に芳香族化合物)と硫酸ラジカルとの反応によりポリマー粒子を形成させ、固液分離により固形物を除去する態様に適用できる装置である。好ましい適用温度範囲は100℃〜200℃である。また、基本構成としては図3に示す装置で連続処理及びバッチ処理の双方に適用可能であるが、連続処理態様の場合には多少の変更を施すことが効率化の面から好ましい。まず、バッチ処理態様の場合について説明する。
【0105】
図3の水処理装置は、反応槽120と、硫酸ラジカル源供給機構(155、150、162)と、水媒体供給機構(101、108、109)と、酸化剤供給機構(130、131、132)と、固液分離装置201と、を具備する。
【0106】
反応槽120は、好ましくはチタン、タンタルの金属或いはテフロン(デュポン社、登録商標)、ピーク(ビクトレックス社、登録商標)等のプラスチックで高温において耐食性が高い材料のライニング125を有する耐食・耐圧・耐熱容器であり、オートクレーブであってもよい。反応槽120には、撹拌装置141と、温度調整機構(126、127、128、129)、圧力調整機構(134、135、136、137、138)と、液面計122と、が設けられ、水媒体供給ライン108と、硫酸ラジカル源水溶液供給ライン166と、酸化剤供給ライン131と、処理済み水媒体排出ライン143と、が接続している。撹拌装置141は、モーター140により駆動されるダイレクトドライブ方式の撹拌装置でも、又はマグネットドライブ方式の撹拌装置であってもよい。また水媒体の撹拌を効率化させるのに反応槽120内に、邪魔板142を設けてある。
【0107】
反応槽120の温度調整機構は、ヒーター126と、温度調節計127と、熱電対などの温度センサー128と、サイリスターレギュレーター又はソリッドステートリレー(SSR)などの電力調節計129から構成される。
【0108】
反応槽120の圧力調整機構は、反応槽120のヘッドスペースと流体連通している導圧管136と、導圧管136に設けられている圧力センサー135と、圧力センサー135からの圧力信号に基づいてバルブ137を制御する圧力指示調節計134と、バルブ137の作動により反応槽120内部の気体を開放する気体開放ライン138と、を具備する。反応槽120の液面計122には差圧センサー123が設けられており、反応槽120上下に接続されている導圧管124で水頭圧を測定して、液位121を測定する。
【0109】
硫酸ラジカル源供給機構は、硫酸ラジカル源水溶液調製槽155と、硫酸ラジカル源圧入機構150と、冷却装置162と、を具備する。
硫酸ラジカル源水溶液調製槽155は、モーターにより駆動される撹拌装置154を備える溶解槽であり、水供給ライン153と、調製された硫酸ラジカル源水溶液を硫酸ラジカル源圧入機構150に送る硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156と、が接続されている。硫酸ラジカル源水溶液調製槽155には、スクリューフィーダー152を具備する硫酸ラジカル源貯蔵ホッパー151から、硫酸ラジカル源材料が供給されるように配置されている。
【0110】
硫酸ラジカル源圧入機構150は、硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156に接続するシリンジ160と、反応槽120底部に硫酸ラジカル源水溶液を注入するノズル165と、シリンジ160及びノズル165とを流体連通させる硫酸ラジカル源水溶液供給ライン166と、を具備する。シリンジ160の駆動軸161は、往復動する別途駆動機械(図示せず)に連結している。硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156及び166には、硫酸ラジカル源水溶液の逆流を防止する逆止弁157及び158がそれぞれ設けられている。
【0111】
硫酸ラジカル源供給機構の冷却装置162は、硫酸ラジカル源水溶液を流通させる内管と、冷媒入口163及び冷媒出口164を有する冷媒流通外管(ジャケット部)と、を具備する二重管構造の冷却器であり、反応槽120本体にできるだけ近接した位置に設置する。
【0112】
水媒体供給機構は、水媒体貯留槽101と、水媒体供給ライン108と、を具備する。水媒体貯留槽101は、モーターによって駆動される撹拌装置107と、水媒体pH調整機構と、を具備する。水媒体pH調整機構は、水媒体貯留槽101内の水媒体のpHを測定するpHセンサー102と、pHセンサー102からの信号に基づき制御信号を送信する制御機構103と、制御機構103からの制御信号により制御されるモーター104と、モーター104により駆動されるスクリューフィーダー106と、スクリューフィーダー106に連結されているアルカリ貯蔵ホッパー105と、を具備する。水媒体貯留槽101には、pH調整前の水媒体を流入させる水媒体流入ライン100及びpH調整後の水媒体を反応槽120に供給する水媒体供給ライン108が接続している。水媒体供給ライン108には、ポンプ109及びボールバルブ111が設けられており、pH調整済みの水媒体を所定量で水媒体貯留槽101から反応槽120に送る。
【0113】
酸化剤供給機構は、酸素ボンベ(酸化剤供給源)130と、酸素ボンベ130と反応槽120とを接続する酸化剤供給ライン131と、酸化剤供給ライン131上に設けられたバルブ132と、を具備する。
【0114】
固液分離装置201は、反応槽120の下流に設けられている。図3においては、反応槽120には処理済み水媒体排出ライン143が接続されており、冷却器145及び凝集沈殿槽190を経て、凝集沈殿槽190で得られる沈殿物が固液分離装置201に至るように構成されている。固液分離装置201は、公知の固液分離装置でよいが、好ましくは精密濾過(Micro Filtration、MF)、限外濾過(Ultra Filtration、UF)、逆浸透(Reverse Osmosis、RO)、砂濾過、フィルタープレス濾過、ベルトプレス濾過、スクリュウプレスなどの濾過タイプの固液分離装置である。冷却器145は、処理済みの水媒体を流通させるコイル状流路と、コイル状流路の外側を熱交換状態で冷媒が流通する冷媒流路と、を具備する。冷媒は、水その他通常の冷媒でよい。
【0115】
凝集沈殿槽190には、モーターにより駆動される撹拌装置191、pH制御機構192に連結されているpHセンサー193が装備されており、pH調整液貯留槽195及び凝集剤貯留槽197とそれぞれpH調整液搬送ポンプ194及び凝集剤搬送ポンプ196を具備するラインを介して接続されている。pH制御機構192は、使用する凝集剤が最適の凝集沈殿効果を呈し得るpH(例えば、凝集剤がPACである場合は、pH7付近)に処理済み水媒体のpHを調整する。
【0116】
なお、図示した実施形態に限らず、当業者には変形又は変更が可能であることは自明であろう。ノズル165の挿入位置は、図3に示すように反応槽120の底部であっても良いし、または横部、上部であってもよい。また図3ではノズル165は反応槽の1箇所に挿入してあるものを示しているが、2箇所以上に複数のノズルを設け、分散して反応槽120に硫酸ラジカル源水溶液を投入することも有効である。分散投入することによって、硫酸ラジカル源と水媒体との撹拌混合が助長される。また、冷却器145とチラー、冷却塔等との間で冷媒を循環させる循環流路(図示せず)を具備するものでもよい。さらに、pH調整液貯留槽195に貯留する試薬液は、酸であってもアルカリであってもよいし、2台のpH調整液貯留槽を設けて、一方には酸性液を他方にはアルカリ性液を貯蔵してもよい。なお、バッチ処理態様の場合にはポンプ109は高圧ポンプである必要はないが、連続処理も行うことができる態様の場合には、ポンプ109を高圧ポンプとし、ボールバルブ111に代えて逆止弁を用いることが好ましい。
【0117】
次に、図3の水処理装置を用いたバッチ態様での水処理方法を説明する。
COD成分含有水媒体をライン100から水媒体貯留槽101に送入する。水媒体貯留槽101内の水媒体1のpHをpHセンサー102で測定し、測定結果に基づいてpH制御機構103がモーター104の回転時間を制御して、アルカリ貯蔵ホッパー105からのアルカリ性物質(NaOH、KOHなどの粉末が好ましい)の所要添加量を調整する。所要量のアルカリ性物質はスクリューフィーダー106により水媒体貯槽タンク101に添加される。アルカリ性物質添加時には撹拌装置107が回転している。所定のpHになるとpH制御機構103がモーター104を停止させる。
【0118】
水媒体1のpHは、水媒体中のCOD成分の処理態様に応じて変える。すなわち、COD成分を硫酸ラジカルとラジカル重合反応させポリマー粒子を形成させて固液分離する場合にはpHを10.5よりも小さくし、ポリマー粒子を形成させずにCOD成分を完全に無機化する場合にはpHを10.5以上に設定する。なお、ポリマー粒子を形成させる場合には、水媒体1のpHを調整しないか或いは硫酸ラジカルとの反応後に生成する硫酸を中和するために必要な量のアルカリ性物質を添加してもよい。
【0119】
pH調整された水媒体1は、次いで、水媒体供給ライン108を介して送られ、ポンプ109で加圧された後、反応槽120に送入される。温度上昇により、飽和蒸気圧以上の圧力を加えていても水媒体が膨張する(180〜200℃では液体の水の容積は約10%膨張する)ので、反応槽120には、この水の膨張分吸収と酸化剤としての酸素などの気体がたまるヘッドスペースを確保することが好ましい。そこで、反応槽120には、好ましくは容積比約70%で水媒体1を充填する。水媒体1の反応槽120への充填量は液面計122で計測し調整する。
【0120】
反応槽120への水媒体1の充填完了後に、酸化剤を併用する場合には、酸化剤を反応槽120に供給する。ここでは酸化剤として酸素を用いる場合について説明する。バルブ132を開けて、酸素ボンベ130から酸化剤供給ライン131を通して、酸素を反応槽120に供給する。このとき、圧力調節指示計134の圧力値を読みながら、酸素の供給量を調節する。酸素の供給量は、反応槽120内の水媒体中COD成分の量によって調整するので、これを反応槽ヘッドスペースの容積と圧力に換算しておくことが好ましい。ヘッドスペースの容積は反応槽の既知容積から送入した水媒体の容量を差し引くことにより求めることができる。ヘッドスペース容積がわかれば、理想気体の式とヘッドスペース圧力との関係から、供給する酸素量が計算できる。たとえば、ヘッドスペースが10Lの場合には、圧力指示調節計134が3MPaになると約210gの酸素が供給されたことになる。圧力指示調節計134が所定圧力を示した時点で、バルブ132を閉じる。なお、圧力指示調節計134は、圧力センサー135からの圧力信号に基づいてバルブ137の開閉を制御する。設定圧力より反応槽120内部の圧力が高くなると、圧力調節計134はバルブ137を開き気体開放ライン138を介して反応槽120ヘッドスペース内の気体を放出させ、反応槽120内部圧力を設定圧力まで低下させる。この圧力調節計134の設定圧力は、水媒体を処理するときの温度の飽和蒸気圧以上に設定しておく。好ましくは飽和蒸気圧に対して、初期供給時の酸素分圧を上乗せした数値に設定することが好ましい。たとえば反応槽120内での水媒体の温度を180℃に調整する場合には、水の飽和蒸気圧が1MPaであるから、初期に3MPaの酸素を供給したのであれば、この圧力指示調節計134は4MPa以上に設定しておく。
【0121】
次に、反応槽120のヒーター126を作動させて、反応槽120内の水媒体を加熱する。ヒーター126は、温度指示調節計127によって制御される。加熱段階においてもモーター140を稼働させて撹拌装置141を用いて水媒体を撹拌して、速やかに水媒体の温度を上昇させる。こうして、反応槽120内の水媒体の温度及び圧力を所定範囲に調整しておく。
【0122】
一方、硫酸ラジカル源水溶液調製槽155に、ライン153より水を送入し、硫酸ラジカル源貯蔵ホッパー151からスクリューフィーダー152により所定量の硫酸ラジカル源材料を投入し、撹拌装置154を作動させて硫酸ラジカル源水溶液を調製する。スクリューフィーダー152から投入される硫酸ラジカル源材料の量は特に厳密に制御する必要性がないが、硫酸ラジカル源飽和水溶液をつくるため、飽和濃度となる量以上であればよい。過飽和になっても溶解しなかった硫酸ラジカル源が、撹拌を止めれば溶解槽の底にたまるのみである。
【0123】
硫酸ラジカル源供給機構のシリンジ160の駆動軸161を図中左側に移動させることにより、硫酸ラジカル源飽和水溶液は、硫酸ラジカル源供給ライン156及び逆止弁157を介して硫酸ラジカル源供給機構のシリンジ160内に吸引される。次に、駆動軸161を図中右側に移動させることにより、シリンジ160内の硫酸ラジカル源飽和水溶液は、逆止弁158並びに冷却装置162及び硫酸ラジカル源水溶液供給ライン166並びにノズル165を介して反応槽120に注入される。したがって、反応槽120に注入される硫酸ラジカル源水溶液の量は駆動軸161のストローク長さに依存し、硫酸ラジカル源水溶液の注入速度は駆動軸161の往復動速度及びノズルの口径に依存する。バッチ処理態様では、駆動軸161の1ストロークで必要な硫酸ラジカル源水溶液の全量を迅速に注入することが好ましいが、大量の硫酸ラジカル源を投入する場合などは数回に分けてもかまわない。また駆動軸161の往復動速度は、特に反応槽120へのノズル165での硫酸ラジカル源水溶液の流速が1m/sec以上となるように設定することが好ましい。
【0124】
以上のように、水媒体及び硫酸ラジカル源水溶液を反応槽120に供給した直後に、反応槽120内で回転している撹拌装置141の回転速度を高めて急速撹拌させて、水媒体と硫酸ラジカル源水溶液とを迅速に混合させる。このときの反応槽120内の水媒体の温度及び圧力は、温度調整機構及び圧力調整機構により所定範囲内に維持されている。
【0125】
反応後、反応槽120はまだ加圧されている状態であるので、バルブ144を開くと処理済み水媒体は反応槽120底部に接続している処理済み水媒体排水ライン143を介して冷却器145に押し出される。この反応槽120からの押し出しは、反応槽120の内圧で行われる。冷却器145の内部にはコイル状流路が設置されており、コイル状流路の外側には冷媒が流通しているので、処理済み水媒体はコイル状流路内部を通過する間に熱交換により冷却される。冷却された水媒体は、凝集沈殿槽190に送入され、pH調製される。処理済み水媒体がポリマー粒子を含む場合には、処理済み水媒体は酸性であることが多く、pH調整剤としてアルカリ性物質を用いる。処理済み水媒体がポリマー粒子を含まない場合には、処理済み水媒体は中性からアルカリ性であることが多く、pH調整剤として酸性物質を用いる。
【0126】
次いで、凝集沈殿槽190でpH調整された水媒体には、凝集剤ポンプ196を稼働して適量の凝集剤を投入し、撹拌装置191を稼働してよく混合させる。生成したフロックはスラリー状に凝集沈殿槽190の底部にたまる。ついでポンプ199を用いて、水媒体全量または凝集沈殿槽の底にたまったスラリー状のフロックのみを、ライン198及びライン200を介して、固液分離機201に送入して、脱水された固形物203と濾液202とに分離する。硫酸ラジカルとの反応で発生したポリマーは発熱量が8,000〜10,000kcal/kgと高いので、ここで分離した固形物は燃料として用いることも可能である。また、脱水も比較的容易なため、濾過操作で含水率を70%以下に下げることができる。
【0127】
なお、ポリマー粒子が形成されないか又は可溶性のポリマーを形成させ溶解した場合は、固形物が処理済水媒体に含まれていないので、凝集沈殿、濾過操作が不要となる。pH調整のみで下水等に放流可能な水質基準が得られる場合が多い。
【0128】
また、本バッチ反応の操作はすべてコンピューター制御で自動的に行うようにすることが可能である。この自動化には好ましくシーケンス制御が用いられる。
次に、図3の装置を連続処理態様で用いる場合について説明する。基本構成は図3の装置に関する上述の説明と同じであるから、以下、異なる点のみ説明する。
【0129】
反応槽120の液面計122からの制御信号により、反応槽120からの処理済み水媒体排水ライン143に設けられているバルブ144を自動開閉するように構成する。こうして、水媒体が温度上昇により膨張すると、液面計122がこれを検知して制御信号をバルブ144に送り、バルブ144を開いて処理済み水媒体を排出させて、反応槽120内の液位を常に一定に維持する。
【0130】
酸化剤供給機構のバルブ132をマスフローコントローラーとし、供給する酸化剤を一定流量に制御する。酸化剤を常時供給する構成とすることにより、圧力指示制御計134は飽和蒸気圧より若干高い数値で制御することができるので、バッチ処理の場合と比較して、より低い圧力で反応槽120を運転することができる。
【0131】
硫酸ラジカル源供給機構の圧入機構150の連続ピストン運動を自動制御するとともに、ピストン運動により生じる硫酸ラジカル源飽和水溶液の脈動を吸収するためのヘッドスペースが反応槽120に形成されるように、液面計122を設定する。液体の脈動流入があると反応槽120内の圧力が激しく脈動するからである。しかし、このヘッドスペースは、反応槽120内容積の10%以下で十分であり、バッチ処理の場合と比較してより少ないヘッドスペースで足りる。
【0132】
水媒体供給機構のポンプ109を高圧ポンプとし、往復動を繰り返すプランジャー型、ダイヤフラム型とする。遮断弁111は、ボールバルブに代えて逆止弁とする。
反応槽120に接続されている水媒体供給機構の水媒体供給ライン108を、冷却器145の下部にある冷媒入口に接続して、水媒体を冷却器144の冷媒として利用し、冷却器145の上部にある冷媒出口上部から反応槽120に接続するラインとする。冷却器145を熱交換器として用いることにより、水媒体を予備加熱することができ、反応槽120でのヒーターの所要エネルギーを節約できる。
【0133】
これらの運転方法及び軽微の装置変更で図3の装置は水媒体の連続処理装置となる。連続処理運転時には、水媒体供給機構のポンプ109を連続作動させて反応槽120に連続的に水媒体を供給し、酸化剤供給機構のマスフローコントローラー132から連続的に酸化剤を供給し、硫酸ラジカル源供給機構の圧入機構150を連続往復動させてパルス的に反応槽120に必要量の硫酸ラジカル源飽和水溶液を供給する。
【0134】
図4は、硫酸ラジカル源供給機構の圧入機構150の別の形態を示す。図3に示す硫酸ラジカル源圧入機構150と異なる点のみ説明する。硫酸ラジカル源水溶液圧入機構150は、硫酸ラジカル源水溶液調製槽155からの硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156に設けられたポンプ183と、加圧気体押出式シリンジを含む。加圧気体押出式シリンジは、硫酸ラジカル源水溶液を保持するチャンバー160と、チャンバー160内に位置づけられている可動式ディスク170と、チャンバー160内での可動式ディスク170の可動距離を規定するストッパー171と、加圧気体を保持するチャンバー172とを含む。チャンバー160とチャンバー172とは、可動ディスク170で区切られている。加圧気体押出式シリンジには、気体源(図示せず)からの気体を導入し且つチャンバー172から加圧気体を開放するライン173が接続されている。ライン173には、圧力センサー174と、圧力センサー174で検知した圧力により気体源からの気体の供給を制御する圧力指示計178とが取り付けられており、気体源(図示せず)から気体を導入するバルブ180を具備するライン179が接続されている。バルブ180は、圧力指示計178により開閉制御される。さらに、ライン173には、チャンバー172内を減圧するためにチャンバー172から加圧気体を開放するバルブ175が取り付けられている。
【0135】
図4の硫酸ラジカル源供給機構の作動を説明する。溶解槽155で調製された硫酸ラジカル源水溶液は、ポンプ183でチャンバー160に送入される。この時、バルブ158は閉じてある。次に、バルブ180を開いてバルブ175を閉じ、気体源から気体をライン179及びライン173を介してチャンバー172に送り、気体をチャンバー172内で加圧する。この気体としては、空気、窒素または他の不活性ガスが好ましく使用される。チャンバー172とチャンバー160の容積が同じ場合は反応槽120の運転圧力の2倍、チャンバー160がチャンバー172の半分である場合は反応槽120の運転圧力の1.5倍、チャンバー160がチャンバー172の2倍である場合は反応槽120の運転圧力の3倍となるまで、チャンバー172内を加圧する。チャンバー172内を加圧してもチャンバー160には非圧縮性の水溶液が含まれているので可動ディスク170はほとんど移動しない。ライン173に設けられている圧力センサー174で、設定圧力が検知されると、圧力指示計178はバルブ180を閉じる。次いでバルブ158を開くと、チャンバー172内の加圧気体が可動ディスク170を押し出して、チャンバー160に含まれていた硫酸ラジカル源水溶液を反応槽120内に一気に供給する。このような加圧気体を用いた供給部を用いると、硫酸ラジカル源を迅速に水媒体に供給するのに特に有効である。反応槽120の運転温度にもよるが、たとえば180℃で運転されている場合、供給した硫酸ラジカル源から硫酸ラジカルへの変換、硫酸ラジカルとCOD成分との一連の反応は、1分以内で完結する。数回に渡って硫酸ラジカル源水溶液を供給する場合は、一回目の供給直後にバルブ158を閉じ、バルブ175を開放してチャンバー172内を減圧し、次いでポンプ183を作動させて硫酸ラジカル源水溶液でチャンバー160を満たし、供給操作を繰り返せばよい。反応終了後にはヒーター126を停止して、温度が下がるまで待ってもかまわないが、通常このような反応槽の降温に必要な時間は昇温と同じぐらいかかるまたはそれ以上であるので強制的に冷却することが好ましい。
【0136】
図5に示す装置は、本発明の他の実施の形態であり、連続処理装置として用いる場合の形態である。本装置は150℃〜350℃、好ましくは180〜300℃、さらに好ましくは190〜250℃の反応に適しており、反応温度が高く設定できるため、反応槽を小型化できるメリットがある。また、本装置は、水媒体のpHを10.5以上に調整して、発生するポリマーを溶かし、COD成分を完全に無機化させる場合などに好ましく用いることができる。なお、本装置は硫酸ラジカルとの反応で大量にポリマー粒子が発生する水媒体の処理には、閉塞が起る可能性があるためにあまり適切ではないが、図1、2又は3で示した装置でポリマー粒子を形成させ除去した後に、さらに未分解のCOD成分を本装置で処理することは可能である。
【0137】
図5に示す装置は、スタティックミキサー332を具備する反応槽330と、硫酸ラジカル源供給機構と、水媒体供給機構と、酸化剤供給機構と、を具備する。
反応槽330は、両端にフランジ329を有し、外周にヒーター338を有する筒部333からなる筒形状である。筒部333内部にはスタティックミキサー332が位置づけられている。図示した実施形態に於いては、水媒体・酸化剤供給ライン328は一方のフランジ329に接続されており、硫酸ラジカル源供給ノズル334は水媒体・酸化剤供給ライン328の接続位置に隣接する位置に挿入されている。さらに、2個のスタティックミキサー332の間の位置にも硫酸ラジカル源供給ノズル334が挿入されている。硫酸ラジカル源供給ノズル334が挿入された部分は、水媒体、酸化剤と硫酸ラジカルの混合部331を形成する。混合部331は、ノズル挿入に必要な最小の容積を有し、反応槽内容積に対して、10%以下、好ましく5%以下である。混合部331の容積が大きいと、水媒体、酸化剤と硫酸ラジカルが接触する前に、硫酸ラジカルは自己分解し、水との反応で消費され、COD成分との反応が効率的に進行しない。
【0138】
反応槽330には、水媒体・酸化剤供給ライン328との接続位置とは反対側のフランジ329に、処理済み水媒体排水ライン342が接続されている。処理済み水媒体排水ライン342は、熱交換器320の頭部チャンバー344に接続されている。熱交換器320は、処理済み水媒体が、頭部チャンバー344からチューブ319を流通してチャンバー344から流出するように構成されている。熱交換器320のチャンバー340には、熱交換後の排水ライン345が接続されている、排水ライン345には、圧力センサー346、圧力指示調節計347及びバルブ348が設けられている。圧力指示調節計347は、本装置の高圧系全体の圧力を調整する。排水ライン345は、処理水タンク350に接続されている。処理水タンク350には、撹拌装置351と、pHセンサー352と、pH指示計354と、ポンプ355と、pH調節剤(酸性又はアルカリ性物質など)貯留槽356と、pH調節剤供給ライン353とが設けられ、処理水を公共水域などに放出する放出ラインが接続されている。
【0139】
スタティックミキサー332は、流体の流れを分割、転換、反転などを行い、流体の流れを強制的に乱流にして撹拌混合を促進するためのものであり、リボン状の基材がねじれた形式のエレメントが複数設置されたものである。基材としては金属、セラミックス、プラスチックであってもよく、反応槽330の運転温度における熱的安定性又は耐食性の観点から適正基材を選定すればよい。本発明では好ましくは、チタン、タンタル等の金属、セラミックスとしては高純度アルミナ、チタニア、タングステンカーバイド等が用いられる。反応槽330の運転温度が200℃以下である場合にはテフロン(デュポン社、登録商標)、ピーク(ビクトレックス社、登録商標)等を用いることができる。
【0140】
硫酸ラジカル源供給機構は、硫酸ラジカル源貯蔵槽151と、硫酸ラジカル源貯蔵槽151からの硫酸ラジカル源を溶解させて硫酸ラジカル源水溶液を調製する硫酸ラジカル源水溶液調製槽155と、硫酸ラジカル源水溶液調製槽155からの硫酸ラジカル源水溶液を反応槽330に供給する硫酸ラジカル源水溶液供給機構と、硫酸ラジカル源水溶液を反応槽330に供給する直前に硫酸ラジカル源水溶液を冷却する冷却器335と、を具備する。硫酸ラジカル源貯蔵槽151は、スクリューフィーダー152を具備する硫酸ラジカル源貯蔵ホッパー151である。硫酸ラジカル源水溶液調製槽155は、モーターにより駆動される撹拌装置154と、水供給ライン153とを備える溶解槽である。
【0141】
硫酸ラジカル源水溶液供給機構は、硫酸ラジカル源水溶液調製槽155に接続されている硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156と、このラインに設けられたポンプ340と、反応槽330に硫酸ラジカル源水溶液を注入するノズル334と、を具備する。図示した実施形態では、硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156は分岐して2本のライン339となり、反応槽330の2カ所の混合部331に硫酸ラジカル源水溶液を供給するように構成されている。硫酸ラジカル源水溶液の供給ポンプ340は高圧ポンプであり、ダイヤフラム型、プランジャー型のポンプが好ましい。ノズル334は、反応槽330に供給する硫酸ラジカル源水溶液の流速が1m/sec以上となるような小さな口径を有するように設計されている。
【0142】
冷却器335は、分岐した硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156にそれぞれ設けられ、反応槽330に隣接して位置づけられている。冷却器335は、二重管形式で冷媒の入口ライン336及び出口ライン337を具備する。冷媒としては水を流し、この水はチラー、冷却塔など(図示せず)を循環して冷却される。
【0143】
水媒体供給機構は、pH調整機構を備える水媒体貯留槽101と、水媒体供給ライン108と、を具備する。水媒体pH調整機構は、水媒体貯留槽101内の水媒体のpHを測定するpHセンサー102と、pHセンサー102からの信号に基づき制御信号を送信する制御機構103と、制御機構103からの制御信号により制御されるモーター104と、モーター104により駆動されるスクリューフィーダー106と、スクリューフィーダー106に連結されているアルカリ貯蔵ホッパー105と、を具備する。水媒体貯留槽101には、pH調整前の水媒体を流入させる水媒体流入ライン100及びpH調整後の水媒体を反応槽330に供給する水媒体供給ライン108が接続している。水媒体供給ライン108には、ポンプ109が設けられている。
【0144】
酸化剤供給機構は、酸化剤供給ライン302と、高圧コンプレッサー303と、アキュムレーター304と、バルブ308及び312を有する酸化剤供給ライン309と、を具備する。アキュムレーター304には、圧力センサー305と、圧力センサー305からの圧力信号に基づいて高圧コンプレッサー303を制御する圧力指示シーケンサー306とが設けられている。バルブ308の下流には、酸化剤供給ライン309を流れる酸化剤の圧力を検出する圧力センサー311と、圧力センサー311からの圧力信号に基づいてバルブ308を制御する圧力指示調節計310とが設けられている。バルブ312の下流には、酸化剤供給ライン309での酸化剤の流量を検出する流量センサー313と、流量センサー313からの流量信号に基づいてバルブ312を制御する流量指示調節計314とが設けられている。流量センサー313としては、オリフィス式、熱感知式等を用いることができる。
【0145】
水媒体供給ライン108と酸化剤供給ライン309とは、混合部301にて結合して水媒体及び酸化剤の混合物を供給する水媒体・酸化剤供給ライン316となる。水媒体・酸化剤供給ライン316は、熱交換器320に接続されている。熱交換器320は、U字管形式のシェルアンドチューブであり、シェル側の流体がバイパスしないようにセパレーター318一枚及び複数のプレート317を設置して、チューブとの接触効率を高める構造となっている。熱交換器320には、加熱器322に流通するライン321が接続されている。加熱器322は、水媒体及び酸化剤の混合物を流通させるコイル323及びコイル323を加熱する電気ヒーター324を具備する。コイル323には、水媒体及び酸化剤の混合物を反応槽330に供給する水媒体・酸化剤供給ライン328が接続されている。加熱器322には、電力調節計325、温度センサー326、温度指示調節計327が設けられ、水媒体・酸化剤混合物の加熱を調整するように構成されている。
【0146】
なお、上述の実施形態について、当業者であれば当然になしえる変形及び変更が加えられてもよいことは理解されたい。たとえば、熱交換器320及び加熱器322は図示した形態に限定する必要はなく、水媒体及び酸化剤の混合流体が反応温度までに昇温できるものであればよい。また、水媒体・酸化剤供給ライン328での放熱を低く抑えるために、ライン328を最短にしてもよい。また、硫酸ラジカル源水溶液を供給するノズル334の数及び位置は、所望により変更することができる。同様に、硫酸ラジカル源水溶液供給ラインの数及びポンプ台数は、供給する個所の数に応じて変更することができる。
【0147】
次に図5に示す装置の運転操作方法について説明する。図5に示す装置は、水媒体と酸化剤を予め混合して一緒に反応槽330に供給し、反応槽330からの処理済み水媒体の熱を回収して水媒体及び酸化剤の混合物を加熱する態様に適する。なお、硫酸ラジカル源水溶液の調整及び水媒体のpH調整は図3の装置に関する説明と同じであるため、ここでは省く。
【0148】
酸化剤として空気を用いた場合で説明する。空気はライン302から計装空気(約0.7MPa)として取り入れられる。計装空気は高圧コンプレッサー303でさらに加圧され、アキュムレーター304に貯槽される。この高圧コンプレッサーは、空気を反応槽330の運転圧力より約3MPa高い圧力値まで加圧する。たとえば、水媒体の温度を250℃に調整する場合、飽和蒸気圧は4MPaであるから、反応槽330は4.5MPaで運転される。したがって、高圧コンプレッサー303はアキュムレーター304が7.5MPaになるまで加圧する。この圧力を感知するセンサー305がアキュムレーターに装備されており、7.5MPaになると圧力指示シーケンサー306が高圧コンプレッサーモーター307を停止させる。アキュムレーター304の加圧空気がバルブ308から排出され、アキュムレーター304の圧力が反応槽330の圧力より約2MPa高い圧力を下回ると、再び圧力指示シーケンサー306がコンプレッサー303を稼働させて、アキュムレーターを加圧する。バルブ308の開閉は、ライン309の圧力が常に反応槽330の圧力より1.5MPa高い圧力となるように設定する。圧力センサー311からのライン309の圧力信号に基づいて、圧力指示調節計310がバルブ308の開閉を制御する。バルブ312は、反応槽330に送入する酸化剤の流量を調整するものであり、厳密な酸化剤の流量調整には、バルブ312の一次側が常に一定の圧力になっていることが好ましい。流量センサー313で検出した流量信号に基づいて、流量指示調節計314がバルブ312の開閉を制御する。なお、流量指示調節計314は、酸化剤である空気が水媒体に含まれているCODを完全分解するのに必要な化学量論量以上の流量を流すように設定しておくことが好ましく、本実施形態では化学量論量の1.1倍以上流すように設定する。こうして、加圧され流量制御された酸化剤を酸化剤供給ライン309を通して、水媒体供給ラインとの結合点301まで流通させる。
【0149】
水媒体貯留槽101からpH調整された水媒体を水媒体供給ライン108に送り、高圧ポンプ109で加圧した後、酸化剤供給ライン309との結合点301で酸化剤と混合する。混合点301で混合された水媒体と酸化剤は、次いで熱交換器320に送入される。熱交換器320に送入された酸化剤と水媒体の混合流体は、熱交換器320のシェル側を通り、チューブ319を流通する処理済み水媒体などの流体と熱交換して加熱される。熱交換器320で予熱された水媒体と酸化剤の混合流体は、次いでライン321を介して、加熱器322に送入される。加熱器322で、水媒体及び酸化剤の混合流体は反応温度まで加熱され、温度調整される。加熱器322を出た水媒体及び酸化剤の温度は温度センサー326で検知され、温度センサー326の信号が温度指示調節計327に送られる。温度指示調節計327は、電力調節計325の出力を制御して、ヒーター324の温度を制御し、加熱器322による水媒体及び酸化剤の混合流体の加熱を制御する。この温度指示調節計327の設定温度は、加熱器322と反応槽330とを接続する水媒体・酸化剤供給ライン328での放熱による温度低下を見越し、反応温度より若干高め(5℃程度)に設定する。温度調整された水媒体及び酸化剤の混合流体は、水媒体・酸化剤供給ライン328を通して反応槽330に送入される。
【0150】
一方、硫酸ラジカル源水溶液は、硫酸ラジカル源調製槽155から硫酸ラジカル源水溶液供給ライン156を介して、2本のライン339に分岐して、それぞれ、ポンプ340で加圧され、冷却器335で冷却されながら、ノズル334から反応槽330内に1m/sec以上の流速で連続注入される。
【0151】
反応槽330に供給された水媒体、酸化剤及び硫酸ラジカル源水溶液は、混合部331で混じりあう。混合流体の線速度が0.1〜20m/sec、好ましく0.2m/sec〜5m/sec、より好ましくは0.5m/sec〜3m/secとなるようにスタティックミキサー332を運転して、水媒体と硫酸ラジカル源との急速撹拌混合を行う。硫酸ラジカル源は、スタティックミキサー332の部分で硫酸ラジカルに変換し、水媒体中の有機物との反応で有機物ラジカル発生、または水との反応でOHラジカルの発生などのラジカルが関与した連鎖反応を起こし、結果的に有機物と酸素の反応を促進させる。式(12)〜(15)で示した反応が反応槽330内のスタティックミキサー332の部分で進行し、水媒体に含まれている有機物等のCOD成分が完全無機化する。
【0152】
処理された水媒体は、処理済み水媒体排出ライン342を介して熱交換器320の頭部チャンバー343に送入される。次いで、処理済み水媒体は、熱交換器320内のチューブ319内部を通過し、チューブ319を通過している間に、水媒体・酸化剤混合物との熱交換により冷却される。チューブ319を通過した水媒体はチャンバー344から排水ライン345に流出する。排水ライン345を流通する処理済み水媒体の圧力を圧力センサー346で検出し、検出された圧力信号に基づいて圧力指示調節計347がバルブ348の開閉を制御する。圧力指示調節計347の圧力閾値を反応槽の運転温度の飽和蒸気圧より若干高い圧力に設定して、本装置の高圧系全体の圧力を調整する。バルブ348は、減圧バルブとなり、ライン349の水媒体は常圧となる。処理済み水媒体はついで処理水タンク350に送入され、必要に応じてpH調整され、公共水域に放出される。
〔実施例〕
【0153】
以下の実施例において、COD(化学的酸素要求量)との記載は重クロム酸カリウムを酸化剤として求めた水媒体の化学的酸素要求量(CODCr)を意味する。物理化学的な酸素要求量としては、CODCr以外に、過マンガン酸カリウムを酸化剤として用いたCODMn、燃焼による酸素消費量から求めたTOD(Total Oxygen Demand)、及び完全酸化の反応式から求められる理論的酸素要求量ThOD(Theoretical Oxygen Demand)がある。これらの物理化学的酸素要求量は測定方法に違いがあるため、同じ水媒体の酸素要求量を求めても数値に違いがでてくる。本明細書内で用いるCODCrの値は、他の物理化学的酸素要求量と、ThOD≧TOD≧CODCr≧CODMnの関係にある。すなわち、本明細書記載の水媒体の化学的酸素要求量の数値はCODCrであるため、ThOD又はTODで求めるとより高い数値、またCODMnとして求めた場合はより低い数値になる場合が多い。本明細書内で用いるTOCは全有機性炭素の意味であり、水媒体を触媒存在下で燃焼させて、発生した炭酸ガスから水媒体に含まれる全炭素濃度(TC)を求め、また、別途水媒体をリン酸処理行い、酸処理で揮発した炭酸ガスから水媒体に含まれる無機炭素(IC)濃度を求め、全炭素から無機炭素を差し引き、有機炭素濃度を求めたものである。水媒体に過硫酸等の硫酸ラジカル源が含まれると、この硫酸ラジカル源は酸化剤であるので、正確な水媒体のCOD濃度が求まらない。本明細書における実施例ではそのため、水媒体に含まれる有機物又は汚濁度合いをTOCで表す。
【実施例1】
【0154】
本実施例では、図1に示す装置を用いて、以下の実験を行った。
純水にフェノールを投入して、3.57mmol/Lのフェノール水溶液を調製し、pHは中性にし、COD成分含有水媒体とした。硫酸ラジカル源として過硫酸ナトリウムを用い、純水に溶かして飽和水溶液(549g/L)を準備した。フェノール水溶液0.5Lを図1に示す容器2に移し、100℃まで加熱した。発生する硫酸ラジカルがフェノールを完全酸化するのに必要な化学量論量となるように、硫酸ラジカル源飽和水溶液を0.011Lシリンジに採取し、フェノール水溶液に一気に投入した。このとき、容器2内では撹拌装置3を回転させてフェノール水溶液を激しく撹拌していた。容器2内では、投入直後に黒粉状のポリマー粒子の形成が確認でき、ラジカル重合開始剤となる硫酸ラジカルが発生していることが確認できた。
【0155】
硫酸ラジカル源投入時から1分ごとに少量ずつのサンプル水を採取し、遠心分離機でポリマーを除去した上澄液のTOC分析を行った。その結果を図6に示す。初期TOC濃度が約250ppmであったのに対して、処理2分後では17ppm、処理3分後では1ppm以下であった。
【0156】
したがって、本発明の方法によれば、COD成分含有水媒体中で硫酸ラジカルの発生がポリマー粒子の生成により確認でき、ポリマー粒子固形分を除去した後の水溶液は無色透明であったことから化学量論量の硫酸ラジカルによりフェノール水溶液を短時間で処理できることが確認できた。
【実施例2】
【0157】
実施例1と同様に、COD成分含有水媒体としてフェノール水溶液(3.57mmol/L)及び図1に示した実験装置を用いた。なお、硫酸ラジカル源はフェノールを完全酸化するのに必要な化学量論量の20%、すなわち硫酸ラジカル源として過硫酸ナトリウムの飽和水溶液を2.2mLを、100℃に調整した容器2内のフェノール水溶液に撹拌しながら添加し混合した。実施例1と同様に、ポリマー粒子が形成され、硫酸ラジカルの重合開始作用を確認した。
【0158】
硫酸ラジカル源の添加後から一定時間ごとにサンプルを採取し、このサンプルをマイクロフィルターで濾過して、ポリマーを除去した濾液のTOC濃度を図7に示す。硫酸ラジカル源添加後約10分で97wt%以上の初期TOCが除去されることを確認した。本実施例では、硫酸ラジカル源は化学量論量の20%しか添加していないので、フェノールの大半はポリマー粒子として除去されたことがわかる。
【実施例3】
【0159】
実施例1及び2と同様に、COD成分含有水媒体としてフェノール水溶液(3.57mmol/L)及び図1に示した実験装置を用いた。なお、フェノール水溶液にはNaOHを添加して、pHを10.0〜13.0の範囲で変化させ、pHの異なる4種類の溶液(水媒体)を用意した。これらpH調整された水媒体を反応容器2内で100℃まで加熱し撹拌した状態で、含有フェノールに対して化学量論量の硫酸ラジカル源(過硫酸ナトリウムの飽和溶液)を添加した。
【0160】
表1に各々のフェノール水溶液の初期pH及び処理後の最終pH及びポリマー粒子形成の有無を示す。この結果から、初期pHが11以下であると硫酸ラジカルとの反応後には処理水が酸性であり、ポリマー粒子の形成が起こり、一方、所定のアルカリ性pH以上に水媒体を調整することにより、ポリマー粒子形成が抑制できることがわかる。
【0161】
【表1】

【実施例4】
【0162】
本実施例では図2に示した装置を用い、水媒体温度を150℃に設定して実験を行った。水媒体としてベンゼンスルフォン酸を純水に添加して3.6mmol/Lのベンゼンスルフォン酸水溶液を準備した。これにNaOHを添加してpH12に調整した。
【0163】
撹拌装置32が装備されている内容積1Lのオートクレーブ30に、このベンゼンスルフォン酸水溶液を0.7L送入し、オートクレーブ30内の空気をすべて不活性ガスであるアルゴンガスで置換した。硫酸ラジカル源(過硫酸ナトリウム)の飽和水溶液を保持する容器38の容量は50mLであり、この容器38に15.4mLの硫酸ラジカル源の飽和水溶液を送入した。このときの硫酸ラジカル源の量はベンゼンスルフォン酸を完全酸化する化学量論量である。
【0164】
ついでアルゴンガスを用いて、硫酸ラジカル源が送入されている容器38を1MPaまで加圧した。ヒーター33を作動させて、150℃までオートクレーブ30内を加熱した。150℃到達時のオートクレーブ30内の圧力は、0.48MPaであった。オートクレーブ30内が150℃に到達した後、硫酸ラジカル源が送入されている容器38とオートクレーブ30との間にあるボールバルブ44を開き、加圧アルゴンガスを利用して、硫酸ラジカル源の飽和水溶液をオートクレーブ30内に瞬時に注入した。
【0165】
注入後30秒及び60秒後にオートクレーブ30の下部に設けたサンプリングバルブから、処理済液をサンプリングした。そのときの結果を図8に示す。初期TOCが約250ppmであったのに対して、30秒後には110ppm、60秒後には15ppmとなり、良好な処理が得られた。また、初期pHを12に調整したため、ポリマー粒子は形成されず、処理液は無色透明であった。
【実施例5】
【0166】
本実施例では図2に示した装置を用い、水媒体温度を250℃に設定し、酸化剤として酸素を併用し、硫酸ラジカル源として過硫酸ナトリウムを化学量論量未満で添加した。ベンゼンスルフォン酸を純水に添加して3.6mmol/Lのベンゼンスルフォン酸水溶液を準備した。これにNaOHを添加してpHを12に調整した。
【0167】
撹拌装置32が装備されている内容積1Lのオートクレーブ30内に、このベンゼンスルフォン酸水溶液を0.7Lを送入し、オートクレーブ30内空頭部に酸素を0.5MPa供給した。硫酸ラジカル源(過硫酸ナトリウム)の飽和水溶液を保持する容器38は50mLであり、この容器38に5mLの硫酸ラジカル源飽和水溶液を送入した。この硫酸ラジカル源の量はベンゼンスルフォン酸を完全に酸化分解するのに必要な量(化学量論量)の約30%である。
【0168】
ついでアルゴンガスを用いて、硫酸ラジカル源が送入されている容器38を6MPaまでに加圧した。ヒーター33を作動させて250℃までオートクレーブ30内を加熱したところ、250℃到達時のオートクレーブ30内の圧力は4.5MPaであった。オートクレーブ30内の温度が250℃に到達したとき、過硫酸ラジカル源が送入されている容器38とオートクレーブ30との間にあるボールバルブ44を開き、加圧アルゴンガスを利用して、硫酸ラジカル源飽和水溶液をオートクレーブ30内に瞬時に注入した。
【0169】
注入10秒後にオートクレーブ30の下部に設けてあるサンプリングバルブから、処理済液をサンプリングした。初期TOCが約250ppmであったのに対し、硫酸ラジカル源注入10秒後のサンプルのTOCは1mg/Lであった。酸素を併用することにより、硫酸ラジカル源の量を化学量論量未満で添加しても、良好な処理結果が得られることがわかる。このときポリマー粒子は形成されず、処理液は無色透明であった。
【産業上の利用可能性】
【0170】
本発明は水媒体の処理方法を提供する。本発明においては、水媒体の温度を60℃以上374℃未満に調整し、調整した温度における水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を加えて液相を維持し、水媒体に迅速な硫酸ラジカル源の添加を行い、硫酸ラジカルを発生させ、該水媒体の迅速な撹拌混合を順次行い、硫酸ラジカルで水媒体を処理する方法が提供される。本発明によれば、特にベンゼン環を有する有機物(芳香族化合物)などの難生分解性の水媒体を効率よく処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】図1は、本発明の1実施形態であり、100℃以下で水媒体をバッチ処理できる装置である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態であり、100℃以上で水媒体をバッチ処理できる装置である。
【図3】図3は、本発明の一態様にかかる水媒体の処理装置であり、バッチ処理及び連続処理の双方が可能な装置のフロー図である。
【図4】図4は、本発明における、硫酸ラジカル源を水媒体に添加するための機構を示す図である。
【図5】図5は、本発明における、水媒体を連続処理するための装置のフロー図である。
【図6】図6は、実施例1の実験における、硫酸ラジカル源投入後の時間(横軸)と水媒体のTOC濃度(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2の実験における、硫酸ラジカル源投入後の時間(横軸)と水媒体のTOC濃度(縦軸)の関係を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4の実験における、硫酸ラジカル源投入後の時間(横軸)と水媒体のTOC濃度(縦軸)の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
COD成分含有水媒体の温度を60℃以上374℃未満とし、該温度における該水媒体の飽和蒸気圧以上の圧力を該水媒体に加えて該水媒体を液相状態に維持し、該水媒体に硫酸ラジカル源を添加して急速撹拌混合することにより硫酸ラジカルを発生させ、該硫酸ラジカルとCOD成分とを反応させることを特徴とする水媒体の処理方法。
【請求項2】
前記COD成分含有水媒体のpHを中性又はアルカリ性とし、前記COD成分含有水媒体の温度を90℃以上とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硫酸ラジカル源を冷却しながら前記COD成分含有水媒体に添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記硫酸ラジカル源は、飽和水溶液の形態で添加されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記硫酸ラジカル源の飽和水溶液は、過硫酸又は過硫酸塩の飽和水溶液であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記硫酸ラジカル源は、その場で過硫酸又は過硫酸塩を電解法により調製することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記COD成分含有水媒体に、酸素、空気、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸及びこれらの組み合わせからなる群より選択される一種以上の酸化剤を添加することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記硫酸ラジカル源は、前記COD成分含有水媒体中に含まれるCOD成分を完全酸化するのに必要な化学量論量未満となる量で、前記COD成分含有水媒体に添加されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記COD成分含有水媒体中に含まれるCOD成分と前記硫酸ラジカルとの反応によってポリマー粒子を形成させ、その後に固液分離を行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記COD成分含有水媒体のpHを10.5以上にすることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記COD成分含有水媒体は予め固液分離及び/又は油水分離されたものであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
撹拌装置、温度調節機構及び圧力調節機構を具備する反応槽と、
該反応槽に硫酸ラジカル源を供給するための硫酸ラジカル源供給機構と、
を具備する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のCOD成分含有水媒体の処理方法を行うための装置。
【請求項13】
前記COD成分含有水媒体のpHを調整する水媒体pH調整機構を具備する水媒体貯留槽と、
該水媒体貯留槽から前記反応槽にCOD成分含有水媒体を供給する水媒体供給ラインと、
をさらに具備する、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記硫酸ラジカル源供給機構は、
硫酸ラジカル源貯蔵槽と、
該硫酸ラジカル源貯蔵槽からの硫酸ラジカル源を溶解させて硫酸ラジカル源水溶液を調製する硫酸ラジカル源水溶液調製槽と、
該硫酸ラジカル源水溶液調製槽からの硫酸ラジカル源水溶液を前記反応槽に供給する硫酸ラジカル源水溶液供給機構と、
を具備する、請求項12又は13に記載の装置。
【請求項15】
前記硫酸ラジカル源水溶液供給機構は、1個以上のピストン押出式シリンジ、加圧気体押出式シリンジ又はノズルを具備する、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記硫酸ラジカル源供給機構は、さらに、前記反応槽に硫酸ラジカル源水溶液を供給する直前に硫酸ラジカル源水溶液を冷却する冷却器を具備する、請求項12〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記硫酸ラジカル源供給機構は、硫酸ラジカル源を電解法によって調製する電解部をさらに具備する、請求項12〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
さらに、酸素、空気、オゾン、過酸化水素、次亜塩素酸及びこれらの組み合わせからなる群より選択される一種以上の酸化剤を前記反応槽に供給する酸化剤供給機構を具備する、請求項12〜17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
さらに、前記反応槽から処理済みの水媒体を循環させて前記COD成分含有水媒体の温度調整に利用する熱交換機構を具備する請求項12〜18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
さらに、固液分離装置及び/又は油水分離装置を具備する請求項12〜19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記固液分離装置は、前記反応槽の下流に設けられていることを特徴とする請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記固液分離装置及び/又は油水分離装置は、前記反応槽の上流に設けられていることを特徴とする請求項20又は21に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−314880(P2006−314880A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138268(P2005−138268)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】