説明

硫酸塩分散クロム酸塩還元剤

本発明は、硫酸鉄(II)及び硫酸スズからなる群から選択される固体物質の粒子を含んでなり、粒子が液体担体内に実質的に均一に分散されている、クロムVI還元剤組成物に関する。クロム還元組成物を用いる水和しうるセメント様材料の改良法も開示される。本方法は、セメントの製造に用いた時、硫酸塩組成物の乾燥粉末または溶解形よりも利点を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6価クロム(VI)に対する還元剤の使用法、更に特にセメント添加物及び液体担体中に分散された固体硫酸塩粒子を含むセメントにおけるクロム酸塩の還元法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムは、粉砕してセメントを作るセメントクリンカ−の製造に使用される原料の避けがたい痕跡成分である。特に、6価クロム(「CrVI」)はセメントキルンの酸化及びアルカリ燃焼状態中に生成しうる。CrVI化合物は、その高酸化電位及びその人間組織に浸透し、結果として皮膚敏感性、アレルギ−反応及び湿疹を引き起こす可能性のために、非常に毒性ありとして分類される。CrVI化合物は、高溶解性であり且つセメント及び水を一緒に混合した時に遊離するので、濡れたセメント及びモルタルの取扱中に人間の皮膚と接触する可能性がある。
【0003】
6価クロム(CrVI)を3価クロム(CrIII)へ還元することは望ましい。これはCrIIIが溶液から安定な錯体として沈殿し、結果として重大な皮膚刺激毒性の危険性がより小さくなるからである。確かに多くの還元剤が知られている。しかしながら、それらはセメント様組成物の高pH環境下よりむしろ低pH値において有効である傾向がある。
【0004】
硫酸鉄(II)は通常セメント様系におけるクロム還元に使用されてきた。クロムの還元過程において鉄(II)は鉄(III)へ酸化される。しかしながらクロムを還元するために必要とされる硫酸鉄(II)の実際の使用量は必要とされる化学量論量の10倍である。これは一部、硫酸鉄(II)が通常セメントの0.3−0.5(重量)%の乾燥(dry)形で添加され且つ空気中の水分で酸化されてしまうという事実のためである。更に、硫酸鉄(II)の乾燥形態でのそのような高添加は問題でもある。一つは、セメントミル工程において乾燥材料を正確に添加するのが難しいことである。また乾燥材料は抑制するのが基本的に困難な粉塵問題ももたらし、この粉塵による健康の危険性が心配である。
【0005】
同様に重要なことに、必要とされる過度な量の硫酸鉄は、作業性に対して水の必要量を増大させ且つ固化時間を長らえる点でセメント様系には不利である。
【0006】
乾燥硫酸鉄(II)は、典型的には危険を伴うかなりの酸化なしに、80℃以上の温度でセメントに添加することができない。セメントが130℃までの温度でミルを出、80℃以上の温度で貯蔵場に送られるので、硫酸鉄(II)はセメント製造の後の方の段階で及び流通工程で添加しなければならない。最も多くの場合、セメントを輸送するための包装直前に硫酸鉄(II)を添加しなければならない。これはセメント中のクロム量を検査する更なる品質制御工程を必要とし、セメント製造業者にとって不便であり、経費がかかる。
【0007】
硫酸鉄(II)の代替物として、硫酸第一スズ(スズ)がクロム還元剤として使用できる。固体硫酸第一スズの必要とされる添加量は硫酸鉄(II)のそれよりも非常に低い(セメントの〜0.02重量%)。それは、ミル工程でセメントと組み合わせる時にいくらか扱いやすく、より耐熱性であり、また貯蔵安定性であると考えられる。しかしながら、硫酸第一スズを乾燥粉末としてセメントミル工程に添加することに関しては、同様の論理的問題が依然存在する。
【0008】
硫酸第一スズは水溶性であるが、水溶液としてセメントに添加した時、それは急速に添加効果を失う。必要とされる硫酸第一スズの実際の量は、硫酸第一スズを粉末として添加する場合に必要とされる量の少なくとも2倍である。そのような相違は経済的問題として硫酸第一スズを溶液系で使用することの妨げとなる。
【0009】
従って従来法の欠点を鑑み、本発明者は、比較的低添加量で済み且つ液体系で供給且つ出荷できる新規なクロム還元剤が必要であると考えた。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、従来法で使用されるような硫酸鉄(II)及び硫酸スズの溶解されたまたは乾燥粉末の形と対比して、より簡便に調合でき且つより耐酸化性であると考えられる複数の固体硫酸塩粒子を提供する。即ち本発明の例示できる組成物は、粒子が液体担体内に実質的に均一に分散されている、硫酸鉄(II)、硫酸スズ、またはこれらの混合物を含んでなる複数の固体粒子を含んでなる。
【0011】
ある好適な組成物において、液体担体は、硫酸塩粒子(例えばスズ)及び粘度調整剤(modifying agent)(VMA)を含んでなる水性分散液である。VMAの例は、ウェランゴム、キサンタンゴム、ディウタンゴム、及びセルロ−スエ−テルを含む。他の好適な組成物の場合、液体担体は、アルカノ−ルアミン、例えばトリエタノ−ルアミン、トリイソプロパノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、及びこれらの塩形を含んでなってもよく、また液体担体は随時水を含んでいてもよい。本発明の液体組成物は、液体担体としてまたはその一部として水が混入される場合、硫酸塩を固体粒子と溶解形の両方で同時に含有することができるので、高濃度の硫酸塩が本発明の液体組成物に含まれ得ると信じられる。
【0012】
液体担体の使用は、乾燥物質に比べて、高い精度と簡便性を提供する。更に液体生成物は、人間による化学品粉塵吸入の機会を減じるから、環境的な健康及び安全性に関して大きな利点を提供する。更に液体担体の使用は、無水硫酸第一スズの添加に劣らない、しかも液体添加の利点を備えた硫酸第一スズの添加効率をもたらす。
【0013】
セメント中のクロムを還元するための例示しうる本発明の方法は、液体担体内に分散された硫酸塩粒子を含む上述した液体組成物をクリンカ−の相互粉砕操作中に導入することを含んでなる。他に本発明の硫酸塩分散液は、混合組成物の方法で、セメント及びセメント様(cementitious)組成物、例えばコンクリ−ト、煉瓦用モルタル、石膏、吹付けクリ−ト(shotcrete)などに添加しうる。また本発明は、水和しうるセメント結合剤及び上述した液体組成物を含んでなるセメント様組成物も提供する。
【0014】
本発明の他の例示しうる方法及び組成物は、硫酸塩粒子6価クロム(「CrVI」)還元剤の他に、随時粘度調整剤とともに、少なくとも1つまたはそれ以上の次の物質を含んでいてもよい:(A)少なくとも1つの付加的6価クロム還元剤(例えば金属塩);(B)酸化防止剤、脱酸素剤、またはこれらの混合物を含んでなる添加物;(C)少なくとも1つのセメント添加物(例えばアルカノ−ルアミン);または(D)上述のいずれかの混合物。
【0015】
本発明の更なる利点及び特徴を以下に詳細に記述する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、液体分散できるクロム還元組成物、セメント様材料中のクロムの還元法、並
びに上に要約したようなクロム還元組成物を使用して作られるセメント様材料に関する。
【0017】
本明細書で使用するような「セメント」とは、建設業で使用されるような、1つまたはそれ以上の硫酸カルシウム形を、相互混合添加物として、ASTMタイプI、II、III、IV、またはVとともに通常含んでいるケイ酸カルシウムからなるクリンカ−を粉末にするまたは相互粉砕することによって製造される水和しうるセメントを意味する。「セメント様材料」は、それが単独で水の存在下に固化及び硬化する水硬性または水和しうるセメント状の性質を有する材料である。セメント様材料には、粉砕された溶鉱炉スラグ(但しある空冷されたスラグもセメント様と見なしうる)及び天然セメント(例えば普通のポルトランドセメント)が含まれる。更にセメント様材料は、石膏(例えば硫酸カルシウム半水和物)、アルミナセメント、セラミックセメント、油井ドリルセメントなどを含む。
【0018】
本発明の固体粒子の硫酸塩分散液は、セメント製造工場において、例えばミルグラインダ−(例えばボ−ルミル、ロ−ラ−ミル)、分離器、分別器、或いはバッグ包装工程で直接使用できる。この分散液は、製造後のセメント、またはセメント様の組成物、例えばコンクリ−ト、モルタルメーソンリー、耐火性セッコウ、吹付けコンクリ−ト、及び他の組成物に使用することもできる。
【0019】
ポルトランドセメントの他に、本明細書で使用されるごとき「セメント」は、ほとんどまたは全くセメント様値(即ち結合剤として)を持たないケイ酸質のまたはアルミノケイ酸質の材料であるが、水の存在下に微粉砕形でポルトランドセメントの水和によって遊離される水酸化カルシウムと化学的に反応してセメント様の性質を持つ材料を形成するポゾランを包含していてよい。参照、例えばドデゥサン(Dodson,V.)、コンクリート混合物[ファン・ノストランド(Van Nosstrand)出版、ニュ−ヨ−ク、1990年]、159ページ。けいそう土、石灰石、粘土(例えばメタカオリン)、頁岩、フライアッシュ、ヒュ−−ムシリカ、及び高炉スラグは既知のポゾランのいくつかである。ある粉砕された粒状の高炉スラグ及び高カルシウムフライアッシュはポゾランの及びセメント様の両方の性質を有する。
【0020】
本発明は、液体担体内に分散された固体硫酸塩粒子を含んでなる液体組成物を提供する。そのような硫酸塩に基づく添加剤は、クロムVIをクロムIIIへ還元する働きがあると考えられ、時に本明細書で「クロム還元剤」として言及される。本発明の例示できる方法は、液体組成物、硫酸塩粒子クロム還元剤を、クリンカ−の相互粉砕中にセメントクリンカ−に添加して、水和しうるセメントを製造することを含んでなる。
【0021】
そのような液体組成物を製造するための1つの例示できる方法は、硫酸塩(例えばスズ、鉄(II))を固体粒子形で、液体担体、例えば少なくとも1つの粘度調整剤(VMA)を有する水性分散液と組み合わせることである。このVMAは、かなりの貯蔵期間(例えば28日)後でさえ、濃度が実質的に均一である硫酸塩分散液の生成を可能にさせる。粘度調整剤(VMA)は、本発明の液体分散液をポンプ処理する場合に対してずり減粘させる性質を提供すべきである。更にVMAは最終の用途においてセメント添加物組成物の効果を妨害すべきでない。
【0022】
本明細書で使用される「粘度調整剤(VMA)」は、乾燥濃縮形の試剤または一旦水に分散させると高粘度液体にする試剤のいずれかに関するものである。本発明の目的に特に適当であると考えられる高粘度液体形の適当なVMAは、グレ−ス・コンストラクション・プロダクツ(Grace Construction Products,Cambridge,Massachusetts)から商品名V−MAR3として商業的に入手できる。このVMAは、ディウタンゴム([CPケルコ(Kelco)]から入手)に基づく、グレ−ス(Grace)からADVAの商品名で得られるような水並びに分散剤を含む。
【0023】
他の粘度調整剤(VMA)も、本発明で使用することができる。これらは(a)ウェラン(welan)ゴム、ディウタン(diutan)ゴム、キサンタン、ラムサン(rhamsan)、ゲラン(gellan)、デキストラン、プルラン(pullulan)、カ−ドラン(cardlan),及びこれらの誘導体からなる群から選択されるバイオポリマ−多糖類;(b)アルギン、寒天、カラゲ−ナン、及びこれらの誘導体からなる群から選択されるマリーンゴム;(c)イナゴマメ液、アラビアゴム、カラヤゴム、トラガカント、ガッチ(Ghatti)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される植物滲出物;(d)グア−、イナゴマメ液、オクラ、プシリウム(psyllium)、メスキット(mesquite)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される種子ゴム;(e)エ−テル、エステル、及びこれらの誘導体(参照、例えば米国特許第6,1110,271号、第3欄、38−46行)からなる群から選択される澱粉に基づくゴム;およびそれらの混合物;(f)疎水性的に改変されたアルカリで膨潤しうるアクリルコポリマ−、疎水性的に改変されたウレタンコポリマ−、ポリウレタン、セルロ−ス(例えばヒドロキシエチルセルロ−ス、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロ−ス)、ポリアクリレ−ト、及びポリエ−テルに基づく会合増粘剤からなる群から選択される会合増粘剤、を含むが、これに限定されるものではない。
【0024】
硫酸スズは25℃で330g/lの溶解度を有する(参照、例えば化学技術辞典、第4版、第24巻129ページ)。本発明は、硫酸塩を水だけに溶解して通常達成されるよりも高い濃度で液体担体に付加させる。例えば固体粒子硫酸スズを水及び粘度調整剤の混合物に分散させる時、硫酸スズ35%が固体として分散され且つ21%が溶液に溶解している全量56重量%の硫酸スズ分散液を得ることが可能である。これは液体形で導入される硫酸スズ量の著しい向上を示している。
【0025】
硫酸スズまたは硫酸鉄を懸濁させるための他の例示できる液体担体は、非水性である、或いは水を更に使用する場合には本質的に一部水性であってよいアルカノ−ルアミンを含む。例示できるアルカノ−ルアミンはトリエタノ−ルアミン、トリイソプロパノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、及びそれらの塩形として含みうる。
【0026】
それゆえに本発明の例示しうるクロム酸塩還元液体組成物は、液体組成物の全重量に基づいて1−90%、より好ましくは10−70%量の、固体硫酸スズまたは硫酸鉄(II)粒子(平均粒径0.001−1.0ミクロン)形のクロム酸塩還元活性物;液体組成物の全重量に基づいて5−50%の量の水;及びバイオポリマ−、マリーンゴム、植物滲出物、種子ゴム、澱粉に基づくゴム、会合増粘剤の群から選択される、且つ液体組成物の全重量に基づいて0.1−10%の量の粘度調整剤、を含むことができる。
【0027】
本発明の他の例示しうる組成物は、硫酸鉄(II)または硫酸スズ(II)の他に、塩化第1スズ、硫酸マンガン、硫化鉄及び/又は塩化第1鉄を含むがこれに限定されない他のクロム還元剤(例えば金属塩)を更に含むことができる。更なる本発明の例示的実施態様は、硫酸塩粒子に加え、更に少なくとも1つの、アルカノ−ルアミン、グリコ−ル、糖、塩化物塩、またはこれらの混合物を含んでなるセメント添加物を、分散液に含んでいてもよい。この随意のセメント添加物は、液体組成物の全重量に基づいて5−80%の量で使用しうる。
【0028】
本発明の更なる例示できる組成物及び方法において、本発明者は、固体硫酸鉄(II)及び/または硫酸スズ粒子を、粒子をより耐酸化性にする、粒子を上述した液体担体に実質的に均一に分散させるのを妨害しない、及び粒子がセメント様組成物におけるクロム還
元剤として働く効果を妨害しない物質で被覆またはカプセル化することができることも企図している。例示できるカプセル化または被覆材料は多糖類、澱粉、炭水化物、またはその改変形;ポリエチレン;及び他のポリマ−材料を含む。
【0029】
本発明の他の例示できる方法は、硫酸塩に基づく6価クロム還元剤のほかに、更に酸化防止剤、脱酸素剤、またはこれらの混合物を、セメントクリンカ−への共添加物として、粉砕前または粉砕中に、還硫酸塩:共添加物比、99.5:0.5〜20:80;より好ましくは99:1−50:50;及び最も好ましくは95:5−60:40の量で導入することを含んでなる。
【0030】
好ましくは、必ずしも必要ないけれど、硫酸塩に基づくクロム還元剤塩及び随意の共添加物(酸化防止剤及び/または脱酸素剤)は、両方とも同一の液体添加物組成物に投与される。それより好ましくはないが、共添加物は、例えばクリンカ−セメントの粉砕前、粉砕中、または粉砕後に別々に添加してもよい。
【0031】
かくして全共添加物(酸化防止剤及び/または脱酸素剤)の量は、一緒にまたは別々に添加しても、液体添加物組成物の全重量の0.05−80.0%、より好ましくは0.5−50.0%、及び最も好ましくは1.0−30.0%であるべきである。
【0032】
本明細書で使用するごとき、「酸化防止剤」は、特に上述した硫酸塩に基づくクロム(VI)還元剤を含む液体添加物組成物に含まれる場合、6価クロム還元剤への酸化速度を減じまたはさもなければ望ましくない酸化の影響を減じる組成物、物質、または化合物を意味する。例えば米国特許第5,211,875号は本発明に適当と思われる酸化防止剤、例えば2、6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノ−ル(BHT)、2、2’−メチレン−ビス(6−t−ブチル−p−クレゾ−ル)、トリフェニルホスファイト、トリス−(ノニルフェニル)ホスファイト及びジラウリルチオジプロピオネ−トを開示している。米国特許第6,465,065号に教示されるような他の酸化防止剤、例えば二酸化硫黄、トリヒドロキシブチロフェノン、及びブチル化ヒドロキシアニソ−ルも本発明で使用するのに適当であると考える。上述したように、そのような酸化防止剤は、同一の液体添加物組成物中に硫酸塩と一緒に、或いはそれより好ましくはないが、セメントまたはセメントクリンカ−中に粉砕前、粉砕中、または粉砕後に混入することができる。用いる酸化防止剤の量は、好ましくは(組成物中に混入するならば)液体添加物組成物の全重量に基づいて好ましくは0.05−80%、より好ましくは0.5−50%、最も好ましくは1.0−30.0%の範囲にあるべきである。液体添加物と別に添加する場合、酸化防止剤の量は0.1−1000ppm(乾燥セメント重量に基づく100万部当りの部)、より好ましくは1.0−300ppm、最も好ましくは5−100ppmであってよい。
【0033】
本明細書に使用するごとき「脱酸素剤」は、硫酸塩に基づくCrVI還元剤を含んでなる液体添加物組成物に含まれる場合、例えば(a)捕捉した酸素と反応するまたは結合することによって、或いは酸化反応を接触して無害な生成物を与えることによって、酸素を除去することのできる組成物、物質、または化合物を意味する。本発明に共添加物として有用な例示しうる脱酸素剤は、これに限定されはしないが、(a)エチレン性不飽和炭化水素を含む化合物;(b)フェノールまたはその塩或いはその誘導体;(d)ヒドロキシルアミンまたはヒドラジン或いはその誘導体;(e)亜硫酸或いはその塩または誘導体;(f)遷移金属錯体;或いはこれらの混合物を含む。
【0034】
ある種の例示しうる脱酸素剤組成物は、エチレン性不飽和炭化水素からなる。エチレン性不飽和炭化水素は、それ自体でまたは遷移金属触媒と共に使用してよい。エチレン性不飽和炭化水素は、置換されていてもされていなくてもよい。本明細書で定義するごとく、未置換のエチレン性不飽和炭化水素は、少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有
し且つ炭素と水素を100重量%含んでなるいずれかの化合物である。置換されたエチレン性不飽和炭化水素は、少なくとも1つの脂肪族炭素−炭素二重結合を有し且つ炭素と水素を約50−99重量%含んでなるエチレン性不飽和炭化水素として本明細書で定義される。好適な置換または未置換のエチレン性不飽和炭化水素は、分子当り2つまたはそれ以上のエチレン性不飽和基を有するものである。
【0035】
未置換のエチレン性不飽和炭化水素の好適な例は、ポリイソプレンの如きジエンポリマ−(例えばトランスポリイソプレン)、ポリブタジエン(特に50%以上またはそれに等しい1、2ミクロ構造を有する1、2−ポリブタジエン)、及びそのコポリマ−、例えばスチレン−ブタジエンを含むが、これに限定されるものではない。そのような炭化水素は、ポリマ−化合物、例えばポリペンテナマ−、ポリオクテマナ−、及びオレフィンメタセシスで製造される他のポリマ−;ジエンオリゴマ−、例えばスクアレン;及びジシクロペンタジエン、ノルボルナジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、または1つより多い炭素−炭素二重結合(共役または非共役)を有する他のモノマ−に由来するポリマ−またはコポリマ−も含む。これらの炭化水素は更にカルテノイド、例えばベ−タ−カロチンを包含する。
【0036】
好適な置換エチレン性不飽和炭化水素は、含酸素部分を有するもの、例えばエステル、カルボン酸、アルデヒド、エ−テル、ケトン、アルコ−ル、ペルオキシド、及び/またはヒドロペルオキシドを含むが、これには限定されない。使用する組成物は2つまたはそれ以上の上述した置換または未置換エチレン性不飽和炭化水素の混合物を含んでなってもよい。
【0037】
上述したように、エチレン性不飽和炭化水素は、多くの場合、有利には遷移金属触媒と共に使用しうる。特別な理論によって束縛されたくはないが、適当な金属触媒は少なくとも2つの酸化状態間に容易に相互変換できるものである。参照、R.A.シェルダン(Sheldon);J.K.コチ(Kochi)、「有機化合物の金属触媒酸化」[アカデミック出版(Academic Press,New York、1981)。好ましくは遷移金属触媒は塩の形であり、金属は周期律表の第1、第2または第3遷移金属系から選択される。適当な金属は、マンガンIIまたはIII、鉄IIまたはIII、コバルトIIまたはIII、ニッケルIIまたはIII、銅IまたはII、ロジウムII、IIIまたはIV、及びルテニウムを含むが、これに限定されはしない。金属の酸化状態は、液体添加物へまたはセメントへ導入する場合、必ずしも活性系の状態である必要はない。金属は好ましくは鉄、ニッケルまたは銅、より好ましくはマンガン、及び最も好ましくはコバルトである。金属に適当な対イオンは、これに限定されるのではないが、クロライド、アセテ−ト、ステアレート、パルミテ−ト、2−エチルヘキサノエ−ト、ネオデカノエ−ト、またはナフテネ−トを含む。
【0038】
好適な種類の置換されたエチレン性不飽和共添加物はエンジオ−ルを含む。エンジオ−ルの商業上の例は、アスコルビン酸及びエリソルビン(erythorbic)酸及びこれらの塩(例えばアスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウム)または誘導体を含む。これらの化合物の立体異性体も本発明に有効である。アルカリ及びアルカリ土類金属塩、例えばアスコルビン酸及びアスコルビン酸カリウムまたはナトリウム/アスコルビン酸塩は好適である。
【0039】
エンジオ−ルを使用する場合の更なる例示できる具体例は、エンジオ−ルの脱酸素能力を高めるための活性化剤を含んでなる。例えば米国特許第4,524,015号は、アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、アルカリ金属カーボネート、鉄化合物、カ−ボンブラック、及び水の粒状混合物の使用を開示している。従って、これらは有用なエンジオ−ル活性化剤であると考えられる。
【0040】
本発明の更なる例示できる方法及び組成物は、エンジオ−ル含有化合物に対する活性化剤、例えば遷移金属化合物、錯体またはキレ−トを含む。鉄、銅、コバルト、またはニッケルを含んでなる群から選択される遷移金属はより好適である。鉄または銅は最も好適である。遷移金属は、好ましくは(1)通常の塩のような化合物として、または(2)遷移金属イオンのポリアルキルポリアミン(「PAPA」)キレ−ト、マクロ環式アミンキレ−ト、またはアミノポリカルボキシレ−トキレ−トのような化合物として供給しうる。1つまたはそれ以上のアミン、ヒドロキシル、カルボキシレ−ト、またはスルフヒドリル(sulfhydryl)基、或いはこれらの組合わせを含む他の遷移金属キレ−トを使用することも可能である。
【0041】
金属触媒は、単純な遷移金属塩、例えば塩化第一鉄または第二鉄、塩化第一銅または第二銅、硫酸第一鉄または第二銅、グルコン酸第一鉄、硫酸ニッケル、またはより好ましくは塩化コバルト、及び最も好ましくは硫酸第二銅を含む。キレ−ト化された遷移金属アミンは、アスコルビン酸塩と共に使用される金属触媒として特に有用である。その理由は、それらはアスコルビン酸塩の脱酸素性を向上させる脱酸素性を有する、即ち金属キレ−トが第2の脱酸素化合物となり得るからである。また錯体の遷移金属イオンは、アスコルビン酸塩の脱酸素活性の触媒となることができる。キレ−ト化されたイオン錯体のうち、ポリアルキルポリアミンは好適であり、より好適には隣接する窒素原子間に対称の長さの炭素鎖を有するものであり、最も好ましくは各そのような鎖が1−4つ、及び最適には2つの炭素原子を含んでなるものである。エチレンジアミンテトラ酢酸(「EDTA])の遷移金属キレ−ト、例えばFe++/EDTA/(2Na)も使用できる。
【0042】
かくして更に例示できる脱酸素剤は、(例えば上述したエンジオ−ルと共に使用することとは別に)それ自体遷移金属錯体を含んでいてよい。そのような物質は、アクアノウチクス社(Aquanautics,Inc.,Alameda.California)が開発している[参照、パッケジング・テクノロジ−(Packaging Technology)、「脱酸素剤は貯蔵寿命を延長する」、1989年、及び「ビール瓶の寿命を延長する」ニュ−ヨーク・タイムズ、1989年3月29日]。これらの物質は、特に(限定するものではないが)引用により本明細書に包含される米国特許第4,959,135号に記述されているような遷移金属及びいわゆるポリアルキルアミン間で形成される錯体、並びに引用により本明細書に包含される米国特許第4,952,289号に記述されているような遷移金属及び「大環状アミン」間で形成される錯体である。
【0043】
これらの遷移金属錯体は、酸素を結合でき、且つ本発明において脱酸素剤として使用できる。そのような錯体は、アミン及び金属が共に水または水蒸気に露呈されるまで、酸素錯体を形成せずまたは活性化されない(即ち酸素を結合できずまたは結合しない)。
【0044】
本発明者は、理論によって束縛されたくはないが、共添加物(酸化防止剤及び/または脱酸素剤)が次の機構の1つまたはそれ以上によって有利に働き得ると考えている。第1に、共添加物は、古典的な酸化防止剤/脱酸素剤として働くことができ、この結果CrVI還元剤を含む液体担体媒体に入る酸化剤(分子状酸素など)が優先的に共添加物と反応し、これによって使用される硫酸塩に基づくCrVI還元剤及び他の金属塩CrVI還元剤の消費が節約できる。これは、還元剤がセメント粉砕ミルに及び粉砕されたセメントに添加されるまで、硫酸塩に基づくCrVI還元剤及び他の金属塩還元剤に対して、効果的により長い貯蔵寿命を付与する。
【0045】
更に本発明者は、これと同一の機構が、硫酸塩に基づくCrVI還元液体組成物をセメントに添加した後に働くと考えている。偶然水分や分子状酸素が処理したセメントに侵入するが、この酸素は、それが硫酸塩に基づくCrVI還元剤と反応する前に、共添加物に
よって捕捉されるであろう。この目的のために、硫酸塩に基づくCrVI還元剤及び随時更なる金属塩及び/または共添加物(酸化防止剤及び/または脱酸素剤)は予め混合されて単一の液体添加物にされることが好ましい。
【0046】
更に本発明者は、酸化防止剤及び/または脱酸素剤を含む共添加物が偶然の分子状酸素(または他の望ましくない酸化剤)との不測の反応によって分解したクロム還元硫酸塩または他の金属塩還元剤を再生させ、結果として用いた硫酸塩還元剤または他の還元剤量を維持すると考えている。この機構は、液体添加物組成物をセメントへ添加する前に、最終セメントの貯蔵中に、或いは最終セメントをモルタルまたはコンクリ−トに使用する時に、働き得る。
【0047】
更に本発明者は、酸化防止剤及び/または脱酸素剤を含む共添加物がCrVI還元剤(硫酸塩に基づく試剤及び他の金属塩)と或いはその酸化体、例えばそれ自体活性なCrVI還元剤とアダクトを形成し得ると考える。
【0048】
更なる具体例は、硫酸塩還元剤及び上述した共添加物(酸化防止剤及び/または脱酸素剤)を、セメントの製造に有用な1つまたはそれ以上の試剤と組み合わせることを含んでなる。そのような試剤はセメント粉砕助剤、例えばグリコ−ル、グリセロ−ル、アミン、アルカノ−ルアミン、及び公知のセメント品質改良剤、例えば塩化ナトリウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、糖などを含む。グリコ−ル及びグリセロ−ルは、第一スズ塩の貯蔵安定性を改善すると思われる。この利点の機構は不明であるが、これはグリコ−ルまたはグリセロ−ルの存在下における分子状酸素の活性の低下を含むであろう。
【0049】
他の例示できる共添加物は、脱酸素剤として役立つフェノール類、例えばそのキノン及びヒドロキシル形を含んでなり、限定するものではないがハイドロキノン(p−ジヒドロキシベンゼン)、ピロカテコ−ル(o−ジヒドロキシベンゼン)、及びこれらの誘導体を含む。
【0050】
なお更に例示できる脱酸素共添加物は、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、またはこれらの塩もしくは誘導体を含んでなる。例示し得るヒドロキシルアミンは式
【0051】
【化1】

【0052】
[式中、R及びRはそれぞれ水素またはC−C18アルキル、アルケン、もしくはアリ−ル基を含んでなる]
で表される構造を有する。例示できるヒドラジンは、式
【0053】
【化2】

【0054】
[式中、R、R、R、及びRはそれぞれ水素またはC−C18アルキル、アルケン、もしくはアリ−ル基を含んでなる]
で表される構造を有する。例示できるヒドロキシルアミン塩は、ヒドロキシルアミン塩酸塩(NHOH・HCl)及びヒドロキシルアミン硫酸塩((NHOH)・HSO)を含み、一方例示できるヒドラジン塩は、ヒドラジン塩酸塩(N・HClまたはN・2HCl)及びヒドラジン硫酸塩(N・HSO)を含む。
【0055】
例示できるヒドロキシアルキルヒドロキシルアミンは、式HO−N−CH−[CH(OH)−R]を有する。但し、式中のRはH及びC−C10アルキルからなる群から選択され、該ヒドロキシアルキルヒドロキシルアミンと溶解酸素との間の反応の初期速度は溶解酸素及び対応するヒドロキシル化されてないアルキルヒドロキシルアミン間の反応の初期速度の約1.5倍以上である。他のヒドロキシアルキルヒドロキシルアミンは、N、N−ビス(2−ヒドロキシエチル)ヒドロキシルアミン、N、N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)ヒドロキシルアミン、及びN、N−ビス(2−ヒドロキシブチル)ヒドロキシルアミンからなる群から選択される。
【0056】
更に例示できる脱酸素剤共添加物は、亜硫酸またはその塩、例えばサルファイト、ビサルファイト、またはチオサルファイトを含んでなる。かくして例えばアルカリ金属塩は、硫酸塩に基づくクロム還元剤と一緒に、アルカリ金属塩、例えば亜硫酸または亜硫酸水素ナトリウム或いは亜硫酸または亜硫酸水素カリウムの形で、液体添加物組成物に混入することができる。
【0057】
本発明の他の例示できる具体例において、サルファイトは、他の共添加物と組み合わせて使用できる。例えば米国特許第4,384,972号は、金属の塩、アルカリ物質、サルファイトまたは他の潮解性化合物、及び随時アスコルビン酸またはその塩の使用を開示している。
【0058】
更に好ましくは、本発明の例示できる方法及び液体添加物組成物は、硫酸塩に基づくクロム還元剤及び、酸化防止剤、脱酸素剤、またはこれらの混合物を含んでなる2つまたはそれ以上の共添加物の使用を含んでなる。従って、本発明の好適な方法は、少なくとも2つの酸化防止剤及び/または脱酸素剤を、粉砕中にセメントクリンカ−へ導入することを含んでなる。例えばアスコルビン酸及びサルファイト(またはその塩及び誘導体)は組み合わせて使用できる。他の例として、フェノール及びヒドロキシルアミン(またはその塩及び誘導体)は組み合わせて使用できる。好ましくはこれらの組合わせ物は、硫酸塩に基づくクロム還元剤と一緒に、同一の液体添加物組成物中に添加されるが、それらはセメントクリンカ−粉砕工程前、中、または後にセメントに添加することができると思われる。
【0059】
次の実施例及び具体例は、例示の目的だけで提示されるものであり、本発明の範囲を限定するものでなく、むしろ同業者が本明細書の開示を考慮して種々の改変を実施することを可能にするものである。
【実施例1】
【0060】
本発明の硫酸スズ組成物は、硫酸スズ粒状物(56g)、及びディウタンゴムに基づくVMA(44g)を一緒に混合して処方した。このVMAはグレ−ス・コンストラクション・プロダクツから商品名V−MAR3として商業的に入手できる。他の適当なVMAもキサンタンゴム、ウェランゴム、及びセルロース、エーテルを、好ましくは随時分散剤を用いて水に分散させて含むことができた。
【0061】
表1は、硫酸スズ固体、硫酸スズ分散液、及び硫酸スズ溶液間の性能比較を示す。すべての添加物は実験室のボールミルで調製したスラグセメントに相互粉砕した。実験室で調
製したセメントの成分割合は、クリンカ−70%、スラグ25%、石膏2.8%、プラスタ−1.9%であった。粉砕物は室温で作った。
【0062】
クロム酸塩還元添加物を表1に示す量で添加した。活性硫酸第一スズの量も示した。可溶性Cr量(ppm、クロム酸塩として)は、調製したままの冷粉砕物に対して、並びに180℃で2時間熱処理したその粉砕物に対して示した。粉砕物を熱処理する目的は、Cr還元剤の大気での酸化に対する相対的耐性、即ちセメントの貯蔵後のその有効性を決定することである。
【0063】
より低い可溶性クロム測定値の場合、分散液中の硫酸第一スズは、乾燥粉末形の添加効率に匹敵するように且つ硫酸第一スズの溶液形の添加効率を凌駕するように見える。
【0064】
ppmでのクロム量は、セメントの細孔(pore)水のUV測定で決定される。可溶性クロム酸塩は277nm及び375nmにおけるUVピークで同定できる。補正はジクロム酸カリウムを用いて行なわれる。セメントの細孔水はセメント:水比2:1のセメントペ−ストを作ることによって得た。9分間混合した後、セメントのペーストを、全部で30分間熟成するまで放置させる。このペーストを延伸分離し、上澄みを傾斜し、ろ過して細孔水を得る。(下表におけるBDLは「検出限界以下」(<0.5ppm)を意味する)。
【0065】
表1
添加物 硫酸スズ 冷粉砕 熱処理
クロム酸塩還元添加物 (ppm) (ppm) Cr Cr
ppm ppm
なし − − 8 9
硫酸第一スズ粉末 40 40 3 4
56%硫酸第一スズ分散液 71 40 BDL BDL
20%硫酸第一スズ溶液 400 80 2 6
硫酸第一スズ粉末 100 100 BDL BDL
56%硫酸第一スズ分散液 179 100 BDL BDL
20%硫酸第一スズ溶液 1000 200 BDL 6
【実施例2】
【0066】
次の成分(%)を有するセメントを用いて同様の実験を行なった。クリンカ−95%、石膏2.8%,プラスタ−1.9%。クロム酸塩還元に関する各性能を、いくつかの試料に対して表2に例示する。
【0067】
表2
添加物 硫酸スズ 冷粉砕 熱処理
クロム酸塩還元添加物 (ppm) (ppm) Cr Cr
ppm ppm
56%硫酸第一スズ分散液 179 100 14 18
56%硫酸第一スズ分散液 357 200 1 5
20%硫酸第一スズ溶液 1000 200 9 19
20%硫酸第一スズ溶液 2000 400 BDL 1
【実施例3】
【0068】
次の成分(%)を有するセメントを用いて他の実験を行なった。クリンカ−65%、スラグ7.5%、石灰石15.1%、天然ポゾロン7.5%、石膏2.8%、プラスタ−1.9%。但しこのパーセントは、全重量に関しての値である。この場合、熱処理されたセメントにおいて、分散液で添加される硫酸スズ200ppmは、溶液で添加される硫酸スズ300ppmの性能に一致した。結果を下表3に示す。
【0069】
表3
添加物 硫酸スズ 冷粉砕 熱処理
クロム酸塩還元添加物 (ppm) (ppm) Cr Cr
ppm ppm
なし − − 8 8
56%硫酸第一スズ分散液 357 200 2 3
20%硫酸第一スズ溶液 1500 300 3 3
【実施例4】
【0070】
次の成分(%)を有するセメント組成物配合を用いて更なる実験を行なった。クリンカ−96%、石膏2.4%,プラスタ−1.5%。固体、液体、及び分散液として供給される硫酸スズを比較すると、分散液として供給される硫酸スズの性能は固体のそれと明らかに等しく、一方溶液で添加される硫酸スズ200ppmはクロム酸塩を同一の程度まで低下させなかった。
【0071】
表4
添加物 硫酸スズ 冷粉砕 熱処理
クロム酸塩還元添加物 (ppm) (ppm) Cr Cr
ppm ppm
なし − − 8 9
56%硫酸第一スズ分散液 357 200 BDL BDL
20%硫酸第一スズ溶液 1000 200 5 8
硫酸第一スズ粉末 200 200 BDL BDL
【実施例5】
【0072】
硫酸スズは、少なくとも1つのアルカノ−ルアミンを含んでなる液体担体中に乾燥粒子として懸濁させることもできる。クロム酸塩の還元に関して、この硫酸スズの添加効率は、硫酸スズ溶液のそれより大きく、且つ大ざっぱに乾燥粉末形の硫酸スズに匹敵することが分かった。
【0073】
硫酸スズ分散液は、次の成分を用いて処方した。水(20g)、硫酸第一スズ(34g)、及びトリイソプロパノ−ルアミン(46g)。ジエタノ−ルイソプロパノ−ルアミンを代わりに用いても、他の分散液を処方することができた。
【0074】
両方のアルカノ−ルアミンを、硫酸鉄(II)を硫酸第一スズの代わりに用いる処方物においても使用した。これは硫酸鉄の必要な添加量を20−30%だけ低下させる効果があったが、その懸濁液は暗色でスラッジ状の外観を呈した。
【0075】
表5は、次の成分を有するセメントに対する実験結果を示す。クリンカ−96%、石膏2.4%,プラスタ−1.5%。本実験に対する材料を準備し、VMAを用いて作られる液体担体(水性分散液)に対する一連の実験と同一の方法で評価した。硫酸スズ50ppm及び硫酸スズ71ppmを溶液で含む試料はトリイソプロパノ−ルアミン(「TIPA])液体担体に分散させた硫酸スズの性能に匹敵しないことが観察された(TIPAはそれ自体クロム酸塩還元剤として機能しなかったとも考えられる)。
【0076】
表5
添加物 硫酸スズ 冷粉砕 熱処理
クロム酸塩還元添加物 (ppm) (ppm) Cr Cr
ppm ppm
なし − 0 8 −
硫酸第一スズ分散液w/TIPA 76 26 2 4
硫酸第一スズ分散液w/TIPA 97 33 1 4
硫酸第一スズ分散液w/TIPA 147 50 BDL 1
20%硫酸第一スズ溶液 250 50 BDL 3
20%硫酸第一スズ溶液 355 71 3 3
【実施例6】
【0077】
次の成分を用いて硫酸スズ分散液を処方した。水(20g)、硫酸第一スズ(26g)、及びトリエタノ−ルアミン(54g)。次いでこのクロム酸塩還元組成物を、混合水の添加直前に、ドライブレンドとして最終セメント(粉砕ミルで製造)に混合した。セメント細孔水を前述したように得、クロム酸塩を前述したようにUVで測定した。結果を図1に示すようにプロットした。
【0078】
上述の実施例及び例示した具体例は、例示の目的だけのものであり、本発明の範囲を限定する意図はない。その改変及び変化は、本明細書に含まれる開示を鑑みて同業者の想定しうるものである。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】20%溶液(従来法)、乾燥粉末形(従来法)、及び本発明による2つの液体担体分散液形態を含む種々の形の硫酸スズ(第一スズ)を用いるクロム還元を例示するグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸鉄(II)、硫酸スズ、またはこれらの混合物を含んでなる固体粒子を複数で含んでなり、該粒子が液体担体内に実質的に均一に分散している、クロム還元液体組成物。
【請求項2】
該分散した硫酸塩の固体粒子が該組成物の全重量に基づいて少なくとも1%及び90%以下の量で存在する、請求項1の組成物。
【請求項3】
該粒子が硫酸スズを含んでなる、請求項2の組成物。
【請求項4】
該液体担体が水性分散液及び少なくとも1つの粘度調整剤を含んでなる、請求項1の組成物。
【請求項5】
該粘度調整剤が、(a)ウェラン(welan)ゴム、ディウタン(diutan)ゴム、キサンタンゴム、ラムサン(rhamsan)ゴム、ゲラン(gellan)、デキストラン、プルラン(pullulan)、カ−ドラン(cardlan),及びこれらの誘導体からなる群から選択されるバイオポリマ−多糖類;(b)アルギン、寒天、カラゲ−ナン、及びこれらの誘導体からなる群から選択されるマリーンゴム;(c)イナゴマメ液、アラビアゴム、カラヤゴム、トラガカント、ガッチ(Ghatti)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される植物滲出物;(d)グア−、イナゴマメ液、オクラ、プシリウム(psyllium)、メスキット(mesquite)、及びこれらの誘導体からなる群から選択される種子ゴム;(e)エ−テル、エステル、及びこれらの誘導体からなる群から選択される澱粉に基づくゴム;(f)疎水性的に改変されたアルカリで膨潤しうるアクリルコポリマ−、疎水性的に改変されたウレタンコポリマ−、ポリウレタン、セルロ−ス、ポリアクリレ−ト、及びポリエ−テルに基づく会合増粘剤からなる群から選択される会合増粘剤、からなる群から選択される、請求項4の組成物。
【請求項6】
該粘度調整剤がバイオポリマ−である、請求項1の組成物。
【請求項7】
該粘度調整剤が該組成物にチキソトロピ−効果を付与する、請求項4の組成物。
【請求項8】
該液体担体が少なくとも1つのアルカノ−ルアミンを含んでなる、請求項1の組成物。
【請求項9】
該アルカノ−ルアミンがトリエタノ−ルアミン、ジエタノ−ルアミン、トリイソプロパノ−ルアミン、及びこれらの塩の形からなる群から選択される、請求項8の組成物。
【請求項10】
トリエタノ−ルアミンを含んでなる液体担体に分散された硫酸スズ粒子を含んでなる、請求項9の組成物。
【請求項11】
該組成物が更に水を含んでなる、請求項10の組成物。
【請求項12】
セメントクリンカ−を請求項1の組成物と相互に粉砕することを含んでなる、6価クロムの還元法。
【請求項13】
水和しうるセメント様(cementitious)材料及び請求項1の組成物を含んでなる組成物。
【請求項14】
該粒子が、粒子をより耐酸化性にする作用のある物質で被覆されている、請求項1の組成物。
【請求項15】
該粘度調整剤がディウタンゴムである、請求項4の組成物。
【請求項16】
該硫酸塩粒子の他に、少なくとも1つの付加的6価クロム還元剤を更に含んでなる、請求項1の組成物。
【請求項17】
該少なくとも1つの付加的6価クロム還元剤が塩化第一スズ、硫酸マンガン、硫化鉄、及び/または塩化第一鉄を含んでなる、請求項16の組成物。
【請求項18】
該少なくとも1つの付加的6価クロム還元剤が金属塩である、請求項16の組成物。
【請求項19】
酸化防止剤、脱酸素剤、またはこれらの混合物を更に含んでなる、請求項1の組成物。
【請求項20】
更に粘度調整剤を含んでなり、且つ該硫酸スズ粒子が組成物の乾燥(dry)重量に基づいて40−70重量%の量で該液体担体中に分散されている、請求項3の組成物。
【請求項21】
更に粘度調整剤を含んでなり、且つ該硫酸スズ粒子が組成物の乾燥重量に基づいて50−60重量%の量で該液体担体中に分散されている、請求項3の組成物。
【請求項22】
更に少なくとも1つのセメント添加物を含んでなる、請求項1の組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−522061(P2007−522061A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541118(P2006−541118)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/022430
【国際公開番号】WO2005/056860
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(399016927)ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー−コネチカット (63)
【Fターム(参考)】