説明

硬化材の注入機構

【課題】鋼矢板等の土留め部材を引き抜く際に地中に硬化材を注入するための有効適切な注入機構を実現する。
【解決手段】鋼矢板1等の土留め部材の先端部に固定されて硬化材を地中に噴出する注入具11と、該注入具に対して硬化材を加圧供給するための注入管21とからなる。注入具は、土留め部材の先端部に固定される保護管12と、該保護管内に配置される内管15からなる。保護管は、周面にノズル孔14が形成され、先端部が鋭角な尖頭部13とされている。内管は、先端が閉じられて周面に硬化材の噴出口が形成され、その噴出口を開閉する弁体20が装着されている。弁体は硬化材の加圧供給時にその供給圧によって外側に弾性的に膨張して噴出口を開くゴムチューブからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤掘削に際して実施される土留め工事に関連し、特に鋼矢板等の土留め部材を埋め戻し後に引き抜くに際してセメントベントナイト等の硬化材を引き抜き後の空隙内に注入するための注入機構に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、地盤掘削に際して掘削部の周囲地盤を保持するために設置される仮設の土留め壁(山留め壁)は掘削部を埋め戻した後に撤去されることが通常であるが、鋼矢板等の土留め部材を単に引き抜いて撤去するだけではそこに空隙が残って地盤が緩む等の様々な悪影響が懸念されることから、予め土留め部材に注入管を取り付けておき、その注入管からセメントベントナイト等の硬化材を注入しながら引き抜きを行うことで空隙を埋めるという工法が提案されている(たとえば特許文献1〜3参照)。
【0003】
上記工法による場合、土留め部材を引き抜く際に硬化材を確実に注入するためには、打ち込み時に注入管に土砂が詰まって閉塞してしまうことを確実に防止する必要がある。
そのため、特許文献1、2では、地中への建込み抵抗で閉じ引き抜き時の地盤の抵抗で開くバルブシューないしスライドバルブを備えた注出口を下端部に有する管を鋼矢板に取り付けておくようにしている。
また、特許文献3では、鋼矢板に取り付けた注入管の先端に円柱状の栓を設けて、鋼矢板の打ち込み時にはその栓をバネにより付勢して噴射口を塞いでおき、引き抜き時には硬化剤の圧力によって栓を押し下げて噴射口を開くことにより硬化剤を噴射するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−108311号公報
【特許文献2】特開昭57−108312号公報
【特許文献3】特開2005−290963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1〜3に示される工法では、注入管にバルブシューやスライドバルブあるいは栓といった可動部材を仕込んだ構成であるので、注入管に土砂が入り込んで注入管が閉塞したり、土砂が可動部材に噛み込んでしまって注入不能になる場合があり、したがって信頼性の点で必ずしも充分なものではないし、いずれも構造が複雑に過ぎる嫌いがあってコスト高でもあるので、広く一般に普及するに至っていない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は充分に簡易な構造でありながら硬化材を確実に注入し得る有効適切な注入機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、地盤掘削に際して地中に圧入され掘削部を埋め戻した後に引き抜かれる鋼矢板等の土留め部材に取り付けられて、該土留め部材を引き抜く際にセメントベントナイト等の液状の硬化材を引き抜き後の空洞内に注入するための注入機構であって、前記土留め部材の先端部に固定されて硬化材を地中に噴出する注入具と、該注入具に対して硬化材を加圧供給するための注入管とからなり、前記注入具は、前記土留め部材の先端部に固定される保護管と、該保護管内に配置されて前記注入管から加圧供給される硬化材を該保護管内に噴出する内管からなり、前記保護管は、周面に硬化材を地中に噴出させるノズル孔が形成され、先端部が鋭角な尖頭部とされているとともに後端が開放端とされていて、該保護管がその先端部を下方に向けた状態で前記土留め部材に対して固定されてその後端から前記内管が内部に挿入可能とされ、前記内管は、先端が閉じられているとともに周面に前記注入管から加圧供給される硬化材が噴出する噴出口が形成されていて、該内管には前記噴出口を開閉する弁体が装着され、前記弁体は、前記内管の外周面に密着状態で装着されて前記噴出口を液密裡に閉じるゴムチューブであって、該弁体は前記硬化材の加圧供給時にその供給圧によって外側に弾性的に膨張して前記噴出口を開くことにより該噴出口から硬化材を噴出せしめる構成とされていることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の硬化材の注入機構であって、前記注入管および前記注入具は、前記土留め部材としての鋼矢板の掘削側の表面において該鋼矢板の側縁部に形成されている継手部に取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の硬化材の注入機構であって、前記注入管は土留め部材の先端部の根入れ部に設けられて、地盤が掘削された際に該注入管の上端部が掘削底面上に露出するようにその長さが設定されているとともに、該注入管の上端に他の注入管としての柔軟なホースが接続可能とされ、該ホースを前記土留め部材に沿わせて配置してその上端部を地表部に至らしめた状態で掘削部を埋め戻した後に、地表部より前記ホースおよび前記注入管を通して前記注入具に硬化材を加圧供給しつつ、前記ホースを前記土留め部材とともに引き抜き可能とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の注入機構を鋼矢板等の土留め部材に予め取り付けて土留め部材とともに地中に圧入し、土留め部材の引き抜き時にこの注入機構から硬化材を地中に注入しながら土留め部材を引き抜くことにより、引き抜き後の空洞に硬化材を直ちに充填してその空隙を塞ぐことができ、引き抜き後に空隙が残ることに起因する様々な悪影響を未然に防止することができる。
【0011】
特に本発明の注入機構は、保護管内に内管を配置した構成の注入具を採用し、硬化材を内管から保護管内に噴出してさらに保護管の周面に形成したノズル孔から地中に噴出せしめるようにし、しかも内管には硬化材の供給圧によって自ずと僅かに膨張して噴出口を開閉するゴムチューブからなる弁体を備えたので、土留め部材を圧入する際に保護管や内管に土砂が入り込んで閉塞してしまうようなことはなく、したがって引き抜き時に硬化材を確実に注入することができる。しかも、土留め部材を引き抜くまでの間に地下水が内管に浸入してしまうこともないから、内管が錆びることも防止できる。
また、本発明の注入機構は弁体がわずかに膨張する以外は可動部が一切ない極めて単純にして簡易な構成であるし、単なる鋼管や鋼材、ゴムチューブといった安価な汎用の資材と部品のみで安価に製作可能であり、またこの注入機構を鋼矢板に対して取り付ける手間を必要とする以外は何ら面倒な手間や操作を必要とせず、これを用いることによる土留め工事全体のコスト増は些少で済み、極めて合理的であり有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の注入機構の実施形態を示すもので、本実施形態の注入機構を鋼矢板に取り付けた状態を示す概略構成図である。
【図2】同、注入具の構成例を示す図である。
【図3】同、注入具の構成例を示す図である。
【図4】同、保護管の構成例を示す図である。
【図5】同、内管の構成例を示す図である。
【図6】同、注入機構を取り付けた鋼矢板による土留め工事の一例を示す図であり、掘削までの工程を示す図である。
【図7】同、鋼矢板を引き抜くまでの工程を示す図である。
【図8】同、注入機構を取り付けた鋼矢板による土留め工事の他の例を示す図であり、掘削までの工程を示す図である。
【図9】同、鋼矢板を引き抜くまでの工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の注入機構10は、土留め部材としての鋼矢板1の掘削側の表面に取り付けられて使用されるものであって、鋼矢板1の先端部付近(たとえば先端から50cm程度の位置)に固定される注入具11と、その注入具11に対して液状の硬化材(たとえばセメントベントナイト)を地表部から加圧供給するための注入管21により構成されるものである。
本実施形態では、図1(b)に示すように鋼矢板1をオーガ2により掘削しながら圧入するようにしており、したがって特許文献1,2に示される従来工法のように注入機構10を鋼矢板1の凹部内に取り付けた場合にはオーガ2と接触してしまうことから、本実施形態では鋼矢板1の両側縁部に形成されている継手部1aのいずれか一方(図示例では掘削側から見て右側の継手部)に対して注入機構10を取り付けることによりオーガ2との干渉を回避するようにしている。
【0014】
本実施形態の注入機構10における注入管21としては、建設・土木用の資材として多用されている汎用の鋼管(例えばSGP 15A)が好適に採用可能であり、図1(a)に示すようにその注入管21を注入具11から頂部までの間にわたって配管して要所を溶接あるいは適宜手段によって鋼矢板1に対して強固に固定することにより、圧入時や引き抜き時の脱落を防止すれば良い。
なお、図示例のように注入管21を鋼矢板1のほぼ全高にわたって配管する場合において、鋼矢板1が長尺な場合には複数本の鋼管をソケット継手により連結して使用すれば良く、その場合はソケット継手を鋼矢板1に対して溶接すれば良い。
また、後述するように硬化材の加圧供給を開始する時点で注入管21の上端に他の注入管としてのホース31を接続することになる(図7(b)参照)が、それまでは注入管21の上端をプラグ22により封止して土砂が入り込むことを防止すると良い。
【0015】
一方、鋼矢板1の先端部に固定される注入具11は、その詳細を図2〜図3に示すように、鋼矢板1の先端部において継手部1aに対して溶接されて固定される保護管12と、その保護管12内に配置される内管15により構成されており、その内管15の基端(上端)に対して上記の注入管21の先端が接続されている。
【0016】
保護管12は鋼材を筒状に加工した部材であって、本実施形態では図4に示すように後端部(上端部)が略5角形の断面形状とされているとともに先端部(下端部)が鋭角な尖頭部13として形成されており、その尖頭部13を下方に向けた状態で平坦な底面を継手部1aに密着させて鋼矢板1に対して溶接されることにより、圧入時や引き抜き時に大きな抵抗になることなく、かつ鋼矢板1から脱落してしまうことのないように確実強固に固定されている。
この保護管12の周面(図示例では底面を除く4面)には複数(図示例では各面に3個ずつ計12個)のノズル孔14が形成されており、後述するように内管15から保護管12内に噴出された硬化材は図2(b)に示すようにそれらノズル孔14から周囲の地中に向けて噴出せしめられるようになっている。
【0017】
上記の保護管21内に配置される内管15は、その詳細を図5に示すように、短管16を主体としてその両端部にソケット17を連結した管体であって、先端側のソケット17にプラグ18が装着されることでこの内管15の先端は閉じられているものである。そして、短管16の周面には注入管21から加圧供給される硬化材を噴出するための複数の噴出口19が螺旋状に配列されて形成されているとともに、短管16の外周面にはそれら噴出口19を開閉するための弁体20としてのゴムチューブが装着されている。
弁体20としてのゴムチューブはバイアス補強材により補強されて充分な強度と弾性を有するもので、短管16の外周面に密着状態で装着されて通常時は噴出口19を液密離に閉塞しているが、硬化材の加圧供給時にはその供給圧によって図5(d)に示すように外側に弾性的にわずかに膨張して噴出口19が開放され、これにより硬化材が噴出されるようになっている。勿論、硬化材の加圧供給が停止されると、弁体20はそれ自身の弾性によって自ずと収縮して噴出口19を塞ぐようになっている。
【0018】
上記の内管15は、図2に示したように、開放端とされている保護管12の後端(上端)からその内部に挿入されて最後端部を残してほぼ全体が保護管12内に配置されるようになっており、その状態で内管15に接続されている注入管21が鋼矢板1に対して溶接等により固定されることにより、内管15は保護管12から抜け出してしまう余地はなく保護管12内に安定に保持されるようになっている。
【0019】
なお、保護管12の内径寸法(最小内法寸法)は内管15の外径寸法(最大径寸法)よりも僅かに大きい程度に設定して、内管15を保護管12内へ支障なく挿入でき、かつ保護管12内における弁体20の僅かな膨張を許容し得るものとしておけば良い。但し、本実施形態では断面形状が略5角形とされている保護管12内に断面円形の内管15を配置することから、保護管12の内面と内管15の外面とは全周にわたって密着することはなく、それらの間には弁体20の膨張(すなわち噴出口19の開放)を許容するための隙間が自ずと確保されるから、内管15を保護管12内に挿入できる範囲内であればそれらの寸法はほぼ同等であっても良い。
また、保護管12の後端と内管15の周面との間に形成される環状の隙間は硬化材を上向きに吹き出すための噴出口としても機能するので、その隙間はそのまま残しておいても特に支障はなく、寧ろ鋼矢板1を引き抜く際にその隙間から上向きに硬化材が噴出されることで引き抜き抵抗を低減できる利点もあるので、その隙間は残しておくことが好ましい。
但し、その隙間から保護管12内に土砂が入り込む余地もあるので、隙間が特に大きいような場合において保護管12内に土砂が入り込んで閉塞が生じる懸念がある場合には、保護管12の後端を内管15の周面(後端側のソケット17の周面)に対して溶接するなどしてその隙間を塞いでしまっても良い。
【0020】
図6〜図7は、地中にボックスカルバート3を施工するに際しての土留め工事として、上記の注入機構10を取り付けた鋼矢板1を用いて土留め壁を施工しかつ撤去する場合の作業手順を示すものである。
図6(a)に示すように上記の注入機構10(注入具11および注入管21)を取り付けた鋼矢板1を土留め壁の施工位置に圧入し、(b)に示すようにその先端部を掘削底面以深まで根入れする。そのようにして鋼矢板1を順次圧入して土留め壁を施工した後、(c)に示すように土留め壁の内側を掘削する。
そこで、図7(a)に示すように掘削底面上にボックスカルバート3を施工し、その完成後に(b)に示すように掘削部全体を埋め戻す。
しかる後に、鋼矢板1を引き抜いて土留め壁を撤去するが、その際にはセメントベントナイト等の硬化材を注入機構10に供給するための加圧供給源装置30を地表部に設置し、注入管21の上端を閉じていたプラグ22(図1参照)を外してその注入管21と加圧供給源装置30とを柔軟なホース31を介して接続する。
そして、(c)に示すように、加圧供給源装置30からホース31、注入管21を介して注入具11に硬化材を加圧供給して、注入具11により周囲地盤に硬化材を加圧注入しながら鋼矢板1を引き抜いていく。
これにより、鋼矢板1を引き抜いた後の空隙に硬化材が直ちに充填されて空隙が残ることはなく、安定な地盤を回復させることができる。
なお、引き抜いた鋼矢板1は再利用できるし、それに取り付けていた注入機構10も、注入管21や注入具11の内部に付着したり残留した硬化材が硬化してしまう以前に速やかに洗浄して清浄化すればそのまま再利用することが可能である。
【0021】
以上で説明したように、本発明の注入機構10を予め鋼矢板1に取り付けておいて、鋼矢板1の引き抜き時に注入機構10によって硬化材を地中に注入しながら鋼矢板1を引き抜くことにより、引き抜き後の空隙が硬化材により直ちに塞がれてしまい、空隙が残ることに起因する様々な悪影響を未然に防止することができる。
特に本発明の注入具11は、硬化材を噴出する内管15にゴムチューブからなる弁体20を装着して鋼矢板1の圧入時には噴出口19を弁体20により封止しておき、しかもその内管15を保護管12内に配置して硬化材をノズル孔14を通して噴出するようにしているので、圧入時に保護管12や内管15に土砂が入り込んでしまうことはないし、仮に保護管12内に多少の土砂が入り込んだとしても硬化材の噴出圧によって吹き飛ばしてしまうことができ、したがって従来のこの種の注入機構のように注入不能になることを確実に防止できるものである。
そして、本発明の注入機構10は機械的な可動部品がなく弁体20が弾性的にわずかに膨張する以外は可動部が一切ないという極めて単純にして簡易な構成であるし、単なる鋼管や鋼材、ゴムチューブといった汎用の安価な資材と部品のみで安価に製作可能なものであり、またこの注入機構10を鋼矢板1に対して予め取り付けること以外は圧入時や注入時に何ら面倒な手間や複雑な操作を必要とせず、これを用いることによる土留め工事全体のコスト増は些少で済み、極めて合理的であり有効である。
【0022】
以上で本発明の基本的な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、たとえば以下に列挙するような様々な設計的変更や応用が可能である。
【0023】
注入管21は上記実施形態のようにを単管とすることに代えて二重管ないし多重管とすることもできる。
また、上記実施形態では注入管21としての鋼管を鋼矢板1のほぼ全高にわたるようにその頂部まで配管したが、注入管21としては圧入時や引き抜き時に破損の懸念がなく、かつ土圧によりつぶれてしまう懸念がなければ、その一部もしくは全体を鋼管に代えてたとえば塩ビ管あるいは耐圧ホース等の他の素材も採用可能である。
特に、上記実施形態のように鋼管からなる注入管21を鋼矢板1の頂部まで予め配管しておくことに代えて、注入管21としての鋼管を先端部の根入れ部に配管するに留めておいて、それに他の注入管としてホースを接続するように構成し、それにより図8〜図9に示す手順により作業を行うことも好ましい。
すなわち、図8(a)〜(c)に示すように、注入管21の長さを短くして掘削後の掘削底面上に注入管21の上端部が露出する程度に設定しておき、(b)に示すように土留め壁を施工した時点では注入管21全体を地中に埋設してしまい、(c)に示すように掘削が完了した時点で注入管21の上端が掘削底面上に露出するようにしておく。
そして、図9(a)に示すように掘削底面上にボックスカルバート3を施工するとともに、この時点で注入管21の上端に他の注入管としての柔軟なホース31を接続して鋼矢板1に沿わせて配置し、その上端部を地表部に導いておく。
その状態で(b)に示すように掘削部を埋め戻してホース31もそのまま埋設してしまい、鋼矢板1を引き抜く際には地表部に硬化材供給源装置30を設置してそれにホース31を接続し、ホース31、注入管21を介して硬化材を注入具11に加圧供給しつつ、鋼矢板1をホース31とともに引き抜いていき、それに伴ってホース31を地表部において巻き取っていけば良い。
このようにすれば、注入管21としての鋼管を必要最小限として他をより安価なホースに代替することでコストを削減できるばかりでなく、図6〜図7に示した工程による場合のように鋼矢板1の引き抜き時にホース31を高所まで引き上げる必要がないので施工性を改善できる効果がある。
なお、この場合に用いるホース31は埋め戻し土中に埋設されてその土圧を受けることから、引き抜き時に損傷してしまうことがなく、かつ土圧によりつぶれてしまって硬化材の供給が不能になることがない程度の強度を有する耐圧ホースを用いることが現実的である。
【0024】
また、上記実施形態における注入具11の構成はあくまで好適な一例であって、注入具11を構成する保護管12や内管15の形状・寸法、それらの各部の具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々に変形可能である。
たとえば、保護管12は尖頭部13を有していて圧入時に大きな抵抗が生じることがなく、また鋼矢板1から脱落してしまうことがないように強固に固定可能なものであり、かつ内管15を安定に保持しつつ内管51から噴出される硬化材をノズル孔14から周囲地盤に噴出できるものであれば良いのであって、その限りにおいて保護管12は上記実施形態のような略5角形の断面形状とすることに限ることはなく、単なる円形鋼管や角形鋼管を加工して形成することも可能であるし、ノズル孔14の数や位置、間隔等も任意に設定すれば良い。
なお、上記実施形態のように保護管12は鋼矢板1に対して溶接により固定してしまうことが現実的ではあるが、不用意に脱落してしまう懸念がなければたとえばボルト締結等の他の手法により取り外し可能な状態で固定することも妨げるものではない。
【0025】
内管15についても、周面に形成した噴出口19を硬化材の供給圧により膨張するゴムチューブからなる弁体20により開閉する構成とすれば良いのであって、その限りにおいて内管15の構成も任意であり、たとえば内管15を注入管21の先端部と一体に形成して注入管21の先端部がそのまま内管15を兼用するように構成することも考えられる。
具体的には、注入管21の先端をプラグ18により封止するとともに先端部の周面に噴出口19を形成してそこにゴムチューブからなる弁体20を装着し、その先端部をそのまま保護管12内に挿入することにより、実質的に上記実施形態と同様の注入具を構成できるし、しかも部品点数を削減し得てさらなる構成の簡略化を実現できる。
【0026】
上記実施形態は鋼矢板1をオーガ2により掘削しながら圧入する場合の適用例であるので、本発明の注入機構10を鋼矢板1の側縁部の継手部1aに取り付けるものとしたが、本発明はそれに限らず、仮設の土留め部材として地中に圧入されて最終的には引き抜かれるものであれば鋼管矢板やH形鋼その他の杭体全般に対して同様に適用できることは当然であるし、そのような土留め部材への取り付け位置や取り付けの形態も土留め部材の断面形状やその圧入/引き抜き工程を考慮して適切に設定すれば良い。
【0027】
本発明の注入機構は土留め壁を構成する多数の土留め部材の全てに対して取り付けることが好ましいが、それに限るものでもなく、1台の注入機構10によって硬化材を広範囲に注入できるような場合には1つおき、あるいは適宜の間隔をおいて、特定の土留め部材にのみ取り付けることでも良いし、逆に必要であれば1つの土留め部材に対して複数の注入機構10を並設する(たとえば、鋼矢板1の両側の継手部1aの双方にそれぞれ注入機構10を取り付ける)ことも考えられる。
また、注入機構10は上記実施形態のように土留め部材の掘削側の表面に取り付けることが現実的であり、図8〜図9に示した作業手順はその場合に限って採用可能であるが、それに限るものでもなく、注入機構10を地山側(掘削側と反対側の表面)に取り付けることでも同様の効果が得られる。
勿論、必要であれば土留め部材の両面にそれぞれ注入機構10を取り付けても良いし、各土留め部材に取り付ける注入機構10を掘削側と地山側の双方に対して交互に取り付けることでも良い。
【0028】
さらに、硬化材としてはセメントベントナイトに限らず、本発明の注入機構10を通して地盤に注入し得る適度の流動性を有する液状のものであれば良く、従来より用いられている各種配合の地盤注入材や薬液をそのまま使用可能である。
但し、いずれにしても土留め壁全体の撤去後の空隙全体に確実に硬化材を注入し得るように、注入機構10の配置計画や硬化材の選択、その供給圧や供給量等は地盤状況を考慮して最適に設定すべきであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 鋼矢板(土留め部材)
1a 継手部
2 オーガ
3 ボックスカルバート
10 注入機構
11 注入具
12 保護管
13 尖頭部
14 ノズル孔
15 内管
16 短管
17 ソケット
18 プラグ
19 噴出口
20 弁体(ゴムチューブ)
21 注入管
22 プラグ
30 加圧供給源装置
31 ホース(注入管)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤掘削に際して地中に圧入され掘削部を埋め戻した後に引き抜かれる鋼矢板等の土留め部材に取り付けられて、該土留め部材を引き抜く際にセメントベントナイト等の液状の硬化材を引き抜き後の空洞内に注入するための注入機構であって、
前記土留め部材の先端部に固定されて硬化材を地中に噴出する注入具と、該注入具に対して硬化材を加圧供給するための注入管とからなり、
前記注入具は、前記土留め部材の先端部に固定される保護管と、該保護管内に配置されて前記注入管から加圧供給される硬化材を該保護管内に噴出する内管からなり、
前記保護管は、周面に硬化材を地中に噴出させるノズル孔が形成され、先端部が鋭角な尖頭部とされているとともに後端が開放端とされていて、該保護管がその先端部を下方に向けた状態で前記土留め部材に対して固定されてその後端から前記内管が内部に挿入可能とされ、
前記内管は、先端が閉じられているとともに周面に前記注入管から加圧供給される硬化材が噴出する噴出口が形成されていて、該内管には前記噴出口を開閉する弁体が装着され、
前記弁体は、前記内管の外周面に密着状態で装着されて前記噴出口を液密裡に閉じるゴムチューブであって、該弁体は前記硬化材の加圧供給時にその供給圧によって外側に弾性的に膨張して前記噴出口を開くことにより該噴出口から硬化材を噴出せしめる構成とされていることを特徴とする硬化材の注入機構。
【請求項2】
請求項1記載の硬化材の注入機構であって、
前記注入管および前記注入具は、前記土留め部材としての鋼矢板の掘削側の表面において該鋼矢板の側縁部に形成されている継手部に取り付けられていることを特徴とする硬化材の注入機構。
【請求項3】
請求項1または2記載の硬化材の注入機構であって、
前記注入管は土留め部材の先端部の根入れ部に設けられて、地盤が掘削された際に該注入管の上端部が掘削底面上に露出するようにその長さが設定されているとともに、該注入管の上端に他の注入管としての柔軟なホースが接続可能とされ、
該ホースを前記土留め部材に沿わせて配置してその上端部を地表部に至らしめた状態で掘削部を埋め戻した後に、地表部より前記ホースおよび前記注入管を通して前記注入具に硬化材を加圧供給しつつ、前記ホースを前記土留め部材とともに引き抜き可能とされていることを特徴とする硬化材の注入機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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