説明

硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置

【課題】出力信号の周波数と振幅とが検出する媒体の特徴に応じて変化する場合であっても、精度の高い出力結果を得ること。
【解決手段】自励発振回路から出力される検知信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得し、取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくし、重み付けされた各サンプリングデータを用いて所定期間における検知信号の実効値を算出するようにした材厚/材質センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬貨の材厚・材質を検出する自励発振型の硬貨センサ、同センサの実効値算出方法および同センサを用いた硬貨識別装置に関し、特に、出力信号の周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができる硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、搬送される硬貨の金種や真偽を識別する硬貨識別装置が知られている。かかる硬貨識別装置は、硬貨の径や厚みあるいは材質といった各特徴を各種のセンサを用いて検出することによって硬貨を識別している。
【0003】
ここで、硬貨の厚みを検出するセンサとして、LC発振回路を用いた材厚センサが用いられる場合がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
具体的には、材厚センサは、コイル間を硬貨が通過するのに伴ってLC発振回路から出力される出力信号を平滑して取り出した所定時間分の出力信号のサンプリングデータから平均値を算出して硬貨識別装置へ出力する。そして、硬貨識別装置は、材厚センサから出力される平均値に基づいて硬貨の材厚を決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−187746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の材厚センサには、硬貨の厚みを精度よく検出することができないという問題があった。具体的には、従来の材厚センサでは、平均値出力つまり直流出力を評価対象としていたので、回路ごとに異なるオフセットの影響および平滑部のCRの時定数による出力信号の遅れが生じていた。また、出力信号を実効値で評価しようとする場合には、LC発振回路から出力される出力信号の周波数が、硬貨の通過や温度変化等によって変動するため、一定時間の実効値を算出しても一定周期分の出力信号を正確に取り出すことがでない。
【0007】
たとえば、11周期分の出力信号のサンプリングデータから実効値を算出したい場合であっても、出力信号の周波数が変動するため、実際には、11.5周期分の出力信号や10.5周期分の出力信号のサンプリングデータから実効値が算出される場合がある。このように一定周期分の出力波を正確に取り出すことができないと、実効値の算出精度が低下し、結果として、材厚の検出精度が低下することとなる。
【0008】
なお、出力信号の周波数を監視することによって、11周期となった時点でサンプリングを停止して実効値を算出することも考えられる。しかし、このようにした場合であっても、サンプリングの終端が11周期の終端と一致するとは限らないため、11周期分の出力信号を正確にサンプリングすることは困難である。
【0009】
これらのことから、出力信号の周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができる硬貨センサ、実効値算出方法あるいは硬貨識別装置をいかにして実現するかが大きな課題となっている。
【0010】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであって、出力信号の周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができる硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、硬貨の性状を磁気的に検出する硬貨センサであって、自励発振回路と、前記自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段によって所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段によって取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け手段と、前記重み付け手段によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記重み付け手段は、前記所定期間の始端および終端へ向かって傾きが緩やかになる重み付け関数を前記サンプリングデータに対して適用することによって前記サンプリングデータへの重み付けを行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記重み付け手段は、前記所定期間の始端および終端においてサンプリングされたサンプリングデータの値が0となる重み付け関数を前記サンプリングデータに対して適用することによって前記サンプリングデータへの重み付けを行うことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記重み付け関数は、前記所定期間の中心を基準として左右対称であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング工程と、前記サンプリング工程において所定期間でサンプリングしたサンプリングデータを取得するデータ取得工程と、前記データ取得工程において取得したサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け工程と、前記重み付け工程によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出工程とを含んだことを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、硬貨センサを含む複数種類のセンサを有する硬貨識別装置であって、前記硬貨センサが有する自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング手段と、前記サンプリング手段によって所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得するデータ取得手段と、前記データ取得手段によって取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け手段と、前記重み付け手段によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出手段と、前記実効値算出手段によって算出された実効値に基づいて前記硬貨の材厚を決定する材厚決定手段と、前記材厚決定手段によって決定された前記硬貨の材厚および他のセンサからの出力結果を用いた多変量解析を行うことによって前記硬貨を識別する硬貨識別手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得し、取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくし、重み付けされた各サンプリングデータを用いて所定期間における出力信号の実効値を算出することとしたため、出力信号の周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明によれば、所定期間の始端および終端へ向かって傾きが緩やかになる重み付け関数をサンプリングデータに対して適用することによってサンプリングデータへの重み付けを行うこととしたため、両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの値とその他のサンプリングデータの値との差がより大きくなる結果、より精度の高い出力結果を得ることができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明によれば、所定期間の始端および終端においてサンプリングされたサンプリングデータの値が0となる重み付け関数をサンプリングデータに対して適用することによってサンプリングデータへの重み付けを行うこととしたため、算出される実効値に対して誤差を与えやすい始端および終端においてサンプリングされたサンプリングデータの値がゼロとなる結果、より精度の高い出力結果を得ることができるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明によれば、重み付け関数が、所定期間の中心を基準として左右対称であることとしたため、始端あるいは終端においてサンプリングされたサンプリングデータの実効値への影響度合が所定期間ごとに異なる場合であっても、精度の高い出力結果を安定して得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明に係る実効値算出手法の概要を示す図である。
【図2】図2は、本実施例に係る硬貨識別装置の外観図である。
【図3】図3は、材厚センサの構成例を示す図である。
【図4】図4は、サンプリング期間の始端および終端が理想的な始端および終端からずれる様子を示す図である。
【図5】図5は、サンプリングデータに対する重み付け関数の適用例を示す図である。
【図6】図6は、実効値によって表される材厚センサの出力波形の一例を示す図である。
【図7】図7は、材厚センサの処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、サンプリング期間を再設定する場合について説明するための図である。
【図9】図9は、硬貨識別装置の構成を示すブロック図である。
【図10】図10は、硬貨識別装置が実行する処理の概要を示す図である。
【図11】図11は、マハラノビスの距離を用いた多変量解析による金種判別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置の実施例を詳細に説明する。
【0023】
まず、実施例の詳細な説明に先立って、本発明に係る実効値算出手法の概要について図1を用いて説明する。図1は、本発明に係る実効値算出手法の概要を示す図である。なお、同図の(A)には、従来の実効値算出手法の概要を示しており、同図の(B)には、本発明に係る実効値算出手法を示している。
【0024】
同図に示すように、本発明に係る実効値算出手法では、自励式の発振回路から出力される出力信号(以下、「検知信号」と記載する)をサンプリングして得られる所定期間内のサンプリングデータを用いて実効値を算出する場合に、所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする点に主たる特徴がある。
【0025】
ここで、実効値とは、所定期間において短い周期で変化する検知信号(交流)の評価値である。具体的には、実効値は、所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータ(振幅値)の二乗和をとって平均した値の平方根をとった値である。
【0026】
同図の(A)に示したように、従来の実効値算出手法では、発振回路からの検知信号を所定時間(たとえば、500us)ごとにサンプリングすることで所定期間ごとの実効値を算出していた。ここで、かかる所定期間を、以下では、サンプリング期間と呼ぶこととする。
【0027】
実効値を精度よく算出するためには、発振回路からの検知信号を一定周期で取り出すことが望ましい。しかし、自励式の発振回路から出力される検知信号の周波数は変動するので、従来の実効値算出手法のように、検知信号を所定時間ごとにサンプリングすることとすると、一定周期分の検知信号を正確に取り出すことができない。
【0028】
すなわち、同図の(A)に示したように、一定周期分の検知信号を取り出すために必要なサンプリング期間(以下、「理想サンプリング期間」と記載する)は、検知信号の周波数の変動に伴って変動する。このため、同図の(A)に示したように、理想サンプリング期間が実際のサンプリング期間よりも短くなった場合には、理想サンプリング期間の終端から実際のサンプリング期間の終端までにサンプリングされたサンプリングデータが、余分に取得されてしまう。
【0029】
そして、理想サンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータだけでなく、余分なサンプリングデータをも用いて実効値を算出すると、余分なサンプリングデータの影響によって実効値に誤差が生じ、結果として、測定精度が低下することとなる。また、理想サンプリング周期が実際のサンプリング周期よりも長くなった場合には、不足するサンプリングデータが発生することによって、上記と同様の問題が生じる。
【0030】
また、ここまでは、実際のサンプリング期間の始端と理想サンプリング期間の始端とが一致すると仮定した場合に、サンプリング期間の終端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータが実効値に対して誤差を与える場合について説明した。しかし、実際には、理想サンプリング期間の始端と実際のサンプリング期間の始端とが一致するとは限らないため、サンプリング期間の始端近傍においてサンプリングされたデータが実効値に対して誤差を与える場合もある。
【0031】
このように、検知信号の実効値は、理想サンプリング周期と実際のサンプリング周期とがずれた場合に、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの影響によって誤差が生じる。しかも、検知信号の周波数が不規則に変動するため、実際のサンプリング周期を理想サンプリング周期と一致させることは困難である。また、検知信号の周波数を監視したとしても、所定のサンプリング間隔でサンプリングを行っている以上、サンプリングの終端が理想サンプリング期間の終端と一致するとは限らないため、一定周期分の検知信号を正確に取得することは困難である。
【0032】
そこで、本発明に係る実効値算出手法では、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくすることによって、実効値の算出精度を高めることとした。
【0033】
具体的には、同図の(B)に示したように、本発明に係る実効値算出手法では、実際のサンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータに対して所定の重み付け関数を掛け合わせることとした。
【0034】
ここで、重み付け関数は、サンプリング期間の両端近傍におけるサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくするような関数であればよい。なお、より望ましくは、サンプリング期間の始端および終端へ向かって傾きが緩やかになる関数を重み付け関数として用いるとよい。
【0035】
たとえば、図1の(B)に示したように、実際のサンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータに対して上記のような重み付け関数を掛け合わせると、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの値が他のサンプリングデータと比較して十分に小さくなる。言い換えれば、サンプリング期間の終端近傍においてサンプリングされた余分なサンプリングデータの値が十分に小さくなるため、これらのサンプリングデータが実効値に与える影響が低下し、結果として、実効値の算出精度が高まることとなる。
【0036】
なお、重み付け関数は、サンプリング期間の始端および終端におけるサンプリングデータの値がゼロとなるような関数であることや、サンプリング期間の中心を基準として左右対称であることが望ましい。このような窓関数として、たとえば、ハニング窓関数等を用いることができる。なお、かかる点の詳細については、図5を用いて後述する。
【0037】
このように、本発明に係る実効値算出手法では、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくすることとしたので、検知信号の振幅だけでなく周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができる。
【0038】
なお、本発明に係る実効値算出手法によって算出された出力結果(または、この出力結果に基づき算出される評価値)を硬貨識別の多変量解析における変数の1つとして用いることによって、多変量解析の精度を高めることもできる。かかる点については、図11を用いて後述する。
【0039】
以下では、図1を用いて説明した実効値算出手法を適用した硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置についての実施例を詳細に説明する。なお、以下に示す実施例では、物体の厚みを検出する材厚センサに対して本発明に係る硬貨センサを適用した場合について説明するが、本発明に係る硬貨センサは、材質センサ・材厚センサ以外のセンサに対しても適用することができる。また、以下に示す実施例では、本発明に係る硬貨識別装置として、磁気センサ、ギザセンサおよび材厚センサを用いて硬貨を識別する硬貨識別装置を用いて説明する。
【実施例】
【0040】
図2は、本実施例に係る硬貨識別装置の外観図である。なお、同図の(A)には、各センサの配置がわかるように、装置上部を搬送面と平行に切断した場合の断面図を示している。また、同図の(B)には、同図の(A)に示したb1−b2断面における断面図を示し、同図の(C)には、同図の(A)に示したc1−c2断面における断面図を示している。
【0041】
図2の(A)に示したように、硬貨100は、片寄せ側搬送路壁31に沿って硬貨識別装置10へ搬送される。また、硬貨100は、硬貨識別装置10の下部ユニット上面31cと、上部ユニットの下面で形成された搬送路を搬送される。ここで、上部ユニットは、片寄せ側上部ユニット32aと、反片寄せ側上部ユニット32bとから構成されている。
【0042】
また、b1−b2断面における片寄せ側上部ユニット32aには、材厚センサ11を構成するポッドコア型センサ(上面側)11aが設けられ、b1−b2断面における反片寄せ側上部ユニット32bと下部ユニットとの間には、ギザセンサ13が設けられている。
【0043】
また、c1−c2断面における片寄せ側上部ユニット32aには、片寄せ側透過センサ12aが、c1−c2断面における反片寄せ側上部ユニット32bには、反片寄せ側透過センサ12bが、それぞれ設けられている。
【0044】
また、同図の(B)に示したように、b1−b2断面における片寄せ側上部ユニット32aにはポッドコア型センサ(上面側)11aが、下部ユニットにはポッドコア型センサ(下面側)11bが、搬送路に対して対向するように設けられている。材厚センサ11は、これらポッドコア型センサ(上面側)11aおよびポッドコア型センサ(下面側)11bを含んで構成される。
【0045】
なお、ポッドコア型センサ(上面側)11aおよびポッドコア型センサ(下面側)11bは、図示しない円筒状のケース(ポッドコア)にコイルを巻回状態で収納して形成されている。また、ギザセンサ13は、搬送路の側壁に設けられた反射型センサであり、硬貨100の外周側面における凹凸(以下、「ギザ」と記載する)を検出する。
【0046】
また、同図の(C)に示したように、c1−c2断面における下部ユニットには、片寄せ側透過センサ12a、反片寄せ側透過センサ12bを励磁するための励磁コイル12cが設けられている。なお、磁気センサ12は、片寄せ側透過センサ12aと反片寄せ側透過センサ12bと励磁コイル12cとを含んで構成される。
【0047】
本実施例に係る硬貨識別装置10は、これら材厚センサ11、磁気センサ12およびギザセンサ13による検出結果を用いて多変量解析を行うことによって硬貨100の識別を行う。特に、本実施例では、材厚センサ11の出力結果である実効値の算出精度を高めることで、多変量解析による硬貨100の識別精度を高めることができる。
【0048】
次に、本実施例に係る材厚センサ11の構成について図3を用いて説明する。図3は、材厚センサ11の構成例を示す図である。なお、同図には、材厚センサ11の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0049】
同図に示すように、材厚センサ11は、硬貨の性状の一つである材厚を磁気的に検出する硬貨センサであって、ポッドコア型センサ(上面側)11aと、ポッドコア型センサ(下面側)11bと、LC発振回路11cと、増幅回路11dとを備えている。
【0050】
なお、同図に示した材厚センサ11、AD(Analog Digital)コンバータ14および実効値算出部15aは、硬貨識別装置10に含まれる構成要素の一部である。ここでは、硬貨識別装置10が実効値算出部15aを有する場合について説明するが、実効値算出部15aは、材厚センサ11が有してもよい。硬貨識別装置10の具体的な構成については、図9を用いて後述する。
【0051】
材厚センサ11は、ポッドコア型センサ(上面側)11aおよびポッドコア型センサ(下面側)11bを直列に接続しおり、ポッドコア型センサ(上面側)11aおよびポッドコア型センサ(下面側)11bは、LC発振回路11cに接続されている。なお、ポッドコア型センサ11a(コイル)およびポッドコア型センサ11b(コイル)は、相互インダクタンスが負となるように直列逆相接続されており、これによってLC発振回路11cを厚み検知センサ用として機能させることができる。一方、ポッドコア型センサ11a,11bを相互インダクタンスが正になるように同相直列接続すれば、LC発振回路11cを材質センサ用として機能させることもできる。
【0052】
LC発振回路11cからの検知信号は、増幅回路11dによって増幅されてADコンバータ14へと出力される。そして、ADコンバータ14は、増幅回路11dからの検知信号を所定時間ごとに所定のサンプリング間隔でサンプリングし、得られたサンプリングデータを実効値算出部15aのデータ取得部150aへ出力する。
【0053】
具体的には、ADコンバータ14は、500usおきに2usのサンプリング間隔でサンプリングを行う。なお、ADコンバータ14は、実際には、500usのうちの前半の256usの期間だけサンプリングを行っている。すなわち、この256usの期間がサンプリング期間となる。
【0054】
ここで、ポッドコア型センサ11a,11b間に硬貨100が到来すると、ADコンバータ14へ出力される検知信号の振幅値が小さくなる。硬貨識別装置10では、かかる振幅値の変化に基づいて硬貨の厚みを検出する。ところが、ポッドコア型センサ11a,11b間を硬貨100が通過している場合には、検知信号の振幅値が減少するだけでなく検知信号の周波数も変動することとなる。したがって、サンプリング期間の始端や終端は、理想サンプリング期間の始端や終端(たとえば、11周期分の検知信号の始端や終端)からずれることとなる。
【0055】
以下では、かかる問題点について図4を用いて説明しておく。図4は、サンプリング期間の始端および終端が理想的な始端および終端からずれる様子を示す図である。なお、同図の(A)には、サンプリング期間の始端が理想的な始端と一致している場合に、サンプリング期間の終端が理想的な終端からずれる様子を示している。また、同図の(B)には、サンプリング期間の終端が理想的な終端と一致している場合に、サンプリング期間の始端が理想的な始端からずれる様子を示している。
【0056】
理想サンプリング期間が検知信号の周波数の変動に伴って変動するため、同図の(A)に示したように、サンプリング期間の始端が理想的な始端と仮に一致している場合であっても、サンプリング期間の終端を理想的なサンプリング期間の終端と一致させることが困難である。
【0057】
このため、理想サンプリング期間が実際のサンプリング期間よりも短くなった場合には、理想サンプリング期間の終端から実際のサンプリング期間の終端までにサンプリングされたサンプリングデータが、余分なサンプリングデータとなる。また、理想サンプリング周期が実際のサンプリング周期よりも長くなった場合には、実際のサンプリング期間の終端から理想サンプリング期間の終端までのサンプリングデータが不足することとなる。
【0058】
同様に、同図の(B)に示したように、サンプリング期間の終端が理想的な終端と仮に一致している場合であっても、サンプリング期間の始端を理想的なサンプリング期間の始端と一致させることも困難である。
【0059】
このため、理想サンプリング期間が実際のサンプリング期間よりも短くなった場合には、理想サンプリング期間の始端から実際のサンプリング期間の始端までにサンプリングされたサンプリングデータが、余分なサンプリングデータとなる。また、理想サンプリング周期が実際のサンプリング周期よりも長くなった場合には、実際のサンプリング期間の始端から理想サンプリング期間の始端までのサンプリングデータが不足することとなる。
【0060】
このように、理想サンプリング周期と実際のサンプリング周期とがずれると、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータが余分なサンプリングデータとなったり、あるいは、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされるべきサンプリングデータが不足したりする。この結果、各サンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータを用いて算出される実効値に誤差が生じることとなる。
【0061】
また、ここでは、サンプリング期間の始端または終端のいずれか一方が理想的な始端または終端と一致している場合について説明したが、実際には、サンプリング期間の始端および終端のいずれも理想的な始端および終端からずれている場合がほとんどであり、そのずれ方もサンプリング期間ごとに異なる。すなわち、サンプリング期間の始端側および終端側のサンプリングデータが実効値に対して与える誤差は、サンプリング期間ごとに異なることとなる。
【0062】
図3に戻り、実効値算出部15aについて説明する。実効値算出部15aは、ADコンバータ14から出力されるサンプリングデータの取得、実効値の算出といった処理を行う処理部である。具体的には、実効値算出部15aは、データ取得部150aと算出処理部150bとを備えている。データ取得部150aは、各サンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータをADコンバータ14から取得する処理部である。また、データ取得部150aは、取得したサンプリングデータを算出処理部150bへ渡す。
【0063】
なお、各サンプリング期間においてサンプリングされるサンプリングデータには、上述したように、サンプリング期間の始端近傍や終端近傍において余分なサンプリングデータが含まれる場合がある。同様に、各サンプリング期間では、サンプリング期間の始端近傍や終端近傍においてサンプリングデータが不足していたりする場合がある。
【0064】
算出処理部150bは、各サンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータに対して所定の重み付け関数を掛け合わせたうえで、これらのサンプリングデータを用いて実効値を算出する処理部である。ここで、サンプリングデータに対する重み付け関数の適用例について図5を用いて説明する。図5は、サンプリングデータに対する重み付け関数の適用例を示す図である。ここで、同図の(A)には、サンプリングデータに対してハニング窓関数を適用した場合の適用例を示す図であり、同図の(B)には、その他の重み付け関数の例を示している。
【0065】
なお、同図の(A−1)では、データ取得部150aから取得したサンプリングデータを黒丸印で示している。また、同図の(A−2)では、ハニング窓関数を適用後のサンプリングデータをバツ印で示している。また、同図の(A−1)および(A−2)に示した隣接するサンプリングデータ間を結ぶ直線は、説明の便宜上記したものである。
【0066】
同図の(A−1)および(A−2)に示したように、算出処理部150bは、同一のサンプリング期間においてサンプリングされたサンプリングデータに対してハニング窓関数を掛け合わせる。ここで、ハニング窓関数は、
【数1】

式(1)によって表される窓関数である。ここで、式(1)中の「x」は、サンプリング期間の始端を0とし、サンプリング間隔を1とした場合における各サンプリングデータの水平軸上の座標値をあらわしており、「N」は、サンプリングデータの総数をあらわしている。
【0067】
このように、算出処理部150bは、サンプリングデータに対してハニング窓関数を掛け合わせることによって、サンプリング期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの値が小さくなる。これにより、たとえば、同図の(A−1)に示したように、サンプリング期間の終端に余分なサンプリングデータが存在する場合であっても(同図の(A−1)の(a)参照)、これら余分なサンプリングデータの値を小さくすることができる(同図の(A−2)の(b)参照)。
【0068】
ここで、重み付け関数は、サンプリング期間の両端近傍におけるサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくするような関数であればどのような関数でもよいが、特に、サンプリング期間の始端および終端におけるサンプリングデータの値がゼロとなるような関数を用いるのが好ましい。このような重み付け関数を用いることによって、サンプリング期間の始端および終端におけるサンプリングデータの影響をなくすことができるため、より精度の高い出力結果を得ることができる。なお、このような重み付け関数としては、たとえば、三角形関数(バートレット窓関数)を用いることができる(同図の(B)参照)。
【0069】
さらに、重み付け関数は、サンプリング期間の始端および終端へ向かって傾き緩やかになる関数を用いるとよい。このような重み付け関数を用いることによって、両端近傍におけるサンプリングデータの値を両端以外のサンプリングデータに対してより小さくすることができるため、さらに精度の高い出力結果を得ることができる。なお、このような重み付け関数としては、たとえば、同図の(A)に示したハニング窓関数の他に、ハン窓関数やブラックマン窓関数あるいは標準正規分布等を用いることができる(同図の(B)参照)。
【0070】
また、重み付け関数は、サンプリング期間の中心を基準として左右対称であることが望ましい。これは、上述したように、サンプリング期間の始端近傍および終端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータがそれぞれ実効値に対して与える影響の度合いが、サンプリング期間ごとに異なるためである。
【0071】
すなわち、あるサンプリング期間においては、サンプリング期間の始端近傍におけるサンプリングデータの影響が大きくなり、他のサンプリング期間においては、サンプリング期間の終端近傍におけるサンプリングデータの影響が大きくなる場合がある。このように、実効値がサンプリング期間の始端近傍におけるサンプリングデータまたは終端近傍におけるサンプリングデータのどちらにより大きく影響されるかがわからない場合であっても、サンプリング期間の中心を基準として左右対称な重み付け関数を用いることによって、精度の高い出力結果を安定して得ることができる。
【0072】
また、算出処理部150bは、ハニング窓関数によって重み付けされたサンプリングデータを用いてサンプリング期間における検知信号の実効値を算出する。具体的には、算出処理部150bは、
【数2】

式(2)によってあらわされる式を用いることによって、各サンプリングデータに対する重み付けと、重み付け後のサンプリングデータを用いた実効値の算出とを同時に行う。ここで、式(2)中の「f(i)」は、水平軸上の座標値「i」に位置するサンプリングデータの値をあらわしている。
【0073】
そして、算出処理部150bは、上記の式(2)を用いて算出した実効値を硬貨識別装置10の制御部へ出力する。
【0074】
ここで、図6に、実効値によって表される材厚センサ11の出力波形の一例を示す。なお、同図では、縦軸を実効値(Vrms)とし、横軸を時間(t)としている。同図に示すように、材厚センサ11から出力される実効値によって出力波形30が得られる。硬貨識別装置の制御部(後述する図9に示した材厚決定部15b)は、かかる出力波形30に基づき、硬貨100の材厚に関する複数の評価値を算出する。
【0075】
特に、材厚決定部15bは、同図に示した領域300aや領域300bにおける実効値を用いることによって硬貨100の縁部の厚みに関する評価値を算出する。ここで、領域300aは、硬貨100が進入時における実効値の変化を示し、領域300bは、硬貨100が退出時における実効値の変化を示している。具体的には、材厚決定部15bは、領域300aにおける実効値の微分値を算出し、得られた複数の極大値および極小値のうち、最大の極大値から最小の極小値を差し引いた値を領域300aの評価値とする。また、材厚決定部15bは、領域300bについても同様に評価値を算出する。
【0076】
このように、実効値間のわずかな差分に基づいて評価値が算出されるため、実効値に含まれる誤差が大きい場合、評価値に大きな影響を与えることとなる。本実施例では、サンプリングデータに対して重み付け関数を適用することで、実効値の算出精度を高めることとしたため、評価値を精度よく算出することができ、結果として、硬貨100の識別精度を高めることができる。
【0077】
次に、本実施例に係る実効値算出部15aの具体的動作について図7を用いて説明する。図7は、実効値算出部15aの処理手順を示すフローチャートである。なお、同図においては、実効値算出部15aが実行する処理手順のうち、1つの実効値を算出して材厚決定部15bへ出力するまでの処理手順のみを示す。
【0078】
同図に示すように、実効値算出部15aのデータ取得部150aは、ADコンバータ14からサンプリングデータを取得し(ステップS101)、算出処理部150bへ渡す。つづいて、算出処理部150bは、同一サンプリング期間内にサンプリングされた全てのサンプリングデータを取得すると、これらのサンプリングデータに対して重み付け関数を用いた重み付けを行うとともに、重み付けされたサンプリングデータを用いて実効値を算出する(ステップS102)。
【0079】
そして、算出処理部150bは、算出した実効値を材厚決定部15bへ出力して(ステップS103)、処理を終了する。なお、ステップS102の処理は、実際には、同一サンプリング期間内にサンプリングされたサンプリングデータを用いて式(2)を演算することよって行われる。また、同一サンプリング期間内にサンプリングされた全てのサンプリングデータをデータ取得部150aから取得したか否かの判定は、たとえば、最初のサンプリングデータを取得してから所定時間が経過したか否かを判定したり、所定個数のサンプリングデータを取得したか否かを判定したりすることによって行うことができる。
【0080】
ところで、たとえば図5(A)では、サンプリング期間の中心と検知信号の谷の頂点とが一致しているが、これらは常に一致するとは限らず、サンプリング期間の中心が検知信号の谷の中腹に位置したりする場合がある。これは、検知信号の周波数が変動するためであり、また、サンプリング期間の始端を単純に時間間隔で決定しているためでもある。
【0081】
ここで、サンプリング期間の中心近傍は、重み付け関数によって大きな重み付けがなされる部分であるため、サンプリング期間の中心近傍の出力波形がサンプリング期間ごとにずれると、実効値の算出精度に影響を及ぼすおそれがある。そこで、サンプリング期間の中心が検知信号の基準位置(たとえば、山や谷の頂点)と一致するようにサンプリング期間を再設定してもよい。この場合には、すでに信号はメモリ上に展開されているので、メモリーサーチによって実現可能である。
【0082】
以下では、かかる点について図8を用いて説明する。図8は、サンプリング期間を再設定する場合について説明するための図である。ここで、同図の(A)には、サンプリング期間の中心を検知信号の山の頂点と一致させる様子を示しており、同図の(B)には、サンプリング期間の中心が検知信号の山の頂点と一致した状態で重み付け関数を適用する様子を示している。
【0083】
なお、かかる場合、ADコンバータ14は、LC発振回路11cからの検知信号を常にサンプリングし、サンプリングデータをデータ取得部150aへ出力するものとする。また、データ取得部150aは、ADコンバータ14から出力されるサンプリングデータを所定のメモリへ記憶するとともに、かかるメモリの中から所定期間におけるサンプリングデータを取り出すものとする。すなわち、ここでは、データ取得部150aによって取り出されたサンプリングデータに対応する始端から終端までの期間がサンプリング期間となる。
【0084】
同図の(A)に示すように、データ取得部150aは、所定のメモリから取り出したサンプリングデータのうち、サンプリング期間の中心に位置するサンプリングデータが、検知信号の山の頂点と一致しない場合には、これらが一致するようにサンプリング期間を再設定する。すなわち、所定のメモリからサンプリングデータを取り直す。
【0085】
具体的には、データ取得部150aは、まず、取り出したサンプリングデータを補間することによってLC発振回路11cからの検知信号(アナログ信号)を仮想的に復元し、サンプリング期間の中心に最も近い位置に存在する検知信号の山の頂点を特定する。たとえば、同図の(A)に示したように、データ取得部150aは、サンプリング期間の中心が座標X1に位置する場合、座標X1に最も近くに存在する検知信号の山の頂点の座標X2を特定する。
【0086】
そして、データ取得部150aは、サンプリング期間の中心が座標X2と一致するようにサンプリング期間を再設定する。具体的には、データ取得部150aは、サンプリング期間を水平軸方向にずらすことによってサンプリング期間の中心と検知信号の山の頂点とを一致させる。たとえば、同図の(A)に示した場合には、X2−X1だけずらせばよい。そして、データ取得部150aは、所定のメモリに記憶されたサンプリングデータの中から、再設定したサンプリング期間におけるサンプリングデータを再度取り出したうえで、算出処理部150bへと渡す。
【0087】
これによって、同図の(B)に示したように、サンプリング期間の中心は、検知信号の山の頂点と常に一致させることができる。このため、重み付け関数によって大きな重み付けがなされる部分であるサンプリング期間の中心近傍の出力波形が、サンプリング期間ごとにずれるおそれがなくなる結果、実効値をより精度よく算出することができる。
【0088】
次に、本実施例に係る硬貨識別装置10の構成について説明する。図9は、硬貨識別装置10の構成を示すブロック図である。なお、同図には、硬貨識別装置10の特徴を説明するために必要な構成要素のみを示しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0089】
同図に示すように、硬貨識別装置10は、材厚センサ11と、磁気センサ12と、ギザセンサ13とADコンバータ14と制御部15とを備えている。また、制御部15は、実効値算出部15aと材厚決定部15bとギザ算出部15cと硬貨識別部15dとを備えている。なお、実効値算出部15aは、図3に示したように、メモリを備えたデータ取得部150aと算出処理部150bとを備えている。
【0090】
磁気センサ12は、硬貨100の直径を検出するセンサである。具体的には、磁気センサ12は、励磁コイル12cに対する信号印加によって片寄せ側透過センサ12aで検出されるセンサ出力と、反片寄せ側透過センサ12bで検出されるセンサ出力とを硬貨100の直径の検出結果として硬貨識別部15dへ出力する。また、ギザセンサ13は、反射型センサによって検出されるセンサ出力をギザの検出結果としてギザ算出部15cへ出力する。なお、硬貨識別部15dは、材厚決定部15b、ギザ算出部15cおよび磁気センサ12からの出力結果を用いて硬貨100の判定を行うこととなる。
【0091】
制御部15は、材厚センサ11からの出力結果(実効値)に基づく材厚決定処理や硬貨識別処理といった処理を行う処理部である。実効値算出部15aは、上述したように、ADコンバータ14から出力されるサンプリングデータの取得、取得したサンプリングデータのメモリへの記憶、実効値の算出といった処理を行う処理部である。また、実効値算出部15aは、算出した実効値を材厚決定部15bへ渡す処理も行う。
【0092】
材厚決定部15bは、算出処理部15bによって算出された実効値に基づいて硬貨の材厚を決定する処理部である。具体的には、材厚決定部15bは、実効値によって表される出力波形(図6参照)から材厚に関する複数の評価値を算出して硬貨識別部15dへ渡す。ギザ算出部15cは、ギザセンサ13からの出力結果を用いて硬貨100のギザに関する評価値を算出する処理部である。
【0093】
硬貨識別部15dは、材厚決定部15bから取得した材厚に関する評価値や他のセンサからの出力結果を用いた多変量解析を行うことによって硬貨100を識別する処理部である。
【0094】
ここで、硬貨識別装置10が実行する処理の概要について説明する。図10は、硬貨識別装置10が実行する処理の概要を示す図である。なお、同図の(A)には、図2の(A)と同様の方向から見た硬貨識別装置10の概略図を示し、同図の(B)には、硬貨識別装置10によって実行される各処理のタイミングチャートを示している。
【0095】
同図の(A)に示したように、搬送ピン51で支持された硬貨100が同図の100aに示した位置に到来したタイミング、すなわち、タイミングセンサ18の位置に到来したタイミング(同図のT1参照)で、励磁コイル12cは、同図の(B)に示したように、制御部15の指示によって3周波数合成発振を行う。ここで、3周波数合成発振とは、高周波(たとえば、250kHz)の信号、中周波(たとえば、16kHz)の信号および低周波(たとえば、4kHz)の信号を合成して発振することを示す。
【0096】
一方、同図の(B)に示したように、片寄せ側透過センサ12aおよび反片寄せ側透過センサ12bでは、3周波数の合成信号のサンプリング(a)が行われる。つづいて、制御部15は、サンプリング(a)で取得されたデータについて、高速フーリエ変換処理(FFT処理)を行うことによって、3周波数にそれぞれ対応する検知信号を抽出する。なお、かかるFFT処理によって得られた各特定周波数の振幅値は、磁気センサ12の設置位置に硬貨100がない場合の基準値として用いられる。
【0097】
ところで、励磁コイル12cでは、3周波数合成発振が完了すると、制御部15の指示によって単一周波数発振を行う。これに伴い、同図の(B)に示したように、制御部15によって硬貨中心検出処理が行われる。具体的には、硬貨端が磁気センサ12に到来すると、励起信号の振幅値が減少しはじめる。そして、硬貨中心がセンサ中心と一致すると、振幅値の変化率は0となる。制御部15は、かかる振幅値の変化率をモニターすることによって、変化率が0となるタイミング、すなわち、振幅値の極小値を検出する。
【0098】
つづいて、同図の(A)に示したように、硬貨100が同図の100bの位置、すなわち、硬貨中心がセンサ中心と一致する位置に達したタイミング(同図のT2参照)を制御部14が検出すると、励磁コイル12cでは、制御部15の指示によって3周波数合成発振を行う。
【0099】
ここで、同図の(B)に示したように、片寄せ側透過センサ12aおよび反片寄せ側透過センサ12bでは、サンプリング(b)が行われる。つづいて、制御部15は、サンプリング(b)で取得されたデータについて、FFT処理を行う。なお、かかるFFT処理によって得られた各特定周波数の振幅値は、硬貨中心がセンサ中心と一致する位置における計測値として用いられる。
【0100】
つづいて、同図の(A)に示したように、硬貨100が同図の100cの位置、すなわち、材厚センサ11の位置に到来したタイミング(同図のT3参照)を制御部15が検出すると、材厚センサ11による材厚波形採取処理およびギザセンサ13によるギザ波形採取処理が並行して行われる。ここで、材厚波形最終処理は、図7に示したステップS101〜S103の処理に相当する。
【0101】
つづいて、同図の(A)に示したように、硬貨100が同図の100dの位置、すなわち、材厚センサ11の検出範囲から外れたタイミング(同図のT4参照)を制御部15が検出すると、材厚決定部15bによって材厚決定処理が行われるとともにギザ算出部15cによってギザ算出処理が行われる(材厚・ギザ算出処理)。具体的には、材厚決定部15bは、材厚に関する評価値およびギザに関する評価値を材厚センサ11からの出力結果(実効値)およびギザセンサ13からの出力結果を用いてそれぞれ算出する。
【0102】
そして、材厚・ギザ算出処理が完了し、算出した各評価値が硬貨識別部15dへ出力されると、硬貨識別部15dは、これら各評価値および磁気センサ12からの各出力結果を用いた多変量解析を行うことによって硬貨100を識別するとともに、識別結果の送信処理を行う。
【0103】
具体的には、硬貨識別部15dは、いわゆるマハラノビスの距離を用いて硬貨100の金種や真偽を識別する。マハラノビスの距離とは、確率分布を考慮した距離であり、多変数間の相関を用いた多変量解析に一般的に用いられている。本実施例では、材厚・ギザ算出処理によって算出された各評価値および磁気センサ12からの各出力結果を各変数として用いることによってマハラノビスの距離が算出されることになる。
【0104】
ここで、マハラノビスの距離を用いた多変量解析による金種判別の例について図11を用いて説明しておく。図11は、マハラノビスの距離を用いた多変量解析による金種判別の例を示す図である。ここで、同図における白丸印は金種Aのサンプル値を、バツ印は金種Bのサンプル値を、それぞれ示している。そして、同図におけるX軸およびY軸は、各センサによって得られる変数値(たとえば、評価値)を示している。
【0105】
同図に示したように、マハラノビスの距離を用いた金種判別では、金種A範囲は、分布中心71について所定の閉曲線内の領域となり(同図の「金種A範囲」参照)、金種B範囲は、分布中心72について所定の閉曲線内の領域となる(同図の「金種B範囲」参照)。そして、硬貨識別部15dは、X軸およびY軸にそれぞれ対応する変数値によって得られる座標が金種A範囲に含まれる場合には、硬貨100の金種をAと判定し、金種B範囲に含まれる場合には、硬貨100の金種をBと判定する。
【0106】
なお、ここでは、説明を簡略化するために、二次元の情報空間を用いて説明したが、情報空間の次元数は、各センサから得られる変数の数に対応して増減する。すなわち、各センサから得られる変数の数が10個である場合には、情報空間の次元数は、10次元となる。
【0107】
このように、硬貨識別装置10は、各センサから得られる評価値や出力結果等の相関を用いた多変量解析を行うことによって硬貨100の識別を行う。このとき、硬貨識別装置10では、窓関数を適用することによって算出された精度の高い実効値を用いて材厚に関する評価値を算出し、かかる評価値を多変量解析の変数として用いるため、多変量解析による硬貨100の識別精度を高めることができる。
【0108】
上述してきたように、本実施例では、ADコンバータ14が、自励発振式のLC発振回路11cから出力される検知信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングし、データ取得部150aが、所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得するとともに取得したサンプリングデータをメモリへ記憶し、算出処理部150bが、取得されたサンプリングデータのうち、所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくして、重み付けされた各サンプリングデータを用いて所定期間における検知信号の実効値を算出することとした。したがって、出力信号の振幅だけでなく周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0109】
以上のように、本発明に係る硬貨センサ、実効値算出方法および硬貨識別装置は、出力信号の周波数が変動する場合であっても精度の高い出力結果を得たい場合に有用であり、特に、硬貨センサを含む複数種類のセンサを用いて硬貨の識別を行う場合に適している。
【符号の説明】
【0110】
10 硬貨識別装置
11 材厚センサ
11a ポッドコア型センサ(上面側)
11b ポッドコア型センサ(下面側)
11c LC発振回路
11d 増幅回路
12 磁気センサ
12a 片寄せ側透過センサ
12b 反片寄せ側透過センサ
12c 励磁コイル
13 ギザセンサ
14 ADコンバータ
15 制御部
15a 実効値算出部
150a データ取得部
150b 算出処理部
15b 材厚決定部
15c ギザ算出部
15d 硬貨識別部
31 片寄せ側搬送路壁
31c 下部ユニット上面
32a 片寄せ側上部ユニット
32b 反片寄せ側上部ユニット
100 硬貨

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬貨の性状を磁気的に検出する硬貨センサであって、
自励発振回路と、
前記自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング手段と、
前記サンプリング手段によって所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段によって取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け手段と、
前記重み付け手段によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出手段と
を備えたことを特徴とする硬貨センサ。
【請求項2】
前記重み付け手段は、
前記所定期間の始端および終端へ向かって傾きが緩やかになる重み付け関数を前記サンプリングデータに対して適用することによって前記サンプリングデータへの重み付けを行うことを特徴とする請求項1に記載の硬貨センサ。
【請求項3】
前記重み付け手段は、
前記所定期間の始端および終端においてサンプリングされたサンプリングデータの値が0となる重み付け関数を前記サンプリングデータに対して適用することによって前記サンプリングデータへの重み付けを行うことを特徴とする請求項1または2に記載の硬貨センサ。
【請求項4】
前記重み付け関数は、
前記所定期間の中心を基準として左右対称であることを特徴とする請求項2または3に記載の硬貨センサ。
【請求項5】
自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング工程と、
前記サンプリング工程において所定期間でサンプリングしたサンプリングデータを取得するデータ取得工程と、
前記データ取得工程において取得したサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け工程と、
前記重み付け工程によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出工程と
を含んだことを特徴とする実効値算出方法。
【請求項6】
硬貨センサを含む複数種類のセンサを有する硬貨識別装置であって、
前記硬貨センサが有する自励発振回路から出力される出力信号を所定のサンプリング間隔でサンプリングするサンプリング手段と、
前記サンプリング手段によって所定期間においてサンプリングされたサンプリングデータを取得するデータ取得手段と、
前記データ取得手段によって取得されたサンプリングデータのうち、前記所定期間の両端近傍においてサンプリングされたサンプリングデータの重み付けを他のサンプリングデータよりも小さくする重み付け手段と、
前記重み付け手段によって重み付けされた各サンプリングデータを用いて前記所定期間における出力信号の実効値を算出する実効値算出手段と、
前記実効値算出手段によって算出された実効値に基づいて前記硬貨の材厚を決定する材厚決定手段と、
前記材厚決定手段によって決定された前記硬貨の材厚および他のセンサからの出力結果を用いた多変量解析を行うことによって前記硬貨を識別する硬貨識別手段と
を備えたことを特徴とする硬貨識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−154637(P2011−154637A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17039(P2010−17039)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】