説明

硬質金属材料、硬質金属コーティング、金属材料の処理方法および金属コーティングの形成方法

【課題】硬質金属材料とこれを製造する方法及び基板上に硬化された表面を形成する方法を提供する。
【解決手段】硬質金属材料は、少なくとも55%の鉄と、B,C,Si及びPのうちの少なくとも一つとを含有する。この金属材料の混合物は合金に形成され、所定の速度で冷却されることによって、9.2GPaよりも高い硬度を有した金属材料となる。本発明はまた、固体の塊から粉末を形成する過程と、その粉末を金属ストリップと組み合わせてワイヤを形成する過程と、ワイヤを基板表面に堆積して金属ガラスを含有する層を形成する過程と、堆積させた金属ガラスがナノ結晶性粒子サイズを有するように結晶性材料に変換する過程とによって、基板上に、硬化された表面を形成する方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の契約事項
本発明は、米国エネルギー省より与えられた、契約番号DE−AC07−99ID13727の下、米国政府の援助によってなされたものである。米国政府は、本発明において一定の権利を有するものである。
【0002】
関連発明情報
本願は、本願に援用されるべき、2000年11月9日付米国特許出願第09/709,918号の一部継続出願である。
【0003】
本発明は、硬質金属材料および硬質金属材料の形成方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ある種の合金は非常に強靭な特性を有した金属合金であり、強度が要求され又は強靭であることが好ましい構造体に一般的に用いられている。この合金は、例えば、ビル構造体の骨組み、工具、エンジン部品、及び近代兵器の保護シールドに用いられている。
【0005】
本願の合金の組成は、合金の用途に依存して変化する。本明細書及び請求の範囲を理解する上で、本願の合金は、鉄をベースにした如何なる合金でもよく、他の単一元素(鉄以外の)が30重量%を超えては存在せず、鉄の含有量が少なくとも55重量%であり、且つ炭素は最大2重量%に制限された合金として定義される。鉄に加えて、本願の合金は、例えば、マンガン、ニッケル、クロム、モリブデン、又はバナジウムを含有することができる。したがって、本願の合金は、典型的には、少量のリン、炭素、イオウ及びシリコンを含有することができる。
【0006】
合金は、その内部構造を画定する三次元格子を形成する周期的な積層配置を有しており、原子の規則的な配列から構成されている。標準的な合金の内部構造(時々、「微細構造」と呼ばれる)は、多結晶質(多くの結晶粒子からなる)である。組成と処理方法は共に、合金材料の構造と特性に影響する重要な要素である。従来の合金の加工処理においては、硬度の増加は、それに応じた靭性の減少を伴うものである。合金の硬度を増す従来の方法によって製造された合金材料は、非常に壊れ易い合金材料となり易かった。
【0007】
合金は、典型的には溶融された合金材料を冷却することによって形成される。従来の合金では、冷却速度は、合金を主に結晶質粒子からなる内部構造を形成するように冷却するか、または、まれではあるが、主に非晶質(所謂、金属ガラスと言われる)の構造を形成するように冷却するかによって決められる。一般的には、冷却がゆっくり進めば(即ち、10K/sより遅い速度)大きな粒子サイズとなり、他方、冷却が速く進めば(即ち、10K/sと同じかそれよりも速い速度)微結晶質の内部粒子構造が形成されることが分かっている。また、従来の合金では見られない特に稀なケースでは、非晶質金属ガラスが形成されることが分かっている。溶融合金の特定の組成は、一般的には、その合金が急速に冷却されるとき、微結晶質の粒子構造を形成するか、または非晶質ガラスを形成するかによって決まる。
【0008】
微結晶質粒子内部構造と金属ガラス内部構造は共に、合金への適用に特に望ましい特性を持つことができる。例えば、ある種の非晶質特性を有する金属ガラスは、非常に高い強度と硬度を持つことができる。しばしば、粒子構造の特性を変えることが望まれるが、そのような特性は、粒子サイズを減少させることによって改善される。例えば、微結晶質粒子(即ち、粒子のサイズが10−6m程度のもの)の望ましい特性は、粒子サイズをナノ結晶質粒子(即ち、粒子のサイズが10−9m程度のもの)に減少させることによってしばしば向上させることができる。一般的には、微結晶質粒子サイズの粒子を形成するよりも、ナノ結晶質粒子サイズの結晶質粒子を形成することの方がより問題が多く、また従来の方法を用いたのでは通常不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ナノ結晶質粒子サイズの結晶粒子構造を有する金属材料を形成する改良された方法を開発することが望まれている。さらに、金属ガラス構造を有することがしばしば望まれるので、金属ガラスを形成する方法を開発することが望ましい。さらに、靭性を損なうことなく硬度を増加させることができる金属の処理方法を開発することが望ましい。
【0010】
一つの特徴として、本発明は、硬質金属材料を製造する方法に関する。少なくとも55重量%の鉄と、B,C,Si及びPのうちの少なくとも一つを有する成分の混合物から合金が形成され、その合金は、9.2GPaよりも大きい硬度を有した金属材料を形成するために、5000K/sよりも遅い速度で冷却される。一つの特徴として、本発明は、少なくとも55%の鉄と、B,Si,P及びCのうちの少なくとも一つからなる金属材料に関する。その金属材料は、不純物を除き、11の元素より少ない総数の成分組成を有し、1100℃から1250℃の間の融点を有し、9.2GPaよりも大きい硬度を有する。一つの特徴として、本発明は、ワイヤ(wire:金属線)を形成する方法に関する。第1の組成を有する金属ストリップ(strip: 細長い一片)と第2の組成を有する粉末体は、第1の組成と第2の組成が混合して第3の組成を含むワイヤを形成するために、圧延/押出される。第3の組成は、少なくとも55重量%の鉄と、少なくともC,Si及びBのうちの少なくとも一つを含む2から7個の追加元素を含有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一つの特徴として、本発明は、硬化された表面を基板上に形成する方法に関する。第1の硬度を有した固体の塊は、粉末体を形成するために処理される。その粉末体は、第2の硬度を有する層を形成するために、基板の表面に堆積される。層の少なくとも幾らかの部分は、ナノ結晶質粒子サイズを有した結晶質材料に結晶構造を変化させることのできる金属ガラスを含む。金属ガラスから結晶質材料への変化は、層を、第1硬度よりも大きく且つ第2硬度よりも大きい第3硬度に硬化させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明による方法のフローチャートのブロック図である。
【図2】図2は、本発明による加工方法のフローチャートのブロック図である。
【図3】図3は、本発明の方法により生成された金属粉末体のSEM顕微鏡写真である。
【図4】図4は、本発明の方法による予備処理ステップにおける金属材料の部分概略断面図である。
【図5】図5は、図4の金属材料の次の処理ステップにおける図4の金属材料の図である。
【図6】図6は、本発明による加工の処理ステップにおける金属材料基板の部分概略断面図である。
【図7】図7は、高速フレーム(high velocity oxy−fuel)堆積法により、4340合金、13−8ステンレス鋼及び7075アルミニウム基板上に形成されたFe63CrMo17SiAlからなるコーティングの例を示す。
【図8】図8は、図7のFe63CrMo17SiAlの気孔率を示す断面を示す。
【図9A】図9Aは、プラズマ堆積法により堆積された(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなるコーティングの気孔率を明示する断面図を示す。
【図9B】図9Bは、高速フレーム堆積法により堆積された(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなるコーティングの気孔率を明示する断面図を示す。
【図9C】図9Cは、ワイヤアーク堆積(図C)により堆積された(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなるコーティングの気孔率を明示する断面図を示す。
【図10】図10は、高速フレームにより堆積されたFe63CrMo17SiAlからなる330μm厚のコーティングの自由表面のX線回折走査を示す。
【図11A】図11Aは、Fe63CrMo17SiAlからなる1650μm厚のプラズマ溶射コーティングの、自由表面(図A)のX線回折走査を示す。
【図11B】図11Bは、Fe63CrMo17SiAlからなる1650μm厚のプラズマ溶射コーティングの、基板境界面(図B)のX線回折走査を示す。
【図12】図12は、組成物(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnを有するワイヤを用いるワイヤアーク溶射により形成された0.25インチ厚のコーティングの自由表面のX線回折走査を示す。
【図13】図13は、組成物Fe63CrMo17SiAlの、噴霧粉末体(最上グラフ)、高速フレームコーティング(中間グラフ)及びプラズマ溶射コーティングの示差熱分析法から得られたデータを示す。グラフの曲線は、組成物の被試験形状のガラスから結晶質への転移及び組成物の融点を示す。
【図14】図14は、組成物Fe63CrMo17SiAlのワイヤアーク堆積により形成された0.25インチ厚のコーティングから得られた示差走査熱量測定法によるデータを示す。グラフは、コーティングのガラスから結晶質への転移を示す。
【図15A】図15Aは、700℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.27917からなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図15B】図15Bは、750℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.27917からなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図15C】図15Cは、800℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.27917からなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図16A】図16Aは、600℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図16B】図16Bは、700℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図16C】図16Cは、800℃で1時間の熱処理後の本発明の方法による(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる組成物から生成される金属材料のSEM顕微鏡写真及び対応する選択された領域の回折パターンを示す。
【図17】図17は、600℃で1時間の処理後のHVOF堆積法を用いた本発明の方法により形成されたFe63CrMo17SiAlからなるコーティングのSEM顕微鏡写真である。
【図18A】図18Aは、750℃で1時間コーティングを熱処理した後の組成物(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる高速フレームコーティングのX線回折パターンの測定結果を示す。
【図18B】図18Bは、750℃で1時間コーティングを熱処理した後の組成物(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる高速フレームコーティングのリートベルト解析結果を示す。
【図19A】図19Aは、200μm厚のFe63CrMo17SiAlでコーティングされた合金のストリップの一例を示す。コーティングには高速フレーム堆積法が用いられる。
【図19B】図19Bは、200μm厚のFe63CrMo17SiAlでコーティングされた合金のストリップの屈曲中のコーティングの効果を示す。コーティングには高速フレーム堆積法が用いられる。
【図19C】図19Cは、200μm厚のFe63CrMo17SiAlでコーティングされた合金のストリップの屈曲中のコーティングの効果を示す。コーティングには高速フレーム堆積法が用いられる。
【図20A】図20Aは、高速フレーム堆積法により形成された200μm厚のFe63CrMo17SiAlのコーティングを有するベース金属の平面板を示す。
【図20B】図20Bは、高速フレーム堆積法により形成された200μm厚のFe63CrMo17SiAlのコーティングを有するベース金属の平面板を示す。図20Bは、同じように形成された板であって、繰り返し圧延された後の板のコーティングされた側を示す。
【図20C】図20Cは、高速フレーム堆積法により形成された200μm厚のFe63CrMo17SiAlのコーティングを有するベース金属の平面板を示す。図20Cは、同じように形成された板であって、繰り返し圧延された後の板の基板側(図C)を示す。
【図20D】図20Dは、高速フレーム堆積法により形成された200μm厚のFe63CrMo17SiAlのコーティングを有するベース金属の平面板を示す。図20Dは、同じように形成された板であって、塑性変形後の板(図D)を示す。
【図21A】図21Aは、組成物(Fe0.8Cr0.28117の金属ガラスからなる金属リボンから得られる真応力/真歪測定結果を示す。グラフ曲線は、歪み速度が10−3−1で20℃のときに得られるデータを示す。
【図21B】図21Bは、組成物(Fe0.8Cr0.28117の金属ガラスからなる金属リボンから得られる真応力/真歪測定結果を示す。グラフ曲線は、歪み速度が10−4−1(黒丸)及び10−2−1(白丸)で450℃のときに得られるデータを示す。
【図21C】図21Cは、組成物(Fe0.8Cr0.28117の金属ガラスからなる金属リボンから得られる真応力/真歪測定結果を示す。グラフ曲線は、歪み速度が10−4−1(黒丸)、10−2−1(白丸)及び10−1−1(三角)で500℃のときに得られるデータを示す。
【図21D】図21Dは、組成物(Fe0.8Cr0.28117の金属ガラスからなる金属リボンから得られる真応力/真歪測定結果を示す。グラフ曲線は、歪み速度が10−1−1(白丸)及び10−2−1(黒丸)で550℃のとき(図D)に得られるデータを示す。
【図22】図22は、結晶化後の組成物(Fe0.8Cr0.28117の金属リボンから得られる真応力/真歪測定結果を示す。グラフ曲線は、歪み速度が10−4−1で750℃のときに得られるデータを示す。結晶化は、結晶化温度よりは高く組成物の融点よりは低い温度まで組成物を加熱することで達成される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付の図示例と共に説明する。本発明の開示は、アメリカ合衆国特許法の「科学及び有用な技術の進歩の促進を図る」(第1条第8項)という憲法上の目的を増進させるために提出されるものである。
【0014】
本発明には、金属ガラス合金材料を形成するための方法と、ナノ結晶質粒子サイズの結晶構造が混じった微細構造を有する合金材料を形成するための方法と、このような合金材料の利用方法と、合金材料の組成とが含まれる。本発明に含まれる処理過程は、図1のブロック図を参照して概ね説明される。最初のステップ(A)において、元素の混合物が形成される。この混合物は、例えば以下のような合金の組成からなる。典型的な混合物は、少なくとも55重量%の鉄からなり、B,C,Si及びPからなる群から選択される少なくとも一つの元素から成り得る。本発明の具体例では、混合物はB,C及びSiのうちの少なくとも二つからなる。混合物は、B,C及びSiからなっても良く、具体的な実施例では、混合物は原子比率がB17SiであるB,C及びSiからなり得る。本発明の具体例では、混合物は、例えばW,Mo,Cr及びMnからなる群から選択され得る少なくとも一つの遷移金属を含み得る。さらに、混合物はAl及びGdのうちの一つ以上を含み得る。
【0015】
本発明の混合物は、好ましくは11個の元素よりも少ない数からなり、より好ましくは9個の元素よりも少ない数からなる。さらに、混合物は、少なくとも2個の元素からなり得る。具体的な実施例では、混合物は11個の元素よりも少ない元素から基本的に構成され得る。さらに、混合物は少なくとも二つの元素から基本的に構成され得る。概ね、本発明の混合物は、4個から8個の元素から構成される。
【0016】
本発明の方法で利用可能な典型的な混合物は、Fe63MoSi,Fe63CrMo,Fe63MoAl,(Fe0.8Cr0.28117,(Fe0.8Mo0.28317,Fe6317Si,Fe63CrMo,Fe63Mo,Fe80Mo20,Fe63CrMo17,Fe8317,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,Fe63CrMo17SiAl,(Fe0.8Cr0.27517Si,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.274Mo17Siである。
【0017】
図1のステップ(B)において、混合物が合金に形成され得る。合金形成ステップ(B)は、例えばアルゴン雰囲気下で混合物を溶融する過程からなる。
【0018】
図1のステップ(C)において、合金は、固体の塊からなる硬質材料を形成するために冷却され得る。固体材料を形成するための従来の合金の冷却は、硬質の合金固体を得るために、典型的には少なくとも5000K/sの速度の冷却過程からなる。本明細書では、少なくとも5000K/sの速度の冷却過程は、急速冷却と言われる。急速冷却は、例えば、溶融紡糸法、ガス噴霧法、遠心分離噴霧法、水噴霧法、スプラット急冷法を含む多くの異なる方法により実現可能である。代わりに、図1のステップ(C)は、高速冷却過程からなるか、若しくは硬質固体材料を形成するために低速冷却過程(5000K/s以下の速度での冷却過程)からなっても良い。合金の低速冷却過程は、5000K/sよりも低い速度での冷却過程からなることが好ましく、アーク溶解法、鋳造法、砂型鋳造法、焼流し鋳造法等の方法を利用することが可能である。冷却速度及び結果として生ずる硬質金属材料の硬度は、合金を形成するために用いられる混合物の特定の組成に依存して変化し得る。具体的な実施例では、本発明の方法により形成された硬質金属材料は、9.2GPaよりも高い硬度を有し得る。さらに、高硬度を得るために急速に冷却された従来の合金混合物と比べて、特に本発明の合金は、低速冷却過程により、特に高い硬度(9.2GPaよりも高い)を達成することが可能である。
【0019】
図1のステップ(C)で形成された硬質固体材料は、例えば1100℃から1550℃の間の融点を有する。図1のステップ(C)で形成された硬質固体材料は、特定の形状には限定されず、インゴット形状を含むがこれに限定されない鋳造材料であってもよい。図1で示される処理過程による硬質材料の形成法は、アーク溶接法、焼流し鋳造法、砂型鋳造法、溶射成型法及び溶射圧延法を含むがこれに限定されない標準的な冶金技術を含み得る。
【0020】
本発明により得られる、選択された組成を有する鋳流しインゴットに対する測定された硬度(GPa)が、表1に示される。インゴットは、ダイヤモンドソーで半分にカットされ、金属の構造を試験するために(metallo−graphically)固定され、そして硬質試験が行なわれた。示された硬質値は10回の測定の平均値を示す。表1に示されるように、結果的に生ずる鋳流しインゴットは、14.9GPaと同じくらい高い硬度を有し得る。
【0021】
固体の塊形状に冷却された合金は非常に高い硬度を有し得るが、この硬度には非常に低い靱性値を伴う。低い靱性のせいで、上述のように形成されたインゴットは、非常にもろく、例えばハンマーで叩くような衝撃で粉々になり得る。しかしながら、従来の合金の加工処理により生成された材料の増加した硬度に伴う観測される靱性値の減少とは対照的に、本発明(以下に説明する)の方法により固体の塊材料をさらに処理することで、インゴット形状に対して、非常に高い硬度及び増加した靱性の両方を有する材料を生成することが可能となる。
【0022】
【表1】

【0023】
図1のステップ(B)の合金及び図1のステップ(C)の硬質固体材料の追加的且つ代替的な処理過程が、図2のブロック図を参照して概ね説明される。本発明の方法による合金は、図2のステップ(D)で示されるように、溶融合金からなり得る。溶融合金は、ステップ(E)において上述の方法に従って急速冷却又は低速冷却により凝固され得る。粉末体を形成するために、凝固材料に更なる処理ステップ(F)が施され得る。代わりに、ステップ(D)の溶融合金は、粉末体形成ステップ(F)が直接施されても良い。
【0024】
ステップ(E)の固体材料を粉末体形状に処理するステップは、金属粉末体を生成するために、例えば種々の従来の研削又は粉砕テップ、又は、例えばガス、水又は遠心分離噴霧法のような噴霧法を含み得る。本発明の具体的な実施例においては、噴霧処理は、単一ステップで所望のサイズ範囲の安定した未反応の粉末体を大量に生成可能なため、粉末体を形成するために噴霧技術を用いて固体材料を処理するのが良い。球状粒子は、熱堆積装置(以下参照)を通る拡張経路を容易に流れ得るので、噴霧方法は、特に都合良くなり得る球状粒子を生成可能である。合金の硬質のインゴットから製造された粉末体粒子の球状の特性は、図3に示される。
【0025】
本発明の具体的な態様において、噴霧法による粉末体粒子の形成は、少なくともいくらかの非晶質微細構造からなる粉末体粒子を形成し得る。本発明の混合物の高ガラス形成能力のせいで、噴霧中の急速凝固は、非晶質ガラス粒子の直接的な生成を可能とする。具体的な実施例では、非晶質粒子の生成が望まれ、そのため、後の堆積の間、粒子を再溶融する必要性が制限又は排除される。本発明の方法により生成された具体的な合金は、100%までの非晶質構造からなる粉末体を生成した。
【0026】
図2に示されるように、ステップ(F)からの金属粉末体は、凝固ステップ(E)の介在無しに、本発明の方法によりステップ(D)からの溶融合金から形成され得る。このような直接的な粉末形成は、放射冷却、対流冷却、又は誘導冷却等の急速凝固方法を用いて達成可能であり、また代わりに、固体金属材料の粉末体形状への処理工程に関して上で説明した噴霧方法のいずれかによって達成可能である。固体材料の噴霧に関する上述の説明の利点は、本発明の方法による溶融合金の噴霧に同様に適用できる。
【0027】
図2の表面塗布ステップ(H)の前に、ステップFの金属粉末体は、分級又は分類過程(粒子サイズにより粉末体を選別する過程(図示せず))によりさらに処理され得る。このような分類過程には、例えば連続ふるい過程や空気分級過程が含まれる。本発明の方法により生成された粉末体の粒子サイズは、10μmから450μmの間のサイズからなり得る。粉末体の粒子分級過程は、選択される材料堆積技術に有用な、粒子サイズの詳細又はサイズの範囲を得るために利用される。具体的な実施例では、分級程は、10μmから100μmの粒子サイズからなる粉末体を生成するために利用され得る。
【0028】
さらに図2を参照すると、本発明の方法により生成された粉末体は、ステップ(G)のワイヤの生成に任意に利用され、これは更に順追ってステップ(H)の表面への塗布のために用いられ得る。図2のワイヤ形成ステップ(G)は、図4及び図5を参照してより詳細に説明する。
【0029】
まず図4を参照すると、ワイヤ形成過程は、第1の組成を有する金属ストリップ20を提供し、第2の組成を有する粉末体を提供することを含み得る。金属ストリップ20及び粉末体は、後の堆積過程又は他の適用のための所望の組成のワイヤを形成するために結合され得る。粉末体22は、特定の粉末体には限定されず、例えば上述した本発明の方法により生成された粉末体からなり得る。金属ストリップ20の組成は、いかなる特定の組成にも限定されず、所望の組成のワイヤを形成するために、粉末体22の組成を補うように選択され得る。
【0030】
金属ストリップ20は、粉末体22と結合し、図5に示されるように、ワイヤ24を形成するようにさらに処理され得る。金属ストリップ及び粉末体の結合過程は、従来の圧延/押出技術を用いてワイヤが形成される過程からなる。粉末体材料はコア28を形成し、金属ストリップはコア28の周りの鞘部26を形成する。ワイヤ24は、特定の直径には限定されず、例えば0.89mm以上4.78mm以下(0.035インチから0.188インチ)の直径を有し得る。具体的な実施例では、好ましいワイヤの直径は、1.59mm(1/16インチ)であろう。
【0031】
コア28と鞘部26の混合した組成からなるワイヤ24全体の組成には、少なくとも鉄が55重量%含まれる。ワイヤ24全体の組成は、好ましくは11個の元素よりも少ない数からなる。具体的な実施例では、ワイヤ24全体の組成は、11個の元素よりも少ない数で基本的には構成される。好ましくは、ワイヤ24全体の組成は、鉄に加えて、2から7個の元素からなる、又は基本的に構成され得る。ワイヤ24に存在する鉄以外の元素は、C,B,P及びSiからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含み得る。具体的な実施例では、ワイヤ24は、C,B,P及びSiのうちの2,3個、又はすべてからなり得る。ワイヤ24は、例えば、全体の組成の中に、B17Siの原子比率でC,Si及びBを含むことができる。ワイヤ24全体の組成には、W,Mo,Cr,Mn,Al及びGdのうちの一つ以上をさらに含んでも良い。
【0032】
典型的には、ワイヤ24の組成として、Fe63MoSi,Fe63CrMo,Fe63MoAl,(Fe0.8Cr0.28117,(Fe0.8Mo0.28317,Fe6317Si,Fe63CrMo,Fe63Mo,Fe80Mo20,Fe63CrMo17,Fe8317,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,Fe63CrMo17SiAl,(Fe0.8Cr0.27517Si,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.274Mo17Siが含まれる。
【0033】
ワイヤ形成に用いられる粉末体は、特定の微細構造には限定されず、0%から100%の非晶質(金属ガラス)構造からなり得る。好ましくは、ワイヤ形成過程に用いられる粉末体は、金属ワイヤ鞘部と共に合金にされたときに金属ガラス形成が可能な合金を生成する組成で構成されている。本発明により生成されたワイヤの最終的な組成は、10%から60%の粉末体としての体積率を有することが好ましい。
【0034】
本発明の方法によるワイヤ形成過程に用いられる粉末体の粒子サイズ範囲は、特定の値に限定されない。ワイヤ形成過程は特定の粒子サイズを要求しないため、本発明の方法によるワイヤ形成は、分級されていないあらゆる粉末体、又は、種々の粉末体堆積技術用の好ましい粒子サイズの範囲外であるサイズを含む粉末体を利用可能である。
【0035】
再度図2を参照すると、ステップ(F)からの粉末体又はステップ(G)からのワイヤは、ステップ(H)で表面を処理するために用いられ得る。粉末体形状又はワイヤ形状の金属材料は、表面上に層又はコーティングを形成するためにステップ(H)で表面に塗布され得る。本発明の方法による粉末体又はワイヤ原料の塗布過程は、図6を参照してより詳細に説明される。
【0036】
図6を参照すると、基板50が、その表面51の処理のために提供されている。表面51は、例えば従来の合金の表面、アルミニウム表面、ステンレススチール表面、工具の鋼表面又は他のあらゆる金属の表面等の、金属表面からなり得る。代わりに、表面51は、例えばセラミック材料等の非金属材料からなっても良い。粉状体又はワイヤ、例えば上述の方法により生成された粉状体又はワイヤは、基板51上の堆積物の原料として用いられ得る。基板51上への原材料の堆積のための典型的な表面処理技術には、原料が堆積装置52内に供給される熱堆積技術が含まれる。原料は、噴霧54に変えられ、材料56の層を形成するために表面51上に噴霧される。熱堆積法は、特定の技術に限定されず、例えば、高圧プラズマシステム、低圧プラズマシステム、爆発溶射システム、ダイヤモンドコートシステム、高速フレーム(HVOF)システム、二個ローラ又は単一ローラワイヤアークシステム、又は高速ワイヤアークシステムを含み得る。組成がFe63CrMo17Sil4である噴霧されたままのHVOFコーティングの例が、図7に示される。
【0037】
如何なる後続処理過程の前では、噴霧されたままの層56は、少なくともいくらかの金属ガラスを含む微細構造を含み得る。層56内の非晶質構造の量は、堆積方法、堆積条件及び原料の組成に依存する。噴霧されたままの層56は、9.2GPaよりも高い硬度を有し得る。典型的には、層56は、9.2GPaから15.0GPaの間の硬度を有するであろう。
【0038】
噴霧されたままの層の硬度は、気孔率により影響を受け得る。材料の気孔率の増加は、対応して材料の硬度が減少する結果をもたらすため、低い気孔率を有する層又はコーティングを生成することが有利である。図8に示されるように、層56は、0.06%と同じくらい低い気孔率を有し得る。典型的には、層56は、5%と同じかそれよりも低い(95%と同じかそれよりも高い層密度に相当)気孔率を有するであろう。図9は、3つの異なるコーティング堆積技術により形成された(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnのコーティングの気孔率を示す。図Aに示されるプラズマコーティングは0.9%の気孔率を有し、図BのHVOFコーティングは0.7%の気孔率を有し、図Cに示されるワイヤアークコーティングは3.3%の気孔率を有する。表2は、図9に示される3つの層のそれぞれに対する測定された硬度を示す。当業者に理解されるように、層56の気孔率は、層の噴霧堆積の間に酸素の導入により、又は最適化されていない噴霧パラメータで噴霧することにより、所望であれば増加させることも可能である。例えば、オイルを吸収するには、より高い気孔率の層を有することが望まれることもある。
【0039】
【表2】

【0040】
単層である、噴霧されたままの、330マイクロメータの厚さの層の自由表面側に対して行なわれたX線回折の結果は、図10に示されるように、長距離秩序の微細構造は欠いていることを示し、したがってコーティングの非晶質構造を示している。噴霧されたままの層56は、いくらかの測定可能な非晶質構造を含み、又は本質的に非晶質な構造(微細構造の50%よりも大きい)を含み、又は100%までの非晶質構造を含み得る。
【0041】
金属ガラスに長距離秩序の微細構造がないおかげで、金属ガラスの存在は、あらゆる界面層(ボンドコーティング等)が無くとも、図6に示されるように、層56がコーティング層56及び表面51の間に形成されることを許容する。層56内の非晶質微細構造の存在のために、表面51の材料とコーティング層56との間に結晶質構造の不整合が殆ど無いかまったく無いため、界面層は要求されない。図6は、界面層が無い場合を示すが、本発明は界面層が設けられる実施例(図示無し)をも含むことが理解されるべきである。
【0042】
図6は、単一な層56を示しているが、本発明は多層膜厚を有するコーティング(図示無し)をも含むことが理解されるべきである。噴霧されたままの層56は、25μm以上6500μm以下の多層膜厚を有し得る。粉末体原料が用いられれば、層56は好ましくは250μm以上350μm以下の多層膜厚を有し得る。ワイヤ原料が用いられれば、層56は好ましくは750μm以上1500μm以下の多層膜厚を有し得る。
【0043】
多層膜厚を有するコーティングは、例えば、上述の方法に従って個々の層を順に堆積することにより形成され得る。1650mm厚の多層コーティングの自由表面側(図11A)及び基板表面側(層間剥離後、図11B)のX線回折走査は、非晶質構造が多層プラズマ堆積処理中にも維持されていたことを示す。図12は、二個ローラワイヤアーク噴霧堆積により形成された6.35mm(1/4インチ)厚の多層コーティングの非晶質構造を表わすX線走査を示す。
【0044】
示差熱分析法(DTA)が、組成がFe63CrMo17SiAlである噴霧粉末体原料と、HVOFコーティングと、プラズマ噴霧コーティングに対して、ガラスから結晶質への転移を示すために実施された。図13に示され、示差走査熱量(DSC)測定法と組み合わされるDTA走査は、46%ガラス構造からなる粉末体原料と、41%ガラス構造を含有するHVOFコーティングと、86%ガラス構造を含有するプラズマコーティングとを示す。図14に示されるDSCの軌跡は、Fe63CrMo17SiAlの組成を有する6.35mm(1/4インチ)厚のワイヤアークコーティングから得られたものである。噴霧されたままの層56は、少なくとも9.2GPaの十分な硬度に加え、対応する組成(上述)の冷却合金の固体の塊の靱性値と比べて増加している十分な靭性を有し得る。例えば、最高密度に達したとき、噴霧されたままの層56は、60%までの引張伸びを有し得る。
【0045】
再度図2を参照すると、一旦金属材料がステップ(H)で表面に施されると、ナノ結晶質粒子サイズを有する結晶質を形成するために金属材料中に存在するいくらか又はすべての金属ガラスを結晶質に変化させる結晶化のためのステップ(I)で、金属材料がさらに処理される。結晶化のためのステップ(I)は、噴霧されたままの層に比べて、結晶化処理層の増加した硬度を生ずる結果となり得る。
【0046】
結晶化のためのステップ(I)は、特定の合金の結晶化温度より高い温度から層の合金の融点よりも低い温度に加熱する過程を含む、噴霧されたままの層の熱処理過程を含み、1分から1000時間加熱する過程も含み得る。結晶化のためのステップ(I)は、典型的には、550℃から850℃で、10分から1時間の間、加熱する過程からなるであろう。
【0047】
金属ガラス材料の熱処理は、非晶質金属ガラスが一つ以上の結晶固相に変化し得るような、固体状相変化を可能とする。非晶質ガラス構造の固体状結晶構造の変化処理は、ガラス内にナノ結晶質粒子を形成するように非晶質材料にわたって起こる一様な核生成を可能とする。結晶化処理により形成された金属の格子状の微細構造は、鉄の格子構造(溶解格子を有する鉄)又は、そのうちの一つがフェライトであるいくらかの相を有する複雑な多相格子構造を有し得る。ナノ結晶質粒子サイズを有する金属の格子状の粒子構造は、より大きい粒子サイズ又は金属ガラスにおいて存在する性質と比較して改善された力学特性の化合物を実現可能である。このような改善された力学特性には、例えば高強度及び高硬度が含まれ、本発明の具体的な合金の組成は、より大きい粒子サイズからなる材料又は金属ガラスからなる材料と比較して、同じくらい維持された又はさらに増加した靱性を有し得る。
【0048】
結晶化した結果としてもたらされる合金の構造は、50から150nmの粒子サイズを有するナノサイズの粒子からなり得る。さらに、結晶化した材料は、20nmの析出物サイズを有する第二相析出物を含み得る。図15、図16及び図8
1260236159828_2
は、本発明の方法により形成された熱処理材料が含まれる微細構造のTEM顕微鏡写真を示す。図15を参照すると、種々の温度で1時間処理された後の(Fe0.8Cr0.27917からなる結晶化材料のナノ結晶質微細構造が示される。図15はまた、3つの処理条件のそれぞれに対する選択領域の回折パターンを示す。図16は、種々の温度で1時間処理した後の(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMnからなる結晶化材料の、ナノ結晶質微細構造及び選択領域の回折パターンを示す。
【0049】
図17は、HVOF堆積を用いて形成され、その後750℃で1時間加熱処理された後の、Fe63CrMo17SiAlからなる結晶化層のナノ結晶質微細構造のTEM顕微鏡写真を示す。TEMは、75nmから125nmで、粒界において20nmの第二相析出物を有する粒子を有するナノサイズの構造を示す。図17に示されるサンプルは、図18に示される、スキャニングによるX線回折データを得るために用いられた。サンプルは、図18Aに示されるように精練されており、図18Bに示されるように表3にまとめられたナノ複合材料が確認されている。
【0050】
【表3】


【0051】
表4に示されるように、本発明の方法による結晶化ナノ複合材料は、対応するガラス材料(結晶化前のもの)と比べて5.2GPa程度増加された硬度を有し得る。表4が示すように、本発明による方法は、インゴット形状に生成した場合には、9.2GPaよりも低い硬度を有する合金に対しても、対応するインゴット形状以上に増加された硬度を有する硬質ガラス材料又は硬質ナノ複合材料の生成物のために利用可能である。
【0052】
【表4】

【0053】
本発明の方法により生成される結晶化材料の特性を測定するために、種々の方法が利用された。下層材料に付着する能力が、落下衝撃試験、曲げ試験及び粒子衝撃侵食試験を含む従来の試験方法によりテストされた。コーティングは、これらの試験3つすべてをパスすることができた。図19は、Fe63CrMo17SiAlからなるコーティングの弾性及び可塑性の延性(弾力性)を示す。HVOFにより200μm厚のコーティング材料でコートされた合金のストリップが、図Aに示される。図B及び図Cは、コーティングされたストリップの変形により、切れたりひびが入ったりベース金属からコーティングが剥がれたりすることが無いことを示している。
【0054】
図20は、図Aが平板上の200μm厚のFe63CrMo17SiAlコーティングを示す。図示のように、コーティング側(図B)に繰り返し打撃を加えた場合、又は基板側(図C)に繰り返し打撃を与えた場合に、ベース金属と共に変形させることが可能なため、コーティングが高延性及び高靱性であることを実証する。さらに、目に見えるひびや切れ、コーティングの剥がれは、板の極端な変形によっても生じなかった(図D)。
【0055】
本発明の方法により生成されたコーティングの引っ張り特性は、試験される組成の金属リボンを形成することで測定された。金属ガラスリボン(図21)及び結晶化リボン(図22)の両方が、多くの温度において種々の歪み速度にさらされた。金属ガラスに対する応力/歪曲線は、60%と同じくらい高い伸び率が達成可能であることを示している(図21の図A)。結晶化リボンは、180%までの最大伸び率を有する超塑性を示し得る(図22)。
【0056】
個々で説明した方法は、保護コーティングや耐摩耗加工等を含むがこれに限定されない多くの用途に適用することが可能である。このような適用例においては、本発明の方法により生成される金属コーティングは、腐食、浸食、摩耗からこのような表面を保護するために、部品、装置、機械の表面に用いることが可能である。このような適用例は、金属ガラスからなる噴霧されたままのコーティングやナノサイズの組成構造からなる結晶化材料の何れかが利用可能である。さらに、このような適用例は、いくらかの金属ガラス構造やいくらかのナノ組成物構造を有するコーティングを利用可能である。このような一部ガラス/一部ナノ組成物のコーティングは、例えば、個々の層を順に形成し特定の層だけ加熱処理することにより、又は一つ以上の層を順に形成し一つ以上の層の一部のみを加熱処理することにより、形成することが可能である。
【0057】
本発明の方法により形成された噴霧されたままの金属ガラス材料の硬度によって、コーティングは更なる結晶化無しで噴霧されたままの材料を利用することが可能である。増加した硬度が望まれる他の適用例では、全ての結晶化を実施しても良く、また、非常に高い硬度を有する100%ナノ組成物の微細構造を実現可能である。本発明の方法により得られる硬度の増加は、靱性を損なわずに達成可能であり、更に靱性の向上をも伴い得る。規則に従って、本発明は、構造及び方法の特徴に関しておおよそ具体的に言葉で説明された。しかしながら、ここで開示された手段は、発明を実施するための好適な形態からなるので、本発明はここで示され説明された特定の構成には限定されないことが理解されるべきである。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の適切な範囲内で、均等論に従って適当に解釈されるあらゆる形態又は修正に対して請求されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質金属材料を製造する方法であって、該方法は、
少なくとも55重量%のFeと、Bとを含む混合物を提供する過程と、
前記混合物から合金を形成するために、前記混合物を溶解する過程と、
9.2GPaより高い硬度を有した金属材料を形成するために、前記合金をその形成された温度から5000K/sよりも遅い速度で冷却する過程と、
からなることを特徴とする硬質金属材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記金属材料はインゴット形状であることを特徴とする硬質金属材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記混合物は、Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,(Fe0.8Cr0.27517Si,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd及び(Fe0.8Cr0.274Mo17Siからなる群から選択される組成を有することを特徴とする硬質金属材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記合金は、1100℃以上1550℃以下の融点を有することを特徴とする硬質金属材料の製造方法。
【請求項5】
金属材料であって、該金属材料は、
少なくとも55重量%のFeと、
0重量%よりも多く、5重量%以下の範囲のCと、
B、Si及びPの中の少なくとも1元素と、を含み、
Fe、Al、Gd、Si、C、B、P、Mo、W、Mn及びCrで成る群からそれぞれ選択される3元素以上8元素以下の元素からなる混合物であって、
更に前記金属材料は、
180%までの最大伸び率を有する超塑性を有しており、
融点は1100℃以上1250℃以下の範囲であり、
9.2GPaよりも大きい硬度を有しており、
50から150nmのナノ結晶質粒子サイズを含み、且つ20nmの析出物サイズを有する粒界における析出物を含む、大部分がナノ結晶質粒子構造を有していることを特徴とする金属材料。
【請求項6】
請求項5に記載の金属材料であって、Bと、Siと、Cとを含有することを特徴とする金属材料。
【請求項7】
請求項5に記載の金属材料であって、Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,(Fe0.8Cr0.27517Si,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd及び(Fe0.8Cr0.274Mo17Siからなる群から選択される組成を有している金属材料。
【請求項8】
基板上に硬化された表面を形成する方法であって、該方法は、
第1硬度を有する固体の塊を提供する過程と、
前記固体の塊から粉末を形成する過程と、
該粉末を金属ストリップと組み合わせてワイヤを形成する過程と、を含んでおり、該ワイヤは、最終的な組成が、少なくとも55重量%のFeと、Si、C、P及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素とを含んでおり、
本方法はさらに、
前記最終的な組成を有するワイヤを基板表面に堆積して第2硬度を有した層を形成する過程を含んでおり、該層の少なくとも一部は金属ガラスを含んでおり、該堆積の過程は、二個ローラワイヤアーク堆積法、単ローラワイヤアーク堆積法、及び高速ワイヤアーク堆積法のうちの少なくとも一つの堆積法を含んでおり、
本方法はさらに、
前記金属ガラスの少なくとも一部を、ナノ結晶質粒子サイズを有した結晶質材料に構造を変化させる過程と、を含んでおり、該変化の過程は、前記第1硬度よりも高く且つ前記第2硬度よりも高い第3硬度を有した硬化された層を形成するために前記層を硬化する変化の過程であり、
これらの過程を具備することを特徴とする硬化された表面を形成する方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、最初に形成された層は、非晶質構造からなることを特徴とする硬化された表面を形成する方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、硬化された層の組成が、Fe63172,,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,(Fe0.8Cr0.27517Si,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd及び(Fe0.8Cr0.274Mo17Siからなる群から選択される
ことを特徴とする硬化された表面を形成する方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、前記硬化された層は、75nmから125nmの粒子サイズを有し、粒界において20nmの第二相析出物を有したナノ組成物の微細構造からなることを特徴とする硬化された表面を形成する方法。
【請求項12】
Fe63MoSi,Fe63CrMo,Fe63MoAl,(Fe0.8Cr0.28117,(Fe0.8Mo0.28317,Fe6317Si,Fe63CrMo,Fe63Mo,Fe80Mo20,Fe63CrMo17,Fe8317,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.27917,Fe6317Si,Fe6317,Fe6317,Fe6317,Fe6317,(Fe0.8Cr0.278Mo12Si,(Fe0.8Cr0.276Mo14Si,(Fe0.8Cr0.275Mo17Si,(Fe0.8Cr0.273Mo16SiMn,Fe6317Si,Fe63CrMo17,(Fe0.8Cr0.27517Si,(Fe0.8Cr0.273Mo17Si,(Fe0.8Cr0.272Mo17SiGd,Fe6317Si,(Fe0.8Cr0.271Mo17SiGd,及び(Fe0.8Cr0.274Mo17Siからなる群から選択される合金からなり、少なくとも一部に結晶質構造を有していることを特徴とする硬化面材料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15A】
image rotate

【図15B】
image rotate

【図15C】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate

【図16C】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18A】
image rotate

【図18B】
image rotate

【図19A】
image rotate

【図19B】
image rotate

【図19C】
image rotate

【図20A】
image rotate

【図20B】
image rotate

【図20C】
image rotate

【図20D】
image rotate

【図21A】
image rotate

【図21B】
image rotate

【図21C】
image rotate

【図21D】
image rotate

【図22】
image rotate


【公開番号】特開2010−53455(P2010−53455A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278380(P2009−278380)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【分割の表示】特願2004−513530(P2004−513530)の分割
【原出願日】平成15年1月15日(2003.1.15)
【出願人】(501445988)バテル エナジー アライアンス,エルエルシー (14)
【復代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
【Fターム(参考)】