説明

磁器コンデンサ、誘電体磁器組成物及びその製造方法

【課題】焼結温度をより下げて製造工数を削減できる誘電体磁器組成物、製造工程を削減できる磁器コンデンサを提供する。
【解決手段】磁器コンデンサに用いられる誘電体磁器組成物20であって、誘電体磁器組成物はチタン酸バリウム等のペロブスカイト型複合酸化物を主成分とし、ペロブスカイト型複合酸化物を加圧下で直流パルス電流により通電焼結する。前記ペロブスカイト型複合酸化物の粉体の粒径が0.3ミクロン以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト型複合酸化物から成り、磁器コンデンサに用いられる誘電体磁器組成物及びその製造方法に関する。また本発明はペロブスカイト型複合酸化物から成る誘電体磁器組成物を備えた磁器コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁器コンデンサに用いられる従来の誘電体磁器組成物は特許文献1に開示されている。この誘電体磁器組成物はBa、Ti及びZrの酸化物から成るペロブスカイト型複合酸化物を主成分としている。ペロブスカイト型複合酸化物は高い比誘電率を有するため高容量の磁器コンデンサを得ることができる。また、誘電体磁器組成物にはCa化合物が添加されている。Ca化合物の添加によって誘電体磁器組成物の焼結温度を1150〜1250℃にすることができる。
【特許文献1】特開2006−169020号公報(第4頁−第11頁、第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の誘電体磁器組成物によると、焼結温度が1150〜1250℃であるため焼結に時間がかかる。このため、誘電体磁器組成物及び磁器コンデンサの製造工数が増加する問題があった。従って、誘電体磁器組成物をより短時間で焼結できることが望まれている。
【0004】
本発明は、焼結温度をより下げて製造工数を削減できる誘電体磁器組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。また、製造工数を削減できる磁器コンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明の誘電体磁器組成物は、ペロブスカイト型複合酸化物を含み、加圧下で直流パルス電流により通電焼結されることを特徴としている。この構成によると、例えば、成形用ダイの開口部に誘電体磁器組成物を生成する粉末材料が投入される。開口部には両端面からポンチが挿通され、両ポンチ間に直流パルス電流を通電しながら粉末材料を加圧して誘電体磁器組成物が焼結される。
【0006】
また本発明は、上記構成の誘電体磁器組成物において、前記ペロブスカイト型複合酸化物がチタン酸バリウムから成ることを特徴としている。
【0007】
また本発明は、上記構成の誘電体磁器組成物において、前記ペロブスカイト型複合酸化物の粉体の平均粒径が0.3μm以下であることを特徴としている。
【0008】
また本発明の磁器コンデンサは、上記各構成の誘電体磁器組成物の両面に電極を配したことを特徴としている。この構成によると、高容量の磁器コンデンサが得られる。
【0009】
また本発明は、ペロブスカイト型複合酸化物を含む誘電体磁器組成物の製造方法において、前記ペロブスカイト型複合酸化物を加圧下で直流パルス電流により通電焼結したことを特徴としている。
【0010】
また本発明は、上記構成の誘電体磁器組成物の製造方法において、前記ペロブスカイト型複合酸化物がチタン酸バリウムから成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、チタン酸バリウム等のペロブスカイト型複合酸化物を含む誘電体磁器組成物を加圧下で直流パルス電流により通電焼結したので、焼結温度を1000℃以下にすることができる。従って、焼結時間を短縮して誘電体磁器組成物及びそれを用いた磁器コンデンサの製造工数を短縮することができる。
【0012】
また本発明によると、ペロブスカイト型複合酸化物の平均粒径が0.3μm以下であるので、EIA規格のX5Rの温度特性を満足する磁器コンデンサを容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は一実施形態の磁器コンデンサを示す断面図である。磁器コンデンサ1は誘電体2の対向する2面に電極3、4が配される。電極3、4はNi、Pt、Pd等から成り、ペースト状の電極材料を誘電体2上に塗布した後に焼成して形成されている。電極3、4には半田5a、6aによりリード5、6線が接続されている。誘電体2及びリード線5、6を接続した電極3、4の周囲はエポキシ樹脂等のモールド材7により被覆されている。
【0014】
誘電体2はBaTiO3(チタン酸バリウム)を主成分とする誘電体磁器組成物20(図2参照)から成っている。図2は誘電体磁器組成物20の焼結時の状態を示す正面断面図である。また、図3は図2のA−A断面図である。減圧可能なチャンバー(不図示)内にはグラファイトから成る円筒形のダイ10が配される。ダイ10の外径は30mmであり、開口部10aを形成する内径は10mmである。開口部10aにはグラファイトから成る一対のポンチ11、12がダイ10の両端面から挿通可能になっている。
【0015】
誘電体磁器組成物20の原料はBaTiO3から成る主成分に副成分を添加した混合粉末から成り、約1gの混合粉末が開口部10a内に投入される。副成分として、Mg、Ca等のアルカリ土類化合物、Mn等の遷移金属化合物、Y等の希土類化合物、Siを主成分としたガラス粉末、或いはこれらの酸化物、炭酸化物、水酸化物を用いることができる。チャンバー内は7Paに減圧され、ポンチ11、12間に400Aの直流パルス電流を通電して原料が約100MPaで加圧される。
【0016】
チャンバー内の試料周辺はヒータ(不図示)によって所定の焼結温度まで5分間で昇温され、10分間保持した後に電流印加を停止して自然放冷されている。その後、焼結された試料を取り出して箱型炉において大気中で900℃、1時間の熱処理が行われる。これにより、誘電体磁器組成物20が得られる。
【0017】
【表1】

【0018】
表1は焼結温度及びBaTiO3の粉体粒径を可変して形成した試料No.1〜4の誘電体磁器組成物20について、密度、比誘電率ε、温度特性(X5R)の各特性を示している。BaTiO3の粉体粒径は、走査型電子顕微鏡によってランダムに選んだ40個の粉体粒子を切片法により測定した大きさの平均値を示している。密度はアルキメデス法により測定している。
【0019】
比誘電率εは各誘電体磁器組成物20を誘電体2として作成した磁器コンデンサ1の容量を測定して算出している。X5Rは各誘電体磁器組成物20を誘電体2として作成した磁器コンデンサ1がEIA規格のX5Rの温度特性を満足するか否かを判別している。X5Rの温度特性は−55℃〜85℃の温度範囲で室温が25℃の容量を基準にした容量変化率が±15%の範囲に入っていることである。
【0020】
また、比較例としてBaTiO3の粉体粒径を0.4μmにした場合を試料No.5に示し、ポンチ11、12間に通電を行わない場合を試料No.6に示している。
【0021】
同表によると、焼結温度が1000℃以下であっても試料No.1〜4の誘電体磁器組成物20は高い密度及び比誘電率εを有している。これに対して試料No.5はBaTiO3の粉体粒径が大きいため密度が低くなっており、焼結不十分である。試料No.6は通電を行っていないため焼結が十分でなく、磁器コンデンサ1の容量を測定できない。
【0022】
図4は、試料No.1の誘電体磁器組成物20を誘電体2として作成した磁器コンデンサ1の温度特性を示している。縦軸は25℃と基準とした磁器コンデンサ1の容量の変化率(単位:%)を示し、横軸は温度(単位:℃)を示している。同図によると、試料No.1の誘電体磁器組成物20を有する磁器コンデンサ1はX5Rの温度特性を満足している。
【0023】
同様に、試料No.2〜4の誘電体磁器組成物20を誘電体2として作成した磁器コンデンサ1もX5Rの温度特性を満足する。これに対して、比較例の試料No.5はX5Rの温度特性を満足しない。従って、平均粒径が0.3μm以下のBaTiO3粉体を用いて誘電体磁器組成物20を形成することによって、X5Rの温度特性を満足する磁器コンデンサ1を得ることができる。
【0024】
本実施形態によると、チタン酸バリウムから成る誘電体磁器組成物20を加圧下で直流パルス電流により通電焼結したので、誘電体磁器組成物20の焼結温度を1000℃以下に低下させることができる。従って、焼結時間を短縮して誘電体磁器組成物20及び磁器コンデンサ1の製造工数を短縮することができる。
【0025】
誘電体磁器組成物20はチタン酸バリウム以外のペロブスカイト型複合酸化物であってもよい。例えば、組成式が(Aサイト)(Bサイト)O3(但し、AサイトがBa、Ca、Srの少なくとも一つ、BサイトがTi、Zrの少なくとも一つ)から成るペロブスカイト型複合酸化物であれば同様に焼結温度を低下させることができる。
【0026】
また、ペロブスカイト型複合酸化物の平均粒径が0.3μm以下であるので、EIA規格のX5Rの温度特性を満足する磁器コンデンサ1を容易に得ることができる。
【0027】
本実施形態において単層の磁器コンデンサについて説明しているが、積層型の磁器コンデンサであってもよい。即ち、誘電体磁器組成物20の原料となる混合粉末にバインダーを加えてシート状の基材を形成し、基材上に電極を設ける。次に、電極を設けた基材を所定枚数厚み方向に重ね合わせて加圧して積層し、積層体を形成する。そして、積層体を加圧下で直流パルス電流により通電焼結する。これにより、積層型の磁器コンデンサを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によると、磁器コンデンサ及びこれに用いられる誘電体磁器組成物に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態の磁器コンデンサを示す斜視図
【図2】本発明の実施形態の磁器コンデンサに用いられる誘電体磁器組成物の焼結時の状態を示す正面断面図
【図3】図2のA−A断面図
【図4】本発明の実施形態の磁器コンデンサの温度特性を示す図
【符号の説明】
【0030】
1 磁器コンデンサ
2 誘電体
3、4 電極
5、6 リード線
7 モールド材
10 ダイ
11、12 ポンチ
20 誘電体磁器組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト型複合酸化物を含み、加圧下で直流パルス電流により通電焼結されることを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】
前記ペロブスカイト型複合酸化物がチタン酸バリウムから成ることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型複合酸化物の粉体の平均粒径が0.3μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の前記誘電体磁器組成物の両面に電極を配したことを特徴とする磁器コンデンサ。
【請求項5】
ペロブスカイト型複合酸化物を含む誘電体磁器組成物の製造方法において、前記ペロブスカイト型複合酸化物を加圧下で直流パルス電流により通電焼結したことを特徴とする誘電体磁器組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型複合酸化物がチタン酸バリウムから成ることを特徴とする請求項5に記載の誘電体磁器組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−74633(P2008−74633A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252231(P2006−252231)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】