説明

磁場均一度調整装置、およびこれを用いた超伝導磁石装置、並びに磁気共鳴撮像装置

【課題】超伝導コイルの励磁電流の誤差に起因する不均一磁場を安価に効率良く補償して均一磁場を得ることのできる磁場均一度調整装置、およびこれを用いた超伝導磁石装置、並びに磁気共鳴撮像装置を得る。
【解決手段】磁場均一度調整装置20は、少なくとも一対の超伝導コイル2A,3Aと少なくとも一対の強磁性体とからなる磁場発生源が対向して配置され、これらの間に挟まれる領域に略均一な磁場空間を形成してなる超伝導磁石装置1のためのものであって、磁場空間における磁場分布を測定する磁場分布測定装置21と、磁場分布測定装置21により測定された磁場分布に基づき、磁場空間の均一性を向上させるために必要な強磁性体の温度変化量を算出する温度変化量算出装置22と、温度変化量算出装置22により算出された温度変化量に基づいて、強磁性体の温度制御値を設定する温度制御装置12と、を具備したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場均一度調整装置、およびこれを用いた超伝導磁石装置、並びに磁気共鳴イメージング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超伝導磁石装置を用いて静磁場を生成する磁気共鳴撮像(Magnetic Resonance Imaging)装置は、特に、医療診断の分野で広く利用されている。磁気共鳴撮像装置は、均一な静磁場空間に置かれた被検体(検査体)に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して被検体の物理的、化学的性質を表す画像を得ることができる。磁気共鳴撮像装置は、主に、被検体が搬入される撮像領域内に均一な静磁場を印加するための磁場発生源としての磁石装置、撮像領域に向けて高周波パルスを照射するRFコイル、撮像領域からの応答を受信する受信コイル、および撮像領域内に共鳴現象の位置情報を与えるための勾配磁場を印加する傾斜磁場コイルを備えて構成されている。
【0003】
磁気共鳴撮像装置において、画質向上のための要件のひとつに、静磁場均一度の向上が挙げられる。このため、磁気共鳴撮像装置に用いられる磁石装置の設計、製造に際しては、磁場発生源によって撮像領域内に発生する静磁場を均一にするために、設計、組み立て、および据付の各段階において、磁場調整が行われている。
このうち、据付段階における磁場調整としては、多くの場合、製作誤差や周囲の環境などによって生じる磁場不均一成分を、磁石装置に磁性材からなる磁場均一度調整体を追加的に配置したり、あるいは取り除いたりすることで行うことが知られている(例えば、特許文献1参照)。この磁場均一度調整体は、対向する磁場発生源と、その内側(撮像領域側)に配置される傾斜磁場コイルとで挟まれる空間に、磁場均一度調整機構(手段)等を用いて配置される構成が一般的である。
一方、磁石装置は、外気温の変動のような周囲環境の変動によって、磁場均一度が長期的または短期的に変動することが知られている。ここで、このような磁場均一度の変動を再修正するために、前記のような磁場均一度調整体を用いた磁場調整を行うことも可能ではあるが、この調整作業には、通常、多くの時間を要するために、毎回実施するのは適当でない。そこで、このような磁場均一度の変動を吸収するための手法が種々考えられている。
【0004】
その一つは、磁石装置または傾斜磁場コイルのいずれか一方または両方に複数の磁場調整用のコイルを予め内蔵しておき、磁場均一度の変動を補償する電流値を算出して、当該コイルに通電する手法である。例えば、特許文献2には、磁石装置の磁気回路を構成する磁性材の温度を測定し、この温度に基づき磁場調整用のコイルの通電電流値を算出して、当該通電電流値に基づきコイルに通電することで均一磁場を得るようにした技術が記載されている。
また、これとは逆に、磁性材の温度変化自体を抑制する手法も考えられている。例えば、特許文献3には、静磁場発生源を断熱材、伝熱材、およびヒータで覆い、ヒータによる加熱で静磁場発生源の温度を一定に保つ方法が記載されている。また、特許文献4には、加熱に加えて冷却装置を配置し、これらの装置を駆使して温度制御の精度を上げる手法が記載されている。
さらに、磁性材の温度分布により生じる磁化の分布を積極的に利用して均一磁場を実現する手法も考えられている。例えば、特許文献5には、永久磁石の温度分布を調節することで均一磁場を得る技術が記載されており、また、特許文献6には、磁石装置全体の温度分布を調節することで均一磁場を得る技術が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3733441号公報
【特許文献2】特許第3781166号公報
【特許文献3】特公平3−28931号公報
【特許文献4】特開平3−109043号公報
【特許文献5】特開2003−116807号公報
【特許文献6】特許第3559364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、磁気回路の一部に少なくとも一対の強磁性体を含む超伝導磁石の場合、前記したような磁性材の温度変動だけでなく、超伝導コイルの通電電流値も磁場均一度の変動要因となる。例えば、超伝導磁石の定期的なメンテナンスに伴い超伝導磁石の消磁、励磁を行うような場合、消磁前の通電電流値と再励磁後の通電電流値とが一致しなければ、電流値の誤差に相当する不均一磁場が生じてしまう。
【0007】
このことを図9を用いて説明すると次のようになる。図9において、横軸は、均一磁場空間の方位角(度)を示しており、縦軸は、その方位における磁場強度(均一成分を除く)を示している。少なくとも一対の超伝導コイルと、少なくとも一対の強磁性体とをそれぞれ対向させて均一磁場を得る方式の超伝導磁石では、超伝導コイルが作る磁場分布J1と、強磁性体が作る磁場分布J2との和によって均一磁場J3を形成している。
ここで、超伝導コイルの通電電流値が前記したように消磁前と再励磁後とで変化してしまうと、超伝導コイルは、電流変化量に比例する磁場変化C1を起こし、超伝導コイルが作る磁場分布J1は、この磁場変化C1を含んだ磁場分布J1’となる。一方、強磁性体が作る磁場分布J2は、一般に、外部の磁場強度(主として超伝導コイルが作る磁場)に対して非線形となる特性を示し、特に、飽和領域付近ではほとんど変化することがない。したがって、超伝導コイルへの通電電流値が変化した後は、均一磁場J3に対して超伝導コイルが起こす磁場変化C1がそのまま反映されることとなり、均一磁場J3は、不均一な磁場分布J3’となってしまう。
【0008】
このような、通電電流値の誤差に起因する磁場均一度の変動は、消磁前の通電電流値と再励磁後の通電電流値とを厳密に一致させることで回避することが可能ではあるが、その精度は、励磁用電源の精度に依存するため高精度な励磁用電源が必要となる。しかし、高精度な励磁用電源は、高価であるという難点を有している。
ところで、前記した特許文献1に記載されたような、磁場均一度調整体の再配置を行うことで均一磁場を生成する手法では、このような磁場均一度の変動も修正可能であるが、前記したように調整作業に多くの時間を要するため、作業時間の観点から適切であるとは言えない。また、特許文献5、6に記載されたような、磁性体の温度分布を制御することにより均一磁場を生成する手法では、対象として超伝導磁石が記載されていないことからもわかるように、主たる磁気回路が永久磁石やその他の磁性体で構成されている場合でないと有効でないし、コイル電流値の誤差に起因する微小な不均一を補償するには温度分布の生成が困難であり、その構成が複雑かつ高価となる。また、特許文献2〜4に記載された技術は、超伝導コイルの電流誤差の補償に使用することができない。
【0009】
そこで、本発明は、超伝導コイルの励磁電流の誤差に起因する不均一磁場を安価に効率良く補償して均一磁場を得ることのできる磁場均一度調整装置、およびこれを用いた超伝導磁石装置、並びに磁気共鳴撮像装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、超伝導コイルの通電電流値の誤差に起因する磁場均一度の変動が強磁性体の温度を変化させることで十分に補正可能であることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、磁場空間における磁場分布を測定する磁場分布測定装置と、磁場分布測定装置により測定された磁場分布に基づき、磁場空間の均一性を向上させるのに必要な強磁性体の温度変化量を算出する温度変化量算出装置と、温度変化量算出装置により算出された温度変化量に基づいて、強磁性体の温度制御値を設定する温度制御装置と、を具備したことを特徴とする。かかる構成を採用することによって、温度変化量算出装置により、磁場分布測定装置で測定された磁場分布に基づき、磁場空間の均一性を向上させるために必要な強磁性体の温度変化量が算出され、この算出された温度変化量に基づいて温度制御装置が強磁性体の温度制御値を設定する。つまり、超伝導コイルの通電電流値の誤差により生じる不均一な磁場を、強磁性体の略一様な温度分布を実現するためだけの(すなわち、強磁性体に温度分布を与える必要がない)簡素な温度制御装置を用いて補償し、均一磁場を得ることができるから、超伝導磁石装置の磁場均一度調整装置を従来よりも効率良くかつ安価な装置とすることができる。したがって、この磁場均一度調整装置を備えた超伝導磁石装置や磁気共鳴撮像装置を安価に提供することができ、かつ、磁場調整を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、超伝導コイルの励磁電流の誤差に起因する不均一磁場を安価に効率良く補償して均一磁場を得ることのできる磁場均一度調整装置、およびこれを用いた超伝導磁石装置、並びに磁気共鳴撮像装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の磁場均一度調整装置を備えた超伝導磁石装置による磁気共鳴撮像装置(以下、MRI装置という)の一実施形態を図面を参照して詳細に説明する。MRI装置は、図1に示すように、超伝導磁石装置1と、被検体(不図示、以下同様)を乗せるベッドBDと、このベッドBDに乗せられた被検体を磁場空間において均一磁場空間となる撮像領域Fへ搬送する、図示しない駆動機構が設けられた搬送手段BD1と、この搬送手段BD1によって撮像領域Fに搬送された被検体からの核磁気共鳴信号を解析するコンピュータ等の機器からなる解析手段30とから構成され、ベッドBDに乗った被検体を通して断層撮影を行うものである。超伝導磁石装置1には、本発明の特徴的構成である磁場均一度調整装置20(図3,図4参照)が設けられている。
【0013】
超伝導磁石装置1は、磁場発生源として、内部を真空に保持された一対のコイル容器1A,1Bが磁場空間を形成するように連結柱1C,1Cを介して上下に対向配置されて構成されている。図2に示すように、上側のコイル容器1Aには、円環状に形成された超伝導コイル2A,3Aが設けられ、また、円環状あるいは円柱状に形成された強磁性体としての鉄4A,5Aが設けられている。下側のコイル容器1Bには、側のコイル容器1Aの超伝導コイル2A,3Aと対をなす、超伝導コイル2B,3Bが設けられ、さらに、上側のコイル容器1Aの鉄4A,5Aと対をなす、強磁性体としての鉄4B,5Bが設けられている。なお、各超伝導コイル2A,3A、2B,3Bのコイル線材としては、例えば、NbTi線材が用いられている。
本実施形態では、上側のコイル容器1Aおよび下側のコイル容器1Bは、同様の構成としてあるので、以下では上側のコイル容器1Aについて説明する。
【0014】
上側のコイル容器1Aは、略円筒状を呈する真空容器であり、容器内には輻射シールド6を介設してヘリウム容器7が収納されている。ヘリウム容器7内には、超伝導コイル2A,3Aが、超伝導用冷媒としての液体ヘリウム(図示しない)と共に収納されている。
上側のコイル容器1Aの径方向内側に配置される超伝導コイル2Aは主コイルであり、また、径方向外側に配置される超伝導コイル3Aは遮へいコイルである。
【0015】
鉄4A,5Aは、ヘリウム容器7の径方向の内側にあってコイル容器1A内の真空領域に配置されている。鉄4A,5A間には、複数の伝熱管8が配設されており、この伝熱管8を介して鉄4A,5Aの温度が略一様に保持されるようになっている。本実施形態では、伝熱管8が、鉄4A,5Aの周方向に略所定の間隔を置いて平面視で略放射状に複数設けられており、鉄4A,5Aの温度が略一様となるように、その材質や径寸法等が適宜選択されて設定されている。伝熱管8としては、熱伝導率の良い材料、例えば、銅が用いられている。なお、伝熱管8を例えばメッシュ状の素材で形成することによって、超伝導磁石装置1の振動等にも柔軟に対応することが可能となる。
【0016】
上側のコイル容器1Aの外部上面には、電気ヒータ10が配置されており、この電気ヒータ10と鉄4A,5Aとの間が複数の伝熱管9で接続されている。また、この電気ヒータ10と下側のコイル容器1Bの鉄4B,5Bとの間も図示しない伝熱管9(連結柱1C,1C内を挿通して配索されている)で接続されている。したがって、電気ヒータ10が通電されて熱を発すると、その熱は、伝熱管9を通じて鉄4A,5A(鉄4B,5B)に伝わり、これらの鉄4A,5A(鉄4B,5B)が加熱されるように構成されている。また、鉄4A,5A(鉄4B,5B)は、ともに、複数の伝熱管8によって、温度が略一様となるように加熱されるようになっている。
ここで、「温度が略一様」には、鉄4A,5A(鉄4B,5B)の全体が略同じ温度にされることを含むほか、鉄4A,5A(鉄4B,5B)がある程度の温度差を当初から有しつつ、同じ温度だけ上昇されるような場合(鉄4A,5A(鉄4B,5B)がある程度の温度差を有している状態で磁場均一度が得られているような場合)を含む。
【0017】
このような電気ヒータ10の加熱制御は、連絡線11を介して接続された後記する温度制御装置12によって行われるようになっている。
ところで、鉄4A,5A(鉄4B,5B)は、電気ヒータ10によって加熱される一方、その側方に配置された輻射シールド6への輻射によって冷却されることとなるため、鉄4A,5A(鉄4B,5B)の温度は、電気ヒータ10による加熱と輻射シールド6による冷却とのバランスによって決定されることとなる。
【0018】
鉄4A,5Aには、温度センサ26が取り付けられており、鉄4A,5Aの温度が測定可能となっている。温度センサ26によって測定された温度は、後記する温度制御装置12にフィードバックされるようになっている。なお、温度センサ26は、鉄4A,5Aに対してそれぞれ複数個設置して、各設置位置における温度を測定するようにしてもよい。
本実施形態では、ひとつの温度制御装置12で、上側のコイル容器1Aの鉄4A,5Aと下側のコイル容器1Bの鉄4B,5Bとの両方の温度が制御されるように構成されている。つまり、温度制御装置12は上側のコイル容器1Aの鉄4A,5Aと下側のコイル容器1Bの鉄4B,5Bとで共用されるようになっており、この例では、上側のコイル容器1Aの鉄4A,5Aの温度制御に基づいて、下側のコイル容器1Bの鉄4B,5Bが温度制御されるように構成されている。
【0019】
磁場均一度調整装置20は、図4に示すように、磁場分布測定装置21と、温度変化量算出装置22と、温度制御装置12とを備えて構成されている。
磁場分布測定装置21は、磁場空間における磁場分布を測定するための装置であり、超伝導磁石装置1の励磁後に磁場空間に配置される(図2参照)。
磁場分布測定装置21としては、均一磁場空間F(図2参照、以下同じ)の磁場分布を測定できるものであれば良く、例えば、均一磁場空間F上の各点に図示しない磁気センサを逐一配置して測定するようなものでもよいし、半円弧上に複数の磁気センサを取り付け、同時に複数点の磁場強度を測定できるようなものであってもよい。このような磁場分布測定装置21は、均一磁場を得るための磁場調整が完了した後は撤去される。なお、このような磁気センサによる直接測定を用いずに、水ファントムなどの磁気共鳴スペクトルから磁場分布を測定するような手法を用いて磁場分布を測定しても差し支えない。
磁場分布測定装置21により得られた磁場分布データは、温度変化量算出装置22へ入力される。
【0020】
温度変化量算出装置22は、磁場分布測定装置21により測定された磁場分布データに基づき、磁場空間の均一性を向上させるために必要な上側のコイル容器1Aの鉄4A,5Aおよび下側のコイル容器1Bの鉄4B,5Bの温度変化量ΔTを算出するようになっている。
【0021】
温度制御装置12は、温度変化量算出装置22により算出された温度変化量ΔTに基づいて、鉄4A,5A(鉄4B,5B)の温度制御値を設定し、この設定した温度制御値に基づいて鉄4A,5A(鉄4B,5B)の温度を制御するようになっている。なお、温度制御装置12には、温度センサ26により測定された温度データが入力されるようになっている。
【0022】
次に、超伝導コイル2A,3Aの通電電流値の誤差に起因する磁場不均一が、鉄4A,5A(4B,5B)の一様な温度変化により十分に補正されることについて、数式および図5を参照して説明する。
図5において、横軸は、均一磁場空間の方位角(度)を示しており、縦軸は、その方位における磁場強度(均一成分を除く)を示している。前記したように、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)が作る磁場分布J1と、鉄4A,5A(4B,5B)が作る磁場分布J2との和によって均一磁場J3を形成している。
【0023】
超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値の誤差ΔI(不図示)により、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)が作る磁場分布は、磁場分布J1’となり、磁場分布J1から磁場分布J1’への磁場変化C1が生じる。磁場分布J1および磁場分布J1’は、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に比例するのだから、磁場変化C1もまた、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に比例する。ここで、磁場分布J1および磁場変化C1をそれぞれ、
【0024】
【数1】

【0025】
【数2】

【0026】
というようなベクトル表記で表すと、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の作る磁場分布は、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に比例することから、次式(1)で表すことができる。
【0027】
【数3】

【0028】
ここで、αは比例定数である。
一方、鉄4A,5A(4B,5B)は、温度の上昇とともに飽和磁化の大きさが減少する温度依存性を持っている。この磁化変化は、通常、磁気共鳴撮像装置が運用される常温近傍の温度範囲、つまり、鉄4A,5A(4B,5B)の温度範囲に比べて微小となる温度範囲では、温度変化に対して線形に近似できる。したがって、磁場分布J2を作っている鉄4A,5A(4B,5B)の温度を一様にΔTだけ上昇させると、鉄4A,5A(4B,5B)は、ΔTに比例する量だけ一様に磁化を失い、鉄4A,5A(4B,5B)の作る磁場分布は、磁場変化C1’を生じて磁場分布J2’となる。ここで、磁場分布J2と磁場変化C1’をそれぞれ
【0029】
【数4】

【0030】
【数5】

【0031】
というようなベクトル表記で表すと、鉄4A,5A(4B,5B)の作る磁場分布は鉄4A,5A(4B,5B)の磁化に比例する、すなわち、温度変化に比例するから、次式(2)で表すことができる。
【0032】
【数6】

【0033】
ここで、βは比例定数である。
ところで、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)が作る磁場分布J1と鉄4A,5A(4B,5B)が作る磁場分布J2との和は均一磁場J3を形成するように構成されているから、磁場分布J1と磁場分布J2とは、均一磁場成分を除けば、向きが逆で大きさが同じ磁場分布になっている。すなわち、これらの関係は、次式(3)となる。
【0034】
【数7】

【0035】
これにより、前記式(1)、式(2)および式(3)から、次式(4)を得ることができる。
【0036】
【数8】

【0037】
この式(4)は、適切な温度変化量ΔTを選ぶことにより、コイル通電電流値の誤差に起因する磁場変化C1と、鉄4A,5A(4B,5B)の温度変化により生じる磁場変化C1’とを、向きが逆で大きさが同じ分布にすることが可能であることを示している。すなわち、ΔTにより発生する磁場変化C1’によって、ΔIに起因する磁場変化C1を打ち消し、磁場分布J3’を得ることが可能であることを示している。
【0038】
この演算に際しては、前記式(4)をそのまま用いても良いが、磁場変化C1や磁場変化C1’の表現方法を工夫することで計算を単純にすることができる。例えば、磁場変化C1のうちで最大の磁場変化Bmaxと、最小の磁場変化Bminとから、次式(5)として算出されるBuを用いれば、
【0039】
【数9】

【0040】
温度変化量ΔTは、比例定数γを用いて、次式(6)と表現することができる。
【0041】
【数10】

【0042】
また、直交展開の展開係数を用いることも考えられる。磁場変化C1を、前記のようなベクトル形式ではなく、
【0043】
【数11】

【0044】
というような極座標を用いた関数表現とした場合、一例として、次式(7)のような直交展開が可能である。
【0045】
【数12】

【0046】
ただし、
【0047】
【数13】

【0048】
はルジャンドル陪関数である。このような直交展開の係数A(l,m)およびB(l,m)によって磁場変化C1を表現することにすれば、磁場変化C1は超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に比例した分だけ変化するのであるから、ひとつの展開係数を参照しさえすれば、残りの展開係数は全て確定するようになる。したがって、例えば、A(2,0)で表される展開係数を参照することにより、比例係数γ’(温度と磁界の変化は比例する。すなわち前記式(4)が成り立っていることを前提として)を用いて、ΔTを次式(8)で示すように算出することができる。
【0049】
【数14】

【0050】
本実施形態ではΔTの算出方法として前記式(4)、式(6)、式(8)による方法を例示したが、これに限られることはなく、測定された磁場変化C1から、適切な温度変化量ΔTが算出されるものであれば、温度変化量算出装置22はどのようなものであってもよい。算出されたΔTは、温度制御装置12の入力データとなる。
【0051】
温度制御装置12は、温度変化量算出装置22で算出されたΔTと鉄4A,5Aに設置された温度センサ26により測定された温度データとを入力として受け取り、鉄4A,5Aの温度をΔTだけ変化させるために必要な電気ヒータ10の駆動電流値を決定し、出力する。この駆動電流値の決定方法は、例えば、比例制御、積分制御、微分制御など良く知られた制御法あるいはその組み合わせを用いることができる。もちろん、これらの方法に限る必要はなく、温度センサ26を不要とするセンサレス制御を用いてもよい。
【0052】
以下では、本実施形態において得られる効果を説明する。
(1)本実施形態の磁場均一度調整装置20は、磁場分布を測定するための磁場分布測定装置21と、磁場分布測定装置21により得られた磁場分布から必要な温度変化量ΔTを算出する温度変化量算出装置22と、温度変化量算出装置22が算出した温度変化量ΔTを入力として鉄4A,5A(4B,5B)の温度を制御する温度制御装置12と、を備えているので、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に誤差が生じた場合でも、磁場変化C1に対応する適切な温度に鉄4A,5A(4B,5B)を制御することができ、効率良く磁場均一度調整を行うことができる。また、鉄4A,5A(4B,5B)の温度に分布を持たせる必要が無いので、電気ヒータ10の数や温度制御装置12の台数を最小限に減らした構成とすることができ、簡素で安価な磁場均一度調整装置20を得ることができる。
(2)温度変化量算出装置22における温度変化量ΔTの算出を、測定された磁場分布の最大値と最小値との差分に比例する量として算出する構成としたときには、計算を単純にすることができ、簡素で安価な磁場均一度調整装置20を得ることができる。
(3)温度変化量算出装置22における温度変化量ΔTの算出を、磁場分布の直交展開の係数の大きさに比例する量として算出する構成としたときには、磁場変化C1が、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値に比例した分だけ変化するのであるから、高々ひとつの展開係数を参照しさえすれば、残りの展開係数は全て確定するようになり、計算が簡単になって、簡素で安価な磁場均一度調整装置20を得ることができる。
(4)温度制御装置12は、超伝導コイル2A,3A(2B,3B)の通電電流値の誤差により生じる不均一な磁場を、鉄4A,5A(4B,5B)の略一様な温度分布を実現するためだけの(すなわち、鉄4A,5A(4B,5B)に温度分布を与える必要がない)簡素な温度制御によって補償し、均一磁場を得るものであるので、超伝導磁石装置1の磁場均一度調整装置20を従来よりも効率良くかつ安価な構成で得ることができる。
(5)温度制御装置12は、鉄4A,5A用および鉄4B,5B用の共用であるので、簡素で安価な磁場均一度調整装置20を得ることができる。
(6)電気ヒータ10が上側のコイル容器1Aの外部上面に配置されているので、電気ヒータ10の点検整備や不具合による交換が簡単であり、メンテナンス性に優れているという利点が得られる。
(7)簡素で安価な磁場均一度調整装置20を得ることができるので、この磁場均一度調整装置20を備えた超伝導磁石装置1や磁気共鳴撮像装置を安価に提供することができ、かつ、磁場調整を効率良く行うことができる。
【0053】
図6は超伝導磁石装置1の変形例であり、この例では、電気ヒータ10が、鉄4A,5A(4B,5B、不図示、以下同じ)に直接取り付けられている。このような構成とすることによって、鉄4A,5A(4B,5B)を電気ヒータ10で直接加熱することができ、電気ヒータ10の熱損失を低減して、電気ヒータ10における必要な発熱量を低減させることができる。
【0054】
図7は超伝導磁石装置1のその他の変形例であり、この例では、電気ヒータ10が、上側のコイル容器1Aの内部に設けられている。コイル容器1Aの内部は、真空断熱されているので、電気ヒータ10をコイル容器1Aの内部に設けることによって、電気ヒータ10の熱を逃げ難くすることができる。その分、電気ヒータ10における必要な発熱量を低減させることができる。
【0055】
図8は超伝導磁石装置1のその他の変形例であり、この例では、鉄4A,5A(4B,5B)が輻射シールド6の内側に配置されており、また、電気ヒータ10が鉄4A,5A(4B,5B)に直接取り付けられている。このような構成とすることによって、鉄4A,5A(4B,5B)の温度は輻射シールド6の温度近傍まで下がることとなるが、温度制御装置12によって温度変化量ΔTの温度変化が可能な構成とすることにより、鉄4A,5A(4B,5B)の略一様な温度分布を実現することができる。
なお、鉄4A,5A(4B,5B)の配置や電気ヒータ10の設置位置は、これらの例に限られることはなく、適宜の位置に設定することができる。
【0056】
また、前記実施形態では、温度制御装置12が上側のコイル容器1Aと下側のコイル容器1Bとで共用される構成としたが、これに限られることはなく、上側のコイル容器1Aと下側のコイル容器1Bとでそれぞれ個別に設けて制御を行うように構成してもよい。超伝導磁石装置1を設置する環境によっては、上側のコイル容器1Aの近傍の温度と下側のコイル容器1Bの近傍の温度とが異なり、かつ、温度が時間の経過とともに変化する場合があるため、温度制御装置12を個別に設けることによって、このような影響を排除することができ、磁場均一度の高精度化に寄与する。なお、下側のコイル容器1Bに対応する電気ヒータ10(不図示)は、下側のコイル容器1Bの外部側面等を利用して設置してもよいし、下側のコイル容器1Bの下部に電気ヒータ10の設置用のスペースを設けてこれに収納するように設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の超伝導磁石装置を備えた磁気共鳴撮像装置を示す説明図である。
【図2】超伝導磁石装置の構造を示す模式断面図である。
【図3】超伝導磁石装置の要部の模式断面図である。
【図4】磁場均一度調整装置を示すブロック図である。
【図5】超伝導コイルの電流値の誤差に起因する不均一磁場が、鉄の温度で補償可能である原理を示した図である。
【図6】超伝導磁石装置の変形例を示す模式断面図である。
【図7】超伝導磁石装置の変形例を示す模式断面図である。
【図8】超伝導磁石装置の変形例を示す模式断面図である。
【図9】超伝導コイルの通電電流値に誤差が生じると磁場均一度が変化する原理を示した図である。
【符号の説明】
【0058】
1 超伝導磁石装置
1A,1B コイル容器
2A,3A 超伝導コイル
2B,3B 超伝導コイル
4A,5A 鉄
4B,5B 鉄
8 伝熱管
9 伝熱管
10 電気ヒータ
12 温度制御装置
20 磁場均一度調整装置
21 磁場分布測定装置
22 温度変化量算出装置
26 温度センサ
30 解析手段
BD ベッド
Bmax,Bmin 磁場変化
C1,C1’ 磁場変化
F 均一磁場空間
J1,J1’ 磁場分布
J2,J2’ 磁場分布
J3 均一磁場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一対の超伝導コイルと少なくとも一対の強磁性体とからなる磁場発生源が対向して配置されてなり、これらの間に挟まれる領域に略均一な磁場空間を形成してなる超伝導磁石装置のための磁場均一度調整装置であって、
前記磁場空間における磁場分布を測定する磁場分布測定装置と、
前記磁場分布測定装置により測定された磁場分布に基づき、前記磁場空間の均一性を向上させるのに必要な前記強磁性体の温度変化量を算出する温度変化量算出装置と、
前記温度変化量算出装置により算出された温度変化量に基づいて、前記強磁性体の温度制御値を設定する温度制御装置と、
を具備したことを特徴とする磁場均一度調整装置。
【請求項2】
前記温度変化量算出装置は、温度変化量を、測定された磁場分布の最大値と最小値との差分に比例する量として算出することを特徴とする請求項1に記載の磁場均一度調整装置。
【請求項3】
前記温度変化量算出装置は、温度変化量を、磁場分布の直交展開の係数の大きさに比例する量として算出することを特徴とする請求項1に記載の磁場均一度調整装置。
【請求項4】
前記温度制御装置は、前記強磁性体の温度を略一様な温度に保持するように制御することを特徴とする請求項1に記載の磁場均一度調整装置。
【請求項5】
前記温度制御装置は、一方の前記磁場発生源内に配置された前記強磁性体用のものと、他方の前記磁場発生源内に配置された前記強磁性体用のものとが共用されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場均一度調整装置。
【請求項6】
前記温度制御装置は、複数設けられており、一方の前記磁場発生源内に配置された前記強磁性体、および他方の前記磁場発生源内に配置された前記強磁性体の温度制御値の両方を設定するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁場均一度調整装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の磁場均一度調整装置を備えたことを特徴とする超伝導磁石装置。
【請求項8】
請求項7に記載の超伝導磁石装置を備えた磁気共鳴撮像装置であって、
被検体を乗せるベッドと、このベッドに乗せられた前記被検体を前記領域へ搬送する搬送手段と、この搬送手段によって前記領域に搬送された前記被検体からの核磁気共鳴信号を解析する解析手段とを備えたことを特徴とする磁気共鳴撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−259558(P2008−259558A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102560(P2007−102560)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】