説明

磁性体およびその製造のための方法

180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%またはそれ以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示すことを特徴とする、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む磁性体および、その製造のための方法が開示される。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類ボンド磁性体およびその製造のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
希土類元素含有化合物は、希土類金属ベースの磁性材料粒子を所定の形状に成形することによって永久磁石を製造するために使用されてきた。希土類金属ベースの磁性材料粒子は、バインダーとして作用するポリマーなどによって凝集させる。このようなポリマー-ボンド磁石は、一工程成形プロセスにおいて厳しい精度内で様々な複雑な形状に成形されるといったその柔軟性など、焼結磁石をしのぐ際立つ長所を有し、これによって製造コスト削減が可能になる。
【0003】
さらに、プロセスおよび適用要件に合致する多くのポリマーバインダーが知られている。ゆえに、ボンド磁石は、多岐にわたる原料から製造することができる。しかし、これらの希土類ポリマー-ボンド磁石の耐久性に関しては問題がある。
【0004】
ポリマー-ボンド磁石に対する最大操作温度は、2つの主要な要因によって焼結磁石に対するものよりも顕著に低い。第一に、ポリマー-ボンド磁石の分解および軟化温度は、永久磁性材料のキュリー温度よりも極めて低い。第二に、これらの磁性粒子は酸化され易く、この易酸化性は、ボンド磁石の可使時間中の温度上昇とともに実質的に上昇する。温度安定性が良好であるバインダーは入手可能ではあるが、高温で酸化に耐えるよう十分に良好な遮断性を有するものは少ない。この易酸化性によってこの磁石の有用な保存可能期間が短くなる。
【0005】
空気中で磁石が急速に酸化される結果、最終的に磁性粒子の磁気特性、即ち磁性体の磁気特性が劇的に低下する。酸化は一連の磁石形成中でも不意に進行し得、それにより製造方法中の安全面に関する問題が生じる。このような希土類ベースのポリマー-ボンド磁石を商業的および工業的に現実的なものとするために、これらの問題に取り組む必要がある。
【0006】
酸化問題を克服するために、不活性または非酸化環境下で磁石の製造を行うかまたは、空気と磁性粒子との相互作用を防止するある種の有機シランカップリング剤とともに圧密前加熱処理を行うことができる。ある程度までは酸化を防止し得るが、生産性低下および製造コストの上昇などのさらなる問題に直面することなく磁石内の酸化を完全に防止することは非常に困難である。さらに、続く乾燥工程の処理温度が高いため、被覆物が不安定になり、効果が失われ得る。
【0007】
上述の従来からの不動態化法の短所から考えると、希土類金属ベースのボンド磁石の製造に適用すると、酸化に対する有効な耐性を与え、上記の短所を克服するかまたは少なくとも改善する不動態化技術を提供する必要がある。
【0008】
上記の短所を克服するかまたは少なくとも改善する希土類ボンド磁性体を提供することも必要である。
【発明の概要】
【0009】
概要
第一の局面によると、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%以下の最大エネルギー積損失(maximum energy product loss)(ΔBHmax)を示すことを特徴とする、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む磁性体が提供される。
【0010】
好都合なことに、前記希土類ボンド磁性体中の磁性粒子の全表面積の少なくとも70%が実質的に酸化に対して不活性である。ゆえに、前記磁性体は、高温でも実質的に酸化され得ない。
【0011】
好都合なことに、前記希土類ボンド磁性体は、酸化の影響から実質的に保護され得、ゆえに、より長時間にわたりその磁性特性を保持し得る。
【0012】
第二の局面によると、磁性体の圧密形成前に抗酸化剤で被覆される粒子から形成されるボンド磁性体と比較して最大エネルギー積損失(ΔBHmax)が低いことを特徴とする、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む希土類ボンド磁性体が提供される。
【0013】
ゆえに、圧密前に不動態化されている磁性体と比較した場合、圧密中またはその後に不動態化されている、開示される磁性体において磁気特性の損失度がより低い。
【0014】
第三の局面によると、
(a)希土類ボンド磁性体を形成するために希土類磁性材料粒子を圧密する工程と、
(b)該圧密する工程中またはその後に、該磁性体を通じてその抗酸化剤を含む移動相を接触させる工程とを含む希土類ボンド磁性体の製造のための方法が提供される。
【0015】
好都合なことに、開示される方法によって、前記希土類磁性体を構成する磁性材料粒子の表面を覆う保護層を形成させることにより、大気ならびに高湿度条件下で、前記希土類磁性体が実質的に酸化されにくくなる。保護層の形成は、磁性材料粒子の圧密中またはその後に起こり得る。これによって、磁性材料粒子が圧密中に破砕する際に生じる磁性材料粒子の新生表面を保護層が被覆できるようになり得る。ゆえに、この保護層は、新生表面上に存在し得、その結果、既存表面および圧密中に生成される磁性材料粒子の新生表面が実質的に完全に被覆され得る。
【0016】
重要であるのは、圧密する工程中またはその後に接触させる工程を行うことである。圧密工程中またはその後に磁性体を接触させる移動相がなく、圧密工程中に新たな粒子の破損が起こる場合、新生粒子は抗酸化剤コーティングに曝露されず、ゆえにこれらは酸化され易く、その後、その粒子の磁気特性、従ってそれらから形成されるボンド磁石の磁気特性、の損失が起こる。抗酸化剤に曝露されていない、圧密中に生成される新生表面が酸化される結果、高温で作業する場合、硬化時に深刻な磁気特性低下および相当な時効損失 (即ち経時的な磁気特性の損失)が起こる。
【0017】
従って、圧密する工程中またはその後、磁性体を通じて移動相を接触させることによって、新生表面が不動態化工程に供されず、酸化され易くなる事態が回避される。これらの理由により、圧密する工程中またはその後にその抗酸化剤を含む移動相を接触させることによって形成された、粒子の表面が酸化に対して耐性であるという点で新しい製品がある。
【0018】
上記で規定される方法の一態様において、希土類ボンド磁性体を形成させるために、希土類磁性材料粒子に対して十分な量の移動相を提供する工程が提供され、この希土類ボンド磁性体は、180℃の温度に1000時間供した後、ASTM977/977Mにより測定した場合に12%以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書中で使用される次の語および用語は、指定の意味を有するものとする。
【0020】
「不動態化する」、「不動態化すること」、「不動態化される」という用語およびそれらの文法的変形物は、本明細書の文脈では、抗酸化剤への曝露後の磁性材料粒子の表面の抗酸化特性を指す。即ち、この用語は、抗酸化剤に曝露されていない磁性材料粒子の表面と比較して、酸化に対して高い耐性を示す磁性材料粒子の表面特性を指す。
【0021】
本明細書の文脈における「インサイチューでの不動態化」という用語は、磁石の形成中であるが磁石形成後ではない、磁性材料粒子の表面の不動態化を指す。
【0022】
本明細書の文脈における「圧縮成形」という用語は、最初に磁性材料粒子が蓋のない加熱された型穴に置かれ、次に加圧され、場合によっては粒子が硬化するまで加熱される、成形方法を指す。
【0023】
本明細書の文脈における「圧密する」または「圧密」という用語は、磁性材料粒子が受ける、圧縮成形、射出成形または押出成形プロセスを指す。
【0024】
本明細書の文脈における「ボンド磁性体」という用語は、磁性材料粒子を所定の形状に圧密することにより形成される磁性体を指す。ボンド磁性体の形成を促進するためにバインダーを使用することができる。
【0025】
「ミッシュメタル」という用語は、当技術分野で公知のとおりのミッシュメタル鉱石を指し、ミッシュメタル鉱石の酸化型もその範囲内に含まれる。ミッシュメタル鉱石中の希土類金属の具体的な組み合わせは、その鉱石が採収された鉱山および鉱脈により異なる。ミッシュメタルは一般に、100%重量を基として、約30重量%から約70重量%のCe、約19重量%から約56重量%のLa、約2重量%から約6重量%のPrおよび約0.01重量%から約20重量%のNdおよび不可避不純物という組成を有する。「天然形態」のミッシュメタルとは、上記で規定されるように精製されていないミッシュメタル鉱石を意味する。「移動相」という用語は、真空または圧縮力または毛細管力を用いて圧密工程中に生成する新生表面と媒体が接触できるように、磁性材料粒子の圧密中またはその後に少なくとも一部、磁性体に接触することが可能な媒体を指す。
【0026】
「C1-20アルキル」という用語は、1から20個の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖飽和脂肪族炭化水素基を指す。特に、このアルキル基は、1から10個の炭素原子を有するかまたは1から4個の炭素原子を有し得る。アルキル基は、ヒドロキシ、ハロゲン(F、BrまたはIなど)、アミノ、ニトロ、シアノ、アルコキシ、アリールオキシ、チオヒドロキシ、チオアルコキシ、チオアリールオキシ、スルフィニル、スルホニル、スルホンアミド、ホスホニル、ホスフィニル、カルボニル、チオカルボニル、チオカルボキシ、C-アミド、N-アミド、C-カルボキシ、O-カルボキシおよびスルホンアミドからなる群より選択される置換基で置換されてもよい。
【0027】
「C3-10シクロアルキル」という用語は、3から7個の炭素原子を含有する単環または縮合環を指す。例えば、このC3-10シクロアルキル基は、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロペンテン、シクロヘキサン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタン、シクロヘプタトリエンまたはアダマンタンであり得る。C3-10シクロアルキル基は、上述の置換基の1つで置換されてもよい。
【0028】
「C2-20アルケニル」基という用語は、2から20個の炭素原子を有し、少なくとも1個の炭素-炭素二重結合を含有する、直鎖または分岐鎖不飽和脂肪族炭化水素基を指す。C2-20アルケニル基は、上述の置換基の1つで置換されてもよい。
【0029】
「アリール」基という用語は、全て炭素の不飽和単環または縮合環多環式(即ち炭素原子の隣接対を共有する環)基を指す。例えば、アリール基は、フェニル、ナフタレニルまたはアントラセニルであり得る。アリール基は上述の置換基の1つで置換されてもよい。
【0030】
「実質的に」という用語は「完全に」を除外せず、例えば「実質的にY不含」である組成物は、完全にY不含であり得る。即ち、「実質的に」という用語は、「完全に」または「部分的に」と解釈されたい。必要に応じて、「実質的に」という語は本発明の定義から省略され得る。
【0031】
別段の断りがない限り、「含む(comprising)」および「含む(comprise)」という用語およびそれらの文法的変形物は、引用される要素を含むが、引用されないさらなる要素を含むことも認めるような「オープン(open)」または「包括的な(inclusive)」言葉である。
【0032】
本明細書中で使用される場合、「約」という用語は、配合の成分の濃度に関する場合、典型的に、述べる値の+/-5%、より典型的には述べる値の+/-4%、より典型的には述べる値の+/-3%、より典型的には述べる値の+/-2%、さらにより典型的には述べる値の+/-1%およびさらにより典型的には述べる値の+/-0.5%を意味する。
【0033】
本開示全体にわたり、ある特定の態様が範囲を示す形式で開示され得る。当然のことながら、範囲を示す形式の記述は単に便宜性および簡潔性のためであり、開示される範囲の幅に柔軟性なく限定するものとして解釈されるべきではない。従って、範囲の記述は、可能な下位領域全ておよびその範囲内の個々の数値を具体的に開示しているとみなすべきである。例えば、1から6などの範囲の記述は、1から3、1から4、1から5、2から4、2から6、3から6などの具体的に開示される下位領域およびその範囲内の個々の数字、例えば1、2、3、4、5および6、を有するとみなすべきである。これは、範囲の広さにかかわらず適用される。
【0034】
最適な態様の開示
ここで磁性体およびそれを製造するための方法の例示的、非限定的態様を開示する。
【0035】
本発明の磁性体は、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含み、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に約12%以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示すことを特徴とする。前記磁性体は、約11%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満および約1%未満からなる群より選択される最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示し得る。
【0036】
前記磁性体は、約1%未満、約0.9%未満、約0.8%未満、約0.7%未満、約0.6%未満、約0.5%未満、約0.4%未満、約0.3%未満からなる群より選択される残留磁気損失(ΔBr)を有し得る。
【0037】
前記希土類ボンド磁性体において、実質的に酸化に対して不活性であり得る、ボンド磁性体の磁性粒子の全表面積は、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%および約100%からなる群より選択され得る。
【0038】
ボンド体中に酸化不活性磁性粒子が存在するため、磁性体内の磁性粒子の表面は酸化に対して耐性となり得る。磁性粒子が凝集塊を形成する場合、この凝集塊の表面は酸化に対して耐性であり得る。
【0039】
希土類磁性材料粒子は、ネオジム、プラセオジム、ランタン、セリウム、サマリウム、イットリウム、鉄、コバルト、ジルコニウム、ニオビウム、チタン、クロム、バナジウム、モリブデン、タングステン、ハフニウム、アルミニウム、マンガン、銅、ケイ素、ホウ素およびそれらの組み合わせからなる群より選択される元素から構成され得る。
【0040】
本発明の希土類磁性材料粒子は、次の式の原子濃度の組成を有し得る:
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
式中、
RはNd、Pr、ジジム(Nd0.75Pr0.25の組成のNdおよびPrの天然混合物(nature mixture))またはそれらの組み合わせであり、
R'は、La、Ce、Yまたはそれらの組み合わせであり、
Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、WおよびHfのうち1つまたは複数であり、
Tは、Al、Mn、CuおよびSiのうち1つまたは複数であり、
0.01=a=0.8、7=u=13、0.1=v=20、0.01=w=1、0.1=x=5および4=y=12である。
【0041】
本発明の希土類磁性材料粒子は、次の式の原子濃度の組成を有し得る:
(MM1-aRa)uFe100-u-v-w-x-yYvMwTxBy
式中、
MMは、ミッシュメタルまたはそれらの合成等価物であり、
Rは、Nd、Prまたはそれらの組み合わせであり、
Yは、Fe以外の遷移金属であり、
Mは、周期表の第4族から第6族から選択される1つまたは複数の金属であり、
Tは、周期表の第11族から第14族から選択される、B以外の1つまたは複数の元素であり、
0=a<1、7=u=13、0=v=20、0=w=5であり;0=x=5および4=y=12である。
【0042】
遷移金属Yは、周期表の第9族または第10族から選択され得る。ゆえに、Yは、Co、Rh、Ir、Mt、Ni、Pd、PtおよびDsのうち1つまたは複数から選択され得る。ある態様において、遷移金属YはCoであり得る。
【0043】
金属Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、W、Rf、Ta、Db、SgおよびHfのうち1つまたは複数であり得る。ある態様において、Mは、Zr、Nbまたはそれらの組み合わせから選択される。
【0044】
元素Tは、Al、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Ga、In、Tl、Ge、Sn、PbおよびSiのうち1つまたは複数であり得る。ある態様において、TはAlである。
【0045】
ある態様において、MはZr、Nbまたはそれらの組み合わせから選択され、TはAlから選択される。特に、MはZrであり、TはAlである。
【0046】
ミッシュメタルまたはそれらの合成等価物はセリウムベースのミッシュメタルであり得る。ミッシュメタルまたはそれらの合成等価物は、20%から30%のLa、2%から8%のPr、10%から20%のNdおよび残部がCeおよび何らかの偶発的な不純物である組成を有し得る。ミッシュメタルまたはそれらの合成等価物は、25%から27%のLa、4%から6%のPr、14%から16%のNdおよび47%から51%のCeの組成を有する。
【0047】
磁性材料粒子は、約1ミクロンから約420ミクロン、約1ミクロンから約100ミクロン、約1ミクロンから約200ミクロン、約1ミクロンから約300ミクロン、約100ミクロンから約420ミクロン、約200ミクロンから約420ミクロン、約300ミクロンから約420ミクロン、約1ミクロンから約25ミクロン、約1ミクロンから約50ミクロンおよび約1ミクロンから約75ミクロンからなる群より選択される範囲の粒径を有し得る。
【0048】
磁性体中の磁性粒子は、180℃の温度に1000時間供した後、約7.5kGから約10.5kG、約8kGから約10.5kG、約8.5kGから約10.5kG、約9kGから約10.5kG、約9.5kGから約10.5kG、約10kGから約10.5kG、約7.5kGから約10kG、約7.5kGから約9.5kG、約7.5kGから約9kG、約7.5kGから約8.5kGおよび約7.5kGから約8kGからなる群より選択される残留磁気(Br)値を示し得る。
【0049】
磁性体中の磁性粒子は、180℃の温度に1000時間供した後、約6kOeから約12kOe、約6kOeから約7kOe、約6kOeから約8kOe、約6kOeから約9kOe、約6kOeから約10kOe、約6kOeから約11kOe、約11kOeから約12kOe、約10kOeから約12kOe、約9kOeから約12kOe、約8kOeから約12kOeおよび約7kOeから約12kOeからなる群より選択される固有保磁力(Hci)値を示し得る。
【0050】
磁性体の製造中、磁性体を形成させるために磁性粒子を圧密に供した間およびその後に、抗酸化剤を磁性粒子と接触させることができる。使用することができる抗酸化剤のタイプを下記でさらに述べる。
【0051】
磁性体の圧密形成前に抗酸化剤で被覆される粒子から形成されるボンド磁性体と比較して、より小さい最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示すことを特徴とする、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む希土類ボンド磁性体もまた提供される。
【0052】
ここで上記希土類ボンド磁性体を形成する方法を開示する。
【0053】
前記の方法は、(a)前記磁性体を形成するために希土類磁性材料粒子を圧密する工程と、(b)前記圧密する工程中またはその後に前記磁性体を通じてその抗酸化剤を含む移動相を接触させる工程とを含む。
【0054】
前記圧密する工程は、圧縮成形、射出成形または押出成形を介して行うことができる。
【0055】
圧縮成形中、磁性材料粒子を開口ダイまたは型穴に入れる。次に、このダイまたは型穴をカバーまたは口栓部材で閉じ、次に、ボンド磁性体の形成を促進するために高圧および場合によっては高温に供する。圧縮成形中に使用する圧力は、約98MPa(1トン/cm2)から約1.96GPa(20トン/cm2)の範囲から選択され得る。圧縮成形中に使用する温度は、約-10℃から約600℃の範囲から選択され得る。圧縮成形は、ホットプレス成形(高圧)またはコールドプレス成形(低圧)を含み得る。
【0056】
射出成形中、磁性粒子およびポリマー性バインダーを加熱し、さらに混合するために、磁性粒子およびポリマー性バインダーを加熱バレルに供給する。次に、溶融混合物を型穴に押し込み、これを冷温にする。型穴全体に溶融混合物を押し付けることによって、磁性粒子およびポリマー性バインダーが共に圧密され、溶融混合物が冷たい型穴と接触した際に凝固して、型穴の形態に従う磁性体が形成される。代表的なタイプのポリマー性バインダーを下記でさらに述べる。
【0057】
押出成形において、材料を押し出すために使用される機器は、射出成形機と非常に類似している。押出機において、加熱器を通じて磁性粒子およびポリマー性バインダーを供給するスクリューをモーターが回転させる。混合物が溶解して溶融組成物になったら、これをダイから押し出し、長い「チューブ様」の形状を形成させる。ダイの形状によってそのチューブの形状が決定される。次に、押出物を冷却し、固体形状にする。このチューブに型押しし、これを等間隔で切断することができる。保管のために断片を巻くかまたはまとめて詰め込むことができる。押出により得られ得る形状としては、T形断面、U形断面、角形断面、I形断面、L形断面および円弧形断面が挙げられる。
【0058】
磁性体を形成するための磁性材料粒子の圧密中またはその後に移動相を導入することができる。
【0059】
圧密中に磁性材料粒子が破壊されるかまたは破砕された際に生じる露出新生表面と接触させるための抗酸化剤を含む移動相を用いることによって、磁性材料粒子の表面の少なくとも70%を圧密中またはその後に抗酸化剤で不動態化することができる。ゆえに、この不動態化面は、実質的に酸化に対して不活性であり得る。ある態様において、その表面の少なくとも75%が不動態化され得る。別の態様において、その表面の少なくとも80%が不動態化され得る。さらなる態様において、その表面の少なくとも85%が不動態化され得る。またさらなる態様において、その表面の約90%が不動態化され得る。またさらなる態様において、その表面の約95%が不動態化され得る。またさらなる態様において、その表面の約100%が不動態化され得る。
【0060】
圧密中またはその後に、真空、圧縮力または毛細管力を用いて移動相を磁性体と接触させることができる。
【0061】
移動相は、リン酸またはその前駆体など溶質として抗酸化剤を含有する水溶液、有機チタンカップリング剤および一酸化炭素からなる群より選択することができる。移動相は非水性の溶液であり得る。
【0062】
リン酸溶液が移動相として使用されるある態様において、リン酸溶液の存在下で磁性材料粒子を圧密することができる。リン酸溶液を凍結して固形にし、磁性材料粒子と混合することができる。圧密中、磁性体を形成させるために磁性材料粒子に高圧がかけられ、その結果、この磁性材料粒子が薄片化するかまたは破砕されると、大気に曝露される新生表面が生成し得る。凍結リン酸が融解して溶液になるので、圧密中にこの溶液が磁性体内部の隙間に押し込まれ、これによっても露出面が抗酸化処理される。ゆえに、リン酸が新生露出面を不動態化するというインサイチューでの不動態化が起こり、最終磁性体製品において磁性材料粒子表面の実質的に完全な被覆が確実に得られるようになる。
【0063】
別の態様において、磁性材料粒子の圧密から形成される磁性体をリン酸溶液に浸漬することができる。ボンド磁性体は典型的に多孔性であり、孔中に存在する空気が、圧密された磁性材料粒子の露出面を酸化し得る。孔中の空気に曝露され得る磁性材料粒子の表面が不動態化されるために、磁性体の孔または亀裂に存在し得る空気を磁石本体から押し出し、リン酸溶液がこの孔または亀裂に浸入できるように、磁性体を含有する溶液に真空を適用することができる。ゆえに、磁性体が乾燥すると、リン酸が磁性材料粒子の表面を不動態化する。約1分間から約10分間にわたり、約0.005MPaから約0.05MPaの圧力で真空が適用され得る。ある態様において、約5分間にわたり0.05MPa以下の圧力で真空が適用され得る。
【0064】
水溶液が移動相として使用される態様において、水溶液は、適切な溶媒中で溶解される溶質として抗酸化剤を含み得る。代表的な抗酸化剤を下記でさらに述べる。この溶媒は有機溶媒であり得る。この有機溶媒は、1から5個の炭素原子を有するアルコールであり得る。この有機溶媒は、3から5個の炭素原子を有するケトンであり得る。代表的なタイプのアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールまたはペンタノールが挙げられる。代表的なタイプのケトンとしては、アセトン、ブタノンまたはペンタノンが挙げられる。移動相は水を含み得る。移動相中に存在する抗酸化剤は、磁性材料粒子と反応して、磁性材料粒子の表面を覆う抗酸化性の保護層を形成し得る。移動相および抗酸化剤が存在するので、磁性材料粒子の薄片化または破砕のために圧密中およびその後に生成したあらゆる新生表面が抗酸化剤によって適切に不動態化され得る。ゆえに、抗酸化剤は、高温でもボンド磁性体の時効が最小となるよう、多孔性磁性体においてその表面の酸化を実質的に阻止するために作用する。
【0065】
磁性材料粒子の圧密中に破裂するように構成されるカプセルによって、移動相を封入することができる。このカプセルは超小型であり得、それらに含有される移動相を放出するために圧密する工程中に加圧下で容易に破裂し得る材料から作製することができる。このカプセルは約1から約1000ミクロン長であり得る。
【0066】
別の態様において、磁性材料粒子に移動相をフラッシュすることによって、圧密中またはその後に移動相を導入することができる。
【0067】
圧密中、高吸水性高分子の形態で磁性粒子に移動相を添加することができる。大量の移動相を吸収可能なように十分な量でこの高吸水性高分子を添加し得る。ある態様において、この高吸水性高分子は、開始剤の存在下で水酸化ナトリウムと混合したアクリル酸の重合から一般に作製される架橋ポリアクリル酸ナトリウムであり得る。別の態様において、この高吸水性高分子は、ポリアクリルアミド共重合体、エチレン無水マレイン酸共重合体、架橋カルボキシ-メチル-セルロース、ポリビニルアルコール共重合体、架橋ポリエチレンオキシドまたはポリアクリロニトリルのデンプングラフト共重合体であり得る。
【0068】
均一混合物中で高吸水性高分子および抗酸化剤を磁性材料粒子と混合することができる。この混合物を圧密する際、圧密中に加えられる圧力により、高吸水性高分子から移動相が押し出され、磁性体が形成されるに従い、磁性体中の孔または隙間を移動相が満たすようになる。次に、移動相中に存在する抗酸化剤が、加圧下で磁性材料粒子が薄片化するかまたは破砕される際に生成する新生表面を不動態化するので、インサイチューでの不動態化が達成される。
【0069】
圧密後、上述のような移動相に磁性体を浸漬することができる。磁性体の孔から空気を押し出すために、移動相に真空を適用することができる。約5分間にわたり0.05MPa以下の圧力で真空を適用することができる。次に、漏洩空気が移動相に置き換えられ、これにより磁性体の孔に移動相が導入される。このようにして、磁性体を構成する磁性材料粒子の内面全体に移動相が保護層を形成する。
【0070】
移動相が有機チタンまたは有機ジルコニウムカップリング剤である、ある態様において、有機チタンまたは有機ジルコニウムカップリング剤を圧密する工程前に磁性材料粒子と混合することができる。この有機チタンまたは有機ジルコニウムカップリング剤はそれぞれ次の一般式のものであり得る:
(R'O)m-Ti-(O-X-R2-Y)n
または
(R'O)m-Zr-(O-X-R2-Y)n
式中、R'Oは、R'が短鎖または長鎖アルキル(モノアルコキシ)または不飽和アリル(ネオアルコキシ)であり得るモノ加水分解性の(monohydrolyzable)基であり;TiまたはZrは、それぞれ4価チタンまたはジルコニウム原子であり;Xは、リン酸塩、亜リン酸塩、ピロリン酸、スルホニル、カルボキシルなどのバインダー官能基であり;Rは、脂肪族および非極性イソプロピル、ブチル、オクチル、イソステアロイル基;ナフテン系およびやや極性のあるドデシルベンジル基;または芳香族ベンジル、クミルフェニル基などの熱可塑性官能基であり;Yは、典型的に反応性である熱硬化性官能基、例えばアミノ基またはビニル基であり;mおよびnは分子の官能性を表す。
【0071】
有機チタンまたは有機ジルコニウムカップリング剤のタイプは6種類のタイプであり得、これは「m」および「n」の価による。6種類の様々なタイプの有機チタンカップリング剤は、モノアルコキシ型(mが1でありnが3である場合)、等位型(mが4でありnが2である場合)、キレート型(mが1でありnが2である場合)、クアット(quat)型(mが1でありnが2または3である場合)、ネオアルコキシ型(mが1でありnが3である場合)およびシクロヘテロ原子型(mが1でありnが1である場合)であり得る。
【0072】
有機チタンカップリング剤は、イソプロピルジオレイル(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリオレイルチタネート、イソプロピルトリステアリルチタネート、イソプロピルトリ(ドデシルベンゼンスルホネート)チタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、ジ(ジオクチルピロホスフェート(dioctylpyrophosphato))エチレンチタネート、テトライソプロピルジ(ジオクチルホスフェート)チタネートおよびネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ピロホスフェートチタネート(LICA38(商標)、米国ニュージャージー州、ベイヨン、Kenrich Petrochemicals Inc.)からなる群より選択することができる。
【0073】
圧密する工程中、磁性体内の磁性材料粒子の新生表面上に抗酸化性コーティングを形成させるために、圧密中に加えられる圧力によって有機チタンカップリング剤が押し流され、磁性体内の磁性材料粒子の新生表面と接触する。
【0074】
移動相は一酸化炭素であり得る。圧密中に生成する新生表面を一酸化炭素が不動態化できるように、圧密する工程中またはその後に一酸化炭素を導入することができる。不動態化ゆえに、磁性体内の磁性材料粒子の表面は酸化されにくい。
【0075】
理論に束縛されるものではないが、本発明者らは、加熱された一酸化炭素雰囲気下に置かれた場合に磁性材料粒子の表面上で起こる反応のために、一酸化炭素が不動態化剤として作用し得ると考える。この表面反応は次のようなものであると考えられる:
Nd2Fe14B(s)+CO(g)→FeaCb,NdcCd,Nd2Fe14(B,C),FeeOf,NdgOh(s)。
【0076】
圧密する工程前に、磁性材料粒子を、その抗酸化剤と混合して実質的に均一な混合物を形成してもよい。液体コーティングプロセス、磁性粉末と抗酸化剤との乾燥混合またはブレンドによって混合を行うことができる。
【0077】
抗酸化剤はリン酸前駆体であり得る。このリン酸前駆体はリン酸イオン供与体であり得る。即ち、抗酸化剤は、リン酸イオンが希土類元素と錯体を形成することを可能とする何らかの作用物質であり得る。
【0078】
リン酸イオンの供給源は、金属リン酸錯体などのリン酸含有化合物であり得る。この金属リン酸錯体は、IA族金属、IIA族金属およびIIIA族金属からなる群より選択することができる。この金属リン酸錯体は、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウムおよびリン酸アルミニウムからなる群より選択することができる。リン酸含有化合物はその中に有機部分を含み得る。この有機部分は、次の式:R1R2N-C(=0)-NR3R4(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、水素、C1-20アルキル、C3-10シクロアルキル、C2-20アルケニルおよびアリールからなる群より選択されるかまたはあるいは、R1およびR2のうち1個およびR3およびR4のうち1個がそれらの間で共有結合し、それによってヘテロ環式環を形成する)の、2個のアミン部分を有するカルボニル基を含み得る。有機部分は、尿素、アラントインおよびヒダントインからなる群より選択され得る。ある態様において、有機部分は尿素であり得、ゆえに、リン酸含有化合物は尿素-リン酸であり得る。
【0079】
抗酸化剤は、上記で考察されるように適切な有機溶媒中で溶解され得る。抗酸化剤は、水などの水性溶媒中で溶解され得る。次に、磁性材料粒子を上記溶液に添加する。使用される溶媒は典型的に揮発性であり、溶液から蒸発を介して、加熱もしくは攪拌を介して除去され得る。溶媒が蒸発するので、抗酸化剤が溶液から再固形化し、磁性材料粒子との実質的に均一な混合物を形成する。再固形化した抗酸化剤は磁性材料粒子を被覆し得る。
【0080】
磁性材料粒子は、所望の組成の溶融合金から作製することができる。この溶融合金は、溶融紡糸またはジェットキャスティング(jet-casting)プロセスなどの従来の方法を通じて急速に固形化して粉末または薄片となり得る。溶融紡糸またはジェットキャスティングプロセスにおいて、急速回転する車輪の表面上に溶融合金混合物が流される。溶融合金混合物が車輪の表面と接触するので、溶融合金混合物が速やかにリボンを形成し、次いでこれが固形化して薄片または小板状粒子となる。次に、薄片または小板状粒子を圧密してボンド磁性体を形成させることができる。
【0081】
圧密中、圧密プロセスを促進するかまたは得られる磁性体の特性を向上させるために、多くの添加物を添加することができる。
【0082】
ボンド磁性体を形成するために、バインダーを磁性材料粒子に添加して圧密中に磁性材料粒子の結合を促進することができる。磁気系において使用することができるバインダーのタイプは当業者にとって公知であり、磁性材料粒子を1つにまとめるように機能し得る、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマーまたはエラストマーを挙げることができる。代表的なエポキシ樹脂は、米国オハイオ州コロンバスのHexoin Specialty Chemicals,IncのEpon(商標)Resin 164などの、エピクロロヒドリン/クレゾールノボラックエポキシ樹脂である。熱硬化性ポリマーは、フェノールノボラック樹脂またはベークライトなどのフェノール基を含むポリマーであり得る。代表的な熱可塑性ポリマーとしては、ナイロン、ポリエチレンまたはポリスチレンが挙げられる。代表的なシリコーンバインダーは、シリコーン、Dow Corning(登録商標)249 Flake Resinなどのヒドロキシル官能性樹脂である。
【0083】
バインダーの結合特性を促進するために、硬化剤を添加することができる。バインダーとしてエポキシ樹脂が使用される場合、硬化剤は脂肪族アミン、芳香族アミンまたは無水物であり得る。他のタイプの硬化剤としては、他の触媒化学物質または潜在的な化学物質を挙げることができる。代表的な硬化剤は、Dyhard 100(ドイツ、エッセン、Evonik Degussa)である。
【0084】
磁性材料粒子とダイまたは型穴との間の摩擦を実質的に減少させるために、磁性材料粒子に潤滑剤を添加することができる。この潤滑剤は、摩擦力による圧縮システムに対する損傷を実質的に最小限に抑えるために役立ち得る。このようにして得られるボンド磁性体は、外観および密度に関してより良好な品質を有し得る。代表的な潤滑剤はステアリン酸亜鉛である。潤滑剤の使用は、使用される移動相のタイプに依存し得る。ある態様において、使用される移動相が液相である場合、潤滑剤は任意であり得、即ち、潤滑剤が必要な場合もあれば必要ではない場合もある。別の態様において、使用される移動相が気相である場合、潤滑剤が必要となり得る。
【0085】
(a)希土類ボンド磁性体を形成するために希土類磁性材料粒子を圧密する工程と、
(b)前記圧密する工程中またはその後に該磁性体を通じてその抗酸化剤を含む移動相を接触させる工程
とを含む方法から形成される希土類ボンド磁性体もまた提供される。
【0086】
希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含み、磁性体内の粒子の表面が酸化に対して耐性である磁性体もまた提供される。
【0087】
ある態様において、方法は、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す希土類ボンド磁性体を形成するために、希土類磁性材料粒子に対して十分な量の移動相を提供する工程を含み得る。ある態様において、この希土類磁性材料粒子の量に対して十分な量の移動相は、少なくとも約0.3wt%であり得る。この希土類磁性材料粒子の量に対して十分な量のこの移動相は、少なくとも約0.5wt%、少なくとも約0.7wt%、少なくとも約0.9wt%、少なくとも約1.0wt%、少なくとも約1.2wt%、少なくとも約1.4wt%、少なくとも約1.6wt%、少なくとも約1.8wt%および少なくとも約2.0wt%からなる群より選択され得る。好ましくは、この希土類磁性材料粒子の量に対して十分な量の希土類磁性材料粒子は、少なくとも約1.0wt%であり得る。
【0088】
希土類磁性材料粒子に対して十分な量の移動相を提供することによって、形成される希土類ボンド磁性体は、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示し得る。磁性体は、約11%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満および約1%未満からなる群より選択される最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示し得る。
【図面の簡単な説明】
【0089】
この添付図面は、開示される態様を例示し、開示される態様の原理を説明するために役立つ。しかし、この図面は単に例示を目的とするものであり、本発明の範囲を規定するものではないことを理解されたい。
【0090】
【図1】本発明の不動態化プロセスとそれに続く埋め戻しから形成される磁石(実施例1に記載)および埋め戻しなしの磁石(比較例1に記載)についての275℃における損失率(%)での永久磁束損失を示す。
【図2】移動相を用いて不動態化した磁石(実施例2に記載)および移動相なしで不動態化した磁石(比較例2に記載)についての、200℃における損失率(%)での永久磁束損失を示す。
【図3】180℃で1000時間、時効処理を行った場合の、MQ1-B3磁性体の5種類の試料の、時効時間の関数としての損失率(%)での磁束損失を示す。
【図4】180℃で1000時間時効処理した場合の、MQ1-F42磁性体の6種類の試料の、時効時間の関数としての損失率(%)での磁束損失を示す。
【図5A】不動態化されていないMQ1-B3磁性体のB-H曲線を示す。
【図5B】COで予め被覆されたMQ1-B3磁性粒子を圧密することによって形成したMQ1-B3磁性体のB-H曲線を示す。
【図5C】一酸化炭素を用いて1時間不動態化したMQ1-B3磁性体のB-H曲線を示す。
【図5D】一酸化炭素を用いて3時間不動態化したMQ1-B3磁性体のB-H曲線を示す。
【図6A】不動態化していないMQ1-F42磁性体のB-H曲線を示す。
【図6B】リン酸で予め被覆されたMQ1-F42磁性粒子を圧密することによって形成したMQ1-F42磁性体のB-H曲線を示す。
【図6C】一酸化炭素を用いて1時間不動態化したMQ1-F42磁性体のB-H曲線を示す。
【図6D】一酸化炭素を用いて2時間不動態化したMQ1-F42磁性体のB-H曲線を示す。
【図7】図7Aは、(磁石体「ISP+H2O」および「バインダーレス+H2O」に対して実施例4に記載のような)移動相の存在下および(磁石体「MQLP」、「MQLP-AA4」、「MQLP-AA4+H2O」および「ISP」に対して比較例3に記載のような)抗酸化剤を含有する移動相非存在下で不動態化プロセスから形成される6種類のボンド磁石本体に対する、180℃での全磁束量を示す。図7Bは、図7Aの同じ試料に対する、180℃における損失率(%)での永久磁束損失を示す。
【実施例】
【0091】
次の実施例および比較例において、別段の断りがない限り、使用される磁性材料粉末は、シンガポールのMagnequench,IncからMQP-B+、MQP-B3、MQP-14-12およびMQP-F42の商品名で市販されていた。リン酸アルミニウムおよびアセトンは、米国ミズーリ州セントルイスのSigma-Aldrichから入手した。2-プロパノールは、米国ペンシルバニア州ピッツバーグのFisher Scientificから入手した。Epon(商標)Resinは、米国オハイオ州コロンバスのHexionから入手した。Dyhard 100SおよびDyhard UR300は、ドイツ、エッセンのEvonik Degussaから入手した。
【0092】
実施例1
2グラムの第一リン酸アルミニウムを20mlの2-プロパノール中で溶解させた。次に、98グラムの磁性材料粒子(MQP-B+)を上記溶液に添加した。次いで、続く加熱および機械による攪拌工程によってアルコールを完全に蒸発させたところ、磁性材料粒子上を被覆する2wt%のリン酸アルミニウムが残留した。7T/cm2の加圧下でさらなるバインダーなく、被覆された磁性材料粒子を圧密して磁石にした。次に、この磁石を真空槽中の水に浸漬した。磁石の隙間への水の埋め戻しを促進するために0.05MPa以下の真空を適用した。埋め戻しプロセス後、275℃で磁石を風乾した。
【0093】
曝露時間の関数として磁性体の永久磁束損失を調べるために、オーブン中で磁性体を時効処理した。この実験の結果を図1で示す。275℃の周囲空気に約140時間曝露した後、この実験から得られた磁性体の永久磁束損失は2%であった。
【0094】
実施例2
1.57グラムのEpon(商標)Resin 164、0.094グラムのDyhard 100S、0.034グラムのDyhard UR300および0.029グラムのステアリン酸亜鉛などのバインダー化合物とともに、2グラムの第一リン酸アルミニウムを30mlのアセトン中で溶解させた。次に、96.27グラムの磁性材料粒子(MQP-14-12)を上記溶液に添加した。次いで、続く加熱および機械による攪拌工程によりアセトンを完全に蒸発させたところ、磁性材料粒子を被覆するリン酸アルミニウムおよびバインダー化合物の混合物が残留した。圧密前に、これらの被覆された磁性材料粒子に1wt%H2Oを添加し、均一な混合物が得られるまで混合した。続いて、7T/cm2の加圧下でこれらの磁性材料粒子を圧密し、磁性体を形成させた。
【0095】
圧密する工程前に水を添加したために、第一リン酸アルミニウムが水中で溶解して、溶液または移動相を形成した。圧密中、移動相が流動し、圧密中に使用された圧力により磁性材料粒子が破壊されるかまたは破砕された際に生じた露出新生表面と接触し得る。ゆえに、移動相が露出新生表面と接触したので、圧密工程中にインサイチューでの不動態化が起こった。磁性体の至る所を自由に移動することができる移動相を使用することによって、保護的な抗酸化層の存在ゆえに磁性体全体が酸化に対して耐性となり得るように、新生表面を完全に不動態化することができる。
【0096】
曝露時間の関数として磁性体の永久磁束損失を調べるために、磁性体を180℃に設定したオーブン中で30分間硬化させた。その後、200℃に設定したオーブン中にて1000時間の試験時間で、時効試験を行った。この実験の結果を図2で示す。200℃の周囲空気に1000時間曝露した後、この実施例から得られた磁性体の永久磁束損失は1.7%であった。
【0097】
この実施例はボンド磁石の新生表面を不動態化する場合の移動相の存在の重要性を示す。
【0098】
実施例3
この実施例3で使用した2種類の磁性材料粒子はMQ1-B3およびMQ1-F42の商品名でシンガポール、Magnequench,Inc.から市販されていた。今回バインダーとして使用したエポキシは、米国マサチューセッツ州カントンのEmerson & Cuming specialty polymersからSTYCAT SE-617 Epoxy resinの商品名で購入することができる。
【0099】
2.8グラムの2種類のタイプの磁性材料粒子それぞれを個別に2wt%エポキシ(バインダー)および0.1wt%ステアリン酸亜鉛(潤滑剤)と混合して、個別の均一混合物を生成させた。7T/cm2の加圧下で、得られたこれらの混合物を個別に圧密して個々の磁性体とした。この2種類の磁性体のそれぞれの密度は約5.9g/ccである。
【0100】
これらの磁性体を不動態化するために、一酸化炭素を含有する炉に磁性体を個別に入れ、この炉を300℃の温度および約750Torrの周囲圧力に維持した。0.5時間、1時間、2時間および3時間という様々な長さの時間にわたり、これらの磁性体を炉に入れた。
【0101】
その後、180℃に設定したオーブン中にて1000時間の試験時間で時効試験を行った。試料MQ1-B3およびMQ1-F42に対する時効処理時間の関数としての減磁の結果を図3および4で示す。これらの図面において、一酸化炭素を用いて不動態化されなかったMQ1-B3またはMQ1-F42磁性体(「標準的硬化」と呼ぶ)の磁束損失も示した。MQ1-B3の場合、図3で見られるように、このタイプの磁性体の5種類の試料を調べた。「B3、標準的硬化」および「B3 CO、標準的硬化」と表示された2種類の試料は不動態化しなかった。試料「B3、標準的硬化」とは、未処理B3磁性粉の圧密から形成され、次いで上述の時効試験を行った磁性体を指す。試料「B3 CO、標準的硬化」とは、予めCOで被覆された磁性粉の圧密から形成され、次いで上述の時効試験を行った磁性体を指す。「B3磁石、CO中、300Cで1時間硬化」、「B3磁石、CO中、300Cで2時間硬化」および「B3磁石、CO中、300Cで3時間硬化)」とそれぞれ表示した残りの3種類の試料は、一酸化炭素炉を使用して1時間、2時間および3時間の様々な長さの時間で不動態化した。
【0102】
MQ1-F42の場合、図4で見られるように、このタイプの磁性体の6種類の試料を調べた。「F42」、「F42 AA4」および「F42 CO」と表示される3種類の試料は不動態化しなかった。試料「F42」は、未処理F42磁性粉の圧密から形成され、次いで上述の時効試験を行った磁性体を指す。試料「F42 AA4」は、予めリン酸で被覆された磁性粉の圧密から形成され、次いで上述の時効試験を行った磁性体を指す。試料「F42 CO」とは、予めCOで被覆した磁性粉の圧密から形成され、次いで上述の時効試験を行った磁性体を指す。「F42(M-CO 300C 0.5時間)」、「F42(M-CO 300C 1時間)」および「F42(M-CO 300C 2時間)」とそれぞれ表示された残りの3種類の試料は、一酸化炭素炉を使用して0.5時間、1時間および2時間という様々な長さの時間にわたり不動態化した。
【0103】
図3および4の結果から、一酸化炭素を用いて不動態化した磁性体は、一酸化炭素を用いて不動態化していない対応する磁性体と比較して、磁束損失率(%)が低いことが明らかとなる。ゆえに、これらの結果から、不動態化剤として一酸化炭素を使用することができ、一酸化炭素が磁性体を酸化から保護し得ることが示される。
【0104】
MQ1-B3およびMQ1-F42から作製した、不動態化および非不動態化(「標準的硬化」)磁性体の特性を図5A、5B、5C、5D、6A、6B、6Cおよび6Dで示す。図5Aおよび図6Aは、それぞれ、一酸化炭素を用いて不動態化していないMQ1-B3およびMQ1-F42磁性体のB-Hグラフである。図5Bおよび図6Bは、それぞれ、予めCO(図5B)でおよびリン酸(図6B)で被覆された圧密磁性粒子から形成されたMQ1-B3およびMQ1-F42磁性体のB-Hグラフである。図5Cおよび図6Cは、それぞれ、一酸化炭素を用いて1時間不動態化したMQ1-B3およびMQ1-F42磁性体のB-Hグラフである。図5Dは、一酸化炭素を用いて3時間不動態化したMQ1-B3磁性体のB-Hグラフである。図6Dは、一酸化炭素を用いて2時間不動態化したMQ1-F42磁性体のB-Hグラフである。これらの図面は、非不動態化磁性体と比較した場合、不動態化磁性体の初期BrおよびHciの損失率(%)が小さいことを示す。
【0105】
実施例4
この実施例では、MQP-14-12ベースの2種類の磁石試料を調製した。第一の試料は、バインダーとしてEpon(商標)Resin 164を含有し、一方、第二の試料は、Epon(商標)Resin 164を含有しない。
【0106】
第一の試料(本明細書中で以後、「ISP+H2O」と呼ぶ)において、1重量%の乾燥第一リン酸アルミニウムと、混合物の残部を構成するMQP-14-12磁性粒子とを混合した。120℃の炉中に4時間入れることによって、第一リン酸アルミニウムを乾燥させた。バインダー溶液を調製するためにアセトン中で1.57wt%のEpon Resin 164、0.094wt%のDyhard 100Sおよび0.034wt%のDyhard UR300を溶解することによって、バインダーであるEpon(商標)Resin 164を調製した。磁性混合物をバインダー溶液に添加し、混合した。混合中、アセトン溶媒を蒸発させ、リン酸アルミニウムおよびバインダー化合物の混合物が磁性材料粒子上を被覆するようにした。圧密前に、被覆したこれらの磁性材料粒子に1wt%H2Oを添加し、均一な混合物が得られるまで混合した。続いて、7T/cm2の加圧下でこれらの磁性材料粒子を圧密し、磁性体(「PC2ボンド磁石」と呼ぶ)を形成させた。
【0107】
第二の試料(本明細書中で以後、「バインダーレス+H2O」と呼ぶ)において、Epon(商標)Resin 164をアセトン溶媒に添加しなかったことを除き、上記と同じ工程を繰り返した。
【0108】
圧密工程前に水を添加したため、第一リン酸アルミニウムが水中で溶解し、溶液または移動相を形成した。圧密中、移動相が流動し、圧密中に使用された圧力により磁性材料粒子が破壊されるかまたは破砕された際に生じた露出新生表面と接触し得る。ゆえに、移動相が露出新生表面と接触した際に、圧密工程中、インサイチューでの不動態化が起こった。磁性体の至る所を自由に移動することができる移動相を使用することによって、保護的な抗酸化層が存在することによって磁性体全体が酸化に対して耐性となり得るように、新生表面を完全に不動態化することができる。
【0109】
次に、この2種類の試料を180℃に設定したオーブン中で30分間硬化させた。その後、180℃に設定したオーブン中にて1000時間の試験時間で時効試験を行った。様々な試料の全磁束量グラフを図7Aで示し、様々な試料の磁束損失を図7Bで示す(試料「MQLP」、「MQLP-AA4」、「MQLP-AA4+H2O」および「ISP」は、さらに下記の比較例3で示される手順に従い調製される)。磁束損失、残留磁気値およびBHmax値を下記の表1で示す。180℃の周囲空気に1000時間曝露した後、試料「ISP+H2O」の永久磁束損失は3.87%となり、一方で、試料「バインダーレス+H2O」の永久磁束損失は2.69%となった。試料「ISP+H2O」の残留磁気損失は-0.34%であり、試料「バインダーレス+H2O」の残留磁気損失は-2.23%であった。試料「ISP+H2O」の最大エネルギー積損失は-1.89%であり、試料「バインダーレス+H2O」の最大エネルギー積損失は-3.92%であった。
【0110】
【表1】

【0111】
この実施例は、ボンド磁石の新生表面を不動態化する場合の移動相の存在の重要性を例示する。
【0112】
比較例1
埋め戻し工程を除き、実施例1と同じ条件下で磁石を調製した。従って、圧密後に磁石を水中に浸漬しなかった。代わりに、圧密工程後に磁石を275℃で風乾した。
【0113】
図1は、実施例1の磁石および比較例1の磁石に対する、損失率(%)での相対的永久磁束損失を示す。比較例1の磁石は、275℃の周囲空気に曝露してから100時間後、永久磁束損失が50%を超えた。一方、実施例1の磁石の永久磁束損失は僅か2%であった。
【0114】
両磁石は抗酸化剤と混合された磁性材料粒子から構成されているにもかかわらず、埋め戻し、従って不動態化が行われた磁石のみが、優れた耐時効特性を示した。図1の結果から、移動相中に存在する抗酸化剤が、磁石中の磁性材料粒子の既存表面ならびに磁石形成中またはその後に生成する新生表面をほぼ完全に不動態化することができることが確認される。
【0115】
比較例2
ここでは、圧密工程前に水を添加しなかったことを除き、実施例2の実験プロセスに従う。従って、移動相非存在下で、磁性材料粒子、リン酸アルミニウムおよびバインダー化合物を圧密した。形成された磁性体を実施例2に記載のとおり硬化および時効工程に供し、時効試験の結果も図2で示す。図2で示されるように、この比較例で形成される磁性体の永久磁束は20%を超えた。これは、移動相がなく、従って抗酸化剤が自由に流動して圧密中に生成する露出新生表面と接触できないことによる。ゆえに、実施例2の場合と比較して新生表面の不動態化度が顕著に低いため、この比較例の磁性体の酸化度が大きくなり、これにより永久磁束の損失率(%)が大きくなる。
【0116】
比較例3
MQP-14-12磁性材料粒子を用いて、この比較例3において4種類の試料を作製した。
【0117】
1.59wt%のEpon(商標)Resin 164(Epon(商標)Resin 164およびMQP-14-12磁性材料粒子の総重量に基づく)をビーカー中の16mlのアセトンに添加することによって、第一の試料(本明細書中で以後、「MQLP」と呼ぶ)を調製した。アセトン中でEpon(商標)Resin 164が溶解するまでこの溶液を攪拌した。その後、MQP-14-12粉末をビーカーに添加し、次いでこれを80℃の温度下で攪拌した。加熱下での攪拌の影響により、アセトンが蒸発し、Epon(商標)Resin 164で被覆された、乾燥した磁性粒子が残留した。被覆された磁性粒子をドラフト中に置くことによって一晩乾燥状態に維持した。続いて、7T/cm2の加圧下でこれらの磁性材料粒子を圧密して磁性体(「PC2ボンド磁石」と呼ぶ)を形成させた。
【0118】
磁性材料粒子をリン酸での前処理工程に供したことを除き、第一の試料と同じようにして、第二の試料(本明細書中で以後、「MQLP-AA4」と呼ぶ)を調製した。この前処理工程において、0.3wt%のリン酸を16mlのアセトン中で溶解させた。次いで、この溶液に100gのMQP-14-12磁性材料粒子を添加し、80℃に加熱することによってアセトンを蒸発させた。乾燥した磁性粒子において、リン酸は粒子を覆うコーティングを形成するが、これはその粒子の表面上に存在する不溶性のリン酸基からなる。次に、上述のようにこれらの磁性粒子をEpon(商標)Resin 164-アセトン溶液に添加し、上述のように処理した。
【0119】
圧密前に、得られた磁性材料粒子(不溶性リン酸基およびEpon(商標)Resin 164で被覆)を1wt%のH2Oに添加したことを除き、第二の試料と同様にして、第三の試料(本明細書中で以後、「MQLP-AA4+H2O」と呼ぶ)を調製した。圧密中に移動相が存在したにもかかわらず移動相には抗酸化剤が含まれず、従ってインサイチューでの不動態化は行われ得なかった。磁性材料粒子の表面上にリン酸基が存在したにもかかわらず、これらの基は移動相中で不溶性であり、何ら抗酸化効果がなかった。ゆえに、この方法から形成された、得られたボンド磁石は酸化の問題があり、磁束損失が高かった。
【0120】
1重量%の乾燥第一リン酸アルミニウムと、混合物の残部を構成するMQP-14-12磁性粒子とを混合することによって、第四の試料(本明細書中で以後、「ISP」と呼ぶ)を調製した。120℃の炉に4時間入れることによって、第一リン酸アルミニウムを乾燥させた。バインダー溶液を調製するために1.59%のEpon(商標)Resin 164をアセトン中で溶解させることによって、バインダーであるEpon(商標)Resin 164を調製した。磁性混合物をこのバインダー溶液に添加し、混合した。混合中、アセトン溶媒を蒸発させてリン酸アルミニウムおよびバインダー化合物の混合物が乾燥磁性材料粒子上を被覆するようにした。続いて、7T/cm2の加圧下でこれらの磁性材料粒子を圧密して、磁性体(「PC2ボンド磁石」と呼ぶ)を形成させた。
【0121】
次に、これらの4種類の試料を180℃に設定したオーブン中で30分間硬化させた。その後、180℃に設定したオーブン中にて1000時間の試験時間で時効試験を行った。様々な試料の全磁束量グラフを図7Aで示し、様々な試料の磁束損失グラフを図7Bで示す。磁束損失、残留磁気値およびBHmax値を上記の表1で示す。180℃の周囲空気への曝露から1000時間後、試料「MQLP」の永久磁束損失は27.23%となり、試料「MQLP-AA4」の永久磁束損失は15.61%となり、試料「MQLP-AA4-H2O」の永久磁束損失は12.79%となり、試料「ISP」の永久磁束損失は9.20%となった。
【0122】
試料「MQLP」の残留磁気損失は-6.57%であり、試料「MQLP-AA4」では-1.23%、試料「MQLP-AA4-H2O」では-1.28%であり、試料「ISP」の残留磁気損失は-1.03%であった。
【0123】
試料「MQLP」の最大エネルギー積損失は-43.20%であり、試料「MQLP-AA4」では-23.01%であり、試料「MQLP-AA4-H2O」では-20.07%であり、一方、試料「ISP」の最大エネルギー積損失は-12.96であった。
【0124】
この比較例3の試料の様々な最大エネルギー積値の損失が実施例4の試料と比較して高いことから理解できるように、これらの試料の磁性は、実施例4の試料の磁性と比較した場合、経時的な低下が大きかった。
【0125】
応用
当然のことながら、本明細書中で開示される不動態化技術は、希土類磁性材料粒子の腐食耐性および錆止め性能を向上させるための、単純ながらも有効な方法である。
【0126】
好都合なことに、磁石形成中またはその後の移動相での抗酸化剤と磁性材料粒子、および場合によってはその他の添加剤との混合を含む、開示したインサイチューでの不動態化プロセスによって、保護的な抗酸化層が、磁性体を構成する磁性材料粒子の表面全体に形成されるようになる。開示した方法から形成される磁性体は、高温であっても実質的に酸化を受けずに済み得る。前記磁性体は、さらなる表面コーティングまたはさらなる物理的もしくは化学的処理を必要としない場合もある。
【0127】
好都合なことに、本明細書中で開示される不動態化技術は、磁性体内の磁性材料粒子の表面全体に保護層を形成することによって、大気ならびに高湿度条件下で、希土類磁性材料粒子が酸化される可能性を実質的に低くする。さらに好都合なことに、保護層の形成は、磁性材料粒子の圧密中またはその後に起こる。またさらに好都合なことに、保護層の形成は圧密中またはその後に起こるので、形成される抗酸化剤は、磁性材料粒子の既存の面だけではなく、圧密中に形成される新生表面にも広がり、それによって露出面の実質的に完全な被覆が確実になる。
【0128】
好都合なことに、本明細書中で開示されるプロセスにより不動態化される磁性材料粒子を含む希土類ボンド磁石の抗酸化特性は、焼結磁石と同等である。さらにより好都合なことに、これらの磁石の抗酸化特性の向上によって、ポリマー-ボンド磁石の適用範囲が広がる。より好都合なことに、開示したボンド磁石は、不動態化されていない磁性材料粒子から作製される磁石と比較して、時効性能が顕著に向上している。さらにより好都合なことに、開示したようにして不動態化された磁石は、さらなる表面被覆工程およびその他の物理的または化学的処理がなくても、高い使用温度での酸化が最小限に抑えられる。
【0129】
より好都合なことに、本明細書中で開示される不動態化プロセスは、希土類磁性材料粒子上の保護コートの安定性を維持するための不活性または非酸化雰囲気および温度制御の導入など、処理条件の調整を全く含まない。さらにより好都合なことに、この不動態化技術は複雑な装置を必要とせず、生産性の低下および生産費用の上昇を伴うことなく、製造方法の商業および工業面での実現性を向上させる。
【0130】
形成された磁性体は、その外面が単に被覆されているだけの従来の磁石と比較して、高い使用温度での時効損失が僅かであり得る。前記磁性体を構成する磁性材料粒子の表面に保護層が存在することによって、前記磁性体の孔中の酸素または空気に曝露され得る面が全て確実に、十分に酸化耐性となる。酸化の機会が実質的に最小限に抑えられるので、磁性体の時効は、殆ど時効が起こらなくなり得るまで実質的に減少する。
【0131】
前述の開示の読後、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の様々な他の変更ならびに適合が当業者にとって明らかになり、かかる変更および適合が全て添付の特許請求の範囲内に包含されるものであることは明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%またはそれ以下の最大エネルギー積損失(maximum energy product loss)(ΔBHmax)を示すことを特徴とする、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む磁性体。
【請求項2】
10%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項1記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項3】
5%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項2記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項4】
4%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項3記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項5】
2%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項4記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項6】
180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に1%またはそれ以下の残留磁気損失(ΔBr)を示すことを特徴とする、請求項1記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項7】
前記残留磁気損失(ΔBr)が0.5%未満である、請求項6記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項8】
前記残留磁気損失(ΔBr)が0.4%未満である、請求項7記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項9】
ボンド磁石の磁性粒子の全表面積の少なくとも70%が実質的に酸化に対して不活性である、前記請求項の何れか一項記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項10】
ボンド磁石の磁性粒子の全表面積の少なくとも95%が実質的に酸化に対して不活性である、請求項9記載の希土類ボンド磁性体。
【請求項11】
磁性体内の粒子の表面が酸化に対して耐性である、希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む請求項10記載の磁性体。
【請求項12】
前記希土類磁性材料粒子が、ネオジム、プラセオジム、ランタン、セリウム、サマリウムおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される元素を含む、前記請求項の何れか一項記載の磁性体。
【請求項13】
前記希土類磁性材料粒子が、以下の原子濃度の組成を有する、前記請求項の何れか一項記載の磁性体:
(R1-aR'a)uFe100-u-v-w-x-yCovMwTxBy
式中、
Rは、Nd、Pr、ジジム(Nd0.75Pr0.25の組成のNdおよびPrの天然混合物(nature mixture))またはそれらの組み合わせであり、
R'は、La、Ce、Yまたはそれらの組み合わせであり、
Mは、Zr、Nb、Ti、Cr、V、Mo、WおよびHfのうち1つまたは複数であり、かつ
Tは、Al、Mn、CuおよびSiのうち1つまたは複数であり、
ここで、0.01=a=0.8、7=u=13、0.1=v=20、0.01=w=1、0.1=x=5および4=y=12である。
【請求項14】
前記希土類磁性材料粒子が、以下の原子濃度の組成を有する、前記請求項の何れか一項記載の磁性体:
(MM1-aRa)uFe100-u-v-w-x-yYvMwTxBy
式中、
MMは、ミッシュメタルまたはその合成等価物であり、
Rは、Nd、Prまたはそれらの組み合わせであり、
YはFe以外の遷移金属であり、
Mは、周期表の第4族〜第6族から選択される1つまたは複数の金属であり、かつ
Tは、周期表の第11族〜第14族から選択される、B以外の1つまたは複数の元素であり、
ここで、0≦a<1、7≦u≦13、0≦v≦20、0≦w≦5; 0≦x≦5および4≦y≦12である。
【請求項15】
前記ミッシュメタルがセリウムベースのミッシュメタルである、請求項14記載の磁性体。
【請求項16】
前記ミッシュメタルまたはその合成等価物が、以下の重量%組成を有する、請求項14記載の磁性体:
20%から30%のLa;
2%から8%のPr;
10%から20%のNd;ならびに
Ceおよび任意の偶発的な不純物である残部。
【請求項17】
前記ミッシュメタルまたはその合成等価物が、以下の重量%組成を有する、請求項16記載の磁性体:
25%から27%のLa;
4%から6%のPr;
14%から16%のNd;および
47%から51%のCe。
【請求項18】
磁性粒子が、180℃の温度に1000時間供された後に7.5kGから10.5kGの残留磁気(Br)値を示す、前記請求項の何れか一項記載の磁性体。
【請求項19】
磁性粒子が、180℃の温度に1000時間供された後に6kOeから12kOeの固有保磁力(HCi)値を示す、前記請求項の何れか一項記載の磁性体。
【請求項20】
磁性体を形成するために前記磁性粒子を圧密に供した間またはその後に、抗酸化剤が該磁性粒子と接触した、前記請求項の何れか一項記載の磁性体。
【請求項21】
希土類ボンド磁性粒子の凝集塊を含む希土類ボンド磁性体であって、該磁性体の圧密形成前に抗酸化剤で被覆された粒子から形成されたボンド磁性体と比較して、より小さい最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示すことを特徴とする、希土類ボンド磁性体。
【請求項22】
以下の工程を含む、希土類ボンド磁性体の製造のための方法:
(a)該磁性体を形成するために希土類磁性材料粒子を圧密する工程、および
(b)該圧密する工程の間またはその後に、該磁性体を通じて抗酸化剤を含む移動相を接触させる工程。
【請求項23】
前記移動相が、リン酸またはその前駆体、水溶液、有機チタンカップリング剤および一酸化炭素である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記移動相が、前記圧密する工程の間に破裂するように構成されたカプセルにより封入される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
前記カプセルが超小型である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記抗酸化剤が前記水溶液の溶質である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記移動相が水を含む、請求項22から26の何れか一項記載の方法。
【請求項28】
(c)前記圧密する工程(a)の前に、実質的に均一な混合物を形成するために前記希土類磁性材料粒子を抗酸化剤と混合する工程をさらに含む、請求項22から27の何れか一項記載の方法。
【請求項29】
前記抗酸化剤がリン酸イオン供与体である、請求項22から28の何れか一項記載の方法。
【請求項30】
前記リン酸イオン供与体が金属リン酸錯体である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記金属リン酸錯体の金属が、IA族金属、IIA族金属およびIIIA族金属からなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記金属リン酸錯体が、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウムおよびリン酸アルミニウムからなる群より選択される、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記リン酸イオン供与体がその中に有機部分を含む、請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記有機部分が2個のアミン部分を有するカルボニル基を含む、請求項33記載の方法。
【請求項35】
前記接触させる工程(a)において、前記磁性体内の前記磁性材料粒子の表面の少なくとも70%が前記移動相と接触する、請求項22から34の何れか一項記載の方法。
【請求項36】
前記圧密する工程の間に希土類ボンド磁性体を形成するために前記希土類磁性材料粒子に対して十分な量の移動相を提供する工程を含み、該希土類ボンド磁性体が、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に12%またはそれ以下の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項22から35の何れか一項記載の方法。
【請求項37】
前記希土類ボンド磁性体が10%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項36記載の方法。
【請求項38】
前記希土類ボンド磁性体が、5%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項37記載の方法。
【請求項39】
前記希土類ボンド磁性体が、4%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記希土類ボンド磁性体が、2%未満の最大エネルギー積損失(ΔBHmax)を示す、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記磁性体が、180℃の温度に1000時間供した場合、ASTM977/977Mにより測定した際に1%またはそれ以下の残留磁気損失(ΔBr)を示す、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−533879(P2012−533879A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520572(P2012−520572)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000270
【国際公開番号】WO2011/008174
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(512010720)マグネクエンチ インターナショナル インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】