説明

磁性樹脂成形体の製造方法

【課題】磁性樹脂成形体の磁力を強くすることができる磁性樹脂成形体の製造方法を得る。
【解決手段】マグネットピース10の製造方法として、金型22のキャビティ30内に作用する配向磁場Mが周期的に変動している状態で、少なくとも異方性磁石粉を含み加熱溶融した樹脂バインダー12をキャビティ30内に射出する。そして、射出された樹脂バインダー12を冷却する。ここで、金型22内に射出される樹脂バインダー12に対して、周期的に変動する配向磁場Mが作用することにより、配向磁場Mの影響で射出速度が低下(充填抵抗が増加)するのを抑えると共に、樹脂バインダー12に作用する配向磁場Mの強さが低下するのを抑えられる。これにより、成形されたマグネットピース10の磁力が、一定の配向磁場Mを作用させたものに比べて強くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性樹脂成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のマグネットロールの製造方法は、強磁性体粉末と樹脂バインダーとを含む溶融状態の混合物をキャビティ内に射出成形する製造方法において、金型の一部である反ゲート側端部ストッパーの一部に磁性材料を埋設しておくことで、マグネットロールの長手方向の磁力レベルを合わせている。
【0003】
特許文献2のマグネットロールの製造方法は、強磁性体粉末と樹脂バインダーとを含む
溶融状態の混合物をキャビティ内に射出成形する製造方法において、マグネットロールの反ゲート側の端部形成部に磁性体を配置した成形用金型を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−298583号
【特許文献2】特開2009−122485号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、磁性樹脂成形体の磁力を強くすることができる磁性樹脂成形体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る磁性樹脂成形体の製造方法は、金型のキャビティ内に作用する磁場が周期的に変動している状態で、前記キャビティ内に少なくとも異方性磁石粉を含み加熱溶融した磁性樹脂材料を射出する射出工程と、前記磁性樹脂材料を冷却する冷却工程と、を行う。
【0007】
本発明の請求項2に係る磁性樹脂成形体の製造方法は、前記磁場の変動の上限の大きさを0.87テスラ以上2.16テスラ以下とする。
【0008】
本発明の請求項3に係る磁性樹脂成形体の製造方法は、前記キャビティは、長尺な円柱状に形成され、前記射出工程及び前記冷却工程では、前記キャビティ内の周方向の複数位置で、前記キャビティの長手方向に沿って磁場を作用させると共に、該複数位置で作用させる磁場の少なくとも1つを周期的に変動させる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明は、金型のキャビティ内に作用する磁場の大きさが一定の製造方法に比べて、磁性樹脂成形体の磁力を強くすることができる。
【0010】
請求項2の発明は、金型のキャビティ内に作用する磁場の大きさが0.87テスラより小さく、又は2.16テスラより大きい製造方法に比べて、磁性樹脂成形体の磁力を強くすることができる。
【0011】
請求項3の発明は、キャビティ内の周方向の複数位置で作用させる磁場の大きさが一定の製造方法に比べて、磁性樹脂成形体の磁力を強くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係るマグネットピースの斜視図である。
【図2】(A)第1実施形態に係る射出成形装置の断面図である。(B)図2(A)の射出成形装置の金型をA−A´で切ったときの断面図である。
【図3】第2実施形態に係るマグネットロールの斜視図である。
【図4】第2実施形態に係る金型をマグネットロールの軸方向に見たときの金型の断面図である。
【図5】第1、第2実施形態に係る金型に作用させる配向磁場を周期的に変化させる状態を示す模式図である。
【図6】第1実施形態に係るマグネットピースの磁力について、L18実験を行った結果得られた要因効果図である。
【図7】(A)第1実施形態に係る金型に作用させる配向磁場の大きさを変化させたときのマグネットピースの磁力の変化を示すグラフである。(B)第1実施形態に係るコイルに流す電流を変化させたときのコイルの温度変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る磁性樹脂成形体の製造方法の一例について説明する。
【0014】
(磁性樹脂成形体)
図1には、第1実施形態の磁性樹脂成形体の一例としてのマグネットピース10が示されている。マグネットピース10は、短手方向の断面形状が扇形の部材であり、後述する磁場中での射出成形により製造される部材である。また、マグネットピース10は、設定された磁極となるように着磁されており、金属製の円柱状のシャフト(図示省略)の外周に放射状に複数個の異なる磁極のマグネットピース10が接着されることで、複数の磁極を有するマグネットロールを形成するものである。なお、このマグネットロールは、一例として、電子写真方式による画像形成における現像ロールに用いられるものであり、トナーが付着したキャリアを磁力で引き付けて磁気ブラシを形成し、感光体の外周面に形成された潜像をトナーで顕在化させる。
【0015】
マグネットピース10を構成する磁性樹脂材料の一例として、磁気異方性を有する磁石材料粉(異方性磁石粉)及び添加剤を含んだ樹脂バインダー12(以下、磁石材料粉及び添加剤を含んだ樹脂バインダー12を単に「樹脂バインダー12」と記載する。)がある。樹脂バインダー12を構成する樹脂の一例としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、エチレンエチルアクリレート(EEA)などが用いられる。また、樹脂バインダー12を構成する磁石材料粉の一例としては、フェライト粉やNdなどの希土類金属粉と、Fe、Co、Niなどの鉄族金属粉との混合物が挙げられる。
【0016】
(射出成形装置)
図2(A)には、マグネットピース10の射出成形に用いる射出成形装置20が示されている。射出成形装置20は、金型22と、金型22に磁場(以後、「配向磁場M」と記載する。)を作用させるコイル24と、コイル24に通電を行う通電装置40とを含んで構成されている。通電装置40は、後述するように、コイル24への通電量が可変となっており、経過時間に合わせて通電量を変えることで、金型22に作用する配向磁場Mの大きさを周期的(一定周期)に変更可能となっている。
【0017】
金型22は、磁性材料で形成された下型26と、配向ヨーク28を有する上型32とからなり、分割面34で分割される分割型である。上型32は、中央に配置された配向ヨーク28と、配向ヨーク28の左右両側に配置された非磁性材料からなる上型本体29A、29Bとが一体化されている。また、金型22は、下型26と上型32が合わさって、断面が扇形のキャビティ30が形成されている。
【0018】
キャビティ30は、マグネットピース10(図1参照)を成形するためのものであり、図2(B)に示すように、長手方向の一端に形成されたゲート口36とゲート及びランナー(図示省略)とを介して、前述した磁石材料粉を有する流動状態の(加熱溶融した)樹脂バインダー12が射出(注入)されるようになっている。なお、金型22には、キャビティ30を囲むようにして冷却水路(図示省略)が設けられている。
【0019】
図5は、時間tに対する配向磁場Mの変化を示したグラフである。図5の波形Wは、縦軸を印加電流としているので、正確には印加電流の波形である。しかし、配向磁場Mの大きさは、通電装置40(図2(A)参照)におけるコイル24への印加電流に比例する。このため、通電装置40に波形Wとなる印加電流を予め設定しておくことで、波形Wとなる配向磁場Mをキャビティ内に印加することが出来る。なお、図5に示す符号C、F、G、Hの範囲は、後述するL18実験の制御因子である異方化時間C(時間t1から時間tnまで)、電流立ち上がり時間F(時間t1から時間t3まで)、異方化電流減衰率G、電流谷部時間H(時間t3から時間t4まで)に相当する。
【0020】
図5に示すように、波形Wは、強さを上げる前の配向磁場Mの大きさをM0、強さをピークまで上げたときの配向磁場Mの大きさをM1として、時間t1から時間t2まででM0からM1に増加、時間t2から時間t3までM1で保持、時間t3においてM1からM0へ減少、時間t3から時間t4までM0で保持というサイクルを1周期として、これを繰り返す(時間t4から時間t1)複数周期の波形となっている。
【0021】
なお、本実施形態では、一例として、時間t1から時間t2までの時間Δtを0.5秒(sec)で一定値としている。また、M0=0テスラ(T)としている。テスラは、配向磁場Mの大きさ(磁束密度の大きさ)を表す単位である。ここで、配向磁場Mの大きさ(強さ)はキャビティ30内で不均一であるため、配向磁場Mの測定については、配向ヨーク28の下端中央の点P(図2(A)参照)で行う。
【0022】
(マグネットピースの製造方法)
次に、マグネットピース10の製造方法について説明する。
図2(A)、(B)に示す射出成形装置20において、通電装置40を作動させ、コイル24及び配向ヨーク28により配向磁場Mを発生させる。そして、金型22のキャビティ30内に作用する配向磁場Mが周期的に変動(図5参照)している状態で、加熱溶融した樹脂バインダー12をゲート口36からキャビティ30内に射出する。続いて、ゲート口36からキャビティ30内に射出された樹脂バインダー12によりキャビティ30内が満たされた後、設定した圧力、時間で保圧(圧力保持)を行う(射出工程)。
【0023】
配向磁場Mの大きさがM1となっているときは、溶融状態の樹脂バインダー12に配向磁場Mが作用して配向率が上昇し、マグネットピース10の磁力が増加する。しかし、配向磁場Mは、樹脂バインダー12の充填方向に対して直角方向に作用しているため、配向磁場Mが大きいほど配向磁場Mによる充填抵抗が増加し、樹脂バインダー12の射出速度が低下する。このため、一定で且つ大きな配向磁場Mを作用させた場合は、充填中の樹脂バインダー12の熱が金型22に奪われて樹脂バインダー12が固化し易くなるので、結果的に配向率が下がり、マグネットピース10の磁力が低下することになる。
【0024】
ここで、本実施形態のマグネットピース10の製造方法では、キャビティ30内に射出される樹脂バインダー12に対して周期的に(一定周期で)変動する配向磁場Mが作用している。このため、キャビティ30内に作用する配向磁場Mの大きさがM1(図5参照)よりも低くなっているときは、樹脂バインダー12の射出(充填)が配向磁場Mの影響を受けにくくなり、射出速度が増加(充填抵抗が低下)する。そして、射出速度が増加することで、充填中に樹脂バインダー12が固化しにくくなり、結果的に配向率が上昇して、マグネットピース10の磁力が増加する。
【0025】
続いて、金型22の冷却水路(図示省略)に水を流して、キャビティ30内の樹脂バインダー12を冷却する(冷却工程)。そして、成形品の形状が変形しない程度に樹脂バインダー12を冷却した後、配向磁場MをOFFにして、上型32と下型26とを分割し、マグネットピース10(図1参照)を取り出す。尚、冷却工程においても、金型22のキャビティ30内に作用する配向磁場Mは、周期的に変動(図5参照)している。つまり、図5に示した配向磁場Mの周期的変動は、前記した射出工程の開始から前記した冷却工程の終了まで継続されている。また、水は、射出工程においても金型22の冷却水路を流れていても良い。つまり、水は、金型22の冷却水路を常に流れていても良い。
【0026】
(マグネットロールの製造方法)
その後、前記したマグネットピースの製造方法により製造した少なくとも1つのマグネットピース10と、必要に応じて公知の方法により製造した1または複数のマグネットピースと、を接着剤を用いてシャフトに貼り付けることにより、マグネットロールを製造することができる。
【0027】
ここで、公知の方法により製造したマグネットピースとは、例えば、特許文献1、2に記載された方法により製造されたマグネットピースをいう。別言すると、キャビティに作用する配向磁場の大きさが一定の金型を用いて製造したマグネットピースである。
【0028】
後述するように、前記した本発明に係るマグネットピースの製造方法により製造したマグネットピースは、公知の方法により製造したマグネットピースよりも磁力を強く(高く)することができるので、高価な希土類磁石を用いることなく、安価にマグネットロールを製造することができる。
【0029】
(L18実験の結果)
次に、マグネットピース10の磁力を強くするための最も望ましい製造条件を確認するために行ったL18実験の結果について説明する。尚、樹脂バインダーは、戸田工業製TP−S98J、フェライト系異方性磁石粉、およびエチレンエチルアクリレート(EEA)を用いた。
【0030】
表1に示すように、制御因子として、キャビティ30(図2(A)参照)内へ射出される樹脂バインダー12の初速A、樹脂温度B、異方化時間C、保圧D、異方化電流E、電流立ち上がり時間F、異方化電流減衰率G、電流谷部時間Hの8つの因子を設定している。なお、外側割り付けは無い。
【表1】

【0031】
初速Aは、射出成形装置20(図2(A)参照)における射出の最高設定速度に対して設定する樹脂バインダー12の初速度の比率である。また、初速Aは、0から100%までで設定可能であるが、ここでは5%、10%の2水準で設定している。尚、キャビティ充填中の樹脂バインダー12の射出速度は、射出の最高設定速度の50%である。
【0032】
樹脂温度Bは、キャビティ30(図2(A)参照)内に射出する前の溶融状態の樹脂バインダー12の温度である。また、樹脂温度Bは、エチレンエチルアクリレート(EEA)を230℃から270℃までで成形しているため、ここでは250℃、260℃、270℃の3水準で設定している。
【0033】
異方化時間Cは、図5に示す波形Wのグラフにおける配向磁場Mの印加時間の合計であり、ここでは25sec、35sec、45secの3水準で設定している。
【0034】
保圧Dは、キャビティ30内に樹脂バインダー12が充満した後に作用させる圧力であり、射出成形装置20で設定可能となる最高圧力に対して設定する圧力の比率で表している。ここでは、保圧Dとして、30%、35%、40%の3水準で設定している。
【0035】
異方化電流Eは、射出成形装置20のコイル24に印加する電流値であり、図5に示す波形のWの配向磁場Mが上限M1となる電流値である。ここでは、異方化電流Eとして、40A(アンペア)、50A、60Aの3水準で設定している。
【0036】
電流立ち上がり時間Fは、図5に示すように、射出成形装置20のコイル24に電流を流し始めた時間t1から、配向磁場Mの大きさがM1からM0へ減少する時間t4までの時間である。ここでは、電流立ち上がり時間Fとして、0.8sec、0.6sec、0.9secの3水準で設定している。
【0037】
異方化電流減衰率Gは、図5に示す配向磁場Mの大きさがM1から減少する減少分の比率を、印加電流の減少分の比率に置き換えたものである。即ち、減衰率100%は、配向磁場Mの大きさがM1からM0(=0)まで減衰することを意味しており、減衰率50%は、配向磁場Mの大きさがM1からM1の半分(M0=(M1)/2)まで減衰することを意味している。なお、減衰率0%とは、直流電流(M1が一定となる定電流)で電流を印加することを意味している。ここでは、異方化電流減衰率Gとして、100%、50%、0%の3水準で設定している。
【0038】
電流谷部時間Hは、図5に示すように、配向磁場MがM1からM0へ減少する時間t3から次の配向磁場Mの増加開始時間t4までの経過時間である。ここでは、電流谷部時間Hとして、1sec、3sec、5secの3水準で設定している。
【0039】
ここで、上記の制御因子AからHまでを割り付けたL18実験の直交表を表2に示す。
【表2】

【0040】
なお、本実験では、図1に示すマグネットピース10について、S1極用の金型22を用いて射出成形を行う。各条件毎のマグネットピースの測定用サンプルは、条件変更後、成形10ショット目のものとした。また、マグネットピース10の単品状態における異方化磁力の測定では、マグネットピース10の長手方向の全長L=337mmにおいて、(1)ゲート側(ゲート口36から長手方向に15mmの位置)、(2)センター(ゲート口36から長手方向に168mmの位置)、(3)反ゲート側(ゲート口36から長手方向に322mmの位置)の3箇所で測定を行う。異方化磁力の測定は、径φ8mmのシャフトに、マグネットピース10(シャフト貼り付け面から外周面の肉厚9.8mm)を接着剤を用いて貼り付け、シャフトの中心から15mm離れた点にガウスメータに接続されたプローブを置いて行った。ガウスメータは株式会社エーデーエスの型式HGM8300SW、プローブは株式会社エーデーエスの型式FX−95Bを用いた。また、ガウスメータから出力されたアナログ信号をA(アナログ)/D(デジタル)変換してパーソナルコンピュータに取り込み、データの分析を行った。
【0041】
ここで、L18実験により得られたマグネットピース10の磁力(単位mT(ミリテスラ))を表3に示すと共に、図6に要因効果図を示す。図6は、センター(ゲート口36から長手方向に168mmの位置)で測定して得られた磁力の平均値122.8mTを一点鎖線Vで表示している。なお、分散分析表については、表示及び説明を省略する。
【表3】

【0042】
本実験では、異方化電流Eが1%有意であり、異方化電流減衰率Gが5%有意の結果となった。図6を見ると、磁力を増加させるためには、異方化電流を低く設定し、異方化電流減衰率を高く設定することが効果的であることが分かる。これらの結果をふまえて、本実験の範囲における最も望ましい水準を、初速A=10%、樹脂温度B=270℃、異方化時間C=25sec、保圧D=35%、異方化電流E=40A、電流立ち上がり時間F=0.9sec、異方化電流減衰率G=100%、電流谷部時間H=0.5secとした。
【0043】
ここで、この最も望ましい水準で再現実験を行ったところ、工程平均、個々の磁力の値の存在範囲が125.55±1.7700mTに対して、実験結果が125.23mTとなり、最も望ましい条件が正しいことが確認された。
【0044】
次に、最も望ましい条件のうち、異方化電流Eを10Aから60Aまで変化させて配向磁場Mの大きさを変化させたときのマグネットピース10の磁力を測定した。各条件毎のマグネットピースの測定用サンプルは、条件変更後、成形100ショット目のものとした。その結果、表4及び図7(A)に示すように、マグネットピース10の高磁力化に対して配向磁場Mの望ましい範囲が存在し、配向磁場Mは、0.87テスラ以上2.16テスラ以下が望ましいことが確認された。
【表4】

【0045】
なお、配向磁場Mの望ましい範囲の下限値については、配向磁場Mが0.43テスラのときと0.87テスラのときとでマグネットピース10の磁力に顕著な差が見られることを根拠として設定している。また、配向磁場Mの望ましい範囲の上限値については、配向磁場Mが2.16テスラのときのマグネットピース10の磁力に対して、配向磁場Mが2.60テスラのときの磁力が低下していることを根拠として設定している。
【0046】
配向磁場Mが2.60テスラのときのマグネットピース10の磁力が2.16テスラのときに比べて低下している要因としては、図7(B)に示すように、異方化電流(配向電流)を増加させることでコイル24(図2(A)参照)が発熱するためと考えられる。ここで、異方化電流を増加させても、図7(A)に示すように、マグネットピース10の磁力が125.4mTから125.2mTに減少し始めていることから、配向磁場Mのより望ましい範囲として、0.87テスラ以上1.30テスラ以下が挙げられる。
【0047】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る磁性樹脂成形体の製造方法の一例について説明する。なお、前述した第1実施形態のマグネットピース10及び射出成形装置20と基本的に同一の材料、部材については、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0048】
(磁性樹脂成形体)
図3には、第2実施形態の磁性樹脂成形体の一例としてのマグネットロール50が示されている。マグネットロール50は、軸部材の一例としての金属性の円柱状のシャフト52の外周面に、前述の磁石材料粉及び添加剤を含んだ樹脂バインダー12が射出成形により形成された構成となっている。
【0049】
(射出成形装置)
図4には、マグネットロール50の射出成形に用いる射出成形装置60が示されている。射出成形装置60は、金型62と、金型62内に設けられ樹脂バインダー12に配向磁場Mを作用させる複数(ここでは4箇所)のコイル64A、64B、64C、64Dと、コイル64A、64B、64C、64Dに通電を行う通電装置70とを含んで構成されている。通電装置70は、コイル64A、64B、64C、64Dへの通電量及び通電パターン(波形)が各々可変となっており、経過時間に合わせて通電量を変えることで、金型62に作用する配向磁場Mの大きさを周期的に変更可能となっている。なお、本実施形態では、コイル64A、64B、64C、64Dのそれぞれについて、図5に示す波形Wの通電パターンが設定されている。また、配向磁場Mは、0.87テスラ以上2.16テスラ以下の範囲で設定している。
【0050】
金型62は、磁性材料で形成された上型66、下型68が分割面67で分割される分割型である。そして、金型62は、上型66と下型68が合わさることで、マグネットロール50(図3参照)の大きさ及び形状に合わせた長尺で円筒状のキャビティ63が形成されている。なお、長尺とは、円筒の断面の径方向の長さよりも軸方向の長さの方が長いことを意味している。また、キャビティ63の内側では、シャフト52の両端部が支持部材(図示省略)で支持されており、シャフト52の外周面とキャビティ63の内壁面との間に空間が形成されている。
【0051】
上型66には、配向ヨーク72A、72Bが設けられている。配向ヨーク72Aは、金型62をシャフト52の軸方向に見て、シャフト52を中心として、分割面67から左45°方向を長手方向として、コイル64Aの内側に配置されている。また、配向ヨーク72Bは、分割面67から右45°方向を長手方向として、コイル64Bの内側に配置されている。
【0052】
同様に、下型68には、配向ヨーク72C、72Dが設けられている。配向ヨーク72Cは、金型62をシャフト52の軸方向に見て、シャフト52を中心として、分割面67から右45°方向を長手方向として、コイル64Cの内側に配置されている。また、配向ヨーク72Dは、分割面67から左45°方向を長手方向として、コイル64Dの内側に配置されている。
【0053】
キャビティ63は、マグネットロール50(図3参照)を成形するためのものであり、長手方向の一端にはゲート口(図示省略)が形成されている。なお、金型62には、キャビティ63を囲むようにして冷却水路(図示省略)が設けられている。
【0054】
(作用)
次に、第2実施形態の作用について説明する。
【0055】
図4に示す射出成形装置60において、キャビティ63内にシャフト52を配置する。続いて、通電装置70を作動させ、コイル64A、64B、64C、64D及び配向ヨーク72A、72B、72C、72Dにより発生した配向磁場Mを、キャビティ63内の周方向4箇所で且つ長手方向に沿って作用させる。そして、金型62のキャビティ63内に作用する配向磁場Mが周期的に変動(図5参照)している状態で、加熱溶融した樹脂バインダー12をゲート口(図示省略)からキャビティ63内に射出する。続いて、ゲート口36からキャビティ30内に射出された樹脂バインダー12によりキャビティ30内が満たされた後、設定した圧力、時間で保圧(圧力保持)を行う(射出工程)。
【0056】
配向磁場Mの大きさがM1となっているときは、溶融状態の樹脂バインダー12に配向磁場Mが作用して配向率が上昇し、マグネットロール50の4つの磁極の磁力が増加する。しかし、配向磁場Mは、樹脂バインダー12の充填方向に対して直角方向に作用しているため、配向磁場Mが大きいほど配向磁場Mによる充填抵抗が増加し、樹脂バインダー12の射出速度が低下する。このため、一定で且つ大きな配向磁場Mを作用させた場合は、充填中の樹脂バインダー12の熱が金型22に奪われて樹脂バインダー12が固化し易くなるので、結果的に配向率が下がり、マグネットロール50の4つの磁極の磁力が低下することになる。
【0057】
ここで、本実施形態のマグネットロール50の製造方法では、キャビティ63内に射出される樹脂バインダー12に対して周期的に(一定周期で)変動する配向磁場Mが作用している。このため、キャビティ63内に作用する配向磁場Mの大きさがM1(図5参照)よりも低くなっているときは、樹脂バインダー12の射出(充填)が配向磁場Mの影響を受けにくくなり、射出速度が増加(充填抵抗が低下)する。そして、射出速度が増加することで、充填中に樹脂バインダー12が固化しにくくなり、結果的に配向率が上昇して、マグネットロール50の4つの磁極の磁力が増加する。
【0058】
続いて、金型62の冷却水路(図示省略)に水を流して、キャビティ63内の樹脂バインダー12を冷却する(冷却工程)。そして、成形品の形状が変形しない程度に樹脂バインダー12を冷却した後、配向磁場MをOFFにして、上型66と下型68とを分割し、マグネットロール50(図3参照)を取り出す。尚、冷却工程においても、金型62のキャビティ63内に作用する配向磁場Mは、周期的に変動(図5参照)している。つまり、図5に示した配向磁場Mの周期的変動は、前記した射出工程の開始から前記した冷却工程の終了まで継続させる。また、水は、射出工程においても金型22の冷却水路を流れていても良い。つまり、水は、金型22の冷却水路を常に流れていても良い。
【0059】
なお、上記の実施形態は説明のために例示したものであって、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面の記載から当事者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0060】
金型62において、各コイル及び各配向ヨークの数は、4つに限らず、2つ、3つ、あるいは5つ以上であってもよい。また、配向ヨーク72A、72B、72C、72Dの設置角度は、45°に限らず、それぞれ異なる角度であってもよい。さらに、コイル64A、64B、64C、64Dへの通電パターンは、要求される磁力に応じて、少なくとも1つについて通電量を周期的に変動させればよく、残りを定電流で通電してもよい。
【0061】
また、第1実施形態では、金型の一例として、磁性材料で形成された下型26と、非磁性材料で形成された上型32と、から構成される金型22を示したが、本発明が適用される金型としてはこれに限定されるものではなく、下型26も非磁性材料で形成されていても良い。
【0062】
本発明は、以下のように把握することもできる。
<1>
金型のキャビティ内に作用する磁場が周期的に変動している状態で、
前記キャビティ内に少なくとも異方性磁石粉を含み加熱溶融した磁性樹脂材料を射出する射出工程と、
前記磁性樹脂材料を冷却する冷却工程と、
を行ない成形した少なくとも1つのマグネットピースをシャフトに貼り付けるマグネットロールの製造方法。
【0063】
<2>
前記磁場の変動の上限の大きさを0.87テスラ以上2.16テスラ以下とする<1>に記載のマグネットピースの製造方法。
【0064】
<3>
長尺な円柱状に形成されたキャビティ内に作用する磁場が周期的に変動している状態で、
前記キャビティ内に少なくとも異方性磁石粉を含み加熱溶融した磁性樹脂材料を射出する射出工程と、
前記磁性樹脂材料を冷却する冷却工程と、
を行ない、マグネットロールを成形するに際し、
前記射出工程及び前記冷却工程では、前記キャビティ内の周方向の複数位置で、前記キャビティの長手方向に沿って磁場を作用させると共に、該複数位置で作用させる磁場の少なくとも1つを周期的に変動させるマグネットロールの製造方法。
【0065】
<4>
前記磁場の変動の上限の大きさを0.87テスラ以上2.16テスラ以下とする<3>に記載のマグネットロールの製造方法。
【符号の説明】
【0066】
10 マグネットピース(磁性樹脂成形体の一例)
12 樹脂バインダー(磁性樹脂材料の一例)
22 金型
30 キャビティ
50 マグネットロール(磁性樹脂成形体の一例)
62 金型
63 キャビティ
M 配向磁場(磁場)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型のキャビティ内に作用する磁場が周期的に変動している状態で、
前記キャビティ内に少なくとも異方性磁石粉を含み加熱溶融した磁性樹脂材料を射出する射出工程と、
前記磁性樹脂材料を冷却する冷却工程と、
を行う磁性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記磁場の変動の上限の大きさを0.87テスラ以上2.16テスラ以下とする請求項1に記載の磁性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記キャビティは、長尺な円柱状に形成され、
前記射出工程及び前記冷却工程では、前記キャビティ内の周方向の複数位置で、前記キャビティの長手方向に沿って磁場を作用させると共に、該複数位置で作用させる磁場の少なくとも1つを周期的に変動させる請求項1又は請求項2に記載の磁性樹脂成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−81674(P2012−81674A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230865(P2010−230865)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【特許番号】特許第4706803号(P4706803)
【特許公報発行日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】