説明

磁束トランス及び同軸立体型グラジオメータ

【課題】 磁束トランス及び同軸立体型グラジオメータに関し、渦電流の発生を抑制して、磁場の検出感度を向上する。
【解決手段】 非磁性金属基材と、前記非磁性金属基材上に形成された短軸方向の中心軸に対して面対称の形状の酸化物超電導体からなる超電導ループとを備えた磁束トランスの前記超電導ループ内に前記非磁性金属基材の裏面に達する切断部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁束トランス及び同軸立体型グラジオメータに関するものであり、例えば、微弱な磁気信号を高感度で且つ高精度で検出する磁束トランス及び同軸立体型グラジオメータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、超電導体のジョセフソン接合をループにした構造のSQUIDが超高感度の磁気センサとして用いられている。この超電導体のジョセフソン接合は、金属系超電導体或いは酸化物系超電導体を用いて作製されているが、酸化物系ジョセフソン接合の特性が十分ではなく、金属系ジョセフソン接合が主に用いられている。
【0003】
しかしながら、金属系ジョセフソン接合が液体ヘリウム温度近傍で動作するのに対して、酸化物系ジョセフソン接合は液体窒素温度である77Kで動作するため、その特性を高める研究が続けられている。例えば、界面改質バリアを用いたYBCO(YBaCu)系のジョセフソン接合が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
このような、SQUIDで磁気センサを構成する場合、地磁気等の影響を排除するとともに検出対象となる外部磁場を効率的に捕捉するために、SQUIDに対して左右対称な一対の超電導体ピックアップループを配置したグラジオメータが開発されている。
【0005】
しかし、この超電導体ピックアップループは、その大きさがMgO等の酸化物基板の寸法で制限され、また、構造もSQUIDループとピックアップループが同一平面に配置された平面型グラジオメータの構造に限定されていた。
【0006】
このような状況の中で、耐熱性のNi基合金のHastelloy(ハステロイ:登録商標)等の非磁性金属基材上に酸化物高温超電導体の薄膜或いは厚膜を形成してテープ線材を作製する技術が開発されてきた(例えば、特許文献1或いは特許文献2参照)。
【0007】
テープ線材は、長尺化が可能であり、また、変形の自由度が酸化物基板に比べて十分大きいという特長がある。そこで、このようなテープ線材を用いて外部磁場を効率的に捕捉することができる超電導体ピックアップループ、即ち、磁束トランスが提案されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0008】
この提案により、酸化物高温超電導体で作製したSQUIDと一対のピックアップループからなる平面型グラジオメータと、酸化物高温超電導体で作製した磁束トランスを貼り合わせた同軸立体型グラジオメータ、即ち、同軸型立体グラジオメータが広く用いられるようになった。
【0009】
図10は、従来のフレキシブル磁束トランスの一例の構成説明図であり、図10(a)は概略的平面図であり、図10(b)は超電導ピックアップループが存在する位置の概念的断面図である。ここでは、市販されている超電導テープ線材にイオンミリング法を用いて表面の酸化物超電導体層をパターニングして、超電導ピックアップループを形成した例を説明する。
【0010】
例えば、図10(b)に示すように、ハステロイ(登録商標)からなる非磁性金属基材11上に、GdZr組成のGdZrOバッファ層12、CeOバッファ層13、及び、GdBaCu組成のGdBCO膜14を順次堆積したテープ線材を用いる。なお、GdZrOバッファ層12は、イオンビームアシスト蒸着(IBAD)法により堆積させる。
【0011】
このテープ線材に対してGdBCO膜14をパターニングして、図において左右対称の一対の擬似リング部16、中央の磁気伝達回路となる擬似正方形部17、両者を接続する接続部18からなる超電導ピックアップループ15を形成して磁束トランスとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平04−329867号公報
【特許文献2】特開平04−331795号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】B.H.Moeckly et al.,Appl.Phys.Lett.,Vol.71,p.2526,1997
【非特許文献2】M.Bick et al.,Appl.Phys.Lett.,Vol.84,p.5347,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、テープ線材の下地として非磁性金属基材を用いると、磁場により非磁性金属基材中に渦電流が発生する。この渦電流は、被測定磁気信号を打ち消す磁場を形成するように発生するので、渦電流の発生は、SQUIDの感度を損なうことになる。
【0015】
したがって、本発明は、渦電流の発生を抑制して、磁場の検出感度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
開示する一観点からは、非磁性金属基材と、前記非磁性金属基材上に形成された短軸方向の中心軸に対して面対称の形状の酸化物超電導体からなる超電導ループとを備えた磁束トランスであって、前記超電導ループ内に前記非磁性金属基材の裏面に達する切断部を有する磁束トランスが提供される。
【0017】
また、開示する別の観点からは、蒲鉾状部を備えたボビンと、前記ボビンの蒲鉾状部に、前記蒲鉾状部の形状に沿って湾曲して配置された上述の磁束トランスと、前記蒲鉾状部の頂部において前記磁束トランス上に絶縁体膜を介して配置された平面型グラジオメータとを有する同軸立体型グラジオメータが提供される。
【発明の効果】
【0018】
開示の磁束トランス及び同軸立体型グラジオメータによれば、非磁性金属基板の裏面に達する切断部を設けているので、渦電流の発生を抑制することができ、それによって、磁場の検出感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態のフレキシブル磁束トランスの構成説明図である。
【図2】本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスの構成説明図である。
【図3】平面型グラジオメータの構成説明図である。
【図4】本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスを用いた同軸立体型グラジオメータの概念的構成図である。
【図5】本発明の同軸立体型グラジオメータの磁場感度の説明図である。
【図6】本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスの変形例の概念的平面図である。
【図7】本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスの他の変形例の概念的平面図である。
【図8】本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスの構成説明図である。
【図9】本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスの変形例の説明図である。
【図10】従来のフレキシブル磁束トランスの構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ここで、図1を参照して、本発明の実施の形態のフレキシブル磁束トランスを説明する。図1は、本発明の実施の形態のフレキシブル磁束トランスの構成説明図であり、図1(a)は概略的平面図であり、図1(b)は超電導ピックアップループの存在する部分の概念的断面図である。
【0021】
図1(b)に示すように、非磁性金属基材1上に、バッファ層2を介して、酸化物超電導体3を堆積したテープ線材を用意する。非磁性金属基材1としては、組成が、(54.5〜66.5)Ni−(15〜30)Mo−C−Fe(−Cr−W)系の耐熱性Ni基合金であるハステロイ(登録商標)、他の組成のNi基合金、Cu基合金、あるいは、ステンレスを用いる。また、非磁性金属基材1は同軸立体型グラジオメータを形成するために、湾曲が可能な薄い基材とする。
【0022】
また、バッファ層2の材質は任意であるが、典型的には、IBAD法で堆積させたGdZr組成のGdZrOバッファ層と層間絶縁膜となるCeO層の積層構造を用いる。また、酸化物超電導体3の材質も特に制限されるものではないが、典型的には、GdBaCu等のYが希土類元素で構成される所謂YBCO系酸化物高温超電導体を用いる。
【0023】
図1(a)に示すように、イオンミリングにより、酸化物超電導体3をパターニングして、左右対称の一対の擬似リング部5、中央の磁気伝達回路となる擬似正方形部6、両者を接続する接続部7からなる超電導ループ4を形成して磁束トランスとする。なお、超電導ループ4の形成状は任意であり、擬似リング部5は、図に示したような矩形の角部に曲率を持たせたものの他に、矩形、円形或いは楕円形でも良い。また、擬似正方形部6は必須ではない。さらには、後述するように、図9に示すような単純な形状のループでも良い。
【0024】
次いで、図1(a)に示すように、超電導ループ4の内側に渦電流の発生を抑制するために非磁性金属基材1を貫通する切断部8を設ける。この切断部8はレーザ照射により形成しても良いし、プレス加工で打ち抜いて形成しても良い。また、切断部8の形状は任意であるが、超電導ピックアップループの長手方向の中心軸の中央に垂直な面に対して面対称な構造、即ち、図において左右対称な構造であることが望ましい。
【0025】
この本発明の実施の形態の磁束トランスは、超電導ピックアップループの内側に非磁性金属基材1を貫通する切断部8を設けているので、磁場の検出感度の低下の原因となる渦電流の発生を効果的に抑制することができる。
【0026】
この磁束トランスを湾曲させて両側の擬似リング部5を対向させた状態で、擬似正方形部6に対して、SQUIDチップに形成したピックアップループを整合させて配置することによって、同軸立体型グラジオメータが得られる。
【実施例1】
【0027】
以上を前提として、次に、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランス及びそれを用いた同軸立体型グラジオメータを説明する。図2は本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスの構成説明図であり、図2(a)は概略的平面図であり、図2(b)は、超電導ピックアップループが存在する位置の概念的断面図である。
【0028】
図2(b)に示すように、市販の酸化物超電導体からなるテープ線材を用意する。このテープ線材は、例えば、厚さが100μmのハステロイ(登録商標)からなるテープ状の非磁性金属基材11上に、GdZrOバッファ層12、CeOバッファ層13、及び、厚さが1μmのGdBCO膜14を順次堆積したテープ線材を用いる。なお、GdZrOバッファ層12は、GdZr組成でイオンビームアシスト蒸着法により堆積させる。また、GdBCO膜14は、GdBaCu組成である。このようなテープ線材は、幅が10mmであり、長さは数十mから数百mあるが、ここでは、約90mmの長さに切断して使用する。
【0029】
次いで、GdBCO膜14上にレジストをスピンコートし、図2(a)に示す擬似リング部16、中央の磁気伝達回路となる擬似正方形部17、接続部18からなる超電導ピックアップループ15のパターンをメタルマスクとコンタクトアライナーで転写する。次いで、レジストパターンをマスクとしてArイオンによるイオンミリングにより不要部を除去して線幅が0.5〜1.0mmの超電導ピックアップループ15を形成する。この超電導ピックアップループ15は、擬似正方形部17の中心からみて面対称の構造になっている。なお、中央の擬似正方形部17のサイズは、後述するSQUIDチップに形成したピックアップループのサイズと同じサイズに形成する。
【0030】
次いで、レーザ照射により超電導ピックアップループ15の長軸方向に沿って非磁性金属基材11を貫通する切断溝19を形成することによって、本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスが完成する。この場合、レーザとしては波長が355nmのUVレーザを用い、出力4.5W、スキャン速度2mm/秒、Qスイッチ値10kHzで、ビームスポット径を約20μmとし、酸素のアシストガス中で照射した。
【0031】
次に、図3を参照して、SQUIDチップからなる平面型グラジオメータを説明するが、この平面型グラジオメータ自体は従来から用いられている平面型グラジオメータと基本的に同じ構成である。図3は平面型グラジオメータの構成説明図であり、図3(a)は概略的平面図であり、図3(b)はSQUIDを構成する表面改質型ジョセフソン接合の概略的断面図である。
【0032】
まず、例えば、15mm角で厚さが0.5mmのMgO基板21上に、オフアクシス、マグネトロンスパッタ法を用いて、厚さが10nmのBaZrO膜22、厚さが200nmのグランドプレーン層23、厚さが200nmのSrSnO層間膜24を堆積する。なお、グランドプレーン層23としては、例えば、Pr1.4Ga0.4Ba1.6Cu2.6を用いた。
【0033】
引き続いて、オフアクシス、マグネトロンスパッタ法を用いて、厚さが200nm〜250nmのSmBaCuからなる下部超電導層25及び厚さが200nmのSrSnO層間膜26を順次堆積させる。
【0034】
次いで、Arイオンによるイオンミリングにより下部超電導層25を加工してランプ傾斜面を有する所定サイズのメサ構造を形成する。次いで、Arイオン或いはArイオン+Oイオンを加速電圧280V〜500Vで、1分〜3分間照射してランプ傾斜面の表面をアモルファス化して表面改質層27とする。
【0035】
次いで、レーザパルスデポジッション法を用いて、基板温度を例えば、600℃とした状態で、全面に厚さが200nmのLa0.2Er0.95Ba1.95Cuからなる上部超電導層28を堆積させる。次いで、常温において、全面に厚さが200nmのAu薄膜(図示は省略)をスパッタ法により堆積させる。
【0036】
次いで、通常のリソグラフィー法を用いて形成したレジストパターンをマスクとして、Arイオンミリングによって、2個の正方形状のピックアップループ30を形成するとともに、図3(a)の拡大図に示すSQUID29の上部電極を形成する。なお、この場合のピックアップループ30のサイズは外形が4.0mm角とし、線幅は0.5mmとする。
また、SQUID29の下部電極に対しては、下部電極パッド31から下部配線32を接続し、上部電極に対しては、上部電極33から上部配線34を接続する。また、ピックアップループ30の外側には、パッド35に接続されたフィードバックコイル36を設ける。
【0037】
このSQUIDチップは平面型グラジオメータ20と称され、正方形のピックアップループ30により磁場を効率良く捉えるとともに、この同じ大きさのピックアップループ30を2個設けることによって、ノイズとなる地磁気等により発生する起電流を相殺する。
【0038】
図4は、本発明の実施例1のフレキシブル磁束トランスを用いた同軸立体型グラジオメータの概念的構成図である。図4(a)は同軸立体型グラジオメータの骨格を構成するボビンの概略的斜視図であり、図4(b)は同軸立体型グラジオメータの組み立て図である。
【0039】
図4(a)に示すように、ボビン40は、非磁性体、例えば、ベークライトを加工して作製し、中央上部にフレキシブル磁束トランスを湾曲して固定する蒲鉾状部41を有している。
【0040】
図4(b)に示すように、ボビン40の蒲鉾状部41の形状に沿ってフレキシブル磁束トランス10を配置して、非磁性体、例えば、ベークライトからなる押さえ板42をネジ43によりボビン40の側部に取り付けて、フレキシブル磁束トランス10を固定する。この時、フレキシブル磁束トランス10に設けられた一対の擬似リング部16は同じ高さの水平位置において互いに対向するようにする。また、中央部の擬似正方形部17は蒲鉾状部41の頂部の中央に位置することになる。
【0041】
次いで、非磁性体、例えば、ベークライトからなる蓋部材44の内側の中央部に収容部45を設けて、この収容部45にSQUIDチップからなる平面型グラジオメータ20を収容し、この蓋部材44をネジ46によって、ボビン40の上面に固定する。なお、蓋部材44及び押さえ板42の固定機構はネジ43,46に限られるものではなく、嵌合機構を用いても良い。
【0042】
この時、図4(b)の右の拡大図に示すように、ピックアップループ30の一方と、超電導ピックアップループ15に形成した擬似正方形部17が整合するように、厚さが、例えば、20nmの絶縁性薄膜47、例えば、薬包紙を介して積層する。この場合のピックアップループ30はどちらを用いても良いが、通常は、図3(a)において上側に配置した電極配線が障害にならない方のピックアップループ30を用いる。
【0043】
図5は、本発明の同軸立体型グラジオメータの磁場感度の説明図であり、図5(a)は切断溝を有さない従来の磁束トランスの磁場感度特性であり、図5(b)は本発明の磁束トランスの磁場感度特性である。なお、ここでは、フレキシブル磁束トランスの一方の擬似リング部に接するようにソレノイドを設置し、このソレノイドに交流電流を流して磁場を供給した。なお、両方とも同じソレノイドを用いた。
【0044】
図5(a)に示すように、従来の磁束トランスの磁場感度は、2.7mAのソレノイド電流が1個の単位磁束量子φに相当している。一方、本発明の実施例1の磁束トランスの磁場感度は、0.32mAのソレノイド電流が1個の単位磁束量子φに相当しており、磁場感度が約8.4倍程度向上したことがわかる。
【0045】
このように、本発明の実施例1においては、フレキシブル磁束トランスを構成する超電導ピックアップループの内側に切断溝を設けているので、渦電流の発生が抑制され、その結果、磁場感度が向上する。
【0046】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の実施例1のフレキシブル磁気トランスの変形例を説明するが、基本的な構成は実施例1と全く同様で、切断部の構造が異なるだけであるので、平面図のみ示す。図6(a)に示すように切断部は、複数の短い長軸方向切断溝51によって構成しても良く、この場合も、長軸方向切断溝51は中央の擬似正方形部17に対して対称に配置することが望ましい。
【0047】
また、図6(b)に示すように、切断部は、複数の短い短軸方向切断溝52によって構成しても良く、この場合も、短軸方向切断溝52は中央の擬似正方形部17に対して対称に配置することが望ましい。
【0048】
また、図6(c)に示すように、切断部を複数の短い長軸方向切断溝51によって構成する場合にも、面積の広い左右の擬似リング部16において、複数(ここでは3本を図示)の長軸方向切断溝51を並列配置しても良い。
【0049】
或いは、図7(d)に示すように、長軸方向切断溝と短軸方向切断溝とを組み合わせた柵状切断溝53を左右の擬似リング部16に配置しても良い。この場合も、柵状切断溝53は中央の擬似正方形部17に対して対称に配置することが望ましい。
【0050】
また、このような切断部はスリット状の切断溝に限られるものではなく、所定の面積を有する貫通孔をプレス加工によって打ち抜いて形成しても良いものである。例えば、図7(e)に示すように、左右の擬似リング部16内に5.0mm×10.0mmの矩形状の貫通孔54を設けても良い。または、図7(f)に示すように、直径が5.0mmの円形の貫通孔55を設けても良い。なお、図示は省略するが、楕円状の貫通孔や、矩形の角を丸めた形状の貫通孔を用いても良い。
【実施例2】
【0051】
次に、図8を参照して、本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスを説明する。図8は本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスの構成説明図であり、図8(a)は概略的平面図であり、図8(b)は、超電導ピックアップループが存在する位置の概念的断面図である。
【0052】
図8(b)に示すように、テープ線材の構成は上記の実施例1と全く同様であり、市販の酸化物超電導体からなるテープ線材を用意する。即ち、このテープ線材は、例えば、厚さが100μmのハステロイ(登録商標)からなるテープ状の非磁性金属基材11上に、GdZrOバッファ層12、CeOバッファ層13、及び、厚さが1μmのGdBCO膜14を順次堆積した線材である。この幅が10mmのテープ線材を、約90mmの長さに切断して使用する。
【0053】
次いで、上記の実施例1と全く同様な方法で加工して超電導ピックアップループ61を形成するが、この実施例2においては、長尺の長方形の四隅を丸めた単純な形状とする。次いで、実施例1と全く同様にレーザビームスポットをスキャン照射して切断溝62を形成することによって、本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスが完成する。
【0054】
この本発明の実施例2においても、超電導ピックアップループの内側に切断溝を設けているので、渦電流の発生を抑制することができ、それによって、磁場感度を向上することができる。
【0055】
なお、上述の実施例1の場合と同様に、切断部は1本のスリット状の切断溝に限られないので、次に、図9を参照して、本発明の実施例2のフレキシブル磁束トランスの変形例を説明する。
【0056】
例えば、図9(a)に示すように、切断部を複数の長尺のスリット状の切断溝62を並列に配置して形成しても良い。また、図9(b)に示すように、長尺のスリット状の切断溝と短い短軸方向切断溝を組み合わせた柵状切断溝63としても良い。或いは、図9(c)に示すように、長尺貫通孔64や、図9(d)に示すように、複数の円形の貫通孔65を用いても良い。
【0057】
或いは、図示は省略するが、長尺のスリット状の切断溝ではなく、図6(a)示したような短い長軸方向切断溝を二次元マトリクス状に左右対称に設けても良い。或いは、図6(b)に示したような短軸方向切断溝のみで切断部を構成しても良い。
【0058】
また、貫通孔で切断部を構成する場合にも、図9(d)で示した円形の貫通孔は、矩形の貫通孔でも、楕円状の貫通孔でも、さらには、矩形の四隅を丸めた形状の貫通孔で構成しても良い。
【0059】
以上、本発明の各実施例を説明してきたが、本発明は、各実施例で示した構成に限られるものではなく、各種の変形が可能である。例えば、超電導ピックアップループの形状は、実施例1の形状から中央部の擬似正方形部を除去した形状でも良い。或いは、実施例1と実施例2の中間状態の形状でも良い。
【0060】
また、切断部の構成は上記の各実施例及びその変形例に示した形状に限られるものではなく、開示した各形状の切断溝或いは貫通孔を組み合わせて用いても良い。
【0061】
ここで、実施例1及び実施例2を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
(付記1) 非磁性金属基材と、前記非磁性金属基材上に形成された短軸方向の中心軸に対して面対称の形状の酸化物超電導体からなる超電導ループとを備えた磁束トランスであって、前記超電導ループ内に前記非磁性金属基材の裏面に達する切断部を有する磁束トランス。
(付記2) 前記切断部が、前記超電導ループの短軸方向の中心軸に対して面対称に設けられている付記1に記載の磁束トランス。
(付記3) 前記切断部が、前記超電導ループの長軸方向の中心軸に平行に設けられている付記2に記載の磁束トランス。
(付記4) 前記切断部が、平面形状が矩形状、円形状或いは楕円状のいずれかからなる貫通孔からなる付記2に記載の磁束トランス。
(付記5) 前記貫通孔が、複数個形成されている付記4に記載の磁束トランス。
(付記6) 前記非磁性金属基材が、Niに少なくともMo、C及びFeを添加したNi基合金である付記1乃至付記5のいずれか1に記載の磁束トランス。
(付記7) 前記超電導ループの長手方向の両端部の形状が、リング状である付記1乃至付記6のいずれか1に記載の磁束トランス。
(付記8) 前記超電導ループの中央部に、磁気伝達回路となる擬似正方形部を設けた付記1乃至付記7のいずれか1に記載の磁束トランス。
(付記9) 蒲鉾状部を備えたボビンと、前記ボビンの蒲鉾状部に、前記蒲鉾状部の形状に沿って湾曲して配置された付記1乃至付記8のいずれか1に記載の磁束トランスと、前記蒲鉾状部の頂部において、前記磁束トランス上に絶縁体膜を介して配置された平面型グラジオメータとを有する同軸立体型グラジオメータ。
【符号の説明】
【0062】
1 非磁性金属基材
2 バッファ層
3 酸化物超電導体
4 超電導ループ
5 擬似リング部
6 擬似正方形部
7 接続部
8 切断部
10 フレキシブル磁束トランス
11 非磁性金属基材
12 GdZrOバッファ層
13 CeOバッファ層
14 GdBCO膜
15,61 超電導ピックアップループ
16 擬似リング部
17 擬似正方形部
18 接続部
19,62 切断溝
20 平面型グラジオメータ
21 MgO基板
22 BaZrO
23 グランドプレーン層
24 SrSnO層間膜
25 下部超電導層
26 SrSnO層間膜
27 表面改質層
28 上部超電導層
29 SQUID
30 ピックアップループ
31 下部電極パッド
32 下部配線
33 上部電極パッド
34 上部電極
35 パッド
36 フィードバックコイル
40 ボビン
41 蒲鉾状部
42 押さえ板
43 ネジ
44 蓋部材
45 収容部
46 ネジ
47 絶縁性薄膜
51 長軸方向切断溝
52 短軸方向切断溝
53,63 柵状切断溝
54,55,65 貫通孔
64 長尺貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属基材と、前記非磁性金属基材上に形成された短軸方向の中心軸に対して面対称の形状の酸化物超電導体からなる超電導ループとを備えた磁束トランスであって、
前記超電導ループ内に前記非磁性金属基材の裏面に達する切断部を有する磁束トランス。
【請求項2】
前記切断部が、前記超電導ループの中央部における短軸方向の中心軸に対して面対称に設けられている請求項1に記載の磁束トランス。
【請求項3】
前記切断部が、前記超電導ループの長軸方向の中心軸に平行に設けられている請求項2に記載の磁束トランス。
【請求項4】
前記切断部が、平面形状が矩形状、円形状或いは楕円状のいずれかからなる貫通孔からなる請求項2に記載の磁束トランス。
【請求項5】
中央に蒲鉾状部を備えたボビンと、
前記ボビンの蒲鉾状部に、前記蒲鉾状部の形状に沿って湾曲して配置された請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁束トランスと、
前記蒲鉾状部の頂部において、前記磁束トランス上に絶縁体膜を介して配置された平面型グラジオメータと
を有する同軸立体型グラジオメータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−181559(P2011−181559A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41757(P2010−41757)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】