説明

磁気エンコーダ

【課題】簡易な構成でありながら、磁気特性に優れ、金属環との熱膨張差による環状多極磁石の剥がれが生じず、且つ効率的に製造し得る新規な磁気エンコーダを提供する。
【解決手段】 回転側部材2に嵌合される金属環9と、該金属環9に固着一体とされた環状多極磁石10とよりなる磁気エンコーダ13であって、上記環状多極磁石10は、合成樹脂に磁性粉末を混入させて環状に成型したプラスチック磁石でからなり、該環状プラスチック磁石の周方向に多数のN極及びS極を交互に着磁形成させたものとされ、上記環状多極磁石10と上記金属環9との間には合成樹脂による中間層11が介在され、環状多極磁石10及び中間層11の合成樹脂成分は、互いに同質の熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサと組み合って回転検出装置を構成する自動車用或いは産業用の磁気エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
上記のような磁気エンコーダとしては、金属環と、該金属環に固着一体に支持させた環状多極磁石とよりなるものが挙げられ、金属環をして回転側部材に嵌合固定される。環状多極磁石としては、磁性粉末を含んで環状に成型されたゴム磁石やプラスチック磁石、或いは環状に形成された焼結磁石に、その周方向に沿って多数のN極及びS極を交互に着磁形成したものが用いられる。近時、自動車用車輪におけるアンチロックブレーキシステム(ABS)や、トラクションコントロールシステム(TCS)を制御する為、車輪の回転数検出や回転角度の検出がなされるようになった。このような回転検出の為の装置は、ゴム磁石による環状多極磁石を、金属環(芯金)と共に車輪用軸受の回転側部材(内輪或いは外輪)に装着して磁気エンコーダとなし、固定側部材(車体側等)に設置された磁気センサをこれに対峙させることによって構成されることが多い。
【0003】
この場合、車輪用軸受に組み付けられる磁気エンコーダは、−40℃〜120℃の温度環境に晒される為、金属環と環状多極磁石との間で熱膨張差が生じる。而して、環状多極磁石がゴム磁石よりなる場合は、そのゴム弾性によって熱膨張差が吸収され、金属環との間での剥れが生じ難い。しかし、環状多極磁石は、塵埃や汚泥等による苛酷なアタック環境にも晒されることになり、ゴム磁石の場合は耐磨耗性に劣る為、このような厳しい環境下での耐久性に難があった。また、ゴム磁石の場合、磁力をより向上させる為に磁性粉末の含有量を多くする必要があるが、それに伴いゴム材の相対量が減り、その為ゴム弾性が低くなり上記熱膨張差吸収能力が低下して上記剥れが生じ易くなる。一方、プラスチック磁石や焼結磁石は、ゴム磁石に比べ耐摩耗性に優れ、また磁力特性にも優れるが、熱膨張差吸収能力が乏しく、上記のような温度環境下では、金属環から剥れたり、割れを生じたりすることがある。特許文献1では、このような問題点を解消するため、磁極形成リング(環状多極磁石)とその取付面との間に、弾性的に伸縮が可能な伸縮吸収層を介在させることが提案されている。
【特許文献1】特開2003−222150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された磁気エンコーダにおいては、環状多極磁石として、プラスチック磁石、焼結磁石或いは磁性粉末の配合量を高めたゴム磁石が用いられ、また、伸縮吸収層として、弾性接着剤(例えば、エポキシ系樹脂にシリコン変性ポリマーを配合したもの)の塗布層、ゴム材料層或いは弾性を有する合成樹脂層が用いられる。この場合、取付面に対して伸縮吸収層を接着剤等により接着形成し、或いは弾性接着剤の塗布層自体により伸縮吸収層を形成し、この上に事前に作製準備された環状多極磁石を接着一体として磁気エンコーダが構成される。このように環状多極磁石と伸縮吸収層とは、異質の材料からなるから、両者を接着一体とするには、両材料に適合する接着材料の選択が必要とされる。また、弾性接着剤の塗布層自体により伸縮吸収層を形成する場合は、取付面と環状多極磁石との接着性に加えて硬化後に弾性を保有することが必要とされ、その為上記のような特殊な弾性接着剤が用いられる。更に、環状多極磁石は、事前に作製準備されるもので、その成型過程で取付面に接着一体とされるものではないから、磁気エンコーダとしての製造効率は必ずしも良好とは言えなかった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、簡易な構成でありながら、磁気特性に優れ、金属環との熱膨張差による環状多極磁石の剥がれが生じず、且つ効率的に製造し得る新規な磁気エンコーダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気エンコーダは、回転側部材に嵌合される金属環と、該金属環に固着一体とされた環状多極磁石とよりなる磁気エンコーダであって、上記環状多極磁石は、合成樹脂に磁性粉末を混入させて環状に成型したプラスチック磁石からなり、該環状プラスチック磁石の周方向に多数のN極及びS極を交互に着磁形成させたものとされ、上記環状多極磁石と上記金属環との間には合成樹脂による中間層が介在され、環状多極磁石及び中間層の合成樹脂成分は、互いに同質の熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0007】
上記プラスチック磁石を構成する磁性粉末としては、フェライト粉末、希土類粉末(NdFeB、SmFeN等)が用いられ、またその合成樹脂成分(バインダー)は、熱可塑性樹脂であって、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6T、ナイロン9T、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が採用される。上記磁性粉末は、これら合成樹脂成分(必要によって適宜添加物、可塑剤等を含む)に混練されて成型されるが、磁性粉末は全体量に対して70〜95重量%含有される。また、中間層の合成樹脂成分として、上記同様の熱可塑性樹脂が用いられる。金属環としては、ステンレス鋼(例えば、SUS403)等の磁性金属材が用いられる。
【0008】
本発明において、前記中間層の層厚は、50〜500μmであることが望ましい。また、前記環状多極磁石と中間層とは、両合成樹脂成分の融着により相互に固着一体とし、或いは、接着剤層を介して相互に固着一体とすることができる。そして、該中間層は、接着剤層を介して前記金属環に固着一体としても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る磁気エンコーダは、環状多極磁石がプラスチック磁石からなるから、自動車用車輪の回転検出装置に用いてもその過酷な環境に耐え得る耐久性を備え、また、磁性粉末として磁力の強い上記希土類粉末を用いることができ、磁気特性に優れ、信頼性の高い回転検出装置を構成することができる。そして、環状多極磁石と金属環との間には、合成樹脂による中間層が介在されているから、前記のような温度差の大きな温度環境下に晒される自動車用車輪の回転検出装置に用いた場合、環状多極磁石と金属環との熱膨張差がこの中間層によって吸収され、環状多極磁石が金属環から剥がれることが防止される。しかも、環状多極磁石を構成するプラスチック磁石及び中間層の合成樹脂成分が、互いに同質の熱可塑性樹脂からなるから、両者の馴染み性が良く、従って、プラスチック磁石の成型の際に、両者を互いに溶着させることにより強固に固着一体とさせることができる。或いは、接着剤層を介して固着一体とさせる場合には、接着剤の選択が容易となり、汎用の接着剤を用いることができる。また、金属環に中間層及び環状多極磁石を積層形成する際、一連の樹脂成型工程によって行うことができ、磁気エンコーダの製造の効率化が図られる。
【0010】
本発明において、前記中間層の層厚を50〜500μmとすれば、安定した熱膨張差吸収能力が発現されると共に、環状多極磁石が優れた磁気特性を発揮し、信頼性の高い磁気エンコーダが得られる。即ち、中間層の層厚が50μm未満の場合、熱膨張差吸収能力が減退する傾向となり、500μmを超えると、金属環と環状多極磁石との間隔が大きくなり、金属環にプラスチック磁石を固着一体とした後に着磁する際、金属環を通じたバックヨーク作用が低下し、プラスチック磁石の磁気特性が十分に得られなくなる傾向となる。
【0011】
これらの発明において、中間層を接着剤層を介して前記金属環に固着一体とする場合には、中間層を金属環に対して強固に固着一体とすることができる。特に、成型の際に中間層を金属環に固着させる場合には、金属環に予め接着剤を塗布した状態で成型することができ、より強固な固着一体化が図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の最良の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態の磁気エンコーダが組み付けられた軸受ユニットの一例を示す縦断面図、図2は図1におけるX部の拡大図及びその部分拡大図、図3(a)(b)は同磁気エンコーダの製造要領を概念的に示す断面図、図4(a)(b)(c)は同磁気エンコーダの変形例であって図2の部分拡大図に対応する図、図5は他の実施形態の磁気エンコーダが組み付けられた軸受ユニットの要部の断面図である。
【0013】
図1は自動車の車輪を転がり軸受ユニット1により支持する構造の一例を示すものであり、内輪(回転側部材)2を構成するハブ2Aのハブフランジ2aにボルト2bによりタイヤホイール(不図示)が取付固定される。また、ハブ2Aに形成されたスプライン軸孔2cには駆動シャフト(不図示)がスプライン嵌合されて、該駆動シャフトの回転駆動力がタイヤホイールに駆動伝達される。そして、ハブ2Aは内輪部材2Bと共に内輪2を構成する。外輪(固定側部材)3は、車体の懸架装置(不図示)に取付固定される。この外輪3と上記内輪2との間に2列の転動体(玉)4…がリテーナ4aで保持された状態で介装されている。この転動体4…及び内外輪2,3に形成された各軌道面により軸受部1Aが構成され、軸受部1Aを介して、内輪2が外輪3に対して軸回転可能に支持される。2列の転動体(玉)4…の軌道面の軸方向外側、即ち、上記軸受部1Aの軸方向両側には、上記転動体4…の転動部(軸受空間)に装填される潤滑剤(グリス)の漏出或いは外部からの汚泥等の浸入を防止するためのシールリング(ベアリングシール)5,6が、外輪3と内輪2との間に圧入装着されている。そして、車体側シールリング6に対峙するよう、磁気センサ14が外輪3又は車体(固定側部材)に設置され、この磁気センサ14と後記する磁気エンコーダ13とにより、タイヤホイールの回転速度や回転角度等を検出する回転検出装置15が構成される。
【0014】
図2は、車体側シールリング6の装着部の拡大断面図を示す。該シールリング6は、外輪(固定側部材)3の内周(内径面)に嵌合一体に装着される円筒部7a及びこの円筒部7aの一端に連設された内向鍔部7bを備える芯金部材7と、該芯金部材7に固着されたゴム等の弾性材からなるシールリップ部材8と、上記内輪部材(回転側部材)2Bの外周(外径面)に嵌合一体に装着される円筒部9a及びこの円筒部(以下、スリンガ円筒部と言う)9aの一端に連設された外向鍔部(以下、スリンガ鍔部と言う)9bを備えるスリンガ部材(金属環)9とを有する。上記シールリップ部材8は、スリンガ円筒部9aの外径面に弾性摺接する2個のシールリップ8a,8bと、スリンガ鍔部9bの軸受部1A側の面に弾性摺接する1個のシールリップ8cとを備える。上記スリンガ鍔部9bの車体側の面(反軸受部1A側の面)には、中間層11を介して環状多極磁石10が固着一体に添設されている。スリンガ9、中間層11及び環状多極磁石10により磁気エンコーダ13が構成され、これにより、図例のベアリングシール6は、パックシールタイプの磁気エンコーダ付ベアリングシールとされる。この磁気エンコーダ13はアキシャルタイプの磁気エンコーダとされ、これに対峙するよう車体側に設置される前記磁気センサ14とによりタイヤホイールの回転速度や回転角度等を検出する回転検出装置15が構成される。
【0015】
環状多極磁石10は、前記磁性粉末を混練した熱可塑性樹脂を後記するように円環状に成型したプラスチック磁石からなり、その周方向に沿ってN極及びS極の多数の磁極を交互且つ等ピッチで着磁形成したもので、着磁面が磁気センサ14側に向くよう構成される。このプラスチック磁石における磁性粉末の配合割合は、70〜95重量%とされ、合成樹脂成分は、磁性粉末を固定化するバインダーとして機能する。中間層11は、環状多極磁石10を構成するプラスチック磁石と同じ熱可塑性樹脂から構成され、後記するようにスリンガ鍔部9bの車体側面に成型一体に形成されている。図2の例では、スリンガ鍔部9bに対して接着剤層12を介し且つスリンガ鍔部9bの外周縁部に回り込むよう形成されている。接着剤層12を形成する接着剤としては、エポキシ系等の熱硬化性樹脂接着剤やゴム系接着剤、或いは熱可塑性樹脂接着剤が用いられる。
【0016】
上記のように構成された軸受ユニット1において、車輪(タイヤホイール)及び内輪2が軸受部1Aを介し外輪3に対して回転可能に支持される。この車輪及び内輪2の回転に伴い、磁気エンコーダ13が軸回転する。磁気エンコーダ13の回転に伴う環状多極磁石10のN極・S極の磁気変化が、磁気センサ14によって逐次検出され、この検出情報に基づき車輪の回転速度や回転角度等の算出がなされる。このような自動車の車輪用軸受ユニット1に組み付けられた磁気エンコーダ13においては、環状多極磁石10が塵埃や汚泥のアタック環境に晒される。しかし、この環状多極磁石10はプラスチック磁石よりなるから、ゴム磁石からなるものに比べて耐摩耗性等に優れ、耐久性が向上する。また、磁性粉末として磁力の強い希土類粉末を用いることができるから、磁気特性が向上し、信頼性の高い回転検出装置15が構成される。
【0017】
更に、上記のような使用状態にあっては、前述の通り、高低差の大きな温度環境に晒されることになり、スリンガ部材9と環状多極磁石10とに熱膨張差を生じる。しかし、両者の間には熱可塑性樹脂からなる中間層11が介在しているから、熱可塑性樹脂特有の弾性によりこの熱膨張差が吸収され、環状多極磁石10のスリンガ部材9に対する熱膨張差に基づく剥がれの発生が抑制される。しかも、環状多極磁石10及び中間層11の合成樹脂成分が同質の熱可塑性樹脂からなるから、両者の一体性が好適に保たれた状態で上記熱膨張差吸収機能が発現される。
【0018】
次に、上記磁気エンコーダ13の製造方法の一例を図3(a)(b)を参照して説明する。図3(a)において、下金型16の断面L字形キャビティ16a内に、事前に熱硬化性樹脂接着剤が塗布されこの接着剤が半乾き状態とされたスリンガ部材9を配置する。この配置状態では、スリンガ鍔部9bが水平状態とされ、この上に上金型17をセットする。この上金型17のセットにより、スリンガ鍔部9bと上金型17との間に中間層用のキャビティ17aが形成される。上記接着剤の塗布は、接着剤槽(不図示)にスリンガ部材9をディップしたり、スプレー或いは刷毛(いずれも不図示)でスリンガ鍔部9bの所定の部位に塗布することによってなされる。その後、不図示の注入口より溶融状態の中間層用熱可塑性樹脂材11Aを上記キャビティ17a内に注入充填し、中間層用熱可塑性樹脂材11Aが所定の形状に成型され、また注入された中間層用熱可塑性樹脂材11Aの保有熱(溶融熱)により熱硬化性樹脂接着剤が硬化し、スリンガ鍔部9bに強固に一体固着された熱可塑性樹脂による中間層11が形成される。
【0019】
次いで、上金型17を取外し、スリンガ部材9及びこれに固着一体とされた中間層11を下金型16のキャビティ16a内に配置した状態で、図3(b)に示すように、別に準備したプラスチック磁石成型用上金型18をこの上にセットする。この上金型18のセットにより、スリンガ鍔部9bに一体固着された中間層11と上金型18との間にプラスチック磁石用のキャビティ18aが形成される。この場合、別に準備した下金型(不図示)に中間層11を一体固着したスリンガ部材9を移し、その上に上金型18をセットするようにしても良い。そして、上記同様、不図示の注入口より、事前に磁性粉末を所定割合で配合混練して準備された溶融状態のプラスチック磁石用熱可塑性樹脂材10Aを上記キャビティ18a内に注入充填する。この注入充填後の金型16,18内で、プラスチック磁石用熱可塑性樹脂材10Aが硬化して所定の形状に成型され、中間層11に強固に一体固着されたプラスチック磁石10Bが形成される。このプラスチック磁石10Bの成型の際、溶融状態のプラスチック磁石用熱可塑性樹脂材10Aの保有熱により、一旦硬化した上記中間層11の合成樹脂成分が軟化し、注入充填されるプラスチック磁石用熱可塑性樹脂材10Aとの界面において双方の合成樹脂成分の融着により、両者が強固に固着一体とされる。
【0020】
上記成型工程の終了後、脱型し、プラスチック磁石10Bに対し、不図示の着磁装置によって、多数のN極及びS極からなる磁極をその周方向に交互且つ等ピッチで着磁形成し、図2に示すような環状多極磁石10を備えた磁気エンコーダ13を得る。この着磁の際、スリンガ部材9を着磁装置のバックヨーク側に配し、プラスチック磁石基体10Bの表面に磁界を作用させて着磁がなされるので、スリンガ部材9が磁性体製であることが必要である。また、プラスチック磁石10Bとスリンガ部材9との間に介在される中間層11は非磁性体であるから、磁束密度を低下させない限度においてその層厚が設定される。このような観点から、中間層11の層厚d(図2参照)は500μmが適正とされる。また、前述の通り、有効な熱膨張差吸収能力を発現させる為には層厚dが50μm以上であることが望ましい。
【0021】
上記のような磁気エンコーダの製造方法においては、スリンガ部材9に対する中間層11及び環状多極磁石10を構成するプラスチック磁石10Bの固着一体化が、合成樹脂の成型工程によって一連的になされるから、極めて効率的である。また、中間層11及び環状多極磁石10の合成樹脂成分が同質の熱可塑性樹脂からなるから、材料の準備調製工程が簡易となると共に、成型装置の条件設定や制御も容易となる。
【0022】
図4(a)(b)(c)は、上記磁気エンコーダの層構造の変形例を示す。図4(a)の磁気エンコーダ13Aは、スリンガ部材(金属環)9に対して中間層10が接着剤を介することなく固着一体とされている点で図2に示す磁気エンコーダ13と異なる。この例の磁気エンコーダ13Aを製造する場合に、図3(a)に示すような成型過程で中間層11を形成する際、接着剤を事前にスリンガ部材9に塗布しておかなくても、中間層用熱可塑性脂材11Aの硬化の際の合成樹脂特有の粘着性により、中間層11とスリンガ部材9とが固着一体とされる。この例の場合、図2に示す磁気エンコーダ13に比べて、中間層11とスリンガ部材9との固着強度はやや劣るが、回転速度の小さな部位の回転検出(例えば、回転角度検出等)に適用することはもとより可能である。尚、中間層11と環状多極磁石10とは、上記と同様に双方の合成樹脂成分の融着により相互に固着一体とされている。
【0023】
図4(b)に示す磁気エンコーダ13Bは、中間層11と環状多極磁石10とが接着剤層12aを介して固着一体とされている点で図4(a)に示す磁気エンコーダ13Aと異なる。この例の磁気エンコーダ13Bを製造する場合に、図3(b)に示すような成型過程でプラスチック磁石10Bを形成する際、既に形成された中間層11の表面に、事前に上記と同様の熱硬化性樹脂接着剤を塗布した状態でプラスチック磁石用熱可塑性樹脂材10Aの注入充填がなされる。この熱可塑性樹脂材10Aの硬化と共に、中間層11の表面に接着剤層12aを介して強固に固着一体とされたプラスチック磁10Bが形成され、その後の着磁によってプラスチック磁10Bが環状多極磁石10とされる。
【0024】
図4(c)に示す磁気エンコーダ13Cは、スリンガ部材9と中間層11との間に接着剤層12が、中間層11とプラスチック磁石10との間に接着剤層12aがそれぞれ介在している点で上記の各例と異なる。この例の磁気エンコーダ13Cは、スリンガ部材9、中間層11及びプラスチック磁石10が接着剤層12,12aを介して強固に固着一体とされているので、最も過酷な条件下での使用に適するものである。
【0025】
上記の磁気エンコーダ13〜13Cは、各層間の固着強度に若干の違いがあるものであり、これらは使用条件、使用環境、更にはコスト等を勘案して適宜選択採用されるものである。
【0026】
図5は、本発明の磁気エンコーダの他の実施形態を示すものである。図5に示す軸受ユニット1´は、外輪3´が回転側部材となり、自動車の従動車輪(不図示)を回転自在に支持するものである。即ち、車体の固定シャフトに内輪(いずれも不図示)を嵌合固定し、この内輪に対して転動体4´を介して外輪3´を軸回転自在に支持し、外輪3´に従動車輪用タイヤホイールを取付固定するようにしたものである。6´は、車体側の内輪及び外輪3´間に装着されるベアリングシールを示している。
【0027】
このような軸受ユニット1´においては、本発明に係る磁気エンコーダは、車体側の外輪3´の外径面に嵌合装着される。図例の磁気エンコーダ13Dは、外輪3´の外径面に嵌合される円筒部19a及びこの円筒部19aの車体側端部に連設された内向鍔部19bを備える磁性体製の芯金(金属環)19と、該芯金19の円筒部19aに合成樹脂による中間層21を介して外装固着一体とされた環状多極磁石20とよりなる。そして、車体側には、該環状多極磁石20のラジアル面に対峙するよう磁気センサ14´が設置され、この磁気センサ14´と磁気エンコーダ13Dとにより、従動輪用タイヤホイールの回転速度や回転角度等を検出する回転検出装置15´が構成される。
【0028】
環状多極磁石20は、前記と同様磁性粉末を混練した熱可塑性樹脂を円筒状に成型したプラスチック磁石からなり、その周方向に沿ってN極及びS極の磁極を交互且つ等ピッチで着磁形成したもので、着磁面が磁気センサ14´側に向くよう構成される。また、中間層21も前記と同様熱可塑性樹脂の成型体からなり、環状多極磁石20及び中間層21の合成樹脂成分は、互いに同質の熱可塑性樹脂からなる。そして、環状多極磁石20を構成するプラスチック磁石及び中間層21は、芯金19に対して図3(a)(b)に示すような一連の成型工程によって一体に形成され、その後着磁がなされてラジアルタイプの磁気エンコーダ13Dが得られる。
尚、芯金19、中間層21及び環状多極磁石20の層構造も、図2及び図4(a)(b)(c)に示すような各種変形態様が採用される。
【0029】
図5のように構成された軸受ユニット1´において、従動車輪(不図示)及び外輪3´が内輪に対して回転可能に支持される。この従動車輪及び外輪3´の回転に伴い、磁気エンコーダ13Dが軸回転する。磁気エンコーダ13の回転に伴う環状多極磁石20のN極・S極の磁気変化が、磁気センサ14´によって逐次検出され、上記同様この検出情報に基づき従動車輪の回転速度や回転角度等の算出がなされる。この場合も、環状多極磁石20が塵埃や汚泥のアタック環境に晒される。しかし、この環状多極磁石20はプラスチック磁石よりなるから、ゴム磁石からなるものに比べて耐摩耗性等に優れ、耐久性が向上する。また、磁性粉末として磁力の強い希土類粉末を用いることができるから、磁気特性が向上し、信頼性の高い回転検出装置15´が構成される。そして、この場合も高低差の大きな温度環境に晒される為、環状多極磁石20と芯金19との間に熱膨張差が生じるが、両者の間には熱可塑性樹脂からなる中間層21が介在しているから、熱可塑性樹脂特有の弾性によりこの熱膨張差が吸収され、環状多極磁石20の芯金19に対する熱膨張差に基づく剥がれの発生が抑制される。しかも、環状多極磁石20及び中間層21の合成樹脂成分が同質の熱可塑性樹脂からなるから、上記同様両者の一体性が好適に保たれた状態で上記熱膨張差吸収機能が発現される。
【0030】
尚、図2に示す実施形態では、本発明に係る磁気エンコーダ13がベアリングシール(パックシール)6の一部を構成するものとしたが、これに限定されず、例えば、ベアリングシール6とは別に内輪2に装着されるものであっても良い。また、図2の例では軸受ユニット1が、回転側の内輪2と固定側の外輪3とにより構成される例について述べたが、内輪側が直接回転駆動軸に形成される場合にも本発明を適用することができる。更に、図5に示す磁気エンコーダ13Dは、回転側部材となる外輪3´の外径面に嵌合装着されラジアルタイプの磁気エンコーダを構成するものとしたが、外輪3´の車体側端面に装着し、或いはベアリングシール6´の一部を構成するものとして組付け、アキシャルタイプのものとして構成することも可能である。また、上記各実施形態では、自動車の車輪を支持する軸受ユニットに適用した例について述べたが、他の回転検出が求められる軸受ユニットやその他の産業機械等の回転部分にも本発明の磁気エンコーダを適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態の磁気エンコーダが組み付けられた軸受ユニットの一例を示す縦断面図である。
【図2】図1におけるX部の拡大図及びその部分拡大図である。
【図3】(a)(b)は同磁気エンコーダの製造要領を概念的に示す断面図である。
【図4】(a)(b)(c)は同磁気エンコーダの変形例であって図2の部分拡大図に対応する図である。
【図5】他の実施形態の磁気エンコーダが組み付けられた軸受ユニットの要部の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
2 内輪(回転側部材)
3 外輪(固定側部材)
3´ 外輪(回転側部材)
9 スリンガ部材(金属環)
10 環状多極磁石
10B プラスチック磁石
11 中間層
12 接着剤層
12a 接着剤層
13,13A〜13B 磁気エンコーダ
19 芯金(金属環)
20 環状多極磁石
21 中間層
d 層厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側部材に嵌合される金属環と、該金属環に固着一体とされた環状多極磁石とよりなる磁気エンコーダであって、
上記環状多極磁石は、合成樹脂に磁性粉末を混入させて環状に成型したプラスチック磁石からなり、該環状プラスチック磁石の周方向に多数のN極及びS極を交互に着磁形成させたものとされ、
上記環状多極磁石と上記金属環との間には合成樹脂による中間層が介在され、環状多極磁石及び中間層の合成樹脂成分は、互いに同質の熱可塑性樹脂からなることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気エンコーダにおいて、
前記中間層の層厚が、50〜500μmであることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の磁気エンコーダにおいて、
前記環状多極磁石と、前記中間層とは、両合成樹脂成分の融着により相互に固着一体とされていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の磁気エンコーダにおいて、
前記環状多極磁石と、前記中間層とは、接着剤層を介して相互に固着一体とされていることを特徴とする磁気エンコーダ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の磁気エンコーダにおいて、
前記中間層は、接着剤層を介して前記金属環に固着一体とされていることを特徴とする磁気エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−25088(P2009−25088A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−187010(P2007−187010)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【Fターム(参考)】