説明

磁気センサ素子およびそれを用いた電子方位計と磁界検出方法

【課題】本発明は、小型化しても、出力電圧波形を高出力・高SN比で得ることができ、外部磁界を高い感度で検出することができる磁気センサ素子およびこれを用いた電子方位計と磁界検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の磁気センサ素子1は、スパイラル状の導体薄膜からなるピックアップコイル6と、該ピックアップコイル6の各同相磁界発生部27A、30Aと重なるように設けられ、該同相磁界発生部27A、30Aの各順方向ライン27、30と交差する通電部9を有する磁気コア3と、ピックアップコイル6と磁気コア3とを絶縁する絶縁層5とを有し、磁気コア3の通電部9に、時間的に変化する電流を、順方向ライン27、30の延在方向と略平行方向(幅方向)に通電して通電部9を励磁し、磁気コア3内の磁束変化によってピックアップコイル6で生じる誘導電圧を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地磁気等の外部磁界を検出する磁気センサ素子およびそれを用いた電子方位計と磁界検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPND(Portable Navigation Device)などのモバイル機器において、地磁気を検出する小型、高感度な磁気センサを、3軸方向に組み込んだ3軸電子方位計に対する要求が高まっている。
従来、高感度磁気センサとして、平行フラックスゲートセンサや直交フラックスゲートセンサのようなフラックスゲートセンサなどが用いられている。
フラックスゲートセンサは、少なくとも磁気コアと、磁気コアの励磁によって誘導電圧を発生するピックアップコイルとを有しており、磁気コアは周期的に飽和するように励磁される。
このフラックスゲートセンサは、外部磁界の中に置かれた状態で、磁気コアを励磁すると、ピックアップコイルから外部磁界に影響を受けた電圧波形が観測される。この電圧波形の振幅は外部磁界の強さに対応し、ピックアップコイルに出力される誘導電圧を計測することによって外部磁界の強さを検出することができる。
【0003】
フラックスゲートセンサのうち、平行フラックスゲートセンサは、磁気コアおよびピックアップコイルの他に、磁気コアを励磁するための励磁コイルを有している。このような平行フラックスゲートセンサでは、励磁コイルに例えば交流電流を通電することにより、励磁コイルに電流の変化に対応して磁束が発生し、この磁束によって磁気コアが周期的に飽和する。
この平行フラックスゲートセンサは、このように磁気コアと、励磁コイルおよびピックアップコイルの2つのコイルを有することから構造が複雑になる。また、平行フラックスゲートセンサは、磁気コアを励磁する際に反磁界の影響を受けることから励磁効率が低くなる。このため、反磁界による励磁効率の低下を補うべく素子サイズを大きくする必要があり、小型化が難しい。
【0004】
反磁界の影響を低減する手法としては、リング状の磁気コアや、H型の磁気コアを用いることが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、これらを用いる場合においても、励磁コイルとピックアップコイルの2つのコイルは必要であり、構造が複雑になることは避けられない。
また、平行フラックスゲートセンサでは、前述のように、磁気コアの上下にそれぞれコイルの巻線を巻回す必要がある。このため、素子の小型化を図るためには、各コイルの巻数を制限しなければならないが、そうすると、十分な励磁効率および誘導電圧が確保できないといった問題が生じてしまう。
また、このように磁気コアの周りに巻回された励磁コイルは、励磁周波数を高くするとインダクタンスが増大することから、励磁周波数を高くすることに制限がある。このため、平行フラックスゲートセンサは応答速度が遅いといった問題もある。
【0005】
一方、直交フラックスゲートセンサや、表皮効果によるインピーダンス変化を利用した磁気インピーダンス型磁気センサ(MIセンサ)は、磁気コアに直接励磁電流を通電し、磁気コアの周回方向に励振することにより磁化の回転に比例した電圧を検出する。このため、磁気コアの励振に際して反磁界の影響を受けにくく、素子長を短くできる特徴を有し、薄膜プロセスで作製することにより小型化、集積化が可能となる。(例えば、特許文献3、非特許文献1、2参照。)また、これらのセンサは、磁気コアに直接通電する構造のため、励磁周波数の高周波化が可能であり、応答速度を速くできるといった利点を有していることから、交流磁界の検出に適している特徴を有する。
【0006】
ところで、このように直交フラックスゲートセンサは、平行フラックスゲートセンサに比べて利点を有するが、いずれのセンサにおいても次のような問題がある。
すなわち、これらのセンサでは、磁気コアのヒステリシス特性に起因して、センサ出力にも僅かではあるがヒステリシスが生じ、そのままではリニアリティが悪いため、これを補正するための負帰還回路を構成する必要があり、検出回路が複雑になるといった問題がある。
そこで、フラックスゲートセンサについて、ヒステリシスの影響を回避した磁界検出方法として以下のような方法が開示されている(例えば、特許文献4、5、非特許文献3、4参照)。
【0007】
これらに開示の磁界検出方法では、励磁コイルに三角波電流を供給し、磁気コア内の磁束が反転する際に発生するスパイク状電圧波形の発生する時間間隔をカウンタにより計測する方法が提案されている。
このスパイク状電圧波形は、センサが置かれた環境の外部磁界の有無や強さによって時間軸上をシフトするため、それが検出される時間間隔を用いることにより、下記式(1)〜(3)に基づいて外部磁界を検出することができる。
なお、下記式(1)〜(3)において、後述する図5(a)に示す如く極性反転型の周期Tの三角波形電流を供給し、図5(b)に示す如く軟磁性コアの磁化状態が変化し、図5(c)に示す如くスパイク状電圧波形が得られる場合、
は、正の誘導電圧が発生する時間を示し、tは、負の誘導電圧が発生する時間を示し、Hexcは、励磁磁界(励磁コイルにて発生する磁界)を示し、Hcは、磁気コアの保磁力を示し、Hextは、外部磁界を示し、Tdは遅延時間を示す。
【0008】
【数1】

【0009】
【数2】

【0010】
【数3】

【0011】
上述の磁界検出方法によると、磁気センサからの出力がタイムドメインとして出力される。そして、式(3)に示すように、磁気センサを構成する磁気コアの保磁力に起因するヒステリシスの影響を取り除くことができるうえに、カウンタを用いたデジタル検出が可能であり、AD変換時の誤差を取り除くことができるため、リニアリティの良好なセンサを構成することができる。しかし、この磁界検出方法は平行フラックスゲートセンサについてしか適用できないため、上述の理由により、小型化が難しいという問題があった。
【0012】
また、従来の携帯端末に用いられる電子コンパスにおいては、デバイスの軽薄短小化のニーズから、3軸磁気センサを有するモジュールで厚さ1mm以下のサイズが求められている。
ここで、上述のようなフラックスゲートセンサやMIセンサによって、搭載基板に対して垂直な磁界を検出するためには、センサ素子を基板に対して垂直方向となるように実装する必要があり、このことを考慮すると、センサ素子の感磁方向のサイズは0.5mm程度であることが望ましい。
しかしながら、センサ素子を0.5mm程度にまで小型化した場合、磁気コアの反磁界の影響が大きくなることに加え、周囲に巻回せるコイルの巻き数が制限される。このことが、感度の低下およびSN比の低下を招き、電子コンパスとして必要なセンサ特性を実現することが困難であった。
【0013】
このことから、これまでの電子コンパスにおいては、搭載基板に対して垂直な磁界を検出するための磁気センサは、他の2軸の磁界を検出するための磁気センサとは、磁気コアの形状や特性が異なるように構成されており、両者の感度の違いを考慮した補正が必要となる。このため、方位算出のプロセスが煩雑になるといった問題があった。
【0014】
そこで、小型化および集積化を図るため、磁気コアやコイルを薄膜プロセスによって形成したものが提案されている(例えば、特許文献6〜8参照。)。
しかし、これらの磁気センサも、磁気コアの長さをある程度短くすると、感度やSN比の低下が招来され、センサとしての特性を十分に確保しつつ磁気コアの長さを0.5mm程度に抑えるのは難しい問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特許第2730467号
【特許文献2】特開2006−234615号公報
【特許文献3】特許3645116号
【特許文献4】特開2007−78422号公報
【特許文献5】特開2007−78423号公報
【特許文献6】特開2001−194181号公報
【特許文献7】特開2003−163391号公報
【特許文献8】特開2006−234615号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】電気学会論文誌,93−C,27(19793)
【非特許文献2】日本応用磁気学会誌.25,pp.955−958(2001)
【非特許文献3】M.Lassahn,G.Trenkler,IEEE Transaction on Instrumentation and Measurement,Vol.42,No.2,pp.635−639,1993
【非特許文献4】Pavel Ripka,“Magnetic Sensors and Magnetometers”Artech House,pp.94−95
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、小型化しても、出力電圧波形を高出力・高SN比で得ることができ、外部磁界を高い感度で検出することができる磁気センサ素子、これを用いた電子方位計および磁界検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を有する。
本発明に係る第1の発明の磁気センサ素子は、軟磁性薄膜からなる1つ以上の帯状の通電部を備えた磁気コアと、渦巻き状に巻回された導体薄膜からなるスパイラル状の2つのコイル部が電流の方向を逆向きになるように電気的に接続されて構成され、前記磁気コアの上方または下方に配置されて前記磁気コアの磁束変化による誘導電圧を出力するためのピックアップコイルと、前記磁気コアと前記スパイラルコイル部を絶縁する絶縁層とが少なくとも備えられた磁気センサであって、前記磁気コアがその通電部を前記2つのスパイラルコイル部の中心を結んだ直線と平行になるように配置され、前記磁気コアにおける前記スパイラルコイル部の同相磁界発生部と重なり合う領域に、前記スパイラルコイル部の配線と略平行方向に時間的に変化する電流を通電して前記磁気コアの通電部を励磁するための通電用電極が形成されてなることを特徴とする。
本発明に係る第2の発明の磁気センサ素子は、前記磁気コアが、前記スパイラルコイル部の同相磁界発生部から逆相磁界発生部と重なる領域まで延在されていることを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第3の発明の磁気センサ素子は、前記磁気コアが、前記逆相磁界発生部と重なるように設けられた幅広の集磁部を前記通電部の両端部に連続して形成されていることを特徴とする。
本発明に係る第4の発明の磁気センサ素子は、前記磁気コアが、並列する複数の帯状軟磁性薄膜からなることを特徴とする。
本発明に係る第5の発明の磁気センサ素子は、前記磁気コアが、軟磁性薄膜と導体膜の積層構造とされてなることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第6の発明の電子方位計は、先のいずれかに記載の磁気センサ素子を備えることを特徴とする。
本発明に係る第7の発明の電子方位計は、前記通電部の長手方向が、それぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向となるように配された3個の前記磁気センサ素子を有し、前記各磁気センサ素子は、少なくとも前記ピックアップコイルおよび前記磁気コアの構成が実質的に同一であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る磁界検出方法は、先の第1から第5の発明のいずれかに記載の磁気センサ素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記磁気センサ素子の前記通電部に対し前記ピックアップコイルの同相磁界発生部と重なり合う領域に、前記スパイラルコイル部の配線と略平行方向に時間的に極性が変化する電流を通電し、前記時間的に極性が変化した電流に起因して生じる前記磁気コア内の磁束の変化に伴ってピックアップコイルに生じる誘導出力を検出し、この誘導出力の時間間隔に基づいて外部磁界の強度を算出する工程とを有することを特徴とする。
【0022】
本発明に係る磁界検出方法は、先の第1〜第5の発明のいずれかに記載の磁気センサ素子の前記通電部に対し三角波電流を通電し、この三角波電流の極性が切り替わるタイミングで前記ピックアップコイルから出力される正符号および負符号の各スパイク状電圧波形をそれぞれ検出する工程と、
一のスパイク状電圧波形と次に検出される逆符号のスパイク状電圧波形との時間間隔を計測し、この時間間隔に基づいて外部磁界の強度を算出する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、励磁コイルを用いずに、磁気コアの通電部に直接電流を通電することによって、通電部を長手方向に励磁するため、次のような効果を得ることができる。 磁気コアに励磁コイルを巻回すプロセスを省略でき、構造を単純にすることができる。
励磁コイルを巻回すのに必要な領域を省略できるため、その分ピックアップコイルを多く巻回すことができる。その結果、出力を大きくとることができるため、SN比を向上させることができる。
磁気コアを励磁コイルによって励磁する場合、磁気コアの長さを短くすると、反磁界の影響が大きくなって励磁効率が低下するため、大電流による通電が必要となる。これに対して、磁気コアに直接電流を通電することによって励磁すると、励磁の際に反磁界の影響を小さくすることができる。このため、小さい電流で動作させることができ、低消費電力化が可能となる。
また、励磁の際に反磁界の影響が小さいため、センサ素子の小型化が可能であり、小型、薄型の電子方位計の構成が可能である。
【0024】
また、本発明では、ピックアップコイルとして導体薄膜よりなるスパイラルコイルを用い、磁気コアの通電部近傍にスパイラルコイルの同相磁界発生部を配しているため、次のような効果を得ることができる。
逆相磁界発生部における磁束変化の影響を取り除くことができ、SN比の向上が可能である。
逆相磁界発生部に配した軟磁性薄膜の領域を集磁構造として用いることが可能となるため、感度の向上が可能である。
【0025】
以上の理由から、感度、出力およびSN比を十分に確保しつつ、磁気センサ素子の小型化が可能である。
このため、3個の磁気センサ素子が、それぞれ、その通電部の長手方向がX軸方向、Y軸方向、Z軸方向となるように配することによって3軸電子方位計を構成する場合に、すべての磁気センサ素子についてピックアップコイルおよび磁気コアの構成を実質的に同一としても、3軸電子方位計を十分に小型なものとすることができる。また、3個の磁気センサ素子のピックアップコイルおよび磁気コアの構成を実質的に同一とすることにより、方位計算をする上で、磁気センサ素子間の感度の違いを補正する必要がなくなり、方位を算出するためのプロセスを簡易化することができる。
【0026】
また、本発明では、通電部の励磁によって生じる磁束の方向を、平行フラックスゲートセンサと同様に通電部の長手方向とすることができる。このため、通電部に三角波電流を通電した場合には、この三角波電流の極性が切り替わるタイミングで出力されるスパイク状電圧波形を検出し、このスパイク状電圧波形の発生する時間間隔をカウンタにて計測することにより、この時間間隔に基づいて外部磁界強度を算出することができる。
このような磁界の検出方法では、外部磁界強度の算出過程でヒステリシスの影響を取り除くことができるとともに、カウンタを用いたデジタル検出が可能であるため、AD変換時の誤差の影響を取り除くことができる。このため、検出値のリニアリティが良く、外部磁界強度を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の磁気センサ素子の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1に示す磁気センサ素子を図1中に記載のa−a’線で切断した縦断面図である。
【図3】図1に示す磁気センサ素子を図1中に記載のb−b’線で切断した縦断面図である。
【図4】図1に示す磁気センサが備える磁気コア部分を示す平面図である。
【図5】本発明に係る磁界検出方法を説明するための図であって、図5(a)は印加する三角波電流の一例を示すグラフ、図5(b)は磁気コアにおける磁化状態の変化を示すグラフ、図5(c)は得られるスパイク状電圧波形を示すグラフ、図5(d)は磁気ヒステリシスカーブを示すグラフである。
【図6】第1実施形態の磁気センサ素子に適用される磁気コアの他の例を示す模式的な平面図である。
【図7】本発明の磁気センサ素子の第2実施形態を示す平面図である。
【図8】図7に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図である。
【図9】本発明の磁気センサ素子の第3実施形態を示す平面図である。
【図10】図9に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図である。
【図11】第3実施形態の磁気センサ素子に適用される磁気コアの他の例を示す模式的な平面図である。
【図12】本発明の第4実施形態の磁気センサ素子を示す平面図である。
【図13】図12に示す磁気センサ素子を図12中に示すc−c’線で切断した縦断面図である。
【図14】図12に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図である。
【図15】本発明の第5実施形態の磁気センサ素子を示す縦断面図である。
【図16】本発明に係る電子方位計の一実施形態を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<<磁気センサ素子>>
<第1実施形態>
まず、本発明の磁気センサ素子の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の磁気センサ素子の第1実施形態を示す平面図、図2は、図1に示す磁気センサ素子を図1中に示すa−a’線で切断した縦断面図、図3は、図1に示す磁気センサ素子を図1中に示すb−b’線で切断した縦断面図、図4は、図1に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図、図5は、本発明の磁気センサ素子の動作を説明するための図、図6は、第1実施形態の磁気センサ素子に適用される磁気コアの他の例を示す模式的な平面図である。
【0029】
図1〜3に示す磁気センサ素子1は、非磁性基板2と、該非磁性基板2上に設けられた磁気コア3および導体層4と、これら各部の上に絶縁層5を介し設けられたピックアップコイル6とを有しており、ピックアップコイル6は第1コイル部7と第2コイル部8とで構成されている。第1コイル部7と第2コイル部8は、図1に示す如く巻き方向(電流の流れる方向)が平面視逆向きでこれらは電気的に直列になるように接続され、非磁性基板2の上面中央側に平面視上下に隣接配置されている。
【0030】
非磁性基板2は、磁気センサ素子1を構成する各部を支持するものである。
非磁性基板2としては、例えばシリコン(Si)、ガラス、セラミックス等の非磁性体よりなる基板が挙げられる。
磁気コア3は、図4に拡大して示す如く平面視帯状をなす通電部9と、通電部9の両端部に設けられた一対の集磁部10、10とを有し、全体が軟磁性薄膜によって構成されている。
軟磁性薄膜としては、一軸異方性を付与できるものであれば特に限定されないが、アモルファス組成のCo85Nb12Zr膜、FeNi合金膜、FeSiAl合金膜、CoFeSiB合金膜などの軟磁性薄膜等を用いることができる。
【0031】
前記通電部9には、後述する第1通電用電極15および第2通電用電極18を介して幅方向(後述する順方向ライン27および30に対して略平行方向)に三角波電流(時間的に変化する電流)が供給される。これにより、通電部9は、その長手方向に励磁される。そして、外部磁界の中に置かれた状態では、通電部9に外部磁界の磁束が引き込まれ、励磁によって生じる磁束に重畳されるようになっている。
【0032】
一対の集磁部10、10は、互いに略同じ形状とされ、それぞれ、通電部9よりも幅広とされている。各集磁部10、10は、帯状の通電部9の長手方向両端部に対し接続し、通電部9とともに全体としてI字型になるように非磁性基板2の上面中央側に形成されている。
また、本実施形態の磁気センサ素子1において、磁気コア3は、2つのスパイラルコイル部7、8の渦巻き中心間より外側の逆相磁界発生部28A、31Aに平面視重なるように集磁部10、10を配置し、2つのスパイラルコイル部7、8の渦巻き中心を結ぶ直線に平行になるように通電部9を配置するように非磁性基板2上に形成されている。
各集磁部10は通電部9よりも幅が広くなったパターンとして形成されるが、この幅が広がった形状とは、図4に示す如く通電部9と集磁部10との境界部分またはその近傍において、これらを構成する軟磁性薄膜の幅がテーパを有して徐々に広がっている形状や段階的(ステップ状)に広がっている形状を問わない。なお、一方の集磁部10と他方の集磁部10はそれらの平面形状が違っていても差し支えなく、非対称であっても対称形状であっても良い。
【0033】
一対の集磁部10、10は、通電部9とともに外部磁界を引き込むように作用し、これにより通電部9により多くの磁束を引き込むことができる。また、磁気コア3に励磁の際に生じる反磁界の影響を低減することができる。その結果、磁気センサ素子1の感度を高めることができる作用を奏する。
【0034】
導体層4は、非磁性基板2のコーナー部に設けられた第1通電用導体部11および第2通電用導体部12と、第1出力用導体部13および第2出力用導体部14とを有する。
第1通電用導体部11は、その一部が通電部9の長手方向に沿う一方の辺縁部(図1の左側の辺縁部)と重なるように設けられた第1通電用電極15と、外部の交流電源に接続される第1通電用電極パッド16と、第1通電用電極15と第1通電用電極パッド16とを接続する第1通電用配線17とによって構成されている。
【0035】
また、第2通電用導体部12は、その一部が通電部9の長手方向に沿う他方の辺縁部(図1の右側の辺縁部)と重なるように設けられた第2通電用電極18と、外部の交流電源に接続される第2通電用電極パッド19と、第2通電用電極18と第2通電用電極パッド19とを接続する第2通電用配線20とによって構成されている。非磁性基板2上において、図1に示す如く平面視した場合に第2通電用導体部12は、第1通電用導体部11に対して略点対称位置に形成されている。
【0036】
第1通電用電極パッド16および第2通電用電極パッド19に接続された交流電源から交流が供給されると、第1通電用電極パッド16からの電流は、第1通電用配線17および第1通電用電極15を介して通電部9に供給され、通電部9の幅方向を左から右に向かって流れる。また、第2通電用電極パッド19からの電流は、第2通電用配線20および第2通電用電極18を介して通電部9に供給され、通電部9の幅方向を右から左に向かって流れる。このように互いに逆向きの電流が交互に流れることにより、通電部9が、その長手方向に励磁される。
【0037】
一方、第1出力用導体部13は、ピックアップコイル6の第1コイル部7の中心側の出力端7aに電気的に接続された第1出力用電極21と、外部の検出回路に接続される第1出力用電極パッド22と、前記第1出力用電極21と第1出力用電極パッド22とを接続する第1出力用配線23によって構成されており、第1通電用導体部11に隣り合うように形成されている。
【0038】
また、第2出力用導体部14は、ピックアップコイル6の第2コイル部8の中心側の出力端8aに接続された第2出力用電極24と、外部の検出回路に接続される第2出力用電極パッド25と、前記第2出力用電極24と第2出力用電極パッド25とを接続する第2出力用配線26によって構成されており、非磁性基板2上において第1出力用導体部13に対して略点対称位置に配置されている。
第1コイル部7および第2コイル部8で生じた誘導電圧は、第1出力用電極21と第2出力用電極24との間の出力電圧として検出回路で検出される。
【0039】
絶縁層5は、磁気コア3および導体層4と、ピックアップコイル6とを絶縁するように非磁性基板2上に形成されている。
絶縁層5は、非磁性基板2、磁気コア3および導体層4の上に全面的に設けられ、各出力用電極21、24に対応する位置にスルーホールが設けられている。スルーホール内には上下導通用の導体が充填され、これにより、各出力用電極21、24と第1コイル部7および第2コイル部8の各出力端7a、8aとが電気的に接続されている。
絶縁層5を構成する材料は、感光性ポリイミドなどの絶縁性樹脂の他、SiOやAl等の金属酸化物、SiやAlN等の金属窒化物などを例示することができる。
【0040】
ピックアップコイル6を構成する第1コイル部7および第2コイル部8について説明すると、それぞれ、スパイラル状のパターンで形成された導体薄膜によって構成されており、より具体的に、各コイル部7、8は、中心から外側に反時計回りに延在された配線(導体薄膜)によって構成され、ピックアップコイル6全体で略8の字状をなすように、各コイル部7、8の最外周の配線同士が連続されている。このピックアップコイル6では、各コイル部7、8の中心側の端部が該ピックアップコイル6で生じた誘導電圧を出力する出力端7a、8aを構成する。なお、各コイル部7、8は、中心から外側に時計回りに延在された配線によって構成されていても良い。
【0041】
ここで、第1コイル部7の配線は、通電部9の幅方向と略平行となるように並列した複数の順方向ライン27よりなる順方向ライン群(同相磁界発生部)27Aと、順方向ライン群27Aと離間して配され、通電部9の幅方向と略平行となるように並列した複数の逆方向ライン28よりなる逆方向ライン群(逆相磁界発生部)28Aとを有し、順方向ライン群27Aが逆方向ライン群28Aよりも第2コイル部8側となるように配されている。
また、第2コイル部8の配線も、同様に、複数の順方向ライン30よりなる順方向ライン群(同相磁界発生部)30A、複数の逆方向ライン31よりなる逆方向ライン群(逆相磁界発生部)31Aとを有し、順方向ライン群30Aが逆方向ライン群31Aよりも第1コイル部7側となるように配されている。
【0042】
そして、各コイル部7、8において、各順方向ライン27、30は通電部9を幅方向に横切るように該通電部9と重なっており、各逆方向ライン28、31は図1に示す如く平面視集磁部10、10と重なっている。
なお、本発明において、第1コイル部7と第2コイル部8の同相磁界発生部とは、第1コイル部7と第2コイル部8のそれぞれの中心部の間の領域、すなわち、第1コイル部7の中心部と、第2コイル部8の中心部との間の領域である。これに対して、第1コイル部7と第2コイル部8のそれぞれの中心部から、非磁性基板2の外側よりの領域、例えば図1において、第1コイル部7の中心部より上側の領域および第2コイル部8の中心部より下側の領域は、逆相磁界発生部とされる。
【0043】
前記構造の通電部9の寸法は、特に限定されるものではないが、後述する電子方位計としての機器の小型化のために、通電部9と集磁部10、10を合わせた長手方向の長さを0.5mmとすることを想定すると、一例として、通電部9の長さを250μm程度、幅を30μm程度、集磁部10の幅と長さを125μm程度とすることができる。
【0044】
次に、前記構成の磁気センサ素子1の動作および外部磁界の検出方法(磁界検出方法)について説明する。なお、ここでは、通電部9に対して三角波電流を通電する場合を例にして説明する。
まず、各通電用電極パッド16、19に接続された交流電源をONにする。
ここで、交流電源が供給する電流パターンの一例を図5(a)に示す。
交流電源から供給された三角波電流は、各通電用電極15、18を介して通電部9に供給され、通電部9の幅方向に沿って流れる。これにより、通電部9が励磁され、図5(d)に示すように、その長手方向にB−Hカーブに沿った磁束が生じる。この通電部9における磁化状態(磁束密度)の経時変化を図5(b)に示す。図5(b)に示すように、通電部9には、長手方向の磁束が向きを変えて交互に生じる。
ここで、図5(b)中の実線は、磁気センサ素子1を外部磁界が実質的に存在しない環境に置いた場合の磁気コアの磁化状態の経時変化、図5(b)中の二点鎖線は、磁気センサ素子1を正方向の外部磁界中に置いた場合の磁気コアの磁化状態の経時変化、図5(b)中の点線は、磁気センサ素子1を負方向の外部磁界中に置いた場合の磁気コアの磁化状態の経時変化である。
通電部9に生じた磁束はピックアップコイル6の各順方向ライン27、30と交差し、各順方向ライン群(同相磁界発生部)27A、30Aに誘導電圧(誘導電流)を発生させる。そして、ピックアップコイル6に発生した誘導電圧は、ピックアップコイル6の各出力端7a、8aから出力電圧として検出される。
このとき、図5(c)に示すように、各出力端7a、8aから検出される出力電圧波形には、通電部9に生じる磁束の向きが正方向から負方向に反転するタイミングと、負方向から正方向に反転するタイミングとで、互いに逆向きのスパイク状の電圧波形(スパイク波)が検出される。
【0045】
ここで、図5(c)中の実線は、磁気センサ素子1を外部磁界が実質的に存在しない環境に置いた場合の出力電圧波形、図5(c)中の二点鎖線は、磁気センサ素子1を正方向の外部磁界中に置いた場合の出力電圧波形、図5(c)中の点線は、磁気センサ素子1を負方向の外部磁界中に置いた場合の出力電圧波形である。このように外部磁界中では、外部磁界が実質的に存在しない場合に比べてスパイク状の電圧波形の位置が、外部磁界の向きおよび強さに応じて右側または左側にシフトする。
この出力電圧波形において、一のスパイク状電圧波形と次に検出される逆符号のスパイク状電圧波形との時間間隔を計測し、この時間間隔に基づいて先に説明した(1)式〜(3)式に従い、所定の演算を行うことにより、外部磁界強度を算出することができる。
以上の工程により、磁気センサ素子1の周囲の外部磁界を検出することができる。
【0046】
このように構成された磁気センサ素子1は、従来必要であった励磁コイルを用いずに、磁気コア3の通電部9に直接電流を通電することによって、通電部9を長手方向に励磁する構成のため、次のような効果を得ることができる。
(1)磁気コア3に励磁コイルを巻回すプロセスを省略でき、構造を単純にすることができる。
(2)励磁コイルを巻回すのに必要な領域を省略できるため、その分ピックアップコイル6を多く巻回すことができる。その結果、出力を大きくとることができるため、SN比を向上させることができる。
(3)磁気コア3を励磁コイルによって励磁する場合、磁気コア3の長さを短くすると、反磁界の影響が大きくなって励磁効率が低下するため、大電流による通電が必要となる。これに対して、磁気コア3に直接電流を通電することによって励磁すると、励磁の際に反磁界の影響を小さくすることができる。このため、小さい電流で動作させることができ、低消費電力化が可能となる。
(4)また、励磁の際に反磁界の影響が小さいため、センサ素子の小型化が可能であり、小型、薄型の電子方位計の構成が可能である。
【0047】
また、本実施形態の磁気センサ素子1では、ピックアップコイル6としてスパイラル状コイルを用い、磁気コア3の通電部9近傍にスパイラル状コイルの同相磁界発生部27A、30Aを配しているため、次のような効果を得ることができる。
(A)逆相磁界発生部28A、31Aにおける磁束変化の影響を取り除くことができ、SN比の向上が可能である。
(B)逆相磁界発生部28A、31Aに配した軟磁性薄膜の領域を集磁構造として用いることが可能となるため、感度の向上が可能である。
以上の理由から、感度、出力およびSN比を十分に確保しつつ、磁気センサ素子1の小型化が可能である。
【0048】
また、この磁気センサ素子1では、通電部9の励磁によって生じる磁束の方向が、平行フラックスゲートセンサと同様に通電部9の長手方向であるため、前述のように通電部9に三角波電流を通電した場合には、この三角波電流の極性が切り替わるタイミングで出力されるスパイク状電圧波形を検出し、このスパイク状電圧波形の発生する時間間隔をカウンタにて計測することにより、この時間間隔に基づいて外部磁界強度を算出することができる。このような磁界の検出方法では、外部磁界強度の算出過程でヒステリシスの影響を取り除くことができるとともに、カウンタを用いたデジタル検出が可能であるため、AD変換時の誤差の影響を取り除くことができる。このため、検出値のリニアリティが良く、外部磁界強度を精度よく検出することができる。
【0049】
なお、第1実施形態の磁気センサ素子1において、各部の形状は前述のものに限るものではない。例えば、図6に示すように、集磁部10Aが、環状をなし、第1コイル部7の逆相磁界発生部28Aおよび第2コイル部の逆相磁界発生部31Aの双方と重なるように配設された磁気コア3Aとしてもよい。この場合、通電部9は、その各端部が集磁部10Aの内周側に連結される。この構造の場合においても、前述と同様の作用・効果が得られる。
【0050】
次に、磁気センサ素子の製造方法の一例について、図1に示す磁気センサ素子を製造する場合を例にして説明する。
まず、非磁性基板2上に、磁気コア3の平面形状に対応した開口部を有するレジストフレームを形成する。
次に、レジストフレームが形成された非磁性基板2上に、スパッタ法により、アモルファス組成のCoNbZr合金などの薄膜を成膜した後、レジストフレームをリフトオフする。これにより、磁気コア3を形成する。
【0051】
続いて、非磁性基板2および磁気コア3を覆うように、Ti、Cr、TiW等のバリアメタルを介してCuの膜を成膜する。このCuの膜は、後工程で行う電解めっきのためのシード層となるものである。
次に、Cuの膜上に、導体層4の平面形状に対応した開口部を有するレジストフレームを形成する。そして、Cuの膜をシード層として電解めっき法により導体膜を形成し、レジストフレームを剥離する。これにより、導体層4の平面形状をなすめっき膜が形成する。続いて、めっき膜の周囲のCuの膜を、エッチングにより除去する。以上の工程により、導体層4を形成する。
【0052】
次に、非磁性基板2、磁気コア3および導体層4を覆うように感光性ポリイミド樹脂の前駆体を塗布し、露光、現像を施すことによって所定のパターンで硬化させた後、窒素雰囲気中にて熱処理する。これにより、所定のパターンのポリイミドの絶縁層5を得ることができる。
続いて、絶縁層5の上に、Ti、Cr、TiW等のバリアメタルを介してCu膜を成膜する。このCu膜は、後工程で行う電解めっきのためのシード層となるものである。
【0053】
次に、Cuの膜上に、ピックアップコイル6の平面形状に対応した開口部を有するレジストフレームを形成する。そして、Cuの膜をシード層として電解めっき法により導体膜を形成し、レジストフレームを剥離する。これにより、ピックアップコイル6の平面形状をなすめっき膜が形成される。続いて、めっき膜の周囲のCu膜を、エッチングによって除去することでピックアップコイル6を得ることができる。
以上の工程により、磁気センサ素子1を得ることができる。
【0054】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る磁気センサ素子の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態において、前記第1実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図7は、本発明の磁気センサ素子の第2実施形態を示す平面図、図8は、図7に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図である。
図7に示す磁気センサ素子1Bは、磁気コアおよび導体層の平面形状が異なる以外は、前記第1実施形態の磁気センサ素子1と同様の構造である。
【0055】
図7、8に示すように、この磁気センサ素子1Bにおいて、磁気コア3Bは、複数本(本実施形態では4本)の帯状の軟磁性薄膜33、34、35、36がストライプ状に並列したパターンを有し、各軟磁性薄膜33、34、35、36の長手方向がピックアップコイル6Bの各順方向ライン27、30および各逆方向ライン28、31の各延在方向と直交するように、ピックアップコイル6Bと重なって設けられている。なお、以下の説明では、各軟磁性薄膜33、34、35、36を、左側から順に「第1軟磁性薄膜33〜第4軟磁性薄膜36」と称する。
【0056】
導体層4は、通電用導体部37と、第1出力用導体部13および第2出力用導体部14とを有する。
通電用導体部37は、第1軟磁性薄膜33の第2軟磁性薄膜34側と反対側の辺縁部(図8の左側辺縁部)に接続された第1通電用電極38と、第4軟磁性薄膜36の第3軟磁性薄膜35側と反対側の辺縁部(図8の右側辺縁部)に接続された第2通電用電極39と、隣り合う軟磁性薄膜33、34、35、36同士をそれぞれ接続する複数の接続部40と、外部の交流電源に接続される第1通電用電極パッド41および第2通電用電極パッド42と、第1通電用電極38と第1通電用電極パッド41とを接続する第1通電用配線43と、第2通電用電極39と第2通電用電極パッド42とを接続する第2通電用配線44とを有する。
また、第1通電用配線43は第1通電用電極パッド41と同一層に形成され、第1通電用配線43の先端位置に形成された上下導通用電極43Aと、上下導通用電極43Aの下層側に接続された延長配線43Bを介して第1通電用電極38に接続されている。同様に、第2通電用配線44は第2通電用電極パッド42と同一層に形成され、第2通電用配線44の先端位置に形成された上下導通用電極44Aと、上下導通用電極44Aの下層側に接続された延長配線44Bを介して第2通電用電極39に接続されている。
【0057】
各電極38、39および各接続部40は、各軟磁性薄膜33、34、35、36の辺縁部のうち各同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域に接続されている。これにより、各軟磁性薄膜33、34、35、36には、各同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域にのみ交流が通電される。すなわち、この実施形態の磁気コア3Bでは、各軟磁性薄膜33、34、35、36の各同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域が通電部9Bとして機能する。
【0058】
交流電源から第1通電用電極パッド41に供給された電流は第1軟磁性薄膜33に供給され、第1軟磁性薄膜33、第2軟磁性薄膜34、第3軟磁性薄膜35、第4軟磁性薄膜36を順次それらの幅方向に沿って流れる。一方、第2通電用電極パッド42から供給された電流は、第4軟磁性薄膜36に供給され、第4軟磁性薄膜36、第3軟磁性薄膜35、第2軟磁性薄膜34、第1軟磁性薄膜33を順次幅方向に沿って流れる。このように互いに逆向きの電流が交互に流れることにより、第1軟磁性薄膜33〜第4軟磁性薄膜36の各通電部9Bが、その長手方向に励磁される。
【0059】
一方、第1出力用導体部13は、ピックアップコイル6Bの第1コイル部7の出力端7aと電気的に接続された第1出力用電極21と、外部の検出回路に接続される第1出力用電極パッド22と、第1出力用電極21と第1出力用電極パッド22とを電気的に接続する第1出力用配線23によって構成されている。
また、第2出力用導体部14は、ピックアップコイル6Bの第2コイル部8の出力端8aと電気的に接続された第2出力用電極24と、外部の検出回路に接続される第2出力用電極パッド25と、第2出力用電極24と第2出力用電極パッド25とを電気的に接続する第2出力用配線26によって構成されている。
【0060】
ピックアップコイル6Bは、各コイル部7、8の配線が中心側から外側に時計回りに延在されている以外は、前記第1実施形態のピックアップコイル6と同様の構成である。
この磁気センサ素子1Bでは、交流電源から例えば三角波電流が供給されると、第1軟磁性薄膜33〜第4軟磁性薄膜36の各通電部9Bの幅方向に沿って電流が流れる。これにより、各通電部9Bが励磁され、その長手方向に磁束が生じる。この通電部9Bに生じた磁束により、前記第1実施形態と同様に、ピックアップコイル6Bに誘導電圧が発生し、検出回路に出力される。そして、この検出回路で検出される出力電圧波形に基づいて外部磁界の強さを検出することができる。なお、第1実施形態の構造と同様、各コイル部7、8の配線が、中心側から外側に反時計回りに延在されて構成されていても良い。
【0061】
この第2実施形態においても、前記第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
また、第2実施形態の磁気センサ素子1Bでは、特に、磁気コア3Bが複数の帯状の軟磁性薄膜33、34、35、36によって構成されていることにより、磁気コア3B全体で、外部磁界の磁束をより多く引き込むことができるとともに、交流の通電によって、より多くの磁束を生じさせることができる。
また、各軟磁性薄膜33、34、35、36が逆相磁界発生部28A、31Aと重なる領域まで延在されていることにより、励磁に際する反磁界の影響が低減する。
これらのことにより、磁気センサ素子1Bの感度および出力をより高めることができるという効果が得られる。
【0062】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る磁気センサ素子の第3実施形態について説明する。なお、第3実施形態においては、前記第1実施形態および前記第2実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図9は、本発明の磁気センサ素子の第3実施形態を示す平面図、図10は、図9に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図、図11は、第3実施形態の磁気センサ素子に適用される磁気コアの他の例を示す模式的な平面図である。
図9に示す磁気センサ素子1Cは、各軟磁性薄膜33、34、35、36の一端部および他端部と連結された一対の集磁部45、45を有する以外は、前記第2実施形態の磁気センサ素子1Bと同様の構造である。
【0063】
図9、図10に示すように、一対の集磁部45、45は、それぞれ帯状をなし、その長手方向がピックアップコイルの各逆方向ライン28、31の延在方向と略平行となるように、各逆相磁界発生部28A、31Aと重なって配設されている。そして、一方の集磁部45の一側辺に、各軟磁性薄膜33、34、35、36の一端部が連結され、他方の集磁部45の一側辺に、各軟磁性薄膜33、34、35、36の他端部が連結されている。
一対の集磁部45、45は、各通電部9Cとともに外部磁界を引き込むように作用し、これにより各通電部9Cにより多くの磁束を引き込むことができる。また、各通電部9Cに励磁の際に生じる反磁界の影響を低減することができる。その結果、磁気センサ素子1Cの感度をより高めることができる。
この第3実施形態においても、前記第1実施形態および前記第2実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0064】
なお、第3実施形態の磁気センサ素子1Cにおいて、集磁部45、45の形状は帯状に限るものではない。例えば、図11に示すように、集磁部45Cが、環状をなし、第1コイル部7の逆相磁界発生部28Aおよび第2コイル部8の逆相磁界発生部31Aの双方と重なるように配設されていてもよい。この場合、複数(この例では3本)の帯状軟磁性薄膜33、34、35は、その各端部が集磁部45Cの内周側に連結される。この場合にも、前述の構造と同様の作用・効果が得られる。
【0065】
<第4実施形態>
次に、磁気センサ素子の第4実施形態について説明する。なお、第4実施形態においては、前記第1実施形態〜前記第3実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図12は、本発明の第4実施形態の磁気センサ素子を示す平面図、図13は、図12に示す磁気センサ素子をc−c’線で切断した縦断面図、図14は、図12に示す磁気センサ素子が備える磁気コアを示す平面図である。
図12、13に示す磁気センサ素子1Dは、帯状の軟磁性薄膜の数が2本であることと、通電用導体部の構成が異なる以外は、前記第3実施形態と同様の構造である。
この実施形態の磁気センサ素子1Dでは、通電用導体部46は、各軟磁性薄膜33、34に交流を通電する通電用電極47Aと、外部の交流電源に接続される第1通電用電極パッド48および第2通電用電極パッド49と、通電用電極47Aと第1通電用電極パッド48とを接続する第1通電用配線50と、通電用電極47Bと第2通電用電極パッド49とを接続する第2通電用配線51とを有している。
また、第1通電用配線50は第1通電用電極パッド48と同一層に形成され、第1通電用配線50の先端位置に形成された上下導通用電極50Aと、この上下導通用電極50Aの下層側に接続された延長配線50Bを介して第1通電用電極47Aに接続されている。同様に、第2通電用配線51は第2通電用電極パッド49と同一層に形成され、第2通電用配線51の先端位置に形成された上下導通用電極51Aと、この上下導通用電極51Aの下層側に接続された延長配線51Bを介して第2通電用電極47Bに接続されている。
【0066】
通電用電極47は、ピックアップコイル6Dの各順方向ライン群(同相磁界発生部)27A、30Aと重なる領域に設けられている。そして、図14に示すように、通電用電極47は、第1軟磁性薄膜33および第2軟磁性薄膜34と、各軟磁性薄膜33、34同士の間と、第1軟磁性薄膜33の左側周辺と、第2軟磁性薄膜34の右側周辺を覆うように設けられている。
【0067】
このように通電用電極47が各同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域にのみ設けられていることにより、各軟磁性薄膜33、34には、同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域にのみ交流が通電される。したがって、この磁気センサ素子1Dにおいても、各軟磁性薄膜33、34の各同相磁界発生部27A、30Aと重なる領域が通電部9Dとして機能する。
【0068】
交流電源から第1通電用電極パッド48に供給された電流は、第1通電用配線50を介して通電用電極47に供給され、第1軟磁性薄膜33および第2軟磁性薄膜34を順次幅方向に沿って流れる。一方、第2通電用電極パッド49から供給された電流は、第2通電用配線51を介して通電用電極47に供給され、第2軟磁性薄膜34および第1軟磁性層33を順次幅方向に沿って流れる。このような互いに逆向きの電流が交互に流れることにより、第1軟磁性薄膜33および第2軟磁性薄膜34の各通電部9Dが、その長手方向に励磁される。
この通電部9Dに生じた磁束により、前記第1実施形態と同様に、ピックアップコイル6Dに誘導電圧が発生し、検出回路に出力される。そして、この検出回路で検出される出力電圧波形に基づいて外部磁界の強さを検出することができる。
この第4実施形態においても、前記第1実施形態〜前記第3実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0069】
また、第4実施形態の磁気センサ素子では、特に、通電用電極が、前記第2実施形態および前記第3実施形態における、第1通電用電極、第2通電用電極および接続部の機能を兼ね、これら3つの部材を組み合わるのに比べて単純な形状をなしている。このため、導体部を形成するための導体薄膜のパターニングを容易に行うことができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0070】
<第5実施形態>
次に、磁気センサ素子の第5実施形態について説明する。なお、第5実施形態においては、前記第1実施形態〜前記第4実施形態と同様の構成についてはその説明を省略する。
図15は、本発明の磁気センサ素子の第5実施形態を示す縦断面図である。
図15に示す磁気センサ素子1Eは、通電用電極47の上に、第1軟磁性薄膜33および第2軟磁性薄膜34とそれぞれ重なるように、第1積層軟磁性層52および第2積層軟磁性層53が積層されている以外は、前記第4実施形態と同様である。
この第5実施形態においても、前記第1実施形態〜前記第4実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0071】
また、第5実施形態の磁気センサ素子1Eでは、特に、第1軟磁性薄膜33、通電用電極47、第1積層軟磁性薄膜52の積層構造と、第2軟磁性薄膜34、通電用電極47、第2積層軟磁性薄膜53の積層構造を有し、各積層構造が、それぞれ磁気コアとして機能する。この場合、通電用電極47が介在していることにより、軟磁性薄膜33および積層軟磁性薄膜52、軟磁性薄膜34および積層軟磁性薄膜53の上下で磁界を分離することができる。これにより、磁気コアに良好な励磁を行うことができる。その結果、磁気センサ素子1Eの感度および出力をより高めることができるという効果が得られる。
【0072】
<<電子方位計>>
次に、本発明に係る電子方位計について、3軸電子方位計を例にして説明する。
図16は、本発明に係る電子方位計(3軸電子方位計)を示す概略斜視図である。
図16に示す3軸電子方位計100は、基板101と、基板101上に実装された3個の磁気センサ素子1X、1Y、1Zと、各磁気センサ素子1X、1Y、1Zを駆動する駆動回路102等を有しており、外部磁界のX軸成分、Y軸成分およびZ軸成分の各強度を別々に検出し、この3軸の検出強度に基づいて方位を算出するように構成されている。
【0073】
3個の磁気センサ素子1X、1Y、1Zは、それぞれ外部磁界のX軸成分を検出する磁気センサ素子(X軸センサ)1X、外部磁界のY軸成分を検出する磁気センサ素子(Y軸センサ)1Y、外部磁界のZ軸成分を検出する磁気センサ素子(Z軸センサ)1Zであり、各センサ素子の通電部9の長手方向がX軸方向、Y軸方向、Z軸方向にそれぞれ対応するように基板101上に実装されている。
そして、この実施形態の3軸電子方位計100では、3個の磁気センサ素子1X、1Y、1Zがいずれも本発明の磁気センサ素子によって構成されるとともに、磁気コア3およびピックアップコイル6の構成が実質的に同一なものとされている。
【0074】
このような3軸電子方位計100では、各磁気センサ素子1X、1Y、1Zにおいて磁気コア3およびピックアップコイル6の構成が同一であることにより、各磁気センサ素子1X、1Y、1Zは外部磁界に対して同程度の感度を有する。このため、磁気センサ素子1X、1Y、1Z同士の感度の違いを考慮した補正が不要であり、方位算出のプロセスを簡易化することができる。
【0075】
また、本発明の磁気センサ素子1X、1Y、1Zは、通電部9の長さを比較的短く(0.5mm以下)した場合でも、反磁界の影響が抑えられ、外部磁界を高い感度で検出することができ、また、出力電圧波形を高出力・高SN比で得ることができる。このため、このような磁気センサ素子1X、1Y、1Zを用いることにより、センサとしての特性を十分に確保しつつ、3軸電子方位計100の小型化を図ることができる。特に、通電部9が基板面と直交するように実装されるZ軸センサ1Zの高さ(基板101と直交する方向での寸法)を低くすることができるので、3軸電子方位計100の厚さを格段に薄くすることが可能である。
【0076】
以上、本発明の磁気センサ素子、電子方位計および磁界検出方法について説明したが、前記実施形態において、磁気センサ素子および電子方位計を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
例えば、磁気コアは、ピックアップコイルの上面に形成されていてもよい。
また、本発明の磁界検出方法では、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、必要に応じて任意の工程を追加してもよい。
更に、通電部に通電する電流は、正弦波など周期的に変化する電流であれば、三角波電流に限るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の磁気センサ素子、電子方位計および磁界検出方法は、携帯電話やPND(Portable Navigation Device)などのモバイル機器において、地磁気を検出する3軸電子方位計に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
1、1B、1C、1D、1E…磁気センサ素子、2…非磁性基板、3…磁気コア、4…導体層、5…絶縁層、6B、6C、6D…ピックアップコイル、7…第1コイル部、8…第2コイル部、9、9B、9C、9D…通電部、10…集磁部、11…第1通電用導体部、12…第2通電用導体部、15…第1通電用電極、16…第1通電用電極パッド、18…第2通電用電極、19…第2通電用電極パッド、21…第1出力用電極、22…第1出力用電極パッド、24…第2出力用電極、25…第2出力用電極パッド、27…順方向ライン、27A…順方向ライン群(同相磁界発生部)、28…逆方向ライン、28A…逆方向ライン群(逆相磁界発生部)、30…順方向ライン、30A…順方向ライン群(同相磁界発生部)、31…逆方向ライン、31A…逆方向ライン群(逆相磁界発生部)、33、34、35、36…軟磁性薄膜、37…通電用導体部、38…第1通電用電極、39…第2通電用電極、40…接続部、41…第1通電用電極パッド、42…第2通電用電極パッド、45…集磁部、46…通電用導体部、47…通電用電極、48…第1通電用電極パッド、49…第2通電用電極パッド、52…第1積層軟磁性薄膜、53…第2積層軟磁性薄膜、100…3軸電子方位計、101…基板、102…駆動回路、1X、1Y、1Z…磁気センサ素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性薄膜からなる1つ以上の帯状の通電部を備えた磁気コアと、渦巻き状に巻回された導体薄膜からなるスパイラル状の2つのコイル部が電流の方向を逆向きになるように電気的に接続されて構成され、前記磁気コアの上方または下方に配置されて前記磁気コアの磁束変化による誘導電圧を出力するためのピックアップコイルと、前記磁気コアと前記スパイラルコイル部を絶縁する絶縁層とが少なくとも備えられた磁気センサであって、
前記磁気コアがその通電部を前記2つのスパイラルコイル部の中心を結んだ直線と平行になるように配置され、
前記磁気コアにおける前記スパイラルコイル部の同相磁界発生部と重なり合う領域に、前記スパイラルコイル部の配線と略平行方向に時間的に変化する電流を通電して前記磁気コアの通電部を励磁するための通電用電極が形成されてなることを特徴とする磁気センサ素子。
【請求項2】
前記磁気コアが、前記スパイラルコイル部の同相磁界発生部から逆相磁界発生部と重なる領域まで延在されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ素子。
【請求項3】
前記磁気コアが、前記逆相磁界発生部と重なるように設けられた幅広の集磁部を前記通電部の両端部に連続して形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気センサ素子。
【請求項4】
前記磁気コアが、並列する複数の帯状軟磁性薄膜からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の磁気センサ素子。
【請求項5】
前記磁気コアが、軟磁性薄膜と導体膜の積層構造とされてなることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の磁気センサ素子。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の磁気センサ素子を備えることを特徴とする電子方位計。
【請求項7】
前記通電部の長手方向が、それぞれX軸方向、Y軸方向、Z軸方向となるように配された3個の前記磁気センサ素子を有し、前記各磁気センサ素子は、少なくとも前記ピックアップコイルおよび前記磁気コアの構成が実質的に同一であることを特徴とする請求項6に記載に電子方位計。
【請求項8】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の磁気センサ素子を用いて外部磁界を検出する磁界検出方法であって、
前記磁気センサ素子の前記通電部に対し前記ピックアップコイルの同相磁界発生部と重なり合う領域に、前記スパイラルコイル部の配線と略平行方向に時間的に極性が変化する電流を通電し、前記時間的に極性が変化した電流に起因して生じる前記磁気コア内の磁束の変化に伴ってピックアップコイルに生じる誘導出力を検出し、この誘導出力の時間間隔に基づいて外部磁界の強度を算出する工程とを有することを特徴とする磁界検出方法。
【請求項9】
前記磁気センサ素子の前記通電部に三角波電流を通電し、この三角波電流の極性が切り替わるタイミングで前記ピックアップコイルから出力される正符号および負符号の各スパイク状電圧波形をそれぞれ検出する工程と、
一のスパイク状電圧波形と次に検出される逆符号のスパイク状電圧波形との時間間隔を計測し、この時間間隔に基づいて外部磁界の強度を算出する工程とを有することを特徴とする請求項8に記載の磁界検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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