説明

磁気共鳴イメージング装置、磁気共鳴データ処理装置、磁気共鳴データ処理方法及び磁気共鳴データ処理プログラム

【課題】 心電信号を使用しないで、心筋への血流動態の情報を与えることができる磁気共鳴イメージング装置を提供すること。
【解決手段】 心電同期を使用しない非同期マルチスライスダイナミック撮影によって得られる磁気共鳴信号を用いて画像再構成を実行し、高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数のMR画像を所得し、同一時相のMR画像における被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す展開図を時相毎に生成し、時相毎の展開図を、例えば時系列的に連続表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴イメージング装置を利用した心筋パフュージョン撮影において、心電同期を使用することなく心筋血流動態に関する診断情報を取得するためのものに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、固有の磁気モーメントを持つ核の集団が一様な静磁場中に置かれたときに、特定の周波数で回転する高周波磁場のエネルギーを共鳴的に吸収する現象を利用して、物質の化学的及び物理的な微視的情報を映像化し、あるいは化学シフトスペクトラムを観測する装置である。
【0003】
虚血性心疾患の診断において、心筋血流動態を磁気共鳴イメージング装置で評価する方法として、造影剤を静脈より注入し、初回循環のうちに心電同期を併用した左室短軸のマルチスライスダイナミックT1強調撮像を行い、心筋の造影される過程を観察する方法(心筋パフュージョン)がある。この心筋パフュージョンによって得られた結果は、各スライスの時間方向の連続表示(シネ表示)や、左室短軸の各スライスを放射状の複数の領域に分割し、分割された各領域における信号値の時間変化のグラフ(ダイナミックカーブ)から求められる各種計測値をカラーマップあるいはグレースケールに対応させて心起部から心尖部に向かって同心円状に配置した展開図、いわゆるブルズアイ(Bull's eye)画像に変換し表示して評価される(例えば、非特許文献1、2、3参照)。
【0004】
しかしながら、心電波形を得るためには、検査に先立って、被検体に心電信号検出用の電極を装着する手間がかかる上、患者によっては適切な心電信号を得るために、電極装着位置のやり直しなどの時間がかかる。さらに磁気共鳴イメージングのための傾斜磁場スイッチングノイズの心電波形への誘導により同期がうまくかからず撮影ができないあるいは画質の低下などの不都合を生じる場合がある。
【0005】
また、電極を装着した状態で磁気共鳴イメージングのための高周波パルスが印加されるため電極、心電波形を伝える電線および人体の形成するループに高周波パルスが誘導され、火傷などをおこす危険性がある。この危険性は高周波パルス電力の大きい高磁場MRIにおいて高くなる。
【0006】
さらに、従来の動画表示は、スライス断層ごとに行うため、心筋全体の血流供給状態を一目で観察することは困難である。
【非特許文献1】佐久間ほか 造影MRIによる虚血性心疾患の診断 INNERVISION (15.13)2000 PP.59-66
【非特許文献2】南條ほか 心筋パフュージョン、心筋バイアビリティの評価 INNERVISION(17.9)2002 pp.10-14
【非特許文献3】藤本ほか 循環器領域のMRIに必要な解剖・生理機能のポイント INNERVISION(17.9)2002 pp.1-4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、心電信号を使用しないで、心筋への血流動態の情報を与えることができる磁気共鳴イメージング装置、磁気共鳴データ処理装置、磁気共鳴データ処理方法及び磁気共鳴データ処理プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0009】
本発明の第1の視点は、静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、当該傾斜磁場及び高周波パルスの各印加によって当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を受信する撮影動作を実行する撮影手段と、前記傾斜磁場及び前記高周波パルスの各印加において、前記高周波パルス周波数を順次変化させるように前記撮影手段を制御する制御手段と、前記撮影動作により受信した前記磁気共鳴信号を用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成手段と、同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成手段と、時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示手段と、を具備することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置である。
【0010】
本発明の第2の視点は、静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを記憶する記憶手段と、前記磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成手段と、同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成手段と、時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示手段と、を具備することを特徴とする磁気共鳴データ処理装置である。
【0011】
本発明の第3の視点は、静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る第1のステップと、同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する第2のステップと、を具備することを特徴とする磁気共鳴データ処理方法である。
【0012】
本発明の第4の視点は、コンピュータに、静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成機能と、同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成機能と、時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示機能と、を実現されるための磁気共鳴データ処理プログラムである。
【発明の効果】
【0013】
以上本発明によれば、心電信号を使用しないで、心筋への血流動態の情報を与えることができる磁気共鳴イメージング装置、磁気共鳴データ処理装置、磁気共鳴データ処理方法及び磁気共鳴データ処理プログラムを記憶した記憶媒体を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0015】
図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置10のブロック構成図を示している。同図に示すように、磁気共鳴イメージング装置10は、静磁場磁石11、冷却系制御部12、傾斜磁場コイル13、高周波プローブ14、傾斜磁場電源17、送信部18、受信部19、計算機システム20、ディスプレイ24を具備している。
【0016】
静磁場磁石11は、被検体を配置する配置空間を有する静磁場を発生する磁石である。静磁場磁石11は、配置空間において一様な静磁場を形成する。
【0017】
冷却系制御部12は、静磁場磁石11の冷却機構を制御する。
【0018】
傾斜磁場コイル13は、静磁場磁石11の内側に設けられ、且つ静磁場磁石11よりも短軸であり、傾斜磁場コイル装置電源17から供給されるパルス電流を傾斜磁場に変換する。この傾斜磁場コイル13が発生する傾斜磁場によって、信号発生部位(位置)が特定される。
【0019】
なお、本実施形態において、傾斜磁場コイル13及び静磁場磁石11は円筒形をしているものとする。
【0020】
高周波送信コイル(RF送信コイル)14は、被検体の撮像領域に対して、磁気共鳴信号を発生させるための高周波パルスを印加するためのコイルである。この高周波送信コイル14は全身用RFコイルであり、例えば腹部等を撮影する場合には、受信コイルとしても使用することができる。
【0021】
高周波受信コイル(RF受信コイル)15は、被検体の近傍、好ましくは密着させた状態で当該被検体を挟むように設置され、被検体から磁気共鳴を受信するためのコイルである。当該高周波受信コイル15は、一般的には、部位別に専用の形状を有する。
【0022】
なお、図1では、高周波送信コイルと高周波受信コイルとを別体とするクロスコイル方式を例示したが、これらを一つのコイルで兼用するシングルコイル方式を採用する構成であってもよい。
【0023】
傾斜磁場コイル装置電源17は、傾斜磁場を形成するためのパルス電流を発生し、傾斜磁場コイル13に供給する。また、傾斜磁場コイル装置電源17は、後述する制御部202の制御に従って、傾斜磁場コイル13に供給するパルス電流の向きを切替えることにより、傾斜磁場の極性を制御する。
【0024】
送信部18は、発振部、位相選択部、周波数変換部、振幅変調部、高周波電力増幅部(それぞれ図示せず)を有しており、ラーモア周波数に対応する高周波パルスを送信用高周波コイルに送信する。当該送信によって高周波送信コイル14から発生した高周波によって、被検体の所定原子核の磁化は、励起状態となる。
【0025】
受信部19は、増幅部、中間周波数変換部、位相検波部、フィルタ、A/D変換器(それぞれ図示せず)を有する。受信部19は、高周波コイル15から受信した、核の磁化が励起状態から基底状態に緩和するとき放出する磁気共鳴信号(高周波信号)に対して、増幅処理、発信周波数を利用した中間周波数変換処理、位相検波処理、フィルタ処理、A/D変換処理を施す。
【0026】
計算機システム20は、記憶部201、制御部202、データ収集部203、再構成部204、データ処理部205、入力部207を有している。
【0027】
記憶部201は、受信部19を介して得られた再構成前の磁気共鳴信号データ(生データ)、再構成部204によって再構成された磁気共鳴画像データ等を患者毎に記憶する。また、記憶部201は、各種撮影方法に対応する撮影シーケンスを実行するための撮影プログラムを記憶する。
【0028】
制御部202は、図示していないCPU、メモリ等を有しており、システム全体の制御中枢として、本磁気共鳴イメージング装置を静的又は動的に制御する。例えば、制御部202は、入力部207を介して選択された撮影方法に対応する撮影プログラムを当該記憶部201から読み出し、当該プログラムに従う装置全体の制御を実行する。
【0029】
データ収集部203は、受信部19によってサンプリングされたディジタル信号(磁気共鳴信号)を収集する。
【0030】
再構成部204は、データ収集部203によって収集されたデータに対して、後処理すなわちフーリエ変換等の再構成等を実行し、被検体内の所望核スピンのスペクトラムデータあるいは画像データを求める。
【0031】
データ処理部205は、後述する非同期型心筋パフュージョン撮影において、同時相における複数のダイナミック画像に基づくブルズアイ画像の生成、ダイナミックカーブの生成、ダイナミックカーブに基づくブルズアイ画像の生成等を実行する。なお、これらの各処理については、後で詳しく説明する。
【0032】
表示部24は、データ処理部20から入力したスペクトラムデータあるいは画像データ等を表示する出力手段である。
【0033】
(心電同期型心筋パフュージョン撮影)
まず、本磁気共鳴イメージング装置10が実行する非同期型心筋パフュージョン撮影(後述)との比較の観点から、一般的な心電同期型心筋パフュージョン撮影手法について説明する。
【0034】
図2は、心電同期型心筋パフュージョン撮影において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、まず本撮影手法では、造影剤を静脈からボーラス投与した後、初回循環の様子を左室短軸の複数スライスを高速フィールドエコー法やEPI法などのT1強調画像の得られるパルスシーケンスを使用して、心電同期を併用したダイナミック(連続)撮像によりデータ収集を行う(ステップS1)。なお、以下の説明においては、ダイナミック撮影における各時相を「ダイナミック時相」と呼ぶ。
【0035】
図3は、心電同期型心筋パフュージョン撮影に従うデータ収集法を説明するための図である。この例は2心拍に3枚のスライスのデータ収集を行い、これを初回循環の間連続して繰り返す場合を表している。なお、各スライスのデータ収集の直前には、T1コントラストを付けるための反転パルスが印可される。この様に収集されたデータは画像再構成され、各断層についてのMR画像が生成される(ステップS2)。
【0036】
図4は、図3に示したデータ収集法によって各ダイナミック時相で得られた各断層についてのMR画像(スライス1、2、3)を示した図である。すなわち、同図に示す1−1、2−1、3−1、1−2、2−2、3−2、・・・・1−30、2−30、3−30は、本手法によって収集されたMR画像であり、心尖部から心起部に向かってスライス1、2、3の合計3断層、ダイナミック時相数30の場合の例を示す。
【0037】
なお、得られた各MR画像は、各スライス位置ごとにシネ表示(時間方向の連続動画表示。例えば、図3においては、1−1、1−2、1−3といった順番の連続表示)することも可能である。
【0038】
次に、各MR画像上の心筋を複数の小領域に分割し各領域内の平均の画像値に基づいて、ダイナミックカーブ(画像値の時間変化を表したグラフ)を生成する(ステップS3)。
【0039】
すなわち、図3の各MR画像において心内膜および外膜輪郭を抽出し、両者に挟まれる領域を放射状の例えば100の領域に分割する(なお、図3では、簡単のために8の小領域に分割し、左室心筋全体を3×8=24の小領域に分割した場合を示している)。各小領域の画素値からその平均値を求め、これを時系列的にプロットすることで、ダイナミックカーブを小領域毎に作成する。例えば、小領域Aについて説明すると、各ダイナミック時相の小領域Aの画素値の平均を計算し、得られた3−1画像から3−30画像までの小領域Aの各平均値を時系列的にプロットすることで、ダイナミックカーブが生成される。なお、図5の上段において、小領域Aについてのダイナミックカーブ(左側)、及び小領域Aについてのダイナミックカーブ(右側)をそれぞれ示した。
【0040】
次に、各ダイナミックカーブに基づいて、小領域毎の信号最大値、最大勾配、最大勾配までの時間、平均信号値などの時間変化の特性をあらわすパラメータの値(特性値)を計算する(ステップS4)。得られたパラメータの値(ここでは、信号最大値および最大勾配までの時間の2つの値)と色またはグレースケールに対応付け、左室心筋全体を表す同心円の対応する領域にマッピングすることで、ダイナミック時相毎の画像を生成する。この画像は、撮影対象(今の場合、左室心筋)を同心円の24個の分割領域として展開したものであり、その形態から「展開図」又は「ブルズアイ(Bull’s eye)画像」と呼ばれ、また、その表示法は、展開表示はブルズアイ(Bull’s eye)表示と呼ばれている。これらの画像及びその表示法は、核医学検査など他の診断法において一般的であり、心筋各部の血流分布評価に利用される。
【0041】
図5の下段において、小領域Aについてのブルズアイ画像(左側)、及び小領域Bについてのブルズアイ画像(右側)をそれぞれ示した。同図においては、同心円の内側が心尖部、外側が心起部に対応している。
【0042】
(非同期型心筋パフュージョン撮影)
次に、本磁気共鳴イメージング装置10が実行する、非同期型心筋パフュージョン撮影手法について説明する。本撮影手法は、心電同期を必要としない心筋潅流画像のデータ収集方法と後処理の方法、および表示方法を提供するものである。
【0043】
図6は、非同期型心筋パフュージョン撮影において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。同図に示すように、まず本撮影手法では、心電同期を必要としない(非同期)で、マルチスライスダイナミック撮影によりデータ収集を実行する(ステップS21)。
【0044】
図7は、本撮影手法において実行されるスキャンシーケンスの一例を示した図である。データ収集に使用するパルスシーケンス、データ収集順序などは図3の例と同じであるが、心電波形は用いず、非同期にマルチスライスのダイナミック(連続)収集を行う点が図3の例と異なる。
【0045】
なお、既述の心電同期型心筋パフュージョン撮影においては、撮影中の心拍数の変化を考慮して、撮像スライス枚数は撮像前に測定された心周期に十分に収まる程度に減らしておく必要がある。このため、撮影可能なスライス枚数は制限されることになる。一方、本非同期型心筋パフュージョン撮影では、心電波形に非同期で撮像する。従って、図7に示すように、次の時相の撮影前にR波のトリガ待ち時間が無く、単位時間に撮影可能なスライス枚数を増やすことができる。また、データ収集は常にパルスシーケンス長で決まる時間で実行されるため、ダイナミックの時相は必ず一定間隔のものとなるという利点がある。
【0046】
また、本非同期型心筋パフュージョン撮影において収集した各ダイナミック時相のデータは、同一スライスであっても、それぞれ異なる心時相の画像となっている点で、心電同期型心筋パフュージョン撮影にて得られたものと異なる。
【0047】
図8は、図7に示したスキャンシーケンスに従って各ダイナミック時相で得られた各断層(スライス1、2、3)を示した図である。同図に示す例では、3スライスの撮像を30時相繰り返した結果、90枚の画像が得られている。この様にして得られた画像データは、再構成部204において画像再構成され、MR画像が生成される(ステップS22)。
【0048】
次に、非同期マルチスライスダイナミック撮影によって得られた各画像に基づいて、ダイナミック時相毎のブルズアイ画像を生成する(ステップS23)。すなわち、各時相の各断層画像において心内膜および外膜輪郭を抽出する。抽出された心内膜と外膜輪郭との間の領域を、放射状の例えば100の領域に分割する(なお、この図では、図4の例と同様に、抽出された心内膜と外膜輪郭との間の領域を8個の小領域に分割し、左室心筋全体を合計3×8=24の領域に分割するものとする。)
分割された各小領域の画像値の平均を算出し、あらかじめ決められた色またはグレースケールに対応付けてダイナミック時相ごとに、図9に示すように左室心筋全体を展開したブルズアイ画像を作成する(ステップS23)。
【0049】
作成された各時相のブルズアイ画像は、図10に示すように、時相順に連続動画(シネ)表示することにより、初回循環における左室心筋全体の造影剤分布の変化を一枚の画像で可視化することが可能となる(ステップS24)。すなわち、心電同期型心筋パフュージョン撮影では、複数スライスの画像を個別に動画表示する必要があり、左室全体の血流動態を一度に観察することは困難であった。これに対し、本手法では、前述のように、心電同期を使用せずに撮像しているため、同一スライスであっても原則的に異なる心時相において収集されたものであり、心筋の形状も異なる。しかしながら、ステップS23において各画像の心筋を各領域分割して展開図を作成し、これをステップS24にて連続表示することで、心電同期型心筋パフュージョン撮影に比して画像値変化の視認が可能になっている。
【0050】
次に、得られた各ダイナミック時相のブルズアイ画像(展開図)の画像値より、心筋の各小領域の信号値の時間変化を表すダイナミックカーブを作成する(ステップ25)。図11に、図9に示す心筋の小領域αに関するダイナミックカーブを一例として示した。当然ながら、他の残りの小領域のものと併せて、ダイナミックカーブは合計3×8=24個存在することになる。
【0051】
次に、各ダイナミックカーブに基づいて、各領域の信号最大値、最大勾配、最大勾配までの時間、平均信号値などのパラメータ値を計算する(ステップS26)。計算されたパラメータ値を色やグレースケールに対応付けすることで、図12に示すような各小領域に関するブルズアイ画像(展開図)を生成し表示することができる(ステップS27)。なお、図12では、各領域におけるダイナミックカーブの
最大勾配までの時間を表示した例を示している。なお、本ステップS27において得られるブルズアイ画像及びその表示は、ステップS5において得られるものと等価の情報を与える。
【0052】
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0053】
本磁気共鳴イメージング装置によれば、心電同期を使用せずにマルチスライスダイナミック撮影を実行し、これに基づいて心筋血流動態に関する診断情報を生成する。従って、心電同期信号を必要としていないため、心電信号検出用の電極を被検体に装着する必要がない。また、心電同期信号の不具合や撮影中の被検体の心拍数変化等により、撮影作業が途中で中断することもない。その結果、電極の適切な位置への設定等の作業を省略することができ、操作者の作業負担及び被検体の身体的負担等を低減させることが可能となる。
【0054】
また、本磁気共鳴イメージング装置によれば、被検体は電極を装着する必要がないため、撮像のための高周波パルス印加により、火傷などをおこす危険性がない。その結果、安全な撮影を実現すると共に、操作者及び被検体の注意負担を軽減させることができる。
【0055】
また、本磁気共鳴イメージング装置によれば、心電同期信号を必要としていないため、画質の低下や誤作動の原因となる傾斜磁場スイッチングノイズの心電波形への誘導等を防止することができる。特に、心電同期信号の不具合や撮影中の被検体の心拍数変化等により、予定していた心周期内にあらかじめ設定したスライス枚数のデータが収集できない場合には、次のR波を待つ結果、ダイナミックの時間分解能が不等間隔になる。そのため、所望の時間分解能が得られなくなることがあり、シネ表示による観察やダイナミック解析において、例えば診断情報としての信頼性が低下する等の不都合を生じる可能性がある。心筋パフュージョン検査では、造影剤を使用するため撮像のやり直しができないことから、造影剤注入後に撮影の中断や画質劣化による診断不能の事態に至ることは極力避けなければならない。本磁気共鳴イメージング装置は、これらの心電同期に起因する全ての不具合を取り除くことができるため、従来に比して、撮像のやり直しの確率を低下させると共に、質の高い診断情報を提供することができる。
【0056】
また、本磁気共鳴イメージング装置によれば、心電同期を使用せずにマルチスライスダイナミック撮影を実行し、これに基づいて心筋血流動態に関する新たな診断情報を生成する。特に、マルチスライスダイナミック撮影によって得られたMR画像から直接的に求められたブルズアイ画像、当該ブルズアイ画像から生成されるダイナミックカーブは、従来にはない新たな診断情報であると言える。従って、本磁気共鳴イメージング装置によれば、診断に有効な新規の情報を提供することができ、医療行為の質の向上に寄与することが可能となる。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0058】
(1)本実施形態に係る各機能、特に、非同期型心筋パフュージョン撮影を実行するための各機能は、当該機能を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0059】
(2)上記実施形態においては、撮影系をも含む磁気共鳴イメージング装置を例として説明した。しかしながら、撮影系は必ずしも必須ではなく、例えば非同期型のマルチダイナミック撮影によって得られた画像データ(画像再構成の前後に拘泥されない)を予め記憶し、これに基づいて非同期型心筋パフュージョン撮影における後処理、表示を実施可能な磁気共鳴データ処理装置(画像処理装置)によっても、本発明を実現することは可能である。
【0060】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上本発明によれば、心電信号を使用しないで、心筋への血流動態の情報を与えることができる磁気共鳴イメージング装置、磁気共鳴データ処理装置、磁気共鳴データ処理方法及び磁気共鳴データ処理プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置10のブロック構成図を示している。
【図2】図2は、心電同期型心筋パフュージョン撮影において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。
【図3】図3は、心電同期型心筋パフュージョン撮影に従うデータ収集法を説明するための図である。
【図4】図4は、図3に示したスキャンシーケンスに従って各ダイナミック時相で得られた各断層(スライス1、2、3)を示した図である。
【図5】図5の上段は、小領域Aについてのダイナミックカーブ(左側)、及び小領域Aについてのダイナミックカーブ(右側)をそれぞれ示している。図5の下段は、小領域Aについてのブルズアイ画像(左側)、及び小領域Bについてのブルズアイ画像(右側)をそれぞれ示している。
【図6】図6は、非同期型心筋パフュージョン撮影において実行される各処理の流れを示したフローチャートである。
【図7】図7は、非同期型心筋パフュージョン撮影において実行されるスキャンシーケンスの一例を示した図である。
【図8】図8は、図7に示したスキャンシーケンスに従って各ダイナミック時相で得られた各断層(スライス1、2、3)を示した図である。
【図9】図9は、非同期マルチスライスダイナミック撮影によって得られたMR画像に基づく、各時相におけるブルズアイ画像を示した図である。
【図10】図10は、図9に示すブルズアイ画像のシネ表示を説明するための図である。
【図11】図11は、図9に示す心筋の小領域αに関するダイナミックカーブの一例を示した図である。
【図12】図12は、非同期型心筋パフュージョン撮影において得られたダイナミックカーブに基づくブルズアイ画像を示した図である。
【符号の説明】
【0063】
10…磁気共鳴イメージング装置、11…静磁場磁石、12…冷却系制御部、13…傾斜磁場コイル、14…高周波プローブ、16…シムコイル電源、17…傾斜磁場電源、18…送信部、19…受信部、20…計算機システム、24…ディスプレイ、201…記憶部、202…制御部、203…データ収集部、204…再構成部、205…データ処理部、207…入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、当該傾斜磁場及び高周波パルスの各印加によって当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を受信する撮影動作を実行する撮影手段と、
前記傾斜磁場及び前記高周波パルスの各印加において、前記高周波パルス周波数を順次変化させるように前記撮影手段を制御する制御手段と、
前記撮影動作により受信した前記磁気共鳴信号を用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成手段と、
同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成手段と、
時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
時相毎の前記第1の展開図に基づく診断情報を生成する診断情報生成手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記診断情報生成手段は、時相毎の前記第1の展開図に基づいて、前記複数の小領域の少なくとも一つにおいて、画素値の平均値の時間的変化を示すダイナミックカーブを生成し、
前記表示手段は、前記診断情報生成手段によって生成された前記ダイナミックカーブを表示すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記診断情報生成手段は、
時相毎の前記第1の展開図に基づいて、前記複数の小領域のそれぞれにおいて、画素値の平均値の時間的変化を示すダイナミックカーブを生成し、
生成された前記複数の小領域における前記ダイナミックカーブに基づいて、各小領域の信号最大値、最大勾配、最大勾配までの時間、平均信号値その他の特性値を計算し、
前記各小領域における前記特性値を表す第2の展開図を時相毎に生成し、
前記表示手段は、前記診断情報生成手段によって計算された時相毎の前記第2の展開図を表示すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記時相毎の前記第1の展開図又は時相毎の前記第2の展開図を、時系列に従って連続的に表示することを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを記憶する記憶手段と、
前記磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成手段と、
同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成手段と、
時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする磁気共鳴データ処理装置。
【請求項7】
静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る第1のステップと、
同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する第2のステップと、
を具備することを特徴とする磁気共鳴データ処理方法。
【請求項8】
コンピュータに、
静磁場空間に配置された被検体に対して傾斜磁場及び高周波パルスを繰り返し印加し、且つ前記高周波パルス周波数を順次変化させるように印加するパルスシーケンスに従う撮影により、当該被検体の心臓に発生する磁気共鳴信号を収集して得られる磁気共鳴データを用いて画像再構成を実行し、前記高周波パルス周波数の順次変化に対応する複数の断層に関して、時相毎に複数の第1の画像を得る画像再構成機能と、
同一時相の前記第1の画像における前記被検体の心臓を複数の小領域に分割することで展開し、当該小領域のそれぞれにおける画素値の平均値を表す第1の展開図を時相毎に生成する画像生成機能と、
時相毎の前記第1の展開図を所定の形態にて表示する表示機能と、
を実現されるための磁気共鳴データ処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−87626(P2006−87626A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275981(P2004−275981)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】