説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】MRI(MRI:Magnetic Resonance Imaging)において、生体内に投与された物質の体内分布濃度の経時的変化を読影可能な画像表示技術を提供することを目的とする。
【解決手段】生体内に投与された外来性化学物質の濃度分布の経時的変化として、再構成された画像の画素毎の磁気共鳴信号強度の経時的変化を特定する。画素毎の磁気共鳴信号の経時的変化の近似曲線を決定し、当該近似曲線が極大値を持つ画素を特定し、当該画素を他の画素と区別可能な表示用データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他核種磁気共鳴イメージング(MRI:Magnetic Resonance Imaging)技術に関する。特に、生体内に投与された物質の体内分布を表示する造影イメージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、静磁場中におかれた測定対象に、特定周波数の高周波磁場を照射して磁気共鳴現象を誘起し、測定対象の物理的化学的情報を取得する装置である。MRI装置では、主として水分子中の水素原子核の磁気共鳴現象を用い、生体組織によって異なる水素原子核の密度分布や緩和時間の差などを画像化する。これにより、組織性状の差異を画像化でき、疾病の診断に高い効果をあげている。水素原子核の密度分布や濃度分布の画像化以外に、13C、19F、31Pなど他核種の原子核の磁気共鳴周波数が分子の化学結合の違いによってずれること(ケミカルシフト)を利用して磁気共鳴信号を分離し、分子種ごとの濃度や緩和時間などを計測する多核種MRIも行われている。
【0003】
19Fは生来の生体には存在しないため、生体内の19F成分は外来に起因する。そのため、他核種MRIの対象となる核種の中でも、19Fを用いるMRI(以後、19F−MRIと呼ぶ。)は、生体内の医薬品などの外来性化学物質を非侵襲的に検知することに用いられる。特に、フルオロウラシル系化合物など、その化学構造中に19Fが含まれる抗癌剤が多く存在することから、19F−MRIは抗癌剤分布のモニタリングに用いられる。フルオロウラシル系抗癌剤や、パーフルオロカーボンを含む化合物を生体に投与し、生体中の19F成分をMRI装置で検出する造影19F−MRIの研究的試みがある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】H.Kuribayashi, Y.Doi、Y.Kanazawa、”Application of 19F Chemical Shift Imaging in Studies of Mice with Orally Administered 5−Fluorouracil” Magnetic Resonance in Medicine 46:864−869[2001]
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体内の臓器は、それぞれ解剖学的、生理学的、生化学的に異なるため、全ての臓器において、生体内に投与された19F成分の分布濃度の経時的変化が異なる。同様に、全ての臓器において、生体内に投与された19F成分の分布濃度の経時的変化が病変部位組織と正常組織とは異なる。従って、19F成分の分布濃度の経時的変化を観察することで、臓器の種類、病変部位組織を特定することができる。しかし、従来の造影19F−MRIでは、生体内に投与された19F成分を含む化合物の体内分布をバックグラウンドフリーで画像化できるものの、現状では19F成分の濃度分布の経時的変化を画像上で読影することは困難である。19F成分を含む化合物が高濃度に分布する臓器(例えば、肝臓)や、19F成分を含む化合物が低濃度に分布する組織(例えば、腫瘍)において、特に難しい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、MRIにおいて、生体内に投与された物質の体内分布濃度の経時的変化を読影可能な画像表示技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生体内に投与された外来性化学物質の濃度分布の経時的変化として、再構成された画像の画素毎の磁気共鳴信号強度の経時的変化を特定する。画素毎の磁気共鳴信号の経時的変化の近似曲線を決定し、当該近似曲線が極大値を持つ画素を特定し、当該画素を他の画素と区別可能な表示用データを生成する。
【0008】
具体的には、被検体に磁場を印加する磁場照射手段と、前記被検体からの磁気共鳴信号を取得する信号受信手段と、前記磁場照射手段および前記信号受信手段の動作を制御する制御手段と、前記磁気共鳴信号から画像を再構成する画像再構成手段と、表示手段とを備える磁気共鳴イメージング装置であって、前記表示手段に表示する表示データを生成する表示データ生成手段を備え、前記制御手段は、前記信号受信手段が経時的に磁気共鳴信号を受信するよう制御し、前記画像再構成手段は、前記経時的に受信した磁気共鳴信号から、それぞれ画像を再構成し、前記表示データ生成手段は、前記再構成された画像の、信号強度の時間的な変化が極大値を持つ画素を、他の画素と異なる表示として前記表示データを生成することを特徴とする磁気共鳴イメージング装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、MRIにおいて、生体内に投与された物質の体内分布濃度の経時的変化を読影可能な画像を表示できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を適用する実施形態を説明する。本発明の実施形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0011】
最初に、本実施形態のMRI装置の装置構成を説明する。図1は、本実施形態のMRI装置100の概略構成図である。MRI装置100は、静磁場発生磁石1、傾斜磁場発生コイル2、高周波磁場コイル3、制御装置4、傾斜磁場電源5、シンセサイザ6、変調装置7、増幅器8、AD変換器9、計算機11、および、表示装置12を備える。
【0012】
シンセサイザ6は高周波を発生し、変調装置7は、シンセサイザ6が発生させた高周波を波形整形し、電力増幅し、高周波磁場コイル3に電流を供給する。高周波磁場コイル3は、電流を供給されると、被検体10の核スピンを励起する高周波磁場(励起パルス:RFパルス)を発生させ、被検体10に照射する。傾斜磁場電源5は、傾斜磁場発生コイル2に電流を供給する。傾斜磁場発生コイル2は、それぞれ、X方向、Y方向、Z方向に傾斜磁場パルスを発生させる傾斜磁場コイル2x、2y、2z(不図示)を備え、傾斜磁場電源5から電流を供給されると傾斜磁場パルスを発生し、被検体10からの磁気共鳴信号を空間的な位置に応じて変調する。変調された磁気共鳴信号は、高周波磁場コイル3によって受信(検出)される。増幅器8は、高周波磁場コイル3が受信した磁気共鳴信号を増幅する。AD変換器9は、増幅された磁気共鳴信号をA/D変換し、計算機11に送信する。計算機11は、受信したデータを処理し、保存するとともに、表示装置12に表示する。制御装置4は、所定のパルスシーケンスに従って、RFパルスと傾斜磁場パルスとを繰り返し印加するよう制御する。また、計算機11は、予めプログラムされたタイミングで、制御装置4を始めとするMRI装置100を構成する各装置が動作するように制御を行い、計測を実行する。なお、被検体10が正確な位置に固定されるように、固定治具を備えてもよい。また、以下、本明細書では、変調された磁気共鳴信号を受信する高周波磁場コイル3と増幅器8とAD変換器9とを受信部と呼ぶ。
【0013】
本実施形態では、生体内に投与された外来性化学物質等の生体内で移動する物質による磁気共鳴信号から画像を再構成し、表示する。この際、計算機11において、受信した磁気共鳴信号から画像を再構成後、信号強度の経時的な変化が極大値を有する画素を特定可能な表示画像を生成する。これを実現するため、本実施形態の計算機11は、画像再構成部と、極大値判別部と、表示データ生成部とを備える。なお、計算機11は、CPUとメモリと記憶装置とを備え、記憶装置に予め保持されるプログラムをCPUがメモリにロードして実行することにより、これらの機能を実現する。
【0014】
画像再構成部は、受信部が受信した磁気共鳴信号から公知の手法で画像を再構成し、各画素の信号強度を画像データとして、極大値判別部に受け渡す。本実施形態では、後述するように、受信部は、同一領域の画像を再構成可能な磁気共鳴信号を経時的に繰り返し取得し、それに伴い、画像再構成部は、同一領域の画像であって、取得のタイミングの異なる磁気共鳴信号に基いて再構成された画像を、繰り返し生成する。
【0015】
極大値判別部は、取得タイミングの異なる磁気共鳴信号に基く複数の画像データから、画素毎の磁気共鳴信号強度の時間的変化を特定し、その変化に極大値を有する画素を特定する。具体的には、複数の画像データを受け取ると、画素毎に、信号強度の時間に対する変化を多項式で近似する。そして、近似多項式が、極値(極大値)をもつか否かを判別する。極大値を持つと判別された画素を抽出し、それぞれの画素について極大値の出現時間に対応づけて計算機11が有する記憶装置に格納する。なお、ここで、極大値を有する画素に対応づけて記憶装置に格納するには、出現時間そのものでなくてもよい。各画素について、極大値の出現順を特定可能な情報であればよく、例えば、出現時間順に番号を付与し、番号を対応づけて格納するよう構成してもよい。
【0016】
表示データ生成部は、表示装置12に表示させる表示データを生成する。本実施形態では、極大値判別部が極大値を有するものとして判別した画素の中から、予め定められた出現時間の画素について、予め定められた修飾を施し、画像再構成部が再構成した画像に重畳し、表示データを生成する。なお、記憶装置に画素が番号に対応づけて記憶されている場合は、予め定められた番号の範囲の画素について、同様に処理を行う。なお、ここで行う画素への修飾は、例えば、塗りつぶしなどである。
【0017】
次に、本実施形態で用いるパルスシーケンスについて説明する。図2は、本実施形態のパルスシーケンスの一例である。本実施形態では、上述のように、同一の領域について取得のタイミングの異なる磁気共鳴信号を受信部が受信可能なパルスシーケンスを用いて撮影を行う。ここでは、それを実現可能なパルスシーケンスとして、公知の高速スピンエコー法を用いる場合を例にあげて説明する。以下、本パルスシーケンスに従った制御装置4によるRFパルスおよび傾斜磁場の印加タイミングについて説明する。
【0018】
z方向のスライス傾斜磁場パルス18とともに励起RFパルス13を印加し、z方向の所定のスライス内に核磁気共鳴現象を誘起する。次に、z方向のスライス傾斜磁場パルス18とともに反転RFパルス14を印加し、z方向の所定のスライス内の磁化を反転させる。そして、x方向の位相エンコード傾斜磁場パルス15を印加し、スライス傾斜磁場パルス18と励起RFパルス13と反転RFパルス14とにより選択されたスライス内から発生したエコーを変調し、受信部が変調されたエコー信号(磁気共鳴信号)を計測データとして取得(データ取得)19する間、y方向のリードアウト傾斜磁場パルス17を印加する。その後、スライス傾斜磁場パルス18および反転RFパルス14の印加から、データ取得19中のリードアウト傾斜磁場パルス17の印加までを繰り返す。なお、データ取得19後、次の反転RFパルス14およびスライス傾斜磁場パルス18が印加される前に、位相エンコード傾斜磁場パルス15による位相エンコードを元に戻すためのリワインド傾斜磁場パルス16を印加する。
【0019】
画像再構成部は、各データ取得19で取得した計測データから、それぞれ画像を再構成する。生体内に投与された外来性化学物質等の生体内で移動する物質からの磁気共鳴信号から再構成されるこれらの画像は、それぞれのタイミングの当該物質の体内での分布を示す。
【0020】
なお、本実施形態の用いるパルスシーケンスは、これに限られない。例えば、高速撮像法として広く公知であるエコー・プラナー・イメージング法なども使用可能である。また、x方向、y方向、z方向を入れ替えて撮影断面を変更したり、z方向に位相エンコード傾斜磁場パルスを印加して三次元の空間情報を得るように変更することを可能である。また、一次元空間情報(プロファイル)の撮像を実現するパルスシーケンスも適用可能である。
【0021】
次に、本実施形態の画像再構成部、極大値判別部、および、表示データ生成部による表示データ生成処理の処理手順について説明する。表示データ処理の処理の流れを図3に示す。ここでは、極大値を有する画素について、極大値の出現時間に応じて番号付けをして記憶装置に保持する手法を例に挙げて説明する。また、生体内に投与された外来性化学物質として19Fよる磁気共鳴信号を計測対象とする場合を例にあげて説明する。
【0022】
画像再構成部は、受信部が前記パルスシーケンスに従って経時的に取得した計測データから、それぞれ19F−MRI画像を再構成する(ステップS701)。そして、各画像の画像データを極大値判別部に送信する。
【0023】
極大値判別部は、受け取った画像データの19Fの信号強度値を、画素毎に時系列にプロットする(ステップS702)。そして、各画素のプロット結果について、時間を変数とする多項式で近似する(ステップS703)。次に、近似多項式に基づき、各画素の信号強度の時系列変化が、極大値を持つか否かを判別し、持つと判別された画素を抽出する(ステップS704)。そして、抽出された画素について、近似多項式から、極大値の出現時間を算出する(ステップS705)。そして、算出された出現時間順に識別番号を付与し、それぞれ、画素を特定する情報に対応づけて記憶装置に記憶する(ステップS706)。
【0024】
表示データ生成部は、予め定めた番号(または、番号群)に対応する画素について、所定の修飾を施し、画像再構成部が再構成した画像に重畳し、表示データを生成し(ステップS707)、表示装置12に表示する(ステップS708)。
【0025】
以上の手順で処理することにより、取得タイミングが異なる磁気共鳴信号から再構成された複数の画像の中の、信号強度の極大値の出現時間が異なる画素は、それぞれ別の番号が付与される。そして、所望の番号の画素が修飾表示される。従って、所望のタイミングで極大値が現れる画素を特定した画像が表示装置12に表示される。
【0026】
例えば、腫瘍などの病変組織では、固形腫瘍新生血管特有の性質として公知であるエンハンスド・パーミエーション・アンド・エクステンション効果により、極大値が現れるタイミングが、正常組織に比べて極端に遅くなる。従って、所定以上の番号が付与された画素を修飾して表示するよう構成することで、病変組織を特定可能な画像を表示することができる。
【0027】
また、腫瘍などの病変組織以外であっても、例えば、リンパ組織などでは、物質の受容能力が低い組織であるため、早い時期に極大値が現れる。従って、所定以下の番号が付与された画像を修飾して表示するよう構成することで、リンパ組織を特定可能な画像を表示することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、極大値判別部において、受信部が経時的に取得する複数の磁気共鳴信号の強度について、画像再構成部が再構成した画像の画素毎に、時間に対する近似曲線が極値(極大値)をもつか否かを判別し、極大値をもつ画素を抽出する。そして、極大値の出現時間に応じて画素に番号付けを行う。その後、表示データ生成部において、番号に応じて画素を選択し、選択した画素を修飾した表示用データを生成する。
【0029】
従って、本実施形態によれば、信号強度の極大値が所望のタイミングで出現する画素を特定可能な画像表示を得ることができる。従って、本実施形態によれば、1の画像で、生体内に投与された物質の体内分布濃度の経時的変化を読影可能な画像を表示させることができる。従って、ユーザによる関心組織の状態判断を支援することができる。すなわち、19F−MRI造影イメージングを行った際、関心組織における19F信号強度値そのものの強弱で判断を迷わせることなく、関心組織の信号強度値の経時的変化から生体内に投与された物質の体内分布の情報を獲得することが可能となる。
【0030】
なお、上記実施形態の表示データ生成処理において、ステップS705およびS706の処理を行わず、極大値を持つ画素を特定後、当該画素を全て修飾して表示するよう構成してもよい。このように構成することで、上記処理を行わない分処理速度は速くなる一方、少なくとも、信号強度の時系列変化において極大値を有する組織が明確になり、ユーザが画像を用いて行う診断を支援することができる。
【0031】
また、本実施形態では、多項式で近似する場合を例にあげて説明しているが、他の関数で近似するよう構成してもよい。例えば、複数の指数関数の組で近似することも可能である。この場合、信号減衰の表現がより自然になる。
【0032】
また、極大値を持つ画素のみでなく、隣接する画素群を領域化して修飾し、画像上に表示するよう構成してもよい。さらに、上述のように、信号強度値の極大値の出現時間の遅い画素は、腫瘍の位置と一致する可能性が高いため、当該画素を修飾して表示するだけでなく、当該画素の信号強度値の時系列データを、グラフ等にして表示するよう構成してもよい。
【0033】
また、画素の修飾は、画素の縦線表示や横線表示、波線表示、右上がり斜線表示、右下がり斜線表示、左上がり斜線表示、左下がり斜線表示、市松模様表示、格子表示や、グラディエーション表示、テクスチャ表示、枠の太線表示など様々な形態が可能であり、塗りつぶし表示に限定する必要がないことは言うまでもない。また、カラーは白や黒の他、すべてのカラーが可能であることは言うまでもない。
【0034】
また、上記実施形態では、修飾した画像を、19F−MRIによる画像に重畳して表示するよう構成しているが、例えば、事前もしくは事後に得たH−MRIによる画像と重畳して表示するよう構成してもよい。H−MRIによる画像は、撮影対象の解剖学的状態を示すため、このように構成することで、修飾された画素の解剖学的位置を明確にした表示を行うことができる。また、重畳する画像を、19F−MRI画像とH−MRI画像との間で切り替え可能なように構成してもよい。
【0035】
さらに、上記実施形態では、修飾する画素の番号を予め決定しておく場合を例にあげて説明したが、ユーザが修飾表示する画素の番号を所望のタイミングで入力および変更可能なように構成してもよい。
【0036】
<実施例>
造影剤としてパーフルオロクラウンエーテルを含むエマルションを用い、本実施形態のMRI装置100で図2に示すパルスシーケンスを利用した造影19F−MRIの実施し、本発明の効果を検証した。ここでは、予め腫瘍の位置が同定されているラットを被検体10として、上記実施形態のMRI装置100を用いた。予め腫瘍の位置が同定されているラットとして、ラット乳腺癌由来Walker256株を予め左大腿部皮下へ移植して生着させたWistar系雌性ラットを用いた。
【0037】
はじめに、造影剤であるパーフルオロクラウンエーテルを含むエマルションの製造方法を記載する。ポリキサレン末1.5gとリン酸緩衝溶液(pH7.4)16mLとを混和し、ホモジナイザーを用いて氷冷下にて10分間ホモジナイズした。得られたホモジネートにパーフルオロクラウンエーテル2.0mLを加え、引き続き氷冷下にて10分間ホモジナイズを繰り返し、パーフルオロクラウンエーテルを含むエマルションを得た。ただし、ここに記載した化合物群の濃度や添加量は一例であり、当該記載に限定されるものではない。
【0038】
なお、エマルションのシェルを成す主な成分は両親媒性物質が好ましいが、両親媒性物質の例としては前記ポリキサレンのほか、L−アルファ−ジラウロイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、L−アルファ−ジラウロイルホスファチジルグリセロールナトリウム、L−アルファ−モノミリストイルホスファチジコリン、L−アルファ−ジミリストイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、L−アルファ−ジミリストイルホスファチジルグリセロールアンモニウム、L−アルファ−ジミリストイルホスファチジルグリセロールナトリウム、L−アルファ−ジミリストイルホスファチジン酸ナトリウム、L−アルファ−ジオレイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、L−アルファ−ジオレオイルホスファチジルセリンナトリウム、L−アルファ−モノパルミトイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジパルミトイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、L−アルファ−ジパルミトイルホスファチジルグリセロールアンモニウム、L−アルファ−ジパルミトイルホスファチジルグリセロールナトリウム、L−アルファ−ジパルミトイルホスファチジン酸ナトリウム、L−アルファ−ステアロイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジステアロイルホスファチジルコリン、L−アルファ−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、L−アルファ−ジステアロイルホスファチジルグリセロールナトリウム、L−アルファ−ジステアロイルホスファチジルグリセロールアンモニウム、L−アルファ−ジステアロイルホスファチジン酸ナトリウム、L−アルファ−ジエルコイルホスファチジルコリン、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン、ベータ−オレイル−ガンマ−パルミトイル−L−アルファ−ホスファチジルエタノールアミン、ベータ−オレイル−ガンマ−パルミトイル−L−アルファ−ホスファチジルグリセロールナトリウム、スフィンゴミエリン、ステアリルアミンのいずれかもしくは2種類以上の複数の組み合わせであってもよい。また、パーフルオロカーボンは、前記パーフルオロクラウンエーテル以外にも、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリブチルデカリン、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロ−n−オクタン、パーフルオロ−n−ペンタン、パーフルオロ−n−ヘキサン、パーフルオロ−n−ヘプタンのいずれかもしくは2種類以上の複数組み合わせであってもよいが、好ましくはパーフルオロクラウンエーテル、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリブチルデカリン、パーフルオロトリプロピルアミンのいずれかもしくは2種類以上の複数組み合わせであるとよい。
【0039】
図4は、被検体10の各関心領域の水素原子核の磁気共鳴信号を画像化したH−MRIによる画像である。本画像は、各関心領域の解剖学的位置を特定するために取得したものである。本実施例の関心領域である肝臓、脾臓、腹腔内リンパ組織、腫瘍の解剖学的位置を図上に示す。なお、図4に示したH−MRI画像は、上記実施形態のMRI装置100ならびにパルスシーケンスを用いて得た。同じ条件で取得した19F−MRIによる画像を図5に示す。
【0040】
図4に示す被検体10を、MRI装置100で図2に示すパルスシーケンスを利用して経時的にデータ取得19を繰り返し、それぞれの磁気共鳴信号から再構成した画像群を図6に示す。本図において、画像20、21、22、23は、それぞれ、エマルションの投与から3分後、33分後、63分後、114分後にデータ取得19した磁気共鳴信号から再構成した画像である。本図に示すように、MRI装置100において図2に示すパルスシーケンスを利用することで、経時的に19F−MRI画像を取得できる。
【0041】
図4、図5、図6に示す画像群を得るために用いた主要な撮像パラメータは、TR/TE:2000/12msec、エコートレインレングス:16、FOV:200mmx200mm、マトリックスサイズ:128x128、積算回数:16、スライス:プロジェクションである。なお、MRI装置100は、静磁場強度7テスラとする。もちろん、これらは一例であり、これらの値に限られない。
【0042】
次に、前述の被検体10の経時的な19F−MRIによる画像の、図4に示す各関心領域内の特定の画素の19Fの信号強度値を経時的にプロットしたものを図7に示す。ここでは、プロット結果を3次多項式により近似した曲線のグラフ、近似した3次多項式の数式、および、極大値の位置を併せて示す。図7(a)に示すように、腫瘍上の画素の近似曲線と腹部リンパ組織上の画素の近似曲線とは極大値を持つ。一方、図7(b)に示すように、肝臓および脾臓上の画素の近似曲線は極値を持たない。また、測定時間内での最大信号強度値または信号強度の極大値の出現時間が、肝臓、脾臓、腹腔内リンパ組織、腫瘍でそれぞれ異なる。
【0043】
次に、極大値を持つ画素の中で、出現時間が遅い画素群を修飾し、19F−MRI画像に重畳して生成した画像を図8に示す。ここでは、極大値を持つ各画素について、測定時間内における極大値の出現時間を求め、選択された各画素で最も極大値の出現時間が早い画素から順番に番号付けし、番号が遅い順に21番目までの画素群を修飾し、同一コントラストで塗りつぶして表示801した。
【0044】
図4と図8とを比較するとわかるように、得られた被検体10の19F−MRIによる画像において、腫瘍の位置と塗りつぶし表示801の位置とは一致する。なお、図9に、修飾した画像群801を、事前もしくは事後に得たH−MRIによる画像と重畳して表示した例を示す。
【0045】
以上説明したように、固形腫瘍新生血管特有の性質として公知であるエンハンスド・パーミエーション・アンド・エクステンション効果により、被検体10に静脈内投与されたパーフルオロクラウンエーテルを含むエマルションが、固形腫瘍組織の細胞間隙に他臓器より最も遅れて分布し、また、測定時間内での分布濃度の極大値の現れる時間が他臓器より遅くなることが、本実施形態のMRI装置100を用いて検証された。同時に、本実施形態によれば、予め位置が同定されている腫瘍の画素が修飾されて表示されることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態のMRI装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態のパルスシーケンス図である。
【図3】本発明の実施形態の表示データ生成処理の処理フローである。
【図4】本発明の実施例のH−MRI画像の例である。
【図5】本発明の実施例の19F−MRI画像の例である。
【図6】本発明の実施例の経時的な19F−MRI画像群の例である。
【図7】本発明の実施例の各画素の信号強度の経時的な変化をプロットしたグラフである。
【図8】本発明の実施例の特定画素を修飾した19F−MRI画像の例である。
【図9】本発明の実施例の特定画素を修飾したH−MRI画像の例である。
【符号の説明】
【0047】
1:静磁場発生磁石、2:傾斜磁場発生コイル、3:高周波磁場コイル、4:制御装置、5:傾斜磁場電源、6:シンセサイザ、7:変調装置、8:増幅器、9:AD変換器、10:被検体、11:計算機、12:表示装置、100:MRI装置、13:励起RFパルス、14:反転RFパルス、15:位相エンコード傾斜磁場パルス、16:リワインド傾斜磁場パルス、17:リードアウト傾斜磁場パルス、18:スライス傾斜磁場パルス、19:データ取得

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に磁場を印加する磁場照射手段と、前記被検体からの磁気共鳴信号を取得する信号受信手段と、前記磁場照射手段および前記信号受信手段の動作を制御する制御手段と、前記磁気共鳴信号から画像を再構成する画像再構成手段と、表示手段とを備える磁気共鳴イメージング装置であって、
前記表示手段に表示する表示データを生成する表示データ生成手段を備え、
前記制御手段は、前記信号受信手段が経時的に磁気共鳴信号を受信するよう制御し、
前記画像再構成手段は、前記経時的に受信した磁気共鳴信号から、それぞれ画像を再構成し、
前記表示データ生成手段は、前記再構成された画像の、信号強度の時間的な変化が極大値を持つ画素を、他の画素と異なる表示として前記表示データを生成すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記表示データ生成手段は、各画素について、前記信号強度の時間的変化の近似式を決定し、当該近似式が極大値を持つか否かを判別することにより、前記時間的な変化が極大値を持つ画素を特定する極大値判別手段を備えること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記表示データ生成手段は、前記極大値を持つ画素それぞれについて、当該極大値の出現順を特定可能な情報を付与し、所定の出現順の画素について、前記他の画素と異なる表示とすること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
請求項3記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記表示データ生成手段は、前記極大値を持つ画素の中で、出現順の遅い画素から所定数の画素について、前記他の画素と異なる表示とすること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記信号受信手段は、前記被検体に投与された物質からの磁気共鳴信号を受信すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
請求項1記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記信号受信手段は、19F原子核からの磁気共鳴信号を受信すること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記近似式は、多項式であること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
請求項2記載の磁気共鳴イメージング装置であって、
前記近似式は、指数関数であること
を特徴とする磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−22690(P2010−22690A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189601(P2008−189601)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】