説明

磁気共鳴イメージング装置

【課題】撮像領域を狭めることなく磁性材保持板14の温度分布を均一にでき、小さな渦電流を発生させながら変動磁場を減衰できるMRI装置を提供する。
【解決手段】被検体の撮像領域に静磁場を発生させる磁石と、パルス電流を流し撮像領域に磁場強度が勾配した磁場を発生させるとともに不均一に発熱して低温領域とその低温領域より高温になる高温領域が生じる傾斜磁場コイルと、傾斜磁場コイルに沿って配置され複数の磁性材13を保持し静磁場の均一度を向上させる磁性材保持板14を備えたMRI装置において、磁性材保持板14は、スリット19を備えた良導体であって、高温領域に近接する高温近接領域29と低温領域に近接する低温近接領域37、38を有し、スリット19は、高温近接領域29と低温近接領域37、38の間を横切らないように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の磁性材を保持して撮像領域における静磁場の均一度を向上させる磁性材保持板を備えた磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は、均一な静磁場中に置かれた被検体に高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して、被検体の物理的、化学的性質を示す断面画像を得る装置であり、特に、医療用として用いられている。MRI装置では、電磁石装置が、被検体が挿入される撮像領域に均一な静磁場を生成し、磁性材保持板が、複数の磁性材を保持して撮像領域における静磁場の均一度を向上させ、傾斜磁場コイルが、その撮像領域に位置情報を付与するために空間的に磁場強度が傾斜した傾斜磁場をパルス状に発生させ、RFコイルが、被検体に高周波パルスを照射して核磁気共鳴現象を起こし、受信コイルが、その核磁気共鳴現象に起因する被検体からの磁気共鳴信号を受信し、最後に、コンピュータシステムが、受信した磁気共鳴信号と前記位置情報を処理して断面画像を得ている。
【0003】
そして、MRI装置においては、性能向上させるために、静磁場の高強度化と、傾斜磁場の高強度化と、傾斜磁場のパルス駆動の高速化が図られている。静磁場強度が高い程より鮮明な画像と多様な断面画像を得ることができ、傾斜磁場が高強度化・高速化する程より画質が向上でき、撮影時間が短縮できる。傾斜磁場の高強度化・高速化は、傾斜磁場コイルの駆動電源の大電流化とそのスイッチングの高速化により可能となる。これにより、高速撮像法が実用化され、近年盛んに使用されるようになっている。
【0004】
しかし、静磁場強度と傾斜磁場強度が高くなると、傾斜磁場コイルにはパルス状の電流が流れるので、磁石装置と傾斜磁場コイルとの間に生じる振動電磁力も大きくなる傾向がある。振動電磁力は傾斜磁場コイルを揺らし、傾斜磁場コイルが取り付けられている磁石装置を振動させる。磁石装置が振動すると静磁場の均一性が悪化し断面画像に乱れが生じる原因になると考えられる。また、傾斜磁場の高強度化により大電流が流れる傾斜磁場コイルは発熱しやすく、傾斜磁場コイルに沿って置かれる磁性材保持板が温度変化するので、保持している磁性材の温度が変化し、静磁場の均一性が悪化する原因になると考えられる。
【0005】
前記振動電磁力を低減する手段としては、例えば特許文献1に記載されるように、磁石装置の振動による変動磁場を低抵抗率の導体板に渦電流を起こさせることよって低減することが提案されている。また、磁性材保持板の温度変化に対しては、傾斜磁場コイル内に水などの冷媒を流して除熱することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4037272号公報(特に、図2参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、変動磁場内に導体板を置くと、導体板に大きな渦電流が生じ、この渦電流に起因する磁場が静磁場の均一性を悪化させると考えられる。ただ、渦電流が熱に変わって減少することにより変動磁場を減衰させるので、小さな流路で渦電流を発生させることが好ましいと考えられる。また、傾斜磁場コイル内に冷媒を流すシステムを形成することは、必然的に、被検体が挿入される撮像領域を狭め、被検体に閉所感を抱かせると考えられる。
【0008】
そこで、傾斜磁場コイル内に冷媒を流すシステムを用いて撮像領域を狭めることなく、小さな渦電流を発生させながら変動磁場を減衰させられれば好適である。磁性材保持板の温度変化による静磁場の均一性の悪化の原因は、磁性材保持板の面内の温度変化が均一でなく、磁性材保持板の面内に高低の温度分布が生じているためであると考えられた。すなわち、第一義は、磁性材保持板の上昇した温度を下げることでなく、磁性材保持板の温度が上昇しても、その温度分布が均一であり、温度分布が均一であれば冷媒を流すシステムは省くことができると考えられた。
【0009】
そこで、本発明の目的は、撮像領域を狭めることなく磁性材保持板の温度分布を均一にでき、小さな渦電流を発生させながら変動磁場を減衰できるMRI装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、被検体の撮像領域に静磁場を発生させる磁石と、パルス電流を流し前記撮像領域に磁場強度が勾配した磁場を発生させるとともに不均一に発熱して低温領域と前記低温領域より高温になる高温領域が生じる傾斜磁場コイルと、前記傾斜磁場コイルに沿って配置され複数の磁性材を保持し前記静磁場の均一度を向上させる磁性材保持板を備えたMRI装置において、
前記磁性材保持板は、スリットを備えた良導体であって、前記高温領域に近接する高温近接領域と前記低温領域に近接する低温近接領域を有し、
前記スリットは、前記高温近接領域と前記低温近接領域の間を横切らないように設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撮像領域を狭めることなく磁性材保持板の温度分布を均一にでき、小さな渦電流を発生させながら変動磁場を減衰できるMRI装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング(MRI)装置の斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るMRI装置の縦断面図である。
【図3】傾斜磁場コイルの分解斜視図である。
【図4】傾斜磁場コイルの平面図であり、高温領域と低温領域の発生状況を示した図である。
【図5A】磁性材保持板の平面図であり、高温近接領域と低温近接領域と渦電流の発生状況を示した図である。
【図5B】図5AのA−A方向の矢視断面図である。
【図6】本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の縦断面図であり、振動磁場の発生原因を説明するための図である。
【図7A】本発明の第1の実施形態に係るMRI装置の撮像領域における静磁場の強度分布図である。
【図7B】従来技術のMRI装置の撮像領域における静磁場の強度分布図である。
【図7C】傾斜磁場コイルの振動周波数に対する、MRI装置の撮像領域における静磁場の均一度のグラフである。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るMRI装置の磁性材保持板の平面図であり、高温近接領域と低温近接領域と渦電流の発生状況を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1に、本発明の第1の実施形態に係る磁気共鳴イメージング(MRI)装置21の斜視図を示す。MRI装置21によれば、被検体7を均一な静磁場になっている撮像領域9中に置いて、高周波パルスを照射したときに生じる核磁気共鳴現象を利用して、被検体7の物理的、化学的性質を示す断面画像を得ることができる。
【0015】
MRI装置21は、電磁石装置22を有し、電磁石装置22は、撮像領域9に均一な静磁場を生成する。電磁石装置22は、外側に上下一対の真空容器1を備える上下一対の静磁場発生部と、上下一対の真空容器1を互いに離間させて支持する連結柱12を有している。被検体7はベッド23に横たえられたまま、上下一対の真空容器1の間に挿入され、被検体7の画像化の部位を撮像領域9に置けるようになっている。また、真空容器1の撮像領域9側には、RFコイル11が設けられている。
【0016】
上下一対の真空容器1は、共通の中心軸(z軸)に対して概ね軸回転対称の円盤形状をし、撮像領域9を挟んでいる。静磁場の向き6はz軸と平行になっている。なお、MRI装置21の構造の理解を容易にするために、xyz座標を設定しており、前記z軸上の上下一対の真空容器1の中間(撮像領域9の中心)に、座標原点を設定している。座標原点から連結柱12へ向かう方向に沿うようにx軸を設定し、x軸に直角のベッド23の挿入方向に沿うようにy軸を設定している。
【0017】
図2に、本発明の第1の実施形態に係るMRI装置21の縦断面図を示す。MRI装置21では、磁性材保持板(シムトレイ)14が、撮像領域9における静磁場の均一度を向上させ、傾斜磁場コイル5が、その撮像領域9に位置情報を付与するために空間的に磁場強度が傾斜した傾斜磁場10をパルス状に発生させ、RFコイル11が、被検体7に高周波パルスを照射して核磁気共鳴現象を起こし、受信コイル(図示省略)が、その核磁気共鳴現象に起因する被検体7からの磁気共鳴信号を受信し、最後に、コンピュータシステム(図示省略)が、受信した磁気共鳴信号と前記位置情報を処理して断面画像を取得している。
【0018】
傾斜磁場コイル5は、上下一対あり、真空容器1の撮像領域9の側に配置されている。傾斜磁場コイル5は、撮像領域9において、任意の方向に静磁場の向き6と同じ方向の磁束密度(磁場強度)が傾斜した傾斜磁場10をパルス状に発生させる。通常、図2に示すy軸方向に傾斜磁場10を発生できるだけでなく、x軸方向とz軸方向の3方向に独立な傾斜磁場10を発生できるような機能を持つ。傾斜磁場コイル5は、支持脚15を介して真空容器1に支持されている。
【0019】
磁性材保持板(シムトレイ)14は、上下一対あり、真空容器1の撮像領域9の側で、真空容器1と傾斜磁場コイル5の間に、真空容器1と傾斜磁場コイル5に沿うように配置されている。磁性材保持板(シムトレイ)14に、小片の磁性材(シム)13(図5B参照)を複数個配置することで、撮像領域9での静磁場強度の均一度を調整し向上させることができる。RFコイル11は、上下一対あり、傾斜磁場コイル5の撮像領域9の側に配置されている。
【0020】
真空容器1内には、円環状の超電導コイル(主コイル)3、超電導コイル(シールドコイル)4と磁性体(図示省略)が、z軸を中心軸とする同軸上に配置されている。超電導コイル3、4は、輻射シールド2および冷媒である液体ヘリウム(He)を満たした冷却容器8内に納められている。冷却容器8は、支持脚25を介して真空容器1に支持されている。
【0021】
図3に、一対の内の上側の傾斜磁場コイル5の分解斜視図を示す。下側の傾斜磁場コイル5は、この上側の傾斜磁場コイル5の対称構造になる。傾斜磁場コイル5は、メインコイル31〜33と、シールドコイル34〜36とを有している。メインコイル31は、x軸方向に並ぶ2つの渦巻中心30を有し、x軸方向に磁場強度が傾斜した傾斜磁場を撮像領域9に発生させる。メインコイル32は、y軸方向に並ぶ2つの渦巻中心30を有し、y軸方向に磁場強度が傾斜した傾斜磁場を撮像領域9に発生させる。メインコイル33は、中央に1つの渦巻中心30を有し、z軸方向に磁場強度が傾斜した傾斜磁場を撮像領域9に発生させる。シールドコイル34は、中央に1つの渦巻中心30を有し、メインコイル33が撮像領域9以外に発生させた磁場をキャンセルする。シールドコイル35は、x軸方向に並ぶ2つの渦巻中心30を有し、メインコイル31が撮像領域9以外に発生させた磁場をキャンセルする。シールドコイル36は、y軸方向に並ぶ2つの渦巻中心30を有し、メインコイル32が撮像領域9以外に発生させた磁場をキャンセルする。
【0022】
メインコイル31〜33と、シールドコイル34〜36には、傾斜磁場を発生させるために通電され、発熱・昇温する。昇温は、発熱で生じた熱が放熱し難い箇所で生じるので、例えば、メインコイル31、32と、シールドコイル35、36では、渦巻中心30を中心とするその周辺の領域で昇温すると考えられる。そして、その領域から離れる程温度は上昇しなくなり低温に維持されると考えられる。また、メインコイル33とシールドコイル34では、巻き線密度の影響も加味され、渦巻中心30を中心とする広範囲の周辺領域で昇温すると考えられる。そして、外周領域は低温に維持されると考えられる。
【0023】
図4に、傾斜磁場コイル5の平面図を示す。傾斜磁場コイル5の表面上には、メインコイル31〜33と、シールドコイル34〜36とによって昇温した高温領域26が4箇所生じる。図4に示した閉ループの矢印は、メインコイル32(図3参照)とシールドコイル36に流れる電流を模式的に示したものであり、閉ループの矢印の中央が渦巻中心30になっている。この渦巻中心30の周辺に高温領域26が生じている。高温領域26は、y軸上に2箇所生じている。そして、y軸上には、2箇所の高温領域26の前後に、計3箇所の低温領域27が生じている。
【0024】
同様に、メインコイル31(図3参照)とシールドコイル35によって、高温領域26が、2箇所、x軸上に生じている。そして、x軸上には、2箇所の高温領域26の前後に、計3箇所の低温領域27が生じている。なお、メインコイル33(図3参照)とシールドコイル34は、4箇所の高温領域26のさらに高めるように機能している。
【0025】
そして、4箇所の高温領域26から最も離れた領域、4箇所に、高温領域26はもちろん低温領域27より温度が低い低温領域28が生じている。
【0026】
図5Aに、磁性材保持板14の平面図を示し、図5Bに、図5AのA−A方向の矢視断面図を示す。磁性材保持板14は、良導体であり、材質としては、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、超電導材の少なくとも1つを含んで構成することが好ましい。良導体であれば、磁性材保持板14の面方向の電気抵抗を小さくでき、熱伝導を良くすることができる。磁性材保持板14には、複数の嵌め込み孔20が設けられている。この嵌め込み孔20に、適宜、複数の磁性材13を嵌め込んで保持することで、撮像領域9における静磁場の均一度を向上させている。
【0027】
磁性材保持板14は、傾斜磁場コイル5に沿うように近接して配置されている(図2参照)ので、傾斜磁場コイル5からの輻射熱等の熱伝導により、温度分布が生じている。図5Aと図4を比較すると、前記高温領域26に近接する領域に、高温となった高温近接領域29が生じている。また、前記低温領域27に近接する領域に、低温を維持する低温近接領域37が生じている。前記低温領域28に近接する領域に、低温を維持する低温近接領域38が生じている。低温近接領域38のほうが、低温近接領域37より低温に維持されている。
【0028】
磁性材保持板14には、複数本のスリット19が設けられている。スリット19は、円盤状の磁性材保持板14の半径方向に放射状に設けられている。また、スリット19は、x軸を対称軸とする線対称に設けられ、y軸を対称軸とする線対称に設けられている。スリット19は、高温近接領域29と低温近接領域37を概ね分割している。x軸上又はy軸上に配置されたスリット19(19a)は、高温近接領域29から低温近接領域37への方向に沿って設けられている。x軸とy軸とから45度傾いて配置されたスリット19(19b)は、低温近接領域38を概ね分割している。こうして、スリット19は、高温近接領域29と低温近接領域37、38の間を横切らないように設けられているので、高温近接領域29の熱は、良導体である磁性材保持板14を最短経路で伝導して、低温近接領域37、38の温度を上昇させ、磁性材保持板14の面内の温度分布を均一にすることができる。そこに嵌め込まれている複数の磁性材13の温度もばらつきが小さくなり、撮像領域9における静磁場の均一度を高精度に維持することができる。
【0029】
また、複数のスリット19は、後述する振動磁場により発生する渦電流の流路を遮断し、小さな渦電流18のみを発生させている。渦電流18は、x軸とy軸に対して、対称な位置に発生し、対称となるように流れている。この対称性により、断面画像を乱すような磁場の発生を抑制することができる。なお、図5Aでは、渦電流18の流れ方向も考慮すると、x軸に対して対称になっている渦電流18の発生のタイミングでの渦電流18を記載している。このタイミングの前後のタイミングでは、渦電流18は、y軸に対して対称になる方向の流れを発生させている。
【0030】
なお、図5Aでは、スリット19によって、磁性材保持板14は分割されておらず、磁性材保持板14は一体物の円盤形状となっているが、それぞれのスリット19を長さ方向に伸ばして、連結させ、例えば二等分割や、四等分割や、八等分割を行ってもよい。この場合は、可搬性、及び、取り付け時の作業性を向上させることができる。
【0031】
図6に、MRI装置21が振動磁場によって振動している様子を示す。なお、実際の振動の振幅は小さく、目視できる程度ではないので、理解を容易にするために、振幅を実際より大きくして描いている。ここで、図6を用いて電磁石装置22の振動に伴って発生する変動磁場について説明する。傾斜磁場コイル5にパルス電流が通電すると、電磁石装置22による静磁場中でローレンツ力が生じ、傾斜磁場コイル5が振動する。傾斜磁場コイル5は電磁石装置22の真空容器1に支持脚15で支持されているので、振動は支持脚15を伝播して真空容器1を加振する。さらに、真空容器1内部の超電導コイル3、4や磁性体(図示省略)にもそれぞれの支持脚25等を介して振動が伝播する。
【0032】
静磁場を発生させる超電導コイル3、4や磁性体が振動すると、静磁場の均一性が乱れた振動磁場16が発生する。同時に、真空容器1などの金属構造物には、時間的に変動する振動磁場16によって渦電流17が発生する。この渦電流17は超電導コイル3、4や磁性体が振動する場合、または、真空容器1などの金属構造物が振動した場合のどちらでも発生する。
【0033】
磁性材保持板14も良導体であるので、真空容器1と同様に渦電流18が生じ、磁性材保持板14は撮像領域9に近接しているため、渦電流18による磁場が振動磁場16となって画像に影響を与える。
【0034】
このため、図5Aに示すように、第1の実施形態では磁性材保持板14を良導体として、振動により渦電流18を発生させながらも、渦電流18の流路を妨げるようなスリット19を設ける。これにより、振動による渦電流18は低減し、渦電流磁場による静磁場の均一性の悪化を押さえることができ、かつ、熱伝導の良い良導体とすることで磁性材保持板14さらには磁性材13の温度が均一に保たれるため、鮮明な画像を得ることが可能になる。
【0035】
図7Aに、本発明の第1の実施形態(スリット有り)に係るMRI装置21の撮像領域9における静磁場の強度分布図を示し、図7Bに、従来技術(スリット無し)のMRI装置の撮像領域9における静磁場の強度分布図を示す。これらは、傾斜磁場コイル5が、振動周波数f1で振動している場合を数値シミュレーションにより解析したものである。振動周波数f1は、傾斜磁場コイル5の共振周波数に相当し、振動周波数f1においては振動振幅が大きくなる傾向がある。これより、従来技術では、平均磁場強度AVEに対して±3αの範囲で磁場強度が変動(乱れ)するのに対して、本発明では、渦電流を低減できるので、平均磁場強度AVEに対して±1αの範囲で磁場強度が変動するだけで乱れを低減できる。図7Cに、傾斜磁場コイル5の振動周波数に対する、撮像領域9における静磁場の均一度の関係を、数値シミュレーションにより示す。振動周波数f1(共振周波数)も含め、振動周波数全域において、本発明のMRI装置21によれば、従来技術よりも乱れが小さく均一度を向上させることができる。
【0036】
(第2の実施形態)
図8に、本発明の第2の実施形態に係るMRI装置の磁性材保持板14の平面図を示す。第2の実施形態のMRI装置が、第1の実施形態のMRI装置21と異なっているのは、スリット19の配置である。一方、高温近接領域29と低温近接領域37、38は、第1の実施形態と同様に発生している。また、第1の実施形態と同様に、スリット19(19a)が、x軸上とy軸上において、磁性材保持板14の半径方向に配置されている。
【0037】
そして、スリット19の配置の異なる点は、スリット19cが、磁性材保持板14の半径方向に直交する方向に設けられ、高温近接領域29において、スリット19aとクロスしている点である。そして、スリット19cは、高温近接領域29から低温近接領域38への方向に沿って設けられている。また、スリット19d、19eも、磁性材保持板14の半径方向に直交する方向に設けられ、高温近接領域29から低温近接領域38への方向と平行に設けられている。高温近接領域29から低温近接領域38への熱伝導の経路が、主経路と考えられるところ、スリット19(19a、19c、19d、19e)は、高温近接領域29と低温近接領域38の間を横切っておらず、熱伝導の最短経路を確保している。このため、高温近接領域29で発生した熱は低温近接領域38に伝導して高温近接領域29の温度を下げるとともに低温近接領域38の温度を上昇させ、磁性材保持板14の面内の温度を均一にすることができる。
【0038】
また、複数のスリット19(19a、19c、19d、19e)は、渦電流の流路を、第1の実施形態よりさらに遮断し、第1の実施形態の渦電流18より小さな渦電流18(18a、18b、18c)を発生させ、渦電流18を一層低減させている。渦電流18a、18b、18cはそれぞれ、x軸とy軸に対して、対称な位置に発生し、対称となるように流れている。この対称性により、断面画像を乱すような磁場の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 真空容器(静磁場発生部)
3 超電導コイル(主コイル)
4 超電導コイル(シールドコイル)
5 傾斜磁場コイル
9 撮像領域
13 磁性材(シム)
14 磁性材保持板(シムトレイ)
15 傾斜磁場コイルの支持脚
16 振動磁場
17 振動により真空容器に流れる渦電流
18、18a、18b、18c 振動により磁性材保持板に発生する渦電流
19、19a、19b、19c、19d、19e スリット
20 嵌め込み孔
21 磁気共鳴イメージング装置(MRI装置)
22 電磁石装置(磁石)
26 高温領域
27、28 低温領域
29 高温近接領域
37、38 低温近接領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の撮像領域に静磁場を発生させる磁石と、パルス電流を流し前記撮像領域に磁場強度が勾配した磁場を発生させるとともに不均一に発熱して低温領域と前記低温領域より高温になる高温領域が生じる傾斜磁場コイルと、前記傾斜磁場コイルに沿って配置され複数の磁性材を保持し前記静磁場の均一度を向上させる磁性材保持板を備えた磁気共鳴イメージング装置において、
前記磁性材保持板は、スリットを備えた良導体であって、前記高温領域に近接する高温近接領域と前記低温領域に近接する低温近接領域を有し、
前記スリットは、前記高温近接領域と前記低温近接領域の間を横切らないように設けられていることを特徴とする磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記スリットは、前記高温近接領域と前記低温近接領域の少なくとも一つを分割していることを特徴とする請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
複数の前記スリットは互いに、前記傾斜磁場コイルが発生させる磁場の前記勾配の方向に平行な対称軸に対して対称な位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記磁性材保持板には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、超電導材の少なくとも1つが含まれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記磁石は、前記撮像領域を挟む2つの静磁場発生部を有し、
前記磁性材保持板は、前記静磁場発生部の前記撮像領域側に設けられ、円盤形状又は分割可能な円盤形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記スリットは、前記円盤の半径方向に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記スリットは、前記円盤の半径方向に直交する方向に設けられていることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
前記スリットは、前記高温近接領域から前記低温近接領域への方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
前記スリットは、前記高温近接領域においてクロスしていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の磁気共鳴イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−72433(P2011−72433A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225539(P2009−225539)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】