説明

磁気粘性流体流動型制振装置

【課題】磁気粘性流体を利用する制振装置を簡易な構造とし、安価に提供し、また継続して安定した性能を発揮させる。
【解決手段】内部に磁気粘性流体を充填したシリンダ1内を軸線方向に移動可能なピストン3により第1,第2の隔室9,10に区画し、ピストン3に固定されたピストンロッド2をシリンダ1に出入り自在に挿入する。第1の隔室9と第2の隔室10との間に磁気粘性流体を流通させるために、ピストン3にオリフィス11を設ける。オリフィス11の上下に位置し、磁気粘性流体の粘度を増すための磁界を形成する永久磁石12を設ける。支持体又は被支持体の一方にシリンダ1を連結し、他方にピストンロッド2を連結して、シリンダ1内のピストン3の相対移動をオリフィス11に流れる磁気粘性流体の流動抵抗により妨げて振動を減衰させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁界により粘度が増し流動抵抗が高まる特性を有する磁気粘性流体を利用し、振動に伴うピストンの移動により磁気粘性流体を磁界中に流通させて振動を減衰させる磁気粘性流体流動型制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダの内部をピストンで軸線方向に第1及び第2の圧力室に区画し、ピストンに固定されたピストンロッドをシリンダに出入り自在に挿入すると共に、両圧力室に作動油を充填した油圧式制振装置がある(特許文献1参照)。ピストンロッドには、第1,第2の圧力室間を連通させる流通路上に弁機構を設けている。
また、シリンダ内をピストンで第1及び第2の隔室に区画し、ピストンに固定されたピストンロッドをシリンダに出入り自在に挿入し、シリンダの内部に磁気粘性流体を充填した制振装置がある(特許文献2参照)。シリンダの両隔室間には、シリンダの外部においてバイパス管を連通させ、内蔵の電磁石で磁界を形成してこの中に磁気粘性流体を流通させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−230230公報
【特許文献2】特開2001−165229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の油圧式の制振装置においては、ピストンに弁機構を組み込む構造が複雑で高価になるし、精密部品である弁の耐久性、安定性の面で信頼性に難点があり、また性能調整を厳格な精度で行わなければならず時間がかかる煩雑な保守作業となる。
磁気粘性流体を用いた制振装置においては、油圧式の作動油に比べて流体が高価なため、ダンパの大型化(大容量化)に伴いさらに製作コストが嵩む。また、大容量化に対応して電磁石を大型化すると、バイパス管が嵩張って余計な設置スペースを確保する必要があり、また振動の減衰特性を切り替える際の電磁石のコイルの応答性が悪化する。流体中の強磁性微粒子の沈降による流体の変質により性能が変化する。
そこで、本発明は、簡易な構造とすると共に、磁気粘性流体の使用量を少なくでき、製作コストを抑さえると共に、小型化を可能にし、長期にわたり安定した性能を発揮でき、また振動に対して迅速に対応できるし、流体の変質を容易に防ぐ磁気粘性流体流動型制振装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明においては、内部に磁気粘性流体を充填したシリンダ1内を軸線方向に移動可能なピストン3により第1及び第2の隔室9,10に区画し、ピストン3が固定されたピストンロッド2をシリンダ1に出入り自在に挿入し、第1,第2の隔室9,10との間をオリフィス11を介して磁気粘性流体を流通させ、このオリフィス11に、磁気粘性流体の粘度を増すための磁界を形成する永久磁石12をピストン3に設けて磁気粘性流体流動型制振装置を構成する。支持体又は被支持体の一方にシリンダ1を連結し、他方にピストンロッド2を連結して、シリンダ1内のピストン3の相対移動をオリフィス11に流れる磁気粘性流体の流動抵抗により妨げて振動を減衰させる。
オリフィス11は、ピストン3を軸線方向に貫通させ、あるいはシリンダ13とピストン15との隙間で形成する。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、ピストンにオリフィスを設け流体の流れを絞るため、精密部品である弁機構を組み込むことなく構造が極めて簡易になり、当初にオリフィスの寸法及び磁界強度を設定すれば、継続して所期の性能を発揮し、その後の煩雑な調整作業を不要とし、信頼性が向上する。磁気粘性流体の実質的な必要量が狭隘なオリフィスを流通するものであれば足り、大容量化しても製作コストを抑えることができる。磁気粘性流体の流動抵抗を高めるのに、永久磁石をピストンに組み込むので、大型化しても特別の設置スペースを確保する必要がないし、振動の減衰特性を制御する電磁石を用いず、振動に対し迅速に対応できる。複雑な制御がなく動作するので、流体中の強磁性微粒子の沈降を簡単に再拡散させることができ、流体の変質を容易に防止する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係る磁気粘性流体流動型制振装置の縦断面図である。
【図2】ピストンの分解斜視図である。
【図3】他の実施形態に係る磁気粘性流体流動型制振装置の縦断面図である。
【図4】ピストンの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の一形態を図面を参照して説明する。
図1において、本実施形態に係る制振装置は、円筒状のシリンダ1と、シリンダ1を軸線方向に出入り自在に貫通するピストンロッド2と、ピストンロッド2の中間部に固定されたピストン3とを備えている。
【0009】
シリンダ1は、図示しない構築物のような支持体又は被支持体の一方に引手7及び支持部材4を介して連結される。シリンダ1の内部は摺動自在に気密に嵌合するピストン3によって隔室9,10に仕切られる。これら隔室9,10には、オイル等の媒体中に強磁性の微粒子を混合した磁気粘性流体が充填されている。磁気粘性流体は、磁場に反応して粘度が増し、流動抵抗が高くなる性質を有する。
【0010】
ピストン3は、支持体又は被支持体の他方に引手8を介して連結される。ピストン3には、シリンダ1の隔室9,10を連通させるオリフィス11が前後方向にわたって上下一対設けられている。図2に示すように、オリフィス11は、ピストン3内に軸線方向に固定される棒状体11aの中心軸上に貫かれた内部空間で形成される。棒状体11aの側部の対向位置の凹み部11bに上下方向の磁界を形成する永久磁石12が固定される。オリフィス11は隔室9と10との間を流れる磁気粘性流体の流れを絞ると共に磁界により流動抵抗をさらに増す。
【0011】
この制振装置は、振動により支持体と被支持体との間に相対的変位が生じると、ピストンロッド2がシリンダ1内に押し込まれ、あるいはそれから引き出され、ピストン3が移動する。ピストン3の変位により隔室9,10の容積が変動して、その内部の磁気粘性流体がオリフィス11を通じて流動する。このとき、オリフィス11で磁気粘性流体の流れが絞られると共に、永久磁石12によって形成された磁界によって磁気粘性流体の粘度が増して流動抵抗が大きくなり、ピストン3の移動を妨げて振動を減衰させる。この振動の減衰力は、オリフィス11の開口面積及び永久磁石の磁界強度を予め適宜調整して設定される。
【0012】
なお、オリフィス11をピストン3に複数設ければ、必要に応じて所望数を塞ぐことにより、減衰力を大小広い範囲で容易に調整することができる。
【0013】
他の実施形態を図3に示す。この実施形態に係る制振装置においては、シリンダ13と、シリンダ13の一端部に軸線方向へ出入り自在に挿入されるピストンロッド14と、ピストンロッド14の一端部に固定されたピストン15とを備えている。
【0014】
シリンダ13は、図示しない構築物のような支持体又は被支持体の一方に引手16及び支持筒17を介して連結される。シリンダ13の内部はピストン3によって隔室19,20に仕切られる。これら隔室19,20には、先の実施形態におけると同様な磁気粘性流体が充填される。
【0015】
ピストンロッド14の一端部は、支持体又は被支持体の他方に引手16を介して連結される。ピストン15周りには、シリンダ13との間に、図4に示すように、隔室19,20を連通させるわずかな隙間により形成された環状オリフィス21が設けられる。ピストン15は、ピストンロッド14の先端に一体に形成された端板15aと、端板15aから間隔を置いてピストンロッド14に固着された押えリング15bと、ピストンロッド14上の端板15aと押えリング15bとの間に軸線方向に交互に隙間なく並べられた複数のリング状の永久磁石15c及びリング15dとにより構成される。永久磁石15cは、隔室17,18間を環状オリフィス21を通じて流通する磁気粘性流体の流動抵抗を増すためにシリンダ13との間に半径方向の磁界を形成する。永久磁石15c周りには、永久磁石15cが環状オリフィス21に形成する磁界を妨げないカバーリング15eが重なる。
【0016】
この制振装置は、振動により支持体と被支持体との間に相対的変位が生じると、ピストンロッド14がシリンダ13内に押し込まれ、あるいはそれから引き出され、ピストン15が移動する。ピストン15の変位により隔室17,18の容積が変動して、その内部の磁気粘性流体が環状オリフィス21を通じて移動する。このとき、環状オリフィス21で磁気粘性流体の流れが絞られると共に、永久磁石15cによる磁界に作用して磁気粘性流体の粘度が増して流動抵抗が大きくなり、ピストン3の移動を妨げて振動を減衰させる。この振動の減衰力は、環状オリフィス21の開口面積及び永久磁石の磁界強度を予め適宜調整して設定される。
【0017】
なお、上記二つの実施形態においては、油圧式制振装置におけると同様に、シリンダの隔室に流体の過不足を調整するためのリザーバや、温度変化による流体の体積変動を吸収するために内圧を付与するアキュムレータを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は、磁気粘性流体を利用した制振装置を、簡易な構造とし、製作コストを抑制すると共に小型化を可能にし、また所期の性能を継続して発揮させるのに有効である。
【符号の説明】
【0019】
1 シリンダ
2 ピストンロッド
3 ピストン
9 隔室
10 隔室
11 オリフィス
12 永久磁石
13 シリンダ
14 ピストンロッド
15 ピストン
15c 永久磁石
19 隔室
20 隔室
21 環状オリフィス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体又は被支持体の一方に連結され、内部に磁気粘性流体が充填されるシリンダと、
このシリンダ内を第1及び第2の隔室に区画し、シリンダ内を軸線方向に移動可能なピストンと、
前記ピストンに固定されて前記シリンダに出入り自在に挿入され、支持体又は被支持体の他方に連結されるピストンロッドと、
前記第1の隔室と第2の隔室とを連通させ、前記磁気粘性流体をシリンダ内で流通させるオリフィスとを具備する磁気粘性流体流動型制振装置において、
前記ピストンには、オリフィスに流れる前記磁気粘性流体の流動抵抗を増す磁界を形成するための永久磁石を備えていることを特徴とする磁気粘性流体流動型制振装置。
【請求項2】
前記オリフィスは、前記ピストンを軸線方向に貫通していることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体流動型制振装置。
【請求項3】
前記オリフィスは、前記シリンダと前記ピストンとの隙間で形成されることを特徴とする請求項1に記載の磁気粘性流体流動型制振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−27179(P2011−27179A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173532(P2009−173532)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】