説明

磁気記録媒体、その製造方法、及び磁気記録再生装置

【課題】良好な記録再生特性を有し、高密度の情報の記録再生が可能な磁気記録媒体を提供する。
【解決手段】垂直磁気記録層がグラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層とを含み、グラニュラ膜型記録層は膜面内の磁気結晶粒子が3nmから7nmの平均結晶粒径を有する第1のグラニュラ膜型記録層と、第1のグラニュラ膜型記録層の平均結晶粒径よりも大きい膜面内の平均結晶粒子をもつ磁気結晶粒子を有する第2のグラニュラ膜型記録層を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録技術を用いたハードディスク装置等に用いられる垂直磁気記録媒体及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータを中心に利用されている情報記録、再生を行う磁気記憶装置(HDD)は、その大容量、安価性、データアクセスの速さ、データ保持の信頼性などの理由により、近年徐々に応用の幅を広げ、家庭用ビデオデッキ、オーディオ機器、車載ナビゲーションシステムなど様々な分野で利用されている。HDDの利用の幅が広がるにつれ、その記憶容量の高密度化の要求も増し、近年HDDの高密度化開発はますます激しさを増している。
【0003】
現在市販されているHDDの磁気記録方式として、いわゆる垂直磁気記録方式が近年主流となっている。垂直磁気記録方式は、情報を記録する磁気記録層を構成する磁性結晶粒子が、基板に対して垂直方向にその磁化容易軸を持つ。ここで、磁化容易軸とは、磁化の方向が向きやすい軸のことであり、Co系合金の場合、Coのhcp構造の(0001)面の法線に平行な軸(c軸)である。このため、高密度化の際にも記録ビット間の反磁界の影響が少なく、また高密度化においても静磁気的に安定である。垂直磁気記録媒体は、一般に、基板と、記録時に磁気ヘッドから発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性下地層と、垂直磁気記録層の磁性結晶粒を(0001)面配向させ、かつその配向分散を低減する非磁性シード層and/or非磁性下地層と、硬質磁性材料を含む垂直磁気記録層と、垂直磁気記録層の表面を保護する保護層から形成されている。現行の垂直磁気記録層は、磁性結晶粒子が非磁性物質からなる粒界領域に取り囲まれた、いわゆるグラニュラ構造を有するグラニュラ膜型記録層と、明確な粒子・粒界構造を持たない連続膜的な構造を有する連続膜型記録層との積層膜が主に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このうちグラニュラ膜型記録層は、磁性結晶粒子同士が非磁性粒界領域によって二次元的に、物理的に孤立化された構造となっているため、磁性粒子間に働く磁気的な交換相互作用が低減される。このため、記録・再生特性における遷移ノイズが低減でき、限界ビットサイズを低減することが可能となる。その反面、グラニュラ膜型記録層では粒子間の交換相互作用が低減されているため、粒子の組成、粒径の分散に伴う反転磁界の分散(SFD)が増大してしまう傾向があり、記録・再生特性における遷移ノイズやジッターノイズの増大を招いてしまう。このため、グラニュラ膜型記録層のみでは良好な記録・再生特性を得ることができない。
【0005】
これに対し、連続膜型記録層においては、グラニュラ膜型記録層のような明確な粒子・粒界分離構造を持たないため、磁性結晶粒子間には比較的強い交換相互作用が、二次元的にほぼ均一に働いている。このような記録層を上述のグラニュラ膜型記録層上に積層することにより、グラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子間には、連続膜型記録層を通して、適度な大きさの交換相互作用を、均一に働かせることが可能となる。これにより、上述のSFDを抑制することが可能となり、グラニュラ膜型記録層のみの場合に比べて、記録・再生特性を顕著に向上させることができる。なお、このような効果を得るためには、グラニュラ膜型記録層結晶粒と連続膜型記録層結晶粒の間に磁気的な相互作用が十分働いていることが前提となっており、後述するように、それが劣化した場合には十分な効果が得られない。
【0006】
前述のように、記録ビットサイズの下限値はグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒径に強く依存しているため、HDDの高記録密度化には、グラニュラ膜型記録層の粒径微細化を行う必要がある。グラニュラ膜型記録層の粒径微細化法としては、例えば、シード層を工夫したり、下地層をグラニュラ膜化したりする等の方法で下地層の粒径を微細化し、その上に積層されるグラニュラ膜型記録層粒径を微細化する手法が報告されている(例えば、特許文献2、3参照)。従って、微細な結晶粒径を有する下地層を用いれば、グラニュラ膜型記録層粒径を微細化させることが可能である。
【0007】
一方、現行のグラニュラ膜型記録層では、非磁性下地層の一個の結晶粒子上に一個の磁性結晶粒子がエピタキシャル成長した柱状構造を有している。しかしながら、磁性結晶粒子の膜面内における粒径は膜厚方向に一定ではなく、成長に従って粒径が小さくなる傾向がある。粒子数は膜厚方向で一定のため、グラニュラ膜型記録層の表面では、成長初期部に比べて、粒界領域の面積が増加し磁性結晶粒の面積の合計が減少する傾向、言い換えると、磁性結晶粒子の充填率が低下する傾向となる。上述のような磁性結晶粒径を微細化させたグラニュラ膜型記録層においては、膜表面における粒充填率が、従来のグラニュラ膜型記録層よりも顕著に低下してしまう。
【0008】
従って、磁性結晶粒径を微細化させたグラニュラ膜型記録層上に連続膜記録層を積層すると、グラニュラ膜型記録層表面の磁性結晶粒充填率が顕著に低下しているため、グラニュラ膜型記録層/連続膜記録層界面における上下の磁性結晶粒間の接触面積が低下する。その結果、両層の磁性結晶粒間の交換相互作用が劣化し、前述の磁気特性調整機能が著しく低下する。このため、SFDが十分抑制できず、記録・再生特性が劣化するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−87575号公報
【特許文献2】特開2005−276364号公報
【特許文献3】特開2003−36525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好な記録再生特性を有し、高密度記録を可能とする垂直磁気記録媒体、その製造方法、及びこれを用いた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の垂直磁気記録媒体は、基板と、該基板上に形成された軟磁性下地層と、該軟磁性下地層上に形成された非磁性シード層と、該非磁性シード層上に形成された非磁性下地層と、該非磁性下地層上に形成された垂直磁気記録層とを具備し、
該下地層は膜面内における平均結晶粒径が4nmないし8nmであり、
該垂直磁気記録層は、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層とを含み、
該グラニュラ膜型記録層は膜面内の磁気結晶粒子が3nmから7nmの平均結晶粒径を有する第1のグラニュラ膜型記録層と、第1のグラニュラ膜型記録層の磁気結晶粒子の膜面内の平均結晶粒径よりも大きい膜面内の平均結晶粒子をもつ磁気結晶粒子を有する第2のグラニュラ膜型記録層とを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、基板上に軟磁性下地層を形成する工程、
該軟磁性下地層上に非磁性シード層を形成する工程、
該非磁性シード層上に非磁性下地層を形成する工程、
該非磁性下地層上に、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層を形成した後、連続膜型記録層を形成する工程を含み、
前記非磁性下地層は、その膜面内での平均結晶粒径が4nmないし8nmの範囲にあり、
前記グラニュラ膜型記録層を形成する工程は、前記非磁性下地層上に膜面内の結晶粒子の平均結晶粒径が3nmないし7nmの範囲にある第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程と、該第1のグラニュラ膜型記録層上に、膜面内の結晶粒子が第1のグラニュラ膜型記録層の結晶粒子の平均結晶粒径よりも大きい第2のグラニュラ膜型記録層を形成する工程を含み、
前記第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程は、Si酸化物とCo酸化物とCoCrPt合金とを含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことを含む。
【0013】
本発明の磁気記録再生装置は、基板、該基板上に形成された軟磁性下地層、該軟磁性下地層上に形成された非磁性シード層、該非磁性シード層上に形成された非磁性下地層、及び該非磁性下地層上に形成された垂直磁気記録層を有する垂直磁気記録媒体と、記録再生ヘッドとを具備し、
該下地層は膜面内における平均結晶粒径が4nmないし8nmであり、
該垂直磁気記録層は、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層とを含み、
該グラニュラ膜型記録層は膜面内の磁気結晶粒子が3nmから7nmの平均結晶粒径を有する第1のグラニュラ膜型記録層と、第1のグラニュラ膜型記録層の磁気結晶粒子の膜面内の平均結晶粒径よりも大きい膜面内の平均結晶粒子をもつ磁気結晶粒子を有する第2のグラニュラ膜型記録層とを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好なSNRを示す、高密度記録可能な垂直磁気記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の一例を表す断面図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の別の一例を表す断面図である。
【図3】本発明の磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図である。
【図4】ΔHcとその評価法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の垂直磁気記録媒体は、
基板と、該基板上に形成された軟磁性下地層と、
軟磁性下地層上に形成された非磁性シード層と、
非磁性シード層上に形成された膜面内での平均粒径が4nmないし8nmの範囲である少なくとも一層の非磁性下地層と、
非磁性下地層上に形成された磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層とを有する垂直磁気記録層とを具備し、
グラニュラ膜型記録層は、膜面内の磁気結晶粒子が3nmから7nmの平均粒径を有する第1のグラニュラ膜型記録層と、第1のグラニュラ膜の磁気結晶粒子の膜面内の平均粒径よりも大きい膜面内の平均結晶粒子をもつ磁気結晶粒子を有する第2のグラニュラ膜型記録層とを含む。
【0017】
本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法は、
基板上に軟磁性下地層と、非磁性シード層と、非磁性下地層と、垂直磁気記録層とを順次形成して積層する工程を含み、
垂直磁気記録層を形成する工程は、非磁性下地層上に、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層を形成した後、連続膜型記録層を形成する工程を含み、
非磁性下地層は、その膜面内での平均粒径が4nmないし8nmの範囲にあり、
グラニュラ膜型記録層は平均粒径の異なる二層から構成されており、グラニュラ膜型記録層を形成する工程は、非磁性下地層上に膜面内の結晶粒子の平均粒径が3nmから7nmの範囲にある第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程と、膜面内の結晶粒子が第1のグラニュラ膜型記録層の結晶粒子の平均粒径よりも大きい第2のグラニュラ膜型記録層を形成する工程を含み、
第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程において、Si酸化物とCo酸化物とCoCrPt合金とを含有するスパッタリングターゲットを用いる。
【0018】
第2のグラニュラ膜型記録層する工程において、Si酸化物とCo酸化物とCoCrPt合金とを含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことも可能である。第2のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲットは、そのCoO量が、前記第1のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲット中のCoO量よりも少なくすることができる。第1のグラニュラ膜型記録層及び第2のグラニュラ膜型記録層に使用されるスパッタリングターゲットは、必要に応じてCr酸化物をさらに含むことができる。
【0019】
本発明の磁気記録再生装置は、上述の磁気記録媒体と記録再生ヘッドとを具備することを特徴とする。
【0020】
第1のグラニュラ膜型記録層は、下地層に近い側にあり、以下、微細粒径磁性層という。第2のグラニュラ膜型記録層は、連続膜型記録層に近い側にあり、以下、粒径変調磁性層という。
【0021】
図1は、本発明に係る磁気記録媒体の一例を表す断面図である。
【0022】
図示するように、この磁気記録媒体10は、基板1上に、軟磁性下地層2と、非磁性シード層3と、非磁性下地層4と、グラニュラ膜型記録層5と、連続膜型記録層6と保護層7とが順に積層された構造を有する。グラニュラ膜型記録層5は、微細粒径磁性層5−1と粒径変調磁性層5−2の二層からなる。
【0023】
本発明に係る磁気記録媒体の膜構成
本発明の垂直磁気記録媒体の非磁性基板として、ガラス基板、Al系の合金基板あるいは表面が酸化したSi単結晶基板,セラミックス,及びプラスチック等を使用することができる。さらに,それら非磁性基板表面にNiP合金などのメッキが施されている場合でも同様の効果が期待される。
【0024】
本発明の垂直磁気記録媒体では、基板上に高透磁率な軟磁性下地層を設けている。軟磁性下地層は、垂直磁気記録層を磁化するための磁気ヘッド例えば単磁極ヘッドからの記録磁界を、水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる役目を果たし得る。
【0025】
このような軟磁性層として、例えばCoZrNb,CoB, CoTaZr, FeSiAl,FeTaC,CoTaC,NiFe,Fe,FeCoB,FeCoN,FeTaN等が挙げられる。
【0026】
軟磁性下地層は、二層以上の多層膜であっても良い。その場合、それぞれの層の材料、組成、膜厚が異なっていても良い。また、軟磁性下地層二層を薄いRu層を挟んで積層させた三層構造としても良い。
【0027】
基板と軟磁性下地層との機械的な密着性を向上する目的で、基板と軟磁性層との間に、非磁性密着層を設けても良い。非磁性密着層としては、例えばCrやTiといった材料のほか、これらの合金を用いることができる。
【0028】
本発明の垂直磁気記録媒体には、軟磁性下地層上に、非磁性シード層を設けている。非磁性シード層は、その上に設けられる非磁性下地層の結晶配向性や結晶粒径を制御する機能を有している。非磁性シード層としては、SiやAl−Si, Ru−Si, Pd−Siといった材料や、これらの上にPdやPtを積層した、Si/PdやAl−Si/Pd, Ru−Si/Pd, Pd−Si/Pd, Si/Pt, Al−Si/Pt, Ru−Si/Pt, Pd−Si/Ptといった積層構造が好ましく用いられる。これらの積層構造とした場合、PdまたはPtの膜厚を変化させることで、非磁性下地層の粒径を制御することができる。このほか、Cu表面に薄い窒素堆積層を設けた材料を用いても良い。これらの材料を用いることにより、非磁性下地層の結晶配向性を向上させ、非磁性下地層粒径を微細化することができる。非磁性シード層は、結晶質であっても、非晶質であっても構わない。非磁性シード層は、二層以上の積層構造となっても良い。
【0029】
非磁性下地層は、その上に設けられるグラニュラ膜型記録層の結晶配向性や結晶粒径を制御する機能を有している。本発明の垂直磁気記録媒体では、上述のシード層を用いることにより、非磁性下地層の結晶粒の平均粒径が4nm ないし8nmの範囲となっているここでいう平均粒径とは、膜厚中央付近の平面における平均結晶粒径を示す(以下、同様)。このような平均粒径の小さな非磁性下地層を用いることにより、グラニュラ膜型記録層の平均粒径を微細化することができる。非磁性下地層の結晶粒の平均粒径が、4nmに満たないと、非磁性下地層の結晶配向性が劣化し、8nmを超えると、グラニュラ膜型記録層の結晶粒径の肥大化を招く傾向がある。非磁性下地層の結晶粒の平均粒径が5nmないし7nmの範囲にあると、さらに好ましい。非磁性下地層材料としては、(0001)面配向したhcp構造を有する金属または合金材料を好ましく使用しうる。具体的には、Ruや、Ru合金、Co合金が好ましい。これらの材料を用いることにより、グラニュラ膜型記録層の結晶配向性を向上させることができる。また、非磁性下地層は非磁性結晶粒と、非磁性粒界領域からなるグラニュラ構造を有しても良い。非磁性下地層は、二層以上の積層構造になっても良い。
【0030】
一方、非磁性下地層粒径を上記のように微細化させることなく、グラニュラ膜型記録層粒径のみを微細化させる方法としては、例えばグラニュラ膜型記録層の成膜の際のスパッタリングガスに酸素を添加して成膜する方法が挙げられる。しかしながら、この方法ではグラニュラ膜型記録層のc軸の配向分散が低下してしまい、磁気特性及び記録・再生特性が劣化してしまう傾向がある。
【0031】
本発明の垂直磁気記録媒体の磁気記録層は、グラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層の積層構造からなる。
【0032】
連続膜型記録層は、磁気特性を向上させる目的で用いられる。ここで連続膜型記録層とは、グラニュラ構造のような明確な粒子・粒界構造を持たない、連続膜的な構造を有する記録層を指す。このような連続膜的構造を有する磁性層においては、磁性結晶粒間の交換相互作用が、グラニュラ膜型記録層よりも強く働く。このような記録層をグラニュラ膜型記録層の上に積層することにより、グラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒間の交換相互作用を適度に、かつ均一に調整することができるため、グラニュラ膜型記録層磁性粒子毎のSFDを抑制することができ、記録・再生特性におけるジッターノイズを低減することが可能となる。連続膜型記録層としては、CoCrPt合金や、CoCrPtBといった合金材料や、Co/Pt、Co/Pdといった人工格子膜を用いることができる。
【0033】
グラニュラ膜型記録層は、記録・再生特性におけるビットサイズを低減する目的で用いられる。ここで、グラニュラ膜型記録層とは、個々の磁性結晶粒子を非磁性の粒界領域が、膜面内において二次元的に取り囲んだ、グラニュラ構造を有する層を指す。グラニュラ膜型記録層では個々の磁性結晶粒子が、非磁性粒界領域によって物理的に孤立化されているため、磁性粒子間の交換相互作用を低減させることができ、記録・再生特性における遷移性ノイズを低減させることができる。
【0034】
本発明の垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子材料としては、実質的に(0001)面配向した、CoおよびPtを含有するhcp構造の合金材料が好ましい。hcp構造のCo合金結晶粒が(0001)面配向していると、磁化容易軸が基板面に対して垂直方向に配向し、垂直磁気異方性を発現するため、垂直磁気記録媒体として好ましい。より好ましくは、例えばCo−Pt及びCo−Pt―Cr系の合金材料を使用し得る。これらの合金は、高い結晶磁気異方性エネルギーを有しているため熱揺らぎ耐性が高い。これらの合金材料に、磁気特性を改善する目的で、必要に応じてTaやCu,B,Ndといった添加元素を加えることができる。
【0035】
本発明の垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の非磁性粒界領域材料としては、Si、Cr、Ti等の酸化物が好ましく用いられる。これらの酸化物は、上述のCo−Pt合金とほとんど固溶しないため、磁性結晶粒子間の結晶粒界に析出しやすく、グラニュラ構造を比較的容易に得ることができる。粒界領域を構成する材料は、結晶質であっても、非晶質であっても構わない。
【0036】
磁性結晶粒を形成する合金に対する、粒界領域を構成する上記材料の物質量の割合の合計は、5ないし15モル%の範囲が好ましい。5モルパーセント未満であるとグラニュラ構造を維持するのが困難となり、20モルパーセントを超えるとR/W特性における再生出力が低下する傾向がある。7ないし12モル%の範囲であれば、さらに好ましい。
【0037】
本発明の垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層は、平均粒径の異なる二層の積層構造からなり、連続膜型記録層に近い側の層の平均粒径は、非磁性下地層に近い側の層の平均粒径よりも大きい。
【0038】
グラニュラ膜型記録層では、個々の磁性結晶粒子は非磁性下地層結晶粒子上に柱状にエピタキシャル成長するが、膜面内方向の粒成長は非磁性粒界領域の粒界物質によって妨げられる。このため、上述の非磁性下地層材料上にグラニュラ膜型記録層を形成すると、非磁性下地層の結晶粒径がグラニュラ膜型記録層の結晶粒径に概ね反映され微細な磁性結晶粒を得ることができる。一方、このようなグラニュラ膜型記録層の柱状結晶粒は、結晶粒径が膜厚方向には一定ではなく、膜厚が増すに従って、表面により近い側の平均粒径が小さくなり、粒径領域の面積が増加するように成長が進む傾向にある。すなわち、成長初期部と比較して、表面側では粒充填率が低下する傾向が見られる。平均粒径を、下地層粒径の微細化によって微細化させた場合、従来の粒径・粒径幅のグラニュラ磁気記録層に対して、表面領域での粒充填率が顕著に低下してしまう。このため、連続膜型記録層との界面において、上下層の磁性結晶粒間の接触面積が顕著に低下し、その結果、グラニュラ型記録層と連続膜型記録層間に働く交換相互作用が劣化してしまう。このため、前述のような連続膜型記録層積層による、SFD低減効果が劣化してしまう。本発明の垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層は、平均粒径の異なる二層の積層構造からなり、連続膜型記録層に近い側の層の平均粒径は、非磁性下地層に近い側の層の平均粒径よりも大きくなるように二層構造としているため、グラニュラ型記録層と連続膜型記録層間に働く交換相互作用の劣化が無く、SFDを効果的に低減させることができる。
【0039】
本発明の垂直磁気記録媒体では、微細粒径磁性層の磁性結晶粒の平均粒径が3ないし7nmの範囲にあると好ましい。磁性結晶粒の平均粒径が3nmに満たないと、個々の磁性結晶粒子の記録磁化が熱エネルギーによって不安定となり、平均粒径が7nmを超えると、記録・再生特性における遷移性ノイズが増大する傾向がある。磁性結晶粒の平均粒径が、4nmないし6nmの範囲にあると、さらに好ましい。
【0040】
一方、本発明の垂直磁気記録媒体の粒径変調磁性層の磁性結晶粒の平均粒径は7ないし10nmの範囲にあると好ましい。磁性結晶粒の平均粒径が7nmに満たないと、連続膜型記録層との間に働く交換相互作用が劣化し、平均粒径が10nmを超えると、微細粒径磁性層による遷移性ノイズ低減効果が顕著に現れなくなる傾向がある。粒径変調磁性層の磁性結晶粒の平均粒径が、8nmないし9nmの範囲にあると、さらに好ましい。
【0041】
微細粒径磁性層の上に積層した粒径変調磁性層の粒径を、微細粒径磁性層の粒径よりも増大させる方法としては、例えば、粒径変調磁性層中の磁性結晶粒合金の組成を粒界領域物質に対して相対的に増加させる方法が挙げられる。このほか、スパッタリング成膜におけるスパッタリングガス圧力や、ターゲットへの投入電力といった、成膜条件を調整することでも得られる。
【0042】
本発明の垂直磁気記録媒体では、微細粒径磁性層の、膜面内における粒充填率が、50ないし70%の範囲にあると好ましい。ここで粒充填率とは、膜平面における、結晶粒の面積充填率のことであり、
(結晶粒の面積の和)/{(結晶粒の面積の和)+(粒界領域の面積の和)}
と定義する。
【0043】
前述のようにグラニュラ膜型記録層では、個々の磁性結晶粒子が、非磁性粒界領域によって物理的に孤立化されているため、の磁性粒子間の交換相互作用を低減させているため、非磁性粒界領域の面積を適度に広げ、磁性結晶粒子間の物理的な距離を広げる、すなわち粒充填率を適度に低下させることによって、交換相互作用がさらに低減することができ、記録・再生特性における遷移性ノイズをさらに低減させることができる。発明者らが鋭意検討した結果、微細粒径磁性層の粒充填率が、50ないし70%の範囲にあると好ましいことが明らかとなった。粒充填率が70%を超えると、磁性結晶粒間の交換相互作用が増大し、記録・再生特性が劣化する傾向がある。粒充填率が50%に満たないと、単位面積辺りの記録磁化量が低下し、記録・再生特性における再生信号強度が著しく低下する傾向がある。微細粒径磁性層の粒充填率が、60ないし65%の範囲にあるとさらに好ましいことが実験によって明らかとなった。
【0044】
本発明の垂直磁気記録媒体では、粒径変調磁性層の膜面内における粒充填率は、上述の微細粒径磁性層の粒充填率よりも大きいことが好ましい。微細粒径磁性層の粒充填率よりも大きくしておくことによって、連続膜型記録層と磁性結晶粒との接触面積を増大させ、両層間に働く交換相互作用を増大させることができる。具体的には、粒充填率が 粒充填率が、70ないし90%の範囲にあると好ましい。粒充填率が70%に満たないと、連続膜型記録層との間に働く交換相互作用が劣化し、粒充填率が90%を超えると、微細粒径磁性層による遷移性ノイズ低減効果が顕著に現れなくなる傾向がある。粒径変調磁性層の粒充填率が、80ないし85%の範囲にあるとさらに好ましいことが実験によって明らかとなった。
【0045】
本発明の垂直磁気記録媒体においては、微細粒径磁性層の粒界物質材料としてSi酸化物とCr酸化物を少なくとも含有し、微細粒径磁性層中のCr酸化物組成が粒界変調磁性層中のCr酸化物組成よりも高いことが好ましい。グラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒の粒充填率を低下させる方法としては、磁性結晶粒合金に対して、粒界領域物質の組成を相対的に増加させることである程度可能となる。発明者らが鋭意検討した結果、粒界物質としてCr酸化物組成を増加させることが粒充填率低下に効果が高いことを見出した。粒界変調磁性層中のCr酸化物組成よりも、微細粒径磁性層中のCr酸化物組成を高くすることにより、上述の粒充填率が得られることが明らかとなった。なお、粒界変調磁性層中にCr酸化物を含有していなくても構わない。
【0046】
図2は、本発明に係る磁気記録媒体の別の一例を表す断面図である。
【0047】
図示するように、この磁気記録媒体20は、基板1上に、軟磁性下地層2と、非磁性シード層3と、非磁性下地層4と、グラニュラ膜型記録層5と、連続膜型記録層6と保護層7が順に積層された構造を有する。グラニュラ膜型記録層5は、微細粒径記録層5−3と微細粒径記録層5−1と、非微細粒径記録層5−2の三層からなる。
【0048】
本発明の垂直磁気記録媒体においては、微細粒径記録層が、磁性結晶粒中のCr組成が異なる二層から構成され、非磁性下地層に近い側の層(下側の層)の磁性結晶粒のCr組成を、粒径変調磁性層に近い側の層(上側の層)の磁性結晶粒のCr組成よりも低くすると好ましい。
【0049】
グラニュラ磁性層は、一般にその成長初期部(非磁性下地層との界面付近)においては、グラニュラ構造が形成されているにもかかわらず、磁性結晶粒間の相互作用が増大する傾向にあり、その結果記録・再生特性における遷移性ノイズが増大するという問題が生じてしまう。成長初期部での相互作用増大の原因は明確ではないが、成長初期部におけるCoCrPt磁性結晶粒合金の積層欠陥の有無が一因である可能性がある。発明者らが鋭意検討した結果、微細粒径磁性層のCr組成を低くすると、この成長初期部における相互作用増大が抑制されることを見出した。Cr組成を低くすることで、CoCrPtの積層欠陥量が低下したためではないかと推測している。一方、Crはグラニュラ構造を形成しやすくする作用があるため、成長初期部以外では、Cr量が多い方が粒間相互作用が低減する傾向にある。これらの事実から発明者らが鋭意検討した結果、微細粒径磁性層を二層に分け、非磁性下地層に近い側の層(下側の層)の磁性結晶粒のCr組成を、粒径変調磁性層に近い側の層(上側の層)の磁性結晶粒のCr組成よりも低くすると成長初期部における相互作用低減と、中膜厚部ないし表面側での相互作用低減を両立でき、結果として相互作用低減効果が高いことを見出した。
【0050】
具体的には、下側の層の磁性結晶合金中のCr組成が、0ないし12原子パーセント、上側の層の磁性結晶合金中のCr組成を、12ないし18原子パーセントの範囲にあれば、記録・再生特性におけるSNRが向上し好ましい。下側の層の磁性結晶合金中のCr組成を、8ないし10原子パーセント、上側の層の磁性結晶合金中のCr組成が、14ないし17原子パーセントの範囲にあれば、記録・再生特性におけるSNRがさらに向上し好ましいことが、実験により明らかとなった。
【0051】
グラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層の間に、両層間に働く交換相互作用を調整し、いわゆるECCメディア(Exchange Coupled Composite media)的構成にする目的で、非磁性中間層を設けても良い。具体的には、Ru、Pd、Pt、Irといった材料や、これらの合金を用いることができる。非磁性中間層は、グラニュラ構造を有していても構わない。
【0052】
垂直磁気記録層上には、保護層を設けることができる。保護層としては、例えばC,ダイアモンドライクカーボン(DLC),SiNx,SiOx,CNxがあげられる。
【0053】
本発明によれば、垂直磁気記録層の粒径の微細化と反転磁界分散の抑制を両立することにより、高密度の情報の記録再生が可能な磁気記録媒体が得られる。
【0054】
評価法
各層の結晶粒の平均粒径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて主記録層平面を観察することで確認できる。各層の結晶粒充填率も、同様の方法で評価できる。また、エネルギー分散型X線分析(EDX)を併用すれば、結晶粒や粒径領域の元素の同定及びその組成を評価することができる。
【0055】
各層中の酸化物の同定及び組成の評価は、X線光電子分光法(XPS)で可能である。
【0056】
各層の結晶粒の配向面は、例えば一般的なX線回折装置(XRD)を用いて、θ―2θ法によって評価することが出来る。また、その配向分散はロッキングカーブの半値幅Δθ50によって評価することが出来る。
【0057】
製造法
各層の成膜法としては、真空蒸着法、各種スパッタ法、分子線エピタキシー法、イオンビーム蒸着法、レーザーアブレーション法及び化学気相蒸着法を用いることができる。
【0058】
本発明の垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の成膜法としては、スパッタ法が好ましい。前述のように、スパッタ法であれば、磁性結晶粒径や粒充填率を比較的容易に制御することができる。
【0059】
特に微細粒径磁性層のスパッタ成膜時の圧力は、2Pa以上の高圧とすることが好ましい。スパッタ成膜時の圧力が低いと、粒径が肥大化し、グラニュラ構造が崩れる傾向がある。3ないし6Paの範囲での成膜がより好ましい。
【0060】
微細粒径磁性層の成膜法としては、Co酸化物を含有したターゲットを用いたスパッタ法がより好ましい。前述のように、微細粒径磁性層の粒充填率を低下させる方法としては、微細粒径磁性層の粒界領域のCr酸化物組成を高めることが効果的である。微細粒径磁性層中のCr酸化物組成を高める方法としては、ターゲット中のCr酸化物組成を高めることが挙げられる。一方、発明者らが鋭意検討した結果、Co酸化物を含有させたターゲットを用いるとより好ましいことが明らかとなった。Co酸化物であるCoOは、Cr酸化物であるCr2O3よりも、室温において化学的に不安定であるため、CrはCoOによって酸化される傾向にある。CoO及びCrを含んだターゲットを用いてスパッタリング成膜すると、CrはCoOによって酸化され、粒界領域に容易に析出する。このため、粒界領域の面積が増大し、粒充填率をより好ましく低下させることができる。一方、CoOは成膜プロセス中にほぼ完全に還元され、金属Coとして磁性結晶粒合金中に固溶する。ターゲット中にCoOを含有させることによる粒充填率低減効果は、ターゲット中にCr酸化物を含有させた場合に比べて大きいことが発明者らの検討により明らかとなった。ターゲットとして具体的には、(CoCrPt)−SiO−Cr−CoO混合材料を用いると、微細粒径磁性層の粒充填率をより好ましく低下させることができることが分かった。なお、ターゲット中に添加したCoOは上記のように成膜プロセス中にCr等と酸化・還元反応を起こすため、ターゲット組成と、実際のグラニュラ膜の組成とは、必ずしも一致しないことがある。
【0061】
ターゲット中のCoO組成は、0.5ないし12モル%の範囲であれば好ましく、6ないし10モル%の範囲であればより好ましいことが、実験によって明らかとなった。
【0062】
一方、粒径変調磁性層の成膜法としては、ターゲット中のCoO組成が、微細粒径磁性層成膜に用いるターゲット中のCoO組成よりも低いものを用いると、微細粒径磁性層よりも粒充填率の高い層が比較的容易に得られ、好ましい。
【0063】
ターゲット中のCoOの同定及び組成は、例えばターゲット片を酸等で溶液化し、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)を用いて評価できる。
【0064】
ドライブ
図3に、本発明の磁気記録再生装置の一例を一部分解した斜視図を示す。
【0065】
本発明に係る情報を記録するための剛構成の磁気ディスク61はスピンドル62に装着されており、図示しないスピンドルモータによって一定回転数で回転駆動される。磁気ディスク61にアクセスして情報の記録を行う記録ヘッド及び情報の再生を行うためのMRヘッドを搭載したスライダー63は、薄板状の板ばねからなるサスペンション64の先端に取付けられている。サスペンション64は図示しない駆動コイルを保持するボビン部等を有するアーム65の一端側に接続されている。
【0066】
アーム65の他端側には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ66が設けられている。ボイスコイルモータ66は、アーム65のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、それを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークにより構成される磁気回路とから構成されている。
【0067】
アーム65は、固定軸67の上下2カ所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ66によって回転揺動駆動される。すなわち、磁気ディスク61上におけるスライダー63の位置は、ボイスコイルモータ66によって制御される。なお、図3中、68は蓋体を示している。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0069】
実施例1
2.5インチハードディスク形状の非磁性ガラス基板(コニカミノルタオプト社製MEL5)を、Canon ANELVA社製c−3010型スパッタリング装置の真空チャンバー内に導入した。
【0070】
スパッタリング装置の真空チャンバー内を1×10−5Pa以下に排気した後、基板上に、軟磁性下地層としてCo−Zr−Nb(50nm)を、非磁性シード層としてAl−44原子%Si(5nm)/Pd積層膜を、非磁性下地層としてRu(20nm)を、グラニュラ膜型記録層として(Co−Cr−Pt)−SiO(14nm)を、連続膜型記録層としてCo−Cr−Pt (6nm)を、保護層としてC(5nm)を順次成膜した。成膜後、保護層表面にディップ法によりパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤を13Åの厚さに塗布し、各々垂直磁気記録媒体を得た。以下、原子%は、必要に応じてat%と表すものとする。
【0071】
各層はDCスパッタリング法を用いて成膜した。各ターゲット径は164mm、T−S距離は50mm、投入電力500W、室温成膜の条件で成膜した。
【0072】
軟磁性下地層にはCo90ZrNbターゲットを用いてAr圧力0.5Pa、
非磁性シード層として、Al−44at%Siターゲット及びPdターゲットを用いて、Ar圧力0.5Paで成膜した。アルミニウム珪素/Pd膜厚は2ないし8nmの範囲で変化させた(実施例1−1乃至1−4,比較例6,7)。
【0073】
非磁性下地層としてRuターゲットを用いて6Paで、成膜した。
【0074】
グラニュラ膜型記録層は磁性粒径磁性層と粒径変調磁性層の二層構造として、それぞれ(Co68−Cr16−Pt16)−10モルat%SiOを12nmを5Paと、(Co68−Cr16−Pt16)−5.5モルat%SiOを2nmを2Pa、連続膜型記録層として(Co71−Cr19−Pt10)膜を6nmを0.5Pa、保護層としてCを5nmを0.5Paの条件で、成膜した。
【0075】
(比較例1)
比較例として、従来の垂直磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0076】
非磁性シード層をPd 6nmとし、粒径変調磁性層を設けないこと以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0077】
(比較例2)
比較例として、粒径変調磁性層を除いた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0078】
非磁性シード層をAl−44at%Si(5nm)/Pd(4nm)とし、粒径変調磁性層を設けないこと以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0079】
(比較例3)
比較例として、非磁性下地層粒径は従来の垂直磁気記録媒体と同様で、グラニュラ膜型記録層粒径のみを微細化させた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0080】
非磁性シード層をPd 6nmとし、微細粒径磁性層の成膜の際のスパッタリングガスとしてAr−10vol.%O混合ガスを用いた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0081】
(比較例4)
比較例として、グラニュラ膜型記録層を除いた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0082】
非磁性シード層をAl−44at%Si(5nm)/Pd(4nm)とし、グラニュラ膜型記録層を設けないこと以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0083】
(比較例5)
比較例として、微細粒径磁性層と、粒径変調磁性層の積層順を入れ替えた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0084】
非磁性シード層をAl−44at%Si(5nm)/Pd(4nm)とし、微細粒径磁性層と、粒径変調磁性層の積層順を入れ替えた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0085】
各垂直磁気記録媒体について、スピンスタンドを用いてR/W特性を評価した。磁気ヘッドとして、記録トラック幅0.3μmの単磁極ヘッドと、再生トラック幅0.2μmのMRヘッドを組み合わせたものを用いた。
【0086】
測定条件は、半径位置20mmと一定の位置で、ディスクを4200rpmで回転させて行った。
【0087】
媒体SNRとして微分回路を通した後の微分波形の信号対ノイズ比(SNRm)(但し、Sは線記録密度119kfciの出力、Nmは716kfciでのrms(root mean square)値)の値を評価した。
【0088】
各垂直磁気記録媒体の各層の微細構造は、加速電圧400kVのTEMを用いて評価した。
【0089】
各垂直磁気記録媒体の各層の結晶粒及び粒界領域の組成は、TEM−EDX及びXPSを用いて評価した。
【0090】
各磁気記録媒体のSFDは、極Kerr効果測定装置を用いたΔHc/Hc法にて評価した。
【0091】
図4に、ΔHcとその評価法を説明するためのヒステリシスループを示す。
【0092】
すなわち、最大印加磁界20kOe、磁界掃引速度133 Oe/sの条件で、ヒステリシスループ(太い実線)を得た後、ヒステリシスループ上の−Hcの点から印加磁界を折り返して、Hsまで至らせ、マイナーループ(太い点線)を得る。マイナーループ上におけるθs/2となる磁界とヒステリシスループの第二象限上における磁界との差を2ΔHcとし、Hcで規格化してΔHc/Hcを得た。
【0093】
各磁気記録媒体のΔHc/Hcの値を、下記表1に示す。
【0094】
各ターゲット組成は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP−AES)を用いて評価した。
【0095】
各垂直磁気記録媒体について、Philips社製 X線回折装置X’pert−MRDを用いて、Cu−Kα線を加速電圧45kV、フィラメント電流40mAの条件で発生させ、θ−2θ法及びロッキングカーブにより、結晶構造及び結晶面配向性を評価した。
【0096】
各磁気記録媒体の微細粒径磁性層のc軸の配向分散Δθ50を、下記表1に示す。
【0097】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0098】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0099】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0100】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0101】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0102】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0103】
各メディアの、非磁性下地層の平均粒径d(Ru)、微細粒径磁性層の平均粒径d(gra)と粒径変調磁性層の平均粒径d(mod)を下記表1に示す。各層の平均粒径は、各層の膜厚中央部で評価した。
【0104】
実施例1と、比較例6及び7との比較により、非磁性下地層平均粒径が4ないし8nmの範囲にあり、微細粒径磁性層の平均粒径が3ないし7nmの範囲にあると、ΔHc/Hc及びSNRが顕著に向上し、良好な特性を示すことがわかった。また、非磁性下地層平均粒径が5ないし7nmの範囲にあり、微細粒径磁性層の平均粒径が4ないし6nmの範囲にあると、ΔHc/Hc及びSNRがさらに向上て、より好ましいことが分かった。
【0105】
また、比較例1により、実施例1の磁気記録媒体において非磁性下地層平均粒径が4ないし8nmの範囲にあり、微細粒径磁性層の平均粒径が3ないし7nmの範囲にあると、従来の磁気記録媒体に対して、SNRが顕著に向上することが分かった。一方、ΔHc/Hcには顕著な差が見られないことから、実施例1の磁気記録媒体のSNR向上の主な原因は、グラニュラ記録層の平均粒径の微細化しつつΔHc/Hc増大を抑制できたことによるものと考えられる。
【0106】
また、比較例2と比較により、実施例1の磁気記録媒体においては、非磁性下地層平均粒径が4ないし8nmの範囲にあり、微細粒径磁性層の平均粒径が3ないし7nmの範囲にあると、微細粒径磁性層よりも平均粒径の大きい粒径変調記録層を設けることによって、SNR及びΔHc/Hcが顕著に改善することが分かった。従って、実施例1の磁気記録媒体のSNR向上の主な原因は、平均粒径の大きい粒径変調記録層を設けたことによるΔHc/Hc低減であると考えられる。
【0107】
比較例3との比較により、非磁性下地層結晶粒径が微細化しておらず、微細粒径磁性層の粒径のみが微細化した場合には、磁性粒径磁性層のc軸配向分散が増大し、SNRが劣化する傾向があることが分かった。従って、実施例1の磁気記録媒体のSNR向上の主な原因は、平均粒径の小さな非磁性下地層を用いて微細粒径磁性層の平均粒径を微細化したことによって、c軸配向分散の増大を抑制できたことであると考えられる。
【0108】
比較例4との比較により、グラニュラ膜型記録層がないと、SNRが劣化する傾向があることが分かった。
【0109】
比較例5との比較により、粒径変調磁性層を下に、微細粒径磁性層を上に積層した場合には、SFD及びSNRが劣化する傾向があることが分かった。従って、実施例1の磁気記録媒体のSNR向上の主な原因は、平均粒径が小さい微細粒径磁性層を設けたことによるビットサイズの低減と、平均粒径の大きい粒径変調記録層を上側に設けたことによるΔHc/Hc低減であると考えられる。
【0110】
以上の結果から、非磁性下地層平均粒径が4ないし8nmの範囲にあり、微細粒径磁性層の平均粒径が3ないし7nmの範囲にあると、微細粒径磁性層よりも平均粒径の大きい粒径変調記録層を設けることにより、グラニュラ膜型記録層のc軸配向分散を抑制し、SFDを抑制しつつビットサイズを低減でき、SNRが改善したものと考えられる。
【0111】
(実施例2)
実施例1の磁気記録媒体の、粒径変調磁性層の組成を変化させた媒体を、以下の要領で作製した。
【0112】
非磁性シード層をAl−44at%Si/Pd(4nm)とし、粒径変調磁性層のSiO2組成を、5.5ないし9モル%の間で変化させた以外は、実施例1と同様の要領で作製した。
【0113】
粒径変調磁性層のSiO2組成は、ターゲット中のSiO2組成を変化させることで調節した。
【0114】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0115】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0116】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0117】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0118】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0119】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0120】
また、いずれの媒体の非磁性シード層粒径も、4ないし8nmの範囲にあることが分かった。
【0121】
また、いずれの媒体の微細粒径磁性層の平均粒径も、3ないし7nmの範囲にあり、粒径変調磁性層粒径よりも小さいことがわかった。
【0122】
各磁気記録媒体の、各メディアの、非磁性下地層の平均粒径d(Ru)、微細粒径磁性層の平均粒径d(gra)と粒径変調磁性層の平均粒径d(mod)を表2に示す。各層の平均粒径は、各層の膜厚中央部で評価した。
【0123】
また、各磁気記録媒体の粒径変調層の組成分析結果を、表2に示す。
【0124】
また、各磁気記録媒体のΔHc/Hc、SNRの値を表2に示す。
【0125】
粒径変調磁性層の平均粒径が、7ないし10nmの範囲にあればΔHc/Hc及びSNRが顕著に改善して好ましく、8ないし9nmの範囲にあればさらに好ましいことが分かった。粒径変調磁性層の平均粒径が、7ないし10nmの範囲にあることによるSNR改善効果の主な原因は、ΔHc/Hc改善によるものと考えられる。
【0126】
(実施例3)
微細粒径磁性層の粒充填率を変化させた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0127】
微細粒径磁性層用ターゲットにCoOを、0ないし13mol.%の範囲で添加したものを用いて成膜を実施し、粒径変調磁性層の組成を(Co68−Cr16−Pt16)−7モルat%SiOとした以外は、実施例2と同様の要領で作製した。
【0128】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0129】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0130】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0131】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0132】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0133】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0134】
また、いずれの媒体の非磁性シード層粒径も、4ないし8nmの範囲にあることが分かった。
【0135】
また、いずれの媒体の微細粒径磁性層の平均粒径も、3ないし7nmの範囲にあり、粒径変調磁性層粒径よりも小さいことがわかった。
【0136】
各磁気記録媒体の、非磁性下地層の平均粒径d(Ru)、微細粒径磁性層の平均粒径d(gra)と粒径変調磁性層の平均粒径d(mod) 微細粒径磁性層の粒充填率(P(gra))および、粒径変調磁性層の粒充填率(P(mod))、を表3−1,3−2に示す。各層の平均粒径及び粒充填率は、各層の膜厚中央部で評価した。
【0137】
また、各磁気記録媒体の微細粒径磁性層及び微細粒径磁性層用ターゲットの組成分析結果を、表3−1,表3−2に示す。
【0138】
また、各磁気記録媒体のΔHc/Hc、SNRの値を表3−1,表3−2に示す。
【0139】
微細粒径磁性層の粒充填率が50ないし70%の範囲にあると、実施例1の磁気記録媒体と比較してSNRが改善し好ましく、60ないし65%の範囲にあるとさらに好ましいことが分かった。一方、ΔHc/Hcには顕著な改善は見られなかった。従って、微細粒径磁性層の粒充填率が50ないし70%の範囲にあることによるSNR改善効果は、主に微細粒径磁性層中の交換相互作用の低減によるものと考えられる。
【0140】
また、微細粒径磁性層用ターゲットへのCoO添加量が0.5ないし12モル%の範囲であれば、微細粒径磁性層の粒充填率を適度に低減することができ、SNRが改善して好ましく、6ないし10モル%の範囲であればさらに好ましいことが分かった。
【0141】
また、ターゲットにCoOを添加しても、膜中では必ずしもCoOが形成されておらず、代わりにCrが酸化される傾向にあることが分かった。
【0142】
(実施例4)
粒径変調磁性層の粒充填率を変化させた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0143】
微細粒径磁性層用ターゲットへのCoO添加量を6mol.%固定とし、粒径変調磁性層用テーゲットへのCr2O3添加量を0ないし7mol.%の範囲で変化させた以外は、実施例3と同様の要領で作製した。
【0144】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0145】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0146】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0147】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0148】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0149】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0150】
また、いずれの媒体の非磁性シード層粒径も、4ないし8nmの範囲にあることが分かった。
【0151】
また、いずれの媒体の微細粒径磁性層の平均粒径も、3ないし7nmの範囲にあり、粒径変調磁性層粒径よりも小さいことがわかった。
【0152】
各磁気記録媒体の、微細粒径磁性層中のCr組成、粒径変調磁性層中のCr組成、微細粒径磁性層の粒充填率(P(gra))および、粒径変調磁性層の粒充填率(P(mod))、ΔHc/Hc、SNRの値を表4−1,4−2に示す。
【0153】
各磁気記録媒体の、非磁性下地層の平均粒径d(Ru)、微細粒径磁性層の平均粒径d(gra)と粒径変調磁性層の平均粒径d(mod) 微細粒径磁性層の粒充填率(P(gra))および、粒径変調磁性層の粒充填率(P(mod))、を表4−1,4−2に示す。各層の平均粒径及び粒充填率は、各層の膜厚中央部で評価した。
【0154】
また、各磁気記録媒体の、微細粒径磁性層中のCr組成、粒径変調磁性層中のCr2O3組成、粒径変調磁性層用ターゲットの組成分析結果を、表4−1,4−2に示す。
【0155】
また、各磁気記録媒体のΔHc/Hc、SNRの値を表4−1,4−2に示す。
【0156】
粒径変調磁性層の粒充填率が70ないし90%の範囲にあり、かつ微細粒径磁性層の粒充填率よりも大きいと、SNRが顕著に改善好ましく、80ないし85%の範囲にあると更に好ましいことが分かった。
【0157】
また、粒径変調磁性層中のCr組成が微細粒径磁性層中のCr2O3組成よりも少ないと、SNRが顕著に向上し好ましいことが分かった。
【0158】
また、ターゲットに添加したCr組成と膜中のCr組成は必ずしも一致せず、膜中Cr組成の方が低い傾向にあることが分かった。
【0159】
(実施例5)
微細粒径磁性層を、磁性結晶粒中のCr組成の異なる二層構造に変更した磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0160】
粒径変調磁性層用ターゲットへのCr2O3添加量を3mol%固定とし、微細粒径磁性層を二層に分けて、それぞれのCr添加量を変化させた以外は、実施例4と同様の要領で作製した。、微細粒径磁性層の上下の層の膜厚は、下層が4nm、上層が8nmとした。
【0161】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0162】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0163】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0164】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0165】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0166】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0167】
また、いずれの媒体の非磁性シード層粒径も、4ないし8nmの範囲にあることが分かった。
【0168】
また、いずれの媒体の微細粒径磁性層の平均粒径も、3ないし7nmの範囲にあり、粒径変調磁性層粒径よりも小さいことがわかった。
【0169】
各磁気記録媒体の、微細粒径磁性層(下層)中のCr組成、微細粒径磁性層(上層)中のCr組成、ΔHc/Hc、SNRの値を表5−1,5−2に示す。
【0170】
各磁気記録媒体の、非磁性下地層の平均粒径d(Ru)、微細粒径磁性層(下層)の平均粒径d(gra下)、微細粒径磁性層(上層)の平均粒径d(gra上)と粒径変調磁性層の平均粒径d(mod) 、微細粒径磁性層(下層)の粒充填率(P(gra下)) 微細粒径磁性層(上層)の粒充填率(P(gra上))および、粒径変調磁性層の粒充填率(P(mod))、を表5−1,5−2に示す。各層の平均粒径及び粒充填率は、各層の膜厚中央部で評価した。
【0171】
また、各磁気記録媒体の微細粒径磁性層(上層)及び微細粒径磁性層(下層)の結晶粒中のCr組成分析結果を、表5−1,5−2に示す。
【0172】
また、各磁気記録媒体のΔHc/Hc、SNRの値を表5−1,5−2に示す。
【0173】
実施例4と比較すると、微細粒径磁性層を二層構造とし、微細粒径磁性層(下層)中のCr組成を微細粒径磁性層(上層)中のCr組成よりも低くすると、SNR顕著に改善し好ましいことが分かった。
【0174】
また、微細粒径磁性層(下層)のCr組成が0ないし12原子%の範囲にあればSNRが改善して好ましく、8ないし10原子%の範囲にあればさらに好ましいことが分かった。
【0175】
また、微細粒径磁性層(上層)のCr組成が12ないし18原子%の範囲にあればSNRが改善して好ましく、14ないし17原子%の範囲にあればさらに好ましいことが分かった。
【0176】
(実施例6)
非磁性シード層を変化させた磁気記録媒体を、以下の要領で作製した。
【0177】
微細粒径磁性層(下層)のCr組成を10at.%、微細粒径磁性層(上層)のCr組成を16at.%固定とし、非磁性シード層を、Si(5nm)/Pd(4nm), Ru−30at%Si(5nm)/Pd(4nm), Pd−67at%Si(5nm)/Pd(4nm), Si(5nm)/Pt(4nm), Al−44at%Si(5nm)/Pt(4nm), Ru−30at%Si(5nm)/Pt(4nm), またはPd−67at%Si(5nm)/Pt(4nm)に変えた以外は、実施例5と同様の要領で作製した。
【0178】
XRD評価の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0179】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層の磁性結晶粒子もhcp構造をとり、(0001)面配向していることが分かった。
【0180】
また、非磁性下地層のRuはいずれもhcp構造をとり、(0001)配向していることが分かった。
【0181】
平面TEM観察の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層も、磁性結晶粒の周りを粒界領域が取り囲むグラニュラ構造を取っていることが分かった。
【0182】
また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0183】
また、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層も、明確な粒子・粒界構造が確認できず、連続膜構造をとっていることがわかった。また、TEM−EDXによる組成分析の結果、いずれの垂直磁気記録媒体の連続膜型記録層にもCo, Pt, Crが含有されていることが分かった。
【0184】
また、いずれの媒体の非磁性シード層粒径も、4ないし8nmの範囲にあることが分かった。
【0185】
また、いずれの媒体の微細粒径磁性層の平均粒径も、3ないし7nmの範囲にあり、粒径変調磁性層粒径よりも小さいことがわかった。
【0186】
スピンスタンドによるSNR評価の結果、いずれの媒体も、実施例5と同様に良好なSNRを示すことがわかった。
【表1】

【0187】
【表2】

【0188】
【表3】

【0189】
【表4】

【0190】
【表5】

【0191】
【表6】

【0192】
【表7】

【0193】
【表8】

【符号の説明】
【0194】
1…基板、2…軟磁性下地層、4…非磁性下地層、5…グラニュラ膜型記録層、5−1…微細粒径磁性層、5−2…粒径変調磁性層、6…連続膜型記録層、7…保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された軟磁性下地層と、該軟磁性下地層上に形成された非磁性シード層と、該非磁性シード層上に形成された非磁性下地層と、該非磁性下地層上に形成された垂直磁気記録層とを具備し、
該非磁性下地層は膜面内における平均結晶粒径が4nmないし8nmであり、
該垂直磁気記録層は、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層と連続膜型記録層とを含み、
該グラニュラ膜型記録層は膜面内の磁気結晶粒子が3nmから7nmの平均結晶粒径を有する第1のグラニュラ膜型記録層と、第1のグラニュラ膜型記録層の磁気結晶粒子の膜面内の平均結晶粒径よりも大きい膜面内の平均結晶粒子をもつ磁気結晶粒子を有する第2のグラニュラ膜型記録層とを含むことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第2のグラニュラ膜型記録層は、膜面内の平均結晶粒径が、7nmから10nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第1のグラニュラ膜型記録層は、その膜面内方向の粒充填率が50から70%にあることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第2のグラニュラ膜型記録層は、その膜面内方向の粒充填率が70から90%にあり、前記第1のグラニュラ膜型記録層の粒充填率よりも高いことを特徴とする請求項1ないし3に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記グラニュラ膜型記録層の粒界領域が、Si, 及びCrの酸化物を含有し、前記第2のグラニュラ膜型記録層中のCr酸化物量が前記第1のグラニュラ膜型記録層中のCr酸化物量よりも少ないことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記グラニュラ膜型記録層は、Co及びPt及びCrを含んだ合金からなる磁性結晶粒子を含み、該磁性結晶粒子は六方最密充填(hcp)構造を有し、(0001)面配向していることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
前記第1のグラニュラ膜型記録層は、その磁性結晶粒子のCr組成が、前記第2のグラニュラ膜型記録層の磁性結晶粒子のCr組成よりも低いことを特徴とする請求項6に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項8】
前記第1のグラニュラ膜型記録層は、その磁性結晶粒子のCr組成が、0ないし10原子パーセントの範囲にあり、前記第2のグラニュラ膜型記録層は、その磁性結晶粒子のCr組成が12ないし18原子パーセントの範囲にある請求項7に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項9】
前記非磁性下地層は、(0001)面配向したRuまたはRu合金を含むことを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項10】
前記連続膜型記録層は、Co及びPtを含有する合金を含む請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項11】
前記非磁性シード層は、Al−Si, Pd−Si, Ru−Si,及びSiからなる群から選択される材料を含む第1のシード層と、Pd及びPtのうち1つの材料を含む第2のシード層との積層を含む請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項12】
基板上に軟磁性下地層を形成する工程、
該軟磁性下地層上に非磁性シード層を形成する工程、
該非磁性シード層上に非磁性下地層を形成する工程、
該非磁性下地層上に、磁性結晶粒子とそれを取り囲む粒界領域を有するグラニュラ膜型記録層を形成した後、連続膜型記録層を形成する工程を含み、
前記非磁性下地層は、その膜面内での平均結晶粒径が4nmないし8nmの範囲にあり、
前記グラニュラ膜型記録層を形成する工程は、前記非磁性下地層上に膜面内の結晶粒子の平均結晶粒径が3nmないし7nmの範囲にある第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程と、該第1のグラニュラ膜型記録層上に、膜面内の結晶粒子が第1のグラニュラ膜型記録層の結晶粒子の平均結晶粒径よりも大きい第2のグラニュラ膜型記録層を形成する工程を含み、
前記第1のグラニュラ膜型記録層を形成する工程は、Si酸化物とCo酸化物とCoCrPt合金とを含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことを含む垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
前記第1のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲット中のCoO量が、0.5ないし10モル%の範囲にある請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第2のグラニュラ膜型記録層する工程は、Si酸化物とCo酸化物とCoCrPt合金とを含有するスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことを含み、該第2のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲットは、そのCoO量が、前記第1のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲット中のCoO量よりも少ない請求項12に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
前記第1のグラニュラ膜型記録層のスパッタリングターゲットは、Cr酸化物をさらに含むス請求項12に記載の方法。
【請求項16】
請求項1ないし11のいずれか一項に記載の垂直磁気記録媒体と、記録再生ヘッドを具備することを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−210333(P2011−210333A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79075(P2010−79075)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】