説明

磁気記録媒体およびその製造方法

【課題】室温で下地層、磁性層を形成した、安定して高い性能と高い信頼性を有する、安価な高密度磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】支持体の少なくとも一方の面に、真空成膜法により少なくとも金属または合金からなる下地層、強磁性金属粒子と非磁性酸化物からなるグラニュラ磁性層を形成した磁気記録媒体であって、該媒体の表面抵抗率が1Ω/□以上100Ω/□以下の範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。上記磁気記録媒体の製造方法であって、真空成膜装置内において、真空度≦1×10-4Paおよび水の分圧≦7×10-5Paを満たした後、所望の圧力まで希ガスを導入し、支持体上に上記下地層、およびグラニュラ磁性層を形成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜型磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネットの普及により、パーソナル・コンピュータを用いて大容量の動画情報や音声情報の処理を行う等、コンピュータの利用形態が変化してきている。これに伴い、ハードディスク等の磁気記録媒体に要求される記憶容量も増大している。
【0003】
ハードディスク装置においては、磁気ディスクの回転に伴い、磁気ヘッドが磁気ディスクの表面からわずかに浮上し、非接触で磁気記録を行っている。このため、磁気ヘッドと磁気ディスクとの接触によって磁気ディスクが破損するのを防止している。高密度化に伴って磁気ヘッドの浮上高さは次第に低減されており、鏡面研磨された超平滑なガラス支持体上に磁気記録層等を形成した磁気ディスクを用いることにより、現在では10nm〜20nmの浮上高さが実現されている。媒体においては、一般的にCoPtCr系磁性層/Cr下地層が用いられており、200℃〜500℃の高温にすることで、Cr下地層によりCoPtCr系磁性層の磁化容易方向が膜面内となるよう制御している。さらに、CoPtCr系磁性層中のCrの偏析を促し、磁性層中の磁区を分離している。この様なヘッドの低浮上量化、ヘッド構造の改良、ディスク記録膜の改良等の技術革新によってハードディスクドライブの面記録密度と記録容量はここ数年で飛躍的に増大してきた。
【0004】
しかし、媒体製造において高温スパッタ成膜法を用いた場合、生産性が悪いばかりでなく、大量生産時のコスト上昇につながり、安価に生産できない。
【0005】
一方、取り扱うことができるデジタルデータ量が増大することによって、動画データの様な大容量のデータを可換型媒体に記録して、移動させるというニーズが生まれてきた。しかしながら、ハードディスクは支持体が硬質であって、しかも上述のようにヘッドとディスクの間隔が極わずかであるため、フレキシブルディスクや書き換え型光ディスクの様に可換媒体として使用しようとすると、動作中の衝撃や塵埃の巻き込みによって故障を発生する懸念が高く、使用することが困難である。
【0006】
フレキシブル媒体は、ディスク、テープいずれの形状においても磁気ヘッドとメディアは接触摺動するシステムであり、可換性に優れており、安価に生産できる。しかし、現在市販されているフレキシブル媒体は記録膜が磁性体を高分子バインダーや研磨剤とともに高分子フィルム上に塗布した構造のものや蒸着型のものであり、スパッタ法で磁性膜を形成しているハードディスクと比較すると、磁性層の高密度記録特性が悪い。
【0007】
そこでフレキシブル媒体の記録膜をハードディスクと同様のスパッタ法で形成する強磁性金属薄膜型のフレキシブル媒体も提案されているが、ハードディスクと同様の磁性層を高分子フィルム上に形成しようとすると、高分子フィルムの熱ダメージが大きく、実用化が困難である。このため高分子フィルムとして耐熱性の高いポリイミドや芳香族ポリアミドフィルムを使用する提案もなされているが、これらの耐熱性フィルムが非常に高価であり、実用化が困難となっている。また高分子フィルムに熱ダメージを生じないように、高分子フィルムを冷却した状態で磁性膜を形成しようとすると、磁性層の磁気特性が不十分となり、記録密度の向上が困難となっている。
【0008】
上記課題に対し、強磁性金属合金と非磁性酸化物からなるグラニュラ磁性層、Cr、Ti、Ru、Re、Pt、およびそれらの合金からなる下地層の組み合わせは、室温で成膜した場合においても、200℃〜500℃の高温条件下で成膜したCoPtCr系磁性層、Cr合金下地層の組み合わせで得られた媒体とほぼ同等の磁気特性を得られることがわかってきた(特許文献1−5参照)。このように室温成膜可能な磁性層、下地層を用いることで、ガラス支持体やアルミ支持体を用いたハードディスクの製造コストを大幅にダウンできるほか、耐熱性の低い高分子樹脂支持体や可とう性高分子フィルム支持体を用いることが可能なため、フレキシブルディスクや磁気テープ、磁気シートなど応用分野が広がることが期待される。
【0009】
一方で、これまでのように高温プロセスを用いた磁気記録媒体では、安定して高い磁気特性が得られていたのに対し、室温プロセスを用いた磁気記録媒体では、形成された下地層、磁性層において高い結晶性が得られず、安定した高い磁気特性が得られない問題があった。特に、高分子樹脂支持体や可とう性高分子フィルム支持体を用いた磁気記録媒体では、下地層、磁性層の結晶性が低く、磁気特性が低下する問題があった。
【0010】
上記の通り、室温で形成した磁気記録媒体に対する要求は高く、種々の構成が提案され、高い磁気特性を達成してきている。しかしながら、磁気記録媒体に対する要求は厳しく、安定した高い性能、高い信頼性を有する磁気記録媒体が常に要求されている。
【0011】
【特許文献1】特公平8−7859
【特許文献2】特開平7-311929
【特許文献3】特開2001−176059
【特許文献4】特開2001−291230
【特許文献5】特開2003−99918
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、室温で下地層、磁性層を形成した、安定して高い性能と高い信頼性を有する、安価な高密度磁気記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
室温プロセスで形成された媒体の磁気特性改善を検討した結果、媒体の表面抵抗率と磁気特性に高い相関があることを見出し、表面抵抗率を低減することで磁気特性を向上できることから、本発明に至った。
前述のように、グラニュラ磁性層、金属あるいは合金からなる下地層を用いているため、媒体の表面抵抗率は実質的に下地層の抵抗を示しており、下地層の結晶性、緻密性を示していると考えられる。すなわち、下地層の結晶性、緻密性を表面抵抗率によって制御することで、安定して高い磁気特性を実現できることを見出した。
特に磁気特性が低下した、高分子樹脂支持体や可とう性高分子フィルム支持体を用いた場合は、顕著に表面抵抗率が増加していた。これは、高分子樹脂支持体や可とう性高分子フィルム支持体中に含まれるガスが、下地層形成時に膜中に取り込まれていることに起因していると推定される。すなわち、室温プロセスにおいては、支持体中に含まれるガスを保有した状態で下地層が形成されることによって、下地層の結晶性が劣化し、表面抵抗率の高い磁気記録媒体となっていると推定される。そこで、支持体を保有した成膜室で真空度及び水の分圧を特定に調整した後、所望の圧力まで希ガスを導入し、下地層、磁性層を形成することで、表面抵抗率が低く、高い磁気特性を有する磁気記録媒体が得られることを見出した。
また、ロール状に巻かれた可とう性高分子フィルム支持体に対し、連続的に下地層、磁性層を形成する場合は、ロール内に巻かれたフィルムから常にガスが放出される。そのため、これらのフィルム支持体に対しては、事前に脱ガス処理を施し、フィルム支持体が搬送されている状態で真空度及び水の分圧を特定に調整した後、上記と同様にして下地層、磁性層を形成することで、表面抵抗率が低く、高い磁気特性を有する磁気記録媒体が得られることを見出した。
【0014】
前記の手段は以下の通りである。
1)支持体の少なくとも一方の面に、真空成膜法により少なくとも金属または合金からなる下地層、強磁性金属粒子と非磁性酸化物からなるグラニュラ磁性層を形成した磁気記録媒体であって、該媒体の表面抵抗率が1Ω/□以上100Ω/□以下の範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。
2)前記表面抵抗率が1Ω/□以上50Ω/□以下の範囲であることを特徴とする上記1)に記載の磁気記録媒体。
3)前記下地層がCr、Ti、Ru、Re、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする上記1)または2)に記載の磁気記録媒体。
4)前記下地層がRuまたはRu合金からなることを特徴とする上記1)乃至3)の何れかに記載の磁気記録媒体。
5)前記下地層の膜厚が50nm以下であることを特徴とする上記1)乃至4)の何れかに記載の磁気記録媒体。
6)前記支持体が可とう性高分子支持体であることを特徴とする上記1)乃至5)に記載の磁気記録媒体。
7)上記1)記載の磁気記録媒体の製造方法であって、真空成膜装置内において、下記条件(1)および(2)を満たした後、所望の圧力まで希ガスを導入し、真空成膜装置内に導入した支持体上に上記1)記載の下地層、およびグラニュラ磁性層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
真空度≦1×10-4Pa (1)
水の分圧≦7×10-5Pa (2)
8)前記下地層、およびグラニュラ磁性層形成時の支持体温度が80℃未満あることを特徴とする上記7)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
9)前記支持体がロールで供給される可とう性高分子支持体であって、真空装置内で巻きだしロールから巻きだされ、該可とう性高分子支持体が搬送されている状態で成膜室にて少なくとも前記下地層、およびグラニュラ磁性層が形成された後、巻き取りロールで巻き取られる工程を有することを特徴とする上記7)または8)記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、室温成膜可能な下地層、磁性層を用いて、安価な高密度磁気記録媒体を生産することができる。本発明の磁気記録媒体はハードディスクに限られたものでなく、剛体の高分子樹脂支持体や可とう性高分子フィルム支持体を用いることができ、安価なハードディスク、磁気テープ、フレキシブルディスク、磁気シートなど、本磁気記録媒体の応用範囲が広がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施の形態に係る磁気記録媒体の支持体は、Al支持体、ガラス支持体、射出成型された高分子樹脂支持体を用いることもできるが、可とう性高分子フィルムを用いることが生産性の点で、より好ましい。本実施はテープ形状でもフレキシブルディスク形状でも用いることができる。可とう性高分子フィルム支持体を用いた本実施フレキシブルディスクは、中心部にセンターホールが形成された構造であり、プラスチック等で形成されたカートリッジ内に格納されている。なお、カートリッジには、通常、金属性のシャッタで覆われたアクセス窓を備えており、このアクセス窓を介して磁気ヘッドが導入されることにより、フレキシブルディスクへの信号記録や再生が行われる。
【0018】
本発明のフレキシブルディスクは、通常、可とう性高分子フィルムからなるディスク状支持体の両面の各々に、少なくとも下地層、磁性層を有するものであるが、さらに、表面性とガスバリア性を改善する下塗り層、密着性・ガスバリア性等の機能を有するバリア層、下地層の結晶配向を制御するシード層、下地層、磁性層、磁性層を腐食や磨耗から保護する保護層、及び走行耐久性および耐食性を改善する潤滑層が、この順に積層されて構成されていることが好ましい。
【0019】
可とう性高分子フィルム支持体としては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセテートセルロース、フッ素樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。本発明では支持体を加熱することなく良好な記録特性を達成することができるため、価格や表面性の観点からポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートが特に好ましい。
【0020】
高分子フィルムの厚みは、3μm〜200μmであり、フレキシブルディスクの場合、好ましくは20μm〜100μm、さらに好ましくは20μm〜60μmである。また、磁気テープの場合、好ましくは、3μm〜15μm、さらに好ましくは4μm〜12μmである。
【0021】
可とう性高分子フィルム支持体の場合、その表面には、平面性の改善とガスバリア性を目的として下塗り層を設けることが好ましい。磁性層をスパッタリング等で形成するため、下塗り層は耐熱性に優れることが好ましく、下塗り層の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコン樹脂、フッ素系樹脂等を使用することができる。熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂は、平滑化効果が高く、特に好ましい。下塗り層の厚みは、0.1μm〜3.0μmが好ましい。支持体に他の樹脂フィルムをラミネートする場合には、ラミネート加工前に下塗り層を形成してもよく、ラミネート加工後に下塗り層を形成してもよい。
【0022】
フレキシブル媒体の場合、ディスク形状、テープ形状いずれの場合においても、磁気ヘッドと媒体は、接触摺動するため、下塗り層の表面には、磁気ヘッドと媒体との真実接触面積を低減し、摺動特性を改善することを目的として、微小突起(テクスチャ)を設けることが好ましい。また、微小突起を設けることにより、支持体のハンドリング性も良好になる。微小突起を形成する方法としては、球状シリカ粒子を塗布する方法、エマルジョンを塗布して有機物の突起を形成する方法などが使用できるが、下塗り層の耐熱性を確保するため、球状シリカ粒子を塗布して微小突起を形成するのが好ましい。
【0023】
微小突起の高さは5nm〜60nmが好ましく、l0nm〜30mmがより好ましい。微小突起の高さが高すぎるとヘッドと媒体のスペーシングロスによって信号の記録再生特性が劣化し、微小突起が低すぎると摺動特性の改善効果が少なくなる。微小突起の密度は0.1〜100個/μm2が好ましく、1〜10個/μm2がより好ましい。微小突起の密度が少なすぎる場合は摺動特性の改善効果が少なくなり、多過ぎると凝集粒子の増加によって高い突起が増加して記録再生特性が劣化する。
【0024】
また、バインダーを用いて微小突起を支持体表面に固定することもできる。バインダーには、十分な耐熱性を備えた樹脂を使用することが好ましく、耐熱性を備えた樹脂としては、溶剤可溶型ポリイミド樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、熱硬化型シリコン樹脂を使用することが特に好ましい。
【0025】
ハードディスク支持体としては、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ガラス、アルミニウム支持体などが使用できる。
【0026】
ハードディスク形態の場合、支持体の厚みは、0.1mm〜2mmが好ましく、0.3mm〜1.5mmがさらに好ましい。
【0027】
ハードディスク支持体の場合、磁気ヘッドがディスク表面からわずかに浮上し、非接触で磁気記録を行うため、支持体表面は平滑であることが好ましく、AFMで測定した際のRaは1nm以下が好ましく、0.8nm以下がさらに好ましい。磁気ヘッドがディスクと接触した際の摩擦力を低減するため、テクスチャと呼ばれる表面粗さを物理化学的な研磨方法で付与してもかまわない。
【0028】
バリア層は、支持体からのガス放出抑制、密着性の改善等の目的で設けることが好ましい。このようなバリア層としては、非金属元素単体かその混合物、もしくはTiと非金属元素の化合物からなるものを用いることができる。
【0029】
上記ガスバリア層の厚みは2nm〜200nmが好ましく、5nm〜100nmが特に好ましい。これよりも厚みが厚くなると、生産性が悪くなるとともに、結晶粒の肥大化によりノイズが増加してしまい、逆にこれよりも厚みが薄くなると、ガスバリア効果が得られない。
【0030】
シード層は、下地層の結晶配向性向上・導電性付与等の目的で下地層の真下に設けることが好ましい。このようなシード層としては、Ti系、W系、Ni系の合金を用いることが望ましいが、それ以外の合金を用いても構わない。
【0031】
シード層の厚みは、1nmから30nmが好ましい。これよりも厚みが厚くなると、生産性が悪くなるとともに、結晶粒の肥大化によりノイズが増加してしまい、逆にこれよりも厚みが薄くなると、シード層効果が得られない。
【0032】
本発明では下地層は、室温成膜においても直上の磁性層の結晶配向性を制御することが可能な材料が好ましい。このような下地層としては、Cr、Ti、Ru、Re、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する金属あるいは合金が好ましく、RuあるいはRu合金がさらに好ましい。
【0033】
下地層の厚みは3nm〜200nmが好ましく、5nm〜100nmがより好ましく、5nm〜50nmがさらに好ましい。これよりも厚みが厚くなると、生産性が悪くなるとともに、結晶粒の肥大化によりノイズが増加してしまう。逆にこれよりも厚みが薄くなると、下地層効果による磁気特性の向上が得られない。
【0034】
下地層を成膜する方法としては公知のDCスパッタ法、RFスパッタ法等が使用可能である。下地層スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。下地層スパッタ時のガス圧が低い場合、下地層は緻密で高い結晶性を得ることができる。しかし、下地層スパッタガス圧は結晶配向に強く影響する場合がある。特に、RuあるいはRu合金下地層の場合、スパッタガス圧が低いとhcp構造のc軸が垂直に配向しやすく、スパッタガス圧が高いとc軸が面内に配向しやすい。そのため、垂直配向の場合、0.1〜1.5Paが好ましく、面内配向の場合、2.0〜10.0Paが好ましい。
【0035】
磁性層は、磁化容易軸が支持体に対して水平方向に配向している面内磁気記録膜でも、支持体に対して垂直方向に配向している垂直磁気記録膜でもかまわない。この磁化容易軸の方向は下地層の材料や成膜条件および磁性膜の組成と成膜条件によって制御することができる。
【0036】
本発明における磁性層は前記の通り、強磁性金属合金と非磁性酸化物からなるグラニュラ磁性層である。このグラニュラ磁性層では、強磁性金属合金粒子に、これに固溶しにくい非磁性酸化物を添加することによって、室温成膜においても強磁性金属合金粒子が非磁性酸化物によって孤立された構造となっており、強磁性金属合金粒子の大きさは1nmから20nm程度である。この様な構造となることで、高い保磁力を達成でき、また磁性粒子サイズの分散性が均一となるため、低ノイズ媒体を達成することができる。
【0037】
強磁性金属合金としてはCo、Cr、PtとNi、Fe、B、Si、Ta、Nb、Ru等の元素との合金が使用できるが、記録特性を考慮するとCo−Pt−Cr、Co−Pt−Cr−Ta、Co−Pt−Cr−B、Co−Ru−Cr等が特に好ましい。
【0038】
非磁性酸化物としてはSi、Zr、Ta、B、Ti、Al、Cr、Ba、Zn、Na、La、In、Pb等の酸化物が使用できるが、記録特性を考慮するとSiOxが最も好ましい。
【0039】
強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合比(モル比)は、強磁性金属合金:非磁性酸化物=95:5〜80:20の範囲であることが好ましく、90:10〜85:15の範囲であることが特に好ましい。該混合比を上記のように調整することにより、磁性粒子間の分離が充分となり、保磁力が確保されるとともに磁化量が確保されるので信号出力が確保される。
【0040】
グラニュラ磁性層の厚みとしては好ましくは5nm〜60nm、さらに好ましくは5nm〜30nmとすることにより、ノイズの低減とともに熱揺らぎの影響を抑えて出力を確保することができ、かつヘッド−メディア接触時にかかる応力に対する耐性を確保し、走行耐久性を確保することができる。
【0041】
グラニュラ磁性層を形成する方法としてはスパッタ法が良質な超薄膜を容易に成膜可能であることから、本発明に好適であり、公知のDCスパッタ法、DCパルススパッタ法、RFスパッタ法等が使用可能である。磁性層スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また強磁性金属合金粒子の分離を促進するため、あるいは非磁性酸化物の酸素含有率を調整するために微量の酸素ガスを導入してもかまわない。グラニュラ磁性層スパッタ時のガス圧は、強磁性金属粒子の分離、結晶性に影響を及ぼす。ガス圧が高い場合、磁性粒子の分離が促進され、磁気的相互作用を抑制できるが、結晶性が低く、Hc、Mrの低下を招く。一方、ガス圧が低い場合、磁性粒子の結晶性が良化し、Hc、Mrは向上するが、磁気的相互作用の大きい膜となる。そのため、ガス圧は1.0〜10Paが好ましく、1.5〜8.0Paがさらに好ましい。
【0042】
スパッタ法でグラニュラ磁性層を形成するためには強磁性金属合金ターゲットと非磁性酸化物ターゲットの2種を用い、これらの共スパッタ法を使用することも可能であるが、磁性粒子サイズの分散性を改善し、均質な膜を作成するため、強磁性金属合金と非磁性酸化物の合金ターゲットを用いることが好ましい。この合金ターゲットはホットプレス法で作成することができる。
【0043】
磁性層上には、保護層を設けることが好ましい。保護層は、磁性層に含まれる金属材料の腐蝕を防止し、磁気ヘッドと磁気ディスクとの擬似接触または接触摺動による摩耗を防止して、走行耐久性、耐食性を改善するために設けられる。保護層には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化Co、酸化ニッケルなどの酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物、グラファイト、無定型カーボンなどの材料を使用することができる。
【0044】
保護層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような保護膜としては、プラズマCVD法、イオンビーム法、ECRスパッタ法等で作製されるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)と呼ばれる硬質炭素膜が挙げられる。
【0045】
保護層は、性質の異なる2種類以上の薄膜を積層した構成とすることができる。例えば、表面側に摺動特性を改善するための硬質炭素保護膜を設け、磁気記録層側に耐食性を改善するための窒化珪素などの窒化物保護膜を設けることで、耐食性と耐久性とを高い次元で両立することが可能となる。
【0046】
保護層上には、走行耐久性および耐食性を改善するために、潤滑層が設けられる。潤滑層には、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤等の潤滑剤が使用される。
【0047】
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリン酸ブチル等のエステル類、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類、ステアリルアミン等のアミン類などが挙げられる。
【0048】
フッ素系潤滑剤としては、前記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)n、またはこれらの共重合体等である。具体的には、分子量末端に水酸基を有するパーフルオロメチレン−パーフルオロエチレン共重合体(アウジモント社製、商品名「FOMBLIN Z−DOL」)等が挙げられる。
【0049】
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類、二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤などが挙げられる。
【0050】
前記の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができ、潤滑剤を有機溶剤に溶解した溶液を、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ディップコート法等で保護層表面に塗布するか、真空蒸着法により保護層表面に付着させればよい。潤滑剤の塗布量としては、1〜30mg/m2が好ましく、2〜20mg/m2が特に好ましい。
【0051】
また、耐食性をさらに高めるために、防錆剤を併用することが好ましい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体等が挙げられる。これら防錆剤は、潤滑剤に混合して保護層上に塗布してもよく、潤滑剤を塗布する前に保護層上に塗布し、その上に潤滑剤を塗布してもよい。防錆剤の塗布量としては、0.1〜10mg/m2が好ましく、0.5〜5mg/m2が特に好ましい。
【0052】
上述のようにして製造された本発明の磁気記録媒体は、表面抵抗率、即ち、表面シート抵抗が1Ω/□以上100Ω/□以下、好ましくは1Ω/□以上50Ω/□以下である。この表面抵抗率は、4端子法の表面抵抗率測定器により測定される。
本発明において、下地層、磁性層を形成する真空成膜装置としては、ハードディスク支持体用の枚様式スパッタ装置や通過型スパッタ装置、可とう性高分子支持体用ウェブスパッタ装置が使用可能である。
可とう性高分子支持体用ウェブスパッタ装置としては、真空室と、それを真空排気するための排気手段、ロール状フィルムを搬送させるための搬送手段、支持体上に下地層、磁性層などを形成するための放電手段から構成される。該装置において、ロール状のフレキシブル支持体は、巻きだしロールから巻きだされ、キャンドラム上で下地層、磁性層などの所望の膜が形成され、巻き取りロールで巻き取られる。
【0053】
前述のように、下地層の表面抵抗率を低減し、下地層の結晶性向上、磁気特性の向上を得るためには、これらの装置で下地層を形成する前に、支持体に含まれるガスを抑制することが重要である。
【0054】
そのため、ハードディスク支持体用真空成膜装置の場合、支持体が真空成膜装置内に導入された後、支持体に含まれるガスを放出させる前処理として、80℃未満の支持体加熱、RF逆スパッタ、前記バリア層形成のいずれか、好ましくは全てを行うことが好ましい。支持体加熱とRF逆スパッタは、ともに支持体に対し熱エネルギーが加わるため、支持体に含まれるガスを放出させるのに好適であるが、過剰に行うと支持体に熱ダメージが生じるとともに、生産性も低下する。そのため、加熱温度は80℃未満が好ましく、60℃未満がさらに好ましい。RF逆スパッタの投入電力は1000W未満が好ましく、500W未満がさらに好ましい。すなわち、ハードディスク支持体用真空成膜装置としては、これらの前処理を施すことが可能な設備を真空成膜装置内に具備しておくことが好ましい。これらにより、下地層形成前の条件として、真空成膜装置内の真空度と水の分圧を低減できる。この際の真空度は、1×10-4Pa以下であり、5.0×10-5Pa以下がさらに好ましい。水の分圧は7×10-5Pa以下であり、5.0×10-5Pa以下がさらに好ましい。これらの条件を満たした後、所望の圧力まで希ガスを導入し下地層を形成することで、支持体からの放出ガスが膜中に取り込まれることを抑制でき、磁気特性を向上できる。
【0055】
可とう性高分子支持体用真空成膜装置の場合、巻きだしロールから巻きだされる可とう性高分子支持体に含まれるガスを放出させる前処理として、可とう性高分子支持体の真空中搬送、80℃未満の支持体加熱、RF逆スパッタ、前記バリア層形成のいずれか、好ましくは全てを行うことが好ましい。これらのうち、真空中搬送は、1.0×10-3Pa以下の真空度で行うことが好ましく、1.0×10-4Pa以下の真空度で行うことがより好ましい。該支持体加熱は、支持体がヒーターもしくは加熱ロールを通過することにより行い、温度は80℃未満が好ましく、60℃未満がより好ましい。RF逆スパッタの投入電力は1000W未満が好ましく、500W未満がさらに好ましい。すなわち、可とう性高分子支持体用真空成膜装置においては、これらの前処理を施すことを可能とする設備が具備されていることが好ましい。これらにより、支持体が搬送された下地層形成前の条件として、真空度と水の分圧を低減できる。この際の真空度及び水の分圧の条件は、ハードディスク支持体用真空成膜装置の場合と同様である。これらの条件を満たした後、所望の圧力まで希ガスを導入し下地層を形成することで、支持体からの放出ガスが膜中に取り込まれることを抑制でき、磁気特性を向上できる。
【0056】
可とう性高分子支持体用真空成膜装置としては、図1に記載のものが例示される。
図1において、真空成膜装置1は、真空室2を有し、巻きだしロール3から巻きだされた支持体4は、パスロール3a、張力調整ロール5A、5Bによって張力を調整されて、成膜室6へ送られる。張力調整ロール5A、5Bは、加熱ロールの機能を有し、所定の温度で支持体を加熱する。
成膜室6は真空ポンプ等の排気手段によって所定の真空度及び水の分圧が確保された状態の後、希ガスがスパッタリング気体供給管7Aないし7Dから所定の流量で供給される。支持体4は、成膜室6に設けた成膜ロール8Aに巻つきながら搬送された状態で、下地層スパッタ装置9AのターゲットTAから下地層形成用の原子が飛び出して支持体上に成膜される。
支持体4は、成膜される前にRF逆スパッタ(RFイオンボンバード)11にて表面処理が施される。
【0057】
次いで、成膜された下地層上に成膜ロール8Aにおいて、磁性層スパッタ装置9Bに装着したターゲットTBから、磁性層形成用原子が放出されて下地層上に磁性層が形成される。次に、磁性層が形成された面を成膜ロール8Bに巻きつけながら移動した状態で、下地層スパッタ装置9CのターゲットTCから下地層形成用の原子が飛び出して支持体の先に磁性層が形成された面とは反対側が成膜される。更に、成膜ロール8B上において、磁性層スパッタ装置9Dに装着したターゲットTDから、磁性層形成用原子が放出されて下地層上に磁性層が形成される。
【0058】
以上の工程によって、支持体の両面に磁性層が形成されて、パスロール3aを経て巻き取りロール10によって巻き取られる。
尚、本発明は図1に示すものに限られるものでなく、1つの成膜ロールを有する真空槽で片面成膜した後、支持体を表裏反転し、他面成膜する工程としてもよい。
【0059】
また、本真空成膜装置に用いる成膜ロールは、前記支持体を密着させて搬送ずれを防止するためにも、前記スパッタ源に対し前記支持体がほぼ対向するためにも、ある程度以上大きい方が好ましく、少なくともロール直径が250mm以上、さらに好ましくは400mm以上であることが望ましい。
【0060】
また、前記支持体の搬送速度は、1cm/分〜10m/分の範囲が好ましく、10cm/分〜8m/分の範囲がさらに好ましい。1cm/分以下の場合、生産性が悪く、10m/分以上の場合、前記支持体の搬送ずれの影響が無視できなくなる恐れがある。
【0061】
また、前記支持体上に磁性層等の各層が形成される前に、ヒータもしくは加熱ロールにより、前記支持体を加熱し支持体に含まれるガスを放出する加熱脱ガス工程を通すことがより好ましい。前記ヒータおよび加熱ロールは、巻きだしロールと成膜ロールの間に設けることが好ましいが、加熱ロールは成膜ロールで代用しても構わない。
【実施例】
【0062】
以下に本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
厚み53μm、表面粗さRa=1.4nmのポリエチレンナフタレートフィルム上に3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、塩酸、アルミニウムアセチルアセトネート、エタノールからなる下塗り液をグラビアコート法で塗布した後、100℃で乾燥と硬化を行い、厚み1.0μmのシリコン樹脂からなる下塗り層を作成した。この下塗り層上に粒子径25nmのシリカゾルと前記下塗り液を混合した塗布液をグラビアコート法で塗布して、下塗り層上に高さ15nmの突起を10個/μm2の密度で形成した。この下塗り層は支持体フィルムの両面に形成した。次に図1に示したウェブスパッタ装置にこの原反を設置し、加熱ローラーにより60℃で加熱した後、RFイオンボンバードを300Wで行い、前処理とした。その後、真空度が7.0×10-5Pa、水の分圧が4.0×10-5Pa条件下で、Arを3.5Paまで流し、水冷したキャン上にフィルムを密着させた状態で、DCマグネトロンスパッタ法で、Ruからなる下地層を20nmの厚みで形成した後、DCマグネトロンスパッタ法で(Co70−Pt20−Cr1088−(SiO212からなる磁性層を20nmの厚みで形成した。この下地層、磁性層はフィルムの両面に成膜した。次にこの原反をウェブ式の保護層成膜装置に設置し、エチレンガス、窒素ガス、アルゴンガスを反応ガスとして用いたイオンビームデポジション法でC:H:N=62:29:7(mol比)からなる窒素添加DLC保護膜を5nmの厚みで形成した。この保護層もフィルムの両面に成膜した。次にこの保護層表面に分子末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(アウジモント社製FOMBLIN Z−DOL)をフッ素系潤滑剤(住友スリーエム社製HFE−7200)に溶解した溶液をグラビアコート法で塗布し、厚み1nmの潤滑層を形成した。この潤滑層もフィルムの両面に形成した。次にこの原反から3.7inchサイズのディスクを打ち抜き、これをテープバーニッシュした後、樹脂製カートリッジ(富士写真フイルム社製Zip100用)に組み込んで、フレキシブルディスクを作製した。
【0063】
(実施例2)
実施例1において、Ruからなる下地層を形成する前に、Cからなるバリア層を0.13Pa、20nmの厚みで形成したこと以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0064】
(実施例3)
実施例1において、5.0×10-5Pa条件下で真空中搬送する前処理を加えた以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0065】
(実施例4)
実施例1において、支持体に厚み9μmのPENを用い、潤滑剤塗布後、8mm幅にスリットし、磁気テープとした。
【0066】
(実施例5)
実施例1において、Crからなる下地層を1.0Pa条件で形成した以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0067】
(実施例6)
ハードディスク支持体用真空成膜装置に鏡面研磨した2.5inchガラス支持体を導入し、ヒーターにより60℃に加熱した後、RF逆スパッタを200Wで行い前処理とした。その後、実施例1と同様の条件でRuからなる下地層、CoPtCr−SiO2からなる磁性層を形成した。さらに、DLC保護層を形成し、潤滑剤を塗布し、ハードディスクを作製した。
【0068】
(実施例7)
実施例6において、Ruからなる下地層を形成する前に、Cからなるバリア層を0.13Pa、20nmの厚みで形成したこと以外は、実施例6と同様にハードディスクを作製した。
【0069】
(実施例8)
実施例6において、支持体にポリカーボネートを用いた以外は実施例6と同様にハードディスクを作製した。
【0070】
(実施例9)
実施例2において、加熱することなく、Cからなるガスバリア層を0.13Pa、20nmの厚みで形成した後、Ruからなる下地層を形成した以外は実施例2と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0071】
(実施例10)
実施例8において、加熱することなく、Cからなるガスバリア層を0.13Pa、20nmの厚みで形成した後、Ruからなる下地層を形成した以外は実施例8と同様にハードディスクを作製した。
【0072】
(比較例1)
実施例1において、前処理を行わず、真空度3.0×10-4Pa、水の分圧1.5×10-4Paの条件下で、下地層を形成した以外は実施例1と同様にフレキシブルディスクを作製した。
【0073】
(比較例2)
実施例5において、前処理を行わず、真空度3.0×10-4Pa、水の分圧1.5×10-4Paの条件下で、下地層を形成した以外は実施例5と同様にハードディスクを作製した。
【0074】
得られた試料の性能を以下により評価し、結果を表1に示した。
(評価方法)
1)磁気特性
保磁力HcをVSMで測定した。
2)表面抵抗率(表面シート抵抗)
4端子法の表面抵抗率測定器により測定した。
3)支持体変形
磁気記録媒体を目視で評価し、シワ・すじ・うねりの有無を判断した。
○:シワ・すじ・うねりなし
×:シワ・すじ・うねりあり
【0075】
【表1】

【0076】
前記結果からわかるように本発明のフレキシブルディスクおよびハードディスクは室温成膜プロセスで作製しているにもかかわらず、高い磁気特性を達成していることがわかる。一方、前処理を行わず、真空度、水の分圧制御が不十分などの理由で表面抵抗率が高くなった比較例1、比較例2では、本発明に比べ磁気特性が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に用いられる真空成膜装置の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0078】
1:真空成膜装置、2:真空室、3:巻きだしロール、3a:パスロール、4:可撓性高分子支持体、5A、5B:張力調整ロール(加熱ロール)、6:成膜室、7A,7B,7C,7D:スパッタリング気体供給管、8A,8B:成膜ロール、9A,9C:下地層スパッタ装置、9B,9C:磁性層スパッタ装置、TA,TB,TC,TD:ターゲット、10:巻き取りロール、11:RFイオンボンバード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の少なくとも一方の面に、真空成膜法により少なくとも金属または合金からなる下地層、強磁性金属粒子と非磁性酸化物からなるグラニュラ磁性層を形成した磁気記録媒体であって、該媒体の表面抵抗率が1Ω/□以上100Ω/□以下の範囲であることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記表面抵抗率が1Ω/□以上50Ω/□以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記下地層がCr、Ti、Ru、Re、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記下地層がRuまたはRu合金からなることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記下地層の膜厚が50nm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
前記支持体が可とう性高分子支持体であることを特徴とする請求項1乃至5に記載の磁気記録媒体。
【請求項7】
請求項1記載の磁気記録媒体の製造方法であって、真空成膜装置内において、下記条件(1)および(2)を満たした後、所望の圧力まで希ガスを導入し、支持体上に請求項1記載の下地層、およびグラニュラ磁性層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
真空度≦1×10-4Pa (1)
水の分圧≦7×10-5Pa (2)
【請求項8】
前記下地層、およびグラニュラ磁性層形成時の支持体温度が80℃未満あることを特徴とする請求項7に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記支持体がロールで供給される可とう性高分子支持体であって、真空成膜装置内で巻きだしロールから巻きだされ、該可とう性高分子支持体が搬送されている状態で成膜室にて少なくとも前記下地層、およびグラニュラ磁性層が形成された後、巻き取りロールで巻き取られる工程を有することを特徴とする請求項7または8記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−286115(P2006−286115A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106382(P2005−106382)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】