磁気記録媒体およびその製造方法
【課題】配向性、高充填性、かつ平滑性が高い磁性層の形成が可能な磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性支持体の一方の主面側に、磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、磁性塗膜から第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、磁性層形成工程において、乾燥処理は、予熱過程と、恒率乾燥過程と、減率乾燥過程とからなり、恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、磁場配向は、予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする。
【解決手段】磁気記録媒体の製造方法であって、非磁性支持体の一方の主面側に、磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、磁性塗膜から第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、磁性層形成工程において、乾燥処理は、予熱過程と、恒率乾燥過程と、減率乾燥過程とからなり、恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、磁場配向は、予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体には磁気テープや磁気ディスク、磁気カード等がある。その一つである磁気テープの用途には、オーディオ用、ビデオ用、コンピュータ用等、種々の用途がある。コンピュータ用のデータバックアップ用テープについては、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、磁気テープ1巻当たりの記録容量が数百GBの磁気テープが商品化されている。しかし、ハードディスクのさらなる大容量化にともない、1TBを超える大容量バックアップテープが要望されることは必至であり、よって、磁気テープのさらなる大容量化は不可欠である。
【0003】
大容量化の方法には、記録再生装置へのアプローチと記録媒体へのアプローチがある。
【0004】
記録再生装置へのアプローチは、例えば、記録信号の短波長化やトラックピッチの狭幅化である。この場合、磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドには、微小磁束でも高い出力が得られるMRヘッドが使用される場合が多い。
【0005】
記録媒体へのアプローチは、磁性粉末の微粒子化と、磁性粉末の磁気特性の改善である。
【0006】
従来、コンピュータ用のデータバックアップ用テープを構成する磁気粉末には、オーディオ用のテープや家庭用ビデオテープに使用されていた磁性粉末(例えば、強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロム等の磁性粉末)と同様の磁性粉末が用いられていた。現在では、粒子径が25nm〜65nm程度の針状の強磁性鉄系金属粉末を用いることが提案されている。
【0007】
針状の磁性粉末は、その形状磁気異方性により磁気特性を発現させているため、粒子径が減少すると保磁力(Hc)が低下し短波長記録特性が低下する傾向がある。しかし、粒子径が5nm〜30nm程度と小さくても結晶磁気異方性により磁気特性を発現する、板状や粒状の、六方晶Ba−フェライト磁性粉末や窒化鉄磁性粉末等(微粒子磁性粉末)については、磁気記録媒体の材料として用いることが提案されている。
【0008】
しかし、上記針状、粒状、または板状等のいずれの磁性粉末を使用する場合でも、磁性層中の空隙を小さくして磁性層の充填性を高くしなければ、十分な大容量化は実現できない。大容量化のためには同時に磁性粉末を高度に配向させる必要がある。さらに、前述したMRヘッドの使用に適応させるには、磁性層表面の粗度を小さくし平滑にする必要がある。そのため、溶媒が除去されることにより磁性層となる磁性塗膜の乾燥方法や、磁性粉末の配向方法が、種々提案されている(例えば特許文献1〜7等)。特許文献1〜3には、磁性粉末を高度に配向させる方法として、高磁場を比較的安価に得ることができる永久磁石と、一定方向の磁場を得ることができるソレノイドコイルとを組み合せて磁場配向を行うことが開示されている。特許文献4〜7には、磁性層表面の粗度を小さくし平滑にする乾燥方法が開示されている。
【0009】
具体的には、特許文献1には、磁性塗膜に対して乾燥処理を開始する前に、1800Oe(1.8kOe)以上の強度の磁場(第1磁場)を作用させ、その後、磁性塗膜に対して乾燥処理を行いながら、400Oe(0.4kOe)以上の強度の磁場(第2磁場)を作用させる、乾燥および配向方法が開示されている。磁性塗膜に含まれる磁性粉末の保磁力は600Oe程度である。
【0010】
特許文献2に記載の配向・乾燥方法では、まず、高磁場コイルにて高強度磁場を磁性塗膜に印加して磁性粉末の配向を行った後、低磁場コイルにて低強度磁場を磁性塗膜に印加して、磁性粉末の戻り配向を防止するとともに、磁性塗膜の乾燥を行う。低強度磁場では、最大磁場強度の20%以下の磁場強度を与える。高強度磁場の強度は5〜10kOeであり、低強度磁場の強度は50〜1000Oeである。
【0011】
特許文献3に記載の配向・乾燥方法についても、特許文献1に記載の方法と同様に、乾燥装置による磁性塗料の乾燥開始前に第1の磁場発生手段によって第1の磁場配向を行い、次いで、乾燥装置内において第2の磁場発生手段によって第2の磁場配向を行っている。第2の磁場発生手段により発生する平均磁場強度は、第1の磁場発生手段による最大磁場強度の1/3以下である。磁性塗膜に含まれる磁性粉末の保磁力は例えば520Oeである。
【0012】
特許文献4には、配向用のマグネットとドライヤとを備えた配向装置を複数台備えた磁気記録媒体製造装置が開示されている。この製造装置では、各ドライヤから供給される温風の風速や温度を、配向装置毎にコントロールできる。そして、この製造装置では、複数の配向装置から供給される温風の風速が、非磁性支持体の進行方向に沿って順次増加するように設定されている。
【0013】
特許文献5には、乾燥ゾーンを2以上含む乾燥装置が開示されている。この乾燥装置では、最も上流に低温乾燥ゾーンが配置されており、この低温乾燥ゾーンより下流側に高温乾燥ゾーンが配置されている。低温乾燥ゾーンには、低温かつ低湿のガスを吹出し可能とする低温ガス吹出ノズルが配置されており、高温乾燥ゾーンには、上記低温ガス吹出ノズルから吹出されるガスよりも高温のガスを吹出可能とする高温ガス吹出ノズルが配置されている。
【0014】
特許文献6に開示された磁気記録媒体の製造方法の一例では、磁性塗料に含まれる溶媒の沸点を130℃以下としている。そして、恒率乾燥過程と減率乾燥過程とを含む乾燥処理中において、減率乾燥過程以後の雰囲気温度を40℃〜乃至80℃としている。また、同文献において、恒率乾燥過程における雰囲気温度は、通常、減率乾燥過程におけるそれよりも高い。よって、同文献に記載の磁気記録媒体の製造方法では、乾燥速度(溶媒の単位時間当たりの除去量)が一定になる瞬間はあるものの、積極的な恒率乾燥は行なわれていない。なお、恒率乾燥過程では、乾燥速度が一定であるのに対して、減率乾燥過程では、塗膜中の溶媒減少に伴い乾燥速度も低下している。
【0015】
特許文献7には、磁気記録媒体およびその製造方法が開示されている。この磁気記録媒体の磁性層に含まれる残存溶媒量は5mg/m2である。特許文献7には、乾燥処理中において、恒率乾燥過程における乾燥速度を1〜20kg/m2・hrとすることが開示されている。
【0016】
以上のとおり、特許文献4〜7に開示された製造装置や製造方法等では、いずれも、比較的長い恒率乾燥過程を経ることなく減率乾燥過程へと移行している。その理由は、恒率乾燥過程を長くすると、乾燥設備および配向設備の大型化や、生産速度低下等の不利益を伴うからである。
【特許文献1】特開昭62−175931号公報
【特許文献2】特開平6−20273号公報
【特許文献3】特開平7−134825号公報
【特許文献4】特開平10−124866号公報
【特許文献5】特開2004−19958号公報
【特許文献6】特開昭63−42030号公報
【特許文献7】特開平4−229415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、これらの文献に記載の方法では、磁性層における磁性粉末の充填率を十分に高くし、かつ、磁性粉末を高度に配向させることはできないし、平滑性も不十分となる。
【0018】
また、特許文献1に記載の方法では、第1磁場が乾燥手段の外に形成され、第2磁場が乾燥手段内に形成されるので、磁性塗膜が第1磁場を通過してから第2磁場内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度は零に近い値になる。そのため、磁性粉末の粒子サイズが小さく、かつ保磁力が高い場合、第1磁場による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易い。また、一旦もどり配向が生じてしまうと、第2磁場による磁化では再度良好に配向させることは困難である。
【0019】
特許文献2に記載の方法でも、乾燥工程の前に高磁場配向を行い、低磁場配向を行いながら乾燥を行うために、高強度磁場による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易く、低強度磁場による磁化では、もどり配向してしまった磁性粉末を再度良好に配向させることは困難である。
【0020】
特許文献3に記載の方法においても、第1の磁場発生手段が乾燥装置の外に設けられ、第2の磁場配向手段が乾燥手段内に設けられているので、磁性塗膜が第1の磁場発生手段内を通過してから第2の磁場配向手段内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度が零に近い値となる。そのため、磁性粉末の粒子サイズが小さくかつ保磁力が高い場合、第1の磁場配向手段による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易い。また、第2の磁場配向手段による磁化では、もどり配向してしまった磁性粉末を再度良好に配向させることは困難である。
【0021】
高い配向性を得る方法として、磁場発生手段を、塗料の塗布直後から塗布された磁性塗料が完全に乾燥するまでの間、磁場が磁性塗膜に付与され続けるように配置することが考えられる。しかし、設備が非常に高価なものになり現実的ではない。
【0022】
以上の状況に鑑み、本発明では、配向性、充填性、かつ平滑性が高い磁性層の形成が可能な磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体の一方の主面側に磁性層が配置された磁気記録媒体の製造方法であって、前記非磁性支持体の一方の主面側に、磁性粉末と第1バインダ樹脂と第1溶媒とを含む磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、前記磁性塗膜から前記第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、前記磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、前記磁性層形成工程において、前記乾燥処理は、前記磁性塗膜の表面温度の上昇が停止して略一定の温度に達するまで前記磁性塗膜を加熱する予熱過程と、前記予熱過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が略一定に保たれる恒率乾燥過程と、前記恒率乾燥過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が、前記恒率乾燥過程を行っている際のそれよりも高くなり、前記磁性塗膜を固化させる減率乾燥過程とからなり、前記恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、前記磁場配向は、前記予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、前記第1配向手段内の磁場強度が最も大きい箇所から前記第2配向手段に達する間で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、高配向、高充填、かつ平滑性が高い磁性層の形成が可能な磁気記録媒体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、磁性塗料の塗布後に行なわれる、乾燥処理の条件や磁場配向の条件等について検討を重ねた結果、乾燥処理について従来は想定し得なかった条件を選択し、上記乾燥処理の開始後に、磁場配向処理を開始し、かつ、磁場配向処理を所定の条件で行うことにより、高配向、高充填、かつ平滑性が高い磁性層が得られることを見出した。本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する前に、先ず、図7を用いて従来の磁気記録媒体の製造方法における乾燥処理について説明する。
【0026】
なお、図7において、実線からなる曲線は、塗膜中の溶媒の含有率の変化を示しており、点線からなる曲線は塗膜表面の温度変化を示している。
【0027】
非磁性支持体の一方の主面側に磁性塗料を塗布することによって形成された磁性塗膜に対して、乾燥機内で乾燥処理が開始されると、図7に示すように、塗膜表面は、溶媒が急激に蒸発し始める温度に達するまで上昇する(予熱期間)。この予熱期間中における塗膜中の含溶媒率の減少は少ない。この期間を過ぎると、溶媒の蒸発が本格化する。従来例では、温度が比較的高く、かつ、風速が比較的大きい熱風を塗膜に供給している。そのため、塗膜から溶媒が蒸発することによって塗膜から奪われる蒸発潜熱よりも、塗膜が周囲から受け取る熱量の方が圧倒的に多い。よって、極めて短時間のうちに溶媒の蒸発が行われる。塗膜の表面温度Tsについては急上昇し、塗膜の含溶媒率は急激に減少する。そのうちに、塗膜中の溶媒はほとんどなくなり、塗膜が固定化され、塗膜の表面温度Tsは乾燥機内の雰囲気温度に近づく(減率乾燥期間)。なお、「固定化」とは、磁化容易軸が戻り配向しない状態となることを意味する。
【0028】
塗膜に含まれる磁性粉末の磁化容易軸を揃える磁場配向については、従来、塗布終了後から減率乾燥期間が終了する前までの間に行われていた。磁場配向は塗膜に外部から磁場を印加して行う。図7に示した従来の磁気記録媒体の製造方法における乾燥処理では、比較的短時間で溶媒の除去(乾燥)が完了するので、塗布速度を大きくすることができ、乾燥機長も短くでき、磁場配向に必要な設備も小さくてすむ。そのため、このような乾燥処理を行う従来の磁気記録媒体の製造方法は、生産効率が良く、設備投資も少なくて済むという利点を有している。しかし、この製造方法は、生産性の効率化およびコスト低減に有利である一方で、磁気記録媒体を構成する磁性層における磁性粉末のさらなる高配向化、高充填化、および平滑化については不十分であった。
【0029】
一方、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法では、磁性塗膜の表面温度Tsについて、図1に示すような温度管理がなされた乾燥処理を経て、磁性層を得る。なお、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体上に直接磁性層が設けられた単層構造の磁気記録媒体のほか、非磁性支持体上に非磁性層を介して磁性層が設けられた重層構造の磁気記録媒体等にも適用される。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法においても従来の製造方法の場合と同様に、まず、磁性塗膜の表面の温度は、磁性塗膜中の第1溶媒が急激に蒸発し始める温度にまで上昇される(予熱過程)。その後、磁性塗膜の表面温度Tsは、0.2秒以上(恒率乾燥期間)略一定に保たれる。恒率乾燥過程中は、磁性塗膜から第1溶媒が蒸発することによって磁性塗膜から奪われる蒸発潜熱と、磁性塗膜が周囲から受け取る熱量との釣合いがほぼ取れている。そのため、磁性塗膜の表面温度Tsは略一定に保たれる。この間は、磁性塗膜の含溶媒率がほぼ定率で減少する。その後、磁性塗膜中の第1溶媒がほとんどなくなると、塗膜は固定化され、磁性塗膜の表面温度Tsは乾燥機内雰囲気の温度に近づいていく(減率乾燥過程)。
【0031】
このように、乾燥処理中に、恒率乾燥過程があると、第1溶媒を含む流動性のある磁性塗膜中で沸騰等に伴う激しい流動が生じたり、気泡が発生したりすることが抑制される。また、乾燥処理中に、恒率乾燥過程を積極的に設けると、磁性塗膜の含溶媒率がほぼ定率で減少する期間が長くなる。そのため、磁性溶媒の除去に伴って磁性塗膜中に発生し得る空隙も少なくなり、磁性層中に磁性粉末をより密に充填させることが可能となる。さらに、得られる磁性層の表面の平滑性も向上するので、磁気記録媒体の出力が向上する。
【0032】
恒率乾燥期間は、0.2秒以上である。恒率乾燥期間が0.2秒以上であると、乾燥中の塗膜内で激しい対流が生じることを抑制でき、そのため、充填性が高く、表面の平滑性が高い磁性層を生産性よく形成できる。恒率乾燥期間の上限について特に制限はないが、長すぎると、生産性が著しく低下する。また、固定化に時間がかかるため、配向磁石がたくさん必要になり、設備にコストがかかる。そのため、恒率乾燥期間の上限は10秒以下であると好ましい。また、充填性、平滑性、および配向性をよりいっそう高める観点から、恒率乾燥期間は、1秒以上10秒以下であるとより好ましい。
【0033】
次に、図8Aおよび図8Bを用いて、従来の磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。図8Aは、従来の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図であり、図8Bは、図8Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0034】
図8Aに示すように、まず、塗布ゾーンA'において、帯状の非磁性支持体71の一方の主面側に磁性粉末を含む磁性塗料81を塗布して、磁性塗膜を形成する。次いで、非磁性支持体71と磁性塗膜とを含む帯状の積層体t1を、1対の永久磁石を備えた配向手段(第1配向手段)の間を通過させて配向処理を行う。第1配向手段内を通過した積層体t1を、乾燥機61内に搬送する。搬送手段は、例えば、複数のガイドロール51等から構成されている。
【0035】
乾燥機61内には、複数の熱風供給部111、溶媒蒸気を含んだ熱風を排気する排気部21、第2配向手段31bが配置されている。第2配向手段31bは、複数のソレノイドコイル311を備えている。複数の熱風供給部111は、第2配向手段31bよりも上流側に配置された熱風供給部11aと、積層体t1の進行方向に隣合うソレノイドコイル311間に配置された熱風供給部11bと、第2配向手段31bよりも下流側に配設された熱風供給部11cとを含む。ここで、「上流側」とは、積層体Tが搬送される方向において、塗布ゾーンA'に近い側をいい、「下流側」とは、塗布ゾーンA'から遠い側をいう。
【0036】
図8Aに示すような従来の磁気記録媒体の製造方法の一例では、コータ41による塗布の作業性、および、熱風供給部の配置性等が考慮された上で、1対の永久磁石31aを備えた配向手段(第1配向手段)が塗布ゾーンA'と乾燥機61の間に配置されている。また、熱風供給部11bによる風量を確保するために、積層体t1の進行方向に隣り合うソレノイドコイル311の間隔は比較的大きく設計されている。そのため、図8Bに示すように、積層体t1が第1配向手段31a内を通過してから第2配向手段31b内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度が零近くまで低下している。また、積層体t1の進行方向に隣り合うソレノイドコイル311の間隔が大きいので、第2配向手段31bを用いた磁場配向の際に磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値と最小値との差は極めて大きい。そのため、磁性粉末を高度に配向させ、平滑で充填度の高い塗膜を得ることは困難であった。
【0037】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁場配向を、予熱過程開始後において、第1配向手段3aと第2配向手段3bとをこの順に用いて行う(図2A参照)。そして、磁性塗膜が第1配向手段3a内の磁場強度が最も大きい箇所から第2配向手段3b内に入るまでの間で磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすようにする(図2B参照)。
【0038】
このように、予熱処理を開始して塗料の流動性を高めた状態で磁場配向を開始し、さらに(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされるように、第1配向手段3aを乾燥機6内に配置し、第1配向手段3aと第2配向手段3bとを接して配置するか(図2A参照)、可能なかぎり相互に近づけて配置する(図6A参照)。これにより、磁性塗膜が第1配向手段3a内の磁場強度が最も大きい箇所を通過してから第2配向手段3b内に入るまでの間において、磁性塗膜が晒される磁場強度の著しい低減が抑制されるため、いわゆる戻り配向を効果的に抑制できる。さらに、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされるように、例えば、第2配向手段3bを構成する複数のソレノイドコイル301を密着させて配置する。これにより、第2配向手段3bにより印加され磁性塗膜が晒される磁場強度の変動を抑制できるので、磁性塗膜が固定化されることにより磁性層となるまで、上記戻り配向を抑制できる。よって、後述する実施例における結果にも示されるように、高充填で、表面の平滑性が高く、かつ磁性粉末が高度に配向した磁性層を形成できる。
【0039】
第1配向手段3aにより印加され磁性塗膜が晒される磁場強度は、398kA/m〜1194kA/m(5kOe〜15kOe)が好ましく、第2配向手段により印加され磁性塗膜が晒される磁場強度は、119kA/m〜796kA/m(1.5kOe〜10kOe)が好ましい。第1配向手段3aにより印加される磁場強度が上記範囲内にあると、磁性粉末が高度に配向し、磁性塗膜内の磁気的な凝集が抑制されることにより平滑性の高い磁性層を得ることができる。第2配向手段3bにより印加される磁場強度が上記範囲内にあると、第1配向手段により高度に配向した磁性粉末の戻り配向による配向の乱れを効果的に防ぐことができる。また、第2配向手段3bにより印加される磁場強度が、第1配向手段3aにより印加される磁場強度の30%以上100%未満であると、磁性粉末を低廉かつ効率良く配向させることができ、好ましい。
【0040】
第1配向手段3aとしては、複数の永久磁石を含む配向手段および複数のソレノイドコイルを備えた配向手段のうちの少なくとも1種が挙げられるが、比較的低コストで高強度の磁場が得られる点で、永久磁石の同極を対向させる配向手段(反発磁石)が好ましい。第2配向手段3bとしては、複数の永久磁石を含む配向手段および複数のソレノイドコイルを備えた配向手段のうちの少なくとも1種が挙げられるが、比較的磁場強度の一定な磁場が一定の長さで得られる複数のソレノイドコイルを備えた配向手段がましい。
【0041】
塗膜の厚さ(以下「ウエット厚さ」とも言う。)は乾燥すると、乾燥前の1/3〜1/8になる。磁気記録媒体が、図3に示すように、非磁性支持体11上に直接磁性層13が配置された単層構造の場合、磁性層13の厚さ(以下「ドライ厚さ」ともいう。)は、好ましくは0.1μm〜3μm、より好ましくは0.5μm〜2μmである。よって、磁性塗料の塗布は、ウエット厚さが好ましくは0.3μm〜24μm、より好ましくは1.5μm〜16μm、となるように行なわれると好ましい。磁気記録媒体が、図4に示すように、非磁性支持体11上に非磁性層12を介して磁性層13が設けられた構造の場合、磁性層の厚さと非磁性層の厚さの総和は、好ましくは0.1μm〜3μm、より好ましくは0.5μm〜2.0μmである。そのため、非磁性塗膜(乾燥後、非磁性層となる)の上に、ウエット・オン・ウエットで磁性塗膜が形成される場合には、磁性塗膜厚さと非磁性塗膜の厚さの総和は、好ましくは0.3μm〜24μmであり、より好ましくは1.5μm〜16μmである。この場合、磁性塗膜の厚さは、好ましくは0.03μm〜1.6μm、より好ましくは0.1μm〜0.8μmであり、非磁性塗布膜の厚さは、好ましくは0.27μm〜22.4μm、より好ましくは1.4μm〜15.2μmである。
【0042】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは、磁性塗膜に含まれる溶媒(以下「第1溶媒」とも言う。)の沸点等に応じて異なる。第1溶媒は1種の溶媒からなるか、または、沸点の異なる2種以上の溶媒からなるが、第1溶媒に含まれる1種以上の溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点Tbと磁性塗膜の表面温度Tsと差(Tb−Ts)は、1℃〜50℃であると好ましい。具体的には、恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは30℃〜80℃であると好ましいので、上記Tbは、この温度範囲のいずれかの温度よりも1℃〜50℃低いと好ましい。このような溶媒を選択することにより、恒率乾燥期間の制御がしやすくなる。
【0043】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsの制御は、従来公知の方法を用いることができる。基本的には、磁性塗膜から第1溶媒が蒸発することによって磁性塗膜から奪われる蒸発潜熱と、磁性塗膜が周囲から受け取る熱量との釣合いがほぼ取れるようにすればよい。具体的には、加熱手段としてドライヤ等を用い、熱風の温度や風速、磁性塗膜と加熱手段との距離等を適宜調節すればよい。加熱手段として、遠赤外線ヒータを用いてもよい。これらの加熱手段はそれぞれ単独で用いてもよいし、両方を組み合せて用いてもよい。
【0044】
蒸発した第1溶媒を乾燥処理雰囲気外に排出させる方法についても、特に制限はなく、従来公知の方法を用いて行えばよい。例えば、蒸気の状態で上記雰囲気外に排出させてもよいし、凝縮手段によって一旦凝縮させてから上記雰囲気外に排出させてもよい。
【0045】
磁性塗膜の形成に用いられる磁性塗料の全成分のうちの、第1溶媒を除く残りの成分(以下、「溶媒除外成分」ともいう。)の総濃度は、10〜50wt%が好ましく、20〜35wt%がより好ましい。磁性塗料中の溶媒除外成分濃度が上記範囲内の濃度であると、磁性塗料中における溶媒除外成分の分散性がよく、より均質な磁性塗膜を形成できる。
【0046】
磁性塗膜の形成に用いられる磁性塗料中の第1溶媒の含有量は、磁性塗料の塗布が良好に行えるという理由から、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましい。
【0047】
磁性塗料に含まれる第1溶媒は、従来公知の磁性層形成用の塗料に含まれる溶媒であれば特に制限はないが、例えば、メチルエチルケトン(沸点80℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、ジオキサン(沸点101℃)等のエーテル系溶媒、酢酸エチル(沸点77℃)、酢酸ブチル(沸点127℃)等の酢酸エステル系溶媒、トルエン(沸点111℃)等が挙げられる。これらは、一種類だけで用いてもいいし、2種以上組み合せて用いてもよい。なかでも、第1バインダ樹脂に対する溶解性、磁性粉末に対する分散性、蒸発速度、およびコストの観点から、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、またはトルエン等が好ましい。
【0048】
上記のとおり、磁気記録媒体が単層構造の場合、磁性塗膜の厚みは、0.3μm〜24μmであると好ましく、1.5μm〜16μmであるとより好ましい。また、磁気記録媒体が重層構造の場合、磁性塗膜の厚さは、0.03μm〜1.6μmであると好ましく、0.1μm〜0.8μmであるとより好ましい。磁性塗膜の厚みがこれらの範囲内にあると、より均質な磁性塗膜を形成できる。
【0049】
次ぎに、図2Aおよび図2Bを用いて、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例についてより具体的に説明する。図2Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図であり、図2Bは、後述する乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0050】
まず、塗布ゾーンAにて、帯状の非磁性支持体7の一方の主面側に磁性粉末を含む磁性塗料8を塗布して、磁性塗膜を形成する。磁性塗料の塗布方法は、例えば、グラビアコート法、ダイコート法等の従来から公知の方法にて行う。
【0051】
次いで、非磁性支持体7と磁性塗膜とを含む帯状の積層体T1を、乾燥機6内に搬送する。搬送手段は、例えば、複数のガイドロール5等から構成されている。
【0052】
乾燥機6内には、複数の熱風供給部1、溶媒蒸気を含んだ熱風を排気する排気部2、第1配向手段3a、第2配向手段3bが配置されている。第1配向手段3aは、例えば、一対の永久磁石を備えた配向手段であり、第2配向手段3bは、複数のソレノイドコイル301を備えた配向手段である。複数の熱風供給部1は、第1配向手段3aおよび第2配向手段3bよりも上流側に配置された第1熱風供給部1aと、第1配向手段3aよりも下流側に配設された第2熱風供給部1b、第3熱風供給部1cとを含む。ここで、「上流側」とは、積層体T1が搬送される方向において、塗布ゾーンAに近い側をいい、「下流側」とは、塗布ゾーンAから遠い側をいう。
【0053】
熱風供給部1は、例えば、熱風を吹出し可能なドライヤである。熱風供給部1や排気部2の数および位置等については、塗布速度、乾燥ゾーン長さ等を考慮して適切に決定される。
【0054】
乾燥室6に入った積層体T1は、第1配向手段3aよりも上流側に配置された第1熱風供給部1aにより予熱される。第1熱風供給部1aから供給される熱風の温度および風速は、比較的低く、風速は比較的遅いほうが好ましい。熱風の風速、塗膜の厚さ、塗膜中の溶媒組成、塗布速度等により異なるが、温度は35〜90℃が好ましく、風速は0.5〜15m/秒であると好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内にあると、予熱が十分に行え、かつ、恒率乾燥期間の好ましい範囲の制御が容易に行え、かつ、製造設備が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0055】
第1熱風供給部1aの吹出し口と塗膜との距離は1〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、予熱過程が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0056】
予熱過程は、第1配向手段3aよりも上流側で終了すると、後の恒率乾燥期間を好ましい範囲に制御しやすくなるという理由から好ましい。
【0057】
次ぎに、予熱されまたは予熱中の積層体T1は、例えば、第2熱風供給部1bから供給される熱風により、例えば、0.2秒〜10秒間、磁性塗膜の表面温度Tsが略一定に保たれるように加熱される。上記「略一定」には、厳密に一定である場合のみならず、略一定の場合も含まれ、例えば、±1℃の範囲内にある場合も含まれる。
【0058】
第2熱風供給部1bから吹出される熱風は、複数のソレノイドコイル301で形成される筒状の内部空間を下流側から上流側に向って流れ、第2配向手段3bよりも上流側に配置された排気部2より排気される。恒率乾燥期間は、例えば、第2熱風供給部1bから供給される熱風の温度および風速により制御できる。
【0059】
第2熱風供給部1bから供給される熱風の、好ましい温度、好ましい風速は、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜中の溶媒組成、磁性塗料の塗布速度等により異なるが、温度は40〜100℃が好ましく、風速は0.5〜15m/秒が好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内であれば、高充填、かつ平滑性の高い磁性層を、生産性よく形成できる。
【0060】
第2熱風供給部1bの吹出し口と塗膜との距離は1〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、恒率乾燥が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0061】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜中の溶媒組成、磁性塗料の塗布速度により異なるが、30℃〜80℃であると好ましく、40℃〜70℃であるとより好ましい。塗膜の表面温度Tsをこれらの範囲に制御することにより、恒率乾燥期間を好ましい範囲に制御することができるからである。
【0062】
恒率乾燥過程は、第2配向手段3bにより形成される磁場内で終了すると、戻り配向が生じないという理由から好ましい。
【0063】
次に、第2熱風供給部1b下を通過した積層体T1は、第3熱風供給部1cから吹出された熱風によりさらに加熱される。第3熱風供給部1cにより供給される熱風の温度は比較的高く、風速も比較的速いほうが好ましい。恒率乾燥時よりも、より多くの熱を磁性塗膜に供給することにより、磁性塗膜中に残った溶媒を比較的短時間でできるだけ除去して、減率乾燥期間を短縮化するためである。これにより、恒率乾燥を所定の期間行うことにより伴う設備の大型化を抑制できる。また、磁性塗膜中の最終残存溶媒量を少なくして、磁性層の走行耐久性を向上させることができる。ここで、磁性塗膜中の最終残存溶媒量とは、乾燥処理を経ても除去しきれなかった微量溶媒の残存量である。
【0064】
第3熱風供給部1cから供給される熱風の好ましい温度、好ましい風速は、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜に含まれる溶媒の種類(溶媒組成)、磁性塗料の塗布速度等により異なるが、恒率乾燥過程の最中よりも、より多くの熱が磁性塗膜に供給されるべく、通常、温度は60〜120℃が好ましく、風速は0.5〜30m/秒が好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内であれば、高充填で、平滑性が高く、かつ、最終残存溶媒量が少ないことにより走行耐久性が高い磁性層を形成できる。
【0065】
第3熱風供給部1cと積層体T1との距離は1cm〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、減率乾燥処理が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0066】
必要に応じて、製造ラインの、第3熱風供給部1cよりさらに下流側に、ドライヤや遠赤外線ヒータ等の加熱手段を設けて、磁性塗膜中の微量の最終残存溶媒を除去すれば、磁性層の耐久性を向上させることができる。
【0067】
なお、図2Aを用いて説明した例では、熱風の供給方向は、積層体T1の進行方向と直交しているが、熱風の供給方向はこの例に限定されない。恒温乾燥期間を好ましい範囲に制御するために、例えば、熱風供給部1から供給される熱風が下流側から上流側へよりスムーズに流れるように、熱風供給部1を傾けてもよい。また、排気部2の位置および個数を適切に設定することで、恒温乾燥期間を所望の範囲に調整することもできる。
【0068】
また、第1熱風供給部1a,第2熱風供給部1b,第3熱風供給部1cから供給される熱風の温度および風速は、必ずしも相互に異なっている必要はなく、例えば、いずれも同じであってもよい。しかし、例えば、恒率乾燥期間を所定時間以上確保しながら、第1熱風供給部1aから供給される熱風、第2熱風供給部1bから供給される熱風、および第3熱風供給部1cから供給される熱風について、温度および風速を同じにすると、乾燥機の長さが長くなり、さらには、磁場配向を行うために必要な設備も大きくなる。そのため、熱風供給部等の加熱手段によって供給される熱量は、第1熱風供給部1a、第2熱風供給部1b,第3熱風供給部1cの順に大きくなると好ましい。
【0069】
以上、非磁性支持体の一方の主面上に直接磁性層が配置される単層構造の磁気記録媒体の製造方法を例に挙げて説明したが、非磁性支持体の一方の主面上に非磁性層を介して磁性層が配置される重層構造の磁気記録媒体においても、同様にして製造できる。
【0070】
積層体T1の進行方向における第1配向手段3aと第2配向手段3bとの距離については、(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされる限り、特に制限はない。しかし、第1配向手段3aと第2配向手段3bとは、上記差(W2max−W1min)が可能な限り小さくなるよう、相互に接するように配置するか、可能なかぎり相互に近づけて配置されていると好ましい。また上記差(W2max−W1min)の値は正の数である場合もあるし、負の数である場合もある。
【0071】
第2配向手段3bが例えば、複数のソレノイドコイル301を備えている場合、積層体T1の進行方向に相互に隣合うソレノイドコイル301間の距離は、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされる限り、特に限定されない。しかし、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される磁場強度W2maxとW2minとの差(W2max−W2min)が可能な限り小さくなるよう、上記距離は可能なかぎり短いと好ましい。
【0072】
図5Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の一例を説明する概念図であり、図5Bは、図5A中に記載された乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0073】
図5Aに示した磁気記録媒体の製造方法では、複数の第2熱風供給部1bを用いており、積層体T1の進行方向に沿って隣り合うソレノイドコイル301の間に第2熱風供給部1bが配置されている。以上のこと以外は、図5Aに示した磁気記録媒体の製造方法は図2Aに示した磁気記録媒体の製造方法と同様である。この場合、積層体T1の進行方向に沿って隣合うソレノイドコイル301間の間隔が、図2Aおよび図2Bを用いて説明した例におけるそれよりも大きいので、(W2max−W2min)/W2maxの値も大きくなる。しかし、本例は、図2Aを用い説明された例よりも、恒率乾燥期間の制御がより容易である点で好ましい。
【0074】
図6Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法のさらに別の一例を説明する概念図であり、図6Bは、図6A中に示された乾燥機6内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0075】
図6Aに示した磁気記録媒体の製造方法は、(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされる範囲内において、第1配向手段3aと第2配向手段3bとが相互に離れて配置されていること以外は、図2Aを用いて説明した例と同じである。
【0076】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法によって製造される磁気記録媒体の一例について説明する。
【0077】
この磁気記録媒体の製造方法の一例によって製造される磁気記録媒体10は、図4に示したように、非磁性支持体11の一方の主面上に、非磁性層12、磁性層13がこの順に配置されている。そして、非磁性支持体11の他方の主面上には、バックコート層14が配置されている。しかし、非磁性層12およびバックコート層14は必ずしも必要ではなく、あってもなくてもよい。
【0078】
なお、本願において、強磁性粉末の磁気特性は、いずれも外部磁場1273.3kA/m(16kOe)をかけたときに、試料振動形磁束計で測定した値である。
【0079】
また、本願において、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した写真から100個の粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)をそれぞれ実測し、これらの値を平均した値(数平均粒子径)である。
【0080】
〈非磁性支持体〉
非磁性支持体11の厚さは、磁気記録媒体の用途によって異なるが、通常、2μm〜8μmであり、より好ましくは2.5μm〜6μmである。非磁性支持体11の厚さが薄すぎると磁性塗膜の形成や、非磁性塗料を用いて形成される非磁性塗膜の形成が難しく、磁気記録媒体の強度が小さくなるからである。また、非磁性支持体11の厚さが厚すぎると、磁気記録媒体全厚が厚くなり、例えば磁気テープの場合1巻当りの記録容量が小さくなるからである。
【0081】
非磁性支持体11の長手方向のヤング率は、磁気テープの走行が安定化するため、6GPa(612kg/mm2)以上であると好ましく、8GPa(816kg/mm2)以上であるとより好ましい。ヘリキャルスキャン方式で情報が記録される磁気テープでは、(長手方向(MD)のヤング率/幅方向(TD)のヤング率)が、0.60〜0.80であると好ましく、0.65〜0.75であるとより好ましい。(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.60〜0.80であると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入側と出側との間の出力のばらつき(フラットネス)が小さくなる。上記フラットネスは、(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.70付近のときに最小になる。リニアレコーディング方式により情報が記録される磁気テープでは、理由は明らかではないが、(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.70〜1.30であると上記フラットネスを小さく抑えることができ、好ましい。これらの特性を満足する非磁性支持体11には、例えば、二軸延伸された芳香族ポリアミドベースフィルム、二軸延伸された芳香族ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0082】
〈非磁性層〉
後述のとおり、厚さ損失を少なくし、または、短波長で情報を記録した際の分解能を大きくするためには、磁性層13の厚さを0.1μm以下にすると好ましい。磁性層13の厚さを0.1μm以下とする場合、磁性層13の耐久性を確保し、かつ、形成過程において磁性塗料を均一性よく塗布可能とするために、非磁性支持体11と磁性層13との間に非磁性層12を設けると好ましい。非磁性層12は、例えば、非磁性粉末とバインダ樹脂(第2バインダ樹脂)等を含んでいる。非磁性層12に含まれる第2バインダ樹脂には、例えば磁性層13を構成するバインダ樹脂(第1バインダ樹脂)と同様のバインダ樹脂が用いられる。
【0083】
非磁性層の厚さは0.2μm以上1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらにより好ましい。非磁性層の厚さが0.2μm以上1.0μm以下であると、非磁性層12を設けることによる磁性層13の厚さむらの低減効果が充分に発揮され、磁性層13の耐久性が高くなり、かつ高い記録容量(磁気テープ1巻当り)を確保できる。なお、非磁性支持体の表面の凹凸は、磁性層の平滑性のレベルと比較するとかなり大きい。
【0084】
非磁性層には、非磁性層12の膜厚の均一性の向上、表面平滑性の向上、剛性の制御、寸法安定性の制御のために、粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子が含まれていると好ましい。非磁性板状粒子の成分としては、酸化アルミニウム、セリウムなどの希土類元素、酸化ジルコニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄等の酸化物、または、インジウムと
スズとの複合酸化物が挙げられる。
【0085】
非磁性層の導電性を向上させるために、平均粒子径10〜100nmのグラファイトのような板状炭素性粉末や、平均粒子径10〜100nmの板状ITO(インジウム−スズ複合酸化物)粉末等を非磁性板状粉末として添加してもよい。非磁性層には、非磁性層中の全無機粉体の全重量のうち、板状ITO粉末が15〜95重量%含まれていると好ましい。
【0086】
板状ITO粒子に代えて、粉末状の炭素材料を用いてもよい。粉末状の炭素材料には必要に応じてカーボンブラックが含まれていてもよい。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。
【0087】
非磁性層には、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの酸化物粒子が含まれていてもよい。酸化物粒子の平均粒子径は、10nm〜100nmであると好ましい。
【0088】
非磁性層に含まれるバインダ樹脂には、例えば、磁性層に含まれるバインダ樹脂と同様のものが用いられる。
【0089】
非磁性層12を形成するための非磁性塗料に含まれる第2溶媒としては、例えば、磁性塗料に含まれる第1溶媒と同様のものを用いればよい。第2溶媒についても第1溶媒と同様、1種の溶媒からなるか、または、沸点の異なる2種以上の溶媒からなる。第1溶媒および第2溶媒に含まれる溶媒の内の沸点が最も低い溶媒の沸点tbと、前述した恒率乾燥過程中における磁性塗膜の表面温度Tsとの差(tb−Ts)は、1℃以上50℃以下であると好ましい。このような溶媒を選択することにより、恒率乾燥期間が制御しやすくなる。
【0090】
非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度(第2溶媒を除く他の成分の総濃度)は、10〜50重量%が好ましく、20〜35重量%がより好ましい。非磁性塗料中の溶媒除外成分の濃度が低すぎると粘度が小さすぎて非磁性粉末の分散性が低下し、それにより、磁性塗膜と非磁性塗膜との界面が凸凹になるからである。一方、非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度が高すぎると、粘度が大きくなりすぎて、非磁性塗料の塗布適性が低下するからである。よって、非磁性塗料における第2溶媒の含有量は50〜90重量%が好ましく、65〜80重量%がより好ましい。
【0091】
〈表面処理剤〉
非磁性層12に含まれる非磁性粉末や、磁性層13に含まれる磁性粉末や非磁性粉末には、分散性の向上のために、表面処理がなされていると好ましい。この表面処理に用いられる表面処理剤としては、リン酸系表面処理剤、カルボン酸系表面処理剤、アミン系表面処理剤、キレ―ト剤、各種シランカップリング剤等が好適である。
【0092】
リン酸系表面処理剤としては、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル等のアルキルリン酸エステル類、フエニルホスホン酸、モノオクチルフエニルホスホン酸等の芳香族リン酸類等が挙げられる。市販品としては、東邦化学製の「GARFAC RS410」、城北化学工業製の「JP−502」、「JP−504」、
「JP−508」等を用いることができる。
【0093】
カルボン酸系表面処理剤としては、安息香酸、フタル酸、テトラカルボキシルナフタレン、ジカルボキシルナフタレン、炭素数12〜22の脂肪酸等が挙げられる。
【0094】
アミン系表面処理剤としては炭素数8〜22の脂肪族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン等が挙げられる。
【0095】
キレ―ト剤としては、1,10−フエナントロリン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、ジメチルグリオキシム、アセチルアセトン、グリシン、ジチアゾン、ニトリロ三酢酸等が挙げられる。
【0096】
表面処理剤の使用量としては、磁性粉末100重量部、または非磁性粉末100重量部に対して、0.5〜5重量部であると好ましい。表面処理剤の分子量は、1000以下が好ましく、さらには500以下がより好ましい。これらの表面処理剤は、非磁性塗料の各成分や、磁性塗料の各成分を、混練する前、混練中、混練後溶媒への分散前、または溶媒への分散中に配合すると好ましい。
【0097】
〈磁性層〉
磁性層13の厚さは、非磁性支持体11の上に直接形成される場合は、0.1μm〜3μmが好ましく、0.5μm〜2μmがより好ましい。非磁性層12を介して非磁性支持体11の上に形成される場合、磁性層13の厚さは0.01μm以上0.2μm未満が好ましく、0.03以上0.1μm以下がより好ましい。これらの範囲が好ましいのは、充分な大きさの出力が得られ、かつ、均質な磁性層13の形成が容易に行え、かつ、厚さが厚すぎることにより生じる、短波長記録に対する分解能特性の低下を抑制できるからである。
【0098】
磁性層13に含まれる磁性粉末としては、強磁性鉄系金属磁性粉末、窒化鉄磁性粉末、または板状の六方晶Ba−フェライト磁性粉末等が好ましい。これらの粉末の平均粒子径は60nm以下であると好ましい。
【0099】
強磁性鉄系金属磁性粉末の平均粒子径は、10nm〜60nmであるとさらに好ましく、15nm〜45nmであるとより好ましい。平均粒子径が10nm〜60nmであると、十分な大きさの保磁力(Hc)が得られ、磁性塗料中での分散も良好に行え、平均粒子径が大きすぎることに起因して生じる粒子ノイズを抑制でき、好ましい。
からである。
【0100】
強磁性鉄系金属磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/m(2010〜4020Oe)であると好ましく、200〜300kA/m(2515〜3770Oe)であるとより好ましい。飽和磁化量(Bs)は、60〜200A・m2/Kg(60〜200emu/g)であると好ましく、80〜180A・m2/Kg(80〜180emu/g)であるとより好ましい。
【0101】
磁気記録媒体の磁性粉末の配向性を示す指標の一つとして角型(Br/Bs)が挙げられるが、(Br/Bs)は0.8以上であると好ましく、0.84以上であるとより好ましい。なお、Bsは飽和磁化量であり、Brは残存磁化量である。
【0102】
強磁性鉄系金属磁性粉末のBET比表面積は、35m2/g以上が好ましく、40m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がよりいっそう好ましい。BET比表面積の上限については特に制限はないが、通常、100m2/g以下である。
【0103】
強磁性鉄系金属磁性粉末には、磁性粉末を構成する金属元素として、Mn、Zn、Ni、Cu、Co等の遷移金属が含まれていてもよい。中でも、CoまたはNiが含まれていると好ましく、これらのうち、Coは飽和磁化量を最も向上させることができる点において、特に好ましい。
【0104】
上記遷移金属元素の含有量は、原子比で表わすと、磁性粉末中のFeの含有量100に対して、5〜50であると好ましく、10〜30であるとより好ましい。
【0105】
また、強磁性鉄系金属磁性粉末には、上記遷移金属元素に加え、磁性粉末を構成する他の金属元素として、イツトリウム、セリウム、イツテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユ―ロピウム、ネオジム、テルビウム等から選ばれる少なくとも1種の希土類元素がさらに含まれていてもよい。中でも、セリウム、ネオジムとサマリウム、テルビウムおよびイツトリウムから選ばれる少なくとも1種が含まれていると、高い保磁力(Hc)が得られるので好ましい。上記希土類元素の含有量は、原子比で表わすと、合金中のFeの含有量100に対して、0.2〜20であると好ましく、0.3〜15であるとより好ましく、0.5〜10であるとさらに好ましい。
【0106】
窒化鉄磁性粉末には,公知のものを用いることができる。窒化鉄磁性粉末の形状は、針状の他に球状や、立方体形状等の不定形であってもよい。
【0107】
窒化鉄磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/m(2010〜4020Oe)であると好ましく、200〜300kA/m(2515〜3770Oe)であるとより好ましい。窒化鉄磁性粉末の飽和磁化量は、60〜200A・m2/Kg(60〜200emu/g)であると好ましく、80〜180A・m2/Kg(80〜180emu/g)であるとより好ましい。
【0108】
窒化鉄磁性粉末の平均粒子径としては、充分な大きさの保磁力が得られ、かつ、磁性塗料中での分散が良好に行え、かつ、平均粒子径の大きさに起因して生じる粒子ノイズが小さい点で、5〜20nmが好ましく、10〜17nmがより好ましい。
【0109】
窒化鉄磁性粉末のBET比表面積は、35m2/g以上が好ましく、40m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がよりいっそう好ましい。上記BET比表面積の上限について特に制限はないが、通常、100m2/g以下であると好ましい。
【0110】
強磁性鉄系金属磁性粉末および/または窒化鉄磁性粉末は、耐食性の向上、分散性を向上、保磁力の制御のために、Al,Si,P,Y,Zrまたはこれらの酸化物によって表面処理されていてもよい。
【0111】
六方晶Ba−フェライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mであると好ましく、飽和磁化量は、40〜60A・m2/kg(40〜60emu/g)であると好ましい。また、六方晶Ba−フェライト磁性粉末の平均粒子径(板面の一番長い部分の長さ、板径)は、10nm〜30nmであると好ましく、10nm〜25nmであるとより好ましく、10nm〜20nmであるとさらに好ましい。平均粒子径が小さすぎると、粒子の表面エネルギーが増大するため磁性塗料中での分散が困難になり、大きすぎると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるからである。また、板状比(板径/板厚)は3未満であると好ましく、2以下であるとより好ましい。また、六方晶Ba−フェライト磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m2/gであると好ましい。
【0112】
磁性層13のテープ長手方向の残留磁束密度と磁性層厚さの積は、短波長記録を可能とし、MRヘッドで再生した時の再生出力が大きく、しかも再生出力の歪が小さく、出力対ノイズ比を大きくするために、0.0018〜0.05μTmであると好ましく、0.0036〜0.05μTmであるとより好ましく、0.004〜0.05μTmであるとさらに好ましい。
【0113】
磁性層13に含まれるバインダ樹脂(第1バインダ樹脂)または非磁性層12に含まれるバインダ樹脂(第2バインダ樹脂)としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、およびセルロース系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンとの組み合せが挙げられる。セルロース系樹脂としては例えばニトロセルロース樹脂が挙げられる。
【0114】
中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタンとの組み合せが好ましい。ポリウレタンとしては、例えば、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン等が挙げられる。
【0115】
また、ポリウレタンとしては、官能基として、−COOH、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)3、−O−P=O(OM)2[これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR'R''、−N+R'''R''''R'''''[これらの式中、R'、R''、R'''、R''''、R'''''は水素または炭化水素基を示す]、またはエポキシ基を有する高分子からなるポリウレタンも使用できる。このようなポリウレタンを使用すれば、磁性粉末等の粉体の磁性塗料中での分散性が向上する。
【0116】
2種以上のバインダ樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させると好ましく、中でも2種のバインダ樹脂のそれぞれが−SO3M基を有していると好ましい。
【0117】
磁性層形成用の磁性塗料中、第1バインダ樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部含まれていると好ましく、10〜35重量部含まれているとより好ましい。そして、バインダ樹脂が塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを含む場合は、磁性粉末100重量部に対して、塩化ビニル系樹脂が5〜30重量部、ポリウレタン樹脂が2〜20重量部含まれていると好ましい。
【0118】
非磁性層形成用の非磁性塗料中に含まれる第2バインダ樹脂の含有量は、非磁性粉末100重量部に対して、10〜55重量部であると好ましく、15〜40重量部であるとより好ましい。
【0119】
磁性層形成用の磁性塗料または非磁性層形成用の非磁性塗料中には、上記第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂とともに、第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂が有する官能基と結合して架橋する熱硬化性の架橋剤がさらに含まれていると好ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物とが反応して得られる反応生成物、または上記イソシアネート類の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂100重量部に対して、それぞれ、好ましくは1〜30重量部用いられ、より好ましくは5〜20重量部用いられる。しかし、非磁性塗料を非磁性支持体上に塗布することにより形成される非磁性塗膜の上に、ウエット・オン・ウエットで磁性塗膜が形成される場合には、非磁性塗膜中のポリイソシアネートの一部が磁性塗膜に拡散供給される。そのため、磁性塗料はポリイソシアネートを含んでいなくても、ある程度は磁性塗膜中で架橋が行われる。
【0120】
磁性層13は、磁性粉末以外に、非磁性粉末を含んでいてもよい。非磁性粉末としては、研磨材やカーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックを含むと、磁性層13の導電性が向上する。
【0121】
研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素等、主としてモース硬度6以上のものが挙げられる。これらは単独で用いてもいいし2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0122】
研磨材の平均粒子径としては、磁性層13の厚さが0.01〜0.2μmと薄い場合は、通常10nm〜250nmであると好ましい。磁性層13の厚さが0.2μmよりも厚い場合、研磨材の平均粒子径は50〜1000nmであると好ましい。研磨材の含有量は、磁性粉末100重量部に対して、5〜20重量部であると好ましく、8〜18重量部であるとより好ましい。
【0123】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
【0124】
カーボンブラックの平均粒子径は、分散性の向上、磁性層13の表面の平滑性の向上、および、磁性層13の表面が粗くなることに起因して生じる出力低下の抑制の観点から、10nm〜100nmであると好ましい。平均粒子径が小さすぎるとカーボンブラックの分散が難しく、平均粒子径が大きすぎると多量のカーボンブラックが必要になる。カーボンブラックの含有量は、磁性粉末100重量部に対して、0.2〜5重量部であると好ましく、0.5〜4重量部であるとより好ましい。
【0125】
<潤滑剤>
非磁性層12は、脂肪酸と脂肪酸のエステルとを潤滑剤としてさらに含んでいると好ましい。非磁性層12がこれらをそれぞれ所定量含んでいると、磁気テープのヘッドとの摩擦係数が小さくなるからである。非磁性塗料には、摩擦係数低減効果が充分に発揮され、非磁性層1の高い強靭性を確保し、磁性層13への脂肪酸のエステルの移入量を抑制して磁気テープとヘッドとが貼り付く等の副作用が生じることを防止する観点から、非磁性層12に含まれる非磁性粉末100重量部に対して脂肪酸が0.5〜5.0重量部、脂肪酸のエステルが0.2〜3.0重量部、配合されていると好ましい。
【0126】
脂肪酸としては、炭素数10以上のものを用いると好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能が優れた直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。
【0127】
脂肪酸のエステルとしては例えば、ブチルステアレートとブチルパルミテートとの混合物、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でアシル化したもの、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、グリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物、ブチルステアレート、sec-ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、オレイルオレエート、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジエチレングリコールジパルミテート等を挙げることができる。
【0128】
磁性層13にも上記脂肪酸が含まれていてもよい。この場合、非磁性層12と磁性層13との間で脂肪酸が転移するので、磁性塗料における脂肪酸の配合量については、磁性層13に含まれる脂肪酸の含有量と非磁性層12に含まれる脂肪酸の含有量の総和が、磁性層13に含まれる全粉末(磁性粉末と非磁性粉末)と非磁性層12に含まれる非磁性粉末の総量を100重量部とした場合に、0.5〜5.0重量部であれば好ましい。なお、非磁性塗料に脂肪酸が配合される場合、磁性塗料には脂肪酸は必ずしも配合されていなくてもよい。
【0129】
磁性層13には、潤滑剤として、脂肪酸アミドと脂肪酸のエステルの両方が含まれていてもよい。テープ走行時のテープのヘッドに対する摩擦係数が小さくなるからである。これらの磁性塗料への配合量は、磁性粉末100重量部に対して、脂肪酸アミドは0.5〜3.0重量部、脂肪酸のエステルは0.2〜3.0重量部であると好ましい。脂肪酸アミドの含有量が0.5重量部未満であると、ヘッドと磁性層13とが相互接触することにより生じる焼付きを防止する効果が小さくなるからである。また、脂肪酸アミドの含有量が3.0重量部を越えると脂肪酸アミドがブリードアウトしてしまうおそれがあるからである。また、脂肪酸のエステルの含有量が0.2重量部未満であると、摩擦係数低減効果が小さくなるからである。また、脂肪酸のエステルの含有量が3.0重量部を越えると、磁性層13がヘッドに貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるからである。なお、磁性層13の潤滑剤と非磁性層12の潤滑剤は相互移動し得る。
【0130】
脂肪酸アミドとしては、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数が10以上の脂肪酸アミド等が挙げられる。磁性層13に含まれる脂肪酸のエステルは、上記で列挙した脂肪酸のエステルと同様であってもよい。
【0131】
〈バックコート層〉
非磁性支持体11の磁性層13が形成されている面とは反対側の面には、走行性の向上
等を目的としてバックコート層14が設けられていると好ましい。バックコート層14の厚さは、高い走行性向上効果が得られ、かつ、磁気テープ1巻当たりの記録容量を大きくする観点から、0.2〜0.8μmであると好ましい。
【0132】
バックコート層14は、例えば、カーボンブラック(CB)を含む。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。通常、粒子径が相対的に異なる、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックとが併用される。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックとを併用すると、走行性向上効果も大きくなるので好ましい。大粒径カーボンブラックは、小粒径カーボンブラック100重量部に対して5〜15重量部含まれていると好ましい。
【0133】
小粒径カーボンブラックの平均粒子径は、塗料中での分散性が高く、カーボンブラックの添加量が多くなりすぎることを抑制して、平滑性の高いバックコート層を得る観点から、5nm以上200nm未満であると好ましく、10〜100nmであるとより好ましい。
【0134】
大粒径カーボンブラックの平均粒子径は、200〜400nmであると好ましい。
【0135】
小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計量は、バックコート層に含まれる全粉末重量のうち60〜98重量%であると好ましく、70〜95重量部であるとより好ましい。
【0136】
バックコート層14の平均表面粗さRaは、3〜8nmであると好ましく、4〜7nmであるとより好ましい。バックコート層に磁性があると磁性層13に記録される磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0137】
なお、本願では、ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて、10視野の表面粗さを測定し、その平均値を平均表面粗さ(Ra)としている。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は72μm×54μmである。
【0138】
バックコート層には、強度向上を目的として、例えば酸化鉄が含まれていると好ましい。酸化鉄の平均粒子径は100〜600nmが好ましく、200〜500nmがより好ましい。酸化鉄の含有量は、全粉末重量のうち2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。また、平均粒子径が100〜600nmのアルミナが全粉体重量のうち0.5〜5重量%添加されていると、さらにバックコート層の強度が向上するので、好ましい。
【0139】
バックコート層14にはバインダ樹脂が含まれるが、バックコート層14中のバインダ樹脂は、前述した磁性層13や非磁性層12に含まれるバインダ樹脂と同様のものであってもよい。しかし、摩擦係数を低くして磁気ヘッドの走行性を向上させるために、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、強度が高く摩擦係数の低いバックコート層14を形成する観点から、バックコート層に含まれる全粉末重量100重量部に対して、40〜150重量部であると好ましく、50〜120重量部であるとより好ましく、60〜110重量部であるとさらに好ましく、70〜110重量部であるとよりいっそう好ましい。バックコート層に含まれる全粉末重量を100重量部とすると、上記バインダ樹脂には、セルロース系樹脂が30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂は20〜50重量部含まれていると好ましい。バックコート層14を形成するための塗料は、バインダ樹脂を硬化させるために、架橋剤を含んでいると好ましい。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0140】
バックコート層14を形成するための塗料に含まれる架橋剤は、例えば、前述した磁性層13形成用の磁性塗料や非磁性層12形成用の非磁性塗料に含まれる架橋剤と同様ものであってよい。架橋剤の含有量は、強度が高くSUS(ステンレス)に対する動摩擦係数が小さいバックコート層14を形成する観点から、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部であると好ましく、10〜35重量部であるとより好ましく、10〜30重量部であるとよりいっそう好ましい。
【0141】
〈有機溶媒〉
非磁性層12形成用の非磁性塗料に含まれる第2溶媒、バックコート層14形成用の塗料に含まれる溶媒には、磁性層13形成用の磁性塗料に含まれる第1溶媒のもの用いればよい。また、非磁性層の形成に用いられる非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度、バックコート層14形成用の塗料の溶媒除外成分濃度は、磁性塗料の場合と同様の理由から、10〜50wt%が好ましく、20〜35wt%がより好ましい。よって、非磁性塗料に含まれる第2溶媒の含有量は、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましく、バックコート層14形成用の塗料に含まれる溶媒の含有量も、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましい。
【0142】
以下に実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における平均粒子径は、数平均粒子径を示す
【実施例】
【0143】
(実施例1)
<非磁性層形成用の非磁性塗料>
(1)A成分
針状酸化鉄(平均粒子径:0.11μm) 68重量部
カーボンブラック(平均粒子径:0.025μm) 20重量部
粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.4μm) 12重量部
メチルアシッドフォスフェート 1重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9重量部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5重量部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3Na基:1×10-4当量/g)
テトラヒドロフラン 13重量部
シクロヘキサノン 63重量部
メチルエチルケトン 137重量部
(2)B成分
ステアリン酸ブチル 2重量部
シクロヘキサノン 50重量部
トルエン 50重量部
(3)C成分
ポリイソシアネート 6重量部
シクロヘキサノン 9重量部
トルエン 9重量部
<磁性層形成用の磁性塗料>
(1)a成分
強磁性鉄系金属磁性粉末 100重量部
(Al−Y−Fe−Co)〔σs:120A・m2/kg(120emu/g)
Hc:176.3kA/m(2215Oe)平均粒子径:45nm、真密度ρ:5.7g/cc〕
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 17重量部
ポリエステルポリウレタン樹脂 6重量部
粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm) 10重量部
メチルアシッドフォスフェート 4重量部
メチルエチルケトン 35重量部
シクロヘキサノン 110重量部
トルエン 110重量部
(2)b成分
パルミチン酸アミド 1重量部
ステアリン酸ブチル 1重量部
シクロヘキサノン 30重量部
トルエン 30重量部
(3)c成分
ポリイソシアネート 6重量部
メチルエチルケトン 2重量部
シクロヘキサノン 8重量部
トルエン 8重量部
【0144】
上記の非磁性層形成用の塗料成分のうちA成分を回分式ニーダで混練した。混練されたA成分にB成分を加えて撹拌した後、サンドミルを用いて60分間(滞留時間)分散処理をした。さらに、分散処理をしたA成分とB成分の混合物にC成分を加え、これらを撹拌し、得られたものをろ過して、非磁性層形成用の非磁性塗料を得た。
【0145】
一方で、a成分を回分式ニーダで混練した。次ぎに混練されたa成分にb成分を加えて撹拌して未分散塗料を得た。続いて、未分散塗料に対して、ナノミル(浅田鉄工社製)を用いて、90分間(滞留時間)分散処理をした。さらに、分散処理をしたa成分とb成分の混合物にc成分を加えて撹拌し、得られたものをろ過して、磁性層形成用の磁性塗料を得た。
【0146】
上記非磁性層形成用の非磁性塗料を、厚さ8μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、エクストルージョン型コータを用いて塗布して非磁性塗膜を形成した。次いで、この非磁性塗膜上に、磁性層形成用の磁性塗料をエクストルージョン型コータを用いて、ウエット・オン・ウエットで塗布して磁性塗膜を形成した。
【0147】
非磁性塗膜の厚さは、乾燥およびカレンダ後の厚さ(すなわち非磁性層の厚さ)が0.9μmとなるようにし、磁性塗膜の厚さは、乾燥およびカレンダ後の厚さ(すなわち磁性層の厚さ)が0.08μmとなるようにした。磁性層形成用の磁性塗料の塗布速度は150m/分とした。
【0148】
次いで、非磁性支持体上に非磁性塗膜と磁性塗膜とがこの順に形成された積層体を、図2Aに示された要領で、非磁性塗膜中および磁性塗膜中に含まれる溶媒を除去しながら、磁場配向を行った。具体的には、まず、第1熱風供給部1aにより予熱過程を開始し、その後、第1配向手段の一例であるN−N対向磁石を含む配向手段内(W1max:7kOe(557kA/m))を通過させた。次いで、第2配向手段により磁場配向を行いながら、第2熱風供給部1bおよび第3熱風供給部1cにより、恒率乾燥過程および減率乾燥過程をこの順で行った。搬送手段による積層体の搬送速度は150m/分とした。このとき、第1配向手段と第2配向手段との距離を調節することにより、W1minが3kOeとなるように設定した。
【0149】
なお、本実施例では、図2に示すように、第2配向手段として4基のソレノイドコイルを備えた配向手段(W2max:3kOe(239kA/m))を用いた。熱風の温度、風速、熱風供給部と磁性塗膜との距離等の、乾燥条件については表1に示している。
【0150】
<バックコート層形成用塗料の成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80重量部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10重量部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10重量部
ニトロセルロース 45重量部
ポリウレタン樹脂 30重量部
シクロヘキサノン 260重量部
トルエン 260重量部
メチルエチルケトン 525重量部
ポリイソシアネート 15重量部
【0151】
上記のバックコート層形成用の塗料の成分のうちポリイソシアネートを除く他の成分全てをサンドミル中で分散混合させた後、それにポリイソシアネートを加えた。得られた混合物をろ過して、バックコート層形成用の塗料を得た。この塗料を、非磁性支持体の磁性層側の面の反対面に塗布し、乾燥させた。
【0152】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理(カレンダ処理)した。次いで、磁気シートをコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用磁気テープを作製した。
【0153】
(実施例2)
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.9kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の評価用磁気テープを作成した。
【0154】
(実施例3)
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.3kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の評価用磁気テープを作成した。
【0155】
(実施例4)
図5Aに示した乾燥・配向装置を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の評価用の磁気テープを作製した。
【0156】
(実施例5)
図5Aに示した乾燥・配向装置を用い、第1〜第3熱風供給部の条件を表1の記載のとおり設定し、恒率乾燥期間を0.2秒としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の評価用磁気テープを作成した。
【0157】
(実施例6)
図2Aに示した乾燥・配向装置を用い、第1〜第3熱風供給部の条件を表1の記載のとおり設定し、恒率乾燥期間を10秒としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の評価用磁気テープを作成した。
【0158】
[比較例1]
第2熱風供給部1bによる乾燥処理を行わず、恒率乾燥期間を0.1秒としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の評価用の磁気テープを作製した。
【0159】
[比較例2]
第1熱風供給部1aによる乾燥処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の評価用の磁気テープを作製した。
【0160】
[比較例3]
第1熱風供給部1aを用いた乾燥処理を行わず、第2、第3熱風供給部の条件を表1に記載の条件に変更し、恒率乾燥期間を0.1秒としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の評価用の磁気テープを作製した。
【0161】
[比較例4]
図8Aに示した従来技術の製造装置を用い、第1熱風供給部11aを用いた乾燥処理を行わず、第2、第3熱風供給部11b,11cの条件を表1に記載の条件に変更し、恒率乾燥期間を0.1秒とし、更に第1配向手段31aと第2配向手段31bとの距離を調節して、W1minを0.02kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の評価用の磁気テープを作製した。
【0162】
[比較例5]
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.15kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の評価用磁気テープを作成した。
【0163】
[比較例6]
第2配向手段を構成するソレノイドコイルに関して、磁気シートの進行方向に隣り合うソレノイドコイル間距離を調節することにより、W2minを0.9kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の評価用磁気テープを作成した。
【0164】
[比較例7]
図7Aに示した従来技術の製造装置を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の評価用磁気テープを作成した。
【0165】
得られた評価用の磁気シートの評価は以下のようにして行った。その結果は表1に示している。尚、表1中の、W1max、W1min、W2max、W2minは、第1配向手段と第2配向手段との距離や、第2配向手段を構成するソレノイドコイルの配置位置などを適宜調節した装置について、予め、非磁性支持体上に非磁性塗膜と磁性塗膜とがこの順に形成された積層体が通ることとなる経路にガウスメーター(F.W.BELL社製、4048型)を一定速度で走らせるながら、装置内の磁場強度を測定することにより得た。
【0166】
【表1】
【0167】
〈恒率乾燥期間〉
乾燥機内に20cm間隔で赤外線センサ(ファイバー型赤外放射温度計(FTZ6型 ジャパンセンサー(株)製))を配置し、各赤外線センサにより磁性層の表面温度Tsを測定した。連続配置された3つのセンサから得られた各磁性層の表面温度Tsをどのように組み合せても温度差が2℃以内であれば、恒率乾燥が行なわれていると判断して、恒率乾燥期間を測定した。
【0168】
〈磁性層の表面粗さ〉
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて、10点の表面粗さを測定し、その平均値を平均粗さRzとした。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は72μm×54μmである。
【0169】
〈磁気特性〉
磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけた後、角型(Br/Bs)および磁性層単位面積当たりの飽和磁化量Mst(memu/cm2)を測定した。これらの測定には、東英工業製の試料振動型磁束計VSM−P7を用いた。
【0170】
〈体積充填度〉
磁気テープを樹脂封止した後、それを集束イオンビーム加工装置を用いて、磁気テープの厚さ方向の断面をテープの長手方向に切り出した。次いで、その断面の写真撮影(BSE像、倍率:10万倍)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。写真撮影は、互いに重複部分を含まないように10視野について行った。次いで、各写真に、磁性層と非磁性層との界面に境界線を引き、その境界線と対向する磁性層の外形にも線を引いた。線幅は0.5mmとした。
【0171】
次ぎに、各写真について、上記境界線とそれに対応する線との距離を5箇所測定し、その平均値を磁性層の厚さt(μm)として測定した。そして、Mstおよび磁性層の厚さt(μm)を用いて次式(1)により飽和磁束密度Bs(G)を求めた。また、Bsおよび磁性粉末のσs(emu/g)および真密度ρ(g/cc)を用いて次式(2)から磁性粉末の充填度(Vol%)を求めた。
Bs=4π×Mst/t (1)
充填度(Vol%)=Bs/(4π・σs・ρ)×100 (2)
【0172】
表1に示すように、恒率乾燥期間が0.2秒よりも短い比較例1〜4の評価用磁気テープについては、(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされていても、平滑性、配向性、充填性のうちの少なくとも1つが実施例1〜6の評価用磁気テープのそれよりも劣っている。上記2つの関係式のうちの少なくとも一方が満たされていない比較例4〜7の評価用磁気テープについては、配向性が、実施例1〜6の評価用磁気テープのそれよりも劣っている。これに対して、実施例1〜6の評価用磁気テープについては、磁性塗膜の平滑性が高く(粗度が小さい)、磁性粉末の配向性が優れ(角型が大きく)、かつ、磁性粉末の充填性が高い(体積充填度が大きい)。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、磁性粉末の充填率が高く、表面の平滑性が優れ、かつ、磁性粉末の配向性が良好な磁性層を形成できるので、本発明は、より大容量化され高出力可能な磁気記録媒体の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例における塗膜表面の温度の変化と塗膜中の含溶媒率の変化を示した概念図
【図2A】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図
【図2B】図2Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図3】本発明の磁気記録媒体の一例の部分断面図
【図4】本発明の磁気記録媒体の他の一例の部分断面図
【図5A】本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の例を説明する概念図
【図5B】図5Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図6A】本発明の磁気記録媒体の製造方法のさらに別の例を説明する概念図
【図6B】図6Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図7】従来の磁気記録媒体の製造方法の一例における塗膜表面の温度の変化と塗膜中の含溶媒率の変化を示した概念図
【図8A】従来の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図
【図8B】図7Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【符号の説明】
【0175】
1 熱風供給部
1a 第1熱風供給部
1b 第2熱風供給部
1c 第3熱風供給部
2 排気部
3a 第1配向手段
3b 第2配向手段
5 ガイドロール
T1 積層体
10 磁気記録媒体
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体には磁気テープや磁気ディスク、磁気カード等がある。その一つである磁気テープの用途には、オーディオ用、ビデオ用、コンピュータ用等、種々の用途がある。コンピュータ用のデータバックアップ用テープについては、バックアップの対象となるハードディスクの大容量化にともない、磁気テープ1巻当たりの記録容量が数百GBの磁気テープが商品化されている。しかし、ハードディスクのさらなる大容量化にともない、1TBを超える大容量バックアップテープが要望されることは必至であり、よって、磁気テープのさらなる大容量化は不可欠である。
【0003】
大容量化の方法には、記録再生装置へのアプローチと記録媒体へのアプローチがある。
【0004】
記録再生装置へのアプローチは、例えば、記録信号の短波長化やトラックピッチの狭幅化である。この場合、磁気テープからの漏れ磁束が小さくなるため、再生ヘッドには、微小磁束でも高い出力が得られるMRヘッドが使用される場合が多い。
【0005】
記録媒体へのアプローチは、磁性粉末の微粒子化と、磁性粉末の磁気特性の改善である。
【0006】
従来、コンピュータ用のデータバックアップ用テープを構成する磁気粉末には、オーディオ用のテープや家庭用ビデオテープに使用されていた磁性粉末(例えば、強磁性酸化鉄、Co変性強磁性酸化鉄、酸化クロム等の磁性粉末)と同様の磁性粉末が用いられていた。現在では、粒子径が25nm〜65nm程度の針状の強磁性鉄系金属粉末を用いることが提案されている。
【0007】
針状の磁性粉末は、その形状磁気異方性により磁気特性を発現させているため、粒子径が減少すると保磁力(Hc)が低下し短波長記録特性が低下する傾向がある。しかし、粒子径が5nm〜30nm程度と小さくても結晶磁気異方性により磁気特性を発現する、板状や粒状の、六方晶Ba−フェライト磁性粉末や窒化鉄磁性粉末等(微粒子磁性粉末)については、磁気記録媒体の材料として用いることが提案されている。
【0008】
しかし、上記針状、粒状、または板状等のいずれの磁性粉末を使用する場合でも、磁性層中の空隙を小さくして磁性層の充填性を高くしなければ、十分な大容量化は実現できない。大容量化のためには同時に磁性粉末を高度に配向させる必要がある。さらに、前述したMRヘッドの使用に適応させるには、磁性層表面の粗度を小さくし平滑にする必要がある。そのため、溶媒が除去されることにより磁性層となる磁性塗膜の乾燥方法や、磁性粉末の配向方法が、種々提案されている(例えば特許文献1〜7等)。特許文献1〜3には、磁性粉末を高度に配向させる方法として、高磁場を比較的安価に得ることができる永久磁石と、一定方向の磁場を得ることができるソレノイドコイルとを組み合せて磁場配向を行うことが開示されている。特許文献4〜7には、磁性層表面の粗度を小さくし平滑にする乾燥方法が開示されている。
【0009】
具体的には、特許文献1には、磁性塗膜に対して乾燥処理を開始する前に、1800Oe(1.8kOe)以上の強度の磁場(第1磁場)を作用させ、その後、磁性塗膜に対して乾燥処理を行いながら、400Oe(0.4kOe)以上の強度の磁場(第2磁場)を作用させる、乾燥および配向方法が開示されている。磁性塗膜に含まれる磁性粉末の保磁力は600Oe程度である。
【0010】
特許文献2に記載の配向・乾燥方法では、まず、高磁場コイルにて高強度磁場を磁性塗膜に印加して磁性粉末の配向を行った後、低磁場コイルにて低強度磁場を磁性塗膜に印加して、磁性粉末の戻り配向を防止するとともに、磁性塗膜の乾燥を行う。低強度磁場では、最大磁場強度の20%以下の磁場強度を与える。高強度磁場の強度は5〜10kOeであり、低強度磁場の強度は50〜1000Oeである。
【0011】
特許文献3に記載の配向・乾燥方法についても、特許文献1に記載の方法と同様に、乾燥装置による磁性塗料の乾燥開始前に第1の磁場発生手段によって第1の磁場配向を行い、次いで、乾燥装置内において第2の磁場発生手段によって第2の磁場配向を行っている。第2の磁場発生手段により発生する平均磁場強度は、第1の磁場発生手段による最大磁場強度の1/3以下である。磁性塗膜に含まれる磁性粉末の保磁力は例えば520Oeである。
【0012】
特許文献4には、配向用のマグネットとドライヤとを備えた配向装置を複数台備えた磁気記録媒体製造装置が開示されている。この製造装置では、各ドライヤから供給される温風の風速や温度を、配向装置毎にコントロールできる。そして、この製造装置では、複数の配向装置から供給される温風の風速が、非磁性支持体の進行方向に沿って順次増加するように設定されている。
【0013】
特許文献5には、乾燥ゾーンを2以上含む乾燥装置が開示されている。この乾燥装置では、最も上流に低温乾燥ゾーンが配置されており、この低温乾燥ゾーンより下流側に高温乾燥ゾーンが配置されている。低温乾燥ゾーンには、低温かつ低湿のガスを吹出し可能とする低温ガス吹出ノズルが配置されており、高温乾燥ゾーンには、上記低温ガス吹出ノズルから吹出されるガスよりも高温のガスを吹出可能とする高温ガス吹出ノズルが配置されている。
【0014】
特許文献6に開示された磁気記録媒体の製造方法の一例では、磁性塗料に含まれる溶媒の沸点を130℃以下としている。そして、恒率乾燥過程と減率乾燥過程とを含む乾燥処理中において、減率乾燥過程以後の雰囲気温度を40℃〜乃至80℃としている。また、同文献において、恒率乾燥過程における雰囲気温度は、通常、減率乾燥過程におけるそれよりも高い。よって、同文献に記載の磁気記録媒体の製造方法では、乾燥速度(溶媒の単位時間当たりの除去量)が一定になる瞬間はあるものの、積極的な恒率乾燥は行なわれていない。なお、恒率乾燥過程では、乾燥速度が一定であるのに対して、減率乾燥過程では、塗膜中の溶媒減少に伴い乾燥速度も低下している。
【0015】
特許文献7には、磁気記録媒体およびその製造方法が開示されている。この磁気記録媒体の磁性層に含まれる残存溶媒量は5mg/m2である。特許文献7には、乾燥処理中において、恒率乾燥過程における乾燥速度を1〜20kg/m2・hrとすることが開示されている。
【0016】
以上のとおり、特許文献4〜7に開示された製造装置や製造方法等では、いずれも、比較的長い恒率乾燥過程を経ることなく減率乾燥過程へと移行している。その理由は、恒率乾燥過程を長くすると、乾燥設備および配向設備の大型化や、生産速度低下等の不利益を伴うからである。
【特許文献1】特開昭62−175931号公報
【特許文献2】特開平6−20273号公報
【特許文献3】特開平7−134825号公報
【特許文献4】特開平10−124866号公報
【特許文献5】特開2004−19958号公報
【特許文献6】特開昭63−42030号公報
【特許文献7】特開平4−229415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、これらの文献に記載の方法では、磁性層における磁性粉末の充填率を十分に高くし、かつ、磁性粉末を高度に配向させることはできないし、平滑性も不十分となる。
【0018】
また、特許文献1に記載の方法では、第1磁場が乾燥手段の外に形成され、第2磁場が乾燥手段内に形成されるので、磁性塗膜が第1磁場を通過してから第2磁場内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度は零に近い値になる。そのため、磁性粉末の粒子サイズが小さく、かつ保磁力が高い場合、第1磁場による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易い。また、一旦もどり配向が生じてしまうと、第2磁場による磁化では再度良好に配向させることは困難である。
【0019】
特許文献2に記載の方法でも、乾燥工程の前に高磁場配向を行い、低磁場配向を行いながら乾燥を行うために、高強度磁場による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易く、低強度磁場による磁化では、もどり配向してしまった磁性粉末を再度良好に配向させることは困難である。
【0020】
特許文献3に記載の方法においても、第1の磁場発生手段が乾燥装置の外に設けられ、第2の磁場配向手段が乾燥手段内に設けられているので、磁性塗膜が第1の磁場発生手段内を通過してから第2の磁場配向手段内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度が零に近い値となる。そのため、磁性粉末の粒子サイズが小さくかつ保磁力が高い場合、第1の磁場配向手段による磁化の後にいわゆる戻り配向が生じ易い。また、第2の磁場配向手段による磁化では、もどり配向してしまった磁性粉末を再度良好に配向させることは困難である。
【0021】
高い配向性を得る方法として、磁場発生手段を、塗料の塗布直後から塗布された磁性塗料が完全に乾燥するまでの間、磁場が磁性塗膜に付与され続けるように配置することが考えられる。しかし、設備が非常に高価なものになり現実的ではない。
【0022】
以上の状況に鑑み、本発明では、配向性、充填性、かつ平滑性が高い磁性層の形成が可能な磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体の一方の主面側に磁性層が配置された磁気記録媒体の製造方法であって、前記非磁性支持体の一方の主面側に、磁性粉末と第1バインダ樹脂と第1溶媒とを含む磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、前記磁性塗膜から前記第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、前記磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、前記磁性層形成工程において、前記乾燥処理は、前記磁性塗膜の表面温度の上昇が停止して略一定の温度に達するまで前記磁性塗膜を加熱する予熱過程と、前記予熱過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が略一定に保たれる恒率乾燥過程と、前記恒率乾燥過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が、前記恒率乾燥過程を行っている際のそれよりも高くなり、前記磁性塗膜を固化させる減率乾燥過程とからなり、前記恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、前記磁場配向は、前記予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、前記第1配向手段内の磁場強度が最も大きい箇所から前記第2配向手段に達する間で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、高配向、高充填、かつ平滑性が高い磁性層の形成が可能な磁気記録媒体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、磁性塗料の塗布後に行なわれる、乾燥処理の条件や磁場配向の条件等について検討を重ねた結果、乾燥処理について従来は想定し得なかった条件を選択し、上記乾燥処理の開始後に、磁場配向処理を開始し、かつ、磁場配向処理を所定の条件で行うことにより、高配向、高充填、かつ平滑性が高い磁性層が得られることを見出した。本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する前に、先ず、図7を用いて従来の磁気記録媒体の製造方法における乾燥処理について説明する。
【0026】
なお、図7において、実線からなる曲線は、塗膜中の溶媒の含有率の変化を示しており、点線からなる曲線は塗膜表面の温度変化を示している。
【0027】
非磁性支持体の一方の主面側に磁性塗料を塗布することによって形成された磁性塗膜に対して、乾燥機内で乾燥処理が開始されると、図7に示すように、塗膜表面は、溶媒が急激に蒸発し始める温度に達するまで上昇する(予熱期間)。この予熱期間中における塗膜中の含溶媒率の減少は少ない。この期間を過ぎると、溶媒の蒸発が本格化する。従来例では、温度が比較的高く、かつ、風速が比較的大きい熱風を塗膜に供給している。そのため、塗膜から溶媒が蒸発することによって塗膜から奪われる蒸発潜熱よりも、塗膜が周囲から受け取る熱量の方が圧倒的に多い。よって、極めて短時間のうちに溶媒の蒸発が行われる。塗膜の表面温度Tsについては急上昇し、塗膜の含溶媒率は急激に減少する。そのうちに、塗膜中の溶媒はほとんどなくなり、塗膜が固定化され、塗膜の表面温度Tsは乾燥機内の雰囲気温度に近づく(減率乾燥期間)。なお、「固定化」とは、磁化容易軸が戻り配向しない状態となることを意味する。
【0028】
塗膜に含まれる磁性粉末の磁化容易軸を揃える磁場配向については、従来、塗布終了後から減率乾燥期間が終了する前までの間に行われていた。磁場配向は塗膜に外部から磁場を印加して行う。図7に示した従来の磁気記録媒体の製造方法における乾燥処理では、比較的短時間で溶媒の除去(乾燥)が完了するので、塗布速度を大きくすることができ、乾燥機長も短くでき、磁場配向に必要な設備も小さくてすむ。そのため、このような乾燥処理を行う従来の磁気記録媒体の製造方法は、生産効率が良く、設備投資も少なくて済むという利点を有している。しかし、この製造方法は、生産性の効率化およびコスト低減に有利である一方で、磁気記録媒体を構成する磁性層における磁性粉末のさらなる高配向化、高充填化、および平滑化については不十分であった。
【0029】
一方、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法では、磁性塗膜の表面温度Tsについて、図1に示すような温度管理がなされた乾燥処理を経て、磁性層を得る。なお、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法は、非磁性支持体上に直接磁性層が設けられた単層構造の磁気記録媒体のほか、非磁性支持体上に非磁性層を介して磁性層が設けられた重層構造の磁気記録媒体等にも適用される。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法においても従来の製造方法の場合と同様に、まず、磁性塗膜の表面の温度は、磁性塗膜中の第1溶媒が急激に蒸発し始める温度にまで上昇される(予熱過程)。その後、磁性塗膜の表面温度Tsは、0.2秒以上(恒率乾燥期間)略一定に保たれる。恒率乾燥過程中は、磁性塗膜から第1溶媒が蒸発することによって磁性塗膜から奪われる蒸発潜熱と、磁性塗膜が周囲から受け取る熱量との釣合いがほぼ取れている。そのため、磁性塗膜の表面温度Tsは略一定に保たれる。この間は、磁性塗膜の含溶媒率がほぼ定率で減少する。その後、磁性塗膜中の第1溶媒がほとんどなくなると、塗膜は固定化され、磁性塗膜の表面温度Tsは乾燥機内雰囲気の温度に近づいていく(減率乾燥過程)。
【0031】
このように、乾燥処理中に、恒率乾燥過程があると、第1溶媒を含む流動性のある磁性塗膜中で沸騰等に伴う激しい流動が生じたり、気泡が発生したりすることが抑制される。また、乾燥処理中に、恒率乾燥過程を積極的に設けると、磁性塗膜の含溶媒率がほぼ定率で減少する期間が長くなる。そのため、磁性溶媒の除去に伴って磁性塗膜中に発生し得る空隙も少なくなり、磁性層中に磁性粉末をより密に充填させることが可能となる。さらに、得られる磁性層の表面の平滑性も向上するので、磁気記録媒体の出力が向上する。
【0032】
恒率乾燥期間は、0.2秒以上である。恒率乾燥期間が0.2秒以上であると、乾燥中の塗膜内で激しい対流が生じることを抑制でき、そのため、充填性が高く、表面の平滑性が高い磁性層を生産性よく形成できる。恒率乾燥期間の上限について特に制限はないが、長すぎると、生産性が著しく低下する。また、固定化に時間がかかるため、配向磁石がたくさん必要になり、設備にコストがかかる。そのため、恒率乾燥期間の上限は10秒以下であると好ましい。また、充填性、平滑性、および配向性をよりいっそう高める観点から、恒率乾燥期間は、1秒以上10秒以下であるとより好ましい。
【0033】
次に、図8Aおよび図8Bを用いて、従来の磁気記録媒体の製造方法の一例について説明する。図8Aは、従来の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図であり、図8Bは、図8Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0034】
図8Aに示すように、まず、塗布ゾーンA'において、帯状の非磁性支持体71の一方の主面側に磁性粉末を含む磁性塗料81を塗布して、磁性塗膜を形成する。次いで、非磁性支持体71と磁性塗膜とを含む帯状の積層体t1を、1対の永久磁石を備えた配向手段(第1配向手段)の間を通過させて配向処理を行う。第1配向手段内を通過した積層体t1を、乾燥機61内に搬送する。搬送手段は、例えば、複数のガイドロール51等から構成されている。
【0035】
乾燥機61内には、複数の熱風供給部111、溶媒蒸気を含んだ熱風を排気する排気部21、第2配向手段31bが配置されている。第2配向手段31bは、複数のソレノイドコイル311を備えている。複数の熱風供給部111は、第2配向手段31bよりも上流側に配置された熱風供給部11aと、積層体t1の進行方向に隣合うソレノイドコイル311間に配置された熱風供給部11bと、第2配向手段31bよりも下流側に配設された熱風供給部11cとを含む。ここで、「上流側」とは、積層体Tが搬送される方向において、塗布ゾーンA'に近い側をいい、「下流側」とは、塗布ゾーンA'から遠い側をいう。
【0036】
図8Aに示すような従来の磁気記録媒体の製造方法の一例では、コータ41による塗布の作業性、および、熱風供給部の配置性等が考慮された上で、1対の永久磁石31aを備えた配向手段(第1配向手段)が塗布ゾーンA'と乾燥機61の間に配置されている。また、熱風供給部11bによる風量を確保するために、積層体t1の進行方向に隣り合うソレノイドコイル311の間隔は比較的大きく設計されている。そのため、図8Bに示すように、積層体t1が第1配向手段31a内を通過してから第2配向手段31b内に入るまでの間に、磁性塗膜が晒される磁場強度が零近くまで低下している。また、積層体t1の進行方向に隣り合うソレノイドコイル311の間隔が大きいので、第2配向手段31bを用いた磁場配向の際に磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値と最小値との差は極めて大きい。そのため、磁性粉末を高度に配向させ、平滑で充填度の高い塗膜を得ることは困難であった。
【0037】
本発明の磁気記録媒体の製造方法では、磁場配向を、予熱過程開始後において、第1配向手段3aと第2配向手段3bとをこの順に用いて行う(図2A参照)。そして、磁性塗膜が第1配向手段3a内の磁場強度が最も大きい箇所から第2配向手段3b内に入るまでの間で磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすようにする(図2B参照)。
【0038】
このように、予熱処理を開始して塗料の流動性を高めた状態で磁場配向を開始し、さらに(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされるように、第1配向手段3aを乾燥機6内に配置し、第1配向手段3aと第2配向手段3bとを接して配置するか(図2A参照)、可能なかぎり相互に近づけて配置する(図6A参照)。これにより、磁性塗膜が第1配向手段3a内の磁場強度が最も大きい箇所を通過してから第2配向手段3b内に入るまでの間において、磁性塗膜が晒される磁場強度の著しい低減が抑制されるため、いわゆる戻り配向を効果的に抑制できる。さらに、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされるように、例えば、第2配向手段3bを構成する複数のソレノイドコイル301を密着させて配置する。これにより、第2配向手段3bにより印加され磁性塗膜が晒される磁場強度の変動を抑制できるので、磁性塗膜が固定化されることにより磁性層となるまで、上記戻り配向を抑制できる。よって、後述する実施例における結果にも示されるように、高充填で、表面の平滑性が高く、かつ磁性粉末が高度に配向した磁性層を形成できる。
【0039】
第1配向手段3aにより印加され磁性塗膜が晒される磁場強度は、398kA/m〜1194kA/m(5kOe〜15kOe)が好ましく、第2配向手段により印加され磁性塗膜が晒される磁場強度は、119kA/m〜796kA/m(1.5kOe〜10kOe)が好ましい。第1配向手段3aにより印加される磁場強度が上記範囲内にあると、磁性粉末が高度に配向し、磁性塗膜内の磁気的な凝集が抑制されることにより平滑性の高い磁性層を得ることができる。第2配向手段3bにより印加される磁場強度が上記範囲内にあると、第1配向手段により高度に配向した磁性粉末の戻り配向による配向の乱れを効果的に防ぐことができる。また、第2配向手段3bにより印加される磁場強度が、第1配向手段3aにより印加される磁場強度の30%以上100%未満であると、磁性粉末を低廉かつ効率良く配向させることができ、好ましい。
【0040】
第1配向手段3aとしては、複数の永久磁石を含む配向手段および複数のソレノイドコイルを備えた配向手段のうちの少なくとも1種が挙げられるが、比較的低コストで高強度の磁場が得られる点で、永久磁石の同極を対向させる配向手段(反発磁石)が好ましい。第2配向手段3bとしては、複数の永久磁石を含む配向手段および複数のソレノイドコイルを備えた配向手段のうちの少なくとも1種が挙げられるが、比較的磁場強度の一定な磁場が一定の長さで得られる複数のソレノイドコイルを備えた配向手段がましい。
【0041】
塗膜の厚さ(以下「ウエット厚さ」とも言う。)は乾燥すると、乾燥前の1/3〜1/8になる。磁気記録媒体が、図3に示すように、非磁性支持体11上に直接磁性層13が配置された単層構造の場合、磁性層13の厚さ(以下「ドライ厚さ」ともいう。)は、好ましくは0.1μm〜3μm、より好ましくは0.5μm〜2μmである。よって、磁性塗料の塗布は、ウエット厚さが好ましくは0.3μm〜24μm、より好ましくは1.5μm〜16μm、となるように行なわれると好ましい。磁気記録媒体が、図4に示すように、非磁性支持体11上に非磁性層12を介して磁性層13が設けられた構造の場合、磁性層の厚さと非磁性層の厚さの総和は、好ましくは0.1μm〜3μm、より好ましくは0.5μm〜2.0μmである。そのため、非磁性塗膜(乾燥後、非磁性層となる)の上に、ウエット・オン・ウエットで磁性塗膜が形成される場合には、磁性塗膜厚さと非磁性塗膜の厚さの総和は、好ましくは0.3μm〜24μmであり、より好ましくは1.5μm〜16μmである。この場合、磁性塗膜の厚さは、好ましくは0.03μm〜1.6μm、より好ましくは0.1μm〜0.8μmであり、非磁性塗布膜の厚さは、好ましくは0.27μm〜22.4μm、より好ましくは1.4μm〜15.2μmである。
【0042】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは、磁性塗膜に含まれる溶媒(以下「第1溶媒」とも言う。)の沸点等に応じて異なる。第1溶媒は1種の溶媒からなるか、または、沸点の異なる2種以上の溶媒からなるが、第1溶媒に含まれる1種以上の溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点Tbと磁性塗膜の表面温度Tsと差(Tb−Ts)は、1℃〜50℃であると好ましい。具体的には、恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは30℃〜80℃であると好ましいので、上記Tbは、この温度範囲のいずれかの温度よりも1℃〜50℃低いと好ましい。このような溶媒を選択することにより、恒率乾燥期間の制御がしやすくなる。
【0043】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsの制御は、従来公知の方法を用いることができる。基本的には、磁性塗膜から第1溶媒が蒸発することによって磁性塗膜から奪われる蒸発潜熱と、磁性塗膜が周囲から受け取る熱量との釣合いがほぼ取れるようにすればよい。具体的には、加熱手段としてドライヤ等を用い、熱風の温度や風速、磁性塗膜と加熱手段との距離等を適宜調節すればよい。加熱手段として、遠赤外線ヒータを用いてもよい。これらの加熱手段はそれぞれ単独で用いてもよいし、両方を組み合せて用いてもよい。
【0044】
蒸発した第1溶媒を乾燥処理雰囲気外に排出させる方法についても、特に制限はなく、従来公知の方法を用いて行えばよい。例えば、蒸気の状態で上記雰囲気外に排出させてもよいし、凝縮手段によって一旦凝縮させてから上記雰囲気外に排出させてもよい。
【0045】
磁性塗膜の形成に用いられる磁性塗料の全成分のうちの、第1溶媒を除く残りの成分(以下、「溶媒除外成分」ともいう。)の総濃度は、10〜50wt%が好ましく、20〜35wt%がより好ましい。磁性塗料中の溶媒除外成分濃度が上記範囲内の濃度であると、磁性塗料中における溶媒除外成分の分散性がよく、より均質な磁性塗膜を形成できる。
【0046】
磁性塗膜の形成に用いられる磁性塗料中の第1溶媒の含有量は、磁性塗料の塗布が良好に行えるという理由から、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましい。
【0047】
磁性塗料に含まれる第1溶媒は、従来公知の磁性層形成用の塗料に含まれる溶媒であれば特に制限はないが、例えば、メチルエチルケトン(沸点80℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、メチルイソブチルケトン(沸点116℃)等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン(沸点66℃)、ジオキサン(沸点101℃)等のエーテル系溶媒、酢酸エチル(沸点77℃)、酢酸ブチル(沸点127℃)等の酢酸エステル系溶媒、トルエン(沸点111℃)等が挙げられる。これらは、一種類だけで用いてもいいし、2種以上組み合せて用いてもよい。なかでも、第1バインダ樹脂に対する溶解性、磁性粉末に対する分散性、蒸発速度、およびコストの観点から、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、またはトルエン等が好ましい。
【0048】
上記のとおり、磁気記録媒体が単層構造の場合、磁性塗膜の厚みは、0.3μm〜24μmであると好ましく、1.5μm〜16μmであるとより好ましい。また、磁気記録媒体が重層構造の場合、磁性塗膜の厚さは、0.03μm〜1.6μmであると好ましく、0.1μm〜0.8μmであるとより好ましい。磁性塗膜の厚みがこれらの範囲内にあると、より均質な磁性塗膜を形成できる。
【0049】
次ぎに、図2Aおよび図2Bを用いて、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例についてより具体的に説明する。図2Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図であり、図2Bは、後述する乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0050】
まず、塗布ゾーンAにて、帯状の非磁性支持体7の一方の主面側に磁性粉末を含む磁性塗料8を塗布して、磁性塗膜を形成する。磁性塗料の塗布方法は、例えば、グラビアコート法、ダイコート法等の従来から公知の方法にて行う。
【0051】
次いで、非磁性支持体7と磁性塗膜とを含む帯状の積層体T1を、乾燥機6内に搬送する。搬送手段は、例えば、複数のガイドロール5等から構成されている。
【0052】
乾燥機6内には、複数の熱風供給部1、溶媒蒸気を含んだ熱風を排気する排気部2、第1配向手段3a、第2配向手段3bが配置されている。第1配向手段3aは、例えば、一対の永久磁石を備えた配向手段であり、第2配向手段3bは、複数のソレノイドコイル301を備えた配向手段である。複数の熱風供給部1は、第1配向手段3aおよび第2配向手段3bよりも上流側に配置された第1熱風供給部1aと、第1配向手段3aよりも下流側に配設された第2熱風供給部1b、第3熱風供給部1cとを含む。ここで、「上流側」とは、積層体T1が搬送される方向において、塗布ゾーンAに近い側をいい、「下流側」とは、塗布ゾーンAから遠い側をいう。
【0053】
熱風供給部1は、例えば、熱風を吹出し可能なドライヤである。熱風供給部1や排気部2の数および位置等については、塗布速度、乾燥ゾーン長さ等を考慮して適切に決定される。
【0054】
乾燥室6に入った積層体T1は、第1配向手段3aよりも上流側に配置された第1熱風供給部1aにより予熱される。第1熱風供給部1aから供給される熱風の温度および風速は、比較的低く、風速は比較的遅いほうが好ましい。熱風の風速、塗膜の厚さ、塗膜中の溶媒組成、塗布速度等により異なるが、温度は35〜90℃が好ましく、風速は0.5〜15m/秒であると好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内にあると、予熱が十分に行え、かつ、恒率乾燥期間の好ましい範囲の制御が容易に行え、かつ、製造設備が大きくなりすぎることを抑制できる。
【0055】
第1熱風供給部1aの吹出し口と塗膜との距離は1〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、予熱過程が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0056】
予熱過程は、第1配向手段3aよりも上流側で終了すると、後の恒率乾燥期間を好ましい範囲に制御しやすくなるという理由から好ましい。
【0057】
次ぎに、予熱されまたは予熱中の積層体T1は、例えば、第2熱風供給部1bから供給される熱風により、例えば、0.2秒〜10秒間、磁性塗膜の表面温度Tsが略一定に保たれるように加熱される。上記「略一定」には、厳密に一定である場合のみならず、略一定の場合も含まれ、例えば、±1℃の範囲内にある場合も含まれる。
【0058】
第2熱風供給部1bから吹出される熱風は、複数のソレノイドコイル301で形成される筒状の内部空間を下流側から上流側に向って流れ、第2配向手段3bよりも上流側に配置された排気部2より排気される。恒率乾燥期間は、例えば、第2熱風供給部1bから供給される熱風の温度および風速により制御できる。
【0059】
第2熱風供給部1bから供給される熱風の、好ましい温度、好ましい風速は、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜中の溶媒組成、磁性塗料の塗布速度等により異なるが、温度は40〜100℃が好ましく、風速は0.5〜15m/秒が好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内であれば、高充填、かつ平滑性の高い磁性層を、生産性よく形成できる。
【0060】
第2熱風供給部1bの吹出し口と塗膜との距離は1〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、恒率乾燥が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0061】
恒率乾燥過程中の磁性塗膜の表面温度Tsは、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜中の溶媒組成、磁性塗料の塗布速度により異なるが、30℃〜80℃であると好ましく、40℃〜70℃であるとより好ましい。塗膜の表面温度Tsをこれらの範囲に制御することにより、恒率乾燥期間を好ましい範囲に制御することができるからである。
【0062】
恒率乾燥過程は、第2配向手段3bにより形成される磁場内で終了すると、戻り配向が生じないという理由から好ましい。
【0063】
次に、第2熱風供給部1b下を通過した積層体T1は、第3熱風供給部1cから吹出された熱風によりさらに加熱される。第3熱風供給部1cにより供給される熱風の温度は比較的高く、風速も比較的速いほうが好ましい。恒率乾燥時よりも、より多くの熱を磁性塗膜に供給することにより、磁性塗膜中に残った溶媒を比較的短時間でできるだけ除去して、減率乾燥期間を短縮化するためである。これにより、恒率乾燥を所定の期間行うことにより伴う設備の大型化を抑制できる。また、磁性塗膜中の最終残存溶媒量を少なくして、磁性層の走行耐久性を向上させることができる。ここで、磁性塗膜中の最終残存溶媒量とは、乾燥処理を経ても除去しきれなかった微量溶媒の残存量である。
【0064】
第3熱風供給部1cから供給される熱風の好ましい温度、好ましい風速は、磁性塗膜の厚さ、磁性塗膜に含まれる溶媒の種類(溶媒組成)、磁性塗料の塗布速度等により異なるが、恒率乾燥過程の最中よりも、より多くの熱が磁性塗膜に供給されるべく、通常、温度は60〜120℃が好ましく、風速は0.5〜30m/秒が好ましい。熱風の温度および風速が上記範囲内であれば、高充填で、平滑性が高く、かつ、最終残存溶媒量が少ないことにより走行耐久性が高い磁性層を形成できる。
【0065】
第3熱風供給部1cと積層体T1との距離は1cm〜100cmが好ましい。上記距離が1〜100cmであると、減率乾燥処理が充分に行え、かつ、熱風が塗膜に強く当り過ぎることによって生じる乾燥むらの発生を抑制できる。
【0066】
必要に応じて、製造ラインの、第3熱風供給部1cよりさらに下流側に、ドライヤや遠赤外線ヒータ等の加熱手段を設けて、磁性塗膜中の微量の最終残存溶媒を除去すれば、磁性層の耐久性を向上させることができる。
【0067】
なお、図2Aを用いて説明した例では、熱風の供給方向は、積層体T1の進行方向と直交しているが、熱風の供給方向はこの例に限定されない。恒温乾燥期間を好ましい範囲に制御するために、例えば、熱風供給部1から供給される熱風が下流側から上流側へよりスムーズに流れるように、熱風供給部1を傾けてもよい。また、排気部2の位置および個数を適切に設定することで、恒温乾燥期間を所望の範囲に調整することもできる。
【0068】
また、第1熱風供給部1a,第2熱風供給部1b,第3熱風供給部1cから供給される熱風の温度および風速は、必ずしも相互に異なっている必要はなく、例えば、いずれも同じであってもよい。しかし、例えば、恒率乾燥期間を所定時間以上確保しながら、第1熱風供給部1aから供給される熱風、第2熱風供給部1bから供給される熱風、および第3熱風供給部1cから供給される熱風について、温度および風速を同じにすると、乾燥機の長さが長くなり、さらには、磁場配向を行うために必要な設備も大きくなる。そのため、熱風供給部等の加熱手段によって供給される熱量は、第1熱風供給部1a、第2熱風供給部1b,第3熱風供給部1cの順に大きくなると好ましい。
【0069】
以上、非磁性支持体の一方の主面上に直接磁性層が配置される単層構造の磁気記録媒体の製造方法を例に挙げて説明したが、非磁性支持体の一方の主面上に非磁性層を介して磁性層が配置される重層構造の磁気記録媒体においても、同様にして製造できる。
【0070】
積層体T1の進行方向における第1配向手段3aと第2配向手段3bとの距離については、(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされる限り、特に制限はない。しかし、第1配向手段3aと第2配向手段3bとは、上記差(W2max−W1min)が可能な限り小さくなるよう、相互に接するように配置するか、可能なかぎり相互に近づけて配置されていると好ましい。また上記差(W2max−W1min)の値は正の数である場合もあるし、負の数である場合もある。
【0071】
第2配向手段3bが例えば、複数のソレノイドコイル301を備えている場合、積層体T1の進行方向に相互に隣合うソレノイドコイル301間の距離は、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされる限り、特に限定されない。しかし、第2配向手段3b内で磁性塗膜が晒される磁場強度W2maxとW2minとの差(W2max−W2min)が可能な限り小さくなるよう、上記距離は可能なかぎり短いと好ましい。
【0072】
図5Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の一例を説明する概念図であり、図5Bは、図5A中に記載された乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0073】
図5Aに示した磁気記録媒体の製造方法では、複数の第2熱風供給部1bを用いており、積層体T1の進行方向に沿って隣り合うソレノイドコイル301の間に第2熱風供給部1bが配置されている。以上のこと以外は、図5Aに示した磁気記録媒体の製造方法は図2Aに示した磁気記録媒体の製造方法と同様である。この場合、積層体T1の進行方向に沿って隣合うソレノイドコイル301間の間隔が、図2Aおよび図2Bを用いて説明した例におけるそれよりも大きいので、(W2max−W2min)/W2maxの値も大きくなる。しかし、本例は、図2Aを用い説明された例よりも、恒率乾燥期間の制御がより容易である点で好ましい。
【0074】
図6Aは、本発明の磁気記録媒体の製造方法のさらに別の一例を説明する概念図であり、図6Bは、図6A中に示された乾燥機6内における磁場強度の変化を示したグラフである。
【0075】
図6Aに示した磁気記録媒体の製造方法は、(W2max−W1min)/W2max≦0.9の関係が満たされる範囲内において、第1配向手段3aと第2配向手段3bとが相互に離れて配置されていること以外は、図2Aを用いて説明した例と同じである。
【0076】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法によって製造される磁気記録媒体の一例について説明する。
【0077】
この磁気記録媒体の製造方法の一例によって製造される磁気記録媒体10は、図4に示したように、非磁性支持体11の一方の主面上に、非磁性層12、磁性層13がこの順に配置されている。そして、非磁性支持体11の他方の主面上には、バックコート層14が配置されている。しかし、非磁性層12およびバックコート層14は必ずしも必要ではなく、あってもなくてもよい。
【0078】
なお、本願において、強磁性粉末の磁気特性は、いずれも外部磁場1273.3kA/m(16kOe)をかけたときに、試料振動形磁束計で測定した値である。
【0079】
また、本願において、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて撮影した写真から100個の粒子の最大径(針状粉では長軸径、板状粉では板径)をそれぞれ実測し、これらの値を平均した値(数平均粒子径)である。
【0080】
〈非磁性支持体〉
非磁性支持体11の厚さは、磁気記録媒体の用途によって異なるが、通常、2μm〜8μmであり、より好ましくは2.5μm〜6μmである。非磁性支持体11の厚さが薄すぎると磁性塗膜の形成や、非磁性塗料を用いて形成される非磁性塗膜の形成が難しく、磁気記録媒体の強度が小さくなるからである。また、非磁性支持体11の厚さが厚すぎると、磁気記録媒体全厚が厚くなり、例えば磁気テープの場合1巻当りの記録容量が小さくなるからである。
【0081】
非磁性支持体11の長手方向のヤング率は、磁気テープの走行が安定化するため、6GPa(612kg/mm2)以上であると好ましく、8GPa(816kg/mm2)以上であるとより好ましい。ヘリキャルスキャン方式で情報が記録される磁気テープでは、(長手方向(MD)のヤング率/幅方向(TD)のヤング率)が、0.60〜0.80であると好ましく、0.65〜0.75であるとより好ましい。(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.60〜0.80であると、メカニズムは現在のところ不明であるが、磁気ヘッドのトラックの入側と出側との間の出力のばらつき(フラットネス)が小さくなる。上記フラットネスは、(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.70付近のときに最小になる。リニアレコーディング方式により情報が記録される磁気テープでは、理由は明らかではないが、(MDのヤング率/TDのヤング率)が0.70〜1.30であると上記フラットネスを小さく抑えることができ、好ましい。これらの特性を満足する非磁性支持体11には、例えば、二軸延伸された芳香族ポリアミドベースフィルム、二軸延伸された芳香族ポリイミドフィルム等が挙げられる。
【0082】
〈非磁性層〉
後述のとおり、厚さ損失を少なくし、または、短波長で情報を記録した際の分解能を大きくするためには、磁性層13の厚さを0.1μm以下にすると好ましい。磁性層13の厚さを0.1μm以下とする場合、磁性層13の耐久性を確保し、かつ、形成過程において磁性塗料を均一性よく塗布可能とするために、非磁性支持体11と磁性層13との間に非磁性層12を設けると好ましい。非磁性層12は、例えば、非磁性粉末とバインダ樹脂(第2バインダ樹脂)等を含んでいる。非磁性層12に含まれる第2バインダ樹脂には、例えば磁性層13を構成するバインダ樹脂(第1バインダ樹脂)と同様のバインダ樹脂が用いられる。
【0083】
非磁性層の厚さは0.2μm以上1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらにより好ましい。非磁性層の厚さが0.2μm以上1.0μm以下であると、非磁性層12を設けることによる磁性層13の厚さむらの低減効果が充分に発揮され、磁性層13の耐久性が高くなり、かつ高い記録容量(磁気テープ1巻当り)を確保できる。なお、非磁性支持体の表面の凹凸は、磁性層の平滑性のレベルと比較するとかなり大きい。
【0084】
非磁性層には、非磁性層12の膜厚の均一性の向上、表面平滑性の向上、剛性の制御、寸法安定性の制御のために、粒子径が10nm〜100nm(より好ましくは10nm〜49nm)の非磁性板状粒子が含まれていると好ましい。非磁性板状粒子の成分としては、酸化アルミニウム、セリウムなどの希土類元素、酸化ジルコニウム、酸化珪素、酸化チタン、酸化マンガン、酸化鉄等の酸化物、または、インジウムと
スズとの複合酸化物が挙げられる。
【0085】
非磁性層の導電性を向上させるために、平均粒子径10〜100nmのグラファイトのような板状炭素性粉末や、平均粒子径10〜100nmの板状ITO(インジウム−スズ複合酸化物)粉末等を非磁性板状粉末として添加してもよい。非磁性層には、非磁性層中の全無機粉体の全重量のうち、板状ITO粉末が15〜95重量%含まれていると好ましい。
【0086】
板状ITO粒子に代えて、粉末状の炭素材料を用いてもよい。粉末状の炭素材料には必要に応じてカーボンブラックが含まれていてもよい。カーボンブラックは粒子径が10nm〜100nmのものが好ましい。
【0087】
非磁性層には、酸化鉄、酸化アルミニウムなどの酸化物粒子が含まれていてもよい。酸化物粒子の平均粒子径は、10nm〜100nmであると好ましい。
【0088】
非磁性層に含まれるバインダ樹脂には、例えば、磁性層に含まれるバインダ樹脂と同様のものが用いられる。
【0089】
非磁性層12を形成するための非磁性塗料に含まれる第2溶媒としては、例えば、磁性塗料に含まれる第1溶媒と同様のものを用いればよい。第2溶媒についても第1溶媒と同様、1種の溶媒からなるか、または、沸点の異なる2種以上の溶媒からなる。第1溶媒および第2溶媒に含まれる溶媒の内の沸点が最も低い溶媒の沸点tbと、前述した恒率乾燥過程中における磁性塗膜の表面温度Tsとの差(tb−Ts)は、1℃以上50℃以下であると好ましい。このような溶媒を選択することにより、恒率乾燥期間が制御しやすくなる。
【0090】
非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度(第2溶媒を除く他の成分の総濃度)は、10〜50重量%が好ましく、20〜35重量%がより好ましい。非磁性塗料中の溶媒除外成分の濃度が低すぎると粘度が小さすぎて非磁性粉末の分散性が低下し、それにより、磁性塗膜と非磁性塗膜との界面が凸凹になるからである。一方、非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度が高すぎると、粘度が大きくなりすぎて、非磁性塗料の塗布適性が低下するからである。よって、非磁性塗料における第2溶媒の含有量は50〜90重量%が好ましく、65〜80重量%がより好ましい。
【0091】
〈表面処理剤〉
非磁性層12に含まれる非磁性粉末や、磁性層13に含まれる磁性粉末や非磁性粉末には、分散性の向上のために、表面処理がなされていると好ましい。この表面処理に用いられる表面処理剤としては、リン酸系表面処理剤、カルボン酸系表面処理剤、アミン系表面処理剤、キレ―ト剤、各種シランカップリング剤等が好適である。
【0092】
リン酸系表面処理剤としては、リン酸モノメチル、リン酸ジメチル、リン酸モノエチル、リン酸ジエチル等のアルキルリン酸エステル類、フエニルホスホン酸、モノオクチルフエニルホスホン酸等の芳香族リン酸類等が挙げられる。市販品としては、東邦化学製の「GARFAC RS410」、城北化学工業製の「JP−502」、「JP−504」、
「JP−508」等を用いることができる。
【0093】
カルボン酸系表面処理剤としては、安息香酸、フタル酸、テトラカルボキシルナフタレン、ジカルボキシルナフタレン、炭素数12〜22の脂肪酸等が挙げられる。
【0094】
アミン系表面処理剤としては炭素数8〜22の脂肪族アミン、芳香族アミン、アルカノールアミン、アルコキシアルキルアミン等が挙げられる。
【0095】
キレ―ト剤としては、1,10−フエナントロリン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、ジメチルグリオキシム、アセチルアセトン、グリシン、ジチアゾン、ニトリロ三酢酸等が挙げられる。
【0096】
表面処理剤の使用量としては、磁性粉末100重量部、または非磁性粉末100重量部に対して、0.5〜5重量部であると好ましい。表面処理剤の分子量は、1000以下が好ましく、さらには500以下がより好ましい。これらの表面処理剤は、非磁性塗料の各成分や、磁性塗料の各成分を、混練する前、混練中、混練後溶媒への分散前、または溶媒への分散中に配合すると好ましい。
【0097】
〈磁性層〉
磁性層13の厚さは、非磁性支持体11の上に直接形成される場合は、0.1μm〜3μmが好ましく、0.5μm〜2μmがより好ましい。非磁性層12を介して非磁性支持体11の上に形成される場合、磁性層13の厚さは0.01μm以上0.2μm未満が好ましく、0.03以上0.1μm以下がより好ましい。これらの範囲が好ましいのは、充分な大きさの出力が得られ、かつ、均質な磁性層13の形成が容易に行え、かつ、厚さが厚すぎることにより生じる、短波長記録に対する分解能特性の低下を抑制できるからである。
【0098】
磁性層13に含まれる磁性粉末としては、強磁性鉄系金属磁性粉末、窒化鉄磁性粉末、または板状の六方晶Ba−フェライト磁性粉末等が好ましい。これらの粉末の平均粒子径は60nm以下であると好ましい。
【0099】
強磁性鉄系金属磁性粉末の平均粒子径は、10nm〜60nmであるとさらに好ましく、15nm〜45nmであるとより好ましい。平均粒子径が10nm〜60nmであると、十分な大きさの保磁力(Hc)が得られ、磁性塗料中での分散も良好に行え、平均粒子径が大きすぎることに起因して生じる粒子ノイズを抑制でき、好ましい。
からである。
【0100】
強磁性鉄系金属磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/m(2010〜4020Oe)であると好ましく、200〜300kA/m(2515〜3770Oe)であるとより好ましい。飽和磁化量(Bs)は、60〜200A・m2/Kg(60〜200emu/g)であると好ましく、80〜180A・m2/Kg(80〜180emu/g)であるとより好ましい。
【0101】
磁気記録媒体の磁性粉末の配向性を示す指標の一つとして角型(Br/Bs)が挙げられるが、(Br/Bs)は0.8以上であると好ましく、0.84以上であるとより好ましい。なお、Bsは飽和磁化量であり、Brは残存磁化量である。
【0102】
強磁性鉄系金属磁性粉末のBET比表面積は、35m2/g以上が好ましく、40m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がよりいっそう好ましい。BET比表面積の上限については特に制限はないが、通常、100m2/g以下である。
【0103】
強磁性鉄系金属磁性粉末には、磁性粉末を構成する金属元素として、Mn、Zn、Ni、Cu、Co等の遷移金属が含まれていてもよい。中でも、CoまたはNiが含まれていると好ましく、これらのうち、Coは飽和磁化量を最も向上させることができる点において、特に好ましい。
【0104】
上記遷移金属元素の含有量は、原子比で表わすと、磁性粉末中のFeの含有量100に対して、5〜50であると好ましく、10〜30であるとより好ましい。
【0105】
また、強磁性鉄系金属磁性粉末には、上記遷移金属元素に加え、磁性粉末を構成する他の金属元素として、イツトリウム、セリウム、イツテルビウム、セシウム、プラセオジウム、サマリウム、ランタン、ユ―ロピウム、ネオジム、テルビウム等から選ばれる少なくとも1種の希土類元素がさらに含まれていてもよい。中でも、セリウム、ネオジムとサマリウム、テルビウムおよびイツトリウムから選ばれる少なくとも1種が含まれていると、高い保磁力(Hc)が得られるので好ましい。上記希土類元素の含有量は、原子比で表わすと、合金中のFeの含有量100に対して、0.2〜20であると好ましく、0.3〜15であるとより好ましく、0.5〜10であるとさらに好ましい。
【0106】
窒化鉄磁性粉末には,公知のものを用いることができる。窒化鉄磁性粉末の形状は、針状の他に球状や、立方体形状等の不定形であってもよい。
【0107】
窒化鉄磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/m(2010〜4020Oe)であると好ましく、200〜300kA/m(2515〜3770Oe)であるとより好ましい。窒化鉄磁性粉末の飽和磁化量は、60〜200A・m2/Kg(60〜200emu/g)であると好ましく、80〜180A・m2/Kg(80〜180emu/g)であるとより好ましい。
【0108】
窒化鉄磁性粉末の平均粒子径としては、充分な大きさの保磁力が得られ、かつ、磁性塗料中での分散が良好に行え、かつ、平均粒子径の大きさに起因して生じる粒子ノイズが小さい点で、5〜20nmが好ましく、10〜17nmがより好ましい。
【0109】
窒化鉄磁性粉末のBET比表面積は、35m2/g以上が好ましく、40m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がよりいっそう好ましい。上記BET比表面積の上限について特に制限はないが、通常、100m2/g以下であると好ましい。
【0110】
強磁性鉄系金属磁性粉末および/または窒化鉄磁性粉末は、耐食性の向上、分散性を向上、保磁力の制御のために、Al,Si,P,Y,Zrまたはこれらの酸化物によって表面処理されていてもよい。
【0111】
六方晶Ba−フェライト磁性粉末の保磁力は、120〜320kA/mであると好ましく、飽和磁化量は、40〜60A・m2/kg(40〜60emu/g)であると好ましい。また、六方晶Ba−フェライト磁性粉末の平均粒子径(板面の一番長い部分の長さ、板径)は、10nm〜30nmであると好ましく、10nm〜25nmであるとより好ましく、10nm〜20nmであるとさらに好ましい。平均粒子径が小さすぎると、粒子の表面エネルギーが増大するため磁性塗料中での分散が困難になり、大きすぎると、粒子の大きさに基づく粒子ノイズが大きくなるからである。また、板状比(板径/板厚)は3未満であると好ましく、2以下であるとより好ましい。また、六方晶Ba−フェライト磁性粉末のBET比表面積は、1〜100m2/gであると好ましい。
【0112】
磁性層13のテープ長手方向の残留磁束密度と磁性層厚さの積は、短波長記録を可能とし、MRヘッドで再生した時の再生出力が大きく、しかも再生出力の歪が小さく、出力対ノイズ比を大きくするために、0.0018〜0.05μTmであると好ましく、0.0036〜0.05μTmであるとより好ましく、0.004〜0.05μTmであるとさらに好ましい。
【0113】
磁性層13に含まれるバインダ樹脂(第1バインダ樹脂)または非磁性層12に含まれるバインダ樹脂(第2バインダ樹脂)としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体、およびセルロース系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ポリウレタンとの組み合せが挙げられる。セルロース系樹脂としては例えばニトロセルロース樹脂が挙げられる。
【0114】
中でも、塩化ビニル−水酸基含有アルキルアクリレート共重合体とポリウレタンとの組み合せが好ましい。ポリウレタンとしては、例えば、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン、ポリエーテルポリエステルポリウレタン、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリカーボネートポリウレタン等が挙げられる。
【0115】
また、ポリウレタンとしては、官能基として、−COOH、−SO3M、−OSO3M、−P=O(OM)3、−O−P=O(OM)2[これらの式中、Mは水素原子、アルカリ金属塩基又はアミン塩を示す]、−OH、−NR'R''、−N+R'''R''''R'''''[これらの式中、R'、R''、R'''、R''''、R'''''は水素または炭化水素基を示す]、またはエポキシ基を有する高分子からなるポリウレタンも使用できる。このようなポリウレタンを使用すれば、磁性粉末等の粉体の磁性塗料中での分散性が向上する。
【0116】
2種以上のバインダ樹脂を併用する場合には、官能基の極性を一致させると好ましく、中でも2種のバインダ樹脂のそれぞれが−SO3M基を有していると好ましい。
【0117】
磁性層形成用の磁性塗料中、第1バインダ樹脂は、磁性粉末100重量部に対して、7〜50重量部含まれていると好ましく、10〜35重量部含まれているとより好ましい。そして、バインダ樹脂が塩化ビニル系樹脂とポリウレタン樹脂とを含む場合は、磁性粉末100重量部に対して、塩化ビニル系樹脂が5〜30重量部、ポリウレタン樹脂が2〜20重量部含まれていると好ましい。
【0118】
非磁性層形成用の非磁性塗料中に含まれる第2バインダ樹脂の含有量は、非磁性粉末100重量部に対して、10〜55重量部であると好ましく、15〜40重量部であるとより好ましい。
【0119】
磁性層形成用の磁性塗料または非磁性層形成用の非磁性塗料中には、上記第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂とともに、第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂が有する官能基と結合して架橋する熱硬化性の架橋剤がさらに含まれていると好ましい。この架橋剤としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのイソシアネート類とトリメチロールプロパン等の水酸基を複数個有する化合物とが反応して得られる反応生成物、または上記イソシアネート類の縮合生成物等の各種のポリイソシアネートが好ましい。これらの架橋剤は、第1バインダ樹脂または第2バインダ樹脂100重量部に対して、それぞれ、好ましくは1〜30重量部用いられ、より好ましくは5〜20重量部用いられる。しかし、非磁性塗料を非磁性支持体上に塗布することにより形成される非磁性塗膜の上に、ウエット・オン・ウエットで磁性塗膜が形成される場合には、非磁性塗膜中のポリイソシアネートの一部が磁性塗膜に拡散供給される。そのため、磁性塗料はポリイソシアネートを含んでいなくても、ある程度は磁性塗膜中で架橋が行われる。
【0120】
磁性層13は、磁性粉末以外に、非磁性粉末を含んでいてもよい。非磁性粉末としては、研磨材やカーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックを含むと、磁性層13の導電性が向上する。
【0121】
研磨材としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイアモンド、窒化珪素、炭化珪素、チタンカーバイト、酸化チタン、二酸化珪素、窒化ホウ素等、主としてモース硬度6以上のものが挙げられる。これらは単独で用いてもいいし2種以上を組み合せて用いてもよい。
【0122】
研磨材の平均粒子径としては、磁性層13の厚さが0.01〜0.2μmと薄い場合は、通常10nm〜250nmであると好ましい。磁性層13の厚さが0.2μmよりも厚い場合、研磨材の平均粒子径は50〜1000nmであると好ましい。研磨材の含有量は、磁性粉末100重量部に対して、5〜20重量部であると好ましく、8〜18重量部であるとより好ましい。
【0123】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。
【0124】
カーボンブラックの平均粒子径は、分散性の向上、磁性層13の表面の平滑性の向上、および、磁性層13の表面が粗くなることに起因して生じる出力低下の抑制の観点から、10nm〜100nmであると好ましい。平均粒子径が小さすぎるとカーボンブラックの分散が難しく、平均粒子径が大きすぎると多量のカーボンブラックが必要になる。カーボンブラックの含有量は、磁性粉末100重量部に対して、0.2〜5重量部であると好ましく、0.5〜4重量部であるとより好ましい。
【0125】
<潤滑剤>
非磁性層12は、脂肪酸と脂肪酸のエステルとを潤滑剤としてさらに含んでいると好ましい。非磁性層12がこれらをそれぞれ所定量含んでいると、磁気テープのヘッドとの摩擦係数が小さくなるからである。非磁性塗料には、摩擦係数低減効果が充分に発揮され、非磁性層1の高い強靭性を確保し、磁性層13への脂肪酸のエステルの移入量を抑制して磁気テープとヘッドとが貼り付く等の副作用が生じることを防止する観点から、非磁性層12に含まれる非磁性粉末100重量部に対して脂肪酸が0.5〜5.0重量部、脂肪酸のエステルが0.2〜3.0重量部、配合されていると好ましい。
【0126】
脂肪酸としては、炭素数10以上のものを用いると好ましい。炭素数10以上の脂肪酸としては、直鎖、分岐、シス・トランスなどの異性体のいずれでもよいが、潤滑性能が優れた直鎖型が好ましい。このような脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。これらの中でも、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸などが好ましい。
【0127】
脂肪酸のエステルとしては例えば、ブチルステアレートとブチルパルミテートとの混合物、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルをステアリン酸でアシル化したもの、ヘキサメチレンジオールをミリスチン酸でアシル化してジオールとしたもの、グリセリンのオレエート等の種々のエステル化合物、ブチルステアレート、sec-ブチルステアレート、イソプロピルステアレート、ブチルオレエート、アミルステアレート、3−メチルブチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−ヘキシルデシルステアレート、ブチルパルミテート、2−エチルヘキシルミリステート、オレイルオレエート、ブトキシエチルステアレート、2−ブトキシ−1−プロピルステアレート、ジエチレングリコールジパルミテート等を挙げることができる。
【0128】
磁性層13にも上記脂肪酸が含まれていてもよい。この場合、非磁性層12と磁性層13との間で脂肪酸が転移するので、磁性塗料における脂肪酸の配合量については、磁性層13に含まれる脂肪酸の含有量と非磁性層12に含まれる脂肪酸の含有量の総和が、磁性層13に含まれる全粉末(磁性粉末と非磁性粉末)と非磁性層12に含まれる非磁性粉末の総量を100重量部とした場合に、0.5〜5.0重量部であれば好ましい。なお、非磁性塗料に脂肪酸が配合される場合、磁性塗料には脂肪酸は必ずしも配合されていなくてもよい。
【0129】
磁性層13には、潤滑剤として、脂肪酸アミドと脂肪酸のエステルの両方が含まれていてもよい。テープ走行時のテープのヘッドに対する摩擦係数が小さくなるからである。これらの磁性塗料への配合量は、磁性粉末100重量部に対して、脂肪酸アミドは0.5〜3.0重量部、脂肪酸のエステルは0.2〜3.0重量部であると好ましい。脂肪酸アミドの含有量が0.5重量部未満であると、ヘッドと磁性層13とが相互接触することにより生じる焼付きを防止する効果が小さくなるからである。また、脂肪酸アミドの含有量が3.0重量部を越えると脂肪酸アミドがブリードアウトしてしまうおそれがあるからである。また、脂肪酸のエステルの含有量が0.2重量部未満であると、摩擦係数低減効果が小さくなるからである。また、脂肪酸のエステルの含有量が3.0重量部を越えると、磁性層13がヘッドに貼り付く等の副作用を生じるおそれがあるからである。なお、磁性層13の潤滑剤と非磁性層12の潤滑剤は相互移動し得る。
【0130】
脂肪酸アミドとしては、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数が10以上の脂肪酸アミド等が挙げられる。磁性層13に含まれる脂肪酸のエステルは、上記で列挙した脂肪酸のエステルと同様であってもよい。
【0131】
〈バックコート層〉
非磁性支持体11の磁性層13が形成されている面とは反対側の面には、走行性の向上
等を目的としてバックコート層14が設けられていると好ましい。バックコート層14の厚さは、高い走行性向上効果が得られ、かつ、磁気テープ1巻当たりの記録容量を大きくする観点から、0.2〜0.8μmであると好ましい。
【0132】
バックコート層14は、例えば、カーボンブラック(CB)を含む。カーボンブラック(CB)としては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等が挙げられる。通常、粒子径が相対的に異なる、小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックとが併用される。小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラックとを併用すると、走行性向上効果も大きくなるので好ましい。大粒径カーボンブラックは、小粒径カーボンブラック100重量部に対して5〜15重量部含まれていると好ましい。
【0133】
小粒径カーボンブラックの平均粒子径は、塗料中での分散性が高く、カーボンブラックの添加量が多くなりすぎることを抑制して、平滑性の高いバックコート層を得る観点から、5nm以上200nm未満であると好ましく、10〜100nmであるとより好ましい。
【0134】
大粒径カーボンブラックの平均粒子径は、200〜400nmであると好ましい。
【0135】
小粒径カーボンブラックと大粒径カーボンブラック合計量は、バックコート層に含まれる全粉末重量のうち60〜98重量%であると好ましく、70〜95重量部であるとより好ましい。
【0136】
バックコート層14の平均表面粗さRaは、3〜8nmであると好ましく、4〜7nmであるとより好ましい。バックコート層に磁性があると磁性層13に記録される磁気信号が乱れる場合があるので、通常、バックコート層は非磁性である。
【0137】
なお、本願では、ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて、10視野の表面粗さを測定し、その平均値を平均表面粗さ(Ra)としている。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は72μm×54μmである。
【0138】
バックコート層には、強度向上を目的として、例えば酸化鉄が含まれていると好ましい。酸化鉄の平均粒子径は100〜600nmが好ましく、200〜500nmがより好ましい。酸化鉄の含有量は、全粉末重量のうち2〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましい。また、平均粒子径が100〜600nmのアルミナが全粉体重量のうち0.5〜5重量%添加されていると、さらにバックコート層の強度が向上するので、好ましい。
【0139】
バックコート層14にはバインダ樹脂が含まれるが、バックコート層14中のバインダ樹脂は、前述した磁性層13や非磁性層12に含まれるバインダ樹脂と同様のものであってもよい。しかし、摩擦係数を低くして磁気ヘッドの走行性を向上させるために、セルロース系樹脂とポリウレタン系樹脂とを併用することが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、強度が高く摩擦係数の低いバックコート層14を形成する観点から、バックコート層に含まれる全粉末重量100重量部に対して、40〜150重量部であると好ましく、50〜120重量部であるとより好ましく、60〜110重量部であるとさらに好ましく、70〜110重量部であるとよりいっそう好ましい。バックコート層に含まれる全粉末重量を100重量部とすると、上記バインダ樹脂には、セルロース系樹脂が30〜70重量部、ポリウレタン系樹脂は20〜50重量部含まれていると好ましい。バックコート層14を形成するための塗料は、バインダ樹脂を硬化させるために、架橋剤を含んでいると好ましい。架橋剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
【0140】
バックコート層14を形成するための塗料に含まれる架橋剤は、例えば、前述した磁性層13形成用の磁性塗料や非磁性層12形成用の非磁性塗料に含まれる架橋剤と同様ものであってよい。架橋剤の含有量は、強度が高くSUS(ステンレス)に対する動摩擦係数が小さいバックコート層14を形成する観点から、バインダ樹脂100重量部に対して、通常、10〜50重量部であると好ましく、10〜35重量部であるとより好ましく、10〜30重量部であるとよりいっそう好ましい。
【0141】
〈有機溶媒〉
非磁性層12形成用の非磁性塗料に含まれる第2溶媒、バックコート層14形成用の塗料に含まれる溶媒には、磁性層13形成用の磁性塗料に含まれる第1溶媒のもの用いればよい。また、非磁性層の形成に用いられる非磁性塗料中の溶媒除外成分濃度、バックコート層14形成用の塗料の溶媒除外成分濃度は、磁性塗料の場合と同様の理由から、10〜50wt%が好ましく、20〜35wt%がより好ましい。よって、非磁性塗料に含まれる第2溶媒の含有量は、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましく、バックコート層14形成用の塗料に含まれる溶媒の含有量も、50〜90wt%が好ましく、65〜80wt%がより好ましい。
【0142】
以下に実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例における平均粒子径は、数平均粒子径を示す
【実施例】
【0143】
(実施例1)
<非磁性層形成用の非磁性塗料>
(1)A成分
針状酸化鉄(平均粒子径:0.11μm) 68重量部
カーボンブラック(平均粒子径:0.025μm) 20重量部
粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.4μm) 12重量部
メチルアシッドフォスフェート 1重量部
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 9重量部
(含有−SO3Na基:0.7×10-4当量/g)
ポリエステルポリウレタン樹脂 5重量部
(ガラス転移温度:40℃、含有−SO3Na基:1×10-4当量/g)
テトラヒドロフラン 13重量部
シクロヘキサノン 63重量部
メチルエチルケトン 137重量部
(2)B成分
ステアリン酸ブチル 2重量部
シクロヘキサノン 50重量部
トルエン 50重量部
(3)C成分
ポリイソシアネート 6重量部
シクロヘキサノン 9重量部
トルエン 9重量部
<磁性層形成用の磁性塗料>
(1)a成分
強磁性鉄系金属磁性粉末 100重量部
(Al−Y−Fe−Co)〔σs:120A・m2/kg(120emu/g)
Hc:176.3kA/m(2215Oe)平均粒子径:45nm、真密度ρ:5.7g/cc〕
塩化ビニル−ヒドロキシプロピルアクリレート共重合体 17重量部
ポリエステルポリウレタン樹脂 6重量部
粒状アルミナ粉末(平均粒子径:0.2μm) 10重量部
メチルアシッドフォスフェート 4重量部
メチルエチルケトン 35重量部
シクロヘキサノン 110重量部
トルエン 110重量部
(2)b成分
パルミチン酸アミド 1重量部
ステアリン酸ブチル 1重量部
シクロヘキサノン 30重量部
トルエン 30重量部
(3)c成分
ポリイソシアネート 6重量部
メチルエチルケトン 2重量部
シクロヘキサノン 8重量部
トルエン 8重量部
【0144】
上記の非磁性層形成用の塗料成分のうちA成分を回分式ニーダで混練した。混練されたA成分にB成分を加えて撹拌した後、サンドミルを用いて60分間(滞留時間)分散処理をした。さらに、分散処理をしたA成分とB成分の混合物にC成分を加え、これらを撹拌し、得られたものをろ過して、非磁性層形成用の非磁性塗料を得た。
【0145】
一方で、a成分を回分式ニーダで混練した。次ぎに混練されたa成分にb成分を加えて撹拌して未分散塗料を得た。続いて、未分散塗料に対して、ナノミル(浅田鉄工社製)を用いて、90分間(滞留時間)分散処理をした。さらに、分散処理をしたa成分とb成分の混合物にc成分を加えて撹拌し、得られたものをろ過して、磁性層形成用の磁性塗料を得た。
【0146】
上記非磁性層形成用の非磁性塗料を、厚さ8μmのポリエチレンナフタレートフィルムからなる非磁性支持体上に、エクストルージョン型コータを用いて塗布して非磁性塗膜を形成した。次いで、この非磁性塗膜上に、磁性層形成用の磁性塗料をエクストルージョン型コータを用いて、ウエット・オン・ウエットで塗布して磁性塗膜を形成した。
【0147】
非磁性塗膜の厚さは、乾燥およびカレンダ後の厚さ(すなわち非磁性層の厚さ)が0.9μmとなるようにし、磁性塗膜の厚さは、乾燥およびカレンダ後の厚さ(すなわち磁性層の厚さ)が0.08μmとなるようにした。磁性層形成用の磁性塗料の塗布速度は150m/分とした。
【0148】
次いで、非磁性支持体上に非磁性塗膜と磁性塗膜とがこの順に形成された積層体を、図2Aに示された要領で、非磁性塗膜中および磁性塗膜中に含まれる溶媒を除去しながら、磁場配向を行った。具体的には、まず、第1熱風供給部1aにより予熱過程を開始し、その後、第1配向手段の一例であるN−N対向磁石を含む配向手段内(W1max:7kOe(557kA/m))を通過させた。次いで、第2配向手段により磁場配向を行いながら、第2熱風供給部1bおよび第3熱風供給部1cにより、恒率乾燥過程および減率乾燥過程をこの順で行った。搬送手段による積層体の搬送速度は150m/分とした。このとき、第1配向手段と第2配向手段との距離を調節することにより、W1minが3kOeとなるように設定した。
【0149】
なお、本実施例では、図2に示すように、第2配向手段として4基のソレノイドコイルを備えた配向手段(W2max:3kOe(239kA/m))を用いた。熱風の温度、風速、熱風供給部と磁性塗膜との距離等の、乾燥条件については表1に示している。
【0150】
<バックコート層形成用塗料の成分>
カーボンブラック(平均粒子径25nm) 80重量部
カーボンブラック(平均粒子径350nm) 10重量部
粒状酸化鉄(平均粒子径50nm) 10重量部
ニトロセルロース 45重量部
ポリウレタン樹脂 30重量部
シクロヘキサノン 260重量部
トルエン 260重量部
メチルエチルケトン 525重量部
ポリイソシアネート 15重量部
【0151】
上記のバックコート層形成用の塗料の成分のうちポリイソシアネートを除く他の成分全てをサンドミル中で分散混合させた後、それにポリイソシアネートを加えた。得られた混合物をろ過して、バックコート層形成用の塗料を得た。この塗料を、非磁性支持体の磁性層側の面の反対面に塗布し、乾燥させた。
【0152】
このようにして得られた磁気シートを金属ロールからなる7段カレンダで、温度100℃、線圧196kN/mの条件で鏡面化処理(カレンダ処理)した。次いで、磁気シートをコアに巻いた状態で60℃48時間エージングして評価用磁気テープを作製した。
【0153】
(実施例2)
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.9kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の評価用磁気テープを作成した。
【0154】
(実施例3)
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.3kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の評価用磁気テープを作成した。
【0155】
(実施例4)
図5Aに示した乾燥・配向装置を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例4の評価用の磁気テープを作製した。
【0156】
(実施例5)
図5Aに示した乾燥・配向装置を用い、第1〜第3熱風供給部の条件を表1の記載のとおり設定し、恒率乾燥期間を0.2秒としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の評価用磁気テープを作成した。
【0157】
(実施例6)
図2Aに示した乾燥・配向装置を用い、第1〜第3熱風供給部の条件を表1の記載のとおり設定し、恒率乾燥期間を10秒としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の評価用磁気テープを作成した。
【0158】
[比較例1]
第2熱風供給部1bによる乾燥処理を行わず、恒率乾燥期間を0.1秒としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の評価用の磁気テープを作製した。
【0159】
[比較例2]
第1熱風供給部1aによる乾燥処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の評価用の磁気テープを作製した。
【0160】
[比較例3]
第1熱風供給部1aを用いた乾燥処理を行わず、第2、第3熱風供給部の条件を表1に記載の条件に変更し、恒率乾燥期間を0.1秒としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の評価用の磁気テープを作製した。
【0161】
[比較例4]
図8Aに示した従来技術の製造装置を用い、第1熱風供給部11aを用いた乾燥処理を行わず、第2、第3熱風供給部11b,11cの条件を表1に記載の条件に変更し、恒率乾燥期間を0.1秒とし、更に第1配向手段31aと第2配向手段31bとの距離を調節して、W1minを0.02kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の評価用の磁気テープを作製した。
【0162】
[比較例5]
第1配向手段と第2配向手段との距離を調節して、W1minを0.15kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5の評価用磁気テープを作成した。
【0163】
[比較例6]
第2配向手段を構成するソレノイドコイルに関して、磁気シートの進行方向に隣り合うソレノイドコイル間距離を調節することにより、W2minを0.9kOeとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6の評価用磁気テープを作成した。
【0164】
[比較例7]
図7Aに示した従来技術の製造装置を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例7の評価用磁気テープを作成した。
【0165】
得られた評価用の磁気シートの評価は以下のようにして行った。その結果は表1に示している。尚、表1中の、W1max、W1min、W2max、W2minは、第1配向手段と第2配向手段との距離や、第2配向手段を構成するソレノイドコイルの配置位置などを適宜調節した装置について、予め、非磁性支持体上に非磁性塗膜と磁性塗膜とがこの順に形成された積層体が通ることとなる経路にガウスメーター(F.W.BELL社製、4048型)を一定速度で走らせるながら、装置内の磁場強度を測定することにより得た。
【0166】
【表1】
【0167】
〈恒率乾燥期間〉
乾燥機内に20cm間隔で赤外線センサ(ファイバー型赤外放射温度計(FTZ6型 ジャパンセンサー(株)製))を配置し、各赤外線センサにより磁性層の表面温度Tsを測定した。連続配置された3つのセンサから得られた各磁性層の表面温度Tsをどのように組み合せても温度差が2℃以内であれば、恒率乾燥が行なわれていると判断して、恒率乾燥期間を測定した。
【0168】
〈磁性層の表面粗さ〉
ZYGO社製汎用三次元表面構造解析装置NewView5000を用い、走査型白色光干渉法にて、10点の表面粗さを測定し、その平均値を平均粗さRzとした。測定の際には、50倍の対物レンズを用い、2倍ズームで測定した。よって、倍率は100倍である。測定視野は72μm×54μmである。
【0169】
〈磁気特性〉
磁気シートに、外部磁場0.8MA/m(10kOe)をかけた後、角型(Br/Bs)および磁性層単位面積当たりの飽和磁化量Mst(memu/cm2)を測定した。これらの測定には、東英工業製の試料振動型磁束計VSM−P7を用いた。
【0170】
〈体積充填度〉
磁気テープを樹脂封止した後、それを集束イオンビーム加工装置を用いて、磁気テープの厚さ方向の断面をテープの長手方向に切り出した。次いで、その断面の写真撮影(BSE像、倍率:10万倍)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。写真撮影は、互いに重複部分を含まないように10視野について行った。次いで、各写真に、磁性層と非磁性層との界面に境界線を引き、その境界線と対向する磁性層の外形にも線を引いた。線幅は0.5mmとした。
【0171】
次ぎに、各写真について、上記境界線とそれに対応する線との距離を5箇所測定し、その平均値を磁性層の厚さt(μm)として測定した。そして、Mstおよび磁性層の厚さt(μm)を用いて次式(1)により飽和磁束密度Bs(G)を求めた。また、Bsおよび磁性粉末のσs(emu/g)および真密度ρ(g/cc)を用いて次式(2)から磁性粉末の充填度(Vol%)を求めた。
Bs=4π×Mst/t (1)
充填度(Vol%)=Bs/(4π・σs・ρ)×100 (2)
【0172】
表1に示すように、恒率乾燥期間が0.2秒よりも短い比較例1〜4の評価用磁気テープについては、(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係が満たされていても、平滑性、配向性、充填性のうちの少なくとも1つが実施例1〜6の評価用磁気テープのそれよりも劣っている。上記2つの関係式のうちの少なくとも一方が満たされていない比較例4〜7の評価用磁気テープについては、配向性が、実施例1〜6の評価用磁気テープのそれよりも劣っている。これに対して、実施例1〜6の評価用磁気テープについては、磁性塗膜の平滑性が高く(粗度が小さい)、磁性粉末の配向性が優れ(角型が大きく)、かつ、磁性粉末の充填性が高い(体積充填度が大きい)。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明は、磁性粉末の充填率が高く、表面の平滑性が優れ、かつ、磁性粉末の配向性が良好な磁性層を形成できるので、本発明は、より大容量化され高出力可能な磁気記録媒体の製造方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0174】
【図1】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例における塗膜表面の温度の変化と塗膜中の含溶媒率の変化を示した概念図
【図2A】本発明の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図
【図2B】図2Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図3】本発明の磁気記録媒体の一例の部分断面図
【図4】本発明の磁気記録媒体の他の一例の部分断面図
【図5A】本発明の磁気記録媒体の製造方法の他の例を説明する概念図
【図5B】図5Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図6A】本発明の磁気記録媒体の製造方法のさらに別の例を説明する概念図
【図6B】図6Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【図7】従来の磁気記録媒体の製造方法の一例における塗膜表面の温度の変化と塗膜中の含溶媒率の変化を示した概念図
【図8A】従来の磁気記録媒体の製造方法の一例を説明する概念図
【図8B】図7Aに示した乾燥機内における磁場強度の変化を示したグラフ
【符号の説明】
【0175】
1 熱風供給部
1a 第1熱風供給部
1b 第2熱風供給部
1c 第3熱風供給部
2 排気部
3a 第1配向手段
3b 第2配向手段
5 ガイドロール
T1 積層体
10 磁気記録媒体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体の一方の主面側に磁性層が配置された磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性支持体の一方の主面側に、磁性粉末と第1バインダ樹脂と第1溶媒とを含む磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、前記磁性塗膜から前記第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、前記磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、
前記磁性層形成工程において、前記乾燥処理は、前記磁性塗膜の表面温度の上昇が停止して略一定の温度に達するまで前記磁性塗膜を加熱する予熱過程と、前記予熱過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が略一定に保たれる恒率乾燥過程と、前記恒率乾燥過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が、前記恒率乾燥過程を行っている際のそれよりも高くなり、前記磁性塗膜を固化させる減率乾燥過程とからなり、
前記恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、
前記磁場配向は、前記予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、
前記第1配向手段内の磁場強度が最も大きい箇所から前記第2配向手段に達する間で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性粉末の平均粒子径は、60nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mである請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記恒率乾燥期間は、10秒以下である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記恒率乾燥過程中における、前記磁性塗膜の表面温度は30℃〜80℃である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記第1溶媒は1種の溶媒からなるか、または沸点の異なる2種以上の溶媒からなり、
前記第1溶媒に含まれる溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点と、前記恒率乾燥過程中における前記磁性塗膜の表面温度との差は、1℃〜50℃である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥処理が行なわれる前の前記磁性塗膜の厚さは0.3μm〜24μmである請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記磁性塗料の塗布前に、
前記非磁性支持体の前記一方の主面側に、非磁性粉末と第2バインダ樹脂と第2溶媒とを含む非磁性塗料を塗布して、非磁性塗膜を形成する工程をさらに含み、
前記磁性層形成工程で行なわれる前記乾燥処理によって、前記非磁性塗膜に含まれる前記第2溶媒が除去されて、前記非磁性塗膜が非磁性層となる、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥処理が行なわれる前の前記磁性塗膜の厚さと、前記乾燥処理が行なわれる前の前記非磁性塗膜の厚さとの和が、0.3μm〜24μmである請求項8に記載の磁気記録
媒体の製造方法。
【請求項10】
前記第2溶媒は1種の溶媒からなるか、または沸点の異なる2種以上の溶媒からなり、
前記第1溶媒および前記第2溶媒に含まれる溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点と、前記恒率乾燥過程中における前記磁性塗膜の表面温度との差は、1℃〜50℃である請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の磁気記録媒体の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項1】
非磁性支持体の一方の主面側に磁性層が配置された磁気記録媒体の製造方法であって、
前記非磁性支持体の一方の主面側に、磁性粉末と第1バインダ樹脂と第1溶媒とを含む磁性塗料を塗布して磁性塗膜を形成し、前記磁性塗膜から前記第1溶媒を除去する乾燥処理を所定の期間行いながら、前記磁性塗膜に含まれる磁性粉末を所定方向に磁場配向させる、磁性層形成工程を含み、
前記磁性層形成工程において、前記乾燥処理は、前記磁性塗膜の表面温度の上昇が停止して略一定の温度に達するまで前記磁性塗膜を加熱する予熱過程と、前記予熱過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が略一定に保たれる恒率乾燥過程と、前記恒率乾燥過程後に行なわれ前記磁性塗膜の表面温度が、前記恒率乾燥過程を行っている際のそれよりも高くなり、前記磁性塗膜を固化させる減率乾燥過程とからなり、
前記恒率乾燥過程が行われる恒率乾燥期間は、0.2秒以上であり、
前記磁場配向は、前記予熱過程開始後において、第1配向手段および第2配向手段をこの順に用いて行なわれ、
前記第1配向手段内の磁場強度が最も大きい箇所から前記第2配向手段に達する間で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW1min、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最大値をW2max、前記第2配向手段内で前記磁性塗膜が晒される磁場強度の最小値をW2minとしたときに、これらの値が(W2max−W1min)/W2max≦0.9、および、(W2max−W2min)/W2max≦0.5の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁性粉末の平均粒子径は、60nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁性粉末の保磁力は、160〜320kA/mである請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記恒率乾燥期間は、10秒以下である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記恒率乾燥過程中における、前記磁性塗膜の表面温度は30℃〜80℃である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記第1溶媒は1種の溶媒からなるか、または沸点の異なる2種以上の溶媒からなり、
前記第1溶媒に含まれる溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点と、前記恒率乾燥過程中における前記磁性塗膜の表面温度との差は、1℃〜50℃である請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥処理が行なわれる前の前記磁性塗膜の厚さは0.3μm〜24μmである請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記磁性塗料の塗布前に、
前記非磁性支持体の前記一方の主面側に、非磁性粉末と第2バインダ樹脂と第2溶媒とを含む非磁性塗料を塗布して、非磁性塗膜を形成する工程をさらに含み、
前記磁性層形成工程で行なわれる前記乾燥処理によって、前記非磁性塗膜に含まれる前記第2溶媒が除去されて、前記非磁性塗膜が非磁性層となる、請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記乾燥処理が行なわれる前の前記磁性塗膜の厚さと、前記乾燥処理が行なわれる前の前記非磁性塗膜の厚さとの和が、0.3μm〜24μmである請求項8に記載の磁気記録
媒体の製造方法。
【請求項10】
前記第2溶媒は1種の溶媒からなるか、または沸点の異なる2種以上の溶媒からなり、
前記第1溶媒および前記第2溶媒に含まれる溶媒のうちの沸点が最も低い溶媒の沸点と、前記恒率乾燥過程中における前記磁性塗膜の表面温度との差は、1℃〜50℃である請求項6に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の磁気記録媒体の製造方法により製造されたことを特徴とする磁気記録媒体。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【公開番号】特開2009−93765(P2009−93765A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264972(P2007−264972)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】
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