説明

磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置

【課題】表面の平滑性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で製造することが可能な磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性層2に、磁気記録パターン20として、凸部からなる磁気記録領域21と、該磁気記録領域21の間の凹部からなる境界領域22とを形成する磁気記録パターン形成工程と、次いで、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成することにより、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aを、境界領域22上のカーボン保護膜9bよりも薄くする保護膜形成工程とを備えた方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスク装置、フレキシブルディスク装置、磁気テープ装置等の磁気記録再生装置の適用範囲は大きく拡大され、その重要性が増すとともに、これらの装置に用いられる磁気記録媒体について、その記録密度の顕著な向上が図られつつある。特に、MR(Magneto Resistive)ヘッド、及びPRML(partial response maximum likelihood)技術の導入以来、面記録密度の向上はさらに顕著さを増し、近年では、さらにGMR(Giant Magneto Resistive)ヘッド、TMR(tunneling magneto resistive)ヘッド等も導入され、その面記録密度は、1年に約50%ものペースで増加を続けている。このような磁気記録媒体は、今後、より一層の高記録密度を達成することが求められており、このため、磁性層の高保磁力化と高信号対雑音比(SNR:Signal to Noise ratio)、高分解能を達成することが要求されている。また、近年では、線記録密度の向上と同時に、トラック密度の増加によって面記録密度を上昇させようとする努力も続けられている。
【0003】
近年の磁気記録装置においては、トラック密度が110kTPIにも達している。しかしながら、トラック密度を上げてゆくと、隣接するトラック間の磁気記録情報が互いに干渉し合い、その境界領域の磁化遷移領域がノイズ源となり、SNRを損なうという問題が生じやすくなる。このような問題は、そのまま、ビットエラーレート(Bit Error rate)の低下につながるため、記録密度の向上に対して障害となっている。
【0004】
面記録密度を上昇させるためには、磁気記録媒体上の各記録ビットのサイズをより微細なものとし、各記録ビットにおいて、可能な限り大きな飽和磁化と磁性膜厚を確保する必要がある。しかしながら、記録ビットを微細化していくと、1ビット当たりの磁化最小体積が小さくなり、熱揺らぎによる磁化反転で記録データが消失するという問題が生じる。
【0005】
また、面記録密度の上昇に伴ってトラック間の距離が近づくため、磁気記録装置は、極めて高精度のトラックサーボ技術を要求されると同時に、記録を幅広く実行したうえで、再生については、隣接トラックからの影響をできるだけ排除するため、記録時よりも狭く実行する方法が一般的に用いられている。しかしながら、このような方法では、トラック間の影響を最小限に抑えることができる反面、再生出力を充分に得ることが困難であり、このため、充分なSNRを確保することがむずかしいという問題がある。
【0006】
上述のような熱揺らぎの問題やSNRの確保、あるいは充分な出力の確保を達成する方法の一つとして、磁気記録媒体の表面にトラックに沿った凹凸を形成し、記録トラックの各々を物理的に分離することによってトラック密度を向上させる試みがなされている。このような技術について、以下、ディスクリートトラック法と称し、また、それによって製造された磁気記録媒体をディスクリートトラック媒体と称する。
また、同一トラック内のデータトラック領域をさらに分割し、所謂パターンドメディアを製造しようとする試みもなされている。
【0007】
上述のようなディスクリートトラック媒体の一例として、表面に凹凸パターンが形成された非磁性基板を用いて磁気記録媒体を形成し、物理的に分離した磁気記録トラック及びサーボ信号パターンが形成されてなる磁気記録媒体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の磁気記録媒体は、表面に複数の凹凸のある基板の表面に軟磁性層を介して強磁性層が形成され、その表面に保護層を形成したものであり、凸部領域において、周囲と物理的に分断された磁気記録領域が形成されている。特許文献1に記載の磁気記録媒体によれば、軟磁性層での磁壁発生を抑制できるため、熱揺らぎの影響が出にくく、隣接する信号間の干渉もないので、ノイズの少ない高密度磁気記録媒体が得られるとされている。
【0008】
また、上述のようなディスクリートトラック法には、何層かの薄膜からなる磁気記録媒体を形成した後にトラックを形成する方法と、予め基板表面に直接、あるいはトラック形成のための薄膜層に凹凸パターンを形成した後に、磁気記録媒体の薄膜形成を行う方法がある(例えば、特許文献2、3を参照)。
【0009】
また、ディスクリートトラック媒体の磁気トラック間領域を、あらかじめ形成した磁性層に、窒素や酸素等のイオンを注入するか、又はレーザを照射することにより、その部分の磁気的な特性を変化させることによって形成する方法が提案されている(例えば、特許文献4〜6を参照)。
【特許文献1】特開2004−164692号公報
【特許文献2】特開2004−178793号公報
【特許文献3】特開2004−178794号公報
【特許文献4】特開平5−205257号公報
【特許文献5】特開2006−209952号公報
【特許文献6】特開2006−309841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のような、磁気的に分離した磁気記録パターンを有する、所謂ディスクリートトラックメディアやパターンドメディアの製造工程においては、酸素やハロゲンを用いた反応性プラズマもしくは反応性イオンに磁性層を晒すことによって磁気記録パターンを形成する方法がある。また、磁性層にイオン注入を行うことにより、磁気記録パターンを有する層として加工する方法がある。これらの方法を、以下、磁性層改質法と称する。
【0011】
前記磁性層改質法を用いた方法においては、例えば、まず、磁性層の表面にマスク層を形成した後、このマスク層をフォトリソグラフィ技術によってパターニングする。そして、磁気記録パターンの境界領域にイオン注入等を行い、当該箇所の磁気特性を低下させるか、あるいは、非磁性化することにより、磁気記録パターンを形成してディスクリートトラックメディアやパターンドメディアを製造する。
前記磁性層改質法は、磁性層を物理的に加工して境界領域に非磁性材料を埋め込み、その後、表面を平滑化する製造方法(以下、磁性層加工法と称する)に比べ、製造プロセスを簡略化でき、また、製造プロセスにおける加工品への汚染の影響を低減できる点で優れている。
【0012】
一方、磁性層改質法によって形成された磁性層は、連続した磁性層に対して部分的にイオン照射やイオン注入を行なうことで形成した境界領域が、エッチング作用によって僅かに削られる。このため、磁気記録領域とその周囲の境界領域との間で、表面に凹凸による段差が生じ、さらに、その上に形成される保護膜等にも段差が引き継がれる場合がある。このような段差が磁気記録媒体の表面に生じると、例えば、磁気ヘッドの浮上特性が不安定になり、記録再生時にエラーが生じる等の問題が発生することがある。
【0013】
上述のような段差が生じるのを防止するため、例えば、この段差部分の凹部に他の物質を充填し、その表面を平滑化することも可能である。しかしながら、このようなプロセスとした場合には、上述したような磁性層改質法が備える製造プロセスの簡略化等のメリットが得られなくなるという問題があった。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、表面の平滑性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で製造することが可能な磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記本発明の製造方法によって得られ、高い記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記本発明の磁気記録媒体を備え、高記録密度特性に優れた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体を製造するため、上述のような磁性層改質法と磁性層加工法の両方法を併用して磁気記録パターンを形成することに着目した。即ち、まず、連続した磁性層の表面にパターニングしたマスク層を形成した後、このマスクパターンに覆われていない箇所の磁性層の上層部をイオンミリングにより除去し、さらに、その箇所の下層部にイオン注入を行なって磁気特性を改質する。しかしながら、このような方法で形成された磁気記録パターンは、磁性層加工法で形成された磁気記録パターンに比べて表面の凹凸が小さいものの、依然として磁性層の表面に凹凸が形成されるため、その凹部に非磁性材料等を埋め込んで表面を平滑化する必要がある。
【0016】
本発明者等は、この平滑化の工程について鋭意努力検討した結果、基板に負のバイアスを印加しながら高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン膜を形成することにより、磁性層の凸部上のカーボン膜を凹部上のカーボン膜よりも薄く形成できることを知見した。これにより、磁気記録パターンの表面の平滑化が可能となり、さらに、カーボン膜は磁気記録媒体の保護膜としてそのまま利用できるため、磁気記録媒体の製造工程を飛躍的に簡略化できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下に示す構成を採用する。
【0017】
[1] 非磁性基板上に少なくとも磁性層が設けられ、該磁性層に、磁気的に分離されてなる磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、前記磁性層に、前記磁気記録パターンとして、凸部からなる磁気記録領域と、前記磁気記録領域の間の凹部からなる境界領域とを形成する磁気記録パターン形成工程と、次いで、前記非磁性基板に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜を形成することで、前記磁気記録領域上のカーボン保護膜を、前記境界領域上のカーボン保護膜よりも薄くする保護膜形成工程と、を備えていることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
[2] 前記磁気記録パターン形成工程と、前記保護膜形成工程との間に、前記境界領域の表面を酸化又は窒化する境界領域改質工程が備えられていることを特徴とする上記[1]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[3] 前記磁気記録パターン形成工程は、前記境界領域を非磁性領域として形成することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[4] 前記磁気記録パターン形成工程は、前記境界領域を、前記磁性層にイオンミリング及びイオン注入を行うことによって形成することを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[5] 前記磁気記録パターン形成工程は、前記磁気記録領域と前記境界領域との凹凸の段差を、0.1〜9nmの範囲として形成することを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
[6] 前記保護膜形成工程は、前記カーボン保護膜の表面における、前記磁気記録領域上と前記境界領域上との間の凹凸の段差を、0〜11nmの範囲として形成することを特徴とする上記[1]〜[5]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【0018】
[7] 上記[1]〜[6]の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造される磁気記録媒体。
[8] 上記[7]に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力及び前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、磁性層に、磁気記録パターンとして、凸部からなる磁気記録領域と、該磁気記録領域の間の凹部からなる境界領域とを形成する磁気記録パターン形成工程と、非磁性基板に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜を形成することで、磁気記録領域上のカーボン保護膜を、境界領域上のカーボン保護膜よりも薄くする保護膜形成工程とを備えた方法なので、磁気記録パターン上に形成された凹凸を効率良く平滑化できる。また、平滑化に用いるカーボン保護膜を、そのまま磁気記録媒体の保護膜として利用するので、製造工程を大幅に簡略化することが可能となる。従って、表面の平滑性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で製造することが可能となる。
【0020】
また、本発明の磁気記録媒体によれば、上記本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体なので、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体が実現できる。
また、本発明の磁気記録再生装置は、上記本発明の磁気記録媒体を備えたものなので、高記録密度特性に優れた磁気記録再生装置が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置の一実施形態について、図面を適宜参照して説明する。
図1〜3は本実施形態の磁気記録媒体の製造方法に備えられる各工程を模式的に説明する工程図であり、図4は磁気記録媒体の磁性層上にカーボン保護膜を形成する工程を模式的に説明する断面図、図5は本実施形態の磁気記録媒体が備えられてなる磁気記録再生装置の一例を模式的に説明する概略図である。なお、以下の説明において参照する図面は、磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を説明するための図面であって、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の磁気記録媒体等の寸法関係とは異なっている。
【0022】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、非磁性基板1上に少なくとも磁性層2が設けられ、該磁性層2に、磁気的に分離されてなる磁気記録パターン20を形成する方法であり、磁性層2に、磁気記録パターン20として、凸部からなる磁気記録領域21と、該磁気記録領域21の間の凹部からなる境界領域22とを形成する磁気記録パターン形成工程と、次いで、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成することにより、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aを、境界領域22上のカーボン保護膜9bよりも薄くする保護膜形成工程とを備えた方法である。
【0023】
[磁気記録媒体]
本実施形態の製造方法で得られる磁気記録媒体10について、図1〜図3に示す工程図、及び図4の模式断面図を用いて詳細に説明する。図1〜3の各図は、非磁性基板1上に各層を形成することによって磁気記録媒体1を製造する各工程を示す概略図であり、これらの内、図3(c)は、各工程における処理によって製造された磁気記録媒体10の層構造を示す断面図である。また、図4(a)〜(c)は、磁性層上に各種成膜方法を用いてカーボン保護膜を形成した例を説明する模式図であり、これらの内、図4(b)は、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成した、本発明に係る磁気記録媒体10の要部を示す断面図である。
【0024】
本実施形態の磁気記録媒体10は、非磁性基板1上に、磁気的に分離した磁気記録パターン20を有するものであり、平面視略ドーナツ型の板状とされている(図5中の磁気記録再生装置50における符号10を参照)。
なお、本発明において説明する磁気記録パターンとは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された、いわゆるパターンドメディアや、磁気記録パターンが、トラック状に配置されたメディアの他、サーボ信号パターン等を含んだものである。これらの中でも、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体は、磁気的に分離した磁気記録パターンが、磁気記録トラック及びサーボ信号パターンである、所謂ディスクリート型磁気記録媒体に適用することが、製造工程の簡便性の観点から好適である。
【0025】
本実施形態の磁気記録媒体10は、例えば、非磁性基板1の表面に、軟磁性層、中間層、磁気パターンからなる磁性層2、カーボン保護膜9を積層した構造を有し、さらに最表面には潤滑膜が形成され、概略構成される。なお、本発明に係る磁気記録媒体においては、非磁性基板1、磁性層2及びカーボン保護膜9以外の各層については、適宜設けることが可能である。よって、図3(c)に示す例では、磁気記録媒体10を構成する非磁性基板1、磁性層2、カーボン保護膜9以外の層については、図示を適宜省略している。
【0026】
また、磁気記録媒体10は、非磁性基板1の垂直方向に磁化が付与される磁性層2を備えたディスクリートトラック媒体であり、読み出しヘッド及び書き込みヘッドを備えた磁気ヘッド57(図5の磁気記録再生装置50を参照)により、磁気記録パターン20への情報信号の書き込みおよび読み出しが行われるものである。
【0027】
非磁性基板1としては、Alを主成分とした、例えばAl−Mg合金等のAl合金基板や、通常のソーダガラス、アルミノシリケート系ガラス、結晶化ガラス類、シリコン、チタン、セラミックス、各種樹脂からなる基板等、非磁性基板であれば任意のものを用いることができる。これらの中でも、Al合金基板や結晶化ガラス等のガラス製基板、又はシリコン基板を用いることが好ましい。
また、これらの材質からなる非磁性基板1の平均表面粗さ(Ra)は、1nm以下であることが好ましく、0.5nm以下であることがより好ましく、0.1nm以下であることが最も好ましい。
【0028】
本実施形態の磁気記録媒体10においては、上述のような非磁性基板1と後述の磁性層2との間に、図示略の軟磁性層や中間層を適宜設けた構成とすることができる。このような軟磁性層及び中間層としては、従来から磁気記録媒体の分野において用いられている材料及び構造を用いることができ、適宜採用することが可能である。
軟磁性層としては、例えば、FeCo系合金(FeCoB、FeCoSiB、FeCoZr、FeCoZrB、FeCoZrBCu等)、FeTa系合金(FeTaN、FeTaC等)、Co系合金(CoTaZr、CoZrNB、CoB等)等の軟磁性材料を採用することができる。また、中間層としては、例えば、Ru膜等を採用することが可能である。
【0029】
磁性層2は、非磁性基板1上、あるいは上述したような適宜設けられる軟磁性層や中間層の表面に形成される層であり、例えば、単層であってもよいし2層以上積層されたものであってもよい。このような磁性層2は、面内磁性層であっても、あるいは垂直磁性層として構成しても構わないが、より高い記録密度を実現するためには垂直磁性層が好ましい。
【0030】
磁性層2としては、酸化物を0.5〜6原子%の範囲で含む材料を用いることが好ましく、また、主としてCoを主成分とする合金から構成することが好ましい。本実施形態では、磁性層2として、例えば、CoCr、CoCrPt、CoCrPtB、CoCrPtB−X、CoCrPtB−X−Yに酸化物を添加した合金や、CoCrPt−O、CoCrPt−SiO、CoCrPt−Cr、CoCrPt−TiO、CoCrPt−ZrO、CoCrPt−Nb、CoCrPt−Ta、CoCrPt−Al、CoCrPt−B、CoCrPt−WO、CoCrPt−WO等のCo系合金を用いることができる。なお、上記構成材料中のXは、Ru、W等を示しており、Yは、Cu、Mg等を示している。
【0031】
磁性層2の膜厚は、再生の際に一定以上の出力を得るために、ある程度以上の厚さであることが必要である。一方で、記録再生特性の指標となる各パラメータは、出力の上昇とともに劣化するのが通例である。このような点から、磁性層2は、十分なヘッド出入力特性が得られるように、使用する磁性合金の種類と積層構造を考慮して最適な膜厚で形成する必要がある。具体的には、磁性層2の厚さは、3nm以上20nm以下であることが好ましく、5nm以上15nm以下とすることがより好ましい。
【0032】
本実施形態の磁性層2には、凸部からなる磁気記録領域21と、該磁気記録領域21の間の凹部からなる境界領域22とからなる磁気記録パターン20が設けられている。
本発明において説明する磁気記録領域21は、後述の磁気記録再生装置50(図5を参照)に備えられるような磁気ヘッド57によって、各種信号の磁気記録再生が行なわれる領域である。
【0033】
また、本発明において説明する境界領域22とは、上述の磁気記録領域21を磁気的に分離させるための領域であり、好ましくは磁気記録領域21よりも保磁力が低い領域、より好ましくは非磁性領域として構成される。この境界領域22は、例えば、磁性層2へのイオン注入によって磁気特性が改質されて形成されるものであり、さらに、イオンミリングによって削られた箇所に、非磁性材料であるカーボンが充填された構成とすることができる。なお、境界領域22は、その表面22aが酸化又は窒化された領域として構成することも可能である。
【0034】
磁性層2において、凸部からなる磁気記録領域21と、凹部からなる境界領域22との間の凹凸の段差は、0.1〜9nmの範囲であることが好ましい。磁気記録領域21と境界領域22との間の段差がこの範囲であれば、後述の製造方法によって磁性層2上に形成されるカーボン保護膜9を、表面の平滑性に優れた膜として形成することが可能となる。
【0035】
カーボン保護膜9は、磁性層2の上に形成され、例えば、ダイヤモンド状炭素(Diamond Like Carbon)等の炭素(C)、水素化炭素(HxC)、窒素化炭素(CN)、アルモファスカーボン、炭化珪素(SiC)等の炭素質層やSiO、Zr、TiN等、一般に保護層として用いられる材料を用いることができる。また、カーボン保護膜9は、単層であってもよいし、2層以上の層から構成されていてもよい。
【0036】
カーボン保護膜9の膜厚(図4(b)に示す符号t1、t2を参照)は、10nm未満とすることが好ましい。保護層の膜厚が10nmを越えると、磁気ヘッド(図5の符号57を参照)と磁性層2との間の距離が大きくなり、充分な強さの出入力信号が得られなくなる虞がある。
【0037】
また、カーボン保護膜9の表面91における、磁気記録領域21上と境界領域22上との間の凹凸の段差(図4(c)に示す符号hを参照)は、0〜11nmの範囲であることが好ましい。カーボン保護膜9の表面91における凹凸をこの範囲内とすることにより、カーボン保護膜9が表面平滑性に優れた膜となるので、磁気記録媒体10を使用して磁気記録再生を行なう際の、磁気ヘッドの浮上特性が向上する。
【0038】
本実施形態のカーボン保護膜9は、図3(c)に示すように、凸部からなる磁気記録領域21と、凹部からなる境界領域22とから構成される磁性層2上において、磁気記録領域21上の位置のカーボン保護膜9(9a)が、境界領域22上のカーボン保護膜9(9b)よりも薄く形成されている(図4(b)に示す符号t1、t2を参照)。
一般に、磁気記録媒体の磁性層は、後述の製造方法で説明するように、イオン注入等による非磁性領域への改質の際、エッチング作用によって境界領域が僅かにエッチングされる。このため、磁性層上において、磁気記録領域が凸状に形成され、この磁気記録領域の間の境界領域が凹状に形成される。従って、磁性層の表面が凹凸状となり、磁性層の上に形成される保護膜の表面も凹凸状となる。このように、磁気記録媒体の表面に大きな凹凸が形成され、平滑性の低い表面となった場合には、例えば、磁気ヘッドの浮上特性が不安定になり、記録再生時にエラーが生じる等の問題が発生することがある。
【0039】
本実施形態のカーボン保護膜9は、詳細を後述する本実施形態の製造方法によって形成することにより、磁気記録領域21上の位置のカーボン保護膜9aが、境界領域22上のカーボン保護膜9bよりも薄く形成される。これにより、磁気記録領域21上の位置のカーボン保護膜9aと、境界領域22上のカーボン保護膜9bとの間で高低差が生じるのが抑制される。従って、表面の平滑性に優れ、磁気ヘッドの浮上特性が安定するとともに、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能な磁気記録媒体10が実現できる。
【0040】
なお、本実施形態の磁気記録媒体10では、カーボン保護膜9の上に、さらに、図示略の潤滑層を形成することが好ましい。潤滑層に用いる潤滑剤としては、フッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等が挙げられる。また、潤滑層は、通常1〜4nmの厚さで形成される。
【0041】
磁気記録媒体10は、上記各構成により、磁気記録パターン20に、磁気ヘッド(図5に示す磁気記録再生装置50の磁気ヘッド57を参照)によって磁気記録あるいは再生を行なうことが可能な構成とされる。本実施形態の磁気記録媒体10は、下記の本発明に係る製造方法によって得られるものなので、表面の平坦性に優れ、また、充分な記録再生特性が確保され、高記録密度に対応可能なものとなる。
【0042】
[磁気記録媒体の製造方法]
以下、図1〜図3を適宜参照しながら、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法について、以下に詳しく説明する。
上述したように、本実施形態の磁気記録媒体10の製造方法は、非磁性基板1上に少なくとも磁性層2が設けられ、磁性層2に、磁気記録パターン20として、凸部からなる磁気記録領域21と、該磁気記録領域21の間の凹部からなる境界領域22とを形成する磁気記録パターン形成工程と、次いで、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成することにより、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aを、境界領域22上のカーボン保護膜9bよりも薄くする保護膜形成工程とを備えた方法である。
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法は、上記方法によって表面に凹凸が生じるのを抑制し、表面の平滑性に優れた磁気記録媒体を製造する方法である。
【0043】
『製造工程』
以下に、本実施形態の磁気記録媒体10の製造方法に備えられる各工程について順に詳述する。
本実施形態では、図1〜図3に示すように、非磁性基板1に、少なくとも磁性層2を形成する工程A(図1(a))、磁性層2の上にマスク層3を形成する工程B(図1(b))、マスク層3の上にレジスト層4を形成する工程C(図1(c))、レジスト層4に磁気記録パターン20のネガパターン(磁気記録領域を分離するため、磁気記録領域に対応してレジスト層に凹部を形成したもの)を、スタンプ5を用いてネガパターンを転写する工程D(図2(a);図中における矢印はスタンプ5の動きを示す)、磁気記録パターン20のネガパターンに対応する部分のマスク3を除去する工程E(図2(b);但し、工程Dにおいてレジスト層4の残部4aが残っている場合にはレジスト層及びマスクを除去)、レジスト層4側の表面から磁性層2の表層部を部分的にイオンミリングする工程F(図2(C);符号6はイオンミリング、符号7は磁性層2で部分的にイオンミリングした箇所を示し、符号dは磁性層2でイオンミリングした深さを示す)、磁性層2のイオンミリングによって除去した箇所に連続してイオン注入を行った後、ドライエッチングガスYによってレジスト層4及びマスク層3を除去する工程G(図3(a);符号)、磁性層2の表面に酸素イオン又は窒素イオンを照射して表面を酸化または窒化する工程H(図3(b);符号Zは酸素イオン又は窒素イオン)、磁性層2の表面をカーボン保護膜9で覆う工程I(図3(c))の各工程をこの順で有する方法により、磁気記録媒体10を製造することができる。
なお、上記各工程において、工程A〜Gの各工程は上述の磁気記録パターン形成工程をなし、また、工程Iは保護膜形成工程である。また、本実施形態で説明する例では、上記工程Gと工程Iとの間、つまり、磁気記録パターン形成工程と保護膜形成工程との間に、境界領域22の表面を酸化又は窒化する境界領域改質工程(工程H)が備えられている。
【0044】
「工程A」
まず、非磁性基板1上に、必要に応じて、図示略の軟磁性層、中間層を、従来公知の材料及び方法を用いて形成する。
次いで、図1(a)の工程Aに示すように、非磁性基板1の上、あるいは、軟磁性層又は中間層の上に、上述したような材質からなる磁性層2を形成する。磁性層2は、通常、スパッタ法を用いて薄膜として形成する。
【0045】
「工程B」
次に、図1(b)に示す工程Bにおいて、磁性層2の上にマスク層3を形成する。マスク層3としては、C、Ta、W、Ta窒化物、W窒化物、Si、SiO、Ta、Re、Mo、Ti、V、Nb、Sn、Ga、Ge、As、Niからなる群から選ばれる何れか一種以上を含む材料で形成するのが好ましい。このような材料を用いることにより、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。さらに、これらの物質は、反応性ガスを用いたドライエッチング処理が容易であるため、図3(a)の工程Gにおいて残留物を減らし、磁気記録媒体10の表面の汚れを低減することができる。
【0046】
マスク層3の厚さは、一般的には1〜20nmの範囲であることが好ましい。
また、本実施形態では、マスク層3としてCを用いた場合には、後述の工程Gにおいてマスク層3を除去せずに残存させ、カーボン保護膜9の一部をなす構成とすることも可能である。
【0047】
「工程C〜工程D〜工程E」
次に、図1(c)に示す工程Cにおいて、マスク層3上にレジスト層4を形成する。
次いで、図2(a)に示す工程Dにおいて、レジスト層4に対してスタンプ5を押圧することにより、磁気記録パターン20のネガパターンを転写する。
次いで、図2(b)に示す工程Eにおいて、マスク層3の内の磁気記録パターン20のネガパターンに対応する部分のネガパターンに対応する部分を除去する。
【0048】
本実施形態の製造方法では、図2(a)の工程Dで示すような、レジスト層4に磁気記録パターン20のネガパターンを転写した後の、レジスト層4の凹部の厚さを、0〜10nmの範囲とするのが好ましい。レジスト層4の凹部の厚さをこの範囲とすることにより、図2(b)の工程Eで示すマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを防止することが可能となる。また、マスク層3のミリングイオン6に対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン形成特性を向上させることができる。また、レジスト層4の全体の厚さとしては、一般的には10nm〜100nm程度である。
【0049】
本実施形態の製造方法では、図1(c)の工程C、及び、図2(a)の工程Dにおいてレジスト層4に用いる材料を、放射線照射により硬化性を有する材料とし、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する際か、あるいはパターン転写工程の後に、レジスト層4に放射線を照射するのが好ましい。このような方法とすることにより、レジスト層4に、スタンプ5の形状を精度良く転写することができる。これにより、図2(b)の工程Eで示したマスク層3のエッチング工程において、マスク層3のエッジの部分のダレを防止し、マスク層3の注入イオンに対する遮蔽性を向上させ、また、マスク層3による磁気記録パターン20の形成特性を向上させることが可能となる。なお、本実施形態で説明する放射線とは、例えば、熱線、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線等の広い概念の電磁波である。また、放射線照射により硬化性を有する材料とは、例えば、熱線に対しては熱硬化樹脂、紫外線に対しては紫外線硬化樹脂である。
【0050】
本実施形態の製造方法では、特に、レジスト層4にスタンプ5を用いてパターンを転写する工程に際して、レジスト層4の流動性が高い状態で、該レジスト層4にスタンプ5を押圧し、押圧した状態でレジスト層4に放射線を照射することが好ましい。これにより、レジスト層4を硬化させ、その後、スタンプ5をレジスト層4から離すことにより、スタンプ5の形状を精度良くレジスト層4に転写することが可能となる。レジスト層4にスタンプ5を押圧した状態で、レジスト層4に放射線を照射する方法としては、スタンプ5の反対側、すなわち非磁性基板1側から放射線を照射する方法、スタンプ5の材料として放射線を透過できる物質を選択し、スタンプ5側から放射線を照射する方法、スタンプ5の側面から放射線を照射する方法、熱線のように固体に対して伝導性の高い放射線を用いて、スタンプ5の材料又は非磁性基板1からの熱伝導によって放射線を照射する方法等を用いることができる。本実施形態の製造方法では、上記各方法の中でも、特に、レジスト材としてノボラック系樹脂、アクリル酸エステル類、脂環式エポキシ類等の紫外線硬化樹脂を用い、スタンプ5の材料として、紫外線に対して透過性の高いガラスもしくは樹脂を用いることが好ましい。
【0051】
上述のような方法を用いてレジスト層4にパターンを転写することにより、磁気記録パターン20の境界領域22の磁気特性、例えば、保磁力、残留磁化を極限まで低減させることができ、磁気記録の際の書きにじみをなくし、高い面記録密度を有する磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0052】
なお、上記プロセスで用いられるスタンパー(スタンプ5)としては、例えば、金属プレートに電子線描画などの方法を用いて微細なトラックパターンを形成したもの等が使用でき、その材料としては、上記プロセスに耐えうる硬度、耐久性等が要求される。このような材料としては、例えばNi等が使用できるが、上述の目的に合致するものであれば、材料の種類は何ら制限されない。また、このようなスタンパーは、通常のデータを記録するトラックの他に、バーストパターン、グレイコードパターン、プリアンブルパターンといったサーボ信号のパターンも形成することができる。
【0053】
「工程F」
次に、図2(c)に示す工程Fにおいて、イオンミリング等によって磁性層2の表層の一部を除去する。本実施形態では、磁性層2の表層の一部を除去することにより、後述の工程Gにおいて、イオン注入による磁性層2の下部の磁気特性の改質を促進することができる。
【0054】
本実施形態の製造方法では、イオンミリング等によって磁性層2の表層の一部を除去する際の深さdを、0.1nm〜11nmの範囲とすることが好ましい。イオンミリングによる除去深さが0.1nmより小さな場合は、上述の磁性層の除去効果が現れず、また、除去深さが11nmより大きくなると、磁気記録媒体の表面平滑性が悪化し、磁気記録再生装置を構成した際の磁気ヘッドの浮上特性が低下する虞がある。
【0055】
なお、本実施形態の磁気記録パターン形成工程をなす工程Fでは、上述した磁性層2の表層の一部を除去する際の深さdを適宜調整することが可能である。本実施形態では、磁性層2を除去する深さdを調整することにより、磁気記録領域21をなす凸部と境界領域22をなす凹部との間の凹凸の段差を、0.1〜11nmの範囲として形成することが好ましい。
【0056】
「工程G」
次に、図3(a)に示す工程Gにおいて、磁性層2のイオンミリングによって除去した箇所に連続してイオン注入を行い、磁性層2を磁気的に分離した後、ドライエッチングガスYによってレジスト層4及びマスク層3を除去する。本実施形態では、磁気記録領域21及びサーボパターン(図示略)を磁気的に分離する境界領域22を、既に成膜された磁性層2にイオン注入することにより、磁性層2の磁気特性を改質(磁気特性の低下)することで形成することができる。
【0057】
本実施形態では、非磁性基板1上に形成されてなる連続した磁性層2を加工して、磁気的に分離した磁気記録パターン20を形成する。具体的には、磁性層2において磁気記録領域21とする箇所のみにマスク層3を設け、マスク層3で覆われていない箇所の磁性層2については、イオンミリングによって上層部を除去し、さらに、その箇所の下層部をイオン注入によって非磁性領域とする等の磁気特性の改質を行う。このような方法を用いて、磁性層2に磁気記録領域21(凸部)及び境界領域(凹部)からなる磁気記録パターン20を形成し、ディスクリートトラック型の磁気記録媒体を製造することにより、磁気記録媒体に磁気記録を行う際の書きにじみをなくし、高い面記録密度の磁気記録媒体を提供することが可能となる。
【0058】
ここで、本実施形態において説明する磁気的に分離した磁気記録パターンとは、図3(a)の工程Gに示すように、磁気記録媒体10を表面側から見た場合に、磁気記録領域21が非磁性化した境界領域22によって分離された状態を指す。即ち、磁性層2が表面側から見て分離されていれば、磁性層2の底部において分離されていなくとも、本発明の目的を達成することが可能であり、こらは、本実施形態で説明する、所謂、磁気的に分離した磁気記録パターンの概念に含まれる。また、本実施形態で説明する磁気記録パターンは、磁気記録パターンが1ビットごとに一定の規則性をもって配置された所謂パターンドメディアや、磁気記録パターンがトラック状に配置されたメディアの他、サーボ信号パターン等を含んでいる。これらの中でも、本実施形態の製造方法は、磁気記録パターンが、磁気記録トラック(磁気記録領域)及びサーボ信号パターンからなる、所謂ディスクリート型磁気記録媒体に適用するのが、その製造工程における簡便性等の点から好ましい。
【0059】
また、本実施形態で説明する磁気記録パターン20を形成するための磁性層2の改質とは、磁性層2をパターン化するために、磁性層2の保磁力、残留磁化等を部分的に変化させることを指し、その変化とは、保磁力を下げ、残留磁化を下げることを指す。
【0060】
さらに、本実施形態では、磁気記録トラック及びサーボパターンを磁気的に分離する箇所を改質する方法の一つとして、既に成膜された磁性層2にイオン注入を施し、磁性層2の当該箇所を非晶質化する方法が挙げられる。なお、このような方法は、磁性層2の磁気特性の改質を、磁性層2の結晶構造の改変によって実現することも含む。
【0061】
また、本実施形態において説明する、磁性層2を非晶質化する処理とは、磁性層2の原子配列を、長距離秩序を持たない不規則な原子配列の形態とすることを指し、より具体的には、2nm未満の微結晶粒がランダムに配列した状態とすることを指す。そして、この原子配列状態を分析手法によって確認する場合には、X線回折又は電子線回折により、結晶面を表すピークが認められず、また、ハローが認められるのみの状態とする。
【0062】
本実施形態の磁気記録パターン形成工程をなす工程Gにおいて、磁性層2へのイオン注入を行なう方法としては、この分野において従来から用いられている方法を何ら制限無く用いることができる。例えば、He、Ne、Ar、Kr、H、N、CF、SFガス等を用い、これらのガスをイオン化した後、電場によって加速し、磁性層2の表面に注入する方法とすることができる。
【0063】
なお、本実施形態では、工程Gにおいて行う磁性層2へのイオン注入処理を、上述の工程Fで説明したイオンミリングと同一のイオン及び条件によって行なう場合には、これらを同一の工程で行なうことが可能である。
【0064】
そして、本実施形態の工程Gでは、磁性層2へのイオン注入を行なった後、レジスト層4及びマスク層3を除去する。具体的には、例えば、ドライエッチング、反応性イオンエッチング、イオンミリング、湿式エッチング等の手法を適宜採用することができる。
【0065】
なお、マスク層3としてカーボンを用いた場合、カーボンは保護膜としても使用できることから、マスク層3の少なくとも一部を残存させても構わない。また、このような場合、本実施形態の磁気記録領域21には、該磁気記録領域21をなす凸部上に残存するマスク層3は含まれない。即ち、本発明に係る製造方法では、上述したように、磁気記録領域21と境界領域22との間の段差を0.1nm〜11nmの範囲とことが好ましいが、この段差には凸部(磁気記録領域)上に残存するマスク層3の厚さを含まない。
【0066】
「工程H」
次に、本実施形態においては、図3(b)の工程Hに示すように、境界領域22の表面22aを酸化又は窒化する境界領域改質工程が備えられている。
具体的には、図3(b)に示すように、磁性層2の表面に酸素イオン又は窒素イオン(図中の符号Zを参照)を照射することにより、表面22aを酸化または窒化する。
【0067】
「工程I(保護膜形成工程)」
次に、図3(c)の工程Iに示すように、本実施形態の製造方法においては、カーボン保護膜9を形成する。
具体的には、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いて、磁性層2上にカーボン保護膜9を形成し、より好ましくは、さらに、カーボン保護膜9の上に潤滑剤を塗布する。
【0068】
カーボン保護膜9の形成方法としては、一般的には、Diamond Like Carbonの薄膜を、CVD法等を用いて成膜する方法を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。また、カーボン保護膜9の成膜に用いるCVD装置としても、従来公知のものを何ら制限無く使用できる。
以下に、高周波プラズマ化学蒸着法(高周波プラズマCVD法)を用いた、カーボン保護膜9の成膜方法について詳述する。
【0069】
本実施形態で説明する高周波プラズマとは、一般的には、13.56MHzの周波数の電力を電極に印加して発生させたプラズマのことを呼ぶが、周波数は13.56MHzには限定されず、3〜30MHzの範囲の周波数を適宜選択することができる。また、上述したように、非磁性基板1に印加するバイアスは負のバイアスであり、電圧は100〜350Vの範囲内で適宜選択することができる。
また、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成する際に用いる原料ガスとしては、例えば、メタン、エタン、エチレン等の炭化水素系のガスの他、炭素、水素、酸素、窒素等を含むその他のガスも使用することが可能である。
【0070】
本発明に係る磁気記録媒体の製造方法では、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aを、境界領域22上のカーボン保護膜9bより薄く形成する。
上述のような高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成するに際し、磁気記録領域21をなす凸部上に、カーボンからなるマスク層3を残存させても良いし、あるいはマスク層3を除去しても良い。但し、何れの方法においても、マスク層3の下の磁性層2には、イオン照射等によるダメージを与えないことが好ましい。即ち、境界領域22をなす凹部の表面22aは、イオンミリングにより活性化し、また、磁性材料の酸化物や窒化物が形成されている。このような場合、表面22は、高周波プラズマによって形成された炭素ラジカルの付着確率が高まり、この箇所での炭素膜厚が厚くなるという作用がある。この際、非磁性基板1に印加された負のバイアスは、ウェーハへの炭素ラジカルの付着確率をさらに高める効果がある。
【0071】
一方、磁気記録領域21上に残存するマスク層3として、炭素ラジカルに対して付着確率の低い材料を用い、このマスク層3を除去する場合においては、マスク層3の下の磁性層2の表面を活性化させず、また酸化物や窒化物が生成しないように調整する。これにより、磁性層2の磁気記録領域21上への炭素ラジカルの付着確率を下げ、磁気記録領域21となる凸部上のカーボン保護膜9aを、その境界領域22である凹部上のカーボン保護膜9bより薄く形成させる。
【0072】
また、本実施形態では、上記工程Hにおいて、境界領域22をなす凹部の表面22aを酸化又は窒化した後に、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成することによっても、上述のようなカーボン保護膜9の選択成長を促進することができる。また、磁気記録パターン20における境界領域22を形成する上記工程Gにおいて、ミリングイオン6に酸素や窒素を含有させ、この工程Gの後に、さらに、境界領域22の表面22aを酸化又は窒化する上記工程Hが備えられた方法としても良い。これら各工程において重要な点としては、マスク層3の表面を活性な状態とせず、マスク層3の部分の炭素ラジカルの付着確率を高めないことが挙げられる。
【0073】
本実施形態の磁気記録媒体の製造方法で用いられる製造装置の主要部となる高周波プラズマCVD成膜装置は、詳細な図示を省略するが、例えば、ディスク(ウェーハ)を収容するチャンバと、このチャンバの両側壁内面に相対向するように設置された電極と、これら電極に高周波電力を供給する高周波電源と、チャンバ内のディスクに接続可能なバイアス電源と、ディスク上に形成するカーボン保護膜の原料となる反応ガスの供給源とを備えたものとすることができる。また、上述のチャンバには、反応ガスをチャンバ内に導入する導入管と、チャンバ内のガスを系外に排出する排気管を接続する。また、排気管には排気量調節バルブを設け、排気量を調節することによってチャンバの内圧を任意の値に設定することができるような構成とする。
【0074】
上述のような高周波プラズマCVD成膜装置で用いられる高周波電源としては、カーボン保護膜9の成膜時に、電極に50〜2000Wの電力を供給することができるものを用いることが好ましい。また、非磁性基板1に印加するバイアス電源としては、直流電源を用いるとともに、10〜300Wの電力をディスクに印加できるものが好ましい。また、高周波電源としてはパルス直流電源を用いるのが好ましく、この場合のパルス幅は10〜50000ns、周波数は10kHz〜10MHzの範囲内で、−350〜−10Vの電圧(平均電圧)をディスクに印加することが可能なものを用いることが好ましい。
【0075】
なお、工程I(保護膜形成工程)では、カーボン保護膜9の表面91の磁気記録領域21上と境界領域22上との間の凹凸の段差、つまり、カーボン保護膜9aの位置とカーボン保護膜9bの位置との間の段差hを0〜11nmの範囲として形成することが好ましい。カーボン保護膜9の表面91の段差がこの範囲であれば、カーボン保護膜9、ひいては、磁気記録媒体10の表面の平滑特性が良好となる。
【0076】
また、本実施形態では、カーボン保護膜9の上に、さらに、例えばフッ素系潤滑剤、炭化水素系潤滑剤及びこれらの混合物等からなる図示略の潤滑層を形成することがより好ましい。また、この場合の潤滑層の厚さは、通常、磁気記録媒体において形成される潤滑層と同様、1〜4nmの厚さとすることが好ましい。
【0077】
以下、磁気記録領域21と境界領域22との間の凹凸の段差と、磁気記録領域21上に形成されるカーボン保護膜9aと境界領域22上に形成されるカーボン保護膜9bとの間の凹凸の段差の関係について、図4(a)〜(c)を用いて説明する。図4(a)〜(c)は、磁性層上に各種成膜方法を用いてカーボン保護膜を形成した例を説明する模式図である。
本実施形態の製造方法で磁気記録媒体を製造した場合、図4(a)〜(c)に示すように、磁性層2(120)には、凸部からなる磁気記録領域21(121)と、凹部からなる境界領域22(122)によって表面に凹凸が形成される。これは、連続して形成される磁性層2(120)において、境界領域22(122)となる箇所にイオンミリング及びイオン注入を行うことによって形成されるものである。このような凹凸の段差を有する磁性層120上に、従来公知のPVD法(物理蒸着法)を用いてカーボン保護膜90を形成した場合は、図4(a)に示すように、カーボン保護膜90の膜厚が、凸部上及び凹部上ともに同じ膜厚となる。このため、カーボン保護膜90は、その下の磁性層120とほぼ同一の深さの凹凸表面を形成することになり、結果として、磁気記録媒体の表面の平滑性は低くなってしまう。
【0078】
これに対し、図4(b)に示すように、上述のような凹凸の段差を有する磁性層2上に、本発明で規定する条件で、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成した場合には、凹部(境界領域22)上のカーボン保護膜9aが、凸部(磁気記録領域21)上のカーボン保護膜9bに比べて厚く形成される。従って、磁性層2の表面に形成された凹凸の段差がカーボン保護膜9によって緩和され、磁気記録媒体10の表面の平滑性が高められる。
【0079】
一方で、図4(c)に示すように、磁気記録領域121上のカーボン保護膜19aの厚さが、境界領域122上のカーボン保護膜19bよりも厚く形成される場合がある。これは、磁気記録領域121をなす凸部が、チャンバ内におけるプラズマ空間により近い位置となるので、当該箇所でのカーボンラジカルの付着確率が高くなることと、CVD法を用いた成膜の特徴として、凸部における成長速度が高められることが影響するためである。
【0080】
本発明に係る製造方法で得られる磁気記録媒体は、図4(b)に示すように、磁気記録媒体の表面に対して垂直方向の断面で、磁気記録領域21の表面が凸部、境界領域22が凹部を形成し、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aの膜厚t1が、境界領域22上のカーボン保護膜9bの膜厚t2よりも薄くなっている。そして、本実施形態では、凸部と凹部の段差が0.1nm〜9nmの範囲内であり、カーボン保護膜9の表面の段差hが0nm〜11nmの範囲内、また、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aの膜厚を1〜5nmの範囲内とすることがより好ましい。また、境界領域22上のカーボン保護膜9bの膜厚は、好ましくは0.1nm〜4nmの範囲である。本実施形態では、磁気記録媒体に設けるカーボン保護膜の膜厚を上記範囲とすることにより、磁気記録再生装置に用いた際の磁気ヘッドの浮上特性に優れ、また、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を製造することが可能となる。
【0081】
以上説明したような、本実施形態の磁気記録媒体の製造方法によれば、磁性層2に、磁気記録パターン20として、凸部からなる磁気記録領域21と、該磁気記録領域21の間の凹部からなる境界領域22とを形成する磁気記録パターン形成工程と、次いで、非磁性基板1に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜9を形成することにより、磁気記録領域21上のカーボン保護膜9aを、境界領域22上のカーボン保護膜9bよりも薄くする保護膜形成工程とを備えた方法なので、磁気記録パターン20上に形成された凹凸を効率良く平滑化できる。また、平滑化に用いるカーボン保護膜9を、そのまま磁気記録媒体の保護膜として利用するので、製造工程を大幅に簡略化することが可能となる。従って、表面の平滑性に優れた磁気記録媒体10を、高い生産性で製造することが可能となる。
【0082】
また、上記本発明の製造方法によって得られる磁気記録媒体10は、製造コストが低減されるとともに、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能なものとなる。
【0083】
[磁気記録再生装置]
次に、本発明に係る磁気記録再生装置(ハードディスクドライブ)の構成を図5に示す。本発明に係る磁気記録再生装置50は、図5に示すように、上述の本発明に係る磁気記録媒体1と、これを記録方向に駆動する媒体駆動部51と、記録部と再生部からなる磁気ヘッド57と、磁気ヘッド57を磁気記録媒体10に対して相対運動させるヘッド駆動部58と、磁気ヘッド57への信号入力と磁気ヘッド57からの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段を組み合わせた記録再生信号系59とを具備したものである。これらを組み合わせることにより、記録密度の高い磁気記録再生装置50を構成することが可能となる。本発明においては、磁気記録媒体1の記録トラックを磁気的に不連続に加工することにより、従来、トラックエッジ部の磁化遷移領域の影響を排除するために再生ヘッド幅を記録ヘッド幅よりも狭くして対応していたものを、両者をほぼ同じ幅にして動作させることができる。これにより、充分な再生出力と高いSNRを備えた磁気記録再生装置50が実現できる。
【0084】
さらに、本実施形態では、上述の磁気ヘッド57の再生部を、GMRヘッドあるいはTMRヘッドで構成することにより、高記録密度においても充分な信号強度を得ることができ、高記録密度を持った磁気記録再生装置を実現することが可能となる。また、磁気ヘッド57の浮上量を0.005μm〜0.020μmの範囲と、従来よりも低い高さで浮上させると、出力が向上して高い装置SNRが得られ、大容量で高信頼性の磁気記録再生装置を提供することができる。またさらに、最尤復号法による信号処理回路を組み合わせた場合には、さらに記録密度を向上させることができる。このような構成とすれば、例えば、トラック密度100kトラック/インチ以上、線記録密度1000kビット/インチ以上、1平方インチ当たり100Gビット以上の記録密度で記録・再生する場合であっても、充分なSNRが得られる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の磁気記録媒体の製造方法及び磁気記録媒体、並びに磁気記録再生装置を、実施例および比較例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0086】
[実施例]
まず、HD用ガラス基板をセットした真空チャンバを、予め1.0×10−5Pa以下に真空排気した。この際、ガラス基板としては、LiSi2、Al−KO、MgO−P、Sb−ZnOを構成成分とする結晶化ガラスからなる材質とされ、外径65mm、内径20mm、平均表面粗さ(Ra)が2オングストロームとされたものを用いた。
【0087】
そして、上記ガラス基板上に、DCスパッタリング法を用いて、軟磁性層として65Fe−30Co−5B、中間層としてRu、磁性層として、グラニュラ構造の垂直配向とされた92(70Co−10Cr−20Pt)−8SiO(モル比)合金、さらに、60Co−16Cr−16Pt−8B合金の順で、各薄膜を積層した。この際の各層の膜厚としては、FeCoB軟磁性層は60nm、Ru中間層は10nmとし、磁性層は、各薄膜を10nm及び5nmの膜厚とした。
【0088】
次いで、その上に、スパッタ法を用いてマスク層を形成した、このマスク層の材料としてはC(炭素:カーボン)を用い、また、膜厚は60nmとした。
次いで、その上に、レジスト層をスピンコート法により塗布した。この際、レジスト層としては、紫外線硬化樹脂であるノボラック系樹脂を用い、また、膜厚は100nmとした。
【0089】
次いで、磁気記録パターンのネガパターンを有するガラス製のスタンプを用い、1MPa(約8.8kgf/cm)の圧力として、レジスト層にスタンプを押圧した。そして、この状態において、波長250nmの紫外線を、紫外線の透過率が95%以上とされたガラス製のスタンプの上部から10秒間照射し、レジスト層を硬化させた。その後、スタンプをレジスト層から分離し、レジスト層に磁気記録パターンを転写した。ここで、レジスト層に転写した磁気記録パターンは、レジストの凸部が幅120nmの円周状、レジストの凹部が幅60nmの円周状であり、レジスト層の層厚は80nm、レジスト層の凹部の底部厚さは約5nmであった。また、レジスト層の凹部の基板面(ウェーハ面)に対する角度は概ね90度であった。
【0090】
その後、レジスト層の凹部の箇所、及び、その下のC層(マスク層)をドライエッチングによって除去した。この際のドライエッチング条件としては、Oガスを40sccm、圧力0.3Pa、高周波プラズマ電力300W、DCバイアス30W、エッチング時間30秒の各条件とした。
【0091】
その後、磁性層においてマスク層に覆われていない箇所について、その表面を、イオンミリングによって除去した。この際、イオンミリングにはArイオンを用い、磁性層の除去した深さは4nmであった。また、イオンミリングの条件としては、高周波放電力800W、加速電圧500V、圧力0.012Pa、Ar流量5sccm、電流密度0.4mA/cmの各条件とした。このようなイオンミリングを行うことにより、磁性層のミリング箇所の下において、深さ8nmまでが非磁性化した。
【0092】
その後、レジスト層及びマスク層の一部をドライエッチングにより除去した。この際のドライエッチングの条件としては、酸素ガスを100sccm、圧力2.0Pa、高周波プラズマ電力400W、処理時間300秒とし、マスク層は、膜厚方向で1nmのみ残存させた。
【0093】
次いで、磁性層の表面に、高周波プラズマCVD法にてカーボン材料(DLC:ダイヤモンドライクカーボン)からなるカーボン保護膜を成膜することにより、磁気記録媒体を作製した。この際の成膜処理には高周波プラズマCVD装置を用い、印加電力は13.56MHzで800W、原料ガスにはエチレン、成膜時間は10秒の各条件とした。なお、カーボン保護膜の成膜に際して、非磁性基板に、−220Vの直流電圧をバイアスとして印加した。また、カーボン保護膜の磁気記録領域上における膜厚は3nm、凸部と凹部の段差は3nmであった。
【0094】
そして、上記方法で製造した磁気記録媒体の電磁変換特性(SNRおよび3T−squash)を、スピンスタンドを用いて測定した。この際、評価用の磁気ヘッドとして、記録用には垂直記録ヘッド、読み込み用にはTuMRヘッドを用い、750kFCIの信号を記録した場合のSNR値及び3T−squashを測定した。
この結果、上記本発明に係る製造方法によって製造された磁気記録媒体は、SNRが13.4dB、3T−squashが87%であり、磁気ヘッドの浮上特性が安定しているため、電磁変換特性に優れていることが確認できた。
【0095】
[比較例1]
磁性層の表面に、6インチのカーボンターゲットを使用したマグネトロンスパッタ装置を用いて、投入電力を1500Wとしてカーボン保護膜を形成した点を除き、上記実施例と同様の手順で比較例1の磁気記録媒体を作製した。このような手順で得た比較例1の磁気記録媒体は、磁性層の凸部上に5nmのカーボン保護膜が形成され、また、凹部にも5nmのカーボン保護膜が形成されており、段差は5nmであった。
そして、上記手順で作製した比較例1の磁気記録媒体の電磁変換特性を、上記実施例と同様の方法で測定したところ、SNRが12.2dB、3T-squashが75%であり、実施例の磁気記録媒体に比べて電磁変換特性が劣っていることが明らかとなった。
【0096】
[比較例2]
非磁性基板に直流電圧のバイアスを印加せずにカーボン保護膜を形成した点を除き、上記実施例と同様の手順で比較例2の磁気記録媒体を作製した。このような手順で得た比較例2の磁気記録媒体は、磁性層の凸部上に5nmのカーボン保護膜が形成され、また、凹部にも5nmのカーボン保護膜が形成されており、段差は5nmであった。
そして、上記手順で作製した比較例2の磁気記録媒体の電磁変換特性を、上記実施例と同様の方法で測定したところ、SNRが12.3dB、3T-squashが76%であり、実施例の磁気記録媒体に比べて電磁変換特性が劣っていることが明らかとなった。
【0097】
[比較例3]
非磁性基板に印加する直流電圧のバイアスを+200Vとした点を除き、上記実施例と同様の手順で比較例3の磁気記録媒体を作製した。このような手順で得た比較例3の磁気記録媒体は、磁性層の凸部上に7nmのカーボン保護膜が形成され、また、凹部には4nmのカーボン保護膜が形成されており、段差は8nmであった。
そして、上記手順で作製した比較例3の磁気記録媒体の電磁変換特性を、上記実施例と同様の方法で測定したところ、SNRが12.0dB、3T-squashが73%であり、実施例の磁気記録媒体に比べて電磁変換特性が大きく劣っていることが明らかとなった。
【0098】
以上の結果により、本発明に係る磁気記録媒体の製造方法が、表面の平滑性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で製造することが可能であることが明らかである。また、この製造方法によって得られる磁気記録媒体が、充分な記録再生特性を確保でき、高記録密度に対応可能であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の磁気記録媒体の製造方法は、磁気記録再生装置、所謂ハードディスクドライブに用いられる磁気記録媒体の製造工程に適用することで、電磁変換特性に優れた磁気記録媒体を、高い生産性で製造することが可能となり、産業上の利用可能性は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図2】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図3】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法を模式的に説明する図であり、非磁性基板上に各層を成膜する際の各手順を示す工程図である。
【図4】本発明に係る磁気記録媒体の製造方法によって成膜される磁性層上に、各種成膜方法を用いてカーボン保護膜を形成した例を模式的に説明する図である。
【図5】本発明に係る磁気記録媒体が用いられてなる磁気記録再生装置を模式的に示す概略図である。
【符号の説明】
【0101】
1…非磁性基板、2…磁性層、21…磁気記録領域(凸部)、21a…表面(磁気記録領域)、22…境界領域(凹部)、22a…表面(境界領域)、9…カーボン保護膜、9a…カーボン保護膜(磁気記録領域上のカーボン保護膜)、9b…カーボン保護膜(境界領域上のカーボン保護膜)、91…表面(カーボン保護膜)、10…磁気記録媒体、20…磁気記録パターン、50…磁気記録再生装置、51…媒体駆動部(磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部)、57…磁気ヘッド、58…ヘッド駆動部(磁気ヘッドを磁気記録媒体に対して相対運動させる手段)、59…記録再生信号系(記録再生信号処理手段)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性基板上に少なくとも磁性層が設けられ、該磁性層に、磁気的に分離されてなる磁気記録パターンを形成する磁気記録媒体の製造方法であって、
前記磁性層に、前記磁気記録パターンとして、凸部からなる磁気記録領域と、前記磁気記録領域の間の凹部からなる境界領域とを形成する磁気記録パターン形成工程と、
次いで、前記非磁性基板に負のバイアスを印加しながら、高周波プラズマ化学蒸着法を用いてカーボン保護膜を形成することで、前記磁気記録領域上のカーボン保護膜を、前記境界領域上のカーボン保護膜よりも薄くする保護膜形成工程と、を備えていることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記磁気記録パターン形成工程と、前記保護膜形成工程との間に、前記境界領域の表面を酸化又は窒化する境界領域改質工程が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記磁気記録パターン形成工程は、前記境界領域を非磁性領域として形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記磁気記録パターン形成工程は、前記境界領域を、前記磁性層にイオンミリング及びイオン注入を行うことによって形成することを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記磁気記録パターン形成工程は、前記磁気記録領域と前記境界領域との凹凸の段差を、0.1〜9nmの範囲として形成することを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記保護膜形成工程は、前記カーボン保護膜の表面における、前記磁気記録領域上と前記境界領域上との間の凹凸の段差を、0〜11nmの範囲として形成することを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れか1項に記載の磁気記録媒体の製造方法によって製造される磁気記録媒体。
【請求項8】
請求項7に記載の磁気記録媒体と、該磁気記録媒体を記録方向に駆動する駆動部と、記録部と再生部からなる磁気ヘッドと、該磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対運動させる手段と、前記磁気ヘッドへの信号入力及び前記磁気ヘッドからの出力信号再生を行うための記録再生信号処理手段とを組み合わせて具備してなることを特徴とする磁気記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−140544(P2010−140544A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314957(P2008−314957)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】