説明

磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システム

【課題】移動が容易で、従来に比べて狭いスペースでも設置でき、製造コストを低減することができる磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを提供する。
【解決手段】支持部12が、ソレノイドコイルを支持して移動可能である。支持部12は、上下方向に延びて設けられたガイドレール15と、ソレノイドコイルの高さを調整可能に設けられた高さ調整手段16と、ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整可能に設けられた角度調整手段とを有している。高さ調整手段16は、ガイドレール15に平行なボールネジ23と、ボールネジ23と螺合したウォームギア24と、ウォームギア24を回転可能なハンドル25とを有している。ソレノイドコイルは、ボールネジ23の回転により、ガイドレール15に沿って移動可能である。磁性複合体は、体内有効物質と微小磁性体とを含み、ソレノイドコイルが発生する磁界により移動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を備えた被誘導体の誘導に使用される磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁性体を備え患者の体内に挿入された被誘導体を磁気的に誘導する磁気誘導装置として、患者が横たわるベッドなどを取り囲むように磁界発生部を配置したものが提案されている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
また、近年、細胞と微小磁性体を複合させた複合体を、患者の体内の特定の部位に磁気を用いて集中させることにより、その部位の損傷の修復などを行う技術の開発が進められている。
【0003】
【特許文献1】米国特許第3358676号明細書
【特許文献2】特開2001−179700号公報
【特許文献3】特開2004−105247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の磁気誘導装置では、患者の体内の被誘導体を誘導するのに必要な磁界を発生させるために、ある程度大型で重量が大きい磁界発生部が必要であった。このため、移動が困難であり、広い設置スペースを要するという課題があった。また、製造コストが嵩むという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、移動が容易で、従来に比べて狭いスペースでも設置でき、製造コストを低減することができる磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気誘導装置は、ソレノイドコイルと支持部とを有し、前記支持部は前記ソレノイドコイルを支持して移動可能に設けられ、前記ソレノイドコイルの高さを調整可能に設けられた高さ調整手段と、前記ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整可能に設けられた角度調整手段とを有することを、特徴とする。
【0007】
本発明に係る磁気誘導装置は、ソレノイドコイルが発生する磁界により、磁性体を備え患者の体内に挿入された被誘導体を誘導するのに使用される。支持部がソレノイドコイルを支持して移動可能に設けられているため、ソレノイドコイルの位置を調節することができる。また、高さ調整手段によりソレノイドコイルの高さを、角度調整手段によりソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整することができる。このため、被誘導体に作用させる磁界が適切になるよう、ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度をそれぞれ調節して、被誘導体を任意の方向に容易に誘導することができる。
【0008】
ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度を調節可能であるため、患者を取り囲むようにソレノイドコイルを配置する必要がない。このため、装置全体をコンパクトに小型化することができ、移動が容易である。また、患者を取り囲むようにソレノイドコイルを配置する場合に比べて狭いスペースでも設置することができ、製造コストを低減することもできる。
【0009】
本発明に係る磁気誘導装置は、ソレノイドコイルの内側に、その中心軸方向に伸びる貫通孔を有していることが好ましい。この場合、ソレノイドコイルの貫通孔に患部を挿入するなど、患者の体と干渉しないようソレノイドコイルを配置して、被誘導体を誘導することができる。この構成では、例えば、膝関節の大腿骨内側顆や大腿骨外側顆などで発症する離断性骨軟骨炎を治療するのに適している。すなわち、細胞分裂を促す効果を有する細胞と微小磁性体とを有する被誘導体を、患者の膝に注入し、脚部をソレノイドコイルの貫通孔に挿入して膝を曲げる。その状態で、被誘導体を離断性骨軟骨炎の患部に誘導するよう、ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度を調節して磁界を発生させる。これにより、患部での細胞分裂を促して、離断性骨軟骨炎を治療することができる。
【0010】
本発明に係る磁気誘導装置は、前記ソレノイドコイルの中心軸に対称に、前記ソレノイドコイルの内側に挿入された磁性体を有していてもよい。この場合、磁性体が挿入されていないものに比べ、ソレノイドコイルに同じ大きさの電流を流したとき、強い磁界を発生させることができる。
【0011】
本発明に係る磁気誘導装置で、前記支持部は移動可能に設けられた移動台と、前記移動台の上部に上下方向に延びて設けられたガイドレールとを有し、前記高さ調整手段は、前記移動台の上部に前記ガイドレールに対して平行に設けられたボールネジと、前記移動台の上部に前記ボールネジを回転可能に前記ボールネジの下端部に螺合して設けられたウォームギアと、前記ウォームギアを回転可能に前記ウォームギアに取り付けられたハンドルと、前記ボールネジに螺合して前記ガイドレールに沿って移動可能に設けられたコイル支持体とを有し、前記ソレノイドコイルは前記コイル支持体に取り付けられていることが好ましい。この場合、ハンドルを回すことにより、ウォームギアを介してボールネジを回転させ、コイル支持体とともにソレノイドコイルをガイドレールに沿って上下方向に移動させることができる。これにより、ソレノイドコイルの高さを容易に調節することができる。
【0012】
本発明に係る磁気誘導装置は、ケーシングと冷却部材と真空装置とを有し、前記ソレノイドコイルは超伝導体から成り、前記ケーシングは断熱性および気密性を有し、前記ソレノイドコイルを内部に収納し、前記冷却部材は前記ケーシングの内部で超伝導性を示す温度まで前記ソレノイドコイルを冷却可能であり、前記真空装置は前記ケーシングの内部の真空度を高めるよう設けられ、前記支持部は前記ケーシングを支持して移動可能に設けられていてもよい。この場合、ケーシングが断熱性および気密性を有し、真空装置によりケーシングの内部の真空度を高めることができるため、冷却部材による冷却効率が良い。このため、ケーシングの内部でソレノイドコイルが超伝導性を示す温度まで、ソレノイドコイルを効率的に冷却することができる。ソレノイドコイルが冷却されるため、ソレノイドコイルの線材の絶縁被覆が発熱により劣化するのを防ぐことができ、ソレノイドコイルの寿命を延ばすことができる。また、線材の絶縁被覆が発熱により劣化しないため、ソレノイドコイルに大きな電流を流すことができ、より強い磁界を発生させることができる。
【0013】
本発明に係る磁性複合体の誘導システムは、磁性複合体と本発明に係る磁気誘導装置とを有し、前記磁性複合体は体内有効物質と微小磁性体とを含み、前記磁気誘導装置は、前記ソレノイドコイルの発生する磁界が前記微小磁性体に作用して前記磁性複合体を誘導可能に構成されていることを、特徴とする。
【0014】
本発明に係る磁性複合体の誘導システムは、磁性複合体を患者の体内に注入し、磁気誘導装置のソレノイドコイルが発生する磁界を微小磁性体に作用させて、磁性複合体を患部に誘導することができる。磁性複合体が体内有効物質を含んでいるため、その体内有効物質により患部を体の中から治療することができる。体内有効物質は、例えば、細胞分裂を促す細胞や、サイトカイン(生理活性物質)、骨セメント、抗ガン剤などから成り、患部に対する治療効果を有するものであればいかなるものでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、移動が容易で、従来に比べて狭いスペースでも設置でき、製造コストを低減することができる磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図7は、本発明の第1の実施の形態の磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを示している。
図1および図2に示すように、磁気誘導装置10は、ソレノイドコイル(図示せず)と冷却部材(図示せず)とケーシング11と支持部12とを有している。
【0017】
ソレノイドコイルは、絶縁被覆された銅線を巻いて作成された円板状のコイルを、多段に接続して構成されている。ソレノイドコイルは、電源に接続されて磁界を発生するようになっている。ソレノイドコイルは、ケーシング11の内部に収納されている。
【0018】
冷却部材は、冷却水を通水する冷却パイプと、冷却パイプと接合した銅製の冷却板とを有している。冷却部材は、ソレノイドコイルの各円板状のコイルの間に、冷却パイプと冷却板とが挿入されている。冷却部材は、冷却パイプに冷却水を通水することにより、ソレノイドコイル通電時のコイル抵抗による温度上昇を抑制するよう構成されている。冷却部材は、ケーシング11の内部に収納されている。
【0019】
図1に示すように、ケーシング11は、所定の厚さを有する円盤の中心に貫通孔13を形成した、円環状の外形を有している。ケーシング11は、内部にソレノイドコイルおよび冷却部材を収納している。貫通孔13は、ソレノイドコイルの内側に、その中心軸線方向に伸びるよう形成されている。
【0020】
図1および図2に示すように、支持部12は、ソレノイドコイルを支持して移動可能に設けられ、移動台14とガイドレール15と高さ調整手段16と角度調整手段(図示せず)とを有している。移動台14は、矩形板状で、底部の四隅にキャスター17を有している。ガイドレール15は、細長く互いに平行に配置された1対の側壁18と、各側壁18の一端同士を連結して設けられた天板19と、各側壁18の内側にその長さ方向に沿って設けられた1対のレール20とを有している。ガイドレール15は、移動台14の上面14aの一端に、天板19を上にして各側壁18が上下方向に延びるよう設けられている。ガイドレール15は、各側壁18が移動台14の幅方向に並んで配置されるよう設けられている。ガイドレール15は、各側壁18と天板19と移動台14の上面14aとで取り囲まれ、移動台14の他端側に向いた開口21を有している。
【0021】
高さ調整手段16は、コイル支持体22とボールネジ23とウォームギア24とハンドル25とを有している。コイル支持体22は、ほぼ直方体状で、両端面にガイドレール15の各レール20に嵌合可能な溝22aを有している。コイル支持体22は、両端面の溝22aをそれぞれ各レール20に嵌合させてガイドレール15の各側壁18の間に設けられ、各レール20に沿って移動可能になっている。コイル支持体22は、両端面の溝22aの中間位置に、ガイドレール15の高さ方向に沿った雌ネジの螺合孔22bを有している。コイル支持体22は、ガイドレール15の開口21側の側面22cにケーシング11の外周面の一部が取り付けられ、ソレノイドコイルおよびケーシング11とともに移動可能になっている。
【0022】
ボールネジ23は、コイル支持体22の螺合孔22bの雌ネジに螺合する雄ネジが形成されている。ボールネジ23は、コイル支持体22の螺合孔22bに螺合されて、ガイドレール15の高さ方向に平行に、天板19と移動台14の上面14aとに架け渡されて設けられている。ボールネジ23は、ベアリング26を介して天板19と移動台14とに固定され、長さ方向に沿った軸を中心として回転可能になっている。ウォームギア24は、ボールネジ23の下端部に螺合して設けられている。ウォームギア24は、ベアリング27を介して移動台14の上面14aに固定され、その回転によりボールネジ23を回転可能になっている。ハンドル25は、ウォームギア24を回転可能に、ウォームギア24の回転軸の延長上に取り付けられている。ハンドル25は、ガイドレール15の開口21の反対側に設けられている。
【0023】
高さ調整手段16は、ハンドル25を回すことにより、ウォームギア24を介してボールネジ23を回転させ、コイル支持体22とともにソレノイドコイルをガイドレール15に沿って上下方向に移動させるよう構成されている。これにより、高さ調整手段16は、ソレノイドコイルの高さをスムーズに調整可能になっている。
【0024】
角度調整手段は、ケーシング11と高さ調整手段16のコイル支持体22との接続部に設けられている。角度調整手段は、その接続部からケーシング11の方向に、ガイドレール15の高さ方向に対して垂直に延びた軸を中心として、コイル支持体22に対してケーシング11を回転可能になっている。これにより、角度調整手段は、ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整可能になっている。
【0025】
なお、具体的な一例では、ソレノイドコイルは、内径が240mmφ、外径が520mmφ、厚さが220mm、重量がおよそ300kgで、コイル電流60A通電時に、中心軸上のコイル端面から5cm離れたところで約680エルステッドの磁界を発生可能である。角度調整手段は、コイル支持体22に対してケーシング11を100度の角度範囲で回転可能であり、ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を0度から90度まで変更可能である。
【0026】
磁性複合体(図示せず)は、細胞分裂を促す効果を有する細胞と、マグネタイトから成る微小磁性体とから成る。磁性複合体は、磁気誘導装置10のソレノイドコイルの発生する磁界が微小磁性体に作用して、誘導されるようになっている。
【0027】
次に、作用について説明する。
磁気誘導装置10は、ソレノイドコイルが発生する磁界により、患者の体内に挿入された磁性複合体を誘導するのに使用される。支持部12がソレノイドコイルを支持して移動可能に設けられているため、ソレノイドコイルの位置を調節することができる。また、高さ調整手段16によりソレノイドコイルの高さを、角度調整手段によりソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整することができる。このため、磁性複合体に作用させる磁界が適切になるよう、ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度をそれぞれ調節して、磁性複合体を任意の方向に容易に誘導することができる。
【0028】
ソレノイドコイルが発生する磁界により磁性複合体に作用する力は、以下のようにして求めることができる。
まず、図3に、ソレノイドコイルにコイル電流を通電したときに発生する磁界の、ソレノイドコイルの中心軸を含む面での分布を示す。矢印の向きは、磁界のN極からS極またはS極からN極への向きを示しており、コイル電流の方向を反転させることにより反転する。矢印の長さは、磁界の大きさを示している。
【0029】
このとき、磁性体に作用する力Fは、(1)式で与えられる。
【数1】

ここで、Mは磁性体の磁気モーメント、Hは磁界、を示す。
(1)式に示すように、力Fは磁界の位置座標に対する勾配に比例する。
【0030】
図4に、ソレノイドコイルにコイル電流を通電したときに発生する磁界の大きさの勾配の、ソレノイドコイルの中心軸を含む面での分布を示す。矢印の向きは、磁界の大きさの勾配の向きを示しており、コイル電流の向きを変えても変化せず、ソレノイドコイルの方向を向いている。矢印の長さは、磁界の勾配の大きさを示している。
【0031】
図5に、図3で示した磁界の大きさと、図4で示した磁界の大きさの勾配の積の分布を示す。一般に、マグネタイトなどの軟磁性体の磁気モーメントMは、その軟磁性体の磁化が飽和するより小さい磁界Hの領域では、磁界の大きさHとほぼ比例関係にある。このため、力Fは、磁界の大きさと磁界の大きさの勾配の積におよそ比例すると考えられる。
【0032】
磁性複合体の微小磁性体が軟磁性体のマグネタイトから成っているため、ソレノイドコイルが発生する磁界により磁性複合体に作用する力は、図5に示す分布となる。すなわち、磁性複合体に作用する力は、ソレノイドコイルの中心軸付近でほぼ一様にソレノイドコイルの端面に垂直であり、ソレノイドコイルの端面近傍でもっとも強くなっている。
ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度をそれぞれ調節して、磁性複合体に作用する力の向きを誘導する方向に合わせることにより、磁性複合体を容易に誘導することができる。
【0033】
ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度を調節可能であるため、患者を取り囲むようにソレノイドコイルを配置する必要がない。このため、装置全体をコンパクトに小型化することができ、移動が容易である。また、患者を取り囲むようにソレノイドコイルを配置する場合に比べて狭いスペースでも設置することができ、製造コストを低減することもできる。
【0034】
本発明の第1の実施の形態の磁性複合体の誘導システムは、磁性複合体を患者の体内に注入し、磁気誘導装置10が発生する磁界により、患部に磁性複合体を誘導することができる。磁性複合体が細胞分裂を促す効果を有する細胞を含んでいるため、患部を体の中から治療することができる。
【実施例1】
【0035】
本発明の第1の実施の形態の磁性複合体の誘導システムを、膝関節の大腿骨内側顆1や大腿骨外側顆2で発症した離断性骨軟骨炎を治療するのに使用した。図6(a)および(b)に示すように、離断性骨軟骨炎が発症する大腿骨内側顆1および大腿骨外側顆2は、膝を伸ばしたときに、大腿骨3と頚骨4とが向き合う、大腿骨3と頚骨4との隙間の小さいところに位置している。このため、膝を伸ばしたときは、大腿骨3の他の部分の陰になっていて、正面から大腿骨内側顆1および大腿骨外側顆2を直視することができないが、膝を曲げたときは、図6(c)および(d)に示すように、正面から直視することができる。
【0036】
図7に示すように、治療を行うには、まず、細胞分裂を促す効果を有する細胞と微小磁性体とから成る磁性複合体を、患者5の膝6の関節内の関節液に注入する。患者5の脚7をケーシング11の貫通孔13に挿入して膝6を曲げ、その状態で、磁性複合体を離断性骨軟骨炎の患部である大腿骨内側顆1または大腿骨外側顆2に誘導するよう、ソレノイドコイルの位置、高さおよび角度を調節して磁界を発生させる。これにより、患部に磁性複合体を効率よく集積させることができ、患部での細胞分裂を促して、離断性骨軟骨炎を治療することができる。このように、ケーシング11の貫通孔13に患部を挿入して、患者5の体と干渉しないようソレノイドコイルを配置して、磁性複合体を誘導することができる。
なお、ソレノイドコイルにコイル電流を通電して磁界を作用させながら、磁性複合体を、関節内の関節液に注入してもよい。
【0037】
図8および図9は、本発明の第2の実施の形態の磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを示している。
図8に示すように、磁気誘導装置30は、ソレノイドコイル(図示せず)と磁性体(図示せず)と冷却部材(図示せず)とケーシング31と支持部12とを有している。
なお、以下の説明では、本発明の第1の実施の形態と同一の部材には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0038】
磁性体は、円柱状の鉄から成り、ソレノイドコイルの中心軸に対称に、ソレノイドコイルの内側に挿入されている。
図8に示すように、ケーシング31は、径に対して高さが短い円柱状の外形を有している。ケーシング31は、内部にソレノイドコイル、磁性体および冷却部材を収納している。
【0039】
支持部12の高さ調整手段16のコイル支持体32は、基部33と1対の腕部34とを有している。基部33は、細長く、ガイドレール15の高さ方向に対して垂直で、移動台14の幅方向に平行に設けられている。各腕部34は、基部33の両端に、基部33の長さ方向に対して垂直に伸びて設けられている。各腕部34は、同じ方向に伸び、間にケーシング31が取り付けられている。各腕部34は、ケーシング31の中心軸に対して線対称の外周面の二箇所で、ケーシング31を支持するようになっている。
【0040】
支持部12の角度調整手段(図示せず)は、ケーシング31とコイル支持体32の各腕部34との接続部に設けられている。角度調整手段は、各接続部を結ぶ軸を中心として、コイル支持体32に対してケーシング31を回転可能になっている。これにより、角度調整手段は、ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整可能になっている。
【0041】
なお、具体的な一例では、ソレノイドコイルは、外径が400mmφ、厚さが200mm、重量がおよそ240kgで、コイル電流40A通電時に、中心軸上のコイル端面から12cm離れたところで約800エルステッドの磁界を発生可能である。角度調整手段は、コイル支持体32に対してケーシング31を180度の角度範囲で回転可能であり、ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を0度から90度まで変更可能である。
【0042】
次に、作用について説明する。
磁気誘導装置30は、ソレノイドコイルの内側に磁性体が挿入されているため、磁性体が挿入されていないものに比べ、ソレノイドコイルに同じ大きさの電流を流したとき、強い磁界を発生させることができる。
【0043】
磁気誘導装置30では、発生する磁界等が、おおよそ図3乃至図5と同じ分布を示す。磁気誘導装置30は、例えば、図9に示すように、ベッド8に横たわった患者5の膝6に注入された磁性複合体を、ソレノイドコイルが発生する磁界により、膝6の内部の患部に誘導することができる。このように、磁気誘導装置30は、正面から見渡すことができる患部に磁性複合体を誘導する場合などに、好適に使用することができる。
【0044】
図10は、本発明の第3の実施の形態の磁気誘導装置および磁性複合体の誘導システムを示している。
図10に示すように、磁気誘導装置50は、ソレノイドコイル51とケーシング52と冷却部材53と第1支持材54と第2支持材55と真空装置(図示せず)と支持部12とを有している。
なお、以下の説明では、本発明の第1の実施の形態と同一の部材には同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0045】
図10に示すように、ソレノイドコイル51は、超伝導体から成る。ソレノイドコイル51は、例えば、NbTi、NbSn、酸化物系超伝導体から成り、一定温度以下になると電気抵抗がゼロになる。
【0046】
図10に示すように、ケーシング52は、断熱性および気密性を有し、ラジエーションシールド56と、その外側を覆う真空容器57との二重構造から成る。ラジエーションシールド56は、ソレノイドコイル51が発生する電磁波の放射を防ぐため、銅などの熱伝導率の高い材料に、電磁波の反射率が高くなるようニッケルやスズの金属メッキなどの表面処理を施して形成されている。ラジエーションシールド56は、ソレノイドコイル51を覆い、熱輻射による外部からの熱進入を防ぐようになっている。真空容器57は、例えば、非磁性ステンレス、アルミニウム、チタン、FRPなどの材料から成り、内部を真空断熱状態に保持可能になっている。真空容器57は、外周面の一部に、ソレノイドコイル51への電流供給のための端子や、真空引きの引き口が設けられたフランジ部58を有している。
【0047】
図10に示すように、冷却部材53は、冷却モータ59と第1シリンダ部60と第2シリンダ部61とを有している。冷却モータ59は、真空容器57のフランジ部58の外側に設けられている。第1シリンダ部60は、フランジ部58を貫通して、真空容器57の内部で、冷却モータ59とラジエーションシールド56とに架け渡されている。第1シリンダ部60は、ラジエーションシールド56との接続部に、フランジ状の第1ステージ62を有している。第2シリンダ部61は、ラジエーションシールド56の壁を貫通して、ラジエーションシールド56の内部で、第1シリンダ部60の第1ステージ62とソレノイドコイル51とに架け渡されている。第2シリンダ部61は、ソレノイドコイル51との接続部に、フランジ状の第2ステージ63を有している。冷却部材53は、冷却モータ59により第1シリンダ部60および第2シリンダ部61を介してソレノイドコイル51を、超伝導性を示す温度まで冷却可能になっている。なお、第2シリンダ部61に沿って、ソレノイドコイル51に電流を供給するための電流導入端子64が設けられている。電流導入端子64は、高温超電導体から成り、例えば、イットリウム、バリウム、銅、酸素の化合物から成っている。
【0048】
図10に示すように、第1支持材54および第2支持材55は、例えば、非磁性ステンレス、チタン、FRPなどの、機械的強度が強く熱伝導率が小さい材料から成っている。第1支持材54は、ラジエーションシールド56の外壁と真空容器57の内壁との隙間を維持するよう、その隙間に渡して取り付けられている。第2支持材55は、ソレノイドコイル51をラジエーションシールド56の内壁から隔て、ラジエーションシールド56の内部で支持している。
【0049】
真空装置は、真空ポンプから成り、真空容器57に接続されてケーシング52の外部に設けられている。真空装置は、真空容器57の内部の空気を排出して、真空度を高めるよう構成されている。
支持部12の高さ調整手段16のコイル支持体22は、溶接などにより、ケーシング52の真空容器57に強固に取り付けられている。
【0050】
次に、作用について説明する。
磁気誘導装置50では、ソレノイドコイル51により磁界を発生させるとき、真空装置により真空容器57の内部の真空度を高め、冷却部材53によりソレノイドコイル51が超伝導性を示す温度まで冷却する。このとき、ケーシング52が断熱性および気密性を有し、真空装置により真空容器57の内部の真空度を高めるため、冷却部材53による冷却効率が良い。このため、ケーシング52の内部でソレノイドコイル51が超伝導性を示す温度まで、ソレノイドコイル51を効率的に冷却することができる。また、熱伝導率が小さい第2支持材55によりソレノイドコイル51をラジエーションシールド56の内壁から隔てて支持することができるため、さらに冷却効率を高めることができる。第1支持材54により、真空容器57の内部の真空度が高まったとき真空容器57が変形するのを防ぐことができる。
【0051】
ソレノイドコイル51が超伝導性を示す温度まで冷却されるため、ソレノイドコイル51の線材の発熱を防ぐことができ、線材の絶縁被覆が発熱により劣化しないため、ソレノイドコイル51に大きな電流を流すことができ、より強い磁界を発生させることができる。これにより、より広い範囲に短時間で磁気誘導を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第1の実施の形態の磁気誘導装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示す磁気誘導装置の(a)背面図、(b)A−A’線断面図、(c)右側面図である。
【図3】図1に示す磁気誘導装置のソレノイドコイルの中心軸を含む面での、ソレノイドコイルが発生する磁界の大きさの分布を示すベクトル図である。
【図4】図1に示す磁気誘導装置のソレノイドコイルの中心軸を含む面での、ソレノイドコイルが発生する磁界の大きさの勾配の分布を示すベクトル図である。
【図5】図3に示す磁界の大きさと図4に示す磁界の大きさの勾配との積の分布を示すベクトル図である。
【図6】股関節の状態を示す(a)膝を伸ばしたときの正面図、(b)膝を伸ばしたときの側面図、(c)膝を曲げたときの正面図、(d)膝を曲げたときの側面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態の磁性複合体の誘導システムの使用状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態の磁気誘導装置を示す斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態の磁性複合体の誘導システムの使用状態を示す斜視図である。
【図10】本発明の第3の実施の形態の磁気誘導装置の(a)ケーシング付近を示す側面図、(b)B−B’線断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10 磁気誘導装置
11 ケーシング
12 支持部
13 貫通孔
14 移動台
15 ガイドレール
16 高さ調整手段
17 キャスター
18 側壁
19 天板
20 レール
21 開口
22 コイル支持体
23 ボールネジ
24 ウォームギア
25 ハンドル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソレノイドコイルと支持部とを有し、
前記支持部は前記ソレノイドコイルを支持して移動可能に設けられ、前記ソレノイドコイルの高さを調整可能に設けられた高さ調整手段と、前記ソレノイドコイルの中心軸と水平面との成す角度を調整可能に設けられた角度調整手段とを有することを、
特徴とする磁気誘導装置。
【請求項2】
前記ソレノイドコイルの中心軸に対称に、前記ソレノイドコイルの内側に挿入された磁性体を有することを、特徴とする請求項1記載の磁気誘導装置。
【請求項3】
前記支持部は移動可能に設けられた移動台と、前記移動台の上部に上下方向に延びて設けられたガイドレールとを有し、
前記高さ調整手段は、前記移動台の上部に前記ガイドレールに対して平行に設けられたボールネジと、前記移動台の上部に前記ボールネジを回転可能に前記ボールネジの下端部に螺合して設けられたウォームギアと、前記ウォームギアを回転可能に前記ウォームギアに取り付けられたハンドルと、前記ボールネジに螺合して前記ガイドレールに沿って移動可能に設けられたコイル支持体とを有し、
前記ソレノイドコイルは前記コイル支持体に取り付けられていることを、
特徴とする請求項1または2記載の磁気誘導装置。
【請求項4】
ケーシングと冷却部材と真空装置とを有し、
前記ソレノイドコイルは超伝導体から成り、
前記ケーシングは断熱性および気密性を有し、前記ソレノイドコイルを内部に収納し、
前記冷却部材は前記ケーシングの内部で超伝導性を示す温度まで前記ソレノイドコイルを冷却可能であり、
前記真空装置は前記ケーシングの内部の真空度を高めるよう設けられ、
前記支持部は前記ケーシングを支持して移動可能に設けられていることを、
特徴とする請求項1,2または3記載の磁気誘導装置。
【請求項5】
磁性複合体と請求項1,2,3または4記載の磁気誘導装置とを有し、
前記磁性複合体は体内有効物質と微小磁性体とを含み、
前記磁気誘導装置は、前記ソレノイドコイルの発生する磁界が前記微小磁性体に作用して前記磁性複合体を誘導可能に構成されていることを、
特徴とする磁性複合体の誘導システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−151605(P2007−151605A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346911(P2005−346911)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(504224061)
【出願人】(502336117)株式会社玉川製作所 (10)
【Fターム(参考)】