磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法
【課題】切断面の品質を確保し、前記切断面近傍における表面変形を防止することが可能となる磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法を提供する。
【解決手段】回転ステージ76を回転させながらレーザ光源36より被加工物32にレーザ光34を照射して該被加工物32の切断加工を行う際に、照射部分の切断によって前記レーザ光34をセンサ40で検出して検出信号を切断判定処理部42に出力すると、該切断判定処理部42は、前記検出信号より前記照射部分が切断されたものと判定して、切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。前記レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36から前記照射部分に対する前記レーザ光34の照射が停止する。
【解決手段】回転ステージ76を回転させながらレーザ光源36より被加工物32にレーザ光34を照射して該被加工物32の切断加工を行う際に、照射部分の切断によって前記レーザ光34をセンサ40で検出して検出信号を切断判定処理部42に出力すると、該切断判定処理部42は、前記検出信号より前記照射部分が切断されたものと判定して、切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。前記レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36から前記照射部分に対する前記レーザ光34の照射が停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより磁気転写用マスター担体を形成するレーザ切断加工システム及び加工方法であって、より詳細には、磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への各種信号の磁気転写に好適な磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、デジタル画像情報の利用により、パーソナルコンピュータ等で取り扱う情報量が飛躍的に増大しており、前記情報の記録及び再生のために大容量、安価且つ短時間でアクセス可能な磁気記録媒体が望まれている。このような磁気記録媒体としては、ハードディスク等の磁気記録媒体やリムーバブル型の高密度磁気記録媒体があり、これらの磁気記録媒体は、フレキシブルディスクと比較して、情報記録領域である各トラックのトラック幅が小さい。従って、前記磁気記録媒体では、情報の記録及び再生を行う際にトラッキングサーボ技術を利用して磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の半径方向に沿って所望位置にまで正確に走査すると共に、前記情報の記録及び再生に必要なトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等が、高い位置決め精度で前記磁気記録媒体の円周方向に沿って所定角度間隔で予め記憶(プリフォーマット)されている必要がある。
【0003】
前記プリフォーマットでは、上記した各信号を磁気記録媒体の1トラック毎に記録する方法があるが、この方法では、記録の完了までに長時間を要するので、プリフォーマットすべき前記各信号が予め記憶されたマスター担体よりスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、前記磁気転写されたスレーブ媒体を前記磁気記録媒体とする方法が一般的に採られている。この場合、前記マスター担体と前記スレーブ媒体とを密着した状態で転写磁界を印加することにより、該マスター担体における前記各信号の磁気パターンが前記スレーブ媒体に磁気的に転写される。
【0004】
このようなマスター担体は、先ず、鋳型となる原盤に金属(例えば、ニッケル)を電鋳し、前記電鋳された金属板を前記スレーブ媒体のサイズに合わせてレーザ切断加工を施すことにより形成される。この場合、レーザ出力の大きな切断加工装置を用いて一回のレーザ光照射で前記マスター担体の切断加工を行うと、前記レーザ光によって過度のエネルギーが切断部分に供給されて、前記エネルギーによる発熱でソリやバリ等の表面変形が発生する。この結果、前記プリフォーマットにおいて、前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性を確保することができないという問題が露呈する。また、切断加工時に発生する溶融痕が切断面に付着して、該切断面の品質を確保することができないという問題もある。
【0005】
一方、上記した一回のレーザ光照射による切断加工に起因する問題点を改善するために、レーザ出力を十分に低減した状態で、被加工物に対するレーザ光の照射部分を移動させながら該レーザ光を繰り返し照射して切断加工を行う特許文献1に記載の技術や、被加工物に対するレーザ光の移動回数や走査速度を予め設定し、前記設定された移動回数及び走査速度に基づいて切断加工を行う特許文献2に記載の技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特公平2−16195号公報
【特許文献2】特開平9−66376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、被加工物の切断加工が完了するまでレーザ光の照射部分を移動させながら前記被加工物に対して前記レーザ光を繰り返し照射するので、前記照射部分の一部で局部的に切断が完了していても切断完了部分に前記レーザ光が照射されることになる。これにより、前記切断完了部分に過度のエネルギー供給が行われて、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生する。
【0008】
一方、特許文献2の技術では、予め設定された移動回数及び走査速度に基づいて切断加工を行う技術であり、レーザ出力の変動や切断加工中に発生する被加工物の温度変化等の加工条件の変化に対応することができない。また、レーザ出力を低減するとレーザ光の出力変動割合が相対的に大きくなるので、最適なレーザ切断加工条件を維持することができず、切断面の品質を一定に保つことができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、切断面の品質を確保すると共に、前記切断面近傍における表面変形を防止することが可能となる磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムにおいて、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行うレーザ光照射手段と、前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光を検出し検出結果を検出信号として出力するレーザ光検出手段と、前記検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたものと判定し判定結果を切断停止信号として出力する切断判定手段と、前記レーザ光の照射を開始させると共に前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させるレーザ光照射制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して該照射部分に対する切断加工を行い、前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光をレーザ光検出手段で検出して検出結果を検出信号として切断判定手段に出力し、前記切断判定手段により前記入力された検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を切断停止信号としてレーザ光照射制御手段に出力し、前記レーザ光照射制御手段により前記入力された切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させることを特徴とする。
【0012】
上記した構成によれば、前記レーザ光検出手段で前記レーザ光を検出して前記検出信号を前記切断判定手段に出力し、該切断判定手段は、前記検出信号より前記照射部分が切断されたものと判定して前記切断停止信号を前記レーザ光照射制御手段に出力し、前記レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおける前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、前記マスター担体より前記スレーブ媒体に転写すべき信号を確実に磁気転写することができる。
【0013】
また、前記照射部分が切断されるまで前記レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に対して前記レーザ光を繰り返し照射すれば、前記レーザ光の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0014】
さらに、前記レーザ光照射制御手段に前記切断停止信号が入力されると、前記照射部分に対する前記レーザ光の照射が停止するので、レーザ光照射手段より前記レーザ光に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、該レーザ光照射手段の消費電力を低減して、前記被加工物の切断コストを削減することができる。
【0015】
ここで、本発明は、前記被加工物の前記一面側と直交する方向を中心に該被加工物を回転させる被加工物回転機構をさらに有することが好ましい。これにより、前記被加工物から前記マスター担体を効率よく切断加工することができる。
【0016】
また、前記被加工物回転機構は、前記被加工物を固定保持する被加工物固定手段と、該被加工物固定手段を前記直交方向を中心に回転させる回転駆動手段と、該回転駆動手段による前記被加工物固定手段の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として前記切断判定手段に出力する回転角度検出手段とを有することが好ましい。
【0017】
これにより、前記切断判定手段は、切断加工が完了した部分と前記回転角度とを精度よく対応付け、前記レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいて前記切断加工が完了した部分(前記回転角度)における次回以降の前記レーザ光の照射をスキップさせるように前記レーザ光照射手段を制御する。この結果、前記マスター担体の切断加工をより高精度に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法によれば、レーザ光検出手段でレーザ光を検出して検出信号を切断判定手段に出力し、該切断判定手段は、前記検出信号より被加工物における前記レーザ光の照射部分が切断されたものと判定して切断停止信号をレーザ光照射制御手段に出力し、該レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおける前記マスター担体とスレーブ媒体との密着性が向上し、前記マスター担体より前記スレーブ媒体に転写すべき信号を確実に磁気転写することができる。
【0019】
また、前記照射部分が切断されるまで前記レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に対して前記レーザ光を繰り返し照射すれば、前記レーザ光の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0020】
さらに、前記レーザ光照射制御手段に前記切断停止信号が入力された際に、前記レーザ光照射手段から前記照射部分に対する前記レーザ光の照射が停止するので、レーザ光照射手段より前記レーザ光に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、該レーザ光照射手段の消費電力を低減して、前記被加工物の切断コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムについて、それを実施する方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工システムにより形成された磁気転写用マスター担体(以下、マスター担体ともいう。)10の平面図であり、図2は、前記マスター担体10の一面側とスレーブ媒体12とを重畳させた状態を示す一部拡大断面図である。また、図3Aは、前記スレーブ媒体12に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、前記マスター担体10と前記スレーブ媒体12とを重畳させて転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、プリフォーマット後の前記スレーブ媒体12内の前記初期磁界及び前記転写磁界を示す一部拡大断面図である。
【0023】
マスター担体10は、図1及び図2に示すように、ニッケル又はニッケルを含む合金材料からなる円環状のディスクであり、その一面側に円環状の転写領域14と該転写領域14の外方及び内方の非転写領域16とが各々形成されている。この場合、前記転写領域14には、複数の溝18が同心円状に形成されている。前記各溝18によって形成される前記転写領域14の凹凸パターンは、スレーブ媒体12に転写すべき信号(トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等)に対応したパターンとされている。
【0024】
一方、スレーブ媒体12は、磁性体からなるディスクであり、このようなディスクとしては、例えば、剛性の磁性体からなるハードディスク用の磁気記録媒体や、可撓性の磁性体からなるリムーバブル型の高密度磁気記録媒体や、フレキシブルディスク用の高密度磁気記録媒体がある。
【0025】
マスター担体10よりスレーブ媒体12に前記信号を磁気転写(プリフォーマット)する場合には、先ず、図3Aに示すように、前記スレーブ媒体12の半径方向(トラック方向)に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記マスター担体10の一面側と前記スレーブ媒体12とを密接させた状態で、該スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が各溝18を回避するように通過し、この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化されるので、前記凹凸パターンに対応する前記各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0026】
次に、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30について、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0027】
レーザ切断加工システム30は、マスター担体10(図1〜図3C参照)が切り出されるニッケル又はニッケル合金からなる板状の被加工物32の一面側(図4及び図5に示す上面側)にレーザ光34を照射して照射部分の切断加工を行うレーザ光源(レーザ光照射手段)36と、前記被加工物32を回転可能な被加工物回転機構38と、前記被加工物32の他面側(底面側)に配置され且つ前記レーザ光34を検出し、検出結果を検出信号として出力するセンサ(レーザ光検出手段)40と、前記検出信号の入力に基づいて前記被加工物32の照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を前記照射部分での切断加工を停止するための切断停止信号として出力する切断判定処理部(切断判定手段)42と、前記切断停止信号の入力に基づいて前記レーザ光源36から前記照射部分に対するレーザ光34の照射を停止させるレーザ発振制御部(レーザ光照射制御手段)44とを有する。
【0028】
なお、被加工物32の一面側(上面側)には、前記した凹凸パターンが形成され、前記被加工物32を該凹凸パターンを含んで円環状に切り出すことにより、マスター担体10(図1及び図2参照)が得られる。
【0029】
レーザ光源36は、所定波長を有するレーザ光34を所定時間間隔で生成するレーザ本体46と、該レーザ本体46に連結され前記レーザ光34を被加工物32の一面側に間欠的に照射するレーザヘッド48とから構成されるパルス発振レーザである。前記所定波長としては、被加工物32を構成する材料にとって吸収効率の良い波長を選択することが好ましく、例えば、ニッケル又はニッケル合金に対して1064[nm]、532[nm]又は355[nm]の波長とすると好適である。
【0030】
レーザ発振制御部44は、レーザ光源36を駆動するためのパルス電源であり、該レーザ発振制御部44からレーザ本体46に所定時間間隔でパルス電圧を供給すると、該レーザ本体46は、前記パルス電圧のパルス幅の時間内において所定波長のレーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記被加工物32に対して前記生成されたレーザ光34を前記時間内にのみ照射する。
【0031】
この場合、レーザ発振制御部44は、被加工物回転機構38によって被加工物32が1回転する間に、前記レーザ光34が前記被加工物32に対して所定の回転角度間隔(例えば、1′毎)で1回づつ照射されるように、レーザ発振制御部44からレーザ本体46にパルス電圧を供給する。すなわち、前記被加工物32の回転数と前記被加工物32の照射部分に対する前記レーザ光34の照射回数とは対応することになる。
【0032】
これにより、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射部分では、該レーザ光34が間欠的に照射され、従って、時間経過と共に前記照射部分におけるニッケル又はニッケル合金が切断されて、切断加工位置が底面側に変位する。そのため、前記レーザヘッド48は、前記レーザ光34の焦点位置が前記切断加工位置と常時一致するように、前記被加工物32表面に対して進退自在な図示しない位置合わせ機構を備えている。このような位置合わせ機構としては、例えば、前記レーザ光34が通過する集光レンズの位置を前記被加工物32表面に対して進退させる機構のほか、前記レーザヘッド48自体が前記被加工物32表面に対して進退する機構でよい。
【0033】
また、被加工物32表面とレーザ光34の光軸とのなす角度は、前記レーザ光34がP偏光である場合には、ブリュースター角を含めて30°〜60°とすることが好ましい。また、前記レーザ光34がS偏光、ランダム偏光又は不定波偏光である場合には、被加工物32表面と直交するように前記レーザ光34を照射することが好ましい。上述した各照射条件であれば、前記被加工物32表面での反射率を小さくして切断加工時のエネルギー効率を向上することができる。
【0034】
レーザ本体46は、テーブル50上に配置されたレーザ光源移動機構52により、該レーザ光源36の長手方向と直交する方向(図4の左右方向)に移動可能である。すなわち、前記レーザ光源移動機構52は、前記テーブル50上に配置されたステージ54と、該ステージ54上で前記直交方向に沿って並設されたガイドレール56、58と、該レーザ本体46を支持し且つ前記ガイドレール56、58に配置された支持部材60、62を介して前記直交方向に摺動可能なスライドテーブル64と、前記ステージ54上に配置されたモータ68と、前記モータ68に軸着され且つガイドレール56、58間で前記直交方向に沿って延在するスクリューロッド70と、前記モータ68と共働して前記スクリューロッド70を回動自在に軸支する支持部材72とを有する。
【0035】
この場合、スクリューロッド70は、スライドテーブル64よりステージ54側に延在する係合部材74と係合しており、モータ68を駆動して前記スクリューロッド70をその軸線を中心に回転させると、前記係合部材74、スライドテーブル64及びレーザ光源36は、ガイドレール56、58の案内作用下に前記直交方向に変位可能である。
【0036】
被加工物回転機構38は、被加工物32を配置する円環状の回転ステージ(被加工物固定手段)76と、モータ(回転駆動手段)78と、該モータ78の回転角度を検出するロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)80とを有し、前記回転ステージ76は、円環状の回転スライドリング82を介してテーブル84上に配置されている。そして、回転ステージ76上には、前記被加工物32を固定する4つのクランパ92が、90°毎に配置されている。また、前記モータ78の回転軸86に軸支されたプーリ88と前記回転ステージ76とにベルト90が懸架されている。
【0037】
これにより、モータ78を駆動すると、ベルト90を介して回転ステージ76及び被加工物32が所定方向に回転し、この状態でレーザヘッド48から前記被加工物32表面の所定位置にレーザ光34が間欠的に照射される。すなわち、前記被加工物32が1回転する毎に所定の回転角度間隔で前記レーザ光34が照射されるので、この結果、前記被加工物32の各照射部分が切断されて円状の溝93が形成される。この場合、前記被加工物32における前記溝93内方は図示しない吸着機構によって吸着されているので、前記溝93の内方が前記被加工物32より切り抜かれても落下することはない。
【0038】
また、ロータリーエンコーダ80は、モータ78の回転角度、換言すれば、回転ステージ76の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。
【0039】
さらに、テーブル50における回転ステージ76側の側部には、ガイドレール56、58に沿ってガイドレール94が取着され、該ガイドレール94の案内作用下に摺動自在な支持部材96を介して、被加工物32下方にセンサ40が配設されている。この場合、前記支持部材96の基端部分96aは、前記ガイドレール94より被加工物32に沿って延在し且つ連結部材98を介してスライドテーブル64に連結され、一方で、前記基端部分96aより略L字状の先端部分96bがテーブル50から離間する方向に延在している。そして、前記先端部分96bにおいて、前記センサ40は、その受光面がレーザ光34の略直下となるように配置されている。
【0040】
この結果、支持部材60、62を介してスライドテーブル64をガイドレール56、58の案内作用下に摺動すると、支持部材96及びセンサ40は、ガイドレール94の案内作用下に、連結部材98を介して前記スライドテーブル64と一体的に摺動する。また、被加工物32の照射部分が切断されてレーザ光34が前記センサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、検出結果を検出信号としてアンプ99に出力する。前記アンプ99は、前記検出信号を増幅して切断判定処理部42に出力する。
【0041】
切断判定処理部42は、図示しないメモリを有し、該メモリのデータ格納領域にロータリーエンコーダ80(図4及び図5参照)から入力された回転角度信号の示すモータ78(回転ステージ76)の回転角度に関するデータを格納すると共に、センサ40からアンプ99を介して入力された信号をセンサ出力として前記データ格納領域に格納する。また、切断判定処理部42は、レーザ光源36から被加工物32に対するレーザ光34の照射開始のタイミングと、回転ステージ76による被加工物32の回転開始のタイミングとが同期するように、レーザ発振制御部44及びモータ78に対する駆動制御を行う。
【0042】
図6は、前記データ格納領域に前記回転角度及び前記センサ出力を格納した状態を示す表である。
【0043】
ここで、0°00´の回転角度は、レーザ発振制御部44(図4参照)からレーザ光源36に通電してレーザヘッド48より被加工物32に対してレーザ光34が最初に照射された箇所における回転角度である。切断判定処理部42では、ロータリーエンコーダ80より回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力が入力されたときに、前記データ格納領域内の前記回転角度に対応するセンサ出力の格納箇所に前記入力されたセンサ出力を格納する。また、前記切断判定処理部42では、回転ステージ76が0°00´の回転角度から1回転するまでの各回転角度(0°00´〜359°59´)におけるレーザ光34の照射回数を1回分と設定し、前記データ格納領域内には、前記レーザ光34を最初に照射した回転角度(0°00´)を基準としたときの前記回転ステージ76(前記被加工物32)の回転数が前記レーザ光34の照射回数として格納されている。すなわち、レーザ光源36は、前記被加工物32が1回転する毎に前記各回転角度に対して前記レーザ光34を照射するので、前記被加工物32の回転数を前記レーザ光34の照射回数としても構わない。
【0044】
ここで、図6において、例えば、ロータリーエンコーダ80より0°01´の回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力(0.0[mV])が入力された際に、切断判定処理部42は、レーザ光34の照射開始より回転ステージ76が1回転していないのであれば、前記センサ出力が第1回目のレーザ光34の照射で且つ前記回転角度におけるセンサ出力であると判定し、前記判定されたセンサ出力(0.0[mV])をレーザ光34の照射回数(1)及び回転角度(0°01´)に対応するセンサ出力の格納箇所に格納する。
【0045】
さらに、切断判定処理部42は、センサ40よりアンプ99を介して前記検出信号が入力された際に、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が所定の閾値(例えば、2.0[mV])を越えているか否かを判定する。ここで、前記センサ出力が前記閾値を越えている場合、前記切断判定処理部42は、前記センサ出力に対応する回転角度において被加工物32が局部的に切断されたものと判断し、前記センサ出力に対応する回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。すなわち、図6において、レーザ光34の照射回数が85回におけるセンサ出力が7.1[mV]のときの回転角度(185°31′)が切断部分であり、切断判定処理部42は、次回以降(86回以降)のレーザ光照射の際に、前記回転角度に対してレーザ光照射を行わずにスキップするように、前記回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0046】
レーザ発振制御部44は、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記切断停止信号の示す回転角度において次回以降はレーザ光照射をスキップする。
【0047】
本実施形態に係るレーザ切断加工システム30は、以上のように構成されるものであり、次に、レーザ切断加工システム30の作用効果について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0048】
図7は、マスター担体10の形成と、前記形成されたマスター担体10よりスレーブ媒体12に磁気転写を行う一連の工程を示すフローチャートである。
【0049】
先ず、複数の溝が同心円状に形成された凹凸パターンを有する原盤より被加工物32を形成する(ステップS1)。この場合、前記原盤の凹凸パターンに対してニッケル又はニッケル合金を電鋳した後に、該電鋳部分を剥離することにより前記凹凸パターン(溝18)を有する被加工物32が形成される。
【0050】
次いで、スレーブ媒体12の寸法に合わせて、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により被加工物32から円環状のマスター担体10を切り出す(ステップS2)。
【0051】
この場合、先ず、前記凹凸パターンがレーザ光源36側となるように被加工物32を回転ステージ76に載置し、前記載置された被加工物32をクランパ92で前記回転ステージ76に固定する。この場合、前記各溝18と回転ステージ76とが略同心となるように前記被加工物32を前記回転ステージ76に固定する。
【0052】
次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ68を駆動してスクリューロッド70を回転させ、ガイドレール56、58、94の案内作用下にスライドテーブル64上に配置されたレーザ光源36及び支持部材96上に配置されたセンサ40を所定加工位置にまで変位させる。
【0053】
レーザ光源36及びセンサ40が前記所定加工位置にまで移動した場合、モータ68の駆動を停止し、次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ78を駆動して回転軸86を回転し、プーリ88及びベルト90を介して回転ステージ76を所定方向に回転させる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42からの制御によりレーザ光源36に所定時間毎にパルス電圧を供給する。この結果、レーザ本体46は、レーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記レーザ本体46dで生成した前記レーザ光34を下方に向かって前記レーザ光34を間欠的に照射する。なお、前記切断判定処理部42は、前記回転ステージ76の回転開始のタイミングと、前記レーザ光34の照射開始のタイミングとが同期するように、前記モータ78及び前記レーザ発振制御部44を制御する。
【0054】
回転ステージ76による被加工物32の回転と該被加工物32に対するレーザ光34の照射とによって、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射箇所では、該レーザ光34が間欠的に照射されることになると共に、前記被加工物32表面には円形の溝93が形成され、所定角度における前記レーザ光34の照射回数の増加に伴って、前記溝93における切断加工位置も前記被加工物32の底面側に移動する。
【0055】
ここで、モータ78(回転ステージ76)の回転角度は、ロータリーエンコーダ80で検出され、該ロータリーエンコーダ80は、前記検出した回転角度を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。また、センサ40は、アンプ99を介して切断判定処理部42に信号を出力する。
【0056】
切断判定処理部42では、前記入力された信号の示すセンサ出力を前記入力された回転角度信号の示す回転角度に対応するセンサ出力としてデータ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、レーザ光34が被加工物32の他面側にまで到達していなければ、前記センサ出力は前記閾値以下であり、従って、切断判定処理部42は、前記回転角度における前記被加工物32の切断が完了していないものと判断する。
【0057】
次いで、溝93の一部が切断され、レーザ光34が切断部分を介してセンサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、前記検出したレーザ光34に対応するセンサ出力を検出信号としてアンプ99を介して切断判定処理部42に出力する。前記切断判定処理部42では、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、前記センサ出力が前記閾値を越えていれば、前記切断判定処理部42は、前記回転角度における被加工物32の切断が完了したものと判断し、次回以降のレーザ光34の照射では前記回転角度についてスキップするように、該回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0058】
これについて、図6を参照しながら具体的に説明すると、切断判定処理部42(図4参照)は、所定の閾値(例えば、2.0[mV])を越えるセンサ出力が前記データ格納領域に格納されたときに前記センサ出力に対応する回転角度での切断加工が完了したものと判定する。
【0059】
すなわち、前記切断判定処理部42は、所定の回転角度(例えば、185°31′)において前記閾値以下のセンサ出力(0.0[mV]、0.1[mV]及び1.2[mV])が前記データ格納領域に格納された場合、レーザ切断加工が完了していないものと判定する。
【0060】
次いで、切断判定処理部42は、前記閾値を越えるセンサ出力(7.1[mV])が前記データ格納領域に格納された場合、前記センサ出力に対応する前記回転角度(185°31′)での切断加工が完了したものと判定し、現在のレーザ光34の照射回数が85回であることから、次回(86回)以降では、前記回転角度に対するレーザ光34の照射を停止するように、前記回転角度を示す切断停止信号を前記レーザ発振制御部44に出力する。
【0061】
レーザ発振制御部44では、入力された切断停止信号に基づいて、前記回転角度(185°31′)においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記回転角度(185°31′)では前記レーザ光34の生成を停止する。従って、前記レーザ光34の照射回数が86回目以降の前記回転角度(185°31′)において、レーザヘッド48からのレーザ光34の照射がないので、センサ40は前記レーザ光34を検出することができず、前記データ格納領域には、0.0[V]のセンサ出力が格納される。このようにして、溝93の各部分において切断加工が順次完了すると、次回以降は、レーザ光34の照射がスキップされる。
【0062】
そして、溝93の全ての部分で切断が完了して、被加工物32より円盤が切り出され、各検出信号に対応する回転角度が前記データ格納領域に格納されると、切断判定処理部42は、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号を出力する一方で、モータ78に対する駆動停止の制御も行う。この結果、レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光源36の駆動を停止する。また、モータ78の駆動停止により回転ステージ76の回転も停止する。なお、マスター担体10は、図1に示すように、円環状のディスクであるので、レーザ切断加工システム30では、被加工物32に対する1回目の切断加工を行った後に、レーザ光源移動機構52によってレーザ照射位置が1回目の切断加工箇所よりも外方となるようにレーザ光源36を移動させて2回目の切断加工を行う。これにより、前記被加工物32より前記マスター担体10が切り出される。
【0063】
図8Aは、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により切り出されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大断面図であり、図8B及び図8Cは、従来技術に係るレーザ切断加工装置を用いて切断加工されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大断面図である。なお、図8Bは、レーザ光の照射回数が少ない場合又はレーザ光のエネルギーが小さい場合であり、マスター担体10の底面側は非切断領域である。また、図8Cは、レーザ光の照射回数が多すぎる場合又はレーザ光のエネルギーが大きすぎる場合である。
【0064】
図8Aでは、マスター担体10の両面側にバリやソリ等の表面変形が発生していないと共に、切断面に溶融痕が付着していない。これは、従来技術に係るレーザ切断加工システムと比較して、レーザ光34の強度が低く、さらに、切断加工が完了した部分よりレーザ光34の照射を順次停止するので、被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されるためである。
【0065】
これに対して、図8Bでは、レーザ光の照射回数が少ないか、あるいは、レーザ光のエネルギーが小さいので、照射面側でのバリやソリ等の表面変形は発生しないが、切断加工に必要なエネルギーが被加工物32に対して十分に供給されていないので該被加工物32を完全に切断することはできない。
【0066】
また、図8Cでは、レーザ光の照射回数が多いか、あるいは、レーザ光のエネルギーが大きすぎるので、被加工物32の切断が可能であっても、該被加工物32に対して過度のエネルギー供給が行われ、この結果、前記被加工物32の両面側でバリやソリ等の表面変形が発生したり、切断面において溶融痕が付着する。
【0067】
次いで、図7のステップS3では、ステップS2で被加工物32(図4及び図5参照)より切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12への磁気転写を行う(図1〜図3C参照)。
【0068】
この場合、先ず、図3Aに示すように、スレーブ媒体12の半径方向に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記スレーブ媒体12と、凹凸パターン(転写領域14)が形成されたマスター担体10の一面側とを密接させた状態で、前記スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を、該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が溝18を回避するように通過する。この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化される。この結果、前記凹凸パターンに対応する各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0069】
次いで、マスター担体10(図1及び図2参照)に記録されたトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等の各信号が、マスター担体10よりスレーブ媒体12に確実に磁気転写されたか否かを検査する(ステップS4)。
【0070】
この検査では、前記スレーブ媒体12の半径方向に沿って外方より内方に向かって、あるいは内方より外方に向かって検査用磁気ヘッドを該スレーブ媒体12上方で走査し、前記検査用磁気ヘッドから出力された走査結果を示す信号をA/D変換してパーソナルコンピュータに取り込む。
【0071】
この場合、前記走査は、スレーブ媒体12の全面にわたって行われ、前記パーソナルコンピュータは、前記スレーブ媒体12全面における走査結果を再生出力信号としてマッピングし、前記再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下であれば、マスター担体10からスレーブ媒体12に前記各信号(転写信号)が確実に転写されたものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が良好であるものと判定する。
【0072】
一方、前記70%以下の箇所が、スレーブ媒体12全体の0.5%を越えると、マスター担体10から前記スレーブ媒体12に前記転写信号が良好に転写されていないものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が不良であると判定する。
【0073】
図9は、磁気転写の評価結果を示す表であり、実施例1及び実施例2は、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)によって被加工物32から切り出されたマスター担体10(図1及び図2参照)を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果であり、比較例1及び比較例2は、従来技術に係るレーザ切断加工システムによって被加工物32から切り出されたマスター担体10を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果である。
【0074】
実施例1及び実施例2では、前記70%以下の箇所の割合がいずれも0.5%以下であり、前記転写信号の品位が良好である。これは、レーザ切断加工システム30において、切断判定処理部42よりレーザ発振制御部44に切断停止信号を出力して、レーザ光34の照射に対するフィードバックを行ったことによるものである。
【0075】
すなわち、被加工物32の切断加工に際して、前記被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されてバリやソリ等の表面変形の発生が抑制されると、ステップS3(図7参照)において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上するので、確実に磁気転写が行われる。
【0076】
これに対して、比較例1及び比較例2では、前記70%以下の箇所の割合がいずれも0.5%を越え、前記転写信号の品位が不良である。従来技術に係るレーザ切断加工システムでは、単に、レーザ光を被加工物32に繰り返し照射するだけであるので、前記被加工物32に対して過度にエネルギーが供給されてバリやソリ等の表面変形が発生し、この結果、ステップS3において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が低下するためである。
【0077】
このように、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30及び加工方法によれば、センサ40でレーザ光34を検出して所定の検出信号を切断判定処理部42に出力すると、該切断判定処理部42は、前記検出信号より被加工物32における前記レーザ光34の照射部分が切断されたものと判定して切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力し、前記レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号よりレーザ光源36から前記照射部分に対する前記レーザ光34の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光34が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおけるマスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上し、前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写信号を確実に磁気転写することができる。
【0078】
また、前記照射部分が切断されるまでレーザ光源36から被加工物32の一面側に対してレーザ光34を繰り返し照射すれば、前記レーザ光34の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0079】
さらに、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号が入力されると、前記照射部分に対するレーザ光34の照射が停止するので、前記レーザ光源36より前記レーザ光34に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、前記レーザ光源36の消費電力を低減して、被加工物32の切断コストを削減することができる。
【0080】
また、切断判定処理部42よりレーザ発振制御部44に前記切断停止信号をフィードバックすることにより、前記切断加工が完了した部分(回転角度)では、レーザ光34の照射がスキップされるので、被加工物32よりマスター担体10を効率よく切断加工することができる。
【0081】
さらに、ロータリーエンコーダ80は、切断判定処理部42に回転角度信号を出力し、前記切断判定処理部42は、前記入力された回転角度信号に対応する回転角度を前記メモリ内の前記データ格納領域に格納することにより、切断加工が完了した箇所と前記回転角度とを精度よく対応付けることができる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42から入力される切断停止信号に基づいて切断加工が完了した部分(前記回転角度)における次回以降のレーザ光34の照射をスキップするように前記レーザ光源36を制御する。この結果、マスター担体10の切断加工をより高精度に行うことが可能となる。
【0082】
本実施形態に係るレーザ切断加工システム30では、図10に示すように、レーザ光源36の代わりに被加工物32に対してレーザ光34aを照射して小径部分97aを切り出すレーザ光源36aと、前記被加工物32に対してレーザ光34bを照射して前記小径部分97aと同心の大径部分97bを切り出すレーザ光源36bとをレーザ光源移動機構52に配置し、前記各レーザ光源36a、36bに対応して被加工物32の底面側にセンサ40a、40bを配置してもよい。
【0083】
この場合、レーザ光源移動機構52において、モータ68a及びスクリューロッド60aによって前記レーザ光源36a及びセンサ40aをガイドレール56a、58a、94aの案内作用下に変位させ、一方で、モータ68b及びスクリューロッド60bによって前記レーザ光源36b及びセンサ40bをガイドレール56b、58b、94bの案内作用下に変位させる。これにより、前記小径部分97aと前記大径部分97bとの切断加工を同時に行うことで、前記切り出された大径部分97bをマスター担体10とするために必要とされる切断時間を短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】マスター担体の平面図である。
【図2】マスター担体とスレーブ担体とを重畳した状態における図1のII−II線に沿った一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、スレーブ媒体に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、マスター担体及び前記スレーブ媒体に転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、スレーブ媒体に対する磁気転写が完了した状態を示す一部拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るレーザ切断加工システムの平面図である。
【図5】図4のレーザ切断加工システムの側面図である。
【図6】図4の切断判定処理部におけるデータ格納領域に回転角度、センサ出力及びレーザ光の照射回数を格納した状態を示す表である。
【図7】被加工物よりマスター担体を形成し、前記形成されたマスター担体からスレーブ媒体に磁気転写を行う一連の処理を示すフローチャートである。
【図8】図8Aは、図4及び図5のレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図であり、図8B及び図8Cは、従来技術に係るレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図である。
【図9】マスター担体よりスレーブ媒体に対する磁気転写の評価結果を示す表である。
【図10】2つのレーザ光源及び2つのセンサを配置したレーザ切断加工システムの平面図である。
【符号の説明】
【0085】
10…マスター担体 12…スレーブ媒体
30…レーザ切断加工システム 32…被加工物
34…レーザ光 36…レーザ光源
38…被加工物回転機構 40…センサ
42…切断判定処理部 44…レーザ発振制御部
52…レーザ光源移動機構 76…回転ステージ
78…モータ 80…ロータリーエンコーダ
90…ベルト 92…クランパ
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより磁気転写用マスター担体を形成するレーザ切断加工システム及び加工方法であって、より詳細には、磁気記録再生装置用の磁気記録媒体への各種信号の磁気転写に好適な磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、デジタル画像情報の利用により、パーソナルコンピュータ等で取り扱う情報量が飛躍的に増大しており、前記情報の記録及び再生のために大容量、安価且つ短時間でアクセス可能な磁気記録媒体が望まれている。このような磁気記録媒体としては、ハードディスク等の磁気記録媒体やリムーバブル型の高密度磁気記録媒体があり、これらの磁気記録媒体は、フレキシブルディスクと比較して、情報記録領域である各トラックのトラック幅が小さい。従って、前記磁気記録媒体では、情報の記録及び再生を行う際にトラッキングサーボ技術を利用して磁気ヘッドを前記磁気記録媒体の半径方向に沿って所望位置にまで正確に走査すると共に、前記情報の記録及び再生に必要なトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等が、高い位置決め精度で前記磁気記録媒体の円周方向に沿って所定角度間隔で予め記憶(プリフォーマット)されている必要がある。
【0003】
前記プリフォーマットでは、上記した各信号を磁気記録媒体の1トラック毎に記録する方法があるが、この方法では、記録の完了までに長時間を要するので、プリフォーマットすべき前記各信号が予め記憶されたマスター担体よりスレーブ媒体に対して磁気転写を行い、前記磁気転写されたスレーブ媒体を前記磁気記録媒体とする方法が一般的に採られている。この場合、前記マスター担体と前記スレーブ媒体とを密着した状態で転写磁界を印加することにより、該マスター担体における前記各信号の磁気パターンが前記スレーブ媒体に磁気的に転写される。
【0004】
このようなマスター担体は、先ず、鋳型となる原盤に金属(例えば、ニッケル)を電鋳し、前記電鋳された金属板を前記スレーブ媒体のサイズに合わせてレーザ切断加工を施すことにより形成される。この場合、レーザ出力の大きな切断加工装置を用いて一回のレーザ光照射で前記マスター担体の切断加工を行うと、前記レーザ光によって過度のエネルギーが切断部分に供給されて、前記エネルギーによる発熱でソリやバリ等の表面変形が発生する。この結果、前記プリフォーマットにおいて、前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性を確保することができないという問題が露呈する。また、切断加工時に発生する溶融痕が切断面に付着して、該切断面の品質を確保することができないという問題もある。
【0005】
一方、上記した一回のレーザ光照射による切断加工に起因する問題点を改善するために、レーザ出力を十分に低減した状態で、被加工物に対するレーザ光の照射部分を移動させながら該レーザ光を繰り返し照射して切断加工を行う特許文献1に記載の技術や、被加工物に対するレーザ光の移動回数や走査速度を予め設定し、前記設定された移動回数及び走査速度に基づいて切断加工を行う特許文献2に記載の技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0006】
【特許文献1】特公平2−16195号公報
【特許文献2】特開平9−66376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、被加工物の切断加工が完了するまでレーザ光の照射部分を移動させながら前記被加工物に対して前記レーザ光を繰り返し照射するので、前記照射部分の一部で局部的に切断が完了していても切断完了部分に前記レーザ光が照射されることになる。これにより、前記切断完了部分に過度のエネルギー供給が行われて、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形が発生する。
【0008】
一方、特許文献2の技術では、予め設定された移動回数及び走査速度に基づいて切断加工を行う技術であり、レーザ出力の変動や切断加工中に発生する被加工物の温度変化等の加工条件の変化に対応することができない。また、レーザ出力を低減するとレーザ光の出力変動割合が相対的に大きくなるので、最適なレーザ切断加工条件を維持することができず、切断面の品質を一定に保つことができないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、切断面の品質を確保すると共に、前記切断面近傍における表面変形を防止することが可能となる磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムにおいて、前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行うレーザ光照射手段と、前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光を検出し検出結果を検出信号として出力するレーザ光検出手段と、前記検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたものと判定し判定結果を切断停止信号として出力する切断判定手段と、前記レーザ光の照射を開始させると共に前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させるレーザ光照射制御手段とを有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して該照射部分に対する切断加工を行い、前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光をレーザ光検出手段で検出して検出結果を検出信号として切断判定手段に出力し、前記切断判定手段により前記入力された検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を切断停止信号としてレーザ光照射制御手段に出力し、前記レーザ光照射制御手段により前記入力された切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させることを特徴とする。
【0012】
上記した構成によれば、前記レーザ光検出手段で前記レーザ光を検出して前記検出信号を前記切断判定手段に出力し、該切断判定手段は、前記検出信号より前記照射部分が切断されたものと判定して前記切断停止信号を前記レーザ光照射制御手段に出力し、前記レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおける前記マスター担体と前記スレーブ媒体との密着性が向上し、前記マスター担体より前記スレーブ媒体に転写すべき信号を確実に磁気転写することができる。
【0013】
また、前記照射部分が切断されるまで前記レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に対して前記レーザ光を繰り返し照射すれば、前記レーザ光の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0014】
さらに、前記レーザ光照射制御手段に前記切断停止信号が入力されると、前記照射部分に対する前記レーザ光の照射が停止するので、レーザ光照射手段より前記レーザ光に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、該レーザ光照射手段の消費電力を低減して、前記被加工物の切断コストを削減することができる。
【0015】
ここで、本発明は、前記被加工物の前記一面側と直交する方向を中心に該被加工物を回転させる被加工物回転機構をさらに有することが好ましい。これにより、前記被加工物から前記マスター担体を効率よく切断加工することができる。
【0016】
また、前記被加工物回転機構は、前記被加工物を固定保持する被加工物固定手段と、該被加工物固定手段を前記直交方向を中心に回転させる回転駆動手段と、該回転駆動手段による前記被加工物固定手段の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として前記切断判定手段に出力する回転角度検出手段とを有することが好ましい。
【0017】
これにより、前記切断判定手段は、切断加工が完了した部分と前記回転角度とを精度よく対応付け、前記レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいて前記切断加工が完了した部分(前記回転角度)における次回以降の前記レーザ光の照射をスキップさせるように前記レーザ光照射手段を制御する。この結果、前記マスター担体の切断加工をより高精度に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム及び加工方法によれば、レーザ光検出手段でレーザ光を検出して検出信号を切断判定手段に出力し、該切断判定手段は、前記検出信号より被加工物における前記レーザ光の照射部分が切断されたものと判定して切断停止信号をレーザ光照射制御手段に出力し、該レーザ光照射制御手段は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおける前記マスター担体とスレーブ媒体との密着性が向上し、前記マスター担体より前記スレーブ媒体に転写すべき信号を確実に磁気転写することができる。
【0019】
また、前記照射部分が切断されるまで前記レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に対して前記レーザ光を繰り返し照射すれば、前記レーザ光の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0020】
さらに、前記レーザ光照射制御手段に前記切断停止信号が入力された際に、前記レーザ光照射手段から前記照射部分に対する前記レーザ光の照射が停止するので、レーザ光照射手段より前記レーザ光に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、該レーザ光照射手段の消費電力を低減して、前記被加工物の切断コストを削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明に係る磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムについて、それを実施する方法との関係で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0022】
図1は、本実施形態に係るレーザ切断加工システムにより形成された磁気転写用マスター担体(以下、マスター担体ともいう。)10の平面図であり、図2は、前記マスター担体10の一面側とスレーブ媒体12とを重畳させた状態を示す一部拡大断面図である。また、図3Aは、前記スレーブ媒体12に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、前記マスター担体10と前記スレーブ媒体12とを重畳させて転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、プリフォーマット後の前記スレーブ媒体12内の前記初期磁界及び前記転写磁界を示す一部拡大断面図である。
【0023】
マスター担体10は、図1及び図2に示すように、ニッケル又はニッケルを含む合金材料からなる円環状のディスクであり、その一面側に円環状の転写領域14と該転写領域14の外方及び内方の非転写領域16とが各々形成されている。この場合、前記転写領域14には、複数の溝18が同心円状に形成されている。前記各溝18によって形成される前記転写領域14の凹凸パターンは、スレーブ媒体12に転写すべき信号(トラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等)に対応したパターンとされている。
【0024】
一方、スレーブ媒体12は、磁性体からなるディスクであり、このようなディスクとしては、例えば、剛性の磁性体からなるハードディスク用の磁気記録媒体や、可撓性の磁性体からなるリムーバブル型の高密度磁気記録媒体や、フレキシブルディスク用の高密度磁気記録媒体がある。
【0025】
マスター担体10よりスレーブ媒体12に前記信号を磁気転写(プリフォーマット)する場合には、先ず、図3Aに示すように、前記スレーブ媒体12の半径方向(トラック方向)に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記マスター担体10の一面側と前記スレーブ媒体12とを密接させた状態で、該スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が各溝18を回避するように通過し、この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化されるので、前記凹凸パターンに対応する前記各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0026】
次に、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30について、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0027】
レーザ切断加工システム30は、マスター担体10(図1〜図3C参照)が切り出されるニッケル又はニッケル合金からなる板状の被加工物32の一面側(図4及び図5に示す上面側)にレーザ光34を照射して照射部分の切断加工を行うレーザ光源(レーザ光照射手段)36と、前記被加工物32を回転可能な被加工物回転機構38と、前記被加工物32の他面側(底面側)に配置され且つ前記レーザ光34を検出し、検出結果を検出信号として出力するセンサ(レーザ光検出手段)40と、前記検出信号の入力に基づいて前記被加工物32の照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を前記照射部分での切断加工を停止するための切断停止信号として出力する切断判定処理部(切断判定手段)42と、前記切断停止信号の入力に基づいて前記レーザ光源36から前記照射部分に対するレーザ光34の照射を停止させるレーザ発振制御部(レーザ光照射制御手段)44とを有する。
【0028】
なお、被加工物32の一面側(上面側)には、前記した凹凸パターンが形成され、前記被加工物32を該凹凸パターンを含んで円環状に切り出すことにより、マスター担体10(図1及び図2参照)が得られる。
【0029】
レーザ光源36は、所定波長を有するレーザ光34を所定時間間隔で生成するレーザ本体46と、該レーザ本体46に連結され前記レーザ光34を被加工物32の一面側に間欠的に照射するレーザヘッド48とから構成されるパルス発振レーザである。前記所定波長としては、被加工物32を構成する材料にとって吸収効率の良い波長を選択することが好ましく、例えば、ニッケル又はニッケル合金に対して1064[nm]、532[nm]又は355[nm]の波長とすると好適である。
【0030】
レーザ発振制御部44は、レーザ光源36を駆動するためのパルス電源であり、該レーザ発振制御部44からレーザ本体46に所定時間間隔でパルス電圧を供給すると、該レーザ本体46は、前記パルス電圧のパルス幅の時間内において所定波長のレーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記被加工物32に対して前記生成されたレーザ光34を前記時間内にのみ照射する。
【0031】
この場合、レーザ発振制御部44は、被加工物回転機構38によって被加工物32が1回転する間に、前記レーザ光34が前記被加工物32に対して所定の回転角度間隔(例えば、1′毎)で1回づつ照射されるように、レーザ発振制御部44からレーザ本体46にパルス電圧を供給する。すなわち、前記被加工物32の回転数と前記被加工物32の照射部分に対する前記レーザ光34の照射回数とは対応することになる。
【0032】
これにより、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射部分では、該レーザ光34が間欠的に照射され、従って、時間経過と共に前記照射部分におけるニッケル又はニッケル合金が切断されて、切断加工位置が底面側に変位する。そのため、前記レーザヘッド48は、前記レーザ光34の焦点位置が前記切断加工位置と常時一致するように、前記被加工物32表面に対して進退自在な図示しない位置合わせ機構を備えている。このような位置合わせ機構としては、例えば、前記レーザ光34が通過する集光レンズの位置を前記被加工物32表面に対して進退させる機構のほか、前記レーザヘッド48自体が前記被加工物32表面に対して進退する機構でよい。
【0033】
また、被加工物32表面とレーザ光34の光軸とのなす角度は、前記レーザ光34がP偏光である場合には、ブリュースター角を含めて30°〜60°とすることが好ましい。また、前記レーザ光34がS偏光、ランダム偏光又は不定波偏光である場合には、被加工物32表面と直交するように前記レーザ光34を照射することが好ましい。上述した各照射条件であれば、前記被加工物32表面での反射率を小さくして切断加工時のエネルギー効率を向上することができる。
【0034】
レーザ本体46は、テーブル50上に配置されたレーザ光源移動機構52により、該レーザ光源36の長手方向と直交する方向(図4の左右方向)に移動可能である。すなわち、前記レーザ光源移動機構52は、前記テーブル50上に配置されたステージ54と、該ステージ54上で前記直交方向に沿って並設されたガイドレール56、58と、該レーザ本体46を支持し且つ前記ガイドレール56、58に配置された支持部材60、62を介して前記直交方向に摺動可能なスライドテーブル64と、前記ステージ54上に配置されたモータ68と、前記モータ68に軸着され且つガイドレール56、58間で前記直交方向に沿って延在するスクリューロッド70と、前記モータ68と共働して前記スクリューロッド70を回動自在に軸支する支持部材72とを有する。
【0035】
この場合、スクリューロッド70は、スライドテーブル64よりステージ54側に延在する係合部材74と係合しており、モータ68を駆動して前記スクリューロッド70をその軸線を中心に回転させると、前記係合部材74、スライドテーブル64及びレーザ光源36は、ガイドレール56、58の案内作用下に前記直交方向に変位可能である。
【0036】
被加工物回転機構38は、被加工物32を配置する円環状の回転ステージ(被加工物固定手段)76と、モータ(回転駆動手段)78と、該モータ78の回転角度を検出するロータリーエンコーダ(回転角度検出手段)80とを有し、前記回転ステージ76は、円環状の回転スライドリング82を介してテーブル84上に配置されている。そして、回転ステージ76上には、前記被加工物32を固定する4つのクランパ92が、90°毎に配置されている。また、前記モータ78の回転軸86に軸支されたプーリ88と前記回転ステージ76とにベルト90が懸架されている。
【0037】
これにより、モータ78を駆動すると、ベルト90を介して回転ステージ76及び被加工物32が所定方向に回転し、この状態でレーザヘッド48から前記被加工物32表面の所定位置にレーザ光34が間欠的に照射される。すなわち、前記被加工物32が1回転する毎に所定の回転角度間隔で前記レーザ光34が照射されるので、この結果、前記被加工物32の各照射部分が切断されて円状の溝93が形成される。この場合、前記被加工物32における前記溝93内方は図示しない吸着機構によって吸着されているので、前記溝93の内方が前記被加工物32より切り抜かれても落下することはない。
【0038】
また、ロータリーエンコーダ80は、モータ78の回転角度、換言すれば、回転ステージ76の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。
【0039】
さらに、テーブル50における回転ステージ76側の側部には、ガイドレール56、58に沿ってガイドレール94が取着され、該ガイドレール94の案内作用下に摺動自在な支持部材96を介して、被加工物32下方にセンサ40が配設されている。この場合、前記支持部材96の基端部分96aは、前記ガイドレール94より被加工物32に沿って延在し且つ連結部材98を介してスライドテーブル64に連結され、一方で、前記基端部分96aより略L字状の先端部分96bがテーブル50から離間する方向に延在している。そして、前記先端部分96bにおいて、前記センサ40は、その受光面がレーザ光34の略直下となるように配置されている。
【0040】
この結果、支持部材60、62を介してスライドテーブル64をガイドレール56、58の案内作用下に摺動すると、支持部材96及びセンサ40は、ガイドレール94の案内作用下に、連結部材98を介して前記スライドテーブル64と一体的に摺動する。また、被加工物32の照射部分が切断されてレーザ光34が前記センサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、検出結果を検出信号としてアンプ99に出力する。前記アンプ99は、前記検出信号を増幅して切断判定処理部42に出力する。
【0041】
切断判定処理部42は、図示しないメモリを有し、該メモリのデータ格納領域にロータリーエンコーダ80(図4及び図5参照)から入力された回転角度信号の示すモータ78(回転ステージ76)の回転角度に関するデータを格納すると共に、センサ40からアンプ99を介して入力された信号をセンサ出力として前記データ格納領域に格納する。また、切断判定処理部42は、レーザ光源36から被加工物32に対するレーザ光34の照射開始のタイミングと、回転ステージ76による被加工物32の回転開始のタイミングとが同期するように、レーザ発振制御部44及びモータ78に対する駆動制御を行う。
【0042】
図6は、前記データ格納領域に前記回転角度及び前記センサ出力を格納した状態を示す表である。
【0043】
ここで、0°00´の回転角度は、レーザ発振制御部44(図4参照)からレーザ光源36に通電してレーザヘッド48より被加工物32に対してレーザ光34が最初に照射された箇所における回転角度である。切断判定処理部42では、ロータリーエンコーダ80より回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力が入力されたときに、前記データ格納領域内の前記回転角度に対応するセンサ出力の格納箇所に前記入力されたセンサ出力を格納する。また、前記切断判定処理部42では、回転ステージ76が0°00´の回転角度から1回転するまでの各回転角度(0°00´〜359°59´)におけるレーザ光34の照射回数を1回分と設定し、前記データ格納領域内には、前記レーザ光34を最初に照射した回転角度(0°00´)を基準としたときの前記回転ステージ76(前記被加工物32)の回転数が前記レーザ光34の照射回数として格納されている。すなわち、レーザ光源36は、前記被加工物32が1回転する毎に前記各回転角度に対して前記レーザ光34を照射するので、前記被加工物32の回転数を前記レーザ光34の照射回数としても構わない。
【0044】
ここで、図6において、例えば、ロータリーエンコーダ80より0°01´の回転角度が入力され、且つセンサ40からアンプ99を介して所定のセンサ出力(0.0[mV])が入力された際に、切断判定処理部42は、レーザ光34の照射開始より回転ステージ76が1回転していないのであれば、前記センサ出力が第1回目のレーザ光34の照射で且つ前記回転角度におけるセンサ出力であると判定し、前記判定されたセンサ出力(0.0[mV])をレーザ光34の照射回数(1)及び回転角度(0°01´)に対応するセンサ出力の格納箇所に格納する。
【0045】
さらに、切断判定処理部42は、センサ40よりアンプ99を介して前記検出信号が入力された際に、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が所定の閾値(例えば、2.0[mV])を越えているか否かを判定する。ここで、前記センサ出力が前記閾値を越えている場合、前記切断判定処理部42は、前記センサ出力に対応する回転角度において被加工物32が局部的に切断されたものと判断し、前記センサ出力に対応する回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。すなわち、図6において、レーザ光34の照射回数が85回におけるセンサ出力が7.1[mV]のときの回転角度(185°31′)が切断部分であり、切断判定処理部42は、次回以降(86回以降)のレーザ光照射の際に、前記回転角度に対してレーザ光照射を行わずにスキップするように、前記回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0046】
レーザ発振制御部44は、前記回転角度においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記切断停止信号の示す回転角度において次回以降はレーザ光照射をスキップする。
【0047】
本実施形態に係るレーザ切断加工システム30は、以上のように構成されるものであり、次に、レーザ切断加工システム30の作用効果について、図1〜図9を参照しながら説明する。
【0048】
図7は、マスター担体10の形成と、前記形成されたマスター担体10よりスレーブ媒体12に磁気転写を行う一連の工程を示すフローチャートである。
【0049】
先ず、複数の溝が同心円状に形成された凹凸パターンを有する原盤より被加工物32を形成する(ステップS1)。この場合、前記原盤の凹凸パターンに対してニッケル又はニッケル合金を電鋳した後に、該電鋳部分を剥離することにより前記凹凸パターン(溝18)を有する被加工物32が形成される。
【0050】
次いで、スレーブ媒体12の寸法に合わせて、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により被加工物32から円環状のマスター担体10を切り出す(ステップS2)。
【0051】
この場合、先ず、前記凹凸パターンがレーザ光源36側となるように被加工物32を回転ステージ76に載置し、前記載置された被加工物32をクランパ92で前記回転ステージ76に固定する。この場合、前記各溝18と回転ステージ76とが略同心となるように前記被加工物32を前記回転ステージ76に固定する。
【0052】
次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ68を駆動してスクリューロッド70を回転させ、ガイドレール56、58、94の案内作用下にスライドテーブル64上に配置されたレーザ光源36及び支持部材96上に配置されたセンサ40を所定加工位置にまで変位させる。
【0053】
レーザ光源36及びセンサ40が前記所定加工位置にまで移動した場合、モータ68の駆動を停止し、次いで、切断判定処理部42からの制御によってモータ78を駆動して回転軸86を回転し、プーリ88及びベルト90を介して回転ステージ76を所定方向に回転させる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42からの制御によりレーザ光源36に所定時間毎にパルス電圧を供給する。この結果、レーザ本体46は、レーザ光34を生成し、レーザヘッド48は、前記レーザ本体46dで生成した前記レーザ光34を下方に向かって前記レーザ光34を間欠的に照射する。なお、前記切断判定処理部42は、前記回転ステージ76の回転開始のタイミングと、前記レーザ光34の照射開始のタイミングとが同期するように、前記モータ78及び前記レーザ発振制御部44を制御する。
【0054】
回転ステージ76による被加工物32の回転と該被加工物32に対するレーザ光34の照射とによって、前記被加工物32における前記レーザ光34の照射箇所では、該レーザ光34が間欠的に照射されることになると共に、前記被加工物32表面には円形の溝93が形成され、所定角度における前記レーザ光34の照射回数の増加に伴って、前記溝93における切断加工位置も前記被加工物32の底面側に移動する。
【0055】
ここで、モータ78(回転ステージ76)の回転角度は、ロータリーエンコーダ80で検出され、該ロータリーエンコーダ80は、前記検出した回転角度を回転角度信号として切断判定処理部42に出力する。また、センサ40は、アンプ99を介して切断判定処理部42に信号を出力する。
【0056】
切断判定処理部42では、前記入力された信号の示すセンサ出力を前記入力された回転角度信号の示す回転角度に対応するセンサ出力としてデータ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、レーザ光34が被加工物32の他面側にまで到達していなければ、前記センサ出力は前記閾値以下であり、従って、切断判定処理部42は、前記回転角度における前記被加工物32の切断が完了していないものと判断する。
【0057】
次いで、溝93の一部が切断され、レーザ光34が切断部分を介してセンサ40に到達すると、該センサ40は、前記到達したレーザ光34を検出し、前記検出したレーザ光34に対応するセンサ出力を検出信号としてアンプ99を介して切断判定処理部42に出力する。前記切断判定処理部42では、前記検出信号の示すセンサ出力を前記データ格納領域に格納すると共に、前記センサ出力が前記閾値を越えているか否かを判定する。この場合、前記センサ出力が前記閾値を越えていれば、前記切断判定処理部42は、前記回転角度における被加工物32の切断が完了したものと判断し、次回以降のレーザ光34の照射では前記回転角度についてスキップするように、該回転角度を示す切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力する。
【0058】
これについて、図6を参照しながら具体的に説明すると、切断判定処理部42(図4参照)は、所定の閾値(例えば、2.0[mV])を越えるセンサ出力が前記データ格納領域に格納されたときに前記センサ出力に対応する回転角度での切断加工が完了したものと判定する。
【0059】
すなわち、前記切断判定処理部42は、所定の回転角度(例えば、185°31′)において前記閾値以下のセンサ出力(0.0[mV]、0.1[mV]及び1.2[mV])が前記データ格納領域に格納された場合、レーザ切断加工が完了していないものと判定する。
【0060】
次いで、切断判定処理部42は、前記閾値を越えるセンサ出力(7.1[mV])が前記データ格納領域に格納された場合、前記センサ出力に対応する前記回転角度(185°31′)での切断加工が完了したものと判定し、現在のレーザ光34の照射回数が85回であることから、次回(86回)以降では、前記回転角度に対するレーザ光34の照射を停止するように、前記回転角度を示す切断停止信号を前記レーザ発振制御部44に出力する。
【0061】
レーザ発振制御部44では、入力された切断停止信号に基づいて、前記回転角度(185°31′)においてレーザ光源36に対するパルス電圧の供給を停止し、この結果、前記レーザ光源36は、前記回転角度(185°31′)では前記レーザ光34の生成を停止する。従って、前記レーザ光34の照射回数が86回目以降の前記回転角度(185°31′)において、レーザヘッド48からのレーザ光34の照射がないので、センサ40は前記レーザ光34を検出することができず、前記データ格納領域には、0.0[V]のセンサ出力が格納される。このようにして、溝93の各部分において切断加工が順次完了すると、次回以降は、レーザ光34の照射がスキップされる。
【0062】
そして、溝93の全ての部分で切断が完了して、被加工物32より円盤が切り出され、各検出信号に対応する回転角度が前記データ格納領域に格納されると、切断判定処理部42は、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号を出力する一方で、モータ78に対する駆動停止の制御も行う。この結果、レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号に基づいてレーザ光源36の駆動を停止する。また、モータ78の駆動停止により回転ステージ76の回転も停止する。なお、マスター担体10は、図1に示すように、円環状のディスクであるので、レーザ切断加工システム30では、被加工物32に対する1回目の切断加工を行った後に、レーザ光源移動機構52によってレーザ照射位置が1回目の切断加工箇所よりも外方となるようにレーザ光源36を移動させて2回目の切断加工を行う。これにより、前記被加工物32より前記マスター担体10が切り出される。
【0063】
図8Aは、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)により切り出されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大断面図であり、図8B及び図8Cは、従来技術に係るレーザ切断加工装置を用いて切断加工されたマスター担体10の切断面を示す一部拡大断面図である。なお、図8Bは、レーザ光の照射回数が少ない場合又はレーザ光のエネルギーが小さい場合であり、マスター担体10の底面側は非切断領域である。また、図8Cは、レーザ光の照射回数が多すぎる場合又はレーザ光のエネルギーが大きすぎる場合である。
【0064】
図8Aでは、マスター担体10の両面側にバリやソリ等の表面変形が発生していないと共に、切断面に溶融痕が付着していない。これは、従来技術に係るレーザ切断加工システムと比較して、レーザ光34の強度が低く、さらに、切断加工が完了した部分よりレーザ光34の照射を順次停止するので、被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されるためである。
【0065】
これに対して、図8Bでは、レーザ光の照射回数が少ないか、あるいは、レーザ光のエネルギーが小さいので、照射面側でのバリやソリ等の表面変形は発生しないが、切断加工に必要なエネルギーが被加工物32に対して十分に供給されていないので該被加工物32を完全に切断することはできない。
【0066】
また、図8Cでは、レーザ光の照射回数が多いか、あるいは、レーザ光のエネルギーが大きすぎるので、被加工物32の切断が可能であっても、該被加工物32に対して過度のエネルギー供給が行われ、この結果、前記被加工物32の両面側でバリやソリ等の表面変形が発生したり、切断面において溶融痕が付着する。
【0067】
次いで、図7のステップS3では、ステップS2で被加工物32(図4及び図5参照)より切り出されたマスター担体10からスレーブ媒体12への磁気転写を行う(図1〜図3C参照)。
【0068】
この場合、先ず、図3Aに示すように、スレーブ媒体12の半径方向に初期磁界を印加して該スレーブ媒体12内を磁化させる。次いで、図3Bに示すように、前記スレーブ媒体12と、凹凸パターン(転写領域14)が形成されたマスター担体10の一面側とを密接させた状態で、前記スレーブ媒体12の前記初期磁界の保磁力に対して2倍の磁界強度を有する転写磁界を、該初期磁界と反対方向に印加する。これにより、前記マスター担体10及び前記スレーブ媒体12内において、前記転写磁界が溝18を回避するように通過する。この結果、図3Cに示すように、前記スレーブ媒体12は、前記溝18と対向する部分が前記転写磁界で磁化され、一方で、前記マスター担体10との密着部分が前記初期磁界で磁化される。この結果、前記凹凸パターンに対応する各信号が前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写される。
【0069】
次いで、マスター担体10(図1及び図2参照)に記録されたトラッキング用サーボ信号、アドレス情報信号及び再生クロック信号等の各信号が、マスター担体10よりスレーブ媒体12に確実に磁気転写されたか否かを検査する(ステップS4)。
【0070】
この検査では、前記スレーブ媒体12の半径方向に沿って外方より内方に向かって、あるいは内方より外方に向かって検査用磁気ヘッドを該スレーブ媒体12上方で走査し、前記検査用磁気ヘッドから出力された走査結果を示す信号をA/D変換してパーソナルコンピュータに取り込む。
【0071】
この場合、前記走査は、スレーブ媒体12の全面にわたって行われ、前記パーソナルコンピュータは、前記スレーブ媒体12全面における走査結果を再生出力信号としてマッピングし、前記再生出力信号のレベルの全体平均値に対して70%以下の箇所が、前記スレーブ媒体12全体の0.5%以下であれば、マスター担体10からスレーブ媒体12に前記各信号(転写信号)が確実に転写されたものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が良好であるものと判定する。
【0072】
一方、前記70%以下の箇所が、スレーブ媒体12全体の0.5%を越えると、マスター担体10から前記スレーブ媒体12に前記転写信号が良好に転写されていないものと判断して、前記スレーブ媒体12における転写信号の品位が不良であると判定する。
【0073】
図9は、磁気転写の評価結果を示す表であり、実施例1及び実施例2は、レーザ切断加工システム30(図4及び図5参照)によって被加工物32から切り出されたマスター担体10(図1及び図2参照)を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果であり、比較例1及び比較例2は、従来技術に係るレーザ切断加工システムによって被加工物32から切り出されたマスター担体10を用いてスレーブ媒体12に磁気転写を行った場合の評価結果である。
【0074】
実施例1及び実施例2では、前記70%以下の箇所の割合がいずれも0.5%以下であり、前記転写信号の品位が良好である。これは、レーザ切断加工システム30において、切断判定処理部42よりレーザ発振制御部44に切断停止信号を出力して、レーザ光34の照射に対するフィードバックを行ったことによるものである。
【0075】
すなわち、被加工物32の切断加工に際して、前記被加工物32に対する過度のエネルギー供給が防止されてバリやソリ等の表面変形の発生が抑制されると、ステップS3(図7参照)において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上するので、確実に磁気転写が行われる。
【0076】
これに対して、比較例1及び比較例2では、前記70%以下の箇所の割合がいずれも0.5%を越え、前記転写信号の品位が不良である。従来技術に係るレーザ切断加工システムでは、単に、レーザ光を被加工物32に繰り返し照射するだけであるので、前記被加工物32に対して過度にエネルギーが供給されてバリやソリ等の表面変形が発生し、この結果、ステップS3において、マスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が低下するためである。
【0077】
このように、本実施形態に係るレーザ切断加工システム30及び加工方法によれば、センサ40でレーザ光34を検出して所定の検出信号を切断判定処理部42に出力すると、該切断判定処理部42は、前記検出信号より被加工物32における前記レーザ光34の照射部分が切断されたものと判定して切断停止信号をレーザ発振制御部44に出力し、前記レーザ発振制御部44は、前記切断停止信号よりレーザ光源36から前記照射部分に対する前記レーザ光34の照射を停止させる。この結果、前記照射部分の切断後に前記レーザ光34が照射されることはないので、前記照射部分に対する過度のエネルギー供給が防止され、切断面近傍におけるソリやバリ等の表面変形の発生を防止することが可能となると共に、前記切断面における溶融痕の発生を抑制することができる。これにより、プリフォーマットにおけるマスター担体10とスレーブ媒体12との密着性が向上し、前記マスター担体10より前記スレーブ媒体12に転写信号を確実に磁気転写することができる。
【0078】
また、前記照射部分が切断されるまでレーザ光源36から被加工物32の一面側に対してレーザ光34を繰り返し照射すれば、前記レーザ光34の出力を低減して、システム全体を低コストで構築することが可能となる。
【0079】
さらに、レーザ発振制御部44に前記切断停止信号が入力されると、前記照射部分に対するレーザ光34の照射が停止するので、前記レーザ光源36より前記レーザ光34に対する無駄なエネルギー供給が防止され、この結果、前記レーザ光源36の消費電力を低減して、被加工物32の切断コストを削減することができる。
【0080】
また、切断判定処理部42よりレーザ発振制御部44に前記切断停止信号をフィードバックすることにより、前記切断加工が完了した部分(回転角度)では、レーザ光34の照射がスキップされるので、被加工物32よりマスター担体10を効率よく切断加工することができる。
【0081】
さらに、ロータリーエンコーダ80は、切断判定処理部42に回転角度信号を出力し、前記切断判定処理部42は、前記入力された回転角度信号に対応する回転角度を前記メモリ内の前記データ格納領域に格納することにより、切断加工が完了した箇所と前記回転角度とを精度よく対応付けることができる。また、レーザ発振制御部44は、前記切断判定処理部42から入力される切断停止信号に基づいて切断加工が完了した部分(前記回転角度)における次回以降のレーザ光34の照射をスキップするように前記レーザ光源36を制御する。この結果、マスター担体10の切断加工をより高精度に行うことが可能となる。
【0082】
本実施形態に係るレーザ切断加工システム30では、図10に示すように、レーザ光源36の代わりに被加工物32に対してレーザ光34aを照射して小径部分97aを切り出すレーザ光源36aと、前記被加工物32に対してレーザ光34bを照射して前記小径部分97aと同心の大径部分97bを切り出すレーザ光源36bとをレーザ光源移動機構52に配置し、前記各レーザ光源36a、36bに対応して被加工物32の底面側にセンサ40a、40bを配置してもよい。
【0083】
この場合、レーザ光源移動機構52において、モータ68a及びスクリューロッド60aによって前記レーザ光源36a及びセンサ40aをガイドレール56a、58a、94aの案内作用下に変位させ、一方で、モータ68b及びスクリューロッド60bによって前記レーザ光源36b及びセンサ40bをガイドレール56b、58b、94bの案内作用下に変位させる。これにより、前記小径部分97aと前記大径部分97bとの切断加工を同時に行うことで、前記切り出された大径部分97bをマスター担体10とするために必要とされる切断時間を短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】マスター担体の平面図である。
【図2】マスター担体とスレーブ担体とを重畳した状態における図1のII−II線に沿った一部拡大断面図である。
【図3】図3Aは、スレーブ媒体に初期磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Bは、マスター担体及び前記スレーブ媒体に転写磁界を印加した状態を示す一部拡大断面図であり、図3Cは、スレーブ媒体に対する磁気転写が完了した状態を示す一部拡大断面図である。
【図4】本実施形態に係るレーザ切断加工システムの平面図である。
【図5】図4のレーザ切断加工システムの側面図である。
【図6】図4の切断判定処理部におけるデータ格納領域に回転角度、センサ出力及びレーザ光の照射回数を格納した状態を示す表である。
【図7】被加工物よりマスター担体を形成し、前記形成されたマスター担体からスレーブ媒体に磁気転写を行う一連の処理を示すフローチャートである。
【図8】図8Aは、図4及び図5のレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図であり、図8B及び図8Cは、従来技術に係るレーザ切断加工システムにおいて被加工物から切り出されたマスター担体の切断面を示す断面図である。
【図9】マスター担体よりスレーブ媒体に対する磁気転写の評価結果を示す表である。
【図10】2つのレーザ光源及び2つのセンサを配置したレーザ切断加工システムの平面図である。
【符号の説明】
【0085】
10…マスター担体 12…スレーブ媒体
30…レーザ切断加工システム 32…被加工物
34…レーザ光 36…レーザ光源
38…被加工物回転機構 40…センサ
42…切断判定処理部 44…レーザ発振制御部
52…レーザ光源移動機構 76…回転ステージ
78…モータ 80…ロータリーエンコーダ
90…ベルト 92…クランパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行うレーザ光照射手段と、
前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光を検出し、検出結果を検出信号として出力するレーザ光検出手段と、
前記検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたものと判定し、判定結果を切断停止信号として出力する切断判定手段と、
前記レーザ光の照射を開始させると共に、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させるレーザ光照射制御手段と、
を有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物の前記一面側と直交する方向を中心に該被加工物を回転させる被加工物回転機構をさらに有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項3】
請求項2記載のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物回転機構は、前記被加工物を固定保持する被加工物固定手段と、該被加工物固定手段を前記直交方向を中心に回転させる回転駆動手段と、該回転駆動手段による前記被加工物固定手段の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として前記切断判定手段に出力する回転角度検出手段とを有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項4】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、
レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して該照射部分に対する切断加工を行い、
前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光をレーザ光検出手段で検出して、検出結果を検出信号として切断判定手段に出力し、
前記切断判定手段により、前記入力された検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を切断停止信号としてレーザ光照射制御手段に出力し、
前記レーザ光照射制御手段により、前記入力された切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【請求項1】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して照射部分に対する切断加工を行うレーザ光照射手段と、
前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光を検出し、検出結果を検出信号として出力するレーザ光検出手段と、
前記検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたものと判定し、判定結果を切断停止信号として出力する切断判定手段と、
前記レーザ光の照射を開始させると共に、前記切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させるレーザ光照射制御手段と、
を有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項2】
請求項1記載のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物の前記一面側と直交する方向を中心に該被加工物を回転させる被加工物回転機構をさらに有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項3】
請求項2記載のレーザ切断加工システムにおいて、
前記被加工物回転機構は、前記被加工物を固定保持する被加工物固定手段と、該被加工物固定手段を前記直交方向を中心に回転させる回転駆動手段と、該回転駆動手段による前記被加工物固定手段の回転角度を検出し、検出結果を回転角度信号として前記切断判定手段に出力する回転角度検出手段とを有する
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工システム。
【請求項4】
板状の被加工物にレーザ光を照射して該被加工物を所定形状に切断加工することにより形成される磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法において、
レーザ光照射手段から前記被加工物の一面側に前記レーザ光を照射して該照射部分に対する切断加工を行い、
前記照射部分を切断した際に前記被加工物の他面側に到達する前記レーザ光をレーザ光検出手段で検出して、検出結果を検出信号として切断判定手段に出力し、
前記切断判定手段により、前記入力された検出信号に基づいて前記照射部分が切断されたことを判定し、判定結果を切断停止信号としてレーザ光照射制御手段に出力し、
前記レーザ光照射制御手段により、前記入力された切断停止信号に基づいて前記レーザ光照射手段から前記照射部分への前記レーザ光の照射を停止させる
ことを特徴とする磁気転写用マスター担体のレーザ切断加工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−315033(P2006−315033A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−140058(P2005−140058)
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】
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