説明

磁石を使用した移動検出装置

【課題】 磁石の移動位置を磁気検知器で検知する移動検出装置において、移動部と共に磁石が滑らかに移動でき、磁石と磁気検知器との位置関係を安定させることができるようにする。
【解決手段】 磁気検知器16の近傍に形成された案内面14を摺動する摺動ホルダ20が設けられ、この摺動ホルダ20に磁石30が保持されている。磁石30のX1側に向く対向面33は曲面であり、この対向面33が摺動ホルダ20に形成された開口部23からX1方向へ突出して、磁気検知器16との距離を短くしている。摺動ホルダ20と移動部12bとの間には板ばね40が設けられ、この板ばね40によって摺動ホルダ20が案内面14に押し付けられている。移動部12bが移動すると摺動ホルダ20が案内面14を摺動するため、磁石30と磁気検知器16との相対距離を常に最適に設定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排ガス再循環装置に設けられるバルブの開閉量や、各種装置の機構の移動量を検知するのに使用される移動検出装置に係り、特に、移動部に磁石が搭載され、固定部に前記磁石からの漏れ磁界を検知する磁気検知器が設けられた移動検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機器において、移動部の移動状態を検出するために、磁石とこの磁石からの漏れ磁界を検知する磁気検知器を備えた移動検出装置が使用されている。その一例として、以下の特許文献1には、内燃機関の気化器に設けられた可変バルブの開閉量を磁気センサで検出する開度検出装置が開示されている。
【0003】
この開度検出装置は、バルブ室内に設けられたホルダが、ピストンバルブと一緒に往復移動する。ホルダにはプラスチックマグネットが固定され、ピストンバルブとホルダの移動に伴って、このプラスチックマグネットがバルブ室を移動する。バルブ室の外側にはセンサ室が一体に形成されており、このセンサ室内に、プラスチックマグネットの移動方向に並んで3個の磁気センサが設けられている。この開度検出装置は、3個の磁気センサが、プラスチックマグネットの移動位置を検知することで、ピストンバルブが第1開度、第2開度または第3開度となったことを検知するというものである。
【0004】
特許文献1に記載された開度検出装置は、3個の磁気センサを使用してピストンバルブの開度を3段階で検知することが可能ではあるが、例えば、排気ガス再循環装置の循環経路に設けられた開閉バルブなどで必要とされるように、バルブの開閉度を細かな分解能で検知することは難しい。
【0005】
また、前記プラスチックマグネットが、直接にバルブ室の内壁に対向して移動するものであるため、プラスチック磁石とそれぞれの磁気センサとの対向距離を高精度に確保するのが困難な構造である。よって、プラスチックマグネットが移動するときに、それぞれの磁気センサからの検出値にばらつきが生じるおそれがある。また、プラスチックマグネットがバルブ室の内壁に直接に対向して移動するために、プラスチックマグネットが移動する際に前記内壁との摺動摩擦力によって磨耗したり損傷する可能性がある。
【特許文献1】特開平7−317574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、移動部が案内面に沿って移動する際に、移動部に設けられた磁石と前記案内面との相対距離を常に高精度に確保でき、磁気検知器によって移動部の移動位置を高精度に検知できる移動検出装置を提供することを目的としている。
【0007】
また本発明は、磁気検知器で磁石からの漏れ磁界を高精度に検知でき、移動位置の移動量を高い分解能で検知することが可能な移動検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固定部に設けられた案内面に沿って直線的に往復移動する移動部と、前記移動部と一緒に移動する磁石と、前記固定部に設置されて前記磁石からの漏れ磁界を検知する磁気検知器とを有する移動検出装置において、
前記磁石を保持して前記案内面を摺動する摺動ホルダが設けられ、前記移動部と前記摺動ホルダとの間にばね部材が設けられて、前記摺動ホルダが前記ばね部材の弾性力によって前記案内面に押圧されながら前記移動部材と一緒に移動することを特徴とするものである。
【0009】
本発明は、磁石が摺動ホルダに保持され、移動部が移動する際に、摺動ホルダがばね部材の弾性力で案内面に押し付けられながら移動する。磁気検知器を、案内面を基準として位置決めして設置することで、磁石と磁気検知器との対向距離を高精度に設定できる。そのため、磁石と磁気検知器との対向距離の変動に起因する誤差が生じるのを排除でき、移動部と磁気検知器との距離に比例した検知出力を得ることができる。また、磁石が案内面を直接に摺動する構造でないために、磁石が磨耗したり破損するのを防止しやすい。
【0010】
本発明は、前記ばね部材は板ばねであり、前記板ばねには、前記移動部に固定される取付片と、前記取付片から第1の折曲部で折り返されて前記移動部の移動方向に沿って延びる中間片と、前記中間片から第2の折曲部で折り返されて前記中間片と逆の向きに延びる押圧片とが設けられており、前記摺動ホルダが前記押圧片に支持されているものが好ましい。
【0011】
上記構造の板ばねを使用すると、摺動ホルダが案内面を一方向へ摺動するときと他方向へ摺動するときの双方において、摺動ホルダを案内面に対して偏りの少ない荷重で押し付けることができ、摺動ホルダが案内面を双方向へ摺動するときに、案内面との密着性を維持でき、移動時にがたつきを生じにくい。
【0012】
本発明は、前記第1の折曲部と前記第2の折曲部が、前記移動部の移動方向に向けて間隔を空けて配置されているものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記摺動ホルダには、前記移動部の移動方向へ間隔を空けて配置された支持部が設けられており、前記押圧片からの弾性押圧力が前記支持部に作用することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、それぞれの前記支持部は、前記第1の折曲部と前記第2の折曲部の近傍に位置していることが好ましい。
【0015】
板ばねから摺動ホルダに与えられる弾性押圧力のモーメントの向きは、第1の折曲部と第2の折曲部を起点として相反する方向に作用するため、第1の折曲部と第2の折曲部の移動方向の距離を長く確保することにより、摺動ホルダの移動方向がどちらの向きであっても、摺動ホルダを案内面に安定した圧力で押圧することが可能になる。
【0016】
本発明は、前記取付片が前記移動部の取付面に当接し、摺動ホルダが前記案内面に当接した状態で、前記取付片と前記押圧片とが平行であることがさらに好ましい。
【0017】
前記取付片と前記押圧片とが平行であると、板ばねから摺動ホルダに対して移動方向に向けて均一な加重が作用しやすくなり、摺動ホルダを案内面に安定して摺動させることが可能になる。
【0018】
また、本発明は、前記取付片には、前記移動部の移動方向に間隔を空けて配置された挟持片が設けられており、前記移動部の一部が前記挟持片で前記移動方向の両側から挟持されているものとして構成できる。
【0019】
取付片に上記挟持片を設けることで、板ばね自体が移動部に対してその移動方向へがたつくのを防止できる。
【0020】
さらに、本発明は、前記押圧片には、前記磁石を直接に押圧して、前記磁石を前記摺動ホルダに位置決めする補助押圧片が一体に設けられているものとして構成できる。
【0021】
上記発明では、板ばねの押圧片によって摺動ホルダを案内面に押し付けることができ、さらに、補助押圧片によって、磁石を摺動ホルダに押し付けて、磁石と摺動ホルダとの位置決めを安定させることができる。
【0022】
また、本発明は、前記移動部には、前記ホルダが前記移動部に向けて接近する距離を規制するストッパが設けられていることが好ましい。
【0023】
上記構成では、組立作業の際などにばね部材に過大な応力が作用して、ばね部材のへたりが生じることを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の移動検出装置は、移動部に搭載された磁石が摺動ホルダに保持され、摺動ホルダがばね部材で案内面に押し付けられて摺動するために、磁石と磁気検知器との相対距離を安定させることができる。よって、磁石と磁気検知器との対向距離の変動に起因する誤差が生じるのを排除でき、移動部の移動距離を安定して高精度に検知できる。
【0025】
また、板ばねによって、摺動ホルダを案内面に対して圧力の偏りが少ない状態で安定して押し付けた状態で移動させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1は本発明の実施の形態の移動検出装置を示す断面図である。図2は、板ばねと摺動ホルダとが組まれた状態を背部側から示す斜視図であり、図3は、板ばねと磁石と摺動ホルダを背部側から見た分解斜視図である。図4は磁石と摺動ホルダを対向面側から見た分解斜視図である。図5は、板ばねと摺動ホルダを示す縦断面図である。
【0027】
図1に示す移動検出装置10は、内燃機関の排気ガス再循環装置(EGR)において、排気ガスの循環量を制御する制御弁1の開閉度を検出するためのものである。制御弁は、自動車に設けられた制御部からの指令によりモータの動力などによって開閉する。
【0028】
移動検出装置10は、固定部であるハウジング11を有している。ハウジング11は合成樹脂材料で射出成型されるなどして非磁性材料で形成されている。ハウジング11の下部にスラスト軸受13が取り付けられており、このスラスト軸受13に軸部12aがY1−Y2方向へ摺動自在に保持されている。前記軸部12aは、前記制御弁1が開閉動作する際に、制御弁1の開度に応じてY1−Y2方向へ移動する。軸部12aの上部には移動部12bが一体に形成されており、軸部12aと移動部12bが、ハウジング11の内部のシリンダ11a内を上下に移動する。軸部12aと移動部12bは、合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されている。シリンダ11a内には上方に圧縮コイルばね17が収納されており、この圧縮コイルばね17によって、軸部12aと移動部12bが常にY2方向へ付勢されている。圧縮コイルばね17は、ばね用ステンレスなどの非磁性材料で形成されている。
【0029】
シリンダ11a内には移動部12bをY1−Y2方向へ直線的に移動させる案内部が設けられており、軸部12aと移動部12bは、前記スラスト軸受13と前記案内部に案内されてY1−Y2方向へ直線的に移動させられる。シリンダ11aのX1側の内面に案内面14が形成されている。この案内面14は、図1の紙面に直交する方向およびY1−Y2方向へ延びる平面である。
【0030】
ハウジング11には、前記案内面14よりもX1側に保持凹部15が形成されている。保持凹部15内に磁気検知器16が保持されている。磁気検知器16は、保持凹部15のX2側の位置決め面15aに密着して固定されている。ハウジング11を製造するときの寸法管理によって前記案内面14と位置決め面15aとのX方向の寸法が高精度に決められている。そのために、位置決め面15aに密着した磁気検知器16と、案内面14とのX方向の距離が高精度に設定されている。
【0031】
磁気検知器16は、磁束のX1方向とX2方向への強度の大小の変化、およびその向きの変化を検知できるものであり、ホール素子または磁気抵抗効果素子などの検知素子を有している。
【0032】
図1に示すように、シリンダ11a内には摺動ホルダ20が設けられ、この摺動ホルダ20に磁石30が保持されている。摺動ホルダ20と前記移動部12bとの間に板ばね40が設けられており、この板ばね40の弾性力によって、摺動ホルダ20が案内面14に押し付けられている。軸部12aと移動部12bが制御弁1の開度に応じてY1−Y2方向へ移動する際に、移動部12bと共に摺動ホルダ20が案内面14に密着しながら摺動する。
【0033】
図3、図4および図5に示すように、摺動ホルダ20は薄型の直方体形状であり、合成樹脂材料などの非磁性材料で形成されている。図4に示すように、摺動ホルダ20のX1側(案内面14に対向する側)である表側に、一対のレール面21,21が形成されている。レール面21,21は、Z1側とZ2側に離れて位置しており、且つY−Z平面と平行な平面である。また、それぞれのレール面21は、Z1−Z2方向の幅寸法よりもY1−Y2方向の縦寸法が十分に大きい帯面形状である。それぞれのレール面21,21は、Y1側の端部21a,21aに曲面が形成され、Y2側の端部21b,21bにも曲面が形成されている。
【0034】
レール面21とレール面21との間には、レール面21,21よりもX2側に後退する後退面22,22が設けられている。後退面22,22は、Y−Z平面と平行な平面である。後退面22と後退面22はY1−Y2方向に離れて設けられており、上側の後退面22と下側の後退面との間に開口部23が形成されている。開口部23は四角形状であり、摺動ホルダ20をX1−X2方向に貫通し、摺動ホルダ20の内部に形成された保持凹部24に連通している。
【0035】
図3と図4に示すように、前記保持凹部24は、摺動ホルダ20の内部に形成されて、背部側(X2側)に開口している。摺動ホルダ20のX2側に向く背面25は、保持凹部24の開口部の周囲を囲む枠形状となっている。背面25のうちのY1側の短辺に位置する部分が第1の支持部25aとして機能し、Y2側の短辺に位置する部分が第2の支持部25bとして機能する。そして、Z1側の長辺に位置する部分が側方支持部25cであり、Z2側の長辺に位置する部分が側方支持部25dである。
【0036】
第1の支持部25aのZ1側の縁部とZ2側の縁部には、それぞれX2方向へ突出する位置決め突起26a,26aが一体に形成されており、第2の支持部25bのZ1側の縁部とZ2側の縁部には、それぞれX2方向へ突出する位置決め突起26b,26bが一体に形成されている。
【0037】
図3と図5に示すように、摺動ホルダ20の保持凹部24内では、一対のレール面21,21のそれぞれの背部に、Y1側に形成された第1の位置決め部27a,27aと、Y2側に形成された第2の位置決め部27b,27bが設けられている。図5に示すように、Y1側に設けられた一対の第1の位置決め部27a,27aとY2側に設けられた一対の第2の位置決め部27b,27bは、Y−Z平面と平行な平面H上に位置している。この平面Hは、前記レール面21,21と平行である。
【0038】
図5に示すように、保持凹部24の内部においてY1側に位置する前方内面28aは、Y1側に位置する前記後退面22の背面であり、Y2側に位置する前方内面28bは、Y2側に位置する前記後退面22の背面である。前方内面28a,28bは、前記位置決め平面HよりもX1側に形成されている。そして、Y1側の前方内面28aは、Y2方向に向かうにしたがってX1方向へ移動する傾斜曲面または傾斜平面であり、Y2側の前方内面28bは、Y1方向に向かうにしたがってX2方向へ移動する傾斜曲面または傾斜平面である。
【0039】
図5に示すように、保持凹部24の内部では、Y1側の内面に圧入面29aが形成され、Y2側の内面に圧入面29bが形成されている。圧入面29aと圧入面29bのY1−Y2方向の対向間隔は、磁石30のY1−Y2方向の長さ寸法と同じか、またはそれよりもわずかに短く形成されており、磁石30が、保持凹部24内に軽く圧入されて、磁石30と摺動ホルダ20とが位置決めされる。
【0040】
磁石30は、Nd−Fe−Bなどの磁性粉が焼結された磁石、または前記磁性粉と少量の合成樹脂とが焼結された磁石であって、表面にエポキシ樹脂がコーティングされたものが使用される。前述のように、磁石30は、摺動ホルダ20の保持凹部24の内部に圧入できる大きさの長方形状である。図1と図4に示すように、磁石30は、Y1側に向く上端面31と、Y2側に向く下端面32とが、互いに逆の磁極となるように着磁されている。図示されている実施の形態では、上端面31がN極で下端面32がS極に着磁されている。
【0041】
図4に示すように、磁石30のX1側に向く表面は対向面33である。対向面33は、そのZ1−Z2方向の幅寸法W2が、摺動ホルダ20に形成された開口部23の幅寸法W1と同じ大きさかまたはわずかに小さく形成されている。図1と図4に示すように、また図5に破線で示しているように、磁石30の対向面33は、その上端部33aと下端部33bよりも中央部33cを含む中央領域がX1方向へ突出する形状である。すなわち、対向面33は、Y1−Y2方向にのみ曲率を有し、Z1−Z2方向へ曲率を有しておらず、シリンドリカルな湾曲面である。図5に示すように、磁石30をY1−Y2方向に二分してX方向に延びる中心線をOxとしたときに、対向面33において中心線Ox上に位置する中央部33cが最もX1側へ突出している。
【0042】
磁石30は、Z1−Z2方向に二分してY方向に延びる中心線Oyを挟んで左右に対称形状である。前記対向面33よりもX2側に後退する位置で、Z1側の側部に鍔部34が形成され、Z2側の側部にも鍔部34が形成されており、それぞれの鍔部34,34のX1側に向く面が当接部34a,34aである。当接部34a,34aは、Y−Z平面と平行な平面である。
【0043】
図1に示すように、磁石30は対向面33がX1側に向けられて、摺動ホルダ20の背部から保持凹部24内に装着される。磁石30の上端面31と下端面32が、保持凹部24の圧入面29aと圧入面29bとに圧入されることで、磁石30が摺動ホルダ20にY方向へ動かないように位置決めされて保持される。
【0044】
また、磁石30の鍔部34,34に形成された当接部34a,34aが、保持凹部24内の第1の位置決め部27a,27aと第2の位置決め部27b,27bに均等に当接することで、摺動ホルダ20に対する磁石30のX1方向への相対位置が決められる。したがって、磁石30のX1側に向く対向面33は、摺動ホルダ20内の前方内面28a,28bに当接することはなく小さな隙間を介して対向する。
【0045】
磁石30の対向面33は、中央部33cがX1方向へ突出する突曲面形状であるが、磁石30が保持凹部24内に位置決めされて保持された状態で、対向面33の中央部33cを含む中央領域が、摺動ホルダ20の開口部23の内部に入り込む。そのため、磁石30の対向面33の中央部33cとレール面21,21とのX1−X2方向の間隔をきわめて短くできる。図1に示すように、摺動ホルダ20のレール面21,21が、ハウジング11のシリンダ11a内の案内面14に押し付けられたときに、対向面33の中央部33cと案内面14との間隔δを、互いに当たらない範囲できわめて短くでき、磁石30から磁気検知器16に与えられる漏れ磁界の磁束密度を高くできる。
【0046】
また、摺動ホルダ20の表側(X1側)に、磁石30の対向面33の中央部33cを覆う薄肉部分を設ける必要がないため、摺動ホルダ20の製造が容易である。
【0047】
なお、実施の形態の摺動ホルダ20では、開口部23の上部と下部に後退面22,22およびその裏側の前方内面28a,28bが設けられているが、後退面22,22を除去して、レール面21とレール面21とで挟まれる領域を全て開口部23にしてもよい。
【0048】
板ばね40は、非磁性材料であるばね用ステンレス鋼板などで形成されている。図1、図2、図3および図5に示すように、板ばね40は、X2側に向けられた取付片41を有している。取付片41はほぼ平坦である。板ばね40は、取付片41のY2側に第1の折曲部42がU字状に形成されて、中間片43が折り返されて形成されている。中間片43はほぼ平坦でありY1方向へ向かって延びている。中間片43のY1側に第2の折曲部44がU字状に形成されて、押圧片45が折り返されて形成されている。押圧片45はほぼ平坦でありY2方向に延びている。
【0049】
板ばね40の押圧片45には、Y1側の端部にZ1−Z2方向に間隔を空けて一対の支持穴48a,48aが開口しており、Y2側にZ1−Z2方向に間隔を空けて一対の支持穴48b,48bが開口している。また、押圧片45には中央部に細長い切欠き45aが形成されており、この切欠き45a内に、押圧片45から一体にY2側に延びる舌片形状の補助押圧片49が形成されている。図3と図5に示すように、補助押圧片49は、押圧片45よりもX1側へやや突出するように変形されている。
【0050】
図2に示すように、磁石30が摺動ホルダ20の保持凹部24内に装着された後に、摺動ホルダ20の背部に形成された位置決め突起26a,26aが押圧片45に開口する支持穴48a,48a内に挿入され、位置決め突起26b,26bが支持穴48b,48bに挿入される。そして、板ばね40の押圧片45からX2方向へ突出する位置決め突起26a,26a,26b,26bが溶融され押し潰されてかしめ固定される。
【0051】
前記かしめ固定により、押圧片45と摺動ホルダ20の背面25とが密着した状態で互いに固定され、摺動ホルダ20と磁石30と板ばね40が一体とされた部品組立体が完成する。この部品組み立て体では、押圧片45に形成された補助押圧片49が磁石30の背面35を直接にX1方向へ付勢しており、この付勢力で、磁石30の当接部34a,34aが摺動ホルダ20の位置決め部27a,27aおよび27b,27bに押し付けられ、摺動ホルダ20内で磁石30がX1−X2方向へがたつきが生じないように保持される。
【0052】
図2と図3に示すように、板ばね40の取付片41にはY2側に挟持片46がY1側に挟持片47がそれぞれ形成されている。一方の挟持片46はX1方向へ直角に折り曲げられており、他方の挟持片47はU字状に曲げられてY1方向へ向けて弾性変形可能である。
【0053】
図1に示すように、移動部12bにはX1側に向く取付面12c,12dが形成されている。取付面12cと取付面12dはY1−Y2方向に間隔を空けて形成されており、取付面12cと取付面12dは、Y−Z面と平行な同一平面上に位置している。そして、取付面12cと取付面12dとの間にX1方向へ突出する挟持突部12eが一体に形成されている。
【0054】
図2に示すように、摺動ホルダ20に板ばね40が取り付けられた後に、図1に示すように、板ばね40の取付片41が、移動部12bの取付面12c,12dに密着するように取り付けられ、このとき、挟持片46と挟持片47とで、挟持突部12eがY1−Y2方向から挟持される。挟持片47が弾性変形可能であるため、挟持突部12eは挟持片46と挟持片47とでY1−Y2方向へがたつきを生じることなく確実に挟持される。板ばね40は、取付片41が取付面12c,12dに密着することで、移動部12bに対してX1−X2方向へ位置決めされ、挟持片46,47で挟持突部12eを挟持することで、Y1−Y2方向へ位置決めされる。さらに、図示していないが、移動部12bには板ばね40の取付片41をZ1−Z2方向へ位置決めする位置決め機構が設けられている。
【0055】
上記のようにして、摺動ホルダ20と板ばね40が移動部12bに取り付けられた後に、移動部12bと軸部12aが図1に示すハウジング11のシリンダ11a内に装着される。移動部12dには、板ばね40の押圧片45の背部に少し間隔を空けて対向するストッパ51,51がY1−Y2方向へ間隔を空けて一体に突出形成されている。したがって、移動部12dをシリンダ11a内に組み込むときに、板ばね40の押圧片45がX2方向へ押されたとしても、押圧片45がストッパ51,51に当たって、板ばね40に過大な変形応力が作用するのを防止できる。
【0056】
図1に示すように、移動検出装置10が組み立てられた状態で、板ばね40がX2方向へやや圧縮させられた状態であり、板ばね40のX1方向への弾性復元力によって、摺動ホルダ20のレール面21,21が、シリンダ11a内の案内面14に押し付けられる。
【0057】
前記板ばね40の押圧片45がX2方向へ押されて圧縮変形すると、図5に示すように、第1の折曲部42を支点として、中間片43を時計方向へ反発させようとする弾性モーメントM1が発生し、第2の折曲部44を支点として、押圧片45を反時計方向へ反発させようとする弾性モーメントM2が発生する。この相反する向きの弾性モーメントM1,M2が摺動ホルダ20に作用するため、摺動ホルダ20が案内面14に対して、圧力の大きな偏りがなく押圧される。そのために、摺動ホルダ20が案内面14をY1方向へ摺動するときと、案内面14をY2方向へ摺動するときの双方向において、摺動ホルダ20が案内面14をスムースに摺動でき、摺動ホルダ20が傾いてがたつくなどの現象が生じにくくなる。
【0058】
また、図1に示す組み立て状態では、板ばね40の取付片41と押圧片45とが平行になっている。またこれらはシリンダ11a内の案内面14とも平行である。押圧片45と取付片41とが案内面14と平行であるため、摺動ホルダ20がY1方向へ摺動するときとY2方向へ摺動するときとで、摺動ホルダ20に作用するX1方向への押圧力の強度分布がY方向へ大きく偏るのを避けることができる。
【0059】
さらに、摺動ホルダ20の背面のY1側の第1の支持部25aが、板ばね40の第2の折曲部44の近傍のX1側に位置し、摺動ホルダ20のY2側の第2の支持部25bが、板ばね40の第1の折曲部42の近傍においてX2側に対向している。そのため、板ばね40の第1の折曲部42の復元弾性力が摺動ホルダ20の背部の第2の支持部25bまたはその付近でX1方向へ作用し、第2の折曲部44の復元弾性力が摺動ホルダ20の第1の支持部25aまたはその付近でX1方向へ作用するようになる。摺動ホルダ20のY1−Y2方向へ離れた第1の支持部25aと第2の支持部25bに対して、X1方向への加重が作用するために、摺動ホルダ20は、案内面14に沿って傾くことなくY1方向とY2方向の双方へ摺動しやすくなる。
【0060】
また、摺動ホルダ20は、Y1−Y2方向に延びる一対のレール面21,21が案内面14を摺動することにより、摺動時の摩擦抵抗力も小さくできる。
【0061】
図4に示すように、磁石30は上端面31と下端面32が逆の磁極に着磁されている。そのため、対向面33の上端部33aの前方では、磁束φのX1方向のベクトル成分が大きく、下端部33bの前方では磁束φのX2方向のベクトル成分が大きく、中央部33cでは、磁束φのX1方向またはX2方向のベクトル成分が最小になる。移動部12bと共に磁石30がY1−Y2方向へ移動する際に、磁気検知器16によって磁束φのX1方向のベクトル成分とX2方向のベクトル成分の大きさの変化が検知されて、移動部12bと磁石30の移動位置が測定される。
【0062】
このような検知方式では、磁石30が案内面14と常に同じ距離を保ちながら、Y1−Y2方向へ傾くことなく安定してスムースに移動することが必要である。本発明の実施の形態の移動検出装置10では、前記構造の板ばね40を使用することで、摺動ホルダ20が案内面14を安定して摺動できるようになり、板ばね40に設けられた補助押圧片49によって、摺動ホルダ20内で磁石30がX1方向へ押圧されて位置決めされている。よって、摺動ホルダ20がY1−Y2方向へ摺動する際に、磁石30の対向面33と磁気検知器16との対向距離を常に設計値通りに実現できるようになる。
【0063】
また、磁石30の対向面33を、中央部33cがX1方向へ最も突出した突曲面形状にすると、磁石30がY1−Y2方向へ直線的に移動したときの、移動距離に対する、磁気検知器16に作用するX1−X2方向の磁束密度の変化が、一次関数に近い変化を示すようになる。そのために、磁気検知器16の検知出力によって、移動部12bの移動量、すなわち制御弁1の開度をリニアに検知できるようになる。
【0064】
そして、磁石30の対向面33が突曲面形状であっても、その中央部33cを含む中央領域に対向する部分で、摺動ホルダ20に開口部23が形成されているため、対向面33の中央部33cを案内面14に当たることなく対向面14に接近させることができる。よって、磁気検知器16による漏れ磁界の検知感度を高めることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施の形態の移動検出装置を示す断面図、
【図2】摺動ホルダと磁石と板ばねが組み込まれた状態を背部側から示す斜視図、
【図3】摺動ホルダと磁石および板ばねを背部側から示す分解斜視図、
【図4】摺動ホルダと磁石を表側から示す分解斜視図、
【図5】摺動ホルダと板ばねの断面図、
【符号の説明】
【0066】
1 制御弁
10 移動検出装置
11 固定部であるハウジング
12b 移動部
12e,12d 取付面
14 案内面
16 磁気検知器
20 摺動ホルダ
21 レール面
23 開口部
24 保持凹部
25a 第1の支持部
25b 第2の支持部
26a 第1の位置決め突起
26b 第2の位置決め突起
27a 第1の位置決め部
27b 第1の位置決め部
30 磁石
33 対向面
34a 当接部
40 板ばね
41 取付片
42 第1の折曲部
43 中間片
44 第2の折曲部
45 押圧片
49 補助押圧片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部に設けられた案内面に沿って直線的に往復移動する移動部と、前記移動部と一緒に移動する磁石と、前記固定部に設置されて前記磁石からの漏れ磁界を検知する磁気検知器とを有する移動検出装置において、
前記磁石を保持して前記案内面を摺動する摺動ホルダが設けられ、前記移動部と前記摺動ホルダとの間にばね部材が設けられて、前記摺動ホルダが前記ばね部材の弾性力によって前記案内面に押圧されながら前記移動部材と一緒に移動することを特徴とする移動検出装置。
【請求項2】
前記ばね部材は板ばねであり、前記板ばねには、前記移動部に固定される取付片と、前記取付片から第1の折曲部で折り返されて前記移動部の移動方向に沿って延びる中間片と、前記中間片から第2の折曲部で折り返されて前記中間片と逆の向きに延びる押圧片とが設けられており、前記摺動ホルダが前記押圧片に支持されている請求項1記載の移動検出装置。
【請求項3】
前記第1の折曲部と前記第2の折曲部は、前記移動部の移動方向に向けて間隔を空けて配置されている請求項2記載の移動検出装置。
【請求項4】
前記摺動ホルダには、前記移動部の移動方向へ間隔を空けて配置された支持部が設けられており、前記押圧片からの弾性押圧力が前記支持部に作用する請求項2または3記載の移動検出装置。
【請求項5】
それぞれの前記支持部は、前記第1の折曲部と前記第2の折曲部の近傍に位置している請求項4記載の移動検出装置。
【請求項6】
前記取付片が前記移動部の取付面に当接し、摺動ホルダが前記案内面に当接した状態で、前記取付片と前記押圧片とが平行である請求項3ないし5のいずれかに記載の移動検出装置。
【請求項7】
前記取付片には、前記移動部の移動方向に間隔を空けて配置された挟持片が設けられており、前記移動部の一部が前記挟持片で前記移動方向の両側から挟持されている請求項2ないし6のいずれかに記載の移動検出装置。
【請求項8】
前記押圧片には、前記磁石を直接に押圧して、前記磁石を前記摺動ホルダに位置決めする補助押圧片が一体に設けられている請求項2ないし7のいずれかに記載の移動検出装置。
【請求項9】
前記移動部には、前記ホルダが前記移動部に向けて接近する距離を規制するストッパが設けられている請求項1ないし8のいずれかに記載の移動検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−60338(P2010−60338A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−224215(P2008−224215)
【出願日】平成20年9月2日(2008.9.2)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】