説明

神経突起伸長剤

【課題】本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、老年型痴呆症等の原因の一つとして考えられている神経変性疾患の予防および/または治療に利用し得る、天然物由来の神経突起伸長剤を提供することにある。
【解決手段】安全性が高く、かつ神経細胞に対して神経突起を伸長し得る、神経突起伸長剤が開示されている。本発明の第一の神経突起伸長剤はローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する。また、本発明の第二の神経突起伸長剤はカルノシン酸を有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞に対して神経突起伸長作用を有する神経突起伸長剤に関し、より詳細には、神経突起の伸長を促すことにより、アルツハイマー型痴呆症、脳虚血病態、パーキンソン病、ハンチントン病などの神経変性疾患の予防および/または治療に有用な神経突起伸長剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会への移行に伴って老年型痴呆症が増加する傾向にある。これは非常に大きな社会問題となってきている。老年型痴呆症の原因となる疾患は数多く知られている。これらは、脳器質性障害による痴呆、脳以外の臓器疾患に付随した痴呆およびストレスによる身体疾患に起因する痴呆に大別される。特に、その原因の大半を占める脳器質性障害による痴呆は、原因の違いにより脳血管性痴呆症およびアルツハイマー型痴呆症とに分類される。
【0003】
現在、脳血管性痴呆症に対しては、脳血管拡張薬などがある程度の効果を示すことが知られている。しかし、一方でアルツハイマー型痴呆症に対しては、その発症原因が今なお不明であり、未だ発症を含めその進行を阻止するのに適切な薬物療法も治療法も知られていない。そのため、脳器質性障害による痴呆、特にアルツハイマー型痴呆症に対して有用な医薬品の開発が所望されている。
【0004】
近年は、神経細胞から分泌される神経成長因子(以下、NGFと呼ぶことがある)などの神経栄養因子が神経変性疾患に対して優れた効果を示すことが見出され、注目を集めている。NGFは、神経組織の成長および機能維持にとって重要かつ必要な因子である。NGFは、末梢神経における知覚および交感神経、ならびに中枢神経における大細胞性コリン作動性ニューロンの成熟、分化および生命維持に不可欠であり、脳損傷時の神経細胞の変性を防ぐという作用を示す。更に、NGFは、パーキンソン病やハンチントン病などの神経変性疾患に対しても有効であることが示唆されている。これにより、生体内においてNGFレベルを上昇させることは、アルツハイマー型痴呆症、脳血管性痴呆症、パーキンソン病、ハンチントン病のような中枢機能障害、脊髄損傷、末梢神経損傷、糖尿病性神経障害、ならびに筋萎縮変性側索硬化症のような抹消機能障害の治療にも有用であると考えられている。
【0005】
しかし、NGFは、モノマーでは13000およびダイマーでは26000もの分子量を有するタンパク質であり、血管脳関門を通過することができない。そのため、例えば、中枢機能障害の治療を目的とした場合には、脳室内投与が必要となる。さらに、NGFの大量調製も困難である。このようにNGF自体の使用には多くの問題がある。結果として、一般に、NGF自体を臨床で用いることは非常に困難である。
【0006】
一方で、古川らはカテコールアミン(エピネフリン、ノルエピネフリン)をNGF合成促進剤として使用している(非特許文献1参照。)。また、特許文献1にはテアニンがNGF合成促進剤として働くことが開示されている。同様に、特許文献2にはエイコサンペンタエン酸(EPA)またはドコサエキサエン酸(DHA)がNGF合成促進剤として働くことが開示されている。しかし、例えば、エピネフリンおよびノルエピネフリンはホルモン物質であるため、投与によって生体内におけるホルモンの量的バランスを崩すという問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、薬用ニンジンのアルコール抽出物が神経細胞賦活作用を有していることを開示しているが、神経細胞賦活作用を奏する物質までは具体的に特定されていない。
【0008】
さらに、特許文献4は、生体に対して安全性を高める観点から、天然物のうち食品一般にも利用される植物由来の抽出物を用いた神経突起伸長剤を開示する。特許文献4に記載の植物由来の抽出物は、ミカン科植物由来のポリアルコキシフラボノイドである。このような抽出物の使用は、生体に対して所望でない副作用を防止し得る点で有用である。しかし、こうした植物単独では、一年を通じての生産量・収穫量の確保等が必ずしも安定していないので、むしろ同等またはそれ以上の神経突起伸長作用を有する他の安全な天然物を用いたバリエーションの拡大が所望されている。
【0009】
【特許文献1】特開平7−173059号公報
【特許文献2】特開平8−143454号公報
【特許文献3】特開平6−31627号公報
【特許文献4】特開2002−60340号公報
【非特許文献1】古川(Y.Furukawa)ら、フェデレーション・オブ・ヨーロピアン・バイオケミカル・ソシエティー・レターズ(Federation of European Biochemical Societies Letters),1986年,第208巻,第258号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、老年型痴呆症等の原因の一つとして考えられている神経変性疾患の予防および/または治療に利用し得る、天然物由来の神経突起伸長剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する、神経突起伸長剤である。
【0012】
1つの実施形態では、上記抽出物はカルノシン酸を含有する。
【0013】
1つの実施形態では、さらに以下の式(I);
【0014】
【化1】

【0015】
(ここで、Rは水素原子、分岐または環を形成していてもよいCからCのアルキル基、分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアラルキル基、または分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアリール基である)で表されるカフェ酸またはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する。
【0016】
本発明はまた、カルノシン酸を有効成分として含有する、神経突起伸長剤である。
【0017】
1つの実施形態では、カルノシン酸は、ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の化合物である。
【0018】
本発明はまた、上記神経突起伸長剤を含有する、医薬品組成物である。
【0019】
本発明はまた、ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する、神経突起を伸長させ得る食品である旨の表示を付した飲食物である。
【0020】
本発明はまた、カルノシン酸を有効成分として含有する、神経突起を伸長させ得る食品である旨の表示を付した飲食物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず、本発明の1つの局面である、本発明の第一の神経突起伸長剤について説明する。
【0022】
本発明の第一の神経突起伸長剤は、ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する。
【0023】
本発明に用いられる植物の例としては、ローズマリーおよび/またはセージが挙げられる。
【0024】
本発明に用いられる植物において、用いられ得る部位は特に限定されず、根、茎、葉、葉柄、枝、花または全草、あるいはこれらの組合せのいずれを用いてもよい。本発明においては、特に限定されないが好ましくは葉を用いる。また、上記植物は生の状態のもの、あるいは当業者に周知の方法で所定に乾燥されたもののいずれを用いてもよい。
【0025】
本発明に用いられる抽出物とは、上記植物を、水、極性または非極性の溶媒、あるいはこれらの混合物を抽出溶媒として用い適切な条件で抽出された抽出物を意味する。
【0026】
本発明に用いられるローズマリーおよび/またはセージ由来の抽出物は、例えば以下のように得ることができる。まず、上記植物の所定部位を抽出溶媒に浸漬する。抽出溶媒の量は、上記植物が浸漬し得る量であれば、特に限定はされないが、上記植物の重量に対して2倍量から100倍量の割合の抽出溶媒が好ましい。使用され得る抽出溶媒の種類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブタノールのような低級アルコール類、アセトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、エーテル類、クロロホルム、およびジクロロメタンのような有機溶媒、ならびに水が挙げられる。これらは単独または組合わせて用いられる。本発明においては、メタノール、エタノール、酢酸エチル、またはこれら溶媒と水との組合わせが好ましく、毒性が低いという安全性を考慮すれば、エタノール、または水とエタノールとの混合溶媒がさらに好ましい。上記植物の浸漬時間もまた、各種条件によって変動し得るため特に限定されず、当業者により適切に設定され得る。また、抽出温度も各種条件により変動し得るため特に限定されず、当業者により適切に設定され得る。
【0027】
上記浸漬後、得られたローズマリーおよび/またはセージ由来の抽出物は、そのまま用いられてもよい。また、上記植物由来の抽出物は、必要に応じて水分を蒸発させた乾固物またはペースト状物の形態で用いられてもよい。また、必要に応じては当業者が通常用いる手段(例えば、カラムクロマトグラフィー)で精製して用いてもよい。
【0028】
このようにして得られたローズマリーおよび/またはセージ由来の抽出物は、以下の式(II);
【0029】
【化2】

【0030】
で表されるカルノシン酸を含有し得る。
【0031】
本発明の第一の神経突起伸長剤において、上記抽出物を有効成分として含有する限り、その含有量は特に限定されないが、好ましくは神経突起伸長剤の重量を基準として、0.00001重量%〜30重量%、さらに好ましくは0.0001重量%〜15重量%の割合である。
【0032】
上記抽出物がカルノシン酸を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、抽出物の重量(乾燥重量)を基準として、好ましくは0.001重量%〜80重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜50重量%の割合である。
【0033】
また、本発明の第一の神経突起伸長剤は以下の式(I);
【0034】
【化3】

【0035】
(ここで、Rは水素原子、分岐または環を形成していてもよいCからCのアルキル基、分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアラルキル基、または分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアリール基である)で表されるカフェ酸またはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有し得る。
【0036】
上記式(I)で表されるカフェ酸またはその誘導体は、特に限定されないが、好ましくはカフェ酸エステルであり、さらに好ましくは、カフェ酸メチルエステル、カフェ酸プロピルエステル、カフェ酸オクチルエステル、カフェ酸ベンジルエステルまたはカフェ酸フェネチルエステルである。
【0037】
上記カフェ酸ならびにその誘導体としては、市販されているもの、化学合成したもの、または種々の天然物から抽出したものが挙げられる。例えば、カフェ酸エステルを化学合成によって製造する場合、出発原料としてカフェ酸を使用し、所定のアルコールと化学反応させることによって所定のカフェ酸エステルを容易に製造することができる。このような化学合成法自体も当業者に公知であり、例えば、ダ.クーニャ.エフ.エム(da Cunha FM)ら、フリー・ラジカル・リサーチ(Free Radical Reserarch),2004年,第38巻,第11号,p.1241−1253に記載の方法に準じて製造することができる。また、種々の天然物から抽出したものを用いる場合、例えばカフェ酸フェネチルエステルは、プロポリスから当業者が通常用いる手段によって抽出し用い得る。また、必要に応じては当業者が通常用いる手段(例えば、カラムクロマトグラフィー)で精製して用いてもよい。
【0038】
本発明の第一の神経突起伸長剤に、上記植物由来の抽出物および式(I)で表されるカフェ酸またはその誘導体を含有する場合、その混合比は、特に限定されないが、式(I)の化合物と上記植物由来の抽出物との重量比が、好ましくは1:9から9:1、より好ましくは3:7から7:3、さらにより好ましくは4:6から6:4である。
【0039】
次に、本発明の他の局面である、本発明の第二の神経突起伸長剤について説明する。
【0040】
本発明の第二の神経突起伸長剤は、カルノシン酸を有効成分として含有する。
【0041】
本発明の第二の神経突起伸長剤において、カルノシン酸とは、以下の式(II);
【0042】
【化4】

【0043】
で表される化合物である。上記式(II)で表されるカルノシン酸としては、市販されているもの、化学合成したもの、または種々の天然物から抽出したものが挙げられる。上記カルノシン酸は、特に限定されないが、好ましくはローズマリーおよび/またはセージ由来の抽出物に含有し得る形態で用いる。上記植物由来の抽出物は、本発明の第一の神経突起伸長剤に用いられるローズマリーおよび/またはセージ由来の抽出物と同様の方法にて得ることができる。
【0044】
本発明の第二の神経突起伸長剤において、上記カルノシン酸を有効成分として含有する限り、その含有量は特に限定されないが、神経突起伸長剤の重量を基準として、好ましくは0.00001重量%〜50重量%、さらに好ましくは0.0001重量%〜30重量%の割合である。
【0045】
また、上記第二の神経突起伸長剤は以下の式(I);
【0046】
【化5】

【0047】
(ここで、Rは水素原子、分岐または環を形成していてもよいCからCのアルキル基、分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアラルキル基、または分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアリール基である)で表されるカフェ酸またはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの化合物をさらに含有し得る。
【0048】
上記式(I)で表されるカフェ酸またはその誘導体は、特に限定されないが、好ましくはカフェ酸エステルである。さらに好ましくは、カフェ酸メチルエステル、カフェ酸プロピルエステル、カフェ酸オクチルエステル、カフェ酸ベンジルエステルまたはカフェ酸フェネチルエステルである。上記カフェ酸またはその誘導体は、第一の神経突起伸長剤に用いられ得るカフェ酸またはその誘導体と同様の方法にて得ることができる。
【0049】
本発明の第二の神経突起伸長剤に、上記カルノシン酸、および式(I)で表されるカフェ酸またはその誘導体を含有する場合、その混合比は、特に限定はされないが、式(I)の化合物と上記植物由来の抽出物との重量比が、好ましくは1:9から9:1、より好ましくは3:7から7:3、さらにより好ましくは4:6から6:4である。
【0050】
本発明の第一および第二の神経突起伸長剤においては、上記カフェ酸またはその誘導体以外に添加剤が含有されてもよい。このような添加剤としては、後述する用途および/またはその形態によって必ずしも限定されないが、例えば、水;アルコール;食肉加工品;米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ、スイートポテト、大豆、コンブ、ワカメ、テングサなどの一般食品材料およびそれらの粉末;デンプン、水飴、乳糖、グルコース、果糖、スクロース、マンニトールなどの糖類;香辛料、甘味料、食用油、ビタミン類などの一般的な食品添加物;界面活性剤;賦形剤;着色料;保存剤;コーティング助剤;ラクトース;デキストリン;コーンスターチ;ソルビトール;結晶セルロース;ポリビニルピロリドン;油分;保湿剤;増粘剤;防腐剤;香料;ならびにこれらの組合わせが挙げられる。本発明の神経突起伸長剤はさらに必要に応じて他の薬剤(漢方を包含する)を含有していてもよい。このような他の成分および/または他の薬剤の含有量は特に限定されず、当業者によって適切な量が選択され得る。
【0051】
本発明の第一および第二の神経突起伸長剤は、非経口組成物または経口組成物のいずれかの形態で用いられてもよく、例えば、医薬品、医薬部外品などの医薬組成物として、そのままあるいは他の医薬品と組合わせて用いられてもよく;家畜または養殖魚などの生産分野に利用される飼料組成物として、そのままあるいは他の飼料用材料と組合わせて用いられてもよく;もしくは化粧品などの化粧組成物として、そのままあるいは他の化粧品材料と組合わせて用いられてもよい。
【0052】
例えば、本発明の第一および第二の神経突起伸長剤が医薬品組成物として用いられる場合、その投与剤形は特に限定されず、日本薬局方に記載の方法にしたがって適切な剤形に加工される。投与剤形のより具体的な例としては、経口投与を目的とする医薬品組成物の場合、カプセル剤、錠剤、粉剤、顆粒剤、細粒剤、除放剤などの剤形が挙げられ、そして非経口投与を目的とする医薬品組成物の場合、静脈注射、皮下注射などの筋肉注射を目的とした注射剤、輸液剤、軟膏等の塗布剤、直腸投与のための坐剤などの剤形が挙げられる。容量は、対象となる者の体重等の条件によって容易に変動し得るため、当業者によって適宜選択され得る。
【0053】
この医薬品組成物は、当業者に周知の方法によってその形態に加工され得、第3成分として、注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油などの希釈剤が混合されていてもよい。さらに必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤などが混合されていてもよい。
【0054】
また、別の例として、本発明の第一および第二の神経突起伸長剤が、食品組成物として用いられる場合、その形態は固形食品に限定されず、飲料(例えば、液体飲料)のようなものを包含される。より具体的な例としては液状、ペースト状、固形状等の形態でなる、茶飲料、コーヒー飲料、清涼飲料、乳飲料、菓子類、シロップ類、果実加工品、野菜加工品、漬物類、蓄肉製品、魚肉製品、珍味類、缶・ビン詰類、即席飲食物、内服役、肝油ドロップ、口中清涼剤、ゼリーなどが挙げられるが特にこれらに限定されない。本発明の神経突起伸長剤を含有するこのような食品組成物は、当業者に周知の方法を用いて製造され得る。
【0055】
本発明に用いられる第一および第二の神経突起伸長剤は、必要に応じて上記のような食品添加剤として許容され得る添加剤とともに、例えば、神経突起を伸長し得る食品である旨の表示を付した飲食物として用いることができる。このような機能の表示を付した飲食品の例としては、特定保健用食品が挙げられる。なお、上記機能の表示は、神経突起を伸長させ得る食品である旨の表示のみに限定されない。このような表示に付されるべき他の機能の例としては、老年型痴呆症が気になる方の食品である旨;神経疾患でお困りの方の食品である旨;などが挙げられる。表示は、使用者にとって上記のような機能が実質的に理解され得る様式で表されておればよく、例えば、当該食品の外装または内装パッケージ、商品カタログ、ポスターなどに対して行われ得る。
【0056】
さらに別の例として、本発明の第一および第二の神経突起伸長剤が化粧料組成物として用いられる場合、その形態としては、ローション、乳液、クリーム、パウダーなどが挙げられるが、特にこれらに限定はされない。本発明の第一および/または第二の神経突起伸長剤を含有するこのような化粧料組成物は、当業者に公知の手法を用いて製造され得る。
【0057】
本発明の第一および/または第二の神経突起伸長剤は、その使用形態に応じて当該分野で通常用いる方法によって製造され、その形態に応じた方法で適宜に適量摂取また適用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明は実施例によって具体的に記述する。しかし、これによって本発明は制限されるものではい。
【0059】
<実施例1>
5kgのローズマリーの全草を20Lのエタノールに浸漬し、40℃にて72時間抽出を行った。次いで、得られた抽出液を減圧濃縮し、これに2Lの精製水を添加した。次いで、精製水の添加により析出した不溶物をろ過により取り出し、ローズマリー抽出物を得た(105g)。次いで、得られたローズマリー抽出物を酢酸エチルに溶解し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒;酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製することによって、精製物を得た。次いで、HPLCで測定し、得られた精製物が、カルノシン酸であることを確認した。
【0060】
他方、NGFに応答して神経突起を伸長することが知られているラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を、コラーゲンコーティングされた24ウェル培養プレート(IWAKI社製)にて牛胎児血清1%、ウマ血清1%の割合で含有するDMEM培地(GIBCO社製、以後分化培地と省略する)に10細胞/穴になるように播種し、37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。
【0061】
次いで、上記で得られたカルノシン酸を被検物質Aとして、分化培地に対して10μMの濃度になるように含有する分化培地を調製した。次いで、調製した分化培地を上記で予め培養した細胞に添加し、37℃にて5%のCO条件下で2日間培養を行った。培養後、細胞を倒立顕微鏡(TE2000E、NIKON社製)にて200倍の倍率で観察し、次いで、細胞の写真撮影を行った。次いで、ジャグジート.エス.ギル(Jagjit S.Gill)ら、モレキュラー・ブレイン・リサーチ(Molecular Brain Reserarch),1998年,第57巻,p.123−131に記載の方法に準じて、神経突起が伸長している細胞数を目視によりカウントした。次いで、所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率(小数点以下四捨五入)を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した。結果を表1に示す。また、被検物質A(カルノシン酸)を含有した分化培地を添加した細胞の写真を図1に示す。
【0062】
<比較例1>
上記実施例1と同様の条件にて、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。
【0063】
次いで、被検物質無添加の分化培地を調製した。次いで、上記で調製した分化培地を上記実施例1と同様の条件で培養し、次いで、上記と同様に所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した(小数点以下四捨五入)。この結果をコントロールとした。結果を表1に示す。また、被検物質無添加の分化培地を添加した細胞の写真を図2に示す。
【0064】
<比較例2>
上記実施例1と同様の条件にて、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。
【0065】
次いで、分化培地に対して10ng/mlの濃度になるようにNGFを含有する分化培地を調製した。次いで、上記で調製したそれぞれの分化培地を上記実施例1と同様の条件で培養し、次いで、上記と同様に所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率(小数点以下四捨五入)を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した。この結果を陽性対照とした。結果を表1に示す。また、NGFを含有した分化培地を添加した細胞の写真を図3に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、実施例1(被検物質A)の神経突起の伸長した細胞の割合(%)は、比較例1(被検物質無添加)および比較例2(NGF)に比べて高い値であった。また、図1〜3に示されるように、比較例1(被検物質無添加)の神経突起がほとんど伸長していないの対して、実施例1(被検物質A)の神経突起が伸長していることが確認できる。このことから、上記カルノシン酸が細胞での神経突起の伸長作用を有することが分かる。よって、カルノシン酸が神経突起伸長剤として有用であることが分かる。
【0068】
<実施例2>
60gのセージの全草を300mlのエタノールに浸漬し、室温で一晩抽出した。次いで、得られた抽出物を100mlまで減圧濃縮した。次いで、濃縮した抽出物をろ過し、不溶物を除去した。次いで、ろ液に600mlの精製水を添加し、4℃にて一晩静置した。次いで、再びろ過を行って、水不溶物としてセージ抽出物(乾燥重量4g)を得た。
【0069】
他方、NGFに応答して神経突起を伸長することが知られているラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を、コラーゲンコーティングされた24ウェル培養プレート(IWAKI社製)にて牛胎児血清1%、ウマ血清1%の割合で含有するDMEM培地(GIBCO社製、以後分化培地と省略する)に10細胞/穴になるように播種し、37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。次いで、上記で得られたセージ抽出物を被検物質Bとして、分化培地に対して5μg/mlの濃度になるように含有する分化培地を調製した。次いで、上記で調製した分化培地を上記で予め培養した細胞に添加し、37℃にて5%のCO条件下で、2日間培養を行った。次いで、上記と同様に所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率(小数点以下四捨五入)を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した。結果を表2に示す。
【0070】
<比較例3>
上記実施例2と同様の条件にて、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。
【0071】
次いで、被検物質無添加の分化培地を調製した。次いで、上記で調製した分化培地を上記実施例2と同様の条件で培養し、次いで、上記と同様に所定の面積の全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率(小数点以下四捨五入)を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した。この結果をコントロールとした。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示されるように、実施例2(被検物質B)の神経突起の伸長した細胞の割合(%)は、比較例3(被検物質無添加)に比べて高い値であった。このことから、上記セージ抽出物が細胞での神経突起の伸長作用を有することが分かる。よって、セージ抽出物が神経突起伸長剤として有用であることが分かる。
【0074】
<実施例3>
60gのローズマリーの全草を300mlの90%エタノール水溶液に浸漬し、40℃にて48時間抽出を行った。得られた抽出物を100mlまで減圧濃縮した。濃縮後、抽出物をろ過して不溶物を除去した。次いで、ろ液に200mlの精製水を添加し、4℃にて一晩静置した。次いで、再びろ過を行って、水不溶物としてローズマリー抽出物(乾燥重量3.5g)を得た。
【0075】
他方、NGFに応答して神経突起を伸長することが知られているラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を、コラーゲンコーティングされた24ウェル培養プレート(IWAKI社製)にて牛胎児血清1%、ウマ血清1%の割合で含有するDMEM培地(GIBCO社製、以後分化培地と省略する)に10細胞/穴になるように播種し、37℃、5%のCO条件下で二日間培養した。次いで、上記で得られたローズマリー抽出物を被検物質Cとして、分化培地に対して5μg/mlの濃度になるように含有する分化培地を調製した。次いで、上記で調製した分化培地を上記で予め培養した細胞に37℃にて5%のCO条件下で、2日間培養を行った。次いで、上記と同様に所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率(小数点以下四捨五入)を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した。結果を表3に示す。
【0076】
<比較例4>
上記実施例3と同様の条件にて、ラット副腎髄質褐色細胞腫由来の神経細胞株PC12h細胞を37℃にて5%のCO条件下で二日間培養した。
【0077】
次いで、被検物質無添加の分化培地を調製した。次いで、上記で調製したそれぞれの分化培地を上記実施例3と同様の条件で培養し、次いで、上記と同様に所定の面積での全細胞数に対する神経突起が伸長している細胞数の百分率を神経突起の伸長した細胞の割合として算出した(小数点以下四捨五入)。この結果をコントロールとした。結果を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
表3に示されるように、実施例3(被検物質C)の神経突起の伸長した細胞の割合(%)は、比較例4(被検物質無添加)に比べて高い値であった。このことから、上記ローズマリー抽出物が細胞での神経突起の伸長作用を有することが分かる。よって、ローズマリー抽出物が神経突起伸長剤として有用であることが分かる。
【0080】
<実施例4:食品の製造>
実施例3で得たローズマリー抽出物を用いて、以下の組成を有する食品を調製した。
【0081】
成分 重量(g)
ローズマリー抽出物 1.0
大豆サポニン 3.0
黒酢エキス 2.0
リンゴファイバー 2.0
レシチン 1.0
フラクトオリゴ糖 2.0
果糖 1.0
粉末酢 0.1
シクロデキストリン 1.0
蜂蜜 1.0
骨粉 1.0
デキストリン 4.9
【0082】
各成分を混合した後、水を噴霧して造粒を行い、入風温度80℃で乾燥して、顆粒状食品を得た。
【0083】
<実施例5:硬ゼラチンカプセルの製造>
実施例1で得られたカルノシン酸を用いて、以下の組成を有する硬ゼラチンカプセルを調製した。
【0084】
成分 重量(mg/カプセル)
カルノシン酸 20
デンプン 100
セルロース 100
【0085】
各成分を混合し均一に混合した後、ゼラチンカプセルに封入し、硬ゼラチンカプセルを得た。
【0086】
<実施例6:錠剤の製造>
実施例3で得られたセージの抽出物を用いて、以下の組成を有する錠剤を調製した。
【0087】
成分 重量(mg/錠剤)
セージ抽出物 250
セルロース 400
二酸化ケイ素 10
ステアリン酸 5
【0088】
各成分を混合し均一に混合した後、打錠し、錠剤を得た。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、安全性が高く、かつ神経細胞の神経突起を伸長し得る神経突起伸長剤を提供する。本発明の神経突起伸長剤は、医薬品、医薬部外品または食品組成物等として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】実施例1で得られた、カルノシン酸を含有した分化培地を添加した細胞の顕微鏡写真である。
【図2】比較例1で得られた、無添加の分化培地を添加した細胞の顕微鏡写真である。
【図3】比較例2で得られた、NGFを含有した分化培地を添加した細胞の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する、神経突起伸長剤。
【請求項2】
前記抽出物がカルノシン酸を含有する、請求項1に記載の神経突起伸長剤。
【請求項3】
さらに以下の式(I);
【化1】

(ここで、Rは水素原子、分岐または環を形成していてもよいCからCのアルキル基、分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアラルキル基、または分岐していてもよいCからCのアルキル基で置換されていてもよいアリール基である)で表されるカフェ酸またはその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含有する、請求項1に記載の神経突起伸長剤。
【請求項4】
カルノシン酸を有効成分として含有する、神経突起伸長剤。
【請求項5】
前記カルノシン酸が、ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の化合物である、請求項4に記載の神経突起伸長剤。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の神経突起伸長剤を含有する、医薬品組成物。
【請求項7】
ローズマリーおよびセージからなる群より選択される少なくとも1種の植物由来の抽出物を有効成分として含有する、神経突起を伸長させ得る食品である旨の表示を付した飲食物。
【請求項8】
カルノシン酸を有効成分として含有する、神経突起を伸長させ得る食品である旨の表示を付した飲食物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−230945(P2007−230945A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56733(P2006−56733)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】