神経膠腫の治療のための神経フィラメントペプチドの使用
本発明は、最も多く見られるタイプの中枢神経系(CNS)原発腫瘍である悪性神経膠腫を治療するための新しい薬物を提供する。実際、本発明は、単離されたNFL-TBS40-63ペプチドが神経膠腫細胞に対して高度に特異的であり、それらの細胞の中でアポトーシスを誘発することを示す。したがって、これは、悪性神経膠腫を治療するための方法における使用のために、本明細書において提示される。本発明はさらに、インビボもしくはインビトロのいずれかで神経膠腫細胞を特異的に検出するための、または化学的化合物を該腫瘍細胞へと導くための、NFL-TBS40-63ペプチドの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
悪性神経膠腫は、最も多く見られるタイプの中枢神経系(CNS)原発腫瘍である。神経膠芽腫の患者の症状は、中枢神経系のどの部分が影響を受けているかによって変わる。脳神経膠腫は、頭蓋内圧の上昇の結果として、頭痛、悪心および嘔吐、痙攣、ならびに脳神経障害を引き起こし得る。視神経の神経膠腫は視力低下を引き起こし得る。脊髄神経膠腫は、四肢の疼痛、衰弱、またはしびれを引き起こし得る。神経膠腫は血流によっては転移しないが、脳脊髄液を介して広がり、脊髄への「滴下転移」を引き起こし得る。
【0002】
高悪性度の神経膠腫は富血管性腫瘍であり、浸潤する傾向がある。これらは、壊死および低酸素状態の大規模な領域を有する。しばしば、腫瘍増殖は、腫瘍の近傍にある血液脳関門の破壊を引き起こす。概して、高悪性度神経膠腫は、外科的切除後でさえ増殖して元に戻るのがほぼ常である。
【0003】
神経膠腫を治癒させることはできない。高悪性度神経膠腫の患者の予後は、一般に不良であり、高齢患者ほど特にそうである。毎年1万人のアメリカ人が悪性神経膠腫と診断され、診断後1年間生存しているのはそのうちの半分にすぎず、2年後には25%である。未分化星状細胞腫の患者は、約3年間生存する。多形性神経膠芽腫(GBM)の予後はさらに悪い。
【0004】
脳神経膠腫の治療は、位置、細胞型、および悪性度に応じて変わる。しばしば、治療は、外科手術、放射線療法、および化学療法を用いる組合せアプローチである。放射線療法は、外部ビーム放射の形態であるか、または放射線手術を用いた定位的アプローチである。脊髄腫瘍は、外科手術および放射線によって治療することができる。テモゾロミドは、血液脳関門を有効に通過できる化学療法薬であり、治療法において現在使用されている。
【0005】
神経膠芽腫は、成人で最も一般的な原発性CNS悪性神経膠腫であり、症例のほぼ75%を占める。神経画像処理、顕微手術、および放射線照射の改善により、治療は着実に進歩しているものの、神経膠芽腫は依然として不治である。外科手術、放射線療法、および化学療法の組合せにもかかわらず、神経膠芽腫患者の生存期間中央値は約1年に限られており、肉眼的腫瘍切除を含む積極的療法後の5年生存率は10%未満である。神経膠芽腫は、脳における急速で、攻撃的で、かつ浸潤性の増殖が原因で、死亡を引き起こす。従来の治療の失敗は、i)脳内部の腫瘍の不確かな位置、ii)癌細胞すべての完全な切除を妨げる、悪性神経膠腫の浸潤性の性質、およびiii)重度の神経毒性を招く、腫瘍性組織に対する抗腫瘍剤の特異性の不足に帰すことができる。
【0006】
したがって、神経毒性を誘発することなく、神経膠腫、例えば神経膠芽腫を治療できる効率的な抗腫瘍薬が依然として必要とされている。
【0007】
抗腫瘍薬のうちで、有糸分裂阻害剤は重要なクラスである。タキサンファミリーのような薬物は、微小管の過剰な安定性を促進する。一方、ビンカアルカロイド(Vinca alkaloid)は、微小管の脱重合を誘導する。微小管の動態または機能を抑制することによって、このような薬物は、紡錘体機能の混乱、細胞周期の進行の阻止、および最終的にアポトーシスをもたらす(Mollinedo et al., 2003)。
【0008】
WO 2005/121172において、チューブリン結合部位(TBS)に対応し、中間径フィラメントタンパク質(すなわち、神経フィラメント軽鎖タンパク質NFL、ケラチン8、GFAP、およびビメンチン)中に位置する小型ポリペプチドが腫瘍細胞(例えば、MCF7細胞、T98G細胞、LS187細胞、Cos細胞、またはNGP細胞)中に侵入し、そこで、微小管ネットワークを破壊し、それらの生存力を低減させることが最近説明された。より具体的には、Bocquet et al (2009)は、NFLタンパク質の第2のチューブリン結合部位(以下、「NFL-TBS.40-63」と呼ぶ)が、インビトロで神経芽細胞腫細胞株および神経膠芽腫細胞株の分裂増殖を阻害できることを示した。
【0009】
しかしながら、それらの結果に基づいて、インビボ、特に、悪性神経膠腫に由来する細胞株に対するNFL-TBS.40-63の挙動および活性を予想することは不可能であった。
【0010】
実際に、微小管を標的とする薬物に基づいた化学療法の大半は、次の2つの主な理由のために失敗することが周知である:第1に、そのような薬物は、膜貫通排出ポンプの過剰発現または耐性を与えるチューブリンイソタイプおよび/もしくは変異体の発現によって媒介される薬物耐性の発達をしばしばもたらす(Dumontet et al., 1999)。第2に、それらは、癌細胞に対する特異性を欠き、したがって、望まれない毒性を誘発する(Mollinedo et al., 2003)。その結果として、微小管と相互作用する作用物質の使用は、従来の化学療法に対する奏効率が20%未満であり(Hofer et Herrmann, 2001)、それに対する既存の治療が、衰弱を引き起こす毒性副作用を一般に伴う(Cavaletti et al., 1997)悪性神経膠腫の治療に応用されていない。したがって、脳腫瘍分野における主要課題は、正常組織よりも脳腫瘍細胞に対して、微小管を標的とする作用物質よりも、治療効率というより優れた特異性を示す抗腫瘍作用物質を同定することであった。
【0011】
この状況において、本発明者らは、微小管を脱重合させるペプチドが驚くべきことにインビボで神経膠腫細胞に対して独特な特異性を示し、それによって、それらの微小管ネットワークを破壊し、周囲の健常細胞の生存力に明らかに影響を及ぼすことなくそれらの分裂増殖を阻害することを初めて示した。
【0012】
以下に提示する結果から、頭蓋内F98神経膠腫を有するラットに定位脳手術によってこのペプチドが注入された場合、腫瘍の大きさは約50%縮小し、動物の健康状態が有意に改善されることが明らかになる。重要なことには、注入後24日目でさえ腫瘍組織中にのみペプチドが存在したのに対し、正常動物の脳の同じ領域にペプチドが注入された場合にはそれは急速に消失することが、免疫組織化学的染色によって明らかになった。
【0013】
まとめると、これらの結果から、細胞培養物および動物モデルの両方において、本発明において使用されるペプチドが神経膠腫細胞によって選択的に取り込まれ、それらの分裂増殖を有意に低減させることが実証される。したがって、これは、悪性神経膠腫を治療するための有望なチューブリン結合候補物となる。
【発明の概要】
【0014】
第1の局面において、本発明は、悪性神経膠腫、好ましくは脳悪性神経膠腫、より好ましくは多形神経膠芽腫(GBM)を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。
【0015】
第2の局面において、本発明は、インビボまたはインビトロのいずれかで神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用に関する。
【0016】
特定の態様において、前記方法は、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料をインビトロで試験するための方法であって、以下の段階を含む:
a. 試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
b. NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた試料の細胞と混合する段階、
c. 試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、前記アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【0017】
好ましい態様において、前記アミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)それ自体である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ラットの初代星状膠細胞および初代神経細胞と比べて、ラット神経膠腫細胞(F98および9L)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図2】正常なヒト星状膠細胞と比べて、ヒト神経膠腫細胞(U87-MGおよびT98G)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を同様に(either)免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図3】マウス星状膠細胞と比べて、マウス神経膠腫細胞(GL261)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を同様に免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図4】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたラット神経膠腫細胞(F98および9L)ならびにラット初代星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、ラットの星状膠細胞および神経細胞においては破壊されていない(B)。
【図5】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたヒト神経膠腫細胞(U87-MGおよびT98G)ならびにヒト星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、ヒト星状膠細胞においては破壊されていない(B)。
【図6】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたマウス神経膠腫細胞(GL261)およびマウス初代星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、マウス星状膠細胞においては破壊されていない(B)。
【図7】ラット細胞(F98、9L、星状膠細胞、A)、ヒト細胞(U87、T98G、星状膠細胞、B)、およびマウス細胞(GL261、星状膠細胞、C)に対するNFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)のインビトロでの抗増殖活性をタキソール(40nM、72h)、NFL-SCR(100μM、72h)と比べて示す。
【図8A】NFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)はラット神経膠腫細胞のインビトロでのアポトーシスを誘導するが、対応する星状膠細胞のアポトーシスは誘導しないことを明らかにする。
【図8B】NFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)はヒト神経膠腫細胞およびマウス神経膠腫細胞(B)のインビトロでのアポトーシスを誘導するが、対応する星状膠細胞のアポトーシスは誘導しないことを明らかにする。
【図9】注入されたNFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)が、16日目(A)、24日目(B)、または30日目(C)に、冠状切片の腫瘍細胞にのみ局在したことから、このペプチドが、ラットの脳にインビボで予め移植された神経膠腫細胞を選択的に標的とすることを示す。
【図10】NFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)のただ1回の注入が、ラットの脳に予め移植された神経膠腫の増殖に与えるインビボでの抗増殖効果を、16日目、24日目、および30日目の冠状切片において示す(A)。ペプチドで処置した動物または対照動物の16日目、24日目、および30日目の冠状切片から算出した、腫瘍体積の定量(B)。
【図11】神経膠腫に罹患している動物の体重を測定することによって、NFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)のただ1回の注入の治療活性を示す。
【図12】100μMのNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいた、外科手術後に単離した初代ヒト神経膠芽腫細胞のインビトロでの生存を、100μM NFL-SCRペプチドまたは40nMタキソールと比べてMTSアッセイによって評価して示す。
【図13】NFL-TBS40-63ペプチドの取込みが温度およびエネルギーに依存することを示す(A)。(a)および(c):20μMのフルオレセインタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドの存在下、37℃で30分間、神経膠腫細胞をインキュベートした。細胞内ATPプールは、10mMアジ化ナトリウムおよび6mMデオキシグルコースと共に30分間プレインキュベーションすることによって枯渇されるか(白カラム)または枯渇されなかった(黒カラム)。(b)および(d):20μMのフルオレセインタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドの存在下、37℃(黒カラム)または4℃(白カラム)で1時間、神経膠腫細胞をインキュベートした。
【図14A】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。FACSによって細胞蛍光を測定した(A)。
【図14B】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。生きているGL261細胞の画像は、LNC(DiD)のみで処理した細胞よりも、NFL-TBS2ペプチドと結合させた10μLのLNC(DiD)で6時間処理した細胞において蛍光がより強いことを示す(B)。
【図14C】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。LNC(DiD)-NFL-TBS2は、GL261細胞(上の列)およびT98Gヒト神経膠腫細胞(下の列)の両方に取り込まれている(C、白いバー=25μm)。
【図14D】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。LNC(DiD)-NFL-TBS2が、GL261腫瘍細胞を有するC57Bl/6マウスに投与される場合、それらは腫瘍組織中に隔離され(右側)、健常組織中には隔離されない(左側)(D)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
先に言及したように、脳腫瘍の分野における主要課題は、微小管を標的とする作用物質と治療効率は同様であるが、脳腫瘍細胞に対する特異性がより高い作用物質を同定することである。
【0020】
本発明は、Bocquet et al. (2009)において同定された、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位に対応する、微小管を脱重合させるペプチドNFL-TBS40-63の驚くべき選択性を開示する。このペプチドは、i)微小管重合をインビトロで阻害すること、ii)ヒト神経膠芽腫細胞系統(T98G)に侵入すること、ならびにiii)これらの細胞の微小管細胞骨格を破壊することおよびそれらの分裂増殖を阻害することが以前に示されている(Bocquet et al., 2009)。
【0021】
NFL-TBS40-63ペプチドは、24アミノ酸長であり、次の配列を有する。
本出願の文脈において、これは「本発明において使用されるペプチド」と呼ばれる。先に言及したように、これは、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位に対応する(NFLタンパク質のTBS部位のアミノ酸40〜63)。
【0022】
驚くべきことに、本発明において使用されるペプチドは、神経膠腫細胞の分裂増殖に強い影響を及ぼすが、正常な星状膠細胞または神経細胞に対しての効果は乏しいか、そうでなければ検出不可能である。
【0023】
受動拡散によって細胞に入るタキソールまたはビンカアルカロイドのような従来の有糸分裂阻害剤とは異なり(Gottesman MMおよびPastan I, 1993)、本発明において使用されるペプチドは、選択的に神経膠腫細胞に侵入する。ペプチド取込みの免疫蛍光顕微鏡検査とフローサイトメトリー測定の両方によって、星状膠細胞と比べた場合、インビトロで神経膠腫細胞によって優先的に取り込まれることが明らかになった。さらに、FACS解析によって実証された飽和され得る内部移行、ならびにNFL-SCRスクランブルペプチドまたはD-アミノ酸ペプチド類似体の内部移行がないこと、ならびに4℃またはATP枯渇条件においての内部移行がないことが、ひとまとめになって、神経膠腫細胞中へのNFL-TBS40-63ペプチドの能動的かつ選択的な輸送を支持する。この優先的取込みはまた、神経膠腫を有するまたは有さない動物の脳にNFL-TBS40-63ペプチドを注入した場合、インビボでも観察可能である。神経系の他の細胞と比べて、神経膠腫細胞に対してペプチドがこの選択的傾向を示すのは、これらの細胞による細胞表面に発現される受容体の選択的発現に起因する可能性がある。この独特な性質は、神経系の他の細胞に対する毒性が無いことになるため、従来の微小管不安定化剤(すなわちタキサンまたはビンカアルカロイド)と比べると、このペプチドの大きな利点となる。
【0024】
したがって、第1の局面において、本発明は、悪性神経膠腫を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列を提供する。
【0025】
より正確には、この局面において、本発明は、悪性神経膠腫を治療するための薬学的組成物を製造するための、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位(すなわちNFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1))または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。
【0026】
本発明の単離されたアミノ酸配列はNFL-TBS40-63ペプチドを含むが、完全な神経フィラメント軽鎖サブユニットそれ自体であることはできない。これは、このタンパク質はその断片(すなわちNFL-TBS40-63ペプチド)と同じ生物学的活性を有していないためである。特に、完全なNFLタンパク質は、神経膠腫細胞中に侵入することができず、これらの細胞に対して抗増殖活性を有していない。本発明の単離されたアミノ酸配列はNFL-TBS40-63ペプチドを含むが、ただし、それは完全な神経フィラメント軽鎖(NFL)サブユニットそれ自体ではない。
【0027】
一般に、単離されたアミノ酸配列は、100個以下のアミノ酸、好ましくは50個のアミノ酸を含む。
【0028】
好ましい態様において、本発明の単離されたアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる。好ましくは、それは、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体からなる。
【0029】
本発明は、「NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な誘導体」を利用する。本明細書において使用される場合、「ペプチド誘導体」という用語は、それが言及するペプチドの変異体および断片を含む。したがって、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位(すなわちNFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1))の「誘導体」には、NFL-TBS40-63ペプチドの変異体および断片が含まれる。より具体的には、本発明の文脈において、誘導体とは、このペプチドの「生物学的に活性な」変異体および断片、すなわち、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持している変異体および断片を指す。したがって、本発明の文脈において、NFL-TBS40-63ペプチドの「生物学的に活性な」誘導体は、NFL-TBS40-63親ペプチドのように、神経膠腫細胞の分裂増殖を阻害するための高い生物学的能力を示さなければならず、かつ脳の神経膠腫腫瘍細胞に対する高い特異性を示さなければならない。好ましくは、神経膠腫細胞に対するNFL-TBS40-63ペプチドの誘導体の抗増殖効果は、従来の分裂増殖技術によってインビトロで評価した場合に、NFL-TBS40-63親ペプチドの抗増殖効果の少なくとも約70%、好ましくは80%〜90%、より好ましくは90%〜99%、およびさらにより好ましくは100%の抗増殖効果でなければならない。また、NFL-TBS40-63 ペプチドの誘導体は、従来の細胞取込み実験によってインビトロで評価した場合に、好ましくは、神経膠腫細胞に対してNFL-TBS40-63親ペプチドと同じ特異性を有する。
【0030】
好ましい態様において、NFL-TBS40-63ペプチドの誘導体は、NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な断片である。該断片は、NFL-TBS40-63親ペプチドの少なくとも12個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも16個、より好ましくは少なくとも18個のアミノ酸を含み、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持していることを特徴とする。
【0031】
別の好ましい態様において、NFL-TBS40-63ペプチドの誘導体は、NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な変異体である。該変異体は、ペプチドの対立遺伝子変異体またはペプチドのペプチド模倣変異体のいずれかでよい。「ペプチドの対立遺伝子変異体」は、1つまたは複数のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されているかまたは抑制されていることを除いては、NFL-TBS40-63ペプチドと同じアミノ酸配列を有し、最終的なペプチドは、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持している。好ましくは、このような対立遺伝子変異体は、NFL-TBS40-63親ペプチド(SEQ ID NO:1)と比べて、70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、およびさらにより好ましくは95%の同一性を有する。例えば、このような対立遺伝子変異体は、NFL-TBS40-63ペプチドのアミノ酸24個のうちの20個を保持しているウズラの神経フィラメント軽鎖サブユニットのTBSモチーフ(SEQ ID NO:3)であることができる。また、ペプチドの変異体は、ペプチド模倣変異体でもよい。これは、少なくとも1つまたはそれ以上の関心対象の特性、好ましくはその生物学的活性を含む、親ペプチドのいくつかの特性を模倣する有機分子である。好ましいペプチド模倣体は、好ましくは非天然アミノ酸、Lアミノ酸の代わりにDアミノ酸、立体配座の拘束、等配電子置換、環化、または他の改変を用いた、本発明によるペプチドの構造的改変によって得られる。他の好ましい改変には、非限定的に、1つもしくは複数のアミド結合が非アミド結合で置換されているもの、ならびに/または1つもしくは複数のアミノ酸側鎖が異なる化学的単位で置換されているもの、またはN末端、C末端、もしくは1つもしくは複数の側鎖のうちの1つもしくは複数が保護基によって保護されているもの、ならびに/または剛性および/もしくは結合親和性を増大させるために、二重結合および/もしくは環化および/もしくは立体特異性がアミノ鎖に導入されているものが含まれる。さらに他の好ましい改変には、NFL-TBS40-63親ペプチドと比べて、酵素的分解に対する耐性を高めること、生物学的利用能の、より一般的には薬物動態学的特性の改善を意図したものが含まれる。これらの変形のいずれも、当技術分野において周知である。したがって、NFL-TBS40-63ペプチドのペプチド配列を前提として、当業者は、このようなペプチドと同様またはそれより優れた生物学的特徴を有するペプチド模倣体を設計および作製することが可能になる。NFL-TBS40-63ペプチドの好ましいペプチド模倣変異体は、NFL-TBS40-63ペプチドの少なくとも生物学的活性および特異性を保持している。
【0032】
本発明において使用されるペプチド(すなわち、NFL-TBS40-63ペプチドまたはその断片、そのペプチド模倣変異体、もしくは対立遺伝子変異体を含むアミノ酸配列)は、技術分野において認識されている技術を用いて便宜的に合成することができる。
【0033】
本明細書において使用される場合、2つのアミノ酸配列の「同一性の比率」とは、最良のアライメント(最適アライメント)後に得られる、比較される2つの配列において同一であるアミノ酸残基の比率を指し、この比率はあくまでも統計学的であり、2つの配列の差異はランダムに、かつ全長に沿って分布している。2つのアミノ酸配列の配列比較は、例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/b12.htmlで入手可能なBLAST プログラムを用いて実施することができる。使用するパラメーターは初期設定によって与えられるものである(具体的には、パラメーター「オープンギャップペナルティ」は5、「伸長ギャップペナルティ」は2、選択されるマトリックスは、例えば、プログラムによって推奨される「BLOSUM 62」マトリックス、比較する2つの配列の同一性比率はプログラムによって直接算出される)。
【0034】
別の態様において、本発明は、NFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列を少なくとも含む有効量の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することによって、悪性神経膠腫を治療的に処置する方法に関する。
【0035】
悪性神経膠腫は、高悪性度の神経膠腫としても公知である。それらは脳および脊髄を冒し得る。本発明の治療的方法は、上記に定義したように、好ましくは、未分化星状細胞腫(AA)、多形神経膠芽腫(GBM)、退形成性乏突起膠腫(AO)、および退形成性乏突起星細胞腫(AOA)より選択される脳悪性神経膠腫を有する対象、ならびにより好ましくは、多形神経膠芽腫(GBM)を有する対象を治療することを特定の用途とする。
【0036】
好ましい態様において、前記対象は、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット、ネコ、またはイヌ、およびより好ましくはヒトである。
【0037】
このような薬学的組成物は、NFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列および薬学的に許容される担体を含む。
【0038】
本発明の特定の態様において、本発明の薬学的組成物中に含まれる単離されたアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体、および好ましくは、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体である。
【0039】
別の態様において、ペプチドは、放射性の部分、細胞傷害性の構成要素、または(下記の実施例3.4.において示す脂質ナノカプセルのような)適切な担体と物理的または化学的に結合されてよい。本発明のペプチドは、神経膠腫細胞に特異的にこれらの構成要素を導き(address)、それによってそれらに障害を生じさせると思われる。
【0040】
本発明のために、適切な薬学的に許容される担体には、非限定的に次のものが含まれる:水、塩溶液(例えばNaCI)、アルコール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭水化物、例えば、ラクトース、アミロース、またはデンプンなど、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン。薬学的調製物は、滅菌することができ、所望の場合は、活性化合物と有害に反応しない補助剤、例えば、滑沢剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、矯味剤、および/または芳香物質などと混合することができる。所望の場合は、組成物はまた、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含んでよい。組成物は、溶液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤でよい。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなど標準的な担体を含んでよい。いくつかの適切で厳密な製剤が、例えば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, 1995, Mack Publishing Companyに記載されている。
【0041】
薬学的組成物は、個体への静脈内投与用に適応させた組成物として、日常的な手順に従って製剤化することができる。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌済み等張性水性緩衝液に溶かした液剤である。
【0042】
好ましい態様において、本発明の薬学的組成物は、脳内注射、およびより好ましくは腫瘍内注射によって投与することを特定の用途とする液体組成物である。該腫瘍内注射は、例えば、定位脳手術を用いることによって達成することができる。この投与は、脳腫瘍を除去するための外科手術の前または後に実施することができる。前者の場合、組成物によって、腫瘍の増殖を阻害すること、ならびに対象における神経膠腫細胞の播種および強烈な症状の発生を回避することが可能になり;後者の場合、組成物は、外科手術中に除去されなかった神経膠腫細胞すべてを破壊するのに使用され得る。
【0043】
本発明による化合物の有効用量は、例えば、選択された投与法、体重、年齢、性別、および治療される個体の感受性など多数のパラメーターの関数として変動する。したがって、最適用量は、関連するパラメーターの関数として医薬の専門家が個別に決定しなければならない。本明細書において以下に提供する最初の動物試験からヒトでの予想活性用量を予測するために、Rocchetti et al (2007)によって説明されているk2値およびCT値を使用することもできる。
【0044】
動物(例えばラット)を治療するための有効用量は、1回の定位注入(60μl)を用いた約0.1マイクロモル〜5ミリモルの間、好ましくは約0.2〜0.5マイクロモルの間の範囲に渡ることが予見されている。ヒト脳はラット脳よりも平均で700倍重いため、ヒト神経膠腫を治療するための有効用量は約0.07〜0.7mmolの間、好ましくは約0.14mmol〜0.35mmolの間の範囲に渡ることが予見されている。これらの指定の用量は、臨床的治療研究において調整されるべきであることは明らかである。
【0045】
本出願の実験の部分で示すように、NFL-TBS40-63ペプチドは、インビボだけでなくインビトロでも、神経膠腫細胞に特異的に侵入することができる。したがって、アポトーシスによって死滅する前に、神経膠腫細胞は特異的な様式でNFL-TBS40-63ペプチドについて陽性に染色され、他の健常脳細胞(特に星状膠細胞および神経細胞)の中から特定され得る。したがって、NFL-TBS40-63ペプチドは、インビトロまたはインビボのどちらでも、神経膠腫細胞を検出するための有望な手段である。
【0046】
したがって、第2の局面において、本発明は、神経膠腫細胞、好ましくは神経膠芽腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用に関する。
【0047】
意図したアミノ酸配列および生物学的に活性な誘導体の特徴は、先に説明した。
【0048】
好ましい態様において、ペプチドを含む細胞の存在または非存在を従来の技術によって検出するのが容易になるように、該アミノ酸配列は標識される。
【0049】
本明細書において使用される「標識されている」という用語は、検出可能な(好ましくは定量できる)効果を提供するのに使用でき、かつアミノ酸配列に結合させることができる任意の原子または分子を意味する。標識には、色素、32Pのような放射性標識物質、ビオチンのような結合部分、ジゴキシゲニンのようなハプテン、発光性(luminogenic)部分、リン光性部分、または蛍光発生的部分、質量タグ;および単独のまたは蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によって発光スペクトルを抑制もしくは移動させることができるクエンチャーと組み合わせた蛍光色素が含まれるがそれらに限定されるわけではない。該標識は、蛍光、放射能、比色、重量測定、X線回折またはX線吸収、磁性、酵素活性、および質量または質量の影響を受けた挙動の特徴(例えばMALDI飛行時間型質量分析法)などによって、好ましくは蛍光によって検出可能なシグナルを提供し得る。標識は、帯電した部分(正電荷もしくは負電荷)でもよく、あるいは電荷的に中性でもよい。標識は、標識を含む配列が検出可能である限りにおいて、核酸配列またはタンパク質配列を含むか、またはそれらからなってもよい。
【0050】
好ましくは、該標識は蛍光色素である。適切な蛍光色素には、例えば、以下のものが含まれる:
1.フルオレセインおよび誘導体、例えば、ヘキサクロロ-フルオレセイン、テトラクロロ-フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(TAMRA)、CAL FLUOR(登録商標)(BIOSEARCH TECHNOLOGIESから入手可能なCAL Fluor Green 520、CAL FLUOR Gold 540、CAL FLUOR ORANGE 560、CAL FLUOR RED 590、CAL FLUOR RED 635)、カルボキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(6-カルボキシ-2',4,4',5',7,7'-ヘキサクロロフルオレセインのスクシンイミジルエステル(HEX(商標))または6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'ジメトキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(JOE(商標));
2.ローダミンおよび誘導体、例えば、5-または6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン
3.シアニンおよび誘導体、例えば、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5;
4.BODIPY(登録商標)発色団、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,p-メトキシフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5-スチリル-4-ボラ-3a,4-アジアズ(adiaz)-a-S-インダセン-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,7-ジフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,p-エトキシフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン3-プロピオン酸、および4,4-ジフルオロ-5-スチリル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-S-インダセン-プロピオン酸;
5.テキサスレッド(登録商標)および誘導体;
6.APTS、HPTS(CASCADE BLUE(登録商標))のようなピレントリスルホン酸;ならびに
7.エオシンおよび誘導体。
【0051】
より好ましくは、前記蛍光色素は、フルオレセインおよび誘導体、例えば、ヘキサクロロ-フルオレセイン、テトラクロロ-フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(TAMRA)、CAL FLUOR(登録商標)(BIOSEARCH TECHNOLOGIESから入手可能なCAL Fluor Green 520、CAL FLUOR Gold 540、CAL FLUOR ORANGE 560、CAL FLUOR RED 590、CAL FLUOR RED 635)、カルボキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(6-カルボキシ-2',4,4',5',7,7'-ヘキサクロロフルオレセインのスクシンイミジルエステル)(HEX(商標))または6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'ジメトキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(JOE(商標))を含む群において選択される。
【0052】
本発明において、このような蛍光色素で標識されたアミノ酸配列を検出するための好ましい従来の技術には、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡検査法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0053】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を検出するために使用される本発明のアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる。
【0054】
より好ましい態様において、本発明のアミノ酸配列は、例えば、カルボキシフルオレセイン色素またはビオチンタグと結合されたNFL-TBS40-63ペプチドそれ自体である。
【0055】
本発明の別の態様において、本発明は、インビボで神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチドもしくは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用、または言い換えると、インビボで神経膠腫細胞を検出するのに使用するための、NFL-TBS40-63ペプチドもしくは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。
【0056】
これは、医療従事者が腫瘍細胞の位置を正確に推定するのに特に有用となり得る。すなわち、神経膠腫細胞は、元の腫瘍の周辺領域に浸潤することができるため、一般に、限定された領域に位置していない。さらに、神経膠腫細胞のインビボ標識は、外科医が腫瘍組織と健常組織の境界を正確に決定するのを助けることができ、その結果、外科医は健常組織を除去することを回避しつつ腫瘍細胞をより完全に除去することができる。
【0057】
この場合、本発明のアミノ酸配列は、腫瘍細胞の内部にそれが侵入し、外科医がすべての腫瘍細胞だけを除去するのを手引きするように、外科手術に先立って、例えば、1時間前に、脳内および好ましくは腫瘍の近くに投与されなければならない。
【0058】
この特定の態様において、本発明のアミノ酸配列は、好ましくは、外科手術の間に安全な条件で検出できる蛍光色素または発光色素で、直接的にまたは適切な担体(例えばナノカプセル)を介して標識される。
【0059】
例えば、本発明は、以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在をインビボで検出するための方法を提供する:
a)NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、蛍光色素または発光色素で、直接的にまたは適切な担体(例えばナノカプセル)を介して標識する段階、
b)外科手術に先立って、該アミノ酸配列を脳内に注入する段階、
c)神経膠腫細胞を明らかにするために、外科手術の間、特定の波長の光(蛍光色素または発光色素による)を腫瘍領域に当てる段階。
【0060】
別の特定の態様において、本発明は、インビトロで神経膠腫細胞を検出するための、例えば、神経膠腫または少なくとも生物学的試料中の神経膠腫細胞の存在を診断するための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。
【0061】
例えば、本発明は、以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料を試験するためのインビトロの方法を提供する:
1.試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
2.NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた試料の細胞と混合する段階、
3.試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、その前記アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【0062】
本明細書において使用される場合、「生物学的試料」または「試料」という用語は、インビトロで扱われる細胞培養物を指す。培養中の細胞は、系列に由来するもの(lineage origin)または初代に由来するもの(primary origin)のいずれかでよい。この後者の場合、細胞は、生検または外科手術後に動物脳から摘出することができる。
【0063】
本発明のインビトロの方法において、前記アミノ酸配列を含む細胞の比率は、試料中の神経膠腫細胞の比率に「対応する」。これは、本発明において使用されるアミノ酸配列を含む細胞の比率が、生物学的試料中の神経膠腫細胞の比率と同等である(±約5%)ことを意味する。試料中の細胞の絶対数が公知である場合、本発明の方法から、試料中の神経膠腫細胞の絶対数を約5%の誤差範囲で推測することもできる。
【0064】
細胞は適切な培地中に懸濁され、インビトロで増殖される。このような培地は、当業者に周知であり、有利にはグルコースおよびL-グルタミン、ウシ胎児血清(例えば10%)、ならびにペニシリン/ストレプトマイシンを含む。細胞は、5%CO2を満たした加湿インキュベーター中、37℃で保存される。
【0065】
この方法の第1の段階において、本発明のアミノ配列が試料の全細胞と接触することができるように、細胞は、例えば、ボルテックスすることによって懸濁される。
【0066】
好ましくは、添加されるアミノ酸配列の濃度は、1〜200μMの間、およびより好ましくは2〜150μMの間、およびさらにより好ましくは5〜50μMの間で含まれる。
【0067】
好ましくは、アミノ酸配列は、少なくとも30分間、好ましくは1時間、細胞上に添加され、その後、残存する遊離ペプチドを除去するために、細胞は徹底的に洗浄される。
【0068】
この方法において、添加されるアミノ酸配列は、先に説明したように色素もしくは従来のタグ(例えばビオチン)で直接標識されてもよく、または適切な担体(例えばナノカプセル)に結合されてもよい。この場合、アミノ酸配列の存在の解析は、インセルロ(in cellulo)で色素またはタグを検出するための通常手段(例えば、以下の実施例において説明するフローサイトメトリー、免疫化学など)によって実施される。
【0069】
あるいは、添加されるアミノ酸配列は標識されず、その検出は、例えば、そのアミノ酸配列のすべてまたは一部分に対する抗体を用いた従来手段によって間接的に実施される。この場合、間接的検出の従来技術が使用され得る(例えば、フローサイトメトリー、免疫組織化学、ウェスタンブロットなど)。
【0070】
好ましくは、本発明のアミノ酸配列は、直接的にまたは適切な担体を介して蛍光色素に結合され、細胞中のその存在は、(以下の実施例において説明するように)フローサイトメトリーによって明らかにされる。より好ましくは、蛍光色素は、本発明のペプチドに同様に結合される脂質ナノカプセル中に含まれる。
【0071】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を検出するインビトロの方法は、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体を使用する。より好ましくは、それは、カルボキシフルオレセインで標識されたNFL-TBS40-63ペプチドまたはビオチンタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドを使用する。
【0072】
本発明の別の態様において、本発明は、インビトロまたはインビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。言い換えると、本発明は、インビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるのに使用するための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。また、本発明は、それを必要とする対象においてインビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための方法、およびインビトロで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための方法も開示する。
【0073】
このような化学的化合物は、本発明のペプチドに直接結合されてもよく、または本発明のペプチドに結合される適切な担体(例えば、ナノカプセル、リポソーム、ミセル、もしくは当業者に公知である任意の封入手段)中に含まれてもよい。
【0074】
前記化学的化合物は、薬学的化合物および/または蛍光性分子のような標識マーカーでよい。
【0075】
前記薬学的化合物は、好ましくは、細胞傷害性薬物、例えば抗有糸分裂薬物である。
【0076】
後述するように、化学的化合物は、より好ましくは脂質ナノカプセル中に封入される。
【0077】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を標的とするインビトロの方法およびインビボの方法は、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体を使用する。
【0078】
以下の実施例において、NFL-TBS40-63ペプチドの高い特異性および治療効率を説明する。しかしながらそれらは、特に本発明のアミノ酸配列の性質、およびそれを使用するための実験条件に関して、限定的ではない。
【実施例】
【0079】
1. 材料
標識したNFLのチューブリン結合部位(NFL-TBS40-63、SEQ ID NO:1)および同様に標識したスクランブルペプチド(NFL-SCR、SEQ ID NO:2)に対応するビオチン標識したペプチドまたはカルボキシフルオレセイン標識したペプチドはMillegen(トゥールーズ、フランス)によって合成された。これらを濃度1mMまたは5mMで水に溶解した。NFL-TBS-ビオチンペプチドにおいて、ビオチン分子はペプチドのN末端に連結されている。また、カルボキシフルオレセイン分子もペプチドのN末端に連結される。
【0080】
神経膠腫細胞株F98および9LをATCC(マナッサス、VA, USA)から入手した。80〜90%コンフルエントな状態に達するまで、5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むグルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で細胞を増殖させた。
【0081】
ラット初代星状膠細胞は、最初に説明されたように(McCarthyおよびde Vellis, 1980)、大脳皮質の培養物から得た。簡単に説明すると、大脳皮質を新生ラットから解剖して取り出し、組織の均質化、トリプシン処理(trypsination)、および遠心分離後に細胞を回収した。5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むグルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で、それらを3週間増殖させた。
【0082】
Ray et al.1993ならびにKaechおよびBanker 2006に従って、新生ラット脳から海馬神経細胞培養物を調製した。簡単に説明すると、生後2日より若い動物の海馬を回収し、刻み、37℃で1時間、0.01%トリプシン中で消化させた。5μg/mlポリ-l-リジンおよび7μg/mlコラーゲンで予めコーティングしたカバーガラス上に、解離した細胞を2×105/mlの濃度でプレーティングし、5%CO2雰囲気、37℃でインキュベートした。24時間後、プレーティング溶液をB-27ニューロバサル(neurobasal)培地に交換し、2日目に、非神経細胞を排除するためにシトシンアラビノシド(20μM)を添加した。実験は、プレーティング後7日目に実施した。
【0083】
ヒト神経膠芽腫細胞株U87-MGおよびT98GをATCC(マナッサス、VA, USA)から入手した。GL261マウス神経膠腫細胞株は、Dr P Walker(Laboratory of Tumor Immunology, University Hospital Geneva, Switzerland)が快く提供して下さった。ヒト星状膠細胞はLonza Franceから入手した。精製した新生マウス初代星状膠細胞は、最初に説明されたように(McCarthyおよびde Vellis, 1980)、大脳皮質の培養物から機械的解離方法によって得た。
【0084】
ヒト神経膠芽腫細胞、GL261神経膠腫細胞、およびマウス初代星状膠細胞を、80〜90%コンフルエントな状態に達するまで、5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含む、グルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で増殖させた。ヒト星状膠細胞は、AGM SingleQuots増殖因子(Lonza)を添加したAstrocyte Basal Medium(ABM)(Lonza)中で培養した。製造業者の取扱い説明書に従って、細胞を維持した。
【0085】
外科手術中にヒト脳から取り出した組織試料から得た初代ヒト神経膠芽腫細胞を、グルコース、L-グルタミン、10%ウシ胎児血清、10%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むDMEM培地中で培養状態に置く。細胞をMW96中にプレーティングし(細胞20000個/cm2)、5%CO2を満たした加湿インキュベーター中、37℃で増殖させた。プレーティング後48時間目に、ペプチドおよび/または薬物を添加する。
【0086】
以前に説明されているようにして(Heurtault et al., 2002)、脂質ナノカプセル(LNC)を作製した(performed)。簡単に説明すると、室温で、Solutol HS-15、Lipoid S75-3、塩化ナトリウム、Labrafac CC、および水を磁気撹拌(200rpm)によって混合して、水中油型エマルジョンを生じさせた。加熱後、70℃で透明度の間隔(interval)を観察することができ、逆転した相である「油中水」が85〜87℃で得られる。60℃から87℃まで変動する温度サイクルを3回適用し、次いで、最後に温度を低下させる前に、冷水(0℃に近い)12.5mLで混合物を希釈し、15分間撹拌した。最後に希釈する直前にDiDを添加した。LNCの特性決定後、NFL-TBS2(1mM)369μLをLNC(DiD) 1mLに添加し、18℃で24時間、ペプチド吸着させた。次いで、LNCを新たに特性決定した。
【0087】
2. 方法
2.1. 細胞の生存率および分裂増殖の解析
神経膠腫細胞または星状膠細胞の分裂増殖に対するペプチドの影響を、MTS細胞傷害性アッセイおよび細胞数の直接計数によって評価した。MTSアッセイ(Promega)の場合、細胞500個を96ウェルプレートに播種し、37℃で24時間インキュベートし、指定濃度のペプチドで24時間、48時間、および72時間、またはビヒクル(PBSもしくは水)で処理した。培地およびペプチドは毎日交換した。ペプチドはDMEM中で調製し、パクリタキセルを濃度2mMでDMSOに溶解し、さらにDMEM中で希釈した。トリパンブルー染色によって、生存率も決定した。手作業で計数する場合、細胞を0.25%トリプシン/0.53mM EDTAで処理し、遠心分離し、トリパンブルー色素添加後、血球計数器を用いて計数した。毎回、1種類の処理当たり3〜6個のウェルを計数した。
【0088】
細胞の分裂増殖を評価するために、5-ブロモデオキシウリジン(BrdU)免疫組織化学を利用した。細胞をカバーガラスにプレーティングし(platted)、ビオチン標識ペプチド(100μM)を含む培地中で72時間培養し、1mg/mL BrdU(Sigma)の存在下で4時間インキュベートした。次いで、細胞をPBS中で洗浄し、3%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、PBS中1% Triton X-100で10分間透過処理した。細胞を酸性にしてDNAを変性させ(2N HCl、10分)、中和し(0.1Mホウ酸ナトリウム、10分)、次いでPBS中で徹底的にゆすいだ。10%NGSでブロッキング(10分)した後、モノクローナル抗BrdU抗体(1/400)、続いてAlexa 568nm抗マウス抗体(1/200)で細胞を標識した。4'6-ジアミニド(diaminido)-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で核を染色した。染色した細胞をLeica DMI6000倒立顕微鏡を用いて観察した。CoolSNAP HQ2カメラを用いて画像を取得し、Metamorph 7.1.7.0.ソフトウェアを用いて解析した。最低でも200個の細胞をBrdU組込みについて評価し、実験は少なくとも3回繰り返した。
【0089】
2.2. フローサイトメトリーによる細胞取込みの解析
フルオレセイン標識したNFL-TBS40-63ペプチドの内部移行をFACSによって評価するために、35mmシャーレに神経膠腫細胞または星状膠細胞を播種し、フルオレセイン標識した漸増濃度のNFL-TBS40-63ペプチドまたはビヒクル(PBS)を含む培地中、37℃で1時間培養した。37℃で15分間、トリプシン(1mg/mL)と共にインキュベーションする前に、細胞をトリプシン処理し、冷PBS中で2回洗浄した。ペプチド取込みに関して存在し得るエネルギー依存性メカニズムを調査するために、6mMの2-デオキシ-D-グルコースの存在下で、20μMのフルオレセイン標識したNFL-TBS2ペプチド(4℃で15分間のプレインキュベーション後)または10mMアジ化ナトリウムと共に4℃で1時間細胞をインキュベートして、20μMのフルオレセイン標識したNFL-TBS2ペプチドを添加する前に細胞ATPを枯渇させた。次いで細胞を1回洗浄し、50μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma, サン・カンタン・ファラヴィエ(Saint-Quentin Fallavier)、フランス)を含む500μl中に再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターを用いて解析した。各細胞型について実験を3回繰り返した。各実験において、試料1つ当たり20,000個の事象を解析した。
【0090】
2.3. フローサイトメトリーによる細胞死の解析
起こり得るアポトーシス過程を検出するために、35mmシャーレに細胞を播種し、ビオチン標識ペプチド(100μM)またはPBSのみを含む培地において72時間培養した。アポトーシスを誘導するための陽性対照として、パクリタキセル(40nM)を使用した(Terzis et al., 1997)。次いで、細胞をトリプシン処理し、冷PBS中で洗浄し、アネキシン(Annexin)緩衝液に溶かしたAnnexin V-FITC(BD Pharmingen)によって室温で15分間染色した。最後に、50μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma)でそれらを対比染色し、FACSCaliburフローサイトメーターを用いて解析した。各細胞型について実験を3回繰り返した。各実験において、試料1つ当たり20,000個の事象を解析した。
【0091】
2.4. 免疫細胞化学
細胞をカバーガラスにプレーティングし、ビオチン標識ペプチド(10μM)を含む培地中で6時間培養した。PBS洗浄後、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、PBS中で3回洗浄した。次いで、ブロッキング溶液(5%BSA)中で15分間インキュベーションする前に、0.5%トリトンX-100透過処理溶液中で10分間それらをインキュベートし、PBS中で3回洗浄した。神経膠腫細胞および星状膠細胞をマウス抗β-チューブリン抗体(Sigma)1/200と共に、神経細胞をマウス抗βIII-チューブリン抗体1/200と共に、4℃で一晩インキュベートした。Alexa 568nm抗マウス抗体およびストレプトアビジンAlexa 488nm(Molecular Probes)1/200を1時間それぞれ用いてチューブリンおよびビオチン標識ペプチドの位置確認をし、続いてPBS中で洗浄した。これらの調製物を3μMの4'6-ジアミニド-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で5分間対比染色し、PBSで2回洗浄した。カバーグラスに退色防止(antifading)液剤を載せた。
【0092】
Fluoview.3.1.ソフトウェアを用いてOlympus共焦点顕微鏡(BX50)によって、またはLeica DMI6000 倒立顕微鏡によって、観察を実施した。CoolSNAP HQ2カメラを用いて画像を取得し、Metamorph 7.1.7.0.ソフトウェアを用いて解析した。ペプチド染色に関して陽性である細胞および微小管ネットワークが破壊された細胞を計数した。各細胞型について実験を少なくとも3回繰り返し、最低でも200個の細胞を各実験において解析した。
【0093】
2.5. 動物試験
9〜10週齢の同系Fisher344雌ラットをCharles River Laboratories France(ラルブレル(L'Arbresle)、フランス)から入手した。これらの動物を、12時間のオンオフ光サイクルの温度および湿度を管理した部屋で、食物および水には自由に到達できる状態で飼育した。
【0094】
実験手順および動物の世話はすべて、フランス政府の指針に基づいて実施され、動物実験に関する地域倫理委員会(Regional Committee for Ethics on Animal Experiments)によって承認された。
【0095】
70%コンフルエンシーのラットF98細胞をトリプシン処理し、血球計数器で計数し、トリパンブルー排除によって生存率を確認した。DMEM中で細胞を2回洗浄し、DMEMに溶かした5×104細胞/mLの最終懸濁液を得た。ケタミン10%(0.8μl/g)、およびキシラジン2%(0.5μl/g)の混合物を腹腔内注射することによって動物に麻酔をかけた。定位固定枠(David Kopf instruments、タハンガ(Tujunga)、CA, USA)を用いて、皮膚に矢状に切り込みを入れて頭蓋を露出させ、小型の歯科用ドリルを用いて、頭蓋骨のブレグマから1mm腹側かつ2mm外側の位置に穿頭孔を作った。体積10μlのDMEMのみまたは腫瘍細胞500個を含むDMEMを、10μl容Hamiltonシリンジ(Hamiltonガラス製シリンジ700シリーズRN)および32Gの針(Hamilton)を用いて2μl/分の流速で、ラットの線条体中へと頭蓋の外縁から4mm奥の深さに注入した。所定の位置に針をさらに5分間放置して、脳から懸濁液が排出されるのを回避し、次いで、ゆっくりと引き抜いた(0.5mm/分)。
【0096】
神経膠腫移植後6日目に、10μl容Hamilton製シリンジおよび32Gの針を用いて、腫瘍細胞の位置(coordinate)に60μlの輸注を実施した。このシリンジを、ペプチドを含む100μl容Hamilton製22Gシリンジ(Harvard Apparatus, レジュリス(Les Ulis)、フランス)にカニューレ(CoEx(商標) PE/PVCチューブ, Harvard Apparatus)を介して連結した。総体積60μlを達成するために浸透圧ポンプ(Harvard Apparatus)を0.5μl/分の速度で2時間用いて、緩徐な輸注による対流増強送達手順(Slow-infusion Convection-Enhanced Delivery procedure)(CED)を実施した(参照文献)。輸注後、針を除去し、傷口を縫合した。
【0097】
脳内に腫瘍細胞を移植(0日目)した後、ラットを無作為に4グループに分けた。移植後6日目(6日目)に、次のようにラットをCEDによって処置した:グループ1:対照(ビヒクル60μl;n=10);グループ2:1mM NFL-TBS40-63ペプチド60μl(n=7);グループ3:1mM NFL-SCRペプチド60μl(n=7);グループ4:5mM NFL-TBS40-63ペプチド60μl(n=7)。
【0098】
これらの動物の臨床的状態(体重減少、運動失調、および眼窩周囲の出血)を毎日モニターした(Redgate et al., 1991)。片麻痺または少なくとも20%の体重減少になった場合、それらを安楽死させた。16日目、23日目、および30日目(n=3/グループ)に動物を犠死させ、脳を摘出し、-30℃、イソペンタン中で凍結し、-80℃で保存した。
【0099】
凍結した脳をLeicaクリオスタットによって順に薄片に切り、組織形態学および腫瘍体積の測定のために20μm切片をHE染色した。HE染色した切片の画像を、Leica Application Suite 2.8.1ソフトウェアを用いてLeica Z16APOマクロスコープによってキャプチャーした。Image Jソフトウェアを用いて腫瘍領域の輪郭を手作業で描き、測定した。切片の厚さおよび数を知ることにより、各腫瘍の総体積を算出した。1グループにつき3匹の動物の腫瘍体積を測定した。
【0100】
免疫組織化学のために、PBS 5%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングする前に、12μm切片を冷メタノールで10分間固定し、PBS中で3回洗浄した。PBS 5%BSAに溶かしたマウス抗GFAP抗体(Sigma)1/200と共に切片を一晩インキュベートし、次いで、PBSでゆすいだ(5分×3回)。PBS 5%BSA中で1/200に希釈した抗マウス抗体Alexa 568nmおよびストレプトアビジンAlexa 488nm(Molecular Probes)をそれぞれ90分間用いてGFAPおよびビオチン標識ペプチドの位置確認をし、続いてPBS中で洗浄した。これらの調製物を3μMの4'6-ジアミニド-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で5分間対比染色し、PBSで2回洗浄した。スライドに退色防止液剤を載せ、Leica DMR蛍光顕微鏡およびLeica IM500ソフトウェアを用いて観察した。
【0101】
MRIおよび1H磁気共鳴スペクトロスコピー:7Tの垂直型超大口径マグネットを装備したBruker Avance DRX 300(ドイツ)装置を用いてMRIを実施した。緩和促進による高速取得(rapid acquisition with relaxation enhancement)(RARE)シークエンス(TR=2,000ms;平均エコー時間(Tem)=31.7ms;RAREファクター(factor)=8;FOV=3×3cm;マトリックス128×128;9個の連続した1mm薄片、8個取得)を用いて、定性的なT2強調画像を得た。水抑制および心臓トリガリングと共にPRESSシークエンスを用いて、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を実施した(Rapid Biomed GmbH、ドイツ)。次のパラメーターを用いて1Hスペクトルを取得した:TR/TE=1,500/11ms;NEX=128;ボクセルサイズ27μl(3×3×3mm)。
【0102】
2.6. 統計学的解析
データは平均値S.E.M.(バー)として表す。細胞計数、細胞生存率データ、腫瘍体積を、Prismバージョン3.00(GraphPad Software、サンディエゴ, CA)を用いてスチューデントのt検定によって解析した。アスタリスクは、対照と比べた有意性のレベルを示す:*、p<0.05;**、p<0.005;***、p<0.0001。
【0103】
3. 結果
3.1. インビトロにおける神経膠腫細胞に対するNFL-TBS40-63の特異性
3.1.1. 侵入の特異性
脳由来の様々な細胞型に対するNFL-TBS40-63(10μM)の特異性を評価するために、ラット神経膠腫細胞F98および9L、ならびにラットの星状膠細胞および神経細胞の初代培養物に対する影響を免疫蛍光顕微鏡検査によって解析した。
【0104】
画像解析および細胞計数により、全細胞の50%超が、検出可能な量のNFL-TBS40-63ペプチドを含んでいることが示された(F98では53.5%±1.5、9Lでは58.2%±9)。同様の用量において、星状膠細胞(9%±4.6)または神経細胞(17.9%±5.9)へのこのペプチドの侵入ははるかに少ない(図1A)。
【0105】
興味深いことに、ヒト由来細胞およびマウス由来細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図2Aおよび図3A)。
【0106】
蛍光活性化セルソーター(FACS)測定を実施して、カルボキシフルオレセインタグ付きペプチドの細胞取込みをさらに定量した。膜に結合した蛍光色素と内部移行した蛍光色素とを区別するために、FACS解析前に細胞のトリプシン処理を実施して、ペプチドの表面結合を回避しておいた。50μMペプチドと共に細胞を1時間インキュベーションした後、89.6%±2.5のF98神経膠腫細胞および100%±0の9L神経膠腫細胞がNFL-TBS40-63ペプチドを含んでいたのに対し、陽性の星状膠細胞はわずか28.0%±2.5である(図1B)。
【0107】
これらのデータから、NFL-TBS40-63ペプチドがラット神経膠腫細胞に優先的に侵入することが示される。
【0108】
興味深いことに、ヒト悪性神経膠腫細胞およびマウス悪性神経膠腫細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図2Bおよび図3B)。
【0109】
神経膠腫細胞をペプチドと共に4℃でインキュベートした場合、またはアジ化ナトリウムおよびデオキシグルコースと共に細胞をプレインキュベーションすることによってATPプールを枯渇させた場合、NFL-TBS2取込みの顕著な減少が観察されたことから、エネルギー依存性の内部移行メカニズムが示唆される(図13A)。さらに、T98G細胞を10μMのDアミノ酸ペプチド類似体で処理し、免疫細胞化学によって解析した場合、ペプチドの内部移行が大幅に減少することから、エンドサイトーシスによる受容体媒介性内部移行が示唆される(図13B)。
【0110】
最終的に、このペプチドはまた、外科手術後に単離された初代ヒト神経膠芽腫細胞にも特異的に侵入する(データ不掲載)。
【0111】
まとめると、重要なことには、これらのインビトロでの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドが、初代神経膠腫細胞だけでなく細胞系統のヒト、ラット、およびマウスに由来する神経膠腫細胞にも特異的に侵入することが示される。これに反して、これらの結果から、脳中に存在する非腫瘍細胞、すなわち星状膠細胞および神経細胞中にはNFL-TBS40-63ペプチドが入らないことが指摘される。この結果は、F98神経膠芽腫を有するラットのインビボモデルにおいてさらに確認される(実施例の3.2.の部分を参照されたい)。
【0112】
3.1.2. NFL-TBS40-63の存在下における悪性神経膠腫細胞の生存率の低下
ラット神経膠腫細胞(F98および9L)ならびに星状膠細胞を、様々な濃度(0μM、20μM、50μM、および100μM)のNFL-TBS40-63ペプチドまたはその対照であるスクランブル配列(NFL-SCR)で様々な時間(24時間、48時間、および72時間)処理した。タキソール(40nM)を細胞傷害性に関する陽性対照として使用した。生存細胞がそれらのミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ酵素によってMTSをホルマザンに変換する能力に基づくMTS細胞傷害性アッセイを用いた。100μMのNFL-TBS.40-63ペプチドによって72時間処理した後、2種のラット神経膠腫細胞株の細胞生存率が、F98の場合60.8%±2.8、9Lの場合30.0%±4.4有意に減少していることが判明した(図4A)。
【0113】
これらの結果は、ヒト悪性神経膠腫細胞およびマウス悪性神経膠腫細胞を用いて再現された(それぞれ図5Aおよび図6Aを参照されたい)。
【0114】
さらに、外科手術後に単離された初代ヒト神経膠芽腫細胞の細胞生存率もまた、NFL-TBS.40-63ペプチドの影響を大きく受ける:NFL-TBS.40-63ペプチド(100μM)と共に72時間インキュベーションした後、細胞生存率は50%減少する。興味深いことに、40nMタキソールで細胞を処理した場合に細胞生存率は同じレベルであることから、NFL-TBS.40-63ペプチドは、微小管を脱重合させるこの周知の薬物と少なくとも同じ効果を細胞生存率に対して示すことが示唆される(図12を参照されたい)。
【0115】
また、トリパンブルー色素排除試験によっても細胞生存率を評価した。この負電荷を持った発色団は、細胞の膜が損傷している場合にのみ細胞に侵入する。ゆえに、この色素を排除する細胞はすべて生存能力がある。NFL-TBS40-63ペプチドがラット神経膠腫、ヒト神経膠腫、およびマウス神経膠腫の生存率に大きな影響を及ぼすのに対し、星状膠細胞は影響を受けないことが観察されている(データ不掲載)。
【0116】
NFL-TBS.40-63ペプチドの存在下で神経膠腫細胞の細胞生存率が減少することの説明となる可能性があるメカニズムを研究するために、これらの細胞の微小管細胞骨格を免疫組織化学によって評価した。
【0117】
未処理のF98細胞および9L細胞は大型で、密集した微小管ネットワークで満たされていたのに対し、NFL-TBS.40-63を含むものは非定型な球状の形状を示し、それらのチューブリンが細胞質内ペプチドと共凝集していた(図示せず)。このような変化は、全F98細胞の82%±3および全9L細胞の76.7%±5.8において観察された。一方、NFL-TBS.40-63ペプチドは星状膠細胞(4.7%±0.6)および神経細胞(8.5%±1.5)にはわずかにしか影響を及ぼさなかった。さらに、スクランブルペプチドNFL-SCRは、神経膠腫細胞、星状膠細胞、および神経細胞の微小管ネットワークを変化させなかった(図4B)。ヒト由来細胞およびマウス由来細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図5Bおよび図6B)。
【0118】
まとめると、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドは微小管細胞骨格を破壊し、ヒト由来、ラット由来、またはマウス由来いずれかの神経膠腫細胞の生存率を減少させるのに対し、脳中に同様に存在する非腫瘍細胞、例えば星状膠細胞および神経細胞の微小管細胞骨格および生存率には影響を及ぼさないことが示される。重要なことには、この結果はまた、腫瘍を有していない(対照)ラットにおいてもインビボで再現されており、その際、ペプチドは基本的にまったく影響を及ぼさず迅速に排除される(実施例の3.2.を参照されたい)。
【0119】
3.1.3. 抗増殖効果の特異性
MTSアッセイおよびトリパンブルー試験によって、NFL-TBS40-63ペプチドが生細胞数の減少を引き起こすことが示された。この減少が1)細胞分裂増殖の減少(細胞増殖抑制効果)、2)細胞死をもたらす毒性(細胞傷害効果)、または3)これら2種の効果の組合せを反映しているのかどうかを判定するために、異なる細胞型(ラットの神経膠腫細胞株および星状膠細胞)の分裂増殖に対するペプチドの影響を、チミジン類似体であるブロモデオキシウリジン(BrdU)のDNA中への組込みを測定することによって解析した。これにより、BrdU処理中のS期の細胞数、その結果、分裂増殖中の細胞の数が明らかになる。
【0120】
100μMのNFL-TBS40-63ペプチドでラット神経膠腫細胞を処理すると、検査したこれら2種の株におけるBrdU組込みが大幅に減少した(F98細胞では78.2%±3.0の阻害、9L細胞では34.8%±2.6の阻害)(図7A)ことから、分裂増殖中の細胞の数が少なくなっていることが示された。これとは大いに対照的に、ラット星状膠細胞を同様に処理しても、それらの分裂増殖に影響を与えなかった。さらに、NFL-SCRペプチドは、これらの細胞すべてに対して影響を及ぼさなかった。
【0121】
ヒト由来細胞およびマウス由来細胞を試験した場合、同様の結果が得られた(それぞれ図7Bおよび図7C)。
【0122】
結論づけると、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドはヒト由来、ラット由来、またはマウス由来いずれかの神経膠腫細胞の生存率を特異的に減少させることが示される。これに反して、それは、脳中に同様に存在する非腫瘍細胞、例えば星状膠細胞の生存率には影響を及ぼさない。
【0123】
3.1.4. 悪性神経膠腫細胞におけるアポトーシスの特異的誘導
BrdU染色解析により、神経膠腫細胞に対するNFL-TBS.40-63ペプチドの細胞増殖抑制効果が実証された。微小管結合薬は、分裂増殖を停止させ、アポトーシスによる細胞死を誘導することが公知である。MTSアッセイおよびトリパンブルー試験を用いて観察された生存神経膠腫細胞の数の減少もまた、細胞死(細胞傷害効果)と関連しているかどうかを検査するために、F98神経膠腫細胞、9L神経膠腫細胞、または星状膠細胞を100μMのペプチドと共に72時間インキュベートし、次いで、回収し、ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシンVで染色した。次いで、FACS解析によってアポトーシス定量を評価した。膜が無傷の生細胞はPIを排除するのに対し、死細胞および損傷された細胞の膜はPIに対して透過性である。さらに、膜リン脂質ホスファチジルセリン(PS)は、アポトーシス細胞において、内部から外部細胞環境である外層(outer leaflet)へと移動され、したがって、アネキシンVタンパク質染色 (PSに対して高い親和性を有し、露出したPSを有する細胞に結合する)を用いてアポトーシス細胞を検出することができる。
【0124】
図8Aに示すように、NFL-TBS40-63処理後、早期アポトーシス段階または後期アポトーシス段階(死細胞とみなされる)のF98細胞の比率は、陰性対照よりそれぞれ233.5%±43.3および347.7%±32.6高かった。同様に、9L細胞も、そのような処理後に早期アポトーシス(712.1%±581.3)および後期アポトーシス(233.6%±82.3)の数の増加を示した。NFL-TBS40-63ペプチドに対するアポトーシス性応答は、F98神経膠腫(-37.6%±5.0)および9L神経膠腫(-32.6%±7.4)の両方において、陰性対照と比べて有意な生細胞数の減少と相関関係があった。一方、初代星状膠細胞はNFL-TBS40-63ペプチドに対して感受性ではなかった。同じ濃度のNFL-SCRペプチドはこれらの様々な細胞型に対して影響を及ぼさなかった。
【0125】
ヒト由来細胞またはマウス由来細胞を試験した場合、同様の結果が得られた(図8B)。
【0126】
結論づけると、これらの結果から、神経膠腫細胞の分裂増殖に対するNFL-TBS40-63ペプチドの阻害効果は、活性アポトーシスメカニズム、すなわち、抗有糸分裂薬物で処理した場合に様々な癌細胞、特に神経膠芽腫細胞が共有する細胞死メカニズム(Wang et al., 2000)によって媒介されることが実証される。言い換えると、したがってNFL-TBS40-63ペプチドは、アポトーシスによって神経膠腫細胞の死を誘導することができるが、正常な健常脳細胞には影響を及ぼさない。
【0127】
3.2. インビボの神経膠腫細胞におけるNFL-TBS40-63の侵入特異性
インビトロの実験により、星状膠細胞または神経細胞と比べた場合、神経膠腫細胞によってNFL-TBS40-63ペプチドが選択的に取り込まれることが示された。ペプチドがインビボでも腫瘍細胞のみを標的とし、それらの分裂増殖を選択的に阻害できるかどうかを、F98神経膠腫を有するラットを用いてさらに試験した。
【0128】
定位脳手術によって線条体にF98神経膠腫を注入し(0日目)、6日後に、60μLの5mM NFL-TBS40-63ペプチド(またはビヒクル)の脳内注射によって動物を処置した。16日目、24日目、または30日目に、ラットを安楽死させ、抗GFAPを用いてNFL-TBS40-63ペプチドおよび神経膠腫細胞を検出するために、連続した脳冠状切片を解析した。細胞核はまた、DAPIによって対比染色した。
【0129】
図9に示すように、NFL-TBS40-63ペプチド(緑色蛍光)は各時点の神経膠腫細胞において検出され、周囲の健常細胞においては検出されなかった(ペプチドはGFAP染色と共局在する)。
【0130】
重要なことには、腫瘍を有していない(対照)ラットを同じ手順に従って処置した場合、NFL-TBS40-63ペプチドは迅速に排除され、これらの時点に検出不可であった。さらに、正常脳に注入された場合、重大な細胞欠陥を検出することも、ペプチドの存在と関連付けることもできなかった。生理学的観点では、腫瘍を有していない(対照)これらのラットをNFL-TBS40-63ペプチドで処置した場合、体重減少または背中を丸めた姿勢など苦痛の臨床徴候は認められなかった。
【0131】
まとめると、これらのデータから、NFL-TBS40-63ペプチドが、インビボで神経膠腫細胞に特異的に侵入し、健常細胞は避けることが示唆される。NFL-TBS40-63ペプチドの方が、微小管を標的とする他の薬物(例えばパクリタキセル、Cavaletti et al, 1997)よりも毒性副作用がはるかに少ないという結論にこれはつながるため、このことは特に興味深い。これをより強く裏付ける(strengthen)ために、NFL-TBS40-63ペプチドを正常脳に注入した場合に、それが実際に迅速に排除されて、低い毒性に有利であることが示されている。微小管を標的とする他の薬物とは異なり、微小管を標的とするNFL-TBS40-63ペプチドが腫瘍を有していない(対照)ラットに注入された場合に、いかなる明らかな影響も引き起こさないのはこのためである。
【0132】
3.3. NFL-TBS40-63の脳内投与により、インビボでの腫瘍増殖が低減する
NFL-TBS40-63ペプチドが、ラットに移植された神経膠腫の増殖も阻害できるかどうかをさらに試験するために、連続切片をHEで染色し、ImageJを用いた形態計測によって腫瘍サイズを評価した(図10Aの冠状切片の例を参照されたい)。
【0133】
NFL-TBS40-63ペプチドを1回注入して処置した動物は、未処置動物で観察された腫瘍よりも有意に小さな腫瘍を提示した。実際のところ、ペプチドで処置した動物は、16日目に(ビヒクルで処置した動物と比べて)71.7%±18.9の腫瘍体積減少、24日目に72.0%±21.2の減少、30日目に42.8%±11.3の減少を示した(図10B)。
【0134】
また、同じ動物グループに対してMRI解析を用いることにより、同様の腫瘍抑制が観察された。この腫瘍の体積は、未処置動物と比べた場合、NFL-TBS40-63ペプチドで処置した動物において減少している(図示せず)。
【0135】
また、ラットの体重減少もしっかりとモニターした。体重減少は、注入された作用物質の治療的効果を反映する腫瘍増殖の間接的指標である。動物の毎日の計量により、未処置動物と比べた場合、NFL-TBS40-63で処置した動物の体重減少は有意に少ないことが示された(図11)。
【0136】
まとめると、上記に提供した結果から、NFL-TBS40-63ペプチドの以下の有効な能力が強調される:
a)腫瘍内に注入された場合に、インビボで神経膠腫細胞に侵入する能力、
b)侵入先の神経膠腫細胞のアポトーシスを誘導する能力、
c)脳の他の非腫瘍領域に影響を及ぼすのを回避する能力、
d)わずか1回の注入によってインビボで神経膠腫の進行を阻害する能力。
【0137】
3.4. 神経膠腫細胞へとナノカプセルをターゲティングさせるためのNFL-TBS2ペプチドの使用
親油性蛍光色素を含む脂質ナノカプセルを得、NFL-TBS2ペプチドと結合させるか、または結合させなかった。3種の神経膠腫細胞株(GL261細胞、T98G細胞、およびU87-MG細胞)を、NFL-TBS2ペプチドと結合された親油性蛍光色素(DiD)またはNFL-TBS2ペプチドと結合されていない親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で1時間または6時間処理した。FACS(図14A)、および生細胞(図14B)または固定細胞(図14C)の共焦点顕微鏡検査によって、NFL-TBS2と結合されたLNCを用いると神経膠腫細胞株の標的化が改善されることが観察された。
【0138】
GL261腫瘍を有するC57Bl/6マウスにおいて、インビボ実験も実施した。腫瘍を検出するために、脳の連続切片をDAPIで、または神経膠芽腫のような神経膠の腫瘍において高発現される中間径フィラメントであるGFAP(Glial Fibrillary Acid Protein)に対する抗体を用いて標識した。重要なことには、LNC(DiD)-NFL-TBS2が、腫瘍を有するマウスに定位注入によって脳内投与される場合、LNCは神経膠腫細胞に到達することができ(図14Dの画像の右を参照されたい)、それらは腫瘍組織中に隔離されたままである(それらは健常組織中では観察されない)。
【0139】
したがって、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドを動物またはヒトのいずれかにおいて神経膠腫腫瘍を治療するための非常に有望な手段とみなすことが可能になる。腫瘍サイズを縮小するにあたってのその治療的効率に加えて、NFL-TBS40-63ペプチドは、この種の(微小管を標的とする)薬物に通常付随する強い神経毒性を示さない。したがって、これは、神経膠腫に罹患している患者を治療するための将来の治療作用物質として包含される。
【0140】
参照文献
【背景技術】
【0001】
発明の背景
悪性神経膠腫は、最も多く見られるタイプの中枢神経系(CNS)原発腫瘍である。神経膠芽腫の患者の症状は、中枢神経系のどの部分が影響を受けているかによって変わる。脳神経膠腫は、頭蓋内圧の上昇の結果として、頭痛、悪心および嘔吐、痙攣、ならびに脳神経障害を引き起こし得る。視神経の神経膠腫は視力低下を引き起こし得る。脊髄神経膠腫は、四肢の疼痛、衰弱、またはしびれを引き起こし得る。神経膠腫は血流によっては転移しないが、脳脊髄液を介して広がり、脊髄への「滴下転移」を引き起こし得る。
【0002】
高悪性度の神経膠腫は富血管性腫瘍であり、浸潤する傾向がある。これらは、壊死および低酸素状態の大規模な領域を有する。しばしば、腫瘍増殖は、腫瘍の近傍にある血液脳関門の破壊を引き起こす。概して、高悪性度神経膠腫は、外科的切除後でさえ増殖して元に戻るのがほぼ常である。
【0003】
神経膠腫を治癒させることはできない。高悪性度神経膠腫の患者の予後は、一般に不良であり、高齢患者ほど特にそうである。毎年1万人のアメリカ人が悪性神経膠腫と診断され、診断後1年間生存しているのはそのうちの半分にすぎず、2年後には25%である。未分化星状細胞腫の患者は、約3年間生存する。多形性神経膠芽腫(GBM)の予後はさらに悪い。
【0004】
脳神経膠腫の治療は、位置、細胞型、および悪性度に応じて変わる。しばしば、治療は、外科手術、放射線療法、および化学療法を用いる組合せアプローチである。放射線療法は、外部ビーム放射の形態であるか、または放射線手術を用いた定位的アプローチである。脊髄腫瘍は、外科手術および放射線によって治療することができる。テモゾロミドは、血液脳関門を有効に通過できる化学療法薬であり、治療法において現在使用されている。
【0005】
神経膠芽腫は、成人で最も一般的な原発性CNS悪性神経膠腫であり、症例のほぼ75%を占める。神経画像処理、顕微手術、および放射線照射の改善により、治療は着実に進歩しているものの、神経膠芽腫は依然として不治である。外科手術、放射線療法、および化学療法の組合せにもかかわらず、神経膠芽腫患者の生存期間中央値は約1年に限られており、肉眼的腫瘍切除を含む積極的療法後の5年生存率は10%未満である。神経膠芽腫は、脳における急速で、攻撃的で、かつ浸潤性の増殖が原因で、死亡を引き起こす。従来の治療の失敗は、i)脳内部の腫瘍の不確かな位置、ii)癌細胞すべての完全な切除を妨げる、悪性神経膠腫の浸潤性の性質、およびiii)重度の神経毒性を招く、腫瘍性組織に対する抗腫瘍剤の特異性の不足に帰すことができる。
【0006】
したがって、神経毒性を誘発することなく、神経膠腫、例えば神経膠芽腫を治療できる効率的な抗腫瘍薬が依然として必要とされている。
【0007】
抗腫瘍薬のうちで、有糸分裂阻害剤は重要なクラスである。タキサンファミリーのような薬物は、微小管の過剰な安定性を促進する。一方、ビンカアルカロイド(Vinca alkaloid)は、微小管の脱重合を誘導する。微小管の動態または機能を抑制することによって、このような薬物は、紡錘体機能の混乱、細胞周期の進行の阻止、および最終的にアポトーシスをもたらす(Mollinedo et al., 2003)。
【0008】
WO 2005/121172において、チューブリン結合部位(TBS)に対応し、中間径フィラメントタンパク質(すなわち、神経フィラメント軽鎖タンパク質NFL、ケラチン8、GFAP、およびビメンチン)中に位置する小型ポリペプチドが腫瘍細胞(例えば、MCF7細胞、T98G細胞、LS187細胞、Cos細胞、またはNGP細胞)中に侵入し、そこで、微小管ネットワークを破壊し、それらの生存力を低減させることが最近説明された。より具体的には、Bocquet et al (2009)は、NFLタンパク質の第2のチューブリン結合部位(以下、「NFL-TBS.40-63」と呼ぶ)が、インビトロで神経芽細胞腫細胞株および神経膠芽腫細胞株の分裂増殖を阻害できることを示した。
【0009】
しかしながら、それらの結果に基づいて、インビボ、特に、悪性神経膠腫に由来する細胞株に対するNFL-TBS.40-63の挙動および活性を予想することは不可能であった。
【0010】
実際に、微小管を標的とする薬物に基づいた化学療法の大半は、次の2つの主な理由のために失敗することが周知である:第1に、そのような薬物は、膜貫通排出ポンプの過剰発現または耐性を与えるチューブリンイソタイプおよび/もしくは変異体の発現によって媒介される薬物耐性の発達をしばしばもたらす(Dumontet et al., 1999)。第2に、それらは、癌細胞に対する特異性を欠き、したがって、望まれない毒性を誘発する(Mollinedo et al., 2003)。その結果として、微小管と相互作用する作用物質の使用は、従来の化学療法に対する奏効率が20%未満であり(Hofer et Herrmann, 2001)、それに対する既存の治療が、衰弱を引き起こす毒性副作用を一般に伴う(Cavaletti et al., 1997)悪性神経膠腫の治療に応用されていない。したがって、脳腫瘍分野における主要課題は、正常組織よりも脳腫瘍細胞に対して、微小管を標的とする作用物質よりも、治療効率というより優れた特異性を示す抗腫瘍作用物質を同定することであった。
【0011】
この状況において、本発明者らは、微小管を脱重合させるペプチドが驚くべきことにインビボで神経膠腫細胞に対して独特な特異性を示し、それによって、それらの微小管ネットワークを破壊し、周囲の健常細胞の生存力に明らかに影響を及ぼすことなくそれらの分裂増殖を阻害することを初めて示した。
【0012】
以下に提示する結果から、頭蓋内F98神経膠腫を有するラットに定位脳手術によってこのペプチドが注入された場合、腫瘍の大きさは約50%縮小し、動物の健康状態が有意に改善されることが明らかになる。重要なことには、注入後24日目でさえ腫瘍組織中にのみペプチドが存在したのに対し、正常動物の脳の同じ領域にペプチドが注入された場合にはそれは急速に消失することが、免疫組織化学的染色によって明らかになった。
【0013】
まとめると、これらの結果から、細胞培養物および動物モデルの両方において、本発明において使用されるペプチドが神経膠腫細胞によって選択的に取り込まれ、それらの分裂増殖を有意に低減させることが実証される。したがって、これは、悪性神経膠腫を治療するための有望なチューブリン結合候補物となる。
【発明の概要】
【0014】
第1の局面において、本発明は、悪性神経膠腫、好ましくは脳悪性神経膠腫、より好ましくは多形神経膠芽腫(GBM)を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。
【0015】
第2の局面において、本発明は、インビボまたはインビトロのいずれかで神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用に関する。
【0016】
特定の態様において、前記方法は、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料をインビトロで試験するための方法であって、以下の段階を含む:
a. 試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
b. NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた試料の細胞と混合する段階、
c. 試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、前記アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【0017】
好ましい態様において、前記アミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)それ自体である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ラットの初代星状膠細胞および初代神経細胞と比べて、ラット神経膠腫細胞(F98および9L)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図2】正常なヒト星状膠細胞と比べて、ヒト神経膠腫細胞(U87-MGおよびT98G)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を同様に(either)免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図3】マウス星状膠細胞と比べて、マウス神経膠腫細胞(GL261)におけるNFL-TBS40-63ペプチド(10μM、6h)のインビトロでの侵入特異性を同様に免疫組織化学によって解析して示す(A)。様々な用量のNFL-TBS40-63ペプチド(1μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、1h、37℃)の細胞取込みをフローサイトメトリーによってさらに解析する(B)。
【図4】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたラット神経膠腫細胞(F98および9L)ならびにラット初代星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、ラットの星状膠細胞および神経細胞においては破壊されていない(B)。
【図5】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたヒト神経膠腫細胞(U87-MGおよびT98G)ならびにヒト星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、ヒト星状膠細胞においては破壊されていない(B)。
【図6】様々な濃度のNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいたマウス神経膠腫細胞(GL261)およびマウス初代星状膠細胞のインビトロでの生存をMTSアッセイによって評価して示す(A)。免疫組織化学によって評価したところ、微小管細胞骨格は、神経膠腫細胞において完全に破壊されているが、マウス星状膠細胞においては破壊されていない(B)。
【図7】ラット細胞(F98、9L、星状膠細胞、A)、ヒト細胞(U87、T98G、星状膠細胞、B)、およびマウス細胞(GL261、星状膠細胞、C)に対するNFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)のインビトロでの抗増殖活性をタキソール(40nM、72h)、NFL-SCR(100μM、72h)と比べて示す。
【図8A】NFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)はラット神経膠腫細胞のインビトロでのアポトーシスを誘導するが、対応する星状膠細胞のアポトーシスは誘導しないことを明らかにする。
【図8B】NFL-TBS40-63ペプチド(100μM、72h)はヒト神経膠腫細胞およびマウス神経膠腫細胞(B)のインビトロでのアポトーシスを誘導するが、対応する星状膠細胞のアポトーシスは誘導しないことを明らかにする。
【図9】注入されたNFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)が、16日目(A)、24日目(B)、または30日目(C)に、冠状切片の腫瘍細胞にのみ局在したことから、このペプチドが、ラットの脳にインビボで予め移植された神経膠腫細胞を選択的に標的とすることを示す。
【図10】NFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)のただ1回の注入が、ラットの脳に予め移植された神経膠腫の増殖に与えるインビボでの抗増殖効果を、16日目、24日目、および30日目の冠状切片において示す(A)。ペプチドで処置した動物または対照動物の16日目、24日目、および30日目の冠状切片から算出した、腫瘍体積の定量(B)。
【図11】神経膠腫に罹患している動物の体重を測定することによって、NFL-TBS40-63ペプチド(5mM/60μL)のただ1回の注入の治療活性を示す。
【図12】100μMのNFL-TBS40-63ペプチドの存在下に72時間おいた、外科手術後に単離した初代ヒト神経膠芽腫細胞のインビトロでの生存を、100μM NFL-SCRペプチドまたは40nMタキソールと比べてMTSアッセイによって評価して示す。
【図13】NFL-TBS40-63ペプチドの取込みが温度およびエネルギーに依存することを示す(A)。(a)および(c):20μMのフルオレセインタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドの存在下、37℃で30分間、神経膠腫細胞をインキュベートした。細胞内ATPプールは、10mMアジ化ナトリウムおよび6mMデオキシグルコースと共に30分間プレインキュベーションすることによって枯渇されるか(白カラム)または枯渇されなかった(黒カラム)。(b)および(d):20μMのフルオレセインタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドの存在下、37℃(黒カラム)または4℃(白カラム)で1時間、神経膠腫細胞をインキュベートした。
【図14A】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。FACSによって細胞蛍光を測定した(A)。
【図14B】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。生きているGL261細胞の画像は、LNC(DiD)のみで処理した細胞よりも、NFL-TBS2ペプチドと結合させた10μLのLNC(DiD)で6時間処理した細胞において蛍光がより強いことを示す(B)。
【図14C】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。LNC(DiD)-NFL-TBS2は、GL261細胞(上の列)およびT98Gヒト神経膠腫細胞(下の列)の両方に取り込まれている(C、白いバー=25μm)。
【図14D】NFL-TBS2ペプチドが、神経膠腫細胞における脂質ナノカプセル(LNC)を標的とした取込みを改善するのに使用され得ることを示す。親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で、GL261細胞を6時間、U87-MG細胞を1時間または6時間処理した。LNC(DiD)-NFL-TBS2が、GL261腫瘍細胞を有するC57Bl/6マウスに投与される場合、それらは腫瘍組織中に隔離され(右側)、健常組織中には隔離されない(左側)(D)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
先に言及したように、脳腫瘍の分野における主要課題は、微小管を標的とする作用物質と治療効率は同様であるが、脳腫瘍細胞に対する特異性がより高い作用物質を同定することである。
【0020】
本発明は、Bocquet et al. (2009)において同定された、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位に対応する、微小管を脱重合させるペプチドNFL-TBS40-63の驚くべき選択性を開示する。このペプチドは、i)微小管重合をインビトロで阻害すること、ii)ヒト神経膠芽腫細胞系統(T98G)に侵入すること、ならびにiii)これらの細胞の微小管細胞骨格を破壊することおよびそれらの分裂増殖を阻害することが以前に示されている(Bocquet et al., 2009)。
【0021】
NFL-TBS40-63ペプチドは、24アミノ酸長であり、次の配列を有する。
本出願の文脈において、これは「本発明において使用されるペプチド」と呼ばれる。先に言及したように、これは、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位に対応する(NFLタンパク質のTBS部位のアミノ酸40〜63)。
【0022】
驚くべきことに、本発明において使用されるペプチドは、神経膠腫細胞の分裂増殖に強い影響を及ぼすが、正常な星状膠細胞または神経細胞に対しての効果は乏しいか、そうでなければ検出不可能である。
【0023】
受動拡散によって細胞に入るタキソールまたはビンカアルカロイドのような従来の有糸分裂阻害剤とは異なり(Gottesman MMおよびPastan I, 1993)、本発明において使用されるペプチドは、選択的に神経膠腫細胞に侵入する。ペプチド取込みの免疫蛍光顕微鏡検査とフローサイトメトリー測定の両方によって、星状膠細胞と比べた場合、インビトロで神経膠腫細胞によって優先的に取り込まれることが明らかになった。さらに、FACS解析によって実証された飽和され得る内部移行、ならびにNFL-SCRスクランブルペプチドまたはD-アミノ酸ペプチド類似体の内部移行がないこと、ならびに4℃またはATP枯渇条件においての内部移行がないことが、ひとまとめになって、神経膠腫細胞中へのNFL-TBS40-63ペプチドの能動的かつ選択的な輸送を支持する。この優先的取込みはまた、神経膠腫を有するまたは有さない動物の脳にNFL-TBS40-63ペプチドを注入した場合、インビボでも観察可能である。神経系の他の細胞と比べて、神経膠腫細胞に対してペプチドがこの選択的傾向を示すのは、これらの細胞による細胞表面に発現される受容体の選択的発現に起因する可能性がある。この独特な性質は、神経系の他の細胞に対する毒性が無いことになるため、従来の微小管不安定化剤(すなわちタキサンまたはビンカアルカロイド)と比べると、このペプチドの大きな利点となる。
【0024】
したがって、第1の局面において、本発明は、悪性神経膠腫を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列を提供する。
【0025】
より正確には、この局面において、本発明は、悪性神経膠腫を治療するための薬学的組成物を製造するための、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位(すなわちNFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1))または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。
【0026】
本発明の単離されたアミノ酸配列はNFL-TBS40-63ペプチドを含むが、完全な神経フィラメント軽鎖サブユニットそれ自体であることはできない。これは、このタンパク質はその断片(すなわちNFL-TBS40-63ペプチド)と同じ生物学的活性を有していないためである。特に、完全なNFLタンパク質は、神経膠腫細胞中に侵入することができず、これらの細胞に対して抗増殖活性を有していない。本発明の単離されたアミノ酸配列はNFL-TBS40-63ペプチドを含むが、ただし、それは完全な神経フィラメント軽鎖(NFL)サブユニットそれ自体ではない。
【0027】
一般に、単離されたアミノ酸配列は、100個以下のアミノ酸、好ましくは50個のアミノ酸を含む。
【0028】
好ましい態様において、本発明の単離されたアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる。好ましくは、それは、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体からなる。
【0029】
本発明は、「NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な誘導体」を利用する。本明細書において使用される場合、「ペプチド誘導体」という用語は、それが言及するペプチドの変異体および断片を含む。したがって、神経フィラメント軽鎖サブユニットの第2のチューブリン結合部位(すなわちNFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1))の「誘導体」には、NFL-TBS40-63ペプチドの変異体および断片が含まれる。より具体的には、本発明の文脈において、誘導体とは、このペプチドの「生物学的に活性な」変異体および断片、すなわち、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持している変異体および断片を指す。したがって、本発明の文脈において、NFL-TBS40-63ペプチドの「生物学的に活性な」誘導体は、NFL-TBS40-63親ペプチドのように、神経膠腫細胞の分裂増殖を阻害するための高い生物学的能力を示さなければならず、かつ脳の神経膠腫腫瘍細胞に対する高い特異性を示さなければならない。好ましくは、神経膠腫細胞に対するNFL-TBS40-63ペプチドの誘導体の抗増殖効果は、従来の分裂増殖技術によってインビトロで評価した場合に、NFL-TBS40-63親ペプチドの抗増殖効果の少なくとも約70%、好ましくは80%〜90%、より好ましくは90%〜99%、およびさらにより好ましくは100%の抗増殖効果でなければならない。また、NFL-TBS40-63 ペプチドの誘導体は、従来の細胞取込み実験によってインビトロで評価した場合に、好ましくは、神経膠腫細胞に対してNFL-TBS40-63親ペプチドと同じ特異性を有する。
【0030】
好ましい態様において、NFL-TBS40-63ペプチドの誘導体は、NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な断片である。該断片は、NFL-TBS40-63親ペプチドの少なくとも12個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも16個、より好ましくは少なくとも18個のアミノ酸を含み、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持していることを特徴とする。
【0031】
別の好ましい態様において、NFL-TBS40-63ペプチドの誘導体は、NFL-TBS40-63ペプチドの生物学的に活性な変異体である。該変異体は、ペプチドの対立遺伝子変異体またはペプチドのペプチド模倣変異体のいずれかでよい。「ペプチドの対立遺伝子変異体」は、1つまたは複数のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されているかまたは抑制されていることを除いては、NFL-TBS40-63ペプチドと同じアミノ酸配列を有し、最終的なペプチドは、NFL-TBS40-63親ペプチドの生物学的活性および特異性を保持している。好ましくは、このような対立遺伝子変異体は、NFL-TBS40-63親ペプチド(SEQ ID NO:1)と比べて、70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、およびさらにより好ましくは95%の同一性を有する。例えば、このような対立遺伝子変異体は、NFL-TBS40-63ペプチドのアミノ酸24個のうちの20個を保持しているウズラの神経フィラメント軽鎖サブユニットのTBSモチーフ(SEQ ID NO:3)であることができる。また、ペプチドの変異体は、ペプチド模倣変異体でもよい。これは、少なくとも1つまたはそれ以上の関心対象の特性、好ましくはその生物学的活性を含む、親ペプチドのいくつかの特性を模倣する有機分子である。好ましいペプチド模倣体は、好ましくは非天然アミノ酸、Lアミノ酸の代わりにDアミノ酸、立体配座の拘束、等配電子置換、環化、または他の改変を用いた、本発明によるペプチドの構造的改変によって得られる。他の好ましい改変には、非限定的に、1つもしくは複数のアミド結合が非アミド結合で置換されているもの、ならびに/または1つもしくは複数のアミノ酸側鎖が異なる化学的単位で置換されているもの、またはN末端、C末端、もしくは1つもしくは複数の側鎖のうちの1つもしくは複数が保護基によって保護されているもの、ならびに/または剛性および/もしくは結合親和性を増大させるために、二重結合および/もしくは環化および/もしくは立体特異性がアミノ鎖に導入されているものが含まれる。さらに他の好ましい改変には、NFL-TBS40-63親ペプチドと比べて、酵素的分解に対する耐性を高めること、生物学的利用能の、より一般的には薬物動態学的特性の改善を意図したものが含まれる。これらの変形のいずれも、当技術分野において周知である。したがって、NFL-TBS40-63ペプチドのペプチド配列を前提として、当業者は、このようなペプチドと同様またはそれより優れた生物学的特徴を有するペプチド模倣体を設計および作製することが可能になる。NFL-TBS40-63ペプチドの好ましいペプチド模倣変異体は、NFL-TBS40-63ペプチドの少なくとも生物学的活性および特異性を保持している。
【0032】
本発明において使用されるペプチド(すなわち、NFL-TBS40-63ペプチドまたはその断片、そのペプチド模倣変異体、もしくは対立遺伝子変異体を含むアミノ酸配列)は、技術分野において認識されている技術を用いて便宜的に合成することができる。
【0033】
本明細書において使用される場合、2つのアミノ酸配列の「同一性の比率」とは、最良のアライメント(最適アライメント)後に得られる、比較される2つの配列において同一であるアミノ酸残基の比率を指し、この比率はあくまでも統計学的であり、2つの配列の差異はランダムに、かつ全長に沿って分布している。2つのアミノ酸配列の配列比較は、例えば、ウェブサイトhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/gorf/b12.htmlで入手可能なBLAST プログラムを用いて実施することができる。使用するパラメーターは初期設定によって与えられるものである(具体的には、パラメーター「オープンギャップペナルティ」は5、「伸長ギャップペナルティ」は2、選択されるマトリックスは、例えば、プログラムによって推奨される「BLOSUM 62」マトリックス、比較する2つの配列の同一性比率はプログラムによって直接算出される)。
【0034】
別の態様において、本発明は、NFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列を少なくとも含む有効量の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与することによって、悪性神経膠腫を治療的に処置する方法に関する。
【0035】
悪性神経膠腫は、高悪性度の神経膠腫としても公知である。それらは脳および脊髄を冒し得る。本発明の治療的方法は、上記に定義したように、好ましくは、未分化星状細胞腫(AA)、多形神経膠芽腫(GBM)、退形成性乏突起膠腫(AO)、および退形成性乏突起星細胞腫(AOA)より選択される脳悪性神経膠腫を有する対象、ならびにより好ましくは、多形神経膠芽腫(GBM)を有する対象を治療することを特定の用途とする。
【0036】
好ましい態様において、前記対象は、哺乳動物、好ましくはマウス、ラット、ネコ、またはイヌ、およびより好ましくはヒトである。
【0037】
このような薬学的組成物は、NFL-TBS40-63(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列および薬学的に許容される担体を含む。
【0038】
本発明の特定の態様において、本発明の薬学的組成物中に含まれる単離されたアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体、および好ましくは、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体である。
【0039】
別の態様において、ペプチドは、放射性の部分、細胞傷害性の構成要素、または(下記の実施例3.4.において示す脂質ナノカプセルのような)適切な担体と物理的または化学的に結合されてよい。本発明のペプチドは、神経膠腫細胞に特異的にこれらの構成要素を導き(address)、それによってそれらに障害を生じさせると思われる。
【0040】
本発明のために、適切な薬学的に許容される担体には、非限定的に次のものが含まれる:水、塩溶液(例えばNaCI)、アルコール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、炭水化物、例えば、ラクトース、アミロース、またはデンプンなど、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、およびポリビニルピロリドン。薬学的調製物は、滅菌することができ、所望の場合は、活性化合物と有害に反応しない補助剤、例えば、滑沢剤、保存剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩、緩衝剤、着色剤、矯味剤、および/または芳香物質などと混合することができる。所望の場合は、組成物はまた、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含んでよい。組成物は、溶液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤でよい。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなど標準的な担体を含んでよい。いくつかの適切で厳密な製剤が、例えば、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, 1995, Mack Publishing Companyに記載されている。
【0041】
薬学的組成物は、個体への静脈内投与用に適応させた組成物として、日常的な手順に従って製剤化することができる。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌済み等張性水性緩衝液に溶かした液剤である。
【0042】
好ましい態様において、本発明の薬学的組成物は、脳内注射、およびより好ましくは腫瘍内注射によって投与することを特定の用途とする液体組成物である。該腫瘍内注射は、例えば、定位脳手術を用いることによって達成することができる。この投与は、脳腫瘍を除去するための外科手術の前または後に実施することができる。前者の場合、組成物によって、腫瘍の増殖を阻害すること、ならびに対象における神経膠腫細胞の播種および強烈な症状の発生を回避することが可能になり;後者の場合、組成物は、外科手術中に除去されなかった神経膠腫細胞すべてを破壊するのに使用され得る。
【0043】
本発明による化合物の有効用量は、例えば、選択された投与法、体重、年齢、性別、および治療される個体の感受性など多数のパラメーターの関数として変動する。したがって、最適用量は、関連するパラメーターの関数として医薬の専門家が個別に決定しなければならない。本明細書において以下に提供する最初の動物試験からヒトでの予想活性用量を予測するために、Rocchetti et al (2007)によって説明されているk2値およびCT値を使用することもできる。
【0044】
動物(例えばラット)を治療するための有効用量は、1回の定位注入(60μl)を用いた約0.1マイクロモル〜5ミリモルの間、好ましくは約0.2〜0.5マイクロモルの間の範囲に渡ることが予見されている。ヒト脳はラット脳よりも平均で700倍重いため、ヒト神経膠腫を治療するための有効用量は約0.07〜0.7mmolの間、好ましくは約0.14mmol〜0.35mmolの間の範囲に渡ることが予見されている。これらの指定の用量は、臨床的治療研究において調整されるべきであることは明らかである。
【0045】
本出願の実験の部分で示すように、NFL-TBS40-63ペプチドは、インビボだけでなくインビトロでも、神経膠腫細胞に特異的に侵入することができる。したがって、アポトーシスによって死滅する前に、神経膠腫細胞は特異的な様式でNFL-TBS40-63ペプチドについて陽性に染色され、他の健常脳細胞(特に星状膠細胞および神経細胞)の中から特定され得る。したがって、NFL-TBS40-63ペプチドは、インビトロまたはインビボのどちらでも、神経膠腫細胞を検出するための有望な手段である。
【0046】
したがって、第2の局面において、本発明は、神経膠腫細胞、好ましくは神経膠芽腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用に関する。
【0047】
意図したアミノ酸配列および生物学的に活性な誘導体の特徴は、先に説明した。
【0048】
好ましい態様において、ペプチドを含む細胞の存在または非存在を従来の技術によって検出するのが容易になるように、該アミノ酸配列は標識される。
【0049】
本明細書において使用される「標識されている」という用語は、検出可能な(好ましくは定量できる)効果を提供するのに使用でき、かつアミノ酸配列に結合させることができる任意の原子または分子を意味する。標識には、色素、32Pのような放射性標識物質、ビオチンのような結合部分、ジゴキシゲニンのようなハプテン、発光性(luminogenic)部分、リン光性部分、または蛍光発生的部分、質量タグ;および単独のまたは蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によって発光スペクトルを抑制もしくは移動させることができるクエンチャーと組み合わせた蛍光色素が含まれるがそれらに限定されるわけではない。該標識は、蛍光、放射能、比色、重量測定、X線回折またはX線吸収、磁性、酵素活性、および質量または質量の影響を受けた挙動の特徴(例えばMALDI飛行時間型質量分析法)などによって、好ましくは蛍光によって検出可能なシグナルを提供し得る。標識は、帯電した部分(正電荷もしくは負電荷)でもよく、あるいは電荷的に中性でもよい。標識は、標識を含む配列が検出可能である限りにおいて、核酸配列またはタンパク質配列を含むか、またはそれらからなってもよい。
【0050】
好ましくは、該標識は蛍光色素である。適切な蛍光色素には、例えば、以下のものが含まれる:
1.フルオレセインおよび誘導体、例えば、ヘキサクロロ-フルオレセイン、テトラクロロ-フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(TAMRA)、CAL FLUOR(登録商標)(BIOSEARCH TECHNOLOGIESから入手可能なCAL Fluor Green 520、CAL FLUOR Gold 540、CAL FLUOR ORANGE 560、CAL FLUOR RED 590、CAL FLUOR RED 635)、カルボキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(6-カルボキシ-2',4,4',5',7,7'-ヘキサクロロフルオレセインのスクシンイミジルエステル(HEX(商標))または6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'ジメトキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(JOE(商標));
2.ローダミンおよび誘導体、例えば、5-または6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン
3.シアニンおよび誘導体、例えば、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5;
4.BODIPY(登録商標)発色団、例えば、4,4-ジフルオロ-5,7-ジフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,p-メトキシフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5-スチリル-4-ボラ-3a,4-アジアズ(adiaz)-a-S-インダセン-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,7-ジフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸、4,4-ジフルオロ-5,p-エトキシフェニル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン3-プロピオン酸、および4,4-ジフルオロ-5-スチリル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-S-インダセン-プロピオン酸;
5.テキサスレッド(登録商標)および誘導体;
6.APTS、HPTS(CASCADE BLUE(登録商標))のようなピレントリスルホン酸;ならびに
7.エオシンおよび誘導体。
【0051】
より好ましくは、前記蛍光色素は、フルオレセインおよび誘導体、例えば、ヘキサクロロ-フルオレセイン、テトラクロロ-フルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(TAMRA)、CAL FLUOR(登録商標)(BIOSEARCH TECHNOLOGIESから入手可能なCAL Fluor Green 520、CAL FLUOR Gold 540、CAL FLUOR ORANGE 560、CAL FLUOR RED 590、CAL FLUOR RED 635)、カルボキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(6-カルボキシ-2',4,4',5',7,7'-ヘキサクロロフルオレセインのスクシンイミジルエステル)(HEX(商標))または6-カルボキシ-4',5'-ジクロロ-2',7'ジメトキシフルオレセインのスクシンイミジルエステル(JOE(商標))を含む群において選択される。
【0052】
本発明において、このような蛍光色素で標識されたアミノ酸配列を検出するための好ましい従来の技術には、フローサイトメトリーまたは蛍光顕微鏡検査法が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0053】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を検出するために使用される本発明のアミノ酸配列は、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる。
【0054】
より好ましい態様において、本発明のアミノ酸配列は、例えば、カルボキシフルオレセイン色素またはビオチンタグと結合されたNFL-TBS40-63ペプチドそれ自体である。
【0055】
本発明の別の態様において、本発明は、インビボで神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチドもしくは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用、または言い換えると、インビボで神経膠腫細胞を検出するのに使用するための、NFL-TBS40-63ペプチドもしくは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。
【0056】
これは、医療従事者が腫瘍細胞の位置を正確に推定するのに特に有用となり得る。すなわち、神経膠腫細胞は、元の腫瘍の周辺領域に浸潤することができるため、一般に、限定された領域に位置していない。さらに、神経膠腫細胞のインビボ標識は、外科医が腫瘍組織と健常組織の境界を正確に決定するのを助けることができ、その結果、外科医は健常組織を除去することを回避しつつ腫瘍細胞をより完全に除去することができる。
【0057】
この場合、本発明のアミノ酸配列は、腫瘍細胞の内部にそれが侵入し、外科医がすべての腫瘍細胞だけを除去するのを手引きするように、外科手術に先立って、例えば、1時間前に、脳内および好ましくは腫瘍の近くに投与されなければならない。
【0058】
この特定の態様において、本発明のアミノ酸配列は、好ましくは、外科手術の間に安全な条件で検出できる蛍光色素または発光色素で、直接的にまたは適切な担体(例えばナノカプセル)を介して標識される。
【0059】
例えば、本発明は、以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在をインビボで検出するための方法を提供する:
a)NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、蛍光色素または発光色素で、直接的にまたは適切な担体(例えばナノカプセル)を介して標識する段階、
b)外科手術に先立って、該アミノ酸配列を脳内に注入する段階、
c)神経膠腫細胞を明らかにするために、外科手術の間、特定の波長の光(蛍光色素または発光色素による)を腫瘍領域に当てる段階。
【0060】
別の特定の態様において、本発明は、インビトロで神経膠腫細胞を検出するための、例えば、神経膠腫または少なくとも生物学的試料中の神経膠腫細胞の存在を診断するための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。
【0061】
例えば、本発明は、以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料を試験するためのインビトロの方法を提供する:
1.試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
2.NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた試料の細胞と混合する段階、
3.試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、その前記アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【0062】
本明細書において使用される場合、「生物学的試料」または「試料」という用語は、インビトロで扱われる細胞培養物を指す。培養中の細胞は、系列に由来するもの(lineage origin)または初代に由来するもの(primary origin)のいずれかでよい。この後者の場合、細胞は、生検または外科手術後に動物脳から摘出することができる。
【0063】
本発明のインビトロの方法において、前記アミノ酸配列を含む細胞の比率は、試料中の神経膠腫細胞の比率に「対応する」。これは、本発明において使用されるアミノ酸配列を含む細胞の比率が、生物学的試料中の神経膠腫細胞の比率と同等である(±約5%)ことを意味する。試料中の細胞の絶対数が公知である場合、本発明の方法から、試料中の神経膠腫細胞の絶対数を約5%の誤差範囲で推測することもできる。
【0064】
細胞は適切な培地中に懸濁され、インビトロで増殖される。このような培地は、当業者に周知であり、有利にはグルコースおよびL-グルタミン、ウシ胎児血清(例えば10%)、ならびにペニシリン/ストレプトマイシンを含む。細胞は、5%CO2を満たした加湿インキュベーター中、37℃で保存される。
【0065】
この方法の第1の段階において、本発明のアミノ配列が試料の全細胞と接触することができるように、細胞は、例えば、ボルテックスすることによって懸濁される。
【0066】
好ましくは、添加されるアミノ酸配列の濃度は、1〜200μMの間、およびより好ましくは2〜150μMの間、およびさらにより好ましくは5〜50μMの間で含まれる。
【0067】
好ましくは、アミノ酸配列は、少なくとも30分間、好ましくは1時間、細胞上に添加され、その後、残存する遊離ペプチドを除去するために、細胞は徹底的に洗浄される。
【0068】
この方法において、添加されるアミノ酸配列は、先に説明したように色素もしくは従来のタグ(例えばビオチン)で直接標識されてもよく、または適切な担体(例えばナノカプセル)に結合されてもよい。この場合、アミノ酸配列の存在の解析は、インセルロ(in cellulo)で色素またはタグを検出するための通常手段(例えば、以下の実施例において説明するフローサイトメトリー、免疫化学など)によって実施される。
【0069】
あるいは、添加されるアミノ酸配列は標識されず、その検出は、例えば、そのアミノ酸配列のすべてまたは一部分に対する抗体を用いた従来手段によって間接的に実施される。この場合、間接的検出の従来技術が使用され得る(例えば、フローサイトメトリー、免疫組織化学、ウェスタンブロットなど)。
【0070】
好ましくは、本発明のアミノ酸配列は、直接的にまたは適切な担体を介して蛍光色素に結合され、細胞中のその存在は、(以下の実施例において説明するように)フローサイトメトリーによって明らかにされる。より好ましくは、蛍光色素は、本発明のペプチドに同様に結合される脂質ナノカプセル中に含まれる。
【0071】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を検出するインビトロの方法は、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体を使用する。より好ましくは、それは、カルボキシフルオレセインで標識されたNFL-TBS40-63ペプチドまたはビオチンタグ付きNFL-TBS40-63ペプチドを使用する。
【0072】
本発明の別の態様において、本発明は、インビトロまたはインビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列の使用に関する。言い換えると、本発明は、インビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるのに使用するための、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列に関する。また、本発明は、それを必要とする対象においてインビボで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための方法、およびインビトロで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための方法も開示する。
【0073】
このような化学的化合物は、本発明のペプチドに直接結合されてもよく、または本発明のペプチドに結合される適切な担体(例えば、ナノカプセル、リポソーム、ミセル、もしくは当業者に公知である任意の封入手段)中に含まれてもよい。
【0074】
前記化学的化合物は、薬学的化合物および/または蛍光性分子のような標識マーカーでよい。
【0075】
前記薬学的化合物は、好ましくは、細胞傷害性薬物、例えば抗有糸分裂薬物である。
【0076】
後述するように、化学的化合物は、より好ましくは脂質ナノカプセル中に封入される。
【0077】
好ましい態様において、神経膠腫細胞を標的とするインビトロの方法およびインビボの方法は、NFL-TBS40-63ペプチドそれ自体を使用する。
【0078】
以下の実施例において、NFL-TBS40-63ペプチドの高い特異性および治療効率を説明する。しかしながらそれらは、特に本発明のアミノ酸配列の性質、およびそれを使用するための実験条件に関して、限定的ではない。
【実施例】
【0079】
1. 材料
標識したNFLのチューブリン結合部位(NFL-TBS40-63、SEQ ID NO:1)および同様に標識したスクランブルペプチド(NFL-SCR、SEQ ID NO:2)に対応するビオチン標識したペプチドまたはカルボキシフルオレセイン標識したペプチドはMillegen(トゥールーズ、フランス)によって合成された。これらを濃度1mMまたは5mMで水に溶解した。NFL-TBS-ビオチンペプチドにおいて、ビオチン分子はペプチドのN末端に連結されている。また、カルボキシフルオレセイン分子もペプチドのN末端に連結される。
【0080】
神経膠腫細胞株F98および9LをATCC(マナッサス、VA, USA)から入手した。80〜90%コンフルエントな状態に達するまで、5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むグルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で細胞を増殖させた。
【0081】
ラット初代星状膠細胞は、最初に説明されたように(McCarthyおよびde Vellis, 1980)、大脳皮質の培養物から得た。簡単に説明すると、大脳皮質を新生ラットから解剖して取り出し、組織の均質化、トリプシン処理(trypsination)、および遠心分離後に細胞を回収した。5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むグルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で、それらを3週間増殖させた。
【0082】
Ray et al.1993ならびにKaechおよびBanker 2006に従って、新生ラット脳から海馬神経細胞培養物を調製した。簡単に説明すると、生後2日より若い動物の海馬を回収し、刻み、37℃で1時間、0.01%トリプシン中で消化させた。5μg/mlポリ-l-リジンおよび7μg/mlコラーゲンで予めコーティングしたカバーガラス上に、解離した細胞を2×105/mlの濃度でプレーティングし、5%CO2雰囲気、37℃でインキュベートした。24時間後、プレーティング溶液をB-27ニューロバサル(neurobasal)培地に交換し、2日目に、非神経細胞を排除するためにシトシンアラビノシド(20μM)を添加した。実験は、プレーティング後7日目に実施した。
【0083】
ヒト神経膠芽腫細胞株U87-MGおよびT98GをATCC(マナッサス、VA, USA)から入手した。GL261マウス神経膠腫細胞株は、Dr P Walker(Laboratory of Tumor Immunology, University Hospital Geneva, Switzerland)が快く提供して下さった。ヒト星状膠細胞はLonza Franceから入手した。精製した新生マウス初代星状膠細胞は、最初に説明されたように(McCarthyおよびde Vellis, 1980)、大脳皮質の培養物から機械的解離方法によって得た。
【0084】
ヒト神経膠芽腫細胞、GL261神経膠腫細胞、およびマウス初代星状膠細胞を、80〜90%コンフルエントな状態に達するまで、5%CO2を満たした加湿インキュベーター(37℃)において、10%ウシ胎児血清(Lonza France)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含む、グルコースおよびL-グルタミン入りDMEM培地(Lonza France)中で増殖させた。ヒト星状膠細胞は、AGM SingleQuots増殖因子(Lonza)を添加したAstrocyte Basal Medium(ABM)(Lonza)中で培養した。製造業者の取扱い説明書に従って、細胞を維持した。
【0085】
外科手術中にヒト脳から取り出した組織試料から得た初代ヒト神経膠芽腫細胞を、グルコース、L-グルタミン、10%ウシ胎児血清、10%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)を含むDMEM培地中で培養状態に置く。細胞をMW96中にプレーティングし(細胞20000個/cm2)、5%CO2を満たした加湿インキュベーター中、37℃で増殖させた。プレーティング後48時間目に、ペプチドおよび/または薬物を添加する。
【0086】
以前に説明されているようにして(Heurtault et al., 2002)、脂質ナノカプセル(LNC)を作製した(performed)。簡単に説明すると、室温で、Solutol HS-15、Lipoid S75-3、塩化ナトリウム、Labrafac CC、および水を磁気撹拌(200rpm)によって混合して、水中油型エマルジョンを生じさせた。加熱後、70℃で透明度の間隔(interval)を観察することができ、逆転した相である「油中水」が85〜87℃で得られる。60℃から87℃まで変動する温度サイクルを3回適用し、次いで、最後に温度を低下させる前に、冷水(0℃に近い)12.5mLで混合物を希釈し、15分間撹拌した。最後に希釈する直前にDiDを添加した。LNCの特性決定後、NFL-TBS2(1mM)369μLをLNC(DiD) 1mLに添加し、18℃で24時間、ペプチド吸着させた。次いで、LNCを新たに特性決定した。
【0087】
2. 方法
2.1. 細胞の生存率および分裂増殖の解析
神経膠腫細胞または星状膠細胞の分裂増殖に対するペプチドの影響を、MTS細胞傷害性アッセイおよび細胞数の直接計数によって評価した。MTSアッセイ(Promega)の場合、細胞500個を96ウェルプレートに播種し、37℃で24時間インキュベートし、指定濃度のペプチドで24時間、48時間、および72時間、またはビヒクル(PBSもしくは水)で処理した。培地およびペプチドは毎日交換した。ペプチドはDMEM中で調製し、パクリタキセルを濃度2mMでDMSOに溶解し、さらにDMEM中で希釈した。トリパンブルー染色によって、生存率も決定した。手作業で計数する場合、細胞を0.25%トリプシン/0.53mM EDTAで処理し、遠心分離し、トリパンブルー色素添加後、血球計数器を用いて計数した。毎回、1種類の処理当たり3〜6個のウェルを計数した。
【0088】
細胞の分裂増殖を評価するために、5-ブロモデオキシウリジン(BrdU)免疫組織化学を利用した。細胞をカバーガラスにプレーティングし(platted)、ビオチン標識ペプチド(100μM)を含む培地中で72時間培養し、1mg/mL BrdU(Sigma)の存在下で4時間インキュベートした。次いで、細胞をPBS中で洗浄し、3%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、PBS中1% Triton X-100で10分間透過処理した。細胞を酸性にしてDNAを変性させ(2N HCl、10分)、中和し(0.1Mホウ酸ナトリウム、10分)、次いでPBS中で徹底的にゆすいだ。10%NGSでブロッキング(10分)した後、モノクローナル抗BrdU抗体(1/400)、続いてAlexa 568nm抗マウス抗体(1/200)で細胞を標識した。4'6-ジアミニド(diaminido)-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で核を染色した。染色した細胞をLeica DMI6000倒立顕微鏡を用いて観察した。CoolSNAP HQ2カメラを用いて画像を取得し、Metamorph 7.1.7.0.ソフトウェアを用いて解析した。最低でも200個の細胞をBrdU組込みについて評価し、実験は少なくとも3回繰り返した。
【0089】
2.2. フローサイトメトリーによる細胞取込みの解析
フルオレセイン標識したNFL-TBS40-63ペプチドの内部移行をFACSによって評価するために、35mmシャーレに神経膠腫細胞または星状膠細胞を播種し、フルオレセイン標識した漸増濃度のNFL-TBS40-63ペプチドまたはビヒクル(PBS)を含む培地中、37℃で1時間培養した。37℃で15分間、トリプシン(1mg/mL)と共にインキュベーションする前に、細胞をトリプシン処理し、冷PBS中で2回洗浄した。ペプチド取込みに関して存在し得るエネルギー依存性メカニズムを調査するために、6mMの2-デオキシ-D-グルコースの存在下で、20μMのフルオレセイン標識したNFL-TBS2ペプチド(4℃で15分間のプレインキュベーション後)または10mMアジ化ナトリウムと共に4℃で1時間細胞をインキュベートして、20μMのフルオレセイン標識したNFL-TBS2ペプチドを添加する前に細胞ATPを枯渇させた。次いで細胞を1回洗浄し、50μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma, サン・カンタン・ファラヴィエ(Saint-Quentin Fallavier)、フランス)を含む500μl中に再懸濁し、FACScaliburフローサイトメーターを用いて解析した。各細胞型について実験を3回繰り返した。各実験において、試料1つ当たり20,000個の事象を解析した。
【0090】
2.3. フローサイトメトリーによる細胞死の解析
起こり得るアポトーシス過程を検出するために、35mmシャーレに細胞を播種し、ビオチン標識ペプチド(100μM)またはPBSのみを含む培地において72時間培養した。アポトーシスを誘導するための陽性対照として、パクリタキセル(40nM)を使用した(Terzis et al., 1997)。次いで、細胞をトリプシン処理し、冷PBS中で洗浄し、アネキシン(Annexin)緩衝液に溶かしたAnnexin V-FITC(BD Pharmingen)によって室温で15分間染色した。最後に、50μg/mLヨウ化プロピジウム(Sigma)でそれらを対比染色し、FACSCaliburフローサイトメーターを用いて解析した。各細胞型について実験を3回繰り返した。各実験において、試料1つ当たり20,000個の事象を解析した。
【0091】
2.4. 免疫細胞化学
細胞をカバーガラスにプレーティングし、ビオチン標識ペプチド(10μM)を含む培地中で6時間培養した。PBS洗浄後、細胞を4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定し、PBS中で3回洗浄した。次いで、ブロッキング溶液(5%BSA)中で15分間インキュベーションする前に、0.5%トリトンX-100透過処理溶液中で10分間それらをインキュベートし、PBS中で3回洗浄した。神経膠腫細胞および星状膠細胞をマウス抗β-チューブリン抗体(Sigma)1/200と共に、神経細胞をマウス抗βIII-チューブリン抗体1/200と共に、4℃で一晩インキュベートした。Alexa 568nm抗マウス抗体およびストレプトアビジンAlexa 488nm(Molecular Probes)1/200を1時間それぞれ用いてチューブリンおよびビオチン標識ペプチドの位置確認をし、続いてPBS中で洗浄した。これらの調製物を3μMの4'6-ジアミニド-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で5分間対比染色し、PBSで2回洗浄した。カバーグラスに退色防止(antifading)液剤を載せた。
【0092】
Fluoview.3.1.ソフトウェアを用いてOlympus共焦点顕微鏡(BX50)によって、またはLeica DMI6000 倒立顕微鏡によって、観察を実施した。CoolSNAP HQ2カメラを用いて画像を取得し、Metamorph 7.1.7.0.ソフトウェアを用いて解析した。ペプチド染色に関して陽性である細胞および微小管ネットワークが破壊された細胞を計数した。各細胞型について実験を少なくとも3回繰り返し、最低でも200個の細胞を各実験において解析した。
【0093】
2.5. 動物試験
9〜10週齢の同系Fisher344雌ラットをCharles River Laboratories France(ラルブレル(L'Arbresle)、フランス)から入手した。これらの動物を、12時間のオンオフ光サイクルの温度および湿度を管理した部屋で、食物および水には自由に到達できる状態で飼育した。
【0094】
実験手順および動物の世話はすべて、フランス政府の指針に基づいて実施され、動物実験に関する地域倫理委員会(Regional Committee for Ethics on Animal Experiments)によって承認された。
【0095】
70%コンフルエンシーのラットF98細胞をトリプシン処理し、血球計数器で計数し、トリパンブルー排除によって生存率を確認した。DMEM中で細胞を2回洗浄し、DMEMに溶かした5×104細胞/mLの最終懸濁液を得た。ケタミン10%(0.8μl/g)、およびキシラジン2%(0.5μl/g)の混合物を腹腔内注射することによって動物に麻酔をかけた。定位固定枠(David Kopf instruments、タハンガ(Tujunga)、CA, USA)を用いて、皮膚に矢状に切り込みを入れて頭蓋を露出させ、小型の歯科用ドリルを用いて、頭蓋骨のブレグマから1mm腹側かつ2mm外側の位置に穿頭孔を作った。体積10μlのDMEMのみまたは腫瘍細胞500個を含むDMEMを、10μl容Hamiltonシリンジ(Hamiltonガラス製シリンジ700シリーズRN)および32Gの針(Hamilton)を用いて2μl/分の流速で、ラットの線条体中へと頭蓋の外縁から4mm奥の深さに注入した。所定の位置に針をさらに5分間放置して、脳から懸濁液が排出されるのを回避し、次いで、ゆっくりと引き抜いた(0.5mm/分)。
【0096】
神経膠腫移植後6日目に、10μl容Hamilton製シリンジおよび32Gの針を用いて、腫瘍細胞の位置(coordinate)に60μlの輸注を実施した。このシリンジを、ペプチドを含む100μl容Hamilton製22Gシリンジ(Harvard Apparatus, レジュリス(Les Ulis)、フランス)にカニューレ(CoEx(商標) PE/PVCチューブ, Harvard Apparatus)を介して連結した。総体積60μlを達成するために浸透圧ポンプ(Harvard Apparatus)を0.5μl/分の速度で2時間用いて、緩徐な輸注による対流増強送達手順(Slow-infusion Convection-Enhanced Delivery procedure)(CED)を実施した(参照文献)。輸注後、針を除去し、傷口を縫合した。
【0097】
脳内に腫瘍細胞を移植(0日目)した後、ラットを無作為に4グループに分けた。移植後6日目(6日目)に、次のようにラットをCEDによって処置した:グループ1:対照(ビヒクル60μl;n=10);グループ2:1mM NFL-TBS40-63ペプチド60μl(n=7);グループ3:1mM NFL-SCRペプチド60μl(n=7);グループ4:5mM NFL-TBS40-63ペプチド60μl(n=7)。
【0098】
これらの動物の臨床的状態(体重減少、運動失調、および眼窩周囲の出血)を毎日モニターした(Redgate et al., 1991)。片麻痺または少なくとも20%の体重減少になった場合、それらを安楽死させた。16日目、23日目、および30日目(n=3/グループ)に動物を犠死させ、脳を摘出し、-30℃、イソペンタン中で凍結し、-80℃で保存した。
【0099】
凍結した脳をLeicaクリオスタットによって順に薄片に切り、組織形態学および腫瘍体積の測定のために20μm切片をHE染色した。HE染色した切片の画像を、Leica Application Suite 2.8.1ソフトウェアを用いてLeica Z16APOマクロスコープによってキャプチャーした。Image Jソフトウェアを用いて腫瘍領域の輪郭を手作業で描き、測定した。切片の厚さおよび数を知ることにより、各腫瘍の総体積を算出した。1グループにつき3匹の動物の腫瘍体積を測定した。
【0100】
免疫組織化学のために、PBS 5%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングする前に、12μm切片を冷メタノールで10分間固定し、PBS中で3回洗浄した。PBS 5%BSAに溶かしたマウス抗GFAP抗体(Sigma)1/200と共に切片を一晩インキュベートし、次いで、PBSでゆすいだ(5分×3回)。PBS 5%BSA中で1/200に希釈した抗マウス抗体Alexa 568nmおよびストレプトアビジンAlexa 488nm(Molecular Probes)をそれぞれ90分間用いてGFAPおよびビオチン標識ペプチドの位置確認をし、続いてPBS中で洗浄した。これらの調製物を3μMの4'6-ジアミニド-2-フェニルインドール(DAPI; Sigma)で5分間対比染色し、PBSで2回洗浄した。スライドに退色防止液剤を載せ、Leica DMR蛍光顕微鏡およびLeica IM500ソフトウェアを用いて観察した。
【0101】
MRIおよび1H磁気共鳴スペクトロスコピー:7Tの垂直型超大口径マグネットを装備したBruker Avance DRX 300(ドイツ)装置を用いてMRIを実施した。緩和促進による高速取得(rapid acquisition with relaxation enhancement)(RARE)シークエンス(TR=2,000ms;平均エコー時間(Tem)=31.7ms;RAREファクター(factor)=8;FOV=3×3cm;マトリックス128×128;9個の連続した1mm薄片、8個取得)を用いて、定性的なT2強調画像を得た。水抑制および心臓トリガリングと共にPRESSシークエンスを用いて、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)を実施した(Rapid Biomed GmbH、ドイツ)。次のパラメーターを用いて1Hスペクトルを取得した:TR/TE=1,500/11ms;NEX=128;ボクセルサイズ27μl(3×3×3mm)。
【0102】
2.6. 統計学的解析
データは平均値S.E.M.(バー)として表す。細胞計数、細胞生存率データ、腫瘍体積を、Prismバージョン3.00(GraphPad Software、サンディエゴ, CA)を用いてスチューデントのt検定によって解析した。アスタリスクは、対照と比べた有意性のレベルを示す:*、p<0.05;**、p<0.005;***、p<0.0001。
【0103】
3. 結果
3.1. インビトロにおける神経膠腫細胞に対するNFL-TBS40-63の特異性
3.1.1. 侵入の特異性
脳由来の様々な細胞型に対するNFL-TBS40-63(10μM)の特異性を評価するために、ラット神経膠腫細胞F98および9L、ならびにラットの星状膠細胞および神経細胞の初代培養物に対する影響を免疫蛍光顕微鏡検査によって解析した。
【0104】
画像解析および細胞計数により、全細胞の50%超が、検出可能な量のNFL-TBS40-63ペプチドを含んでいることが示された(F98では53.5%±1.5、9Lでは58.2%±9)。同様の用量において、星状膠細胞(9%±4.6)または神経細胞(17.9%±5.9)へのこのペプチドの侵入ははるかに少ない(図1A)。
【0105】
興味深いことに、ヒト由来細胞およびマウス由来細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図2Aおよび図3A)。
【0106】
蛍光活性化セルソーター(FACS)測定を実施して、カルボキシフルオレセインタグ付きペプチドの細胞取込みをさらに定量した。膜に結合した蛍光色素と内部移行した蛍光色素とを区別するために、FACS解析前に細胞のトリプシン処理を実施して、ペプチドの表面結合を回避しておいた。50μMペプチドと共に細胞を1時間インキュベーションした後、89.6%±2.5のF98神経膠腫細胞および100%±0の9L神経膠腫細胞がNFL-TBS40-63ペプチドを含んでいたのに対し、陽性の星状膠細胞はわずか28.0%±2.5である(図1B)。
【0107】
これらのデータから、NFL-TBS40-63ペプチドがラット神経膠腫細胞に優先的に侵入することが示される。
【0108】
興味深いことに、ヒト悪性神経膠腫細胞およびマウス悪性神経膠腫細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図2Bおよび図3B)。
【0109】
神経膠腫細胞をペプチドと共に4℃でインキュベートした場合、またはアジ化ナトリウムおよびデオキシグルコースと共に細胞をプレインキュベーションすることによってATPプールを枯渇させた場合、NFL-TBS2取込みの顕著な減少が観察されたことから、エネルギー依存性の内部移行メカニズムが示唆される(図13A)。さらに、T98G細胞を10μMのDアミノ酸ペプチド類似体で処理し、免疫細胞化学によって解析した場合、ペプチドの内部移行が大幅に減少することから、エンドサイトーシスによる受容体媒介性内部移行が示唆される(図13B)。
【0110】
最終的に、このペプチドはまた、外科手術後に単離された初代ヒト神経膠芽腫細胞にも特異的に侵入する(データ不掲載)。
【0111】
まとめると、重要なことには、これらのインビトロでの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドが、初代神経膠腫細胞だけでなく細胞系統のヒト、ラット、およびマウスに由来する神経膠腫細胞にも特異的に侵入することが示される。これに反して、これらの結果から、脳中に存在する非腫瘍細胞、すなわち星状膠細胞および神経細胞中にはNFL-TBS40-63ペプチドが入らないことが指摘される。この結果は、F98神経膠芽腫を有するラットのインビボモデルにおいてさらに確認される(実施例の3.2.の部分を参照されたい)。
【0112】
3.1.2. NFL-TBS40-63の存在下における悪性神経膠腫細胞の生存率の低下
ラット神経膠腫細胞(F98および9L)ならびに星状膠細胞を、様々な濃度(0μM、20μM、50μM、および100μM)のNFL-TBS40-63ペプチドまたはその対照であるスクランブル配列(NFL-SCR)で様々な時間(24時間、48時間、および72時間)処理した。タキソール(40nM)を細胞傷害性に関する陽性対照として使用した。生存細胞がそれらのミトコンドリアのデヒドロゲナーゼ酵素によってMTSをホルマザンに変換する能力に基づくMTS細胞傷害性アッセイを用いた。100μMのNFL-TBS.40-63ペプチドによって72時間処理した後、2種のラット神経膠腫細胞株の細胞生存率が、F98の場合60.8%±2.8、9Lの場合30.0%±4.4有意に減少していることが判明した(図4A)。
【0113】
これらの結果は、ヒト悪性神経膠腫細胞およびマウス悪性神経膠腫細胞を用いて再現された(それぞれ図5Aおよび図6Aを参照されたい)。
【0114】
さらに、外科手術後に単離された初代ヒト神経膠芽腫細胞の細胞生存率もまた、NFL-TBS.40-63ペプチドの影響を大きく受ける:NFL-TBS.40-63ペプチド(100μM)と共に72時間インキュベーションした後、細胞生存率は50%減少する。興味深いことに、40nMタキソールで細胞を処理した場合に細胞生存率は同じレベルであることから、NFL-TBS.40-63ペプチドは、微小管を脱重合させるこの周知の薬物と少なくとも同じ効果を細胞生存率に対して示すことが示唆される(図12を参照されたい)。
【0115】
また、トリパンブルー色素排除試験によっても細胞生存率を評価した。この負電荷を持った発色団は、細胞の膜が損傷している場合にのみ細胞に侵入する。ゆえに、この色素を排除する細胞はすべて生存能力がある。NFL-TBS40-63ペプチドがラット神経膠腫、ヒト神経膠腫、およびマウス神経膠腫の生存率に大きな影響を及ぼすのに対し、星状膠細胞は影響を受けないことが観察されている(データ不掲載)。
【0116】
NFL-TBS.40-63ペプチドの存在下で神経膠腫細胞の細胞生存率が減少することの説明となる可能性があるメカニズムを研究するために、これらの細胞の微小管細胞骨格を免疫組織化学によって評価した。
【0117】
未処理のF98細胞および9L細胞は大型で、密集した微小管ネットワークで満たされていたのに対し、NFL-TBS.40-63を含むものは非定型な球状の形状を示し、それらのチューブリンが細胞質内ペプチドと共凝集していた(図示せず)。このような変化は、全F98細胞の82%±3および全9L細胞の76.7%±5.8において観察された。一方、NFL-TBS.40-63ペプチドは星状膠細胞(4.7%±0.6)および神経細胞(8.5%±1.5)にはわずかにしか影響を及ぼさなかった。さらに、スクランブルペプチドNFL-SCRは、神経膠腫細胞、星状膠細胞、および神経細胞の微小管ネットワークを変化させなかった(図4B)。ヒト由来細胞およびマウス由来細胞でも同様の結果が得られた(それぞれ図5Bおよび図6B)。
【0118】
まとめると、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドは微小管細胞骨格を破壊し、ヒト由来、ラット由来、またはマウス由来いずれかの神経膠腫細胞の生存率を減少させるのに対し、脳中に同様に存在する非腫瘍細胞、例えば星状膠細胞および神経細胞の微小管細胞骨格および生存率には影響を及ぼさないことが示される。重要なことには、この結果はまた、腫瘍を有していない(対照)ラットにおいてもインビボで再現されており、その際、ペプチドは基本的にまったく影響を及ぼさず迅速に排除される(実施例の3.2.を参照されたい)。
【0119】
3.1.3. 抗増殖効果の特異性
MTSアッセイおよびトリパンブルー試験によって、NFL-TBS40-63ペプチドが生細胞数の減少を引き起こすことが示された。この減少が1)細胞分裂増殖の減少(細胞増殖抑制効果)、2)細胞死をもたらす毒性(細胞傷害効果)、または3)これら2種の効果の組合せを反映しているのかどうかを判定するために、異なる細胞型(ラットの神経膠腫細胞株および星状膠細胞)の分裂増殖に対するペプチドの影響を、チミジン類似体であるブロモデオキシウリジン(BrdU)のDNA中への組込みを測定することによって解析した。これにより、BrdU処理中のS期の細胞数、その結果、分裂増殖中の細胞の数が明らかになる。
【0120】
100μMのNFL-TBS40-63ペプチドでラット神経膠腫細胞を処理すると、検査したこれら2種の株におけるBrdU組込みが大幅に減少した(F98細胞では78.2%±3.0の阻害、9L細胞では34.8%±2.6の阻害)(図7A)ことから、分裂増殖中の細胞の数が少なくなっていることが示された。これとは大いに対照的に、ラット星状膠細胞を同様に処理しても、それらの分裂増殖に影響を与えなかった。さらに、NFL-SCRペプチドは、これらの細胞すべてに対して影響を及ぼさなかった。
【0121】
ヒト由来細胞およびマウス由来細胞を試験した場合、同様の結果が得られた(それぞれ図7Bおよび図7C)。
【0122】
結論づけると、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドはヒト由来、ラット由来、またはマウス由来いずれかの神経膠腫細胞の生存率を特異的に減少させることが示される。これに反して、それは、脳中に同様に存在する非腫瘍細胞、例えば星状膠細胞の生存率には影響を及ぼさない。
【0123】
3.1.4. 悪性神経膠腫細胞におけるアポトーシスの特異的誘導
BrdU染色解析により、神経膠腫細胞に対するNFL-TBS.40-63ペプチドの細胞増殖抑制効果が実証された。微小管結合薬は、分裂増殖を停止させ、アポトーシスによる細胞死を誘導することが公知である。MTSアッセイおよびトリパンブルー試験を用いて観察された生存神経膠腫細胞の数の減少もまた、細胞死(細胞傷害効果)と関連しているかどうかを検査するために、F98神経膠腫細胞、9L神経膠腫細胞、または星状膠細胞を100μMのペプチドと共に72時間インキュベートし、次いで、回収し、ヨウ化プロピジウム(PI)およびアネキシンVで染色した。次いで、FACS解析によってアポトーシス定量を評価した。膜が無傷の生細胞はPIを排除するのに対し、死細胞および損傷された細胞の膜はPIに対して透過性である。さらに、膜リン脂質ホスファチジルセリン(PS)は、アポトーシス細胞において、内部から外部細胞環境である外層(outer leaflet)へと移動され、したがって、アネキシンVタンパク質染色 (PSに対して高い親和性を有し、露出したPSを有する細胞に結合する)を用いてアポトーシス細胞を検出することができる。
【0124】
図8Aに示すように、NFL-TBS40-63処理後、早期アポトーシス段階または後期アポトーシス段階(死細胞とみなされる)のF98細胞の比率は、陰性対照よりそれぞれ233.5%±43.3および347.7%±32.6高かった。同様に、9L細胞も、そのような処理後に早期アポトーシス(712.1%±581.3)および後期アポトーシス(233.6%±82.3)の数の増加を示した。NFL-TBS40-63ペプチドに対するアポトーシス性応答は、F98神経膠腫(-37.6%±5.0)および9L神経膠腫(-32.6%±7.4)の両方において、陰性対照と比べて有意な生細胞数の減少と相関関係があった。一方、初代星状膠細胞はNFL-TBS40-63ペプチドに対して感受性ではなかった。同じ濃度のNFL-SCRペプチドはこれらの様々な細胞型に対して影響を及ぼさなかった。
【0125】
ヒト由来細胞またはマウス由来細胞を試験した場合、同様の結果が得られた(図8B)。
【0126】
結論づけると、これらの結果から、神経膠腫細胞の分裂増殖に対するNFL-TBS40-63ペプチドの阻害効果は、活性アポトーシスメカニズム、すなわち、抗有糸分裂薬物で処理した場合に様々な癌細胞、特に神経膠芽腫細胞が共有する細胞死メカニズム(Wang et al., 2000)によって媒介されることが実証される。言い換えると、したがってNFL-TBS40-63ペプチドは、アポトーシスによって神経膠腫細胞の死を誘導することができるが、正常な健常脳細胞には影響を及ぼさない。
【0127】
3.2. インビボの神経膠腫細胞におけるNFL-TBS40-63の侵入特異性
インビトロの実験により、星状膠細胞または神経細胞と比べた場合、神経膠腫細胞によってNFL-TBS40-63ペプチドが選択的に取り込まれることが示された。ペプチドがインビボでも腫瘍細胞のみを標的とし、それらの分裂増殖を選択的に阻害できるかどうかを、F98神経膠腫を有するラットを用いてさらに試験した。
【0128】
定位脳手術によって線条体にF98神経膠腫を注入し(0日目)、6日後に、60μLの5mM NFL-TBS40-63ペプチド(またはビヒクル)の脳内注射によって動物を処置した。16日目、24日目、または30日目に、ラットを安楽死させ、抗GFAPを用いてNFL-TBS40-63ペプチドおよび神経膠腫細胞を検出するために、連続した脳冠状切片を解析した。細胞核はまた、DAPIによって対比染色した。
【0129】
図9に示すように、NFL-TBS40-63ペプチド(緑色蛍光)は各時点の神経膠腫細胞において検出され、周囲の健常細胞においては検出されなかった(ペプチドはGFAP染色と共局在する)。
【0130】
重要なことには、腫瘍を有していない(対照)ラットを同じ手順に従って処置した場合、NFL-TBS40-63ペプチドは迅速に排除され、これらの時点に検出不可であった。さらに、正常脳に注入された場合、重大な細胞欠陥を検出することも、ペプチドの存在と関連付けることもできなかった。生理学的観点では、腫瘍を有していない(対照)これらのラットをNFL-TBS40-63ペプチドで処置した場合、体重減少または背中を丸めた姿勢など苦痛の臨床徴候は認められなかった。
【0131】
まとめると、これらのデータから、NFL-TBS40-63ペプチドが、インビボで神経膠腫細胞に特異的に侵入し、健常細胞は避けることが示唆される。NFL-TBS40-63ペプチドの方が、微小管を標的とする他の薬物(例えばパクリタキセル、Cavaletti et al, 1997)よりも毒性副作用がはるかに少ないという結論にこれはつながるため、このことは特に興味深い。これをより強く裏付ける(strengthen)ために、NFL-TBS40-63ペプチドを正常脳に注入した場合に、それが実際に迅速に排除されて、低い毒性に有利であることが示されている。微小管を標的とする他の薬物とは異なり、微小管を標的とするNFL-TBS40-63ペプチドが腫瘍を有していない(対照)ラットに注入された場合に、いかなる明らかな影響も引き起こさないのはこのためである。
【0132】
3.3. NFL-TBS40-63の脳内投与により、インビボでの腫瘍増殖が低減する
NFL-TBS40-63ペプチドが、ラットに移植された神経膠腫の増殖も阻害できるかどうかをさらに試験するために、連続切片をHEで染色し、ImageJを用いた形態計測によって腫瘍サイズを評価した(図10Aの冠状切片の例を参照されたい)。
【0133】
NFL-TBS40-63ペプチドを1回注入して処置した動物は、未処置動物で観察された腫瘍よりも有意に小さな腫瘍を提示した。実際のところ、ペプチドで処置した動物は、16日目に(ビヒクルで処置した動物と比べて)71.7%±18.9の腫瘍体積減少、24日目に72.0%±21.2の減少、30日目に42.8%±11.3の減少を示した(図10B)。
【0134】
また、同じ動物グループに対してMRI解析を用いることにより、同様の腫瘍抑制が観察された。この腫瘍の体積は、未処置動物と比べた場合、NFL-TBS40-63ペプチドで処置した動物において減少している(図示せず)。
【0135】
また、ラットの体重減少もしっかりとモニターした。体重減少は、注入された作用物質の治療的効果を反映する腫瘍増殖の間接的指標である。動物の毎日の計量により、未処置動物と比べた場合、NFL-TBS40-63で処置した動物の体重減少は有意に少ないことが示された(図11)。
【0136】
まとめると、上記に提供した結果から、NFL-TBS40-63ペプチドの以下の有効な能力が強調される:
a)腫瘍内に注入された場合に、インビボで神経膠腫細胞に侵入する能力、
b)侵入先の神経膠腫細胞のアポトーシスを誘導する能力、
c)脳の他の非腫瘍領域に影響を及ぼすのを回避する能力、
d)わずか1回の注入によってインビボで神経膠腫の進行を阻害する能力。
【0137】
3.4. 神経膠腫細胞へとナノカプセルをターゲティングさせるためのNFL-TBS2ペプチドの使用
親油性蛍光色素を含む脂質ナノカプセルを得、NFL-TBS2ペプチドと結合させるか、または結合させなかった。3種の神経膠腫細胞株(GL261細胞、T98G細胞、およびU87-MG細胞)を、NFL-TBS2ペプチドと結合された親油性蛍光色素(DiD)またはNFL-TBS2ペプチドと結合されていない親油性蛍光色素(DiD)を含む異なるLNC希釈物で1時間または6時間処理した。FACS(図14A)、および生細胞(図14B)または固定細胞(図14C)の共焦点顕微鏡検査によって、NFL-TBS2と結合されたLNCを用いると神経膠腫細胞株の標的化が改善されることが観察された。
【0138】
GL261腫瘍を有するC57Bl/6マウスにおいて、インビボ実験も実施した。腫瘍を検出するために、脳の連続切片をDAPIで、または神経膠芽腫のような神経膠の腫瘍において高発現される中間径フィラメントであるGFAP(Glial Fibrillary Acid Protein)に対する抗体を用いて標識した。重要なことには、LNC(DiD)-NFL-TBS2が、腫瘍を有するマウスに定位注入によって脳内投与される場合、LNCは神経膠腫細胞に到達することができ(図14Dの画像の右を参照されたい)、それらは腫瘍組織中に隔離されたままである(それらは健常組織中では観察されない)。
【0139】
したがって、これらの結果から、NFL-TBS40-63ペプチドを動物またはヒトのいずれかにおいて神経膠腫腫瘍を治療するための非常に有望な手段とみなすことが可能になる。腫瘍サイズを縮小するにあたってのその治療的効率に加えて、NFL-TBS40-63ペプチドは、この種の(微小管を標的とする)薬物に通常付随する強い神経毒性を示さない。したがって、これは、神経膠腫に罹患している患者を治療するための将来の治療作用物質として包含される。
【0140】
参照文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪性神経膠腫を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列。
【請求項2】
悪性神経膠腫が脳悪性神経膠腫である、請求項1記載のアミノ酸配列。
【請求項3】
脳悪性神経膠腫が、未分化星状細胞腫(AA)、多形神経膠芽腫(GBM)、退形成性乏突起膠腫(AO)、および退形成性乏突起星細胞腫(AOA)より選択される、請求項2記載のアミノ酸配列。
【請求項4】
脳悪性神経膠腫が多形神経膠芽腫(GBM)である、請求項2および3記載のアミノ酸配列。
【請求項5】
約0.07〜0.7ミリモルの間で含まれる用量でヒトに投与される、請求項1〜4記載のアミノ酸配列。
【請求項6】
NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項1〜5記載のアミノ酸配列。
【請求項7】
神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用。
【請求項8】
アミノ酸配列が、例えば色素またはタグで標識されている、請求項7記載の使用。
【請求項9】
神経膠腫細胞が神経膠芽腫細胞である、請求項7および8記載の使用。
【請求項10】
アミノ酸配列が、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項7〜9記載の使用。
【請求項11】
以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料をインビトロで試験するための方法:
a)該試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
b)NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた該試料の細胞と混合する段階、
c)該試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、該アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【請求項12】
アミノ酸配列が標識されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】
アミノ酸配列を含む細胞の比率の決定がフローサイトメトリーによって実施される、請求項11および12記載の方法。
【請求項14】
アミノ酸配列が、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項11〜13記載の方法。
【請求項15】
インビボまたはインビトロで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用。
【請求項16】
化学的化合物が薬学的化合物または標識マーカーである、請求項15記載の使用。
【請求項17】
化学的化合物が、ペプチドと結合しているナノカプセル中に封入されている、請求項15または16記載の使用。
【請求項1】
悪性神経膠腫を治療するための方法における使用のための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含む単離されたアミノ酸配列。
【請求項2】
悪性神経膠腫が脳悪性神経膠腫である、請求項1記載のアミノ酸配列。
【請求項3】
脳悪性神経膠腫が、未分化星状細胞腫(AA)、多形神経膠芽腫(GBM)、退形成性乏突起膠腫(AO)、および退形成性乏突起星細胞腫(AOA)より選択される、請求項2記載のアミノ酸配列。
【請求項4】
脳悪性神経膠腫が多形神経膠芽腫(GBM)である、請求項2および3記載のアミノ酸配列。
【請求項5】
約0.07〜0.7ミリモルの間で含まれる用量でヒトに投与される、請求項1〜4記載のアミノ酸配列。
【請求項6】
NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項1〜5記載のアミノ酸配列。
【請求項7】
神経膠腫細胞を検出するための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用。
【請求項8】
アミノ酸配列が、例えば色素またはタグで標識されている、請求項7記載の使用。
【請求項9】
神経膠腫細胞が神経膠芽腫細胞である、請求項7および8記載の使用。
【請求項10】
アミノ酸配列が、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項7〜9記載の使用。
【請求項11】
以下の段階を含む、悪性神経膠腫細胞の存在または非存在について生物学的試料をインビトロで試験するための方法:
a)該試料の細胞を適切な培地に懸濁する段階、
b)NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列を、懸濁させた該試料の細胞と混合する段階、
c)該試料中の神経膠腫細胞の比率に対応する、該アミノ酸配列を含む細胞の比率を決定する段階。
【請求項12】
アミノ酸配列が標識されている、請求項11記載の方法。
【請求項13】
アミノ酸配列を含む細胞の比率の決定がフローサイトメトリーによって実施される、請求項11および12記載の方法。
【請求項14】
アミノ酸配列が、NFL-TBS40-63ペプチドまたは生物学的に活性なその誘導体からなる、請求項11〜13記載の方法。
【請求項15】
インビボまたはインビトロで神経膠腫細胞へと化学的化合物を導くかまたはターゲティングさせるための、NFL-TBS40-63ペプチド(SEQ ID NO:1)または生物学的に活性なその誘導体を含むアミノ酸配列の使用。
【請求項16】
化学的化合物が薬学的化合物または標識マーカーである、請求項15記載の使用。
【請求項17】
化学的化合物が、ペプチドと結合しているナノカプセル中に封入されている、請求項15または16記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【公表番号】特表2013−513646(P2013−513646A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543695(P2012−543695)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069663
【国際公開番号】WO2011/073207
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(511078587)ユニベルシテ ダンジェ (1)
【出願人】(504006489)インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム) (5)
【出願人】(512154747)ザ ロイヤル インスティチューション フォー ザ アドバンスメント オブ ラーニング/マクギル ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069663
【国際公開番号】WO2011/073207
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(511078587)ユニベルシテ ダンジェ (1)
【出願人】(504006489)インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ ルシェルシュ メディカル (インセルム) (5)
【出願人】(512154747)ザ ロイヤル インスティチューション フォー ザ アドバンスメント オブ ラーニング/マクギル ユニバーシティ (2)
【Fターム(参考)】
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