説明

神経障害を処置するための方法

本発明は、ニューロン固有の成長プログラムも活性化されない限り、Nogo受容体(NgR)の活性を抑制するだけでは、大規模な軸索再生は起こらないという発見に基づいている。したがって本発明は、NgR活性を阻害する薬剤または阻害シグナルによって活性化される下流経路を阻害する薬剤を、ニューロンの成長経路を活性化する薬剤(例えばポリペプチド成長因子、マクロファージの活性化物質、プリンヌクレオシド、またはヘキソース)と組み合わせる併用療法を使って、軸索再生を刺激する方法に向けられる。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
相互参照
本願は、2003年12月16日に出願された米国仮出願第60/529,833号の米国特許法第119条(e)項に基づく恩典を主張する。
【0002】
政府の援助
本明細書に記載する研究は、部分的に、National Institute of Healthの助成金番号EY05690による援助を受けた。米国政府は本発明に対して一定の権利を持つ。
【0003】
発明の背景
CNSニューロンが傷害後にその軸索を再生できないことは、外傷、脳卒中、または一定の神経変性疾患後に起こり得る機能回復に、厳しい制限を課す。再生不全は、CNSミエリンに関連するタンパク質および傷害部位に形成されるグリア性瘢痕に関連するタンパク質が一因であると考えられている。NogoAのC末端(Chen et al., 2000;GrandPre et al., 2000)、ミエリン関連糖タンパク質(McKerracher et al., 1994;Mukhopadhyay et al., 1994)、およびOMgp(Wang et al., 2002b)を含むいくつかのミエリン軸索成長阻害物質は、Nogo受容体(NgR)およびp75NTRまたは別の補助受容体を介して、その作用を発揮する(Fournier et al., 2001;Domeniconi et al., 2002;Liu et al., 2002;Wang et al., 2002a,b)。培養下では、NgRの発現は、ニワトリ胚網膜神経節細胞(RGC)の成長円錐がNogoのC末端領域(Nogo66)との接触時に崩壊する原因となり(Fournier et al., 2001)、MAG、OMgp、またはミエリン上の小脳顆粒細胞からの神経突起伸長を阻害する(Wang et al., 2002a,b)。逆に、ドミナントネガティブ型のNgR(NgRDN)をトランスフェクトすると、培養小脳顆粒細胞は、ミエリン、Nogo66、OMgp、およびMAGの阻害作用を克服することができるようになる(Domeniconi et al., 2002;Wang et al., 2002a,b)。しかし、NgRまたはNgRDNを過剰発現させた場合の作用はインビボでは調べられておらず、この遺伝子を欠失させた場合の作用も調べられていない。
【0004】
NogoAに対する抗体またはNgRの小ペプチド阻害物質は、ラットにおける皮質脊髄路(CST)再生を、ある程度しか増加させないのに対して(Schnell et al., 1994;Bregman et al., 1995;GrandPre et al., 2002;Sicotte et al., 2003)、マウスにおけるNogoA遺伝子の遺伝子欠失は、中程度のCST再生をもたらすことも(Kim et al., 2003b;Simonen et al., 2003)、そのような再生をもたらさないことも(Zheng et al., 2003)ある。このように、特定ミエリン阻害物質の克服、またはNgRを介したシグナル伝達の抑制は、神経障害の処置に要求されるであろうインビボでの実質的なCNS再生を促進するには十分でない(Steward et al., 2003;Woolf, 2003;Zheng et al., 2003)。
【0005】
当技術分野においては、ニューロンまたは神経系の一部の再生能力および望ましい機能を維持する能力を改善することができる方法および組成物であって、神経障害の処置に使用することができるものが必要とされている。
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
本発明は、ニューロンの生得的成長経路も活性化されない限り、Nogo受容体(NgR)の活性を抑制するだけでは、大規模な軸索再生は起こらないという発見に基づいている。したがって本発明は、NgR活性を阻害する薬剤を、ニューロンの成長経路を活性化する薬剤(例えばポリペプチド成長因子、例えばBDNF、CNTF、NGF、IL-6、GDNF;マクロファージの活性化物質、例えばGM-CSF、TGF-β;マクロファージによって産生される成長因子、例えばオンコモジュリンもしくはMIF;イノシンなどのプリンヌクレオシド;またはマンノースなどのヘキソース)と組み合わせる併用療法を使って、軸索再生を刺激するための方法に向けられる。
【0007】
ある態様では、i)CNSニューロンを有効量のNgRアンタゴニストと接触させる段階、およびii)CNSニューロンを、有効量の、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤と接触させる段階を含む、中枢神経系(CNS)ニューロンの軸索成長を刺激するための方法が提供される。
【0008】
ニューロンは各薬剤と個別にまたは同時に接触させることができる。好ましい一態様では、ニューロンを、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤と接触させてから、NgRアンタゴニストと接触させる。
【0009】
本発明においてCNSニューロンの成長経路を活性化するために使用することができる適切な薬剤の例として、イノシン、オンコモジュリン、公知のペプチド成長因子、例えばNGF、NT-3、NGF、CNTF、IL-6、GDNF、TGF-β、およびヘキソース分子、例えばD-マンノース、グロース、およびグルコース-6-リン酸が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0010】
ある局面では、本明細書に記載する中枢神経系(CNS)ニューロンの軸索成長を刺激するための方法は、CNSニューロンを、細胞内cAMPの濃度を増加させるcAMP調節物質(modulator)と接触させる段階をさらに含む。本発明における使用に適したcAMP調節物質として、cAMP類似体、cAMPを活性化するGタンパク質共役受容体の活性化物質、アデニル酸シクラーゼ活性化物質、カルシウムイオノフォア、およびホスホジエステラーゼ阻害物質が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0011】
本発明における使用に適したNgRアンタゴニスには、Nogo受容体の活性を抑制することができる任意の薬剤が含まれる。例えばNgRアンタゴニストは、Nogo受容体に結合することによってNgRを介したシグナル伝達を阻害する薬剤、NgRのリガンド(例えばOMgp、MAG、またはNOGO)に結合することによってそのリガンドがNgRへ結合することを阻害する薬剤、NgRの発現を阻害する薬剤、NgRによって活性化されるRhoAまたはRhoキナーゼ(ROCK)などの下流シグナル伝達分子の活性を阻害する薬剤であってもよい。NgRアンタゴニストは抗体、ペプチド、小分子、RNA(例えばsiRNAもしくはアンチセンスRNA)、またはDNAであってもよい。
【0012】
本明細書に記載する方法では、NgRアンタゴニストと、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤との任意の組合せを使用することができる。
【0013】
ある態様では、NgRアンタゴニストはNgRに結合するペプチドであり、該ペプチドは配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、および配列番号:7からなる群より選択される。
【0014】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号:14に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含むペプチドである。
【0015】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号:15に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含むペプチドである。
【0016】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号:16に記載のNogo-66のアミノ酸配列を含むペプチドである。
【0017】
もう一つの態様では、NgRアンタゴニストは可溶性NgRタンパク質である。
【0018】
ある態様では、可溶性NgRタンパク質は配列番号:8または配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含む。
【0019】
ある態様では、可溶性NgRタンパク質は、配列番号:10のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:11のアミノ酸残基26位〜310位、配列番号:12のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号12のアミノ酸残基27位〜344位、および配列番号:13のアミノ酸残基27位〜310位からなる群より選択される可溶性Nogo受容体-1ポリペプチド配列である。
【0020】
もう一つの態様では、NgRアンタゴニストは、NgRに結合する核酸アプタマーである。
【0021】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、ドミナントネガティブ型のNgRをコードするDNAである。DNAをウイルスベクター(例えばAAV)に含有させることができ、それにより、該ベクターの投与は、CNSニューロンを有効量のNgRアンタゴニストと接触させるための手段になる。本発明の方法においては任意のウイルスベクターを使用することができる。
【0022】
ある態様では、NgRアンタゴニストが、NgRによって活性化される下流シグナル伝達分子の活性を阻害する薬剤、例えば下流シグナル伝達分子RhoAを阻害するクロストリジウム・ボツリナム(clostridium botulinum)C3 ADP-リボシルトランスフェラーゼである。
【0023】
もう一つの態様では、i)有効量のNgRアンタゴニストを患者に投与する段階、およびii)該患者に、有効量の、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤を投与する段階を含む、患者の神経障害を処置するための方法が提供される。
【0024】
新しい軸索成長から恩恵を受けるであろう任意の神経障害を、本発明の方法によって処置することができる。
【0025】
ある態様では、処置すべき神経障害が以下から選択される:外傷性脳傷害、脳卒中、脳動脈瘤、脊髄傷害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、びまん性大脳皮質萎縮、レーヴィ小体型痴呆、ピック病、中脳辺縁皮質痴呆(mesolimbocortical dementia)、視床変性、ハンチントン舞踏病、皮質-線条体-脊髄変性、皮質-基底核神経節変性、大脳小脳変性、痙性不全対麻痺を伴う家族性痴呆、ポリグルコサン小体病、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮、進行性核上性麻痺、変形性筋ジストニア、ハレルフォルデン・シュパッツ病、メージュ症候群、家族性振せん、ジル・ド・ラ・ツーレット症候群、有棘赤血球舞踏病、フリードライヒ運動失調、ホームズ型家族性皮質小脳萎縮、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、進行性脊髄性筋萎縮、進行性球麻痺、原発性側索硬化症、遺伝性筋萎縮、痙性対麻痺、腓骨筋萎縮、肥厚性間質性多発ニューロパシー、遺伝性多発神経炎性失調(heredopathia atactica polyneuritiformis)、視神経症、眼筋麻痺、および網膜または視神経損傷。
【0026】
NgRアンタゴニストとCNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤とを含む薬学的組成物も提供される。本組成物は、例えば局所投与、肺投与、体内局所投与、皮内投与、非経口投与、皮下投与、鼻腔内投与、表皮投与、眼投与、経口投与、脳室内投与、およびクモ膜下投与を含む投与のために製剤化される。
【0027】
ある態様では、本発明は、NgRアンタゴニストの容器およびCNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤の容器を有するキットを含む。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明は、神経障害の処置に使用することができる、中枢神経系(CNS)ニューロンの軸索成長を刺激する方法を提供する。本明細書に提示する方法では、i)CNSニューロンの成長経路を活性化すること、およびii)NgRのアンタゴニストを使ってNgRの活性を阻害することの両方による軸索成長の刺激を伴う併用療法が使用される。これらの薬剤を含む薬学的組成物も含まれる。好ましい組成物は静脈内投与用またはクモ膜下投与用に製剤化される。
【0029】
定義
下記の説明で使用する特定の用語には以下の定義が与えられる。
【0030】
本明細書において使用する「NgRアンタゴニスト」という用語には、NgR活性を減少させ、阻害し、遮断しまたは干渉する任意の薬剤が含まれる。アンタゴニストは、NgRに結合することによってこの受容体を介したシグナルを阻害する薬剤であってもよい。または、アンタゴニストはNgRの発現を阻害する薬剤、例えばアンチセンスRNA、またはRNAiであってもよい。本明細書において使用するアンタゴニストという用語は、NgRによって活性化される下流シグナル伝達分子の活性を阻害する薬剤も包含し、またはアンタゴニストはドミナントネガティブ型のNgRでありうる。アンタゴニストには、例えば本明細書において定義する抗体、および抗体様機能を持つ分子、例えば抗体の合成類似体(例えば単鎖抗原結合分子、小さい結合ペプチド、またはその混合物など)が含まれる。アンタゴニスト活性を持つ薬剤として、小さい有機分子、天然産物、ペプチド、アプタマー、ペプチド模倣体、DNAおよびRNAを挙げることができる。
【0031】
本発明の方法における使用に適したNgRアンタゴニストとして、NgRリガンドの結合を防ぐが下流シグナル伝達を活性化しないペプチドアンタゴニストNEP1-40(Nature. 2002 May 30;417(6888):547-51;J Neurosci. 2003 May 15;23(10):4219-27);受容体に対するモノクローナル抗体(J Biol Chem. 2004 Oct 15;279(42):43780-8)および国際公開公報第2004/014311号に開示されているもの、例えばmAb 7E11、5B10、1H2、3G5、2F7、ID9.3、2G7.1、1E4.1、1G4.1、2C4.1、2F11.1、1H4.1、2E8.1、2G11.2、および1B5.1;NgRリガンドに結合しそれらが軸索上の受容体と相互作用するのを防ぐ、免疫グロブリンの一部に連結されたNgR受容体のリガンド結合ドメインからなる可溶性融合タンパク質(NgR(310)ecto-Fc)(J Neurosci. 2004 Jul 7;24(27):6209-17;J Neurosci. 2004 Nov 17;24(46):10511-20)および国際公開公報第2004/014311号に開示されているもの、例えばsNogoR310およびsNogoR310-Fc、ならびにMacDermid et al., 2004 European Journal of Neuroscience 20(10):p2567に開示されているsNgR;可溶性NgR、例えば国際公開公報第2004/090103号に開示されているsNgRc-termおよびsNgR3c-term;ドミナントネガティブ型のNogo受容体(Neuron. 2002 Jul 18;35(2):283-90;およびJ Neurosci. 2004 Feb 18;24(7):1646-51);RhoAを不活化するクロストリジウム・ボツリナムC3 ADP-リボシルリボシルトランスフェラーゼ;ROCKの小分子阻害物質Y-27632(Dergham et al., 2002 J. Neurosci. 22:6570-6577およびLehmann et al., 1999 J. Neurosci. 19:7537-7547);NogoアンタゴニストPep2-41および合成ペプチド140(PCT国際公開公報第03/031462号;US2002/0077295)ならびにPhenix Pharmaceuticals Inc.から市販されているNgRアンタゴニスト40残基ペプチドNEP1-40(GrandPre et al., Nature 2002 417:547-541)、Fouiner et al., 2001 Nature 409:341-346、Huber et al., 2000 Biol. Chem 381:407-419、Oertle, T et al., 2003 J. Neurosci. 23:5393-5406には、他のNgRアンタゴニストペプチドが記載されている;ならびにNogoを遮断する抗体、例えばIN-1抗体(Brosamle et al., J. Neurosci 2000 20:8061-8068)および7B12(Wiessner et al., 2003 J. Cereb. Blood Flow Metab. 23:154-165)、ならびにその他、例えばSchnell et al., Nature. 1990 Jan 18;343(6255):269-72;Kapfhammer et al., J Neurosci. 1992 Jun;12(6):2112-9;Guest et al., J Neurosci Res. 1997 Dec 1;50(5):888-905;Z'Graggen et al., Neurosci. 1998 Jun 15;18(12):4744-57;Bareyre et al., J Neurosci. 2002 Aug 15;22(16):7097-110;およびFouad et al., Eur J Neurosci. 2004 Nov;20(9):2479-82に記載されているものなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0032】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、および配列番号:7からなる群より選択される、NgRに結合するペプチドを含む。
【0033】
もう一つの態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号:8または配列番号:9のアミノ酸配列を含む可溶性NgRタンパク質である。いくつかの態様では、可溶性NgRが融合タンパク質、例えばFc融合タンパク質である。いくつかの態様では、本発明は、本質的にNogo受容体1のN末端ドメイン(NT)、8個のロイシンリッチ反復ドメイン(LRR)およびLRR C末端ドメイン(LRRCT)からなる、可溶性Nogo受容体-1ポリペプチドを提供する。いくつかの態様では、該可溶性Nogo受容体-1ポリペプチドがシグナル配列に接合される。いくつかの態様では、LRRが異種LRRRを含む。いくつかの態様では、本発明は、配列番号:10のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:11のアミノ酸残基26位〜310位、配列番号:12のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:12のアミノ酸残基27位〜344位、および配列番号:13のアミノ酸残基27位〜310位からなる群より選択される可溶性Nogo受容体-1ポリペプチドを提供する。
【0034】
ある態様では、NgRアンタゴニストは、C末端がアセチル化されかつN末端がアミド化された配列番号:14を含むペプチド140(ヒトNogoAのアミノ酸残基1055位〜1120位;US2002/0077295参照)である。
【0035】
もう一つの態様では、NgRアンタゴニストは、C末端がアセチル化されかつN末端がアミド化された配列番号:15を含むPep2-41(ヒトNogoAのアミノ酸残基1055位〜1094位;PCT刊行物国際公開公報第03/031462号参照)である。
【0036】
もう一つの態様では、NgRアンタゴニストは、配列番号16を含むNEP1-40(GrandPre et al., Nature 2002 417:547-541参照)である。
【0037】
いくつかの態様では、NgRアンタゴニストは、Nogo受容体またはその一部に結合してNOGOとNOGO受容体との相互作用を妨害する核酸アプタマーである。好ましいアプタマーはU.S.2003/0203870に開示されている。
【0038】
本明細書において使用する「抗体」という用語には、ヒトmAb、動物mAb、およびポリクローナル抗体の調製物、ならびに抗体断片(抗原結合性断片)、組換え抗体(抗血清)を含む合成抗体、ヒト化抗体を含むキメラ抗体、抗イディオタイプ抗体およびその誘導体が含まれる。
【0039】
いくつかの態様では、抗体または抗原-抗体断片がNgRに結合し、Nogo受容体がリガンドに結合するのを阻害する(抗NgR抗体)。ある態様では、受容体に対するモノクローナル抗体が、7E11、5B10、1H2、3G5、2F7、1D9.3、2G7.1、1E4.1、1G4.1、2C4.1、2F11.1、1H4.1、2E8.1、2G11.2、および1B5.1からなる群より選択される(国際公開公報第2004/014311号参照)。
【0040】
いくつかの態様では、抗体または抗原-抗体断片が、OMgp、NogoまたはMAGなどのNgRリガンドに結合する。好ましい抗OMgP抗体または抗原-抗体断片はU.S.2003/0113325に開示されている。Nogoを遮断する好ましい抗体として、IN-1抗体(Brosamle et al., J. Neurosci 2000 20:8061-8068)および7B12(Wiessner et al., 2003 J. Cereb. Blood Flow Metab. 23:154-165)が挙げられる。
【0041】
米国出願公開第2003/0113325号にも、本発明の方法において有用なNgRアンタゴニストである、OMgpを結合するペプチドが開示されている。
【0042】
本明細書において使用する「ヘキソース」という用語には、CNSニューロンの成長経路を活性化することができる任意のヘキソースまたはその誘導体が含まれる。好ましいヘキソースとしてD-マンノースおよびグロースが挙げられる。「ヘキソース誘導体」という用語は、その分子のヒドロキシル基の一つまたは複数に共有結合またはイオン結合した一つまたは複数の残基(例えばエステル、エーテル、アミノ基、アミド基、リン酸基、硫酸基、カルボキシル基、カルボキシアルキル基、およびそれらの組合せ)を持つヘキソース分子を指す。好ましい誘導体としてグルコース-6-リン酸が挙げられる。ヘキソース誘導体という用語には、ヘキソースのD-およびL-異性体またはCNSニューロンの成長経路を活性化することができるヘキソース誘導体が含まれる。ヘキソース誘導体は当技術分野において周知であり、市販されている(例えば国際公開公報第2004/028468号も参照されたい)。
【0043】
本明細書において使用する「CNSニューロンの成長経路を活性化する」薬剤とは、CNSニューロンの健康または機能にとって有利な応答または結果を引き出す薬剤を指す。そのような作用の例として、ニューロンまたは神経系の一部が持つ、傷害に抵抗する能力、再生する能力、望ましい機能を維持する能力、成長する能力または生き残る能力の改善が挙げられる。
【0044】
本明細書において使用する「cAMP調節物質」という用語には、細胞中のcAMPの量、産生、濃度、活性もしくは安定性を調節する能力または細胞cAMPの薬理活性を調節する能力を持つ任意の化合物が含まれる。cAMP調節物質は、cAMPの産生につながるシグナル伝達経路において、アデニル酸シクラーゼのレベルで、アデニル酸シクラーゼの上流レベルで、またはアデニル酸シクラーゼの下流レベルで、例えばcAMPそのもののレベルで、作用することができる。サイクリックAMP調節物質は細胞の内側で、例えばGi、Go、Gq、Gs、およびGtなどのGタンパク質のレベルで作用するか、細胞の外側で、例えばGタンパク質共役受容体などの細胞外受容体のレベルで作用することができる。サイクリックAMP調節物質として、アデニル酸シクラーゼの活性化物質、例えばフォルスコリン;8-ブロモ-cAMP、8-クロロ-cAMP、またはジブチリルcAMP(db-cAMP)を含む、cAMPの非加水分解性類似体;イソプロテノール;血管作動性腸ペプチド;カルシウムイオノフォア;膜脱分極;cAMPを刺激するマクロファージ由来因子;マクロファージ活性化を刺激する薬剤、例えばザイモサンまたはIFN-y;ホスホジエステラーゼ阻害物質、例えばペントキシフィリンおよびテオフィリン;特異的ホスホジエステラーゼIV(PDEIV)阻害物質;ならびにβ2アドレナリン受容体アゴニスト、例えばサルブタモールなどが挙げられる。cAMP調節物質という用語には、cAMPの産生、機能、活性または安定性を阻害する化合物、例えばサイクリックヌクレオチドホスホジエステラーゼ3Bなどのホスホジエステラーゼも含まれる。cAMPの産生、機能、活性または安定性を阻害するcAMP調節物質は当技術分野において公知であり、例えばNano et al, Pflugers Arch 439(5):547-54, 2000に記載されており、その内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0045】
本発明における使用に適したホスホジエステラーゼIV阻害物質の例として、4-アリールピロリジノン類、例えばロリプラム(A.G.Scientific, Inc.)、ニトラクアゾン(nitraquazone)、デンブフィリン(denbufylline)、チベネラスト(tibenelast)、CP-80633、およびCP-77059などのキナゾリンジオンが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0046】
本発明における使用に適したβ2アドレナリン受容体アゴニストの例として、サルメテロール、フェノテロールおよびイソプロテレノールが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0047】
本明細書において使用する場合、患者に「投与する」という用語は、対象における所望の部位に活性物質を送達するための、非経口経路または経口経路による送達、筋肉内注射、皮下/皮内注射、静脈内注射、口腔内投与、経皮送達、および直腸経路、結腸経路、膣経路、鼻腔内経路、または気道経路による投与を含む、任意の適切な送達系路によって、対象に薬学的製剤中の活性化合物を施与、送達、または適用することを包含する。例えば、昏睡状態にあるか、麻酔下にあるか、または麻痺している対象に、薬剤を静脈内注射によって投与してもよく、または胎児における軸索成長を刺激するために、妊娠している対象に、薬剤を静脈内投与してもよい。具体的な投与経路として、局所適用、例えば点眼薬、眼瞼下に入れるクリーム剤または浸食性(erodible)製剤によるもの、房水または硝子体液への眼内注射、眼の外層への注射、例えば結膜下注射またはテノン下(subtenon)注射によるもの、非経口投与または経口経路による投与を挙げることができる。
【0048】
本明細書において使用する「CNSニューロンを接触させる」という用語は、細胞に対する、または薬剤がニューロンにおいてその薬理作用を示すことのできる生物全体に対する、任意の様式の薬剤送達または薬剤「投与」を指す。「CNSニューロンを接触させる」という用語には、本発明の薬剤をニューロンに近接させるインビボ法とインビトロ法の両方が含まれるものとする。当業者は適切な投与様式を決定することができ、そのような投与様式は薬剤によって異なり得る。例えば、CNSニューロンの軸索成長をエクスビボで刺激する場合は、例えばトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、ウイルスベクター感染によって、または成長培地への添加によって、薬剤を投与することができる。インビボでニューロンを、ニューロンの成長経路を活性化する薬剤と接触させる手段としては、例えば水晶体傷害が挙げられるが、これに限定されるわけではない。水晶体傷害はマクロファージ活性化につながり、マクロファージから分泌される因子は、RGCを刺激してその軸索を再生させる(Yin et al, 2003)。
【0049】
本明細書において用いる、薬剤の「有効量」は、所望の治療作用または薬理作用を達成するのに十分な量、例えばNgRの活性を阻害するのに十分な量、またはCNSニューロンの成長経路を活性化することができる量である。本明細書において定義する薬剤の有効量は、対象の疾患状態、年齢、および体重、ならびに対象において所望の応答を引き出す薬剤の能力などといった因子に応じて変動し得る。最適な治療応答が得られるように投薬レジメンを調整することができる。有効量は、治療上有益な作用が活性化合物の毒性または有害作用を上回る量でもある。
【0050】
薬剤の治療有効量または投薬量は約0.001〜30mg/kg体重の範囲であることができ、本発明の他の範囲としては、約0.01〜25mg/kg体重、約0.1〜20mg/kg体重、約1〜10mg/kg、2〜9mg/kg、3〜8mg/kg、4〜7mg/kg、および5〜6mg/kg体重が挙げられる。限定されないが、疾患または障害の重症度、過去の処置、対象の全般的健康および/または年齢、ならびに他の疾患の存在を含む、一定の因子が、対象を効果的に処置するのに必要な投薬量に影響を及ぼし得ることは、当業者には理解されるだろう。さらにまた、治療有効量の活性化合物による対象の処置には、単回処置、または一連の処置が含まれてもよい。ある例では、対象を、約0.1〜20mg/kg体重の範囲で、約1〜10週間にわたって、または2〜8週間、約3〜7週間、または約4、5もしくは6週間にわたって、週に1回薬剤により処置する。処置に使用する薬剤の有効投薬量が特定の処置の過程で増加または減少し得ることも、理解されるだろう。本発明の薬剤は同時にまたは個別に投与することができる。
【0051】
本明細書において使用する「患者」または「対象」または「動物」または「宿主」という用語は任意の哺乳動物を指す。患者は好ましくはヒトであるが、獣医学的処置を必要とする哺乳動物、例えば家畜(例えばイヌ、ネコなど)、農用動物(例えばウシ、ヒツジ、家禽、ブタ、ウマなど)、および実験動物(例えばラット、マウス、モルモットなど)であることもできる。
【0052】
本明細書において使用する「神経障害」という用語は、対象の神経系の正常な機能または解剖学的形態を直接的または間接的に冒す疾患、障害、または状態を包含するものとする。
【0053】
本明細書において使用する、軸索の「成長」または「伸長」という用語は、軸索または樹状突起がニューロンから伸びる過程を包含する。伸長は新しい神経突起の突出または既存細胞突起の延長をもたらし得る。軸索伸長は、軸索突起の5細胞直径以上の直線的延長を包含し得る。神経突起生成を含むニューロンの成長過程は、免疫染色などの方法によって検出されるGAP-43発現によって証明することができる。「軸索成長を刺激する」とは、軸索伸長を促進することを意味する。
【0054】
本明細書において使用する「CNSニューロン」という用語は、脳、脳神経および脊髄のニューロンを包含するものとする。
【0055】
本明細書において使用する「NgR」という用語は、NogoまたはNogoのアイソフォームに結合する受容体を指す。例えばNogo-66(Fournier et al., 2001, Nature, 409(6818):341-346)。Nogo受容体の限定でない例は、Genebankのアクセッション番号NM_181377.2、AY311478.1、NM_181380.2、AF462390.1、NM_178570.1、NM_178568.1、AF283463.1、およびAF532858に見いだされる。米国特許出願公開第20030124704号および同第0020077295号にもいくつかのNogo受容体ホモログが記載されており、これらは参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。「NgR」という用語はそのホモログおよび対立遺伝子変異体も包含するものとする。
【0056】
以下の下位項目では本発明のさまざまな局面をさらに詳しく説明する。
【0057】
NgRアンタゴニスト
本明細書に記載する併用療法は、CNSニューロンをNgRアンタゴニストと接触させる段階を含む。NgRアンタゴニストは、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤を投与する前に投与するか、そのような薬剤と同時に投与するか、そのような薬剤の投与後に投与することができる。NgRのアンタゴニストと追加の治療剤とを異なる時間に投与する場合、それらは、好ましくは、薬剤の薬理活性を実質的にオーバーラップさせるのに適した期間内に投与される。当業者は、アンタゴニストと追加の薬剤とを同時投与するための適当なタイミングを、選択した特定の薬剤および他の因子に応じて決定することができると考えられる。
【0058】
NgRアンタゴニストはDNA、RNA、小さい有機分子、天然産物、タンパク質(例えば抗体)、ペプチドまたはペプチド模倣体でありうる。アンタゴニストは、例えば、本明細書に記載するように、または他の適切な方法を使って、National Cancer InstituteのChemical Repositoryなどといった分子ライブラリーまたは分子コレクションをスクリーニングすることなどによって、同定することができる。本発明において使用するNgRアンタゴニストを同定するために用いることができる適切なスクリーニング方法ならびに公知のNgRアンタゴニストは、米国特許出願公開第20030203870号、同第20030186267号、同第20030113891号、同第20030113326号、同第20030113325号、同第20030060611号、同第20020077295号、同第20020012965号、同第2003/0113325号、およびPCT刊行物国際公開公報第2004/014311号に記載されており、これらの文献は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。特に、米国特許出願公開第20030186267号、同第20030113891号、および同第20030060611号には、NgR mRNAを切断するリボザイムおよびアンチセンス分子が記載されている。
【0059】
もう一つのアンタゴニスト源は、構造が異なる数多くの分子種を含むことができるコンビナトリアルライブラリーである。コンビナトリアルライブラリーは、リード化合物を同定するために、または先に同定されたリードを最適化するために、使用することができる。そのようなライブラリーは、コンビナトリアル化学の周知の方法によって製造することができ、本明細書に記載する方法などの適切な方法によってスクリーニングすることができる。
【0060】
本明細書において使用する「ペプチド」という用語は、約2〜約90個のアミノ酸残基からなり、あるアミノ酸のアミノ基が別のアミノ酸のカルボキシル基にペプチド結合によって連結されている化合物を指す。
【0061】
ペプチドは、例えば酵素的切断または化学的切断によってネイティブタンパク質から誘導または除去するか、通常のペプチド合成技法(例えば固相合成)または分子生物学的技法(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, ニューヨーク州コールドスプリングハーバー(1989)参照)を使って製造することができる。「ペプチド」は任意の適切なL-および/またはD-アミノ酸、例えば一般的なa-アミノ酸(例えばアラニン、グリシン、バリン)、非a-アミノ酸(例えばP-アラニン、4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、サルコシン、スタチン)、および異常アミノ酸(例えばシトルリン、ホモシトルリン、ホモセリン、ノルロイシン、ノルバリン、オルニチン)などを含むことができる。ペプチド上のアミノ基、カルボキシル基および/または他の官能基は、遊離(例えば無修飾)であっても、適切な保護基で保護されていてもよい。アミノ基およびカルボキシル基に適した保護基、ならびに保護基を付加または除去する手段は当技術分野において公知であり、例えばGreenおよびWuts「Protecting Groups in Organic Synthesis」John Wiley and Sons, 1991などに開示されている。ペプチドの官能基は当技術分野公知の方法を使って誘導体化(例えばアルキル化)することもできる。
【0062】
ペプチドを合成し、それらを集めて、小数〜多数の個別の分子種を含むライブラリーにすることができる。そのようなライブラリーは、コンビナトリアル化学の周知の方法を使って作製することができ、NgR機能を拮抗することができるペプチドをそのライブラリーが含むかどうかを決定するために、本明細書に記載するように、または他の適切な方法を使って、スクリーニングすることができる。次に、そのようなペプチドアンタゴニストを、適切な手段によって単離することができる。
【0063】
本明細書において使用する「ペプチド模倣体」という用語は、ポリペプチドではないがそれらの構造の局面を模倣している分子を指す。例えば、NgRを拮抗することができるペプチドと同じ官能基を持つ多糖を製造することができる。ペプチド模倣体は、例えば、あるペプチド剤の三次元構造をそれがNgRに結合しているまたは結合するであろう環境において確定することなどによって、設計することができる。ペプチド模倣体は少なくとも二つの成分、すなわち結合部分と骨格・支持構造とを含む。
【0064】
結合部分は、NgR(例えばリガンド結合部位またはその近くにあるアミノ酸)と反応するか、(例えば疎水相互作用またはイオン相互作用によって)複合体を形成するであろう化学原子または化学基である。例えば、ペプチド模倣体中の結合部分は、NgRのペプチドアンタゴニスト中の結合部分と同じであってもよい。結合部分は、NgRのペプチドアンタゴニスト中の結合部分と同じまたは類似する方法で受容体と反応する原子または化学基でありうる。ペプチド中の塩基性アミノ酸に関してペプチド模倣体を設計する場合、使用に適した結合部分の例は、アミン、アンモニウム、グアニジン、およびアミドなどの窒素含有基またはホスホニウムである。酸性アミノ酸に関してペプチド模倣体を設計する場合、使用に適した結合部分の例は、例えばカルボキシル、低級アルキルカルボン酸エステル、スルホン酸、低級アルキルスルホン酸エステル、または亜リン酸もしくはそのエステルでありうる。
【0065】
支持構造は、結合部分に結合した場合にペプチド模倣体の三次元的配置を与える化学物質である。支持構造は有機物であっても無機物であってもよい。有機支持構造の例として、多糖、有機合成ポリマーのポリマーまたはオリゴマー(ポリビニルアルコールまたはポリラクチドなど)が挙げられる。支持構造は、ペプチド骨格またはペプチド支持構造と実質的に同じサイズおよび寸法を有することが好ましい。これは、ペプチドおよびペプチド模倣体の原子および結合のサイズを計算または測定することによって決定することができる。ある態様では、ペプチド結合の窒素を酸素または硫黄で置換することができ、これにより、ポリエステル骨格が形成される。もう一つの態様では、カルボニルをスルホニル基またはスルフィニル基で置換することができ、これにより、ポリアミド(例えばポリスルホンアミド)が形成される。ペプチドの逆アミドを作ることができる(例えば一つまたは複数の-CONH-基で-NHCO-基を置換する)。さらにもう一つの態様では、ペプチド骨格をポリシラン骨格で置換することができる。
【0066】
これらの化合物は公知の方法によって製造することができる。例えばポリエステルペプチド模倣体は、ヒドロキシル基で、対応するアミノ酸上のa-アミノ基を置換することによってヒドロキシ酸を製造し、副反応を最小限に抑えるために任意で塩基性および酸性側鎖をブロックして、それらのヒドロキシ酸を逐次エステル化することにより、製造することができる。適当な化学合成経路は、ペプチド模倣体の所望の化学構造を決定すれば、一般に容易に同定することができる。
【0067】
ペプチド模倣体を合成し、それらを集めて、小数〜多数の個別の分子種を含むライブラリーにすることができる。そのようなライブラリーは、コンビナトリアル化学の周知の方法を使って作製することができ、NgR機能を拮抗することができる一つまたは複数のペプチド模倣体をそのライブラリーが含むかどうかを決定するために、本明細書に記載するようにスクリーニングすることができる。次に、そのようなペプチド模倣体アンタゴニストを、適切な方法で単離することができる。
【0068】
本明細書において用いる「NgR活性を阻害する抗体」または「抗NgR抗体」には、抗体または抗原結合性断片が包含される。本明細書において使用する「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、ならびに抗体の機能的断片、例えばキメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、霊長類化抗体、ベニヤード(veneered)抗体または単鎖抗体などを包含する。機能的断片には、NgRに結合する抗原結合性断片が包含される。例えば、NgRまたはその一部に結合する能力を持つ抗体断片、限定されないが、例えばFv、Fab、Fab'およびF(ab')2断片などを使用することができる。そのような断片は酵素的切断によってまたは組換え技法によって製造することができる。例えば、パパイン切断またはペプシン切断により、それぞれFab断片またはF(ab')2断片を生成させることができる。必要な基質特異性を持つ他のプロテアーゼを使って、Fab断片またはF(ab')2断片を生成させることもできる。抗体は、天然の停止部位の上流に一つまたは複数の停止コドンが導入されている抗体遺伝子を使って、さまざまな切断型として製造することもできる。例えば、F(ab')2重鎖部分をコードするキメラ遺伝子は、それが重鎖のCH,ドメインおよびヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計することができる。
【0069】
異なる種に由来する部分を含む単鎖抗体、およびキメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化もしくは霊長類化(CDR移植)抗体、またはベニヤード抗体、ならびにキメラ単鎖抗体、CDR移植単鎖抗体またはベニヤード単鎖抗体なども、本発明および「抗体」という用語に包含される。これらの抗体のさまざまな部分は、通常の技法によって互いに化学的に接合するか、遺伝子操作技法を使って連続的なタンパク質として製造することができる。例えば、キメラ鎖またはヒト化鎖をコードする核酸を発現させて、連続的なタンパク質を製造することができる。例えばCabilly et al., 米国特許第4,816,567号;Cabilly et al., 欧州特許第0,125,023号B1;Boss et al, 米国特許第4,816,397号;Boss et al., 欧州特許第0,120,694号B1;Neuberger, M.S. et al., 国際公開公報第86/01533号;Neuberger, M.S. et al., 欧州特許第0,194,276号B1;Winter, 米国特許第5,225,539号;Winter, 欧州特許第0,239,400号B1;Queen et al., 欧州特許第0451216号B1;およびPadlan,E.A. et al., EP0519596A1などを参照されたい。また、霊長類化抗体に関するNewman, R. et al., BioTechnology, 10:1455-1460 (1992)、ならびに単鎖抗体に関するLadner et al., 米国特許第4,946,778号およびBird, R.E. et al., Science, 242:423-426(1988)も参照されたい。
【0070】
ヒト化抗体は、合成技術または組換えDNA技術により、標準的な方法を使って、または他の適切な技法を使って、製造することができる。ヒト鎖またはヒト化鎖をコードするDNA配列(あらかじめヒト化されている可変領域からのDNAテンプレートなど)を改変するために、PCR突然変異誘発法を使って、ヒト化可変領域をコードする核酸(例えばcDNA)配列も構築することができる(例えばKamman, M.ら, Nucl. Acids Res., 17:5404(1989);Sato, K., et al., Cancer Research, 53:851-856(1993);Daugherty, B.L. et al., Nucleic Acids Res., 19(9):2471-2476(1991);ならびにLewis, A.P.およびJ.S.Crowe, Gene, 101:297-302(1991)を参照されたい)。これらの方法または他の適切な方法を使って、変異体も容易に製造することができる。ある態様では、クローン化可変領域を突然変異させ、所望の特異性を持つ変異体をコードする配列を(例えばファージライブラリーから)選択することができる(例えばKrebber et al., 米国特許第5,514,548号;1993年4月1日に公開されたHoogenboom et al., 国際公開公報第93/06213号を参照されたい)。
【0071】
哺乳動物(例えばヒト)NgRに特異的な抗体は、適当な免疫原、例えば単離したおよび/または組換えのヒトNgRまたはその一部(合成ペプチドなどの合成分子を含む)に対して生じさせることができる。
【0072】
免疫抗原の製造、ならびにポリクローナル抗体生産およびモノクローナル抗体生産は、任意の適切な技法を使って行なうことができる。例えば、当業者は結合性細胞表面エピトープに対するモノクローナル抗体を容易に製造することができる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製する一般方法論は周知である。例えば組換え抗体をライブラリー(例えばファージディスプレイライブラリー)から選択する方法など、必要な特異性を持つ抗体を製造または単離する他の適切な方法を使用することができる。適切な方法を使って、ヒト抗体のレパートリーを産生する能力を持つトランスジェニック動物(例えばXenoMouse(商標)(Abgenix, カリフォルニア州フリーモント))を作出することができる(例えば、1998年6月11日に公開された国際公開公報第98/24893号(Abgenix);Kucherlapati, R.およびJakobovits, A., 米国特許第5,939,598号;Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551-2555(1993);Jakobovits et al., Nature, 362:255-258(1993)を参照されたい)。ヒト抗体のレパートリーを産生する能力を持つトランスジェニック動物を作出する方法は他にも記述されている(例えば、Lonberg et al., 米国特許第5,545,806号;Surani et al., 米国特許第5,545,807号;Lonberg et al., 国際公開公報第97/13852号を参照されたい)。
【0073】
本発明のNgRアンタゴニストは、siRNAなどのRNA干渉剤であってもよい。siRNAおよびsiRNAに基づく技術(例えばshRNA発現ベクター)の使用は、遺伝子発現のサイレンシングを配列特異的な方法で行なうための強力なツールであることが判明しており、広範囲にわたる多様な哺乳動物細胞タイプおよび組織に適することがわかっている。siRNAは遺伝子機能の詳細な分析に有効であることが判明しているだけでなく、治療モダリティーとしてのそれらの応用も積極的に研究されている。
【0074】
RNA干渉剤の送達
ある態様では、本発明の方法において使用されるRNA干渉剤(例えばsiRNA)が、ベクターを使用せずに、静脈内注射(例えばハイドロダイナミックインジェクション(hydrodynamic injection))後に、インビボの細胞によって活発に取り込まれる。
【0075】
siRNAまたはshRNAなどのRNA干渉剤を送達するための他の戦略、例えばプラスミドベクターまたはウイルスベクター(例えばレンチウイルスベクター)などのベクターによる送達も使用することができる。そのようなベクターは、例えばXiao-Feng Qin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 100:183-188に記載されているように使用することができる。他の送達方法として、塩基性ペプチドを使ってRNA干渉剤を塩基性ペプチド(例えばTATペプチドの断片)とコンジュゲートまたは混合すること、カチオン性脂質と混合すること、または粒子中に製剤化することによるRNA干渉剤(例えば本発明のsiRNAまたはshRNA)の送達が挙げられる。
【0076】
ある態様では、siRNAまたはshRNAなどのdsRNAが、テトラサイクリン誘導性ベクターなどの誘導性ベクターを使って送達される。例えばpTet-Onベクター(BD Bioscience Clontech,カリフォルニア州パロアルト)を使用するWang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 100:5103-5106に記載の方法を使用することができる。
【0077】
ある態様では、本発明の方法において使用されるRNA干渉剤(例えばsiRNA)を細胞(例えば培養細胞)中に導入した後、その細胞を例えば移植または接合などによって対象に移植するか、または細胞をドナー(すなわち最終的な受容者以外の供給源)から入手して、RNA干渉剤(例えば本発明のsiRNA)をその細胞に投与してから、移植または接合などによって受容者に適用することができる。または、RNA干渉剤(例えば本発明のsiRNA)を、それらが標的細胞に向けられ、標的細胞によって取り込まれて、NgR発現のRNA干渉を制御または促進するような方法で、対象に直接導入することもできる。RNA干渉剤(例えば本発明のsiRNA)は、単独で送達しても、他のRNA干渉剤と組み合わせて送達してもよい。
【0078】
本明細書において用いる「RNA干渉剤」は、RNA干渉(RNAi)によって標的遺伝子または標的ゲノム配列の発現を干渉または阻害する任意の薬剤と定義される。そのようなRNA干渉剤として、標的遺伝子配列または標的ゲノム配列またはその断片に相同なRNA分子を含む核酸分子、短い干渉RNA(siRNA)、ショートヘアピンまたは低分子ヘアピンRNA(shRNA)、およびRNA干渉(RNAi)によって標的遺伝子の発現を干渉または阻害する小分子が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0079】
好ましくは、本発明の方法におけるRNA干渉剤はsiRNAである。
【0080】
NgRターゲティングsiRNAは、RNA誘発サイレンシング複合体(RISC)へのsiRNAのアンチセンス(ガイド)鎖の取り込みが最大になり、その結果として、NGR mRNAを分解の標的にするRISCの能力が最大になるように設計される。これは、アンチセンス鎖の5'末端で最も低い結合の自由エネルギーを持つ配列を探すことによって達成することができる。最も低い自由エネルギーは、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖の5'末端の巻き戻しの強化につながり、その結果として、アンチセンス鎖がRISCに取り込まれてNgR mRNAの配列特異的切断を指示することを保証すると考えられる。
【0081】
RNA干渉剤
「RNA干渉(RNAi)」は、標的遺伝子と同一または高度に類似する配列を持つRNAの発現または導入が、標的とする遺伝子から転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の配列特異的分解または特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)をもたらし(Coburn, G. and Cullen, B.(2002) J. of Virology 76(18):9225参照)、その結果として標的遺伝子の発現を阻害するという、進化的に保存された過程である。ある態様では、RNAは二本鎖RNA(dsRNA)である。この過程は植物、無脊椎動物、および哺乳動物細胞で記述されている。自然界においてRNAiは、長いdsRNAを、siRNAと呼ばれる二本鎖断片へと連続移動的に切断するのを促進するdsRNA特異的エンドヌクレアーゼ、ダイサー(Dicer)によって開始される。siRNAは、標的mRNAを認識して切断するタンパク質複合体に組み込まれる。標的遺伝子の発現を阻害またはサイレンシングするために、合成siRNAまたはRNA干渉剤などの核酸分子を導入することによって、RNAiを開始させることもできる。本明細書において用いる「標的遺伝子発現の阻害」は、RNA干渉が誘導されていない状況と比較した場合の、標的遺伝子または標的遺伝子がコードするタンパク質の発現またはタンパク質活性またはレベルの任意の減少を包含する。減少は、RNA干渉剤の標的にはなっていない場合の標的遺伝子の発現または標的遺伝子がコードするタンパク質の活性もしくはレベルと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%以上の減少でありうる。
【0082】
「短い干渉RNA」(siRNA)は、本明細書においては「低分子干渉RNA」ともいい、例えばRNAiなどによって標的遺伝子の発現を阻害する機能を果たす薬剤と定義される。siRNAは化学合成するか、インビトロ転写によって製造するか、宿主細胞内で産生させることができる。ある態様では、siRNAは、約15〜約40ヌクレオチド長、好ましくは約15〜約28ヌクレオチド、より好ましくは約19〜約25ヌクレオチド長、さらに好ましくは約19、20、21、22、または23ヌクレオチド長の二本鎖RNA(dsRNA)分子であり、約0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドの長さを持つ3'および/または5'突出部を各鎖上に含有し得る。突出部の長さは2本の鎖間で独立している。すなわち、一方の鎖上の突出部の長さは、もう一つの鎖上の突出部の長さには依存しない。好ましくは、siRNAは、標的メッセンジャーRNA(mRNA)の分解または特異的転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)によるRNA干渉を促進する能力を持つ。
【0083】
siRNAには低分子ヘアピン(ステムループともいう)RNA(shRNA)も包含される。ある態様では、これらのshRNAが、短い(例えば約19〜約25ヌクレオチドの)アンチセンス鎖と、それに続く約5〜約9ヌクレオチドのヌクレオチドループ、および類似のセンス鎖から構成される。または、センス鎖がヌクレオチドループ構造の前にあり、アンチセンス鎖が後に続いていてもよい。これらのshRNAを、プラスミド、レトロウイルス、およびレンチウイルスに含有させ、例えばpol III U6プロモーターまたは別のプロモーターから発現させることができる(例えば、参照によりその全文が本明細書に組み入れられるStewart et al. (2003) RNA Apr;9(4):493-501を参照されたい)。
【0084】
RNA干渉剤の標的遺伝子または標的配列は細胞性遺伝子またはゲノム配列でありうる。siRNAは標的遺伝子もしくは標的ゲノム配列またはその断片に対して実質的に相同でありうる。本明細書において使用する「相同」という用語は、標的のRNA干渉が達成されるように、標的mRNAまたはその断片に対して実質的に同一であるか、十分に相補的であるか、または類似していることと定義される。ネイティブRNA分子の他に、標的配列の発現を阻害または干渉するのに適したRNAとして、RNA誘導体およびRNA類似体が挙げられる。好ましくは、siRNAは、それが正常対立遺伝子と相互作用しないように、その標的対立遺伝子と同一である。
【0085】
siRNAは好ましくは一つの配列だけを標的とする。siRNAなどのRNA干渉剤のそれぞれは、例えば発現プロファイリングなどを使って解析し得る潜在的標的外(off-target)作用について、スクリーニングすることができる。そのような方法は当業者には公知であり、例えばJackson et al., Nature Biotechnology 6:635-637, 2003などに記載されている。発現プロファイリングの他にも、標的外作用を持ち得る潜在的配列を同定するために、配列データベース中の類似配列に関して、潜在的標的配列をスクリーニングすることができる。例えば、Jackson et al.(前掲)によれば、非標的転写物のサイレンシングを指示するには、配列が一致する15個の連続的ヌクレオチド、ことによるとわずか11個の連続的ヌクレオチドで十分である。したがって、潜在的な標的外サイレンシングを回避するために、BLASTなどの任意の公知配列比較方法による配列一致度解析を使って、提案されたsiRNAをまずスクリーニングすることができる。
【0086】
siRNA分子は、RNAだけを含有する分子に限定される必要はなく、例えば化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに包含し、リボース糖分子が別の糖分子に置換されている分子、または類似する機能を果たす分子も含まれる。さらにまた、ヌクレオチド残基間にホスホロチオエート結合などの非天然結合を使用することもできる。RNA鎖は発蛍光団などのレポーター基の反応性官能基で誘導体化することができる。特に有用な誘導体は、RNA鎖の末端(典型的にはセンス鎖の3'末端)で修飾される。例えば3'末端の2'-ヒドロキシルは、さまざまな基で容易にかつ選択的に誘導体化され得る。
【0087】
別の有用なRNA誘導体には、2'-O-アルキル化残基または2'-O-メチルリボシル誘導体および2'-O-フルオロリボシル誘導体などの修飾糖質部分を持つヌクレオチドが組み入れられる。RNA塩基を修飾してもよい。標的配列の発現を阻害または干渉するのに有用な任意の修飾塩基を使用することができる。例えば、5-ブロモウラシルおよび5-ヨードウラシルなどのハロゲン化塩基を組み入れることができる。塩基をアルキル化してもよく、例えば7-メチルグアノシンをグアノシン残基の代わりに組み入れることができる。阻害の成功をもたらす非天然塩基も組み入れることができる。
【0088】
最も好ましいsiRNA修飾として、2'-デオキシ-2'-フルオロウリジンまたはロックト(locked)核酸(LAN)ヌクレオチド、およびホスホジエステル結合またはさまざまな数のホスホロチオエート結合を含有するRNA二重鎖が挙げられる。そのような修飾は当業者には公知であり、例えばBraasch et al., Biochemistry, 42:7967-7975, 2003に記載されている。siRNA分子に対する有用な修飾の大部分は、アンチセンスオリゴヌクレオチド技術のために確立された化学を使って導入することができる。
【0089】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤は、神経有益(neurosalutary)作用を生じさせる能力を持つ薬剤である。本明細書において用いる「神経有益作用」とは、ニューロン、神経系の一部、または神経系全般の健康または機能にとって、有利な応答または結果を意味する。そのような作用の例として、ニューロンまたは神経系の一部が持つ、傷害に抵抗する能力、再生する能力、望ましい機能を維持する能力、成長する能力または生き残る能力の改善が挙げられる。「神経有益作用を生じさせる」という表現には、神経系の成分内でそのような応答または機能もしくは回復力の改善を生じさせることまたは達成することが含まれる。例えば、神経有益作用を生じさせることの例として、ニューロンへの傷害後の軸索伸長を刺激すること、ニューロンをアポトーシスに対して耐性にすること、ニューロンをβ-アミロイド、アンモニア、もしくは他の神経毒などの毒性化合物に対して耐性にすること、加齢性神経細胞萎縮もしくは機能喪失を逆転させること、またはコリン作動性神経支配の加齢性の喪失を逆転させることなどが挙げられるだろう。
【0090】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤はいずれも、本発明の方法における使用に適している。いくつかの好ましい薬剤として、Li et.al., 2003, J. Neuroscience 23(21):7830-7838;Chen et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci.U.S.A, 99:1931-1936;およびBenowitz et al., 1998 J. Biol. Chem. 273:29626-29634(これらは参照によりその全文が本明細書に組み入れられる)に記載されているイノシン、マンノース、グロース、またはグルコース-6-リン酸が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。TGF-β、およびYin et al., 2003, J. Neurosci., 23:2284-2293に記載のオンコモジュリンも好ましい薬剤である。また、BDNF、NGF、NT-3、CNTF、LIF、およびGDNFなどのポリペプチド成長因子も使用することができる。ある態様では、本発明の方法が、CNSニューロンを、細胞内cAMPの濃度を増加させるcAMP調節物質と接触させる段階をさらに含む。例えば、マンノースに応答するという成熟ラット網膜神経節細胞の能力は上昇したcAMPを必要とする(Li et.al., 2003, J. Neuroscience 23(21):7830-7838)。
【0091】
対象においてCNSニューロンの成長経路を活性化するという薬剤の能力は、さまざまな公知の手法およびアッセイを使って評価することができる。例えば、CNS傷害後に神経接続および/または神経機能を再建するという薬剤の能力は、組織学的に(ニューロン組織を薄切してニューロン分岐を見ることによって、または色素の細胞質輸送を示すことによって)決定することができる。神経網膜もしくは視神経への損傷後に網膜電図を完全にもしくは部分的に回復させるという薬剤の能力、または損傷した眼における光に対する瞳孔応答を完全にまたは部分的に回復させるという薬剤の能力を監視することによって、薬剤を評価することもできる。
【0092】
対象において神経有益作用を生じさせるという薬剤の能力を決定するために用いることができる他の検査として、ヒト対象または脊髄傷害の動物モデルにおける神経学的機能の標準的検査(例えば標準的反射検査、泌尿器検査、排尿力学検査、深部痛および表在痛認識検査、後肢の自己受容定位、歩行運動、および誘発電位検査など)が挙げられる。また、神経有益作用の生成のしるしとして、対象における神経興奮伝導を、例えば伝導活動電位を測定することなどによって測定することもできる。
【0093】
本発明のアッセイにおける使用に適した動物モデルとして、ラットの部分離断モデル(Weidner et al., 2001に記載されているもの)が挙げられる。この動物モデルでは、ほぼ完全に離断した神経索の残存断片の生存および発芽を、ある化合物がどのくらい強化できるかを検査する。したがって、候補薬剤の投与後に、一定の機能(例えばラットがその前腕(そこへは関連神経索の97%が切断されている)でどの程度うまく食物ペレットを操作できるか)の回復に関して、これらの動物を評価することができる。
【0094】
本発明のアッセイにおける使用に適したもう一つの動物モデルとして、ラットの脳卒中モデル(Kawamata et al., 1997に記載されているもの)が挙げられる。この論文には、傷害後の四肢の感覚運動機能ならびに前庭運動機能を評価するために使用することができるさまざまな検査が詳述されている。これらの動物への本発明化合物の投与は、与えられた化合物、投与経路、または投薬量が、機能レベルの増加または機能回復速度の増加もしくは機能保持の程度の増加などといった神経有益作用を与えるかどうかを評価するために使用することができる。
【0095】
脳卒中後のヒト患者における進行を評価するために用いられる標準的な神経学的評価も、対象において神経有益作用を生じさせるという薬剤の能力を評価するために使用することができる。そのような標準的な神経学的評価は医学技術分野では常用されており、例えばMohr and Gautier編「Guide to Clinical Neurobiology」(Churchill Livingstone Inc. 1995)などに記載されている。
【0096】
薬学的に許容される製剤
本発明の薬剤は薬学的に許容される製剤に含有させることができる。そのような薬学的に許容される製剤は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含むことができる。本明細書において用いる「薬学的に許容される担体」には、生理学的に適合するありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張化および吸収遅延剤などが包含される。例えば担体は脳脊髄液への注射に適することができる。賦形剤には薬学的に許容される安定剤が包含される。本発明は、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、またはビーズの形態をした合成または天然ポリマーを含む、任意の薬学的に許容される製剤、ならびに水中油型エマルション、ミセル、混合ミセル、合成膜小胞、および再シール赤血球(resealed erythrocyte)を含む、脂質に基づく製剤に関する。
【0097】
ある態様では、薬学的に許容される製剤がポリマーマトリックスを含む。「ポリマー」または「ポリマー性の」という用語は当技術分野において認識されており、標的とする状態(例えば神経障害)の処置が起こるようにヘキソース誘導体を送達する能力を持つモノマー単位の繰り返しから構成される構造的枠組みを包含する。これらの用語は合成物または天然物などのコポリマーおよびホモポリマーも包含する。線状ポリマー、分岐ポリマー、および架橋ポリマーも、包含されるものとする。
【0098】
例えば、本発明において使用される薬学的に許容される製剤を形成させるのに適したポリマー材料として、アルブミン、アルギナート、セルロース誘導体、コラーゲン、フィブリン、ゼラチン、および多糖などの天然由来ポリマー、ならびにポリエステル(PLA、PLGA)、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリ無水物、およびプルロニックなどの合成ポリマーが挙げられる。これらのポリマーは中枢神経系を含む神経系と生体適合性であり、それらは中枢神経系内で生分解性であって、毒性分解副産物を何も生成せず、ポリマーの動態学的特徴を操作することによって活性化合物放出の方法および継続時間を変更することができる。本明細書において使用する用語「生分解性」とは、ポリマーが酵素の作用、加水分解作用および/または他の類似する機構によって対象の体内で経時的に分解することを意味する。本明細書において使用する「生体適合性」という用語は、ポリマーが毒性または有害でないこと、および免疫学的拒絶を引き起こさないことにより、生きている組織または生きている生物と適合することを意味する。ポリマーは当技術分野において公知の方法を使って製造することができる。
【0099】
ポリマー製剤は、米国特許第4,884,666号(その教示内容は参照として本明細書に組み入れられる)に記載されているように、液化ポリマー内での活性化合物の分散によって、またはOdian G., Principles of Polymerization and ring opening polymerization, 2nd ed., John Wiley & Sons, New York, 1981(その内容は参照として本明細書に組み入れられる)に記載されているように塊重合、界面重合、溶液重合および環重合などの方法によって、形成させることができる。製剤の特性および特徴は、反応温度、ポリマーの濃度および活性化合物の濃度、使用する溶媒のタイプ、ならびに反応時間などのパラメータを変化させることによって制御される。
【0100】
活性治療化合物は、一つまたは複数の薬学的に許容されるポリマーに封入して、マイクロカプセル、マイクロスフェア、またはマイクロ粒子(これらは本明細書においては互換的に使用される用語である)を形成させることができる。マイクロカプセル、マイクロスフェア、およびマイクロ粒子とは、慣例的に、直径2ミリメートル以下、通常は直径500ミクロン以下の球状粒子からなる易流動性粉末である。1ミクロン未満の粒子は慣例的にナノカプセル、ナノ粒子またはナノスフェアという。マイクロカプセルとナノカプセル、マイクロスフェアとナノスフェア、またはマイクロ粒子とナノ粒子の間の相違は、主としてサイズであり、一般に、2つの内部構造間の相違は、もしあったとしてもわずかである。本発明の一局面では、平均直径が約45μm未満、好ましくは20μm未満、より好ましくは約0.1〜10μmである。
【0101】
もう一つの態様では、薬学的に許容される製剤が、脂質に基づく製剤を含む。公知の脂質に基づく薬物送達系はいずれも本発明の実施に使用することができる。例えば多小胞リポソーム、多重層リポソームおよび単層リポソームは、封入された活性化合物の持続的放出速度を確立することができる限り、すべて使用することができる。制御放出性多小胞リポソーム薬物送達系を作製する方法は、PCT出願公開番号:国際公開公報第9703652号、国際公開公報第9513796号、および国際公開公報第9423697号に記載されており、その内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0102】
合成膜小胞の組成は通常、リン脂質の組合せ、通常はステロイド、特にコレステロールとの組合せである。他のリン脂質または他の脂質も使用することができる。
【0103】
合成膜小胞製造に有用な脂質の例として、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴ脂質、セレブロシド、およびガングリオシドが挙げられ、好ましい態様として、卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、およびジオレオイルホスファチジルグリセロールが挙げられる。
【0104】
活性化合物を含有する、脂質に基づく小胞を製造する際は、活性化合物の封入効率、活性化合物の易変性、得られた小胞集団の均一性およびサイズ、活性化合物対脂質比、透過性、調製物の不安定性、および製剤の薬学的許容性などの変数を考慮すべきである。
【0105】
導入に先だち、数多くの利用可能な当技術分野の技法のいずれかによって、例えばγ線照射または電子線滅菌などによって、製剤を滅菌することができる。
【0106】
局所用の眼科製品は多用量型として包装することができる。したがって、使用中の微生物汚染を防ぐために保存剤が必要である。適切な保存剤として、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸二ナトリウム、ソルビン酸、ポリクオタニウム-1、または当業者に公知の他の薬剤が挙げられる。そのような保存剤は典型的には0.001〜1.0%重量/体積(%w/v)のレベルで使用される。そのような調製物は、眼への安全な投与に適した点滴瓶またはチューブに、使用説明書と一緒に包装することができる。
【0107】
薬学的に許容される製剤の患者への投与
薬剤を患者に送達する場合、例えば経口投与(例えばカプセル剤、懸濁剤もしくは錠剤として)または非経口投与を含む任意の適切な経路によって、それらを投与することができる。非経口投与としては、例えば筋肉内投与、静脈内投与、関節内投与、動脈内投与、クモ膜下投与、皮下投与、または腹腔内投与を挙げることができる。薬剤は経口投与、経皮投与、局所投与、吸入(例えば気管支内、鼻腔内、経口吸入または鼻腔内滴剤)によって投与または直腸投与することもできる。投与は適応に応じて局部投与であっても全身投与であってもよい。薬剤は当業者には周知のウイルスベクターを使って送達することもできる。
【0108】
化合物は、薬剤が対象の神経系と接触するように投与される。好ましい投与様式は選択した特定薬剤に依存して変動し得る。
【0109】
本発明においては局部投与と全身投与がどちらも考えられる。局部投与の望ましい特徴として、活性化合物の有効局部濃度が達成されることおよび活性化合物の全身投与によって起こる有害副作用が回避されることが挙げられる。ある態様では、対象の脳脊髄液中に導入することによって、活性剤を投与する。本発明の一定の局面では、活性化合物が脳室、腰椎区域、または大槽中に導入される。もう一つの局面では、活性化合物が局部的に、例えば神経もしくは神経索傷害部位中に、疼痛部位もしくは神経変性部位中に、または神経網膜細胞と接触させるために眼内に導入される。
【0110】
薬学的に許容される製剤は、水性ビヒクル中に懸濁させ、通常の皮下針を通して、または注入ポンプを使って導入することができる。
【0111】
ある態様では、本明細書に記載する活性化合物製剤が、例えばCNSへの傷害時から傷害発生後最長約100時間までの期間、例えば傷害時から24時間、12時間、または6時間にわたって、対象に投与される。
【0112】
本発明のもう一つの態様では、活性化合物製剤が対象にクモ膜下投与される。本明細書で使用する「クモ膜下投与」という用語は、穿頭孔を通した側脳室注射または大槽穿刺もしくは腰椎穿刺などを含む技法(Lazorthes et al., 1991およびOmmaya A.K., 1984に記載されており、その内容は参照として本明細書に組み入れられる)により、活性化合物製剤を対象の脳脊髄液中に直接送達することを包含するものとする。「腰椎領域」という用語は、第3および第4腰椎(背下部椎骨)間の区域を包含するものとする。「大槽」という用語は、頭の背部にあって頭蓋が終わり脊髄が始まっている区域を包含するものとする。「脳室」という用語は、脊髄の中心管と連続している脳内の空洞を包含するものとする。上述した部位のいずれかへの活性化合物の投与は、活性化合物製剤の直接注射によって、または注入ポンプを使って、達成することができる。植込み可能なポンプまたは体外ポンプおよびカテーテルを使用することができる。
【0113】
注射のために、本発明の活性化合物製剤を溶液中に、好ましくはハンクス液またはリンゲル液などの生理学的に適合する緩衝液中に製剤化することができる。また、活性化合物製剤を固形に製剤化し、使用直前に再溶解または再懸濁してもよい。凍結乾燥型も包含される。注射は、例えば活性化合物製剤のボーラス注射または持続注入(例えば注入ポンプの使用)の形態をとることができる。
【0114】
本発明の一態様では、対象の脳内への側脳室注射によって、好ましくは傷害(中枢神経系ニューロンの異常軸索伸長を特徴とする状態をもたらすもの)の発生時から100時間以内(例えば傷害時から6、12、または24時間以内)に、活性化合物製剤が投与される。注射は、例えば対象の頭蓋に作った穿頭孔を通して行なうことができる。もう一つの態様では、対象の脳室内に外科的に挿入されたシャントを通して、傷害発生時から100時間以内(例えば傷害時から6、12または24時間以内)に、製剤が投与される。例えば、側脳室より小さい第3脳室および第4脳室への注射も行なうことはできるが、より大きい側脳室中に注射を行なうことができる。さらにもう一つの態様では、対象の大槽または腰椎区域中への注射により、好ましくは傷害発生時から100時間以内(例えば傷害時から6、12、または24時間以内)に、活性化合物製剤が投与される。
【0115】
頭蓋内組織へのさらにもう一つの投与手段では、嗅上皮への本発明化合物の適用に続いて、嗅球への伝達および脳のさらに近位部分への輸送が起こる。そのような投与は、霧化またはエアロゾル化した調製物によって行なうことができる。
【0116】
本発明のもう一つの態様では、活性化合物製剤が対象の傷害部位に、好ましくは傷害発生時から100時間以内(例えば傷害時から6、12または24時間以内)に投与される。
【0117】
さらにもう一つの態様では、網膜および視神経乳頭組織への損傷を防止または軽減するため、ならびに眼組織への損傷後の機能回復を強化するために、本発明の眼科組成物が使用される。処置し得る眼科状態として、例えば網膜症(糖尿病性網膜症および水晶体後線維増殖症を含む)、黄斑変性症、眼虚血、緑内障などが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。本発明の方法で処置される他の状態として、眼組織への傷害に関連する損傷、例えば虚血再灌流傷害、光化学傷害、および眼手術に関連する傷害、特に光または外科器具へのばく露による網膜または視神経乳頭への傷害が挙げられる。眼科組成物は、眼科手術に対する補助薬として、例えば眼科手術後の硝子体内注射または結膜下注射などによって使用することもできる。本化合物は一時的状態の急性期処置に使用するか、とりわけ変性疾患の場合には、慢性的に投与することができる。本眼科組成物は、とりわけ眼手術または非侵襲的眼科処置または他のタイプの手術に先だって、予防的に使用することもできる。
【0118】
投与の継続時間およびレベル
本発明の方法の好ましい態様では、最適な軸索伸長をもたらすために、長期間にわたって、活性化合物が対象に投与される。活性化合物との持続的接触は、例えば一週間、数週間、または一ヶ月以上などといった期間にわたって、活性化合物を反復投与することによって達成することができる。より好ましくは、活性化合物を投与するために用いられる薬学的に許容される製剤が、対象への活性化合物の「徐放」などといった持続的送達をもたらす。例えば、製剤は、薬学的に許容される製剤を対象に投与してから少なくとも一週間、二週間、三週間、または四週間にわたって活性化合物を送達し得る。好ましくは、本発明に従って処置される対象は、少なくとも30日間にわたって(反復投与によって、または持続送達系の使用によって、またはその両方によって)活性化合物で処置される。
【0119】
本明細書において使用する「持続的送達」という用語は、投与後にある期間(好ましくは少なくとも数日間、一週間、数週間、または一ヶ月以上)にわたって起こる、インビボでの活性化合物の連続的送達を包含するものとする。活性化合物の持続的送達は、例えば経時的な活性化合物の連続的治療作用によって証明することができる(例えば薬剤の持続的送達は、対象のCNSニューロンにおける連続的軸索成長によって証明することができる)。または、活性化合物の持続的送達は、経時的にインビボでの活性化合物の存在を検出することによって証明することもできる。
【0120】
持続的送達のための好ましいアプローチとして、ポリマーカプセル、製剤を送達するためのミニポンプ、生分解性植込剤、または植込まれたトランスジェニック自家細胞(米国特許第6,214,622号に記載)の使用が挙げられる。当技術分野においては、植込み可能な注入ポンプ系(例えばInfusaid;Zierski, J. et al., 1988、Kanoff, R.B., 1994などを参照されたい)および浸透圧ポンプ(Alza Corporationが販売しているもの)を入手することができる。もう一つの投与様式は、植込み可能な体外プログラム可能注入ポンプによるものである。適切な注入ポンプ系およびリザバー系は、Blomquistの米国特許第5,368,562号およびDoanの米国特許第4,731,058号にも記載され、Pharmacia Deltec Inc.によって開発されている。
【0121】
投薬量の値は軽減すべき状態の重症度によって変動し得ることに注意すべきである。また、任意の特定対象に関して、具体的な投薬レジメンは、その個体の必要性および活性化合物を投与する人または活性化合物の投与を監督する人の専門家としての判断に従って、経時的に調整されるべきであること、ならびに本明細書に記載する投薬量範囲は例示に過ぎず、本願発明の範囲または実施を制限する意図はないことを、さらに理解すべきである。
【0122】
個体に投与される薬剤の量は、個体の特徴、例えば全体的健康、年齢、性別、体重および薬物に対する認容性、ならびに拒絶の程度、重篤度およびタイプなどに依存するだろう。当業者は、これらの因子および他の因子に応じて適当な投薬量を決定することができるだろう。典型的には、有効量は、成人の場合、1日あたり約0.1mg〜1日あたり約100mgの範囲に及び得る。好ましくは投薬量は1日あたり約1mg〜1日あたり約100mgの範囲に及ぶ。
【0123】
抗体およびその抗原結合性断片、特にヒト抗体、ヒト化抗体およびキメラ抗体ならびにその抗原結合性断片は、多くの場合、他のタイプの治療薬よりも投与頻度を少なくすることができる。例えば、そのような抗体の有効量は、一日一回、週一回、二週間に一回、一ヶ月に一回以下の投与頻度で、約0.01mg/kg〜約5または10mg/kgの範囲に及び得る。
【0124】
ニューロンのインビトロ処置
中枢神経系または末梢神経系由来のニューロンは、インビトロで軸索伸長を調節するために、エクスビボで薬剤と接触させることができる。したがって、ニューロンを対象から単離し、当技術分野において周知の技法を使ってインビトロで成長させた後、軸索伸長を調節するために本発明に従って処置することができる。簡単に述べると、ニューロンを適切な基質(例えば培養皿)に付着している神経組織の断片から移動させるか、組織を機械的または酵素的に脱凝集させてニューロンの懸濁液を生成させることにより、ニューロン培養物を取得することができる。例えば酵素トリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ヒアルロニダーゼ、DNアーゼ、プロナーゼ、ディスパーゼ、またはそれらのさまざまな組合せを使用することができる。ニューロン組織を単離する方法および単離された細胞を取得するために組織を脱凝集させる方法は、Freshney, Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Technique, Third Ed., 1994に記載されており、その内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0125】
次に、そのような細胞を、薬剤(単独でまたはcAMP調節物質と組み合わせて)と、上述した量で、上述した継続期間にわたって、接触させることができる。軸索伸長の調節がニューロンにおいて達成されたら、これらの細胞を、例えば植込みなどによって、対象に再投与することができる。
【0126】
神経障害の処置
本発明の化合物および方法で効果的に処置することができる障害を起こし得る神経系の要素としては、神経系の中枢、体性、自律、交感および副交感成分、眼、耳、鼻、口または他の臓器内の神経感覚組織、ならびにニューロン細胞およびニューロン構造に付随する神経膠組織が挙げられる。神経障害は、ニューロンへの障害、例えば機械的傷害もしくは毒性化合物による傷害などによって、またはニューロンの異常な成長もしくは発生によって、またはニューロンの活性の不正制御(例えばダウンレギュレーション)によって起こり得る。神経障害は、神経系機能、例えば感覚機能(体内および外部環境における変化を感知する能力)、統合機能(変化を解釈する能力)、および運動機能(筋収縮または腺分泌などの動作を開始することにより、解釈に対して応答する能力)に有害な作用を及ぼし得る。
【0127】
神経障害の例として、末梢神経もしくは脳神経、脊髄への、または脳、脳神経への外傷性または毒性傷害、外傷性脳傷害、脳卒中、脳動脈瘤、および脊髄傷害が挙げられる。他の神経障害として、認知障害および神経変性障害、例えばアルツハイマー病、アルツハイマー病に関連する痴呆(例えばピック病)、パーキンソン病および他のびまん性レーヴィ小体病、老人性痴呆、ハンチントン病、ジル・ド・ラ・ツーレット症候群、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、遺伝性運動性感覚性ニューロパシー(シャルコー・マリー・トゥース病)、糖尿病性ニューロパシー、進行性核上性麻痺、てんかん、およびヤコブ・クロイツフェルト病などが挙げられる。自律神経機能障害として、高血圧および睡眠障害が挙げられる。
【0128】
また、神経精神障害、例えばうつ病、統合失調症、分裂情動障害、コルサコフ精神病、躁病、不安障害、または恐怖障害、学習障害または記憶障害(例えば健忘および加齢性記憶喪失)、注意欠陥障害、気分変調障害、大うつ病性障害、躁病、強迫性障害、精神活性物質使用障害、不安、恐怖症、パニック障害、双極性情動障害、心因性疼痛症候群、ならびに摂食障害も、本発明の化合物および方法で処置すべきものである。神経障害の他の例として、感染性疾患(例えば髄膜炎、さまざまな病因の高熱、HIV、梅毒、またはポリオ後症候群)による神経系への傷害、ならびに電気(電気または電光との接触、ならびに電気痙攣精神医学療法の合併症を含む)による神経系への傷害が挙げられる。発生中の脳は、多くの妊娠段階を通して、ならびに乳児期中および幼児期中は、発生中の中枢神経系における神経毒性の標的であり、本発明の方法は子宮内の胚または胎児、未熟児、またはそのような処置を必要とする小児(神経学的先天性欠損を持つ者を含む)における神経学的欠損の予防または処置に利用することができる。さらなる神経障害として、例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(Braunwald et al., McGraw-Hill, 2001)およびAmerican Psychiatric Association's Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders DSM-IV(American Psychiatric Press, 2000)に列挙されているものが挙げられ、これらの文献は参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。眼科状態に関連する神経障害として、網膜および視神経損傷、緑内障ならびに加齢性黄斑変性が挙げられる。
【0129】
本明細書において使用する「脳卒中」という用語は当技術分野において認識されており、脳動脈の破裂または閉塞(例えば血塊による閉塞)によって引き起こされる意識、知覚、および随意運動の突然の減退または喪失を包含するものとする。
【0130】
本明細書において用いる「外傷性脳傷害」は当技術分野において認識されており、頭部への外傷性の打撃が、しばしば頭蓋を貫通することなく、脳または接続している脊髄への損傷を引き起こす状態を包含するものとする。通常、最初の外傷は拡大する血腫、クモ膜下出血、脳浮腫、頭蓋内圧亢進、および脳低酸素をもたらすことがあり、それが結果として、低い脳血流量による重大な続発事象につながり得る。
【0131】
上記の詳細な説明および以下の実施例は例示に過ぎず、本発明の範囲に関する限定であると解釈すべきではないと理解される。開示した態様には、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者には明白であると思われるさまざまな改変および変更を施すことができる。さらに、本明細書において言及した特許、特許出願および刊行物は全て、参照として本明細書に組み入れられる。
【0132】
実施例
実施例I:NgRは成熟CNSにおける軸索再生を媒介する
視神経は、成熟哺乳動物CNSにおける再生の成否を理解するための古典的モデルである(Aguayo et al., 1991;Ramon y Cajal, 1991)。成熟ラット視神経中で傷ついた軸索は、傷害部位より遠位のミエリンが豊富な環境へは再び成長していくことができない。また、軸索損傷が眼の近くで起こると、網膜神経節細胞(RGC)は数日後にアポトーシスを起こす(Berkelaar et al., 1994)。水晶体を傷つけること(Leon et al., 2000;Fischer et al., 2000, 2001)、炎症誘発剤ザイモサンを注射すること(Yin et al., 2003)、または末梢神経断片を挿入すること(Berry et al., 1996)を含むいくつかの眼内操作は、この状況を部分的に逆転させ、多くのRGCが傷害に耐えて生き残ると共に視神経へと非常に長い軸索を再生することを可能にする。これらの作用は、眼内に構成的に存在する糖質(Li et al, 2003)と協力して作用するマクロファージ由来因子(Yin et al., 2003)によって媒介されるようである。これらの条件下で起こる部分的再生は、CNS再生におけるNgRの重要性を調べるための敏感なバックグランドになる。ここでは、野生型NgRまたはNgRDNの遺伝子を保有するアデノ随伴ウイルス(AAV)をRGCにトランスフェクトすることによって、これを行なった。
【0133】
材料および方法
ウイルストランスフェクション
野生型NgR(Fournier et al., 2001)またはリガンド結合ドメインを保っているがその補助受容体とは会合しないNgRのC末端切断型ドミナントネガティブ変異体(Domeniconi et al, 2002;Wang et al., 2002b)をコードするcDNAを、Harvard Gene Therapy Initiative ()のウェブサイトに記載されているAAV-MCS2-IGFPプラスミド中に挿入した。遺伝子発現はCMVプロモーターによって駆動された。コンストラクトは、内部リボソーム結合部位から強化緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現させた。NgRコンストラクトは、既述のとおり(Wang et al, 2002a)、HAエピトープタグを含有した。対照にはGFPだけを発現させるウイルスをトランスフェクトした。ウイルス製造はHarvard Gene Therapy Initiative Core Facilityで行なわれた。RGCにトランスフェクトするために、雌スプラーグ・ドーリーラット(160〜180g)をケタミン-キシラジンで麻酔し、眼窩内で眼の背部を露出させた。液体10μlを眼から引き抜いた後、水晶体を傷つけないように注意しながら、リン酸緩衝食塩水(PBS)10μl中のAAV粒子〜1010個をマイクロピペットを使って硝子体中に注射した(Fischer et al., 2000)。軸索再生の開始時に導入遺伝子発現レベルが最大になるように、視神経手術の3週間前に、注射を行なった(Cheng et al., 2002)。
【0134】
視神経手術および水晶体傷害
ケタミン-キシラジンを使って動物を再び麻酔し、定位固定装置に固定し、左視神経を眼窩内で外科的に露出させた。髄膜を縦に開いた後、解剖顕微鏡下に宝石用ピンセット(jewelers' forceps)で10秒間加圧することにより、視神経を眼窩から2mm挫滅した。水晶体傷害は、水晶体嚢を後方進入路からマイクロキャピラリーで穿刺することによって達成した(Fischer et al., 2000)。水晶体傷害はマクロファージ活性化につながり、活性化されたマクロファージから分泌される因子類は、RGCを刺激してその軸索を再生させる(Yin et al., 2003)。対照は神経傷害を受けたが、水晶体損傷は受けなかった。神経傷害は、挫滅部位における空所(clearing)の出現によって確認し、網膜の血管の完全性は眼底検査によって確認した。
【0135】
網膜外植片
視神経を挫滅すると共に水晶体を傷つけるか偽手術を行なった4日後に、ウイルストランスフェクト網膜の外植片を調製した。動物を安楽死させ、その網膜を切り離し、8個の放射状片に切断し、既述(Wang et al., 2002b)のように調製したミエリンを含むまたはミエリンを含まないラミニン-ポリ-D-リジン基質(Bahr et al., 1988)上、DMEM-B27(Invitrogen)中で培養した。2日後に、倒立位相差顕微鏡(Axiovert, Zeiss)および較正済み接眼マイクロメーターを利用して、200倍の倍率で、各外植片の縁を超えて50μm成長している軸索の数を数えた。再生が強い場合は、多少の線維束形成が観察され、それらは単一の軸索として数えた。個々の外植片からの結果を各処置群内で平均し、群間差をスチューデントのt検定で評価した。ミエリン上での成長を評価するために、本発明者らは、TUJ1免疫染色外植片において>500μm成長した軸索対50μmの軸索総数の比を計算した。これは、混合ミエリン-ラミニン基質上で成長させた外植片の接着および伸長の変動を説明するため、ならびに粒状バックグラウンドに対して軸索を可視化するために行なった。1網膜あたり6個の外植片および1条件あたり4〜5個の網膜から得た結果を平均した。
【0136】
組織学:網膜外植片
2日間の培養後に、網膜をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定し、メタノールで10分間、二次抗体と同じ種に由来する10%血清を含有するブロッキング溶液で1時間処理し(RT)、次に、NgRに融合したGFPに対する抗体(ウサギで調製したもの:Molecular Probes(オレゴン州ユージーン),1:1000)、βIIIチューブリンに対する抗体(マウスモノクローナル抗体TUJ1,Babco(カリフォルニア州リッチモンド),1:500)、またはHAエピトープタグに対する抗体(マウスモノクローナル抗体, Molecular Probes, 1:100)と共に終夜インキュベートした(4℃)。一次抗体は2×生理食塩水、5%血清、2%BSA、および0.1%Tween-20を含有するトリス緩衝食塩水(TBS)中に調製した。TBS中で3回濯いだ後、切片を蛍光タグ付き二次抗体、すなわちウサギIgGに対するAlexaFluor488コンジュゲートヤギ抗体、またはマウスIgGに対するAlexaFluor594コンジュゲートヤギ抗体と共にインキュベートし(1:500,2時間,RT)、濯ぎ、覆った。
【0137】
視神経および網膜横断切片
神経手術の2週間後に、動物を過量の麻酔で安楽死させ、PBSで灌流した後、PBS中の4%パラホルムアルデヒドで灌流した。網膜が付着している視神経を切り離し、既述のように(Yin et al., 2003)、縦断切片作製用に調製した。上述のように、GAP-43(ヒツジで調製された一次抗体(Benowitz et al., 1988);1:1000、次に蛍光タグ付きロバ抗ヒツジIgG)またはGFPを可視化するために、切片を染色した。網膜横断切片は、GFPもしくはβIIIチューブリン(上記)またはNgRを可視化するために染色した。後者は、NgRのN末端に対してヤギで作製した一次抗体(1:10,Santa Cruz)を使用した後、ロバで作製したヤギIgGに対する蛍光二次抗体(1:500)を使用することによって可視化した。
【0138】
軸索再生:定量化
再生を既述のように定量化した(Leon et al., 2000;Yin et al., 2003)。簡単に述べると、倍率400倍で、1例あたり4個の切片で、傷害部位から>500μmおよび>1mm伸びているGAP-43陽性軸索の数を数え、これらの数を視神経の横断切片幅に対して標準化し、これらのデータを使って、各動物において再生している軸索の総数を計算した(Leon et al., 2000;Yin et al., 2003)。群間差の有意性はスチューデントのt検定によって評価した。
【0139】
細胞生存
網膜の中心を通る横断切片を、上述のように、GFPに対する抗体およびβIIIチューブリンに対する抗体で二重染色した。1切片あたりのβIIIチューブリン陽性細胞の数を、1例あたり4〜6切片で数え、各例について平均した後、類似する処置を施した全ての動物にわたって平均することにより、群平均および標準誤差を得た。
【0140】
結果
インビボでのNgRの役割を調べるために、野生型Nogo受容体(NgRWT)(Fournier et al., 2001)またはNgRの切断型ドミナントネガティブ変異体(NgRDN)(Domeniconi et al., 2002;Wang et al., 2002b)をCMVプロモーターから発現させると共に強化緑色蛍光タンパク質(GFP)を内部リボソーム結合部位から発現させるプラスミドを保有するAAV(血清型2)(それぞれAAV-NgRWT-IGFPおよびAAV-NgRDN-IGFP)を成熟ラットに硝子体内注射した。対照にはGFPだけを発現させるウイルス(AAV-GFP)をトランスフェクトした。3週間後に調べたところ、GFPレポーターが全RGCの>75%に検出され、類似するウイルスを使った先の研究と一致した(Cheng et al., 2002;Martin et al., 2002)。GFP標識細胞は神経節細胞層内でほとんど排他的にβIIIチューブリンに関して免疫陽性である細胞中に局在した。このチューブリンアイソフォームは網膜ではRGCだけに発現され(Cui et al., 2003;Yin et al., 2003)、本発明者らは、βIIIチューブリン免疫染色と、RGCにおけるFluorogold標識(上丘への後者の注射後)との完全なオーバーラップを示すことによって、これを確認した。RGCへのトランスフェクションの特異性は、おそらくAAV2の神経選択性(Bartlett et al., 1998)と、硝子体内ウイルス粒子がRGCの軸索および細胞体に容易に接近できることとの組合せを反映しているのだろう。
【0141】
NgR免疫染色は、AAV-GFPをトランスフェクトした対照では中程度であるか弱かったが、AAV-NgRWT-IGFPをトランスフェクトした網膜では強かった。このように、トランスフェクト細胞では、導入遺伝子の発現レベルが内在性タンパク質の発現レベルを超える。トランスフェクションの3週間後に、動物を再び麻酔し、左視神経を眼の背部から2mm挫滅した。これらの動物の半分では、マクロファージを活性化し再生を促進するために水晶体を損傷し(Fischer et al., 2000;Leon et al., 2000;Yin et al., 2003)、残りの動物にはさらなる手術を施さなかった。
【0142】
視神経傷害の2週間後に再生を調べた。マクロファージが硝子体内で活性化されている場合、損傷した軸索はこの時点までに遠位視神経へと再び成長し始めたことが、先の研究で示されている(Leon et al., 2000)。再生している軸索は、GAP-43に対する抗体による染色で容易に識別される。GAP-43は通常であれば成熟視神経には検出されないが、再生を起こしているRGC軸索では強くアップレギュレートされる(Schaden et al., 1994;Berry et al., 1996;Leon et al., 2000)。GAP-43陽性軸索がRGCに由来することは、順行性標識および二重免疫染色によって、先に示されている(Leon et al., 2000)。AAV-GFPをトランスフェクトした対照(n=8)は、傷害部位より遠位に中程度の数のGAP-43陽性軸索を示し、数の上では、ウイルストランスフェクションなしで同様の処置を受けた動物に報告されたものに匹敵した(図1A;Leon et al., 2000)。
【0143】
神経挫滅および水晶体傷害の2週間後に、NgRWTを過剰発現させている動物では、傷害部位から0.5mm再生している軸索が対照より76%少なく(n=9,p<0.01)、1mm伸びている軸索は96%少なかった(p<0.01)。多くのNgRWT含有軸索は、ミエリンに対するこれらの軸索の感受性を反映して、傷害部位から視神経乳頭に向かって縮んでいた。この現象はGFPだけまたはNgRDNを発現させる動物には決して観察されなかった。
【0144】
これとは著しい対照をなして、NgRDNの発現は軸索成長を大いに強化した。神経挫滅および水晶体傷害の2週間後に、NgRDNを発現させる動物(n=5)では、傷害部位を超えて>1mm伸びた軸索が、GFPだけを発現させる対照よりも約3倍多く、NRWTを発現させる動物よりも75倍多かった(図1A)。一般に、GFPは傷害部位より近位にある多くの軸索で可視化することができたが、この点を超えて伸びる軸索ではGFP免疫蛍光を示すものは半分未満だった。これはおそらくRGC細胞体から遠く離れると細胞質レポータータンパク質の濃度が減少するからだろう。しかし、最も長い再生中の軸索は多くの場合、GFP染色を示したことから、それらは豊富なNgRDNを発現させるRGCから生じた可能性が示唆される。この共存により、GAP-43免疫陽性軸索がRGCに由来することが、さらに確認される。さらに長い生存期間後の導入遺伝子発現の減少とRGC生存能力の低下とが相まって、この条件下で得られ得る再生量を制限していると考えられ、これらの課題を克服することによって、成長活性化NgRDN発現RGCが、軸索をそれらの中枢標的に再び伸ばすことができるようになるかどうかを決定するには、さらなる研究が必要だろう。
【0145】
水晶体傷害がない場合、NgRDN発現は、RGCがその軸索を遠位視神経へと再生することを可能にはしなかった。定量的には、水晶体傷害を伴わない場合はどの動物でも、どの導入遺伝子を発現させたかには関わりなく、0.5mmの位置で数えられる軸索がなかった。
【0146】
軸索再生に対する3つの導入遺伝子の作用が細胞生存の相違を反映している可能性があるかどうかを調べるために、神経挫滅および水晶体傷害の2週間後に、網膜横断切片中のTUJ1陽性細胞を数えた。導入遺伝子発現は細胞生存に対して測定可能な作用を持たなかった(図1B)。
【0147】
NgRのレベルまたは機能を変化させたことがRGC固有の軸索延長能力に影響を及ぼしている可能性があるかどうかを調べるために、より高い許容性を持つ基質での伸長を調べた。先と同様に、AAV-NgRWT-IGFPまたはAAV-NgRDN-IGFPをインビボでRGCにトランスフェクトした後、3週間後に、視神経手術を水晶体傷害または偽眼内手術と組み合わせて行なった。マクロファージ由来因子によって刺激された軸索切断RGCが成長状態に入る4日後に(Fischer et al., 2000)、網膜の楔をポリ-L-リジン-ラミニン(PLL)基質上に外植した。インビボで成長因子にばく露されていない外植片では、導入遺伝子発現とは関わりなく、伸長はほとんどみられなかった(図2A)。軸索切断RGCがこの時点でアポトーシスの徴候を示さないことに注意すべきである(Berkelaar et al., 1994)。インビボでの水晶体傷害の結果として成長するように予備刺激された網膜は、どの導入遺伝子を発現させたかと関わりなく、強い伸長を示した(図2A)。NgRWTを発現させるRGCからは強い伸長があったが、NgRDNを発現させる成長活性化網膜からの伸長はわずかだった。
【0148】
予想どおり、ミエリンを含有する基質上に外植片を置くと、導入遺伝子発現の作用が明白になった(図2B)。NgRWT過剰発現は、混合ミエリン-ラミニン基質上で>500μm成長する軸索の百分率を、対照との比較で約50%減少させたのに対して、NgRDNの発現は長い軸索の百分率を二倍にした(どちらの場合もp<0.001)。
【0149】
考察
この研究の結果は、成熟視神経における軸索再生の制限にはNgRが主要な役割を果たしているが、大規模な再生には、NgR活性の抑制に加えて、ニューロン固有の成長状態の活性化も必要であることことを示している。本発明者らが得た結果は、AAVを介したトランスフェクションが、CNSニューロンにおける軸索再生にとって重要な遺伝子産物の機能レベルいずれかを変化させる著しく効果的な手段になることも証明している。
【0150】
視神経再生に関するNgRの決定的役割は、成長感作RGCがドミナントネガティブ型のNgRを発現させる場合に起こる軸索成長の劇的な強化から、そして逆に、野生型NgRを過剰発現させた場合に感作RGCがその軸索の再生にほぼ完全に失敗することから、明らかである。成熟マウスにおいて、NgR遺伝子のヌル突然変異は皮質脊髄路(CST)の再生を強化しないが、脊髄傷害後の重要な下行性セロトニン作動性投射の出芽は増加させる(Kim et al., 2003a)。本研究に基づいて、本発明者らは、NgR欠失後にCSTとセロトニン作動性軸索とで見られた対照的な結果が、皮質錐体細胞と縫線核とのニューロン成長状態の固有の相違を反映している可能性があること、そして適当な栄養因子による前者の活性化はより強いCST表現型につながり得ることを提唱する。
【0151】
NgR機能(またはレベル)の改変および軸索成長プログラムの活性は、互いにほとんど独立している。外植片研究で示されるように、NgRの機能またはレベルを改変しても、許容性基質上で軸索を伸ばすニューロンの能力には影響がなく、RGC固有の成長状態を活性化しても、軸索はミエリンタンパク質の作用に対する応答性を部分的に残していた。マクロファージ由来因子によるRGCの成長プログラムの活性化は、GAP-43(Yin et al., 2003)および他の再生関連遺伝子の発現を著しく増加させるが、NgRまたはNgR補助受容体p75のmRNAレベルを容易に感知できるほどには変化させない(D. FischerおよびL. Benowitz,未公表の遺伝子プロファイリング結果)。ADPリボシルトランスフェラーゼを視神経傷害部位に送達すると、NgR機能に不可欠な下流媒介物質であるRhoAの阻害が、限定的な軸索再生を許す(Lehmann et al., 1999)。
【0152】
成長感作RGCのAAVを介したトランスフェクションは、軸索再生におけるさまざまな遺伝子産物の役割を調べるための一般的アプローチの代表例である。この方法により、トランスジェニック技術に固有の費用、遅延、および考え得る発生上の問題を伴わずに、遺伝子発現の正確な時間的および空間的制御を容易に達成することができる。ここで見いだされたAAVによるRGCトランスフェクションの特異性および効率は、他の研究でも証明されている(Cheng et al., 2002;Martin et al., 2002)。
【0153】
この研究の臨床上の意義は明快である。すなわち、成熟CNSにおいては、阻害シグナルを克服するだけでは大規模な軸索再生を達成することはできず、それと同時にニューロン固有の成長状態を活性化することが必要である(Schnell et al., 1994;Cheng et al., 1996;Guest et al., 1997)。
【0154】
実施例II:水晶体傷害と組み合わせたRhoA不活化は高レベルの軸索再生をもたらす
材料および方法
軸索再生の誘導
220〜250gの成体雌スプラーグ・ドーリーラットを、ケタミン(60〜80mg/kg)およびキシラジン(10〜15mg/kg)の腹腔内注射によって麻酔し、右眼窩上の皮膚に1〜1.5cmの切開を施した。視神経を手術用顕微鏡下で外科的に露出させ、神経上膜を縦に開き、神経を眼の0.5mm後ろで眼動脈を傷つけないように宝石用ピンセットを使って10秒間挫滅した。神経障害は、挫滅部位における空所の出現によって確認し、網膜の血管の完全性は眼底検査によって確認した。水晶体後方進入路からマイクロキャピラリー管の細い先端で水晶体嚢を穿刺して水晶体傷害を誘導し、前眼房から同じ体積を引き抜いた後にPBS 10μlを硝子体内に注射することによって、炎症を強化した(Fischer et al., 2000)。対照にはPBS注射だけを行なった。外科手術は全て、Children's Hospitalの施設内動物実験委員会(the Institutional Animal Care and Use Committee)によって承認された。
【0155】
網膜外植片
視神経を挫滅すると共に水晶体を傷つけるか偽眼内手術を行なってから0〜7日後に、ラットを屠殺し、その網膜を切り離した(各群n=5匹)。追加の対照には処置を施さないか(n=5)、神経挫滅を行なわずに水晶体傷害を施した(n=5)。網膜を8つの放射状片に切断し、それらを、ラミニン-ポリ-L-リジン被覆皿中の星状膠細胞-小膠細胞成長培地(PromoCeli, ドイツ・ハイデルベルグ)で培養した(Bahr et al., 1988)。場合により、培養プレートを、既述のように(Wang et al., 2002a)、ミエリン(Children's Hospital(マサチューセッツ州ボストン)のZhigang He博士の好意による)で被覆した。各外植片から50μm伸びている軸索の数を、倒立位相差光学装置(200倍;Axiovert;Zeiss, ニューヨーク州ソーンウッド)および較正済み接眼マイクロメーターを使って、24時間後および48時間後に数えた。再生が強い場合は、多少の線維束形成が観察され、それらは一つの軸索として数えた。個々の外植片からの結果を各処置群内で平均し、群間差をスチューデントのt検定によって評価した。少なくとも5本の軸索が外植片の縁部から伸びた後に、成長速度を見積った。これら5本の軸索の長さを4、6、12、18、24、36、および48時間時点で測定した。
【0156】
免疫組織化学
致死的過量の麻酔によって動物を屠殺し、心臓を冷食塩水+ヘパリンで灌流した後、4%パラホルムアルデヒドで灌流した。視神経セグメントが付着している眼を結合組織から切り離し、終夜、後固定し、終夜、30%スクロースに移し(4℃)、凍結した。凍結切片をクライオスタットで縦に切断し、被覆ガラススライド(Superfrost plus;Fisher Scientific, ペンシルバニア州ピッツバーグ)上に解凍マウントし、さらに使用するまで-20℃で保存した。二重標識実験でRGCを可視化するために、モノクローナルマウスTUJ1抗体(Babco, カリフォルニア州リッチモンド)を1:500の希釈度で使用した。二次抗体には、シアニン3-コンジュゲート抗ウサギIgG抗体(1:600;Jackson ImmunoResearch, ペンシルバニア州ウエストグローブ)およびAlexa Fluor 488にコンジュゲートした抗マウスIgG(1:500;Molecular Probes)を含めた。Vectashieldマウント材(Vector Laboratories)を使って蛍光切片を覆い、蛍光顕微鏡下で解析した。
【0157】
Rho結合ドメイン-グルタチオンSトランスフェラーゼ染色によるRhoA活性化の可視化
タンパク質ローテキン(rhotekin)のRho結合ドメイン(RBD)は、活性(GTP結合)型のRhoAに選択的に結合し、細胞ホモジネート中のまたはインサイチューのRhoA-GTPを可視化するための試薬として使用することができる(Dubreuil et al., 2002)。pGEXベクター中のグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)-RBD融合タンパク質を発現させる細菌(Netherlands Cancer Institute(オランダ・アムステルダム)のDivision of Cell BiologyのJohon Collardから分譲されたもの)を、100μl/mlアンピシリンを含むLブロス中で成長させた。終夜培養物をLブロス1000ml中に1:10希釈し、振とう細菌インキュベーター中、37℃で1時間インキュベートした。次に、イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを、最終濃度が0.1mMになるように、インキュベーション中の培養物に2時間加えた。6000×gで20分間の遠心分離によって細菌を集めた。ペレットを溶解緩衝液(50mMトリス,pH7.5,1%Triton-X,150mM NaCl,5mM MgCl2,1mM DTT,10μg/mlロイペプチン,10μg/mlアプロチニン,および1mM PMSF)10mlに再懸濁し、超音波処理し、溶解液を14,000rpm、4℃で30分間遠心分離した。清澄化した細菌溶解液を1:100希釈し、インサイチュー結合研究に使用した。パラホルムアルデヒド固定網膜のクライオスタット切片を希釈溶解液と共に4℃で終夜インキュベートし、TBS中で3回洗浄し、0.05%Tween 20を含むTBS中の5%BSA中、室温で1時間ブロックし、抗GST抗体(Immunology Consultants Laboratory, オレゴン州ニューバーグ)およびTUJ1抗体(Babco)と共に、既述のとおり(Dubreuil et al., 2002)、4℃で終夜インキュベートした。切片をTBS中で洗浄し、Alexa Fluor 488および594コンジュゲート二次抗体(1:500,Molecular Probes)と共に室温で2時間インキュベートした。
【0158】
ウイルス構築
S. Narumiya博士(京都大学, 日本・京都)の好意によって提供されたpET-3a-C3プラスミド(Kumagai et al., 1993)から、PCRにより、以下のプライマーを使って、改変型ADPリボシルトランスフェラーゼC3をコードするcDNAを作製した:
フォワード

リバース

コード化された形態(Fournier et al., 2001)およびジペプチドMet-AlaがSer1に取り付けられる。そのcDNAをHarvard Gene Therapy Initiative(HGTI)によって開発されたAAV-MCS2-IGFPプラスミド中に挿入した。さらに、タンパク質を細胞膜に向かわせるために、GAP-43の最初の10アミノ酸をコードするインフレームの配列をライゲートした(Zuber et al., 1989;Liu et al., 1994)。遺伝子発現はサイトメガロウイルスプロモーターによって駆動された。コンストラクトは内部リボソーム結合部位(IRES)から強化緑色蛍光タンパク質(GFP)も発現させた。対照にはGFPだけを発現させるウイルスをトランスフェクトした。ウイルス製造はHGTI Core Facilityで行なわれた。
【0159】
ウイルストランスフェクション
RGCにトランスフェクトするために、雌スプラーグ・ドーリーラット(160〜180g)をケタミン-キシラジンで麻酔し、眼窩内で眼の背部を露出させた。液体10μlを眼から引き抜いた後、水晶体を傷つけないように注意しながら、リン酸緩衝食塩水(PBS)10μl中のAAV粒子約1011個をマイクロピペットを使って硝子体中に注射した。再生の過程で高レベルの導入遺伝子発現が得られるように、視神経手術の2週間前に、注射を行なった(Cheng et al., 2002)。
【0160】
結果
C3 ADP-リボシルトランスフェラーゼを発現させるAAVによるRGCのトランスフェクション
GFPだけを発現させるAAV(AAV-GFP)、またはRhoAを不活化するためにクロストリジウム・ボツリナムC3 ADP-リボシルトランスフェラーゼ(およびIRES後のGFP)を発現させるAAV(AAV-C3-IGFP)を、成熟ラットに硝子体内注射した。AAV2がニューロン特異的であること、およびRGCの細胞体および軸索は網膜の表面にあることから、この方法では、RGCの約75%でトランスフェクションが起こるが、他の細胞タイプのトランスフェクションはほとんど起こらない(DiPolo et al., 1998;Martin et al., 2002;Fischer et al., 2004)。AAV-C3-IGFPをトランスフェクトした網膜では、RT-PCRによって、強いC3シグナルが示されたが、AAV-GFPをトランスフェクトした対照ではそのようなシグナルは認められなかった(非掲載データ)。RGC特異的チューブリンアイソフォームβIIIチューブリンを発現させる細胞と同じ細胞中でGFPレポーターが発現されることを示す二重標識研究によって、トランスフェクションの高い効率および特異性が確認された。活性(GTP結合)状態にあるRhoAを検出するためのインサイチュー「プル-ダウンアッセイ」にRBD-GSTを使用したところ(Dubreuil et al., 2003)、正常RGCではかなりの結合が観察されたが、AAV-C3-IGFPをトランスフェクトしたRGCでははるかに少なかった。このように、AAVトランスフェクションはRGCにおける強い導入遺伝子発現をもたらし、C3発現の場合は、それがRhoAを不活化する。
【0161】
RhoA不活化およびマクロファージ活性化はインビボで相乗作用を持つ
トランスジェニックC3タンパク質レベルを2週間にわたってRGC中で十分に高くなるようにした後、ラットを再び麻酔し、左視神経を挫滅すると共に、水晶体を傷つけるか、または無傷のままにしておいた。2週間後にGAP-43免疫染色によって再生を評価した(Berry et al., 1996;Leon et al., 2000)。予想どおり、神経挫滅だけを施したAAV-GFPトランスフェクト動物は、手術の2週間後に傷害部位を超えて500μm成長している軸索を示さなかったのに対して(図8a)、水晶体傷害を持つ同様にトランスフェクトした動物は、傷害部位を超えて500μm伸びる軸索を平均で約400本持っていた(図3a)(Leon et al., 2000;Yin et al., 2003;Fischer et al., 2004参照)。水晶体傷害が存在しない場合でも、C3を発現させるラットは、傷害部位を通過する中程度の数の軸索を示し、これらのうち500μm伸び続ける割合は、この基準に達する軸索の総数こそ少なかったものの、水晶体傷害を持つGFP発現例において見られるものよりも高かった(図3a)。C3発現を水晶体傷害と組み合わせたところ、かつてないレベルの軸索再生がおこあった。この群ではどの動物でも、軸索成長があまりにも強いため、他の場合には傷害部位に見られるGAP-43免疫染色の不連続性が不明瞭になるほどだった。傷害部位を超えて500μm伸びる軸索の数は、水晶体傷害後またはC3発現だけの場合よりも4.5倍多く(図3a)(n=9;p<0.001)、2つの作用を合わせたものよりも多かった。このように、RhoAの不活化およびRGCの成長状態の活性化は、インビボで相乗作用を持つ。
【0162】
C3発現はRGCの生存を強化する
C3によるRhoAの不活化はニューロンおよび他の細胞をアポトーシス細胞死から保護すると報告されている(Dubreuil et al., 2003)。C3がインビボでRGCの生存に影響を及ぼすかどうかを調べるために、神経挫滅および水晶体傷害の2週間後に、各網膜(視神経乳頭レベル付近)を通る横断切片4〜6個から、TUJ1陽性細胞の数を数えた。C3発現は神経挫滅後のRGCの生存を、GFPだけを発現させる対照と比較して約2倍増加させたが、水晶体傷害の強い神経保護作用をさらに強化することはなかった(図3b)。
【0163】
成長状態および基質に対するC3発現の作用
C3発現の作用をさらに詳しく調べるために、C3またはGFPを発現させる培養中の網膜外植片の成長を調べた。許容性ラミニン-ポリ-L-リジン基質において、GFPをトランスフェクトした対照RGCは伸長をほとんど示さず、C3発現は成長をわずかに増加させただけだった(図9)(p<0.001)。4日前にGFPトランスフェクトRGCに軸索切断だけを施したところ、対照RGCと比較して中程度の再生増加が起こり(図9c,i)(p<0.001)(図1と比較されたい)、RGCがこの状態にある場合、C3トランスフェクションは成長を4.6倍増加させた(p<0.001)(図9)。軸索切断を水晶体傷害と組み合わせると、軸索切断だけを施したRGCと比較して成長が14倍増加し、C3トランスフェクションがこの成長をさらに強化することはなかった(図9)。このように、外来の阻害物質が存在しない時、RhoAの不活化は、RGCの成長プログラムが活性化されない場合には小さな作用しか持たず、成長プログラムが軸索切断のみによって弱く活性化される場合には強く作用を持つが、RGCの成長プログラムが強く活性化される場合は追加作用を持たない。
【0164】
ミエリンタンパク質を含有する基質上にプレーティングした場合、軸索切断および水晶体傷害を受けたRGCは、ポリ-L-リジン-ラミニン上よりもはるかに少ない成長を示した(図9)(p<0.001)(Fischer et al., 2004参照)。これらの条件下で、C3発現は50μm再生する軸索の数を2.6倍増加させ(図9)(p<0.02)、0.5mm成長する軸索の数を3.8倍増加させた(p=0.001;非掲載データ)。このように、RGCが活性成長状態にある場合は、RhoA不活化(C3発現によるもの)はミエリンの阻害作用を克服する助けになる。
【0165】
考察
活性成長状態にあるRGCは傷ついた軸索を、視神経を通ってかなりの距離にわたって再生させることができるが、その成長はミエリンおよびグリア性瘢痕に関連する阻害シグナルによってまだ制限されている。RhoAを不活化することにより、ニューロンの成長状態を活性化した場合に起こる成長の量は、著しく増強された。これらの発見は、再生を臨床的に成功させるには、多岐にわたるアプローチが必要であることを裏付けている。
【0166】
本明細書において言及した参考文献は、参照によりその全文が本明細書に組み入れられる。
【0167】
参考文献





【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】軸索再生およびRGC生存の定量化を表す。A:傷害部位に対して0.5mm(白い棒)および1mm(黒い棒)遠位にある位置での軸索成長の定量化。B:細胞生存数(1切片あたりのβIIIチューブリン陽性RGC数)。††p<0.01で有意な、GFPトランスフェクト対照に対する減少;** p<0.01で有意な、GFPトランスフェクト対照に対する増加。
【図2】許容性基質および非許容性基質での軸索再生を表す。A〜B:許容性ラミニン/ポリ-L-リジン基質上で成長させた網膜外植片。A:軸索成長の定量化。インビボでマクロファージ由来因子にばく露されていない(すなわち水晶体傷害なしの)対照網膜、ならびにAAV-NgRWT-IGFPをトランスフェクトされインビボでマクロファージ由来因子にばく露された網膜、またはAAV-NgRDN-IGFPをトランスフェクトされた成長活性化網膜から生じる軸索。B:ミエリン上でのトランスフェクト網膜外植片(インビボでマクロファージ由来因子にばく露されたもの)の成長(外植片から生じて>500μm伸びる軸索の百分率)。†††p<0.001で有意な、対照に対する減少;** p<0.001で有意な、対照に対する増加。スケールバー:100μm。
【図3】RGCの成長経路の活性化およびRhoAの不活化がインビボで相乗作用を持つことを表す。水晶体傷害を伴う軸索切断または水晶体傷害を伴わない軸索切断の2週間後に成体ラット視神経を通る縦断切片内で可視化されたGAP-43陽性軸索。RGCに、GFPだけまたはC3+GFPを発現させるAAVをトランスフェクトした。a,軸索切断だけでは再生は起こらない。図3A,伸長の定量化(視神経1本あたりの、傷害部位を超えて500μm成長している軸索の数)。図3B,RGC生存数(網膜横断切片あたりのTUJ1+RGC数)。Axot,軸索切断;LI,水晶体傷害。*** p<0.001で有意な、C3発現の作用。†††,p<0.001で有意な、硝子体内マクロファージ活性化の作用。スケールバー,200μm。
【図4】軸索再生に対するRhoA不活化の作用が成長状態および基質に依存することを表す:インビトロ研究。GFPだけを発現させる遺伝子をインビボでRGCにトランスフェクトした2週間後に、ミエリンタンパク質を含まないまたはミエリンタンパク質を含むポリ-L-リジン-ラミニン基質上で、網膜外植片を成長させた。これらの条件下でC3発現は小さい刺激作用を持つ。外植4日前の視神経傷害は対照と比較して伸長をわずかに増加させ、C3発現はこの成長をかなり強化する。軸索切断したRGCを水晶体傷害の作用にばく露させると伸長は著しく増加するが、C3発現は付加的作用を持たない。ミエリンタンパク質は成長活性化RCGからの伸長を減少させ、C3発現はこの阻害をある程度逆転させる。このグラフは結果の定量化を表す。C3発現の有意性:**p<0.02;***p<0.001;†††p<0.001で有意な、実験処理間の相違。スケールバー,250μm。
【図5】配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、 配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、および配列番号:7を表す。
【図6】配列番号:8を表す。
【図7】配列番号:9を表す。
【図8】配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、および配列番号:13を表す。
【図9】配列番号:14、配列番号:15、および配列番号:16を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中枢神経系(CNS)ニューロンの軸索成長を刺激するための方法であって、以下の段階を含む方法:
a.CNSニューロンを有効量のNgRアンタゴニストと接触させる段階;および
b.CNSニューロンを、有効量の、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤と接触させる段階。
【請求項2】
CNSニューロンが哺乳動物のものである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
CNSニューロンを、細胞内cAMP濃度を増加させるcAMP調節物質(modulator)と接触させる段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
cAMP調節物質がcAMP類似体、cAMPを活性化するGタンパク質共役受容体の活性化物質、アデニル酸シクラーゼ活性化物質、カルシウムイオノフォア、およびホスホジエステラーゼ阻害物質からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がイノシンである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がオンコモジュリン(oncomodulin)である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤が、TGF-β、NGF、BDNF、NT-3、CNTF、IL-6、およびGDNFからなる群より選択される成長因子である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がヘキソースである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
ヘキソースが、D-マンノース、グロースおよびグルコース-6-リン酸からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
NgRアンタゴニストが、NgRに結合することによってNgRを介したシグナル伝達を阻害する薬剤である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
NgRアンタゴニストが、NgRの発現を阻害する薬剤である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
NgRアンタゴニストが、NgRによって活性化される下流シグナル伝達分子の活性を阻害する薬剤である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
下流シグナル伝達分子がRhoAである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
薬剤がクロストリジウム・ボツリナム(clostridium botulinum)C3 ADP-リボシルトランスフェラーゼである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
NgRアンタゴニストが、NgRを結合する抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
NgRアンタゴニストが、NgRリガンドを結合する抗体である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
NgRアンタゴニストがペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項18】
ペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、および配列番号:7からなる群より選択されるNgRに結合するペプチドを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ペプチドが、配列番号:14に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
ペプチドが、配列番号:15に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
ペプチドが、配列番号:16に記載のNogo-66のアミノ酸配列を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
NgRアンタゴニストが可溶性NgRタンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項23】
可溶性NgRタンパク質が、配列番号:8または配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含む、請求項22記載の方法。
【請求項24】
可溶性NgRタンパク質が、配列番号:10のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:11のアミノ酸残基26位〜310位、配列番号:12のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号12のアミノ酸残基27位〜344位、および配列番号:13のアミノ酸残基27位〜310位からなる群より選択される可溶性Nogo受容体-1ポリペプチド配列である、請求項22記載の方法。
【請求項25】
NgRアンタゴニストが、NgRに結合する核酸アプタマーである、請求項1記載の方法。
【請求項26】
NgRアンタゴニストが、DNAによってコードされる欠陥NgRである、請求項1記載の方法。
【請求項27】
欠陥NgRがドミナントネガティブNgRである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
NgRアンタゴニストが、DNAによってコードされるクロストリジウム・ボツリナムC3 ADP-リボシルトランスフェラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項29】
DNAがウイルスベクターに含有され、それにより、該ベクターの投与がCNSニューロンを有効量のNgRアンタゴニストと接触させるための手段になる、請求項26または28記載の方法。
【請求項30】
ウイルスベクターがAAVである、請求項36記載の方法。
【請求項31】
患者の神経障害を処置するための方法であって、以下の段階を含む方法:
a.有効量のNgRアンタゴニストを該患者に投与する段階;および
b.該患者に、有効量の、CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤を投与する段階。
【請求項32】
神経障害が、外傷性脳傷害、脳卒中、脳動脈瘤、脊髄傷害、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、びまん性大脳皮質萎縮、レーヴィ小体型痴呆、ピック病、中脳辺縁皮質痴呆(mesolimbocortical dementia)、視床変性、ハンチントン舞踏病、皮質-線条体-脊髄変性、皮質-基底核神経節変性、大脳小脳変性、痙性不全対麻痺を伴う家族性痴呆、ポリグルコサン小体病、シャイ・ドレーガー症候群、オリーブ橋小脳萎縮、進行性核上性麻痺、変形性筋ジストニア、ハレルフォルデン・シュパッツ病、メージュ症候群、家族性振せん、ジル・ド・ラ・ツーレット症候群、有棘赤血球舞踏病、フリードライヒ運動失調、ホームズ型家族性皮質小脳萎縮、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー病、進行性脊髄性筋萎縮、進行性球麻痺、原発性側索硬化症、遺伝性筋萎縮、痙性対麻痺、腓骨筋萎縮、肥厚性間質性多発ニューロパシー、遺伝性多発神経炎性失調(heredopathia atactica polyneuritiformis)、視神経症、眼筋麻痺、および網膜または視神経損傷からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がイノシンである、請求項31記載の方法。
【請求項34】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がオンコモジュリンである、請求項31記載の方法。
【請求項35】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤が、TGF-β、NGF、BDNF、NT-3、CNTF、IL-6、およびGDNFからなる群より選択される成長因子である、請求項31記載の方法。
【請求項36】
CNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤がヘキソースである、請求項31記載の方法。
【請求項37】
ヘキソースが、D-マンノース、グロース、およびグルコース-6-リン酸からなる群より選択される、請求項36記載の方法。
【請求項38】
NgRアンタゴニストが、NgRに結合することによってNgRを介したシグナル伝達を阻害する薬剤である、請求項31記載の方法。
【請求項39】
NgRアンタゴニストが、NgRの発現を阻害する薬剤である、請求項31記載の方法。
【請求項40】
NgRアンタゴニストが、NgRによって活性化される下流シグナル伝達分子の活性を阻害する薬剤である、請求項31記載の方法。
【請求項41】
下流シグナル伝達分子がRhoAである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
薬剤がクロストリジウム・ボツリナムC3 ADP-リボシルトランスフェラーゼである、請求項40記載の方法。
【請求項43】
NgRアンタゴニストが、NgRを結合する抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項44】
NgRアンタゴニストが、NgRリガンドを結合する抗体である、請求項31記載の方法。
【請求項45】
NgRアンタゴニストがペプチドである、請求項31記載の方法。
【請求項46】
ペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、および配列番号:7からなる群より選択されるNgRに結合するペプチドを含む、請求項45記載の方法。
【請求項47】
ペプチドが、配列番号:14に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含む、請求項45記載の方法。
【請求項48】
ペプチドが、配列番号:15に記載のヒトNogoAのアミノ酸残基を含む、請求項45記載の方法。
【請求項49】
ペプチドが、配列番号:16に記載のNogo-66のアミノ酸配列を含む、請求項45記載の方法。
【請求項50】
NgRアンタゴニストが可溶性NgRタンパク質である、請求項31記載の方法。
【請求項51】
可溶性NgRタンパク質が、配列番号:8または配列番号:9に記載のアミノ酸配列を含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
可溶性NgRタンパク質が、配列番号:10のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:11のアミノ酸残基26位〜310位、配列番号:12のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号12のアミノ酸残基27位〜344位、および配列番号:13のアミノ酸残基27位〜310位からなる群より選択される可溶性Nogo受容体-1ポリペプチド配列である、請求項50記載の方法。
【請求項53】
NgRアンタゴニストが、NgRに結合する核酸アプタマーである、請求項31記載の方法。
【請求項54】
NgRアンタゴニストが、DNAによってコードされる欠陥NgRである、請求項13記載の方法。
【請求項55】
欠陥NgRがドミナントネガティブNgRである、請求項54記載の方法。
【請求項56】
NgRアンタゴニストが、DNAによってコードされるクロストリジウム・ボツリナムC3 ADP-リボシルトランスフェラーゼである、請求項31記載の方法。
【請求項57】
DNAがウイルスベクターに含有され、それにより、該ベクターの投与がCNSニューロンを有効量のNgRアンタゴニストと接触させるための手段になる、請求項54または56記載の方法。
【請求項58】
ウイルスベクターがAAVである、請求項57記載の方法。
【請求項59】
NgRアンタゴニストとCNSニューロンの成長経路を活性化する薬剤とを含む薬学的組成物。
【請求項60】
NgRアンタゴニストが、抗体、NgRに結合するペプチド、および可溶性NgRタンパク質からなる群より選択される、請求項59記載の薬学的組成物。
【請求項61】
ペプチドが、配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:14、配列番号:15、および配列番号:16に記載のアミノ酸配列からなる群より選択される、請求項60記載の薬学的組成物。
【請求項62】
可溶性NgRタンパク質が、配列番号:8に記載のアミノ酸配列、配列番号:9に記載のアミノ酸配列、配列番号:10のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:11のアミノ酸残基26位〜310位、配列番号:12のアミノ酸残基26位〜344位、配列番号:12のアミノ酸残基27位〜344位、および配列番号:13のアミノ酸残基27位〜310位からなる群より選択される、請求項60記載の薬学的組成物。
【請求項63】
局所投与、肺投与、体内局所投与、皮内投与、非経口投与、皮下投与、鼻腔内投与、表皮投与、眼投与、経口投与、脳室内投与、およびクモ膜下投与からなる群より選択される投与用に製剤化される、請求項59記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9】
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【公表番号】特表2007−514748(P2007−514748A)
【公表日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545428(P2006−545428)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/042255
【国際公開番号】WO2005/059515
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】