説明

秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法

【課題】通信する情報量の増大を抑制することができる秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法を提供する。
【解決手段】送信側で、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化し、その音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成し、各分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、各分散情報と残部の音声信号とを送信する。受信側で、各分散情報と残部の音声信号とを複数の通信経路を介して受信し、各分散情報を秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成し、その再構成音声信号と残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成し、その復号音声信号を所定の方式に従って音声情報に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、インターネットなどのネットワークを利用したVoIPのような音声通信は、1対1のゲートウェイを用いて行われるTCP/IP通信である。従来、音声通信は、IPsecやSSLなどにより暗号化を行い、通信内容の秘匿化を行っている。しかし、これらの暗号化技術は、秘密鍵の漏洩に対しては脆弱であるという問題があった。
【0003】
このような問題に対し、秘密分散法を利用した秘密通信方法が提案されている。すなわち、音声情報を秘密分散法により複数の分散情報に分散し、各分散情報をそれぞれ異なる通信経路を介して通信する。これにより、全ての通信経路で盗聴が行われない限り、通信内容が盗聴されることはなく、従来の暗号化通信と比べて高い秘匿性を実現することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
なお、秘密分散法(しきい値秘密分散法;k-out-of-n分散方式)は、暗号方式の一種であり、任意に定めた定数nとk(n≧k)を用いて、原情報をn個の分散情報に分散することで暗号化を行うものである。原情報の復号は、任意のk個以上の分散情報を用いることで可能となり、それに満たないk個未満の分散情報からでは原情報に関する情報を全く得ることはできない(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】藤田他,「1ビットオーディオを対象とした音響秘密分散法の提案」,音講論,2004,Vol.1,pp.579−580
【非特許文献2】Adi Shamir,「How to share a secret」,Communications of the ACM,1979,Vol.22,No.11,pp.612−613
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1に記載の秘密通信方法では、秘密分散法による情報分散前と情報分散後とでは、n個の分散情報に分散したとき情報量がおよそn・2(n−1)倍になるため、通信帯域を大きく消費してしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、通信する情報量の増大を抑制することができる秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る秘話通信システムは、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段と、前記送信手段で送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを受信する受信手段と、前記受信手段で受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成手段と、前記再構成手段で生成された前記再構成音声信号と、前記受信手段で受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号手段と、前記復号手段で生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換手段とを、有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る秘話通信システムは、符号化手段により音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化するため、音声情報をそのまま使用する場合に比べて、情報量を減少させることができる。また、分散生成手段により、符号化された音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成するため、音声信号全体から複数の分散情報を生成する場合に比べて、増大する情報量を少なくすることができる。これにより、本発明に係る秘話通信システムは、通信する情報量の増大を抑制することができる。
【0010】
音声信号の一部を秘密分散法により複数の分散情報に分散させて、送信手段および受信手段により通信を行うため、全ての分散情報を取得しない限り、通信内容が盗聴されることはなく、秘匿性が高い。秘密にすべき情報は音声信号ではなく会話内容であるため、音声信号全体を分散させる必要はなく、音声信号の一部を分散させることにより会話内容を秘密にすることができる。
【0011】
本発明に係る秘話通信システムで、前記送信手段は前記複数の分散情報をそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう送信可能であり、前記受信手段は前記送信手段で送信された前記複数の分散情報を、前記複数の通信経路を介して受信可能であることが好ましい。この場合、複数の分散情報をそれぞれ互いに異なる通信経路を介して通信することができるため、全ての通信経路で盗聴が行われない限り、通信内容が盗聴されることはなく、より高い秘匿性を実現することができる。
【0012】
本発明に係る秘話通信システムで、前記符号化手段は音声情報をCELPに従ってデジタルの音声信号に符号化し、前記音声変換手段は前記復号音声信号を前記CELPに従って音声情報に変換することが好ましい。特に、本発明に係る秘話通信システムで、前記符号化手段は音声情報をLD−CELPに従ってデジタルの音声信号に符号化し、前記音声変換手段は前記復号音声信号を前記LD−CELPに従って音声情報に変換することが好ましい。また、本発明に係る秘話通信システムで、前記分散生成手段は前記LD−CELPに従って1サイクル10ビットで符号化された前記音声信号のうち、前記1サイクル毎にあらかじめ設定されたベクトルコードの一部を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成することが好ましい。特に、本発明に係る秘話通信システムで、前記分散生成手段は前記LD−CELPに従って1サイクル10ビットで符号化された前記音声信号のうち、前記1サイクル毎にあらかじめ設定されたベクトルコードのうちの3ビットを秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成することが好ましい。
【0013】
CELP(Code Excited Linear Prediction;符号励振型線形予測)は、音声符号化技術の一つであり、音声の基底ベクトル量子化と線形予測とを利用したものである。また、LD−CELP(Low-Delay Code Excited Linear Prediction;低遅延符号励振型線形予測:ITU−T G.728)は、CELPの中でも比較的単純な構造を有するものである。LD−CELPのエンコーダは、PCM信号5サンプルごとに10bitの符号を出力し、その10bitの情報は、3bitのゲインコードおよび7bitのベクトルコードによって構成されている。エンコーダおよびデコーダは、これらに対応する8(=2)種のゲイン情報、および128(=2)種のベクトル情報を持った共通のコードブックを持っている。
【0014】
LD−CELPに従って符号化する場合、秘密分散法によりベクトルコードの一部を分散させることにより、ゲインコードの一部を分散させる場合に比べて、秘密化の効率が高い。特に、ベクトルコードのうちの3ビットを分散させることにより、秘密を保持しながら、より少ない情報量で通信を行うことができる。
【0015】
本発明に係る秘話送信装置は、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段とを、有することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る秘話受信装置は、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段とを有する秘話送信装置とともに使用される秘話受信装置であって、前記秘話送信装置により送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを前記複数の通信経路を介して受信する受信手段と、前記受信手段で受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成手段と、前記再構成手段で生成された前記再構成音声信号と、前記受信手段で受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号手段と、前記復号手段で生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換手段とを、有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る秘話通信方法は、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化ステップと、前記符号化ステップで符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成ステップと、前記分散生成ステップで生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化ステップで符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信ステップと、前記送信ステップで送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを前記複数の通信経路を介して受信する受信ステップと、前記受信ステップで受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成ステップと、前記再構成ステップで生成された前記再構成音声信号と、前記受信ステップで受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号ステップと、前記復号ステップで生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換ステップとを、有することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法は、音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化するため、音声情報をそのまま使用する場合に比べて、情報量を減少させることができる。また、符号化された音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成するため、音声信号全体から複数の分散情報を生成する場合に比べて、増大する情報量を少なくすることができる。これにより、通信する情報量の増大を抑制することができる。
【0019】
音声信号の一部を秘密分散法により複数の分散情報に分散させて、各分散情報をそれぞれ互いに異なる通信経路を介して通信を行うため、全ての通信経路で盗聴が行われない限り、通信内容が盗聴されることはなく、高い秘匿性を実現することができる。秘密にすべき情報は音声信号ではなく会話内容であるため、音声信号全体を分散させる必要はなく、音声信号の一部を分散させることにより会話内容を秘密にすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、通信する情報量の増大を抑制することができる秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図4は、本発明の実施の形態の秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置および秘話通信方法を示している。なお、本発明の実施の形態の秘話通信方法は、本発明の実施の形態の秘話通信システム、秘話送信装置、秘話受信装置により実行される方法である。
図1および図2に示すように、秘話通信システムは、秘話送信装置1と秘話受信装置2とを有している。
【0022】
図1に示すように、秘話送信装置1は、符号化手段11と分散生成手段12と送信手段13とを有している。符号化手段11は、CELPエンコーダ(CELP Encoder)14とコードバッファ(Code buffer)15とを有している。CELPエンコーダ14は、PCM信号に変換された音声情報を入力し、その音声情報をLD−CELPに従って、PCM信号5サンプルごとに1サイクル10ビットでデジタルの音声信号に符号化するようになっている。コードバッファ15は、CELPエンコーダ14に接続され、CELPエンコーダ14で符号化された音声信号を取得して、一時的に記憶するようになっている。
【0023】
分散生成手段12は、ビットスプリッタ(Bits Splitter)16と秘密分散モジュール(Secret Sharing Module)17と分割モジュール(Sharing Module)18とを有している。ビットスプリッタ16は、コードバッファ15と秘密分散モジュール17と分割モジュール18とに接続されている。ビットスプリッタ16は、コードバッファ15に記憶された音声信号を取得して、1サイクル10ビット毎にあらかじめ設定されたベクトルコードのうちの3ビットと、残部の7ビットとに分割するようになっている。また、ビットスプリッタ16は、分割したベクトルコードの3ビットを秘密分散モジュール17に送信し、残部の7ビットを分割モジュール18に送信するようになっている。
【0024】
秘密分散モジュール17は、ビットスプリッタ16から送信されたベクトルコードの3ビットを取得し、秘密分散法により再構成可能にn個に分散させてn個の分散情報を生成するようになっている。分割モジュール18は、ビットスプリッタ16から送信された残部の7ビットを取得し、負荷分散装置からの情報(Load balancing Information)に基づいて、各通信経路における帯域にあわせてn個の非秘密情報に分割するようになっている。
【0025】
送信手段13は、パケットコンストラクタ(Packet Constructor)19と送信側マルチホーミングルータ(Multi-homing Router)20とを有している。パケットコンストラクタ19は、秘密分散モジュール17と分割モジュール18とに接続されている。パケットコンストラクタ19は、秘密分散モジュール17で生成されたn個の分散情報と、分割モジュール18で生成されたn個の非秘密情報とを取得し、それらを結合して、n個のパケットを生成するようになっている。送信側マルチホーミングルータ20は、パケットコンストラクタ19とインターネット(Internet)とに接続されている。送信側マルチホーミングルータ20は、パケットコンストラクタ19で生成されたn個のパケットを取得し、各パケットがそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、インターネットに送信するようになっている。
【0026】
図2に示すように、秘話受信装置2は、受信手段21と再構成手段22と復号手段23と音声変換手段24とを有している。受信手段21は、受信側マルチホーミングルータ(Multi-homing Router)25を有している。受信側マルチホーミングルータ25は、インターネットに接続され、送信側マルチホーミングルータ20により送信されたn個のパケットを、複数の通信経路を介して受信するようになっている。
【0027】
再構成手段22は、データスプリッタ(Data Splitter)26と再構成モジュール(Decryption Module)27とを有している。データスプリッタ26は、受信側マルチホーミングルータ25と再構成モジュール27と復号手段23とに接続されている。データスプリッタ26は、受信側マルチホーミングルータ25で受信されたn個のパケットを取得して、n個の分散情報とn個の非秘密情報とに分割し、各分散情報を再構成モジュール27に送信し、各非秘密情報を復号手段23に送信するようになっている。再構成モジュール27は、データスプリッタ26から送信された各分散情報を取得し、秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成するようになっている。
【0028】
復号手段23は、リコンストラクタモジュール(Reconstructor Module)28を有している。リコンストラクタモジュール28は、再構成モジュール27とデータスプリッタ26とに接続されている。リコンストラクタモジュール28は、再構成モジュール27で生成された再構成音声信号と、データスプリッタ26から送信された各非秘密情報とを取得し、あらかじめ設定されたように、再構成音声信号をベクトルコードの3ビットに変換し、各非秘密情報を残部の7ビットに変換して結合し、復号音声信号を生成するようになっている。
【0029】
音声変換手段24は、CELPデコーダ(CELP Decoder)29を有している。CELPデコーダ29は、リコンストラクタモジュール28に接続されている。CELPデコーダ29は、リコンストラクタモジュール28で生成された復号音声信号を、LD−CELPに従ってPCM信号から成る音声情報に変換し、その音声情報をPCM信号で出力するようになっている。
【0030】
次に、作用について説明する。
本発明の実施の形態の秘話通信システムでは、まず、秘密送信装置で、PCM信号に変換された音声信号をCELPエンコーダ14に入力する。CELPエンコーダ14が、その音声情報をLD−CELPに従ってデジタルの音声信号に符号化し、その音声信号をコードバッファ15に記憶させる。このとき、音声情報をLD−CELPに従ってデジタルの音声信号に符号化するため、音声情報をそのまま使用する場合に比べて、情報量を減少させることができる。
【0031】
ビットスプリッタ16が、その音声信号を、1サイクル10ビット毎にあらかじめ設定されたベクトルコードのうちの3ビットと、残部の7ビットとに分割する。秘密分散モジュール17が、ベクトルコードの3ビットを、秘密分散法により再構成可能にn個に分散させてn個の分散情報を生成する。このとき、符号化された音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号からn個の分散情報を生成するため、音声信号全体からn個の分散情報を生成する場合に比べて、増大する情報量を少なくすることができる。これにより、通信する情報量の増大を抑制することができる。
【0032】
分割モジュール18が、残部の7ビットをn個の非秘密情報に分割する。パケットコンストラクタ19が、n個の分散情報とn個の非秘密情報とを結合して、n個のパケットを生成する。送信側マルチホーミングルータ20が、そのn個のパケットを、各パケットがそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、インターネットに送信する。
【0033】
秘話受信装置2で、受信側マルチホーミングルータ25が、送信されたn個のパケットを、インターネットで複数の通信経路を介して受信する。データスプリッタ26が、そのn個のパケットを、n個の分散情報とn個の非秘密情報とに分割する。再構成モジュール27が、各分散情報を秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する。リコンストラクタモジュール28が、あらかじめ設定されたように、再構成音声信号をベクトルコードの3ビットに変換し、各非秘密情報を残部の7ビットに変換して結合し、復号音声信号を生成する。CELPデコーダ29が、その復号音声信号を、LD−CELPに従ってPCM信号から成る音声情報に変換し、その音声情報をPCM信号で出力する。
【0034】
このように、音声信号の一部を秘密分散法によりn個の分散情報に分散させて、各分散情報をそれぞれ互いに異なる通信経路を介して通信を行うため、全ての通信経路で盗聴が行われない限り、通信内容が盗聴されることはなく、高い秘匿性を実現することができる。秘密にすべき情報は音声信号ではなく会話内容であるため、音声信号全体を分散させる必要はなく、音声信号の一部を分散させることにより会話内容を秘密にすることができる。
【0035】
[秘話性の評価実験]
秘密分散を施す量と内容の秘匿性との関係を、日本語を母語とする4人の聴取者による文章了解度により評価した。図3に示すように、秘密分散法により分散させる暗号化ビット(Random bit)として、LD−CELPに従って符号化された音声信号の1サイクル10ビット毎に、MSB(Most Significant Bit)からゲインコード(Gain index)に対してsg(=0,1,2,3)ビット、ベクトルコード(Vector index)に対してsv(=0,1,2,3,4,5,6,7)ビットを選択する。これにより、全部で32(=4×8)パターンの実験条件で実験を行った。
【0036】
入力する原音声として、およそ5〜8個の単語によって構成される「音素バランス1000文」(NTT−AT社製)の女性話者の音声320種(サンプリング周波数16kHz、量子化ビット16ビット)を使用した。実験は防音室で行い、音声の提示レベルを60dBAとして、ヘッドホンにより両耳に提示した。各聴取者には、提示音を複数回聴取することを許可し、提示音の内容を用紙に記入させた。試行回数は一人につき320回とし、320種類の提示音は全て異なる原音声から作成した。
【0037】
各文章の回答ごとに、自立語(名詞、動詞、形容詞、副詞)を対象として正答率を求め、文章了解度とした。32パターンの実験条件ごとに、各聴取者および各原音声による40試行分の文章了解度を加算平均し、その結果を表1に示す。また、ゲインコード(Gain code)のみを暗号化ビットとしたとき(sv=0)の文章了解度、ベクトルコード(Vector code)のみを暗号化ビットとしたとき(sg=0)の文章了解度、およびそれぞれの40試行における標準偏差を求め、その結果を図4に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
図4の結果に基づいて、2要因(2×4水準)の分散分析を行った結果、交互作用が有意であった。また、各コードに対して単純主効果の検定を行った結果、暗号化ビット数が1,2,3のとき、それぞれベクトルコードとゲインコードとの間に有意な差(p<.01)が認められた。
【0040】
この実験結果から、秘匿性を極力低下させずに、より少ない情報量で通信を行うためには、ゲインコードよりもベクトルコードの一部を秘密分散法により分散させる方が効果的であることが確認された。特に、ベクトルコードのうちの3ビットを分散させることにより、秘匿性を高く保持しながら、より少ない情報量で通信を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態の秘話通信システムの秘話送信装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態の秘話通信システムの秘話受信装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態の秘話通信システムの音声信号の暗号化パターンの一例(sg=1,sv=3)を示す概念図である。
【図4】本発明の実施の形態の秘話通信システムの音声信号(sg=0,sv=0)の暗号化ビット数と文章了解度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1 秘話送信装置
2 秘話受信装置
11 符号化手段
12 分散生成手段
13 送信手段
14 CELPエンコーダ
15 コードバッファ
16 ビットスプリッタ
17 秘密分散モジュール
18 分割モジュール
19 パケットコンストラクタ
20 送信側マルチホーミングルータ
21 受信手段
22 再構成手段
23 復号手段
24 音声変換手段
25 受信側マルチホーミングルータ
26 データスプリッタ
27 再構成モジュール
28 リコンストラクタモジュール
29 CELPデコーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、
前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、
前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段と、
前記送信手段で送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを受信する受信手段と、
前記受信手段で受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成手段と、
前記再構成手段で生成された前記再構成音声信号と、前記受信手段で受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号手段と、
前記復号手段で生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換手段とを、
有することを特徴とする秘話通信システム。
【請求項2】
前記送信手段は前記複数の分散情報をそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう送信可能であり、
前記受信手段は前記送信手段で送信された前記複数の分散情報を、前記複数の通信経路を介して受信可能であることを、
特徴とする請求項1記載の秘話通信システム。
【請求項3】
前記符号化手段は音声情報をCELPに従ってデジタルの音声信号に符号化し、
前記音声変換手段は前記復号音声信号を前記CELPに従って音声情報に変換することを、
特徴とする請求項1または2記載の秘話通信システム。
【請求項4】
前記符号化手段は音声情報をLD−CELPに従ってデジタルの音声信号に符号化し、
前記音声変換手段は前記復号音声信号を前記LD−CELPに従って音声情報に変換することを、
特徴とする請求項1または2記載の秘話通信システム。
【請求項5】
前記分散生成手段は前記LD−CELPに従って1サイクル10ビットで符号化された前記音声信号のうち、前記1サイクル毎にあらかじめ設定されたベクトルコードの一部を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成することを、特徴とする請求項4記載の秘話通信システム。
【請求項6】
前記分散生成手段は前記LD−CELPに従って1サイクル10ビットで符号化された前記音声信号のうち、前記1サイクル毎にあらかじめ設定されたベクトルコードのうちの3ビットを秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成することを、特徴とする請求項4記載の秘話通信システム。
【請求項7】
音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、
前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、
前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段とを、
有することを特徴とする秘話送信装置。
【請求項8】
音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化手段と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成手段と、前記分散生成手段で生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化手段で符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信手段とを有する秘話送信装置とともに使用される秘話受信装置であって、
前記秘話送信装置により送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを前記複数の通信経路を介して受信する受信手段と、
前記受信手段で受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成手段と、
前記再構成手段で生成された前記再構成音声信号と、前記受信手段で受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号手段と、
前記復号手段で生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換手段とを、
有することを特徴とする秘話受信装置。
【請求項9】
音声情報を所定の方式に従ってデジタルの音声信号に符号化する符号化ステップと、
前記符号化ステップで符号化された前記音声信号のうち、あらかじめ設定された一部の音声信号を秘密分散法により再構成可能に複数に分散させて複数の分散情報を生成する分散生成ステップと、
前記分散生成ステップで生成された前記複数の分散情報がそれぞれ互いに異なる複数の通信経路を通るよう、前記複数の分散情報と、前記符号化ステップで符号化された前記音声信号のうち残部の音声信号とを送信する送信ステップと、
前記送信ステップで送信された前記複数の分散情報と前記残部の音声信号とを前記複数の通信経路を介して受信する受信ステップと、
前記受信ステップで受信された前記複数の分散情報を前記秘密分散法により再構成して再構成音声信号を生成する再構成ステップと、
前記再構成ステップで生成された前記再構成音声信号と、前記受信ステップで受信された前記残部の音声信号とに基づいて復号音声信号を生成する復号ステップと、
前記復号ステップで生成された前記復号音声信号を前記所定の方式に従って音声情報に変換する音声変換ステップとを、
有することを特徴とする秘話通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−67015(P2008−67015A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242181(P2006−242181)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :社団法人日本音響学会 刊行物名 :日本音響学会2006年春季研究発表会講演論文集 講演要旨・講演論文CD−ROM 発行年月日:平成18年3月7日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】