移動体制御システム
【課題】移動体の自己位置や移動方向を正確に算出する移動体制御システムを提供すること。
【解決手段】固有IDを有する複数のタグと、所定方向に伸びる検出ラインを備える位置情報供給領域と、タグのIDを読み取る読み取り手段と、検出ラインを検出する検出部とを備え、位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、複数のタグの各々について移動領域内の基準点に対する相対位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部とから構成される移動体制御システムにおいて、制御部内にマップ情報から特定されたマップ情報から読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、検出部が検出ラインを検出する第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出する第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、特定した位置情報と、計測した時間差とに基づいて、基準点に対する移動体の相対位置と方向を算出する算出部を設けた。
【解決手段】固有IDを有する複数のタグと、所定方向に伸びる検出ラインを備える位置情報供給領域と、タグのIDを読み取る読み取り手段と、検出ラインを検出する検出部とを備え、位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、複数のタグの各々について移動領域内の基準点に対する相対位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部とから構成される移動体制御システムにおいて、制御部内にマップ情報から特定されたマップ情報から読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、検出部が検出ラインを検出する第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出する第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、特定した位置情報と、計測した時間差とに基づいて、基準点に対する移動体の相対位置と方向を算出する算出部を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面などの移動領域内を移動する移動体の移動を制御するための移動体制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内部や屋外の広場などといった移動領域内において、人間の操作を要することなく、車輪や脚式歩行などの手段によって自律的に移動を行う自律移動体が開発されつつある。
【0003】
このような自律移動体は、移動する平面における特定の領域に関するマップ情報を自律的に作成して記憶し、このマップ情報上において移動経路を自律的に作成し、作成した移動経路に基づいて移動を行う。この際に、現在の自己位置が記憶したマップ情報上のどの位置に相当するかを推定するために、移動した速度や方向などに基づいて、特定の基準点からの相対位置を算出する、いわゆるオドメトリ法による自己位置推定を行うものが知られている。
【0004】
ところで、このようなオドメトリ法による自己位置推定は、例えば移動体が車輪の回転駆動により移動を行うものである場合、車輪が床面上でスリップすることなどの原因によって、自己位置が正しく推定できない場合があるという問題が知られている。そのため、例えば特許文献1に記載のような、移動する床面に絶対位置情報を記憶させたタグ(例えばRFIDタグ)を設置し、移動中にそれらのタグを読み込むことで、推定した自己位置を補正する技術がある。
【0005】
また、前述のようなオドメトリ法による自己位置推定に代えて、複数の光学センサを用いて周囲の環境を観察し、予め記憶した環境情報と観察して得られた環境情報とを比較することで、現在の自己位置および移動方向を推定する技術も知られている(例えば特許文献2)。このような技術においても、推定した自己位置に誤差が生じるため、前述と同様に移動する床面に設置したRFIDタグを読み込むことで、推定した自己位置を補正している。
【0006】
この他にも、RFIDタグや、RFIDタグとオドメトリ法ととを組み合わせることによって移動体の位置および方向を移動体とは別体に設けられた基地局により把握し、移動体に位置情報などを送信する技術も知られている。(例えば特許文献3〜5)
【0007】
【特許文献1】特開2001−209429号公報
【特許文献2】特開2004−250315号公報
【特許文献3】特開2004−21978号公報
【特許文献4】特開2001−183455号公報
【特許文献5】特開2006−105696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、推定した移動体の位置情報を前述のように補正しようとする場合、移動体の推定した自己位置については予め絶対位置が既知のタグを読み込むことで補正することができるが、タグを読み取った時点における移動体の方向を知ることができない。すなわち、移動体の移動する方向を推定しつつ移動を行うような移動体の場合、従来の技術においては、移動体の外部に設けたインフラ設備により、移動体の移動する方向(絶対方向)を検出し、その情報を移動体に送信する、といった手法を用いなければ成らない。このような、外部のインフラ設備を用いた移動体を制御するシステムの場合、移動体の移動範囲が大きくなるにつれて、設備が大掛かりにならざるを得ない。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡単な設備により、移動体の自己位置および移動する方向を正確に算出することが可能な移動体制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる移動体制御システムは、固有のIDを有する複数のタグと、所定の方向に伸びる検出ラインとを備える位置情報供給領域と、前記タグのIDを読み取る読み取り手段と、前記検出ラインを検出する検出部とを備え、前記位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、前記複数のタグの各々について、移動領域内の基準点に対する相対的な位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部と、から構成されるとともに、前記制御部が、前記マップ情報から特定されたマップ情報から、読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、前記検出部が前記検出ラインを検出した第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出した第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、前記特定した位置情報と計測した時間差とに基づいて、前記基準点に対する移動体の相対的な位置と方向を算出する算出部と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
このように移動体制御システムを構成することによって、移動領域内に複数のタグと検出ラインとを設けるだけで、移動体の自己位置および移動方向を算出することが可能となる。
【0012】
また、前記検出部は複数設けられていることが好ましく、この場合は、前記時間計測部が、これらの複数の検出部のうち、第1の検出部が前記検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、他の検出部が検出ラインを検出した第2の時刻としてそれらの時間差を計測する。このようにすると、前記位置情報供給領域における検出ラインが単一のものであっても、これらの検出部が検出ラインを検出する時間差を求めることができるため、移動体の移動方向を算出することが可能となる。
【0013】
また、前記位置情報供給領域において、同一の方向に伸びる検出ラインを複数設けた場合は、検出部が第一の検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、第2の検出ラインを検出した時刻を第2の時刻としてそれらの時間差を計測するとよい。このようにすると、前記検出部が単一であっても移動体の移動方向を算出することが可能となる。
【0014】
なお、前述の位置情報供給領域に備えられた複数のタグは、前記検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて等間隔に配置されていることが好ましい。このようにすると、前記位置情報供給領域を移動体が通過した際に求める移動体の位置および移動方向を算出するための演算がシンプルなものとなる。
【0015】
また、前記移動領域内において、位置情報供給領域を複数箇所設けると、移動体がその移動中に移動方向を補正する機会が多く得られるため、より好適である。なお、このような位置情報供給領域は、移動体の移動する機会の多いエリアに設けられることが好ましく、例えば前記移動体が、AGVなどの移動経路が予めある程度定められているような移動体の場合においては、その経路上に位置情報供給領域を設けることで、必ず移動方向の補正を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記位置情報供給領域に設けられた検出ラインは、単一の方向に設置されてもよいが、領域ごとに各々異なる方向に向けて伸びるように設けてもよい。このようにすると、移動体が一定方向に進んでいる場合において、位置情報供給領域内の各々における検出ラインの伸びる方向に対して、移動体の横切る角度が領域毎に異なることになるため、移動する方向をより正確に算出することができる。
【0017】
また、前記タグとしては、読み書き可能なものであってもよいが、読み取り専用のタグであってもよい。読み取り専用のタグを用いると、より安価なコストでこのような移動体制御システムを構成することが可能となるメリットが得られる一方、読み書き可能なタグを用いることで、これらのタグに絶対値情報を直接記憶させることが可能となるため、このような移動体制御システムを構成するための工数を低減することができるというメリットが得られる。
【0018】
また、前記タグとしては、無線によりデータの読み取りができるものであれば特に限定されるものではないが、RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることもできる。RFIDタグを用いることで、タグ内に記憶させたデータを読み取り手段を用いて高速に読み取ることができるため、移動体が移動領域をある程度速い速度で移動しても、移動体の位置や移動方向を算出することが可能となる。
【0019】
また、前記制御部は移動体に対して別体に設けられていてもよいが、移動体の内部に組み込こんでもよい。このようにすると、移動体が自律的に移動する自律型移動体である場合に、移動する方向を自律的に補正することができるため、より位置精度の高い自律移動を行うことが可能となる。
【0020】
また、前記移動体の自己位置を推定する手段としては、移動体とは別に設けられたGPSや基地局などから移動体の自己位置を示す信号を送信するようにしてもよいが、移動体自身にこのような自己位置推定手段が備えられてもよい。このように、移動体に設けられた自己位置推定手段により推定した自己位置を、タグを読み取ったことにより認識した自己位置で補正するようにすることで、移動体が自律的に自己位置を補正することができるため、大掛かりな設備等を用いなくとも移動体の自己位置を精度よく認識させることが可能となる。
【0021】
なお、前述の自己位置推定手段としては、移動体の移動した方向および距離をオドメトリ法により取得することで、自己位置を推定するものを用いると、簡単に自己位置推定を行うことができる。特に、車輪により移動する移動体の場合に、このようなオドメトリ法を用いると、比較的簡単に自己位置推定を行うことができる。
【0022】
このようなオドメトリ法以外の自己位置推定方法については、たとえば、光源より照射されたレーザ光の反射光を受光し、受光するまでに要した時間に基づいて、レーザ光の反射した物体の位置を検出する、いわゆるTOF(Time of flight)の原理による物体検知(センシング)を行うレーザレンジファインダ、もしくは、照射した超音波の反射を受信し、受信した超音波の強度に基づいて、超音波を照射した領域に存在する物体の大まかな形状および位置をセンシングする超音波センサ、もしくはこれらの組み合わせたものを用いることも可能である。また、移動体の移動領域が室内である場合は、室内GPSなどを組み込むことにより、移動体の位置および移動方向を推定するようにしてもよい。また、外部環境を光学的に認識するカメラなどを用いて、移動領域内における特定の場所に設けられたランドマークを光学的に認識することで自己位置を推定するようなものを用いることもできる。
【0023】
また、前記移動体は、特に移動する形態が限定されるものではないが、移動領域が平面上であり、平面上に接触する車輪を駆動することにより移動する車輪型の移動体であってもよい。このような車輪型の移動体のように、移動速度が速い場合において、本発明に係るような移動体の移動方向を補正する場合に特に有効である。
【0024】
また、このような移動体は、人間を搭乗可能な搭乗型移動体であってもよいし、物体等を運搬するようなAGVなどの移動体であってもよい。なお、人間が搭乗可能な搭乗型移動体の場合、この移動体において、搭乗した人間が操作することにより移動領域内における目的地を指定する操作部を備えていてもよい。このような場合、搭乗する人間が目的地を指定し、その目的地に対して経路を自律的に変更するような移動体に対して、本発明を適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上、説明したように、本発明によると、大掛かりな設備を用いることなく、移動体の移動する方向を正確に算出することが可能な移動体制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
発明の実施の形態1.
以下に、図1から図13を参照しつつ本発明の実施の形態1に係る移動体制御システム1について説明する。この実施の形態において、移動体の移動する領域は平面であり、移動を制御される移動体は、人間を搭乗可能であり、人間の指定する地点を目的地として移動する例を示すものとする。
【0027】
図1は、本発明に係る移動体制御システム1を概略的に示すものであり、移動領域としての平面状の床部F上における移動領域(破線に囲まれた領域)内を、車両型の移動体10が移動する様子を示している。図1においては、床部F上の移動領域内には特に物体が載置されていない状態を示すものとし、移動体10は、搭乗する操作者の指定した地点に向かって、移動領域内を移動することができるものとする。なお、図2は図1に示す移動体10の内部構成を簡略的に示す図であり、図3は移動体10を側方から見た様子を概略的に示す図である。
【0028】
図2に示すように、移動体10は、箱型の移動体本体10aと、1対の対向する車輪11、11と、キャスタ12を備える対向2輪型の移動体であり、これらの車輪11、11、キャスタ12とで移動体本体10aを水平に支持するものである。さらに、移動体本体10aの内部には、車輪11、11をそれぞれ駆動する駆動部(モータ)13、13と、車輪の回転数を検出するためのカウンタ14と、車輪を駆動するための制御信号を作成し、駆動部13、13にその制御信号を送信する制御部15、およびこれらの構成要素に電力を供給するためのバッテリー(図示せず)が備えられている。そして、制御部15内部に備えられた記憶部としてのメモリなどの記憶領域15a(図示せず)には、制御信号に基づいて移動体10の移動速度や移動方向、移動距離などを制御するためのプログラムとともに、移動領域内に設けられた各種情報を示すマップ情報P(図示せず)が記憶されている。
【0029】
また、図3に示すように、移動体本体10aの上面には、移動体を操作する操作者を搭乗するための載置面100aを備えるとともに、移動方向前方に設けられた支柱100bの先端において、操作者が目的地を指定するための操作部としての操作パネル100cが備えられている。この操作パネル100cには、移動する領域の概略が表示されており、その表示中における特定の位置を操作者が指定することで、移動体10の目的地を定めることが可能であるものとする。
【0030】
また、移動体本体10aの底部の略中央部には、床面に向けて後述するタグを読み取るための読み取り手段としてのリーダ16が設けられており、底部前面には、後述する検出ラインを検出する検出部としてのセンサ17,18が設けられている。なお、リーダ16は略円形状のやや広範囲に亘ってタグを読み取るものであり、後述するタグを一度に複数読み取ることができるものであり、複数読み取ったタグの固有IDを制御部15に送信する。また、センサ17、18は、図4に示すように、後述する検出ラインに対して光を照射する光源および検出ラインで反射した光を受光するディテクタを備えるものであり、移動体前面の左右対称となる位置に設置され、検出ラインを検出した際に、検出信号を制御部15に向かって送信する。
【0031】
このように構成された移動体10は、1対の車輪11、11の駆動量をそれぞれ独立に制御することで、直進や曲線移動(旋回)、後退、その場回転(両車輪の中点を中心とした旋回)などの移動動作を行うことができる。
【0032】
また、移動体10は、前記操作パネル100cを操作することで指定された移動領域内の目的地までの移動経路を自律的に作成し、その移動経路に追従するように移動することができる。この現在地から目的地までの経路を作成する手法としては、前述の記憶領域15a内に記憶されたマップ情報Pに含まれる、移動領域の形状や、その内部に含まれる物体(壁などの障害物)などの位置に基づいて演算処理を行い、算出する手法が用いられる。そのような移動経路を作成する例としては、例えば略一定間隔m(例えば10cm)に配置された格子点を結ぶグリッド線を仮想的に描写することで得られるグリッドマップ中における各グリッド単位を用いて現在の位置や目的地を定め、グリッドマップ内において移動経路を作成するといった手法が用いられる。なお、このような移動経路作成方法を用いた場合、前述の間隔mは、移動体10の移動可能な曲率や絶対位置を認識する精度などの条件に応じて、適宜変更可能であるものとし、また、移動体10がスリップしたか否かを判定するための閾値としても用いてもよい。また、この移動領域内において、壁や障害物等の固定物体が存在していることが既知である場合は、それらの物体の位置を予めグリッドマップ上に登録し、マップ情報として記憶領域15aに記憶されているものとする。
【0033】
次に、移動体10に設けられた制御部15について、詳細を説明する。図5は、制御部15において移動体の位置および移動方向を算出するための各構成を概略的に示すブロック図を示している。
【0034】
まず、制御部15は、前述のように、マップ情報Pを記憶する記憶領域15aを備えるとともに、読み取り手段としてのリーダ16から読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部15bと、センサ17,18が検出ラインを検出した時間の差を計測する時間計測部15cと、位置情報特定部15bで特定された位置情報および時間計測部15cで計測された時間差とに基づいて、移動体の位置および移動方向を算出する算出部15dと、カウンタ14で検知された車輪11、11の回転数を積算することで移動体10の移動した速度や距離などの情報を求め、これらの情報から、移動領域内における移動体10の自己位置(オドメトリ位置)および移動する方向を推定する自己位置推定部15eと、を備える。これらの制御部15の各構成により、移動体の位置および移動方向を算出するための詳細な手法については、後述する。
【0035】
次に、移動領域内に設けられた位置情報供給領域について図6を用いて説明する。前述の移動領域内においては、複数箇所において位置情報供給領域R(R1,R2,...)が設けられている。図6においては、説明を簡略化するため、位置情報供給領域Rが2箇所のみ(RnおよびRn+1)設けられた例を示すものとする。
【0036】
図6に示すように、位置情報供給領域Rn,Rn+1は、所定の方向に伸びる板状の反射部材Mn、Mn+1上において、複数のタグが一定の間隔となるように配置される構成を有している。反射部材Mn、Mn+1は、その表面が水平かつ所定の反射率が維持できるような材質で形成されており、前述したセンサ17または18に備えられた光源からの光を反射し、センサ17,18のディテクタによりその反射光を受光することで、移動体10がこれらの反射部材上を通過したことが検出される。すなわち、この実施形態においては、これらの反射部材が本発明でいう検出ラインに相当する。
【0037】
一方、この反射部材上においては、各反射部材の伸びる方向に向けて一定の間隔で2列に並べられたタグTn1,Tn2,...およびTn+11,Tn+12,...が配置されている。これらのタグは一般的に用いられているRFIDタグであり、それぞれ固有のIDを有するとともに、各タグには移動領域内における基準点Oからの相対的な位置を示す座標が記憶され、基準ベクタの方向と併せてマップ情報P内に記憶されている。なお、この位置情報供給領域においては、反射部材の伸びる方向に直交する方向を基準ベクタ(基準ベクタVn,Vn+1)としており、これらの位置情報供給領域の基準ベクタは、図6から明らかなように各々異なる方向となるように設定されている。
【0038】
次に、このような各タグの位置情報がマップ情報Pにおいて記憶されるためのデータ構造の一例を図7に示す。図7から明らかなように、マップ情報Pとしては、各タグが存在する領域(セクション)や、基準ベクタ,各タグの基準点からみた相対的な座標(ここではx−y座標)などといった情報が、タグの固有IDとそれぞれ関連付けられて記憶されている。
【0039】
次に、このように構成された移動体10が、自己位置および移動方向を算出する手法について図8,図9および図10を用いて説明する。図8から図10は、移動体10が前述の位置情報供給領域Rn上を通過する瞬間を示す図であり、図8は反射部材の上を移動体10が通過する様子、図9は反射部材の伸びる方向に直交する方向(すなわち基準ベクタの示す方向)と等しい方向に移動体が移動する様子、図10は基準ベクタに対して所定の角度(θ)だけ傾斜する方向に移動する様子を示している。
【0040】
図8に示すように、移動体10の底部に設けられたリーダ16(読み取り手段)は、略円形状のやや広範囲に亘って反射部材上に配置されたタグを読み取り、これらの読み取ったタグの情報(固有ID)を制御部15に送信する。制御部15においては、位置情報特定部15bにおいて、これらの情報から読み取ったタグの固有IDから各タグの座標情報を求め、これらの座標情報を算出部15に送信する。算出部15では、読み取った固有IDから平面上における多角形を特定し、この多角形の重心位置を所定のプログラムに従って算出する。そして、算出した重心位置を、リーダ16がこれらのタグを読み取った時の移動体10の自己位置とする。
【0041】
次に、移動体10がその移動方向を算出する方法について説明する。
まず、反射部材の伸びる方向に直交する方向(すなわち基準ベクタの示す方向)と等しい方向に移動体が移動する場合は、移動体10のセンサ17,18が位置情報供給領域Rn上に設けられた反射部材Mn(検出ライン)上を通過したことを検出する。このとき、前述の時間計測部15cは、これらのセンサから検出された時刻の時間差を算出する。ここで、移動体10の移動速度をv,センサ17と18の間隔をdとし、センサ17が反射部材Mnを検出した時刻を第1の時刻t1,センサ18が反射部材Mnを検出した時刻を第2の時刻t2とする。また、この反射部材上を移動する際に、移動体10の速度変化は小さく、無視できるものとする。
【0042】
このとき、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度(図10に示す時計回りの方向についての角度)をθとすると、センサ17およびセンサ18が反射部材Mnを検出した時間差Δt=t2−t1に移動体10が進んだ距離はv・(t1−t2)となるので、d、θ、v,t1,t2の間には以下の式1に示す関係が成立する。
tanθ=v・(t2−t1)/d ・・・(式1)
【0043】
したがって、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθは、以下の式2で表される。
θ=atan(v・(t2−t1)/d) ・・・(式2)
【0044】
このような式2に基づいて、算出部15dは移動体10が基準ベクタに対して移動体の移動する方向がなす角度を算出することができる。
【0045】
なお、図11は、図9に示すような場合において、移動体10が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。図11から明らかなように、この場合はセンサ17および18が反射部材を検出した時刻t1,t2はほぼ同時であるため、時間差Δt(=t2−t1)はほぼ0とみなされ、算出部15dでは、移動体10の移動する方向は、反射部材の伸びる方向に直交する方向(基準ベクタの示す方向)に対して平行である(θ=0)と算出される。
【0046】
図12は、図10に示す例の場合において、移動体10が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。この場合においては、Δt(=t2−t1)の値がある程度の大きさを有しているため、移動体の移動方向が基準ベクタの示す方向に対してなす角度が算出される。
【0047】
なお、このような場合、Δt(=t2−t1)の大きさの上限閾値を定め、Δtがこの閾値を超える場合には、角度θを算出せずに、エラーが発生したことを示すエラー信号を送信するようにしてもよい。このようにすると、これらのセンサのうち、一方だけが反射部材を検出し(時刻t1)、その後しばらくして、再び移動体が反射部材上を移動する際に、他方のセンサが反射部材を検出した(時刻t2)ような場合に、異常な角度θを移動体の移動方向として出力することがなくなる。
【0048】
また、移動体の移動方向について、Δtの値が負であると、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθの値は負となる。この場合、得られた角度θは移動体10の移動方向が基準ベクタに対して反時計周りにむけてなす角度として表される。このように、センサ17,18のいずれが先に検出ライン(反射部材)を検出したかに応じて、算出する方向を的確に求めることができる。
【0049】
以上、説明したように、移動体10の自己位置および移動方向を算出することによって、位置情報供給領域を通過した時点における自己位置(絶対位置)と移動方向が正確に得られるため、これらのデータに基づいて、移動体は自己位置および移動方向を補正することができる。
【0050】
なお、前述の実施形態では、検出部として、反射部材に対して光を照射し、その反射光を受光することで反射部材上を移動体が通過したことを検出するセンサを用いているが、本発明はこれに限られるものではない。その他の例としては、たとえば、検出部として磁気センサなどを用いることもできる。この場合、位置情報供給領域において、反射部材に代えて磁気を帯びた帯磁部材を配置することで、この領域を移動体が通過したことを検出することができる。
【0051】
また、前述の例においては、センサ17および18が所定の値以上の検出値を出力した時刻の時間差に基づいて、移動方向を定めるようにしているが、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、図13に示すように、センサ17および18が所定の値以上の出力が終了した時刻の時間差(Δt')に基づいて、基準ベクタの示す方向に対する移動体の移動方向を、前述の例と同様の手法により算出することができる。
【0052】
さらに、前述の例においては、位置情報供給領域をほぼ全面に覆う反射部材を用いた例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、図14に示すように、検出ラインとしての反射部材Mn'を、位置情報供給領域の長辺端部に各々設けるようにしてもよい。このような反射部材の位置及び形状をあらかじめ移動体の記憶領域内に記憶させておくことで、センサ17,18がこの反射部材を通過した時刻と、あらかじめ記憶した反射部材の位置形状とから、移動体の移動方向を算出することができる。このように反射部材を構成すると、位置情報供給領域をより簡素化することができるため、移動体制御システムを構成するための設備がより安価となる。
【0053】
なお、この実施形態では、検出ラインとしての反射部材を検出する検出部(センサ)が複数(2個)設けられた例を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、単一の検出部(センサ)を用いても、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度θを算出することは可能である。以下に例を挙げて説明する。
【0054】
発明の実施の形態2.
本実施形態においては、移動体10'は単一の検出部(センサ19)を備えるものであり、センサ19から出力される情報のみを用いて移動体の移動方向を算出する。図15は、このような実施形態において移動体10'が位置情報供給領域における反射部材上を通過する様子を示したものである。なお、この例においては、移動体および位置情報供給領域における各構成要素は、前述の実施形態において説明したものとほぼ同様の構成であるため、詳細な説明は省略するものとする。
【0055】
図15に示すように、反射部材の基準ベクタの示す方向についての長さをwとし、このようなセンサ19が反射部材の検出を開始した時刻を第1の時刻t1'とし、その後に反射部材の検出を終了した時刻を第2の時刻t2'とすると、これらの時間差Δt'は、移動体10がこの反射部材上を移動する際に速度変化がなく、直線状に移動するものとすると、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθ'について、以下の式3に示す関係が成立する。
cosθ'=w/v・Δt' ・・・(式3)
【0056】
したがって、この場合、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθ'は、以下の式4で表される。
θ'=acos(w/v・Δt')・・・(式4)
【0057】
このように、反射部材の大きさや移動体の移動速度を、移動体10が反射部材上を移動する際に速度変化がなく、ほぼ直線状に移動するとみなせるように設定することで、単一のセンサを用いるだけで基準ベクタVnに対する移動体の移動する方向を算出することが可能となる。
【0058】
以上、説明したように、このように構成された移動体制御システムによると、移動する領域における任意の場所に位置情報供給領域を設けるだけで、移動体の移動する方向を正確に算出することができるため、算出した方向に基づいて、移動体の推定した移動方向を補正することができる。
【0059】
なお、前述した実施形態は、あくまで本発明に係る実施形態の一部であり、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、位置情報供給領域において配置するタグは、検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて、一列のみ等間隔に配置したものであってもよいし、一列のみ配置したものと、複数列配置したものとを組み合わせてもよい。このようにすると、位置情報供給領域の構成をより簡素化することができるため、より低コストな移動体制御システムを構築することができる。
【0060】
また、これに代えて、図16に示すように、タグを検出ライン(反射部材)の伸びる方向と同一の方向に向けて複数列配置するとともに、これらのタグを検出ラインの伸びる方向に向けて互いに規則的にずらした、いわゆる千鳥状に配置してもよい。特に、移動体に設けられたリーダによりタグを読み取る際に、移動中であっても確実に、少なくとも一つのタグを読み取ることができるように、タグの位置を考慮することが好ましい。
【0061】
また、前述の実施形態において、利用するタグとしてはRFIDタグを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、移動体の読み取り手段によってデータが読み取り可能な無線IDタグであればよい。
【0062】
また、前述の実施形態においては、読み込んだタグのデータから自己位置を算出する手法として、読み込んだ複数のタグの座標から形成される多角形の重心位置を自己位置とする手法を用いているが、本発明はこれに限られるものではなく、読み込んだタグのデータを用いて自己位置を算出する一般的な手法を広く用いることができる。
【0063】
また、前述の実施形態においては、位置情報供給領域上を移動する速度が一定であるものと仮定して、移動する方向を算出しているが、移動速度は必ずしも一定である必要はない。例えば、位置情報供給領域上を移動する速度が一定でない場合は、位置情報供給領域上(反射部材上)を通過する時間において、移動体の速度を積分して得られた値により、移動距離を算出することができるため、この値に基づいて移動方向を算出することが可能となる。
【0064】
また、移動体に設ける検出部の位置は、前述の実施形態においてはいずれも前方に設けていた例を挙げているが、検出部の位置は特にこれに限定されるものではなく、側方や後方に設けてあってもよい。ただし、移動体の移動方向(すなわち、移動体の中心を通り、移動体の進行方向を向いた方向)に対して、対称に配置すると、移動方向を算出する演算が簡単になるため、より好ましい。
【0065】
また、移動体の自己位置や移動方向を推定するための手段としては、車輪の回転数に基づくオドメトリ法に限られるものでなく、たとえば、光源より照射されたレーザ光の反射光を受光し、受光するまでに要した時間に基づいて、レーザ光の反射した物体の位置を検出する、いわゆるTOF(Time of flight)の原理による物体検知(センシング)を行うレーザレンジファインダ、もしくは、照射した超音波の反射を受信し、受信した超音波の強度に基づいて、超音波を照射した領域に存在する物体の大まかな形状および位置をセンシングする超音波センサ、もしくはこれらの組み合わせたものを用いることができる。または、移動体の移動領域が室内である場合は、室内GPSなどを組み込むことにより、移動体の位置および移動方向を推定するようにしてもよい。また、外部環境を光学的に認識するカメラなどを用いて、移動領域内における特定の場所に設けられたランドマークを光学的に認識することで自己位置を推定するようなものを用いることもできる。
【0066】
また、前述の実施形態においては、制御部が移動体に組み込まれた例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、移動体の位置や移動方向を制御するための、移動体とは別体に設けられた基地局などに制御部を組み込むことも可能である。このようにすると、移動体の構成をより簡単にすることができるため、移動体自身のコストを低減させることが可能となる。
【0067】
さらに、このような移動体としては、操作者が搭乗するもののみに限定されず、所定の移動経路に沿って移動するようなAGVなどにも適用することできる。この場合、上述のような簡易な設備により、AGVの移動する位置や方向をより正確に求めることができるため、工場内の設備等に要する費用を低減させることができる。
【0068】
また、前述した実施形態においては、移動体として、車輪を駆動する車輪駆動型の移動体を例に挙げたが、これに限られるものではなく、例えば作成された歩容データに従って移動動作を行う2足歩行型等の脚式移動ロボットなどを制御する場合であっても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1の実施の形態に係る移動体制御システムにおいて、移動領域内を移動体10が移動する状態を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示す移動体10の内部構成を簡易的に表す概略図である。
【図3】図1に示す移動体10の概観構成を簡易的に表す側面概略図である。
【図4】図1に示す移動体10に備えられたセンサの構造を簡易的に表す概略図である。
【図5】図1に示す移動体に含まれる制御部の各構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】移動領域内に設けられた位置情報供給領域を概略的に示す図である。
【図7】位置情報供給領域に配置された各タグの位置情報のデータ構造の一例を示す図である。
【図8】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を通過し、タグを読み取る様子を示す図である。
【図9】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を基準ベクタの示す方向に移動する様子を示す図である。
【図10】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を基準ベクタに対して所定の角度だけ傾斜する方向に移動する様子を示す図である。
【図11】図9に示す例において移動体が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。
【図12】図10に示す例において移動体が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。
【図13】センサ17および18の、所定の値以上の出力が終了した時刻の時間差(Δt')を示すグラフである。
【図14】反射部材Mn'を位置情報供給領域の長辺端部に設けた例を示す図である。
【図15】第2の実施の形態に係る移動体制御システムにおいて、移動体に設けられた単一のセンサを用いて移動体の移動方向を算出する様子を示す図である。
【図16】位置情報供給領域において、タグを配置する他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・移動体制御システム
10,10'・・・自律移動体
10a・・・移動体本体
11・・・車輪
13・・・駆動部(モータ)
14・・・カウンタ
15・・・制御部
15a・・・記憶領域
16・・・リーダ(読み取り手段)
17,18,19・・・センサ(検出部)
R・・・位置情報供給領域
M・・・反射部材(検出ライン)
T・・・タグ
P・・・マップ情報
V・・・基準ベクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面などの移動領域内を移動する移動体の移動を制御するための移動体制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内部や屋外の広場などといった移動領域内において、人間の操作を要することなく、車輪や脚式歩行などの手段によって自律的に移動を行う自律移動体が開発されつつある。
【0003】
このような自律移動体は、移動する平面における特定の領域に関するマップ情報を自律的に作成して記憶し、このマップ情報上において移動経路を自律的に作成し、作成した移動経路に基づいて移動を行う。この際に、現在の自己位置が記憶したマップ情報上のどの位置に相当するかを推定するために、移動した速度や方向などに基づいて、特定の基準点からの相対位置を算出する、いわゆるオドメトリ法による自己位置推定を行うものが知られている。
【0004】
ところで、このようなオドメトリ法による自己位置推定は、例えば移動体が車輪の回転駆動により移動を行うものである場合、車輪が床面上でスリップすることなどの原因によって、自己位置が正しく推定できない場合があるという問題が知られている。そのため、例えば特許文献1に記載のような、移動する床面に絶対位置情報を記憶させたタグ(例えばRFIDタグ)を設置し、移動中にそれらのタグを読み込むことで、推定した自己位置を補正する技術がある。
【0005】
また、前述のようなオドメトリ法による自己位置推定に代えて、複数の光学センサを用いて周囲の環境を観察し、予め記憶した環境情報と観察して得られた環境情報とを比較することで、現在の自己位置および移動方向を推定する技術も知られている(例えば特許文献2)。このような技術においても、推定した自己位置に誤差が生じるため、前述と同様に移動する床面に設置したRFIDタグを読み込むことで、推定した自己位置を補正している。
【0006】
この他にも、RFIDタグや、RFIDタグとオドメトリ法ととを組み合わせることによって移動体の位置および方向を移動体とは別体に設けられた基地局により把握し、移動体に位置情報などを送信する技術も知られている。(例えば特許文献3〜5)
【0007】
【特許文献1】特開2001−209429号公報
【特許文献2】特開2004−250315号公報
【特許文献3】特開2004−21978号公報
【特許文献4】特開2001−183455号公報
【特許文献5】特開2006−105696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、推定した移動体の位置情報を前述のように補正しようとする場合、移動体の推定した自己位置については予め絶対位置が既知のタグを読み込むことで補正することができるが、タグを読み取った時点における移動体の方向を知ることができない。すなわち、移動体の移動する方向を推定しつつ移動を行うような移動体の場合、従来の技術においては、移動体の外部に設けたインフラ設備により、移動体の移動する方向(絶対方向)を検出し、その情報を移動体に送信する、といった手法を用いなければ成らない。このような、外部のインフラ設備を用いた移動体を制御するシステムの場合、移動体の移動範囲が大きくなるにつれて、設備が大掛かりにならざるを得ない。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、簡単な設備により、移動体の自己位置および移動する方向を正確に算出することが可能な移動体制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる移動体制御システムは、固有のIDを有する複数のタグと、所定の方向に伸びる検出ラインとを備える位置情報供給領域と、前記タグのIDを読み取る読み取り手段と、前記検出ラインを検出する検出部とを備え、前記位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、前記複数のタグの各々について、移動領域内の基準点に対する相対的な位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部と、から構成されるとともに、前記制御部が、前記マップ情報から特定されたマップ情報から、読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、前記検出部が前記検出ラインを検出した第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出した第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、前記特定した位置情報と計測した時間差とに基づいて、前記基準点に対する移動体の相対的な位置と方向を算出する算出部と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
このように移動体制御システムを構成することによって、移動領域内に複数のタグと検出ラインとを設けるだけで、移動体の自己位置および移動方向を算出することが可能となる。
【0012】
また、前記検出部は複数設けられていることが好ましく、この場合は、前記時間計測部が、これらの複数の検出部のうち、第1の検出部が前記検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、他の検出部が検出ラインを検出した第2の時刻としてそれらの時間差を計測する。このようにすると、前記位置情報供給領域における検出ラインが単一のものであっても、これらの検出部が検出ラインを検出する時間差を求めることができるため、移動体の移動方向を算出することが可能となる。
【0013】
また、前記位置情報供給領域において、同一の方向に伸びる検出ラインを複数設けた場合は、検出部が第一の検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、第2の検出ラインを検出した時刻を第2の時刻としてそれらの時間差を計測するとよい。このようにすると、前記検出部が単一であっても移動体の移動方向を算出することが可能となる。
【0014】
なお、前述の位置情報供給領域に備えられた複数のタグは、前記検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて等間隔に配置されていることが好ましい。このようにすると、前記位置情報供給領域を移動体が通過した際に求める移動体の位置および移動方向を算出するための演算がシンプルなものとなる。
【0015】
また、前記移動領域内において、位置情報供給領域を複数箇所設けると、移動体がその移動中に移動方向を補正する機会が多く得られるため、より好適である。なお、このような位置情報供給領域は、移動体の移動する機会の多いエリアに設けられることが好ましく、例えば前記移動体が、AGVなどの移動経路が予めある程度定められているような移動体の場合においては、その経路上に位置情報供給領域を設けることで、必ず移動方向の補正を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記位置情報供給領域に設けられた検出ラインは、単一の方向に設置されてもよいが、領域ごとに各々異なる方向に向けて伸びるように設けてもよい。このようにすると、移動体が一定方向に進んでいる場合において、位置情報供給領域内の各々における検出ラインの伸びる方向に対して、移動体の横切る角度が領域毎に異なることになるため、移動する方向をより正確に算出することができる。
【0017】
また、前記タグとしては、読み書き可能なものであってもよいが、読み取り専用のタグであってもよい。読み取り専用のタグを用いると、より安価なコストでこのような移動体制御システムを構成することが可能となるメリットが得られる一方、読み書き可能なタグを用いることで、これらのタグに絶対値情報を直接記憶させることが可能となるため、このような移動体制御システムを構成するための工数を低減することができるというメリットが得られる。
【0018】
また、前記タグとしては、無線によりデータの読み取りができるものであれば特に限定されるものではないが、RFID(Radio Frequency Identification)タグを用いることもできる。RFIDタグを用いることで、タグ内に記憶させたデータを読み取り手段を用いて高速に読み取ることができるため、移動体が移動領域をある程度速い速度で移動しても、移動体の位置や移動方向を算出することが可能となる。
【0019】
また、前記制御部は移動体に対して別体に設けられていてもよいが、移動体の内部に組み込こんでもよい。このようにすると、移動体が自律的に移動する自律型移動体である場合に、移動する方向を自律的に補正することができるため、より位置精度の高い自律移動を行うことが可能となる。
【0020】
また、前記移動体の自己位置を推定する手段としては、移動体とは別に設けられたGPSや基地局などから移動体の自己位置を示す信号を送信するようにしてもよいが、移動体自身にこのような自己位置推定手段が備えられてもよい。このように、移動体に設けられた自己位置推定手段により推定した自己位置を、タグを読み取ったことにより認識した自己位置で補正するようにすることで、移動体が自律的に自己位置を補正することができるため、大掛かりな設備等を用いなくとも移動体の自己位置を精度よく認識させることが可能となる。
【0021】
なお、前述の自己位置推定手段としては、移動体の移動した方向および距離をオドメトリ法により取得することで、自己位置を推定するものを用いると、簡単に自己位置推定を行うことができる。特に、車輪により移動する移動体の場合に、このようなオドメトリ法を用いると、比較的簡単に自己位置推定を行うことができる。
【0022】
このようなオドメトリ法以外の自己位置推定方法については、たとえば、光源より照射されたレーザ光の反射光を受光し、受光するまでに要した時間に基づいて、レーザ光の反射した物体の位置を検出する、いわゆるTOF(Time of flight)の原理による物体検知(センシング)を行うレーザレンジファインダ、もしくは、照射した超音波の反射を受信し、受信した超音波の強度に基づいて、超音波を照射した領域に存在する物体の大まかな形状および位置をセンシングする超音波センサ、もしくはこれらの組み合わせたものを用いることも可能である。また、移動体の移動領域が室内である場合は、室内GPSなどを組み込むことにより、移動体の位置および移動方向を推定するようにしてもよい。また、外部環境を光学的に認識するカメラなどを用いて、移動領域内における特定の場所に設けられたランドマークを光学的に認識することで自己位置を推定するようなものを用いることもできる。
【0023】
また、前記移動体は、特に移動する形態が限定されるものではないが、移動領域が平面上であり、平面上に接触する車輪を駆動することにより移動する車輪型の移動体であってもよい。このような車輪型の移動体のように、移動速度が速い場合において、本発明に係るような移動体の移動方向を補正する場合に特に有効である。
【0024】
また、このような移動体は、人間を搭乗可能な搭乗型移動体であってもよいし、物体等を運搬するようなAGVなどの移動体であってもよい。なお、人間が搭乗可能な搭乗型移動体の場合、この移動体において、搭乗した人間が操作することにより移動領域内における目的地を指定する操作部を備えていてもよい。このような場合、搭乗する人間が目的地を指定し、その目的地に対して経路を自律的に変更するような移動体に対して、本発明を適用することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
以上、説明したように、本発明によると、大掛かりな設備を用いることなく、移動体の移動する方向を正確に算出することが可能な移動体制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
発明の実施の形態1.
以下に、図1から図13を参照しつつ本発明の実施の形態1に係る移動体制御システム1について説明する。この実施の形態において、移動体の移動する領域は平面であり、移動を制御される移動体は、人間を搭乗可能であり、人間の指定する地点を目的地として移動する例を示すものとする。
【0027】
図1は、本発明に係る移動体制御システム1を概略的に示すものであり、移動領域としての平面状の床部F上における移動領域(破線に囲まれた領域)内を、車両型の移動体10が移動する様子を示している。図1においては、床部F上の移動領域内には特に物体が載置されていない状態を示すものとし、移動体10は、搭乗する操作者の指定した地点に向かって、移動領域内を移動することができるものとする。なお、図2は図1に示す移動体10の内部構成を簡略的に示す図であり、図3は移動体10を側方から見た様子を概略的に示す図である。
【0028】
図2に示すように、移動体10は、箱型の移動体本体10aと、1対の対向する車輪11、11と、キャスタ12を備える対向2輪型の移動体であり、これらの車輪11、11、キャスタ12とで移動体本体10aを水平に支持するものである。さらに、移動体本体10aの内部には、車輪11、11をそれぞれ駆動する駆動部(モータ)13、13と、車輪の回転数を検出するためのカウンタ14と、車輪を駆動するための制御信号を作成し、駆動部13、13にその制御信号を送信する制御部15、およびこれらの構成要素に電力を供給するためのバッテリー(図示せず)が備えられている。そして、制御部15内部に備えられた記憶部としてのメモリなどの記憶領域15a(図示せず)には、制御信号に基づいて移動体10の移動速度や移動方向、移動距離などを制御するためのプログラムとともに、移動領域内に設けられた各種情報を示すマップ情報P(図示せず)が記憶されている。
【0029】
また、図3に示すように、移動体本体10aの上面には、移動体を操作する操作者を搭乗するための載置面100aを備えるとともに、移動方向前方に設けられた支柱100bの先端において、操作者が目的地を指定するための操作部としての操作パネル100cが備えられている。この操作パネル100cには、移動する領域の概略が表示されており、その表示中における特定の位置を操作者が指定することで、移動体10の目的地を定めることが可能であるものとする。
【0030】
また、移動体本体10aの底部の略中央部には、床面に向けて後述するタグを読み取るための読み取り手段としてのリーダ16が設けられており、底部前面には、後述する検出ラインを検出する検出部としてのセンサ17,18が設けられている。なお、リーダ16は略円形状のやや広範囲に亘ってタグを読み取るものであり、後述するタグを一度に複数読み取ることができるものであり、複数読み取ったタグの固有IDを制御部15に送信する。また、センサ17、18は、図4に示すように、後述する検出ラインに対して光を照射する光源および検出ラインで反射した光を受光するディテクタを備えるものであり、移動体前面の左右対称となる位置に設置され、検出ラインを検出した際に、検出信号を制御部15に向かって送信する。
【0031】
このように構成された移動体10は、1対の車輪11、11の駆動量をそれぞれ独立に制御することで、直進や曲線移動(旋回)、後退、その場回転(両車輪の中点を中心とした旋回)などの移動動作を行うことができる。
【0032】
また、移動体10は、前記操作パネル100cを操作することで指定された移動領域内の目的地までの移動経路を自律的に作成し、その移動経路に追従するように移動することができる。この現在地から目的地までの経路を作成する手法としては、前述の記憶領域15a内に記憶されたマップ情報Pに含まれる、移動領域の形状や、その内部に含まれる物体(壁などの障害物)などの位置に基づいて演算処理を行い、算出する手法が用いられる。そのような移動経路を作成する例としては、例えば略一定間隔m(例えば10cm)に配置された格子点を結ぶグリッド線を仮想的に描写することで得られるグリッドマップ中における各グリッド単位を用いて現在の位置や目的地を定め、グリッドマップ内において移動経路を作成するといった手法が用いられる。なお、このような移動経路作成方法を用いた場合、前述の間隔mは、移動体10の移動可能な曲率や絶対位置を認識する精度などの条件に応じて、適宜変更可能であるものとし、また、移動体10がスリップしたか否かを判定するための閾値としても用いてもよい。また、この移動領域内において、壁や障害物等の固定物体が存在していることが既知である場合は、それらの物体の位置を予めグリッドマップ上に登録し、マップ情報として記憶領域15aに記憶されているものとする。
【0033】
次に、移動体10に設けられた制御部15について、詳細を説明する。図5は、制御部15において移動体の位置および移動方向を算出するための各構成を概略的に示すブロック図を示している。
【0034】
まず、制御部15は、前述のように、マップ情報Pを記憶する記憶領域15aを備えるとともに、読み取り手段としてのリーダ16から読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部15bと、センサ17,18が検出ラインを検出した時間の差を計測する時間計測部15cと、位置情報特定部15bで特定された位置情報および時間計測部15cで計測された時間差とに基づいて、移動体の位置および移動方向を算出する算出部15dと、カウンタ14で検知された車輪11、11の回転数を積算することで移動体10の移動した速度や距離などの情報を求め、これらの情報から、移動領域内における移動体10の自己位置(オドメトリ位置)および移動する方向を推定する自己位置推定部15eと、を備える。これらの制御部15の各構成により、移動体の位置および移動方向を算出するための詳細な手法については、後述する。
【0035】
次に、移動領域内に設けられた位置情報供給領域について図6を用いて説明する。前述の移動領域内においては、複数箇所において位置情報供給領域R(R1,R2,...)が設けられている。図6においては、説明を簡略化するため、位置情報供給領域Rが2箇所のみ(RnおよびRn+1)設けられた例を示すものとする。
【0036】
図6に示すように、位置情報供給領域Rn,Rn+1は、所定の方向に伸びる板状の反射部材Mn、Mn+1上において、複数のタグが一定の間隔となるように配置される構成を有している。反射部材Mn、Mn+1は、その表面が水平かつ所定の反射率が維持できるような材質で形成されており、前述したセンサ17または18に備えられた光源からの光を反射し、センサ17,18のディテクタによりその反射光を受光することで、移動体10がこれらの反射部材上を通過したことが検出される。すなわち、この実施形態においては、これらの反射部材が本発明でいう検出ラインに相当する。
【0037】
一方、この反射部材上においては、各反射部材の伸びる方向に向けて一定の間隔で2列に並べられたタグTn1,Tn2,...およびTn+11,Tn+12,...が配置されている。これらのタグは一般的に用いられているRFIDタグであり、それぞれ固有のIDを有するとともに、各タグには移動領域内における基準点Oからの相対的な位置を示す座標が記憶され、基準ベクタの方向と併せてマップ情報P内に記憶されている。なお、この位置情報供給領域においては、反射部材の伸びる方向に直交する方向を基準ベクタ(基準ベクタVn,Vn+1)としており、これらの位置情報供給領域の基準ベクタは、図6から明らかなように各々異なる方向となるように設定されている。
【0038】
次に、このような各タグの位置情報がマップ情報Pにおいて記憶されるためのデータ構造の一例を図7に示す。図7から明らかなように、マップ情報Pとしては、各タグが存在する領域(セクション)や、基準ベクタ,各タグの基準点からみた相対的な座標(ここではx−y座標)などといった情報が、タグの固有IDとそれぞれ関連付けられて記憶されている。
【0039】
次に、このように構成された移動体10が、自己位置および移動方向を算出する手法について図8,図9および図10を用いて説明する。図8から図10は、移動体10が前述の位置情報供給領域Rn上を通過する瞬間を示す図であり、図8は反射部材の上を移動体10が通過する様子、図9は反射部材の伸びる方向に直交する方向(すなわち基準ベクタの示す方向)と等しい方向に移動体が移動する様子、図10は基準ベクタに対して所定の角度(θ)だけ傾斜する方向に移動する様子を示している。
【0040】
図8に示すように、移動体10の底部に設けられたリーダ16(読み取り手段)は、略円形状のやや広範囲に亘って反射部材上に配置されたタグを読み取り、これらの読み取ったタグの情報(固有ID)を制御部15に送信する。制御部15においては、位置情報特定部15bにおいて、これらの情報から読み取ったタグの固有IDから各タグの座標情報を求め、これらの座標情報を算出部15に送信する。算出部15では、読み取った固有IDから平面上における多角形を特定し、この多角形の重心位置を所定のプログラムに従って算出する。そして、算出した重心位置を、リーダ16がこれらのタグを読み取った時の移動体10の自己位置とする。
【0041】
次に、移動体10がその移動方向を算出する方法について説明する。
まず、反射部材の伸びる方向に直交する方向(すなわち基準ベクタの示す方向)と等しい方向に移動体が移動する場合は、移動体10のセンサ17,18が位置情報供給領域Rn上に設けられた反射部材Mn(検出ライン)上を通過したことを検出する。このとき、前述の時間計測部15cは、これらのセンサから検出された時刻の時間差を算出する。ここで、移動体10の移動速度をv,センサ17と18の間隔をdとし、センサ17が反射部材Mnを検出した時刻を第1の時刻t1,センサ18が反射部材Mnを検出した時刻を第2の時刻t2とする。また、この反射部材上を移動する際に、移動体10の速度変化は小さく、無視できるものとする。
【0042】
このとき、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度(図10に示す時計回りの方向についての角度)をθとすると、センサ17およびセンサ18が反射部材Mnを検出した時間差Δt=t2−t1に移動体10が進んだ距離はv・(t1−t2)となるので、d、θ、v,t1,t2の間には以下の式1に示す関係が成立する。
tanθ=v・(t2−t1)/d ・・・(式1)
【0043】
したがって、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθは、以下の式2で表される。
θ=atan(v・(t2−t1)/d) ・・・(式2)
【0044】
このような式2に基づいて、算出部15dは移動体10が基準ベクタに対して移動体の移動する方向がなす角度を算出することができる。
【0045】
なお、図11は、図9に示すような場合において、移動体10が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。図11から明らかなように、この場合はセンサ17および18が反射部材を検出した時刻t1,t2はほぼ同時であるため、時間差Δt(=t2−t1)はほぼ0とみなされ、算出部15dでは、移動体10の移動する方向は、反射部材の伸びる方向に直交する方向(基準ベクタの示す方向)に対して平行である(θ=0)と算出される。
【0046】
図12は、図10に示す例の場合において、移動体10が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。この場合においては、Δt(=t2−t1)の値がある程度の大きさを有しているため、移動体の移動方向が基準ベクタの示す方向に対してなす角度が算出される。
【0047】
なお、このような場合、Δt(=t2−t1)の大きさの上限閾値を定め、Δtがこの閾値を超える場合には、角度θを算出せずに、エラーが発生したことを示すエラー信号を送信するようにしてもよい。このようにすると、これらのセンサのうち、一方だけが反射部材を検出し(時刻t1)、その後しばらくして、再び移動体が反射部材上を移動する際に、他方のセンサが反射部材を検出した(時刻t2)ような場合に、異常な角度θを移動体の移動方向として出力することがなくなる。
【0048】
また、移動体の移動方向について、Δtの値が負であると、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθの値は負となる。この場合、得られた角度θは移動体10の移動方向が基準ベクタに対して反時計周りにむけてなす角度として表される。このように、センサ17,18のいずれが先に検出ライン(反射部材)を検出したかに応じて、算出する方向を的確に求めることができる。
【0049】
以上、説明したように、移動体10の自己位置および移動方向を算出することによって、位置情報供給領域を通過した時点における自己位置(絶対位置)と移動方向が正確に得られるため、これらのデータに基づいて、移動体は自己位置および移動方向を補正することができる。
【0050】
なお、前述の実施形態では、検出部として、反射部材に対して光を照射し、その反射光を受光することで反射部材上を移動体が通過したことを検出するセンサを用いているが、本発明はこれに限られるものではない。その他の例としては、たとえば、検出部として磁気センサなどを用いることもできる。この場合、位置情報供給領域において、反射部材に代えて磁気を帯びた帯磁部材を配置することで、この領域を移動体が通過したことを検出することができる。
【0051】
また、前述の例においては、センサ17および18が所定の値以上の検出値を出力した時刻の時間差に基づいて、移動方向を定めるようにしているが、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、図13に示すように、センサ17および18が所定の値以上の出力が終了した時刻の時間差(Δt')に基づいて、基準ベクタの示す方向に対する移動体の移動方向を、前述の例と同様の手法により算出することができる。
【0052】
さらに、前述の例においては、位置情報供給領域をほぼ全面に覆う反射部材を用いた例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、図14に示すように、検出ラインとしての反射部材Mn'を、位置情報供給領域の長辺端部に各々設けるようにしてもよい。このような反射部材の位置及び形状をあらかじめ移動体の記憶領域内に記憶させておくことで、センサ17,18がこの反射部材を通過した時刻と、あらかじめ記憶した反射部材の位置形状とから、移動体の移動方向を算出することができる。このように反射部材を構成すると、位置情報供給領域をより簡素化することができるため、移動体制御システムを構成するための設備がより安価となる。
【0053】
なお、この実施形態では、検出ラインとしての反射部材を検出する検出部(センサ)が複数(2個)設けられた例を示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、単一の検出部(センサ)を用いても、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度θを算出することは可能である。以下に例を挙げて説明する。
【0054】
発明の実施の形態2.
本実施形態においては、移動体10'は単一の検出部(センサ19)を備えるものであり、センサ19から出力される情報のみを用いて移動体の移動方向を算出する。図15は、このような実施形態において移動体10'が位置情報供給領域における反射部材上を通過する様子を示したものである。なお、この例においては、移動体および位置情報供給領域における各構成要素は、前述の実施形態において説明したものとほぼ同様の構成であるため、詳細な説明は省略するものとする。
【0055】
図15に示すように、反射部材の基準ベクタの示す方向についての長さをwとし、このようなセンサ19が反射部材の検出を開始した時刻を第1の時刻t1'とし、その後に反射部材の検出を終了した時刻を第2の時刻t2'とすると、これらの時間差Δt'は、移動体10がこの反射部材上を移動する際に速度変化がなく、直線状に移動するものとすると、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθ'について、以下の式3に示す関係が成立する。
cosθ'=w/v・Δt' ・・・(式3)
【0056】
したがって、この場合、基準ベクタVnに対して移動体の移動する方向がなす角度をθ'は、以下の式4で表される。
θ'=acos(w/v・Δt')・・・(式4)
【0057】
このように、反射部材の大きさや移動体の移動速度を、移動体10が反射部材上を移動する際に速度変化がなく、ほぼ直線状に移動するとみなせるように設定することで、単一のセンサを用いるだけで基準ベクタVnに対する移動体の移動する方向を算出することが可能となる。
【0058】
以上、説明したように、このように構成された移動体制御システムによると、移動する領域における任意の場所に位置情報供給領域を設けるだけで、移動体の移動する方向を正確に算出することができるため、算出した方向に基づいて、移動体の推定した移動方向を補正することができる。
【0059】
なお、前述した実施形態は、あくまで本発明に係る実施形態の一部であり、本発明はこれに限られるものではない。たとえば、位置情報供給領域において配置するタグは、検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて、一列のみ等間隔に配置したものであってもよいし、一列のみ配置したものと、複数列配置したものとを組み合わせてもよい。このようにすると、位置情報供給領域の構成をより簡素化することができるため、より低コストな移動体制御システムを構築することができる。
【0060】
また、これに代えて、図16に示すように、タグを検出ライン(反射部材)の伸びる方向と同一の方向に向けて複数列配置するとともに、これらのタグを検出ラインの伸びる方向に向けて互いに規則的にずらした、いわゆる千鳥状に配置してもよい。特に、移動体に設けられたリーダによりタグを読み取る際に、移動中であっても確実に、少なくとも一つのタグを読み取ることができるように、タグの位置を考慮することが好ましい。
【0061】
また、前述の実施形態において、利用するタグとしてはRFIDタグを例に挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、移動体の読み取り手段によってデータが読み取り可能な無線IDタグであればよい。
【0062】
また、前述の実施形態においては、読み込んだタグのデータから自己位置を算出する手法として、読み込んだ複数のタグの座標から形成される多角形の重心位置を自己位置とする手法を用いているが、本発明はこれに限られるものではなく、読み込んだタグのデータを用いて自己位置を算出する一般的な手法を広く用いることができる。
【0063】
また、前述の実施形態においては、位置情報供給領域上を移動する速度が一定であるものと仮定して、移動する方向を算出しているが、移動速度は必ずしも一定である必要はない。例えば、位置情報供給領域上を移動する速度が一定でない場合は、位置情報供給領域上(反射部材上)を通過する時間において、移動体の速度を積分して得られた値により、移動距離を算出することができるため、この値に基づいて移動方向を算出することが可能となる。
【0064】
また、移動体に設ける検出部の位置は、前述の実施形態においてはいずれも前方に設けていた例を挙げているが、検出部の位置は特にこれに限定されるものではなく、側方や後方に設けてあってもよい。ただし、移動体の移動方向(すなわち、移動体の中心を通り、移動体の進行方向を向いた方向)に対して、対称に配置すると、移動方向を算出する演算が簡単になるため、より好ましい。
【0065】
また、移動体の自己位置や移動方向を推定するための手段としては、車輪の回転数に基づくオドメトリ法に限られるものでなく、たとえば、光源より照射されたレーザ光の反射光を受光し、受光するまでに要した時間に基づいて、レーザ光の反射した物体の位置を検出する、いわゆるTOF(Time of flight)の原理による物体検知(センシング)を行うレーザレンジファインダ、もしくは、照射した超音波の反射を受信し、受信した超音波の強度に基づいて、超音波を照射した領域に存在する物体の大まかな形状および位置をセンシングする超音波センサ、もしくはこれらの組み合わせたものを用いることができる。または、移動体の移動領域が室内である場合は、室内GPSなどを組み込むことにより、移動体の位置および移動方向を推定するようにしてもよい。また、外部環境を光学的に認識するカメラなどを用いて、移動領域内における特定の場所に設けられたランドマークを光学的に認識することで自己位置を推定するようなものを用いることもできる。
【0066】
また、前述の実施形態においては、制御部が移動体に組み込まれた例を挙げて説明しているが、本発明はこれに限られるものではなく、移動体の位置や移動方向を制御するための、移動体とは別体に設けられた基地局などに制御部を組み込むことも可能である。このようにすると、移動体の構成をより簡単にすることができるため、移動体自身のコストを低減させることが可能となる。
【0067】
さらに、このような移動体としては、操作者が搭乗するもののみに限定されず、所定の移動経路に沿って移動するようなAGVなどにも適用することできる。この場合、上述のような簡易な設備により、AGVの移動する位置や方向をより正確に求めることができるため、工場内の設備等に要する費用を低減させることができる。
【0068】
また、前述した実施形態においては、移動体として、車輪を駆動する車輪駆動型の移動体を例に挙げたが、これに限られるものではなく、例えば作成された歩容データに従って移動動作を行う2足歩行型等の脚式移動ロボットなどを制御する場合であっても、本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】第1の実施の形態に係る移動体制御システムにおいて、移動領域内を移動体10が移動する状態を概略的に示す概略図である。
【図2】図1に示す移動体10の内部構成を簡易的に表す概略図である。
【図3】図1に示す移動体10の概観構成を簡易的に表す側面概略図である。
【図4】図1に示す移動体10に備えられたセンサの構造を簡易的に表す概略図である。
【図5】図1に示す移動体に含まれる制御部の各構成を概略的に示すブロック図である。
【図6】移動領域内に設けられた位置情報供給領域を概略的に示す図である。
【図7】位置情報供給領域に配置された各タグの位置情報のデータ構造の一例を示す図である。
【図8】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を通過し、タグを読み取る様子を示す図である。
【図9】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を基準ベクタの示す方向に移動する様子を示す図である。
【図10】図1に示す移動体が、位置情報供給領域の反射部材の上を基準ベクタに対して所定の角度だけ傾斜する方向に移動する様子を示す図である。
【図11】図9に示す例において移動体が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。
【図12】図10に示す例において移動体が反射部材を検出する時刻と検出した信号の強度の関係を示すグラフである。
【図13】センサ17および18の、所定の値以上の出力が終了した時刻の時間差(Δt')を示すグラフである。
【図14】反射部材Mn'を位置情報供給領域の長辺端部に設けた例を示す図である。
【図15】第2の実施の形態に係る移動体制御システムにおいて、移動体に設けられた単一のセンサを用いて移動体の移動方向を算出する様子を示す図である。
【図16】位置情報供給領域において、タグを配置する他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1・・・移動体制御システム
10,10'・・・自律移動体
10a・・・移動体本体
11・・・車輪
13・・・駆動部(モータ)
14・・・カウンタ
15・・・制御部
15a・・・記憶領域
16・・・リーダ(読み取り手段)
17,18,19・・・センサ(検出部)
R・・・位置情報供給領域
M・・・反射部材(検出ライン)
T・・・タグ
P・・・マップ情報
V・・・基準ベクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有のIDを有する複数のタグと、所定の方向に伸びる検出ラインとを備える位置情報供給領域と、
前記タグのIDを読み取る読み取り手段と、前記検出ラインを検出する検出部とを備え、前記位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、
前記複数のタグの各々について、移動領域内の基準点に対する相対的な位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部と、から構成される移動体制御システムであって、
前記制御部が、前記マップ情報から特定されたマップ情報から、読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、
前記検出部が前記検出ラインを検出する第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出する第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、
前記特定した位置情報と、計測した時間差とに基づいて、前記基準点に対する移動体の相対的な位置と方向を算出する算出部と、を備えていることを特徴とする移動体制御システム。
【請求項2】
前記検出部が複数設けられており、前記時間計測部が、これらの複数の検出部のうち、第1の検出部が前記検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、他の検出部が検出ラインを検出した第2の時刻としてそれらの時間差を計測することを特徴とする請求項1に記載の移動体制御システム。
【請求項3】
前記位置情報供給領域において、同一の方向に伸びる検出ラインが複数設けられており、前記検出部が第一の検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、第2の検出ラインを検出した時刻を第2の時刻としてそれらの時間差を計測することを特徴とする請求項1に記載の移動体制御システム。
【請求項4】
前記位置情報供給領域に備えられた複数のタグが、前記検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項5】
前記位置情報供給領域が、移動領域内において複数箇所設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項6】
前記位置情報供給領域に設けられた検出ラインが、その領域ごとに各々異なる方向に向けて伸びるように設けられていることを特徴とする請求項5に記載の移動体制御システム。
【請求項7】
前記タグが、読み取り専用のタグであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項8】
前記タグが、RFIDタグであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項9】
前記制御部が、移動体の内部に組み込まれていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項10】
前記移動体が、自己位置推定手段を備え、該自己位置推定手段で推定した自己位置を、前記認識した自己位置で補正することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項11】
前記自己位置推定手段が、移動体の移動した方向および距離をオドメトリ法により取得することで、自己位置を推定するものであることを特徴とする請求項10に記載の移動体制御システム。
【請求項12】
前記移動体が平面上を移動するものであり、平面上に接触する車輪を駆動することにより移動する車輪型の移動体であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項13】
前記移動体が、人間を搭乗可能な搭乗型移動体であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項14】
前記移動体が、搭乗した人間が操作することにより移動領域内における目的地を指定する操作部を備えていることを特徴とする請求項13に記載の移動体制御システム。
【請求項1】
固有のIDを有する複数のタグと、所定の方向に伸びる検出ラインとを備える位置情報供給領域と、
前記タグのIDを読み取る読み取り手段と、前記検出ラインを検出する検出部とを備え、前記位置情報供給領域を含む移動領域を移動する移動体と、
前記複数のタグの各々について、移動領域内の基準点に対する相対的な位置座標を登録したマップ情報を記憶する制御部と、から構成される移動体制御システムであって、
前記制御部が、前記マップ情報から特定されたマップ情報から、読み取ったタグの位置情報を特定する位置情報特定部と、
前記検出部が前記検出ラインを検出する第1の時刻と、第1の時刻の後に検出ラインを検出する第2の時刻との時間差を計測する時間計測部と、
前記特定した位置情報と、計測した時間差とに基づいて、前記基準点に対する移動体の相対的な位置と方向を算出する算出部と、を備えていることを特徴とする移動体制御システム。
【請求項2】
前記検出部が複数設けられており、前記時間計測部が、これらの複数の検出部のうち、第1の検出部が前記検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、他の検出部が検出ラインを検出した第2の時刻としてそれらの時間差を計測することを特徴とする請求項1に記載の移動体制御システム。
【請求項3】
前記位置情報供給領域において、同一の方向に伸びる検出ラインが複数設けられており、前記検出部が第一の検出ラインを検出した時刻を第1の時刻とし、第2の検出ラインを検出した時刻を第2の時刻としてそれらの時間差を計測することを特徴とする請求項1に記載の移動体制御システム。
【請求項4】
前記位置情報供給領域に備えられた複数のタグが、前記検出ラインの伸びる方向と同一の方向に向けて等間隔に配置されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項5】
前記位置情報供給領域が、移動領域内において複数箇所設けられていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項6】
前記位置情報供給領域に設けられた検出ラインが、その領域ごとに各々異なる方向に向けて伸びるように設けられていることを特徴とする請求項5に記載の移動体制御システム。
【請求項7】
前記タグが、読み取り専用のタグであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項8】
前記タグが、RFIDタグであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項9】
前記制御部が、移動体の内部に組み込まれていることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項10】
前記移動体が、自己位置推定手段を備え、該自己位置推定手段で推定した自己位置を、前記認識した自己位置で補正することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項11】
前記自己位置推定手段が、移動体の移動した方向および距離をオドメトリ法により取得することで、自己位置を推定するものであることを特徴とする請求項10に記載の移動体制御システム。
【請求項12】
前記移動体が平面上を移動するものであり、平面上に接触する車輪を駆動することにより移動する車輪型の移動体であることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項13】
前記移動体が、人間を搭乗可能な搭乗型移動体であることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の移動体制御システム。
【請求項14】
前記移動体が、搭乗した人間が操作することにより移動領域内における目的地を指定する操作部を備えていることを特徴とする請求項13に記載の移動体制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−237851(P2009−237851A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82478(P2008−82478)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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