説明

移動局および位置導出方法

【課題】 電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度に移動局の位置を推定することを目的とする。
【解決手段】
本発明の複数の基地局120と無線通信が可能な移動局は、複数の基地局と無線通信を行う無線通信部222と、複数の基地局の絶対位置情報を取得する位置情報取得部250と、複数の基地局に電波を送受信した際の伝搬遅延時間を計測する遅延計算部252と、伝搬遅延時間に基づいて複数の基地局それぞれとの距離を計算する距離計算部254と、複数の基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、当該移動局の絶対位置を特定する位置特定部258と、を備えることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の基地局と無線通信が可能な移動局にかかり、さらに詳細には、基地局と送受信される電波の伝搬遅延を用いて移動局の絶対位置を導出する移動局および位置導出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やPHS(Personal Handy phone System)等に代表される移動局が普及し、場所や時間を問わず通話や情報入手が可能となった。このような移動局は、所定間隔をおいて配される基地局と無線通信を行うことで通信網との接続を行う。そして、基地局は、通信相手の通信可能範囲にある基地局と通信を行い移動局同士の音声通信を確立する。
【0003】
一方、上述した移動局では、自局の絶対位置を通じて、現在居るところの地図上の位置を表示したり、近くの食事処を検索したりするサービスが供給されている。かかるサービスを受けるためには自局の絶対位置を特定することが条件となるが、上述したような固定的に配される基地局と異なり、移動局は自局の絶対位置を独立して把握する術を有していない。
【0004】
例えば、移動局の位置を特定する手段として、GPS(Global Positioning System)を利用する方法が考えられる。かかるGPSでは、少なくとも3つの衛星からの電波を捕捉し、各衛星との距離を計算して自己の絶対位置を把握することができる。このとき、3つの衛星を捕捉できれば自局の平面上の位置を、4つの衛星を捕捉できればさらに高度を取得することができる。しかし、GPSは比較的高価なシステムであり、計算に時間を要する。また、衛星の電波を受信困難な状況では利用できないといった課題もある。
【0005】
また、各基地局から受信する電波の電界強度とその基地局の位置とを合わせ、三点交差法(三点測位法)用いて絶対位置を計算する技術が知られている(例えば、特許文献1)。さらに、各基地局から受信する電波の電界強度とその基地局の識別符号とを位置管理局に送信し、位置管理局に自局の現在位置を計算させる技術も公開されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開平2−044929号公報
【特許文献2】特開平9−247737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した移動局の絶対位置推定技術は、基地局との距離に応じて受信された電波の電界強度が変化する(減衰する)特性を利用しており、電界強度と距離との関係式を参照して基地局と移動局との距離を導き出している。
【0007】
しかし、建物が密集している環境下においては、マルチパスフェージングやシャドウウイングによって電界強度が増幅または減衰し、本来の電界強度から大きくずれてしまうことがある。従って、電界強度から一意に導出される基地局との距離も、実際の距離から長短いずれにも変動してしまい、移動局の位置特定精度が極端に低下してしまう。
【0008】
また、基地局の設置密度が低い地域や、建物が密集している地域では、受信電波の強度が相対的に低く、電界強度の変動に対する距離の変化量も大きくなり、距離推定精度を高めることができないといった問題も生じていた。
【0009】
本発明は、このような従来の位置特定技術の問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度に移動局の位置を推定することが可能な、移動局および位置導出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、複数の基地局と無線通信が可能な移動局であって、複数の基地局と無線通信を行う無線通信部と、複数の基地局の絶対位置情報を取得する位置情報取得部と、複数の基地局に電波を送受信した際の伝搬遅延時間を計測する遅延計算部と、伝搬遅延時間に基づいて複数の基地局それぞれとの距離を計算する距離計算部と、複数の基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、当該移動局の絶対位置を特定する位置特定部と、を備えることを特徴とする、移動局が提供される。
【0011】
本発明では、少なくとも3つの基地局の絶対位置と、その基地局からの距離とを用いて、三点交差法(三点測位法)により移動局の絶対位置を把握する。また、基地局からの距離は電波の伝搬遅延を用いて計算される。かかる距離を導出する際、従来の電界強度が、マルチパスフェージングや外乱の影響を受け易いのに対して、伝搬遅延は電波が往復路を経由する時間を計測しているため影響を受け難い。
【0012】
また、電波の回り込みによって伝搬遅延がさらに大きくなることはあっても、早くなることがないため、その本来の伝搬遅延時間を容易に推定することが可能となる。従って、電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度に移動局の位置を推定することができる。
【0013】
複数の基地局との距離の信頼性を判断する信頼性判断部をさらに備え、位置特定部は、信頼性判断部の判断結果に応じて、基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離の参照に重み付けを行ってもよい。
【0014】
上記信頼性判断部は、計算された複数の基地局との距離に信頼性に基づく優先順位を決め、信頼性の高い距離を優先的に参照させる。従って、位置特定部が、その信頼性に基づく重み付けを通じて各基地局との距離を参照するため、移動局の絶対位置は、信頼性の低い距離の影響が小さく、信頼性の高い距離の影響が大きくなる。かかる構成により、信頼性の高い距離を用いた三点交差法が実施可能となり、より高精度に移動局の絶対位置を特定することができる。
【0015】
信頼性判断部は、基地局との距離に応じて信頼性を判断し、距離計算部が計算した距離が長いほど信頼性が高いとしてもよい。
【0016】
本発明では電界強度の代わりに伝搬遅延を用いているが、伝搬遅延であっても電波の回り込みによる変動は生じてしまう。しかし、基地局との距離に対する伝搬遅延の変動量の比率は距離が長いほど小さくなるという特性を有している。従って、推定距離が遠いものを優先的に利用することで、より高精度に移動局の絶対位置を特定することが可能となる。
【0017】
信頼性判断部は、距離計算部が複数回計算した距離の分散に応じて信頼性を判断し、分散が小さいほど信頼性が高いとしてもよい。
【0018】
建物が密集している地域では、複数の建物を通じてマルチパスフェージングが生じ、伝搬経路の分散が大きくなる。従って、分散が大きい場合は、移動局と基地局との伝搬経路が多いと見なして優先順位を下げ、分散が小さい場合は、直接伝搬している電波が多い、即ち本来の伝搬遅延が計測されているとみなして優先順位を上げる。こうして、より高精度に移動局の絶対位置を特定することが可能となる。
【0019】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、複数の基地局と無線通信が可能な移動局の絶対位置を導出する位置導出方法であって、複数の基地局の絶対位置情報を取得する位置情報取得ステップと、複数の基地局に電波を送受信した際の伝搬遅延時間を計測する遅延計算ステップと、伝搬遅延時間に基づいて複数の基地局それぞれとの距離を計算する距離計算ステップと、複数の基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、当該移動局の絶対位置を特定する位置特定ステップと、を含むことを特徴とする、位置導出方法が提供される。
【0020】
上述した移動局における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該位置導出方法にも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明の移動局では、電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度に移動局の位置を推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0023】
移動局では、自局の近くにある複数の基地局のうち、無線通信を実行するのに最適な基地局を選択するため、基地局が発する制御信号の電界強度を計測して、電界強度が最大となる基地局を通信先として選択している。かかる電界強度の計測機構を利用すると、基地局との距離を推測することができる。しかし、電界強度を用いる距離推定では、その環境によって測定精度が大幅に低下する。このような精度の低い位置情報を用いると、サービス事業者が提供するサービスを十分に受けることができない。
【0024】
本実施形態では、電界強度の代わりに伝搬遅延を用いて、移動局の絶対位置を推定する。以下の実施形態では、理解を容易にするため、まず、無線通信システム全体の構成を説明し、その後で移動局の構成を詳述する。また、本実施形態の移動局として、上述した携帯電話やPHSの他に、ノート型パーソナルコンピュータ、PDA(Personal Digital Assistant)等の様々な電子機器を適用可能であるが、ここではPHS端末を例に挙げて説明する。
【0025】
(無線通信システム100)
図1は、無線通信システム100を説明するためのシステムブロック図である。かかる無線通信システム100は、ユーザが所有するPHS端末110と、基地局120と、インターネット等のIP通信網130と、接続選択サーバ140とを含んで構成される。
【0026】
上記無線通信システム100においては、ユーザが自己のPHS端末110から他のPHS端末150への通話回線接続を試みた場合、ユーザのPHS端末110の操作に応じて、無線通信可能領域にある基地局120との無線通信が確立され、基地局120は、図1中(1)に示すように、IP通信網130を介して接続選択サーバ140に他のPHS端末150との通信接続を要求する。
【0027】
そして、接続選択サーバ140は、図1中(2)に示すように、他のPHS端末150の無線通信可能領域にある基地局120を選定して、通信相手の有する他のPHS端末150との音声通話を設定する。
【0028】
そして、音声通話に必要な基地局120の設定が完了すると、接続選択サーバ140は、その音声通話処理を基地局間に渡し、図1中(3)に示すように、ユーザ側および通信相手側の基地局120同士が主体となって音声信号の送受を直接行う。このとき、接続選択サーバ140は、各PHS端末110、150の通信環境の変化、例えば、PHS端末110の移動に応じて適切な基地局120を割り当てるための待機状態に移行する。
【0029】
(PHS端末110)
以下、無線通信システム100におけるPHS端末110の構成を説明する。
【0030】
図2は、PHS端末110のハードウェア構成を示した機能ブロック図であり、図3は、PHS端末110の外観を示した斜視図である。PHS端末110は、端末制御部210と、端末メモリ212と、表示部214と、操作部216と、音声入力部218と、音声出力部220と、無線通信部222とを含んで構成される。
【0031】
上記端末制御部210は、中央処理装置(CPU)を含む半導体集積回路によりPHS端末110全体を管理および制御する。端末制御部210は、端末メモリ212のプログラムを用いて、PHS端末110を利用した通話機能やメール配信機能も当然にして遂行する。また、後述する、位置情報取得部250、遅延計算部252、距離計算部254、信頼性判断部256、位置特定部258としても機能する。
【0032】
上記端末メモリ212は、ROM、RAM、EEPROM、不揮発性RAM、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成され、端末制御部210で処理されるプログラムや音声データ等を記憶する。
【0033】
上記表示部214は、液晶ディスプレイ、EL(Electro Luminescence)、PDP(Plasma Display Panel)等で構成され、端末メモリ212に記憶された、またはIP通信網130を介してアプリケーション中継サーバ(図示せず)から提供される、WebブラウザやアプリケーションのGUI(Graphical User Interface)を表示することができる。
【0034】
上記操作部216は、キーボード、十字キー、ジョイスティック等のスイッチから構成され、ユーザの操作入力を受け付ける。
【0035】
上記音声入力部218は、マイク等の音声認識装置で構成され、通話時に入力されたユーザの音声をPHS端末110内で処理可能な電気信号に変換する。
【0036】
上記音声出力部220は、スピーカで構成され、PHS端末110で受信した通話相手の音声信号を音声に変えて出力する。また、着信音や、操作部216の操作音、アラーム音等も出力できる。
【0037】
上記無線通信部222は、携帯電話網における基地局120と無線通信を行う。かかる無線通信としては、基地局120内でフレームを時分割した複数のタイムスロットをそれぞれPHS端末110のチャネルに割り当てて通信を行う時分割多重方式等がある。
【0038】
次に、図2および図3で説明したハードウェアを用いて遂行される機能および動作について詳述する。
【0039】
上記位置情報取得部250は、無線通信部222を介して、複数の基地局120に絶対位置の取得要求を行い、各基地局120に予め記憶された絶対位置情報を取得、端末メモリ212に格納する。
【0040】
上記遅延計算部252は、無線通信部222を介して、複数の基地局120それぞれに伝搬遅延測定のための信号を送信し、その信号に対する複数の基地局120からの返信を受信して、その往復路による伝搬遅延時間(0〜20μsec程度)を計測する。かかる伝搬遅延測定は、上述した位置情報取得部250による絶対位置情報の取得信号を用いて同時に行われてもよいし、独立した信号で行われてもよい。
【0041】
上記距離計算部254は、遅延計算部252で計測された伝搬遅延時間に基づいて複数の基地局120それぞれとの距離を計算する。基本的に伝搬遅延時間と距離とは比例関係にあり、伝搬遅延時間に所定計数(例えば300m/μsec)を乗ずることで各基地局120との距離が求まる。しかし、建物が密集している領域では、伝搬遅延時間もマルチパスフェージング等によって一意には定まらない場合もある。かかる場合には、遅延計算部252による伝搬遅延時間の計測を複数回実行し、距離計算部254は、その複数の伝搬遅延時間を統計的に処理し、確実性の高い伝搬遅延時間を抽出して距離を求めてもよい。
【0042】
かかる距離を導出する際、従来の電界強度が、アナログ量を検出するのでマルチパスフェージングや外乱の影響を受け易いのに対して、伝搬遅延は電波の時間を計測しているため影響を受け難い。従って、電界強度に比べて高精度に距離を導出することができる。
【0043】
また、電波の回り込みによって伝搬遅延がさらに大きくなることはあっても、早くなることがないため、その本来の伝搬遅延時間を容易に推定することが可能となる。従って、電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度にPHS端末110の位置を推定することができる。
【0044】
上記信頼性判断部256は、複数の基地局120との距離の信頼性を判断する。本実施形態では、距離計測対象となる基地局120の数が多ければ多いほど、位置特定精度が高くなる。しかし、マルチパスフェージング等により伝搬遅延時間の変動量が多くなった基地局120に関しては、その距離も信頼性に欠ける。従って、信頼性判断部256は、距離計算部254が計算した複数の距離に信頼性に基づく優先順位を決め、後述する位置特定部258に信頼性の高い距離を優先的に参照させる。
【0045】
上記位置特定部258は、複数の基地局120それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、PHS端末110自体の絶対位置を特定する。
【0046】
図4は、位置特定部258によるPHS端末110の位置特定を説明するための説明図である。本実施形態では、少なくとも3つの基地局120の絶対位置と、その基地局120からの距離とを用いて、三点交差法によりPHS端末の絶対位置を把握する。例えば、図4において、距離計算部254が計算した基地局120A、120B、120Cとの距離がそれぞれa、b、cと推定された場合、位置情報取得部250が取得した各基地局120A、120B、120Cそれぞれの絶対位置から距離を半径とする円を描いたときのその交点が、PHS端末110の現在の絶対位置となる。
【0047】
また、位置特定部258は、信頼性判断部256の判断結果に応じて、基地局120それぞれに関する絶対位置情報および距離の参照に重み付けを行う。
【0048】
上述したように信頼性判断部256は、計算された複数の基地局120との距離に信頼性に基づく優先順位を定める。ここで、位置特定部258が、その信頼性に基づく重み付けを通じて各基地局120との距離を参照、具体的に、信頼性の高い距離に関しては、100%の重み付けで三点交差法に反映し、信頼性の低い距離は、50%以下の重み付けで反映、もしくは全く反映しないとすると、PHS端末110の絶対位置は、信頼性の低い距離の影響が小さく、信頼性の高い距離の影響が大きくなる。かかる構成により、信頼性の高い距離を用いた三点交差法が実施可能となり、より高精度にPHS端末110の絶対位置を特定することができる。
【0049】
ここで、信頼性判断部256は、基地局との距離に応じて信頼性を判断することができる。この場合、距離計算部254が計算した距離が長いほど信頼性が高いこととなる。
【0050】
図5は、距離の違いによる信頼性の違いを説明するための説明図である。図5(a)は、PHS端末110と基地局120との距離が短い場合、図5(b)は、距離が長い場合を示している。
【0051】
本実施形態では電界強度の代わりに伝搬遅延を用いているが、伝搬遅延であっても電波の回り込みによる変動は生じてしまう。しかし、図5(a)に示すように、基地局120との距離が短い場合には、距離(真の伝搬遅延時間t)に対する変動量(t―t)の比率は大きいが、基地局120との距離が長い場合には、図5(b)のように、距離(真の伝搬遅延時間t)に対す伝搬遅延時間の変動量(t―t)の比率は小さくなる。従って、基地局120との距離が長ければ長いほど距離に対する変動比率が小さくなる。従って、推定距離が遠いものを優先的に利用することで、より高精度にPHS端末110の絶対位置を特定することが可能となる。
【0052】
信頼性判断部256は、距離計算部254が複数回計算した距離の分散に応じて信頼性を判断し、分散が小さいほど信頼性が高いとする。ここで、分散は、距離の散らばりぐあいを表し、平均値と各値との差を2乗して算術平均したもので数値化してもよい。
【0053】
図6は、分散の違いによる信頼性の違いを説明するための説明図である。図6(a)は、PHS端末110と基地局120との距離の分散が大きい場合、図6(b)は、距離の分散が小さい場合を示している。
【0054】
建物が密集している地域では、複数の建物を通じてマルチパスフェージングが生じ、伝搬経路の分散が大きくなる。従って、図6(a)に示すように、分散が大きい場合は、PHS端末110と基地局120との伝搬経路が多いと見なして優先順位を下げ、図6(b)に示すように、分散が小さい場合は、直接伝搬している電波が多い、即ち本来の伝搬遅延が計測されているとみなして優先順位を上げる。こうして、より高精度にPHS端末110の絶対位置を特定することが可能となる。
【0055】
(位置導出方法)
次に、上述した移動局としてのPHS端末110を用いて、PHS端末110自体の現在の絶対位置を導出する位置導出方法について説明する。
【0056】
図7は、位置導出方法の処理の流れを示したフローチャートである。まず、PHS端末110は、周辺にある基地局120を検索し、各基地局120識別符号および電界強度リストを作成する(S300)。そして、電界強度リスト中で電界強度が最も強い基地局120に対し、制御チャネル上で距離測定用の専用メッセージを送信する(S302)。
【0057】
基地局120は、PHS端末110からの専用メッセージを受信すると、自局の絶対位置情報(例えば、経度および緯度)を付加してPHS端末110に返信する(S304)。PHS端末110は、かかる基地局120からの絶対位置情報を取得して(S306:位置情報取得ステップ)、端末メモリ212に記憶する(S308)。
【0058】
PHS端末110は、絶対位置情報の取得と並行して、返信された電波の伝搬遅延時間を計測し(S310:遅延計算ステップ)、電波の伝搬速度と伝搬遅延時間に基づいて基地局120との距離を計算する(S312:距離計算ステップ)。そして、PHS端末110は、基地局120の絶対位置および基地局120との距離の組合せに関して、自局の絶対位置を推定するのに十分な数(所定数)を取得したかどうか判断し(S314)、不足していれば、次に電界強度が強い基地局120に対象を移し(S316)、専用メッセージの送信から繰り返す。
【0059】
十分な数の絶対位置情報および距離を取得すると、PHS端末110は、各基地局120から取得した絶対位置情報および距離の信頼性を、その距離または分散に基づいて判断し、重み付けを行う(S318)。そして、各基地局120から取得した絶対位置情報および距離に基づき、三点交差法に従って自局の絶対位置を特定する(S320:位置特定ステップ)。
【0060】
ここでは、各基地局120の距離を導出した後に、その距離や分散に基づいて信頼性を判断しているが、かかる場合に限られず、当該位置導出方法開始時の電界強度を用いて、信頼性が高いであろう遠距離にある基地局120を予め絞っておき、絞られた基地局120の絶対位置情報および距離のみを三点交差法に用いてもよい。
【0061】
かかる位置導出方法においても、電界強度の強弱に拘わらず、迅速かつ高精度にPHS端末110の位置を推定することが可能となる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0063】
上述した実施形態では、三点交差法による位置特定計算を自局のPHS端末110内で実行しているが、かかる場合に限られず、複数の基地局120の絶対位置情報および距離を一旦接続選択サーバ140等に送信して、接続選択サーバ140等において位置特定計算が為されるとしてもよい。
【0064】
また、本実施形態においては、PHS端末110と基地局120との往復路による伝搬遅延時間を測定しているが、PHS端末110や基地局120が絶対時間を把握している場合、往路または復路のみによって伝搬遅延時間を取得することも可能である。
【0065】
なお、本明細書の位置導出方法における各工程は、必ずしもフローチャートとして記載された順序に沿って時系列に処理する必要はなく、並列的あるいは個別に実行される処理(例えば、並列処理あるいはオブジェクトによる処理)も含むとしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、複数の基地局と無線通信が可能な移動局にかかり、さらに詳細には、基地局と送受信される電波の伝搬遅延を用いて移動局の絶対位置を導出する移動局および位置導出方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】無線通信システムを説明するためのシステムブロック図である。
【図2】PHS端末のハードウェア構成を示した機能ブロック図である。
【図3】PHS端末の外観を示した斜視図である。
【図4】位置特定部によるPHS端末の位置特定を説明するための説明図である。
【図5】距離の違いによる信頼性の違いを説明するための説明図である。
【図6】分散の違いによる信頼性の違いを説明するための説明図である。
【図7】位置導出方法の処理の流れを示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0068】
110 …PHS端末
120 …基地局
250 …位置情報取得部
252 …遅延計算部
254 …距離計算部
256 …信頼性判断部
258 …位置特定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局と無線通信が可能な移動局であって、
前記複数の基地局と無線通信を行う無線通信部と、
前記複数の基地局の絶対位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記複数の基地局に電波を送受信した際の伝搬遅延時間を計測する遅延計算部と、
前記伝搬遅延時間に基づいて前記複数の基地局それぞれとの距離を計算する距離計算部と、
前記複数の基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、当該移動局の絶対位置を特定する位置特定部と、
を備えることを特徴とする、移動局。
【請求項2】
前記複数の基地局との距離の信頼性を判断する信頼性判断部をさらに備え、
前記位置特定部は、前記信頼性判断部の判断結果に応じて、前記基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離の参照に重み付けを行うことを特徴とする、請求項1に記載の移動局。
【請求項3】
前記信頼性判断部は、前記基地局との距離に応じて信頼性を判断し、前記距離計算部が計算した距離が長いほど信頼性が高いことを特徴とする、請求項2に記載の移動局。
【請求項4】
前記信頼性判断部は、前記距離計算部が複数回計算した距離の分散に応じて信頼性を判断し、該分散が小さいほど信頼性が高いことを特徴とする、請求項2に記載の移動局。
【請求項5】
複数の基地局と無線通信が可能な移動局の絶対位置を導出する位置導出方法であって、
前記複数の基地局の絶対位置情報を取得する位置情報取得ステップと、
前記複数の基地局に電波を送受信した際の伝搬遅延時間を計測する遅延計算ステップと、
前記伝搬遅延時間に基づいて前記複数の基地局それぞれとの距離を計算する距離計算ステップと、
前記複数の基地局それぞれに関する絶対位置情報および距離に基づいて、当該移動局の絶対位置を特定する位置特定ステップと、
を含むことを特徴とする、位置導出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−74974(P2009−74974A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245085(P2007−245085)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】