説明

移動式クレーン

【課題】吊上げ能力を高くとれ、かつ作業半径の小さい場所でもクレーン作業が行える移動式クレーンを提供する。
【解決手段】走行車体1に起伏自在に取付けた伸縮ブーム5が、基端側の主ブーム5Aと、主ブーム5Aから先端に伸びる副ブームからなる。主ブーム5Aの中間部において、その基部が枢支された左マスト10Lと右マスト10Rとからなり、左マスト10Lは、主ブームの側方に傾斜して左斜めに延び、右マスト10Rは、主ブームの側方に傾斜して右斜めに延びる。緊張ロープ20は、伸縮ブーム5の基端部と先端部との間に張設されており、左マスト10Lを介して張設された左ロープ20Lと、右マスト10Rを介して張設された右ロープ20Rからなる。左マスト10Lと右マスト10Rは、起立位置と倒伏位置との間で姿勢変更が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンに関する。さらに詳しくは、ブームの縦たわみと横たわみを抑制して吊上げ能力を向上させた移動式クレーンに関する。
【0002】
本発明の対象となる移動式クレーンは、走行車体にクレーンを搭載したものであって、このような移動式クレーンには、装輪式車体を用いるトラッククレーンやホイールクレーン、クローラ式車体を用いるクローラ式クレーン等がある。
これらのうち大部分は、走行車体に旋回台を搭載し、その旋回台上にブームを起伏自在に取付けブームの旋回と起伏を可能とした構造であるが、旋回台を用いず、ブームを起伏自在に取付けた構造のものも含まれる。
ブームは多段式であり、油圧シリンダで自動伸縮させるものの外に、油圧シリンダを内蔵せずブームの継ぎ足しで長さを可変とするものも含まれる。さらに、ブームの先端に継ぎ足し専用のジブを装着してブーム長さを更に延長するものも含まれる。
【背景技術】
【0003】
移動式クレーンは、ブームを多段化して伸縮長さを長くし、そうすることによって揚程を大きくとって、高い所への荷揚げと高い所からの荷降ろしを可能としている。
このようなクレーンの高揚程化は、建築やその他の産業分野でクレーンの利用可能性を高めるものである。
しかるに、移動式クレーンにおけるブームの多段化と、その結果として得られる伸縮長さの長大化は、ブームの構造的強度の面からの限界が顕在化するに至っている。
【0004】
クレーン作業では、ブームを旋回させることにより、自機を中心とした周囲全方向での作業を可能とし、ブームを起立・倒伏させることにより、高所作業も遠方作業も可能とし、円すい形の立体空間内での荷役を可能としている。
しかるに、ブームを倒伏すると、ブームを下向きに曲げようとする縦曲げモーメントが大きくなって、ブームが下向きに撓みやすくなる。
一方、ブームを起立させると、ブームにそれ自体を圧縮する力が大きくなって、これに風や偏荷重等の外力が作用すると、ブームを横に曲げようとする横曲げがモーメントが大きくなり、横たわみが発生しやすくなる。
【0005】
上記の縦曲げモーメントや横曲げモーメントを抑制するため、特許文献1〜4の従来技術が提案されている。
特許文献1の従来技術は、ジブ(ブームともいうが技術的意味は同じである)の上面にガントリーを立設し、ジブ先端から吊下したフックと旋回台上のウインチとの間に掛け廻したロープを、ジブ先端からガントリー上端の滑車にも掛け廻している。このガントリーを介在させてジブ先端との間に張設したロープにより、ジブの縦たわみモーメントに対する抵抗を与え、ジブの縦たわみを抑制しようとするものである。
【0006】
特許文献2の従来技術は、ジブの上面に張設台(前記ガントリーに相当)を設けた点は特許文献1と同様の構成であるが、これに加え、ジブ先端に連結したロープを張設台上端の滑車を介して張設台の根元に設けたウインチに導いている。このロープは荷役用のロープとは別物であって、ウインチによって張力を加減することにより、ジブの縦たわみを効果的に抑制できるようになっている。
なお、ジブに対して横方向の安定性を得られるとの記述もあり、ジブの横安定性という課題も示されている。
【0007】
上記特許文献1,2は主としてブームの縦たわみを抑制するものであるが、特許文献3,4はブームの横たわみの防止も主たる課題としたものである。
すなわち、特許文献3,4の従来技術は、図7に示すように、主ジブ104の基礎箱形部105の上面に引張補強スタンド109が配置されており、この引張補強スタンド109と先端側のジブ108の頭部との間に引張り補強ロープ111,111´が連結されている。
また、図8に示すように、主ジブ104の基礎箱形部105から左右両側方に延びる引張補強支持部118,119が配置されており、その引張補強支持部118,119と先端側のジブ108の頭部との間に、引張り補強ロープ121,121´が連結されている。このような構造で、主ジブ104の縦方向と横方向の剛性が高められている。
なお、101は走行車体、102は上部旋回体、106〜108はジブの伸縮段である。
【0008】
しかるに、特許文献3,4の技術は、主ジブ104の背面から引張補強スタンド109が高く突出し、かつ両側方に引張補強支持部118,119が長く張り出しているので、占有空間を大きくとる。とくに、主ジブ104を起位させてクレーン作業するとき、引張補強スタンド109が主ジブ104の背面方向に突出し、引張補強支持具118,119が側方に突出することになるが、そうすると広い作業半径を要することとなって、狭い作業空間しかない所でのクレーン作業を制約してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭56−43995号公報
【特許文献2】特開昭57−184092号公報
【特許文献3】DE19930537号公報
【特許文献4】DE10022600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、吊上げ能力を高くとれ、かつ作業半径の小さい場所でもクレーン作業が行える移動式クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の移動式クレーンは、走行車体と、該走行車体に起伏自在に取付けた伸縮ブームとからなり、該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、前記主ブームの中間部において、その基部が枢支された左マストと右マストとからなる緊張マストと、該緊張マストを介して、前記伸縮ブームの基端部と先端部との間に張設された緊張ロープと備えており、前記左マストは、前記主ブームの側方に傾斜して左斜めに延びる部材であり、前記右マストは、前記主ブームの側方に傾斜して右斜めに延びる部材であり、前記緊張ロープは、前記左マストを介して張設された左ロープと、前記右マストを介して張設された右ロープとかならなり、前記左マストと前記右マストが、前記主ブームの長軸に対して上向きに起立した起立位置と前方に倒伏した倒伏位置との間で姿勢変更が可能であることを特徴とする。
第2発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記左ロープおよび前記右ロープに張力を作用させる左ウインチおよび右ウインチが、前記主ブームの基部に設置されていることを特徴とする。
第3発明の移動式クレーンは、第1または第2発明において、前記左マストおよび前記右マストが、いずれも1本のマストからなることを特徴とする。
第4発明の移動式クレーンは、第1または第2発明において、前記左右のマストが、いずれも前方に傾斜した前マストと後方に傾斜した後マストからなることを特徴とする。
第5発明の移動式クレーンは、第3または第4発明において、前記左マストと前記右マストが、前記主ブームの長軸と交差する垂線に対して傾斜する傾斜角度を可変に調整できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、緊張マストを主ブームに対し起立させた起立位置にしたときは、緊張マストの先端が主ブームから離間するので、ブーム先端部との間に張設した緊張ロープによるブームの曲げに抵抗するモーメントが大きくなる。このため、ブームの縦たわみを抑制する効果が高くなる。そして、緊張マストを、主ブームの前方に倒伏した倒伏位置にしたときは、伸縮ブームを起立させてクレーン作業しても旋回軌跡が大きくならない。よって、狭い場所でもクレーン作業ができる。
第2発明によれば、左右のロープの張力を左右のウインチで高低に調整できるので、ブームの縦たわみも横たわみも効果的に抑制できる。
第3発明によれば、緊張マストと緊張ロープによりブームの縦たわみと横たわみが抑制されるが、緊張マストを構成する左右のマストがそれぞれ1本なので、構造が簡単であり、かつ重量が軽いので、吊上げ能力を不必要に制限しない。
第4発明によれば、緊張マストを構成する左右のマストがそれぞれ2本のマストで構成されているので、緊張マストに作用する圧縮力が2本のマストに分散され、各マストを細くできる。
第5発明によれば、左右のマストの傾斜角度を小さくすれば、左右のロープにおける伸縮ブームの起伏面での交差角度が大きくなるので、ブームの縦たわみを抑制しやすくなる。また、左右のマストの傾斜角度を大きくすれば左右のロープにおける伸縮ブームの横平面での交差角度が大きくなるので、ブームの横たわみを防止しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る移動式クレーンJの斜視図である。
【図2】図1の移動式クレーンJの側面図である。
【図3】図1の移動式クレーンJの背面図である。
【図4】(A)図は緊張マスト10を示す側面図、(B)図は緊張マスト10の背面図である。
【図5】(A)図は緊張ロープ20の他の例の説明図、(B)図は緊張ロープ20の更に他の例の説明図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る移動式クレーンKにおける緊張マスト10の側面図である。
【図7】特許文献4の従来技術の斜視図である。
【図8】特許文献4の従来技術の背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
以下では、本発明をトラッククレーンに適用した第1、第2実施形態の移動式クレーンに基づき説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、トラッククレーンとしての移動式クレーンJの基本的構造を、図1に基づき説明する。1は公知の走行車体であり、この走行車体1には走行のための原動機や運転室、車輪の外、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガ2が設けられている。走行車体1の上面には旋回台3が搭載され、油圧モータ等により水平面内で360°旋回できるようになっている。なお、旋回台3上にはカウンタウエイト4の外、図示しないクレーン運転室や、ウインチその他の設備が設けられている。
【0016】
前記旋回台3には伸縮ブーム5が起伏自在に取付けられている。伸縮ブーム5は、基端側の主ブーム5Aと、この主ブーム5Aにテレスコープ式に嵌挿した複数段の副ブーム5B,5C,5Dからなる。図示の例では、副ブーム5B〜5Dは3本であるが、2本以下でもよく4本以上でもよい。各副ブーム5B〜5Dの伸縮動作は油圧シリンダで行われる。
【0017】
前記主ブーム5Aの基端部はピン6で旋回台3に枢支され、主ブーム5Aと旋回台3との間には油圧シリンダで構成した起伏シリンダ7が取付けられている。この起伏シリンダ7を伸長させると伸縮ブーム5が起立し、起伏シリンダ7を収縮させると伸縮ブーム5が倒伏する。
【0018】
前記伸縮ブーム5の先端、つまり副ブーム5Dの先端に形成されているブームヘッド5Eからは、図示しないフックを備えたワイヤロープが吊り下げられ、そのワイヤロープは伸縮ブーム5に沿って旋回台3に導かれて図示しないウインチで巻き取られている。
このウインチによるフックの上げ下げと、伸縮ブーム5の起伏、旋回、そして伸縮を組合せることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0019】
つぎに、第1実施形態に係る移動式クレーンJの特徴部分を説明する。
図1〜図3に示すように、符号10は緊張マストであり、主ブーム5Aの上面であって、長手方向における中間部に取付けられている。なお、本発明では緊張マスト10の取付位置は主ブーム5Aの長手方向における中間部分に限られることなく、その長手方向の基端から先端に至るどの部分であってもよい。
【0020】
前記緊張マスト10は左右一対の左マスト10Lと右マスト10Rから構成されている。左右のマスト10L,10Rはいずれも主ブーム5Aの上面で起伏、傾斜自在に適宜のヒンジを介して取付けられ、後述する起伏角調整シリンダと傾斜角調整シリンダで、起伏動作と傾斜動作をするようになっている。この緊張マスト10は後述する緊張ロープ20を、伸縮ブーム5の横たわみと縦たわみを抑止するように張設するための設備である。
【0021】
前記緊張マスト10の左・右マスト10L,10Rの上端には滑車13が取付けられている。一方、伸縮ブーム5の先端部、たとえば副ブーム5Dの先端部かブームヘッド5E(以下、ブーム先端部という)には係止フック15が設けられている。主ブーム5Aの基部に左右一対のウインチ14が取付けられている。
【0022】
緊張ロープ20は左ロープ20Lと右ロープ20Rとからなる。各ロープ20L,20Rは、それぞれ左右のウインチ14から繰り出され、各マスト10L,10R上端の滑車13を介してブーム先端へ延ばされ、係止フック15に係止されている。
なお、左マスト10Lを介して張設したロープを左ロープ20Lといい、右マスト10Rを介して張設したロープを右ロープ20Rという。
【0023】
つぎに、図4に基づき左右のマスト10L,10Rの起伏・傾斜構造の具体例を説明する。
左右のマスト10L,10Rは継手30を介して主ブーム5Aに取付けられており、継手30は、起伏用継手と傾斜用継手とからなる。起伏用継手は、主ブーム5Aの上部に固定された固定ブラケット31と、これにピン32を介して回動自在に連結されている回動ブラケット33からなり、傾斜用継手は回動ブラッケット33にピン34を介してマスト10Rの基部を枢支した構造である。
【0024】
一方、図4の外に図1〜図3にも示しているが、主ブーム5Aとマスト10Rの間には油圧シリンダからなる起伏角調整シリンダ36が取付けられ、この起伏角調整シリンダ36によって、マスト10Rの主ブーム5Aに対する起伏角が可変に調整できるようになっている。すなわち、主ブーム5Aの長軸に対し上向きに起立した起立位置と主ブーム5Aに対し平行に近くなるように前方に倒伏した倒伏位置との間で姿勢変更することができる。
また、図4にのみ示すように、主ブーム5Aと左右マスト10L,10Rとの間には油圧シリンダで構成された傾斜角調整シリンダ37が取付けられ、この傾斜角調整シリンダ37によって、左右マスト10L,10Rの主ブーム5Aの長軸と交差する垂線に対して傾斜する傾斜角が可変に調整できるようになっている。すなわち、主ブーム5Aの垂直な上方に近づくように起立した位置と主ブーム5Aの側方で横向きに倒伏した位置との間で姿勢変更できるようになっている。
【0025】
なお、起伏角調整シリンダ36の主ブーム5Aとマスト10Rに対する取付けは、マストの傾斜動作を許容する球面軸受等を用い、傾斜角調整シリンダ37の主ブーム5Aとマスト10Rに対する取付けも、起伏動作を許容する球面軸受等を用いるとよい。
【0026】
ここで、図2および図3に返って緊張ロープ20の作用を説明する。
図2に示すように、緊張マスト10を立て気味に起立させ緊張ロープ20と伸縮ブーム5との間の交差角を大きくすると、緊張ロープ20に作用する張力のうち、伸縮ブーム5の先端を吊り上げる分力が大きくなるので、ブーム5の縦たわみ(下向きの曲げ)に対する抵抗力が大きくなる。
また、図3に示すように、左右のマスト10L,10Rを横方向に傾斜させることができるので、その傾斜角が大きくなるよう倒伏したときは、左・右ロープ20L,20Rに作用する張力のうち、伸縮ブーム5の先端の横たわみに抵抗する分力が大きくなるので、伸縮ブーム5の横たわみ(左右いずれか側方への曲げ)に対する抵抗力が大きくなる。
【0027】
クレーンのブームは倒伏状態では縦たわみが顕著になり、起立状態では横たわみが生じやすい。このため、ブーム5を倒伏させたクレーン作業では、起伏角調整シリンダ36を用いて緊張マスト10を起立させて縦たわみ抵抗力を大きくし、ブームの縦たわみを許容範囲に収めるように抑制するとよい。また、ブーム5を起立させたクレーン作業では、傾斜角調整シリンダ37を用いて左右のマスト10L,10Rを横向きに倒伏させて、横たわみ抵抗力を大きくし、ブームの横たわみの発生を防止するとよい。
【0028】
前記実施形態において、左右のウインチ14は左右のロープ20L,20Rの長さをブーム伸縮長さに合わせて調整すると共に、必要な張力が得られるように駆動される。すなわち、伸縮ブーム5の伸長動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを繰り出しながら、ある程度の張力が作用した状態を保つように正転し、伸縮ブーム5の収縮動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを巻き戻しつつ、ある程度の張力が残るように逆転する。このような制御は、ウインチ駆動用の油圧モータを常時低圧で巻上げ側に駆動しておき、ブーム伸長時には、前記駆動力に抗してロープを引き出し、ブーム収縮時には前記低駆動力でのロープの巻き取りを行わせることにより実現できる、なお、ロープ張力を検出して許容範囲に収めるようなフィードバック制御で実現してもよく、このような制御方式は任意である。
【0029】
図5に基づき、緊張ロープ20の張り方の他の例を説明する。
同図(A)は、イコライザシーブ41を用いたものである。イコライザシーブ41は、ロープ42でブーム先端部の係止フック15に連結されている。緊張マスト10のウインチ14から繰り出された緊張ロープ20は滑車13を介してイコライザシーブ41まで延ばされたうえで折り返され、緊張マスト10の係止フック16に連結されている。
この構造であると、負荷を2本のロープで支持するので、1本ロープの場合に比べ、緊張ロープ20に細径のロープを使用できる。このため、ウインチ14を小形化できるという利点がある。
なお、ウインチ14の代りに油圧シリンダでロープ20の繰り出しと張力調整をしてもよい。
【0030】
図5の(B)図は、緊張マスト10を多段化したものである。図示のごとく、左右の各マスト10L,10Rを外側マスト11と内側マスト12をテレスコープ式に組み込んだ2段構造とし、内蔵の油圧シリンダ42で伸縮させるようにしてもよい。
緊張マスト10の長さを長くすると、ブームの縦たわみに対する抵抗力も横たわみに対する抵抗力も大きくなる。
【0031】
上記に示した第1実施形態の移動式クレーンJによれば、図2に示すように、緊張マスト10を主ブーム5Aに対し起立させた起立位置(実線図示)に姿勢変更したときは、緊張マスト10の先端が主ブーム5Aから離間するので、ブーム先端部との間に張設した緊張ロープ20による伸縮ブーム5の曲げに抵抗するモーメントが大きくなる。このため、伸縮ブーム5の縦たわみを抑制する効果が高くなる。これに加え、同図に想像線で示すように、緊張マスト10を、主ブーム5Aの前方に傾いた倒伏位置に姿勢変更したときは、緊張マスト10が主ブーム5Aに平行に近づいた状態となるので、伸縮ブーム5を起立させてクレーン作業しても緊張マスト10先端の旋回軌跡が大きくならないという利点が生ずる。よって、狭い場所でもクレーン作業ができる。
【0032】
(第2実施形態)
つぎに、本発明の第2実施形態の移動式クレーンKを図6に基づき説明する。
本実施形態は、緊張マスト10を構成する左右のマスト10L,10Rとも、前マスト10fと後マスト10bの2本で構成したものである。前マスト10fと後マスト10bは、適宜の角、たとえば30°〜120°の範囲で交差しており、各マスト10f, 10bの間同士はステー10sで連絡され、交差角が変動しないようにされている。
【0033】
この実施形態でも、起伏角調整シリンダ36が後マスト10bに連結され前後のマストからなる緊張マスト10を起立位置と前傾位置との間で、姿勢変更できるようになっている。なお、起伏角調整シリンダ36は前マスト10fに連結してもよい。
【0034】
本実施形態においても、伸縮ブーム5の縦たわみの抑制と横たわみの防止は、第1実施形態と同様に達成できるが、これに加えて、つぎの利点がある。
すなわち、緊張ロープ20に張力が作用すると、緊張マスト10に圧縮力が発生し、それが主ブーム5Aに伝達される。本実施形態において左マスト10Lあるいは右マスト10Rに作用する圧縮力は、それぞれ前後2本のマスト10f, 10bに分散されるので、各マストに作用する圧縮力は小さくなる。よって、各マスト10f, 10bの太さを小さくすることができる。
【0035】
(他の実施形態)
つぎに、本発明の他の実施形態を説明する。
前記各実施形態では、多段式の伸縮ブーム5のみを図示して説明したが、この伸縮ブーム5のブームヘッド5Eに、継ぎ足し専用のジブを装着したクレーンにも、本発明を適用できる。
この場合でも、係止フック15は伸縮ブーム5の先端部、すなわち副ブーム5Dの先端部やブームヘッド5Eに取付けられる。
なお、継ぎ足し専用のジブにも、油圧シリンダを用いた伸縮式のものや、ラチス式ジブを連結して長さを可変とするものが含まれる。
また、伸縮ブーム5自体も、油圧シリンダを用いた自動伸縮式の外、ラチス構造のブームを多段に連結する非自動伸縮式のものであってもよい。特許請求の範囲にいう「主ブームから先端に延びた位置に配置される副ブーム」の意味は、自動伸縮式の外、非自動で連結されるものも含む意味である。
【0036】
前記各実施形態の移動式クレーンでは、いずれも旋回台3を有しており、ブーム5自体の伸縮・起伏に加え旋回動作をさせることによって、全方位の荷役作業ができるものであったが、本発明の対象としては旋回台を有しないものも含まれる。
要するに、伸縮・起伏するクレーンブームであれば、本発明の各実施形態に係る緊張マスト10や緊張ロープ20を任意に適用して、その吊上げ能力を向上させることができる。
【0037】
前記各実施形態は、走行車体1としてトラックシャーシを用いたトラッククレーンであり、クレーン運転室(図示していないが旋回台に搭載される)と走行用運転室が別々に設けられているが、同一走行車体上にクレーン操縦と走行運転を兼ねて行う一個の運転室を備えたホイルークレーンにも、本発明は当然適用できる。なお、これらは装輪式の移動クレーンである。
装輪式とは異なる型式のクローラ式走行車体を用いたクレーンは、クローラクレーンと云われるが、このクローラクレーンの伸縮ブームにも、本発明の緊張マスト10や緊張ロープ20を適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 走行車体
5 伸縮ブーム
10 緊張マスト
10L 左マスト
10R 右マスト
10f 前マスト
10b 後マスト
20 緊張ロープ
20L 左ロープ
20R 右ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、
該走行車体に起伏自在に取付けた伸縮ブームとからなり、
該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、
前記主ブームの中間部において、その基部が枢支された左マストと右マストとからなる緊張マストと、
該緊張マストを介して、前記伸縮ブームの基端部と先端部との間に張設された緊張ロープと備えており、
前記左マストは、前記主ブームの側方に傾斜して左斜めに延びる部材であり、前記右マストは、前記主ブームの側方に傾斜して右斜めに延びる部材であり、
前記緊張ロープは、前記左マストを介して張設された左ロープと、前記右マストを介して張設された右ロープとかならなり、
前記左マストと前記右マストが、前記主ブームの長軸に対して上向きに起立した起立位置と前方に倒伏した倒伏位置との間で姿勢変更が可能である
ことを特徴とする移動式クレーン。
【請求項2】
前記左ロープおよび前記右ロープに張力を作用させる左ウインチおよび右ウインチが、前記主ブームの基部に設置されている
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項3】
前記左マストおよび前記右マストが、いずれも1本のマストからなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の移動式クレーン。
【請求項4】
前記左右のマストが、いずれも前方に傾斜した前マストと後方に傾斜した後マストからなる
ことを特徴とする請求項1または2記載の移動式クレーン。
【請求項5】
前記左マストと前記右マストが、前記主ブームの長軸と交差する垂線に対して傾斜する傾斜角度を可変に調整できる
ことを特徴とする請求項3または4記載の移動式クレーン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−56750(P2012−56750A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203854(P2010−203854)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000148759)株式会社タダノ (419)
【Fターム(参考)】