説明

移動装置の軌道情報生成装置

【課題】所望の始点から終点までの移動時間の短縮と移動によって生ずる振動の低減とを両立した軌道情報を生成する新たな軌道情報生成装置を提供する。
【解決手段】軌道情報生成装置2は、所望の始点から終点まで移動装置103を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報132を生成するにあたり、予め設定された移動装置の振動特性を用いて移動により生ずる模擬振動の大きさ(θ−θ)を算出し、算出した模擬振動の大きさ(θ−θ)をパラメータの一つとし、始点Sから終点Eまでの移動に要する時間tをパラメータの一つとして、少なくともこれら2つのパラメータを含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて軌道情報を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する装置に係り、特に移動装置の適正な移動を実現する軌道情報を得る軌道情報生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動装置の一種である搬送装置は、特許文献1に例示されるように、ロボットアーム等の搬送機構を用いて搬送対象物を移動させる装置であり、予め設定された軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を用いて移動制御を行うのが一般的である。この移動制御に用いる軌道情報は、軌道情報生成装置によって移動制御の事前に予め生成される。軌道情報生成装置の多くは、特許文献2に例示されるように、ロボットアームの動力学モデルをもとに最適化手法を用いて所望の始点から終点までの移動時間が最短となる適切な軌道情報を生成するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−145461号公報
【特許文献2】特開平7−200030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の軌道情報生成装置で得られる軌道情報は、移動速度を可能な限り高速化して移動時間を最短とするものであるが、移動によって生ずる振動が考慮されておらず、高速移動に伴い移動制御に無視できない振動が発生する場合があり、発生する振動が問題とならない程度に移動速度を低減させる等の処置を要し、移動効率の低下を招く場合がある。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、所望の始点から終点までの移動時間の短縮と移動によって生ずる振動の低減とを両立した軌道情報を生成する新たな軌道情報生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0007】
すなわち、本発明の移動装置の軌道情報生成装置は、所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する装置であって、始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に受け付けられた情報に基づいて始点から終点までの移動に要する時間をパラメータの一つとして含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて前記軌道情報を生成する軌道情報生成手段とを具備してなり、前記軌道情報生成手段は、予め設定された移動装置の振動特性を用いて移動により生ずる模擬振動の大きさを算出し、算出した模擬振動の大きさをパラメータの一つとして前記評価関数に含め、少なくとも上記2つのパラメータを含む前記評価関数の値が最小となるように前記軌道情報を生成することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、移動により生ずる模擬振動の大きさと移動時間とを合わせた評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて軌道情報を生成するので、振動抑制を考慮したうえで移動時間が最短となり、移動効率を向上させることができる。
【0009】
特に、複数のリンクを回転可能に接続した多関節ロボットを用いて搬送対象物を移動させる移動装置の移動効率を向上させるためには、前記軌道情報生成手段は、前記リンクの回転動作によって生ずる模擬振動の大きさと始点から終点までの移動時間とを含む評価関数の値が最小となるように前記軌道情報を生成することが好ましい。
【0010】
軌道情報の生成に要する演算時間を低減させつつ障害物回避を実現するためには、前記軌道情報生成手段は、矩形状をなす位置情報を制約条件として前記軌道の位置を制約することが望ましい。
【0011】
振動抑制又は移動時間低減のいずれを優先するかを容易に変更可能とするためには、変更操作を受け付けて当該変更操作に応じて前記評価関数に対する模擬振動の大きさと移動時間との重み付けを変更する重み付け変更手段を有することが好ましい。
【0012】
従来では、適切な軌道情報を生成するにあたり、始点及び終点以外に軌道上の経由点をユーザが指定するものであったが、本発明では、簡易な操作で適切な軌道情報を生成するために、所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成するにあたり、始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段と、前記受付手段に受け付けられた始点及び終点の二つの位置情報から二点間の軌道及びその軌道上の速度に関する軌道情報を生成する軌道情報生成手段とを具備するものとしている。
【0013】
障害物回避を実現するためには、前記軌道情報生成手段は、矩形状をなす位置情報を制約条件として前記軌道の位置を制約することが望ましい。
【0014】
振動抑制又は移動時間低減のいずれを優先するかを容易に変更可能とするためには、前記受付手段は、移動時間に対する移動により生ずる振動の重み付け情報を受け付け、前記軌道情報生成手段は、前記受付手段に受け付けられた情報に応じた重み付けとなるように前記軌道情報を生成することが好ましい。
【0015】
勿論、上記の軌道情報生成装置の構成をプログラムに対応させることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したように、移動により生ずる模擬振動の大きさと移動時間とを含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて軌道情報を生成しているので、所望の始点から終点までの移動時間の短縮と移動によって生ずる振動の低減とを両立することが可能となり、移動効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る移動装置の軌道情報生成装置を模式的に示す構成図。
【図2】同移動装置の搬送機構を示す平面図。
【図3】振動特性モデルを模試的に示す図。
【図4】同移動装置の可動領域を示す図。
【図5】生成される軌道情報に関する図。
【図6】本実施形態に係る装置および従来の装置によってそれぞれ生成された軌道を比較して示す図。
【図7】本実施形態に係る装置および従来の装置によってそれぞれ生成された軌道情報を用いて移動制御を行った結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すようにロボットアーム等の搬送機構131を駆動することにより半導体ウエハー等の搬送対象物Wを移動させる移動装置103は、予めメモリに記憶されている軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報132に基づいて搬送対象物Wの移動制御を行うものである。その軌道は、図4に示す矩形状の可動領域に隣接配置された複数のロードポート等の入り口同士間を結ぶものである。本実施形態に係る移動装置の軌道情報生成装置2は、図1に示すように、上記移動装置103の移動制御に用いられる軌道情報132を生成する装置であり、受付手段21と、軌道情報生成手段22とを有している。
【0020】
受付手段21は、ディスプレイやキーボード、マウス等の既知の操作部を用いて、軌道情報132を生成するために必要な軌道の始点や終点、制約条件となる位置情報等の各種情報の入力を受け付けるものである。勿論、受付手段をティーチングペンダント(教示装置)として構成したり、上位システムや支援ツールからの通信による設定を受け付けるようにしたりしてもよい。
【0021】
軌道情報生成手段22は、受付手段21に受け付けられた情報に基づいて始点から終点まで最適な軌道情報を得る最適化処理部23を有しており、この最適化処理部23は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図示しない軌道情報生成処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現されるものである。
【0022】
この最適化処理部23は、予めメモリに記憶されている動力学モデルと振動特性モデルと制約条件とに基づいて導き出せる軌道情報のうち、その移動時間及び移動に伴い生ずる振動が最小となる適切な軌道情報を最適化手法により生成するものである。
【0023】
以下、具体的に説明すると、駆動対象となる搬送機構131は、図2に示すように、複数のリンク134・135・136を回転可能に直列接続した、いわゆる多関節ロボットアームであり、ロボットアームの先端に設定された保持部136bに搬送対象物Wを載置した状態で各関節にある図示しないモータの駆動により各々のリンク間の角度θ・θ・θを変更して搬送対象物Wを所望の位置に移動させるものである。本実施形態の搬送機構131は、ベース133に基端134aが接続された第1のリンク134と、第1のリンク134の先端134bに基端135aが接続された第2のリンク135と、第2のリンク135の先端135bに基端136aが接続され先端に搬送対象物Wを載置するための保持部136bが設定された第3のリンク136とを備え、各リンク134〜136はそれぞれ水平方向に回転可能に接続されて三軸水平多関節ロボットを構成している。各リンク134〜136の長さはそれぞれL、L、Lに設定してある。
【0024】
この搬送機構131の動力学モデルは、各リンク134・135・136の質量分布がリンク先端での集中負荷であるとして簡略的に以下の式で表される。なお、iはリンクの番号を示し、例えば、i=1は第1のリンク134、i=2は第2のリンク135、i=3は第3のリンク136である。ここでは各リンクの質量分布がリンク先端での集中負荷であるとして式を構成しているが、勿論、各リンクの質量分布がリンクの重心周りにあるとして式を構成してもよい。

J=diag{J}, J>0
G=diag{G}, G>0
i=1,2,3
θ=[θ,θ,θ

は加速度を表す。
は第i関節を駆動するモータに取り付けられた減速器のギア比である。
各関節のモータの駆動トルク:
τ=[τ,τ,τ
各関節のモータの慣性モーメント:
=(G+m+m(L+L+m(L+L+L
=(G+m+m(L+L
=J+J
=(G
=m
は第i関節を駆動するモータの慣性モーメント。
は各リンクの質量。
なお、この動力学モデルに係る情報は、図1に示すように、予め軌道情報生成手段22のメモリに記憶されているが、受付手段21を通じて設定可能に構成してもよい。
【0025】
移動により生ずる振動を考慮するための振動特性モデルは、図3に示すような質量−バネモデルが適用されており、以下の式で表される。

、Jはそれぞれ第3のリンク136のモータの慣性モーメント、エンドエフェクタ(保持部136b)の先端に集中質量があるとした場合の慣性モーメントである。バネ定数Kは、実験により計測した固有振動数f及び下記の式を用いて算出する。
K=J(2πf)
なお、この振動特性モデルに係る情報は、図1に示すように、予め軌道情報生成手段22のメモリに記憶されているが、受付手段21を通じて設定可能に構成してもよい。
【0026】
軌道情報の制約条件の一つとして、各リンク134・135・136を回転させるモータの駆動制約が図1に示すメモリに予め設定されている。このモータの駆動制約はモータが出力可能な最大トルクを用いており、以下の式で示される。τliは逆回転(θが負の方向に駆動しようと)する場合の最大トルクであり、τuiは正回転(θが正の方向に駆動しようと)する場合の最大トルクを示す。勿論、速度や加速度で表現されるものであってもよい。

【0027】
また、本実施形態では、搬送機構131が図4(a)に示す矩形状の可動領域内で動作するものであるので、以下の式で示される矩形状をなす位置情報を軌道の位置の制約条件の一つとしている。

(x,y)は図4(b)に示すように各関節の位置を示し、搬送対象物Wの中心位置(x,y)は、搬送対象物Wが可動範囲から外れないように半径r分狭くしている。
なお、この可動領域としての制約条件に係る情報は、図1に示すように、予め軌道情報生成手段22のメモリに記憶されているが、受付手段21を通じて設定可能に構成している。
【0028】
受付手段21で受け付けられた始点及び終点の二つの位置情報は、XY座標で示される始点位置及び終点位置、並びに始点速度及び終点速度であるが、搬送対象物Wの移動は、各リンク134〜136の角度θ・θ・θを変化させることにより行うので、始点及び終点に関する情報を以下の式で示すように角度情報に変換し、これを制約条件の一つとしている。なお、本実施形態では、始点速度及び終点速度を0として取り扱っている。


は速度、tは移動時間を表す。θ,θは始点及び終点位置の情報を関節角度の情報(関節角度ベクトル)に変換したものである。
【0029】
上記のモデル及び制約条件の下で、以下の式で示される評価関数の値が最小となるように軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を最適化により求める。

この評価関数は、振動特性モデルで算出される模擬振動の大きさ(θ−θ)をパラメータの一つとし、移動時間tをパラメータの一つとして、これら2つのパラメータを少なくとも含む関数である。具体的には、模擬振動の大きさ(θ−θ)に重み付け情報である重み付け係数αを乗じて移動時間tと結合したものである。なお、最適化手法については一般的な手法を用いているので、ここでは説明を省略する。また、図1に示すように、この重み付け係数αを、受付手段21になされる変更操作に応じて変更する重み付け変更手段24が設けられており、重み付け係数αを変更することで振動抑制又は最短時間短縮のいずれかを優先するかを変更することが可能となる。本実施形態では、模擬振動の大きさ(θ−θ)が負の値を含むため、これを二乗して正の値にしているが、(θ−θ)の絶対値を取る式にしてもよい。
【0030】
ここで、上記の最適化問題を解くにあたり演算時間を低減するために離散化を考え、これに伴い軌道情報132も離散化して生成している。具体的には、軌道情報132は、図5に模式的に示すように、移動軌道Ptを、時間間隔Tで(N−1)等分し、始点S及び終点Eを含む複数の点P1〜Nで表現する離散データであり、各々の点Pのxy座標(x,y)を、以下の式を用いて各リンク134〜136の角度θ1k・θ2k・θ3kで表現している。
=Lcosθ1k+Lcos(θ1k+θ2k)+Lcos(θ1k+θ2k+θ3k
=Lsinθ1k+Lsin(θ1k+θ2k)+Lsin(θ1k+θ2k+θ3k
【0031】
そして、上記で述べたモデル及び制約条件を中心差分法を用いて離散化すると以下の式で表される。なお、以下では、k時点目の点Pの角度θikをθ[k]と略記する。
振動を考慮したモデル:

モータの駆動制約:

τ[k]は、k時点目の第i関節の駆動トルクを表す。
軌道の位置の制約条件:

[k],y[k]は、k時点目の位置x,yを表す。
始点及び終点の制約条件:

評価関数:

【0032】
上記のモデル及び制約条件を用いて軌道情報132を生成するにあたり、具体的には、初期値として始点Sから終点Eまで直線で結んだ軌道情報を生成し、この初期軌道をもとに上記モデル及び制約条件に基づいて既知の逐次二次計画法を用いた最適化計算を行い、リンク角度θ[k]及び時間間隔Tを求める。
【0033】
ここで、従来の軌道情報生成装置との比較実験を行うために、上記重み付け係数αを0として従来の最短時間のみを追求した図6に示す軌道Pt’と、本実施形態に係る振動抑制を考慮した図6に示す軌道Ptとを生成し、それぞれの軌道情報を駆動指令に変換してロボットアームを駆動させ、移動によって発生する振動を計測したところ、図7に示すように、移動に要する時間にほとんど変化がなかったものの、従来の軌道情報に比べて本実施形態の軌道情報は発生する振動が少なくとも半分以下に抑えられていることがわかる。
【0034】
また、ロボットの関節毎に振動モデルを定義する等の厳密な運動特性を用いると計算量が莫大となり実運用に好ましくなかったが、本実施形態のように単一の質量−バネモデルに簡略化することで実用性を保つ範囲内で計算量を低減している。また、一般的に障害物回避には莫大な計算を要するものであるが、本実施形態のように移動装置の可動範囲が矩形状であることに着目し、矩形状をなす位置情報を制約条件の一つとしているので、同様に実用性を保つ範囲内で計算量を低減している。軌道情報を生成するのに要する時間は、環境により種々変化するが、一例であるが、ある環境では従来に比べて数十〜数百分の1程度の時間に短縮することができた。
【0035】
以上のように本実施形態に係る移動装置の軌道情報生成装置は、所望の始点Sから終点Eまで移動装置103を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報132を生成する装置であって、始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段21と、受付手段21に受け付けられた情報に基づいて始点Sから終点Eまでの移動に要する時間tをパラメータの一つとして含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて軌道情報132を生成する軌道情報生成手段22とを具備してなり、軌道情報生成手段22は、予め設定された移動装置の振動特性を用いて移動により生ずる模擬振動の大きさ(θ−θ)を算出し、算出した模擬振動の大きさ(θ−θ)をパラメータの一つとして評価関数に含め、少なくとも上記2つのパラメータである移動時間t及び模擬振動の大きさ(θ−θ)を含む評価関数の値が最小となるように軌道情報を生成する。
【0036】
このように、移動により生ずる模擬振動の大きさ(θ−θ)と移動時間tとを合わせた評価関数の値が最小となるように逐次二次計画法を始めとする最適化手法を用いて軌道情報132を生成するので、振動抑制を考慮したうえで移動時間が最短となり、移動効率を向上させることが可能となる。
【0037】
さらに、本実施形態では、複数のリンク134・135・136を回転可能に接続した多関節ロボットたる搬送機構131を用いて搬送対象物Wを移動させる移動装置103を駆動させるための軌道情報132を生成するものであり、軌道情報生成手段22が、リンク134〜136の回転動作によって生ずる模擬振動の大きさ(θ−θ)と始点Sから終点Eまでの移動時間tとを含む評価関数の値が最小となるように軌道情報を生成するので、複雑な制御を要する多関節ロボットに適した軌道及びその軌道上の速度を選定して、軌道効率を向上させることが可能となる。
【0038】
さらにまた、本実施形態では、軌道情報生成手段22は、矩形状をなす位置情報を制約条件として軌道の位置を制約しているので、簡易な形状であるものの障害物回避を実現することが可能となる。しかも、制約条件が矩形状であるので、複雑な形状である場合に比べて軌道情報の生成に要する演算時間を著しく低減させることが可能となる。
【0039】
加えて、本実施形態では、受付手段21を介して変更操作を受け付けて変更操作に応じて評価関数に対する模擬振動の大きさ(θ−θ)と移動時間tとの重み付けを表す重み付け係数αを変更する重み付け変更手段24を有するので、変更操作を行うことで、評価関数に対する模擬振動(θ−θ)と移動時間tとの重み付けを表す重み付け係数αが変更され、振動抑制又は移動時間低減のいずれを優先するかを変更することが可能となる。しかも、ワンパラメータとなるので、パラメータ設定が取り扱いやすくなる。
【0040】
従来では、新たなロードポート等が追加されて始点又は終点が追加された場合に、かかる始点又は終点に関する情報を入力して適切な軌道情報を生成するにあたり、始点及び終点以外に軌道上の経由点をユーザが指定するものであったが、本実施形態では、始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段21と、受付手段21に受け付けられた始点S及び終点Eの二つの位置情報から二点間の軌道Pt及びその軌道上の速度に関する軌道情報132を生成する軌道情報生成手段22と有するので、始点S及び終点E以外に経由点を指定することなく軌道情報が生成され、簡易な操作で適切な軌道情報を生成することが可能となり、例えば新たなロードポート等を追加した場合でも容易な対応を実現することができる。
【0041】
さらに、軌道情報生成手段22は、矩形状をなす位置情報を制約条件として軌道の位置を制約するので、適切な障害物回避を実現している。また、受付手段21が、移動時間tに対する移動により生ずる振動の大きさ(θ−θ)の重み付け情報を受け付け、軌道情報生成手段22が、受付手段21に受け付けられた情報に応じた重み付けとなるように軌道情報132を生成するので、振動抑制又は移動時間低減のいずれを優先するかを容易に変更可能としている。
【0042】
その他、上記軌道情報を生成するにあたり、以下のプログラムが有用である。
【0043】
所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する機能をコンピュータに実現させるプログラムであって、始点情報及び終点情報を受け付ける受付機能と、受付機能に受け付けられた情報に基づいて始点から終点までの移動に要する時間をパラメータの一つとして含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて軌道情報を生成する軌道情報生成機能とを実現し、軌道情報生成機能は、予め設定された移動装置の振動特性を用いて移動により生ずる模擬振動を算出し、算出した模擬振動をパラメータの一つとして評価関数に含め、少なくともこれら2つのパラメータを含む評価関数の値が最小となるように軌道情報を生成する移動装置の軌道情報生成プログラム。
【0044】
所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する機能をコンピュータに実現させるプログラムであって、始点情報及び終点情報を受け付ける受付機能と、受付機能に受け付けられた始点及び終点の二つの位置情報から二点間の軌道及びその軌道上の速度に関する軌道情報を生成する軌道情報生成機能とを実現する移動装置の軌道情報生成プログラム。
【0045】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0046】
例えば、本実施形態では、ロボットアームの振動特性モデルを定義するにあたり、アーム先端部分に着目して単一の質量−バネモデルとしているが、アームの根元部分に着目してアーム全体を単一の質量−バネモデルとして定義してもよく、振動を考慮するモデルとして他のモデルを採用してもよい。また、本実施形態では、始点速度及び終点速度を0として取り扱っているが、これら速度が0でない場合にも適用可能である。
【0047】
その他、上記に述べた軌道情報生成は、複数のリンクを回転可能に直列接続したロボットアーム式の搬送機構131を用いて搬送対象物Wを移動する移動装置103に適用しているが、複数のリンクを並列接続したパラレルマニピュレータ等の搬送装置など、ロボットアーム式以外の移動装置にも適用可能である。さらには装置自体が移動する移動装置にも適用可能である。図1に示す各機能部は、所定プログラムをプロセッサで実行することにより実現しているが、各機能部を専用回路で構成してもよい。
【0048】
各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
103…移動装置
131…搬送機構(多関節ロボット)
132…軌道情報
134・135・136…リンク
21…受付手段
22…軌道情報生成手段
24…重み付け変更手段
S…始点
E…終点
W…搬送対象物
Pt…軌道
…移動時間
(θ−θ)…模擬振動の大きさ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する装置であって、
始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段と、
前記受付手段に受け付けられた情報に基づいて始点から終点までの移動に要する時間をパラメータの一つとして含む評価関数の値が最小となるように最適化手法を用いて前記軌道情報を生成する軌道情報生成手段とを具備してなり、
前記軌道情報生成手段は、予め設定された移動装置の振動特性を用いて移動により生ずる模擬振動の大きさを算出し、算出した模擬振動の大きさをパラメータの一つとして前記評価関数に含め、少なくとも上記2つのパラメータを含む前記評価関数の値が最小となるように前記軌道情報を生成することを特徴とする移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項2】
複数のリンクを回転可能に接続した多関節ロボットを用いて搬送対象物を移動させる移動装置を駆動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する装置であって、
前記軌道情報生成手段は、前記リンクの回転動作によって生ずる模擬振動の大きさと始点から終点までの移動時間とを含む評価関数の値が最小となるように前記軌道情報を生成する請求項1に記載の移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項3】
前記軌道情報生成手段は、矩形状をなす位置情報を制約条件として前記軌道の位置を制約する請求項1又は2に記載の移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項4】
変更操作を受け付けて当該変更操作に応じて前記評価関数に対する模擬振動の大きさと移動時間との重み付けを変更する重み付け変更手段を有する請求項1〜3のいずれかに記載の移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項5】
所望の始点から終点まで移動装置を移動させるための軌道及び軌道上の速度に関する軌道情報を生成する装置であって、
始点情報及び終点情報を受け付ける受付手段と、
前記受付手段に受け付けられた始点及び終点の二つの位置情報から二点間の軌道及びその軌道上の速度に関する情報を生成する軌道情報生成手段とを具備する移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項6】
前記受付手段は、矩形状をなす位置情報を受け付け、
前記軌道情報生成手段は、前記受付手段に受け付けられた位置情報を制約条件として前記移動装置が通る軌道を制約する請求項5に記載の移動装置の軌道情報生成装置。
【請求項7】
前記受付手段は、移動時間に対する移動により生ずる振動の重み付け情報を受け付け、
前記軌道情報生成手段は、前記受付手段に受け付けられた情報に応じた重み付けとなるように前記軌道情報を生成する請求項5又は6に記載の移動装置の軌道情報生成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−167827(P2011−167827A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36111(P2010−36111)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】