説明

移動農機

【課題】簡単かつコンパクトな構成で駆動系補機に動力を伝達しつつ吸引ファンを駆動/停止させる移動農機を提供する
【解決手段】エンジン9のクランク軸26には、第1駆動プーリ27と第2駆動プーリ29とが設けられており、第1駆動プーリ27とウォータポンププーリ35及びオルタネータプーリ50との間には補機駆動ベルト51が巻回されている。また、機体外側の第2駆動プーリ29とファンプーリ37との間にはファン駆動ベルト52が巻回されていると共に、ファン駆動ベルト52にはベルトテンションクラッチ53が設けられている。クランク軸26が回転すると、補機駆動ベルト51,ファン駆動ベルト52を介して駆動系補機30,31及び吸引ファン45が駆動すると共に、ベルトテンションクラッチ53を切断することによって駆動系補機30,31を駆動させつつ吸引ファン45が停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンバインなどの移動農機に係り、詳しくは、エンジンからの動力に基づいて吸引ファンを駆動させ、外気をエンジンルーム内に導入する移動農機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コンバインは、機体前部に設けられた運転座席の下方にエンジンを収容するエンジンルームが形成されており、該エンジンはクランク軸を、機体内側に突出させてクローラ走行装置などの駆動部や、前処理部、脱穀部などの作業機に動力を伝達すると共に、機体外側にも突出してオルタネータ、ウォータポンプなどの駆動系補機や、エンジンルーム内に外気を吸い込む吸引ファンなどに動力を伝達している。
【0003】
従来、このようなコンバインにおいて、エンジンルームの吸気口に設けられた防塵用カバーに付着した塵埃を除去するために、上記駆動系補機にはエンジンからの動力を伝達したまま吸引ファンを駆動/停止できるようにすると共に、防塵用カバーに向けて送風する電動ファンを設けたコンバインが案出されている(特許文献1参照)。
【0004】
このものは、ウォータポンプ及びオルタネータの駆動軸に設けられたプーリと、エンジンのクランク軸に設けられたプーリとの間に伝動ベルトを巻回すると共に、該伝動ベルトに摺接するインテンションプーリ及びアウトテンションプーリを有している。そして、該インテンションプーリを介して吸引ファンに動力を伝達すると共に、インテンションプーリを伝動ベルトに対して接離自在に構成して吸引ファンへの動力伝達を断接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−153643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1記載のように、エンジンからの動力が常時伝達される駆動系補機への伝動と、停止/駆動をする吸引ファンへの伝動とが同一の伝動ベルトを介して行われると、吸引ファンへの動力を断接するベルトテンションクラッチが必要になると共に、該ベルトテンションクラッチが断接されることにより変化する伝動ベルトの周長を調整して駆動系補機へ継続して動力を伝達するための調整機構が必要となり、構成が複雑になると共に、装置全体としての大きさも大きなものとなってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、吸引ファンの駆動系と、駆動系補機の駆動系とを独立して構成することにより、上記課題を解決した移動農機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、エンジンルーム(7)内に収容されたエンジン(9)と、該エンジン(9)からの動力により回転して前記エンジンルーム(7)内に外気を導入する吸引ファン(45)と、前記エンジン(9)からの動力により駆動する駆動系補機(30,31)と、前記エンジンルーム(7)の吸気口(19)に設けられ異物の侵入を防止する防塵用カバー(20)と、を備えた移動農機(1)において、
前記エンジン(9)の出力軸(26)に、第1駆動プーリ(27)と第2駆動プーリ(29)とを並設し、
該第1駆動プーリ(27)に巻回された伝動ベルト(51)を介して前記エンジン(9)からの動力を常時、前記駆動系補機(30,31)に伝達する補機伝動系(A)と、
前記第2駆動プーリ(29)に巻回された伝動ベルト(52)を介して前記吸引ファン(45)に動力を伝達する吸引ファン伝動系(B)と、を互いに独立して配設すると共に、
機体外側に設けられた前記吸引ファン伝動系(B)の伝動ベルト(52)にベルトテンションクラッチ(53)を設け、前記駆動系補機(30,31)を駆動させつつ前記吸引ファン(45)を駆動/停止自在に構成した、
ことを特徴とする移動農機(1)にある。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記駆動系補機(30,31)を前記エンジン(9)に設けると共に、該駆動系補機(30)の入力軸(32)に前記吸引ファン(45)を遊嵌支持してなる、
請求項1記載の移動農機(1)にある。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記吸引ファン(45)の停止時に、前記防塵用カバー(20)に向け送風して付着した塵埃を除去する電動ファン(81)を設けてなる、
請求項1又は2記載の移動農機(1)にある。
【0011】
なお、括弧内の符号等は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、エンジンの出力軸に補機駆動用の第1駆動プーリと吸引ファン駆動用の第2駆動プーリとを並設し、駆動系補機伝動系と吸引ファン伝動系とを独立して形成したことによって、シンプルかつコンパクトな構成で、駆動系補機に動力を伝達しつつ、吸引ファンを駆動/停止させることができると共に、吸引ファンを停止させてエンジンルーム内への外気の吸引を止めることにより、防塵カバーに付着している塵埃を除去することが可能になる。また、装置全体がコンパクトな構成になったため、スペースの少ないエンジンルームにおいて容易に搭載することができ、様々な機種に搭載することができる。更に、吸引ファン伝動系を機体外側に設けたことによって、容易にベルトテンションクラッチを調整することができる。
【0013】
請求項2に係る発明によると、吸引ファンを駆動系補機の入力軸に遊嵌支持することによって、吸引ファン専用の支持部材を設ける必要がなく、コンパクトに構成することができると共に、部品点数を削減することができる。
【0014】
請求項3に係る発明によると、吸引ファンの停止時に電動ファンによって防塵用カバーに向けて送風することによって、効率よく防塵カバーの塵埃を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本願発明の実施形態に係るコンバインの側面図。
【図2】本願発明の実施形態に係るエンジンルーム内のレイアウトを示す正面図。
【図3】図2の平面図。
【図4】本願発明の実施形態に係るエンジンの右側面図。
【図5】図4の斜視図。
【図6】図4の分解斜視図。
【図7】本発明の実施形態に係る吸引ファンの取付け部の斜視図。
【図8】図7の分解斜視図。
【図9】図7の断面図。
【図10】本願発明の実施形態に係る冷却装置の斜視図。
【図11】図10の分解斜視図。
【図12】図10の右側面図。
【図13】本発明の実施形態に係る動力伝達図。
【図14】クラッチ入作用時を示すエンジンの右側面図。
【図15】クラッチ切作用時を示すエンジンの右側面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面に基づいて本発明の実施形態に係るコンバインについて説明をする。なお、説明中の方向は作業者が機体に着座した状態を基準として考えるものとする。
【0017】
[コンバインの概略]
図1に示すように、コンバイン(移動農機)1は、左右一対のクローラ走行装置2,2に支持された機体3を有していると共に、機体3の前方には前処理部5が昇降自在に設けられている。該前処理部5の側方には作業者が運転操作を行うキャビン6が設けられており、キャビン6内の運転座席(不図示)の下方にはエンジン9が収容されているエンジンルーム7が位置している。該エンジンルーム7は、上記キャビン6のドア10が設けられている機体3の右側面に開口しており、開口部にはエンジンカバー11が開閉自在に取付けられている。
【0018】
また、図2及び図3に示すように、エンジンルーム7には、エンジン9の他に、詳しくは後述するラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15などの冷却装置が配設されており、上記エンジンカバー11の枠部の内側は、これら冷却装置12,13,15の被冷却流体を(クーラント、エンジンオイル、ミッションオイル、エアコンの冷媒など)を冷却するために外気をエンジンルーム7内に導入するための吸気口19となっている。吸気口19には、網状に形成された防塵用カバー20が設けられており、エンジンルーム7に外気と一緒に異物が吸引されないように構成されている。
【0019】
[エンジンルーム内の構成]
次に、エンジンルーム内の構成について詳しく説明をする。図4乃至図6に示すように、機体3はその前後方向に並設された一対の機体横フレーム21a,21bを有しており、機体横フレーム21a,21bの左右には取付けブラケット22,22が設けられている。これら取付けブラケット22,22にはエンジンサポート23a,23bが取付けられており、エンジン9はエンジンサポート23a,23bにボルトによって固定されて機体3に搭載されている。また、ブラケット22とエンジンサポート23a,23bとの間にはエンジン防振ゴム(防振部材)25・・・が介在しており、エンジン9の振動が機体3に、もしくは機体3からの振動がエンジン9に伝達しないようになっている。
【0020】
上記エンジン9の左右両側面からは出力軸であるクランク軸26(図13参照)が突出しており、機体外側である右側面から突出したクランク軸26には、第1駆動プーリ27と第2駆動プーリ29とからなる2つの駆動プーリが設けられている。また、エンジン9には、ウォータポンプ30や、オルタネータ31などの駆動系補機が取付けられており、図7乃至図9に示すように、上記ウォータポンプ30の駆動軸(支持軸)32(以下、ウォータポンプ軸という)にはボルト33によってウォータポンププーリ35が固定されている。
【0021】
該ウォータポンププーリ35は片ボス構造をしており、このボス部35aにはベアリング36を介してファンプーリ37が遊嵌されている。また、ウォータポンププーリ35のボス部35aの中心には軸部35bが突設されており、該軸部35bには上記ファンプーリ37の中心孔が嵌合していると共にベアリング39が設けられている。ファンプーリ37の側面には4本のボルト40・・・によってボス41が取付けられていると共に、このボス41とファンプーリ37との間には吸引ファンボス42が介在してファンプーリ37に固定されている。これら吸引ファンボス42及びボス41は、上記軸部35bに設けられたベアリング39によってウォータポンププーリ35に対して回転自在に構成されており、それにより、吸引ファンボス42から円周方向に延設された羽部43はウォータポンププーリ35と独立して回転可能に構成されている。これらファンプーリ37、吸引ファンボス42、羽部43などによってエンジンルーム7に外気を導入する吸引ファン45が構成されている。
【0022】
なお、上記軸部35bの先端にはナット46が螺合されてベアリング39を抜け止めして保持しており、該ベアリング39とファンプーリ37との間にはライナー47が介在していると共に、ナット46とベアリング39との間にはワッシャ49が介在している。
【0023】
また、上記オルタネータ31の駆動軸31aにも、オルタネータプーリ50が設けられており、これらオルタネータプーリ50、ウォータポンププーリ35からなる駆動系補機30,31のプーリ35,50と、エンジン側に設けられた第1駆動プーリ27と、の間には補機駆動ベルト(伝動ベルト)51が巻回されている。更に、機体外側に設けられた第2駆動プーリ29と、ファンプーリ37との間にはファン駆動ベルト(伝動ベルト)52が巻回されている。これにより、第1駆動プーリ27、補機駆動ベルト51を介して駆動系補機30,31に動力が伝達する補機伝動系Aと、第2駆動プーリ29、ファン駆動ベルト52を介して吸引ファン45に動力が伝達する吸引ファン伝動系Bとが独立して構成されている。ウォータポンプ30及びオルタネータ31からなる駆動系補機には、上記補機伝動系Aにより常時、エンジン9からの動力が伝達される。
【0024】
一方、上記吸引ファン伝動系Bの伝動ベルト(ファン駆動ベルト)52にはベルトテンションクラッチ53が設けられており、上記吸引ファン45は、該ベルトテンションクラッチ53により吸引ファン伝動系Bの動力を断接して、駆動/停止可能に構成されている。該吸引ファン伝動系Bのベルトテンションクラッチ53は、ファン駆動ベルト52に転接して緊緩させるテンションローラ55と、該テンションローラ55を揺動自在に支持するテンションアーム56と、該テンションアーム56を回動させる電動モータアッシ57と、テンションアーム56を駆動側であるファン駆動ベルト側に付勢するテンションスプリング59と、ファン駆動ベルト52を案内する複数のベルトガイド61,76,77,79,80と、から構成されている。
【0025】
上記テンションアーム56は略々L字状のプレート部材からなり、その角部がクランク軸26と同軸上に設けられたテンションアーム回動軸(回動支点)60に回動自在に支持されている。そして、長手側のアームの先端部にはテンションローラ55が取付けられていると共に、このテンションローラ55は内側から外側に向けてファン駆動ベルト52の内周面に転接している。また、上記長手側のアームの先端部には、テンションローラ以外にも略々U字状に屈曲して形成されたベルトガイド61が設けられており、該ベルトガイド61はファン駆動ベルト52を挟んでテンションローラ55とは反対側の外周面側から当接してベルト52を案内している。
【0026】
更に、短手側のアームの先端部には突起部56bが形成され、該突起部56bが電動モータアッシ57の駆動リンク(接続部材)62の先端に設けられた長孔62aに嵌合してこれらテンションアーム56と電動モータアッシ57とが接続されている。電動モータアッシ57は、電動モータ63と、該電動モータ63を取付けると共に回動アーム65を案内する切欠き66aが形成されたプレート状の電動モータブラケット66と、該回動アーム65と連結する上記駆動リンク62とからなり、上記電動モータブラケット66がカラー69・・・を介して、機体後方側のエンジンサポート23bと一体に形成された取付けプレート74との間に電動モータ63を挟む形でボルト71・・・によってアッシ単位で脱着可能に固定されている。
【0027】
一方、機体前方のエンジンサポート23aには取付けプレート72がボルトによって脱着自在に取付けられており、該取付けプレート72にはテンションスプリング59の取付け座73が設けられている。該取付け座73には、その先端にテンションスプリング59の一端を取付けるロッド75が着脱自在かつ、ナットにより位置調節自在に設けられており、該テンションスプリング59の他端はテンションアーム56の短手側アームに取付けられている。
【0028】
そのため、これら電動モータアッシ57の駆動リンク62とテンションスプリング59とはその引張り方向が反対になるように、前後のエンジンサポート23a,23bに前記テンションアーム56を挟んで対向して一列状に配置されている。また、これら電動モータアッシ57及びテンションスプリング59のテンショアーム側の取付け部(突起部)56a,56bは、上記テンションアーム回動軸60と機体の前後方向位置が略々同じになるように上下に一列状に設けられていると共に、テンションアームに対して平行(直角方向)に力を作用させるため、上記取付け部56a,56bとエンジンサポート側の取付け位置との高さが略々同じになるように構成されている。
【0029】
更に、上記駆動リンク62のテンションアーム側の取付け部56bを、テンションスプリング59よりも先端側に配置し、上記テンションアーム回動軸60からの距離を長くする(L>S)ことによって(図4参照)、テンションスプリング59の付勢力による電動モータ63の負荷を低減すると共に、テンションアーム56の揺動によるテンションスプリング59のストロークが短くなるように構成している。
【0030】
また、上記機体前方側エンジンサポート23aの取付けプレート72にはファン駆動ベルト52の前方側を案内する2つのベルトガイド76,77が取付けられており、上方側のベルトガイド76は、ファンプーリ37を挟んでテンションアーム56の先端に取付けられたベルトガイド61と略々対向する位置で、該ファンプーリ37の下方側をファン駆動ベルト52の外周側から案内している。一方、下方側のベルトガイド77は第2駆動プーリ29の前方側から下方側に沿って延設されており、ファン駆動ベルト52が前方及び下方に弛まないようにを案内している。
【0031】
更に、ファン駆動ベルト52の後方側では、ベルトガイド61の他に、テンションアーム56の短手側アームに第2駆動プーリ29の下方でファン駆動ベルト52を案内するベルトガイド79が設けられていると共に、ファンプーリ37の略々中心位置の高さにおいてファン駆動ベルト52を案内するベルトガイド80がエンジン9に取付けられている。
【0032】
[冷却装置の構成]
ついで、冷却装置について説明する。図2及び図3に示すように、冷却装置は上記吸引ファン(エンジン)側からエンジンカバー(吸気口)側に向って、ラジエータ12、オイルクーラ13、コンデンサ15の順で略々一列状に並んで配設されており、それぞれ被冷却流体を冷却するための多数の冷却フィンを有している。
【0033】
また、ラジエータ12とオイルクーラ13との間には、上述した吸引ファン45とは反対にエンジン側から吸気口側へと送風する軸流ファンである電動ファン81が設けられていると共に、コンデンサ15の後方側(側方)には液化した冷媒の汚れや水分を取除くと共に、この冷媒を一時的に蓄えるレシーバドライヤ82が配置されている。
【0034】
図10乃至図12に示すように、オイルクーラ13はオイルクーラ支持部材83が機体3に固定されたラジエータ12のシュラウド12aにボルトにより取付けられて固定されていると共に、コンデンサ15もコンデンサ支持部材85がオイルクーラ13のエンジンカバー側からラジエータ12のシュラウド12aにボルトにより取付けられて固定されている。
【0035】
また、上記オイルクーラ支持部材83には、上記電動ファン81も支持されており、該オイルクーラ支持部材83のエンジンカバー側にオイルクーラ13が、エンジン側に電動ファン81が支持されている。
【0036】
更に、上記電動ファン81及びオイルクーラ13並びにコンデンサ15は、電動ファン81から防塵用カバー20に均一に送風できるように、該電動ファン81の中心と防塵用カバー20の把手部を除いた有効面積部分の中心とが一致するように上記ラジエータ12のシュラウド12aに取付けられており、エンジンルーム7の略々中心に設けられている吸引ファン45とは機体の前後方向に位置がオフセットしている。
【0037】
また、電動ファン81よりもエンジンカバー側にあるオイルクーラ13及びコンデンサ15は、電動ファン81がその背面に隠れる大きさ(吸気口19側からの投影面積内に電動ファン81が位置するよう)に形成されていると共に、電動ファン81はこれらオイルクーラ13及びコンデンサ15の略々中心に位置しており、エンジンカバー11を開けても吸気口側から電動ファン81が見えないようになっている。
【0038】
[作用]
次に、本実施の形態に係るコンバインの作用について説明をする。
【0039】
図13に示すように、エンジン9が始動してクランク軸26が回転すると、該クランク軸26に設けられた第1駆動プーリ27が回転し、補機駆動ベルト51を介してウォータポンププーリ35及びオルタネータプーリ50に動力が伝達される。そして、これらウォータポンププーリ35及びオルタネータプーリ50によって駆動系補機30,31の駆動軸(ウォータポンプ軸32及びオルタネータ軸31a)が回転し、ウォータポンプ30及びオルタネータ31が駆動する。これら駆動系補機30,31には、補機伝動系Aを介してエンジン9からの動力が常時伝達される。
【0040】
一方、クランク軸26が回転すると第2駆動プーリ29も回転し、ファン駆動ベルト52によりファンプーリ37に動力を伝達する。すると、吸引ファン45が回転してエンジンカバー11の吸気口19からエンジンルーム7内へと外気が吸引され、この外気がコンデンサ15、オイルクーラ13、ラジエータ12の冷却フィンの間を通ることにより、これら冷却装置12,13,15の被冷却流体が冷却される。
【0041】
[作業時の作用]
そして、作業者が不図示の作業機クラッチ(例えば脱穀クラッチや作業機クラッチなど)を接続(係合)状態にして収穫作業を開始すると、不図示の制御部が除塵制御を開始し、所定のタイマ(第1タイマ)が経過すると電動モータ63に制御信号が出力される。該制御信号が出力されると、電動モータ63は回動アーム65を切欠き66aに沿って回動させ、テンションスプリング59の付勢力に抗して駆動リンク62を機体後方側に引張って図14の接続位置から図15の切断位置まで移動させる。
【0042】
すると、ベルトテンションクラッチ53のテンションアーム56が内周側(機体前方側)に回動し、該テンションアーム56の先端部に設けられたベルトガイド61によってファン駆動ベルト52が外周側から内周側に向って押圧される。該ファン駆動ベルト52は内周側に押圧されると、ベルトガイド76,80によってファンプーリ37の前方側と後方側が押さえられているため、該ファンプーリ37の上方側へと弛んで吸引ファン伝動系Bの動力が切断される。
【0043】
この時、ファン駆動ベルト52に内周側から外周側へ向けて転接していたテンションローラ55を離脱する方向に移動させるだけでなく、ベルトガイド61によってファン駆動ベルト52を内周側に押圧するため、該ファン駆動ベルト52は外れることなく内側に案内され、確実にクラッチが切断される。また、ファン駆動ベルト52はその下方をベルトガイド77,79によって案内(支持)されているため、重力によってベルトが下方に移動してしまうこともない。
【0044】
上記吸引ファン伝動系Bの動力が切断されるとファンプーリ37の回転が止まり吸引ファン45の回転が停止する。また、電動モータ63と同時に電動ファン81にも制御部から制御信号が出力されており、上記吸引ファン45が停止すると電動ファン81が回転を始める。電動ファン81が回転し始めると、風路に介在しているオイルクーラ13及びコンデンサ15の冷却フィンの間を通って防塵用カバー20へと送風され、該防塵用カバー20に付着した塵埃が除去される。
【0045】
上記電動ファン81は軸流ファンであるため、その送風力はファンの外周側が強く中心側が弱いが、上記オイルクーラ13及びコンデンサ15の冷却フィンによって流れが制限され、流れの速い外側の風の一部が中心側の冷却フィンの間を通るため、中心側の風力が強まり防塵用カバー20には略均一に送風され、防塵用カバー20の塵埃はファン外側だけでなく、ファン中心側も偏ることなく除去される。
【0046】
そして、一定期間(第2タイマ)の間、電動ファン81を駆動させると、制御部から制御信号が出力されて、電動ファン81を停止させると共に電動モータ63を駆動してベルトテンションクラッチ53を接続位置(図14の位置)へと移動させる。電動モータ63により駆動リンク62が機体前方側に移動すると、テンションアーム56は、テンションスプリング59の付勢力により短手側アームが機体前方側に付勢され、テンションアーム回動軸60を中心に機体後方側に回動する。すると、テンションローラ55がファン駆動ベルト52を内周側から外周側に押圧してテンションを掛け、ファンプーリ37に動力が伝達されて吸引ファン45が回転する。上記制御部は作業機クラッチが接続している間、上記第1タイマ及び第2タイマを繰り返して、防塵用カバー20の除塵をしつつ収穫作業を行う。
【0047】
なお、補機伝動系Aと吸引ファン伝動系Bとは独立して構成されているため、ベルトテンションクラッチ53が切断位置(図15の位置)にあり、該吸引ファン伝動系Bの動力伝達が切断されている場合でも駆動系補機30,31には常に動力が伝達されている。
【0048】
[故障時の作用]
一方、上述したベルトテンションクラッチ53が切断位置において電動モータ63が故障すると、該電動モータ63はワイパーモータであるためテンションアーム56が切断位置に固定され、吸引ファン伝動系Bの動力伝達が切断されたままになって吸引ファン45が駆動不能に陥る。
【0049】
すると作業者は、エンジン9を停止してエンジンカバー11を開けると共に、背面に電動ファン81が隠れたコンデンサ15及びオイルクーラ13が取付けられたラジエータ12の位置をずらす。そして、電動モータアッシ57を取付けている3本のボルト71を後方側のエンジンサポート23bから取外す。
【0050】
電動モータアッシ57が取外されると、テンションスプリング59の付勢力によってテンションアーム56が接続位置に移動し、作業者はこの状態で収穫作業を続行し、作業後に電動モータアッシの修理を行う。
【0051】
上述したように、補機伝動系Aと吸引ファン伝動系Bとを独立して構成したことによって、シンプルかつコンパクトな構成で駆動系補機30,31にエンジン9からの動力を常時伝動しつつ、吸引ファン45を駆動/停止させることができるため、スペースの少ないエンジンルーム7においても容易に取付けることが出来る。そのため、様々なコンバインに上記装置を取付けることができ、汎用性が向上した。更に、吸引ファン伝動系Bを機体外側に設けたことによって、容易にベルトテンションクラッチ53を調整することができる。
【0052】
また、ウォータポンプ軸32に吸引ファン45を遊嵌支持したことにより、吸引ファン専用の支持部材を設ける必要がない。更に、吸引ファン45が停止している際に伝動ファン81によって防塵用カバー20に送風するため、効率よく防塵用カバーの塵埃を除去することができる。
また、テンションアーム56の先端に、ファン駆動ベルト52を外側からガイドするベルトガイド61を設けたことによって、ベルトテンションクラッチ53が接続時には、ベルトの外周面を案内して該ファン駆動ベルト52がファンプーリ37から外れることを防止できると共に、切断時にはベルトを内周側に押圧することによって、クラッチの切断を補助することができる。
【0053】
また、ファンプーリ37の前部及び後部において、その下方もしくは中心位置にベルトガイド76,80を設けたことにより、確実にファン駆動ベルト52をファンプーリ37の上方側に弛ませることができる。更に、第2駆動プーリ29の下方をベルトガイド77,79により案内することにより、伝動ベルトが自重により下がることを防止することができる。
【0054】
これらベルトガイド61,76,77,79,80の働きにより、内周側から外周側に向けてテンションローラ55を転接させるため、ベルトが外れやすくなる虞のあるベルトテンションクラッチ53においても、ベルトの外れを確実に防止することができると共に、ベルトが遠心力などによって外側に広がったとしても確実にクラッチを切断することができる。
【0055】
また、テンションアーム56は、テンションスプリング59により常に駆動側に付勢されているため、作業者は電動モータ63が故障してベルトテンションクラッチ53が切断状態になっても、電動モータアッシ57を取外すことによって容易にベルトテンションクラッチ53を接続させることができる。この時、テンションアーム56は上記テンションスプリング59の付勢力によって駆動側に移動するが、ファン駆動ベルト52はベルトガイド61,76,77,79,80によって常に外れる事がないように正しい位置に案内されているため、作業者は安心して電動モータアッシ57を取外すことができる。また、該電動モータアッシ57は3本のボルト71,71,71により取付けられているため、作業者は容易にアッシごと脱着することができる。
【0056】
更に、エンジン防振ゴム25・・・を介して機体横フレーム21a,21bのブラケット22,22に取付けられたエンジンサポート23a,23bの内、機体前方側のエンジンサポート23aにテンションスプリング59を取付け、機体後方側のエンジンサポート23bに電動モータアッシ57を取付けたことによって、ベルトテンションクラッチ53と、該ベルトテンションクラッチ53に接続された電動モータアッシ57及びテンションスプリング59を同一振動にすることができる。
【0057】
そのため、電動モータ63とテンションアーム56とを接続する駆動リンク62に振動差に基づく負荷が生じず、クラッチの信頼性が向上すると共に、リンク機構によってこれら電動モータ63及びテンションアーム56を接続したこととも相俟って、クラッチの操作性も向上した。更に、振動差を吸収する緩衝構造を介して接続する必要がないため、シンプルな構造とすることが出来ると共に、装置の信頼性を向上させることができる。
また、テンションスプリング59もベルトテンションクラッチ53と同一振動であるため、振動差によるテンションスプリング59への余計な負荷を低減することができる。更に、テンションスプリング59を電動モータアッシ57に対向させて配置することによって、電動モータアッシ57の前方側であるエンジンサポート23a周りのスペースを有効に活用することができ、シンプルかつコンパクトな構成となると共に、テンションスプリング59を容易に調節することができる。
【0058】
また、テンションスプリング59のエンジンサポート側の端を取付けるロッド75を、その取付け座73から脱着自在に構成したことによって、該テンションスプリング59をロッド75に仮組してから、ロッド75を持って取付け座73に取付けることができるため、組立性が向上した。更に、ロッド75をベルトガイドなどの取付け部として使用することができる。
【0059】
また、電動ファン81と防塵用カバー20との間にオイルクーラ13及びコンデンサ15を配設したことによって、電動ファン81からの風がこれらオイルクーラ13及びコンデンサ15の冷却フィンの間を通って防塵用カバー20に送風され、ファンの中心側の風力が強まるため、該防塵用カバー20に付着した塵埃を均一に除去することができる。また、これらオイルクーラ13及びコンデンサ15によって電動ファン81からの送風を整流するため、新たに整流板などを設ける必要がなく、コンパクトな構成とすることが出来る。
【0060】
更に、電動ファン81がコンデンサ15、オイルクーラ13の背面に隠れて配置されているため、エンジンカバー11を開けている際に、不意に電動ファン81が回転を始めても作業者側から見えることはない。また、これら電動ファン81とオイルクーラ13との支持部材83を兼用したことによって、コンパクトな構成とすることが出来ると共に、部品点数を削減することができる。
【0061】
なお、本実施の形態では、コンバインの吸引ファンの伝動系について説明したが、エンジンの動力により吸引ファンを駆動させる移動農機であればどのようなものでも良く、例えばトラクタ、田植え機などにも当然に適用することができる。
【0062】
また、駆動リンク62は、その長孔62aがテンションアーム56の突起部56bに嵌合して取付けられていると共に、長孔62aの機体前方端部と突起部56bとが常に当接して、テンションアーム56の位置を操作していたが、ベルトテンションクラッチ53が接続時には突起部56bと長孔62aが当接しないよう(例えば突起部56bが長孔62aの略々中心に位置するよう)にし、ファン駆動ベルト52からの反力とテンションスプリング59の付勢力とを釣り合わせる構成にしてもよい。更に、駆動リンク62の代わりにワイヤを用い、ベルトテンションクラッチ53が接続時には該ワイヤが弛んだ状態になるように構成してもよい。
【0063】
これにより、エンジンの脈動などによるファン駆動ベルト側からの負荷が電動モータ63に掛かることを防止することができると共に、非通電時の電動モータ63の保持力よりもテンションスプリング59の付勢力を強くすることで、電動モータ63の操作方向を引張り側、つまり機体後方側だけにしてベルトテンションクラッチの制御を容易にすることもできる。
【0064】
また、吸引ファン45の停止中に防塵用カバー20の塵埃を除去するための塵埃除去装置として電動ファン81を設けたが、この除去装置は電動ファン81に限るものではなく、防塵用カバー20に振動を与えるバイブレータ装置や、電動モータやHSTなどの動力装置によって吸引ファン45を逆転させる構成としてもよい。また、特にこれらの塵埃除去装置を設けず、機体3の振動によって防塵用カバー20に付着した塵埃を除去するように構成してもよい。
【0065】
更に、上記第1及び第2のタイマの時間は、エンジンのサイズ、発熱量などを考慮して適宜設定されると共に、上記除塵制御をスイッチなどで強制的に作動できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 移動農機(コンバイン)
7 エンジンルーム
9 エンジン
19 吸気口
20 防塵用カバー
27 第1駆動プーリ
29 第2駆動プーリ
30 ウォータポンプ(駆動系補機)
31 オルタネータ(駆動系補機)
45 吸引ファン
51 補機駆動ベルト(伝動ベルト)
52 ファン駆動ベルト(伝動ベルト)
53 ベルトテンションクラッチ
81 電動ファン
A 補機伝動系
B 吸引ファン伝動系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム内に収容されたエンジンと、該エンジンからの動力により回転して前記エンジンルーム内に外気を導入する吸引ファンと、前記エンジンからの動力により駆動する駆動系補機と、前記エンジンルームの吸気口に設けられ異物の侵入を防止する防塵用カバーと、を備えた移動農機において、
前記エンジンの出力軸に、第1駆動プーリと第2駆動プーリとを並設し、
該第1駆動プーリに巻回された伝動ベルトを介して前記エンジンからの動力を常時、前記駆動系補機に伝達する補機伝動系と、
前記第2駆動プーリに巻回された伝動ベルトを介して前記吸引ファンに動力を伝達する吸引ファン伝動系と、を互いに独立して配設すると共に、
機体外側に設けられた前記吸引ファン伝動系の伝動ベルトにテンションクラッチを設け、前記駆動系補機を駆動させつつ前記吸引ファンを駆動/停止自在に構成した、
ことを特徴とする移動農機。
【請求項2】
前記駆動系補機を前記エンジンに設けると共に、該駆動系補機の入力軸に前記吸引ファンを遊嵌支持してなる、
請求項1記載の移動農機。
【請求項3】
前記吸引ファンの停止時に、前記防塵用カバーに向け送風して付着した塵埃を除去する電動ファンを設けてなる、
請求項1又は2記載の移動農機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−223089(P2010−223089A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70931(P2009−70931)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】