説明

移載用治具、記録媒体用ガラス基板の製造方法、記録媒体用ガラス基板及び記録媒体

【課題】記録媒体用ガラス基板を安定して移載ができ、ガラス基板に傷を付けない移載用治具、該移載用治具を用いた記録媒体用ガラス基板の製造方法、記録媒体用ガラス基板及び記録媒体を提供することである。
【解決手段】中央に開口部を有するガラス基板を移載する移載用治具5において、前記移載用治具5が、棒状の移載部50と、握り部51とを有し、前記開口部を前記移載部50の凹部の2カ所の支持部P1,P2で支持する移載用治具。前記移載部50は、棒状の芯材502と、該芯材の側面に固着保持する凹部を有する一対の板材501とを有し、前記棒状の芯材502が金属であり、前記一対の板材501が樹脂からなることを特徴とする移載用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移載用治具、該移載用治具を用いた記録媒体用ガラス基板の製造方法、記録媒体用ガラス基板及び記録媒体関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体用基板としては、デスクトップ用コンピュータやサーバなどの据え置き型の情報機器にはアルミニウム合金が使用され、ノート型コンピュータやモバイル型コンピュータなどの携帯型の情報機器にはガラス基板が一般に使用されていた。アルミニウム合金は変形しやすく、また硬さが不十分であるため研磨後の基板表面の平滑性が十分とは言えなかった。さらに、記録用ヘッドが機械的に磁気ディスクに接触する際、磁性膜が基板から剥離しやすいという問題もあった。そこで、変形が少なく、平滑性が良好で、かつ機械的強度の大きいガラス基板が、携帯型のみならず据え置き型の情報機器やその他のテレビ等の家庭用機器にも今後広く使用されていくものと予測されている。
【0003】
記録媒体用ガラス基板の機械的強度を向上させるために、化学強化処理が従来から広く行われている。この化学強化処理は、化学強化処理槽内に貯留された化学強化液中にガラス基板を浸漬し、ガラス基板表面のアルカリ金属イオンを、そのアルカリ金属イオンよりも大きなイオン径のアルカリ金属イオンと置換することにより圧縮歪みを発生させ、機械的強度を向上させるものである。
【0004】
このガラス基板を化学強化する際には、例えば、次のような方法が用いられる。複数のガラス基板を保持した保持部材を予め300℃に加熱し、400℃の化学強化処理液の入った化学強化処理槽に約3時間浸漬する。この後、ガラス基板を保持した保持部材を化学強化処理液から取りだし、20℃の水槽に浸漬して急冷し約10分間維持することでガラス基板表面の化学強化を行うことができる。
【0005】
このため、化学強化処理を行うまでは、プラスチックなどの軽く可搬性のよい保持部材(以後、プロセスカセットと呼ぶ。)を用いて、製造工程間を移送しているが、化学強化処理を行うための保持部材は、高温の化学強化処理槽に浸漬しても大丈夫な金属で構成されたものが一般的に用いられる。たとえば、特許文献1に記載されているものが知られている。
【0006】
この保持部材30は、図1に示すように3つの穴が形成された板状の側板36に、ソロバン玉状の複数の突部を有する3本の軸状体32が固定されたものである。これらの軸状体32に形成される突部の間には、谷底部が形成され、これらの谷底部はガラス基板31の外周部を支持することができる。そして、これらの軸状体32はガラス基板31の外周部の3箇所を支持することによってガラス基板31の側面が軸状体32の軸線方向と直交するように複数のガラス基板31を保持できるようになっている。
【0007】
このために化学強化処理工程前まで用いられているプラスチック製のプロセスカセット上のガラス基板31を化学強化処理工程用の保持部材30に移載する必要がある。この移載用治具として、従来、図2に示すようなソロバン玉状の複数の突起を有する軸40に握り部41を取り付けた移載治具4をガラス基板31の開口部に差し込んで、持ち上げ、移載していた。また、化学処理工程後は、化学処理工程用の保持部材30から前記移載治具を用いて、可搬性のよいプラスチック製のプロセスカセットに移載し、搬送するようにしている。
【特許文献1】特開平7−176045号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図2に示すような従来の移載治具4では、支持点Pが断面からみて1点しかなく、軸40を中心としてガラス基板31が振れやすく、移載動作をゆっくりと慎重に行わないとガラス基板31を保持部材30などに当ててしまい、傷を付けることがあった。
【0009】
従って、本発明が解決しようとする技術課題は、ガラス基板を安定して移載ができ、ガラス基板に傷を付けない移載用治具、該移載用治具を用いた記録媒体用ガラス基板の製造方法、記録媒体用ガラス基板及び記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有するものである。
【0011】
1.
中央に開口部を有するガラス基板を移載する移載用治具において、
前記移載用治具が、凹部を有する棒状の移載部と、握り部とを有し、
前記凹部の2カ所で前記ガラス基板の開口部を支持する支持部を有することを特徴とする移載用治具。
【0012】
2.
前記移載部は、棒状の芯材と、該芯材の側面に固着保持する凹部を有する一対の板材とを有することを特徴とする1に記載の移載用治具。
【0013】
3.
前記棒状の芯材が金属であり、前記一対の板材が樹脂からなることを特徴とする2に記載の移載用治具。
【0014】
4.
ガラス基板を化学強化液に浸漬し化学強化を行う工程を有する記録媒体用ガラス基板の製造方法において、1乃至3の何れか1項の移載用治具を用いることを特徴とする記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【0015】
5.
4に記載の記録媒体用ガラス基板の製造方法を用いて製造されることを特徴とする記録媒体用ガラス基板。
【0016】
6.
5に記載の記録媒体用ガラス基板の表面に磁性膜を有することを特徴とする記録媒体。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、中央に開口部を有するガラス基板の前記開口部を移載用治具の移載部の凹部2カ所で支持する支持部を有する構成としたので、ガラス基板を安定して移載することができ、ガラス基板に傷を付けない移載用治具、該移載用治具を用いた傷のない記録媒体用ガラス基板の製造方法、記録媒体用ガラス基板及び記録媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。
【0019】
図3に本発明に係る移載用治具の一実施形態を示す。移載用治具5は、棒状の芯材502の側面に凹部を有する一対の板材501を固着保持した移載部50と、芯材502の端部に取り付けられた握り部51等で構成される。
【0020】
この移載用治具5は、ガラス基板製造工程において、複数枚のガラス基板31を同時に保持し移動させるプロセスカセットと、複数枚のガラス基板を同時に化学強化処理するための化学強化処理工程で用いる保持部材30との間で、ガラス基板を移載するために用いる治具で、移載時にガラス基板同士が接触して傷ついたり、割れたりすることがないように、安定した状態で移載できるものである。
【0021】
図4(a)、(b)にガラス基板31を複数枚保持できるプラスチックでできたプロセスカセット6の上面図(a)と正面図(b)を示す。プロセスカセット6は、ガラス基板製造工程において、溶融したガラスをプレス成形した後、このプロセスカセットに載置して各工程を移動し、ガラス基板31を化学強化する化学強化工程前の洗浄工程まで用いられる。洗浄工程を終えた後は、ガラス基板31を図3に示す化学強化用保持部材30に移載して、化学強化処理を行う。
【0022】
この時、プロセスカセット6から保持部材30にガラス基板31を移載するのに図3に示す移載用治具5を用いる。プロセスカセット6に載置されたガラス基板31の中央に開けられた開口部に移載用治具5を挿入し、移載用治具5に設けられた凹部でガラス基板31を支持し、プロセスカセット6の上部に引き上げて取り出し、その状態で化学強化用保持部材30に移載する。移載用治具5の凹部に支持されたガラス基板31は、ガラス基板31の中央部に開けられた開口部の2カ所の支持部(図3(b)のP1、P2)で一対の板材501と接触することで、がたつきや支持された点を中心とした振れ等を起こすことなく安定して移載することができる。なお、図3(b)において、凹部を形成する一対の板材501のP1とP2の間隔は、移載するガラス基板31に開けられた内径D2の1/4〜3/4の値であることが好ましい。この範囲にすることで、ガラス基板31の開口に移載用冶具5を容易に挿入することができ、かつ、ガラス基板31をより安定して支持し、移載することができる。この範囲より小さいと不安定になりやすく、この範囲より大きいと挿入しにくくなる。
【0023】
図3の凹部は、V字状の溝で、底面部が平坦な形状の例を示しているが、平坦でなくV字状やR状であっても良く、移載用治具5の棒状の移載部50の両側部の2カ所で支持する構成であればよい。平坦な場合は、2カ所の支持部で線接触し、V字状又はR状では、左右の側部のそれぞれの2点で接触して支持する。このように移載部50の両側部2カ所で支持することで、ガラス基板が移載時に振れることがなく、安定して移載することができる。
【0024】
また、棒状の芯材502と、凹部を有する一対の板材501とは、一体の部材で構成されたものであっても良い。芯材502と板材501に分けることにより、芯材502を金属などの丈夫な材料で構成し、板材501をガラス基板31を傷つけない樹脂材料で構成することができる。また、図5に示すように芯材502の周囲に樹脂でできた外周部材503を被覆して、溝504を形成したものでも良い。溝504は、V字状やR状(円弧状)でも良く、さらには平坦状でも良い。
【0025】
次にガラス基板の製造工程にそって、本発明に係る移載用治具5の使用例について具体的に示す。
【0026】
(製造工程)
記録媒体用ガラス基板の製造方法について説明する。図6に、記録媒体用ガラス基板の製造工程の例をフロー図で示す。まず、ガラス素材を溶融し(ガラス溶融工程)、溶融ガラスを下型に流し込み、上型によってプレス成形して円盤状のガラス基板前駆体を得る(プレス成形工程)。なお、円盤状のガラス基板前駆体は、プレス成形によらず、例えばダウンドロー法やフロート法で形成したシートガラスを研削砥石で切り出して作製してもよい。
【0027】
プレス成形されたガラス基板前駆体は、コアドリル等で中心部に開口部が開けられてガラス基板31となる(コアリング工程)。そして、次にガラス基板31の両表面が研磨加工され、ガラス基板の全体形状、すなわちガラス基板の平行度、平坦度および厚みが予備調整される(第1ラッピング工程)。
【0028】
この第1ラッピング工程を終えたガラス基板31は、図4に示すプロセスカセット6に1枚ずつセットされ、基板表面が傷つかないように保持された状態で次の化学強化工程で用いられる保持部材30に移載するまでの間、各工程間を移動する。
【0029】
第1のラッピング工程後、ガラス基板31の外周端面および内周端面が研削され面取りされて、ガラス基板31の外径寸法および真円度、孔の内径寸法、並びにガラス基板31と孔との同心度が微調整される(内・外径加工工程)。微調整された後、次の工程としてガラス基板31の内周端面が研磨されて微細なキズ等が除去される(内周端面加工工程)。
【0030】
次に、ガラス基板31の両表面が再び研磨加工されて、ガラス基板31の平行度、平坦度および厚みが微調整される(第2ラッピング工程)。そして、ガラス基板31の外周端面が研磨されて微細なキズ等が除去される(外周端面加工工程)。
【0031】
次に、ガラス基板31が洗浄された(洗浄工程)後、プロセスカセット6に載置されているガラス基板31を図1に示す保持部材30に移載する。この移載時に、本発明に係る移載用治具5をプロセスカセット6に保持されているガラス基板の中央の開口部に挿入し、移載用治具5の凹部にガラス基板31を支持して、プロセスカセット6の上部方向に引き上げて取り出す。次に、この移載用治具5に支持したガラス基板31を化学強化処理用の保持部材30の凹部に対応する位置に持っていき、移載を行う。
【0032】
このように本発明に係る移載用治具5を用いることにより、移載時のガラス基板31の振れがなく、安定した状態で移載できるので、ガラス基板31に傷を付けることがない。また、作業効率もあがる。
【0033】
化学強化処理用の保持部材30にガラス基板31を移載した後、化学強化液にガラス基板31を浸漬してガラス基板31に化学強化層を形成する(化学強化工程)。この後、再度、移載用治具5を用いて、プロセスカセット6に移載し、後の工程間の移動用のカセットととして用いる。
【0034】
次の工程として、ガラス基板31の表面を精密に仕上げる研磨加工を行う(ポリッシング工程)。そして洗浄(洗浄工程)及び検査(検査工程)が行われ、製品としての記録媒体用ガラス基板31が完成する。
【0035】
化学強化工程の前後で、ガラス基板31をプロセスカセット6から化学強化処理用の保持部材30に移載する理由は、化学強化工程で保持部材30が高温にさらされるためである。
【0036】
化学強化工程の内容を図7のフロー図に示す。洗浄されたガラス基板31は、予め加熱された(予熱工程)後、化学強化液に浸漬される(化学強化液浸漬工程)。化学強化液から取り出されたガラス基板31は、水にて洗浄され(水浸漬工程)、乾燥(乾燥工程)される。
【0037】
化学強化工程において、一連の予熱工程から乾燥工程までの各工程を実際に行う場合、例えば、以下のようにする。まず、複数枚のガラス基板31を保持した保持部材30を準備し、ガラス基板31を保持部材30とともに順次、予熱炉に投入し、化学強化液槽に浸漬し、洗浄槽に浸漬し、乾燥炉に投入することで、化学強化の一連の処理をすることができる。化学強化工程でガラス基板31及びこれを保持する保持部材30に加わる温度は、ガラス基板材料、化学強化液等により異なるが、例えば、おおよそ以下となる。予熱工程での予熱炉においては200℃から600℃、化学強化液浸漬工程での化学化学強化液槽においては280℃から660℃、水浸漬工程での洗浄槽においては35℃から100℃、乾燥炉においては100℃から150℃である。また、各工程の間では、保持部材30を上記の各炉また槽の間で室温下の空気中を移動させる必要がある。従って、ガラス基板及び保持部材30は、上記の例から室温と600℃程度といった急激な大きな温度差に晒されることになる。
【0038】
上記のような大きな温度差に晒される保持部材30は、プロセスカセットに用いられる樹脂できた、軽量で可搬性の良い材料を用いることができず、高温に耐える金属や、セラミック材料がおもに用いられるため、化学強化工程以外で、このような保持部材30を用いると重く、作業効率が悪くなる。このため、可搬性の良いプロセスカセット6と耐熱性の良い保持部材30との間を移載する必要がある。
【0039】
移載用治具5の材料としては、特に限定はしないが、芯材502には、機械的強度の強い金属を用い、ガラス基板と接触する支持部分については、樹脂を用いるのが、ガラス基板に傷を付けない点から好ましい。例えば、芯材としては、鉄、アルミ、SUS等を用いることができ、板材又は外周部材としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエステル、ポリアセタールなどの樹脂材料を用いることができる。
【0040】
(化学強化液浸漬工程)
化学強化液浸漬工程は、化学強化剤を溶融した化学強化液にガラス基板を浸漬させて、ガラス基板表層のアルカリ金属イオンを化学強化液のアルカリ金属イオンにイオン交換する。
【0041】
化学強化剤としては従来公知のものを使用でき、例えば、硝酸カリウム(KNO3)、硝酸ナトリウム(NaNO3)、炭酸カリウム(K2CO3)などが挙げられ、これらを単独又は2種以上混合して使用する。
【0042】
化学強化剤は化学強化処理槽に所定量投入し、加熱することによって溶融して化学強化液となる。化学強化液の加熱温度は、イオン交換の速度やガラス基板のガラス転移温度Tgなどの点から280℃〜660℃の範囲が好ましく、より好ましくは300℃〜450℃の範囲である。この高温側(上限値)がガラス転移温度Tgより低い300℃〜450℃の範囲とすることで、イオン交換の反応速度が遅すぎることなく、また、ガラス基板の形状に影響が生じない。
【0043】
ガラス基板を化学強化液に浸漬する時間は0.1時間〜数十時間の範囲が好ましい。また、本例に示しているように、ガラス基板を化学強化液に浸漬する前に、予め加熱しておくことが好ましい。予めガラス基板を加熱すると、化学強化液に浸漬した際に化学強化液の温度が低下し過ぎることがなく、化学強化を効率的に行うことができる。
【0044】
化学強化層の厚みとしては、ガラス基板の強度向上とポリッシング工程の時間の短縮との兼ね合いから、5μm〜15μm程度の範囲が好ましい。
【0045】
(水浸漬工程)
ガラス基板を化学強化液に浸漬した後、連続してガラス基板の表面の化学強化液をムラなく除去するために水に浸漬する。ガラス基板の全体を水に浸漬することで化学強化液がガラス基板上に部分的に存在することが無く、部分的に化学強化が進むことがなくなる。このため、化学強化にムラがないため、ガラス基板に一様な強度を持たせることができる。
【0046】
化学強化液や化学強化液を成す塩の結晶物は、浸漬する水の温度を高くするほどより短時間で効率よくガラス基板の表面から除去することができる。こうした水の温度は、大気圧下で、35℃から100℃が好ましい。また、ガラス基板を水に浸漬する時間は、1秒以上が好ましい。1秒未満であると、ガラス基板上の化学強化液を十分に除去できないため化学強化液がガラス基板上に残り、強化ムラが生じる。水に浸漬する時間の上限は、特に制限はなく、生産性を考慮して適宜決めればよい。
【0047】
また、水の温度と化学強化液との温度差により水浸漬工程においてガラス基板のひび、割れが発生しないように温度差を緩和するために、化学強化液浸漬工程と水浸漬工程との間でガラス基板を冷却する冷却工程を設けてもよい。
【0048】
(ガラス基板)
化学強化されるガラス基板としては特に限定はないが、二酸化ケイ素、酸化ナトリウム、酸化カルシウムを主成分としたソーダライムガラス;二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、R2O(R=K、Na、Li)を主成分としたアルミノシリケートガラス;ボロシリケートガラス;酸化リチウム−二酸化ケイ素系ガラス;酸化リチウム−酸化アルミニウム−二酸化ケイ素系ガラス;R’O−酸化アルミニウム−二酸化ケイ素系ガラス(R’=Mg、Ca、Sr又はBa)を使用することができ、これらガラス材料に酸化ジルコニウムや酸化チタン等を添加したものであってもよい。
【0049】
またガラス基板の大きさに限定はなく2.5インチ,1.8インチ、1インチ、0.85インチあるいはそれ以下の小径ディスクにも本発明の方法を適用することができ、またその厚さが2mmや1mm、0.63mm、あるいはそれ以下といった薄型のものにも適用することができる。
【0050】
化学強化工程に提供されるガラス基板において、主表面および端面部分の粗さに特に限定はないが、ガラス基板の主表面の表面粗度は、Rmax(最大高さ)が10nm以下、Ra(中心線平均粗さ)が1.0nm以下であるのが好ましい。また端面の表面粗度は、Rmaxが0.01μm〜1μmの範囲、Raが0.001μm〜0.8μmの範囲であるのが好ましい。表面研磨されたガラス基板を化学強化すると、強化層を均一に形成することができるようになる。
【0051】
(記録媒体)
次に、これまで説明した記録媒体用ガラス基板を用いた記録媒体について説明する。この記録媒体用ガラス基板を用いると、耐久性および高記録密度が実現される。以下、図面に基づき記録媒体について説明する。
【0052】
図8は磁気ディスクの斜視図である。この磁気ディスクDIは、円形の記録媒体用ガラス基板1の表面に磁性膜2が直接形成されている。磁性膜2の形成方法としては従来公知の方法を用いることができ、例えば磁性粒子を分散させた熱硬化性樹脂を基板上にスピンコートして形成する方法や、スパッタリング、無電解めっきにより形成する方法が挙げられる。スピンコート法での膜厚は約0.3μm〜1.2μm程度、スパッタリング法での膜厚は0.04μm〜0.08μm程度、無電解めっき法での膜厚は0.05μm〜0.1μm程度であり、薄膜化および高密度化の観点からはスパッタリング法および無電解めっき法による膜形成が好ましい。
【0053】
磁性膜に用いる磁性材料としては、特に限定はなく従来公知のものが使用できるが、高い保持力を得るために結晶異方性の高いCoを基本とし、残留磁束密度を調整する目的でNiやCrを加えたCo系合金などが好適である。具体的には、Coを主成分とするCoPt、CoCr、CoNi、CoNiCr、CoCrTa、CoPtCr、CoNiPtや、CoNiCrPt、CoNiCrTa、CoCrPtTa、CoCrPtB、CoCrPtSiOなどが挙げられる。磁性膜は、非磁性膜(例えば、Cr、CrMo、CrVなど)で分割しノイズの低減を図った多層構成(例えば、CoPtCr/CrMo/CoPtCr、CoCrPtTa/CrMo/CoCrPtTaなど)としてもよい。上記の磁性材料の他、フェライト系、鉄−希土類系や、SiO2、BNなどからなる非磁性膜中にFe、Co、FeCo、CoNiPt等の磁性粒子が分散された構造のグラニュラーなどであってもよい。また、磁性膜は、内面型および垂直型のいずれの記録形式であってもよい。
【0054】
また、磁気ヘッドの滑りをよくするために磁性膜の表面に潤滑剤を薄くコーティングしてもよい。潤滑剤としては、例えば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0055】
さらに必要により下地層や保護層を設けてもよい。磁気ディスクにおける下地層は磁性膜に応じて選択される。下地層の材料としては、例えば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。Coを主成分とする磁性膜の場合には、磁気特性向上等の観点からCr単体やCr合金であることが好ましい。また、下地層は単層とは限らず、同一又は異種の層を積層した複数層構造としても構わない。例えば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0056】
磁性膜の摩耗や腐食を防止する保護層としては、例えば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、磁性膜など共にインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一又は異種の層からなる多層構成としてもよい。なお、上記保護層上に、あるいは上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。例えば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して二酸化ケイ素(SiO2)層を形成してもよい。
【0057】
以上、記録媒体の一実施態様として磁気ディスクについて説明したが、記録媒体はこれに限定されるものではなく、光磁気ディスクや光ディスクなどにも本発明のガラス基板を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】化学強化工程に用いる保持部材を示す模式図である。
【図2】従来のガラス基板の移載用治具を示す模式図である。
【図3】本発明に係る移載用治具の一実施形態を示す模式図である。
【図4】ガラス基板の製造工程で用いるプロセスカセットを示す模式図である。
【図5】本発明に係る移載用治具の別の実施形態を示す模式図である。
【図6】記録媒体用ガラス基板の製造工程の例を示すフロー図である。
【図7】図1における化学強化処理工程の内容を示すフロー図である。
【図8】磁気ディスクの部分断面を含む斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1 記録媒体用ガラス基板
2 磁性膜
30 保持部材
31 ガラス基板
32 軸上体
36 側板
4、5 移載治具
41、51 握り部
40 軸
501 板材
502 芯材
503 外周部材
6 プロセスカセット
P1、P2 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に開口部を有するガラス基板を移載する移載用治具において、
前記移載用治具が、凹部を有する棒状の移載部と、握り部とを有し、
前記凹部の2カ所で前記ガラス基板の開口部を支持する支持部を有することを特徴とする移載用治具。
【請求項2】
前記移載部は、棒状の芯材と、該芯材の側面に固着保持する凹部を有する一対の板材とを有することを特徴とする請求項1に記載の移載用治具。
【請求項3】
前記棒状の芯材が金属であり、前記一対の板材が樹脂からなることを特徴とする請求項2に記載の移載用治具。
【請求項4】
ガラス基板を化学強化液に浸漬し化学強化を行う工程を有する記録媒体用ガラス基板の製造方法において、請求項1乃至3の何れか1項の移載用治具を用いることを特徴とする記録媒体用ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の記録媒体用ガラス基板の製造方法を用いて製造されることを特徴とする記録媒体用ガラス基板。
【請求項6】
請求項5に記載の記録媒体用ガラス基板の表面に磁性膜を有することを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−159199(P2008−159199A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−348961(P2006−348961)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】