説明

穀物のアレルゲンを低減化する方法ならびに調理機器および冷蔵庫

【課題】一般の家庭で誰でもが簡単に行える操作によって、穀類のアレルゲン低減化の処理が可能となる方法および機器を提供する。
【解決手段】温度環境を変化させる加温および冷却手段と、加圧および減圧手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とを備え、各手段を特定の組み合わせとして穀類に付与することにより穀類のアレルゲンを低減化することを可能とするものである。
また、この方法を用いることによって、保存する穀類に対して、温度環境を変化させる加温および冷却手段と加圧および減圧手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とを備え、これら各手段を特定の組み合わせとして食品に付与することにより食品のアレルゲンを低減化する機能を有する機器を提供することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物のアレルゲンを低下化する方法ならびにこの方法を用いた調理機器および冷蔵庫に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食物アレルギーの増加は深刻な社会問題となっている。平成17年度の厚生労働省の調査によると、国民の1/3がアレルギー体質であり、とりわけ乳児の10%が食物アレルギーを発症していることが明らかとなっている。現在、主として行なわれている食物アレルギーの治療方法においては、薬の投与と、アレルゲンとなる食品の排除である。しかし、発育段階における幼少児において、アレルゲンを含む食品を一切排除してしまうことは、栄養不足や発育障害を招く可能性もあり、望ましいことではない。したがって、栄養素は維持しながらも、アレルゲンとなるタンパク質を出来る限り除去した食品を提供することが望まれている。また一方で、毎日,大量に,反復して摂取している食物は食物アレルゲンの原因になりやすいことから、主要タンパク質供給素材である牛乳、卵、大豆、米、小麦が五大アレルギー食品となっている。従って、アレルギー原因食物の種類は年齢によって異なり、幼少時期では卵、牛乳が圧倒的であるが、成人までに治癒する場合が多い。しかし、主食である米、小麦などの穀類は成人で発症する場合が多く、加齢に伴って増加することが明らかになっている。そして、深刻な米アレルギーを抱える患者は、アレルギー患者用のアレルゲンを除去した加工米が推奨されている。
【0003】
また、穀類は毎日摂取することによって、アレルゲンとなり得る可能性が高いことから、アレルゲンとなり得るタンパク質を低減化した穀類を摂取することで、将来的にアレルギーの発症を予防することが可能である。
【0004】
例えば、従来の技術によると、それらのアレルゲンを除去した穀類などは、アレルゲンタンパク質が塩可溶性であることから、原料米を40〜60℃の塩水溶液に浸漬し、該原料米中の塩溶性蛋白質を抽出し、更に乳酸菌由来プロテアーゼあるいはアスパルティックプロテイナーゼを作用させることによって、原料米中の蛋白質、特に米中のアレルゲンの主要な成分であるアルブミン画分を効率よくかつ高い除去率で除去することを行っている(特許文献1参照)。また、米に高圧処理を施すことにより、主要なアレルゲンタンパク質であるアルブミン、グロブリンを選択的に抽出する方法もある(特許文献2参照)。さらには、穀類に(1)アルカリ性水溶液による処理、(2)酸性水溶液による処理、(3)タンパク質分解酵素による処理、及び(4)水による洗浄処理をこの順に実施することによって短時間に効率よくアレルゲン低減化且つ低タンパク質化穀類を製造する方法がある(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平11−009202号公報
【特許文献2】特開平07−354091号公報
【特許文献3】特開2001−33705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の発明では、米をタンパク質分解酵素処理によって処理することによって、アレルゲン以外のタンパク質も除去され、栄養素が維持されない場合があるほか、酵素処理を施すことによって本来の食感が失われる場合や、米特有の良い香りが消失するばかりか、不快な匂いの吸着によって、美味しさを損なわれる場合があった。また、これらの処理は工業的に行われるものであって50〜90MPaもの高圧を要したり、特異的なプロテアーゼを反応させるなど、装置が大掛かりなものになることや、操作が複雑になるということで、家庭で誰でもが簡便に行える操作ではないという課題を有していた。さらにこれらの処理を工業的に行い販売されている加工米は一般的に毎日摂取するには非常に価格が高い商品となっており、消費者にとって経済的な負担が大きい。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、穀類のアレルギーを発症している患者の存在する一般家庭で簡便に米や小麦などの穀類のアレルゲンを低減化し、更に、栄養や美味しさを損なわない加工ができる方法および調理機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来の課題を解決するために、本発明の方法は、穀類に水分を浸透させた後、一定の冷却処理を施す、あるいは、加温処理を施した後、冷却処理を施すことによってアレルゲンを低減化する。この方法を用いることによって、保存する穀類に対して、温度環境を変化させる加温および冷却手段と加圧および減圧手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とを備え、前記各手段を特定の組み合わせとして前記食品に付与することにより前記食品のアレルゲンを低減化する機能を有するものである。加熱調理の際に加圧や蒸気噴霧の工程を加えることによって、穀類の保存中にアレルゲンタンパク質を更に低減化する調理機器を提供することが可能である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、穀物の栄養素や美味しさを維持しながら、家庭で簡便に米などの穀類のアレルゲンを低減化することができる方法および調理機器を提供することを目的としている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
請求項1に記載の発明は、食品に水分を浸透させる工程と、その後食品に冷却処理を施す工程を備えることによって、食品のタンパク質構造が変化し、アレルゲンタンパク質が低分子化することが可能となる。部分的にでも分解していればアレルゲン性低減化が期待でき、加えて他のタンパク質の分解が伴ってもなんら差し支えがない。部分的にでも分解していればアレルゲン性低減化が期待でき、加えてアレルゲンタンパク質以外の他の機能を有するタンパク質の分解が伴ってもよい。穀類に水分を浸透させた後、冷却処理を施すことによって、例えば、穀類の一種である玄米の場合は、水分浸漬により種子中に植物ホルモンの一種の濃度が上昇し、それが種子胚の成長を促すことにより発芽反応が促進され、さらに、冷却処理をすることで生体内への刺激シグナルとなり、低温耐性に対する生体防御反応などが促され、タンパク質構造の変化や分解が生じることによって、アレルゲンタンパク質が低分子化し、その結果、アレルゲンを低減化することが可能である。
【0010】
また、生体内にアミノ酸の一種であるγ−アミノ酪酸が増加することで、栄養価を高めることもできる。冷却処理については、我々が行った実験によると、0℃、−5℃の保存では、γ−アミノ酪酸が保存前より3〜5mg/100g増加しており、かつ脂肪酸度の増大もほとんどみられなかった。0℃、−5℃では低温刺激による生体反応により酵素が働き、遊離アミノ酸が増加し、γ−アミノ酪酸量も増大したものと考えられる。従って、タンパク質の低分子化が生じ得る温度として0℃〜−5℃の有効性が高いと考えられる。そして、0℃〜−5℃の温度帯では雑菌の増殖効果も低いことから、腐敗臭の発生もなく安全であるとともに、美味しさも維持することが可能である。また、発芽することによって、食べやすい食感となることから美味しさも向上する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、食品に水分を浸透させる工程と、その後、食品に加温処理を施す工程と、冷却処理を施す工程とを備えることによって、アレルゲンを低減化することが可能である。
【0012】
例えば穀類の一種である玄米の場合は、水分浸漬により種子中に植物ホルモンの一種の濃度が上昇し、それが種子胚の成長を促すことにより発芽反応が促進され、一定時間の加温処理によってさらに酵素反応が活性化することにより発芽反応が促進される。加温処理は37℃付近の酵素反応が活発化する温度が望ましい。ただし、37℃付近の酵素反応が最も活発化する温度帯は、雑菌などの増殖効果も高いことから、一定時間の加温処理は適度に発芽状態になり、雑菌などの増殖が可食範囲内である状態までであることが望ましい。そして、一定時間の加温処理が終了すると、冷却処理を施し、雑菌などの過度の増殖を抑制させる、あるいは、雑菌などの増殖は抑制しながらも、タンパク質の低分子化が生じ得る温度として0℃〜−5℃を維持しながら冷却処理することにより、より効率的にアレルゲンを低減化することが可能である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、食品に水分を浸透させる工程と、その後、加温処理を施す工程ともしくは冷却処理を施す工程とともに、刺激発生手段により適度な外的刺激を与える工程を備えることによって、例えば穀類の一種である玄米の場合は、水分浸漬により種子中に植物ホルモンの一種の濃度が上昇し、それが種子胚の成長を促すことにより発芽反応が促進され、さらに冷却処理によって、低温刺激による生体反応により酵素を活性化させ、遊離アミノ酸が増加する状態、言い換えれば、タンパク質の低分子化が生じている状態において、さらに、刺激発生手段により適度な外的刺激を与えることによって、生体内の酵素反応を活性化させる。従って、よりタンパク質の低分子化が生じ、アレルゲンを低減化させることが可能である。また、外的刺激を微細径の水粒子を噴霧することを特徴とすることで、例えば玄米の場合、生体内部に細胞膜を透過した微細な水粒子が浸透することにより、水分を供給することができ、玄米の場合は水分の供給により発芽反応が促進され、生体内にγ−アミノ酪酸が増加することで、より栄養価を高めることができる。玄米自体の発芽に必要な酸素摂取量が向上するため、より発芽反応を促進させることが可能である。それによって、非常に食べやすい食感となる上に、タンパク質も低分子化され、アレルゲンも低減化することが可能である。さらに、外的刺激に光照射手段を用いた場合、波長は特に限定はしないが、一般に、赤色〜黄色光は発芽を促進することから、タンパク質の低分子化が促進され、アレルゲンを低減化することが考えられる。また、特に波長は限定しないが、例えば青色などの波長を点滅点灯させることによって、植物細胞に刺激を与えることによって、酵素活性を高めることによりタンパク質が低分子化されアレルゲンが低減化することも考えられる。更に、青色の場合は菌の増殖抑制効果があるため、衛生的面でも有効的である。
【0014】
請求項4に記載の発明は、食品に冷却処理を施す工程と、その後、加圧または減圧処理を施す工程を備えることによって、冷却処理により例えば玄米の場合、低温刺激による生体反応により酵素を活性化させ、遊離アミノ酸が増加する状態、すなわちタンパク質の低分子化が生じている状態を維持した後に、圧力または減圧処理を行なうことによって更にタンパク質の低分子化が生じ、アレルゲンが低減することが可能である。予め、冷却処理によってタンパク質の低分子化が生じている状態において、圧力変化をもたらすことによって、比較的小さな圧力変化でも更なるタンパク質の低分子化が期待でき、アレルゲンの低減化が簡便な装置で実現できるため、汎用性が高い。
【0015】
請求項5に記載の発明は、温度環境を変化させる温度可変手段と圧力環境を変化させる圧力可変手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とを備え、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を用いて、穀類のアレルゲンを低減化することを特徴とすることで、冷却、加温手段により穀類の細胞内の酵素反応を予め活性化し、タンパク質を低分子化させた状態にした上で、圧力を可変することによって、比較的小さな圧力変化でも更なるタンパク質の低分子化が期待でき、アレルゲンの低減化が簡便な装置で実現できるため、家庭用の調理機器としての汎用性が高い。
【0016】
請求項6に記載の発明は、温度環境を変化させる温度可変手段と圧力環境を変化させる圧力可変手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とを備え、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を用いて、穀類のアレルゲンを低減化することを特徴とする冷蔵庫において、冷蔵庫で保存するという概念のもとで、穀類のタンパク質の低分子化をさせ、アレルゲンを低減させることが可能である。すなわち、保存期間に応じてゆるやかに穀類のタンパク質を低分子化することが可能であり、それの意図するところは、例えば圧力変化や刺激発生手段による刺激について、大きなエネルギーを伴わなくても良いと考えられるため、汎用性が高い。
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の方法を用いてアレルゲンの低減化を実現する冷蔵庫の断面図を示すものである。図2は、本実施の形態におけるアレルゲン低減化方法のフローチャートを示すものである。
【0019】
図1において、本体1は複数の断熱区画に区分されており上部を回転扉式、下部を引出し式とする構成をとっている。上から冷蔵室2、並べて設けた引出し式の切替室6および図示しない製氷室と、引出し式の野菜室4と引出し式の冷凍室3となっている。
【0020】
冷蔵室2は冷蔵保存のために凍らない温度を下限に通常1〜5℃で設定されているが、収納物によって、使用者が自由に温度設定を切り替えることを可能としている場合もある。また、ワインや根野菜等の保鮮のために、例えば10℃前後の若干高めの温度設定をとする場合もある。切替室6はユーザーの設定により温度設定を変更可能であり、冷凍室温度帯から微凍結温度帯であるパーシャルフリージング、冷蔵温度帯、さらには温度可変手段15を動作させることによって所定の温度設定にすることができ、図示しないスイッチを操作することにより、切り替え室内の温度設定変更が行われる。
【0021】
さらに、図示しないスイッチの操作により、アレルゲン低減化を行う為の設定を行った場合には、切替室6内の温度可変手段15および圧力可変手段14を動作したり、刺激発生手段13を動作させることによって、穀類の生体内の酵素を活性化し、タンパク質が低分子化される、あるいは、タンパク質構造を破壊するなどによって、アレルゲンを低減化することが可能である。
【0022】
図2において、STEP1とは切替室6に投入されている食品に対して、水分を浸漬させているか、あるいは、図示しない自動的に水分噴霧する機能によって浸漬する工程を示す。水分は水でもよいが、よりタンパク質を低分子化するためには、塩やプロテアーゼを含んでいてもよい。STEP2とは、切替室6に投入されている食品に対して、冷却を施す工程であり、冷却温度は食品のタンパク質を低分子化させることが可能である温度である。この工程では、時間をかけてゆっくりとタンパク質を低分子化させることが可能であるので、食品を衛生的に保存しながら改質することが可能である。STEP3は、切替室6に投入されている食品に対して、加温を施す工程であり、加温温度は食品のタンパク質を低分子化させるために、生体反応が生じやすい温度である。STEP4は切替室6に投入されている食品に対して、刺激手段によって外的刺激を与える工程であり、STEP1からSTEP3の工程で少しずつタンパク質が低分子化されていることに加えて、さらにタンパク質を低分子化させる。STEP4はSTEP1から3のいずれかと同時に行なってもよいし、単独で動作してもよい。STEP5は圧力可変手段14によって、切替室6内の食品のタンパク質構造に変化を与え、低分子化、あるいは分解を行なう。STEP5はタンパク質を低分子化させるためには効果的な手法であるが、STEP1から4のいずれかの手段によって、十分タンパク質が低分子化されている場合は、省いてもよい。また、STEP1から4のいずれかの工程によって、効果が生じている場合は、その効果に応じて、短い時間で処理を施すか、あるいはわずかな圧力変化によって処理を行なってもよい。
【0023】
また、図示しない製氷室は独立の氷保存室であり、図示しない自動製氷装置を備えて、氷を自動的に作製、貯留するものである。氷を保存するために冷凍温度帯であるが、氷の保存が目的であるために冷凍温度帯よりも比較的高い冷凍温度設定も可能である。冷凍室3は冷凍保存のために通常−22〜−18℃で設定されているが、冷凍保存状態の向上のために、たとえば−30や−25℃の低温で設定されることもある。切替室6は温度可変手段15の動作により、周囲の保存区画に対する熱影響が考えられるため、断熱性を考慮し断熱材によって区画されている。また圧力可変手段14により、切替室6内は減圧あるいは高圧状態になる場合があるため、それらの動作に耐え得る材料によって内壁が構成されている。冷蔵室回転扉7には扉ポケット34が収納スペースとして設けられており、庫内には複数の収納棚が設けられてある。また冷蔵室2の最下部には樹脂カバーにより区画された貯蔵ケース35が設けてある。
【0024】
以上のように構成された冷蔵庫について、以下その動作、作用を説明する。
【0025】
本発明に用いる穀類は、米類、小麦、大麦などに代表するイネ科植物や大豆、小豆、ソラマメなどのマメ科植物など多様であり、特に限定はしない。本実施の形態では、例えば玄米に対して適用する場合を以下に説明する。
【0026】
効果的にアレルゲンを低減化させる場合には、STEP1として、玄米に水分を浸透させ、種子中に植物ホルモンの一種の濃度が上昇し、それが種子胚の成長を促すことにより発芽反応が促進する動作を行なうことによって、玄米中のタンパク質の低分子化が生じ、アレルゲンの低減化が可能となる。水分を浸透させる手段は、自動的に蒸気を噴霧することによって切替室6内を加湿し、玄米の水分率を向上させてもよい。蒸気の粒子系を微細にすることにより、玄米の内部に水分をより効果的に浸透させてもよい。またはユーザーが自ら米を研ぐ要領で浸漬させてもよく、ここでは浸漬させる方法については限定はしない。蒸気の水分については、基本は水とするが、塩、あるいはタンパク質分解酵素を溶解させた水でもよい。また、水分を浸透させない状態のものであっても、わずかながらにアレルゲン低減化の効果は期待できるものと考えられる為、STEP1を省略する場合も考えられる。
【0027】
そして、STEP2として、温度可変手段15を動作させることによって所定時間の冷却処理を行う。この場合、冷却温度は、切替室6に投入している玄米の生体内において、酵素反応が生じる−5℃から15℃までの温度範囲に制御手段37を通じて調整されていることが望ましい。これによって、切替室6内が雑菌の繁殖を抑制し、衛生な環境でありながらも、内在酵素の活性化によってタンパク質を低分子化し、アレルゲンを低減化させることが可能である。温度可変手段15による冷却方法は、本実施の形態1では図示しない冷蔵庫の冷却システムを利用して、ダンパー制御によって行ってもよい。または、ペルチェ素子を用いてもよく、ここでは特に限定はしない。温度可変手段15を冷却手段として使用することによって、切替室6内の玄米の腐敗を抑制することが可能となるため、長期間にわたり温度可変手段15を動作させ、タンパク質を低分子化し、アレルゲンを低減させることが可能である。すなわち、本実施の形態1の冷蔵庫は食品を保存する機器であり、保存しながら少しずつ玄米のアレルゲンを低減化させることが可能である。
【0028】
しかしながら、少しでも短時間でアレルゲンを低減化させたい場合は、STEP3として、温度可変手段15を加温させることが望ましい。すなわち、温度可変手段15を制御手段37を通じて、37℃付近の最も酵素反応を活発化させる温度帯に調整し、生体内のタンパク質を低分子化しアレルゲンを低減化させる。温度可変手段15による加温方法は、ここでは特に限定はしないが、ペルチェ素子やヒーター、IH、マイクロ波等を用いてもよい。尚、37度付近の温度帯は酵素反応には最適な温度帯であるが、同時に雑菌やカビなどの増殖にも適した温度であることから、長期間加温させることは衛生面を考慮すると望ましくない。従って、予め、アレルゲン低減化のレベルに合わせた加温処理時間を制御手段37にインプットすることによって、所定時間が過ぎると、温度可変手段15によって冷却処理が施され、切替室6内は10度以下の温度帯で制御されることが望ましい。あるいは、更に加温し、食品を乾湿させた後、冷却処理を施してもよい。
【0029】
更に、温度可変手段15による処理だけでなく、STEP4では刺激手段13を動作させることによって、生体内の酵素反応を、尚、一層活発化させることによってタンパク質を低分子化し、それに伴いアレルゲンを低減化させると効果的であると考えられる。刺激発生手段13はここでは特に限定はしないが、例えば光照射とする場合、一般に、赤色〜黄色光は発芽を促進し、緑色および遠赤色光は発芽を阻害することから、玄米の生体反応を促進させることによってタンパク質低分子化によるアレルゲンの低減化が促進すると考えられ、制御手段37を通じて最適な波長に調整し、切替室6内を照射させることが望ましい。さらに、光照射の光源の少なくとも一つに280nmから400nmの範囲の紫外領域を含むものを用いた場合、その光源により、切替室6内の壁面に付着する菌の増殖が抑制され、玄米の保存性能が向上する。さらに壁面に付着する菌の増殖が抑制し保存性能を向上させたい時には、280nmから400nmの範囲の紫外領域を含む光源の個数を増やすことが可能であり、より衛生的な環境下において発芽反応を促進させることが可能である。また、光源の種類や波長および個数も特に限定しないが、切替室6のように比較的、内容積の小さい貯蔵空間内で使用する光源では、ランプの発熱による貯蔵空間内の温度上昇、近距離からの光の照射による貯蔵空間に用いられている樹脂などの材料の劣化促進などが危惧される。従って、ランプ自体の発熱がほとんどなく、ランニングコストや耐久性の面でも優れているLEDを使用することが望ましい。
【0030】
タンパク質低分子化によるアレルゲン低減化を促進させる刺激手段として光照射手段を用いたが、光照射量を負の方向に制御する、あるいは光照射をゼロにすることによって、生体反応を活発化したり、反応を抑制することも可能である。このような刺激手段13の入力と制御手段の入力は、あらかじめ設定された制御手段37へプログラムによって行われる。なお、切替室6内の刺激手段13の光源の設置場所は特に限定されていないが、使用者が切替室6を開放した時に、光源が直接ユーザーの眼球を刺激しないように設置することが好ましい。また、光源にカバーを取り付けることにより直接使用者の眼球を刺激しないようにしてもよい。
【0031】
光源のカバーの素材は限定しないが、例えば、波長を変化できるタイプの素材を用いて、一つの光源を用いるだけで光の色を調整してもよい。さらに、同一区画内における複数個の光源の設置は一箇所に限定するものではなく、個々の光源が同一区画内の異なる場所に設置されても構わない。
【0032】
また、刺激発生手段13として微細径の水粒子を噴霧する場合、玄米の生体内への水粒子の浸漬が胚芽の酵素を活性化することにより発芽反応を促進させ、タンパク質を低分子化させることとなり、アレルゲンが低減化する。さらに、玄米は従来、「炊きづらい」「独特の臭みがある」「消化が悪い」とされ、嫌いという人も多くいるが、発芽することによって内部組織および成分が変化するため、柔らかい食感となり、独特の臭みも抑えられ、消化吸収がよくなるほか、γ−アミノ酪酸の生成も促進され栄養価も高まる。さらに、刺激発生手段13から噴霧される、電荷を帯びた微細径の水粒子は弱酸性の水であり酸化能力を持っている。そのため、穀類の表面に付着している細菌やカビはその酸化力により、増殖を抑制される。通常、水分の付加によって玄米表面では細菌やカビが繁殖しやすい状態となるが、この抗菌力を有した微細径の水粒子噴霧によって、より衛生的に保存しながら、アレルゲンを低減化し、さらに栄養成分も増加することができる。
【0033】
また、一方で穀類のタンパク質の構造を最も効果的に変化させる方法として、STEP5として、圧力可変手段14を動作させることが望ましい。加圧処理でも減圧処理でも圧力可変処理によってタンパク質は低分子化され、アレルゲンが低減化する効果が生じる。本実施の形態では、温度可変手段15や刺激発生手段13を動作させることによって、切替室6で予めアレルゲンを低減化されているものに対しては、圧力可変手段14の圧力変化レベルは非常にわずかでも効果が期待できる。その為、切替室6の構成は比較的単純なものでも耐えうる為、汎用性が高い。圧力可変手段14を用いることによって、より効果的にアレルゲンを低減化させることが可能であり、ユーザーに対して更なる安心感を与えることが可能である。圧力可変手段14の圧力変化レベルはここでは特に限定しないが、タンパク質構造の変化レベルと食感などの美味しさの因子とのバランスを加味して設定され、制御手段37によって制御される。
【0034】
以上のように、本実施の形態では、温度環境を変化させる温度可変手段15と圧力環境を変化させる圧力可変手段14と適度な外的刺激を与える刺激発生手段13とのいずれかの手段を備えた冷蔵庫であり、穀類に水分を浸透させた後、所定時間の冷却処理や加温処理を行うことによって、冷蔵庫で保存しながら穀類内の生体酵素活性を活性化させることによって、タンパク質を低分子化し、アレルゲンを低減化することが可能となり、穀類の美味しさを維持しながら、家庭で簡単に行える操作によって穀類のアレルゲン低減化の処理が可能となる。また、温度可変のみならず、刺激発生手段13、圧力可変手段14を動作させることにより、アレルゲン低減効果を向上させることが可能である。すなわち、冷蔵庫での保存中に穀類のアレルゲンの低減化が図れ、家庭で簡単にアレルゲンを低減化させた穀類を作ることが可能となり、ユーザーに安心な穀類を提供することが可能である。
【0035】
尚、保存しながらアレルゲンを低減化させた玄米を、更に温度可変手段15や圧力可変手段14を動作させることによって、切替室6内にて炊飯させてもよい。また、このような切替室6は冷蔵庫の一区画を構成するものであり、他貯蔵室との位置関係など特に指定するものではない。また、切替室6は冷蔵室2や野菜室4などその他の貯蔵室でもよい。
【0036】
尚、本実施の方法によって、アレルゲンを低減化することで、患者が食したときにアレルギーを発症する可能性は低くなるが、アレルゲンタンパク質の濃度または有無を検知する検知手段を有すことによって、アレルゲンのレベルを判断することが可能である場合、より安全な食品を提供することが可能である。
【0037】
尚、本実施の形態では調理機器を家庭用冷蔵庫とし、対象穀類を玄米として説明したが、本実施の形態によって発明が限定されるものではなく、そのほか食品や農作物の流通過程で使用される保冷車や、業務用冷蔵庫、農業用保存庫、炊飯器、電子レンジなどの多くの用途に適用できるものとする。
【0038】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2におけるアレルゲンの低減化を実現する調理機器の断面図を示すものである。図4は、本実施の形態におけるアレルゲン低減化方法のフローチャートを示すものである。
【0039】
図3において、鍋52は穀類を入れるもので、この鍋52を温度可変手段15により底面から加熱するようにしている。温度可変手段は穀類の酵素活性がもっとも効果的に働く温度を維持する工程と加熱調理する工程、冷却することにより酵素反応を停止する、あるいは、冷却することによる酵素活性を高めるなど、冷却、加熱が自由に制御できるように構成されている。圧力可変手段14は蓋51部分にあり、蒸気孔53を備え、蓋51には外気と蒸気孔53とを連通する蒸気筒54を備えている。刺激発生手段13は、蓋51部分に図示しているが、特に限定するものではい。図示しないメニュー選択手段は、複数の炊飯コースの中から任意の炊飯コースを選択できるようにしたものであり、図示しない制御手段は、メニュー選択手段によって選択されたメニューの内容によって、温度可変手段15や圧力可変手段14や刺激発生手段13を駆動制御するよう構成している。
【0040】
以上のように構成された調理機器について、以下その動作、作用を説明する。
【0041】
本発明に用いる穀類は、米類、小麦、大麦などに代表するイネ科植物や大豆、小豆、ソラマメなどのマメ科植物など多様であり、特に限定はしない。本実施の形態では、例えば玄米に対して適用する場合を以下に説明する。まず第1に、玄米を鍋52に入れ、本体50の所定の状態にセットする。操作表示部に設けた起動手段によりアレルゲン低減のための動作開始操作をすると、あらかじめ制御手段に設定しているアレルゲン低減工程が実施される。すなわち、アレルゲン低減工程は圧力可変手段14、刺激発生手段13、温度可変手段15を動作させ、タンパク質を分解および低分子化させ、アレルゲンを低減化する。アレルゲン低減工程については、短時間でアレルゲン低減化処理を行いたい場合には、圧力可変手段14を動作させ所定時間の高圧処理を施すことが最も効果的であると考えられる。尚、この場合本体50は耐圧性の部材を使用することが望ましい。
【0042】
あるいは、図4に示すように、STEP1によって浸水させた玄米を、STEP2として温度可変手段15を酵素反応の活性化する37度付近の温度に一定時間維持することによって、玄米は発芽し、タンパク質の分解および低分子化が生じることによって、アレルゲンが低減化する。
【0043】
その後、さらに、STEP3として、圧力可変手段14を圧力レベルは小さくてもよいが動作させながらSTEP4として、炊飯、蒸らし工程を行い、アレルゲンを低減化しながら調理工程を行い、食することが可能となる。
【0044】
更に、浸水過程において、刺激発生手段13を用いることによって、タンパク質の分解および低分子化が生じ、アレルゲンの低減化や、甘みが増加するなどの効果が生じる。また、蒸気を発生させることによって、鍋52内は100度以上の蒸気を発生させることが可能であり、効果的にタンパク質を低分子化させ、アレルゲンを低減化させることが可能である。
【0045】
以上のように、本実施の形態において、温度可変手段15や圧力可変手段14や刺激発生手段13を駆動制御するように構成することによって、アレルゲンを低減化しながら調理することが可能であり、家庭で簡単にアレルゲンを低減化した穀物を作ることが可能となる他、アレルギー発症を予防する調理機器としても活用できる。
【0046】
(実施の形態3)
図5は、本発明の実施の形態3における調理機器を正面より見た断面構成図である。図6は、本実施の形態におけるアレルゲン低減化方法のフローチャートを示すものである。
【0047】
図5において、図示しないマイクロ波放射手段と、マイクロ波空間61は、マイクロ波を閉じ込めることができる金属材料の境界面である左壁面、右壁面、底壁面、上壁面、奥壁面および加熱室内を透視できるパンチング板を有する開閉扉とで構成されている。また本体60は蒸気などの刺激発生手段13を設けており、その構成は以下の通りである。マイクロ波空間60の左側外部に図示しない貯水部、貯水部の水を送水する図示しない送水手段および図示しない送水管を収納している。また金属板を凹状に絞り加工して形成した蒸発部の下方には、蒸発部に注水された水を加熱する温度可変手段15の一部である加熱手段を配しており、これにより水を蒸発させて蒸気を発生させるものである。メニュー選択手段は、複数の調理コースの中から任意の調理コースを選択できるようにしたものであり、制御手段は、メニュー選択手段によって選択されたメニューの内容によって、温度可変手段15や圧力可変手段14や刺激発生手段13を駆動制御するよう構成している。
【0048】
以上のように構成された調理機器について、以下その動作、作用を説明する。
【0049】
本発明に用いる穀類は、米類、小麦、大麦などに代表するイネ科植物や大豆、小豆、ソラマメなどのマメ科植物など多様であり、特に限定はしない。本実施の形態では、例えば玄米に対して適用する場合を以下に説明する。まず第1に、玄米をマイクロ波対応の容器に入れ、本体60の所定の状態にセットする。この場合、玄米は予め浸水させていてもよいし、させていなくてもよいものとする。操作表示部に設けた起動手段によりアレルゲン低減のための動作開始操作をすると、あらかじめ制御手段に設定しているアレルゲン低減工程が実施される。アレルゲン低減工程は圧力可変手段14、刺激発生手段13、温度可変手段15を動作させ、タンパク質を分解および低分子化させ、アレルゲンを低減化する。
【0050】
STEP1として、刺激発生手段13として蒸気の噴霧を行うことと同時にマイクロ波による加熱を行うことによって、穀類は均一に加熱され、かつ浸水効果が生じるため、タンパク質が効率よく低分子化され、アレルゲンが低減化される。
【0051】
アレルゲン低減工程については、短時間でアレルゲン低減化処理を行いたい場合には、STEP2として、圧力可変手段14を動作させ一定時間の高圧処理を施すことが最も効果的であると考えられる。その後、STEP3として浸水、および炊飯、蒸らし工程を行い、調理工程を行うことによって、アレルゲン低減化された玄米を食することが可能となる。
【0052】
尚、この場合本体60は耐圧性の部材を使用することが望ましい。浸水させた玄米を、温度可変手段15を酵素反応の活性化する37度付近の温度に所定時間維持することによって、玄米は発芽し、タンパク質の分解および低分子化が生じることによって、アレルゲンが低減化する。その後、圧力可変手段14を圧力レベルは小さくてもよいが動作させながら炊飯工程を行うことによって、さらにアレルゲンの低減化が期待できる。更に、浸水過程において、刺激発生手段13を用いることによって、タンパク質の分解および低分子化が生じ、アレルゲンの低減化や、甘みが増加するなどの効果が生じる。
【0053】
以上のように、本実施の形態において、温度可変手段15や圧力可変手段14や刺激発生手段13を駆動制御するように構成することによって、アレルゲンを低減化しながら調理することが可能であり、家庭で簡単にアレルゲンを低減化した穀物を作ることが可能となる他、アレルギー発症を予防する調理機器としても活用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明にかかる調理機器は、穀類のアレルゲンを低減化させることを目的としており、家庭用調理機器、保存庫以外にも、農作物の流通用コンテナや業務用機器、農業用保存庫、さらに医療用機器など多くの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態1における冷蔵庫の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるアレルゲン低減化方法のフローチャート
【図3】本発明の実施の形態2における調理機器の断面図
【図4】本発明の実施の形態2におけるアレルゲン低減化方法のフローチャート
【図5】本発明の実施の形態3における調理機器を正面より見た断面構成図
【図6】本発明の実施の形態3におけるアレルゲン低減化方法のフローチャート
【符号の説明】
【0056】
1 冷蔵庫本体
6 切替室
13 刺激発生手段
14 圧力可変手段
15 温度可変手段
37 制御手段
50 調理機器本体
51 蓋
52 鍋
53 蒸気孔
54 蒸気筒
60 調理機器本体
61 マイクロ波空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品に水分を浸透させる工程と、その後食品に冷却処理を施す工程を備えることによって、穀物のアレルゲンを低減化する方法。
【請求項2】
食品に水分を浸透させる工程と、その後、食品に加温処理を施す工程と、冷却処理を施す工程とを備えることによって、アレルゲンを低減化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
食品に水分を浸透させる工程と、その後、加温処理を施す工程ともしくは冷却処理を施す工程とともに、刺激発生手段により適度な外的刺激を与える工程を備えることによって、アレルゲンを低減化することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
食品に冷却処理を施す工程と、その後、加圧または減圧処理を施す工程を備えることによって、アレルゲンを低減化することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
温度環境を変化させる温度可変手段と圧力環境を変化させる圧力可変手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とのいずれかの手段を備え、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を用いて、穀類のアレルゲンを低減化することを特徴とする調理機器。
【請求項6】
温度環境を変化させる温度可変手段と圧力環境を変化させる圧力可変手段と適度な外的刺激を与える刺激発生手段とのいずれかの手段を備え、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法を用いて、穀類のアレルゲンを低減化することを特徴とする冷蔵庫。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−48658(P2008−48658A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−227645(P2006−227645)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】