説明

穀粒及び豆類の新鮮度測定方法及びその装置

特定の試薬液が入った試験管内に穀粒を入れて撹拌して、出来た反応溶液をセルに入れる。そのセルに光を照射して、吸光度ピーク値を示す波長での吸光度と、吸光度がほとんど変化しない波長領域の吸光度とを検出する。そして、これら二つの吸光度の差に基づいて穀類及び豆類の新鮮度を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、米、小麦、大麦、とうもろこしなどの穀粒並びに大豆、コーヒー豆(生豆)などの豆類の新鮮度を測定する方法及びその測定装置に関し、特に、穀粒及び豆類を特定の試薬液に入れて撹拌して、その試薬液の変色度合いによって穀粒及び豆類の新鮮度を測定する方法及びその測定装置に関する。
【背景技術】
穀粒は、中性脂質、糠脂質、リン脂質などの脂肪を含有する。これらの脂肪(その大部分は中性脂質)は収穫後に劣化を始め、酸化、分解して遊離脂肪酸を生成する。この脂肪酸はさらに分解してヘキサナール(hexanal)などとなる。そして、生成される脂肪酸やヘキサナールの量は経時的に増加するから、その脂肪酸の量を測定すれば、穀粒の新鮮度を測定することができる。
従来、米粒の新鮮度は、特定の試薬液、例えば、ブロモチモールブルー(bromothymol blue;BTB)を指示薬として用いたものに米粒を入れて撹拌し、その試薬液の変色度合い(脂肪酸の多寡)を判定することで、測定する方法が知られている。
一方、天ぷら油などの油脂試料の劣化度は、油脂試料を試薬液に入れて撹拌して反応溶液を得て、その反応溶液に特定波長の光を照射して吸収される吸光度を測定し、この吸光度に基づいて変色度合い(脂肪酸の多寡)を判定することにより、測定する方法が知られている(特開昭52−32396号公報)。
前記の米粒の新鮮度の測定方法は、試薬液の変色度合いを目視によって判定することによるため、色の判定に個人差が生じ、新鮮度の判定が正確であるとはいえなかった。そこで、前記特開昭52−32396号公報の教示にしたがって、反応溶液の変色度合いを、特定波長の光をその反応溶液に照射して吸収される吸光度を測定し、その測定された吸光度に基づいて判定しようとすることが考えつく。
しかしながら、この方法によって穀粒の新鮮度判定の精度が向上するとはいえない。穀粒の新鮮度は、試薬液が穀粒の脂肪酸やヘキサナールによって変色したことを上記の吸光度の測定によって検出することで判定できる。ところが、穀粒を試薬液に入れて攪拌して得た反応溶液の中には穀粒の微粒子(はがれた表皮、糠や澱粉など)が含まれ、それらが反応溶液を濁して吸光度に影響を及ぼすからである。
【発明の開示】
本発明は、穀粒及び豆類に付着している表皮や糠や澱粉その他によって反応溶液が濁っていても、それらの新鮮度を正確に測定することができる方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明による穀粒及び豆類の新鮮度測定方法は、測定対象たる穀粒または豆類を所定の試薬液に入れて撹拌する撹拌工程と、前記撹拌工程で得られた反応溶液に光を照射して吸収される吸光度がピーク値を示す波長での第1の吸光度と、吸光度がほとんど変化しない波長領域での第2の吸光度とを検出する吸光度検出工程と、該吸光度検出工程で検出した第1、第2の吸光度の差を求め、この差に基づいて穀粒または豆類の新鮮度を判定する新鮮度判定工程とを含む。
本発明は、照射する光の波長に対する反応溶液の吸光度との関係が、
(1)反応溶液の濁りが濃くなると吸光度は全波長にわたって同一傾向で大きくなること、
(2)反応溶液の濁りが薄くなると吸光度は全波長にわたって同一傾向で小さくなること、及び、
(3)反応溶液の濁りの程度にかかわらず、吸光度がピークとなる波長に変わりがなく、また、濁りの程度により全体としてのレベルが異なるものの、それぞれに吸光度がほとんど変化しない波長領域が存在すること(吸光度の推移傾向が同じ)、
に着目して、反応溶液に光を照射して吸収される吸光度がピーク値を示す波長でのその吸光度(第1の吸光度)と、吸光度がほとんど変化しない波長領域での吸光度(第2の吸光度)とを検出する。そして、これら第1及び第2の吸光度の差を求め、この差が大きいほど新鮮度が高いと判定する。したがって、本発明の方法によれば、反応溶液の濁り具合に関係なく正確に新鮮度を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の米粒新鮮度測定装置を示す。
図2は、各反応溶液における吸光度を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明による穀粒及び豆類の新鮮度測定装置1の一例を図1を参照して説明する。新鮮度測定装置1は、光源2、セル3、ハーフミラー4、第1のフィルター5、第1の受光素子6、第2のフィルター7、第2の受光素子8を備える。セル3には測定用の反応溶液が入っている。その反応溶液に対して光源2は610nmから620nmの波長及び680nm以上の波長の光を少なくとも照射する。そして、セル3を透過した光はハーフミラー4で2方向に分光し、その一方は第1のフィルター5を介して第1の受光素子6に向かい、他方は第2のフィルター7を介して第2の受光素子8に向かう。
本実施の形態では、第1のフィルター5は615nmの波長の光を透過するものとし、第2のフィルター7は690nmの波長の光を透過するものとした。これら第1及び第2の受光素子6、8は、図示しない増幅器及び、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器を介して、演算処理手段9にそれぞれ接続されている。この演算処理手段9は、例えば、中央演算処理部(CPU)を中心に、入出力部、読み出し専用記憶部(ROM)及び読み出し・書き込み兼用記憶部(RAM)を備えている。ROMには第1及び第2の受光素子6、8が検出した信号に基づいて穀粒および豆類の新鮮度を測定するプログラムが内蔵されている。
プログラムの概略は次のとおりである。
前記の検出信号を吸光度として数値に換算し、第1受光素子側の値と第2の受光素子側の値の差(差値)を求め、これをRAMに記憶する。ついで、あらかじめ設定してRAMに記録しておいた新鮮度判定テーブルの差値と測定による前記の差値とを対比し、最も近いものを選定し、その差値に対応させてある判定値を測定結果(測定値)として表示する。新鮮度判定テーブルは、発生し得る前記差値の範囲をいくつかの段階に分割し、それぞれの段階に順次、例えば、新鮮度優、新鮮度良、新鮮度可などの判定値を対応させたものである。
なお、第1受光素子側の値と第2の受光素子側の値そのものを対比可能に表示して測定値とすることもある。
以下、図1の新鮮度測定装置1を用いての穀粒及び豆類の新鮮度測定方法について説明する。
試薬液はブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用いたものを用いる。この試薬液は、エタノール150ミリリットルに蒸留水50ミリリットルを加えた溶液にブロモチモールブルー0.3グラムを溶解して原液をつくり、この原液を蒸留水で30倍に希釈し、さらに、水酸化カリウム水溶液を0.2%加えてpH7.0としたものである。前記試薬液中のブロモチモールブルーは、試料液中に存在する脂肪酸やヘキサナールによって変色するのであって、濁りの原因である表皮や糠あるいは澱粉などの微粒子の多寡に変色が影響されることはない。
なお、指示薬BTBはpH指示薬であり、反応溶液中の脂肪酸及びヘキサナールとは反応しない。反応溶液は、該反応溶液中に脂肪酸またはヘキサナールが多く含まれるとpHは低くなって黄色に変色し、吸光度が低くなる。一方、反応溶液中に含まれる脂肪酸またはヘキサナールの量が少ない場合には、pHが高くなって青色に変色し、吸光度は高くなる。
この試薬液の入った試験管に、日本国滋賀県の産で品種が「日本晴」の白米(サンプル米粒)を入れて栓をし、この試験管を振盪機に横たえて、1分間に約150回振動させる(撹拌工程)。この撹拌工程で得られた試験管内の試薬液(反応溶液)をセル3に入れ、このセル3に光源2から光を照射する。
セル3から透過した光はハーフミラー4によって2方向に分光され、一方の光は第1のフィルター5を介し615nmの波長の光が第1の受光素子6に受光され、他方の光は第2のフィルター7を介し690nmの波長の光が第2の受光素子8に受光される。そして、第1の受光素子6からはそれが受光した光量に応じた電圧信号を出力し、該信号は増幅器及びA/D変換器を介して演算処理手段9に信号A1として入力される。また、第2の受光素子8からもそれが受光した光量に応じた電圧信号を出力し、該信号は増幅器及びA/D変換器を介して演算処理手段9に信号A2として入力される。
演算処理手段9は、前記入力信号A1及び信号A2に基いて、log A2−log A1の演算をして、セル3内の反応溶液に吸収される615nmの波長での第1の吸光度と690nmの波長での第2の吸光度との間の差(吸光度差)を求める。
ここで、反応溶液の濁り具合における全波長の吸光度を示したグラフについて図2を参照しながら説明する。
図2において、▲1▼のグラフは濁り具合の濃い反応溶液から検出される吸光度を示しており、また、▲2▼のグラフは濁り具合の薄い反応溶液から検出される吸光度を示している。この図2から分かるように、吸光度は、▲1▼のグラフも▲2▼のグラフも共に615nmの波長でピークを示しており、また、690nm以上の波長ではほぼ横ばいの値となっている。すなわち、▲1▼及び▲2▼のグラフから、ある波長に対する吸光度の大きさは反応溶液の濁り具合によって異なるものの、波長に対する吸光度の推移傾向は反応溶液の濁り具合にかかわらずほぼ同一であることがわかる。
本発明は、このように反応溶液の濁り具合にかかわらず、反応溶液に光を照射して吸収される吸光度が全波長にわたって同一の推移傾向を示している点、及びどの場合も波長が推移してもその吸光度がほとんど変化しない波長領域がある点に着目したものであって、吸光度がピーク値を示す波長615nmでの吸光度(第1の吸光度)と、吸光度がほとんど変化しない波長領域の690nmでの吸光度(第2の吸光度)との差を求め、この第1、第2の吸光度の差が大きいほど米粒の新鮮度が高いと判定する。このため、反応溶液の濁り具合に影響されることなく米粒の新鮮度を判定することができる。上記第1の吸光度は測定対象の米粒の新鮮度が高いほど高くなる。一方、上記第2の吸光度は米粒の新鮮度とは無関係に現れる値である。よって、第1の吸光度と第2の吸光度との差が大きいほど測定対象の米粒の新鮮度が高いといえる。
図2の例で説明すると、グラフ▲1▼の第1、第2の吸光度の差はV1であり、一方、グラフ▲2▼の第1、第2の吸光度の差はV2である。この図では、V1<V2であることから、新鮮度はグラフ▲2▼のサンプル米粒の方がグラフ▲1▼のサンプル米粒よりも新鮮度が高いと判定できる。
なお、上記のようにブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用いた試薬液を用いるときには、第1の吸光度を求めるには610nmから620nmの波長を使用し、また、第2の吸光度を求めるには同じ光源から680nm以上の波長とを用いるとよい。
また、上記実施の形態では試薬液はブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用いたものを用いたが、これ以外にフェノールレッド(phenol red;PR)を指示薬として用いることもできる。この指示薬を用いる場合の、第1の吸光度を与える波長と第2の吸光度を与える波長領域は、前記のブロモチモールブルー(BTB)を指示薬として用いる場合と異なってくる点に留意すべきである。
以上は測定対象が米粒である場合の説明であるが、この測定原理は米粒以外の穀粒、さらに豆類の新鮮度の測定にも適用できる。
以下に本発明による新鮮度測定結果の一例を示す。

上の表において、測定対象の穀粒または豆類5gと試薬10gとを試験管に入れ、振とう器で1分間攪拌する。そして、小型微量遠心分離機で1分間遠心分離してから、測定対象の新鮮度を測定する。「低温保存」は15℃で7日保存した値であり、「高温保存」は60℃で7日保存した値である。新鮮度のデータ値は、新米の玄米の新鮮度を100、1年間低温保存した米の新鮮度が70〜80となる検量線を作成し、この検量線から算出した数値とする。上記の表は穀粒及び豆類の保存環境による新鮮度の差を表わしている。
上の表から、低温保存の新鮮度データ値が最も高いのはコーヒー豆(生豆)の68であり、また、低温保存と高温保存との新鮮度データ値の差がもっとも高いのもコーヒー豆の7であった。この結果から、新鮮なものほど(低温保存して最も高い新鮮度を保持するものほど)、もっとも劣化しやすい(高温保存すると低温保存したときとくらべて新鮮度に大きな差が現れる)と言える。
さらに、本発明は、図1で示す新鮮度測定装置1に代えて、公知の分光光度計を用いて、セル3内の反応溶液に吸収される上記特定の2波長におけるそれぞれの吸光度を測定し、この各吸光度間の差を求めて穀粒及び豆類の新鮮度を判定するようにしてもよい。
以上述べたように、本発明は、反応溶液に吸収される光の吸光度がピーク値を示す波長での吸光度(第1吸光度)と吸光度の変化が少ない波長領域での吸光度(第2の吸光度)とを検出し、第1,第2の吸光度の差を求め、この差が大きいほど穀粒の新鮮度が高いと判定する。したがって、反応溶液の濁り具合に関係なく穀粒及び豆類の新鮮度を正確に判定することができる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
米、小麦、大麦を含む穀粒またはとうもろこし、大豆、コーヒー豆を含む豆類を、所定の試薬液に入れて撹拌する撹拌工程と、
前記撹拌工程で得られた反応溶液に光を照射して吸収される吸光度がピーク値を示す波長での第1の吸光度と、吸光度がほとんど変化しない波長領域での第2の吸光度とを検出する吸光度検出工程と、
該吸光度検出工程で検出した第1、第2の吸光度の差を求め、この差に基づいて穀粒または豆類の新鮮度を判定する新鮮度判定工程とを含む、
穀粒及び豆類の新鮮度測定方法。
【請求項2】
前記試薬液は、ブロモチモールブルーを指示薬として用いたもの又はフェノールレッドを指示薬として用いたものとすることを特徴とする請求の範囲第1項記載の穀粒及び豆類の新鮮度測定方法。
【請求項3】
測定対象の穀粒または豆類を試薬液に入れて攪拌して得た反応溶液を入れるセルと、
前記反応溶液を入れたセルに光を照射する光源と、
前記セルを透過した光を少なくとも二つに分光する分光手段と、
前記分光手段で分光された光の一方を受け取る、第1の波長を透過する第1のフィルターと、前記光の他方を受け取る、第2の波長を透過する第2のフィルターと、
前記第1のフィルターを通過した第1の波長の光を受光する第1の受光素子と、前記第2のフィルターを通過した第2の波長の光を受光する第2の受光素子と、さらに、
前記第1の受光素子の出力と第2の受光素子の出力とから前記測定対象の穀粒または豆類の新鮮度を演算する演算手段とを備え、
前記第1の波長には、前記セル中の反応溶液に前記光源から光を照射して吸収される吸光度が局所的に最大となるような値が選択され、また、前記第2の波長には吸光度がほとんど変化しない領域での値が選択される、
穀粒及び豆類の新鮮度測定装置。

【国際公開番号】WO2004/090519
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−570557(P2004−570557)
【国際出願番号】PCT/JP2003/004405
【国際出願日】平成15年4月7日(2003.4.7)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】