説明

穀類の長期保存可能化処理方法及び長期保存可能化処理された穀類並びに穀類の長期保存可能化処理装置

【課題】 穀類の長期保存可能化処理方法及び長期保存可能化処理された穀類並びに穀類の長期保存可能化処理装置を提供する。
【解決手段】 穀類に水蒸気プラズマを短時間接触させる。
穀類は、米、麦、豆及びトウモロコシ、アワ等の雑穀類で、皮付きのもの、脱皮されたもの、破砕されたもの、細砕されたもの、粒状化されたもの、又は研削されたものであってよい。
水蒸気プラズマは、温度40〜600℃のであり、穀類に水蒸気プラズマを接触させる時間は、0.1〜30秒間が好ましい。
水蒸気プラズマは、誘電体バリア放電、コロナ放電、高周波放電又はマイクロ波放電からなる群から選ばれるいずれか1種によって生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、穀類の長期保存可能化処理方法及び長期保存可能化処理された穀類並びに穀類の長期保存可能化処理装置に関するものである。
そして、大気圧下で低温かつ短時間で穀類表面を殺菌しその変質を回避して長期間保存できる穀類を提供するものであり、酸化されず、放射線や化学薬品を使用せずに長期保存に耐える穀類を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
「新規殺菌方法の必要性」
食品を長期輸送や保存する場合には前もって殺菌や滅菌をして、バクテリア、カビや虫を殺す必要がある。これら生物は細胞膜の破壊や蛋白質の固定化、DNA損傷によって生物としての形態をとれなくなり死に至る。(例えばエイズウイルスの細胞膜は薄いので空気中に放置すればすぐに死んでしまう。他方、風邪ウイルスは強固な膜で覆われているので空気中で安定であり、世界中を飛びまわれるので鳥インフルエンザウイルスの方がエイズウイルスより人類にとって危険である。)
【0003】
穀類の備蓄が不可欠なわが国に於いて、穀類の長期保存は不可欠である。加工食品は長期保存に耐えるがそれでも缶詰の缶が保存中に雑菌の繁殖によって膨らむ現象は知られており、原材料が長期保存できれば食品の選択性と安全面から望ましい。
【0004】
レトルト食品が普及するに連れて、長期保存ができるかどうかがレトルト食品として採用されるかどうかの原点であり、種々の殺菌・滅菌方法が適用されている。
【0005】
殺菌とは微生物の生細胞を殺すことで、滅菌とは非病原菌、病原菌及び細菌胞子も殺すことを意味し、消毒は病原微生物を殺すことを意味している。殺菌および滅菌は、高温(蛋白質の変性、凝集)、高圧(蛋白質の変性、凝集)、裸火(有機物の酸化)、紫外線(DNA損傷、活性酸素発生)、化学薬品(蛋白質の変性、酸化)、その他の方法で細菌を死滅させることにあり、種々の方法が報告されている。しかしながら、斯界では、殺菌と滅菌は明確に峻別して使用されていないので、以下、滅菌及び殺菌を単に「殺菌」という。
【0006】
[従来の殺菌方法]
殺菌法には化学的殺菌法と物理的殺菌法とがあり、現在使われている方法を物理的方法と化学的方法に分けて考える。
物理的殺菌法:
これには、焼却法、煮沸法(20-30分)以外に、細菌の胞子は100℃では死なないので、100℃で30分間繰り返して3日間行う蒸気殺菌法を用いたり、胞子を含む微生物を高圧殺菌(2.5気圧、120℃)で15−20分処理するか乾熱殺菌法で150−160℃、30−60分処理する。超高温短時間殺菌、通電加熱殺菌法も使われている。
光線等殺菌照射による物理的殺菌:
これには、マイクロ波、パルス電界 、紫外線 、光パルス、放射線等を照射して殺菌する装置が開発され使用されている。ガンマ線照射処理をすると果物の内部まで超短時間でガンマ線が通過して、ありとあらゆる微生物を一番効率良く殺すことができ、かつ、遠隔操作で処理するので人間には無害であるが日本では一般に受け入れられない。
特に紫外線照射殺菌においては、細菌細胞内 に遺伝情報をつかさどる核酸(DNAまたはRNA)が存在し、エネルギーの大きい紫外線が細胞内に吸収されると、核蛋白構造が変化し、細菌生命の維持や新陳代謝に障害をきたし、死滅すると考えられている。但し,生物によっては DNA の修復機能を持っているので,完全に絶滅させるには,高出力で長時間照射しなければならない。紫外線照射を止めると再び増殖を始める菌もいる。また,影になった部分の殺菌は不十分である。
電子線照射殺菌においては、自然の放射線レベルに比べて、数億倍という強力な放射線を短時間に照射された微生物は、細胞の増殖が著しく阻害され、線量がさらに増加すると殺滅菌に至るが一般には扱いにくい装置である。医療器具、医薬品容器、食品飲料容器、キャップ、試験器材、クリーンルーム用品等の滅菌に使われている。
【0007】
化学的殺菌法:
化学薬品が直接に殺菌対象の生物に触れなければ効果がないので、適用範囲が限定される。オゾン殺菌および塩素殺菌は水道水および排水の殺菌に使われており、細胞膜や細胞壁を破壊された病原生物は、内部の蛋白質やDNA等にまで遊離残留塩素やオゾンの影響が及ぶため殺菌される。イオン化した酸性水を使っても酸化作用で細胞破壊ができる。沸騰水での加熱殺菌では加熱して生物の蛋白質を変性させてその生物を死に至らすことができるが、同時に食品素材も熱加工することになり、食品素材を現地で加工し、缶詰、瓶詰や真空パックとして保存する場合はともかく生鮮食品の殺菌には適していない。冷凍保存は殺菌ではなく繁殖を抑えたとみなせる。
【0008】
化学的殺菌は微生物に薬物が侵入して化学的に細胞を変化させることで、蛋白質の作用を阻害したり、蛋白質の合成を阻害する。但し、殺菌剤そのものが毒物であるので残留しないようにする注意が必要である。使われている薬物としてはアルコール、ホルムアルデヒド、フェノール、クレゾール、晒し粉(生石灰に塩素を吸収させたもの)、次亜塩素酸カルシウム、塩化ベンザルコニウムがあり、エチレンオキサイドは加熱できない器物の殺虫、殺菌に使われる。薫蒸も化学的殺菌法の一つで、密閉空間で薬剤をガス状にして一定時間保持し、有害生物を駆除する方法である。薫蒸剤に似た薫煙剤は除燃剤や加熱剤と農薬を混合したもので、点火、燃焼させて発生する熱で有効成分が蒸散して作用を発揮する。但し、臭化メチルは環境へのガスの飛散や残留汚染の危険性が予測され環境問題の面から使用禁止となった。バナナは殺虫の為にシアンガスで薫蒸処理され、輸入許可が下る。
【0009】
穀類の殺菌に関する公開特許技術としては、穀類の粕を高熱殺菌処理した後微粉末する(特許文献1)、穀粒を水に浸漬後発芽させた穀粒を乾燥処理後に加熱殺菌処理をして減菌された発芽穀類粉末及びその製造方法(特許文献2)、全脂大豆の製造過程で胚芽と皮を分離した後に蒸煮しているが加熱は酵素失活を目的としている(特許文献3)、そのままでは食品に適さない食品粕のようなものを60Coやマイクロ波加熱で処理して健康食品として供する(特許文献4)等があるが、穀類及びその物理的加工品を食品材料として変質させずに長期保存する方法に関する報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−312694号公報
【特許文献2】特開2005−278557号公報
【特許文献3】特開2007−044051号公報
【特許文献4】特開2005−143480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の滅菌殺菌方法で耐熱性菌まで殺菌するためにはガンマ線照射やオートクレーブ(加圧蒸気滅菌機)が使われてきた。ガンマ線はわが国の事情から一般食材の殺菌には使いがたく、オートクレーブ方式では食材を変性させるだけでなく、大量処理が難しい等の問題点があった。このために食材を変性させることなく滅菌する方法の開発が望まれてきた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
今迄、どのような装置を使っても食品素材の特性を変えることなく効率よい殺菌には限界があり、環境汚染や食品汚染を伴わない安全かつ食品加工ではない殺菌方法がなかったので実用的な殺菌装置の開発が望まれている。
本発明の課題は穀類を変性させることなく、特別な管理許可のいらない殺菌装置を開発して長期保存が可能な穀類を供給することにある。本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、細胞膜を破壊する水素及びヒドロキシルラジカルを発生する水蒸気プラズマを応用することにした。
【0013】
すなわち、本発明は下記構成の穀類の長期保存可能化処理方法及び長期保存可能化処理された穀類並びに穀類の長期保存可能化処理装置である。
(1) 穀類に水蒸気プラズマを短時間接触させることを特徴とする穀類の長期保存可能化処理方法。
(2) 穀類が、皮付きのもの、脱皮されたもの、破砕されたもの、細砕されたもの、粒状化されたもの、又は研削されたものの群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする(1)記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
(3) 穀類が、米、麦、豆及びトウモロコシ、アワ等の雑穀類からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
(4) 水蒸気プラズマが、温度40〜600℃のものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
(5) 穀類に水蒸気プラズマを接触させる時間が、0.1〜30秒間であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
(6) 水蒸気プラズマが、誘電体バリア放電、コロナ放電、高周波放電又はマイクロ波放電からなる群から選ばれるいずれか1種によって生成されるものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法によって得られた長期保存可能化処理された穀類。
(8)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法に用いられる装置であって、水蒸気プラズマ発生装置と穀類を水蒸気プラズマに短時間接触させる装置とからなることを特徴とする穀類の長期保存可能化処理装置。
(9) 傾斜して設けられた表面が粗い平面状の板又は網板2と、それに振動を付与する振動機4と、その上部に配設されたホッパ1と、前記平面状の板又は網板2上の穀類5に水蒸気プラズマを照射接触させるための水蒸気プラズマ照射筒6とを具備してなることを特徴とする(8)記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
(10) 傾設された回転円筒体7と、その上部に配設されたホッパ1と、前記回転円筒体7内の穀類5に水蒸気プラズマを照射接触させるための水蒸気プラズマ照射筒6とを具備してなることを特徴とする(8)記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
(11) 下端に穀類5と水蒸気プラズマの導入口を備え、上端に穀類5と水蒸気プラズマの混合物の導出口を備えた円筒状処理塔10であって、その下方部が円錐状であり、垂設されてなる円筒状処理塔10を備えてなることを特徴とする(8)記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
(12) 下端に穀類5と水蒸気プラズマの導入口を備え、上端に穀類5と水蒸気プラズマの混合物の導出口を備えた横設されたドーナツ状の短円筒体11であって、その下端から導入された穀類5と水蒸気プラズマの混合物を上記ドーナツ状の短円筒体内で回転させて相互に接触させ、接触処理済みの穀類5を上端の導出口から取り出すようにしたことを特徴とする(8)記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
【0014】
「水蒸気プラズマ殺菌の原理」
プラズマとは正と負にイオン化したガスである。これはアメリカの物理化学者ラングミアが希薄気体放電管の陽極部の状態に対して名づけた。気体中に強い電流を流したり、気体をアーク等を使って高温に加熱すると一部又は全電子が原子から離れて自由に飛びまわれるようになり。その結果として、原子は電気を帯びたプラスイオンになる。このような状態が典型的な気体プラズマである。
プラズマを発生させるガス源として希ガスのアルゴンを使うと分子は原子レベルまで分解され、原子特有の輝線を発する。ヘリウムや窒素もガス源として使われ、ガス分子を誘導してイオン化するのにラジオ波を使うラジオ波(高周波)誘導結合およびマイクロ波を使うマイクロ波誘導プラズマと称される。いずれの装置もガス状分子を励起さしてイオン化し、その中に導入される有機物を分解する。
【0015】
ラジカルは遊離基と訳され、不対電子を持つ分子種で、一般に不安定で種種の反応に関与しており、安定な分子を不安定な分子に変える。つまり、容易に細胞膜を破壊したり、蛋白質や核酸の元の構造を変える。
【0016】
プラズマの発生方法としては誘電体バリア放電、コロナ放電、高周波放電、マイクロ波放電等が用途に応じて使われている。ヘリウムガスをマイクロ波の電磁波でプラズマ化するマイクロ波(2450 MHz)誘導プラズマ(Microwave Induced Plasma)はノズルから噴出すると周囲の大気と混合し急速に温度が低下し,低密度の反応性化学種・荷電粒子かつ低温な流動場を形成する。窒素やアルゴンガスをラジオ波(27-50 MHz)の電磁波でプラズマ化する誘導結合プラズマ(radio frequency Inductively Coupled Plasma)はプラズマ中で分子を分解、イオン化して原子特有の発光させるので、マイクロ波誘導プラズマと共に分光分析機器に使われている。
アーク放電で電極間の気体もプラズマ化できる。大気の電離層、太陽のコロナ等広くプラズマは身近にある。実際の装置では一部のガスがプラズマになっているのにすぎないがガスの流量を調節することにより目的にあったプラズマを得ることが出来る。
【0017】
プラズマを用いる殺菌:
水素プラズマを用いる殺菌に関して、水放電法で高濃度のラジカルを生成させる装置の開発, 金属の表面処理、医療や料理器具の殺菌、ICウエハーやプリント基板の灰化等に使えるマイクロ波プラズマ発生器の開発, 還元作用による酸化された金属の還元、有機物汚染の除去、金属の殺菌により金属製の医療器具や料理器具等の殺菌に適したマイクロ波水素プラズマ発生装置, レンズの特性を変えるためのマイクロ波処理装置, 微生物やヴィルスと反応する放出粒子を抱合することを特徴として、微生物やヴィルスの核酸を壊さずに微生物やヴィルスの蛋白質を断片化して殺菌する方法と装置, 過酸化水素とオゾン量を保って殺菌する装置, オゾンで管を殺菌する装置, 抗バクテリアプラスティック容器の製造方法, 食品包装用材料の過酸化水素を使う大気圧低温プラズマ消毒法, 放電によってオゾンや過酸化水素を発生させて煙道ガスの無毒化、水の浄化、廃水処理、パルプの脱色、医療器具の殺菌等の特許文献が見られるがオゾン酸化が起こるので食材の殺菌には適していない。
【0018】
その他、水素プラズマ、殺菌、食品に関する文献としてはポリエチレンテレフタレイト容器の殺菌、食品容器、プラズマをコンスタントに供給するシステム、過酸化水素やオゾンをコンスタントに供給して滅菌するシステム、医療器具、耐熱性高分子の殺菌,放電法で液体の滅菌、導尿管の殺菌に過酸化水素プラズマを用いる等の報告があるが、酸化反応を適用しているので食材の殺菌には好ましくない。
【0019】
ヒドロキシルラジカルを用いる殺菌に関して、狭い電極間に高電圧をかけて水とガスの混合中に過酸化水素、オゾン、ヒドロキシルラジカル、酸素ラジカル等を発生させて殺菌する小型の装置の開発、空気、酸素、窒素を用いるパルス放電プラズマで大腸菌を不活性化した。低温大気圧プラズマを使った実験で大腸菌不活性化に重要なのは酸素原子であることが解った。医療器具の殺菌に低圧ラジオ波放電プラズマを用いた。酸素と水から発生させた酸素ラジカルが殺菌する為に酸化が重要であることを確かめた。その際ヒドロキシルラジカルの存在も測定した。小型の大気圧プラズマ発生器を開発して、発生したヒドロキシルと酸素ラジカルでストレプトコカス ムタンス 細菌を殺菌した。加圧した密閉容器の中で水蒸気からヒドロキシルラジカルを発生させ、オゾンプラズマを用いて医療器具の殺菌をした。大気圧での空気のプラズマで発生させた酸素や窒素由来の反応性種で微生物を短時間で殺菌できた。摂氏55度以下で種々のプラズマを使い殺菌効果を調べたところ空気に0.05Mの水をのをプラズマのキャリヤーガスとした時に致死率が高く、ヒドロキシルラジカルによるとした。ドライクリーニング装置に酸素、水蒸気プラズマに紫外線照射を加えるとヒドロキシルラジカル、過酸化や酸素原子などで迅速に殺菌できた。
【0020】
そこで本発明では、強力な殺菌滅菌力のある水素及びヒドロキルラジカルを発生している水蒸気プラズマ流中に穀類又はその顆粒や紛体を導入し、それらを接触させて、瞬時に表面殺菌滅菌をする。この処理法は従来採用されている加熱水蒸気を密閉又は半密閉する方法に比べて、高熱による殺菌ではないので穀類や顆粒の内部まで熱が加わらないので内部組織を変性させることなく表面に付着した雑菌の細胞膜破壊によって殺菌することができる。この殺菌方法で処理した穀類は外部からの雑菌の混入がなければ長期保存に耐えうる。
【0021】
水蒸気プラズマを穀類の滅菌殺菌に適用:
水蒸気プラズマはガスとして水蒸気を用いることに特徴があり、場所を選ばず使える。この水蒸気プラズマは低温にもかかわらず化学反応性があるので、医療分野に於いて、生体や低耐熱材料の殺菌や医療器具の滅菌などに使われ、化学薬品を使わない殺菌法として期待されている。細菌にプラズマ、反応性が高いラジカル、を短時間照射すると細胞膜が損傷していることが観測されており、時間をかけれるならば更なる低温での殺菌が可能である。生体内ではラジカルを発生させて殺菌作用、情報伝達、古い蛋白質の破壊等に使うが、一般に短命で、必要な部位でしか発生しないが、体内に老廃物が蓄積すると活性酸素を発生して、組織の損傷、壊死、不整脈の発生、消化管の潰瘍をもたらす炎症性疾患の原因になる。
【0022】
なお、調査の結果、以下のことが各種文献に記載されている。
医療用具の滅菌用にもラジオ波で励起した水蒸気プラズマが適用されており、発生する原子酸素やヒドロキルラジカルを使って摂氏55度で滅菌できること。
水蒸気プラズマでウール(ケラチン繊維)を処理すると表面が親水性になること。 疎水性な合成樹脂膜を低温の水蒸気プラズマ処理で親水性に変えたこと。
カーボンブラックを摂氏100度以下で水蒸気プラズマ処理をすると表面に水酸基が形成される。この反応性のある水酸基を更に化学処理をしてカーボンブラックの表面を円滑にしてゴムに加えることにより、寿命の長いタイヤを製造することが出来ること。
金属表面処理においてもプラズマ処理をして金属表面に水酸基を導入してから化学反応で有機化合物を結合する方法が考案されていること。
バイオ燃料のエタノールの燃焼効率を向上させるためにエタノールと水の混合液中でプラズマを発生させると摂氏161度で水から精製した水素ラジカルがエタノールを反応して水素を生成し、その水素がバイオ燃料の燃焼効率を上げること。
ガス中でプラズマを発生さすとSOはヒドロキシルラジカルと反応して硫酸として除去され、NOxは窒素として除去できる。この反応において水からのプラズマの発生が重要であること。
2酸化炭素を分解するのに水蒸気プラズマの役割が重要であること。
中圧超音波放電でも水から生成した水素プラズマが反応溶液中の過酸化水素量を一定に保つこと。バリヤー放電をする際,湿った空気を使うとオゾン量は減少し、過酸化水素を含むラジカルが生成し、生物活性物が増加すること。
酸素プラズマ中に水を加えると酸素量が増加し、灰化反応の活性化エネルギーを減少させ、ヒドロオキシルラジカルがセミコンダクターのナトリウム付加を防ぐこと。
微量の水をマイクロ波で励起させてプラズマとして分析する方法も開発されたこと。
効率よく水素を発生するのに簡便プラズマ発生をデザインしたこと。アルゴンを使う誘導プラズマ(ICP)に於いても少量の水の役割が検討されており、水は水素、ヒドロキシラジカルの発生し、励起温度に影響を及ぼすことが論じられていること。
【発明の効果】
【0023】
水蒸気プラズマ照射法は加圧密閉方法ではなく、大気圧下で短時間照射することで穀類表面の殺菌や滅菌が出来、かつ穀類内部まで熱が加わらないので穀類の品質特性を殆ど変化させずに耐熱性菌も殺菌できる。
穀類に付着している細菌類、害虫等は穀類の表面にのみ存在するので、穀類の表面のみに水蒸気プラズマを接触させれば穀類の殺菌処理ができ、本発明の処理法は穀類の殺菌処理に最適である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例の装置を示す正面断面図である。
【図2】本発明の第2実施例の装置を示す正面断面図である。
【図3】本発明の第3実施例の装置を示す一部断面正面図である。
【図4】本発明の第4実施例の装置を示す正面断面図である。
【図5】本発明の第5実施例の装置を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実地するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。
水蒸気プラズマを穀類の表面に効率よく接触させるためには、穀類の表面細胞に直接照射する必要があり、単に静置した物に照射しただけでは水蒸気プラズマが照射された上面だけが殺菌され、プラズマが当たらない下面に付着した細菌を殺すことができない。
さらに、流動床方式で連続して殺菌処理するためには工夫が必要であるが、網板の上面にある穀類に網板の下面から水蒸気プラズマ照射をするとプラズマの特性である直線性から照射効率が悪い。このため上面に置いた穀類に水蒸気プラズマを効率よく照射接触するためには、網板面上に置いた穀類を回転させる工夫が必要である。
【0026】
穀類への効率の良い水蒸気プラズマ照射法:
そこで、実施例1としての図1(正面断面図)に示すごとく、表面が粗い平面状の板や網板2を角度を付け傾斜して設け、かつ振動機4による振動を与えた状態で、その平面板又は網板の上部に配設されたホッパ1から穀類5を下方へ転動・流下し、それら穀類5に水蒸気プラズマ照射筒6から放出される水蒸気プラズマを照射接触する。
そして、下方に配置された受容器3に水蒸気プラズマ照射によって殺菌処理された穀類5'を取得する
なお、実施例2としての図2(正面断面図)は、図1の装置にケーシング9を被せたものである。
上記において、平面状の板の粗さ具合は、プラズマ処理をする穀類の形状や比重にしたがって調整すればよい。
網板の場合には網の粗さを穀類が網目を通過して落ちないような形状の物を選ぶ。
【0027】
また、実施例3としての図3(一部断面正面図)に示すごとく、傾設された回転円筒体7中を穀類5を回転させながら通過させる場合には、円筒体7内に配設された照射筒6から放出される水蒸気プラズマを、回転しながら通過する穀類5に効率良く照射させることが望ましい。
そこで、円筒体7の単位長さ当たりに多量の穀類5を処理するために円筒体7の内面に襞(ひだ)8を付けるのが望ましく、襞8の形状及び大きさは、円筒体7の内径を決めるのと同様に、経済効率を考え、プラズマ処理する穀類の形状、比重と単位時間あたりの処理量によって決める。
なお、図(a)は一部断面正面図、図(b)は図(a)のA−A’断面図である。
【0028】
さらに実施例4としての図4(正面断面図)に示すごとく、穀類の粉体や粒子状物体50の乾燥に使われている下部が円錐状の垂設された筒状処理塔10に、熱風の代わりに水蒸気プラズマ照射筒6からの水蒸気プラズマを導入すると、乾燥だけでなく滅菌もできる。なお、筒状処理塔10内では、穀類5と水蒸気プラズマが旋回して上昇して行き、上部から水蒸気プラズマ処理された穀類と水蒸気プラズマの混合物12が導出される。
【0029】
さらに、実施例5としての図5(正面断面図)に示すごとく、横設されたドーナツ状の短円筒体11に熱風や加熱水蒸気を通過させて粉体や粒子状物体50の加熱乾燥をする装置を利用する場合にも、加熱水蒸気発生装置の変わりに水蒸気プラズマ照射筒6からの水蒸気プラズマを導入すれば、大気圧下で上記ドーナツ状の短円筒体11の中で穀類の粉体や粒子状物体50を水蒸気プラズマと回転接触させることができる。 こうすることで、穀類の粉体や粒子状物体50表面全面に水蒸気プラズマを高効率で接触させることができ、比較的低温での殺菌もできる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
以上に説明した本発明の水蒸気プラズマによる穀類の殺菌処理は、他の天然食材、例えば生薬、ハーブ、野菜、果実、魚介類等その表面に細菌類が付着して、腐敗、品質劣化等を引き起こす天然の動植物食材の殺菌処理に好適に採用できる。
また、天然食材に限らず、加工食品であっても、製造後にその表面に雑菌が付着して加工食品を腐敗又は品質劣化を引き起こす問題のある二次汚染対象食品に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1:ホッパ
2:平板又は網板
3:受容器
4:振動機
5:穀類
5’、50:水蒸気プラズマ処理された穀類
6:水蒸気プラズマ照射筒
7:傾設された回転円筒体
8:襞(ひだ)
9:ケーシング
10:垂設された筒状処理塔
11:ドーナツ状の短円筒体
12:水蒸気プラズマ処理された穀類と水蒸気プラズマの混合物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類に水蒸気プラズマを短時間接触させることを特徴とする穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項2】
穀類が、皮付きのもの、脱皮されたもの、破砕されたもの、細砕されたもの、粒状化されたもの、又は研削されたものの群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項3】
穀類が、米、麦、豆及びトウモロコシ、アワ等の雑穀類からなる群から選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項4】
水蒸気プラズマが、温度40〜600℃のものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項5】
穀類に水蒸気プラズマを接触させる時間が、0.1〜30秒間であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項6】
水蒸気プラズマが、誘電体バリア放電、コロナ放電、高周波放電又はマイクロ波放電からなる群から選ばれるいずれか1種によって生成されるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって得られた長期保存可能化処理された穀類。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の穀類の長期保存可能化処理方法に用いられる装置であって、水蒸気プラズマ発生装置と穀類を水蒸気プラズマに短時間接触させる装置とからなることを特徴とする穀類の長期保存可能化処理装置。
【請求項9】
傾斜して設けられた表面が粗い平面状の板又は網板と、それに振動を付与する振動機と、その上部に配設されたホッパと、前記平面状の板又は網板上の穀類に水蒸気プラズマを照射接触させるための水蒸気プラズマ照射筒とを具備してなることを特徴とする請求項8記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
【請求項10】
傾設された回転円筒体と、その上部に配設されたホッパと、前記回転円筒体内の穀類に水蒸気プラズマを照射接触させるための水蒸気プラズマ照射筒とを具備してなることを特徴とする請求項8記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
【請求項11】
下端に穀類と水蒸気プラズマの導入口を備え、上端に穀類と水蒸気プラズマの混合物の導出口を備えた円筒状処理塔であって、その下方部が円錐状であり、垂設されてなる円筒状処理塔を備えてなることを特徴とする請求項8記載の穀類の長期保存可能化処理装置。
【請求項12】
下端に穀類5と水蒸気プラズマの導入口を備え、上端に穀類と水蒸気プラズマの混合物の導出口を備えた横設されたドーナツ状の短円筒体であって、その下端から導入された穀類と水蒸気プラズマの混合物を上記ドーナツ状の短円筒体内で回転させて相互に接触させ、接触処理済みの穀類を上端の導出口から取り出すようにしたことを特徴とする請求項8記載の穀類の長期保存可能化処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−166855(P2010−166855A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12376(P2009−12376)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(596180652)
【Fターム(参考)】