説明

積層フィルム、電極付き積層フィルム及び有機EL素子

【課題】水蒸気バリア性に優れる液晶ポリエステルから構成される基材層と、水蒸気バリア層とを有し、水蒸気バリア性に優れる積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層を、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成し、その少なくとも一方の面上に、水蒸気バリア層を配置する。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルから構成される基材層と、水蒸気バリア層とを有する積層フィルムに関する。また、本発明は、この積層フィルムを基板として用いてなる電極付き積層フィルム及び有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、通常、基板の上に一対の電極が配置され、この一対の電極間に有機EL層が配置されてなる構造を有しており、図1にその例を示す。この例では、基板1の上に、陰極4A、有機EL層5及び陽極4Bがこの順に配置され、さらにその上に封止層6が配置され、基板1と封止層6との間の周縁部が封止材7で封止されている。また、有機EL層5は、発光層5bと、その陰極4A側に配置された電子輸送層5aと、その陽極4B側に配置された正孔輸送層5cとから構成されている。
【0003】
基板1としては、通常、ガラス板が用いられるが、フレキシブル性に乏しため、有機EL素子の連続生産が困難であり、また、衝撃に弱く、重いという欠点がある。そこで、基板1として樹脂フィルムを用いることが検討されているが、樹脂フィルムは、ガラス板に比べて、水蒸気バリア性や寸法安定性が低いという問題がある。このような問題を解決するため、樹脂フィルムとして液晶ポリエステルフィルムを用い、その上に水蒸気バリア層を配置してなる積層フィルムが検討されており、例えば、特許文献1には、前記液晶ポリエステルフィルムを構成する液晶ポリエステルとして、4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位とフタル酸に由来する繰返し単位とp−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位とを有するものや、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位とp−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位とを有するものや、エチレングリコールに由来する繰返し単位とテレフタル酸に由来する繰返し単位とp−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位とを有するものや、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位とp−アミノフェノールに由来する繰返し単位とテレフタル酸に由来する繰返し単位とを有するものが、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−32464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の如き、従来の液晶ポリエステルから構成される基材層と水蒸気バリア層とを有する積層フィルムは、基材層の水蒸気バリア性が必ずしも十分でないため、水蒸気バリア層の種類によっては、水蒸気バリア性が十分でないことがある。そこで、本発明の目的は、水蒸気バリア性に優れる液晶ポリエステルから構成される基材層と、水蒸気バリア層とを有し、水蒸気バリア性に優れる積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成される基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルムを提供する。
【0007】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0008】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0009】
また、本発明は、液晶ポリエステルから構成され、温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である液晶ポリエステルから構成される基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルムを提供する。
【0011】
また、本発明は、前記いずれかの積層フィルム上と、前記積層フィルムの少なくとも一方の面上に配置された電極とを有する電極付き積層フィルムを提供する。
【0012】
さらに、本発明は、前記いずれかの積層フィルムと、前記積層フィルム上に配置された一対の電極と、前記一対の電極間に配置された有機エレクトロルミネッセンス層とを有する有機エレクトロルミネッセンス素子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層フィルムは、水蒸気バリア性に優れる液晶ポリエステルから構成される基材層と、水蒸気バリア層とを有するので、水蒸気バリア性に優れており、有機EL素子の基板として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】有機EL素子の構造の例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の積層フィルムの基材層を構成する液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示すポリエステルであり、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(1)ということがある)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(2)ということがある)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、繰返し単位(3)ということがある)とを有するものである。
【0016】
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
【0017】
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0018】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、通常1〜10である。前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、通常6〜20である。前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、通常2個以下であり、好ましくは1個以下である。
【0019】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar1が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0020】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar2が2,6−ナフチレン基であるもの、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位、及びAr2が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位が好ましい。
【0021】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオールに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar3が1,4−フェニレン基であるもの、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位、及びAr3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの、すなわち4,4’−ジヒドロキシビフェニルに由来する繰返し単位が好ましい。
【0022】
液晶ポリエステル中、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量、すなわち、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、及びAr3が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(3)の合計含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量を各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、40モル%以上である。これにより、基材層の水蒸気バリア性を高めることができる。この2,6−ナフチレン基の含有量は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上である。
【0023】
また、液晶ポリエステル中、繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは30〜80モル%、より好ましくは40〜70モル%、さらに好ましくは45〜65モル%であり、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%であり、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10〜35モル%、より好ましくは15〜30モル%、さらに好ましくは17.5〜27.5モル%である。このような所定の繰返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、耐熱性と成形性とのバランスに優れている。なお、繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量とは、実質的に等しいことが好ましい。また、液晶ポリエステルは、必要に応じて繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有していてもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下である。
【0024】
耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルの典型的な例は、全繰返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位を、好ましくは40〜74.8モル%、より好ましくは40〜64.5モル%、さらに好ましくは50〜58モル%有し、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)、すなわち2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)、すなわちテレフタル酸に由来する繰返し単位を、好ましくは0.2〜15モル%、より好ましくは0.5〜12モル%、さらに好ましくは2〜10モル%有し、Ar3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)、すなわちヒドロキノンに由来する繰返し単位を、好ましくは12.5〜30モル%、より好ましくは17.5〜30モル%、さらに好ましくは20〜25モル%有し、かつ、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)の含有量が、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)及びAr2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)の合計含有量に対して、好ましくは0.5モル倍以上、より好ましくは0.6モル倍以上のものである。
【0025】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸と、繰返し単位(2)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジカルボン酸と、繰返し単位(3)を与えるモノマー、すなわち所定の芳香族ジオールとを、2,6−ナフチレン基を有するモノマーの合計量、すなわち6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジオールの合計量が、全モノマーの合計量に対して、40モル%以上になるようにして、重合(重縮合)させることにより、製造することができる。その際、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールのそれぞれの一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体を用いてもよい。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの、カルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるものが挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるものが挙げられる。
【0026】
また、液晶ポリエステルは、モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や溶融張力が高い液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0027】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは280℃以上、より好ましくは290℃以上、さらに好ましくは295℃以上であり、また、通常380℃以下、好ましくは350℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や溶融張力が向上し易いが、あまり高いと、溶融させるために高温を要し、成形時に熱劣化し易くなる。
【0028】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、内径1mm、長さ10mmのノズルを持つ毛細管レオメータを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において、4℃/分の昇温速度で液晶ポリエステルの加熱溶融体をノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48,000ポイズ)を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0029】
こうして得られる前記所定の繰り返し単位組成を有する液晶ポリエステルは、水蒸気バリア性に優れており、好ましくは、厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が、0.005g/m2・24h以下となる。
【0030】
液晶ポリエステルには、必要に応じて他の成分を配合して、組成物としてもよい。他の成分の例としては、充填材、液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂及び添加剤が挙げられる。組成物全体に占める液晶ポリエステルの割合は、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上である。
【0031】
充填材の例としては、ミルドガラスファイバー、チョップドガラスファイバー等のガラス繊維、チタン酸カリウムウイスカー、アルミナウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、炭化けい素ウイスカ、窒化けい素ウイスカ等の金属又は非金属系ウイスカ類、ガラスビーズ、中空ガラス球、ガラス粉末、マイカ、タルク、クレー、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウム、ウォラスナイト、炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質等)、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、硫酸ソーダ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、けい酸カルシウム、けい砂、けい石、石英、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄グラファイト、モリブデン、アスベスト、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、石膏繊維、炭素繊維、カーボンブラック、ホワイトカーボン、けいそう土、ベントナイト、セリサイト、シラス及び黒鉛が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を用いることもできる。中でも、ガラス繊維、マイカ、タルク及び炭素繊維が好ましく用いられる。
【0032】
充填材は、必要に応じて、表面処理されたものであってもよく、この表面処理剤の例としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ボラン系カップリング剤等の反応性カップリング剤、及び高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の潤滑剤が挙げられる。
【0033】
充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、通常0.1〜20質量部、好ましくは0.5〜15質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0034】
液晶ポリエステル以外の熱可塑性樹脂の例としては、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン及びポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。
【0035】
添加剤の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤、核剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、着色防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、潤滑剤及び難燃剤が挙げられる。
【0036】
こうして得られる液晶ポリエステル又はその組成物をフィルム化することにより、本発明の積層フィルムの基材となる液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。フィルム化の方法としては、例えば、押出成形法、プレス成形法、溶液流延法及び射出成形法が挙げられ、押出成形法が好ましい。押出成形法としては、例えば、Tダイ法やインフレーション法が挙げられ、Tダイ法において、一軸延伸してもよいし、二軸延伸してもよい。
【0037】
一軸延伸フィルムの延伸倍率(ドラフト比)は、通常1.1〜40、好ましくは10〜40、より好ましくは15〜35である。二軸フィルムのMD方向(押出方向)の延伸倍率は、通常1.2〜40倍であり、二軸フィルムのTD方向(押出方向に垂直な方向)の延伸倍率は、通常1.2〜20倍である。インフレーションフィルムのMD方向の延伸倍率(ドローダウン比=バブル引取速度/樹脂吐出速度)は、通常1.5〜50、好ましくは5〜30であり、インフレーションフィルムのTDの延伸倍率(ブロー比=バブル径/環状スリット径)は、通常1.5〜10、好ましくは2〜5である。
【0038】
液晶ポリエステルフィルムの厚さは、好ましくは5〜100μmであり、より好ましくは10〜75μmであり、さらに好ましくは15〜75μmである。あまり薄いと、強度が不十分になり、あまり厚いと、フレキシブル性が不十分になる。
【0039】
こうして得られる液晶ポリエステルフィルムは、前記所定の繰り返し単位組成を有する液晶ポリエステルから構成されることにより、水蒸気バリア性に優れており、好ましくは、温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が、0.005g/m2・24h以下となる。
【0040】
液晶ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面上に、水蒸気バリア層を形成することにより、本発明の積層フィルムを得ることができる。この積層フィルムが、基材層の液晶ポリエステルフィルムより、水蒸気バリア性に優れるものとなる。
【0041】
水蒸気バリア層を構成する物質としては、アルミニウム、ケイ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀及び金からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の単体、酸化物、窒化物及び酸窒化物が好ましく、必要に応じてそれらの2種以上を用いてもよい。
【0042】
水蒸気バリア層の形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、プラズマCVD法、熱CVD法、レーザーCVD法等のCVD法、及びゾル−ゲル法、めっき法、塗布法等のウェット法が挙げられる。また、別途調製乃至入手した箔を、液晶ポリエステルフィルムに貼合してもよい。
【0043】
水蒸気バリア層の厚さは、好ましくは5〜250nm、より好ましくは40〜100nmである。あまり薄いと、水蒸気バリア性が不十分になり、あまり厚いと、フレキシブル性が不十分になる。
【0044】
こうして得られる本発明の積層フィルムは、基材層の水蒸気バリア性に優れるので、積層フィルム全体としての水蒸気バリア性に優れるものとなり、好ましくは、温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が、0.0001g/m2・24h以下となる。
【0045】
本発明の積層フィルムは、基材層の水蒸気バリア性に優れ、積層フィルム全体としての水蒸気バリア性に優れることから、水蒸気バリア性が求められる各種用途に適用することができる。中でも、有機EL素子の基板として好適に用いることができる。
【0046】
本発明の電極付き積層フィルムは、前記積層フィルムの少なくとも一方の面上に電極を形成する。
【0047】
積層フィルム上に形成する電極は透明電極にしてもよいが、透明である必要はない。一般的には、AlやCu等の金属やカーボン等の導電物質を含んだ導電ペースト又はAlやCu等の金属等により形成すればよい。
【0048】
電極の形成方法は特に制限されず、蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング法、めっき、塗布、印刷等の公知の形成方法を用いればよい。また、電極の厚さも特に制限されないが、一般的には50〜1000μmとすることができる。
【0049】
電極形成時のプロセス温度は特に限定されるものではないが、好ましくは150℃以上、よりこの好ましくは180℃以上、更に好ましくは250℃以上である。この範囲であると、シート抵抗が小さくなる。
【0050】
本発明の積層フィルムを有機EL素子の基板として用いる場合、通常、積層フィルムの上に、一対の電極が配置され、この一対の電極の間に、有機EL層が配置される。図1に示すように、積層フィルム2が、基材層2の一方の面上のみに水蒸気バリア層3を有する場合、基材層2の水蒸気バリア層3が配置された面とは反対側の面上に、一対の電極4A,4B及び有機EL層5を配置することが好ましい。
【0051】
なお、図1では、積層フィルム1の上に、陰極4A、有機EL層5及び陽極4Bがこの順に配置されているが、積層フィルム1の上に、陽極4B、有機EL層5及び陰極4Aがこの順に配置されていてもよい。また、図1では、有機EL層5が、発光層5bと、その陰極4A側に配置された電子輸送層5aと、その陽極4B側に配置された正孔輸送層5cとから構成されているが、発光層5b及び電子輸送層5aに代えて、両者の機能を備える発光層兼電子輸送層を有してもよいし、発行層5b及び正孔輸送層5cに代えて、両者の機能を備える発光層兼正孔輸送層を有してもよい。
【0052】
発光層5bの材料は、高分子型であってもよいし、低分子型であってもよい。また、陰極4A及び陽極4Bの材料は、それぞれ独立に、アルミニウム、銅等の金属であってもよいし、インジム錫オキシド、亜鉛錫オキシド等の金属酸化物であってもよいが、発光層5bから発せられる光を透すために、少なくとも一方に透明性が求められる。本発明の積層フィルム1は、基材層が液晶ポリエステルから構成され、通常、透明性に劣るため、これを基板とする有機EL素子は、発光層5bから積層フィルム1とは反対側の方向に光が発せられるトップエミッションタイプであることが好ましい。そして、有機EL素子がトップエミッションタイプの場合、発光層5bを基準に、積層フィルム1とは反対側に配置される電極(図1では陽極4B)に透明性が求められ、その上に配置される封止層6にも、透明性が求められる。
【0053】
封止層6としては、水蒸気バリア性の点では、ガラス板が好ましいが、フレキシブル性の点では、樹脂フィルムが好ましい。封止材7としては、紫外線硬化型樹脂が好ましく用いられる。また、封止層6として、ガラス板や樹脂フィルムの如き板状部材を用いずに、紫外線硬化型樹脂の如き封止材で、一対の電極及び有機EL層を覆ってもよい。
【0054】
こうして得られる有機EL素子は、基板として、水蒸気バリア性に優れる本発明の積層体を用いているので、水蒸気による発光層や電極の劣化が抑制され、性能の持続性に優れている。
【実施例】
【0055】
〔流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所製の「CFT−500型」)を用いて、試料約2gを、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kgf/cm2)の荷重下において、昇温速度4℃/分で試料を溶融させながら押し出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を測定した。
【0056】
〔水蒸気バリア性の評価〕
JIS K7129 C法に準拠して、ガス透過率・透湿度測定装置(GTRテック(株)の「GTR−30X」)により、温度40℃、相対湿度90%の条件で、水蒸気透過度を測定した。
【0057】
〔ITO膜の表面抵抗率の測定〕
ITO膜の表面抵抗率(シート抵抗)は、4探針法抵抗測定装置(三菱化学製ロレスタAP)により測定した。
【0058】
製造例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル:2,6−ナフタレンジカルボン酸及びテレフタル酸の合計量に対して0.225モル過剰)、無水酢酸1226.87g(12モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から145℃まで15分かけて昇温し、145℃で1時間還流させた。次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温し、310℃で3時間保持した後、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から310℃まで10時間かけて昇温し、310℃で5時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルは、全繰り返し単位の合計量に対して、Ar1が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(1)を55モル%、Ar2が2,6−ナフチレン基である繰返し単位(2)を17.5モル%、Ar2が1,4−フェニレン基である繰返し単位(2)を5モル%、及びAr3が1,4−フェニレン基である繰返し単位(3)を22.5%有し、その流動開始温度は333℃であった。
【0059】
製造例2
製造例1と同様の反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸911g(6.6モル)、イソフタル酸91g(0.55モル)、テレフタル酸274g(1.65モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル409g(2.2モル)、無水酢酸1235g(12.1モル)、及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で1時間還流させた。次いで、1−メチルイミダゾール1.7gを添加した後、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粒径約0.1〜1mmに粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、285℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。固相重合後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、327℃であった。
【0060】
実施例1
製造例1で得られた粉末状の液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.0030g/m2・24hであった。
【0061】
得られた液晶ポリエステルフィルムの片面に、ガスバリア層として厚さ20nmのアルミニウム酸化物薄膜を形成し、積層フィルムを得た。この積層フィルムの水蒸気透過度は、0.0001g/m2・24h未満(検出下限値未満)であった。
【0062】
実施例2
実施例1で得られた積層フィルムについてイオンプレーティング法によりガスバリア層を形成した反対面にITO(酸化インジュウムスズ)を用いて基板温度180℃にて厚さ200nm透明電極(ITO膜)を形成した。この積層フィルム上に形成した透明電極のシート抵抗を測定したところ9.1Ω/□であった。
【0063】
実施例3
実施例1で得られた積層フィルムについてイオンプレーティング法によりガスバリア層を形成した反対面にITO(酸化インジュウムスズ)を用いて基板温度250℃にて厚さ200nm透明電極を形成した。この積層フィルム上に形成した透明電極のシート抵抗を測定したところ6.3Ω/□であった。
【0064】
比較例1
製造例2で得られた粉末状の液晶ポリエステルを、二軸押出機((株)池貝製の「PCM−30」)で造粒し、ペレット状にした後、一軸押出機(スクリュー径50mm)に供給して溶融させ、Tダイ(リップ長さ300mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度350℃)からフィルム状に押し出して冷却し、厚さ50μmの液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルフィルムの水蒸気透過度は、0.080g/m2・24hであった。
【0065】
得られた液晶ポリエステルフィルムの片面に、ガスバリア層として厚さ20nmのアルミニウム酸化物薄膜を形成し、積層フィルムを得た。この積層フィルムの水蒸気透過度は、0.0020g/m2・24hであった。
【0066】
比較例2
比較例1で得られた積層フィルムについてイオンプレーティング法によりガスバリア層を形成した反対面にITO(酸化インジュウムスズ)を用いて基板温度180℃にて厚さ200nm透明電極を形成した。この積層フィルム上に形成した透明電極のシート抵抗を測定したところ12.3Ω/□であった。
【符号の説明】
【0067】
1・・・積層フィルム(基板)、2・・・基材層、3・・・水蒸気バリア層
4A・・・陰極、4B・・・陽極、5・・・有機EL層、
5a・・・電子輸送層、5b・・・発光層、5c・・・正孔輸送層、
6・・・封止層、7・・・封止材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で表される繰返し単位とを有し、2,6−ナフチレン基を含む繰返し単位の含有量が、全繰返し単位の合計量に対して、40モル%以上である液晶ポリエステルから構成される基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルム。
−O−Ar1−CO− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−O−Ar3−O− (3)
(Ar1は、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、2,6−ナフチレン基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
液晶ポリエステルから構成され、温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルム。
【請求項3】
厚さ50μmのフィルムにしたときの温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.005g/m2・24h以下である液晶ポリエステルから構成される基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された水蒸気バリア層とを有する積層フィルム。
【請求項4】
前記基材層の厚さが5〜100μmである請求項1〜3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記水蒸気バリア層が、アルミニウム、ケイ素、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀及び金からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素の単体、前記元素の酸化物、前記元素の窒化物並びに前記元素の酸窒化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の物質から構成される層である請求項1〜4のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項6】
前記水蒸気バリア層の厚さが5〜250nmである請求項1〜5のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項7】
温度40℃及び相対湿度90%にて測定される水蒸気透過度が0.0001g/m2・24h以下である請求項1〜6のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルムと、前記積層フィルムの少なくとも一方の面上に配置された電極とを有する電極付き積層フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の積層フィルムと、前記積層フィルム上に配置された一対の電極と、前記一対の電極間に配置された有機EL層とを有する有機EL素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−81750(P2012−81750A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202872(P2011−202872)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】