説明

積層体、タッチパネルおよび組成物

【課題】ガラスとの密着性および硬度が良好で、かつ、指紋の低視認性を有する保護膜が形成された積層体を提供する。
【解決手段】ガラス基板1と、ガラス基板1の上に形成された保護膜2と、を含み、保護膜2は、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する組成物を硬化させて形成されている積層体10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、タッチパネルおよび組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、表示機器の画面のガラスパネル、太陽電池のパネル、窓ガラス、自動車用ガラス、および光学ガラスなどのガラス体において、表面に膜または層を形成することにより、ガラス体に各種の機能を付与する技術が知られている。
【0003】
このような技術の一例としては、ガラスの表面の傷付きを防止するためのコーティングやガラスの汚染を防止するためのコーティングが挙げられ、ガラス表面に形成された膜は保護膜などと総称されている。この種の保護膜には、透明性、硬度、ガラスとの密着性、成形容易性などの性能が要求されている。
【0004】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、塗布・硬化させて保護膜を形成するための組成物に、シランカップリング剤を使用し、保護膜とガラスとの密着性を高める試みが開示されている。また、例えば、特許文献2には、環状単官能化合物を含む無機酸化物微粒子含有組成物によって、ガラスの保護膜を形成し、反射防止能、ガラスへの密着性等を向上させる試みが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−285119号公報
【特許文献2】特表2010−085937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、環状単官能化合物を含む無機酸化物微粒子含有組成物によって形成される保護膜は、架橋密度が不足して、用途によっては硬度が不十分であった。また、シランカップリング剤を用いて、ガラスとの密着性の高い保護膜を形成するためには、シランカップリング剤とガラス表面とを反応させるために、長時間を要するか加熱処理を要するため必ずしも生産性が良好ではなかった。
【0007】
また、近年では、タッチパネルと称して、表示機器の画面に、人の指や器具を接触させることによって情報を入力する方式のデバイスの需要が拡大している。このタッチパネルの表面の保護膜においては、従来からの要求性能に加えて、付着した指紋の拭き取りが容易であることや、指紋等が付着したときの指紋の目立ちにくさ(以下、これを指紋の低視認性(Low Visibility)ということがある。)などの性能が要求される。
【0008】
発明者等は、保護膜のガラスとの密着性を向上させ、保護膜の硬度を高め、かつ、保護膜に特定の界面活性成分を含有させることによって、タッチパネルにおいて要求される性能を満足させうることを見出し本発明を為すに至った。
【0009】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、そのいくつかの態様にかかる目的の一つは、ガラスとの密着性および硬度が良好で、かつ、指紋の低視認性を有する保護膜が形成された積層体、タッチパネル、および該保護膜を形成するための組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0011】
[適用例1]
本発明にかかる積層体の一態様は、ガラス基板と、前記ガラス基板の上に形成された保護膜と、を含み、前記保護膜は、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する組成物を硬化させて形成される。
【0012】
[適用例2]
適用例1において、前記(C)成分が、エチレン性二重結合を有してもよい。
【0013】
[適用例3]
適用例1または適用例2において、前記組成物が、さらに、(D)数平均粒子径が1nm以上100nm以下の無機酸化物粒子、を含有してもよい。
【0014】
[適用例4]
本発明にかかるタッチパネルの一態様は、適用例1ないし適用例3のいずれか一例に記載された積層体を備える。
【0015】
[適用例5]
本発明にかかる組成物の一態様は、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する。
【0016】
[適用例6]
適用例5において、前記(C)成分が、エチレン性二重結合を有してもよい。
【0017】
[適用例7]
適用例5または適用例6において、
さらに、(D)数平均粒子径が1nm以上100nm以下の無機酸化物粒子、を含有してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる積層体は、ガラス基板の上に、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する組成物によって、保護膜が形成されている。当該保護膜は、ガラスとの密着性および硬度が良好である。これにより、積層体に対して指紋が付着した場合に、指紋の低視認性を発現することができる。さらに、本発明にかかる積層体は、指紋が付着した場合に、指紋の拭き取りを容易に行うことができる。本発明にかかるタッチパネルは、前記積層体を有しているため、タッチパネルに対して指紋が付着した場合に、指紋の低視認性を発現するとともに、指紋が付着した場合に、指紋の拭き取りを容易に行うことができる。本発明にかかる組成物は、上記密着性および硬度が良好な保護膜を、ガラス上に容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態にかかる積層体の断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお、以下の実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0021】
1.積層体
本実施形態の積層体10は、ガラス基板1と、保護膜2と、を含む。図1は、実施形態にかかる積層体10の断面の模式図である。
【0022】
1.1.ガラス基板
ガラス基板1は、積層体10の基体となる基板である。ガラス基板1は、例えば、平板状、シート状等の形状を有することができる。図1では、平板状のガラス基板1を例示しているが、ガラス基板1の形状は、なんら限定されない。ガラス基板1を平板状とする場合のガラス基板1の厚みは、例えば10μm以上10mm以下とすることができる。
【0023】
ガラス基板1は、透明であっても不透明であってもよい。積層体10が表示装置やタッチパネルに用いられる場合には、ガラス基板1は透明性を有することが好ましい。また、ガラス基板1は、複数の層が積層されていてもよい。また、ガラス基板1には、トランジスタ(例えばTFT)や、配線層などが形成されていてもよい。
【0024】
ガラス基板1の材質としては、特に限定されず、ホウ素、ナトリウム、カリウム、鉛、アルミニウム、リン、等が含有されていてもよい。このような材質の例としては、石英ガラス、ケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、ソーダライムガラス、カリウムガラス、鉛ガラスなどが挙げられる。ガラス基板1が複数の層が積層されたものであってもよい。
【0025】
2.保護膜
2.1.保護膜の構成
保護膜2は、ガラス基板1の表面に接して設けられる。保護膜2は、ガラス基板1の全体に接して設けられてもよいし、ガラス基板1の一部に設けられてもよい。図1の例では、平板状のガラス基板1の一方の面に接して形成されている。保護膜2の平面的な形状についてもなんら制限はなく、例えば、積層体10をタッチパネルに用いる場合には、積層体10に人の指等が接触する部分にだけ形成されてもよい。また、保護膜2は、必要に応じて、一般的な方法により、パターニングされてもよい。
【0026】
保護膜2の厚みは、特に限定されないが、例えば、10nm以上500μm以下とすることができる。保護膜2の厚みが前記範囲内であると、ガラス基板1との十分な密着性、十分な硬度、および、指紋の低視認性をより効果的に発現させることができる。保護膜2は、透明であっても不透明であってもよいが、積層体10が表示装置、タッチパネル、窓ガラスなどに用いられる場合には、保護膜2は透明性を有することが好ましい。
【0027】
保護膜2の機能としては、ガラスの表面に形成されることにより、例えば、人間の指が接触したときの指紋(皮脂を含む)を見えにくくすること、および、指紋を拭き取る場合の拭き取りやすさを高めることなどが挙げられる。
【0028】
2.2.保護膜の材質
保護膜2は、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する組成物を硬化させて形成される。以下、当該組成物について説明する。
【0029】
2.2.1.組成物
2.2.1.1.(A)成分
保護膜2を形成する組成物には、(A)成分として、環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含有される。
【0030】
本明細書で用いる用語「環状構造」は、シクロヘキサン環、シクロオクタン環などのシクロアルカン環、ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環、ボルネン環などのビシクロ環、およびこれらの環員にヘテロ原子が含まれる環、並びに、これらの環の多環系、およびこれらの環の2環以上の環集合、のことを指す。環状構造には、側鎖が含まれてもよい。
【0031】
本明細書で用いる用語「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基(CH=CH−CO−)またはメタアクリロイル基(CH=C(CH)−CO−)のことを指す。
【0032】
(A)成分は、分子内に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、環状構造を有する有機化合物である。(A)成分は、例えば、下記式(1)で示される化合物である。
【0033】
【化1】

【0034】
[式(1)中、Rは、それぞれ独立に(メタ)アクリロイル基を有する1価の基を表し、Rは、環状構造を有する2価の基を表し、Uは、NH、O(酸素原子)、又はS(硫黄原子)を表し、およびVは、O又はSを表す。]
(A)成分の機能の一つとしては、保護膜2の硬度を維持しつつカールを低減することが挙げられる。保護膜2は、(A)成分に環状構造の部位が存在していることにより、架橋点間距離が大きくなるとともに、架橋点間にコンフォメーション的な規制が形成されることにより、カールが低減されるものと考えられる。また、上記式(1)で表される化合物が、環状構造として芳香環を有する場合には、結晶性を有することがあるため、その場合には、架橋点間距離が大きくなっても硬度とのバランスが維持でき、保護膜2の機械強度、靭性を向上させることができると考えられる。
【0035】
式(1)において、Rに含まれる環状構造としては、特に限定されないが、脂肪族環、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、インデン環、ピレ
ン環等の縮合ベンゼン環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ピリジン環等の複素芳香環等が好ましい。
【0036】
(A)成分は、式(1)のRで示される基が有する(メタ)アクリロイル基1個当たりのRで示される基の分子量が400以下であることが好ましく、さらに好ましくは300以下である。400以下であることにより、保護膜2の耐擦過性を向上させることができる。
【0037】
(A)成分は、例えば、環状構造を有するジイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリル化合物を、適当なウレタン化触媒の存在下で、例えば、60℃、6時間の条件で攪拌して得ることができる。
【0038】
ここで、環状構造を有するジイソシアネートの具体例としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジアクリレート等が挙げられる。これらのうち、特に、2,4−トリレンジイソシアネート、イソホロンジアクリレートが好ましい。
【0039】
水酸基を有する(メタ)アクリル化合物の具体例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェニルオキシプロピル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカンモノ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのポリエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのモノ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイドの付加体であるジオールのモノ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、などを挙げることができる。
【0040】
さらに、水酸基を有する(メタ)アクリル化合物の具体例としては、下記式(2)又は下記式(3)
【0041】
【化2】

【0042】
[式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、nは1〜15の数を示す。式(3)中、Rは水素原子又はメチル基を示す。]
で表される(メタ)アクリレート、およびアルキルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートの如きグリシジル基含有化合物と、(メタ)アクリル酸との付加反応により得られる化合物を挙げることができる。
【0043】
これら水酸基含有(メタ)アクリレートのうち、特に、ペンタエリスリトールトリ(
メタ)アクリレートが好ましい。
【0044】
ウレタン化触媒の具体例としては、通常ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレ−ト、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等を挙げることができる。これらの中で、特に、ジブチル錫ジラウレ−ト等が好ましい。
【0045】
(A)成分のさらに好ましい態様としては、下記式(4)又は下記式(5)で表される化合物である。
【0046】
【化3】

【0047】
【化4】

【0048】
[式(5)中、「Acryl」は、アクリロイル基を示す。]
組成物における(A)成分の含有量は、溶剤を除く成分全量を100質量%として、10〜90質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは15〜80質量%の範囲内である。(A)成分の含有量が上記範囲内であることにより、例えばガラス基板1に対して塗布するに適した組成物の粘度を得ることができる。
【0049】
2.2.1.2.(B)成分
保護膜2を形成する組成物には、(B)成分として、(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物が含有される。
【0050】
(B)成分の(メタ)アクリロイル基は、上記「2.2.1.1.(A)成分」の項で定義したものと同様である。また、リン酸エステル化合物とは、リン酸(HPO)(オルトリン酸)と、有機化合物の水酸基とが脱水縮合した構造を有する化合物である。(B)成分のリン酸エステル化合物は、モノエステル、およびジエステルのいずれであってもよい。
【0051】
リン酸とのエステルを形成させる有機化合物としては、(メタ)アクリロイル基および水酸基を有すれば、特に制限はなく、例えば、複数の水酸基を有する化合物の水酸基の少なくとも1つが(メタ)アクリル酸とエステル結合を形成したものが挙げられる。このような有機化合物は、他の水酸基とリン酸とのエステル結合を形成することで、(B)成分とすることができる。
【0052】
ジオール化合物の一方の水酸基が(メタ)アクリル酸とエステル結合を形成した化合物の具体例としては、上記「2.2.1.1.(A)成分」の項で例示した「水酸基を有する(メタ)アクリル化合物」が挙げられる。また、(B)成分のより好ましい化合物としては、下記式(6)で示される化合物を例示することができる。
【0053】
【化5】

【0054】
式(6)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を、rは1〜15の整数を、Rはヒドロキシル基、又は同式(6)中のAで示される基を示す。
【0055】
上記式(6)で表される化合物の具体例としては、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル(別名:(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート・アシッドフォスフェート、またはエチレングリコール1−(メタ)アクリレート2−ホスフェート)、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)プロピル、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)ブチル、リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキシル、ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドフォスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシプロピル)アシッドフォスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシブチル)アシッドフォスフェート、ビス(2−メタクリロイルオキシヘキシル)アシッドフォスフェート、等が挙げられる。
【0056】
これらの市販品としては、ライトエステルP−1M、P−2M(共栄社化学株式会社製)等が挙げられる。
【0057】
(B)成分の機能の一つとしては、保護膜2のガラス基板1との密着性を高めることが挙げられる。保護膜2は、(B)成分にリン酸に由来する構造が存在していることにより、保護膜2とガラス基板1との間の界面の親和性が増大し密着性を向上させることができる。そのため、例えば、保護膜2が収縮歪み(収縮応力)を有する場合に、歪み(応力)を拘束することや、界面剥離等の不具合を抑制することができる。
【0058】
組成物における(B)成分の含有量は、溶剤を除く成分全量を100質量%として、1〜10質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは2〜5質量%の範囲内である。(B)成分の含有量が上記範囲内であることにより、保護膜2とガラス基板1との間の密着性を十分に大きくすることができる。
【0059】
2.2.1.3.(C)成分
保護膜2を形成する組成物には、(C)成分として、HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステルが含有される。
【0060】
ここで、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、親水性又は親油性の大きさの程度を示す。HLB値は次の計算式によって求めることができる。
【0061】
HLB=7+11.7Log(M/M
ここにMは親水基の分子量、Mは親油基の分子量である。M+M=M((C)成分の分子量)である。
【0062】
(C)成分が組成物に含有されることによる効果の一つとしては、保護膜2に付着した指紋を見えにくくすると共に、指紋の拭き取り性を良好にすることが挙げられる。ここで、指紋等が付着したときの指紋の目立ちにくさは、以下、これを指紋の低視認性(Low Visibility)という場合がある。「指紋の低視認性」とは、保護膜2の表面に指紋(皮脂)を付着させたときの肉眼での見え難さを意味する。
【0063】
(C)成分の脂肪酸エステルのHLB値は、2〜15の範囲内である。また、(C)成分の脂肪酸エステルのHLB値は2〜4の範囲内であることがより好ましい。HLB値を上記の範囲内とすることで、指紋の低視認性、および指紋の拭き取り性を十分に発揮させることができる。
【0064】
(C)成分としては、グリセリンの脂肪酸エステルが挙げられ、HLB値が上記範囲であるかぎり、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドのいずれであってもよい。また、脂肪酸エステルのHLB値は、例えば、親水性基と疎水性基の分子量を調節すること、水酸基、カルボキシル基等の親水性基を導入すること、あるいは、水酸基を有する脂肪酸を選択することなど、適宜の方法によって調節することができる。
【0065】
(C)成分の脂肪酸エステルは、非イオン界面活性剤に分類されることが可能であり、以下、これを「脂肪酸エステル系界面活性剤」ということがある。
【0066】
また、脂肪酸エステルは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜30の1価又は2価の炭化水素基を含有することが好ましい。脂肪酸エステルが、炭素数6〜30の炭化水素基を有することで、得られる硬化膜(保護膜2)の指紋の低視認性や指紋の拭き取り性をさらに向上させることができる。
【0067】
グリセリンとエステル結合する脂肪酸としては、リシノール酸、オレイン酸、リノール酸などの不飽和脂肪酸、およびパルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸が挙げられ、ジグリセリド、トリグリセリドの場合は、互いに異なる脂肪酸がエステル化されてもよい。さらに、グリセリンとエステル結合する脂肪酸としては、いわゆる高級脂肪酸に限定されず、酢酸(アセチルグリセリドとなる)や、プロピオン酸などの低級脂肪酸であってもよい。
【0068】
脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル等が挙げられ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルが好ましい。ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の市販品としては、例えば、EMALEX HCシリーズ(日本エマルジョン社製)、ノイゲンHCシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルの市販品としては、例えば、EMALEX GWIS−100EX(イソステアリン酸グリセリル、日本エマルジョン社製)、ノイゲンGISシリーズ(第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0069】
(C)成分の脂肪酸エステルは、さらにエチレン性不飽和結合として、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。なおこの場合の(C)成分の脂肪酸エステルのHLB値は、(メタ)アクリロイル基を含んで算出される。
【0070】
(C)成分の脂肪酸エステルが、(メタ)アクリロイル基を有する場合には、組成物を硬化させる際に、組成物に含有される(A)成分および(B)成分が有する(メタ)アクリロイル基との間で結合を形成することができる。これにより硬化物中で、(C)成分が固定化されるため、保護膜2の耐久性を向上させることができる。
【0071】
(C)成分が(メタ)アクリロイル基を有する場合には、他成分との相溶性が向上するため、(C)成分が(メタ)アクリロイル基を有しない場合と比較して、組成物中に多量の(C)成分を配合することが可能となる。そのため。スプレー塗工であっても、塗膜表面に(C)成分を存在させることができ、本発明の効果の一つである指紋の低視認性や指紋の拭き取り性を容易に発現させることが可能となる。
【0072】
(C)成分の脂肪酸エステルに(メタ)アクリロイル基を付与する場合は、例えば、次のようにして合成することができる。この場合、例えば、水酸基を有する界面活性剤に対し、反応後のHLBが2〜7になるような比率で(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることで得ることができる。例えば、3個の水酸基を有する脂肪酸エステルを原料として使用する場合、原料の脂肪酸エステルのHLBが5の場合は、水酸基の1/3モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させるだけでもよい。原料の脂肪酸エステテルのHLBが9の場合、水酸基の等モル当量の(メタ)アクリロイル基を有するイソシアネート化合物又は(メタ)アクリル酸を反応させることが好ましい。
【0073】
さらに、(C)成分の脂肪酸エステルに(メタ)アクリロイル基を付与する方法としては、例えば、脂肪酸エステルの脂肪酸部位に、水酸基を有する脂肪酸を選択し、当該水酸基を(メタ)アクリロイル基に変換する方法が挙げられる。より具体的には、(C)成分は、脂肪酸エステル系界面活性剤が有する水酸基と(メタ)アクリロイル基を有する化合物とを反応させることにより得ることができる。このような反応としては、例えば、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を、水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤に対して反応させることが挙げられる。このような化合物を用いることにより、脂肪酸エステル系界面活性剤の水酸基とイソシアネート基とが反応しウレタン結合を形成することで(メタ)アクリロイル基が導入される。
【0074】
イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−ビス[(メタ)アクリロイルオキシメチル]エチルイソシアネート等を挙げることができる。また、ジイソシアネート化合物に水酸基と(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を反応させて、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物を得ることもできる。このようなジイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0075】
水酸基を有する脂肪酸エステル系界面活性剤と、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物との反応は、例えば、以下のようにして行うことができる。この反応は、イソシアネート化合物と水酸基含有化合物の反応であり、通常ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ジブチル錫ジラウレート、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100重量部に対して0.01〜1質量%用いて行われる。また、これらの化合物の反応は、無触媒で行うこともできる。反応温度は、通常0〜90℃であり40〜80℃で行うのが好ましい。反応は、無溶剤で行っても、溶剤に溶解させて行ってもよい。
【0076】
(メタ)アクリロイル基を有する(C)成分(HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル)の具体例としては、下記式(7)で示される構造を有する化合物を挙げることができる。
【0077】
【化6】

【0078】
式(7)中、各記号の意味は下記の通りである。Xは置換されていてもよい炭素数3〜10の(m+m)価の炭化水素基を示す。複数個あるY及びYはそれぞれ独立にエーテル結合、エステル結合、或いはウレタン結合を含む2価の基又は単結合を示し、Y及びYの少なくとも1個は脂肪酸に由来する構造を有する。Zは(メタ)アクリロイル基を1個以上有する基を示す。複数個あるR及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4の直鎖又は分岐の炭化水素基を示す。m及びmはそれぞれ0〜10の整数であり、n及びnはそれぞれ独立に0〜20の整数である。ただし、m及びmは同時に0ではない。
【0079】
(メタ)アクリロイル基を有する(C)成分の具体例としては、下記式(8)で表される化合物を挙げることができる。
【0080】
【化7】

【0081】
式(8)中、R10は、各々独立に、水素原子又は下記式(9)で表される基である。a+b+c=7である。
【0082】
【化8】

【0083】
さらに、(メタ)アクリロイル基を有する(C)成分の他の具体例としては、下記式(10)で表される化合物を挙げることができる。
【0084】
【化9】

【0085】
式(10)中、R11は、各々独立に、水素原子又は下記式(11)で表される基である。a+b+c=7である。
【0086】
【化10】

【0087】
組成物における(C)成分の含有量は、溶剤を除く成分全量を100質量%として、0.1〜20質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1〜15質量%の範囲内である。(C)成分の含有量が上記範囲内であることにより、得られる保護膜に指紋拭き取り性を付与するとともに、透明性の高い保護膜を得ることができる。なお、(C)成分の含有量を5質量%以上とする場合は、(C)成分として(メタ)アクリロイル基を有する化合物を使用することが好ましい。
【0088】
2.2.1.4.その他の成分
(D)無機酸化物粒子
保護膜2を形成する組成物には、(D)成分として無機酸化物粒子を配合してもよい。
【0089】
(D)成分としては、酸化物を主成分とする粒子であって、得られる硬化物の保護膜2の無色性の観点から、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、スズ、アンチモン及びセリウムからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素の酸化物を主成分とする粒子が好ましい。
【0090】
これらの酸化物粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の粒子を挙げることができる。中でも、高硬度の観点から、シリカ、アルミナ、ジルコニア及び酸化アンチモンの粒子が好ましい。これらは単独で又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0091】
さらに、酸化物粒子は、粉体状又は溶剤分散ゾルとして用いてもよい。溶剤分散ゾルとして用いる場合、他の成分との相溶性、分散性の観点から、分散媒は、有機溶剤が好ましい。このような有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類を挙げることができる。中でも、メタノール、イソプロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンが好ましい。
【0092】
酸化物粒子の数平均粒子径は形成する保護膜2の用途に応じて適宜選択すればよいが、1nm以上100nm以下が好ましく、3nm〜100nmがさらに好ましく、5nm〜80nmが特に好ましい。
【0093】
無機酸化物粒子の数平均粒子径が、上記範囲にあれば、保護膜2の透明性および表面状態を良好にたもつことができる。なお、無機酸化物粒子の分散性を改良するために各種の界面活性剤やアミン類を添加してもよい。
【0094】
ケイ素酸化物粒子(例えば、シリカ粒子)として市販されている商品としては、例えば、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製メタノ−ルシリカゾル、IPA−ST、MEK−ST、NBA−ST、XBA−ST、DMAC−ST、ST−UP、ST−OUP、ST−20、ST−40、ST−C、ST−N、ST−O、ST−50、ST−OL等を挙げることができる。また粉体シリカとしては、日本アエロジル(株)製アエロジル130、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルOX50、旭硝子(株)製シルデックスH31、H32、H51、H52、H121、H122、日本シリカ工業(株)製E220A、E220、富士シリシア(株)製SYLYSIA470、日本板硝子(株)製SGフレ−ク等を挙げることができる。
【0095】
また、アルミナの水分散品としては、日産化学工業(株)製アルミナゾル−100、−200、−520;アルミナのイソプロパノール分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150I;アルミナのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製AS−150T;ジルコニアのトルエン分散品としては、住友大阪セメント(株)製HXU−110JC;アンチモン酸亜鉛粉末の水分散品としては、日産化学工業(株)製セルナックス;アルミナ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛等の粉末及び溶剤分散品としては、シーアイ化成(株)製ナノテック;アンチモンドープ酸化スズの水分散ゾルとしては、石原産業(株)製SN−100D;ITO粉末としては、三菱マテリアル(株)製の製品;酸化セリウム水分散液としては、多木化学(株)製ニードラール等を挙げることができる。
【0096】
無機酸化物粒子の形状は球状、中空状、多孔質状、棒状、板状、繊維状、又は不定形状であり、好ましくは、球状である。酸化物粒子(Aa)の比表面積(窒素を用いたBET比表面積測定法による)は、好ましくは、10〜1000m/gであり、さらに好ましくは、100〜500m/gである。
【0097】
なお、無機酸化物粒子を組成物に配合する場合には、あらかじめ、無機酸化物粒子を重合性を有する有機化合物の重合体によって被覆してから配合してもよい。このような有機化合物としては、例えば、上述の(A)成分、(B)成分、および(C)成分のうち、エチレン性不飽和結合((メタ)アクリロイル基等)を有するもの、並びに、以下の化合物が挙げられる。
【0098】
無機酸化物粒子を被覆する有機化合物の好ましい例としては、分子内にシラノール基を有する化合物又は加水分解によってシラノール基を生成する化合物が挙げられる。生成する化合物としては、ケイ素原子にアルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等が結合した化合物を挙げることができるが、ケイ素原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が結合した化合物、即ち、アルコキシシリル基含有化合物又はアリールオキシシリル基含有化合物が好ましい。
【0099】
シラノール基又はシラノール基を生成する化合物のシラノール基生成部位は、縮合反応又は加水分解に続いて生じる縮合反応によって、無機酸化物粒子と結合する構成単位である。
【0100】
このような化合物の好ましい具体例としては、下記式(12)に示す化合物を挙げることができる。
【0101】
【化11】

【0102】
式(12)中、R12、R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基若しくはアリール基であり、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、フェニル、キシリル基等を挙げることができる。ここで、jは、1〜3の整数である。
【0103】
[(R12O)133−jSi−]で示される基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリフェノキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、ジメチルメトキシシリル基等を挙げることができる。このような基のうち、トリメトキシシリル基又はトリエトキシシリル基等が好ましい。
【0104】
14は、炭素数1〜12の脂肪族又は芳香族構造を有する2価の有機基であり、鎖状、分岐状又は環状の構造を含んでいてもよい。具体例として、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキサメチレン、シクロヘキシレン、フェニレン、キシリレン、ドデカメチレン等を挙げることができる。
【0105】
15は、2価の有機基であり、通常、分子量14から1万、好ましくは、分子量76から500の2価の有機基の中から選ばれる。具体例として、ヘキサメチレン、オクタメチレン、ドデカメチレン等の鎖状ポリアルキレン基;シクロヘキシレン、ノルボルニレン等の脂環式又は多環式の2価の有機基;フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ポリフェニレン等の2価の芳香族基;及びこれらのアルキル基置換体、アリール基置換体を挙げることができる。また、これら2価の有機基は炭素及び水素原子以外の元素を含む原子団を含んでいてもよく、ポリエーテル結合、ポリエステル結合、ポリアミド結合、ポリカーボネート結合を含むこともできる。
【0106】
16は、(k+1)価の有機基であり、好ましくは、鎖状、分岐状又は環状の飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基の中から選ばれる。
【0107】
Zは、活性ラジカル種の存在下、分子間架橋反応をする重合性不飽和基を分子中に有する1価の有機基を示す。
【0108】
また、kは、好ましくは、1〜20の整数であり、さらに好ましくは、1〜10の整数、特に好ましくは、1〜5の整数である。
【0109】
組成物における(D)成分の含有量は、溶剤を除く成分全量を100質量%として、0〜80質量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは5〜75質量%の範囲内である。(D)成分の含有量が上記範囲内であることにより、得られる保護膜の硬度を高めることができる。
【0110】
(E)ラジカル重合開始剤
保護膜2を形成する組成物には、(E)ラジカル重合開始剤を配合してもよい。
【0111】
このような(E)ラジカル重合開始剤としては、例えば、熱的に活性ラジカル種を発生させる化合物(熱重合開始剤)、及び放射線(光)照射により活性ラジカル種を発生させる化合物(放射線(光)重合開始剤)等の、汎用されているものを挙げることができ、これらのうち放射線(光)重合開始剤が好ましい。
【0112】
放射線(光)重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0113】
放射線(光)重合開始剤の市販品としては、例えば、BASF社製イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリン TPO、LR8893、UCB社製ユベクリル P36、ランベルティ社製エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等を挙げることができる。
【0114】
熱重合開始剤としては、加熱により分解してラジカルを発生して重合を開始するものであれば特に制限はなく、例えば、過酸化物、アゾ化合物を挙げることができ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。
【0115】
保護膜2を形成する組成物中において、必要に応じて用いられる(E)ラジカル重合開始剤の配合量は、組成物の溶剤を除く成分の合計を100質量%としたときに、0.01〜20質量%の範囲内とすることが好ましく、0.1〜10質量%の範囲内とすることがさらに好ましい。
【0116】
(F)有機溶剤
保護膜2を形成する組成物は、保護膜2の厚さを調節する等の目的で、有機溶剤で希釈して用いることができる。組成物の粘度を有機溶剤によって調節することができるため、保護膜2の厚みを調節することができる。組成物に有機溶剤を配合することによって、調節される組成物の粘度としては、例えば、0.1〜50,000mPa・秒/25℃であり、好ましくは、0.5〜10,000mPa・秒/25℃である。
【0117】
有機溶剤(F)としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等が挙げられる。
【0118】
保護膜2を形成するための組成物において、必要に応じて用いられる有機溶剤(F)の配合量は、溶剤を除く成分の合計を100質量%としたときに、50〜10,000質量%の範囲内であることが好ましい。有機溶剤の配合量は、組成物の粘度等を考慮して適宜決めることができる。
【0119】
(G)多官能重合性化合物
保護膜2を形成するための組成物には、必要に応じて、(G)成分として、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する、多官能重合性化合物を配合してもよい。以下、(G)成分を「多官能(メタ)アクリレート化合物(G)」ともいう。(G)成分を配合することの効果の一つとしては、保護膜2の強度を向上させることが挙げられる。また、組成物の製膜性、硬化物の硬度の観点から(G)成分は、(メタ)アクリロイル基を3個以上有することが好ましい。
【0120】
多官能重合性化合物の具体例としては、(メタ)アクリルエステル類が挙げられ、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングルコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、及びこれらの出発アルコール類へのエチレンオキシド又はプロピレンオキシド付加物のポリ(メタ)アクリレート類、分子内に2以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、オリゴエーテル(メタ)アクリレート類、及びオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。この中では、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート(以下、DPHAともいう。)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが、得られた保護膜が高硬度となるため好ましい。
【0121】
多官能(メタ)アクリレート化合物(G)の市販品としては、(株)三和ケミカル製:商品名ニカラックMX−302、東亞合成(株)製:商品名アロニックス:M−400、M−402、M−403、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−313、M−315、M−320、M−325、M−326、M−327、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−1382、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、日本化薬(株)製:商品名KAYARAD:D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−368、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、共栄社化学(株)製:商品名ライトアクリレートPE−4A、DPE−6A、DTMP−4A等を挙げることができる。上記の化合物は、1種単独で、又は2種以上組み合わせて使用することがで
きる。
【0122】
さらに、多官能モノマーの市販品としては、例えばユピマーUV:SA1002、SA2007(以上、三菱化学(株)製)、ビスコート:#195、#230、#215、#260、#335HP、#295、#300、#360、#700、GPT、3PA(以上、大阪有機化学工業(株)製)、ライトアクリレート:4EG−A、9EG−A、NP−A、DCP−A、BP−4EA、BP−4PA、TMP−A、PE−3A(以上、共栄社化学(株)製)、アロニックス:M210、M220、M240、M305、M309、M310、M325、M400(以上、東亞合成(株)製)、リポキシ:VR−77、VR−60、VR−90(以上、昭和高分子(株)製)等が挙げられる。
【0123】
保護膜2を形成するための組成物中における(G)成分の含有量は、(E)成分(有機溶剤)以外の組成物全量を100質量%として、好ましくは0〜40質量%、より好ましくは0〜35質量%の範囲内である。(G)成分の含有量が上記範囲内であることにより、スプレー塗布性に適した組成物粘度が得られると共に、保護膜2の耐擦過性および硬度をさらに向上させることができる。
【0124】
(H)硬化性オリゴマー
保護膜2を形成するための組成物には、必要に応じて組成物の特性を損なわない範囲で(H)成分として、硬化性のオリゴマー又はポリマーを配合してもよい。硬化性のオリゴマー又はポリマーとしては、例えば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアミド(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシ基を有するシロキサンポリマー、グリシジルメタアクリレートとそのほかの重合性モノマーとの共重合体と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる反応性ポリマー等が挙げられる。
【0125】
(I)単官能重合性化合物
保護膜2を形成するための組成物には、必要に応じて、(I)成分として、エチレン性不飽和基を1個有する化合物(以下、「単官能重合性化合物」という。)を配合してもよい。
【0126】
(I)成分(単官能重合性化合物)の例としては、例えば、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムの如きビニル基含有ラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートの如き脂環式構造含有(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルホリン、ビニルイミダゾール、ビニルピリジン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキシド変成(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、t−オクチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、セチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル及び下記式(13)〜(16)で表される化合物を挙げることができる。
【0127】
【化12】

【0128】
(式(13)中、R17は水素原子又はメチル基を示し、R18は炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルキレン基を示し、R19は水素原子又は炭素数1〜12、好ましくは1〜9のアルキル基を示し、mは0〜12、好ましくは1〜8の数を示す。)
【0129】
【化13】

【0130】
(式(14)、(15)中、R20は水素原子又はメチル基を示し、R21は炭素数2〜8、好ましくは2〜5のアルキレン基を示し、R22はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、pは好ましくは1〜4の数を示す。)
【0131】
【化14】

【0132】
(式中、R23、R24、R25及びR26は互いに独立に、水素原子又はメチル基であり、qは1〜5の整数を示す。)
これら単官能重合性化合物のうち、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタムの如きビニル基含有ラクタム、イソボルニル(メタ)アクリレート及びラウリルアクリレートがより好ましい。
【0133】
これら単官能重合性化合物は、市販品IBXA(イソボルニルアクリレート)(大阪有機化学工業(株)社製)、アロニックスM−111、M−113、M114、M−117、TO−1210(以上、東亞合成(株)社製)等として入手することができる。
【0134】
保護膜2を形成するための組成物に単官能重合性化合物(I)を含有させる場合の含有量は、有機溶剤以外の組成物全量を100質量%として、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0〜5質量%である。組成物が(I)成分を含有することにより、保護膜2における残留応力を小さくすることができるが、上記範囲を超えると保護膜2の硬度が低下するおそれがある。
【0135】
<その他の成分>
保護膜2を形成するための組成物には、更にまた、上記成分以外に必要に応じて各種添加剤として、例えば、増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0136】
ここで、増感剤としては、増感剤としては、例えば、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等を挙げることができる。この増感剤の市販品としては、日本化薬(株)製 商品名:KAYACURE:DMBI、EPA等を挙げることができる。
【0137】
酸化防止剤としては、例えばIrganox1010、1035、1076、1222(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、AntigenP、3C、FR、GA−80(住友化学工業(株)製)等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、例えばTinuvin:P、234、320、326、327、328、329、213(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、Seesorb102、103、110、501、202、712、704(以上、シプロ化成(株)製)等が挙げられ、光安定剤としては、例えばTinuvin:292、144、622LD(以上、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、サノールLS770(三共(株)製)、SumisorbTM−061(住友化学工業(株)製)等が挙げられ、シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、市販品として、SH6062、6030(以上、東レ・ダウ コーニング・シリコーン(株)製)、KBE903、603、403(以上、信越化学工業(株)製)等が挙げられ、塗面改良剤としては、例えばジメチルシロキサンポリエーテル等のシリコーン添加剤が挙げられ、市販品としてはDC−57、DC−190(以上、ダウコーニング社製)、SH−28PA、SH−29PA、SH−30PA、SH−190(以上、東レ・ダウ コーニング・シリコーン(株)製)、KF351、KF352、KF353、KF354(以上、信越化学工業(株)製)、L−700、L−7002、L−7500、FK−024−90(以上、日本ユニカー(株)製)等が挙げられる。
【0138】
保護膜2を形成するための組成物は、前記各成分を常法により混合して製造することができる。このようにして調製される本発明の樹脂組成物の粘度は、通常200〜50,000mPa・s/25℃、好ましくは500〜30,000mPa・s/25℃である。この範囲の粘度であれば、塗布むらやうねりが生じたり、目的とする厚みを得やすく、保護膜としての性能を十分に発揮させることができる。
【0139】
2.2.2.組成物の硬化
上述の組成物は、ガラス基板1に塗布され、例えば以下のようにして硬化させることができる。
【0140】
上述の組成物は、熱硬化および/又は放射線硬化することができる。具体的には、組成物をガラス基板1にコーティングし、好ましくは0〜200℃で揮発成分を乾燥させた後、熱又は/及び放射線で硬化処理を行う。熱による場合の好ましい硬化条件は20〜150℃であり、10秒〜24時間の範囲内で行われる。放射線による場合、紫外線又は電子線を用いることが好ましい。そのような場合、好ましい紫外線の照射光量は001〜10J/cmであり、より好ましくは01〜2J/cmである。また、好ましい電子線の照射条件は、加圧電圧は10〜300KV、電子密度は002〜030mA/cmであり、電子線照射量は1〜10Mradである。なお、本発明で「放射線」とは、赤外線、可視光線、紫外線、遠紫外線、X線、電子線、α線、β線、γ線等を意味する。
【0141】
組成物が硬化されると、保護膜2中には、配合された化合物の(メタ)アクリロイル基の少なくとも一部が、縮合した高分子化合物が生じる。
【0142】
2.3.保護膜の形成
保護膜2は、例えば、上記組成物を、スピンコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法、インクジェット法などに適用し、熱硬化および/又は放射線硬化することにより形成することができる。また、保護膜2は、必要に応じて、一般的な方法により、パターニングされることができる。
【0143】
保護膜2は、上記組成物が反応した硬化物によって形成されている。すなわち、保護膜2は、例えば、上記組成物に含まれる(メタ)アクリロイル基の少なくとも一部が重合した構造を有する重合体(硬化物)によって構成されている。
【0144】
3.タッチパネル
本実施形態にかかるタッチパネルは、人の指や器具等が接触することによって、情報が入力されるデバイスである。本実施形態のタッチパネルは、人の指や器具等が接触する部位に、上述の積層体10を有しており、情報が入力される際に人の指や器具等が保護膜2に接触するように配置されている。
【0145】
なお、本実施形態の積層体10は、タッチパネルに好適であるだけでなく、タッチパネル以外にも、各種の表示デバイス、住宅や自動車の窓ガラス、その他のガラス製のパネル、ケーシングなど、広範な用途に適用可能であることは容易に理解されよう。
【0146】
4.作用効果
本実施形態の積層体10は、ガラス基板1の上に、(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、を含有する組成物によって、保護膜2が形成されている。保護膜2は、硬度が大きく、かつ、ガラス基板1の表面に対する密着性が良好である。これにより、積層体10に対して指紋が付着した場合に、保護膜2の作用によって、指紋の低視認性を発現することができる。さらに、本実施形態にかかる積層体10は、保護膜2の硬度およびガラスとの密着性が高いため、指紋が付着した場合に、指紋の拭き取りを容易に行うことができる。本実施形態にかかるタッチパネルは、積層体10を有しているため、タッチパネルに対して指紋が付着した場合に、指紋の低視認性を発現するとともに、指紋が付着した場合に、指紋の拭き取りを容易に行うことができる。本実施形態にかかる組成物によれば、上記密着性および硬度が良好な保護膜2を、ガラス上に容易に形成することができる。
【0147】
4.実施例および比較例
実施例および比較例の積層体を以下のように作成し、評価した。
【0148】
4.1.ガラス基板
青板ガラス(ソーダライムガラス板)を、各実施例および各比較例のガラス基板として用いた。青板ガラスの表面は、純水で洗浄し十分に乾燥させて用いた。
【0149】
4.2.保護膜
各実施例および各比較例において、ガラス基板の表面に、保護膜を作成した。組成物(固形分濃度25%)を上記ガラス基板上に#20バーを用いて塗工し、これを80℃のオーブンに5分間入れ、乾燥を行った。この後塗工膜を、大気雰囲気中でフュージョンUVシステムズ製無電極ランプ(Hバルブ)を用いて350mW/cm、1000mJ/cmの照射を行い、硬化を行うことで膜厚6μmの保護膜を有する各実施例および各比較例の積層体を得た。
【0150】
4.2.1.組成物
各実施例および各比較例の積層体の保護膜は、以下の組成物を用いて作成した。用いた組成物の組成は表1に記載した。表1に記載された配合の単位は、質量%である。
【0151】
【表1】

【0152】
4.2.1.1.(A)成分
(環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物)
(A)成分としては、以下の3種類の合成品または市販品を使用した。
【0153】
(A−1)攪拌機付きの容器内のイソホロンジイソシアネート18.8部と、ジブチル錫ジラウレート0.2部とからなる溶液に対し、新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレートおよびペンタエリスリトールテトラアクリレートの混合物であって、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)93部を、10℃、1時間の条件で滴下した後、60℃、6時間の条件で攪拌した。以上により、環状構造およびアクリロイル基を有する化合物(A−1)(PIPと略記する)が75部とペンタエリスリトールテトラアクリレート37部の混合液を得た。
【0154】
(A−2)攪拌機付きの容器内のトリレンジイソシアネート42.8部と、ジブチル錫ジラウレート0.08部とからなる溶液に対し、ヒドロキシエチルアクリレート57.1部を、10℃、1時間の条件で滴下した後、60℃、6時間の条件で攪拌し、環状構造およびアクリロイル基を有する化合物(A−2)(HTHと略記する)を得た。
【0155】
(A−3)東亞合成株式会社製、商品名:アロニックス M−315を、環状構造およびアクリロイル基を有する化合物(A−3)(M315と略記する)とした。M315は、イソシアヌル酸EO変性ジ及びトリアクリレートの混合物である。
【0156】
4.2.2.2.(B)成分
((メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物)
リン酸2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル(PPMEと略記する)を東邦化学工業株式会社から購入して(B)成分として用いた。
【0157】
4.2.2.3.(C)成分
(HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル)
(C)成分としては、以下の3種類の合成品または市販品を使用した。
【0158】
(C−1)撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.030g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学製、NKエステル A−TMM−3LM−N)21.05g、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(住化バイエルウレタン社製、デスモジュールI)9.10g、及びメチルイソブチルケトン(三菱化学社製)50.00gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品社製、KS−1200−A)0.31gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン社製、EMALEX HC−7;HLB値6)19.52gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、化合物(C−1)を得た。この反応において、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた化合物(C−1)のHLBは3である。化合物(C−1)は、上記実施形態で説明した(C)成分のうち、式(8)で示される化合物のR10が式(9)で示される構造を有する化合物に相当する。
【0159】
(C−2)撹拌機を取り付けた3つ口フラスコに、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(吉富ファインケミカル社製、ヨシノックスBHT)0.041g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学製、NKエステル A−TMM−3LM−N)12.92g、トリレンジイソシアネート4.82g、及びメチルイソブチルケトン(三菱化学社製)50gを仕込み、そこにジラウリル酸ジオクチル錫(共同薬品社製、KS−1200−A)0.349gを添加した後、室温で2時間撹拌した。次いで、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(日本エマルジョン社製、EMALEX HC−5;HLB値4)31.88gを添加した。反応液を60℃まで昇温して2時間攪拌し、化合物(C−2)を得た。この反応において、アクリル化反応はほぼ定量的に進行するため、仕込量から求めた化合物(C−2)のHLBは3である。化合物(C−2)は、上記実施形態で説明した(C)成分のうち、式(10)で示される化合物のR11が式(11)で示される構造を有する化合物に相当する。
【0160】
4.2.2.4.その他の成分
(D)成分:無機酸化物粒子としては、無機酸化物粒子を重合性を有する有機化合物の重合体によって被覆した以下の2種類(D−1およびD−2)を用いた。
【0161】
(D−1)は、東レ・ダウコーニング製Z6030(γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)0.71部、シリカ粒子分散液(MEK溶剤、シリカ濃度32%、アデカ製AT20を溶剤置換したもの)89.1部、イオン交換水0.12部、及びp−ヒドロキシフェニルモノメチルエーテル0.01部の混合液を、60℃で4時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.36部を添加し、さらに1時間60℃で加熱攪拌して得た。透過型電子顕微鏡で測定した無機酸化物粒子(D−1)の平均粒子径は13nmであった。この分散液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、32.3%であった。また、分散液を磁性るつぼに2g秤量後、80℃のホットプレート上で30分予備乾燥し、750℃のマッフル炉中で1時間焼成した後の無機残渣より、固形分中の無機含量を求めたところ、98%であった。
【0162】
(D−2)の製造に際し、まず被覆する有機化合物を以下のように合成した。
【0163】
乾燥空気中、メルカプトプロピルトリメトキシシラン23.0部、ジブチル錫ジラウレート0.5部からなる溶液に対し、イソホロンジイソシアネート60.0部を攪拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、70℃で3時間加熱攪拌した。これに新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート60質量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート40質量%とからなる。このうち、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)202.0部を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で10時間加熱攪拌することで重合性不飽和基を含む有機化合物(Db)を得た。生成物中の残存イソシアネート量をFT−IRで分析したところ01%以下であり、反応がほぼ定量的に終了したことを示した。生成物の赤外吸収スペクトルは原料中のメルカプト基に特徴的な2550cm−1の吸収ピーク及び原料イソシアネート化合物に特徴的な2260cm−1の吸収ピークが消失し、新たにウレタン結合及びS(C=O)NH−基に特徴的な1660cm−1のピーク及びアクリロキシ基に特徴的な1720cm−1のピークが観察され、重合性不飽和基としてのアクリロキシ基と−S(C=O)NH−、ウレタン結合を共に有するアクリロキシ基修飾アルコキシシランが生成していることを示した。以上により、無機酸化物粒子を被服するための化合物285部(反応に関与しなかったペンタエリスリトールテトラアクリレート80.8部を含む)を合成した。
【0164】
得られた化合物(Db)を8.7部と、メチルエチルケトン(MEK)シリカゾル(日産化学工業(株)製、商品名:MEK−ST(数平均粒子径22nm、シリカ濃度30%))91.3部(固形分27.4部)、イソプロパノール0.2部及びイオン交換水0.1部の混合液を、80℃で、3時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.4部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで無色透明の無機酸化物粒子(D−2)の分散液を得た。当該分散液をアルミ皿に2g秤量後、120℃のホットプレ−ト上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、35質量%であった。この重合性を有する有機化合物の重合体によって被覆された無機酸化物粒子(D−2)の平均粒子径は、20nmであった。ここで、平均粒子径は透過型電子顕微鏡により測定した。
【0165】
重合開始剤(E)成分として、BASF社製、IRGACURE184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを用いた。
【0166】
多官能重合性化合物としては、日本化薬株式会社製、KAYARAD DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを用いた。
【0167】
単官能重合性化合物としては、大阪有機化学工業株式会社製、IBXA:イソボルニルアクリレートを用いた。
【0168】
有機溶剤としては、試薬として購入したメチルイソブチルケトン(MIBK)およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を用いた。
【0169】
4.3.評価方法
4.3.1.クロスカット試験
各実施例および各比較例の積層体の保護膜を形成した面にカッターナイフで5mm角のクロスカットをいれ、ニチバン製セロハンテープを貼り付けて剥がすことにより、保護膜がガラス基板に密着しているか調べ、表1に、剥がれが無いものを良好と記載し、剥がれが生じたものを不良と記載した。
【0170】
4.3.2.指紋の低視認性
各実施例および各比較例の積層体の保護膜を形成した面に、評価者の指紋を付着させて評価した。指紋の付着は、各試料ごとに、評価者の指を石鹸で洗浄した後、ハンドクリームを同条件で塗ってから指紋を付着させた。付着した指紋は、目視により評価し、ほとんど視認できないものを○、薄く視認されるものを△、はっきりと確認されるものを×として、表1に記載した。
【0171】
4.3.3.指紋の拭き取り性
指紋の拭き取り性は、指紋を付着させて、その拭き取り性として評価した。各実施例および各比較例の積層体の保護膜を形成した面に指紋を付着させ、評価者の手でティッシュペーパーで5回拭き取って、インクが拭き取れるものを良好とし、拭き取れなかったものを不良として、表1に記載した。
【0172】
4.3.4.硬度試験
保護膜の硬度は、JIS K5600−5−4に準拠し、鉛筆による引掻き試験により行った。Hから4Hまでの鉛筆で、750gfの加重により、各実施例および各比較例の積層体の保護膜に対して測定を行った。結果を表1に記載した。
【0173】
4.4.評価結果
表1をみると、(A)成分、(B)成分および(C)成分を含有する組成物によって保護膜が形成された各実施例の積層体では、密着性、指紋の低視認性、指紋の拭き取り性、および保護膜の硬度の全てについて、良好な結果が得られた。これに対して(B)成分を含有しない組成物によって保護膜が形成された比較例1、2の積層体では、密着性が不十分であった。また、(C)成分を含有しない組成物によって保護膜が形成された比較例3の積層体では、指紋の低視認性および拭き取り性、並びに、保護膜の硬度が不十分であった。さらに、(A)成分を含有しない組成物によって保護膜が形成された比較例4の積層体では、保護膜の硬度が不十分であった。
【0174】
実施例1の組成物をスプレー塗工機で上記ガラス基板に塗工し、これを80℃のオーブンに5分間入れ、乾燥を行った。この後塗工膜を、大気雰囲気中でフュージョンUVシステムズ製無電極ランプ(Hバルブ)を用いて350mW/cm、1000mJ/cmの照射を行い、硬化を行うことで膜厚1μmの保護膜を形成した。得られた保護膜は良好な指紋拭き取り性を示した。
【0175】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明の積層体は、ガラスとの密着性および硬度が良好で、かつ、指紋の低視認性を有する保護膜が形成されているため、例えば、タッチパネルなどに好適である。
【符号の説明】
【0177】
10…積層体、1…ガラス基板、2…保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板と、前記ガラス基板の上に形成された保護膜と、を含み、
前記保護膜は、
(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、
(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および
(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、
を含有する組成物を硬化させて形成された、積層体。
【請求項2】
請求項1において、
前記(C)成分が、(メタ)アクリロイル基を有する、積層体。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記組成物が、さらに、(D)数平均粒子径が1nm以上100nm以下の無機酸化物粒子、を含有する、積層体。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載された積層体を備えた、タッチパネル。
【請求項5】
(A)環状構造および複数の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、
(B)(メタ)アクリロイル基を有するリン酸エステル化合物、および
(C)HLB値が2以上15以下の脂肪酸エステル、
を含有する組成物。
【請求項6】
請求項5において、
前記(C)成分が、(メタ)アクリロイル基を有する、組成物。
【請求項7】
請求項5または請求項6において、
さらに、(D)数平均粒子径が1nm以上100nm以下の無機酸化物粒子、を含有する、組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−148465(P2012−148465A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8544(P2011−8544)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】