説明

積層体およびその製造方法

【課題】イオン交換樹脂を含む層に対して良好な離型性を示す離型フィルムを組み合わせた積層体を提供すること。
【解決手段】本発明による積層体は、シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の離型フィルムにイオン交換樹脂を含む層を積層した積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリマーの層を形成するための支持基材として離型フィルムを使用することが知られている。このような離型フィルムは、目的のポリマー層が形成された後にそのポリマー層から剥離される性質、すなわち離型性が要求される。さらに離型フィルムは、離型性の他、その表面に形成されるポリマー層の性状に応じて耐熱性、耐薬品性、寸法安定性、取り扱い性、機械的強度、非汚染性その他の物性が1つ以上要求される場合が多い。
【0003】
離型フィルムの代表例として、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、シリコーン系離型コートフィルム、フッ素系離型コートフィルム等が挙げられる。これらの離型フィルムは、その表面に形成される層の材料やその塗布条件等に応じて個別具体的に選択採用される。ポリエステルフィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等が挙げられ、これらは、特に耐熱性が良好であることから一般に工程紙として用いられているが、用途によっては離型性または耐酸性が不十分となる場合がある。また、ポリオレフィンフィルムの具体例としては、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム等が挙げられ、これらは、特に耐薬品性が要求される離型フィルムとして用いられているが、用途によっては耐熱性、寸法安定性または機械的強度が不十分となり、また液はじき性が強いため塗膜が不安定となり、さらには塗膜形成が不可能な場合もある。さらに、シリコーン系離型コートフィルムには、珪素(Si)成分が塗膜に移行する汚染性、離型性の経時変化等が問題となる場合がある。また、フッ素系離型コートフィルムには、液はじき性が強いため安定した塗膜が形成できない場合や離型性が不十分となる場合がある。このように、離型フィルムには種類によってその特性に一長一短があり、その表面に形成される層との適合性については必ずしも予測はできない。
【0004】
ところで、固体高分子形燃料電池の部材には、イオン交換樹脂を含む高分子電解質膜や触媒層が含まれる。このような高分子電解質膜をキャスト法で形成し、あるいは触媒層をコーティング法で形成する際に、その支持基材として離型フィルムを用いる場合がある。例えば、特許文献1に、固体高分子形燃料電池用の電解質膜または電極膜を形成する際に皺や収縮が発現せず、これらの膜からの離型性が良好で、しかもこれらの膜を汚染しない離型フィルムとして、ポリエステル等の支持フィルムにフッ素系樹脂フィルムをラミネートした基材フィルムが開示されている。
【0005】
特許文献2には、耐熱性、離型性、非汚染性に優れた離型フィルムの材料として、エチレンとノルボルネンとの共重合体である環状ポリオレフィン樹脂が開示されている。特許文献2には、この離型フィルムが、プリント配線基板等とプレス熱板との接着防止用として、あるいはプリプレグとプレス成形型との接着防止用として特に有用であることが記載されているが、イオン交換樹脂を含む層に対する離型性その他の特性については何らの示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−285396号公報
【特許文献2】特開2006−257399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されているポリエステル等の支持フィルムにフッ素系樹脂フィルムをラミネートした基材フィルムは、フッ素系樹脂フィルムが押出成形品であるため、「フィッシュアイ」と呼ばれる凹凸欠陥を含むおそれがある。「フィッシュアイ」は、凸部の高さが約10μmにも及ぶものもあるため、このような欠陥を有する基材フィルムの表面にキャスト法でイオン交換樹脂の厚さ20μmの薄層を形成させた場合、イオン交換樹脂層の厚さが大きくばらつく問題がある。また、一般にフッ素系樹脂フィルムは高価であり、イオン交換樹脂層等の製造コストも高くなってしまう。
【0008】
したがって、本発明の目的は、イオン交換樹脂を含む層に対して良好な離型性を示す離型フィルムを組み合わせた積層体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、イオン交換樹脂を含む層の厚さがより均一になる離型フィルムを組み合わせた積層体を提供することにある。本発明のさらに別の目的は、イオン交換樹脂を含む層を汚染しない離型フィルムを組み合わせた積層体を提供することにある。本発明のさらに別の目的は、イオン交換樹脂層等の製造コストが削減される積層体を提供することにある。また、本発明の別の目的は、そのような積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、
(1)シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる積層体が提供される。
【0010】
さらに本発明によると、
(2)該イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の電解質膜または電極膜である、上記(1)に記載の積層体が提供される。
【0011】
さらに本発明によると、
(3)該イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体である、上記(1)に記載の積層体が提供される。
【0012】
さらに本発明によると、
(4)該シクロオレフィン系コポリマーのガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の積層体が提供される。
【0013】
さらに本発明によると、
(5)該シクロオレフィン系コポリマーがエチレンとノルボルネンとの共重合体である、上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の積層体が提供される。
【0014】
さらに本発明によると、
(6)該離型フィルムの該イオン交換樹脂を含む層とは反対側に積層された基材フィルムをさらに含む、上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の積層体が提供される。
【0015】
さらに本発明によると、
(7)該基材フィルムの該離型フィルムとは反対側に積層された別の離型フィルムをさらに含む、上記(6)に記載の積層体が提供される。
【0016】
さらに本発明によると、
(8)該基材フィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリプロピレン(PP)である、上記(6)または(7)に記載の積層体が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(9)シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムの片面上に、イオン交換樹脂を含む層を積層し、その反対面上に基材フィルムを積層してなる積層体の製造方法であって、該シクロオレフィン系コポリマーをフィルム状に溶融押出することにより離型フィルムを作製した後、該離型フィルムを該基材フィルムとラミネートすることを特徴とする方法が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(10)シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムの片面上に、イオン交換樹脂を含む層を積層し、その反対面上に基材フィルムを積層してなる積層体の製造方法であって、該シクロオレフィン系コポリマーの溶液を調製した後、該溶液を該基材フィルム上にコーティングすることを特徴とする方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明による積層体は、シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムにイオン交換樹脂を含む層を積層したことにより、イオン交換樹脂を含む層と離型フィルムとの間の離型性が良好となる。また、本発明による積層体は、イオン交換樹脂をキャスト法で製膜することにより形成することができる。さらに、本発明による積層体におけるイオン交換樹脂を含む層は、離型フィルムの平坦性が良好であるため、厚さが均一となる。また、本発明による積層体におけるイオン交換樹脂を含む層は、離型フィルムに起因する汚染が防止される。さらには、本発明による積層体を用いることにより、イオン交換樹脂を含む層の製造コストが削減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】(A)〜(C)は、本発明による積層体の各種実施態様を概略的に示した横断面図である。
【図2】発明例と比較例の各積層体における剥離強さを示す棒グラフである。
【図3】発明例と比較例の各積層体に用いた離型フィルムに含まれる欠陥(フィッシュアイ)の個数を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による積層体は、シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる。図1に、本発明による積層体の各種実施態様の略横断面図(A)〜(C)を示す。図1(A)は、離型フィルム11の片面にイオン交換樹脂層12を積層した積層体を示す略横断面図である。図1(B)は、離型フィルム21の片面にイオン交換樹脂層22を積層し、さらに離型フィルム21のイオン交換樹脂層22とは反対側に基材フィルム23を積層した積層体を示す略横断面図である。図1(C)は、離型フィルム31の片面にイオン交換樹脂層32を積層し、離型フィルム31のイオン交換樹脂層22とは反対側に基材フィルム33を積層し、さらに基材フィルム33の離型フィルム31とは反対側に別の離型フィルム34を積層した積層体を示す略横断面図である。図1(A)は、本発明の基本的な構成を示すものであり、特に離型フィルムがシクロオレフィン系コポリマーからなることにより、イオン交換樹脂を含む層との関係で上述の発明の効果を奏するものである。また、図1(B)に示したように、離型フィルムの裏打ちとして基材フィルムを組み合わせたことにより、例えば、シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムが補強され、積層体の搬送性や取り扱い性を高めることができる。さらに、図1(C)に示したように、基材フィルムの裏面に追加の離型フィルムを積層したことにより、例えば、複数の積層体を上下に重ね合わせて保管する場合や、長尺の積層体をロール状にして保管する場合に、イオン交換樹脂層が基材フィルムに接触することによるブロッキングを防止することができる。
【0022】
本発明においてシクロオレフィン系コポリマーとは、少なくとも1種の環状オレフィンを共重合させたオレフィン系共重合体をいう。環状オレフィンの具体例としては、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン等の1環の環状オレフィン;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンが挙げられる。これらの環状オレフィンは、それぞれ単独であるいは2種以上組合せて用いることができる。本発明において特に好ましい環状オレフィンは、上記ノルボルネンである。
【0023】
環状オレフィンと共重合されるオレフィンとしてはα−オレフィンが好ましく、その具体例として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン等の炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜8のエチレン又はα−オレフィン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明において特に好ましいα‐オレフィンはエチレンである。
【0024】
環状オレフィンとα−オレフィンとの重合方法については、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。本発明の離型フィルムに使用されるシクロオレフィン系コポリマーは、エチレンとノルボルネンの付加共重合体であることが好ましい。また、エチレンとノルボルネンの付加共重合体は、ノルボルネンのモル分率を高めることにより高いTgを得ることが容易である。本発明によるシクロオレフィン系コポリマーのTgは通常50℃以上で、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、最も好ましくは160℃以上である。Tgが高いほど高温でのフィルム形状の保持と離型性に優れるが、一方でTgが高すぎると成形加工が困難になる。また、イオン交換樹脂を含む層を積層して積層体を形成する際に熱処理が施される場合には、当該熱処理温度よりも高いTgを有するシクロオレフィン系コポリマーを採用することが好ましい。一般的なシクロオレフィン系コポリマーのTgの上限値は250℃程度である。なお、Tgの異なるシクロオレフィン系コポリマーを2種類以上併用してもよい。
【0025】
本発明による離型フィルムの製膜法としては、一般にTダイを用いた公知の溶融押出法を採用することができる。また、図1(B)または(C)に示したように基材フィルムを含む場合には、上記溶融押出法で製膜したシクロオレフィン系コポリマーのフィルムを基材フィルムにラミネートする方法や、シクロオレフィン系コポリマーの溶液を基材フィルムの上にコーティングする方法(溶液流延法)を採用することができる。溶融押出法および溶液流延法でシクロオレフィン系コポリマーのフィルムを製膜する方法の詳細については、特開2007−112967号公報を参照されたい。また、本発明による離型フィルムには市販されているものもあり、例えば、本発明において特に好適に用いられるエチレンとノルボルネンの付加共重合体は、ポリプラスチックス株式会社から登録商標「TOPAS」で市販されている。
【0026】
離型フィルムの厚さは、基材フィルムを組み合わせない場合、一般に50〜150μm、好ましくは80〜100μmの範囲内にある。離型フィルムの厚さは、基材フィルムを組み合わせた場合には比較的薄くすることができ、一般に15〜110μm、好ましくは20〜60μmの範囲内にある。いずれにしても、離型フィルムの厚さは、所期の離型性、積層体の取り扱い性、材料コスト等を考慮して、適宜設定することができる。
【0027】
本発明による離型フィルムに積層されるイオン交換樹脂を含む層としては、特に固体高分子形燃料電池用の電解質膜もしくは電極膜または電解質膜の両面に電極膜を接合させてなる膜電極接合体が好適に用いられる。このような電解質膜は、プロトン(H)伝導性が高く、電子絶縁性であり、かつ、ガス不透過性であるものであれば、特に限定はされず、公知の高分子電解質膜であればよい。代表例として、含フッ素高分子を骨格とし、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン基等の基を有する樹脂が挙げられる。高分子電解質膜の厚さは、抵抗に大きな影響を及ぼすため、電子絶縁性およびガス不透過性を損なわない限りにおいてより薄いものが求められ、具体的には、5〜50μm、好ましくは10〜30μmの範囲内に設定される。本発明における高分子電解質膜の材料は、全フッ素系高分子化合物に限定はされず、炭化水素系高分子化合物や無機高分子化合物との混合物、または高分子鎖内にC−H結合とC−F結合の両方を含む部分フッ素系高分子化合物であってもよい。炭化水素系高分子電解質の具体例として、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル系樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテル等、およびこれらの誘導体(脂肪族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン、芳香環を有するポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート等、およびこれらの誘導体(部分芳香族炭化水素系高分子電解質)、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド等、およびこれらの誘導体(全芳香族炭化水素系高分子電解質)等が挙げられる。部分フッ素系高分子電解質の具体例としては、スルホン酸基等の電解質基が導入されたポリスチレン−グラフト−エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、ポリスチレン−グラフト−ポリテトラフルオロエチレン等、およびこれらの誘導体が挙げられる。全フッ素系高分子電解質膜の具体例としては、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーであるナフィオン(登録商標)膜(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)膜(旭化成社製)およびフレミオン(登録商標)膜(旭硝子社製)が挙げられる。また、無機高分子化合物としては、シロキサン系またはシラン系の、特にアルキルシロキサン系の有機珪素高分子化合物が好適であり、具体例としてポリジメチルシロキサン、γ‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。さらに、高分子電解質膜として、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜にプロトン伝導性樹脂を含浸させた補強型固体高分子電解質膜であるGORE−SELECT(登録商標)(ジャパンゴアテックス社製)を好適に用いることもできる。
【0028】
また、固体高分子形燃料電池用の電極膜としては、触媒粒子とイオン交換樹脂を含むものであれば特に限定はされず、公知のものを使用することができる。イオン交換樹脂は、上述の電解質膜について説明した樹脂を用いることができる。触媒は、通常、触媒粒子を担持した導電材からなる。触媒粒子としては、水素の酸化反応あるいは酸素の還元反応に触媒作用を有するものであればよく、白金(Pt)その他の貴金属のほか、鉄、クロム、ニッケル等、およびこれらの合金を用いることができる。導電材としては炭素系粒子、例えばカーボンブラック、活性炭、黒鉛等が好適であり、特に微粉末状粒子が好適に用いられる。代表的には、表面積20m/g以上のカーボンブラック粒子に、貴金属粒子、例えばPt粒子またはPtと他の金属との合金粒子を担持したものがある。特に、アノード用触媒については、Ptは一酸化炭素(CO)の被毒に弱いため、メタノールのようにCOを含む燃料を使用する場合には、Ptとルテニウム(Ru)との合金粒子を用いることが好ましい。電極膜中のイオン交換樹脂は、触媒を支持し、電極膜を形成するバインダーとなる材料であり、触媒によって生じたイオン等が移動するための通路を形成する役割をもつ。このようなイオン交換樹脂としては、先に固体高分子電解質膜に関連して説明したものと同様のものを用いることができる。電極膜は、アノードでは水素、メタノール等の燃料ガスおよびカソードでは酸素、空気等の酸化剤ガスが触媒とできるだけ多く接触することができるように、電極膜は多孔性であることが好ましい。また、電極膜中に含まれる触媒量は、0.01〜4mg/cm、好ましくは0.1〜0.6mg/cmの範囲内にあることが好適である。
【0029】
図1(B)または(C)に示した基材フィルムとしては、ポリエステル、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン等の公知の各種フィルムを用いることができる。特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステルまたはポリプロピレン(PP)が、耐熱性および機械的特性の点から好ましい。基材フィルムの厚さは、積層体の搬送性や取り扱い性を考慮し、一般に25〜100μm、好ましくは38〜50μmの範囲内に設定すればよい。
【0030】
シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層するに際しては、上述の離型フィルムの表面に、または片面に基材フィルムを具備する離型フィルムの離型フィルム表面に、イオン交換樹脂の溶液を塗布して当該溶媒を乾燥除去することにより本発明の積層体を得ることができる。イオン交換樹脂を含む層の厚さは、イオン交換樹脂の溶液濃度を調整することにより、またはイオン交換樹脂溶液の塗布‐乾燥工程を繰り返すことにより、所期の厚さにすることができる。イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の電解質膜である場合、市販のナフィオン(登録商標)溶液等の電解質溶液を離型フィルム上に塗布して乾燥することができる。別法として、別途作製しておいた固体高分子電解質膜を離型フィルムに対してホットプレスする方法もある。イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の電極膜である場合には、電極膜の成分を含む溶液または分散液(触媒インク)を、離型フィルム上に塗布して乾燥することができる。イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体である場合には、上述のように離型フィルム上にアノードまたはカソード電極膜を形成後、その電極膜に対して高分子電解質膜をホットプレスで接合し、さらにその高分子電解質膜に対してカソードまたはアノード電極膜を組み合わせることができる。電極膜と高分子電解質膜とを組み合わせる際には、スクリーン印刷法、スプレー塗布法、デカール法等、従来公知の方法を採用すればよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
実施例1
離型フィルムとして、エチレンとノルボルネンとの共重合体であるポリプラスチックス株式会社製「TOPAS(登録商標)6015」を用意した。また、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。次いで、溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ100μm)の上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0032】
実施例2
離型フィルムの溶液として、エチレンとノルボルネンとの共重合体であるポリプラスチックス株式会社製「TOPAS(登録商標)5013」から特開2007−112967号公報に記載の方法に従い溶液(固形分20質量%)を調製した。また、基材フィルムとして三菱樹脂社製のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ50μm)を用意した。溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記基材フィルムの上に、上記離型フィルムの溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、基材フィルム上に離型フィルム(厚さ0.5μm)を形成した。さらに、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。次いで、溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルムの上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0033】
比較例1
離型フィルムとして、ポリエステルフィルムである三菱樹脂株式会社製「ダイアホイル(登録商標)T100」を用意した。また、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ50μm)の上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0034】
比較例2
離型フィルムとして、ポリオレフィンである三井化学株式会社製「オピュラン(登録商標)TPX X44B」を用意した。また、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ50μm)の上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0035】
比較例3
離型フィルムとして、フッ素系離型コートフィルムであるユニチカ株式会社製「FZ」を用意した。また、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ50μm)の上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0036】
比較例4
離型フィルムとして、フッ素系ラミネートフィルムである三菱樹脂株式会社製「フルオロージュ(登録商標)RL」を用意した。また、イオン交換樹脂の溶液として、側鎖にスルホン酸基を有するパーフルオロポリマーの溶液(固形分20質量%)であるデュポン社製「ナフィオン(登録商標)DE2021」を用意した。溶液流延装置(RK PRINT COAT INS(登録商標)TRUMENTS製コントロールコーターK202)を用いて、上記離型フィルム(大きさ21cm×30cm、厚さ50μm)の上に上記溶液をキャストし、その塗膜を130℃のオーブン内で乾燥させて、離型フィルム上にイオン交換樹脂層(厚さ20μm)を形成した。
【0037】
(剥離強さの測定)
実施例および比較例で形成されたイオン交換樹脂層の離型フィルムに対する剥離強さを測定した。測定装置には東洋精機株式会社製引張試験機STROGRAPH R3を使用した。各試料から試験片(幅15mm)を調製し、チャック間距離80mmおよび引張速度20mm/分の条件で剥離強さを測定した。測定結果を図2に示す。
【0038】
図2中、比較例2は、ポリオレフィン系離型フィルムに対してナフィオン(登録商標)溶液が液はじきを起こしたため塗膜が形成されず、剥離強さを測定できなかったことを示している。比較例1は、ナフィオン(登録商標)膜が凝集破壊を起こしたため、ポリエステルフィルムに対する剥離強さを測定できなかったことを示している。一方、実施例1、2は、剥離強さが、比較例3のフッ素系離型コートフィルムより有意に低く、比較例4のフッ素系ラミネートフィルムと同等であった。
【0039】
(フィッシュアイの測定)
実施例および比較例における離型フィルムの欠陥(フィッシュアイ)の個数を測定した。測定装置には三菱レイヨン株式会社製欠陥検査装置LSC−3100を使用した。各離型フィルムについて、15m/分の条件で、長径0.5mm以上のフィッシュアイ数を計測した。測定結果を図3に示す。
【0040】
図3中、実施例1、2および比較例1〜3は、離型フィルムに長径0.5mm以上のフィッシュアイが検出されなかったことを示している。一方、比較例4のフッ素系ラミネートフィルムにはフィッシュアイが検出された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる積層体であって、イオン交換樹脂を含む層と離型フィルムとの間の離型性が良好な積層体を提供する。本発明による離型フィルムは珪素等の汚染性物質を含まず、フィッシュアイ等の欠陥も無いため、剥離後のイオン交換樹脂を含む層は、汚染されず、厚さも均一となる。また、本発明による離型フィルムは炭化水素系材料からなる点で、フッ素系その他の離型フィルムよりコスト的に有利である。本発明は、固体高分子形燃料電池における高分子電解質膜、電極膜、膜電極接合体等のイオン交換樹脂含有部材を製造する際に特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムに、イオン交換樹脂を含む層を積層してなる積層体。
【請求項2】
該イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の電解質膜または電極膜である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
該イオン交換樹脂を含む層が固体高分子形燃料電池用の膜電極接合体である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
該シクロオレフィン系コポリマーのガラス転移温度(Tg)が120℃以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項5】
該シクロオレフィン系コポリマーがエチレンとノルボルネンとの共重合体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
該離型フィルムの該イオン交換樹脂を含む層とは反対側に積層された基材フィルムをさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
該基材フィルムの該離型フィルムとは反対側に積層された別の離型フィルムをさらに含む、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
該基材フィルムがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)またはポリプロピレン(PP)である、請求項6または7に記載の積層体。
【請求項9】
シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムの片面上に、イオン交換樹脂を含む層を積層し、その反対面上に基材フィルムを積層してなる積層体の製造方法であって、該シクロオレフィン系コポリマーをフィルム状に溶融押出することにより離型フィルムを作製した後、該離型フィルムを該基材フィルムとラミネートすることを特徴とする方法。
【請求項10】
シクロオレフィン系コポリマーからなる離型フィルムの片面上に、イオン交換樹脂を含む層を積層し、その反対面上に基材フィルムを積層してなる積層体の製造方法であって、該シクロオレフィン系コポリマーの溶液を調製した後、該溶液を該基材フィルム上にコーティングすることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−234570(P2010−234570A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83058(P2009−83058)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000107387)ジャパンゴアテックス株式会社 (121)
【Fターム(参考)】