説明

積層体の製造方法及び積層構造体

【課題】粗化処理された絶縁フィルムの表面粗さを小さくすることができ、更に絶縁フィルムによる絶縁性に優れている積層構造体を得ることができる積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る積層体1の製造方法は、積層フィルム10を絶縁フィルム11の第2の表面11b側から積層対象部材21に積層する積層工程と、基材フィルム12を絶縁フィルム11から剥がさずに、絶縁フィルム11をメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理する第1の加熱工程と、基材フィルム11を絶縁フィルム11Aから剥がし、絶縁フィルム11Aの第1の表面11aを露出させる剥離工程と、絶縁フィルム11Cの第1の表面11aを粗化処理する粗化工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗化処理された絶縁フィルムが積層対象部材に積層されている積層体の製造方法、並びに該積層体の製造方法により得られた積層体を備える積層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多層基板又は半導体装置等を形成するために、様々な熱硬化性樹脂組成物が用いられている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、ホスファフェナントレン類構造を有する変性フェノールノボラック型エポキシ樹脂と、トリアジン環を有するフェノールノボラック硬化剤と、無機充填材とを含むエポキシ樹脂組成物が開示されている。ここでは、エポキシ樹脂組成物により形成されたプリプレグ、樹脂フィルム又は樹脂ワニスを100〜200℃で1〜90分間加熱することにより樹脂絶縁層を形成した後、樹脂絶縁層の表面を粗化液により粗化処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−074929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、粗化処理された樹脂絶縁層の表面の表面粗さが、十分に小さくならないことがある。さらに、樹脂絶縁層の表面にめっき処理により金属層を形成した場合に、樹脂絶縁層と金属層との接着強度が低くなることがある。さらに、樹脂絶縁層の絶縁性が低いことがある。
【0006】
本発明の目的は、粗化処理された絶縁フィルムの表面粗さを小さくすることができ、更に絶縁フィルムによる絶縁性に優れている積層構造体を得ることができる積層体の製造方法、並びに該積層体の製造方法により得られた積層体を備える積層構造体を提供することである。
【0007】
本発明の限定的な目的は、絶縁フィルムの熱による寸法変化を抑制できる積層体の製造方法及び積層構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の広い局面によれば、粗化処理された絶縁フィルムが積層対象部材に積層されている積層体の製造方法であって、絶縁フィルムと該絶縁フィルムの第1の表面に積層された基材フィルムとを有する積層フィルムを用いて、該積層フィルムを上記絶縁フィルムの上記第1の表面とは反対の第2の表面側から積層対象部材に積層する積層工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がさずに、上記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理する第1の加熱工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がして、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を露出させる剥離工程と、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を粗化処理する粗化工程とを備える、積層体の製造方法が提供される。
【0009】
上記第1の加熱工程において、上記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が60重量%以上になるまで加熱処理することが好ましい。
【0010】
本発明に係る積層体の製造方法のある特定の局面では、上記剥離工程の後、かつ上記粗化工程の前に、上記絶縁フィルムを120〜220℃で加熱処理する第2の加熱工程がさらに備えられる。
【0011】
上記第1の加熱工程において、上記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が90重量%以上になるまで加熱処理することが好ましい。
【0012】
本発明に係る積層体の製造方法の他の特定の局面では、上記絶縁フィルムは、熱硬化性樹脂と、繊維状補強材及び平均粒子径1μm以下のフィラーの内の少なくとも一方とを含む。
【0013】
上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量は50重量%以上であることが好ましい。上記熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂であることが好ましい。上記エポキシ樹脂は液状エポキシ樹脂であることが好ましい。上記絶縁フィルムは硬化剤を含むことが好ましい。該硬化剤は、フェノール硬化剤、ナフトール硬化剤、活性エステル硬化剤、ベンゾオキサジン樹脂及びシアネートエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る積層体の製造方法の別の特定の局面では、上記粗化工程において、粗化処理された上記第1の表面の算術平均粗さRaが0.4μm以下、かつ十点平均粗さRzが4.0μm以下になるように、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を粗化処理する。
【0015】
本発明に係る積層体の製造方法のさらに別の特定の局面では、上記剥離工程の後、かつ上記粗化工程の前に、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を膨潤処理する膨潤工程がさらに備えられ、上記粗化工程において、膨潤処理された上記絶縁フィルムの上記第1の表面を粗化処理する。
【0016】
本発明に係る積層構造体は、上述した積層体の製造方法により得られた積層体と、該積層体の粗化処理された上記絶縁フィルムの上記第1の表面に積層されている金属層とを備える。
【0017】
上記絶縁フィルムと上記金属層との接着強度は、4.9N/cm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る積層体の製造方法は、絶縁フィルムと該絶縁フィルムの第1の表面に積層された基材フィルムとを有する積層フィルムを用いて、該積層フィルムを上記絶縁フィルムの第2の表面側から積層対象部材に積層する積層工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がさずに、上記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理する第1の加熱工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がして、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を露出させる剥離工程と、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を粗化処理する粗化工程とを備えるので、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の表面粗さを効果的に小さくすることができる。さらに、絶縁フィルムの第1の表面に金属層を積層して積層構造体を得た場合に、絶縁フィルムによる絶縁性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法の各工程を説明するための模式的な部分切欠正面断面図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法の各工程を説明するための模式的な部分切欠正面断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により得られた積層体を用いた積層構造体を模式的に示す部分切欠正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0021】
本発明に係る積層体の製造方法は、粗化処理された絶縁フィルムが積層対象部材に積層されている積層体の製造方法である。本発明に係る積層体の製造方法では、絶縁フィルムと該絶縁フィルムの第1の表面に積層された基材フィルムとを有する積層フィルムが用いられる。本発明に係る積層体の製造方法は、上記積層フィルムを上記絶縁フィルムの第1の表面とは反対の第2の表面側から積層対象部材に積層する積層工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がさずに、上記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理する第1の加熱工程と、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がして、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を露出させる剥離工程と、上記絶縁フィルムの上記第1の表面を粗化処理する粗化工程とを備える。
【0022】
本発明に係る積層体の製造方法では、上述した構成が備えられているので、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の表面粗さを小さくすることができる。例えば絶縁フィルムが繊維状補強材やフィラーを含んでいても、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の算術平均粗さRaを0.4μm以下にすることができ、十点平均粗さRzを4.0μm以下にすることができる。さらに、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面に金属層を積層して積層構造体を得た場合に、粗化処理された絶縁フィルムと金属層との剥離強度を高めることができる。
【0023】
さらに、本発明に係る積層体の製造方法では、上述した構成が備えられているので、上記積層構造体において、絶縁フィルムによる絶縁性を高めることができる。また、絶縁フィルムが繊維状補強材やフィラーを含んでいても、絶縁フィルムによる絶縁性が十分に高くなる。
【0024】
さらに、本発明に係る積層体の製造方法では、上記基材フィルムを上記絶縁フィルムから剥がさずに、上記第1の加熱工程を行うので、粗化処理前の絶縁フィルムの第1の表面の平坦性を高めることができる。本発明に係る積層体の製造方法では、例えば絶縁フィルムが繊維状補強材やフィラーを含んでいても、粗化処理前の絶縁フィルムの第1の表面の平坦性を高めることができる。この結果、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の平坦性も高くなるので、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面上に金属層をより一層精度よく形成でき、更に微細な配線を形成できる。
【0025】
さらに、本発明に係る積層体の製造方法では、上述した効果を得つつ、絶縁フィルムに繊維状補強材やフィラーを十分な量で配合できる。例えば、上述した効果を得つつ、絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量を50重量%以上にすることができる。このように上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量を多くすることで、絶縁フィルムの熱による寸法変化を抑制できる。
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態及び実施例を説明することにより本発明を明らかにする。
【0027】
積層体を得る際には、先ず、図1(a)に示す積層フィルム10を用意する。積層フィルム10は、絶縁フィルム11と該絶縁フィルム11の第1の表面11aに積層された基材フィルム12とを有する。絶縁フィルム11は絶縁性を有する。基材フィルム12は、絶縁フィルム11を支持している支持フィルムである。絶縁フィルム11の第1の表面11aとは反対の第2の表面11bは露出している。使用前に、絶縁フィルム11の第2の表面11bに保護フィルムが積層されていてもよい。
【0028】
次に、図1(b)に示すように、積層フィルム10を絶縁フィルム11の第2の表面11b側から積層対象部材21に積層する(積層工程)。積層対象部材21としては、基板又は金属層等が挙げられる。
【0029】
その後、図1(c)に示すように、積層フィルム10における基材フィルム12を絶縁フィルム11から剥がさずに、絶縁フィルム11をメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理し、絶縁フィルム11Aを得る(第1の加熱工程)。
【0030】
上記第1の加熱工程において、絶縁フィルム11の第1の表面11aに基材フィルム12が積層された状態で、絶縁フィルム11を上記ゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理することで、樹脂成分を過度に流動させることなく、熱硬化反応を進めることができる。熱硬化反応により絶縁フィルムの粘度が高くなることで、基材フィルム12を剥がした後に、樹脂成分の流動性を低下させることができる。
【0031】
次に、図1(d)に示すように、基材フィルム12を絶縁フィルム11Aから剥がして、絶縁フィルム11Aの第1の表面11aを露出させる(剥離工程)。上記加熱工程の後に、上記剥離工程を行うことで、絶縁フィルム11Aの第1の表面11aの平坦性が高くなる。
【0032】
上記剥離工程の後、かつ後述する粗化工程の前に、絶縁フィルム11Aを120〜220℃で加熱処理して、図2(a)に示すように、絶縁フィルム11Bを得る(第2の加熱工程)。なお、第2の加熱工程は必ずしも備えられていなくてもよい。上記第2の加熱工程を行わずに、後述する膨潤工程が行われてもよく、後述する粗化工程が行われてもよい。
【0033】
次に、上記剥離工程の後、かつ後述する粗化工程の前に、絶縁フィルム11Bの第1の表面11aを膨潤処理して、図2(b)に示すように、膨潤処理された絶縁フィルム11Cを得る(膨潤工程)。本実施形態では、上記剥離工程の後、上記第2の加熱工程が行われているので、上記膨潤工程は、上記第2の加熱工程の後、かつ後述する粗化工程の前に行われている。なお、膨潤工程は、必ずしも備えられていなくてもよい。上記膨潤工程を行わずに、後述する粗化工程が行われてもよい。上記第2の加熱工程が行われない場合には、絶縁フィルム11Aの第1の表面11aが膨潤処理される。
【0034】
次に、絶縁フィルム11Cの第1の表面11aを粗化処理して、図2(c)に示すように、粗化処理された絶縁フィルム11Dを得る(粗化工程)。ここでは、上記膨潤工程が行われているので、膨潤処理された絶縁フィルム11Cの第1の表面11aが粗化処理される。上記粗化工程において、粗化処理された第1の表面11aの算術平均粗さRaが0.4μm以下、かつ十点平均粗さRzが4.0μm以下になるように、絶縁フィルム11Cの第1の表面11aを粗化処理することが好ましい。上記膨潤工程が行われず、かつ上記第2の加熱工程が行われない場合には、絶縁フィルム11Aの第1の表面11aが粗化処理される。上記膨潤工程が行われず、かつ上記第2の加熱工程が行われる場合には、絶縁フィルム11Bの第1の表面11aが粗化処理される。
【0035】
このようにして、図2(c)に示す粗化処理された絶縁フィルム11Dが積層対象部材21に積層されている積層体1を得ることができる。積層体1では、粗化処理された絶縁フィルム11Dの第1の表面11aの平坦性に優れている。このため、例えば積層体1の絶縁フィルム11Dにより、プリント配線板の絶縁層を形成した場合に、絶縁層の表面の平坦性を高めることができる。このため、絶縁層の表面に金属層を精度よく形成でき、微細な金属配線を形成することもできる。
【0036】
本実施形態では、樹脂成分の過度の流動が抑えられる。以下、樹脂成分が過度に流動した場合に生じる不具合について説明する。
【0037】
例えば、絶縁フィルムが繊維補強材やフィラーを含むと、特に絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中の繊維状補強材とフィラーとの合計の含有量が50重量%以上であると、表面の樹脂成分が過度に流動することで、絶縁フィルムの表面近傍において、樹脂成分の存在量が少なくなり、かつ繊維状補強材やフィラーの存在量が多くなる。特に、例えば繊維状補強材は樹脂成分と一緒に流動しにくいため、いわゆる樹脂枯れが起こる。樹脂枯れが過度に進行すると、繊維状補強材が表面に露出する。特に、ガラスクロスのような繊維状補強材を用いた場合には、樹脂枯れ現象や繊維状補強材の露出が顕著に発生する。また、絶縁フィルムの表面近傍における繊維状補強材やフィラーの存在量が多くなると、以下の第1,第2の問題も発生する。
【0038】
第1の問題は、粗化処理した際に樹脂成分が少ないので過度にエッチングされやすく、粗化処理後の絶縁フィルムの表面粗さが大きくなる。表面粗さが大きくなることで、絶縁フィルムによりプリント配線板等の絶縁層を形成する場合に、例えば絶縁層の表面にL/S=13μm/13μmなどの微細な配線を形成できない。第2の問題は、絶縁フィルムの表面近傍における繊維状補強材やフィラーの存在量が多くなると、絶縁フィルムが吸水しやすくなり、吸水に起因する絶縁性の低下が生じる。繊維表面を介して水分が絶縁フィルムの内部まで浸入することで、マイグレーションなどの致命的な不具合が発生する。
【0039】
本発明に係る積層体の製造方法では、基材フィルムを剥がさずに、絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理することにより、樹脂成分を過度に流動させることなく熱硬化反応を進めることができる。絶縁フィルムの熱硬化反応により粘度を高くすることで、基材フィルムを剥がした後に樹脂成分の流動性を低下させることができる。よって、粗化処理された第1の表面の表面粗さを小さくすることができる。さらには、絶縁フィルムの表面に、銅めっき層などの金属層を形成した場合に、絶縁フィルムにおける絶縁性を高めることができる。よって、絶縁フィルムによりプリント配線板等の絶縁層を形成した場合に、微細配線が形成でき、高い絶縁性を発現させることができる。以上より、本発明に係る積層体の製造方法では、上述の第1の問題、第2の問題の発生を抑制することができる。
【0040】
粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の表面粗さをより一層小さくする観点からは、絶縁フィルムのメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後の上記ゲル分率は高い方が好ましい。上記ゲル分率は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは40重量%以上、より一層好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上、更に一層好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、より特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。
【0041】
また、上記ゲル分率を60重量%以上とすることで、粗化処理前の絶縁フィルムの平坦性をより一層効果的に高めることができる。また、基材フィルムを剥がした後に樹脂成分の流動性がより効果的に低下するので、絶縁フィルムの第1の表面に、銅めっき層などの金属層を形成した場合に、絶縁フィルムによる絶縁性をより一層高めることができる。
【0042】
さらに、絶縁フィルムのメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後の上記ゲル分率を90重量%以上、更には95重量%以上にして粗化処理を行うことで、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の表面粗さをより一層小さくすることができる。
【0043】
基材フィルムを絶縁フィルムから容易に剥がすために、必要に応じて基材フィルムの表面は離型処理されていてもよい。上記基材フィルムの剥離を容易にすることなどを目的として、本発明の範囲で上記ゲル分率を低くして、基材フィルムを剥がしてもよい。
【0044】
粗化処理された硬化物の表面粗さを小さくするために、基材フィルムを剥がした後に、追加で加熱することも効果的である。本発明では、このような追加の加熱を行ってもよい。
【0045】
絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量が50重量%以上である場合には、表面粗さを小さくし、かつ絶縁性を高める効果が効果的に発現する。絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量が50重量%以上である場合には、樹脂成分と繊維状補強材及びフィラーとが分離しやすくなる。しかし、基材フィルムを剥がさずに、絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理することで、樹脂成分の熱硬化反応による粘度上昇を進め、樹脂成分と繊維状補強材及びフィラーとの分離を効果的に抑制できる。
【0046】
本発明に係る積層構造体は、上述した積層体の製造方法により得られる積層体と、該積層体の粗化処理された上記絶縁フィルムの上記第1の表面に積層されている金属層とを備える。上記絶縁フィルムと上記金属層との接着強度は、4.9N/cm以上であることが好ましい。
【0047】
図3に、本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法により得られる積層体を用いた積層構造体を模式的に部分切欠正面断面図で示す。
【0048】
図3に示す積層構造体51では、回路基板52の上面52aに、複数層の硬化物層53〜56が積層されている。積層構造体51は、多層基板である。硬化物層53〜56は、絶縁フィルムであり、絶縁層である。回路基板52の上面52aの一部の領域には、金属層57が形成されている。複数層の硬化物層53〜56のうち、回路基板52側とは反対の外側の表面に位置する硬化物層56以外の硬化物層53〜55には、上面の一部の領域に金属層57が形成されている。金属層57は回路である。回路基板52と硬化物層53の間、及び積層された硬化物層53〜56の各層間に、金属層57がそれぞれ配置されている。下方の金属層57と上方の金属層57とは、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続の内の少なくとも一方により互いに接続されている。
【0049】
積層構造体51では、硬化物層53〜56が、本発明に係る積層体の製造方法により得られた積層体における絶縁フィルムを硬化させることにより形成されている。本実施形態では、硬化物層53〜56の表面が粗化処理されているので、硬化物層53〜56の表面に図示しない微細な孔が形成されている。また、微細な孔の内部に金属層57が至っている。また、積層構造体51では、金属層57の幅方向寸法(L)と、金属層57が形成されていない部分の幅方向寸法(S)とを小さくすることができる。また、積層構造体51では、図示しないビアホール接続及びスルーホール接続で接続されていない上方の金属層と下方の金属層との間に、良好な絶縁信頼性が付与されている。
【0050】
上記絶縁フィルムは、熱硬化性樹脂を含むことが好ましく、硬化剤を含むことが好ましく、繊維状補強材及びフィラーの内の少なくとも1種を含むことが好ましい。以下、上記絶縁フィルムに用いられる上記熱硬化性樹脂、上記硬化剤、上記繊維状補強材及びフィラーなどの詳細を説明する。
【0051】
[熱硬化性樹脂]
上記熱硬化性樹脂は特に限定されない。上記熱硬化性樹脂として、従来公知の熱硬化性樹脂を使用可能である。上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド−トリアジン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂及びビニルベンジル樹脂等が挙げられる。上記熱硬化性樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
上記エポキシ樹脂は特に限定されない。該エポキシ樹脂として、従来公知のエポキシ樹脂を使用可能である。該エポキシ樹脂は、少なくとも1個のエポキシ基を有する有機化合物をいう。上記エポキシ樹脂は、エポキシ基を2個以上有することが好ましい。また、エポキシ樹脂には、エポキシ樹脂の誘導体及びエポキシ樹脂の水添物も含まれる。上記エポキシ樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
上記エポキシ樹脂としては、例えば、芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルアクリル型エポキシ樹脂及びポリエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0054】
また、上記エポキシ樹脂として、可撓性エポキシ樹脂が好適に用いられる。可撓性エポキシ樹脂の使用により、硬化物の柔軟性が高くなる。
【0055】
上記可撓性エポキシ樹脂としては、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテル、長鎖ポリオールのポリグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートとラジカル重合性モノマーとの共重合体、エポキシ基を有するポリエステル樹脂、共役ジエン化合物を主体とする(共)重合体の炭素−炭素二重結合をエポキシ化した化合物、共役ジエン化合物を主体とする(共)重合体の部分水添物の炭素−炭素二重結合をエポキシ化した化合物、ウレタン変性エポキシ樹脂、及びポリカプロラクトン変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0056】
さらに、上記可撓性エポキシ樹脂としては、ダイマー酸もしくはダイマー酸の誘導体の分子内にエポキシ基が導入されたダイマー酸変性エポキシ樹脂、及びゴム成分の分子内にエポキシ基が導入されたゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0057】
上記ゴム成分としては、NBR、CTBN、ポリブタジエン及びアクリルゴム等が挙げられる。
【0058】
上記可撓性エポキシ樹脂は、ブタジエン骨格を有することが好ましい。ブタジエン骨格を有する可撓性エポキシ樹脂の使用により、硬化物の柔軟性がより一層高くなる。また、低温域から高温域までの広い温度範囲に渡り、硬化物の伸度が高くなる。
【0059】
上記エポキシ樹脂は、アダマンタン構造を有するアダマンタン型エポキシ樹脂、ナフタレン構造を有するナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン構造を有するジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル構造を有するビフェニル型エポキシ樹脂、アントラセン構造を有するアントラセン型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂又はビスフェノールS型エポキシ樹脂であることが好ましい。なかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂又はビスフェノールF型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0060】
上記エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂であることが好ましい。液状エポキシ樹脂とは、25℃で液状のエポキシ樹脂をいう。液状エポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。上記液状エポキシ樹脂を使用することで、後述のフィラーを多く配合した場合でも、得られる樹脂ワニスの流動性を確保することができ、良好なハンドリング性を確保することができる。一般に、液状エポキシ樹脂の使用により、得られる絶縁樹脂ワニスの粘度が低下し、上記絶縁樹脂ワニスを基材フィルム等に塗工した場合に、その後の加熱硬化により得られる絶縁フィルムの平坦性が悪化することがある。更に、加熱硬化の際に、絶縁樹脂ワニスが過度に流動し、その結果、得られる絶縁フィルム表面にフィラーが露出する場合がある。その様な状態で、後述の粗化処理を行うと、微細な粗面を得ることが困難になる傾向にある。これに対し、本発明では、基材フィルムを絶縁フィルムから剥がさずに加熱処理を行うので、液状エポキシ樹脂を使用した場合でも、その後の加熱硬化後の絶縁フィルムの平坦性が悪化することが抑制される。また、加熱硬化の際に、基材フィルムで絶縁フィルムが保護されているので、絶縁樹脂ワニスの過度の流動が抑えられ、得られる絶縁フィルムの表面にフィラーが露出することが抑制される。その結果、後述の粗化処理を行っても、微細な粗面が得られやすい。
【0061】
[硬化剤]
上記硬化剤は特に限定されない。該硬化剤として従来公知の硬化剤を使用可能である。上記硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0062】
上記硬化剤は、フェノール硬化剤、ナフトール硬化剤、活性エステル硬化剤、ベンゾオキサジン樹脂及びシアネートエステル樹脂からなる群からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらの好ましい硬化剤の使用により、粗化処理された絶縁フィルムの表面の表面粗さがより一層小さくなり、かつ硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0063】
さらに、活性エステル硬化剤、ベンゾオキサジン硬化剤又はシアネートエステル樹脂の使用により、硬化物の電気特性が良好になり、特に硬化物の誘電正接がより一層小さくなり、かつ、硬化物の線膨張率及び吸水性が低くなる。また、熱履歴が与えられた場合の硬化物の寸法安定性がより一層高くなる。
【0064】
上記フェノール硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、p−クレゾールノボラック、t−ブチルフェノールノボラック、ジシクロペンタジエンクレゾール、フェノールアラルキル樹脂及びアミノトリアジンノボラック樹脂等が挙げられる。これらの誘導体を用いてもよい。上記フェノール硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0065】
上記ナフトール硬化剤としては、α−ナフトールアラルキル樹脂及びβ−ナフトールアラルキル樹脂等が挙げられる。これらの誘導体を用いてもよい。上記ナフトール硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0066】
上記活性エステル硬化剤は特に限定されない。該活性エステル硬化剤として、従来公知の活性エステル硬化剤を使用可能である。上記活性エステル硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。また、上記活性エステル硬化剤の具体例としては、例えば、下記式(1)で表される活性エステル硬化剤及び下記式(2)で表される活性エステル硬化剤等が挙げられる。
【0067】
【化1】

【0068】
【化2】

【0069】
上記式(2)中、Xはベンゼン環又はナフタレン環であり、kは0又は1を表し、nは繰り返し単位の平均で0.25〜1.5である。
【0070】
上記活性エステル硬化剤の市販品としては、例えば、EXB9451、EXB9460、EXB9460S−65T、HPC−8000−65T(ジシクロペンタジエン骨格のジフタル酸エステル化物、DIC社製、活性エステル基当量約223)、DC808(フェノールノボラックのアセチル化物、三菱化学社製、活性エステル基当量約149)、YLH1026(フェノールノボラックのベンゾイル化物、三菱化学社製、活性エステル基当量約200)、YLH1030(三菱化学社製、活性エステル基当量約201)、並びにYLH1048(三菱化学社製、活性エステル基当量約245)等が挙げられる。
【0071】
また、上記活性エステル硬化剤は、上記で具体的に例示した活性エステル硬化剤に限定されない。
【0072】
上記ベンゾオキサジン樹脂の具体例としては、メチル基、エチル基、フェニル基、ビフェニル基もしくはシクロヘキシル基などのアリール基骨格を有する置換基がオキサジン環の窒素に結合された樹脂、並びにメチレン基、エチレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレン基もしくはシクロヘキシレン基などのアリーレン基骨格を有する置換基が2つのオキサジン環の窒素間に結合された樹脂等が挙げられる。上記ベンゾオキサジン樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。ベンゾオキサジン樹脂をエポキシ樹脂と反応させることにより、硬化物の耐熱性がより一層高くなり、更に硬化物の吸水性及び線膨張率がより一層低くなる。
【0073】
なお、ベンゾオキサジンモノマー、ベンゾオキサジンオリゴマー、並びにベンゾオキサジンモノマーもしくはベンゾオキサジンオリゴマーがオキサジン環の開環重合によって高分子量化された樹脂は、上記ベンゾオキサジン樹脂に含まれる。
【0074】
上記シアネートエステル樹脂としては、例えばノボラック型シアネートエステル樹脂、ビスフェノール型シアネートエステル樹脂及び一部をトリアジン化したプレポリマー等が挙げられる。上記シアネートエステル樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。上記シアネートエステル樹脂の使用により、硬化物の線膨張率がより一層低くなる。
【0075】
上記絶縁フィルムには、上記硬化剤以外の他の硬化剤が添加されてもよい。該他の硬化剤として、例えば、ジシアンジアミド、アミン化合物、アミン化合物の誘導体、ヒドラジド化合物、メラミン化合物、酸無水物、熱潜在性カチオン重合触媒及び光潜在性カチオン重合開始剤等が挙げられる。これらの硬化剤の誘導体を用いてもよい。また、硬化剤に加えて、アセチルアセトン鉄等の硬化触媒を用いてもよい。
【0076】
上記アミン化合物として、例えば、鎖状脂肪族アミン化合物、環状脂肪族アミン化合物及び芳香族アミン化合物等が挙げられる。
【0077】
上記鎖状脂肪族アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリオキシプロピレンジアミン及びポリオキシプロピレントリアミン等が挙げられる。
【0078】
上記環状脂肪族アミン化合物としては、例えば、メンセンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン及びN−アミノエチルピペラジン等が挙げられる。
【0079】
上記芳香族アミン化合物としては、例えば、m−キシレンジアミン、α−(m/p−アミノフェニル)エチルアミン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン及びα,α−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0080】
上記アミン化合物として、3級アミン化合物を用いてもよい。3級アミン化合物としては、例えば、N,N−ジメチルピペラジン、ピリジン、ピコリン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール及び2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0081】
上記アミン化合物の誘導体の具体例としては、ポリアミノアミド化合物、ポリアミノイミド化合物及びケチミン化合物等が挙げられる。
【0082】
上記ポリアミノアミド化合物としては、例えば、上記アミン化合物とカルボン酸とから合成される化合物等が挙げられる。上記カルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ジヒドロイソフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等が挙げられる。
【0083】
上記ポリアミノイミド化合物としては、例えば、上記アミン化合物とマレイミド化合物とから合成される化合物等が挙げられる。上記マレイミド化合物としては、例えば、ジアミノジフェニルメタンビスマレイミド等が挙げられる。
【0084】
上記アミン化合物から合成される化合物の他の具体例としては、上記アミン化合物と、エポキシ化合物、尿素化合物、チオ尿素化合物、アルデヒド化合物、フェノール化合物及びアクリル化合物とから合成される化合物等が挙げられる。
【0085】
上記ヒドラジド化合物としては、例えば、1,3−ビス(ヒドラジノカルボエチル)−5−イソプロピルヒダントイン、7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボヒドラジド、エイコサン二酸ジヒドラジド及びアジピン酸ジヒドラジド等が挙げられる。
【0086】
上記メラミン化合物としては、例えば、2,4−ジアミノ−6−ビニル−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0087】
上記酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸及びメチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0088】
上記熱硬化性樹脂100重量部に対して、上記硬化剤の含有量は好ましくは1重量部以上、より好ましくは30重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは140重量部以下である。上記硬化剤の含有量が上記下限以上であると、絶縁フィルムが充分に硬化する。上記硬化剤の含有量が上記上限以下であると、硬化物中に過剰な硬化剤が残存し難くなる。
【0089】
[硬化促進剤]
上記絶縁フィルムは、硬化促進剤を含むことが好ましい。該硬化促進剤は特に限定されない。上記硬化促進剤として従来公知の硬化促進剤を使用可能である。上記硬化促進剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0090】
上記硬化促進剤は、イミダゾール硬化促進剤であることが好ましい。該イミダゾール硬化促進剤は、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−ウンデシルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール及び2−フェニル−4−メチル−5−ジヒドロキシメチルイミダゾールからなる群からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0091】
また、上記硬化促進剤としては、トリフェノルホスフィンなどのホスフィン化合物、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)、DBUのフェノール塩、DBNのフェノール塩、オクチル酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、ギ酸塩、オルソフタル酸塩及びフェノールノボラック樹脂塩等が挙げられる。
【0092】
上記熱硬化性樹脂100重量部に対して、上記硬化促進剤の含有量は好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは0.5重量部以上、好ましくは3重量部以下、より好ましくは2重量部以下である。上記硬化促進剤の含有量が上記下限以上であると、絶縁フィルムが充分に硬化する。上記硬化促進剤の含有量が上記上限以下であると、硬化物における架橋が均一になり、更に絶縁フィルムの保存安定性が高くなり、粗化処理された硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなる。
【0093】
[フィラー]
上記絶縁フィルムは、繊維状充填材及びフィラーの内の少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0094】
上記フィラーとしては、シリカ、アルミナ、硫酸バリウム、タルク、クレー、雲母粉、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、ホウ酸アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、酸化チタン、ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、スメクタイト粘土鉱物、膨潤性マイカ、バーミキュライト、並びにハロイサイト等の層状珪酸塩が有機化処理された有機化層状珪酸塩などが挙げられる。上記フィラーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0095】
上記フィラーは、シリカであることが好ましく、該フィラーはシランカップリング剤により表面処理されていることが好ましい。上記シリカは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0096】
シランカップリング剤により表面処理されたシリカの吸湿性は、比較的低い。また、シランカップリング剤により表面処理されたシリカの使用により、絶縁フィルム中でのシリカの凝集が抑えられる。シランカップリング剤により表面処理されていないシリカを用いた場合、シリカが吸湿しやすかったり、絶縁フィルム中でシリカが凝集しやすくなったりする。
【0097】
また、シランカップリング剤により表面処理されたシリカの使用により、シリカと樹脂成分との界面で適度な接着性が発現するため、粗化処理の際にシリカを適度に脱離させることができる。シランカップリング剤により表面処理されていないシリカを用いた場合、シリカと樹脂成分との界面での接着性が低いため、粗化処理の際にシリカが過度に脱離しやすくなる傾向があり、シリカと樹脂成分との界面に粗化液が浸透することによって樹脂成分が削れ、粗化処理された硬化物の表面の表面粗さが大きくなりやすい傾向がある。
【0098】
上記シリカの平均粒子径として、50%となるメディアン径(d50)の値が採用される。上記平均粒子径は、レーザー回折散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定可能である。
【0099】
平均粒子径の異なる複数種類のシリカを用いてもよい。細密充填を考慮して、粒度分布の異なる複数種類のシリカを用いることが好ましい。この場合には、例えば部品内蔵基板のような流動性の要求される用途に、上記絶縁フィルムを好適に使用できる。
【0100】
上記シリカの平均粒子径は、1μm以下であることが好ましい。平均粒子径が1μm以下であると、粗化処理時に、シリカがより一層適度に脱離しやすくなる。さらに、硬化物の表面に比較的大きな孔が生じ難く、均一かつ微細な凹凸を形成できる。
【0101】
硬化物の表面にL/Sが15μm/15μm以下の微細配線を形成する場合、絶縁性を高めることができるので、シリカの最大粒子径は2μm以下であることが好ましい。なお、「L/S」とは、配線の幅方向の寸法(L)/配線が形成されていない部分の幅方向の寸法(S)を示す。
【0102】
上記シリカの形状は特に限定されない。シリカの形状としては、例えば球状及び不定形状等が挙げられる。粗化処理の際に、シリカがより一層脱離しやすいため、シリカは球状であることが好ましく、真球状であることがより好ましい。
【0103】
上記シリカの比表面積は、3m/g以上であることが好ましい。比表面積が3m/g以上であると、硬化物の機械的特性が高くなり、更に硬化物と金属層との密着性が高くなる。上記比表面積は、BET法により求められる。
【0104】
上記シリカとしては、天然シリカ原料を粉砕して得られる結晶性シリカ、天然シリカ原料を火炎溶融し、粉砕して得られる破砕溶融シリカ、天然シリカ原料を火炎溶融、粉砕及び火炎溶融して得られる球状溶融シリカ、フュームドシリカ(アエロジル)、並びにゾルゲル法シリカなどの合成シリカ等が挙げられる。
【0105】
純度が高いことから、上記シリカとして、溶融シリカが好適に用いられる。上記シリカは、溶剤に分散された状態でシリカスラリーとして用いられてよい。シリカスラリーを用いた場合には、絶縁フィルムを作製する際に、作業性及び生産性が高くなる。
【0106】
上記シランカップリング剤として、従来公知のシラン化合物を使用可能である。上記シランカップリング剤は、エポキシシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、アクリロキシシラン、メタクリロキシシラン、ビニルシラン、スチリルシラン、ウレイドシラン、スルフィドシラン及びイミダゾールシランからなる群からなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。また、シラザンのようなアルコキシシランにより、表面処理されたシリカを用いてもよい。上記シランカップリング剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0107】
上記シランカップリング剤により表面処理されたシリカを絶縁フィルムに添加することにより、シリカの分散性がより一層高くなる。シリカの分散性は表面粗さを小さくすることに大きく影響する。シリカが凝集していると、絶縁フィルムの表面が粗化処理により部分的に深く削れ、粗面が不均一になったり、表面粗さが部分的に大きくなったりする傾向がある。
【0108】
シランカップリング剤により表面処理されたシリカを得る方法として、例えば、以下の第1〜第3の方法が挙げられる。
【0109】
第1の方法としては、乾式法が挙げられる。乾式法としては、例えば、シリカにシランカップリング剤を直接付着させる方法等が挙げられる。乾式法では、ミキサーにシリカを仕込んで、攪拌しながらシランカップリング剤のアルコール溶液又は水溶液を滴下又は噴霧した後、さらに攪拌し、ふるいにより分級する。その後、加熱によりシランカップリング剤とシリカとを脱水縮合させることにより、表面処理されたシリカが得られる。
【0110】
第2の方法としては、湿式法が挙げられる。湿式法では、シリカを含むシリカスラリーを攪拌しながらシランカップリング剤を添加し、攪拌した後、ろ過、乾燥及びふるいによる分級を行う。次に、加熱によりシラン化合物とシリカとを脱水縮合させることにより、表面処理されたシリカが得られる。
【0111】
第3の方法としては、シリカを含むシリカスラリーを攪拌しながら、シランカップリング剤を添加した後、加熱還流処理により脱水縮合を進行させる方法が挙げられる。
【0112】
上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量は、好ましくは50重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。また、上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記フィラーの含有量は、好ましくは50重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量及び上記フィラーの含有量が上記下限以上であると、粗化処理の際に、フィラーの脱離により形成される孔の総表面積が大きくなり、更に硬化物と金属層との接着強度が充分に高くなる。上記繊維状補強材と上記フィラーとの合計の含有量及び上記フィラーの含有量が上記上限以下であると、硬化物が脆くなりにくく、かつ硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。なお、絶縁フィルムは溶剤を含んでいなくてもよい。絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中とは、絶縁フィルムが溶剤を含まない場合には、絶縁フィルム100重量%を意味する。
【0113】
[フェノキシ樹脂]
上記絶縁フィルムはフェノキシ樹脂を含むことが好ましい。フェノキシ樹脂の使用により、粗化処理された硬化物の表面の表面粗さを小さく維持して、硬化物と金属層との接着強度を高めることができる。また、上記フェノキシ樹脂は応力緩和成分として作用するため、硬化物の耐衝撃性も高くなる。上記フェノキシ樹脂は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0114】
上記フェノキシ樹脂とは、具体的には、例えばエピハロヒドリンと2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。
【0115】
上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量は3万以上であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂の重量平均分子量が3万よりも小さいと、粗化処理された硬化物の表面の表面粗さが大きくなる傾向がある。上記重量平均分子量は、ポリスチレン換算での重量平均分子量を示す。
【0116】
上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記フェノキシ樹脂の含有量は好ましくは1重量%以上、好ましくは15重量%以下である。上記フェノキシ樹脂の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、粗化処理された硬化物の表面の表面粗さがより一層小さくなり、かつ硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0117】
[他の成分]
上記絶縁フィルムは、上記熱硬化性樹脂に加えて、必要に応じて、該熱硬化性樹脂と共重合可能な樹脂を含んでいてもよい。該共重合可能な樹脂は特に限定されない。上記共重合可能な樹脂としては、例えば、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂等が挙げられる。
【0118】
上記熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂の具体例としては、エポキシ基、イソシアネート基又はアミノ基などの官能基により、ポリフェニレンエーテル樹脂が変性された樹脂等が挙げられる。
【0119】
エポキシ基によりポリフェニレンエーテル樹脂が変性された硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂の市販品として、例えば、三菱ガス化学社製の商品名「OPE−2Gly」等が挙げられる。
【0120】
上記絶縁フィルムは、必要に応じて、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー類、架橋ゴム、オリゴマー類、無機化合物、造核剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、難燃助剤、帯電防止剤、防曇剤、充填剤、軟化剤、可塑剤及び着色剤等を含んでいてもよい。
【0121】
上記熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂及びポリエステル樹脂等が挙げられる。
【0122】
上記着色剤としては、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、アイオジン・グリーン、ジスアゾイエロー及びカーボンブラック等が挙げられる。
【0123】
[絶縁フィルム、積層シート、積層体の製造方法の他の詳細]
上記絶縁フィルムの製造方法は特に限定されない。例えば、有機溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物(樹脂ワニス)を基材フィルム(ベースフィルム)上にコーティングし、熱風等による加熱により溶剤を乾燥させることにより、上記絶縁フィルムを得ることができる。
【0124】
上記基材フィルムとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、並びにポリカーボネートなどが挙げられる。剥離性を高めるために、上記基材フィルムは、離型処理されていることが好ましい。上記基材フィルムは、マット処理又はコロナ処理されていてもよい。上記基材フィルムの厚さは特に限定されない。上記基材フィルムの厚さは通常は10〜150μmであり、好ましくは20μm以上、好ましくは60μm以下である。
【0125】
積層対象部材に積層される前に、上記絶縁フィルムの第2の表面に保護フィルムが積層されていてもよい。絶縁フィルムの使用時に、保護フィルムは剥離される。保護フィルムの使用により、絶縁フィルムにゴミ等が付着したり、絶縁フィルムに傷がついたりするのを抑制できる。また、絶縁フィルムを保護フィルムが積層された状態で、ロール状に巻きとって保管することが可能である。ガスバリア性を考慮して、保護フィルムとして、多層フィルムを用いてもよい。
【0126】
上記絶縁フィルムを得るための熱硬化性樹脂組成物は、有機溶剤を含んでいてもよい。該有機溶剤としては、例えばケトン類、酢酸エステル類、セロソルブ類、カルビトール類、芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、並びにジメチルアセトアミド等が挙げられる。上記ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノン等が挙げられる。上記酢酸エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びカルビトールアセテート等が挙げられる。上記セロソルブ類としては、セロソルブ及びブチルセロソルブ等が挙げられる。上記カルビトール類としては、カルビトール及びブチルカルビトール等が挙げられる。上記芳香族炭化水素としては、トルエン及びキシレン等が挙げられる。上記有機溶剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。絶縁フィルム中において、高沸点の溶剤の残存量は少ない方がよい。沸点が異なる有機溶剤を複数種類用いることで、絶縁フィルムのハンドリング性と、基板などの積層対象部材への積層の際の絶縁フィルムの流動性とを制御可能である。
【0127】
上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記有機溶剤の含有量は好ましくは1重量%以上、好ましくは5重量%以下である。上記有機溶剤の含有量が上記下限以上であると、基板などの積層対象部材への積層の際に、絶縁フィルムの流動性が適度になる。上記有機溶剤の含有量が上記上限以下であると、硬化物のガラス転移温度が高くなり、リフロー時のブリスター(膨れ)の発生などの不具合が起り難くなる。
【0128】
上記積層体の用途は、特に限定されない。上記絶縁フィルムは、例えば、多層基板のコア層やビルドアップ層等を形成する基板用材料、接着シート、積層板、樹脂付き銅箔、銅張積層板、TAB用テープ、プリント基板、プリプレグ、又はワニス等に好適に用いられる。
【0129】
上記積層体は、樹脂付き銅箔、銅張積層板、プリント基板、プリプレグ、接着シート又はTAB用テープなどの絶縁性を要求される用途に好適に用いられる。
【0130】
上記絶縁フィルムを硬化させた絶縁層の表面に導電性めっき層を形成した後に回路を形成するアディティブ法や、セミアディティブ法などによって絶縁フィルムを硬化させた絶縁層と導電性めっき層とを複数積層するビルドアップ基板等に、上記積層体はより好適に用いられる。この場合には、絶縁フィルムを硬化させた絶縁層と導電性めっき層との接合信頼性が高くなる。絶縁フィルムを硬化させた絶縁層の表面に形成されたシリカなどの抜けた穴が小さいと、パターン間の絶縁信頼性が高くなる。さらに、シリカの抜けた穴の深さが浅いと、層間の絶縁信頼性が高くなる。上記積層体の使用により、例えばL/Sが13μm/13μmの微細な配線を形成でき、該配線の信頼性が高くなる。
【0131】
上記積層体は、封止用材料又はソルダーレジスト等にも使用可能である。また、絶縁フィルムを硬化させた絶縁層の表面に形成された配線の高速信号伝送性能を高めることができるため、高い高周波特性が要求される、パッシブ部品又はアクティブ部品が内蔵される部品内蔵基板等にも、上記積層体を使用可能である。
【0132】
上記絶縁フィルムは、繊維状補強材に、上記熱硬化性樹脂組成物が含浸されたプリプレグであってもよい。繊維状補強材は、一般的に多孔質である。
【0133】
上記繊維状補強材は、上記熱硬化性樹脂組成物を含浸させることができれば、特に限定されない。上記繊維状補強材として、有機繊維及びガラス繊維等が挙げられる。上記有機繊維としては、カーボン繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維及びポリエステル繊維等が挙げられる。また、繊維状補強材の形態としては、平織りもしくは綾織りなどの織物の形態、並びに凹帯不織布の形態等が挙げられる。上記繊維状補強材は、ガラス繊維不織布であることが好ましい。
【0134】
上記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、上記繊維状補強材の含有量は、好ましくは50重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。上記繊維状補強材の含有量が上記下限以上であると、硬化物と金属層との接着強度が充分に高くなる。上記繊維状補強材の含有量が上記上限以下であると、硬化物が脆くなりにくく、かつ硬化物と金属層との接着強度がより一層高くなる。
【0135】
上記熱硬化性樹脂組成物を、例えば繊維状補強材にホットメルト法又はソルベント法により含浸させ、加熱により半硬化させることによりプリプレグが得られる。すなわち、熱硬化性樹脂組成物が繊維状補強材に含浸した状態のプリプレグが得られる。
【0136】
上記ホットメルト法は、樹脂を有機溶剤に溶解することなく、樹脂を樹脂と剥離性の良い塗工紙に一旦コーティングし、それをシート状補強材にラミネートするか又はダイコーターにより直接塗工するなどして、プリプレグを得る方法である。またソルベント法は、樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂ワニスに繊維状補強材を浸漬し、樹脂ワニスを繊維状補強材に含浸させ、その後乾燥させる方法である。
【0137】
上記第1の加熱工程において、上記絶縁フィルムの加熱温度は、120〜220℃の範囲内にあることが好ましい。上記第2の加熱工程において、上記絶縁フィルムの加熱温度は、120〜220℃の範囲内にあることが好ましい。上記加熱温度が120℃未満であると、絶縁フィルムが充分に硬化されず、結果として粗化処理後の硬化物の表面の凹凸が大きくなる傾向がある。上記加熱温度が220℃を超えると、絶縁フィルムの硬化反応が急速に進行しやすい。このため、硬化度が部分的に異なりやすく、粗い部分と密な部分とが形成されやすい。この結果、硬化物の表面の凹凸が大きくなる。
【0138】
上記絶縁フィルムを加熱硬化させる際の加熱時間は特に限定されない。上記第1の加熱工程では、絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱硬化させる。ゲル分率が20重量%未満である状態で基材フィルムを剥がすと、絶縁フィルムが充分に硬化されていないため、粗化処理前の絶縁フィルムの平坦性が大きくなったり、粗化処理後の硬化物の表面の凹凸が大きくなったりする。
【0139】
上記第1の加熱工程において、絶縁フィルムのメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率を90重量%以上にすることが好ましく、95重量%以上にすることがより好ましい。ゲル分率が90重量%以上であると、粗化処理された絶縁フィルムの表面の表面粗さがより一層小さくなり、ゲル分率が95重量%以上であると、粗化処理された絶縁フィルムの表面の表面粗さが更に一層小さくなる。
【0140】
硬化物の表面に微細な凹凸を形成するために、上記絶縁フィルムは粗化処理される。該粗化処理される前に、上記絶縁フィルムは膨潤処理されることが好ましい。ただし、上記絶縁フィルムは、必ずしも膨潤処理されなくてもよい。
【0141】
上記膨潤処理方法として、例えば、エチレングリコールなどを主成分とする化合物の水溶液又は有機溶媒分散溶液などにより、上記反応物を処理する方法が用いられる。上記膨潤処理には、40重量%エチレングリコール水溶液が好適に用いられる。
【0142】
上記粗化処理には、例えば、マンガン化合物、クロム化合物又は過硫酸化合物などの化学酸化剤等が用いられる。これらの化学酸化剤は、水又は有機溶剤が添加された後、水溶液又は有機溶媒分散溶液として用いられる。
【0143】
上記マンガン化合物としては、過マンガン酸カリウム及び過マンガン酸ナトリウム等が挙げられる。上記クロム化合物としては、重クロム酸カリウム及び無水クロム酸カリウム等が挙げられる。上記過硫酸化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0144】
上記粗化処理方法は特に限定されない。上記粗化処理には、例えば、30〜90g/L過マンガン酸もしくは過マンガン酸塩溶液、又は30〜90g/L水酸化ナトリウム溶液が好適に用いられる。
【0145】
粗化処理の回数が多いと粗化効果も大きい。しかしながら、粗化処理の回数が3回を超えると、粗化効果が飽和することがあり、又は硬化物の表面の樹脂成分が必要以上に削られて、硬化物の表面にシリカなどが脱離した形状の孔が形成されにくくなる。このため、粗化処理は、1回又は2回行われることが好ましい。
【0146】
上記絶縁フィルムは、50〜80℃で5〜30分粗化処理されることが好ましい。上記絶縁フィルムが膨潤処理される場合、上記絶縁フィルムは、50〜80℃で5〜30分膨潤処理されることが好ましい。粗化処理又は膨潤処理が複数回行われる場合、上記粗化処理又は膨潤処理の時間は、合計の時間を示す。上記絶縁フィルムを粗化処理又は膨潤処理することにより、粗化処理された絶縁フィルム表面の表面粗さがより一層小さくなる。具体的には、粗化処理された表面の算術平均粗さRaが0.4μm以下であり、かつ十点平均粗さRzが4.0μm以下である絶縁フィルムがより一層容易に得られる。
【0147】
上記算術平均粗さRaが大きすぎると、絶縁層の表面に配線が形成された場合に、該配線における電気信号の伝送速度を高速化できないことがある。上記十点平均粗さRzが大きすぎると、絶縁層の表面に配線を形成した場合に、該配線における電気信号の伝送速度を高速化できないことがある。算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzは、JIS B0601−1994に準拠した測定法により求められる。
【0148】
絶縁層の表面に形成された複数の孔の平均径は、4μm以下であることが好ましい。複数の孔の平均径が4μmより大きいと、硬化物の表面にL/Sが小さい配線を形成することが困難なことがあり、かつ形成された配線間が短絡しやすくなる。
【0149】
必要に応じて、公知のめっき用触媒を施したり、無電解めっきを施したりした後、電解めっきを施すことができる。絶縁層の表面をめっき処理することにより、絶縁層と金属層とを備える積層体が得られる。
【0150】
L/Sが小さい銅等の配線を絶縁層に形成した場合、配線の信号処理速度が高くなる。例えば、信号が5GHz以上の高周波であっても、絶縁層の表面粗さが小さいと、配線と絶縁層との界面での電気信号の損失が小さくなる。
【0151】
本発明に係る積層体の製造方法により得られた積層体の使用により、例えばL/Sが13μm/13μm程度の微細な配線を、絶縁層の表面に精度よく形成できる。また、配線間の短絡を生じることなく、L/Sが10μm/10μm以下の微細な配線を、絶縁層の表面に形成できる。このような配線が形成された絶縁層では、安定的に、かつ小さい損失で、電気信号を伝送できる。
【0152】
上記金属層を形成する材料として、シールド用もしくは回路形成用などに用いられる金属箔もしくは金属めっき、及び回路保護用に用いるめっき用材料を使用できる。
【0153】
上記めっき材料としては、例えば、金、銀、銅、ロジウム、パラジウム、ニッケル及び錫等が挙げられる。これらの2種類以上の合金を用いてもよく、また、2種類以上のめっき材料により複数層の金属層を形成してもよい。さらに、目的に応じて、めっき材料には、上記金属以外の他の金属及び物質を含んでいてもよい。上記金属層は、銅めっき処理により形成された銅めっき層であることが好ましい。金属層の剥離を抑制する観点からは、絶縁層と金属層との接着強度は4.9N/cm以上であることが好ましい。
【0154】
以下、実施例及び比較例を挙げることにより、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0155】
実施例及び比較例では、以下の材料を用いた。
【0156】
[熱硬化性樹脂]
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(1)(日本化薬社製「RE−410S」、エポキシ当量178)
【0157】
[硬化剤]
ビフェニル型フェノール硬化剤(1)(明和化成社製「MEH7851−4H」、OH当量243、軟化点130℃)
ナフトール硬化剤(2)(東都化成社製「SN485」、OH当量213、軟化点86℃)
活性エステル硬化剤(3)(DIC社製「HPC−8000−65T」、固形分65重量%のトルエン溶液、活性基当量223、軟化点152℃)
シアネートエステル樹脂(4)(Lonza社製「PRIMASET BA−230S」、固形分75重量%のメチルエチルケトン溶液、溶液の比重:1.09、シアネートエステル樹脂単体の比重:1.18)
【0158】
[硬化促進剤]
硬化促進剤(1)(四国化成社製「2MAOK−PW」)
【0159】
[シリカスラリー]
シリカ(アドマテックス社製「SOC1」)100重量部がアミノシラン(信越化学工業社製「KBM−573」)2重量部により表面処理されたシリカ(比重2.20)70重量%と、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)30重量%とを含むシリカ(1)70重量%含有スラリー
【0160】
[溶剤]
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF、特級、和光純薬社製)
【0161】
(実施例1)
(1)熱硬化性樹脂組成物の調製
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(1)15.78gと、硬化促進剤(1)0.17gと、シリカ(1)70重量%含有スラリー47.39gと、N,N−ジメチルホルムアミド19.43gを、均一な溶液となるまで、常温(23℃)で2時間攪拌した。
【0162】
次に、ビフェニル型フェノール硬化剤(1)17.23gをさらに加え、常温(23℃)で1時間攪拌し、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0163】
(2)積層フィルムの作製
離型処理された透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製「PET5011 550」、厚み50μm)を、基材フィルムとして用意した。このPETフィルムの離型処理された表面上に、アプリケーターを用いて、乾燥後の厚みが50μmとなるように、得られた熱硬化性樹脂組成物を塗工した。次に、100℃のギアオーブン内で12分間乾燥することにより、Bステージ状態である絶縁フィルム(縦200mm×横200mm×厚み50μm、シート状の熱硬化性樹脂組成物の未硬化物)を作製した。このようにして、絶縁フィルムの第1の表面にPETフィルムが積層されている積層フィルムを得た。
【0164】
(3)積層工程及び第1の加熱処理
得られた積層シートを絶縁フィルムの第2の表面側から、ガラスエポキシ基板(FR−4、利昌工業社製「CS−3665」)上に真空ラミネートして(積層工程)、170℃で60分間(第1の加熱処理の加熱条件)、絶縁フィルムを加熱処理した(第1の加熱処理)。その後、基材フィルムであるPETフィルムを剥がして積層サンプルを得、下記の膨潤工程を行った後、下記の粗化工程を行った。
【0165】
(4)膨潤工程
80℃の膨潤液(アトテック社製「スウェリングディップセキュリガントP」)に、上記積層サンプルを入れて、膨潤温度80℃で15分間揺動させた。その後、純水で洗浄した。このようにして、ガラスエポキシ基板上に、膨潤処理された絶縁フィルムを形成した。
【0166】
(5)粗化工程:
80℃の過マンガン酸カリウム(アトテック社製「コンセントレートコンパクトCP」)粗化水溶液に、膨潤処理された上記積層サンプルを入れて、粗化温度80℃で15分間揺動させた。その後、25℃の洗浄液(アトテック社製「リダクションセキュリガントP」)により2分間洗浄した後、純水でさらに洗浄した。このようにして、ガラスエポキシ基板上に、粗化処理された絶縁フィルムを形成した。
【0167】
(6)積層構造体の作製
上記粗化工程を行った後に、下記の銅めっき処理をした。
【0168】
ガラスエポキシ基板上の粗化処理された絶縁フィルムに、以下の手順で無電解銅めっき及び電解銅めっき処理を施した。
【0169】
粗化処理された絶縁フィルムの表面を、60℃のアルカリクリーナ(アトテック社製「クリーナーセキュリガント902」)で5分間処理し、脱脂洗浄した。洗浄後、上記粗化処理された絶縁フィルムを25℃のプリディップ液(アトテック社製「プリディップネオガントB」)で2分間処理した。その後、上記粗化処理された絶縁フィルムを40℃のアクチベーター液(アトテック社製「アクチベーターネオガント834」)で5分間処理し、パラジウム触媒を付けた。次に、30℃の還元液(アトテック社製「リデューサーネオガントWA」)により、上記粗化処理された絶縁フィルムを5分間処理した。
【0170】
次に、上記粗化処理された絶縁フィルムを化学銅液(アトテック社製「ベーシックプリントガントMSK−DK」、アトテック社製「カッパープリントガントMSK」、アトテック社製「スタビライザープリントガントMSK」)に入れ、無電解めっきをめっき厚さが0.5μm程度になるまで実施した。無電解めっき後に、残留している水素ガスを除去するため、120℃の温度で30分間アニールをかけた。無電解めっきの工程までのすべての工程は、ビーカースケールで処理液を1Lとし、上記粗化処理された絶縁フィルムを揺動させながら実施した。
【0171】
次に、無電解めっき処理されかつ粗化処理された絶縁フィルムに、電解めっきをめっき厚さが25μmとなるまで実施した。電気銅めっきとして硫酸銅(アトテック社製「リデューサーCu」)を用いて、0.6A/cmの電流を流した。銅めっき処理後、上記粗化処理された絶縁フィルムを180℃で1時間加熱し、硬化させ、硬化物(絶縁フィルム)を形成した。このようにして、硬化物上に銅めっき層が形成された積層体を作製した。
【0172】
(実施例2〜7及び比較例1,2)
配合成分の種類及び配合量、上記第1の加熱工程の加熱条件、上記第1の加熱工程前の上記基材フィルムの剥離の有無を下記の表1に示すように設定したこと、並びに実施例6,7では第2の加熱工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を調製し、積層フィルム及び積層構造体を作製した。
【0173】
実施例6では、上記剥離工程の後、かつ上記膨潤工程の前に、170℃で45分間(第2の加熱処理の加熱条件)、絶縁フィルムを加熱処理した(第2の加熱処理)。実施例7では、上記剥離工程の後、かつ上記膨潤工程の前に、170℃で55分間(第2の加熱処理の加熱条件)、絶縁フィルムを加熱処理した(第2の加熱処理)。
【0174】
比較例1,2では、第1の加熱処理の前に、絶縁フィルムから基材フィルムを剥がし、絶縁フィルムから基材フィルムを剥がした後に、第1の加熱処理を行った。
【0175】
(実施例8,9及び比較例3,4)
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(1)15.78gと、硬化促進剤(1)0.17gと、シリカ(1)70重量%含有スラリー47.39gと、N,N−ジメチルホルムアミド19.43gを、均一な溶液となるまで、常温(23℃)で2時間攪拌した。
【0176】
次に、ビフェニル型フェノール硬化剤(1)17.23gをさらに加え、常温(23℃)で1時間攪拌し、熱硬化性樹脂組成物を調製した。
【0177】
得られた熱硬化性樹脂組成物(樹脂ワニス)をガラスクロス(旭化成イーマテリアルズ社製、厚み20μm)に含浸させ、140℃で12分乾燥させ、厚みが0.1mmの絶縁フィルム(プリプレグ)を得た。得られた絶縁フィルムは、ガラスクロス70重量%と熱硬化性樹脂組成物30重量%とを含む。得られた絶縁フィルムの第1の表面に、離型処理された透明なポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(リンテック社製「PET5011 550」、厚み50μm)を積層し、積層フィルムを得た。
【0178】
得られた積層フィルムを用いて、上記第1の加熱工程の加熱条件、上記第1の加熱工程前の上記基材フィルムの剥離の有無を下記の表2に示すように設定したこと、並びに実施例9では第2の加熱工程を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、積層体及び積層構造体を作製した。
【0179】
実施例9では、上記剥離工程の後、かつ上記膨潤工程の前に、170℃で45分間(第2の加熱処理の加熱条件)、絶縁フィルムを加熱処理した(第2の加熱処理)。
【0180】
比較例3,4では、第1の加熱処理の前に、絶縁フィルムから基材フィルムを剥がし、絶縁フィルムから基材フィルムを剥がした後に、第1の加熱処理を行った。
【0181】
(評価)
(1)平均線膨張率
得られた積層フィルムを用いて、絶縁フィルムから基材フィルムを剥がした。絶縁フィルムを170℃で60分加熱し、更に180℃で1時間加熱して硬化させ、硬化物を得た。得られた硬化物を、3mm×25mmの大きさに切断した。線膨張率計(セイコーインスツルメンツ社製「TMA/SS120C」)を用いて、引張り荷重2.94×10−2N、昇温速度5℃/分の条件で、硬化物の23〜100℃における平均線膨張率(α1)、及び150〜260℃における平均線膨張率(α2)を測定した。
【0182】
(2)ゲル分率の評価
得られた絶縁フィルムを、基材フィルムであるPETフィルムを剥がす直前までの熱履歴をかけ、絶縁フィルムである半硬化物Aを得た。また、粗化処理直前までの熱履歴をかけて、絶縁フィルムである半硬化物Bを得た。
【0183】
得られた半硬化物A及び半硬化物Bをそれぞれ、50mm×50mmの大きさに切断し、試験サンプルを用意した。この試験サンプルの初期重量(W1)を測定した。次に、試験サンプルをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した。その後、予め重量を測定した♯400の金属メッシュを用いて、メチルエチルケトン中の試験片をろ過し、金属メッシュ上に試験サンプルの残留物を得た。残留物を金属メッシュと共に23℃で72時間乾燥した。金属メッシュと乾燥後の残留物との合計重量を測定し、上記金属メッシュの重量を減算し、乾燥後の残留物の重量(W2)を求めた。測定された値から、下記の式(X)により、ゲル分率を算出した。5回測定した平均値をゲル分率とした。
【0184】
ゲル分率(重量%)=W2/W1×100 ・・・式(X)
【0185】
基材フィルムを剥がす直前のゲル分率は半硬化物Aを用いて評価した。粗化処理直前のゲル分率は半硬化物Bを用いて評価した。
【0186】
(3)平坦性の評価
ガラスエポキシ基板(FR−4、利昌工業社製「CS−3665」)にかえて、間隔75μmの銅パターン(1つの銅パターン:縦40μm×横40μm×厚み1cm)を上面に有する基板を用いたこと以外は同様にして、実施例1〜7及び比較例1,2の積層フィルムを用いて、実施例1〜7及び比較例1,2の各工程を経て、積層構造体を得た。
【0187】
この積層構造体を得る際に、粗化処理する前の絶縁フィルムの第1の表面の平坦性を評価した。
【0188】
接触式表面粗さ計(ミツトヨ社製「Mitutoyo SJ−301」)を用いて、上記銅パターンが形成されている部分に位置する絶縁フィルムの第1の表面の高さAを50箇所測定した。また、高さAの50箇所の測定点に隣接する、上記銅パターンが形成されていない部分に位置する絶縁フィルムの第1の表面の高さBを50箇所測定した。高さAの平均値と高さBの平均値との差を求め、得られた値を平坦性の値として示した。この値が小さいほど、平坦性に優れている。
【0189】
(4)接着強度
得られた積層構造体の銅めっき層の表面に、10mm幅に切り欠きを入れた。その後、引張試験機(島津製作所社製「オートグラフ」)を用いて、クロスヘッド速度5mm/分の条件で、硬化物(絶縁フィルム)と銅めっき層との接着強度を測定した。
【0190】
(5)表面粗さ(算術平均粗さRa及び十点平均粗さRz)
非接触式の表面粗さ計(ビーコ社製「WYKO」)を用いて、JIS B0601−1994に準拠して、粗化処理された絶縁フィルムの第1の表面の算術平均粗さRa及び十点平均粗さRzを測定した。
【0191】
(6)絶縁信頼性試験
得られた積層構造体の銅めっき層をL/S=10μm/10μmの銅配線パターンにしたこの銅配線パターンが形成された積層構造体を用いて、135℃、85%、DC5V及び200時間の条件で絶縁信頼性試験を行った。絶縁抵抗が1.0×10Ω以上である場合を「○」、絶縁抵抗が1.0×10Ω未満である場合を「×」として、絶縁信頼性試験を判定した。まだ、試験後に配線の断面観察を行い、銅マイグレーションの有無も確認した。
【0192】
結果を下記の表1,2に示す。
【0193】
【表1】

【0194】
【表2】

【符号の説明】
【0195】
1…積層体
10…積層フィルム
11…絶縁フィルム
11A〜11D…絶縁フィルム
11a…第1の表面
11b…第2の表面
12…基材フィルム
21…積層対象部材
51…積層構造体
52…回路基板
52a…上面
53〜56…硬化物層(絶縁フィルム)
57…金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗化処理された絶縁フィルムが積層対象部材に積層されている積層体の製造方法であって、
絶縁フィルムと該絶縁フィルムの第1の表面に積層された基材フィルムとを有する積層フィルムを用いて、前記積層フィルムを前記絶縁フィルムの前記第1の表面とは反対の第2の表面側から積層対象部材に積層する積層工程と、
前記基材フィルムを前記絶縁フィルムから剥がさずに、前記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が20重量%以上になるまで加熱処理する第1の加熱工程と、
前記基材フィルムを前記絶縁フィルムから剥がして、前記絶縁フィルムの前記第1の表面を露出させる剥離工程と、
前記絶縁フィルムの前記第1の表面を粗化処理する粗化工程とを備える、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記第1の加熱工程において、前記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が60重量%以上になるまで加熱処理する、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記剥離工程の後、かつ前記粗化工程の前に、前記絶縁フィルムを120〜220℃で加熱処理する第2の加熱工程をさらに備える、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の加熱工程において、前記絶縁フィルムをメチルエチルケトンに23℃で24時間浸漬した後のゲル分率が90重量%以上になるまで加熱処理する、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁フィルムが、熱硬化性樹脂と、繊維状補強材及び平均粒子径1μm以下のフィラーの内の少なくとも一方とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁フィルムの溶剤を除く成分100重量%中、前記繊維状補強材と前記フィラーとの合計の含有量が50重量%以上である、請求項5に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項5又は6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂が液状エポキシ樹脂である、請求項7に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁フィルムが硬化剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記硬化剤が、フェノール硬化剤、ナフトール硬化剤、活性エステル硬化剤、ベンゾオキサジン樹脂及びシアネートエステル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記粗化工程において、粗化処理された前記第1の表面の算術平均粗さRaが0.4μm以下かつ十点平均粗さRzが4.0μm以下になるように、前記絶縁フィルムの前記第1の表面を粗化処理する、請求項1〜10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
前記剥離工程の後、かつ前記粗化工程の前に、前記絶縁フィルムの前記第1の表面を膨潤処理する膨潤工程をさらに備え、
前記粗化工程において、膨潤処理された前記絶縁フィルムの前記第1の表面を粗化処理する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の積層体の製造方法により得られた積層体と、
前記積層体の粗化処理された前記絶縁フィルムの前記第1の表面に積層されている金属層とを備える、積層構造体。
【請求項14】
前記絶縁フィルムと前記金属層との接着強度が、4.9N/cm以上である、請求項13に記載の積層構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75440(P2013−75440A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216949(P2011−216949)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】