説明

積層体及びその製造方法並びに空気入りタイヤ

【課題】製造コストが低減され、環境への負荷を低減でき、かつ、品質が高い積層体及びその製造方法並びに空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】積層体の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む層1と、該層の少なくとも一方の面に配置された接着剤層2とを含む積層体を成形するに際し、ポリマー100重量部と、前記接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤5を10〜100重量部とを含む接着剤組成物を用いて該接着剤層2を形成することにより、該接着剤層の表面に凹凸を付与する工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法並びに空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは一般に、ブチルゴムに代表される低気体透過性ゴムを主成分とする空気透過防止層を内面に備えている。ところが、低気体透過性ゴムを主成分とする空気透過防止層は、通常、ヒステリシス損失が小さいタイゴムと呼ばれるゴムシートに積層されるため、タイゴムを含む層全体の厚さが大きくなり、結果的に製品タイヤの重量を増大させる原因の一つになっている。そこで、熱可塑性樹脂もしくは熱可塑性樹脂中にエラストマー成分が分散した熱可塑性エラストマー組成物を用いて空気透過防止層を配置し、軽量化することが提案されている(特許文献1〜6)。
【0003】
熱可塑性樹脂を含む層をタイヤの空気透過防止層として用いる場合、ゴムとの接着性向上のため、この空気透過防止層は接着剤層との積層体としてタイヤ内部に配置することが好ましい。このような積層体を成形する場合、押出機の多層押出しによって空気透過防止層と接着剤層とを同時に押出しながら積層してシート状もしくは筒状の積層体を成形し、この積層体を一旦巻き取ってからタイヤ成形工程に供給することが好ましい。
しかしながら、この積層体を接着剤層が露出した状態で巻き取ると、該積層体を巻き出す場合に接着剤の粘着性により接着剤層が剥離したり、タイヤ成形工程において接着剤層の粘着性に起因して該積層体の取扱が難しくなったりする場合がある。そのため、該積層体を巻き取る際には、離型紙等のライナー材を該積層体に沿って巻き込むことが必要である。
ところが、ライナー材を用いた場合、余分な資材が必要になるため該積層体の製造コストが増大するうえ、廃棄されるライナー材は環境への負荷となる。また、ライナー材を用いた場合、該積層体の巻取り時に皺を生じ易くなり、空気入りタイヤの品質が低下することがある。そのため、該積層体を巻き取る際にライナー材の使用を不要にすることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3153093号明細書
【特許文献2】特許第3212470号明細書
【特許文献3】特開平8−216610号公報
【特許文献4】特開平8−258506号公報
【特許文献5】特開平8−259741号公報
【特許文献6】特開2003−26931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、空気透過防止層と接着剤層との積層体の巻き出し時における接着剤層の剥離を防止し、タイヤ成形時の取扱性を向上させ、かつ、該積層体を巻き取る際のライナー材の使用を不要にし、それによって、該積層体の製造コストを低減でき、環境への負荷を減らし、更には該積層体の品質を向上することができる積層体の製造方法、並びに該積層体を空気透過防止層として使用した空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る積層体の製造方法は、
熱可塑性樹脂を含む層と、該層の少なくとも一方の面に配置された接着剤層とを含む積層体を成形するに際し、
ポリマー100重量部と、前記接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤10〜100重量部とを含む接着剤組成物を用いて該接着剤層を形成することにより、該接着剤層の表面に凹凸を付与する工程を含む。
上記積層体の製造方法において、前記積層体を多層押出のインフレーション法にて成形し、その成形条件において、環状ダイの直径と筒状積層体の直径の比(ブローアップレシオ(BUR):筒状積層体直径/環状ダイ直径)が1より大きくてもよい。
上記積層体の製造方法において、前記積層体を多層押出のTダイ法にて成形し、その成形条件において、ダイ開口部の面積とシート状積層体の断面積の比(ドローダウンレシオ(DDR):ダイ開口部面積/製品断面積)が1より大きくてもよい。
上記積層体の製造方法において、前記接着剤層がスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体系ポリマー及びタッキファイヤーを含むことができる。
上記積層体の製造方法において、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
上記積層体の製造方法において、前記熱可塑性樹脂を含む層は更にエラストマーを含み、前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
【0007】
本発明の他の一態様に係る積層体は、
熱可塑性樹脂を含む層と、
前記層の少なくとも一方の面に配置され、表面に凹凸を有する接着剤層と、
を含み、
前記接着剤層は、ポリマー100重量部と、充填剤10〜100重量部とを含み、該充填剤は該接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する。
上記積層体において、前記接着剤層がスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体系ポリマー及びタッキファイヤーを含むことができる。
上記積層体において、前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
上記積層体において、前記熱可塑性樹脂を含む層は更にエラストマーを含み、
前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種であることができる。
【0008】
本発明のさらに他の一態様に係る空気入りタイヤは、上記積層体をインナーライナーとして用いる。
【発明の効果】
【0009】
上記積層体の製造方法によれば、熱可塑性樹脂を含む層と、該層の少なくとも一方の面に配置された接着剤層とを含む積層体を成形するに際し、ポリマー100重量部と、前記接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤10〜100重量部とを含む接着剤組成物を用いて該接着剤層を形成することにより、該接着剤層の表面に凹凸を付与する工程を含むことにより、積層体の巻き出し時における接着剤層の剥離を防止し、タイヤ成形時の取扱性を向上させ、かつ、積層体を巻き取る際のライナー材の使用を不要にし、それによって、積層体の製造コストを低減でき、環境への負荷を減らし、更には積層体の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法で使用するインフレーション法を使用した筒状積層体の成形装置を概略的に示す図である。
【図2】図1のX−Y断面を拡大して示す図である。
【図3】図2の積層体3の断面を拡大して示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法で使用するTダイ法を使用したシート状積層体の成形装置を概略的に示す図である。
【図5】図4のX−Y断面を拡大して示す図である。
【図6】図5の積層体4の断面を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る積層体及びその製造方法並びに空気入りタイヤについて具体的に説明する。
【0012】
1.積層体及びその製造方法並びに空気入りタイヤ
1.1.積層体及びその製造方法
本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法は、熱可塑性樹脂を含む層(空気透過防止層)1と、層1の少なくとも一方の面に配置された接着剤層2とを含む積層体を成形するに際し、ポリマー100重量部と、接着剤層2の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤10〜100重量部とを含む接着剤組成物を使用することで、接着剤層2の表面に凹凸を付与する工程を含む。
【0013】
本発明の一実施形態に係る積層体は上記積層体の製造方法により得られる。すなわち、本発明の一実施形態に係る積層体は、熱可塑性樹脂を含む層(空気透過防止層)1と、層1の少なくとも一方の面に配置され、表面に凹凸を有する接着剤層2と、を含み、接着剤層2は充填剤5を含み、充填剤5は、ポリマー100重量部と、充填剤10〜100重量部とを含み、接着剤層2の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する。
【0014】
1.1.1.積層体3の製造
図1は本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法で使用する、インフレーション法を使用した筒状積層体3の成形装置を概略的に示し、図2は図1のX−Y断面を拡大して示す図であり、図3は図2の積層体3の断面を拡大して示すものである。
【0015】
図2に示すように、積層体(筒状積層体)3は、空気透過防止層1が内層、接着剤層2が外層となっている。図1において、空気透過防止層1及び接着剤層2は押出装置によって環状ダイスから同軸的かつ同時に押し出されて積層され、インフレートされることで筒状積層体3となる。これら空気透過防止層1及び接着剤層2を含む筒状積層体3は図1に示すように、一対のロール11,12間を通過する際に平坦に潰され、その潰された状態でセル13の周囲に連続的に巻き取られる。
【0016】
本実施形態に係る積層体3の製造方法では、筒状積層体3を成形する工程において、図2及び図3に示すように、接着剤層2の表面に充填剤5を核とする凹凸を形成する。インフレーション法による成形において、成形条件の一つである、環状ダイの直径と筒状積層体の直径の比(ブローアップレシオ(BUR):筒状積層体直径/環状ダイ直径)が1より大きいことが好ましい。ブローアップレシオが1より大きい場合、筒状積層体3は環状ダイ直径よりも膨らんで成形されるということであるため、筒状積層体3には延伸が加わる。充填剤5を含む接着剤層2が延伸されると、充填剤5が存在する部分は延伸の影響を受けないため厚みは変化せず、充填剤5の存在しない部分は延伸が加わり厚みは減少する。これにより、接着剤層2の表面に図2及び3に示したような凹凸を効果的に形成することができる。逆に、ブローアップレシオが1以下の場合、延伸よる凹凸が接着剤層2の表面に形成されないため、接着剤層2の粘着性を抑制することができない。
【0017】
1.1.2.積層体4の製造
同様に、図4は本発明の他の一実施形態に係る積層体の製造方法で使用する、Tダイ法を使用したシート状積層体4の成形装置を概略的に示し、図5は図4のX−Y断面を拡大して示す図であり、図6は図5の積層体4の断面を拡大して示すものである。
【0018】
図5に示すように、シート状積層体4は、空気透過防止層1と接着剤層2との2層積層体であり。本実施形態では積層体4が2層積層体である場合を例に挙げるが、必要に応じて、本実施形態に係る積層体は、接着剤層2が空気透過防止層1の両面に積層された3層積層であってもよい。図4において、空気透過防止層1及び接着剤層2は押出装置によってTダイから同時に押し出されて積層され、シート状積層体4が得られる。これら空気透過防止層1及び接着剤層2を含むシート状積層体4は、一対のロール21,22によって引き取られ、セル23の周囲に連続的に巻き取られるようになっている。
【0019】
本実施形態に係る積層体4の製造方法では、シート状積層体4を成形する工程において、図5及び図6に示すように、接着剤層2の表面に充填剤を核とする凹凸を形成する。Tダイ法による成形において、成形条件の一つである、ダイ開口部の面積とシート状積層体の断面積の比(ドローダウンレシオ(DDR):ダイ開口部面積/製品断面積)が1より大きいことが好ましい。ドローダウンレシオが1より大きい場合、シート状積層体4は押出し方向に引き伸ばされて成形されるため、積層体4には延伸が加わる。充填剤5を含む接着剤層2が延伸されると、充填剤5の存在する部分は延伸の影響を受けないため厚みは変化せず、充填剤5が存在しない部分は延伸が加わり厚みは減少する。したがって、接着剤層2に図5及び図6に示したような凹凸を効果的に形成することができる。逆に、ドローダウンレシオが1以下の場合、延伸よる凹凸が接着剤層2の表面に形成されないため、接着剤層2の粘着性を抑制することができない。
【0020】
1.1.3.充填剤5
本実施形態に係る積層体の製造方法では、上述のインフレーション成形及びTダイ成形において、接着剤組成物に配合する充填剤5の直径Lと接着剤層2の厚みhとの関係(図3及び図6参照)に関しては、0.25h≦L≦3.0hであることが好ましく、更に好ましくは0.5h≦L≦2.0hである。Lが0.25h未満の場合、形成される凹凸が小さすぎて接着剤層2の粘着性を十分に抑制できないことがある。逆に、Lが3.0hより大きい場合、形成される凹凸が大きすぎて、タイヤ成形時のゴムへ密着性が確保できないだけでなく、充填剤5が異物として働いてしまい、積層体をタイヤの空気透過防止層1として用いた場合、耐久性が低下する恐れがある。
【0021】
充填剤5としては、直径Lが接着剤層2の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hである粒子が好ましく、例えば、シリカゲルビーズ、カーボンビーズ、ガラスビーズ、アルミナ、フライアッシュ、シラスバルーン、重質炭酸カルシウムなどが挙げられ、耐久性の面から粒子が球状であるものが好ましい。充填剤5の配合量についても特に限定はないが、接着剤層2のポリマー分100重量部に対して10重量部から100重量部であることが好ましい。ここで、充填剤5の配合量が2のポリマー分100重量部に対して10重量部未満の場合、形成される凹凸が少なく接着剤層2の粘着性を十分に抑制できない恐れがあり、一方、100重量部を超える場合、形成される凹凸が多すぎて、タイヤ成形時のゴムへの密着性が確保できない恐れがある。
【0022】
次いで、前記の筒状もしくはシート状積層体を用いたタイヤの成形工程においては、前記筒状もしくはシート状積層体をセル13ないし14から巻き解いて所定の長さに切断する。そして、所定の長さに切断された筒状もしくはシート状積層体を接着剤層2が外側となるように成形ドラムの周囲に被せ、更にその外側にカーカス材等のタイヤ構成部材を順次積層することにより、タイヤ内面に空気透過防止層1を備えた未加硫タイヤを成形する。この未加硫タイヤは加硫機の金型内で加硫され、空気入りタイヤとして完成される。
【0023】
上述したように、本実施形態に係る積層体の製造方法において、筒状もしくはシート状積層体を成形する工程にて、接着剤層2の表面に充填剤5を核とする凹凸を形成することにより、自着力が大きい接着剤層2の粘着性を制御し、積層体の巻き出し時の接着剤層2の剥離やタイヤ成形時の取扱性を向上させることができ、さらに、積層体を巻き取る際にライナー材の使用を不要にすることができる。これにより、積層体の製造コストを低減し、環境への負荷も減らすことができる。更に、ライナー材を使用せずに積層体を巻き取ることにより、積層体に皺が生じ難くなるため、積層体の品質の向上、延いてはこの積層体を用いて製造される空気入りタイヤの品質を向上することができる。
【0024】
1.1.4.空気透過防止層
空気透過防止層1は、熱可塑性樹脂を含む。例えば、空気透過防止層1は、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマー組成物から構成される。すなわち、熱可塑性樹脂は、エラストマー成分を含まない単独の材料として用いても良いし、あるいは熱可塑性エラストマー組成物の構成成分として用いても良い。ここで、熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂をマトリックスとし、そのマトリックス中にエラストマー成分が分散している。
【0025】
空気透過防止層1を構成する熱可塑性樹脂としては、ヤング率が500MPa超、好ましくは500〜3000MPaの任意の熱可塑性樹脂を用いることができ、その配合量は、空気透過防止層1のポリマー成分の合計重量当り10重量%以上、好ましくは20〜85重量%である。そのような熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリ酢酸ビニル系樹脂〔例えばポリ酢酸ビニル(PVA)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)〕、ポリビニルアルコール系樹脂〔例えばポリビニルアルコール(PVOH)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)〕、ポリ塩化ビニル系樹脂〔例えばポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができ、2種以上であってもよい。
【0026】
熱可塑性エラストマー組成物のエラストマー成分としては、ヤング率が500MPa以下の任意のエラストマー又は該エラストマーの分散性や耐熱性などの改善のために、補強剤、充填剤、架橋剤、軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの配合剤を必要量添加したエラストマー組成物を用いることができ、その配合量は樹脂及びエラストマーを含むポリマー成分の合計重量当り10重量%以上、好ましくは10〜80重量%である。そのようなエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができ、2種以上であってもよい。
【0027】
空気透過防止層1を形成するための組成物には前記成分に加えて、本発明の積層体の必要特性を損なわない範囲で相溶化剤、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、可塑剤、充填剤、着色剤、加工助剤、などの他の添加剤を適宜配合しても良い。
【0028】
熱可塑性エラストマー組成物を用いて空気透過防止層1を形成する場合、熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを予め2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させることにより得ることができる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的に加硫させても良い。また、熱可塑性樹脂またはエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加しても良いが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーとの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が挙げられる。中でも、樹脂成分とゴム成分の混練及びゴム成分の動的加硫には2軸混練押出機を使用するのが好ましい。さらに、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であれば良く、混練時の剪断速度は2500〜7500sec−1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造を有し、タイヤの空気透過防止層1として好適である。
【0029】
1.1.5.接着剤層
接着剤層2は100重量部のポリマー(接着用ポリマー)及び10〜100重量部の充填剤5を含む接着剤組成物を用いて形成される。上述したように、充填剤5は接着剤層2の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する。また、接着剤層2はさらに、接着用ポリマー及びタッキファイヤーを含むことができる。
【0030】
接着用ポリマーの例としては、分子量100万以上、好ましくは300万以上の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)等のアクリレート共重合体類及びそれらのマレイン酸変性物、ポリプロピレン(PP)及びそのマレイン酸変性物、エチレンプロピレン共重合体及びそのマレイン酸変性物、エチレンオクテン共重合体及びそのマレイン酸変性物、ポリブタジエン系樹脂及びそのマレイン酸変性物、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)及びそのエポキシ変性物、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)及びそのエポキシ変性物、フッ素系熱可塑性樹脂、ポリエステル系熱可塑性樹脂などを挙げることができる。特に、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)及びそのエポキシ変性物を用いることが好ましい。タッキファイヤーとしては、クマロンインデン樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン、ロジン誘導体、フェノールアセチレン樹脂、脂環族飽和炭化水素樹脂などを挙げることができる。接着剤層2の好ましい一例としては、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体系ポリマー及びタッキファイヤーを含むものが挙げられる。
【0031】
接着剤層2はさらに、補強剤(例えば、カーボンブラック、シリカ、クレー、マイカ)、加硫剤、加硫促進剤、オイル、老化防止剤、可塑剤、顔料などを適宜配合された接着剤を用いて形成されていてもよい。接着剤層2の厚さは特に限定されないが、タイヤ軽量化のためには厚さが少ない方がよく、例えば5μm〜150μmが好ましい。
【0032】
1.2.空気入りタイヤ
本発明の他の一実施形態に係る空気入りタイヤは、上記実施形態に係る積層体をインナーライナーとして用いる。
【0033】
2.実施例
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものではない。
【0034】
はじめに、熱可塑性エラストマー組成物及び種々の接着剤組成物を作成し、これらを使用してインフレーション法により種々の筒状積層体を成形した。その後、各筒状積層体を空気透過防止層として用いたグリーンタイヤを作成し、加硫を行うことによりタイヤを作成した。
本実施例では、充填剤の配合量変更による本発明の効果の評価及び成形条件の違いによる本発明の効果の評価を行った。
【0035】
2.1.熱可塑性エラストマー組成物の作成
表1に示す配合割合(重量部)で、樹脂、ゴム材料及び動的架橋に必要な架橋系配合剤を2軸混練押出機にて温度230℃で混合し、連続相を構成する熱可塑性樹脂中にゴムが微細に分散した状態とし、2軸混練押出機の吐出口よりストランド状に押し出し、該ストランドをカッターでペレット状にし、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを作成した。
【0036】
(表1)

───────────────────────────
配合成分 配合量(重量部)
───────────────────────────
ナイロン11*1 24
ナイロン6.66*2 16
BIMS*3 60
亜鉛華*4 0.3
ステアリン酸*5 1.2
ステアリン酸亜鉛*6 0.6
───────────────────────────

*1:アルケマ社製 BESN O TL

*2:宇部興産製 5033B

*3:エクソンモービル化学製 Exxpro MDX89-4

*4:正同化学製 亜鉛華3号

*5:日本油脂製 ビーズステアリン酸

*6:正同化学製 ステアリン酸亜鉛
【0037】
2.2.接着剤組成物の調製
熱可塑性エラストマー組成物をタイヤ内面に貼り付けるため、表2に示す配合割合(重量部)で、2軸混練押出機を使用し、充填剤、接着用ポリマー及びタッキファイヤーを100℃にて十分混練せしめ、吐出口よりストランド状に押し出し、得られたストランドを水冷した後、カッターでペレット状とし、接着剤組成物のペレットを作成した。本実施例では、充填剤としてガラスビーズを使用した。また、接着剤組成物の仕様として、充填剤を配合しない従来例1、充填剤を50phr配合した実施例1の組成物(ポリマー分100重量部に対して50重量部の充填剤を含む)、充填剤を5phr配合した比較例1の組成物(ポリマー分100重量部に対して5重量部の充填剤を含む)、充填剤を150phr配合した比較例2の組成物(ポリマー分100重量部に対して150重量部の充填剤を含む)を調製した。
【0038】
【表2】


*1:ダイセル化学製 エポフレンドAT501
*2:旭化成製
タフプレン315

*3:荒川化学製 ペンセルAD

*4:正同化学製 亜鉛華3号

*5:日本油脂製 ビーズステアリン酸

*6:カヤクアクゾ製 パーカドックス14

*7:ポッターズ・バロティーニ製 GB731(平均粒子径32μm)
【0039】
2.3.インフレーション成形
熱可塑性エラストマー組成物及び各種接着剤組成物のペレットを使用し、一般的な2層インフレーション成形装置を使用し、230℃で積層フィルムのインフレーション成形を行ない、熱可塑性エラストマー組成物層及び接着剤層の筒状積層体を得た。熱可塑性エラストマー組成物層の厚さは100μmであり、接着剤層の厚さは30μmであった。また、比較対照として、接着剤層は実施例1と同じものを使用し、口径の大きいダイスを用いてブローアップレシオを1とした筒状積層体の成形も実施し、これを比較例3とした。各積層体は巻物状に100m巻取った。表3に各積層体の成形条件を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
2.4.積層体の自着性及び接着剤層の剥離評価
前述の成形により巻き取った筒状積層体を1週間保管し、その後巻きだして自着性の評価及び接着剤層の剥離状況の評価を行った。自着性評価に関しては、自着して巻きだしが困難な場合は不可(×)とし、問題なく巻きだせる場合は良(○)とした。接着剤剥離状況の評価に関しては、巻きだし時に接着剤の剥離の生じるものは不可(×)、剥離の生じないものは良(○)とした。それらの結果を表4に示した。
充填剤を配合しない従来例1及びブロー比が1の比較例3は接着剤層の凹凸形成が無いため粘着性の抑制ができず、自着性評価及び接着剤剥離状況の評価はいずれも不可(×)であった。
また、充填剤5phr配合の比較例1は接着剤層の凹凸形成が乏しいため粘着性の抑制が不充分であり、自着性評価及び接着剤剥離状況の評価は可(△)であった。
さらに、充填剤50phr配合の実施例1及び充填剤150phr配合の比較例2は自着性評価及び接着剤剥離状況の評価はいずれも良(○)であった。
【0042】
2.5.タイヤの作成
各筒状積層フィルムを熱可塑性エラストマー組成物がドラム側、接着剤組成物がタイヤ部材側になるようにタイヤ成型ドラムに巻き付け、その上にタイヤ部材を積層し、定法によりグリーンタイヤを成型後、加硫し(条件:180℃×10分)、タイヤサイズ165SR13のタイヤを作製した。
タイヤ作成工程のフィルムの取扱性に関しても評価を行ない、フィルムの粘着性が強く取扱性が困難なもの、及び逆に粘着性が低すぎてグリーンタイヤの成形に問題の生じるものを不可(×)とし、それらの問題のないものを良(○)とした。結果を表4に示した。
充填剤を配合しない従来例1及び充填剤が5phrの比較例1及びブロー比が1の比較例3は粘着性が強く取扱が困難であり、評価はいずれも不可(×)であった。また、充填剤150phr配合の比較例2は粘着性が低すぎてグリーンタイヤ内面から積層体が剥がれてしまうため評価は不可(×)であった。さらに、充填剤50phr配合の実施例1は取扱性が良好で程よい粘着性があり、評価は良(○)であった。
【0043】
【表4】

【0044】
以上説明した通り、本発明によれば、熱可塑性樹脂を含む層と、該層の少なくとも一方の面に配置された接着剤層とを含む積層体を成形するに際し、ポリマー100重量部と、接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤10〜100重量部とを含む接着剤組成物を使用することで、接着剤層の表面に凹凸を付与する工程を含むことにより、積層体の巻き出し時の密着及び接着剤層の剥離を抑制し、タイヤ成形時の取扱性を向上させ、さらに、積層体を巻き取る際のライナー材の使用が不要になる。
【符号の説明】
【0045】
1…空気透過防止層、2…接着剤層、3,4…積層体、5…充填剤、11,12,21,22…ロール、13,23…セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含む層と、該層の少なくとも一方の面に配置された接着剤層とを含む積層体を成形するに際し、
ポリマー100重量部と、前記接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する充填剤10〜100重量部とを含む接着剤組成物を使用することで、前記接着剤層の表面に凹凸を付与する工程を含む、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記積層体を多層押出のインフレーション法にて成形し、その成形条件において、環状ダイの直径と筒状積層体の直径の比(ブローアップレシオ(BUR):筒状積層体直径/環状ダイ直径)が1より大きい、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記積層体を多層押出のTダイ法にて成形し、その成形条件において、ダイ開口部の面積とシート状積層体の断面積の比(ドローダウンレシオ(DDR):ダイ開口部面積/製品断面積)が1より大きい、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤層がスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体系ポリマー及びタッキファイヤーを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂を含む層は更にエラストマーを含み、
前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂を含む層と、
前記層の少なくとも一方の面に配置され、表面に凹凸を有する接着剤層と、
を含み、
前記接着剤層は、ポリマー100重量部と、充填剤10〜100重量部とを含み、該充填剤は該接着剤層の厚みhに対して0.25h≦L≦3.0hの範囲にある直径Lを有する、積層体。
【請求項8】
前記接着剤層がスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体系ポリマー及びタッキファイヤーを含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリニトリル系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、及びイミド系樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項7または8に記載の積層体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂を含む層は更にエラストマーを含み、
前記エラストマーは前記熱可塑性樹脂中に分散しており、かつ、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、含イオウゴム、フッ素ゴム、及び熱可塑性エラストマーの群から選ばれた少なくとも1種である、請求項7〜9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載の積層体をインナーライナーとして用いた空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−260280(P2010−260280A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113381(P2009−113381)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】