説明

積層体及び医療用容器

【課題】柔軟性、衛生性、透明性および耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な積層体、並びにそれからなる医療用容器及び輸液バッグを提供する。
【解決手段】軟質塩化ビニル樹脂層(A)、脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含有する接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)を有し、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする積層体による。また、軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)、及びポリオレフィン層(C)をこの順で有する積層体であって、接着樹脂層(B2)が脂環式ポリエステルを含有し、接着樹脂層(B3)がスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする積層体による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性、衛生性、透明性および衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な積層体及び医療用容器に関する。特に、本発明は、柔軟性、衛生性、透明性および低温耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な、輸液バッグに好適に使用することが出来る積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の輸液バッグには、従来から、柔軟性が良好である軟質塩化ビニル樹脂製のものが用いられてきた。しかしながら、軟質塩化ビニル樹脂は柔軟性を付与するために多量の可塑剤を含有するため、輸液の種類によっては、可塑剤が輸液中に漏出することが心配される。
【0003】
可塑剤を含まない樹脂を用いた輸液バッグとしては、ポリエチレン製またはポリプロピレン製など、ポリオレフィン製のものが使用されている。しかしながら、ポリオレフィン製の輸液バッグは、可塑剤を含まないため衛生性が良好であるものの、柔軟性が低く、耐衝撃性、特に低温耐衝撃性が不十分であるため、取扱いの点で十分ではない。
【0004】
これらの両者の利点を兼ね備えた輸液バッグを得るためには、例えば、軟質塩化ビニル樹脂からなる層と、ポリオレフィンからなる層とを積層体として用いることが考えられる。しかしながら、軟質塩化ビニル樹脂とポリオレフィンとは親和性が低く、接着性・融着性に乏しいため、これらの樹脂を用いて輸液バッグ用の積層体とした場合、両者の界面で剥離してしまい、目的とする性能を得ることは出来ない。
【0005】
これを改良するためには、軟質塩化ビニル樹脂層とポリオレフィン層の両層に対して良好な接着性を有する接着層が期待される。
【0006】
塩化ビニル樹脂層と他の樹脂層との接着性を改良した複合材料としては、例えば、特許文献1には、シーリング及び建設用途に有用な材料として、硬質塩化ビニル樹脂とコポリエステルエラストマーまたはスチレンブロックコポリマー等とを融着させたものが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、塩化ビニル樹脂製の壁紙に対する防汚フィルムとして、スルホン基含有ポリエステル系樹脂層及び変性ポリオレフィン層(接着層)を介してポリプロピレン系樹脂層を表層とする多層フィルムが開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、医療用溶液の容器を製作するための複数層構造体として、ポリ(ビニリデンクロリド)層と、第2の層としてのポリプロピレンホモポリマー層との間に、種々の結合層が例示されている。
【0009】
一方、特許文献4には、医療用デバイスとして、第1の層である塩化ビニル樹脂層と、第2の層であるポリオレフィンを含む層との間に、ポリエステルを含む連結層を有する、多層フィルムおよびチュービングが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2010−516523号公報
【特許文献2】特開2009−208446号公報
【特許文献3】特表2010−526689号公報
【特許文献4】特表2006−500442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前記特許文献1の方法では、輸液バッグ等に好適な軟質塩化ビニル樹脂との融着性、接着性については何ら検討されておらず、また、当該技術ではポリオレフィンとの接着性については全く改良されていない。
【0012】
また、前記特許文献2の方法では、塩化ビニル樹脂層とポリプロピレン系樹脂層との間の接着力は発現するものの、輸液バッグ用の積層体として用いる場合は、スルホン基含有ポリエステル系樹脂層及び変性ポリオレフィン層に含まれる物質が薬液に影響を及ぼす懸念がある。
【0013】
さらに、前記特許文献3で開示されている複数層構造体は、何れの結合層を用いた場合においても、該構造体に応力を付加したり、層間の剥離試験を行った場合にも使用に耐え得る程度の接着性は有していない。従って、これを輸液バッグ用に用いた場合には、実用面で不安があった。また、前記特許文献4において製造されている積層体では透明性および接着性等が不十分であった。
【0014】
このように、現状では、柔軟性、衛生性、透明性および耐衝撃性を兼ね備え、輸液バッグに好適な積層体は未だ見出されていない状況にある。
【0015】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、その課題は、柔軟性、衛生性、透明性および耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な積層体及び医療用容器を提供することにある。特に、本発明は、柔軟性、衛生性、透明性および低温耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な、輸液バッグに好適に使用することが出来る積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、軟質塩化ビニル樹脂層及びポリオレフィン層に対し、特定の樹脂組成物からなる接着樹脂層を用いることにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下の[1]〜[14]に存する。
【0017】
[1] 軟質塩化ビニル樹脂層(A)、脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含有する接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)を有し、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする積層体。
【0018】
[2] 前記接着樹脂層(B1)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する[1]に記載の積層体。
【0019】
[3] 前記接着樹脂層(B1)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する[1]又は[2]に記載の積層体。
【0020】
[4] 前記接着樹脂層(B1)において、前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香
族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQからなり、重合体ブロックPが5〜55重量%を占めるブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である[1]〜[3]の何れか1に記載の積層体。
【0021】
[5] 軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)、及びポリオレフィン層(C)をこの順で有する積層体であって、接着樹脂層(B2)が脂環式ポリエステルを含有し、接着樹脂層(B3)がスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする積層体。
【0022】
[6] 前記接着樹脂層(B2)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する[5]に記載の積層体。
【0023】
[7] 前記接着樹脂層(B2)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する[5]又は[6]に記載の積層体。
【0024】
[8] 前記ポリオレフィン層(C)がエチレン系樹脂及び/またはプロピレン系樹脂である[1]〜[7]の何れか1に記載の積層体。
【0025】
[9] [1]〜[8]の何れか1に記載の積層体からなる医療用容器。
【0026】
[10] [1]〜[9]の何れか1に記載の積層体を構成物として含む輸液バッグ。
【0027】
[11] 脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含み、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【0028】
[12] 前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する[11]に記載の樹脂組成物。
【0029】
[13] 前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する[11]又は[12]に記載の樹脂組成物。
【0030】
[14] 前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQからなり、重合体ブロックPが5〜55重量%を占めるブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である[11]〜[13]の何れか1に記載の樹脂組成物。
【0031】
なお、以下において、上記[1]に係る発明を「本発明の第一の態様」と称し、上記[5]に係る発明を「本発明の第二の態様」と称する。また、本発明の第一の態様に係る積層体と本発明の第二の態様に係る積層体との両者を合わせて「本発明の積層体」と称することがある。さらに、上記[11]に係る発明を「本発明の第三の態様」と称する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、柔軟性、衛生性、透明性および耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な積層体及び医療用容器が提供される。また本発明によれば、柔軟性、衛生性、透明性および低温耐衝撃性が良好であり、層間の接着性が良好な、輸液バッグに好適に使用することが出来る積層体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第一の態様に係る積層体は、軟質塩化ビニル樹脂層(A)、融点が130〜200℃の脂環式ポリエステル及び数平均分子量が190000以下のスチレン系エラストマーを含有する接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)を有することを特徴とする。
【0034】
また、本発明の第二の態様に係る積層体は、軟質塩化ビニル樹脂層(A)、脂環式ポリエステルを含有する接着樹脂層(B2)、スチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を含有する接着樹脂層(B3)、及びポリオレフィン層(C)をこの順で有することを特徴とする。
【0035】
さらに、本発明の第三の態様に係る樹脂組成物は、脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含み、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする。
【0036】
以下、本発明の第一の態様及び第二の態様に係る積層体について、また、本発明の第三の態様に係る樹脂組成物について説明する。
【0037】
<軟質塩化ビニル樹脂層(A)>
本発明における軟質塩化ビニル樹脂層(A)は、少なくとも塩化ビニル樹脂を含有する。軟質塩化ビニル樹脂層(A)を構成する塩化ビニル樹脂は限定されないが、塩化ビニルの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0038】
塩化ビニルに共重合体可能なモノマーは限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸またはそのエステル、アクリル酸またはそのエステル、メタクリル酸またはそのエステルおよび塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0039】
また、部分的に架橋された樹脂であってもよい。また、ポリ塩化ビニル樹脂のポリマーブレンド物、例えば、塩化ビニル樹脂とポリ塩化ビニリデンからなるポリマーブレンド物を用いてもよい。これらのうち、軟質塩化ビニル樹脂層(A)に用いる塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニル単独重合体が好ましい。
【0040】
軟質塩化ビニル樹脂層(A)に用いる塩化ビニル樹脂の平均重合度は限定されないが、500〜6000であることが好ましく、より好ましくは800〜3000である。
【0041】
本発明に用いる塩化ビニル樹脂の還元粘度(K値)は限定されないが、JIS K7367−2(1999年)に準拠した値として、50〜110であることが好ましく、より好ましくは60〜90である。
【0042】
塩化ビニル樹脂の製造方法は限定されず、例えば、懸濁重合法、塊状重合法および乳化重合法等の製造方法が挙げられる。また、塩化ビニル樹脂の微粒子を有機媒体に分散させたプラスチゾルまたは水性ラテックスであってもよい。
【0043】
本発明における軟質塩化ビニル樹脂層(A)は、塩化ビニル樹脂とともに可塑剤を含有
していることが好ましい。
【0044】
軟質塩化ビニル樹脂層(A)に用いる可塑剤は限定されないが、具体的には、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジイソノニルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ジウンデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、ジドデシルフタレート、ジイソクミルフタレートおよびジノニルフタレートなどの炭素数1〜12のアルキル基を有するフタル酸エステル類;ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアゼレート、ジヘキシルアゼレート、ジイソオクチルアゼレート、トリエチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、アセチルトリオクチルシトレート、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、メチルアセチルリシノレートおよびブチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル類;トリ−(2−エチルヘキシル)トリメリテート、トリ−n−オクチル・トリメリテート、トリイソオクチル・トリメリテート、テトラ−(2−エチルヘキシル)ピロメリテート、テトラ−n−オクチル・ピロメリテート、テトライソオクチル・ピロメリテート、ビフェニルテトラカルボン酸テトラブチルエステル、ビフェニルテトラカルボン酸テトラペンチルエステルおよびビフェニルテトラカルボン酸テトラヘキシルエステルなどの芳香族カルボン酸エステル類;トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートおよび2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどの正リン酸エステル類;塩素化パラフィン;塩素化脂肪酸エステル;エポキシ化大豆油;エポキシ化あまに油;エポキシブチルステアレート、エポキシオクチルステアレート;メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレートおよびブチルフタリルブチルグリコレートなどが挙げられる。これらの可塑剤は、1種の化合物のみを用いても、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0045】
本発明において可塑剤を用いる場合の配合量は限定されないが、塩化ビニル樹脂100重量部に対して1〜150重量部であることが好ましく、より好ましくは15〜120重量部、さらに好ましくは20〜100重量部である。
【0046】
可塑剤の配合量を前記下限値以上とすることにより、本発明の積層体の柔軟性が良好となる。一方、可塑剤の配合量を前記上限値以下とすることにより、本発明の積層体から可塑剤がブリードアウトするのを防ぐとともに、成形性の悪化を防ぐことができる。
【0047】
本発明における軟質塩化ビニル樹脂層(A)は、塩化ビニル樹脂とともに安定剤を含有していてもよい。
【0048】
軟質塩化ビニル樹脂層(A)に用いる安定剤は限定されないが、公知の塩化ビニル樹脂用安定剤等の中から適宜選択することが可能であり、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ケイ酸鉛、オルトケイ酸鉛−シリカゲル共沈物、二塩基性ステアリン酸鉛、カドミウム−バリウム系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、錫系安定剤、及びハイドロタルサイト等のマグネシウム、アルミニウムまたはケイ素等の無機塩を主成分とした安定剤等などが挙げられる。これらの安定剤は、1種の化合物のみを用いても、2種以上の化合物を併用してもよい。
【0049】
本発明において安定剤を用いる場合の配合量は限定されないが、塩化ビニル樹脂100
重量部に対して1〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは2〜20重量部、さらに好ましくは3〜15重量部である。安定剤が前記範囲で配合されていると、熱安定性または成形性が良好となる傾向にある。
【0050】
<接着樹脂層(B1)>
本発明における接着樹脂層(B1)は、少なくとも脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含有する。本発明において、接着樹脂層(B1)として脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを併用することにより、塩化ビニル樹脂層(A)、ポリオレフィン層(C)の何れとも良好な接着性を発現することが可能となる。
【0051】
その原因は明らかではないが、脂環式ポリエステルが軟質塩化ビニル樹脂との親和性および接着性の効果を発現し、一方、スチレン系エラストマーがポリオレフィンとの親和性および接着性の効果を発現し、しかも、脂環式ポリエステルとスチレン系エラストマーが良好な親和性を有するためであると考えられる。
【0052】
なお、接着樹脂層(B1)に用いられる脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物が本発明に係る第3の態様に係る樹脂組成物である。
【0053】
[脂環式ポリエステル]
本発明における脂環式ポリエステルは、原料モノマーとして脂環式化合物を使用して得られるポリエステルであれば限定されないが、主成分として脂環式化合物を有するポリエステルであることが好ましい。ここで、「主成分として脂環式化合物を有する」とは、ポリエステルの構成単位として(換言すれば、原料モノマーとして)、脂環式化合物を50重量%以上含有するポリエステルを意味する。
【0054】
また、該脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率を前記下限値以上とすることにより、接着樹脂層(B1)としての接着性能を向上させることができる。なお、該脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率の上限は、通常100重量%である。
【0055】
ここで、本発明における脂環式ポリエステルが、後述する通り、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含む場合は、該脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率の算出に際しては、該ポリアルキレンエーテルポリオールの重量は除外して取り扱うものとする。
【0056】
本発明における脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物は、原料モノマーとして、ジカルボン酸、ジオール、オキシカルボン酸およびカプロラクトン類の何れであってもよく、更には、エステル形成性モノマー以外の化合物として脂環式化合物が用いられていてもよい。好ましくは、ジカルボン酸、ジオールおよびオキシカルボン酸の何れかとして脂環式化合物が用いられる場合が良好であり、更には、ジカルボン酸およびジオールの少なくとも何れかとして脂環式化合物が用いられる場合が良好である。
【0057】
脂環式ポリエステルを構成する原料モノマーとして脂環式ジカルボン酸を用いる場合、その化合物は限定されないが、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロヘキサンジカルボン酸類;1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸および2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸等のデカヒドロナフタレンジカルボン酸類等が挙げられる。これらのうち、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、1,4−シクロヘキサンジ
カルボン酸が特に好ましい。これらの脂環式ジカルボン酸は2種以上を併用することもできる。
【0058】
脂環式ポリエステルを構成する原料モノマーとして脂環式ジオールを用いる場合、その化合物は限定されないが、例えば、1,2−シクロペンタンジオールおよび1,3−シクロペンタンジオール等のシクロペンタンジオール;1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノールおよびシクロペンタンジメタノールビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン等の5員環ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール;1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロヘキサンジメタノール;2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等のビスシクロヘキシルジオール等が挙げられる。
【0059】
これらのうち、シクロヘキサンジメタノールが好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。これらの脂環式ジオールは、2種以上を併用することもできる。
【0060】
なお、これらの脂環式ジカルボン酸及び脂環式ジオールは、原料モノマーとしては、エステル形成性の誘導体であってもよい。
【0061】
脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物が6員環である場合、該6員環化合物はトランス体であってもシス体であってもよく、これらの混合物であってもよい。脂環式ジカルボン酸、脂環式ジオールの何れについても、トランス体とシス体の合計量に対し、トランス体含有率が50モル%以上であるのが好ましく、60モル%以上であるのがより好ましく、70モル%以上であるのが更に好ましい。
【0062】
トランス体の比率が前記下限値以上であると、脂環式ポリエステルの耐熱性及び成形性が向上する傾向にある。また、トランス体含有率は、通常100モル%以下であり、85モル%以下であることがより好ましい。トランス体の比率が前記上限値以下であると、共押出の際の成形性が向上する傾向にある。
【0063】
本発明に用いる脂環式ポリエステルには、原料モノマーとして脂環式化合物以外の化合物を併用することができる。脂環式ポリエステルの原料モノマーとして用いることが出来る化合物は限定されず、種々のジカルボン酸、ジオール、オキシカルボン酸、カプロラクトン類または多官能化合物等を用いることができる。
【0064】
脂環式ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸および4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸およびドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好ましい。これらの脂環式ジカルボン酸以外のジカルボン酸は、2種以上を併用することもできる。
【0065】
脂環式ジオール以外のジオールとしては、後述するポリアルキレンエーテルポリオールのほか、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール
、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびジエチレングリコール等の脂肪族ジオール;キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンおよびビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール等が挙げられる。
【0066】
これらの中では、後述するポリアルキレンエーテルポリオールのほか、1,4−ブタンジオールまたはエチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。これらの脂環式ジオール以外のジオールは、2種以上を併用することもできる。
【0067】
多官能化合物としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびペンタエリスリトール等のポリオール、トリカルボン酸並びにテトラカルボン酸等が挙げられる。
なお、これらの脂環式化合物以外の原料モノマーも、エステル形成性の誘導体として用いてもよい。
【0068】
以上の中でも、接着樹脂層(B1)に用いる脂環式ポリエステルとしては、全ジカルボン酸単位中、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位が、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であることが好ましい。
【0069】
なお、全ジカルボン酸単位中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位の割合の上限は、100モル%である。全ジカルボン酸単位中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位の割合が前記範囲内であると、未反応物または低分子量成分の割合が少ないため、衛生性が良好な傾向となる。
【0070】
また、脂環式ポリエステルとしては、後述するポリアルキレンエーテルポリオールを除く全ジオール中、1,4−シクロヘキサンジメタノールが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であることが好ましい。
【0071】
なお、全ジオール単位中の1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位の割合の上限は、通常100モル%である。ポリアルキレンエーテルポリオールを除く全ジオール単位中の1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位の割合が前記範囲内であると、未反応物や低分子量成分の割合が少ないため、衛生性が良好な傾向となる。
【0072】
本発明における接着樹脂層(B1)に用いる脂環式ポリエステルは、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含む、いわゆるブロック共重合体であってもよい。ここでハードセグメントとしては、上記した脂環式ポリエステルの構造が相当する。
【0073】
脂環式ポリエステルが、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含有することにより、結晶化速度が向上し、加熱滅菌後の透明性が良好となる傾向があるため好ましい。なお、ポリアルキレンエーテルポリオールは、前述の通り、「脂環式ジオール以外のジオール」の一態様である。
【0074】
このように、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含むことにより、本発明の積層体が、更に柔軟性、耐衝撃性および軟質的な触感等を向上させることができる。
【0075】
ソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルポリオールは限定されないが、中でも、ポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。
【0076】
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。特に好ましいものは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールである。また、これらのポリアルキレンエーテルグリコールを併用してもよい。
【0077】
本発明における脂環式ポリエステルとして、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するブロック共重合体を用いる場合、特に、ハードセグメントとして、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造を好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル重量%以上含有し、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いることが好ましい。
【0078】
ソフトセグメントの数平均分子量、すなわち、ポリアルキレンエーテルポリオールの数平均分子量は、200〜4000であることが好ましく、より好ましくは300〜3000、さらに好ましくは500〜2500である。
【0079】
ポリアルキレンエーテルポリオールの数平均分子量を前記下限値以上とすることにより、良好な柔軟性を得ることができる。また、数平均分子量を前記上限値以下とすることにより、脂環式ポリエステル内での相分離を抑制し、積層体の透明性または耐熱性が低下するのを防ぐことができる。
【0080】
なお、ここでいう「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものである。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMERLABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すればよい。
【0081】
また、脂環式ポリエステル中のポリアルキレンエーテルポリオールの含有量は限定されないが、3〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは6〜30重量%である。
【0082】
ソフトセグメントであるポリアルキレンエーテルポリオールの含有量を上記下限値以上とすることにより、柔軟性、接着性および粘着性の向上が良好となる傾向にある。また、ソフトセグメントの含有量を上記上限値以下とすることにより、積層体の透明性および耐熱性が低下するのを抑制することができる。
【0083】
なお、ポリアルキレンエーテルポリオール由来の構成単位の含有量は、製造時の仕込割合から算出するか、又はH−NMRスペクトル分析法のような機器分析法により定量することができる。
【0084】
本発明における接着樹脂層(B1)に用いる脂環式ポリエステルは、JIS K7210(1999年)の試験条件4に従って、230℃、2.16kg荷重(kgf)で測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1〜100(g/10分)、より好ましくは0.5〜80(g/10分)、さらに好ましくは1.0〜60(g/10分)の範囲のものであることが好ましい。
【0085】
MFRを前記上限値以下とすることにより、積層体の成形性を向上させることができ、更に、積層体の機械的強度を向上させることができる。一方、MFRを前記下限値以上と
することにより流動性が良好となり、積層体の成形性が向上する。
【0086】
本発明における接着樹脂層(B1)に用いる脂環式ポリエステルの融点は、加工性と透明性のバランスの点から、130℃以上であり、好ましくは160℃以上、また、200℃以下であり、好ましくは190℃以下である。さらに、融点が上記上限値以下であることにより、前記軟質塩化ビニル樹脂層(A)と共に接着樹脂層(B1)を共押し出しにより、積層体を製造した場合、低温での成形が可能であるために軟質塩化ビニル樹脂由来の塩化水素ガスの発生を防ぎ、成形機の劣化を防止することができる。
【0087】
なお、脂環式ポリエステルの融点は、示差走査熱量計(DSC)等を用い、昇温速度100℃/分で常温から250℃まで昇温して3分間保持し、その後−100℃まで冷却速度10℃/分で冷却した後、再び250℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた時の融解ピークの温度である。
【0088】
[スチレン系エラストマー]
本発明におけるスチレン系エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、柔軟性を付与する重合体ブロックとを有するものであれば限定されないが、具体的には、例えば、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体が挙げられる(以下、重合体ブロックPを「ブロックP」、重合体ブロックQを「ブロックQ」と略記することがある)。
【0089】
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味し、「ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする重合体」とは、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、ここで「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
【0090】
ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレンまたはα−メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0091】
ブロックQは、より好ましくは、ブタジエン単独、イソプレン単独、ブタジエン及びイソプレンのいずれかである。なお、ブロックQには、ブタジエン及びイソプレン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0092】
ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体であってもよい。ブロックQの水素添加率は限定されないが、50〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。
【0093】
ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、本発明の積層体の熱安定性が向上する傾向にある。なお、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。水素添加率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0094】
スチレン系エラストマーにおけるブロックPの重量割合は限定されないが、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、一方、55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。ブロックPの重量割合が前記範囲であることにより、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0095】
ブロックQが水素添加誘導体であり、ブタジエンを主体として構成される場合は、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,2−付加構造が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上である。また、上限は100重量%である。
【0096】
同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,2−付加構造が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上である。また、上限は100重量%である。
【0097】
何れの場合も、1,2−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0098】
スチレン系エラストマーとして、前記のブロックP及びブロックQを有する共重合体を用いる場合、その化学構造は直鎖状、分岐状または放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましく、接着性の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
【0099】
さらに、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体は、水素添加誘導体(以下、水添ブロック共重合体と略記する場合がある)が更に好ましい。下記式(1)又は(2)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0100】
P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
【0101】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。本発明においてはm及びnが1〜5の整数で与えられるものが好ましく、より好ましくは2〜4である。
【0102】
ブロック共重合体または水添ブロック共重合体(以下、まとめて「(水添)ブロック共重合体」と記す)としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(1)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましい。
【0103】
本発明の第一の態様におけるスチレン系エラストマーの数平均分子量は、190000以下である。スチレン系エラストマーの数平均分子量が前記上限値を超えると、流動性が低下する結果、接着樹脂層(B1)においてスチレン系エラストマーがドメインを形成するため、他の樹脂層との接着性が低下し、特にポリオレフィン層との接着性が悪化する。
【0104】
スチレン系エラストマーの数平均分子量は、前記と同様の理由により、好ましくは150000以下、より好ましくは120000以下、更に好ましくは100000以下、特に好ましくは90000以下である。
【0105】
スチレン系エラストマーの数平均分子量の下限は限定されないが、20000以上であることが好ましく、より好ましくは40000以上、さらに好ましくは50000以上である。スチレン系エラストマーの数平均分子量が前記下限値未満であると、材料強度が低
くなる傾向にある。
【0106】
なお、スチレン系エラストマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により、以下の条件で測定したポリスチレン換算の値である。
【0107】
(測定条件)
機器:日本ミリポア株式会社製「150C ALC /GPC」
カラム:昭和電工株式会社製「AD80M/S」3本
検出器:FOXBORO社製赤外分光光度計「MIRANIA」測定
波長3.42μm
溶媒:o−ジクロロベンゼン
温度:140℃
流速:1cm/分
注入量:200マイクロリットル
濃度:2mg/cm
酸化防止剤として2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール0.2重量%添加。
【0108】
本発明におけるスチレン系エラストマーの製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行う等の公知の方法を採用することができる。
【0109】
このような水添ブロック共重合体の市販品としては、例えば、クレイトンジャパン株式会社製「KRATON(登録商標)−G」、株式会社クラレ製「セプトン(登録商標)」および「ハイブラー(登録商標)」、並びに旭化成株式会社製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0110】
また、非水添型のブロック共重合体の市販品としては、例えば、クレイトンジャパン株式会社製「KRATON(登録商標)−A」、株式会社クラレ製「ハイブラー(登録商標)」の一部グレードおよび旭化成株式会社製「タフプレン(登録商標)」等が挙げられる。
【0111】
本発明では、本発明の効果を奏する範囲内において、接着樹脂層(B1)にゴム用軟化剤が含有されていてもよい。使用可能なゴム用軟化剤は限定されず、接着樹脂層(B1)の柔軟性を調節できるものであればよいが、中でも炭化水素系ゴム用軟化剤が好ましい。
【0112】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、スチレン系エラストマーへの親和性が高いことから、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
【0113】
[配合割合]
本発明における脂環式ポリエステルとスチレン系エラストマーとの配合割合(重量比)は限定されないが、95/5〜35/65の範囲であることが好ましく、90/10〜40/60であるのがより好ましい。
【0114】
スチレン系エラストマーの配合割合を前記下限値以上とすることにより、ポリオレフィン層(C)に対する接着性を向上させることができる。また、スチレン系エラストマーの配合割合を前記上限値以下とすることにより、軟質塩化ビニル樹脂との親和性を向上させることができる。
【0115】
本発明における接着樹脂層(B1)を構成する脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーの配合は、予めこれらを均一な樹脂組成物としておいてもよいし、後述する積層体を成形する際に、これらを適宜配合(ドライブレンド)して使用してもよい。
【0116】
本発明における接着樹脂層(B1)を予め均一な樹脂組成物としておく場合、その方法は限定されないが、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダーまたはタンブラーブレンダー等で混合する方法、および、このような方法で混合して得られた混合物を、さらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダーまたはバンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒することによって得ることができる。また、ニーダーまたはロールを用いて混合することもできる。
【0117】
これらの方法で樹脂組成物を製造する際の製造条件は限定されず、周知の条件で適宜設定することができる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行う。
【0118】
<接着樹脂層(B2)>
本発明の第2の態様における接着樹脂層(B2)は、少なくとも脂環式ポリエステルを含有する。本発明において、接着樹脂層(B2)として脂環式ポリエステルを含有することにより、塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B3)と良好な接着性及び/又は親和性を発現することが可能となる。その原因は明らかではないが、脂環式ポリエステルが、軟質塩化ビニル樹脂(A)及び接着樹脂層(B3)を構成する樹脂の何れとも親和性が高いためと考えられる。
【0119】
接着樹脂層(B2)における脂環式ポリエステルの含有量は限定されないが、50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上である。なお、上限は100重量%であることが好ましい。
【0120】
[脂環式ポリエステル]
本発明における脂環式ポリエステルは、原料モノマーとして脂環式化合物を有していれば限定されないが、主成分として脂環式化合物を有するポリエステルであることが好ましい。
【0121】
ここで、「主成分として脂環式化合物を有する」とは、ポリエステルの構成単位として(換言すれば、原料モノマーとして)、脂環式化合物を50重量%以上含有するポリエステルを意味する。また、前記脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上である。
【0122】
脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率を前記下限値以上とすることにより、接着樹脂層(B2)としての接着性能を向上させることができる。なお、前記脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率の上限は、通常100重量%である。
【0123】
ここで、本発明における脂環式ポリエステルが、後述する通り、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含む場合は、該脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物の含率の算出に際しては、該ポリアルキレンエーテルポリオールの重量は除外して取り扱うものとする。
【0124】
本発明における脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物は、原料モノマーとして、
ジカルボン酸、ジオール、オキシカルボン酸およびカプロラクトン類の何れであってもよく、更には、エステル形成性モノマー以外の化合物として脂環式化合物が用いられていてもよい。
【0125】
好ましくは、ジカルボン酸、ジオールおよびオキシカルボン酸の何れかとして脂環式化合物が用いられる場合が良好であり、更には、ジカルボン酸およびジオールの少なくとも何れかとして脂環式化合物が用いられる場合が良好である。
【0126】
脂環式ポリエステルを構成する原料モノマーとして脂環式ジカルボン酸を用いる場合、その化合物は限定されないが、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のシクロヘキサンジカルボン酸類;1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸および2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸等のデカヒドロナフタレンジカルボン酸類等が挙げられる。
【0127】
これらのうち、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が特に好ましい。これらの脂環式ジカルボン酸は2種以上を併用することもできる。
【0128】
脂環式ポリエステルを構成する原料モノマーとして脂環式ジオールを用いる場合、その化合物は限定されないが、例えば、1,2−シクロペンタンジオールおよび1,3−シクロペンタンジオール等のシクロペンタンジオール;1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノールおよびシクロペンタンジメタノールビス(ヒドロキシメチル)トリシクロデカン等の5員環ジオール;1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオールおよび1,4−シクロヘキサンジオール等のシクロヘキサンジオール;1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノール等のシクロヘキサンジメタノール;2,2−ビス−(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等のビスシクロヘキシルジオール等が挙げられる。これらのうち、シクロヘキサンジメタノールが好ましく、1,4−シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。これらの脂環式ジオールは、2種以上を併用することもできる。
【0129】
なお、これらの脂環式ジカルボン酸及び脂環式ジオールは、原料モノマーとしては、エステル形成性の誘導体であってもよい。
【0130】
脂環式ポリエステルを構成する脂環式化合物が6員環である場合、該6員環化合物はトランス体であってもシス体であってもよく、これらの混合物であってもよいが、脂環式ジカルボン酸、脂環式ジオールの何れについても、トランス体とシス体の合計量に対し、トランス体含有率が50モル%以上であるのが好ましく、60モル%以上であるのがより好ましく、70モル%以上であるのが更に好ましい。
【0131】
トランス体の比率が前記下限値以上であると、脂環式ポリエステルの耐熱性及び成形性が向上する傾向にある。また、トランス体含有率の上限は、通常100モル%であり、85モル%以下であることがより好ましい。トランス体の比率が前記上限値以下であると、共押出の際の成形性が向上する傾向にある。
【0132】
本発明に用いる脂環式ポリエステルには、原料モノマーとして脂環式化合物以外の化合物を併用することができる。脂環式ポリエステルの原料モノマーとして用いることが出来る化合物は限定されず、種々のジカルボン酸、ジオール、オキシカルボン酸、カプロラク
トン類または多官能化合物等を用いることができる。
【0133】
脂環式ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸および4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸およびドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。
【0134】
これらの中では、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好適である。これらの脂環式ジカルボン酸以外のジカルボン酸は、2種以上を併用することもできる。
【0135】
脂環式ジオール以外のジオールとしては、後述するポリアルキレンエーテルポリオールのほか、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコールおよびジエチレングリコール等の脂肪族ジオール;キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンおよびビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール等が挙げられる。
【0136】
これらの中では、後述するポリアルキレンエーテルポリオールのほか、1,4−ブタンジオールまたはエチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。これらの脂環式ジオール以外のジオールは、2種以上を併用することもできる。
【0137】
多官能化合物としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸およびペンタエリスリトール等のポリオール、トリカルボン酸並びにテトラカルボン酸等が挙げられる。
【0138】
なお、これらの脂環式化合物以外の原料モノマーも、エステル形成性の誘導体として用いてもよい。
【0139】
以上の中でも、接着樹脂層(B2)に用いる脂環式ポリエステルは、全ジカルボン酸単位中、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位が、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上である。なお、全ジカルボン酸単位中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位の割合の上限は、通常100モル%である。
【0140】
全ジカルボン酸単位中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位の割合が前記範囲内であると、未反応物や低分子量成分の割合が少ないため、衛生性が良好な傾向となる。
【0141】
また、脂環式ポリエステルとしては、後述するポリアルキレンエーテルポリオールを除く全ジオール中、1,4−シクロヘキサンジメタノールが、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上であることが好ましい。なお、全ジオール単位中の1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位の割合の上限は、通常100モル%である。
【0142】
ポリアルキレンエーテルポリオールを除く全ジオール単位中の1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位の割合が前記範囲内であると、未反応物または低分子量成分の割合が少ないため、衛生性が良好となる傾向にある。
【0143】
本発明における接着樹脂層(B2)に用いる脂環式ポリエステルは、ハードセグメントとソフトセグメントとを有し、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含む、いわゆるブロック共重合体であってもよい。
【0144】
ここでハードセグメントとしては、上記した脂環式ポリエステルの構造が相当する。脂環式ポリエステルが、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含有することにより、結晶化速度が向上し、加熱滅菌後の透明性が良好となる傾向があるため好ましい。なお、ポリアルキレンエーテルポリオールは、前述の通り、「脂環式ジオール以外のジオール」の一態様である。
【0145】
このように、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルポリオールを含むことにより、本発明の積層体が、更に柔軟性、耐衝撃性および軟質的な触感等を向上させることができる。
【0146】
ソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルポリオールは限定されないが、前記接着樹脂層(B1)の説明において挙げたものと同様のものを用いることができる。中でも、ポリアルキレンエーテルグリコールが好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールおよびポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。特に好ましいものは、ポリテトラメチレンエーテルグリコールである。また、これらのポリアルキレンエーテルグリコールを併用してもよい。
【0147】
本発明における脂環式ポリエステルとして、ハードセグメントとソフトセグメントとを有するブロック共重合体を用いる場合、特に、ハードセグメントとして、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールに由来する構造を好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル重量%以上含有し、ソフトセグメントとしてポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いることが好ましい。
【0148】
ソフトセグメントの数平均分子量、すなわち、ポリアルキレンエーテルポリオールの数平均分子量は、200〜4000であることが好ましく、より好ましくは300〜3000、さらに好ましくは500〜2500である。
【0149】
ポリアルキレンエーテルポリオールの数平均分子量を前記下限値以上とすることにより、十分な柔軟性が得られる。また、数平均分子量を前記上限値以下とすることにより、脂環式ポリエステル内での相分離を抑制し、積層体の透明性または耐熱性が低下するのを防ぐことができる。
【0150】
なお、ここでいう「数平均分子量」とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものである。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMERLABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すればよい。
【0151】
また、脂環式ポリエステル中のポリアルキレンエーテルポリオールの含有量は限定されないが、3〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは6〜30重量%である。
【0152】
ソフトセグメントであるポリアルキレンエーテルポリオールの含有量を上記下限値以上とすることにより、柔軟性、接着性および粘着性が向上する傾向にある。また、ソフトセグメントの含有量を上記上限値以下とすることにより、積層体の透明性および耐熱性が低下するのを抑制することができる。
【0153】
なお、ポリアルキレンエーテルポリオール由来の構成単位の含有量は、製造時の仕込割合から算出するか、又はH−NMRスペクトル分析法のような機器分析法により定量することができる。
【0154】
本発明における接着樹脂層(B2)に用いる脂環式ポリエステルの融点は限定されないが、加工性と透明性のバランスの点から、130℃以上であることが好ましく、より好ましくは160℃以上であり、210℃以下であることが好ましく、より好ましくは200℃以下である。さらに、融点が上記上限値以下であることにより、前記軟質塩化ビニル樹脂層(A)と共に接着樹脂層(B1)を共押し出しにより、積層体を製造した場合、低温での成形が可能であるために軟質塩化ビニル樹脂由来の塩化水素ガスの発生を防ぎ、成形機の劣化を防止することができる。
【0155】
なお、脂環式ポリエステルの融点は、示差走査熱量計(DSC)等を用い、昇温速度100℃/分で常温から250℃まで昇温して3分間保持し、その後−100℃まで冷却速度10℃/分で冷却した後、再び250℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた時の融解ピークの温度である。
【0156】
本発明における接着樹脂層(B2)は、JIS K7210(1999年)の試験条件4に従って、230℃、2.16kg荷重(kgf)で測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1〜100(g/10分)、より好ましくは0.5〜80(g/10分)、さらに好ましくは、1.0〜60(g/10分)の範囲のものであることが好ましい。
【0157】
MFRを前記上限値以下とすることにより、積層体の成形性を向上させることができ、更に、積層体の機械的強度を向上させることができる。MFRを前記下限値以上とすることにより流動性が良好となり、積層体の成形性が向上する。
【0158】
<接着樹脂層(B3)>
本発明における接着樹脂層(B3)は、少なくともスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を含有する。スチレン系エラストマーと変性ポリオレフィン樹脂とは親和性が良好であるため、これらを必須成分として含有する接着樹脂層(B3)は、相構造が安定した状態で存在することができる。
【0159】
本発明において、接着樹脂層(B3)としてスチレン系エラストマー、変性ポリオレフィン樹脂の双方を含有することにより、接着樹脂層(B2)、ポリオレフィン層(C)と良好な接着性及び/又は親和性を発現することが可能となる。
【0160】
その原因は明らかではないが、接着樹脂層(B3)中のスチレン系エラストマーが粘着性を発現し、一方、変性ポリオレフィン樹脂が接着樹脂層(B2)を構成する脂環式ポリエステルと化学反応するため、接着樹脂層(B2)との良好な接着性を発現するものと考えられる。また、接着樹脂層(B3)中の変性ポリオレフィンがポリオレフィン層(C)と親和性が高いため、良好な接着性を発現するものと考えられる。
【0161】
接着樹脂層(B3)におけるスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂の合
計含有量は限定されないが、20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上であり、上限は100重量%である。
【0162】
[スチレン系エラストマー]
本発明におけるスチレン系エラストマーは、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックと、柔軟性を付与する重合体ブロックとを有するものであれば限定されないが、具体的には、例えば、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQを有するブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体が挙げられる(以下、重合体ブロックPを「ブロックP」、重合体ブロックQを「ブロックQ」と略記することがある)。
【0163】
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味し、「ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする重合体」とは、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、ここで「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
【0164】
ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレンまたはα−メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
【0165】
ブロックQは、より好ましくは、ブタジエン単独、イソプレン単独、ブタジエン及びイソプレン、のいずれかである。なお、ブロックQには、ブタジエン及びイソプレン以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体であってもよい。ブロックQの水素添加率は限定されないが、50〜100%が好ましく、80〜100%がより好ましい。
【0166】
ブロックQを前記範囲で水素添加することにより、本発明の積層体の熱安定性が向上する傾向にある。なお、ブロックPが、原料としてジエン成分を用いた場合についても同様である。水素添加率は、13C−NMRにより測定することができる。
【0167】
スチレン系エラストマーにおけるブロックPの重量割合は限定されないが、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、一方、55重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましく、45重量%以下であることがさらに好ましい。ブロックPの重量割合が前記範囲であることにより、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0168】
ブロックQが水素添加誘導体であり、ブタジエンを主体として構成される場合は、ブロックQのミクロ構造中のブタジエンの1,2−付加構造が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上である。また、上限は100重量%である。
【0169】
同様に、ブロックQがイソプレンから構成される場合、ブロックQのミクロ構造中のイソプレンの1,2−付加構造が20重量%以上であることが好ましく、より好ましくは30重量%以上である。また、上限は通常100重量%である。
【0170】
何れの場合も、1,2−付加構造の比率を前記の範囲とすることにより、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0171】
スチレン系エラストマーとして、前記のブロックP及びブロックQを有する共重合体を用いる場合、その化学構造は直鎖状、分岐状または放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましく、接着性の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
【0172】
さらに、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体は、水素添加誘導体(以下、水添ブロック共重合体と略記する場合がある)が更に好ましい。下記式(1)又は(2)で表される共重合体が水添ブロック共重合体であると、本発明の積層体の接着性が良好となる傾向にある。
【0173】
P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中Pは重合体ブロックPを、Qは重合体ブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
【0174】
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。本発明においてはm及びnが1〜5の整数で与えられるものが好ましく、より好ましくは2〜4である。
【0175】
ブロック共重合体または水添ブロック共重合体(以下、まとめて「(水添)ブロック共重合体」と記す)としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表される(水添)ブロック共重合体よりも式(1)で表される(水添)ブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表される(水添)ブロック共重合体が更に好ましい。
【0176】
本発明におけるスチレン系エラストマーの数平均分子量は限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定したポリスチレン換算の値として、20000以上であることが好ましく、より好ましくは40000以上、さらに好ましくは50000以上であり、300000以下であることが好ましく、より好ましくは200000以下、さらに好ましくは150000以下、特に好ましくは100000以下であることが好ましい。
【0177】
スチレン系エラストマーの数平均分子量が前記範囲内であれば、接着樹脂層(B2)及びポリオレフィン層(C)と接着性及び/又は親和性が良好となる傾向にある。
【0178】
本発明におけるスチレン系エラストマーの製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、リチウム触媒等を用いて不活性溶媒中でブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行う等の公知の方法を採用することができる。
【0179】
このような水添ブロック共重合体の市販品としては、例えば、クレイトンジャパン株式会社製「KRATON(登録商標)−G」、株式会社クラレ製「セプトン(登録商標)」および「ハイブラー(登録商標)」、並びに旭化成株式会社製「タフテック(登録商標)」等が挙げられる。
【0180】
また、非水添型のブロック共重合体の市販品としては、例えば、クレイトンジャパン株式会社製「KRATON(登録商標)−A」、株式会社クラレ製「ハイブラー(登録商標)」の一部グレード、および旭化成株式会社製「タフプレン(登録商標)」等が挙げられ
る。
【0181】
本発明では、本発明の効果を奏する範囲内において、接着樹脂層(B3)にゴム用軟化剤が含有されていてもよい。使用可能なゴム用軟化剤は限定されず、接着樹脂層(B3)の柔軟性を調節できるものであればよいが、中でも炭化水素系ゴム用軟化剤が好ましい。
【0182】
炭化水素系ゴム用軟化剤としては、スチレン系エラストマーへの親和性が高いことから、鉱物油系又は合成樹脂系の軟化剤が好ましく、鉱物油系軟化剤がより好ましい。
【0183】
[変性ポリオレフィン樹脂]
本発明における変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂と不飽和化合物とを反応させることによって得られる。
【0184】
変性ポリオレフィン樹脂の製造に用いられるポリオレフィン樹脂は、公知のポリオレフィン樹脂から選択され、具体的には、後述するポリオレフィン層(C)の原料として例示した樹脂を、同様に用いることができる。
【0185】
これらの中でも、ポリオレフィン系樹脂としてはプロピレン系樹脂であることが好ましい。ここでプロピレン系樹脂とはプロピレンを主体とするモノマーから得られる重合体を意味し、具体的にはプロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体またはプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体等が好ましい。それらの中でもプロピレン単独重合体が特に好ましい。
【0186】
なお、ポリオレフィン系樹脂は、上述の各種ポリオレフィン系樹脂の何れか1種を単独で用いても、複数種の混合物であってもよい。
【0187】
ポリオレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は限定されないが、成形性の点から0.01〜80g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.1〜40g/10分である。
【0188】
ここで、MFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレンまたは炭素数3以上のα−オレフィンを主成分(モル換算)とする場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレンを主成分(モル換算)とする場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0189】
本発明に用いる不飽和化合物は、ポリオレフィン樹脂と反応することができる不飽和化合物であれば限定されない。ここで「反応することができる」とは、不飽和化合物を構成する不飽和基によってポリオレフィン樹脂と反応する場合のみならず、該不飽和基を介さずにポリオレフィン樹脂と反応する場合をも包含する。
【0190】
具体的な反応性化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸又はその誘導体、およびエチレン性不飽和シラン化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも不飽和カルボン酸又はその誘導体が好ましい。
【0191】
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマール酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ナジック酸TM(エンドシス−ビシクロ〔2,2,1〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)等の不飽和カルボン酸、並びにそれらの酸ハロゲン化物、アミド、イミド、無水物およびエステルなどの誘導体が挙げられる。誘導体としては、酸無水物が好ましい。
【0192】
不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、具体的には、例えば、塩化マレニル、マレイミド、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチルおよびグリシジルマレエ−トなどが挙げられる。これらの中では、特にマレイン酸又はその無水物が好適である。
【0193】
本発明において、ポリオレフィン樹脂と不飽和化合物との反応は如何なる方法を用いてもよく、熱のみの反応でも得ることができるが、反応の際にラジカルを発生させる有機過酸化物等を反応助剤として添加してもよい。また、反応させる手法としては、例えば、溶媒中で反応させる溶液変性法または溶媒を使用しない溶融変性法等が挙げられるが、その他の方法を用いてもよい。
【0194】
溶融変性法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂と不飽和化合物、及び必要により有機過酸化物を予め混合した上で混練機中で溶融混練させ反応させる方法、および混練機中で溶融したポリオレフィン樹脂に、溶剤等に溶解した有機過酸化物と不飽和化合物との混合物を装入口から添加して反応させる方法等が挙げられる。
【0195】
混練機としては、特に限定されるものではなく、例えば、一軸又は二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーおよびブラベンダーミキサー等が使用できる。
【0196】
溶液変性法としては、例えば、ポリオレフィン樹脂を有機溶剤等に溶解して、これに有機過酸化物と不飽和化合物を添加してグラフト共重合させる方法が挙げられる。有機溶剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルキル基置換芳香族炭化水素およびハロゲン化炭化水素が挙げられる。
【0197】
ポリオレフィン樹脂と不飽和化合物との配合割合は限定されないが、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、不飽和化合物を好ましくは0.01〜30重量部、より好ましくは0.05〜5重量部、更に好ましくは0.1〜1重量部の割合で配合することが好ましい。
【0198】
ラジカルを発生させる反応助剤は限定されないが、具体的には、例えば、ベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエ−ト)ヘキシン−3、ラウロイルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエ−ト、tert−ブチルペルイソブチレ−ト、tert−ブチルペルピバレ−ト、及びクミルペルピバレ−ト等の有機ペルオキシドまたは有機ペルエステル、並びに、アゾビスイソブチロニトリルおよびジメチルアゾイソブチレ−ト等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0199】
これらの反応助剤は、ポリオレフィン樹脂の種類、不飽和化合物の種類および反応条件に応じて適宜選択することができ、2種以上を併用してもよい。反応助剤の配合量は、ポリオレフィン樹脂100重量部に対し、0.001〜3重量部であることが好ましく、より好ましくは0.005〜0.5重量部、さらに好ましくは0.01〜0.2重量部、特に好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【0200】
[ポリオレフィン樹脂]
本発明における接着樹脂層(B3)には、上記のスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂の他に、無変性のポリオレフィン樹脂を含有することも好ましい。ここで、接着樹脂層(B3)に含有する無変性のポリオレフィン樹脂としては、後述するポリオ
レフィン層(C)の原料として例示した樹脂を、同様に用いることができる。接着樹脂層(B3)中に無変性のポリオレフィン樹脂を併用することにより、溶融流動性のコントロールがしやすくなり、成形性が向上する傾向にある。
【0201】
なお、接着樹脂層(B3)に用いる無変性のポリオレフィン樹脂は、変性ポリオレフィン樹脂の原料として使用したポリオレフィン樹脂と同一であっても異なっていてもよいが、同種のポリオレフィン樹脂を用いると、ポリオレフィン層(C)との接着性が向上する場合がある。
【0202】
また、接着樹脂層(B3)に用いる無変性のポリオレフィン樹脂は、後述するポリオレフィン層(C)に用いるポリオレフィン樹脂と同一であっても異なっていてもよいが、同種のポリオレフィン樹脂を用いると、ポリオレフィン層(C)との接着性が向上する場合がある。
【0203】
[配合割合]
本発明におけるスチレン系エラストマーと変性ポリオレフィン樹脂との配合割合(重量比)は限定されないが、5/95〜80/20の範囲であることが好ましく、5/95〜60/40であることがより好ましい。
【0204】
変性ポリオレフィン樹脂の配合割合を前記下限値以上とすることにより、成形性を向上させることができる。また、変性ポリオレフィン樹脂の配合割合を前記上限値以下とすることにより、接着樹脂層(B2)に対する接着性を向上させることができる。
【0205】
接着樹脂層(B3)に無変性のポリオレフィン樹脂を含有する場合の含有量は限定されないが、接着樹脂層(B3)中に、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上、さらに好ましくは30重量%以上であり、90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは80重量%以下、さらに好ましくは重量70%以下である。
【0206】
本発明における接着樹脂層(B3)を構成するスチレン系エラストマー、変性ポリオレフィン樹脂、及び必要に応じて用いられる無変性のポリオレフィン樹脂の配合は、予めこれらを均一な樹脂組成物としておいてもよいし、後述する積層体を成形する際に、これらを適宜配合(ドライブレンド)して使用してもよい。
【0207】
本発明における接着樹脂層(B3)を予め均一な樹脂組成物としておく場合、その方法は限定されないが、例えば、ヘンシェルミキサー、V−ブレンダー、リボンブレンダーまたはタンブラーブレンダー等で混合する方法が挙げられる。また、例えば、このような方法で混合して得られた混合物を、さらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダーまたはバンバリーミキサー等で溶融混練した後、造粒する方法も挙げられる。また、例えば、ニーダーまたはロールを用いて混合する方法が挙げられる。
【0208】
これらの方法で樹脂組成物を製造する際の製造条件は限定されず、周知の条件で適宜設定することができる。溶融混合時の温度は、各原料成分の少なくとも一つが溶融状態となる温度であればよいが、通常は用いる全成分が溶融する温度が選択され、一般には150〜250℃で行うことが好ましい。
【0209】
本発明における接着樹脂層(B3)は、JIS K7210(1999年)の試験条件4に従って測定したメルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1〜100(g/10分)、より好ましくは0.5〜80(g/10分)、さらに好ましくは、1.0〜60(g/10分)の範囲のものが好ましい。
【0210】
ここで、MFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレンまたは炭素数3以上のα−オレフィンを主成分(モル換算)とする場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレンを主成分(モル換算)とする場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0211】
MFRを前記上限値以下とすることにより、積層体の成形性を向上させることができるとともに、積層体の機械的強度を向上させることができる。MFRを前記下限値以上とすることにより、流動性が良好となり、積層体の成形性を向上させることができる。
【0212】
本発明における接着樹脂層(B3)としては、上記に記載の通り、スチレン系エラストマー、変性ポリオレフィン樹脂及び、必要により含有する無変性のポリオレフィン樹脂を適宜配合して製造してもよいが、市販品を用いてもよい。市販品としては、三菱化学社製「ゼラス」等から接着樹脂層(B3)に該当するものを選択して使用することができる。
【0213】
<ポリオレフィン層(C)>
本発明におけるポリオレフィン層(C)は、少なくともポリオレフィン樹脂を含有する。ポリオレフィン層(C)に使用することができるポリオレフィン樹脂は限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン若しくは1−ブテン等のα−オレフィンの単独重合体、それらのα−オレフィン同士あるいはそれらのα−オレフィンと3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン若しくは1−デセン等の炭素数4〜20程度の他のα−オレフィン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステル等との共重合体等が挙げられる。
【0214】
ポリオレフィン樹脂として具体的には、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等(分岐状又は直鎖状)のエチレン単独重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物を含む)、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系樹脂;プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体およびプロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のプロピレン系樹脂;及び1−ブテン単独重合体、1−ブテン−エチレン共重合体および1−ブテン−プロピレン共重合体等の1−ブテン系樹脂;ノルボルネンの開環メタセシス重合体およびノルボルネン誘導体−エチレン共重合体等の所謂環状ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0215】
また、ポリオレフィン層(C)に用いるポリオレフィン樹脂としても、接着樹脂層(B3)に含有する変性ポリオレフィン樹脂と同様に、これらのポリオレフィン樹脂を無水マレイン酸、マレイン酸若しくはアクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその誘導体あるいは不飽和シラン化合物等で変性したものであってもよい。
【0216】
ここでエチレン系樹脂とは、原料モノマーとしてエチレンを主要成分とし、好ましくはエチレンを50モル%以上含有する重合体を意味する。また、プロピレン系樹脂とは、原料モノマーとしてプロピレンを主要成分とし、好ましくはプロピレンを50モル%以上含有する重合体を意味する。1−ブテン系樹脂についても同様である。
【0217】
これらのポリオレフィン樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0218】
ポリオレフィン層(C)に好適なポリオレフィン樹脂は、本発明の積層体の用途および要求特性に応じて異なるが、輸液バッグ用に用いる際はエチレン系樹脂又はプロピレン系樹脂が好ましい。
【0219】
エチレン系樹脂としては、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体がより好ましく、プロピレン系樹脂としては、プロピレンとエチレンまたは炭素数4〜8のα−オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0220】
また、ポリオレフィン樹脂として共重合体を用いる場合の連鎖形式は限定されず、ブロック共重合体、ランダム共重合体またはグラフト共重合体等の何れであってもよいが、ブロック共重合体又はランダム共重合体が好ましい。
【0221】
ポリオレフィン層(C)に使用するポリオレフィン樹脂は、メルトフローレート(MFR)が、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは0.3g/10分以上、更に好ましくは0.5g/10分以上であり、好ましくは50g/10分以下、より好ましくは30g/10分以下、更に好ましくは10g/10分以下であることが好ましい。
【0222】
ポリオレフィン樹脂のMFRを前記下限値以上とすることにより、流動性が高まり成形し易くなる。また、MFRを前記上限値以下とすることにより、流動性を抑え、成形しやすくなる。
【0223】
ここで、MFRは、ポリオレフィン系樹脂がエチレンまたは炭素数3以上のα−オレフィンを主成分(モル換算)とする場合は190℃、荷重2.16kgでの値を意味し、ポリオレフィン系樹脂がプロピレンを主成分(モル換算)とする場合は230℃、荷重2.16kgでの値を意味する。
【0224】
<積層体>
本発明の第1の態様に係る積層体は、少なくとも上述した軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)の各層を有する。また、本発明の第2の態様に係る積層体は、少なくとも上述した軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)及びポリオレフィン層(C)の各層を有する。さらに、本発明の第1の態様に係る積層体及び第2の態様に係る積層体は、いずれにおいてもこれらの層以外の層(以下、「他の層」という場合がある。)を任意に有していてもよい。
【0225】
本発明の第1の態様に係る積層体における層の構成は限定されないが、軟質塩化ビニル樹脂層(A)と接着樹脂層(B1)とが隣接していることが好ましく、また、接着樹脂層(B1)とポリオレフィン層(C)とが隣接していることが好ましい。特に、軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B1)、ポリオレフィン層(C)の順に隣接していることが好ましい。このような層構成とすることにより、軟質塩化ビニル樹脂層(A)とポリオレフィン層(C)それぞれが有する特長を兼備することができ、柔軟性、耐衝撃性、透明性および衛生性が良好な積層体とすることができる。
【0226】
また、本発明の第2の態様に係る積層体における層の構成は、軟質塩化ビニル樹脂層(A)と接着樹脂層(B2)とが隣接していることが好ましく、接着樹脂層(B2)と接着樹脂層(B3)とが隣接していることが好ましく、また、接着樹脂層(B3)とポリオレフィン層(C)とが隣接していることが好ましい。このような層構成とすることにより、軟質塩化ビニル樹脂層(A)とポリオレフィン層(C)それぞれが有する特長を兼備することができ、柔軟性、耐衝撃性、透明性および衛生性が良好な積層体とすることができる。
【0227】
本発明の第1の態様及び第2の態様に係るそれぞれの積層体はいずれにおいてもその形状は限定されず、フィルム、シートあるいは板状などの平面状、パイプ状、袋状または不
定形状などの何れであってもよい。
【0228】
本発明の積層体において、他の層を構成する材料は限定されないが、具体的には、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。これらの樹脂は、複数の樹脂を含有する樹脂組成物層としてもよい。
【0229】
他の層に用いるポリアミド樹脂は限定されないが、具体的には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/66、ナイロン66/610、ナイロン6/11、MXDナイロン、アモルファスナイロンまたはテレフタル酸/アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン共重合体などが好ましく用いられる。これらのポリアミド樹脂は1種のみで用いても複数種を併用してもよい。これらの中でも融点、剛性などが優れるナイロン6、ナイロン66またはナイロン6/66が好ましい。
【0230】
本発明の積層体の厚み(総厚み)は限定されず、層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等により任意に設定することができる。
無延伸の積層体の総厚みは、30〜500μmであることが好ましく、さらには40〜400μmであることがより好ましく、特には50〜300μmであることが好ましい。また、延伸積層体(延伸フィルム)の総厚みは、5〜400μmであることが好ましく、さらには10〜300μmであることがより好ましく、特には20〜200μmであることが好ましい。
【0231】
本発明の積層体の各層の厚みは限定されず、層構成、用途、最終製品の形状、要求される物性等により任意に設定することができる。
【0232】
本発明の第1の態様に係る積層体において軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みは、総厚みに対し好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、好ましくは94%以下、より好ましくは90%以下である。軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みが上記下限値以上の場合は、柔軟性が向上する傾向にあり、状記上限値以下の場合は、衛生性が向上する傾向にある。
【0233】
本発明の第1の態様に係る積層体において接着樹脂層(B1)の厚みは、総厚みに対し好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。接着樹脂層(B1)の厚みが前記下限値以上の場合は、接着性が向上する傾向にあり、前記上限値以下の場合は、フィルム強度が向上する傾向にあり、更にはコストも有利となる傾向にある。
【0234】
本発明の第一の態様に係る積層体においてポリオレフィン層(C)の厚みは、総厚みに対し好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは49%以下、より好ましくは20%以下である。ポリオレフィン層(C)の厚みが前記下限値以上の場合は、ヒートシール不良が発生しにくくなる傾向にあり、前記上限値以下である場合は、柔軟性が向上する傾向にある。
【0235】
本発明の第1の態様に係る積層体において軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みは、ポリオレフィン層(C)の厚みに対し好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上であり、好ましくは2800%以下、より好ましくは2000%以下である。軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みが上記下限値以上であると柔軟性が向上する傾向にあり、上記上限値以下であると、ヒートシール性が向上する傾向にある。
【0236】
本発明の第2の態様に係る積層体において軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みは、総厚みに対し好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上であり、好ましくは93%以下、より好ましくは90%以下である。軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みが前記下限値以上であると、柔軟性が向上する傾向にあり、前記上限値以下であると、衛生性が向上する傾向にある。
【0237】
本発明の第2の態様に係る積層体において接着樹脂層(B2)の厚みは、総厚みに対し好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。接着樹脂層(B2)の厚みが前記下限値以上であると、接着性が向上する傾向にあり、前記上限値以下であると、フィルム強度が向上する傾向にあり、更にはコスト面においても有利となる。
【0238】
本発明の第2の態様に係る積層体において接着樹脂層(B3)の厚みは、総厚みに対し好ましくは1%以上、より好ましくは5%以上であり、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。接着樹脂層(B3)の厚みが前記下限値以上であると、接着性が向上する傾向にあり、前記上限値以下であると、フィルム強度が向上する傾向にあり、更にはコスト面においても有利となる。
【0239】
本発明の第2の態様に係る積層体においてポリオレフィン層(C)の厚みは、総厚みに対し好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは48%以下、より好ましくは30%以下である。ポリオレフィン層(C)の厚みが前記下限値以上であると、ヒートシール不良が発生しにくくなる傾向にあり、前記上限値以下であると、柔軟性が向上する傾向にある。
【0240】
本発明の第2の態様に係る積層体において軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みは、ポリオレフィン層(C)の厚みに対し好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上であり、好ましくは2800%以下、より好ましくは2000%以下である。軟質塩化ビニル樹脂層(A)の厚みが前記下限値以上であると、柔軟性が向上する傾向にあり、前記上限値以下であると、ヒートシール性が向上する傾向にある。
【0241】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体を製造する方法としては、従来公知の種々の手法を採用することが出来る。例えば、押出機で溶融させた、個々の溶融樹脂を多層ダイスに供給し、ダイスの中で積層して成形する共押出法によって、インフレーションフィルム、T−ダイフィルム、シートまたはパイプなどとする方法や、溶融した個々の樹脂を同一金型内にタイムラグを付けてインジェクションする共インジェクション成形などが挙げられる。
また、各層のうちのいずれか1層を構成する樹脂フィルムを予め成形しておき、これに他の層を溶融押出する押出ラミネート成形も採用することができる。更には、予め各層を構成する樹脂フィルムを成形しておき、これら各層に熱をかけてラミネートすることで積層体とすることも可能である。
【0242】
また、本発明の積層体は、上記のような成形にて積層体を得た後、これを延伸することで延伸積層体とすることもできる。延伸積層体は、熱固定を行ってもよいし、熱固定をせずに製品としてもよい。熱固定を行わない場合は、その後に延伸積層体を加熱することによって応力が開放され、収縮する性質をもつためシュリンクフィルムとして用いることができる。
更には、これらを真空成形、圧空成形等の二次加工を経て、絞り成形容器等とすることもできる。
【0243】
<成形体>
本発明の積層体から得られる成形体の形状及び用途は限定されないが、柔軟性、衛生性、透明性および耐衝撃性が良好であるので、医療用容器、食品包装材料または医薬品包装材料として好適であり、特に輸液バッグに好適である。
輸液バッグは、通常、輸液バッグの本体、薬液を注入するためのポート、薬液を取り出すためのゴム栓を含むキャップ等で構成されるが、本発明の積層体は、輸液バックの本体として好適に使用することができる。
本発明の積層体にて輸液バッグを成形する方法は限定されないが、前記の共押出法によってチューブ状(円筒状)のインフレーションフィルムとし、端部を融着する方法等を好ましく採用することができる。
【0244】
本発明の積層体を輸液バッグに用いる場合、衛生性が良好であるポリオレフィン層(C)を内側、すなわち輸液と接する側とし、柔軟性が良好である軟質塩化ビニル樹脂層(A)を外側とする構成として用いることが好ましい。
本発明の積層体から得られる成形体として、輸液バッグ以外の好ましい用途としては、えば、食品または電子部品などの包装材料が挙げられる。
【実施例】
【0245】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限または下限の値と、下記実施例の値または実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0246】
・本発明の第一の態様に係る積層体の評価
<軟質塩化ビニル樹脂層(A)>
(α−1)三菱化学社製「1170M55」:軟質塩化ビニル樹脂。
【0247】
<接着樹脂層(B1)>
[脂環式ポリエステル]
(a−1)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールの重合体をハードセグメントとし、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量:2000)をソフトセグメントとするポリエーテルエステルブロック共重合体。ポリテトラメチレンエーテルグリコールの含有量15重量%。230℃、2.16kg荷重(kgf)で測定したメルトフローレート30g/10min。融点197℃。
【0248】
[芳香族ポリエステル](比較例用)
(a−2)ポリブチレンテレフタレートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとのブロック共重合体。ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量:2000)の含有量77重量%。
【0249】
[スチレン系エラストマー]
(b−1)クレイトンジャパン社製「KRATON(登録商標)−G1645MO」:スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:13重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:64000。
【0250】
(b−2)クラレ社製「H7125F」:スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:20重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:82000。
【0251】
(b−3)クレイトンジャパン社製「KRATON(登録商標)−G1641H」(比較例用):スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:33重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:200000。
【0252】
(b−4)クラレ社製「H7135」(比較例用):スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:30重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:210000。
【0253】
(b−5)クレイトンジャパン社製「KRATON(登録商標)−G1651」(比較例用):スチレン−ブタジエン−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:33重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:200000。
【0254】
(b−6)クレイトンジャパン社製「KRATON(登録商標)−A1535HU」(比較例用):スチレン−(ブタジエン−スチレン)−スチレン水添ブロック共重合体。前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:18重量%(13C−NMR測定値)、数平均分子量:200000。
【0255】
<ポリオレフィン層(C)>
(γ−1)三菱化学社製「ゼラス(登録商標)7025」:プロピレン−エチレンブロック共重合体、MFR(230℃、2.16kg)1.6g/10分)
【0256】
(実施例1−1)
予め、脂環式ポリエステル系重合体(a−1)とスチレン系エラストマー(b−1)とを、表−1に示す配合割合(重量部)に基づき、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX−30αII」、シリンダー口径30mm)によって、設定温度200℃で溶融混練して接着樹脂層(B1)に用いる樹脂組成物のペレットを得た。以下、得られた樹脂組成物のペレットを「β−1」と表記する。
【0257】
[対PVC接着性]及び[対PP接着性]評価
上記の軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)用の材料を用い、GSIクレオス社製、Tダイ成形機にてそれぞれ厚み100μの単層フィルムを得た。成形温度は190℃、成形速度は5m/分に設定した。
上記で得られた接着樹脂層(B1)の単層フィルムと、軟質塩化ビニル樹脂層(A)もしくはポリオレフィン樹脂層(C)の単層フィルムとを重ね、210℃ 2kg/cmの条件でヒートシールを行った。
【0258】
得られた積層フィルムのサンプルを15mm幅に切り出し、23℃雰囲気下、速度100mm/minにて180°剥離試験を行った。
【0259】
接着樹脂層(B1)と軟質塩化ビニル樹脂層(A)との積層フィルムの評価結果を「対PVC接着性」とし、接着樹脂層(B1)とポリオレフィン樹脂層(C)との積層フィルムの評価結果を「対PP接着性」とした。結果を表−1に示す。
【0260】
[日本薬局方容器試験]
上記で得られた接着樹脂層(B1)の単層フィルムを用い、第十六改正・日本薬局方の「7.02プラスチック医薬品容器試験法」のうち、「1.2溶出物試験」の項目の評価を行った。全ての基準を合格したものを「〇」とし、1つでも不合格の項目がある場合を
「×」とした。評価結果を表−1に示す。
【0261】
[ヘーズ]
上記の接着性の評価において用いた軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)用の厚み100μの単層フィルムを用い、それぞれについて、日本電色工業社製ヘーズメーター(製品名:NDH2000)によりISO 14782(1999)に準拠してヘーズを測定した。得られた結果を表−2に示す。なお、ヘーズの値が小さいほど透明性に優れるものと評価され、特に、接着樹脂層として用いられる単層フィルムのヘーズが30以下であるものが好ましい。
【0262】
(実施例1−2、比較例1−1〜1−6)
使用する原料を表−1の通りとした以外は実施例1−1と同様にして樹脂組成物(B1)に用いる樹脂組成物のペレットを製造した。
比較例1−5及び1−6は、接着樹脂層(B1)としてa−1又はa−2をそのまま使用した。
【0263】
更に実施例1−1と同様にして積層体を製造し、「対PVC接着性」、「対PP接着性」及び「日本薬局方容器試験」の評価を行った。結果を表−1に示す。
【0264】
【表1】

【0265】
【表2】

【0266】
〔結果の評価1〕
表−1に示す通り、実施例1−1及び1−2においては、各層間の接着性が良好であり、さらに日本薬局方容器試験においても合格であった。従って、積層体として十分な物理的特性を有するとともに、医療用容器として好適に使用することができることが確認された。
【0267】
さらに、表−2に示す通り、実施例1−1においてはいずれの層においても良好な透明性を示した。通常、複数の樹脂を組み合わせて使用した樹脂組成物においては透明性が悪化するものであるが、本発明における接着樹脂層(B1)に該当する(β―1)を用いた単層フィルムは良好な透明性を示した。
【0268】
比較例1−6については、「日本薬局方容器試験」において、過マンガン酸カリウム消費量の試験、及び紫外線吸収スペクトルの試験において基準を満足せず、「×」となった。
【0269】
・本発明の第2の態様に係る積層体の評価
<軟質塩化ビニル樹脂層(A)>
(A−1)三菱化学社製「1170M55」:軟質塩化ビニル樹脂。
【0270】
<接着樹脂層(B2)>
(B−1)脂環式ポリエステル
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,4−シクロヘキサンジメタノールの重合体をハードセグメントとし、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量:2000)をソフトセグメントとするポリエーテルエステルブロック共重合体。ポリテトラメチレンエーテルグリコールの含有量15重量%。230℃、2.16kg荷重(kgf)で測定したメルトフローレート30g/10min。融点197℃。
【0271】
<接着樹脂層(B3)>
(C−1)三菱化学社製「ゼラス(登録商標)MC748AP」:スチレン系エラストマー及び無水マレイン変性ポリプロピレンを含有する樹脂組成物。MFR(230℃、2.16kg)2.0g/10分)
(C−2)三菱化学社製「モディック(登録商標)F512」:ポリオレフィン系接着性樹脂(変性ポリオレフィン樹脂)。MFR(190℃、2.16kg)1.5g/10分)(比較例用)
【0272】
<ポリオレフィン層(C)>
(D−1)三菱化学社製「ゼラス(登録商標)7025」:プロピレン−エチレンブロック共重合体、MFR(230℃、2.16kg)1.6g/10分)
【0273】
(実施例2−1)
[接着性評価]
上記の軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)及びポリオレフィン層(C)用の材料を用い、GSIクレオス社製、Tダイ成形機にてそれぞれ厚み100μの単層フィルムを得た。成形温度は190℃、成形速度は5m/分に設定した。
【0274】
これらの単層フィルムを用いて以下の方法によって各層間の接着力を測定することにより、積層体とした際の各層間の接着力を模式的に評価した。すなわち、軟質塩化ビニル樹脂層(A)の単層フィルムと接着樹脂層(B2)の単層フィルム、接着樹脂層(B2)の単層フィルムと接着樹脂層(B3)の単層フィルム、接着樹脂層(B3)の単層フィルムとポリオレフィン層(C)の単層フィルム、の何れか1対の単層フィルム同士を重ね、210℃、2kg/cmの条件でヒートシールを行った。
【0275】
得られた積層フィルムのサンプルを15mm幅に切り出し、23℃雰囲気下、速度100mm/minにて180°剥離試験を行った。結果を表−2に示す。
【0276】
[日本薬局方容器試験]
上記で得られた接着樹脂層(B2)又は接着樹脂層(B3)の単層フィルムを用い、第十六改正・日本薬局方の「7.02プラスチック医薬品容器試験法」のうち、「1.2溶出物試験」の項目の評価を行った。全ての基準を合格したものを「〇」とし、1つでも不合格の項目がある場合を「×」とした。評価結果を表−2に示す。
【0277】
[ヘーズ]
上記の接着性の評価において用いた軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)及びポリオレフィン層(C)用の厚み100μの単層フィルムを用い、それぞれについて、日本電色工業社製ヘーズメーター(製品名:NDH2000)によりISO 14782(1999)に準拠してヘーズを測定した。得られた結果を表−4に示す。なお、ヘーズの値が小さいほど透明性に優れるものと評価され、特に、接着樹脂層として用いられる単層フィルムのヘーズが30以下であるものが好ましい。
【0278】
(比較例2−1〜2−4)
層構成を表−2の通りとした以外は実施例2−1と同様にして各層間の接着性の評価を行った。更に実施例2−1と同様にして接着樹脂層(B2)又は接着樹脂層(B3)に相当する樹脂について「日本薬局方容器試験」の評価を行った。結果を表−3に示す。
【0279】
【表3】

【0280】
【表4】

【0281】
〔結果の評価2〕
表−3に示す通り、実施例2−1においては、各層間の接着性が良好であり、さらに日本薬局方容器試験においても合格であった。従って、積層体として十分な物理的特性を有するとともに、医療用容器として問題無く使用することができることが確認された。
【0282】
さらに、表−4に示す通り、実施例2−1においてはいずれの層においても良好な透明性を示した。通常、複数の樹脂を組み合わせて使用した樹脂組成物においては透明性が悪化するものであるが、本発明における接着樹脂層(B3)に該当する(C―1)を用いた単層フィルムは良好な透明性を示した。
【0283】
一方、比較例2−1〜2−3においては、層間の接着性が不良であるため、積層体としての物理的特性を満足することが出来なかった。比較例2−4については、「日本薬局方容器試験」において、過マンガン酸カリウム消費量の試験、及び紫外線吸収スペクトルの試験において基準を満足せず、「×」となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質塩化ビニル樹脂層(A)、脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含有する接着樹脂層(B1)及びポリオレフィン層(C)を有し、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記接着樹脂層(B1)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記接着樹脂層(B1)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記接着樹脂層(B1)において、前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQからなり、重合体ブロックPが5〜55重量%を占めるブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である請求項1〜3の何れか1項に記載の積層体。
【請求項5】
軟質塩化ビニル樹脂層(A)、接着樹脂層(B2)、接着樹脂層(B3)、及びポリオレフィン層(C)をこの順で有する積層体であって、接着樹脂層(B2)が脂環式ポリエステルを含有し、接着樹脂層(B3)がスチレン系エラストマー及び変性ポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする積層体。
【請求項6】
前記接着樹脂層(B2)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記接着樹脂層(B2)において、前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する請求項5又は6に記載の積層体。
【請求項8】
前記ポリオレフィン層(C)がエチレン系樹脂及び/またはプロピレン系樹脂である請求項1〜7の何れか1項に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の積層体からなる医療用容器。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載の積層体を構成物として含む輸液バッグ。
【請求項11】
脂環式ポリエステル及びスチレン系エラストマーを含み、該脂環式ポリエステルの融点が130〜200℃であり、かつ該スチレン系エラストマーの数平均分子量が190000以下であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項12】
前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を有する請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記脂環式ポリエステルが、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸由来の単位及び1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の単位を主な構成単位とするセグメントと、ポリアルキレンエーテルポリオールセグメントとを有する請求項11又は12に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記スチレン系エラストマーが、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックPと、ブタジエン及び/またはイソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックQからなり、重合体ブロックPが5〜55重量%を占めるブロック共重合体及び/または該ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体である請求項11〜13の何れか1項に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−14127(P2013−14127A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−92110(P2012−92110)
【出願日】平成24年4月13日(2012.4.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】