積層型固体電解コンデンサおよびコンデンサモジュール
【課題】積層型固体電解コンデンサにおいて、高周波特性に優れ且つESR、ESL特性を向上させた積層型固体電解コンデンサを提供する。
【解決手段】表面に誘電体酸化皮膜層を有する平板上の弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を、陽極部が陰極部を中心に対向するように複数枚積層し、各電極部を陽極リードフレーム及び陰極リードフレームにそれぞれ接続した積層型固体電解コンデンサにおいて、
単板コンデンサ素子をその横寸法(w)が縦寸法(l)より長い形状のものを選定したことを特徴とする。
【解決手段】表面に誘電体酸化皮膜層を有する平板上の弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を、陽極部が陰極部を中心に対向するように複数枚積層し、各電極部を陽極リードフレーム及び陰極リードフレームにそれぞれ接続した積層型固体電解コンデンサにおいて、
単板コンデンサ素子をその横寸法(w)が縦寸法(l)より長い形状のものを選定したことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構成の固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解コンデンサとしては、アルミニウム、タンタルなどの弁作用金属を陽極とし、その陽極上に形成した酸化皮膜層を誘電体とし、その上に固体電解質層を形成して陰極を構成したものが多く使われている。固体電解質としては二酸化マンガン、TCNQ錯体、導電性高分子などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、電子機器の小型・高周波化が進み、コンデンサに対しても高周波領域での低ESR、ESL化が要求されるようになり、高導電率の導電性高分子を固体電解質に用いた固体電解コンデンサが商品化されている。この固体電解コンデンサは、二酸化マンガンを用いた固体電解コンデンサに比べてESRが低いという特徴があるため、広く利用されており、また、さまざまな改良がなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この低ESR化を図るためには、平板状のコンデンサ素子を積層構造とし、その積層枚数を増やす方法が有効であるが(例えば特許文献2参照)、ESRの改善効果は見込めても、低ESL化への寄与が十分ではない。
【0005】
一般に、上記の積層型固体電解コンデンサは、弁作用金属箔表面をエッチングし、多孔質体を形成した後、その表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成した陽極素子と、酸化皮膜層上に形成された固体電解質層、カーボン層、銀層からなる陰極部とで構成された単板コンデンサ素子を、導電性接着剤を介して複数枚積層して構成されるため、低背化・低ESR化が期待できるものである。
【0006】
また、本件出願人は、積層型固体電解コンデンサの積層構造として、単板コンデンサ素子を陽極部が陰極部を中心として対向するように交互に積層する新規な構成のコンデンサを開発し、陽極部および陰極部を複数に分岐して引き出すことによって磁界の打ち消し合い効果をもたらし、ESLを下げる構造(以下多端子構造)を提案した(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2969692号公報
【特許文献2】特開2003−45753号公報
【特許文献3】特願2005−308846
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記開発成果を更に発展させ、高周波領域でのESR・ESL特性の更なる向上を図ったもので、特に高周波特性においてより優れた積層型固体電解コンデンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板上の弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を複数枚積層した固体電解コンデンサにおいて、
前記単板コンデンサ素子の横寸法(w)(陽極部と陰極部が形成される方向に沿った長さ)をその縦寸法(l)より長く選定し、このように選定した単板コンデンサ素子を陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層することを特徴とする積層型固体電解コンデンサである。
【0009】
また、中央の陰極部を陰極端子部材に接合するとともに、陰極部の両側に配置された各陽極部を、両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合し、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続することによって、その電気特性を改善した積層型固体電解コンデンサである。
【0010】
さらに、本発明は、陽極端子部材と陰極端子部材との間に、セラミックコンデンサ(MLCC)を複数個接続・実装することによって高周波領域における電気特性を更に改善したコンデンサモジュールを提供する。
【0011】
以上の手段により、多端子積層型固体電解コンデンサの低ESR化、低ESL化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多端子積層型固体電解コンデンサでは、単板コンデンサ素子の形状を、縦寸法が短い横長(w>l)に選定したため、電流の流れる経路(断面積)が実質的に広くなり、低ESR化を図ることができる。
【0013】
このように、単板コンデンサ素子の縦と横の寸法比を従来と逆の発想としたことにより、陽極を互い違いに対向させて積層するという新しい着想の構造による効果がより有効に助長される。即ち、対向配置された複数の陽極部間同士の距離が短くなり、磁界の発生をさらに抑制できるため、顕著なESL低減効果が達成できる。
【0014】
さらに、高周波特性に優れたMLCCを組み合わせ、モジュール化したことにより、高周波特性も有効に改善したコンデンサモジュールが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1、図2、図3は、本発明の積層型固体電解コンデンサの積層される前の単板コンデンサ素子の基本構成を説明する図で、図1は1個の単板コンデンサ素子Cの平面図、図2はその外観斜視図、図3はその詳細構成を示す断面図である。
図3において、1はアルミニウム・タンタルなどの弁作用金属からなる陽極素子、2はその弁金属の酸化皮膜層で誘電体を構成する層である。3はこの酸化皮膜層の表面に形成された陰極部を構成する固体電解質層で、例えばポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)などの導電性高分子を含む電解質を化学重合もしくは電解重合によって形成した層である。4および5は陰極引出し層で、4はカーボン層、5は銀層である。
6は弁金属板の陽極部を構成する層で、この陽極部6と陰極部3・4・5(これら全体をRで示す)との間は、絶縁性マスキング部材7によって完全に絶縁隔離され、1個の単板コンデンサ素子Cを構成する。
【0016】
本発明では、図1、2に示すように、単板コンデンサ素子Cにおいて、陽極部6、マスキング層7、カーボン層4、銀層5が順次形成される方向の長さを縦寸法(l)とし、これと直角方向の長さを横寸法(w)としたとき、図1、2の例は、(w)=15mm、(l)=10mmとした例である。
【0017】
次に、本発明の実施例、および比較例について説明する。
(実施例1)
以下に、アルミニウム薄板を弁金属とした場合の実施例に適用する積層型固体電解コンデンサの作製方法の例を示す。
表面を電気化学的に粗面化した厚さ0.1mmの長尺のアルミニウム箔を、アジピン酸アンモニウム水溶液中で10Vの電圧を印加して約60分間陽極酸化を行い、表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成する。このようにして酸化皮膜層が形成されたアルミニウム箔を、幅(w)15mm、長さ(l)10mmの寸法に裁断し、図3に示すように、適切な位置に絶縁性樹脂などのマスキング部材7を巻きつけるように塗布して、左右の領域(陽極部と陰極部)を区分する。
その後、前記裁断によって弁金属が露出した端面部を、再度アジピン酸アンモニウム水溶液中で7Vの電圧を印加して約30分間陽極酸化処理を行い、裁断面にも酸化皮膜層を形成する。その後、マスキング部分7より右側部分(図3のR部分)に、固体電解質層3、カーボン層4、銀層5を順次設けて陰極部を形成する。
【0018】
次に、この単板コンデンサ素子Cを積層して構成した積層体の構造を示す。
図4は、前記の方法で作製された4枚の単板コンデンサ素子C1、C2、C3、C4を積層した実施例1の積層コンデンサの基本構成を示したもので、陽極部が陰極部を中心に対向するように(6、6’で示す)交互に積層し、陰極部R同士は導電性接着剤により電気的に接続する。図中の符号は図3のものと同じ部材を示す。尚、以下の実施例では、陽極、陰極を外部回路へ接続するための端子部材をリードフレームと称して説明する。図中の点線13は実施例3(図9)の場合の参考図として示したもので、実施例1ではない。
【0019】
図5は、積層型固体電解コンデンサの完成品の側断面図で、両側の陽極部6、6’同士と陽極リードフレーム8、8’とを抵抗溶接等の方法で接合し、中央の陰極部R同士と陰極リードフレーム9とを導電性接着剤を介して接合する。
尚、各層の陽極部は積層したとき単板素子1枚分の厚みだけ離間することになるが、前記リードフレームと接合する際、一緒に抵抗溶接されるため、上下の陽極部は図のように若干曲げられて完全に導通接合される。これら積層体は、各リードフレームの外部回路との接続面だけを除いて全体を樹脂10でモールドして外装する。完成品の定格電圧は2.5V、定格容量は2200μFである。
【0020】
(実施例2)
図6は、単板コンデンサ素子の形状が横長(w>l)で、また複数の陽極リードフレーム8、8’同士(図では上下)を、陰極部Rの両側領域(図の左右域)で左右の連結部材11、11’によって2箇所で電気的に接続した多端子積層型固体電解コンデンサの実施例である。12は陰極リードフレーム9の電位取り出し用延長部で、陽極リードフレーム8、8’はこの延長部12と接触しないよう略中央で分離されており、この切り離された陽極フレーム間を延長部12が通過するようになる。14はこの延長部12とその上に配置される単板コンデンサ素子の陽極部6、6’との短絡を防ぐために両者間の接触面に塗布された絶縁性樹脂膜である。但し、説明のため、外装モールド樹脂は図示を省略した。
【0021】
図7は、上記実施例のリードフレーム部の配置構造を示す斜視図で、積層体の最下面に陽極リードフレーム8、8’および陰極リードフレーム9を配置し、これらの下面は略面一になるようにそれぞれの陰極、陽極に接合される。
尚、この図7は積層した段階の図で、上下の各陽極同士が抵抗溶接などによって相互に接合される前の状態を示す。また図の符号は図6と同じ部分を示す。
図8は、上記実施例における陰極リードフレームおよび陽極リードフレームの形状を示す平面図で、図中の符号は各実施例と共通である。
【0022】
(実施例3)
図9は、実施例2と同様の積層型固体電解コンデンサにおいて、陽極リードフレーム同士を接続している連結部材11、11’と陰極リードフレーム9との間に、セラミックコンデンサ13、13’を接続した複合コンデンサの構成を示す図で、各セラミックコンデンサの端子は陽極リードフレームと陰極リードフレームにそれぞれ接続される。
この例は、定格電圧6.3V、定格容量1μFのチップ形積層セラミックコンデンサ(MLCC)を4個ずつ陰極フレームの左右にそれぞれ接続し、合計で8個のセラミックコンデンサを内蔵させた複合型積層コンデンサモジュールの例である。
【0023】
(変形例)
図10は、図9の変形例となる複合コンデンサモジュールの例で、陽極リードフレーム8の端部から直角方向に延長部材11’’を張り出させ、この延長部材11’’と陰極リードフレーム9との間にセラミックコンデンサ(MLCC)13を4個並列に接続した例である。図の例は、コンデンサ素子板が1枚の場合の例で、複数枚積層した場合でもリードフレーム部は同じ構成とすることができる。尚、図では陽極リードフレームに延長部材を設けたが、陰極リードフレームに延長部材を設けて陽極リードフレーム側へ突出させてもよく、又両リードフレームから延長部材を突出させて、この間にMLCCを接続しても効果は同じである。何れの場合であっても、陰極、陽極リードフレーム間にMLCCを接続・実装した状態で全体をモールドして、1個のコンデンサモジュールの完成品とする。尚、これら延長部材、連結部材は、リードフレームとは別材質の導電性部材で構成してもよいことは当然である。
【0024】
(比較例)
図11は、前記本発明実施例との電気特性の比較のために作製した比較例で、単板コンデンサ素子の形状が幅10mm、長さ15mmの縦長形状(w<l)のものを用い、これを前記実施例のように、陽極部6、6’を交互に対向配置して積層し、陽極リードフレームを相互に連結することなくそれぞれ独立構造とした以外は、実施例1と同様の製造方法で作製した。
【0025】
表1は上記実施例1〜3と前記比較例の電気特性の比較表で、それぞれの例について、ESR(mΩ)、ESL(pH)を実測した結果を示す。なお、ESRは100kHz、ESLは100MHzで測定した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、上記実施例1〜3の積層型固体電解コンデンサのESR、ESL値は、比較例の積層型固体電解コンデンサと較べて大きく低減した。即ち、本発明により、同じ定格電圧容量でより低いESR、ESLを備えた積層型固体電解コンデンサを提供できることが実証された。
【0028】
このように、実施例1〜3においてESRを低減できたのは、単板コンデンサ素子の形状を横長(w>l)にしたことで、電流の流れる経路(断面積)を実質的に広くなし得たことによるもので、また、ESLを低減できたのは、コンデンサ素子の形状を横長形状(w>l)としたことで、対向する陽極リードフレーム同士の距離が短くなり、磁界の発生が大幅に抑制されたためと考えられる。
【0029】
また、実施例3において、特にESLを顕著に低減できたのは、高周波特性に優れるMLCCを積層コンデンサ素子と共通の陽極リードフレーム、陰極リードフレームに並列に実装したことによる効果である。
【0030】
さらに、本実施例では、外部回路へ接続する端子部材としてリードフレームを用いたが、外部端子となる貫通孔や導電層を設けた絶縁基板を用いてもよい。
【0031】
また、実施例では、固体電解質として導電性高分子を用いたが、二酸化マンガンを用いても同じ効果が得られる。
【0032】
なお、上記実施例では、弁作用金属としてアルミニウムの場合について説明したが、タンタルやニオブ箔、またはその焼結体を用いても同じ効果が得られる。
【0033】
なお、実施例では、いずれも4枚の単板コンデンサ素子の積層例について説明したが、積層枚数を変更しても同じ効果が得られ、また実施例は3端子構造のものについて説明したが、端子数を増やしても同様の効果が得られることは当然である。
【0034】
また、実施例では、定格電圧6.3V、定格容量1μFのMLCCを8個用いたが、これに限るものではなく、定格、個数、実装位置等を変更しても同じ効果が得られる。
【0035】
さらに、実施例では、両側の陽極リードフレーム間を電気的に接続するための連結部材を、陰極部の両側域に2個設けた例について説明したが、一方側だけで連結してもよく、この場合は、セラミックコンデンサも片側域だけに実装することになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に使用する単板コンデンサ素子の形状を示す平面図
【図2】図1の単板コンデンサ素子の斜視図
【図3】本発明に使用する単板コンデンサ素子の拡大断面図
【図4】図1の単板コンデンサ素子を4枚積層した実施例1の概略構成を示す斜視図
【図5】実施例1の完成品の側断面図
【図6】実施例2の積層型固体電解コンデンサの上面から見た透視図
【図7】図6の積層体の概略構成を示す斜視図
【図8】各実施のリードフレームの形状を示す平面図
【図9】実施例3の複合コンデンサモジュールの上面から見た透視図
【図10】MLCCを4個接続・実装したコンデンサモジュールの変形例を示す平面透視図
【図11】比較例の積層型固体電解コンデンサの上面から見た透視図
【符号の説明】
【0037】
C1、C2、C3、C4、単板コンデンサ素子
1 弁作用金属薄板
2 酸化皮膜層
3 固体電解質層
4 カーボン層
5 銀層
6、6’ コンデンサ素子の陽極部
7 マスキング層
8、8’ 陽極リードフレーム
9 陰極リードフレーム
10 樹脂モールド
11、11’ 陽極リードフレームの連結部材
11’’ 陽極リードフレームの延長部材
12 陰極リードフレームの電位取り出し用延長部
13 セラミックコンデンサ
14 絶縁性樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な構成の固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体電解コンデンサとしては、アルミニウム、タンタルなどの弁作用金属を陽極とし、その陽極上に形成した酸化皮膜層を誘電体とし、その上に固体電解質層を形成して陰極を構成したものが多く使われている。固体電解質としては二酸化マンガン、TCNQ錯体、導電性高分子などが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、電子機器の小型・高周波化が進み、コンデンサに対しても高周波領域での低ESR、ESL化が要求されるようになり、高導電率の導電性高分子を固体電解質に用いた固体電解コンデンサが商品化されている。この固体電解コンデンサは、二酸化マンガンを用いた固体電解コンデンサに比べてESRが低いという特徴があるため、広く利用されており、また、さまざまな改良がなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
この低ESR化を図るためには、平板状のコンデンサ素子を積層構造とし、その積層枚数を増やす方法が有効であるが(例えば特許文献2参照)、ESRの改善効果は見込めても、低ESL化への寄与が十分ではない。
【0005】
一般に、上記の積層型固体電解コンデンサは、弁作用金属箔表面をエッチングし、多孔質体を形成した後、その表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成した陽極素子と、酸化皮膜層上に形成された固体電解質層、カーボン層、銀層からなる陰極部とで構成された単板コンデンサ素子を、導電性接着剤を介して複数枚積層して構成されるため、低背化・低ESR化が期待できるものである。
【0006】
また、本件出願人は、積層型固体電解コンデンサの積層構造として、単板コンデンサ素子を陽極部が陰極部を中心として対向するように交互に積層する新規な構成のコンデンサを開発し、陽極部および陰極部を複数に分岐して引き出すことによって磁界の打ち消し合い効果をもたらし、ESLを下げる構造(以下多端子構造)を提案した(特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2969692号公報
【特許文献2】特開2003−45753号公報
【特許文献3】特願2005−308846
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記開発成果を更に発展させ、高周波領域でのESR・ESL特性の更なる向上を図ったもので、特に高周波特性においてより優れた積層型固体電解コンデンサを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板上の弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を複数枚積層した固体電解コンデンサにおいて、
前記単板コンデンサ素子の横寸法(w)(陽極部と陰極部が形成される方向に沿った長さ)をその縦寸法(l)より長く選定し、このように選定した単板コンデンサ素子を陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層することを特徴とする積層型固体電解コンデンサである。
【0009】
また、中央の陰極部を陰極端子部材に接合するとともに、陰極部の両側に配置された各陽極部を、両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合し、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続することによって、その電気特性を改善した積層型固体電解コンデンサである。
【0010】
さらに、本発明は、陽極端子部材と陰極端子部材との間に、セラミックコンデンサ(MLCC)を複数個接続・実装することによって高周波領域における電気特性を更に改善したコンデンサモジュールを提供する。
【0011】
以上の手段により、多端子積層型固体電解コンデンサの低ESR化、低ESL化を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多端子積層型固体電解コンデンサでは、単板コンデンサ素子の形状を、縦寸法が短い横長(w>l)に選定したため、電流の流れる経路(断面積)が実質的に広くなり、低ESR化を図ることができる。
【0013】
このように、単板コンデンサ素子の縦と横の寸法比を従来と逆の発想としたことにより、陽極を互い違いに対向させて積層するという新しい着想の構造による効果がより有効に助長される。即ち、対向配置された複数の陽極部間同士の距離が短くなり、磁界の発生をさらに抑制できるため、顕著なESL低減効果が達成できる。
【0014】
さらに、高周波特性に優れたMLCCを組み合わせ、モジュール化したことにより、高周波特性も有効に改善したコンデンサモジュールが提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1、図2、図3は、本発明の積層型固体電解コンデンサの積層される前の単板コンデンサ素子の基本構成を説明する図で、図1は1個の単板コンデンサ素子Cの平面図、図2はその外観斜視図、図3はその詳細構成を示す断面図である。
図3において、1はアルミニウム・タンタルなどの弁作用金属からなる陽極素子、2はその弁金属の酸化皮膜層で誘電体を構成する層である。3はこの酸化皮膜層の表面に形成された陰極部を構成する固体電解質層で、例えばポリエチレンジオキシチオフェン(PEDT)などの導電性高分子を含む電解質を化学重合もしくは電解重合によって形成した層である。4および5は陰極引出し層で、4はカーボン層、5は銀層である。
6は弁金属板の陽極部を構成する層で、この陽極部6と陰極部3・4・5(これら全体をRで示す)との間は、絶縁性マスキング部材7によって完全に絶縁隔離され、1個の単板コンデンサ素子Cを構成する。
【0016】
本発明では、図1、2に示すように、単板コンデンサ素子Cにおいて、陽極部6、マスキング層7、カーボン層4、銀層5が順次形成される方向の長さを縦寸法(l)とし、これと直角方向の長さを横寸法(w)としたとき、図1、2の例は、(w)=15mm、(l)=10mmとした例である。
【0017】
次に、本発明の実施例、および比較例について説明する。
(実施例1)
以下に、アルミニウム薄板を弁金属とした場合の実施例に適用する積層型固体電解コンデンサの作製方法の例を示す。
表面を電気化学的に粗面化した厚さ0.1mmの長尺のアルミニウム箔を、アジピン酸アンモニウム水溶液中で10Vの電圧を印加して約60分間陽極酸化を行い、表面に誘電体となる酸化皮膜層を形成する。このようにして酸化皮膜層が形成されたアルミニウム箔を、幅(w)15mm、長さ(l)10mmの寸法に裁断し、図3に示すように、適切な位置に絶縁性樹脂などのマスキング部材7を巻きつけるように塗布して、左右の領域(陽極部と陰極部)を区分する。
その後、前記裁断によって弁金属が露出した端面部を、再度アジピン酸アンモニウム水溶液中で7Vの電圧を印加して約30分間陽極酸化処理を行い、裁断面にも酸化皮膜層を形成する。その後、マスキング部分7より右側部分(図3のR部分)に、固体電解質層3、カーボン層4、銀層5を順次設けて陰極部を形成する。
【0018】
次に、この単板コンデンサ素子Cを積層して構成した積層体の構造を示す。
図4は、前記の方法で作製された4枚の単板コンデンサ素子C1、C2、C3、C4を積層した実施例1の積層コンデンサの基本構成を示したもので、陽極部が陰極部を中心に対向するように(6、6’で示す)交互に積層し、陰極部R同士は導電性接着剤により電気的に接続する。図中の符号は図3のものと同じ部材を示す。尚、以下の実施例では、陽極、陰極を外部回路へ接続するための端子部材をリードフレームと称して説明する。図中の点線13は実施例3(図9)の場合の参考図として示したもので、実施例1ではない。
【0019】
図5は、積層型固体電解コンデンサの完成品の側断面図で、両側の陽極部6、6’同士と陽極リードフレーム8、8’とを抵抗溶接等の方法で接合し、中央の陰極部R同士と陰極リードフレーム9とを導電性接着剤を介して接合する。
尚、各層の陽極部は積層したとき単板素子1枚分の厚みだけ離間することになるが、前記リードフレームと接合する際、一緒に抵抗溶接されるため、上下の陽極部は図のように若干曲げられて完全に導通接合される。これら積層体は、各リードフレームの外部回路との接続面だけを除いて全体を樹脂10でモールドして外装する。完成品の定格電圧は2.5V、定格容量は2200μFである。
【0020】
(実施例2)
図6は、単板コンデンサ素子の形状が横長(w>l)で、また複数の陽極リードフレーム8、8’同士(図では上下)を、陰極部Rの両側領域(図の左右域)で左右の連結部材11、11’によって2箇所で電気的に接続した多端子積層型固体電解コンデンサの実施例である。12は陰極リードフレーム9の電位取り出し用延長部で、陽極リードフレーム8、8’はこの延長部12と接触しないよう略中央で分離されており、この切り離された陽極フレーム間を延長部12が通過するようになる。14はこの延長部12とその上に配置される単板コンデンサ素子の陽極部6、6’との短絡を防ぐために両者間の接触面に塗布された絶縁性樹脂膜である。但し、説明のため、外装モールド樹脂は図示を省略した。
【0021】
図7は、上記実施例のリードフレーム部の配置構造を示す斜視図で、積層体の最下面に陽極リードフレーム8、8’および陰極リードフレーム9を配置し、これらの下面は略面一になるようにそれぞれの陰極、陽極に接合される。
尚、この図7は積層した段階の図で、上下の各陽極同士が抵抗溶接などによって相互に接合される前の状態を示す。また図の符号は図6と同じ部分を示す。
図8は、上記実施例における陰極リードフレームおよび陽極リードフレームの形状を示す平面図で、図中の符号は各実施例と共通である。
【0022】
(実施例3)
図9は、実施例2と同様の積層型固体電解コンデンサにおいて、陽極リードフレーム同士を接続している連結部材11、11’と陰極リードフレーム9との間に、セラミックコンデンサ13、13’を接続した複合コンデンサの構成を示す図で、各セラミックコンデンサの端子は陽極リードフレームと陰極リードフレームにそれぞれ接続される。
この例は、定格電圧6.3V、定格容量1μFのチップ形積層セラミックコンデンサ(MLCC)を4個ずつ陰極フレームの左右にそれぞれ接続し、合計で8個のセラミックコンデンサを内蔵させた複合型積層コンデンサモジュールの例である。
【0023】
(変形例)
図10は、図9の変形例となる複合コンデンサモジュールの例で、陽極リードフレーム8の端部から直角方向に延長部材11’’を張り出させ、この延長部材11’’と陰極リードフレーム9との間にセラミックコンデンサ(MLCC)13を4個並列に接続した例である。図の例は、コンデンサ素子板が1枚の場合の例で、複数枚積層した場合でもリードフレーム部は同じ構成とすることができる。尚、図では陽極リードフレームに延長部材を設けたが、陰極リードフレームに延長部材を設けて陽極リードフレーム側へ突出させてもよく、又両リードフレームから延長部材を突出させて、この間にMLCCを接続しても効果は同じである。何れの場合であっても、陰極、陽極リードフレーム間にMLCCを接続・実装した状態で全体をモールドして、1個のコンデンサモジュールの完成品とする。尚、これら延長部材、連結部材は、リードフレームとは別材質の導電性部材で構成してもよいことは当然である。
【0024】
(比較例)
図11は、前記本発明実施例との電気特性の比較のために作製した比較例で、単板コンデンサ素子の形状が幅10mm、長さ15mmの縦長形状(w<l)のものを用い、これを前記実施例のように、陽極部6、6’を交互に対向配置して積層し、陽極リードフレームを相互に連結することなくそれぞれ独立構造とした以外は、実施例1と同様の製造方法で作製した。
【0025】
表1は上記実施例1〜3と前記比較例の電気特性の比較表で、それぞれの例について、ESR(mΩ)、ESL(pH)を実測した結果を示す。なお、ESRは100kHz、ESLは100MHzで測定した。
【0026】
【表1】
【0027】
表1から明らかなように、上記実施例1〜3の積層型固体電解コンデンサのESR、ESL値は、比較例の積層型固体電解コンデンサと較べて大きく低減した。即ち、本発明により、同じ定格電圧容量でより低いESR、ESLを備えた積層型固体電解コンデンサを提供できることが実証された。
【0028】
このように、実施例1〜3においてESRを低減できたのは、単板コンデンサ素子の形状を横長(w>l)にしたことで、電流の流れる経路(断面積)を実質的に広くなし得たことによるもので、また、ESLを低減できたのは、コンデンサ素子の形状を横長形状(w>l)としたことで、対向する陽極リードフレーム同士の距離が短くなり、磁界の発生が大幅に抑制されたためと考えられる。
【0029】
また、実施例3において、特にESLを顕著に低減できたのは、高周波特性に優れるMLCCを積層コンデンサ素子と共通の陽極リードフレーム、陰極リードフレームに並列に実装したことによる効果である。
【0030】
さらに、本実施例では、外部回路へ接続する端子部材としてリードフレームを用いたが、外部端子となる貫通孔や導電層を設けた絶縁基板を用いてもよい。
【0031】
また、実施例では、固体電解質として導電性高分子を用いたが、二酸化マンガンを用いても同じ効果が得られる。
【0032】
なお、上記実施例では、弁作用金属としてアルミニウムの場合について説明したが、タンタルやニオブ箔、またはその焼結体を用いても同じ効果が得られる。
【0033】
なお、実施例では、いずれも4枚の単板コンデンサ素子の積層例について説明したが、積層枚数を変更しても同じ効果が得られ、また実施例は3端子構造のものについて説明したが、端子数を増やしても同様の効果が得られることは当然である。
【0034】
また、実施例では、定格電圧6.3V、定格容量1μFのMLCCを8個用いたが、これに限るものではなく、定格、個数、実装位置等を変更しても同じ効果が得られる。
【0035】
さらに、実施例では、両側の陽極リードフレーム間を電気的に接続するための連結部材を、陰極部の両側域に2個設けた例について説明したが、一方側だけで連結してもよく、この場合は、セラミックコンデンサも片側域だけに実装することになる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に使用する単板コンデンサ素子の形状を示す平面図
【図2】図1の単板コンデンサ素子の斜視図
【図3】本発明に使用する単板コンデンサ素子の拡大断面図
【図4】図1の単板コンデンサ素子を4枚積層した実施例1の概略構成を示す斜視図
【図5】実施例1の完成品の側断面図
【図6】実施例2の積層型固体電解コンデンサの上面から見た透視図
【図7】図6の積層体の概略構成を示す斜視図
【図8】各実施のリードフレームの形状を示す平面図
【図9】実施例3の複合コンデンサモジュールの上面から見た透視図
【図10】MLCCを4個接続・実装したコンデンサモジュールの変形例を示す平面透視図
【図11】比較例の積層型固体電解コンデンサの上面から見た透視図
【符号の説明】
【0037】
C1、C2、C3、C4、単板コンデンサ素子
1 弁作用金属薄板
2 酸化皮膜層
3 固体電解質層
4 カーボン層
5 銀層
6、6’ コンデンサ素子の陽極部
7 マスキング層
8、8’ 陽極リードフレーム
9 陰極リードフレーム
10 樹脂モールド
11、11’ 陽極リードフレームの連結部材
11’’ 陽極リードフレームの延長部材
12 陰極リードフレームの電位取り出し用延長部
13 セラミックコンデンサ
14 絶縁性樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を複数枚積層した固体電解コンデンサにおいて、前記単板コンデンサ素子の横寸法(w)をその縦寸法(l)(陽極部と陰極部が形成される方向に沿った長さ)より長くし、この単板コンデンサ素子をその陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層したことを特徴とする積層型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記構成において、中央の陰極部を陰極端子部材に接合するとともに、陰極部の両側に配置された各陽極部を両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合し、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続したことを特徴とする請求項1に記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項3】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板状の弁作用金属板の中央部に陰極部を、その一方側または両側に陽極部を形成したコンデンサ素子板の、陰極部を陰極端子部材に、陽極部を陽極端子部材にそれぞれ接合してなるコンデンサにおいて、前記陰極端子部材または陽極端子部材の一方又は双方に導電性延長部材を設け、この延長部材を介して陰極・陽極端子部材間に複数個のセラミックコンデンサを接続したことを特徴とするコンデンサモジュ−ル。
【請求項4】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板状の弁作用金属板の中央部に陰極部を、一方側に陽極部を形成したコンデンサ素子板を複数枚、その陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層し、各陰極部を陰極端子部材に、両側の陽極部を両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合してなる積層コンデンサにおいて、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続し、この連結部材と陰極端子部材との間にセラミックコンデンサを複数個接続したことを特徴とする積層型コンデンサモジュ−ル。
【請求項1】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する弁作用金属板の一方側に陽極部を、他方側に陰極部を形成した単板コンデンサ素子を複数枚積層した固体電解コンデンサにおいて、前記単板コンデンサ素子の横寸法(w)をその縦寸法(l)(陽極部と陰極部が形成される方向に沿った長さ)より長くし、この単板コンデンサ素子をその陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層したことを特徴とする積層型固体電解コンデンサ。
【請求項2】
前記構成において、中央の陰極部を陰極端子部材に接合するとともに、陰極部の両側に配置された各陽極部を両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合し、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続したことを特徴とする請求項1に記載の積層型固体電解コンデンサ。
【請求項3】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板状の弁作用金属板の中央部に陰極部を、その一方側または両側に陽極部を形成したコンデンサ素子板の、陰極部を陰極端子部材に、陽極部を陽極端子部材にそれぞれ接合してなるコンデンサにおいて、前記陰極端子部材または陽極端子部材の一方又は双方に導電性延長部材を設け、この延長部材を介して陰極・陽極端子部材間に複数個のセラミックコンデンサを接続したことを特徴とするコンデンサモジュ−ル。
【請求項4】
表面に誘電体となる酸化皮膜層を有する平板状の弁作用金属板の中央部に陰極部を、一方側に陽極部を形成したコンデンサ素子板を複数枚、その陰極部を中心として陽極部が互い違いに対向するように積層し、各陰極部を陰極端子部材に、両側の陽極部を両側に各別に設けた陽極端子部材にそれぞれ接合してなる積層コンデンサにおいて、両側の陽極端子部材同士を陰極端子部材の側方域に配置した連結部材を介して電気的に導通接続し、この連結部材と陰極端子部材との間にセラミックコンデンサを複数個接続したことを特徴とする積層型コンデンサモジュ−ル。
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図11】
【公開番号】特開2007−180328(P2007−180328A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378036(P2005−378036)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】
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