説明

積層型機構部品およびその製造方法

【課題】従来技術による金属溶融接合においては、加重または圧力をかけるため工程が複雑になるだけでなく、微小機構部品においてはその工程自体が困難であるか、コストが高くなってしまった。従って、部品要素間の結合が容易かつ確実な積層型機構部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】積層型機構部品は、複数のエンボス部2を片面または両面に有する部品基材薄板1が複数枚積層され、エンボス部2において相互に結合されているとともに、基材薄板1間に低融点金属層3が介在することを特徴とする。また、本発明による積層型機構部品の製造法においては、部品基材薄板1からエンボス部2を含めた所定の形状を形成する工程と、部品基材薄板1に低融点金属層3を形成する工程と、部品基材薄板1を加締め結合する工程と、低融点金属層3を融解させて部品基材薄板1同士を接合する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やノートブック型パソコン等の携帯機器に好適な積層型機構部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の携帯機器においては、例えばヒンジ用歯車など、外径が1cm以下のような微小部品が多用されている。このような機構部品の材質としては、金属・セラミック・プラスチックなどが考えられるが、コストや耐久性などの品質を考慮すると金属製が最も好ましい。金属製部品の製造方法としては、鍛造法やプレス打ち抜き法、焼結法などが知られているが、肉厚の微小機構部品をこのような従来の方法で製造しようとすると、コストが高くなり量産性にも問題があった。
【0003】
上述のような微小肉厚機構部品の製造においては、薄板状の部品片を多数積層する方法も考えられ、種々の方法が提案されている。最も一般的な方法としては、部品片同士に凹凸状のエンボス部を設け、機械的に嵌合させて結合する方法が知られている。しかしながらこの方法では、部品片同士の結合がエンボス部での結合強度に依存するが、エンボス部自体の部品片に占める面積が小さいため、使用中に部品片が剥離するというような耐久性の問題があった。
【0004】
また、別の方法としては低融点金属を用いて溶融接合する技術も提案されている。例えば特許文献1には、熱交換器用積層体の製造方法において、環状及び放射状の凹陥を設けた孔明板の凹陥内にろう材被覆薄板を嵌め込んで重ね合わせ、固定具で締め付けて真空ろう付けする際に、ろう材が溶融したときに荷重を加える方法が開示されている。この方法ではろう付けする際に積層体を締め付けなければならず、さらにろう材溶融時に荷重を加えなければならない。本発明が対象とするような微小機構部品にこのような方法を適用することは困難であり、また適用したとすると製造コストが高価になってしまう。
【0005】
一方、特許文献2には、複数の焼結材料成形体を結合する方法として、焼結材料の複数の成形体の間に鉛−スズ合金からなる金属箔を配置し、約145〜165℃の範囲の温度で約1〜10分間加熱し、約50〜150kg/cm2の機械的圧力を加えて、冷却した後にこの圧力を除去する技術が開示されている。この技術においても、特許文献1の場合と同じく、微小機構部品の製造には適しておらず、また、金属箔を配置してから溶融して圧力を加えると、成形体間の距離が金属箔溶融時に縮むために、溶融した金属が成形体端部からはみ出す可能性がある。
【0006】
さらに特許文献3においても、ターボ分子ポンプのロータ製造方法として、ロータリング素材とスペーサロータリングとの間、及びロータリング素材と翼板との間に低融点インサート材を介装させて積層し、加熱してから加圧する技術が開示されている。この技術もまた、低融点金属を介在させて加熱してから圧力を加える方法であるため、上記特許文献2と同様の不具合が生ずる可能性がある。
【0007】
【特許文献1】特開昭52−7055号公報
【特許文献2】特開昭53−28059号公報
【特許文献3】特公平1−50513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術による金属溶融接合においては、いずれも加重または圧力をかけるため工程が複雑になるだけでなく、本発明が対象とするような微小機構部品においてはその工程自体が困難であるか、またはコストが高くなってしまうという問題がある。このような問題点に鑑みて、本発明では部品要素間の結合が容易かつ確実な積層型機構部品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明による積層型機構部品は、複数のエンボス部を片面または両面に有する部品基材薄板が複数枚積層され、該エンボス部において相互に結合されているとともに、少なくとも前記各基材薄板間に低融点金属層が介在することを特徴とする。
【0010】
前記基材薄板が金属、セラミックまたはプラスチックからなることが好ましく、また前記積層部品としては、特に歯車であることが好適である。
【0011】
また、本発明による積層型機構部品の製造法においては、部品基材薄板からエンボス部を含めた所定の形状を形成する工程と、該部品基材薄板に低融点金属層を形成する工程と、該低融点金属層を形成した前記部品基材薄板を加締め結合する加締め工程と、前記低融点金属層を熱的に融解させて前記部品基材薄板同士を接合する工程とからなることを特徴とする。
【0012】
前記基材薄板は金属からなり、所定の形状を形成する工程としてプレス加工を用いることができる。
【0013】
前記低融点金属層の形成方法は、めっきであることが好適であり、融解工程としては高温槽等による直接加熱法または電流抵抗加熱法が利用できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明による積層型機構部品では、エンボス部の嵌合に加えて低融点金属層の融解により各機材薄板同士を接合するため、接合強度が強く確実であり、また耐久性にも優れる。
【0015】
また、本発明による積層型機構部品の製造方法においては、エンボス部の結合の後で低融点金属層を融解接合するため、加圧の必要が無くて工程が単純となり、信頼性の高い積層型微小機構部品を容易に低コストで製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0016】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。図1に本発明による微小機構部品の基本構成の要部断面図を示す。積層歯車7は、部品基材薄板1が複数枚積層されてなり、各基材薄板1には複数の凸部2とそれに対応する凹部2が形成されていて、互いに嵌合することにより結合されている。また、各部品基材薄板1の間には低融点金属層3が形成されており、積層後に融解することにより基材薄板1間の結合を強化している。図1においては、エンボス部2に低融点金属層3を示してないが、例えば、各基材薄板1同士を結合する前にめっき等によりこの低融点金属層3を形成した場合は、エンボス部2にもこの層が形成される。従って、低融点金属層3がエンボス部2に形成されることは問題ない。ただし、プレス加工等により基材薄板1を嵌合結合した際に、エンボス部2の低融点金属層3は摩擦により除去される可能性が高い。
【0017】
図2は本発明による第1の実施例として積層歯車7を示す。(a)が側面図、(b)が正面図である。側面図(a)でわかるように部品基材薄板1を複数枚積層して肉厚歯車を形成してある。個々の基材薄板1は(b)のような形状をしており、図2においては3個のエンボス部2を形成してある。このエンボス部2は、基材薄板1の一面においては凸部、反対面においては凹部となるよう形成してあり、これらエンボス部2同士が嵌合することにより、それぞれの基材薄板1が一体的に結合されている。エンボス部2を設ける位置としては、中心軸穴4、歯底円及び歯型部等により形成されるスペースを考慮し、余肉が最大に確保できる位置が好ましい。エンボス部の個数については2個以上であれば特に規定されるものではない。
【0018】
図3は本発明による第2の実施例としての特殊積層歯車を示す。やはり(a)が側面図、(b)が正面図である。正面図(b)においては、歯形部を省略して歯先円21として示してある。この実施例においては、無歯形部22と軸穴部4に設けた平坦部23との両方を採用しており、これらの部分にエンボス部2を形成することにより、外形部とのクリアランスに余裕を持たせることができる。軸穴平坦部23は、この実施例では1箇所のみ形成してあるが、無歯形部22の代わりに軸穴平坦部23を両側に形成することも可能である。
【0019】
図4には、本発明の第3の実施例として2種類の歯車を結合して形成した複合歯車の例を示した。この実施例においては、一方の側では直径の小さな小径歯車部12を形成し、途中から直径の大きな大径歯車部13を結合して複合歯車としている。各歯車片11の積層方法は上述の実施例と同じく、複数のエンボス部を嵌合することにより行うことができる。本実施例において軸穴4は円形状として示してあるが、図3に示したように、軸穴と軸にそれぞれ平坦部を形成して嵌合することにより、軸との連結力を高めることも可能である。また、図4においては小径歯車及び大径歯車を平歯車として示したが、部分歯車や他の歯車形状に形成することができることは言うまでもない。
【0020】
さて、本発明による積層機構部品の製造として図2に示した歯車を例にとって説明する。まず、帯状の金属薄板材料の両面に鉛やスズなどの低融点金属をめっきし、数ミクロン程度の金属層を形成する。次に、この金属薄板材料を例えば順送金型プレス機にかけ、順送りに移送して外周に複数の歯形と中心部の軸穴4を含む歯車片1を打ち抜くとともに、この歯車片1に複数のエンボス部2を形成する。このエンボス部2は歯車片の片側表面では凹部、もう一方の表面では凸部を形成している。歯車片1は打ち抜かれた後所定の場所に集積・保持され、後から歯車片1が打ち抜かれる際にプレス積層される。これは、それぞれの歯車片1のエンボス部2が互いに嵌合して歯車片1同士を連結するためである。所定の枚数、すなわち歯車が所定の肉厚になったところで、積層一体化された歯車7として排出される。この一体化歯車を2百数十℃程度の高温槽に入れ、低融点金属層3を融解した後冷却すれば、積層歯車はエンボス部2と低融点金属層3との両方により結合されるので、より結合強度が強く、耐久性も増す。
【0021】
低融点金属層3の形成方法については、上記の実施例ではめっきを採用したが、これに限定されるものではなく、蒸着等、他の方法を用いることももちろん可能である。また、低融点金属層3融解については、積層部品に電流を流して発熱させて融解するなど、他の方法をとることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明による積層型機構部品では、エンボス部の嵌合に加えて低融点金属層の融解により各機材薄板同士を接合するため、接合強度が強く確実であり、また耐久性にも優れる。また、本発明による積層型機構部品の製造方法においては、エンボス部の結合の後で低融点金属層を融解接合するため、加圧の必要が無くて工程が単純となり、信頼性の高い積層型微小機構部品を容易に低コストで製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による積層型機構部品の基本構成の要部を示す断面図である。
【図2】本発明による第1の実施例としての積層歯車を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図3】本発明による第2の実施例としての特殊歯車を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【図4】本発明による第3の実施例としての複合歯車を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 部品基材薄板
2 エンボス部
3 低融点金属層
4 軸穴
7 積層歯車
12 小歯車部
13 大歯車部
21 歯先円
22 無歯形部
23 軸穴平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエンボス部を片面または両面に有する部品基材薄板が複数枚積層され、該エンボス部において相互に結合されているとともに、少なくとも前記各基材薄板間に低融点金属層が介在することを特徴とする積層型機構部品。
【請求項2】
前記基材薄板が金属、セラミックまたはプラスチックからなることを特徴とする請求項1記載の積層型機構部品。
【請求項3】
前記積層型機構部品が歯車であることを特徴とする請求項1または2記載の積層型機構部品。
【請求項4】
部品基材薄板からエンボス部を含めた所定の形状を形成する工程と、該部品基材薄板に低融点金属層を形成する工程と、該低融点金属層を形成した前記部品基材薄板を加締め結合する加締め工程と、前記低融点金属層を熱的に融解させて前記部品基材薄板同士を接合する工程とからなることを特徴とする積層型機構部品の製造方法。
【請求項5】
前記基材薄板が金属からなり、所定の形状を形成する工程がプレス加工であることを特徴とする請求項4記載の積層型機構部品の製造方法。
【請求項6】
前記低融点金属層の形成方法がめっきであることを特徴とする請求項4または5記載の積層型機構部品の製造方法。
【請求項7】
前記低融点金属層の融解工程が高温槽等による直接加熱法または電流抵抗加熱法であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の積層型機構部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184292(P2010−184292A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54164(P2009−54164)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(505401849)株式会社世界最速試作センター (18)
【Fターム(参考)】