説明

積層型電子部品の製造方法

【課題】内層部と外層部との界面でのボイドやノンラミネーションを有効に防止でき、しかも破壊電圧特性などの電気特性にも優れ、さらに積層ズレが生じにくい積層型電子部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】内側グリーンシート10aを準備する工程と、外側グリーンシート11aを準備する工程と、外側グリーンシートを積層して外層部を形成する工程と、内部電極パターン層12aを介して内側グリーンシート10aを積層して、外層部に連続する内層積層部13aを形成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法である。外側グリーンシート11aの表面には、第2パターン30aを持つ段差吸収層20を、隙間パターン30の長手方向Yに沿って形成し、パターン幅W2が、隙間幅W1よりも小さく、段差吸収層20が外側グリーンシート11aに対して識別可能な着色が成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電子部品の製造方法に係り、さらに詳しくは、ボイドやノンラミネーションを防止することが可能であり、さらにチップ部品の変形を防止することができる積層型電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層型電子部品としての積層セラミックコンデンサは、内部電極層と誘電体層とが交互に積層してある内層部を有する。この内層部の積層方向の両端部には、内部電極層を持たない誘電体層のみが積層してある外層部が形成されることが一般的である。
【0003】
内層部では、誘電体層の間に、所定パターンの内部電極層が積層されることから、所定パターンの内部電極層が形成される部分と、形成されない部分とで、段差が生じてしまう。特に内層部での内部電極層および誘電体層の積層数が多くなるほど、段差が大きくなる傾向にある。
【0004】
段差が生じると、特に内層部と外層部との界面で、ボイドやノンラミネーションが生じやすくなるという課題がある。また、段差は、積層体の寸法歪みを生じさせ、積層セラミックコンデンサの実装時における装着不良の原因となるおそれがある。
【0005】
このような段差を解消するために、たとえば特許文献1では、内層部において、所定パターンの内部電極層の余白部分に、誘電体ペースト層(段差吸収層)を印刷により形成することが開発されている。しかしながら、所定パターンの内部電極層の余白部分に、誘電体ペースト層を印刷により形成することは、高い印刷精度が要求され、製造コストの増大を招く。また、所定パターンの内部電極層の余白部分に、誘電体ペースト層を印刷により形成する際には、誘電体ペースト層に含まれる溶剤が、グリーンシートを通して、グリーンシートとPETフィルムとの間にまで浸透するなどのシートアタックの問題が生じる。
【0006】
そこで、特許文献2に示すように、内層部では、段差吸収用の誘電体ペースト層(段差吸収層)を形成することなく、外層部における誘電体層を形成するグリーンシートの表面に、段差吸収層を形成することが提案されている。
【0007】
しかしながら、このような従来の方法では、内層部における内部電極層の隙間幅と、段差吸収層の幅とがほぼ同一であるために、内層部と外層部との界面で、ボイドやノンラミネーションは防止できるが、破壊電圧特性が多少劣化するおそれがあることが、本発明者等の実験により判明した。
【0008】
また、このような従来の方法では、外層部でのグリーンシートの積層方向の積層ズレを判別することは困難であった。
【特許文献1】特開2003−133167号公報
【特許文献2】特開2006−332285号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、内層部と外層部との界面でのボイドやノンラミネーションを有効に防止でき、しかも破壊電圧特性などの電気特性にも優れ、さらに積層ズレが生じにくい積層型電子部品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る積層型電子部品の製造方法は、
内側グリーンシートを準備する工程と、
外側グリーンシートを準備する工程と、
前記外側グリーンシートを積層して外層部を形成する工程と、
所定の第1パターンの内部電極層を介して前記内側グリーンシートを積層して、前記外層部に連続する内層部を形成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
少なくとも一つの前記外側グリーンシートの表面には、前記第1パターンの隙間に対応する第2パターンの段差吸収層を、少なくとも前記第1パターンの長手方向に沿って形成し、
前記第2パターンのパターン幅W2が、前記第1パターンの隙間幅W1よりも小さく、
前記段差吸収層が前記外側グリーンシートに対して識別可能な着色が成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る積層型電子部品の製造方法では、第1パターンの隙間に対応する第2パターンの段差吸収層を、少なくとも前記第1パターンの長手方向に沿って形成してあるために、特に内層部と外層部との界面でのボイドやノンラミネーションを有効に防止することができる。また、結果として得られる積層型電子部品の寸法歪みが小さくなり、変形も防止され、その実装時における装着不良が少なくなる。
【0012】
さらに、本発明に係る積層型電子部品の製造方法では、第2パターンのパターン幅W2を、第1パターンの隙間幅W1よりも小さくすることで、最終的に得られる積層型電子部品の破壊電圧特性などの電気特性も向上する。このことは、本発明者等の実験により確認されている。
【0013】
さらにまた、本発明に係る積層型電子部品の製造方法では、段差吸収層が着色されているために、段差吸収層が形成された外側グリーンシートを積層する際の画像認識精度が向上し、高精度でグリーンシートの積層が可能である。また、着色されているために、不良検査などで、積層ズレを容易に見付けることができ、積層ズレの検査が容易になる。
【0014】
好ましくは、パターン幅W2が、前記第1パターンの隙間幅W1に対して、55〜90%の範囲内にある。このような範囲の場合に、特に、内層部と外層部との界面でのボイドやノンラミネーションを有効に防止でき、しかも破壊電圧特性などの電気特性にも優れる。
【0015】
好ましくは、前記第2パターンの段差吸収層は、前記内部電極層の引き出し部に対応して、前記第1パターンの短手方向にも形成される。内層部と外層部との界面でのボイドやノンラミネーションを防止する観点からは、段差吸収層を、少なくとも第1パターンの長手方向に沿って形成すれば十分である。ただし、第1パターンの短手方向にもパターンの隙間が形成されることから、この隙間に沿って、第2パターンの段差吸収層を外側グリーンシートに形成することで、以下に示す作用効果を奏する。すなわち、内部電極層の引き出し部が、素子本体の角部よりも遠ざかるために、その後の工程で端子電極を形成する際に、めっき液が内部電極層にまで侵入しにくくなり、短絡不良などが生じにくくなる。また、内部電極層の引き出し部と重なるように段差吸収層を形成することで、プレス工程において内部電極が素体内部に押し込まれる。
【0016】
好ましくは、前記外側グリーンシートの表面には、前記第2パターンの段差吸収層以外に、位置決め用マークが、前記段差吸収層と同時に形成される。段差吸収層および位置決めマークの双方が着色されることで、積層時の位置決め精度が向上すると共に、積層体を切断する際にも、精度良く切断することができる。
好ましくは、前記位置決め用マークが形成される表面と同一表面に、段差吸収層と同一パターンの切断予定線パターンが、前記段差吸収層を形成するためのペーストと同じペーストで形成される。このような構成することで、切断位置の画像認識精度が向上し、精度良く切断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図、
図2は図1に示すII−II線に沿う断面図、
図3は図1に示す積層セラミックコンデンサの製造過程におけるグリーンシートの積層工程を示す概略断面図、
図4(A)は図3に示すIVA-IVA線に沿う内部電極層のパターンの一部を示す平面図、図4(B)は図3に示すIVB-IVB線に沿う段差吸収層のパターンの一部を示す平面図、
図5は段差吸収層のパターンの全体を示す平面図、
図6は図3の要部拡大断面図、
図7は図3に示すグリーンシートを積層後の積層体の概略断面図、
図8および図9はそれぞれ本発明の他の実施形態に係るグリーンシートの積層工程を示す概略断面図である。
積層セラミックコンデンサの全体構成
まず、本発明に係る方法により製造される電子部品の一実施形態として、積層セラミックコンデンサの全体構成について説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ2は、コンデンサ素体4と、第1端子電極6と第2端子電極8とを有する。コンデンサ素体4は、内側誘電体層10と、内部電極層12とを有し、内側誘電体層10の間に、内部電極層12が交互に積層してある。内側誘電体層10と、内部電極層12とが交互に積層される部分が内層部13である。
【0019】
コンデンサ素体4は、その積層方向Zの両端面に、外層部11を有する。外層部11は、内層部13を構成する内側誘電体層10よりも厚い誘電体層を複数積層して形成してある。
【0020】
交互に積層される一方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第1端部の外側に形成してある第1端子電極6の内側に対して電気的に接続してある。また、交互に積層される他方の内部電極層12は、コンデンサ素体4の第2端部の外側に形成してある第2端子電極8の内側に対して電気的に接続してある。
【0021】
内側誘電体層10および外層部11を構成する誘電体層の材質は、特に限定されず、たとえばチタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムおよび/またはチタン酸バリウムなどの誘電体材料で構成される。各内側誘電体層10の厚みは、特に限定されないが、数μm〜数百μmのものが一般的である。また、外層部11の厚みは、特に限定されないが、たとえば10〜200μmの範囲である。
【0022】
端子電極6および8の材質も特に限定されないが、通常、Ni,Pd,Ag,Au,Cu,Pt,Rh,Ru,Ir等の少なくとも1種、又はそれらの合金を用いることができる。通常は、Cu,Cu合金、Ni又はNi合金等や、Ag,Ag−Pd合金、In−Ga合金等が使用される。端子電極6および8の厚みも特に限定されないが、通常10〜50μm程度である。
【0023】
積層セラミックコンデンサ2の形状やサイズは、目的や用途に応じて適宜決定すればよい。積層セラミックコンデンサ2が直方体形状の場合は、通常、縦(0.4〜5.7mm)×横(0.2〜5.0mm)×厚み(0.2〜3.2mm)程度である。
積層セラミックコンデンサの製造方法
次に、本発明の一実施形態としての積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
【0024】
まず、焼成後に図1に示す内側誘電体層10を構成することになる内側グリーンシート10aおよび外層部11の外側誘電体層を構成することとなる外側グリーンシート11aを製造するために、内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストを準備する。
【0025】
内側グリーンシート用ペーストおよび外側グリーンシート用ペーストは、通常、セラミック粉末と有機ビヒクルとを混練して得られた有機溶剤系ペースト、または水系ペーストで構成される。本実施形態では、これらのペーストは、有機溶剤系ペーストであることが好ましい。
【0026】
セラミック粉末の原料としては、複合酸化物や酸化物となる各種化合物、たとえば炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、有機金属化合物などから適宜選択され、混合して用いることができる。セラミック粉体の原料は、通常、平均粒子径が0.4μm以下、好ましくは0.1〜0.3μm程度の粉体として用いられる。なお、内側グリーンシートをきわめて薄いものとするためには、グリーンシート厚みよりも細かい粉体を使用することが望ましい。
【0027】
有機ビヒクルとは、バインダを有機溶剤中に溶解したものである。有機ビヒクルに用いるバインダは特に限定されず、エチルセルロース、ポリビニルブチラール等の通常の各種バインダから適宜選択すればよいが、本実施形態では、ポリビニルブチラールを用いる。
【0028】
また、用いる有機溶剤も特に限定されず、印刷法やシート法など、利用する方法に応じて、ターピネオール、ブチルカルビトール、アセトン、トルエン等の各種有機溶剤から適宜選択すればよい。
【0029】
グリーンシート用ペースト中には、必要に応じて、各種分散剤、可塑剤、誘電体、副成分化合物、ガラスフリット、絶縁体などから選択される添加物が含有されていてもよい。グリーンシート用ペースト中に、これらの添加物を添加する場合には、総含有量を、約10重量%以下にすることが望ましい。
【0030】
可塑剤としては、フタル酸ジオクチルやフタル酸ベンジルブチルなどのフタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル、グリコール類などが例示される。
【0031】
次いで、図1に示す内部電極層12を形成するための内部電極パターン層用ペーストを準備する。内部電極パターン層用ペーストは、上記した各種導電性金属や合金からなる導電材、あるいは焼成後に上記した導電材となる各種酸化物、有機金属化合物、レジネート等と、上記した有機ビヒクルとを混練して調製する。なお、内部電極パターン層用ペーストには、必要に応じて、共材としてセラミック粉末が含まれていても良い。共材は、焼成過程において導電性粉末の焼結を抑制する作用を奏する。
【0032】
上記にて調製した内側グリーンシート用ペーストおよび内部電極パターン層用ペーストを使用して、図3に示すように、焼成後に内側誘電体層10となる内側グリーンシート10aと、焼成後に内部電極層12となる内部電極パターン層12aと、を交互に積層し、焼成後に内層部となる内部積層体13aを製造する。そして、内部積層体13aを製造した後に、または、その前に、外側グリーンシート用ペーストを使用して、焼成後に外層部11の外側誘電体層となる外側グリーンシート11aを形成する。
【0033】
具体的には、まず、ドクターブレード法などにより、支持体としてのキャリアシート(たとえばPETフィルム)上に、内側グリーンシート10aを形成する。内側グリーンシート10aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。内側グリーンシート10aの乾燥温度は、好ましくは50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。
【0034】
次いで、上記にて形成した内側グリーンシート10aの表面に、内部電極パターン層用ペーストを用いて、内部電極パターン層12aを形成し、内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを得る。そして、得られた内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを交互に積層し、内部積層体13aを得る。なお、内部電極パターン層12aの形成方法としては、特に限定されないが、印刷法、転写法などが例示される。なお、接着層を介して内部電極パターン層12aを有する内側グリーンシート10aを積層してもよい。
【0035】
外側グリーンシート11aは、内側グリーンシート10aと同様に、支持体としてのキャリアシート上に形成される。
【0036】
外側グリーンシート11aは、キャリアシート上に形成された後に乾燥される。外側グリーンシート11aの乾燥温度は、内側グリーンシート10aと同様に、好ましくは50〜100℃であり、乾燥時間は、好ましくは1〜20分である。
【0037】
本実施形態では、内側グリーンシート10aおよび外側グリーンシート11aには、バインダとしてポリビニルブチラールが含まれている。
【0038】
内側グリーンシート10aに含まれるポリビニルブチラールの含有量としては、外側グリーンシート10aに含まれるポリビニルブチラールの含有量以上であり、かつ、内側グリーンシート10aに含まれるセラミック粉体100重量%に対して、好ましくは5〜10重量%、より好ましくは5〜8重量%である。
【0039】
また、外側グリーンシート11aに含まれるポリビニルブチラールの含有量としては、内側グリーンシート10aに含まれるポリビニルブチラールの含有量以下であり、かつ、外側グリーンシート11aに含まれるセラミック粉体100重量%に対して、好ましくは6〜10重量%、より好ましくは6〜8重量%である。
【0040】
また、内側グリーンシート10aに含まれるポリビニルブチラールの分子量は、好ましくは、外側グリーンシート11aに含まれるポリビニルブチラールの分子量以上であり、かつ、好ましくは20000〜110000、より好ましくは92000〜110000である。
【0041】
外側グリーンシート11aに含まれるポリビニルブチラールの分子量は、内側グリーンシート10aに含まれるポリビニルブチラールの分子量以下であり、かつ、好ましくは19000〜110000、より好ましくは53000〜110000である。
【0042】
また、本実施形態では、内側グリーンシート10aおよび外側グリーンシート11aには、可塑剤が含まれている。内側グリーンシート10aに含まれる可塑剤の含有量としては、特に限定されないが、内側グリーンシート10aに含まれるバインダ100重量%に対して、好ましくは40〜70重量%である。外側グリーンシート11aに含まれる可塑剤の含有量としては、特に限定されないが、外側グリーンシート11aに含まれるバインダ100重量%に対して、好ましくは30〜70重量%である。可塑剤量が少なすぎると、シートに可塑性が足りず、脆くなってしまい、内層部の欠陥につながる傾向にある。一方、可塑剤量が多すぎると、応力下で容易にシートが変形してしまい、シート厚みのバラツキが悪化する傾向にある。
【0043】
図3に示すように、本実施形態では、それぞれの外側グリーンシート11aの表面には、段差吸収層20が所定パターンで、印刷法などで形成してある。段差吸収層20は、外側グリーンシート11aと同様なセラミック粉末と有機ビヒクルとを含むが、グリーンシート11aと異なり、印刷により形成されるために、印刷しやすいように調整してある。印刷法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷などが例示され、特に限定されないが、好ましくはスクリーン印刷である。
【0044】
段差吸収層20を形成するための印刷ペーストにおける有機結合材成分(高分子樹脂+可塑剤)と、各種添加物は、グリーンシート用スラリーに用いられるものと同様なものが用いられる。ただし、これらは、必ずしも、グリーンシート用スラリーに用いられるものと全く同じものである必要はなく、異なっていても良い。また有機ビヒクルを構成する溶剤は、ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタートなどの高沸点溶剤が用いられることが好ましい。
【0045】
本実施形態では、段差吸収層20を形成するための印刷ペーストには、外側グリーンシート11aに対して識別可能な着色が成されるように、着色剤が含有してある。着色剤としては、印刷用ペーストとしての物性を損なわないものであれば何でも良く、たとえばアニリンブラック、カーボンを含む黒色系顔料および黒インク、アゾ系色素を含む赤色顔料および赤インク、フタロシニアン系色素、鉱物系色素を含む青色顔料および青インクなどが例示される。なお、着色の色としては、黒に限定されず、赤、青、グレーなどでも良い。着色剤の含有割合は、印刷用ペースト全体に対して、0.1〜0.5重量%程度が好ましい。
【0046】
段差吸収層20は、図4(A)および図4(B)に示すように、内部電極パターン層12aの長手方向Yに沿う第1パターンの隙間30に対応する第2パターン30aと、内部電極パターン層12aの短手方向Xに沿う隙間32に対応するパターン32aとを有し、平面から視て格子状のパターンである。
【0047】
段差吸収層20の厚みは、特に限定されないが、外側グリーンシート11aの厚みに対して、好ましくは50〜100%の厚みである。なお、外側グリーンシート11aの厚みは、内側グリーンシート10aよりも厚く、好ましくは10〜400%程度に厚い。
【0048】
段差吸収層20の幅W2は、図6に示すように、内部電極パターン層12aの隙間幅W1よりも小さく、好ましくは隙間幅W1に対して、55〜90%の範囲内にある。すなわち、W2/W1の値が小さすぎる場合、段差吸収層20による余白を押し込む作用が弱まるため、ボイドが生じてしまう傾向にある。また、積層ズレについてもW2/W1の値が小さすぎる場合、段差吸収層のアスペクトが高くなり積層ズレが生じやすくなってしまう傾向にある。ただし、W2/W1が0の場合は、段差吸収層がない状態なので、段差吸収層20がなければ積層ズレは生じない。また、W2/W1の値が大きすぎる場合、積層方向からみて段差吸収層20が内部電極と重なる部分を有し、プレス工程の際に内部電極までも圧迫してしまい、層間が薄くなってしまうので、VB(破壊電圧特性)が悪くなってしまう傾向にある。
【0049】
図5に示すように、外側グリーンシート11aの表面には、所定パターンの段差吸収層20が形成される領域の外側で、外側グリーンシート11aの各角部近くには、位置決め用マーク40が、段差吸収層20と同様な手段で同様な厚みで同時に形成される。この位置決めマーク40も着色されている。
【0050】
図3に示すように、所定パターンの段差吸収層20が形成された外側グリーンシート11aを複数積層し、その上に、内部積層体13aを積層し、さらにその上に所定パターンの段差吸収層20が形成された外側グリーンシート11aを複数積層し、プレスすることで、たとえば図7に示す積層ズレδがほとんど0のグリーン積層体4aを得る。
【0051】
なお、外側グリーンシート11aに内部積層体13aを積層するかわりに、外側グリーンシート11aに直接内側グリーンシート10aと内部電極パターン層12aとを交互に所定数積層してもよい。また、複数枚の内側グリーンシート10aと複数枚の内部電極パターン層12aとを交互に積層した積層体ユニットを予め作製しておき、それらを外側グリーンシート11aに所定数積層してもよい。
【0052】
得られたグリーン積層体4aを、所定の寸法に切断し、グリーンチップとする。グリーンチップは、固化乾燥により可塑剤が除去され固化される。固化乾燥後のグリーンチップは、メディアおよび研磨液とともに、バレル容器内に投入され、水平遠心バレル機などにより、バレル研磨される。バレル研磨後のグリーンチップは、水で洗浄され、乾燥される。乾燥後のグリーンチップに対して、脱バインダ工程、焼成工程、必要に応じて行われるアニール工程を行うことにより、図1に示すコンデンサ素体4を得る。
【0053】
このようにして得られた焼結体(素子本体4)には、バレル研磨等にて端面研磨を施し、端子電極用ペーストを焼きつけて端子電極6,8が形成される。そして、必要に応じ、端子電極6,8上にめっき等を行うことによりパッド層を形成する。なお、端子電極用ペーストは、上記した内部電極パターン層用ペーストと同様にして調製すればよい。
【0054】
本発明に係る方法により製造された積層セラミックコンデンサは、ハンダ付等によりプリント基板上などに実装され、各種電子機器等に使用される。
【0055】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法では、段差吸収層20を、少なくとも内部電極パターン層12aの長手方向Yに沿って形成してある。このために、特に図2に示す内層部13と外層部11との界面でのボイドやノンラミネーションを有効に防止することができる。また、結果として得られるコンデンサ素体4の寸法歪みが小さくなり、変形も防止され、積層セラミックコンデンサ2の実装時における装着不良が少なくなる。
【0056】
さらに、段差吸収層20のパターン幅W2を、内部電極パターン層12aの隙間幅W1よりも小さくすることで、最終的に得られる積層セラミックコンデンサ2の破壊電圧特性などの電気特性も向上する。このことは、本発明者等の実験により確認されている。
【0057】
さらにまた、段差吸収層20が着色されているために、四隅のマーク40のみならず、段差吸収層の直線の位置座標も搬送位置を測定する演算処理に考慮できる。そのため、段差吸収層20が形成された外側グリーンシート11aを積層する際の画像認識精度が向上し、高精度でグリーンシート11aの積層が可能である。また、着色されているために、図7に示すように、不良検査などで、積層後の段差吸収層20を観察することで、積層ズレδを容易に見付けることができ、積層ズレδの検査が容易になる。
【0058】
さらに本実施形態では、段差吸収層40は、内部電極層12の引き出し部に相当する内部電極パターン層12aの隙間32に対応して、その短手方向Xに沿っても形成される。内層部13と外層部11との界面でのボイドやノンラミネーションを防止する観点からは、段差吸収層20を、内部電極パターン層12aの少なくとも長手方向Yに沿った隙間パターン30に対応するパターン30aで形成すれば十分である。ただし、内部電極パターン層12aの隙間32は短手方向Xに沿っても形成されることから、この隙間32に沿ったパターン32aで、段差吸収層20を外側グリーンシートに形成することで、以下に示す作用効果を奏する。すなわち、内部電極層12の引き出し部が、コンデンサ素体4の角部よりも遠ざかるために、その後の工程で端子電極6,8を形成する際に、めっき液が内部電極層12にまで侵入しにくくなり、短絡不良などが生じにくくなる。また、内部電極層12の引き出し部と重なるように段差吸収層40を形成することで、プレス工程において内部電極が素体内部に押し込まれる。
【0059】
また、本実施形態では、段差吸収層20および位置決めマーク40の双方が着色されることで、積層時の位置決め精度が向上する。また、本実施形態では、位置決め用マーク40が形成される表面と同一表面に、段差吸収層20と同一パターンの切断予定線パターンが形成されることになり、切断位置の画像認識精度が向上し、積層体4aを切断する際にも、精度良く切断することができる。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0061】
たとえば、図8に示すように、積層すべき全ての外側グリーンシート11aに対して段差吸収層20を形成する必要はなく、少なくとも積層方向の片側に、一枚の外側グリーンシート11aに対して段差吸収層20を形成すればよい。また、図9に示すように、外側グリーンシート11aに対して段差吸収層20を形成する向きは、全て同一方向である必要はなく、積層方向Zの両外側に向けて、段差吸収層20を形成しても良い。その場合には、積層方向Zの両外側から、段差吸収層20を視やすくなる。
【0062】
また、本発明の製造方法は、積層セラミックコンデンサに限らず、その他の積層型電子部品に適用することが可能である。その他の積層型電子部品としては、たとえばバンドパスフィルタ、インダクタ、積層三端子フィルタ、圧電素子、PTCサーミスタ、NTCサーミスタ、バリスタなどが例示される。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
実施例1
内側グリーンシート用ペースト、外側グリーンシート用ペーストの作製
まず、セラミック粉末としてBaTiO系粉末:100重量部と、バインダとしてポリビニルブチラール(PVB):6重量部と、溶剤としてエタノール:19重量部、溶剤としてn−プロパノール:19重量部と、溶剤としてキシレン:14重量部、溶剤としてミネラルスピリット:7重量部、可塑剤としてDOP:3重量部と、をボールミルでスラリー化して内側グリーンシート用ペーストを得た。
なお、内側グリーンシート用ペーストに用いたポリビニルブチラールの分子量は、92000であった。
【0064】
次に、セラミック粉末としてBaTiO系粉末:100重量部と、バインダとしてポリビニルブチラール(PVB):6重量部と、溶剤としてエタノール:15重量部、溶剤としてn−プロパノール:15重量部と、溶剤としてキシレン:7重量部、溶剤としてトルエン:11重量部、溶剤としてミネラルスピリット:10重量部、可塑剤としてDOP:3重量部と、をボールミルでスラリー化して外側グリーンシート用ペーストを得た。
なお、外側グリーンシート用ペーストに用いたポリビニルブチラールの分子量は、92000であった。
段差吸収層の印刷用ペーストの作製
【0065】
カーボンから成る着色剤を、ペーストに対して0.3重量%含有させ、色彩が異なる以外は、外側グリーンシート用ペーストと同様にして、段差吸収層のための印刷用ペーストを作製した。
内部電極パターン層用ペーストの作製
Ni粒子:44.6重量部と、テルピネオール:52重量部と、エチルセルロース:3重量部と、ベンゾトリアゾール:0.4重量部とを、3本ロールにより混練し、スラリー化して内部電極パターン層用ペーストを作製した。
グリーンチップの形成
【0066】
まず、支持体としてのPETフィルム上に、内側グリーンシート用ペーストをドクターブレード法により、所定厚みで塗布し、乾燥することで、厚みが1.5μmのグリーンシートを作製した。
【0067】
次に、得られた内側グリーンシートの上に、内部電極ペーストを用いて、図4(A)に示す所定パターンの内部電極パターン層12aを形成した。
【0068】
一方、上記とは別に、外側グリーンシート用ペーストを用いて、PETフィルム上に、乾燥後の厚みが12μmとなるように外側グリーンシートを形成した後、PETフィルムからシートを剥離した。
【0069】
各外側グリーンシートの表面には、段差吸収層20を形成するための印刷ペーストを用いて、図4(B)に示すパターンの段差吸収層20をスクリーン印刷法で形成した。段差吸収層20の厚みは、5μmであった。段差吸収層20のW2/W1は、表1に示すように変化させたものを準備した。
【0070】
次いで、内部電極パターン層12aを形成した内側グリーンシート10aを複数積層して、焼成後に内層部13を構成することとなる内部積層体13aを形成した。さらに、この積層体13aの積層方向の上端面および下端面に、段差吸収層20が所定パターンで形成された外側グリーンシート11aを複数積層することにより、図7に示すグリーン積層体を得た。そして、得られたグリーン積層体4aを所定サイズに切断して、グリーンチップを得た。
【0071】
得られたグリーンチップを、固化乾燥することで、可塑剤を揮発させてグリーンチップを固化した。その後、グリーンチップに対してバレル研磨を行った。
グリーンチップの焼成等
【0072】
次に、得られたグリーンチップについて、脱バインダ処理、焼成及びアニールを下記の条件にて行い、焼結体を得た。
脱バインダは、昇温速度:15℃/時間、保持温度:280℃、保持時間:8時間、処理雰囲気:空気雰囲気、の条件で行った。
焼成は、昇温速度:200℃/時間、保持温度:1200〜1380℃、保持時間:2時間、降温速度:300℃/時間、処理雰囲気:還元雰囲気(酸素分圧:10−6PaにNとHとの混合ガスを水蒸気に通して調整した)の条件で行った。
アニールは、保持温度:900℃、保持時間:9時間、降温速度:300℃/時間、処理雰囲気:加湿したNガス雰囲気、の条件で行った。焼成及びアニールにおけるガスの加湿には、ウェッターを用い、水温は35℃とした。
【0073】
得られた焼結体の両端面をバレル研磨にて研磨した後、端子電極として焼結体(図1のコンデンサ素体4)の両側面に、端子電極ペースト膜(Cu、Ag等)を塗布し、これに焼き付け処理を行い、端子電極を形成して、図1に示す積層セラミックコンデンサの試料を得た。端子電極ペーストの焼成条件は、例えば、加湿したNとHとの混合ガス中で600〜800℃にて10分間〜1時間程度とした。得られた焼結体のサイズは、縦2.0mm×横1.2mm×高さ1.2mmであり、一対の内部電極層間に挟まれる内側誘電体層10の厚みは約1.2μm、内部電極層12の厚みは1.2μmであった。
【0074】
得られたコンデンササンプルに対して、以下の評価を行った。
破壊電圧(耐圧)
コンデンサ試料に対し、温度25℃において、直流電圧を昇温速度50V/sec.で印加し、10mAの電流が流れた時の誘電体層厚みに対する電圧値(単位:V/μm)を破壊電圧とし、破壊電圧を測定することにより、コンデンサ試料の耐圧を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
なお、表1では、W2/W1が1.00の場合における破壊電圧を100として相対評価した。
ボイド・積層ズレ
焼成前のグリーンチップのサンプル100個について、実体顕微鏡により、ボイドを観察した。ボイドに関しては、W2/W1が0、すなわち、外側グリーンシートには、何ら段差吸収層20を設けなかった場合において、ボイドが観察されたサンプルの個数と、±5%以内のものを△とし、それより少なくなったものを○、多くなったものを×と評価した。
【0076】
積層ズレに関しては、図7に示す積層体4aにおいて、積層ズレδが20μm以内のものを○とし、20μmよりも大きいものを×と判断した。これらの結果を表1に示す
【0077】
【表1】

【0078】
表1より、W2/W1が1より小さく、好ましくは0.55〜0.90の時に、破壊電圧特性が良好となり、ボイドが少なく、積層ズレも小さくなることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る積層セラミックコンデンサの概略断面図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿う断面図である。
【図3】図3は図1に示す積層セラミックコンデンサの製造過程におけるグリーンシートの積層工程を示す概略断面図である。
【図4】図4(A)は図3に示すIVA-IVA線に沿う内部電極層のパターンの一部を示す平面図、図4(B)は図3に示すIVB-IVB線に沿う段差吸収層のパターンの一部を示す平面図である。
【図5】図5は段差吸収層のパターンの全体を示す平面図である。
【図6】図6は図3の要部拡大断面図である。
【図7】図7は図3に示すグリーンシートを積層後の積層体の概略断面図である。
【図8】図8はそれぞれ本発明の他の実施形態に係るグリーンシートの積層工程を示す概略断面図である。
【図9】図9はそれぞれ本発明の他の実施形態に係るグリーンシートの積層工程を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0080】
2… 積層セラミックコンデンサ
4… コンデンサ素体
6… 第1端子電極
8… 第2端子電極
10… 内側誘電体層
10a… 内側グリーンシート
11… 外層部
11a… 外側グリーンシート
12… 内部電極層
12a… 内部電極パターン層
13… 内層部
13a… 内部積層体
20… 段差吸収層
40… 位置決めマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側グリーンシートを準備する工程と、
外側グリーンシートを準備する工程と、
前記外側グリーンシートを積層して外層部を形成する工程と、
所定の第1パターンの内部電極層を介して前記内側グリーンシートを積層して、前記外層部に連続する内層部を形成する工程と、を有する積層型電子部品の製造方法であって、
少なくとも一つの前記外側グリーンシートの表面には、前記第1パターンの隙間に対応する第2パターンの段差吸収層を、少なくとも前記第1パターンの長手方向に沿って形成し、
前記第2パターンのパターン幅W2が、前記第1パターンの隙間幅W1よりも小さく、
前記段差吸収層が前記外側グリーンシートに対して識別可能な着色が成されていることを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第2パターンのパターン幅W2が、前記第1パターンの隙間幅W1に対して、55〜90%の範囲内にある請求項1に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記第2パターンの段差吸収層は、前記内部電極層の引き出し部に対応して、前記第1パターンの短手方向にも形成される請求項1または2に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記外側グリーンシートの表面には、前記第2パターンの段差吸収層以外に、位置決め用マークが、前記段差吸収層と同時に形成される請求項1〜3のいずれかに記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記位置決め用マークが形成される表面と同一表面に、段差吸収層と同一パターンの切断予定線パターンが、前記段差吸収層を形成するためのペーストと同じペーストで形成される請求項4に記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−289958(P2009−289958A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140674(P2008−140674)
【出願日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】