説明

積層型電子部品

【課題】設計値から予測できない減衰極を制御して、所望する周波数に減衰極を有する積層型電子部品を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明に係る積層型電子部品100は、複数の絶縁基板D1からD16を積層してなる積層体を形成する積層型電子部品であって、前記積層体の側面に形成されたグランド用側面電極100a、100cまたは100eと、前記グランド用側面電極の幅w2よりも太い幅w1の引き出し線151〜156で前記のグランド用側面電極100a、100c及び100eと接続されるグランド電極パターン126、131が形成される絶縁基板D14、D16を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型電子部品に関し、特に高周波で使用される積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のローパスフィルタ回路は、第1のコイル素子L1と第1の容量素子C1とからなる第1の共振回路部分と、第2のコイル素子L2と第2の容量素子C2とからなる第2の共振回路部分とから構成され、第1のコイル素子L1のインダクタンスの値と第1の容量素子C1の容量の値から決まる周波数において第1の減衰極を発生させ、第2のコイル素子L2のインダクタンスの値と第2の容量素子C2の容量の値から決まる周波数において第2の減衰極を発生させ、かかる周波数帯の信号を遮断して、それよりも低周波数の信号を通過させている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−220312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のローパスフィルタ回路を用いた積層型電子部品を、例えば、携帯電話のようなGHz帯の周波数の電気信号を使用する機器で使用すると、設計値から予測できない減衰極が発生し、当該減衰極を制御することができなかった。
【0005】
本発明の目的は、上記課題を解決し、設計値から予測できない減衰極を制御して、所望する周波数に減衰極を有する積層型電子部品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層型電子部品は、複数の絶縁基板を積層してなる積層体を形成する積層型電子部品であって、前記積層体の側面に形成されたグランド用側面電極と、前記グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で前記のグランド用側面電極と接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板とを備える。
【0007】
本発明によれば、グランド用側面電極の幅よりも太い引き出し線で側面電極とグランド電極パターンが接続されるので、引き出し線で発生する寄生インダクタの値を小さくできる。その結果、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を高周波数側に移動させることができる。
【0008】
本発明に係る積層型電子部品において、前記グランド用側面電極が複数ある場合には、前記絶縁基板は、前記グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で前記複数のグランド用側面電極の少なくとも一部と接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板である。本発明によれば、グランド用側面電極が複数ある場合には、グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で、複数のグランド用側面電極の少なくとも1つと接続されていればよい。引き出し線で発生する寄生インダクタの1つでも小さくなれば、合成インダクタは小さくなるからである。この場合、残りの引き出し線の幅は、側面電極の幅以下となる。なお、グランド電極パターンは、グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で、全部のグランド用側面電極が接続されてもよい。この場合、残りの引き出し線の数はゼロとなる。
【0009】
本発明に係る積層型電子部品において、前記絶縁基板は、第1の引き出し線幅の引き出し線で前記複数のグランド用側面電極の少なくとも一部と接続され、残りのグランド用側面電極とは前記第1の引き出し線幅とは異なる引き出し線幅の引き出し線で接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板である。本発明によれば、グランド用側面電極とグランド電極パターンを接続する引き出し線の幅をグランド用側面電極ごとに任意に設定するので、各引き出し線による寄生インダクタの値を任意に制御できる。その結果、寄生インダクタの合成インダクタンスの値も制御できるので、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を任意に制御できる。
【0010】
本発明に係る積層型電子部品はさらに、一端が前記グランド電極パターンに接続される受動素子を形成する電極パターンが形成される第2の絶縁基板を備える。積層体内の絶縁基板に受動素子が形成されている場合は、グランド用側面電極とグランド電極パターン間の引き出し配線による寄生インダクタが受動素子に対して影響を与えるが、本発明によれば寄生インダクタによるインダクタンスを減少させることができるので、電気特性を良くする効果がある。
【0011】
本発明に係る積層型電子部品は、前記受動素子は容量素子である。グランド電極パターンが接続される受動素子が容量素子の場合は、容量素子の容量を変更することで、ほかの減衰極に影響を与えることなく減衰極を制御することは困難であるが、本発明によれば、容易に制御できる。
【0012】
本発明に係る積層型電子部品は、前記容量素子は、前記グランド電極パターンが容量素子を構成する一方の電極である容量素子である。本発明によれば、容量素子の一方の電極をグランド電極パターンと同一にすることにより、一方の電極とグランド電極パターン間の配線がなくなるため、寄生インダクタの発生を防止できる。また、絶縁基板を減らすことにより製造コストを下げることができる。
【0013】
本発明に係る積層型電子部品は、積層型電子部品はフィルタ回路またはダイプレクサ回路またはマルチプレクサ回路のいずれかを構成する。本発明は、マルチプレクサ回路、あるいはダイプレクサ回路、あるいはローパスフィルタに代表されるフィルタ回路、特に高周波用のローパスフィルタ回路に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態をいくつかの実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1の実施例に係るダイプレクサ100:
B.第2の実施例に係るローパスフィルタ200:
C.変形例:
【0015】
A.第1の実施例に係るダイプレクサ100:
図1から図3を参照して、第1の実施例に係るダイプレクサ100について説明する。図1は、第1の実施例に係るダイプレクサ100の外観を模式的に示す説明図である。図2は、第1の実施例に係るダイプレクサ100を構成する絶縁基板を展開して示す斜視図である。図3は、第1の実施例に係るダイプレクサ100の等価回路を示す説明図である。
【0016】
ダイプレクサ100は、複数の絶縁基板D1からD16を積層してなる積層体を形成している集積型電子部品であり、上から順に絶縁基板D1から絶縁基板D16までの16枚の絶縁基板で構成されている。積層体の側面には、絶縁基板D1から絶縁基板D16にまでわたる凹部が6つ形成され、凹部には側面電極100aから100fが形成されている。なお、図2に示す斜視図では、凹部は省略して図示してある。
【0017】
側面電極100a、100c、100eは、外部基板のグランド電極に接続されるグランド端子(GND)である。図3に示す等価回路において、側面電極100dは、ローパスフィルタ端子(LPF)102、側面電極100fは、ハイパスフィルタ端子(HPF)111、側面電極100bはアンテナ端子(ANT)105に相当する。
【0018】
絶縁基板D1は蓋であり、素子を形成する電極パターンは形成されておらず、絶縁基板D2から絶縁基板D16にかけて、コイル素子、容量素子、グランド電極を形成する電極パターンが形成されている。
【0019】
絶縁基板D2から絶縁基板D12には、図示しない電極パターンがそれぞれ形成されている。これら電極パターンは、それぞれ図3の等価回路に示す容量素子C7とC8とC10とコイル素子L7とL8とを形成する。
【0020】
以下、第1の実施例に係るダイプレクサ100における特徴的な構成要素である絶縁基板D13からD16について詳細に説明する。絶縁基板D13には、第1の電極パターン124と第2の電極パターン125とが形成され、絶縁基板D14には、第3の電極パターン126が形成され、絶縁基板D15には、第4の電極パターン128と第5の電極パターン129とが形成され、絶縁基板D16には第6の電極パターン131が形成されている。
【0021】
絶縁基板D13の第2の電極パターン125と絶縁基板D15の第5の電極パターン129とはスルーホール配線132で接続され、絶縁基板D14の第3の電極パターン126と絶縁基板D16の第6の電極パターン131とはスルーホール配線133で接続されている。
【0022】
第1の電極パターン124と第3の電極パターン126とが重なる部分、及び第3の電極パターン126と第4の電極パターン128とが重なる部分、及び第4の電極パターン128と第6の電極パターン131とが重なる部分には図3の等価回路に示す容量素子C6が形成されている。第2の電極パターン125と第3の電極パターン126とが重なる部分、及び第3の電極パターン126と第5の電極パターン129とが重なる部分、及び第5の電極パターン129と第6の電極パターン131とが重なる部分には、図3の等価回路に示す容量素子C9が形成されている。
【0023】
第3の電極パターン126は、引き出し線151、152、153により側面電極100a、100c及び100eに接続されている。側面電極100a、100c及び100eは、外部基板のグランドに接続されるグランド電極であることから、第3の電極パターン126はグランド電極である。ここで、引き出し線151、152、153の幅w1は、側面電極100a、100c及び100eの幅w2よりも太い。
【0024】
また、第6の電極パターン131は、引き出し線154、155、156により側面電極100a、100c及び100eに接続されている。側面電極100a、100c及び100eは、外部基板のグランドに接続されているグランド電極であることから、第6の電極パターン131はグランド電極である。ここで、引き出し線154、155、156の幅w1は、側面電極100a、100c及び100eの幅w2よりも太い。
【0025】
図2及び図4を参照して、第1の実施例に係るダイプレクサと従来のダイプレクサ400の構造の違いを比較する。図4は、従来のダイプレクサ400を構成する絶縁基板E1からE16を展開して示す斜視図である。
【0026】
従来のダイプレクサ400は、積層体の側面に側面電極400aから400fが形成されている点、絶縁基板E13上に第1の電極パターン424と第2の電極パターン425が形成され、絶縁基板E14上に第3の電極パターン426が形成され、絶縁基板E15上に第4の電極パターン428と第5の電極パターン429が形成され、絶縁基板E16上に第6の電極パターン431が形成されている点、第2の電極パターン425と第5の電極パターン429とがスルーホール配線432で接続され、第3の電極パターン426と第6の電極パターン431とがスルーホール配線433で接続されている点は同じである。
【0027】
しかし、従来のダイプレクサ400では、側面電極の幅w2よりも細い幅w3の引き出し線451、452、453により、第3の電極パターン426とグランド用側面電極400a、400c、400eとが接続され、側面電極の幅w2よりも細い幅w3の引き出し線454、455、456により、第6の電極パターン431とグランド用側面電極400a、400c、400eとが接続されている。
【0028】
従来のダイプレクサ400において、引き出し線451から456は、長さと幅のある配線であるから、それぞれ寄生インダクタLs9'からLs14'が発生する。一方、第1の実施例に係るダイプレクサ100でも引き出し線151から156には寄生インダクタLs9からLs14が発生する。したがって、第1の実施例に係るダイプレクサ100と従来のダイプレクサ400とでは、発生する寄生インダクタの数は変わりがない。
【0029】
しかし、上述したように、従来のダイプレクサ400の引き出し線451から456の幅w3は、側面電極400a、400cまたは400eの幅w2よりも細いのに対し、第1の実施例に係るダイプレクサ100では、引き出し線151から156の幅w1は、側面電極100a、100cまたは100eの幅w2より太い。
【0030】
そこで、対応するインダクタの大きさを比較すると、第1の実施例に係るダイプレクサ100の引き出し線の幅w1>側面電極の幅w2>従来のダイプレクサ400の引き出し線の幅w3、であるから、寄生インダクタLs9のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs9'のインダクタンスの大きさ、寄生インダクタLs10のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs10'のインダクタンスの大きさ、寄生インダクタLs11のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs11'のインダクタンスの大きさ、寄生インダクタLs12のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs12'のインダクタンスの大きさ、寄生インダクタLs13のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs13'のインダクタンスの大きさ、寄生インダクタLs14のインダクタンスの大きさ<寄生インダクタLs14'のインダクタンスの大きさ、となる。
【0031】
したがって、第1の実施例に係るダイプレクサ100の6つの寄生インダクタ(Ls9からLs14)の合成インダクタンスの値は、従来のダイプレクサ400の6つの寄生インダクタ(Ls9'からLs14')の合成インダクタンスの値より小さい。
【0032】
図5を用いて、第1の実施例に係るダイプレクサと従来のダイプレクサの電気特性の違いを説明する。図5は、第1の実施例に係るダイプレクサ100と従来のダイプレクサ400の電気特性を比較するグラフである。図5において、横軸は周波数、縦軸は減衰量を示している。曲線Aが第1の実施例に係るダイプレクサ100の電気特性であり、曲線Bが従来のダイプレクサ400の電気特性である。第1の実施例に係るダイプレクサ100の電気特性を従来のダイプレクサ400の電気特性と比較すると、従来のダイプレクサ400では6.5GHz付近にあった減衰極が、第1の実施例に係るダイプレクサ100では7.5GHz付近に移動している。しかし、約3GHzまでの周波数帯域においては、第1の実施例に係るダイプレクサ100と従来のダイプレクサ400の電気特性(減衰特性)は変わりがない。したがって、第1の実施例に係るダイプレクサ100によれば、3GHzまでの低周波数帯における電気特性に影響を与えることなく、6.5GHz付近の高周波数帯で発生する減衰極を制御できる。
【0033】
すなわち、第1の実施例に係るダイプレクサ100の寄生インダクタの合成インダクタンスは、従来のダイプレクサ400の寄生インダクタの合成インダクタンスよりも小さくなり、寄生インダクタの合成インダクタンスによる共振周波数が大きくなり、6.5GHz付近にあった減衰極が、7.5GHz付近に移動する。しかし、寄生インダクタは、約3GHzまでの低周波数帯における電気特性には影響を与えないため、所望する周波数域に減衰極を有する積層型電子部品を得ることができる。
【0034】
以上説明したように、第1の実施例に係るダイプレクサ100では、絶縁基板上のグランド電極パターンとグランド用側面電極を接続する引き出し線の幅w1が側面電極の幅w2よりも太い。その結果、絶縁基板上のグランド電極パターンとグランド用側面電極を接続する引き出し線による寄生インダクタのインダクタンスの値が小さくなり、寄生インダクタの合成インダクタンスの値も小さくなり、寄生インダクタによる減衰極を高周波数側に移動させることができる。すなわち、絶縁基板上のグランド電極パターンとグランド用側面電極を接続する引き出し線の幅を制御することにより、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を制御することができる。この場合に、3GHzまでの周波数帯における減衰量、減衰特性は、ほぼ同じであり、ダイプレクサ100の3GHzまでの低周波数帯における電気特性を損なうことなく、寄生インダクタにより6.5GHz付近の高周波帯で発生する減衰極を制御できる。
【0035】
第1の実施例によれば、受動素子が容量素子であっても低周波数領域、例えば約3GHzにおける減衰特性(電気特性)に影響を与えることなく高周波数領域、例えば6.5GHz付近の減衰極を制御できる。一般的に、受動素子が容量素子の場合であっても容量素子の容量を変更すれば、高周波数領域の減衰極は制御できるが、容量を変更して減衰極を制御しようとすると、低周波数領域の減衰特性も変わってしまう。すなわち、容量素子の容量の変更によっては、低周波数領域の電気特性(減衰特性)に影響を与えることなく高周波数領域の減衰極を制御することは困難である。また、受動素子が容量素子の場合には、容量素子を構成する電極の一方をグランド電極パターンと同一にすれば、容量素子を構成する電極の一方とグランド電極パターンの間の配線による寄生インダクタの発生を抑制できるために、特に有効である。また、製造コストも下げることができる。
【0036】
なお、第1の実施例における極値は例示であり、ダイプレクサ回路を構成するコイル素子のインダクタンスの値、あるいは容量素子の容量の値により、減衰極の発生周波数は低い周波数または高い周波数へと変わり、さらに、電気特性(減衰特性)も変わり得るのはいうまでもない。
【0037】
B.第2の実施例に係るローパスフィルタ200:
図6から図8を参照して、第2の実施例に係るローパスフィルタ200について説明する。図6は、第2の実施例に係るローパスフィルタ200の外観を模式的に示す説明図である。図7は、第2の実施例に係るローパスフィルタ200を構成する絶縁基板を展開して示す斜視図である。図8は、第2の実施例に係るローパスフィルタ200の等価回路を示す説明図である。
【0038】
ローパスフィルタ200は、複数の絶縁基板F1からF7を積層してなる積層体状の集積型電子部品であり、上から順に絶縁基板F1から絶縁基板F7までの7枚の絶縁基板で構成されている。積層体の側面には、絶縁基板F1から絶縁基板F7にまでわたる凹部が6つ形成され、凹部には側面電極200aから200fが形成されている。なお、図7に示す斜視図では、凹部は省略して図示してある。
【0039】
側面電極200a、200b、200c、200eは、外部基板のグランド電極に接続されるグランド端子(GND)である。側面電極200dは、図8に示す等価回路において、ローパスフィルタ200の入力端子(IN)203、側面電極200fはローパスフィルタ200の出力端子(OUT)204に相当する。
【0040】
絶縁基板F1は、蓋であり、電極パターンは形成されておらず、絶縁基板F2から絶縁基板F7にかけて、コイル素子、容量素子が形成される。
【0041】
絶縁基板F2から絶縁基板F5には、図示しない電極パターンがそれぞれ形成されている。これらの電極パターンは、図8に示す容量素子C1とC2及びコイル素子L1とL2とを形成する。
【0042】
絶縁基板F6には第1の電極パターン216と第2の電極パターン217と第3の電極パターン218とが形成され、絶縁基板F7には第4の電極パターン220が形成されている。
【0043】
第1の電極パターン216と第4の電極パターン220とが重なる部分で図8に示す容量素子C3が形成され、第2の電極パターン217と第4の電極パターン220とが重なる部分で図8に示す容量素子C5が形成され、第3の電極パターン218と第4の電極パターン220とが重なる部分で図8に示す容量素子C4が形成されている。
【0044】
第1の電極パターン216は、側面電極200dに接続されている。側面電極200dは、上述したとおりローパスフィルタ200の入力端子203である。第2の電極パターン217は、側面電極200fに接続されている。側面電極200fは、上述したとおりローパスフィルタの出力端子204である。第3の電極パターン218は、スルーホール配線(図示せず)で絶縁基板F2から絶縁基板F5上に形成されている容量素子C1、C2及びコイル素子L1、L2(図示せず)と接続されている。
【0045】
第4の電極パターン220は、側面電極200a、200b、200c及び200eに接続されている。側面電極200a、200b、200c及び200eは、外部基板のグランド電極に接続されるグランド電極であることから、第4の電極パターン220はグランド電極である。第4の電極パターン220と側面電極200a、200b、200c及び200eとを接続する引き出し線の幅w4は、側面電極200a、200b、200cまたは200eの幅w5よりも太い。
【0046】
図7及び図9を参照して、第2の実施例に係るローパスフィルタ200と従来のローパスフィルタ300との構造の違いを比較する。図9は、従来のローパスフィルタ300を構成する絶縁基板を展開して示す斜視図である。
【0047】
従来のローパスフィルタ300は、積層体の側面に側面電極300aから300fが形成されている点、絶縁基板G6上に第1の電極パターン316と第2の電極パターン317と第3の電極パターン318が形成され、絶縁基板G7上に第4の電極パターン320が形成されている点は同じである。
【0048】
しかし、従来のローパスフィルタ300では、側面電極の幅w5よりも細い幅w6の引き出し線351、352、353、354により、第4の電極パターン320とグランド用側面電極300a、300b、300c、300eとが接続されている。
【0049】
従来のローパスフィルタ300において、引き出し線351から354は、長さと幅のある配線であるから、それぞれ寄生インダクタLs3'からLs6'が発生する。一方、第2の実施例に係るローパスフィルタ200でも、引き出し線251から254には、寄生インダクタLs3からLs6が発生する。したがって、第2の実施例に係るローパスフィルタ200と従来のローパスフィルタ300とでは、寄生インダクタの数は変わらない。
【0050】
しかし、上述したように、従来のローパスフィルタ300の引き出し線351から354の幅w6は、側面電極300a、300b、300cまたは300eの幅w5よりも細いのに対し、第2の実施例に係るローパスフィルタ200では、引き出し線251から254の幅w4は、側面電極200a、200b、200cまたは200eの幅w5より太い。
【0051】
そこで、対応するインダクタの値を比較すると、第2の実施例に係るローパスフィルタ200の引き出し線の幅w4>側面電極の幅w5>従来のローパスフィルタ300の引き出し線の幅w6、であるから、寄生インダクタLs3のインダクタンスの値<寄生インダクタLs3'のインダクタンスの値、寄生インダクタLs4<寄生インダクタLs4'のインダクタンスの値、寄生インダクタLs5<寄生インダクタLs5'のインダクタンスの値、寄生インダクタLs6<寄生インダクタLs6'のインダクタンスの値、となる。
【0052】
したがって、第2の実施例に係るローパスフィルタ200の4つの寄生インダクタ(Ls3からLs6まで)の合成インダクタンスの値は、従来のローパスフィルタ300の4つの寄生インダクタ(Ls3'からLs6')の合成インダクタンスの値より小さい。
【0053】
図10を用いて、第2の実施例に係るローパスフィルタ200と従来のローパスフィルタ300の電気特性の違いを説明する。図10は、第2の実施例に係るローパスフィルタ200と従来のローパスフィルタ300の電気特性を比較するグラフである。図10において、横軸は周波数、縦軸は減衰量を示している。曲線Aが第2の実施例に係るローパスフィルタ200の電気特性であり、曲線Bが従来のローパスフィルタ300の電気特性である。第2の実施例に係るローパスフィルタ200の電気特性を従来技術のローパスフィルタ300の電気特性と比較すると、従来のローパスフィルタ300では6GHz付近にあった減衰極が、第2の実施例に係るローパスフィルタ200では、6.5GHz付近に移動している。しかし、約4GHzまでの周波数帯域においては、第2の実施例に係るローパスフィルタ200と従来のローパスフィルタ300の電気特性(減衰特性)は変わりがない。したがって、第2の実施例に係るローパスフィルタ200によれば、4GHzまでの低周波数帯における電気特性に影響を与えることなく、6GHz付近の高周波数帯で発生する減衰極を制御できる。
【0054】
すなわち、第2の実施例に係るローパスフィルタ200の寄生インダクタの合成インダクタンスは、従来のローパスフィルタ300の寄生インダクタの合成インダクタンスよりも小さくなり、寄生インダクタの合成インダクタンスによる共振周波数が大きくなり、6GHz付近にあった減衰極が、6.5GHz付近に移動する。しかし、寄生インダクタは、約4GHzまでの低周波数帯における電気特性には影響を与えないため、所望する周波数域に減衰極を有する積層型電子部品を得ることができる。
【0055】
以上説明したように、第2の実施例に係るローパスフィルタ200でも第1の実施例に係るダイプレクサ100と同様の効果が得られている。したがって、受動素子を備えた電子部品であれば、ダイプレクサ回路、フィルタ回路に限らず、例えば、マルチプレクサ回路でも効果がある。
【0056】
なお、第2の実施例における極値は例示であり、ローパスフィルタ回路を構成するコイル素子のインダクタンスの値、あるいは容量素子の容量の値により、減衰極の発生周波数は低い周波数または高い周波数へと変わり、さらに、電気特性(減衰特性)も変わり得るのはいうまでもない。
【0057】
C.変形例:
(1)第1の実施例及び第2の実施例においては、グランド電極パターンと側面電極とを接続する引き出し線の幅はすべて同幅で、側面電極の幅よりも太いとして説明したが、任意の引き出し線のみを側面電極の幅よりも太くし、その他の引き出し線の幅を側面電極の幅以下にしてもよい。この場合であっても当該引き出し線による寄生インダクタのインダクタンスの値は小さくなるので、寄生インダクタの合成インダクタンスは小さくなり、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を高周波側に移動させることができる。
【0058】
(2)引き出し線のグランド用側面電極とグランド電極パターンを接続する引き出し線が複数ある場合には、少なくとも一部の引き出し線の幅を他の引き出し線の幅と変えてもよい。例えば、第1の実施例及び第2の実施例では、引き出し線の幅をグランド用側面電極の幅よりも太くしているが、一部の引き出し線の幅をグランド用側面電極の幅よりも細いが、他の引き出し線の幅よりも太くしてもよい。この場合であっても当該引き出し線による寄生インダクタのインダクタンスの値は小さくなるので、寄生インダクタの合成インダクタンスは小さくなり、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を高周波側に移動させることができる。
【0059】
(3)第1の実施例及び第2の実施例では、引き出し線の幅をグランド用側面電極の幅よりも太くしているが、一部の引き出し線の幅を、他の引き出し線の幅よりも細くしてもよい。この場合には、当該引き出し線による寄生インダクタのインダクタンスの値は大きくなるので、寄生インダクタの合成インダクタンスは大きくなり、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を低周波側に移動させることができる。
【0060】
したがって、変形例(2)(3)によれば、引き出し線の幅を、引き出し線ごとに任意に変えることも可能であり、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を所望の周波数に制御することも可能である。
【0061】
(4)第1の実施例及び第2の実施例では引き出し線の幅を変えているが、引き出し線の幅だけでなく長さを変えてもよい。寄生インダクタのインダクタンスの値は、引き出し線の幅だけでなく長さにも影響を受けるため、引き出し線の長さを、引き出し線ごとに任意に変えることにより、あるいは、引き出し線の長さと幅を任意に調整することにより、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数を所望の周波数に制御することも可能である。
【0062】
(5)第1の実施例及び第2の実施例では、積層体の側面に凹部を形成し凹部に側面電極を形成しているが、凹部を形成せずに、側面電極を形成してもよい。引き出し線の幅、長さが同じであれば、凹部の有無は、寄生インダクタに影響を与えないため、凹部の有無により、寄生インダクタによる減衰極の発生周波数は変わらないからである。
【0063】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】第1の実施例に係るダイプレクサの外観を模式的に示す説明図。
【図2】第1の実施例に係るダイプレクサを構成する絶縁基板を展開して示す斜視図。
【図3】第1の実施例に係るダイプレクサの等価回路を示す説明図。
【図4】従来のダイプレクサを構成する絶縁基板を展開して示す斜視図。
【図5】第1の実施例に係るダイプレクサと従来のダイプレクサの電気特性を比較するグラフ。
【図6】第2の実施例に係るローパスフィルタの外観を模式的に示す説明図。
【図7】第2の実施例に係るローパスフィルタを構成する絶縁基板を展開して示す斜視図。
【図8】第2の実施例に係るローパスフィルタの等価回路を示す説明図。
【図9】従来のローパスフィルタを構成する絶縁基板を展開して示す斜視図。
【図10】第2の実施例に係るローパスフィルタと従来のローパスフィルタの電気特性を比較するグラフ。
【符号の説明】
【0065】
100...第1の実施例に係るダイプレクサ
102...第1の実施例に係るダイプレクサ100のローパスフィルタ(LPF)端子
105...第1の実施例に係るダイプレクサ100のアンテナ(ANT)端子
111...第1の実施例に係るダイプレクサ100のハイパスフィルタ(HPF)端子
124...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第1の電極パターン
125...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第2の電極パターン
126...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第3の電極パターン
128...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第4の電極パターン
129...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第5の電極パターン
131...第1の実施例に係るダイプレクサ100の第6の電極パターン
132...電極パターン125と電極パターン129とを接続するスルーホール配線
133...電極パターン126と電極パターン131とを接続するスルーホール配線
151〜156...引き出し線
200...第2の実施例に係るローパスフィルタ
200a〜200f...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の側面電極
202...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の入力端子
203...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の出力端子
216...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の第1の電極パターン
217...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の第2の電極パターン
218...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の第3の電極パターン
220...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の第4の電極パターン
251〜254...引き出し線
300...従来のローパスフィルタ
316...従来のローパスフィルタ300の第1の電極パターン
317...従来のローパスフィルタ300の第2の電極パターン
318...従来のローパスフィルタ300の第3の電極パターン
320...従来のローパスフィルタ300の第4の電極パターン
351〜354引き出し線
300a〜300f...従来のローパスフィルタ300の側面電極
400...従来のダイプレクサ
424...従来のダイプレクサ400の第1の電極パターン
425...従来のダイプレクサ400の第2の電極パターン
426...従来のダイプレクサ400の第3の電極パターン
428...従来のダイプレクサ400の第4の電極パターン
429...従来のダイプレクサ400の第5の電極パターン
431...従来のダイプレクサ400の第6の電極パターン
432...電極パターン425と電極パターン429とを接続するスルーホール配線
433...電極パターン426と電極パターン431とを接続するスルーホール配線
451〜456...引き出し線
400a〜400f...従来のダイプレクサ400の側面電極
C1〜C10...容量素子
D1〜D16...第1の実施例に係るダイプレクサ100の絶縁基板
E1〜E16...従来のダイプレクサ400の絶縁基板
F1〜F7...第2の実施例に係るローパスフィルタ200の絶縁基板
G1〜G7...従来のローパスフィルタ300の絶縁基板
L1、L2、L7、L8...コイル素子
Ls3〜Ls6、Ls9〜Ls14...寄生インダクタ
w1...第1の実施例に係るダイプレクサ100のグランド電極パターンと側面電極を接続する引き出し線の幅
w2...ダイプレクサの側面電極の幅
w3...従来のダイプレクサ400のグランド電極パターンと側面電極を接続する引き出し線の幅
w4...第2の実施例に係るローパスフィルタ200のグランド電極パターンと側面電極を接続する引き出し線の幅
w5...ローパスフィルタの側面電極の幅
w6...従来のローパスフィルタ300のグランド電極パターンと側面電極を接続する引き出し線の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の絶縁基板を積層してなる積層体を形成する積層型電子部品であって、
前記積層体の側面に形成されたグランド用側面電極と、
前記グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で前記のグランド用側面電極と接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板と、
を備える、積層型電子部品。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型電子部品において、
前記グランド用側面電極が複数ある場合には、前記絶縁基板は、前記グランド用側面電極の幅よりも太い幅の引き出し線で前記複数のグランド用側面電極の少なくとも一部と接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板である、積層型電子部品。
【請求項3】
請求項2に記載の積層型電子部品において、
前記絶縁基板は、第1の引き出し線幅の引き出し線で前記複数のグランド用側面電極の少なくとも一部と接続され、残りのグランド用側面電極とは前記第1の引き出し線幅とは異なる引き出し線幅の引き出し線で接続されるグランド電極パターンが形成される絶縁基板である、積層型電子部品。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の積層型電子部品はさらに、
一端が前記グランド電極パターンに接続される受動素子を形成する電極パターンが形成される第2の絶縁基板を備える、積層型電子部品。
【請求項5】
請求項4に記載の積層型電子部品において、
前記受動素子は容量素子である、積層型電子部品。
【請求項6】
請求項5に記載の積層型電子部品において、
前記容量素子は、前記グランド電極パターンが容量素子を構成する一方の電極である容量素子である、積層型電子部品。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の積層型電子部品において、積層型電子部品はフィルタ回路またはダイプレクサ回路またはマルチプレクサ回路のいずれかを構成する、積層型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−258534(P2007−258534A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82554(P2006−82554)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】