説明

積層多孔質フィルム及び非水電解液二次電池

【課題】積層多孔質フィルム及び非水電解液二次電池を提供する。
【解決手段】積層多孔質フィルムは、ポリオレフィンを主成分とする基材多孔質フィルムの片面又は両面にバインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムであって、バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分が、前記基材多孔質フィルム内部に、前記耐熱層と接触するように形成され、かつ、該存在部分の合計厚みが基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上20%以下である。非水電解液二次電池は、前記積層多孔質フィルムをセパレータとして含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層多孔質フィルムに関し、更に詳しくは非水電解液二次電池用セパレータとして好適な積層多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解液二次電池、特にリチウム二次電池は、エネルギー密度が高いのでパーソナルコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末などに用いる電池として広く使用されている。
【0003】
これらのリチウム二次電池に代表される非水電解液二次電池は、エネルギー密度が高く、電池の破損あるいは電池を用いている機器の破損により内部短絡または外部短絡が生じた場合には、大電流が流れて発熱することがある。そのため、非水電解液二次電池には一定以上の発熱を防止し、高い安全性を確保することが求められている。
安全性の確保手段として、異常発熱の際に、セパレータにより、正−負極間のイオンの通過を遮断して、さらなる発熱を防止するシャットダウン機能を持たせる方法が一般的であり、セパレータとして異常発熱時に溶融できるポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムを用いる方法が挙げられる。該セパレータを用いた電池は、異常発熱時に前記多孔質フィルムが溶融および無孔化することにより、イオンの通過を遮断し、さらなる発熱を抑制することができる。
【0004】
シャットダウン機能を有するセパレータとしては例えば、ポリオレフィン製の多孔質フィルムが用いられる。該多孔質フィルムからなるセパレータは、電池の異常発熱時には、約80〜180℃で溶融および無孔化することでイオンの通過を遮断(シャットダウン)することにより、さらなる発熱を抑制する。しかしながら、場合によっては、ポリオレフィンの多孔質フィルムからなるセパレータは、収縮や破膜等により、正極と負極が直接接触して、短絡を起こすおそれがある。ポリオレフィンの多孔質フィルムからなるセパレータは、形状安定性が不十分であり、短絡による異常発熱を抑制できない場合がある。
【0005】
一方で、上述の多孔質フィルム(以下、「基材多孔質フィルム」と称す場合がある。)に耐熱性のある材質からなる耐熱層を積層することにより、セパレータに高温での形状安定性を付与する方法が検討されている。このような耐熱性の高いセパレータとして、例えば、再生セルロース膜を有機溶媒に浸漬させて多孔化した後、基材多孔質フィルムと積層したセパレータや、微粒子と水溶性ポリマーと水とを含む塗工スラリーを基材多孔質フィルム表面に塗工し、乾燥した積層多孔質フィルムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
このような積層多孔質フィルムは、無機フィラーとバインダー樹脂とを含む塗工スラリーを、基材多孔質フィルム表面に均一に塗工して製造しているが、この塗工工程において塗工スラリーが基材多孔質フィルムに浸透してしまうと、塗工スラリーの成分であるバインダー樹脂が基材多孔質フィルム内部に入り込むため、基材多孔質フィルムのイオン透過性やシャットダウン性が低下するなど、基材多孔質フィルムの本来の性質が維持できなくなるという問題がある。
また、積層多孔質フィルム用の基材多孔質フィルムは、セパレータとして用いたときにより高いイオン透過性を得るために、高い空隙率(例えば、50%以上)を有することが好適であるが、基材多孔質フィルムでは、上述の塗工工程において、塗工スラリーの基材多孔質フィルム内部への浸透が生じた場合、浸透した塗工スラリー中の溶媒成分が気化するに際して生じる収縮応力によって、基材多孔質フィルムに収縮が生じ、高い空隙率を保持できなくなるために、得られる積層多孔質フィルムの特性は、基材多孔質フィルムの本来の特性から予想されるものよりも低くなるといった課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−3898号公報
【特許文献2】特開2004−227972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、基材となるポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムの表面に、バインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムであって、多孔質フィルムのイオン透過性やシャットダウン性を維持できる積層多孔質フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、次を提供する。
<1> ポリオレフィンを主成分とする基材多孔質フィルムの片面又は両面にバインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムであって、
バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分が、前記基材多孔質フィルム内部に、前記耐熱層と接触するように形成され、かつ、該存在部分の合計厚みが基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上20%以下である積層多孔質フィルム。
<2> 前記基材多孔質フィルムと前記耐熱層との界面を基準とした、前記バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚みが、基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上10%以下である<1>の積層多孔質フィルム。
<3> 前記基材多孔質フィルム内部におけるバインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分の厚みが、7μm以上である<1>又は<2>の積層多孔質フィルム。
<4> 前記バインダー樹脂が、水溶性ポリマーである<1>から<3>のいずれかの積層多孔質フィルム。
<5> 前記バインダー樹脂が、セルロースエーテルである<4>の積層多孔質フィルム。
<6> 前記フィラーが、無機フィラーである<1>から<5>のいずれかの積層多孔質フィルム。
<7> 前記無機フィラーが、アルミナである<6>の積層多孔質フィルム。
<8> 前記耐熱層を構成するバインダー樹脂、フィラー及び溶媒を含み、かつ、ポリエチレンシートとの接触角が60°以上である塗工スラリーを、該塗工スラリーとの接触角が65°以下になるように表面処理した前記基材多孔質フィルムの表面に塗工し、溶媒を除去することにより得られる<1>から<7>のいずれかの積層多孔質フィルム。
<9> <1>から<8>のいずれかの積層多孔質フィルムをセパレータとして含む非水電解液二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオン透過性(透気性)やシャットダウン性に優れ、かつ、加熱時の形状維持性に優れた、非水電解液二次電池のセパレータとして好適な積層多孔質フィルムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<積層多孔質フィルム>
本発明は、ポリオレフィンを主成分とする基材多孔質フィルムの片面又は両面にバインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムを提供する。バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分が、前記基材多孔質フィルム内部に、前記耐熱層と接触するように形成され、かつ、該存在部分の合計厚みが基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上20%以下である。
【0012】
基材多孔質フィルム(以下、「A層」と称す場合がある)は、その内部に連結した細孔を有する構造を持ち、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能である。
A層は、高温になると溶融して無孔化する性質があるため、積層多孔質フィルムをセパレータとして使用したときには、電池の異常発熱時に、溶融して無孔化することにより、積層多孔質フィルムにシャットダウンの機能を付与する。
耐熱層(以下、「B層」と称す場合がある)は、基材多孔質フィルムが無孔化する温度における耐熱性を有しており、積層多孔質フィルムに形状維持性の機能を付与する。B層はバインダー樹脂とフィラーを含む塗工スラリーをA層に塗工し、溶媒を除去して製造することができる。
【0013】
B層を形成する塗工工程において、塗工スラリーがA層の内部に過剰に浸透すると、塗工スラリーの成分であるフィラーやバインダー樹脂がA層に入り込むことにより、A層のイオン透過性が低下したり、シャットダウン機能を阻害したりすることがある。積層多孔質フィルムは、A層内部における、バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の合計厚みがA層全体の厚みの20%以下、好ましくは16%以下であるため、上述のフィラーやバインダー樹脂に起因するA層のイオン透過性低下を実質的に抑制することができ、さらにシャットダウン性の阻害は生じにくくなる。
【0014】
上記の「A層内部におけるバインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分」(以下、単に「存在部分」と称す場合がある。)は、A層の内部に浸透した塗工スラリーが固化することによって形成されるため、前記存在部分は、A層の内部に耐熱層(B層)と接触するように形成されている。そして、アンカー効果によりA層とB層との接着性を高める作用を有するが、前記存在部分の合計厚みが、A層全体の厚みの1%以上、好ましくは2%以上であると、B層が剥離することを抑制できる。前記存在部分の合計厚みが、1%未満であると、A層とB層の接着性が不足して、B層が剥離し易くなる。
【0015】
なお、前記存在部分は、A層の両面にB層が形成されている場合にはA層の両側に存在するが、この場合の上記存在部分の厚みの範囲は、A層の両側のそれぞれに形成された、バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚みの合計とする。
なお、「(A層内部における)バインダー樹脂及びフィラーの存在部分」は、積層多孔質フィルムの断面を、倍率5000倍のSEMにて観察した際に、A層内部においてバインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方が観察される部分を意味する。SEM観察用の断面の作製方法としては、断面を得ることができれば制限はなく、積層多孔質フィルムの加工のしやすさによって適宜選択される。具体的には積層多孔質フィルムをそのまま、または必要に応じてA層の孔に樹脂等の充填剤を充填した試料を用いて、剃刀やミクロトームでの切断、液体窒素中での割断、ArイオンビームやGaイオンビームでの切断などの方法がある。
断面のSEM観察において、ポリオレフィンを主成分とするA層とバインダー樹脂とのコントラストの差が小さく、バインダー樹脂の分布の観察が困難な場合には、バインダー樹脂を電子染色することにより、コントラスト差をつけて観察を行う。電子染色剤としては、四酸化ルテニウムや四酸化オスミウムが一般に用いられる。
なお、積層多孔質フィルムにおけるA層の全体厚みは、上述の方法で得られた断面をSEM観察して得られた値とする。
【0016】
また、A層とB層との界面を基準とした、上記バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚みが、A層全体の厚みの1%以上10%以下であることが好ましい。なお、「A層とB層との界面」は、具体的には積層多孔質フィルムの断面におけるA層とB層との界面を倍率5000倍のSEMにて観察した際に観察されるA層の輪郭を基準とする。SEM観察用の断面の作製方法、観察方法は上述の方法に準ずる。
ここで、「A層とB層との界面を基準とした、(バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の)存在部分の厚み」は、A層の両面にB層が形成されている場合には、A層両面のそれぞれの界面からの前記存在部分の厚みを意味し、それぞれの界面からの前記存在部分の厚みがA層全体の厚みの1%以上10%以下であることが好ましい。
また、積層多孔質フィルムにおいて、A層の片面にB層が形成されている場合には、「A層とB層との界面を基準とした、前記バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚み」は、A層内部におけるバインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の合計厚みと一致する。
上記A層とB層との界面を基準とした、A層内部におけるバインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚みが、上述の範囲であれば、A層とB層の接着性、およびシャットダウン性能により優れた積層多孔質フィルムが得られる。
【0017】
なお、上述の積層多孔質フィルムは、好適には、B層を構成するバインダー樹脂及びフィラーを含み、かつ、ポリエチレンシートとの接触角が60°以上である塗工スラリーを、該塗工スラリーとの接触角が65°以下になるように表面処理したA層の表面に塗工し、溶媒を除去することにより得ることができる。詳細な方法については後述する。
【0018】
また、基材多孔質フィルム(A層)内部におけるバインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分の厚みが、7μm以上であることが好ましい。
なお、「バインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分」とは、積層多孔質フィルムの断面を、倍率5000倍のSEMにて観察した場合に、A層内部においてフィラー及びバインダー樹脂が観察されない部分をいう。SEM観察用の断面の作製方法や、バインダー樹脂、フィラーの観察方法は上述の方法に準ずる。
【0019】
積層多孔質フィルムは、A層の片面又は両面にB層が積層された構造を有する。B層がA層の片面に積層された態様は積層工程が簡略化できる点で好ましく、また、B層がA層の両面に積層された態様は作製した積層多孔質フィルムがカールしにくくなり、ハンドリングの点で好ましい。
【0020】
積層多孔質フィルム全体(A層+B層)の厚みは、通常、9〜80μmであり、好ましくは、10〜50μmであり、特に好ましくは12〜35μmである。厚みが厚すぎると、非水電解液二次電池のセパレータとして用いたときに電池の電気容量が小さくなる傾向にある。
【0021】
また、積層多孔質フィルム全体の空隙率は、通常、30〜85体積%であり、好ましくは35〜80体積%である。
また、積層多孔質フィルムの透気度は、ガーレ値で50〜2000秒/100ccが好ましく、50〜1000秒/100ccがより好ましい。
このような範囲の透気度であると、積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水電解液二次電池を製造した場合、十分なイオン透過性を示し、電池として高い負荷特性が得られる。
【0022】
シャットダウンが生じる高温における、積層多孔質フィルムの加熱形状維持率としてはMD方向又はTD方向のうちの小さい方の値が、好ましくは95%以上であり、より好ましくは97%以上である。ここで、MD方向とは、シート成形時の長尺方向、TD方向とはシート成形時の幅方向のことをいう。なお、シャットダウンが生じる高温とは80〜180℃の温度であり、通常は130〜150℃程度である。
【0023】
なお、積層多孔質フィルムには、基材多孔質フィルムと耐熱層以外の、例えば、接着膜、保護膜等の多孔膜が本発明の目的を著しく損なわない範囲で含まれていてもよい。
以下、基材多孔質フィルム(A層)、耐熱層(B層)、並びに積層多孔質フィルムについて、これらの物性およびこれらを製造する方法について詳細に説明する。
【0024】
<基材多孔質フィルム(A層)>
A層は、その内部に連結した細孔を有する構造を持ち、一方の面から他方の面に気体や液体が透過可能であり、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであり、積層多孔質フィルムの基材となる。
【0025】
A層におけるポリオレフィン成分の割合は、A層全体の50体積%以上であることを必須とし、90体積%以上であることが好ましく、95体積%以上であることがより好ましい。
【0026】
A層のポリオレフィン成分には、重量平均分子量が5×105〜15×106の高分子量成分が含まれていることが好ましい。特にA層のポリオレフィン成分として重量平均分子量100万以上のポリオレフィン成分が含まれると、A層、さらにはA層を含む積層多孔質フィルム全体の強度が高くなるため好ましい。
【0027】
ポリオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのオレフィンを重合した単独重合体又は共重合体が挙げられる。これらの中でもエチレンを単独重合したポリエチレンが好ましく、重量平均分子量100万以上の高分子量ポリエチレンがより好ましい。また、プロピレンを単独重合したポリプロピレンもポリオレフィンとして好ましい。
【0028】
A層の透気度は、通常、ガーレ値で30〜500秒/100ccの範囲であり、好ましくは、50〜300秒/100ccの範囲である。
A層が、上記範囲の透気度を有すると、セパレータとして用いた際に、十分なイオン透過性を得ることができる。
【0029】
A層の空隙率は、電解液の保持量を高めると共に、確実にシャットダウン機能を得ることができる点で、20〜80体積%が好ましく、30〜75体積%がより好ましい。
【0030】
A層の孔径は、積層多孔質フィルムを電池のセパレータとした際に、十分なイオン透過性が得られ、また、正極や負極への粒子の入り込みを防止することができる点で、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。
【0031】
A層の膜厚は、シャットダウンによる絶縁性が得られる厚みであればよく、通常8〜50μmであり、得られる二次電池のシャットダウン性能および容量のバランスを考慮して、好ましくは10〜30μmである。
なお、ここでいう、A層の膜厚は、積層多孔質フィルムの素材としてのA層の膜厚を意味し、JIS規格(K7130−1992)に基づいて測定されるものである。そのため、上述のSEM観察により求められるA層の厚みと比べて若干の誤差を有することもある。
【0032】
A層の目付としては、積層多孔質フィルムの強度、膜厚、ハンドリング性及び重量、さらには、電池のセパレータとして用いた場合の電池の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる点で、通常、4〜20g/m2であり、5〜12g/m2が好ましい。
A層は、ポリオレフィンが主成分であれば特に限定されず、1層のみからなる単層構造であってもよいし、2層以上の層から構成される多層構造であってもよい。多層構造としては、例えば、あるポリオレフィンを主成分とするポリオレフィン層の少なくとも一方の面に、他のポリオレフィンを主成分とするポリオレフィン層が積層された構造などが挙げられ、中でも、ポリエチレンを主成分とするポリエチレン層の両面に、ポリプロピレンを主成分とするポリプロピレン層が積層された構造(ポリプロピレン層/ポリエチレン層/ポリプロピレン層)が好ましい。
【0033】
A層の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。
例えば、A層が、超高分子量ポリエチレン及び重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン樹脂から形成される場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、炭酸カルシウム等の無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してA層を得る工程。
なお、工程(4)で、延伸速度、延伸温度および熱固定温度などの条件を変更することにより、A層の空隙率を制御することができる。また、A層は、市販品であってもよく、上記の特性を有することが好ましい。
【0034】
<耐熱層(B層)>
B層は、バインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層である。B層において、フィラーの含有量は、B層全体の50体積%以上であることが好ましく、フィラー同士の接触により形成される空隙が、他の構成成分により閉塞されることが少なくなり、イオン透過性を良好に保つことができ、目付量が多くなりすぎない点で、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
【0035】
フィラーとしては、無機または有機のフィラーを用いることができる。有機フィラーとして具体的には、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリメタクリレート等の有機物からなるフィラーが挙げられ、無機フィラーとして具体的には炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス等の無機物からなるフィラーが挙げられる。なお、これらのフィラーは、単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
フィラーとしては、これらの中でも耐熱性および化学的安定性の観点から、無機フィラーが好ましく、無機酸化物フィラーがより好ましく、アルミナフィラーが特に好ましい。
アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、いずれも好適に使用することができる。この中でも、α−アルミナが熱的・化学的安定性が特に高いため、最も好ましい。
無機フィラーの形状は、対象となる無機物の製造方法や塗工スラリー作製の際の分散条件によって、球形、長円形、短形、瓢箪形等の形状や、特定の形状を有さない不定形など、様々なものが存在するがいずれも用いることができる。
【0036】
フィラーの平均粒径は、3μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。フィラーの形状としては、球状、瓢箪状が挙げられる。なお。フィラーの平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、25個ずつ粒子を任意に抽出して、それぞれにつき粒径(直径)を測定して、25個の粒径の平均値として算出する方法や、BET比表面積を測定し、球状近似することで平均粒径を算出する方法がある。なお、SEMによる平均粒径算出時は、フィラーの形状が球状以外の場合は、フィラーにおける最大長を示す方向の長さをその粒径とする。なお、B層には粒径や比表面積が異なる2種以上のフィラーを同時に含ませてもよい。
【0037】
B層の膜厚は、積層多孔質フィルムの積層数を勘案して適宜決定される。特にA層を基材として用い、A層の片面あるいは両面にB層を形成する場合においては、B層の膜厚(両面の場合は合計値)は、通常0.1μm以上20μm以下であり、好ましくは2μm以上15μm以下の範囲である。
B層の膜厚が大きすぎると、セパレータとして用いた時に、非水電解液二次電池の負荷特性が低下するおそれがあり、薄すぎると、該電池の異常発熱が生じたときにポリオレフィンの多孔膜の熱収縮に抗しきれずセパレータが収縮するおそれがある。
【0038】
B層にはフィラー以外に、B層を構成するフィラー同士、フィラーとA層とを結着させるために、バインダー樹脂が含まれる。かかるバインダー樹脂としては、電池の電解液に不溶であり、またその電池の使用範囲で電気化学的に安定である樹脂が好ましい。
例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素樹脂、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体やエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリ酢酸ビニルなどのゴム類、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーは、塩が存在する場合にはそれらの塩も含む。
【0039】
これらのバインダー樹脂は、1種または必要に応じ2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
なお、B層を形成するための塗工スラリーにおいて、これらのバインダー樹脂が、塗工スラリー中に分散したものを使用することもできるが、塗工スラリーの均一性を高め、より少量でフィラーを結合できる点で、前記塗工スラリーに溶解するバインダー樹脂が好ましい。
そのようなバインダー樹脂の選択は、塗工スラリーにおける溶媒に依存するが、特に上記バインダー樹脂の中でも、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸等の水溶性ポリマーは、溶媒として水を主体とした溶媒を用いることができ、プロセスや環境負荷の点で好ましい。水溶性ポリマーの中でもセルロースエーテルが好ましく用いられる。
セルロースエーテルとして具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、シアンエチルセルロース、オキシエチルセルロース等が挙げられ、化学的な安定性に優れたCMC、HECが特に好ましく、特にCMCが好ましい。なお、カルボキシメチルセルロース(CMC)は、カルボキシメチルセルロースナトリウムを含む。
【0041】
<積層多孔質フィルムの製造方法>
積層多孔質フィルムの製造方法は、上述の積層多孔質フィルムが得ることができれば特に限定されず、フィラー、バインダー樹脂および溶媒を含む塗工スラリーをA層の上に直接塗工し溶媒を除去する方法;塗工スラリー中にA層を浸漬し、ディップコーディングを行った後に溶媒を除去する方法;等が挙げられる。
また、A層の両面にB層を積層する場合においては、片面にB層を形成させた後に他面にB層を積層する逐次積層方法や、A層の両面に同時にB層を形成させる同時積層方法が挙げられる。
【0042】
塗工スラリーにおいて、溶媒は、フィラーおよびバインダー樹脂を溶解あるいは分散する性質を持ち、分散媒としての性質も持つ。溶媒は、フィラーおよびバインダー樹脂を均一かつ安定に溶解あるいは分散することができればよい。溶媒として具体的には、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、およびN,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、これらを単独、または相溶する範囲で複数混合して溶媒として用いることができる。
溶媒は、水のみであってもよいが、乾燥除去速度が速くなり、上述の水溶性ポリマーの十分な溶解性を有する点で、水と有機極性溶媒との混合溶媒であることが好ましい。
なお、有機溶媒のみの場合には、乾燥速度が速くなりすぎてレベリングが不足したり、バインダー樹脂に上述の水溶性ポリマーを使用した場合には溶解性が不足したりするおそれがある。
混合溶媒に用いられる有機極性溶媒としては、水と任意の割合で相溶し、適度な極性を有するアルコールが好適であり、その中でもメタノール、エタノール、イソプロパノールが用いられる。水と極性溶媒の割合は、上記接触角範囲が達成される範囲で、レベリング性や使用するバインダー樹脂の種類を考慮して選択され、通常、水を50重量%以上含む。
【0043】
また、該塗工スラリーには、必要に応じてフィラーとバインダー樹脂以外の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、可塑剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0044】
上記フィラーやバインダー樹脂を分散させて塗工スラリーを得る方法としては、均質な塗工スラリーを得るに必要な方法であればよい。例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを挙げることができる。
混合順序も、沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り、フィラーやバインダー樹脂やその他の成分を一度に溶媒に添加して混合してもよいし、それぞれを溶媒に分散した後に混合するなど任意である。
【0045】
ここで、塗工スラリーは、ポリエチレンシートとの接触角が60°以上となるように調製することが好ましい。ここで、基準となるポリエチレンシートとしては、硬質ポリエチレンシート(共栄樹脂株式会社製)の1mm厚グレードを用いる。
【0046】
上述のようにA層は、ポリオレフィンを主成分とする多孔質フィルムであり、ポリオレフィンの一種である、ポリエチレンシートとの接触角を上述の値以上に調製することにより、塗工スラリーがA層内部に浸透することを抑制することができる。
そのため、塗工スラリーがA層内部に過剰に浸透することに由来するA層の性能低下を抑制することができ、基材多孔質フィルムの高いイオン透過性を損なうことなく、基材多孔質フィルム上にバインダー樹脂とフィラーを有するB層を積層し、積層多孔質フィルムを得ることができる。
【0047】
一方で、ポリエチレンシートに対する塗工スラリーの接触角が60°未満の場合には、塗工スラリーがA層内部に過剰に浸透する場合があり、A層の本来の物性が維持できないおそれがある。
一方で、塗工スラリーの粘度や塗工する基材多孔質フィルムの表面状態にも依存するが、ポリエチレンシートに対する塗工スラリーの接触角が80°以下であると、均一性の高い塗工が可能となり、より好ましい。
【0048】
塗工スラリーの調製は、該塗工スラリーが含有するバインダー樹脂、フィラー、溶媒の種類や配合割合を調製することによって行われる。A層の性質を損なうことなく、簡便に調製できるという点で、溶媒の選択、濃度調製で、上記ポリエチレンシートに対する塗工スラリーの接触角を調製することが好ましい。
【0049】
また、上記ポリエチレンシートに対する塗工スラリーの接触角を上述の値以上に調整した塗工スラリーを用いる場合、A層にそのまま塗工することも可能であるが、塗工スラリーを撥液などの塗工不良を起こさずに、A層上に均一に薄く塗工するためには、A層の表面に前記塗工スラリーを塗工する前に、A層の表面を、該塗工スラリーとの接触角が65°以下(好ましくは60°以下)になるように表面処理することが好ましい。
【0050】
塗工スラリーとの接触角を上記値以下になるように、A層を表面処理することにより、塗工スラリーとA層との親和性が高まり、塗工スラリーをより均一にA層に塗工することができる。
ここで、「A層の表面処理」とは、上記接触角の条件を満たすように、A層の表面を物理的、化学的に改質することをいい、具体的には表面粗さを高めたり、A層の表面を塗工スラリーの成分(特に溶媒)に対して親和性を有するように処理することをいう。
A層を表面処理することにより、より塗工性が向上し、より均質な耐熱層(B層)を得ることができる。なお、表面処理は、塗工を行う前であればいつでもよいが、経時変化の影響を少なくすることができるという点で、塗工直前に実施することが好ましい
【0051】
表面処理の方法は、上記接触角の条件を満たせばいかなる方法でもよく、具体的には酸やアルカリ等による薬剤処理、コロナ放電処理法、プラズマ処理法、機械的粗面化法、溶剤処理法、酸処理法、紫外線酸化法等が挙げられる。
ここで、コロナ放電処理法では、比較的短時間でA層を改質できることに加え、コロナ放電による改質が、A層の表面近傍のみに限られ、塗工スラリーの浸透が表面近傍のみに留まるため、A層本来の特性がほぼ維持される。そのため、塗工工程において、該塗工スラリーのB膜の細孔(空隙)内への過剰な入り込みが抑制でき、溶媒の残留やバインダー樹脂の析出によってA層のシャットダウン性を損なれることを回避できる。
【0052】
塗工スラリーをA層に塗工する方法としては、必要な目付や塗工面積を実現しうる方法であれば特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。例えば、グラビアコーター法、小径グラビアコーター法、リバースロールコーター法、トランスファロールコーター法、キスコーター法、ディップコーター法、ナイフコーター法、エアドクターブレードコーター法、ブレードコーター法、ロッドコーター法、スクイズコーター法、キャストコーター法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、スプレー塗工法などが挙げられる。
【0053】
塗工面は、積層多孔質フィルムの用途によって限定されることがあるが、積層多孔質フィルムの性能を損なわなければ、A層の片面であっても両面であってもよく、両面塗工時は、逐次両面塗工であっても同時両面塗工であってもよい。
【0054】
A層に塗工された塗工スラリーから溶媒の除去を除去することで、A層上に耐熱層(B層)が形成される。
溶媒の除去方法は、乾燥による方法が一般的である。乾燥方法としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥などいかなる方法でもよい。また、塗工スラリーの溶媒を他の溶媒に置換してから乾燥を行ってもよい。
なお、塗工スラリーが塗工されたA層から、塗工スラリーの溶媒あるいは他の置換溶媒を除去する際に加熱を行う場合には、A層の細孔が収縮して透気度が低下することを回避するために、A層の透気度が低下しない温度で行うことが好ましい。
【0055】
<非水電解液二次電池>
積層多孔質フィルムは、電池、特にリチウム二次電池などの非水電解液二次電池のセパレータとして好適に使用することができる。
リチウム二次電池などの非水電解液二次電池の非水電解液二次電池用セパレータ以外の構成要素について以下に説明するが、セパレータの使用方法はこれらに限定されるものではない。
【0056】
非水電解液としては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。リチウム塩として、これらの中でもLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、およびLiC(CF3SO23からなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素含有リチウム塩を含むものが好ましい。
【0057】
非水電解液としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、Y−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物または前記の物質にフッ素基を導入したものを用いることができるが、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
これらの中でもカーボネート類を含むものが好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合物がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合物としては、作動温度範囲が広く、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合物が好ましい。
【0059】
正極シートは、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む合剤を集電体上に担持したシートであり、具体的には、該正極活物質として、リチウムイオンでドープかつ脱ドープできる材料を含み、導電材として炭素質材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂などを含むことができる。該リチウムイオンでドープかつ脱ドープできる材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。中でも好ましくは、平均放電電位が高いという点で、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0060】
該リチウム複合酸化物は、種々の金属元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属元素のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記の少なくとも1種の金属元素が0.1〜20モル%であるように該金属元素を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル性が向上するので好ましい。
【0061】
該結着剤としては、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0062】
該導電剤としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素質材料が挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いてもよい。
【0063】
負極シートとしては、例えばリチウムイオンでドープかつ脱ドープできる材料を負極集電体に担持したシート、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができる。リチウムイオンでドープかつ脱ドープできる材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンでドープかつ脱ドープできる酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。
炭素質材料として、電位平坦性が高く、平均放電電位が低いため、正極と組み合わせたときに大きなエネルギー密度が得られるという点で、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましい。
【0064】
負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にリチウム二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗工乾燥後プレスするなどして圧着する方法が挙げられる。
【0065】
電池の形状は、特に限定されるものではなく、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型、ラミネート型などのいずれであってもよい。
【0066】
積層多孔質フィルムをセパレータとして用いて非水電解液二次電池を製造すると、高い負荷特性を有し、かつ電池が発熱した場合でもセパレータはシャットダウン機能を発揮し、セパレータの収縮による正極と負極の接触が避けられ、より安全性の高い非水電解液二次電池が得られる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
実施例及び比較例においてセパレータの物性等は以下の方法(1)〜(9)で測定した。
(1)厚み測定(単位:μm)
積層多孔質フィルム、積層多孔質フィルム作製前のA層の厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。
(2)目付(単位:g/m2
積層多孔質フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り、その重量W(g)を測定した。目付は、次の式により算出した。B層の目付は、積層多孔質フィルムの目付から基材多孔質フィルム(A層)の目付を差し引いて算出した。
目付(g/m2)=W/(0.1×0.1)
(3)空隙率(単位:体積%)
フィルムを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量:W(g)と厚み:D(cm)を測定した。サンプル中の材質の重量を計算で割りだし、それぞれの材質の重量:Wi(g)を真比重で割り、それぞれの材質の体積を算出して、次式より空隙率(体積%)を求めた。
空隙率(体積%)=100−[{(W1/真比重1)+(W2/真比重2)+・・+(Wn/真比重n)}/(10×10×D)]×100
【0069】
(4)透気度(単位:sec/100cc)
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社東洋精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレ式デンソメータで測定した。
(5)シャットダウン(SD)性能測定
17.5mmφの積層多孔質フィルムに電解液を含浸させた後、2枚のSUS製電極に挟み、クリップで固定し、シャットダウン測定用セルを作製した。電解液には、エチレンカーボネート50体積%:ジエチルカーボネート50体積%の混合溶媒に、1mol/LのLiBF4を溶解させたものを用いた。組み立てたセルの両極に、インピーダンスアナライザの端子を接続し、オーブンの中で15℃/分の速度で昇温しながら、1kHzでの抵抗値を測定し、145℃での抵抗値を積層多孔質フィルムのシャットダウン性能とした。
【0070】
(6)塗工による基材多孔質フィルム(A層)の膜厚変化測定
積層多孔質フィルムを水に浸漬し、すべての耐熱層(B層)を水洗除去した後に、乾燥させずにそのまま(1)厚み測定と同様の方法で基材多孔質フィルム(A層)の膜厚を測定し、次式により塗工前後のA層の膜厚変化を評価した。
A層の膜厚変化(μm)=(B層除去後のA層膜厚)−(B層塗工前のA層膜厚)
(7)耐熱層(B層)の膜厚
次式により、B層の膜厚を算出した。
B層の膜厚(μm)=(積層多孔質フィルム全体膜厚)−(B層除去後のA層膜厚)
【0071】
(8)接触角測定
塗工スラリー1滴(2μL)を試料に滴下し、滴下後10〜30秒の間に接触角を測定した。この接触角の測定を5回行い、これらの平均値を、試料の接触角とした。なお、接触角の測定には、接触角計(CA−X型、協和界面化学株式会社製)を用いた。
基準用ポリエチレンシートには、株式会社コクゴから入手した硬質ポリエチレンシート(共栄樹脂株式会社製)の1mm厚グレードを使用した。
(9)積層多孔質フィルムにおける各部分の厚みの評価
A層全体厚み:L
A層とB層との界面を基準としたバインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚み:l1(一方の面)、l2(もう一方の面)
バインダー樹脂やフィラーの少なくとも一方の存在部分の合計厚み:L1
バインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分の厚み:L2
積層多孔質フィルムを四酸化ルテニウムで電子染色した後に、積層多孔質フィルムの細孔にエポキシ樹脂を充填した。エポキシ樹脂が硬化した後に、FIBにより断面加工し、現れた断面をSEMで加速電圧2kV、倍率5000倍で観察することにより、L、l1、およびl2を評価した。
なお、L1は、両面積層の場合には、l1とl2との合計とした。また、LとL1との差を、バインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分の厚みL2とした。
【0072】
実施例1
(1)塗工スラリーの調製
実施例1の塗工スラリーを以下の手順で作製した。まず、溶媒としての20重量%エタノール水溶液にカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬株式会社製セロゲン3H)を溶解させてCMC溶液を得た(CMC濃度:0.70重量%対CMC溶液)。次いで、CMC換算で100重量部のCMC溶液に対して、アルミナ(AKP3000、住友化学株式会社製)を3500重量部、添加、混合して、ゴーリンホモジナイザーを用いた高圧分散条件(60MPa)にて3回処理することにより、塗工スラリー1を調製した。塗工スラリー1のポリエチレンシートに対する接触角は、64°であった。塗工スラリー1の組成を表1に示す。
(2)基材多孔質フィルムの調製
超高分子量ポリエチレン粉末(340M、三井化学社製)を70重量%および重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%と、該超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスとの合計量100重量部に対して、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.4重量%、酸化防止剤(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を0.1重量%、ステアリン酸ナトリウムを1.3重量%を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃の一対のロールにて圧延しシートを作製した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いてTDに延伸し基材多孔質フィルムA1を得た。A1の性状を表2に示す。
(3)接触角評価
(2)にて得られた基材多孔質フィルムA1(未処理)と塗工スラリー1との接触角は80°であった。次いで、基材多孔質フィルムA1の表面を出力100W/(m2/分)でコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA1の塗工スラリー1との接触角は40°であった。
【0073】
(4)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材としての表面処理後の基材多孔質フィルムA1の両面に逐次に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。基材多孔質フィルムA1、耐熱層、積層多孔質フィルムの物性を表2および表3に示す。積層多孔質フィルムの断面SEM像から判断したL、l1、l2、L1およびL2並びにこれらの比率を表4に示す。なお、表4に示すようにl1とl2は同じ厚みであった。
(5)耐熱性評価
得られた積層多孔質フィルムを、8cm×8cmに切り出し、その中に6cm×6cmの四角を書き入れた積層多孔質フィルムを紙に挟んで、150℃のオーブンに1時間入れて加熱した。加熱後のフィルムの線間隔を測定することで、MD(シート成形時の長尺方向)、TD(シート成形時の幅方)の加熱形状維持率を算出したところ、MD、TDともに99%であり、積層多孔質フィルムの耐熱性が高いことがわかった。
【0074】
実施例2
(1)積層多孔質フィルムの作製
基材多孔質フィルムA2として、市販のポリエチレン製多孔質フィルムを用いた。A2の性状を表2に示す。塗工スラリーとして、上記の塗工スラリー1を用いた。A2(未処理)と塗工スラリー1との接触角は85°であった。
次いで、基材多孔質フィルムA2の表面を出力100W/(m2/分)でコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA2の塗工スラリー1との接触角は43°であった。
さらに、グラビア塗工機を用いて、基材としての表面処理後の基材多孔質フィルムA2の両面に逐次に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。基材多孔質フィルムA2、耐熱層、積層多孔質フィルムの物性を表2および表3に示す。積層多孔質フィルムの断面SEM像から判断したL、l1、l2、L1およびL2並びにこれらの比率を表4に示す。なお、表4に示すようにl1とl2は同じ厚みであった。
(2)耐熱性評価
実施例1と同様の操作で、得られた積層多孔質フィルムの加熱形状維持率を算出したところ、MD、TDともに99%であり、積層多孔質フィルムの耐熱性が高いことがわかった。
【0075】
実施例3
(1)積層多孔質フィルムの作製
エタノールをイソプロパノール(IPA)とした以外は、塗工スラリー1と同様の操作を行うことにより、塗工スラリー2を調製した。塗工スラリー2のポリエチレンシートに対する接触角は、51°であった。塗工スラリー2の組成を表1に示す。
基材多孔質フィルムA3として、市販の3層構造(ポリプロピレン層/ポリエチレン層/ポリプロピレン層)のポリオレフィン製多孔質フィルムを用いた。A3の性状を表2に示す。塗工スラリーとして、上記の塗工スラリー2を用いた。A3(未処理)と塗工スラリー2との接触角は63°であった。
次いで、基材多孔質フィルムA3の表面を出力36W/(m2/分)でコロナ放電処理することにより、表面処理を行った。表面処理後の基材多孔質フィルムA3の塗工スラリー2との接触角は34°であった。
さらに、グラビア塗工機を用いて、基材としての表面処理後の基材多孔質フィルムA3の両面に逐次に上記塗工スラリー2を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。基材多孔質フィルムA3、耐熱層、積層多孔質フィルムの物性を表2および表3に示す。積層多孔質フィルムの断面SEM像から判断したL、l1、l2、L1およびL2並びにこれらの比率を表4に示す。なお、表4に示すようにl1とl2は同じ厚みであった。
(2)耐熱性評価
実施例1と同様の操作で、得られた積層多孔質フィルムの加熱形状維持率を算出したところ、MD、TDともに99%であり、積層多孔質フィルムの耐熱性が高いことがわかった。
【0076】
比較例1
(1)塗工スラリーの調製
上記実施例1の(1)塗工スラリー1の調製操作において、エタノール水溶液の濃度を30重量%とした以外は、塗工スラリー1と同様の操作を行うことにより、塗工スラリー3を調製した。塗工スラリー3のポリエチレンシートに対する接触角は、55°であった。塗工スラリー3の組成を表1に示す。
(2)積層多孔質フィルムの作製
グラビア塗工機を用いて、基材としての基材多孔質フィルムA1の両面に逐次に上記塗工スラリー3を塗工し、乾燥し、積層多孔質フィルムを作製した。基材多孔質フィルムA1、耐熱層、積層多孔質フィルムの物性を表2および表3に示す。
積層多孔質フィルムの断面SEM像から判断したL、l1、l2、L1、L2並びにこれらの比率を表4に示す。なお、バインダー樹脂がA層全体で確認されたため、l1とl2の値は記載していない。
【0077】
比較例2
上記実施例1の(4)積層多孔質フィルムの作製において、コロナ放電処理を行わず、基材多孔質フィルムA1の両面に逐次に上記塗工スラリー1を塗工し、乾燥した以外は、同様の操作を行うことにより、積層多孔質フィルムの作製を試みたが、塗工スラリー1をA1の表面に塗工した際に、基材多孔質フィルム表面上で塗工スラリーがはじいてしまい、均一な積層多孔質フィルムを得ることができなかった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
【表3】

【0081】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明によれば、イオン透過性(透気性)やシャットダウン性に優れ、かつ、加熱時の形状維持性に優れた、非水電解液二次電池のセパレータとして好適な積層多孔質フィルムが提供される。
本発明によれば、熱安定性及びイオン透過性(透気性)に優れた積層多孔質フィルムが提供される。積層多孔質フィルムをセパレータとして用いた非水電解液二次電池は、電池が発熱してもセパレータが正極と負極が直接接触することを防止し、かつポリオレフィンを主成分とする基材多孔質フィルムの迅速な無孔化による絶縁性の維持により安全性のより高い非水電解液二次電池となるので、本発明は工業的に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンを主成分とする基材多孔質フィルムの片面又は両面にバインダー樹脂及びフィラーを含む耐熱層が積層された積層多孔質フィルムであって、
バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分が、前記基材多孔質フィルム内部に、前記耐熱層と接触するように形成され、かつ、該存在部分の合計厚みが基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上20%以下である積層多孔質フィルム。
【請求項2】
前記基材多孔質フィルムと前記耐熱層との界面を基準とした、前記バインダー樹脂及びフィラーの少なくとも一方の存在部分の厚みが、基材多孔質フィルム全体の厚みの1%以上10%以下である請求項1記載の積層多孔質フィルム。
【請求項3】
前記基材多孔質フィルム内部におけるバインダー樹脂及びフィラーが実質的に存在しない部分の厚みが、7μm以上である請求項1又は2に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項4】
前記バインダー樹脂が、水溶性ポリマーである請求項1から3のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項5】
前記バインダー樹脂が、セルロースエーテルである請求項4記載の積層多孔質フィルム。
【請求項6】
前記フィラーが、無機フィラーである請求項1から5のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項7】
前記無機フィラーが、アルミナである請求項6に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項8】
前記耐熱層を構成するバインダー樹脂、フィラー及び溶媒を含み、かつ、ポリエチレンシートとの接触角が60°以上である塗工スラリーを、該塗工スラリーとの接触角が65°以下になるように表面処理した前記基材多孔質フィルムの表面に塗工し、溶媒を除去することにより得られる請求項1から7のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の積層多孔質フィルムをセパレータとして含む非水電解液二次電池。

【公開番号】特開2013−46998(P2013−46998A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−162909(P2012−162909)
【出願日】平成24年7月23日(2012.7.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】