説明

積層導体の端子接続構造

【課題】 素子の配置や方向に制限の無い、また、熱等の悪影響を受けることの無い、また、打ち出しのための金型等を必要としないパワートランジスタモジュールの積層導体の端子接続構造を提供する。
【解決手段】 パワーデバイス1,2の端子近傍に導体11〜14と絶縁体21〜25を交互に重ね合わせた積層導体4を配置し、前記導体によって前記パワーデバイスの端子間を接続する端子接続構造において、導体14に、導体14とパワーデバイス1の端子1aを接続する接触端子5の一端部を取付け、接触端子5の他端部を前記接触端子5の一端部を取付けた導体14の他端部を前記パワーデバイスの端子1a,2aに接触させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワートランジスタモジュール、パワーIC、IGBT等のパワーデバイスの端子近傍に、導体と絶縁体を交互に重ね合わせた積層導体を配置し、前記導体によって前記パワーデバイスの端子間を接続する端子接続構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、例えばインバータ等の主回路を構成するパワートランジスタモジュールにおいては、パワートランジスタモジュールの端子近傍には、導体と絶縁体を交互に重ね合わせて積層した導体が配置されいて、積層した各導体の端子が前記パワートランジスタモジュールの端子と接続されている。積層導体を使用するのは、パワーデバイス間にサージが発生するのを押さえるよう配線のインダクタンスを小さくするためである。
【0003】
前記積層した導体の端子をパワートランジスタモジュールの端子に接続する端子接続構造として、導体の折り曲げ加工による端子接続構造(例えば特許文献1)、導体とパワーデバイスの端子とのロウ付け加工による端子接続構造(例えば特許文献2)或いは導体の打ち出し加工による端子接続構造が知られている。
【特許文献1】特開2004−055886号
【特許文献2】特開平5−160339号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の各端子接続構造には、それぞれ次に述べるような問題点があった。
(1)折り曲げ加工による端子接続構造は、折り曲げによる寸法の制限を受けやすい。また、素子の配置に大きな制限を受ける。
(2)ロウ付け加工による端子接続構造は、ロウ付け加工の際の熱による歪み等の悪影響を除去するのが難しい。
(3)打ち出し加工による端子接続構造は、打ち出しのための金型が必要となり、多種少量生産には不向きである。
【0005】
本発明は、上記従来の各端子接続構造の問題点を解決し、素子の配置や方向に制限の無い、また、熱等の悪影響を受けることの無い、また、打ち出しのための金型等を必要としない端子接続構造を提供することを目的に成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
斯る目的を達成するための請求項1の発明は、
パワーデバイスの端子近傍に導体と絶縁体を交互に重ね合わせた積層導体を配置し、前記導体によって前記パワーデバイスの端子間を接続する端子接続構造において、
前記導体に、該導体と前記パワーデバイスの端子を接続する接触端子の一端部を取付け、該接触端子の他端部を前記接触端子の一端部を取付けた導体とパワーデバイスの端子の間に位置する前記積層導体を構成する絶縁体や導体に設けた接触端子挿入孔を通して前記パワーデバイスの端子面に接触させた。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の積層導体の端子接続構造において、
前記接触端子を、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成された台座部上に前記接触端子挿入孔よりも小径の軸部を設けることにより構成し、前記接触端子挿入孔に前記軸部を挿入して、その先端部を拡径することにより、該拡径部と前記台座部との間で前記導体の端子を挟んだ状態で一端部を前記導体に取付け、他端部の前記台座部側を前記パワーデバイスの端子に接触させた。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1〜2の積層導体の端子接続構造において、
前記接触端子を、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成された台座部上に前記接触端子挿入孔よりも小径の軸部を設けた雄部と、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成されていて、中央部に前記軸部を挿入する孔部を備えた雌部と、で構成し、前記雄部の軸部を前記導体の接触端子挿入孔に挿入すると共に、前記軸部を前記雌部の孔部に挿入して、前記軸部の先端部を拡径することにより、前記軸部の先端部に雌部を取付け、該雌部と、前記雄部の台座部との間で前記導体の端子を挟んだ状態で一端部を前記導体に取付け、他端部の前記台座部側を前記パワーデバイスの端子に接触させた。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3の積層導体の端子接続構造において、
前記接触端子の軸部を、筒状に形成した。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜4の積層導体の端子接続構造において、
前記接触端子の軸部の軸心にボルトを螺着した。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の積層導体の端子接続構造は、所望の導体に接触端子の一端部を取付け、該接触端子の他端部を他の導体や絶縁体に設けた接触端子挿入孔を通して前記パワーデバイスの端子面に接触させることができる。従って、従来の折り曲げ加工による端子接続構造のように端子の配置に制限を受けることがないので、設計の自由度が向上し、電流分担等の考慮も容易になる。また、ロウ付け加工による端子接続構造の場合のように、熱による歪み等の悪影響を受けることも無い。また、打ち出し加工による端子接続構造の場合のような打ち出しのための金型が不必要になるので、コスト的にも有利なものになる。
【0012】
請求項2の積層導体の端子接続構造は、所望の導体の接触端子挿入孔に接触端子の軸部の一端部を挿入して、その先端部を拡径することにより、該拡径部と前記台座部との間で前記導体の端子を挟んだ状態で該導体に接触端子を取付けることができる。
【0013】
請求項3の積層導体の端子接続構造は、前記接触端子の雄部の軸部を前記導体の接触端子挿入孔に挿入すると共に、前記軸部を前記接触端子の雌部の孔部に挿入して、前記軸部の先端部を拡径することにより、前記軸部の先端部に雌部を取付け、該雌部と、前記雄部の台座部との間で前記導体を確実に挟着して、前記接触端子を導体に取付けることができる。
【0014】
請求項4の積層導体の端子接続構造は、前記接触端子の軸部を筒状に形成したので、前記軸部の先端部にドライバー等を挿入し、これを外側に向けて傾斜させるようにして回転させることにより、前記軸部の先端部に拡径部(かしめ部)を容易に形成することができる。
【0015】
請求項5の積層導体の端子接続構造は、前記接触端子の軸心部にボルトを螺着したので、前記端子と前記導体の結合強度が弱かったり、緩かったりした場合でも、前記ボルトによって前記導体への結合強度の弱さ等を補うことができる。また、ボルトの頭部と台座部の間でしっかりと導体を挟着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、第1実施例の積層導体の端子接続構造の一例を示す略示的側面図である。この実施例においては、第1、第2のパワーモジュール1、2としてのトランジスタモジュールと、第3のパワーモジュール3としてのダイオードを積層導体4で接続した場合を示す。
【0017】
前記第1のパワーモジュール1の第1の端子1aと前記第2のパワーモジュール2の第1の端子2aは、前記積層導体4の最下段の導体および該最下段の導体に取付けた一対の第1,第2の接触端子5,6によって接続されている。また、前記第1のパワーモジュール1の第2の端子1bと前記第2のパワーモジュール2の第2の端子2bおよび第3のパワーモジュール3の端子3aは、前記積層導体4の最上段の導体および該最上段の導体に取付けた一対の第3,第4の接触端子7,8によって接続されている。
【0018】
図2に拡大して示したように、前記積層導体4は、第1〜第4の導体11〜14と第1〜第5の絶縁体21〜25を交互に重ね合わせることにより構成されている。そして、最下段すなわち第4段目の導体14には、第1,第2の接触端子5,6が取付けられていて、これら第1,第2の接触端子5,6および第4段目の導体14によって、前記第1のパワーモジュール1の第1の端子1aと前記第2のパワーモジュール2の第1の端子2aが接続されている。前記第1,第2の接触端子5,6の上部に位置する導体13には孔26が形成されていて、前記第1,第2の接触端子5,6と非接触状態に保たれるようになっている。
【0019】
図3に示すように、前記第1の接触端子5は、前記導体14に設けた接触端子挿入孔15よりも小径の軸部31を台座部32上に設けた雄部33と、前記接触端子挿入孔15よりも大径に形成されていて、中央部に前記軸部31を挿入する孔部34を備えた雌部35と、で構成されている。前記雌部35の孔部34の上端部34aは逆円錐形に形成されている。
【0020】
図4に示すように、前記雄部33の軸部31を前記第4段目の導体14の接触端子挿入孔15に挿入して、図5に示すように、前記軸部31の先端部を拡径して、拡径部(かしめ部)31aを形成することにより、前記第4段目の導体14を前記雄部33と雌部35の間で挟んだ状態で前記第4段目の導体14に取付けられている。
【0021】
そして、前記第4段目の導体14に取付けられた第1の接触端子5の下端部は、図2に示すように、第1のパワーモジュール1の第1の端子1aに接触される。前記第2の接触端子6も前記第1の接触端子5と同様に形成されていて、該第2の接触端子6の下端部は、第2のパワーモジュール2の第1の端子2aに接触される。
【0022】
図6,図7は、第3,第4の接触端子7,8部分の断面図である。第3の接触端子7は、最上段に位置する第1段目の導体11に取付けられ、その下方に位置する第2〜第4段目の導体12〜14および第2〜第5段目の絶縁体22〜25に設けた接触端子挿入孔26を通って、積層導体4の下端から突出して、該第3の接触端子7の下端部は、前記第1のパワーモジュール1の第2の端子1bと接触される。前記第4の接触端子8も前記第3の接触端子7と同様に形成されていて、該第4の接触端子8の下端部は、第2のパワーモジュール2の第1の端子2bに接触される。
【0023】
第3,第4の接触端子7,8と前記第1,第2の接触端子5,6の相違点は雄部33の台座部32の高さHが異なること、具体的には最下段の導体14に取付ける第1,第2の接触端子5,6の高さHに較べて第3,第4の接触端子7,8の高さHを高くしたことにある。即ち、何段目の導体に取り付けるかによって、接触端子の下端を接続するパワーモジュールの端子まで距離が異なってくる。前記接触端子の雄部33の台座部32の高さHは、パワーモジュールの端子まで距離の差異を補償して、接触端子の下端を確実にパワーモジュールの端子に接触させることができるように設定されている。
【0024】
図8、図9は、第2実施例を示す。この実施例において、接触端子5,6等は、前記導体14等に設けた接触端子挿入孔15よりも大径に形成された台座部41上に前記接触端子挿入孔15よりも小径の軸部42を設ける(第1実施例の小径の軸部31を設けた雄部33に相当するもの)により形成されている。一方、前記接触端子挿入孔15の上端部15aは略円錐形に形成されている。
【0025】
前記接触端子5,6等は、前記軸部42を前記導体の接触端子挿入孔15に挿入して、その先端部を導体の接触端子挿入孔15内で拡径する(かしめる)ことにより、拡径部(かしめ部)42aを形成して、該拡径部42aと前記台座41との間で前記導体を挟着して、導体に取付ける構成になっている。また、図10に示すように、前記軸部42および台座部41の内周にボルト51を螺合することにより、該ボルト51の頭部51aと前記台座部41の間で導体を挟着する構成にしてもよい。他の構成は第1実施例の場合と略同じであるので重複する説明は省略する。なお、前記実施例においては、最上段の第1の導体11と最下段の第4の導体14に接触端子5〜8を取付けた場合を図示したが、これら第1の導体11と第4の導体14の間に配置されている第2,第3の導体12,13にも接触端子が取付けられている。本発明の積層導体の端子接続構造は、パワートランジスタモジュールに限らずパワーIC、IGBT等のパワーデバイスの素子に広く適用される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施例の端子接続構造を示す説明図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】要部の分解断面図。
【図4】接触端子の軸部を導体の接触端子挿入孔に挿入した状態の断面図。
【図5】接触端子の軸部をカシメた状態の断面図。
【図6】図1のB−B断面図。
【図7】要部の断面図。
【図8】第2実施例の接触端子の軸部を接触端子挿入孔に挿入した状態の断面図。
【図9】接触端子の軸部をカシメた状態の断面図。
【図10】変形例の断面図。
【符号の説明】
【0027】
1…第1のパワーモジュール
1a…第1のパワーモジュールの第1の端子
1b…第1のパワーモジュールの第2の端子
2…第2のパワーモジュール
2a…第2のパワーモジュールの第1の端子
2b…第2のパワーモジュールの第2の端子
4…積層導体
5〜8…第1〜第4の接触端子
11〜14…第1〜第4の導体
15…接触端子挿入孔
21〜25…第1〜第5の絶縁体
31…軸部
31a…拡径部(かしめ部)
32…台座部
33…雄部
34…孔部
35…雌部
41…台座部
42…軸部
51…ボルト


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーデバイスの端子近傍に導体と絶縁体を交互に重ね合わせた積層導体を配置し、前記導体によって前記パワーデバイスの端子間を接続する積層導体の端子接続構造であって、
前記導体に、該導体と前記パワーデバイスの端子を接続する接触端子の一端部を取付け、該接触端子の他端部を前記導体とパワーデバイスの端子の間に位置する前記積層導体を構成する絶縁体や導体に設けた接触端子挿入孔を通して前記パワーデバイスの端子面に接触させた構造を特徴とする積層導体の端子接続構造。
【請求項2】
前記接触端子は、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成された台座部上に前記接触端子挿入孔よりも小径の軸部を備え、前記接触端子挿入孔に前記軸部を挿入して、その先端部を拡径することにより、該拡径部と前記台座部との間で前記導体を挟んだ状態で一端部が前記導体に取付けられ、他端部の前記台座部側が前記パワーデバイスの端子に接触される構造を特徴とする請求項1に記載の積層導体の端子接続構造。
【請求項3】
前記接触端子は、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成された台座部上に前記接触端子挿入孔よりも小径の軸部を設けた雄部と、前記接触端子挿入孔よりも大径に形成されていて、中央部に前記軸部を挿入する孔部を備えた雌部と、で構成されていて、前記雄部の軸部を前記導体の接触端子挿入孔に挿入すると共に、前記軸部を前記雌部の孔部に挿入して、前記軸部の先端部を拡径することにより、前記軸部の先端部に雌部を取付け、該雌部と、前記雄部の台座部との間で前記導体の端子を挟んだ状態で一端部が前記導体に取付けられ、他端部の前記台座部側が前記パワーデバイスの端子に接触される構造を特徴とする請求項1に記載の積層導体の端子接続構造。
【請求項4】
前記接触端子の軸部は、筒状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の積層導体の端子接続構造。
【請求項5】
前記接触端子の軸部の軸心にはボルトが螺着されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の積層導体の端子接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−19372(P2007−19372A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−201301(P2005−201301)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】